(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】視覚運動技能を学習及び強化する装置及び方法
(51)【国際特許分類】
A63B 69/00 20060101AFI20230303BHJP
A61H 5/00 20060101ALI20230303BHJP
【FI】
A63B69/00 A
A61H5/00 Z
(21)【出願番号】P 2020544176
(86)(22)【出願日】2018-11-09
(86)【国際出願番号】 GB2018053245
(87)【国際公開番号】W WO2019092431
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-11-09
(32)【優先日】2017-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】520158517
【氏名又は名称】オックロ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】OKKULO LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100174023
【氏名又は名称】伊藤 怜愛
(72)【発明者】
【氏名】メル デイビッド オコーナー
【審査官】槙 俊秋
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-28274(JP,A)
【文献】米国特許第9511262(US,B1)
【文献】特表2002-522130(JP,A)
【文献】特開2007-232291(JP,A)
【文献】特開2014-219566(JP,A)
【文献】特表2003-506168(JP,A)
【文献】特表2013-513439(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第2387786(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 69/00
A61H 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光レベルを制御可能な閉空間の形態のトレーニング区域と、
個人のトレーニングの課題に関する少なくとも1つの物理的要素であり、物理的要素照射手段により照射される、少なくとも1つの物理的要素と、
照明設備であり、前記照明設備はバックグラウンド輝度レベルを前記トレーニング区域内で発生させ、前記バックグラウンド輝度レベルはUV光源によって生成され、前記照明設備は前記少なくとも1つの物理的要素の輝度レベルを前記トレーニング区域内で発生させ、前記少なくとも1つの物理的要素の前記輝度レベルは、UVが照射された蛍光物質によって生成され、それにより、前記少なくとも1つの物理的要素は可視光を放射し、ひいては、前記バックグラウンド輝度レベルよりも高い前記少なくとも1つの物理的要素の輝度レベルをもたらす、照明設備と、
前記トレーニング区域、前記少なくとも1つの物理的要素、前記物理的要素照射手段、及び前記照明設備のうち1つ又は複数を格納するハウジングと、
を備え、
前記課題はスポーツ課題又は試合であり、前記物理的要素は
スポーツ又は試合の要素であり、
前記バックグラウンド輝度レベルは0.001cd/m
2
~200cd/m
2
の範囲にあり、
前記ハウジングは放射吸収コーティングを含む、
装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置において、前記バックグラウンド輝度レベルは、
0.001cd/m
2~
100cd/m
2
の範囲にある、
装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の装置において、前記少なくとも1つの物理的要素のうち1つはUV光を受けると発光するコーティングを含む、装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の装置において、前記少なくとも1つの物理的要素のうち1つは自発光照射源を含む、装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の装置において、前記物理的要素の前記輝度レベルは0.001cd/m
2よりも高い、装置。
【請求項6】
請求項1に記載の装置において、前記UV光源は長波長UV放射線を放射する、装置。
【請求項7】
請求項6に記載の装置において、前記放射される光の波長は、
340ナノメートル~380ナノメートルであ
る、
装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の装置において、前記UV光源は、
紫色若しくはバイオレット色の可視光、又は、
紫色若しくはバイオレット色ではない可視光
を放射する、装置。
【請求項9】
視覚運動技能を学習及び強化する方法であって、
i.請求項1~
8のいずれか1項に記載の装置において課題のトレーニング方式に従って初期量のトレーニングを行うステップと、
ii.前記初期量のトレーニングの一定期間後に追加量のトレーニングを行うステップと、
を含む、方法。
【請求項10】
請求項
9に記載の方法において、
課題の特定の要素に焦点を合わせた方式に従ってさらなる量のトレーニングを行うステップをさらに含む、方法。
