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特許7236747コンピュータプログラム、画像処理装置、および画像処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】コンピュータプログラム、画像処理装置、および画像処理方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/03 20060101AFI20230303BHJP
【FI】
A61B6/03 370A
A61B6/03 375
A61B6/03 360Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020522222
(86)(22)【出願日】2019-05-28
(86)【国際出願番号】 JP2019021147
(87)【国際公開番号】W WO2019230738
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-04-22
(31)【優先権主張番号】P 2018102516
(32)【優先日】2018-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(74)【代理人】
【識別番号】100181250
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 信介
(72)【発明者】
【氏名】城戸 輝仁
【審査官】櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/057982(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/009957(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0163403(US,A1)
【文献】国際公開第2014/168206(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/101184(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造影剤が投与された後の被験者の臓器を撮像したものであって、時系列に沿った所定数のフレームのCT(Computed Tomography)画像からなる画像データを記憶する記憶手段を備えた画像処理装置のためのコンピュータプログラムにおいて、
前記記憶手段は、
第1所定数のフレームのCT画像からなる第1画像データと、
前記第1所定数に比べて少ない第2所定数のフレームのCT画像からなる第2画像データと、
を記憶しており、
前記画像処理装置に、
前記第1画像データに基づいて、CT値の経時変化を特定する第1ステップと、
前記第1画像データに基づき前記第1ステップで特定された前記CT値の経時変化において、前記CT値が最大値となるタイミングである最大タイミングを特定する第2ステップと、
前記第2ステップで特定された前記最大タイミングに基づく前記第2所定数のフレームのCT画像からなる前記第2画像データに基づいて、CT値の経時変化を特定する第3ステップと、
前記第2画像データに基づき前記第3ステップで特定された前記CT値の経時変化に基づいて、所定時間に対する前記CT値の傾きであって所定の傾きを特定する第4ステップと、
を実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項2】
前記所定の傾きは、前記所定時間に対する前記CT値の傾きであって所定値より大きい傾きである
ことを特徴とする請求項1に記載のコンピュータプログラム。
【請求項3】
前記画像処理装置に、
前記第2画像データに基づき前記第4ステップで特定された前記所定の傾きに基づいて、前記CT値の経時変化を所定の関数で近似する第5ステップをさらに実行させる
ことを特徴とする請求項1に記載のコンピュータプログラム。
【請求項4】
前記第2画像データは、前記第2ステップで特定された前記最大タイミングに基づいた前記臓器の1回の拍動に相当する前記第2所定数のフレームのCT画像からな
とを特徴とする請求項1に記載のコンピュータプログラム。
【請求項5】
造影剤が投与された後の被験者の臓器を撮像したものであって、時系列に沿った第1所定数のフレームのCT(Computed Tomography)画像からなる第1画像データと前記第1所定数に比べて少ない第2所定数のフレームのCT画像からなる第2画像データとを記憶する記憶手段と、
前記第1画像データに基づいて、CT値の経時変化を特定する第1手段と、
前記第1画像データに基づき前記第1手段で特定された前記CT値の経時変化において、前記CT値が最大値となるタイミングである最大タイミングを特定する第2手段と、
前記第2手段で特定された前記最大タイミングに基づく前記第2所定数のフレームのCT画像からなる前記第2画像データに基づいて、CT値の経時変化を特定する第3手段と、
前記第2画像データに基づき前記第3手段で特定された前記CT値の経時変化に基づいて、所定時間に対する前記CT値の傾きであって所定の傾きを特定する第4手段と、
を備えることを特徴とする画像処理装置。
【請求項6】
前記第2画像データに基づき前記第4手段で特定された前記所定の傾きに基づいて、前記CT値の経時変化を所定の関数で近似する第5手段をさらに備える
ことを特徴とする請求項5に記載の画像処理装置。
【請求項7】
造影剤が投与された後の被験者の臓器を撮像したものであって、時系列に沿った所定数のフレームのCT(Computed Tomography)画像からなる画像データを記憶する記憶手段を備えた画像処理装置が実行する画像処理方法であって、
前記記憶手段は、
第1所定数のフレームのCT画像からなる第1画像データと、
前記第1所定数に比べて少ない第2所定数のフレームのCT画像からなる第2画像データと、
を記憶しており、
前記画像処理装置
前記第1画像データに基づいて、CT値の経時変化を特定する第1ステップと、
前記第1画像データに基づき前記第1ステップで特定された前記CT値の経時変化において、前記CT値が最大値となるタイミングである最大タイミングを特定する第2ステップと、
前記第2ステップで特定された前記最大タイミングに基づく前記第2所定数のフレームのCT画像からなる前記第2画像データに基づいて、CT値の経時変化を特定する第3ステップと、
前記第2画像データに基づき前記第3ステップで特定された前記CT値の経時変化に基づいて、所定時間に対する前記CT値の傾きであって所定の傾きを特定する第4ステップと、
を実行することを特徴とする画像処理方法。
【請求項8】
前記画像処理装置は、
前記第2画像データに基づき前記第4ステップで特定された前記所定の傾きに基づいて、前記CT値の経時変化を所定の関数で近似する第5ステップをさらに実行する
ことを特徴とする請求項7に記載の画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理技術に関し、特に時系列のダイナミック画像を解析する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
被験者に造影剤を投与した後、その被験者の心臓を撮像した画像を使って、心臓の血流を解析する手法が知られている。このような心筋血流の解析手法の一つとして、冠動脈CT検査時に追加して行われるCTP(Computed Tomography Perfusion)がある。このCTPは、例えば、造影剤の心筋へのファーストパスを造影効果として観察することで、心筋血流の状態を評価する方法である。また、このCTPにおける評価法としては、徐々に染まっていく心筋を複数心拍で撮像するDynamic撮影によって得られたTDC(Time density curve)を解析することで、心筋血流を定量評価するものがある。
【0003】
このようにTDCの解析によって心筋血流等を定量評価する手法としては、例えば、Dynamic撮影によって得られたCT画像を解析して、入力関数および出力関数を導出して、導出した入力関数および出力関数に基づいて所定の心筋領域での造影剤が到達した時刻であるアライバルタイム(以下、「AT」とする。)や臓器内画素位置の画素のベースとなるCT値であるベース値を算出したうえで、心筋血流を定量評価する方法がある(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2016/009957号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に記載された方法では、少なくとも30~40心拍数におけるDynamic撮影によって得られた複数フレームのCT画像を解析する必要があり、解析処理が煩雑であるため、より簡便な手法で時系列画像を解析できるような解析方法が望まれている。また、少なくとも30~40心拍数に応じた時間のCTP検査が必要であるため、被験者に対しての被ばく量が多くなってしまう、という問題があった。そのため、撮像タイミングを的確に把握し、撮像時間を短くして、被験者に対する被ばく量を少なくする、ということも望まれている。
【0006】
そこで、本発明の目的は、従来に比べてより簡便な手法で時系列画像を解析できる解析手法を提供することである。また、本発明の別の目的は、従来に比べて被験者に対する被ばく量を少なくするとともに、時系列画像の解析において客観性及び定量性を担保した解析手法を提供することである
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することが可能である。なお、本欄における括弧内の参照符号や補足説明等は、本発明の理解を助けるために、後述する実施例との対応関係を示したものであって、本発明を何ら限定するものではない。
【0008】
本発明における適用例1のコンピュータプログラムは、造影剤が投与された後の被験者の臓器を撮像したものであって、時系列に沿った所定数のフレームのCT(Computed Tomography)画像からなる画像データを記憶する記憶手段(110)を備えた画像処理装置(100)のためのコンピュータプログラムであって、前記画像処理装置に、前記所定数のフレームのCT画像からなる画像データに基づいて、CT値の経時変化を特定する第1ステップ(S350、S540)と、前記第1ステップで特定された前記CT値の経時変化に基づいて、所定時間に対する前記CT値の傾きであって所定の傾きを特定する第2ステップ(S1100)と、前記第2ステップで特定された前記所定の傾きに基づいて、前記CT値の経時変化を所定の関数で近似する第3ステップ(S1300)と、を実行させることを要旨とする。
【0009】
本発明における適用例2のコンピュータプログラムは、適用例1のコンピュータプログラムであって、前記所定の傾きは、前記所定時間に対する前記CT値の傾きであって所定値より大きい傾きであることを要旨とする。
【0010】
本発明における適用例3のコンピュータプログラムは、適用例1または適用例2のコンピュータプログラムであって、 前記記憶手段は、第1所定数のフレームのCT画像からなる第1画像データと、前記第1所定数に比べて少ない第2所定数のフレームのCT画像からなる第2画像データと、を記憶しており、前記画像処理装置に、前記第1画像データに基づき前記第1ステップで特定された前記CT値の経時変化において、前記CT値が最大値となるタイミングである最大タイミングを特定する第4ステップ(S480)、をさらに実行させ、前記第4ステップで特定された前記最大タイミングに基づく前記第2所定数のフレームのCT画像からなる前記第2画像データに基づいて、前記第1ステップ、前記第2ステップ、および前記第3ステップを実行させる、ことを要旨とする。
【0011】
本発明における適用例4のコンピュータプログラムは、適用例3のコンピュータプログラムであって、前記画像処理装置に、前記第4ステップで特定された前記最大タイミングに基づいた前記臓器の1回の拍動に相当する前記第2所定数のフレームのCT画像からなる前記第2画像データに基づいて、前記第1ステップ、前記第2ステップ、および前記第3ステップを実行させる、ことを要旨とする。
【0012】