【請求項11】
請求項
9に記載の方法において、ユーザのパフォーマンスを監視及び分析するステップをさらに含む、方法。
【請求項12】
請求項
9に記載の方法において、
ユーザのパフォーマンスの
監視及び分析の結果に応じて前記トレーニング方式を変更するステップをさらに含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視覚運動技能を学習及び強化する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの活動では、手と目若しくは足と目の協応の向上又は身体反応時間の向上により、その活動に携わる個人のパフォーマンスが向上する。例えば、クリケット等の球技では、手と目の協応が向上すれば、打者の打撃すなわちボールを打つ能力又は野手の捕球すなわちボールを受ける能力が向上する。同様に、例えばテニスでは、手と目の協応がよくとれていて素早く反応できるほど、サーブリターン率を上げることができる。
【0003】
特許文献1には、被験者の視覚的注意能力をトレーニングするシステムが記載されている。例えば、被験者に、中心標的、周辺標的、及び錯乱要素を含むいくつかのテストが提示される。標的及び要素の表示時間は一定に保たれる。さらに、周辺標的の偏心角(eccentricity)は、いずれか1つのテストでは一定に保たれるが他のテストでは変更される。続いて、被験者は一連の回答選択肢から標的の正しい空間的配置を特定するよう求められる。被験者が所望の成功レベルに達すると、テストの難度を高めていくように、後続のテストのパラメータが続いて変更される。それにより、このシステムを用いて被験者の視覚的注意能力をテスト及びトレーニングすることができる。
【0004】
特許文献2には、発光ダイオード(LED)を異なる順序で点灯させること又は特定の発光ダイオードを消灯させるよう被験者に求めることを含む、視覚及び/又は手と目の協応を強化する方法及び装置が記載されている。具体的には、LEDがマイクロプロセッサに接続され、マイクロプロセッサが所定の方法でLEDを点灯させる。続いて被験者は、LEDの点灯及び区別(distinguish)を目で追う課題が課され、それがシステムにより追跡され、反応時間を含む結果が記録される。代替として、被験者は、LEDを区別する(distinguish)ために点灯したLEDに順次触れる課題が課されてもよい。マイクロプロセッサは、被験者のスコアを確定するために用いることができるか、又は実際には被験者の視覚技能を向上させるトレーニング方式が予めプログラムされてもよい。
【0005】
特許文献3には、ユーザの運動感覚情報処理に影響を及ぼす方法及び装置が記載されている。かかる装置は、ユーザの目を覆って装着された画面を含む。ユーザには、目の第1及び第2の端位置間で視覚刺激が提示される。視覚刺激は、ユーザの反応時間を向上させる、又は他の形でユーザの視覚能力を向上させるように提示され得る。
【0006】
特許文献4には、格子状配列を含む視覚及び目/手協応訓練・テストマシンが記載されている。各配列位置は、ランプ位置又はダミー位置である。このマシンは複数の異なるモードで動作する。第1のモードでは、ユーザは点灯する各ランプ位置を目で追う。このモードでは、ユーザの眼筋が訓練される。第2のモードでは、ユーザは各ランプ位置に位置付けられたスイッチを能動的に作動させなければならない。各モードで、ランプが点灯する順序及び配列内のそれらのランプの位置は異なる。このようにして、ユーザの視覚技能及び反応時間を向上させる。
【0007】
上記既知のシステム及び方法は、被験者の視覚的注意、手/目の協応及び/又は反応時間の向上を目的としている。被験者の、例えば競技者の身体トレーニング時に、被験者の身体トレーニングの難度を高める抵抗をある程度設けることも知られている。
【0008】
例えば、特許文献5で述べられているように、競技者が走るとパラシュートがドラッグ及び抵抗を生むようにパラシュートを競技者に装着することにより、競技者の運動強度を上げてフィットネスを改善するようにしてもよい。しかしながら、身体トレーニングを視覚的トレーニングと組み合わせることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許第6,364,486号明細書
【文献】米国特許第5,812,239号明細書
【文献】国際公開第01/64005号パンフレット
【文献】米国特許第4,824,237号明細書
【文献】米国特許第5,472,394号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、手/目の協応、反応時間、及び視覚運動技能を向上させる改良型の装置及び方法を提供することを目的とする。より詳細には、本発明は、被験者が特定のスポーツを練習する際に上記能力を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の装置は、周囲バックグラウンドレベルの照射と発光トレーニング要素とによる空間の照射を含み、これらは共に、最適ではない条件下で感覚系を働かせるトレーニング環境を提供するためのものである。本発明は、視覚運動技能の学習及び/又は強化を可能にするように本装置を用いて行うトレーニング法を提供することを目的とする。
【0012】