本発明における画像処理装置は、造影剤が投与された後の被験者の臓器を撮像したものであって、時系列に沿った所定数のフレームのCT(Computed Tomography)画像からなる画像データを記憶する記憶手段(110)と、前記所定数のフレームのCT画像からなる画像データに基づいて、CT値の経時変化を特定する第1手段(123、133)と、前記第1手段によって特定された前記CT値の経時変化に基づいて、所定時間に対する前記CT値の傾きであって所定の傾きを特定する第2手段(125、137)と、前記第2手段によって特定された前記所定の傾きに基づいて、前記CT値の経時変化を所定の関数で近似する第3手段(125、137)と、を備えることを要旨とする。
【0013】
本発明における画像処理方法は、造影剤が投与された後の被験者の臓器を撮像したものであって、時系列に沿った所定数のフレームのCT(Computed Tomography)画像からなる画像データを記憶する記憶手段(110)を備えた画像処理装置(100)が実行する画像処理方法であって、前記画像処理装置が、前記所定数のフレームのCT画像からなる画像データに基づいて、CT値の経時変化を特定する第1ステップ(S350、S540)と、前記第1ステップで特定された前記CT値の経時変化に基づいて、所定時間に対する前記CT値の傾きであって所定の傾きを特定する第2ステップ(S1100)と、前記第2ステップで特定された前記所定の傾きに基づいて、前記CT値の経時変化を所定の関数で近似する第3ステップ(S1300)と、を実行することを要旨とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一つの実施例である実施例1における画像処理装置100の全体構成図である。
図2】CT画像の一例を例示した説明図である。
図3】入力関数導出処理を示すフローチャートである。
図4】入力関数特定処理を示すフローチャートである。
図5】出力関数導出処理を示すフローチャートである。
図6】出力関数特定処理を示すフローチャートである。
図7】(A)は入力関数データ記憶部129の入力関数テーブル700のデータ構成の一例を示した説明図であり、(B)は出力関数データ記憶部139の出力関数テーブル750のデータ構成の一例を示した説明図である。
図8】(A)は実施例1における大動脈の第1TDCの一例を示した説明図であり、(B)は実施例1における心筋内冠動脈の第2TDCの一例を示した説明図である。
図9】(A)は実施例2における大動脈の第1TDCの一例を示した説明図であり、(B)は実施例2における心筋内冠動脈の第2TDCの一例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明が適用された実施例について図面を用いて説明する。なお、本発明の実施の形態は、下記の実施例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
【実施例1】
【0016】
<画像処理装置100の構成>
図1を参照して、まずは、本実施例の画像処理装置100の構成について説明する。図1は、画像処理装置100の全体構成図である。画像処理装置100は、例えば、汎用的なコンピュータシステムにより構成され、以下に説明する画像処理装置100内の個々の構成要素又は機能を、コンピュータが読み取り可能な記録媒体等に保存されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。本実施例の画像処理装置100は、画像データ記憶部110と、入力関数導出部120と、入力関数データ記憶部129と、出力関数導出部130と、出力関数データ記憶部139と、血流解析処理部150とを備える。また、画像処理装置100には、入力装置160と、表示装置170と、が接続されている。
【0017】
画像処理装置100は、被験者に造影剤を投与したあとに撮像された被験者の臓器のCT画像を用いて、その臓器の血流量の定量解析を行う装置である。本実施形態では、画像処理装置100は、被験者の心臓を心電図に同期して撮像した同位相の複数枚のCTのフレーム画像を対象とし、これら心臓のCT画像を画素単位で解析することにより、心臓および心臓近傍の血流量の定量値を算出するために用いる入力関数及び出力関数等を特定する。本実施形態において、画像処理装置100は、静脈に投与された造影剤によるCT画像の画素値の変化に基づいて心臓等の血流量を推定し、例えば、対象となる部位に造影剤が到達することによってCT画像の画素値が急激に変化した場合、画素値が変化し始める前の画素値をベース値としたり、画素値が変化し始める時刻をATとしたりする。なお、本造影剤としては、種々のものを利用することができるが、本実施形態においては、例えば、イオプロミドを利用するものとする。
【0018】
画像データ記憶部110は、コンピュータシステムにおける一般的なメモリであって、本実施形態では、心臓の撮像によって得られた心臓及び心臓近傍のCT画像の画像データを記憶する。CT画像は、造影剤が投与された後の被験者の臓器を撮像した時系列の複数フレームのCT画像であって、複数のスライス画像(短軸断層画像)で構成される3次元画像(3次元ボクセルデータ)であり、詳細については後述する。
【0019】
入力関数導出部120は、画像データ記憶部110に保存されている画像データに基づいて、被験者の臓器に流入する造影剤がCT画像の画素値(以下、「CT値」と称する。)に及ぼす変化に関係する入力関数等を導出する。なお、入力関数導出部120は、以下に説明するROI設定部121と、ROI経時変化特定部123と、入力関数化処理部125と、を有している。入力関数データ記憶部129は、入力関数導出部120で導出された入力関数等に係るデータを後述する入力関数テーブル700として記憶する。
【0020】
ROI設定部121は、医師等の解析者による入力装置160を介した操作に従って、CT画像において入力関数を特定するための領域であるROI(Region Of Interest;関心領域)を設定する。具体的に、ROI設定部121は、画像データ記憶部110から画像データを読み出して、対象とする領域が写っているスライスのフレーム画像を表示装置170に表示させ、解析者が入力装置3を用いて行った入力に従って、表示装置170に表示されている画像上にROIを設定する。なお、このROIの位置は、同一スライスの全フレームに対して共通であるものとする。
【0021】
ROI経時変化特定部123は、時系列の複数フレームのCT画像の画像データに基づいて、ROI内のCT値の経時変化を特定する。具体的に、ROI経時変化特定部123は、CT画像における所定の領域のCT値の経時変化として、ROI内のCT値から定まるROI値のTDCを生成する。なお、ROI値とは、ROI内のCT値を統計的アルゴリズムで処理した値(統計値)であり、例えば、平均値、最頻値、中央値、最大値、最小値などのいずれかを採り得るものとする。
【0022】
入力関数化処理部125は、ROI経時変化特定部123により生成されたTDCに基づいて、ROI内のCT値が最大値Maxとなる時刻であるMT、ROIが設定された領域に造影剤が到達した時刻であるAT、後述する第2TDCを得るための撮像する期間の撮像区間であるMB、入力関数等を特定する。なお、入力関数化処理部125は、ROI経時変化特定部123によって生成されたTDCにおいて、TDCがなめらかな曲線になるように平滑化処理を実行したうえで、入力関数等を特定する。また、入力関数化処理部125は、CT値が急激に上昇した後の所定のフレームである上限フレームFaや、後述するベース値であるBLも特定する。
【0023】
出力関数導出部130は、画像データ記憶部110に保存されている画像データに基づいて、被験者の臓器の血管に造影剤が流入したことによりCT画像のCT値に及ぼす変化に関係する出力関数等を導出する。なお、出力関数導出部130は、ROI単位ではなく画素単位に出力関数を導出するものであり、対象画素抽出部131と、CT経時変化特定部133と、出力関数化処理部137と、を有している。出力関数データ記憶部139は、出力関数導出部130で導出された出力関数に係るデータを後述する出力関数テーブル750として記憶する。
【0024】
対象画素抽出部131は、出力関数の導出対象となる画素を抽出し、フレーム画像上でその位置を特定する。具体的に、対象画素抽出部131は、抽出処理として、時系列の複数フレームのCT画像のすべてにおいて、スライス単位にCT値が所定の範囲内(例えば、50~160)である画素を選択する。なお、この抽出処理において、目的とする対象画素の領域内で小さな対象外となる領域が含まれる場合には、その対象外の領域の大きさに応じて(例えば、画素数が所定数以下)、この領域を処理上の欠損とみなし、対象画素に転換する処理を実行することができる。また、対象画素の領域外で孤立した対象となる画素がある場合は、孤立した対象領域の大きさに応じて(例えば、画素数が所定数以下)、この領域を対象外とする処理を実行することもできる。そして、対象画素抽出部131は、このようにスライス毎に抽出された画素の位置を、出力関数を算出する対象である対象画素位置(臓器内画素位置)として特定する。
【0025】
CT経時変化特定部133は、時系列の複数フレームのCT画像の画像データに基づいて、対象画素位置(臓器内画素位置)の画素のCT値の経時変化を特定する。具体的に、CT経時変化特定部133は、スライス毎に、対象画素位置のCT値の経時変化としてTDCを生成する。
【0026】
出力関数化処理部137は、CT経時変化特定部133により生成されたTDCに基づいて、出力関数等を特定する。具体的に、出力関数化処理部137は、CT経時変化特定部133で特定された経時変化であるTDCに基づいて各CT値間の傾きの値を算出し、算出された傾きの値のうちで所定値以上の傾きに基づき出力関数を特定する。
【0027】
血流解析処理部150は、入力関数及び出力関数に基づいて、血流量の定量解析を行う。具体的に、血流解析処理部150は、入力関数データ記憶部129の入力関数テーブル700及び出力関数データ記憶部139の出力関数テーブル750を参照して、所定の解析処理を行う。この血流量の定量解析の手法としては、例えば、Patlak Plot法や、Deconvolution法などを用いて、MBF(Myocardial Blood Flow:心筋血流量)、MBV(Myocardial Blood Volume:心筋血液量)、MTT(Mean Transit Time:平均通過時間)等を特定する。具体的には、後述する入力関数テーブル700の関数Fの傾きa又は関数Fのデータと、出力関数テーブル750の傾きα又は関数Fのデータと、に基づいて所定の解析処理が実行される。また、血流解析処理部150による定量解析の結果は、表示装置170に表示される。このとき、例えば、定量解析の結果をCT画像と並べてまたは重ねて表示して、二つの画像を比較することにより、心筋梗塞または狭心症などの際の冠動脈狭窄の評価と心筋虚血評価を同時に行うようにすることができる。また、例えば、特定されたMBFと正常なMBFとを比較し、特定されたMBFが正常なMBFよりも低い場合には、虚血状態であるものと判断でき、延いては、心筋の冠動脈における心筋梗塞または狭心症などの際の冠動脈狭窄の評価と心筋虚血評価をすることができる。
【0028】
<CT画像データの構成>
図2を参照して、画像データ記憶部110に記憶されるCT画像について説明する。図2は、CT画像の一例を例示する説明図である。図2に示したCT画像は、心臓を心電図に同期して撮像したものであって、心拍が同位相の所定枚数(例えば30枚)のフレーム画像210である。1フレームは、複数枚のスライス画像によって構成されているとともに、1フレームのデータは、3次元の画像データで構成されている。なお、図2では、1つのスライスのフレーム画像を例示している。CT画像は、被験者に造影剤を投与した直後から撮像が開始されたものでもよく、撮像順に第1フレームから第30フレームまでが含まれてもよい。
【0029】
<入力関数導出処理の内容>
図3および図4を参照して、次に、入力関数導出部120によって実行される入力関数導出処理について説明する。図3は、入力関数導出処理を示すフローチャートである。図4は、入力関数特定処理を示すフローチャートである。
【0030】
図3に示すように、入力関数導出処理において、まず、ROI設定部120は、解析者による選択処理に沿って、画像データ記憶部110から特定の領域が写っているスライス画像のフレーム画像の画像データを読み出し(S310)、選択されたスライス画像の中で、特定の領域が鮮明に写っているフレーム画像が表示装置5に表示されているとき、解析者の操作に従ってROIを設定する(S330)。次に、ROI経時変化特定部123は、ROIが設定された全フレーム画像についてそれぞれROI値を算出し、ROI値に基づくTDCを描画する(S350)。そして、入力関数化処理部125は、後述する入力関数特定処理を実行する(S390)。
【0031】
図4に示すように、入力関数特定処理において、まず、入力関数化処理部125は、ROI経時変化特定部123により生成されたTDCに基づいて、入力関数の導出対象とするフレームの範囲を規定する上限フレームFaを特定し(S405)、フレームナンバーを示す変数nを1に設定する(S410)とともに、nに1を加算する(S420)。次に、入力関数化処理部125は、第nフレームより以前のフレームのROI値を一つの直線Lに近似し(S430)、第nフレーム以降で上限フレームFa以前のフレームのROI値を2次関数Fに近似する(S440)。次に、入力関数化処理部125は、直線Lと第nフレームより以前のフレーム のROI値の最小二乗誤差を算出するとともに、2次関数Fと第nフレーム以降で上限フレームFa以前のフレームのROI値との最小二乗誤差を算出して、これらの誤差の総和を算出する(S450)。そして、入力関数化処理部125は、ステップS410~S450までの処理を、nが上限フレームFa-1よりも小さい間は繰り返し(S460でYES)、n=2から上限フレームFa-1までの最小二乗誤差の総和をすべて算出する。次に、入力関数化処理部125は、n=2から上限フレームFa-1までの最小二乗誤差の総和をすべて算出すると(S460でNO)、その中から最小二乗誤差の総和が最も小さいnを特定する(S470)。そして、入力関数化処理部125は、TDCにおけるROI値が最大値MaxとなるフレームをMTとし、ステップS470で特定されたnのときの直線L及び2次関数Fの交点となるフレームをATとし、ATとしたフレームにおけるROI値(直線Lの高さ(Y切片))をBLとし、MTの前後の所定の心拍数に相当する期間を撮像区間MBとするとともに、入力関数および入力関数の傾きaを特定する。
【0032】
<出力関数導出処理の内容>
図5および図6を参照して、出力関数導出部130において実行される出力関数導出処理について説明する。図5は、出力関数導出処理を示すフローチャートである。図6は、出力関数特定処理を示すフローチャートである。
【0033】
図5に示すように、出力関数導出処理において、まず、対象画素抽出部131は、一つのスライス画像を選択し、画像データ記憶部110からそのスライスのフレーム画像の画像データを読み出し(S510)、選択されたスライスの全画素の中から、全フレーム画像におけるCT値が前述の条件を満たす画素が特定領域の画素とみなして、これらの画素を対象画素として抽出し(S520)、抽出された対象画素から一つの画素を選択する(S530)。次に、CT経時変化特定部133は、対象画素抽出部131によって選択された画素についてのTDCを描画する(S540)。次に、出力関数化処理部137は、後述する出力関数特定処理をCT値に基づき実行して出力関数等を特定する(S550)。そして、出力関数導出部130は、ステップS530~S550までの処理をすべての対象画素について行う(S580)とともに、ステップS510~S580までの処理をすべてのスライスについて行う(S590)。
【0034】
図6に示すように、出力関数特定処理において、まず、出力関数化処理部137は、CT経時変化特定部133によって生成されたTDCにおける各プロット間の傾きαを算出し(S610)、算出された傾きにおいて所定値以上(例えば、0.2以上)となる傾きのみを抽出する(S620)。そして、出力関数化処理部137は、抽出された傾きαに基づき所定の関数で近似し(S630)、出力関数を特定する(S650)。
【0035】
<入力関数テーブル700および出力関数テーブル750の構成>
図7(A),(B)を参照して、入力関数データ記憶部129に記憶される入力関数テーブル700および出力関数データ記憶部139に記憶される出力関数テーブル750のデータ構成について説明する。図7(A),(B)は、入力関数テーブル700及び出力関数テーブル750のデータ構造の一例を示した説明図であり、(A)は入力関数データ記憶部129の入力関数テーブル700のデータ構成の一例を示した説明図であり、(B)は出力関数データ記憶部139の出力関数テーブル750のデータ構成の一例を示した説明図である。
【0036】
図7(A)に示すように、入力関数テーブル700は、AT711と、MT712、BL713と、関数Fの傾きa714と、関数L及びF715と、ROI値717と、MB718と、をデータ項目として含んでいる。なお、関数L及びF715は、入力関数化処理部125で求められたn=1から上限フレームFaまでを近似した直線Lの式及び2次関数Fの式であり、ROI値717は、TDCの元となるフレーム毎のROI値である。また、血流解析処理部150は、入力関数テーブル700における入力関数を血流解析に使用する場合に、AT711及びBL715が原点となるようにROI値717もしくは関数L及びF715を補正したものを入力関数として使用されるようにしてもよい。
【0037】
図7(B)に示すように、出力関数テーブル750は、スライス番号761と、画素位置762と、傾きα763と、関数F765と、をデータ項目として含んでいる。なお、画素位置762は、傾きα763を算出するための基となる2つのCT値の位置を示すデータであり、関数F765は、傾きα763から算出された近似式である関数Fの式である。
【0038】
<心臓のCT画像に対する画像処理の内容>
次に、本実施例における心臓のCT画像の画像処理について具体的に説明する。本実施例における心臓のCT画像に基づくTDCに対する画像処理においては、心臓に対して、造影剤を生理食塩水で所定の濃度に希釈したもの(例えば、造影剤を生理食塩水で4倍に希釈したもの)を利用するテストインジェクション法での撮影を実施した後に、希釈しない造影剤を利用した撮影を実施する、という流れである。具体的に、まず、テストインジェクション法で撮影が実施されることによって、被験者の大動脈を含む心臓のCT画像である第1CT画像が撮像される。そして、この第1CT画像に基づいて、画像処理装置100による上述のような入力関数導出処理が実行されることによって、大動脈の第1TDCが生成されるとともに、MBや入力関数等が特定される。次に、第1TDCに基づいて特定されたMBにおいて、希釈しない造影剤を利用した撮影が実行されることによって、被験者の大動脈および心筋内冠動脈を含む心臓のCT画像である第2CT画像が撮像される。そして、この第2CT画像に基づいて、画像処理装置100による上述のような出力関数導出処理が実行されることによって、心筋内冠動脈の第2TDCが生成されるとともに、出力関数等が特定される。そして、このように特定された入力関数や出力関数等に基づいて、画像処理装置100によって心筋内冠動脈の血流量の定量解析が実行されることとなる。
【0039】
図8(A),(B)を参照して、ここで、第1TDCおよび第2TDCに対する画像処理の概要について説明する。図8(A),(B)は、本実施例におけるTDCの一例を例示した説明図であり、(A)は本実施例における大動脈の第1TDCの一例を示した説明図であり、(B)は本実施例における心筋内冠動脈の第2TDCの一例を示した説明図である。なお、図8(A)は、心臓の大動脈近傍の第1CT画像において大動脈にROIを設定した場合のものであり、図8(B)は、対象画素を所定のCT値(本実施例では、50~150HUとする。)に設定した場合のものである。
【0040】
図8(A)に示すように、まずは、テストインジェクション法での撮影で得られた心臓の第1CT画像に基づく画像処理装置100の画像処理によって、大動脈の第1TDCが生成されるとともに、この第1TDCに基づいてMB等が特定される。具体的には、入力関数導出部120のROI経時変化特定部123は、まず、ROI設定部121で設定されたROIを、同一スライスの他のフレーム画像210にも適用し、フレーム画像毎に、ROI内の画素のCT値に基づいてROIを代表するROI値を決定する。次に、ROI経時変化特定部123は、同一スライスの全フレームについて定められたROI値をプロットすることで、第1TDCを生成する。次に、ROI経時変化特定部123は、第1TDCにおけるCT値の最大値Max、またはカーブが大きく立ち上がった (CT値が急激に上昇した)後の最初のピーク値を検出する。そして、ROI経時変化特定部123は、TDCにおけるROI値の最小値Minから、この最大値Maxまたはピーク値までの一定割合(例えば、70%、80%、90%などを設定することができ、本実施例では、70%とする。)の値をとる。
【0041】
そして、入力関数化処理部125は、最大値Maxまたはピーク値が検出されたフレームよりも以前のフレームであって、上述のようにROI経時変化特定部123によって特定された一定割合の値をとるフレームを上限フレームFaとする。次に、入力関数化処理部125は、第n(nは、2から上限フレームFa-1まで)フレームFn以前のROI値に対して最小二乗法等を適用して直線近似を行い、直線Lの式を導出するとともに、第nフレームFnから上限フレームFaまでのROI値に対して最小二乗法等を適用して2次関数に近似し、2次関数Fの式を導出する。次に、入力関数化処理部125は、直線Lと第nフレームFn以前のROI値との誤差の二乗和を算出するとともに、2次関数Fと第nフレームFn以降のROI値との誤差の二乗和(残差平方和)を算出する。そして、入力関数化処理部25は、すべてのnについて上記の処理を行い、これら誤差の二乗和の合計が最も小さくなるnを特定し、この誤差が最小となるnの場合の直線L及び2次関数Fをそれぞれ近似された入力関数として特定するとともに、入力関数の傾きaを特定する。ここで、ROI値が最大値MaxとなるフレームがMTとなり、直線L及び2次関数Fの交点(境界)となるフレームがATとなり、直線L及び2次関数Fの交点(境界)となるフレームのROI値がBLとなり、MTの前後で3心拍に相当する区間がMBとなる。このように入力関数化処理部125は、第1TDCに基づいて、大動脈の領域のMT、AT、BL、MB、傾きa、入力関数を特定する。なお、上述のBLの特定において、ROI値そのものをBLとする以外に、例えば、直線Lの高さ(Y切片)をBLとしても良い。
【0042】
ここで、第2CT画像を得るための撮影を実施するタイミングとなる撮像区間であるMBについて説明する。一般的には、大動脈に造影剤が流れ込んだ後に心筋内冠動脈に造影剤が流れ込むこととなるため、MTの前後であって所定の心拍数に相当する区間における撮影でCT画像を取得すれば、造影剤が流れ込んだ心筋内冠動脈に対するCT画像を取得することができる。特に、第2CT画像において、心筋内冠動脈に造影剤が確実に流れ込んだときのフレームにおける心筋内冠動脈のCT値を得るために、本実施例における撮像区間MBは、MTの前の1心拍とMTの後の2心拍とに相当する区間としている。
【0043】
図8(B)に示すように、次に、MBにおける撮影で得られた第2CT画像に基づく画像処理装置100の画像処理によって、心筋内冠動脈の第2TDCが生成されるとともに、この第2TDCに基づいて出力関数等が特定される。ここで、心筋内冠動脈に血液が主に流れるのは、心拍動に伴う心臓の拡張期であるため、心臓の拡張期と非拡張期とではCT値に変化が生じてしまい、第2TDCは段差が形成されたようなプロットとなってしまう。そこで、第2TDCに基づき出力関数を特定する場合には、所定値以上となる傾きの値に基づいて近似することによって精度の高い出力関数を特定することができる。具体的には、撮像区間MBでの撮影に基づく第2TDCにおける各プロット間の傾きの値を算出して、全ての傾きの値のうち所定値以上となる傾きα1~α3の値を抽出し、この傾きα1~α3に基づく出力関数特定処理によって出力関数が特定されることとなる。
【0044】
ここで、上述のように心臓の拡張期と非拡張期との関係に沿った第2TDCにおける1心拍中の傾きの値の変化の態様は、前半は小さい傾きの値であり、後半は大きい傾きの値となるような態様である。そして、出力関数特定処理において利用する傾きの値は、1心拍中における後半の大きい傾きの値である傾きα1~α3であるものとしている。つまり、言い換えれば、出力関数特定処理は、第2TDCにおいて1心拍中の傾きのうち後半部分の傾きの値を利用した処理である。なお、出力関数を特定するときにおいて、傾きα1~α3の平均値を利用して出力関数を特定してもよいし、傾きα1~α3の各々の近似式を特定してから種々の特定方法によって出力関数を特定してもよい。
【実施例2】
【0045】
図9(A),(B)を参照して、次に、実施例2における心臓のCT画像の画像処理について具体的に説明する。図9(A),(B)は、実施例2におけるTDCの一例を例示した説明図であり、(A)は実施例2における大動脈の第1TDCの一例を示した説明図であり、(B)は実施例2における心筋内冠動脈の第2TDCの一例を示した説明図である。なお、実施例2における画像処理装置100の構成は実施例1と同様のものであり、実施例2における入力関数導出処理および出力関数導出処理のフローは実施例1と略同様のものであるため、<画像処理装置100の構成>、<入力関数導出処理の内容>、および<出力関数導出処理の内容>等の説明は省略する。
【0046】
図9に示すように、実施例2における心臓のCT画像の画像処理においても、上述の実施例1と同様に、心臓に対して、テストインジェクション法での撮影を実施した後に、希釈しない造影剤を利用した撮影を実施する、という流れである。但し、上述の実施例1とは異なり、実施例2における第1TDCに基づき特定されるMBは1心拍に相当区間であり、第2TDCも1心拍に相当するものが生成される。そして、撮像区間MBでの撮影に基づく第2TDCにおける傾きα4を抽出し、この傾きα4に基づく出力関数特定処理によって出力関数が特定されることとなる。なお、実施例2における撮像区間であるMBは、心筋内冠動脈に造影剤が確実に流れ込んだときのフレームにおける心筋内冠動脈のCT値を得るために、MTの後の1心拍に相当する区間としている。
【0047】
<実施例1および実施例2の特徴>
以上のように、上述の実施例1および実施例2の画像処理装置100によれば、S540において、撮像区間であるMBでの撮影による時系列の複数フレームの第2CT画像からなる画像データに基づきCT値の経時変化である第2TDCを特定し、S620において、第2TDCにおける各プロット間のCT値の傾きであって所定の傾きα1~α3、α4を抽出し、S630において、これら所定の傾きα1~α3、α4に基づき所定の関数で近似することができる。特に、撮像区間であるMBにおける算出された複数の傾きに対して、所定値より大きい傾きα1~α3、α4を抽出した処理を実行することができる。したがって、このような実施例1および実施例2の画像処理装置100であれば、例えば、心筋内冠動脈のCT画像に対する画像処理に利用すると、本来、心筋血流が流れていない心臓の非拡張期のデータを排除して、拡張期のデータに基づいた精度の高い画像処理、延いては、精度の高い血流量の定量解析を実行することができる。また、従来の画像処理に比べて簡便な方法で解析することができるため、画像処理による画像処理装置100における負荷を軽減することもできる。
【0048】
また、上述の実施例1および実施例2の画像処理装置100によれば、画像データ記憶部110は、第1所定数のフレームの第1CT画像からなる第1画像データと、第1所定数に比べて少ない第2所定数のフレームの第2CT画像からなる第2画像データと、を記憶しており、希釈した造影剤を利用したテストインジェクション法の撮影による第1CT画像から特定されたMTに基づいて、所定の心拍数に相当する撮像区間であるMBを特定し、MBでの希釈していない造影剤を利用した撮影が実施されて、得られた第2CT画像に基づいて、画像処理装置100による画像処理を実行することができる。したがって、従来のように20~30心拍に応じた期間のCTP検査をする場合に比べて、少ない心拍数に応じた期間である撮像区間であるMBでの撮影によるCT画像で画像処理を実行することができるため、従来に比べて被験者における被ばく量を軽減するとともに簡便な検査に基づく画像処理を実行することができる。
【0049】
さらに、上述の実施例2の画像処理装置100によれば、撮像区間であるMBに基づいた1回の拍動に相当するフレーム数の第2CT画像および第2TDCに基づいて、画像処理装置100による画像処理を実行することができる。したがって、従来のように20~30心拍に応じた期間のCTP検査をする場合に比べて、少ない心拍数に応じた期間である撮像区間MBのCTP検査によるCT画像で画像処理を実行することができるため、従来に比べて被験者における被ばく量を軽減するとともに簡便な検査に基づく画像処理を実行することができる。
【0050】
<その他の実施例>
上述の実施例において、第1CT画像に基づくMTの前後で3心拍又は1心拍に相当する区間を撮像区間であるMBとしたが、本発明ではこれに限定されず、MBを以下のようにしてもよい。例えば、MTの前後で2心拍や4~10心拍に相当する期間を撮像区間であるMBとしてもよい。このようなMBや撮像タイミングに基づく撮影であっても、従来に比べて被験者における被ばく量を軽減するとともに簡便な検査に基づく画像処理を実行することができる。
【0051】
上述の実施例において、図6に示した出力関数特定処理では、算出された傾きにおいて0.2以上となる傾きのみを抽出するものとしたが、本発明ではこれに限定されず、0.2以外の数値を閾値としてもよい。例えば、複数回の撮影による結果から算出された統計値に基づく数値を閾値としてもよい。このような閾値であれば、より精度の高い画像処理、延いては、精度の高い血流量の定量解析を実行することができる。
【0052】
上述の実施例において、図6に示した出力関数特定処理では、算出された傾きにおいて0.2以上となる傾きのみを抽出し、つまり、心臓の拡張期における傾き(1心拍中の傾きのうち後半の傾き)の値のみを抽出するものとしたが、本発明ではこれに限定されず、心臓の非拡張期におけるCT値の変化に基づき出力関数を特定するようにしてもよい。具体的には、例えば、第2TDCにおける0.2未満となる傾きを抽出し、抽出された傾きに基づいた各CT値の変化(心臓の非拡張期におけるCT値の変化)の差分に基づく差分法等によって出力関数を特定する、といった処理であってもよい。
【0053】
上述の実施例において、図6に示した出力関数特定処理は、出力関数導出処理において利用するようにしたが、本発明はこれに限定されず、入力関数導出処理において図6に示した出力関数特定処理のような処理を利用してもよい。例えば、第1TDCに基づく入力関数を特定するときに出力関数特定処理のように傾きから入力関数を特定するようにしてもよい。このような画像処理であれば、従来の画像処理に比べてより簡便な方法で解析することができるため、画像処理による画像処理装置100における負荷をより軽減することができる。
【0054】
上述の実施例において、第1CT画像を撮像するために、造影剤を生理食塩水で希釈した造影剤を利用したテストインジェクション法でDynamic撮影を実施していたが、本発明ではこれに限定されない。例えば、対象部位にROIを設定してリアルタイムでROIのCT値(ROI値)をモニタリングするボーラストラッキング法で撮影を実施してもよい。また、希釈していない造影剤を利用したテストインジェクション法でDynamic撮影を実施してもよく、さらに、テストインジェクション法とボーラストラッキング法とを組み合わせた、所謂、テストボーラストラッキング法でDynamic撮影を実施してもよい。つまり、上述の実施例において、第2CT画像を撮像するための撮影を実施するタイミングを最適化するためには、種々の手法を利用して第1CT画像を撮像することができる。
【0055】
上述の実施例においては、希釈した造影剤を利用したテストインジェクション法での撮影で第1CT画像を得て、その後に希釈していない造影剤を利用した撮影で第2CT画像を得る、といった手順であるものとしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、第1CT画像を撮像するためのテストインジェクション法での撮影の実行中に、所定の心拍においてのみ複数心位相を撮影することによって第2CT画像を撮像する、といった手法であってもよい。
【0056】
上述の実施例において、対象画素抽出部131は、上述のような抽出処理を実行していたが、本発明ではこれに限定されず、画素単位に以下の処理を実行してもよい。例えば、対象画素抽出部131が、時系列の複数フレームのCT画像において、各画素のCT値の変化量、例えば、最大値と最小値との差分の値に基づいて画素を選択してもよい。具体的に、対象画素抽出部131は、一つのスライスにおいて、全フレーム画像の中でCT値の最大値と最小値との差を求め、その差が所定の値(例えば50~150)である画素を抽出してもよい。さらに、対象画素抽出部131は、このような抽出処理を上述の抽出処理に加えて実行してもよいし、いずれか一方のみを実行してもよい。
【0057】
上述の実施例において、入力関数特定処理では上限フレームFaを上述のような方法で特定していたが、本発明はこれに限定されない。例えば、第1TDCの変化率を求めて、変化率が最大となるフレームと変化率が0となるフレームとの間のいずれかのフレームを上限フレームFaとしてもよい。
【0058】
上述の実施例において、入力関数特定処理では直線と2次曲線との2つの関数で第1TDCを関数化しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、第nフレームFn以前を直線Lで近似し、第nフレームFn以降のROI値又はCT値の分布を直線または3次以上の多次関数で近似してもよい。あるいは、上限フレームFaまでのすべてのROI値又はCT値の分布を多次元多項式で表される関数に近似してもよい。また、第1TDCを3つ以上の関数で近似してもよく、例えば、第2フレームから上限フレームFa-1までを3つ以上の区間に分けて、それぞれの区間を所定の関数で近似してもよい。第1TDCにおいては、カーブが大きく立ち上がる(ROI値又はCT値が急激に上昇する)直前に、一旦ROI値又はCT値が低下する場合がある。このような現象が現れた場合には、ROI値又はCT値がほぼ一定で直線近似できる区間(第1区間)と、ROI値又はCT値が減少する区間(第2区間)と、その後のROI値又はCT値が急激に上昇する区間(第3区間)とに分けてもよい。そして、例えば、第1区間を直線、第2区間を2次以上の関数、第3区間を別の2次以上の関数で近似するようにしてもよい。このような場合には、第1区間と第2区間の境界となるフレーム、または第2区間と第3区間の境界となるフレームの何れかをATとし、このATとなるフレームのROI値又はCT値をベース値としてもよい。
【0059】
さらに、第1TDCを一つの関数で近似するようにしてもよく、例えば、正規累積分布関数または累積分布関数を第1TDCにフィッティングさせて、第1TDCを単一の関数で近似してもよい。このように第1TDCを正規累積分布関数で関数化する場合、第1TDCの立ち上がりのカーブに最もよくフィットするように正規分布の標準偏差(SD)及び平均値を選択するようにしてもよい。このとき、例えば、第1TDCに近似された正規累積分布関数の-3SDに最も近いフレームをATとし、このATとなるフレームのROI値又はCT値をベース値としてもよい。
【0060】
上述の実施例において、関数特定処理では平滑化した第1TDCに対して関数近似していたが、本発明はこれに限定されず、上述のようにm次関数にフィッティングする以外の方法で第1TDCが平滑化されてもよい。例えば、第1TDCを生成するときに、周辺の画素との平均値を求めてこれを利用して平滑化してもよいし、第1TDCを移動平均によって平滑化してもよい。また、平滑化していない第1TDCに対して関数近似してもよい。
【0061】
上述の実施例において、上述のように血流解析処理部150による定量解析の結果が表示装置170に表示されていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、心臓領域を任意の複数のセグメントに分けて表示する画像を表示装置170に表示させるとき、各セグメントはそれぞれの血流量に応じた表示態様で表示されるようにしてもよい。あるいは、画像データ記憶部110に保存されている画像データに基づいた臓器の3D画像を表示させるときは、その3D画像における各画素の表示態様が血流量に応じたものになるようにしてもよい。なお、CT画像は、個々の画素の座標情報を基に3D画像表示を行ってもよい。
【0062】
以上、実施例、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。
【符号の説明】
【0063】
100…画像処理装置、110…画像データ記憶部、120…入力関数導出部、121…ROI設定部、123…経時変化特定部、125…関数化処理部、129…入力関数データ記憶部、130…出力関数導出部、131…対象画素抽出部、133…CT経時変化特定部、137…出力関数化処理部、139…出力関数データ記憶部、150…血流解析処理部、160…入力装置、170…表示装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9