本発明のトレーニング法により得られる強化は、相互に影響し合う複数の因子、例えば中枢(皮質)神経細胞突起の適応的可塑性、視覚運動学習、課題指向型の注意向上及び課題指向型注視、並びに/又は視覚追跡の向上及び予測的視覚処理の向上(すなわち、移動物体のその後の位置を予測する主要能力)に関し得る。本発明のトレーニング法の背後には2つの主要理論があり、これらの理論は本発明のトレーニング法の実施により影響を受けるプロセスを説明することができる。
【0013】
第1のタイプの理論は、「適応的可塑性」と称し得るものであり、暗所でのトレーニングが、刺激の移動が通常よりも遅いと認識される速度低下検出条件下で課題の実行に必要な一連の視覚運動行為を練習する機会を実行者に与えるというものである。したがって、課題の実行の成功のためには、刺激に対する視覚運動反応を促進しなければならない。その場合、劣化刺激条件下に置かれることで起こる適応的な学習及び視覚運動神経結合の機能的(可塑的)再組織化により、視覚運動技能及びパフォーマンスが通常の最適パフォーマンスレベルよりも向上する。したがって、遮断された(deprived)暗条件下での運動実行中の視覚運動に関する神経筋への運動指令パターン(visulmotor neuromuscular efferent patterns)は、通常条件下でのそれと(使用される筋肉が)同一だが加速され、この加速が通常の状況に転移されると実行者の反応時間が増えているという印象を与えることができる。このタイプの理論は、本発明のトレーニング法によりもたらされる視覚運動技能及びパフォーマンスの超強化(super-enhancement)だけでなく学習の加速も説明する。
【0014】
第2のタイプの理論は、「視覚的注意力(visual attentiveness)」と大まかに称し得るものであり、若年競技者のトレーニング及び視覚運動技能の習得を阻害する主要因子のうち1つが、注視、集中、及び錯乱情報の排除ができないことであるというものである。公開され他人に見られている、エラーをしている、また嘲笑されているという意識は全て、緊張及びパフォーマンスの低下の一因となり得る。暗所でのプレーは、視覚情報を減らし、重要な中核的要素への集中を促す。ぎこちない動き又はエラーに関する情報及び他人の表情反応に関する情報は、はるかに少ない。競技者は、他人から見えない又は隠されていると感じることができる。これにより、快適且つ安心な感覚を高めることができると共に競技者をより早く落ち着いた状態にすることができ、これはパフォーマンスを高めるはずであり、競技者を中核的要素及び生来の創造性に集中させることができる。すなわち、競技者は正しいプロ意識をより早く得ることができ、注目や仲間圧力にあまり気後れしなくなる。したがって、暗所でのプレーは、適応的可塑性及び視覚運動技能の最適化自体には影響を及ぼさないとしても、不安及び緊張を軽減し且つチームアイデンティティを強化することにより競技者が最適なパフォーマンスをより迅速に達成することには役立ち得る。この意味で、若年競技者は、本発明の装置により設定された条件下での暗所トレーニングにより、最適レベルに達する時間を短縮することができる。
【0015】
初級、熟練したアマチュア及びプロの競技者、並びに非競技者の全てが、本発明のトレーニング法を利用することができる。高い又は最適なパフォーマンスレベルに達していない初心者及び初級の競技者は、この技法を用いて視覚運動技能の習得を加速させることができる。すなわち、この技法を用いて、初級(未熟なアマチュア)の選手がパフォーマンスの向上又は最適化の達成に必要とする学習曲線を加速させる(時間を短縮する)ことができる。
【0016】
高い又は最適なパフォーマンスレベルに既に達している熟練したプロの競技者は、この技法を用いて視覚運動技能及びパフォーマンスを通常の最適パフォーマンスレベル以上に強化することができる。すなわち、この技法を用いて、我々の視覚運動系のニューロン特性を変えることにより超最適な次元又は動作範囲を学習曲線に加えることができる。
【0017】
本発明の一態様によれば、請求項1に記載の装置が提供される。
【0018】
本発明の別の態様によれば、請求項20に記載のトレーニング法が提供される。
【0019】
添付図面は、本開示の現在の例示的な実施形態を示し、上記の概要及び下記の詳細な説明と共に本開示の原理を単に例として説明する役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】クリケット選手群のトレーニング前及びトレーニング後のパフォーマンスを示すグラフである。
【
図2】クリケット選手群のトレーニング前及びトレーニング後のパフォーマンスを示す別のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の装置は、周囲バックグラウンドレベルの照射と、紫外(UV)線を照射されたコーティングの蛍光によるか、自発光照射源、例えばダイオードによるか、又は他の手段により生じる発光トレーニング要素、例えば球軌道又はマーカラインと、UV光源とによる、空間の照射を含む。UV光源は、300~400ナノメートル、340ナノメートル~380ナノメートル、370ナノメートル~375ナノメートル、又は好ましくは約370ナノメートルの波長の光を放射することができる。他の実施形態では、放射光は、300ナノメートル~420ナノメートルの波長を有することができ、紫又はバイオレットの可視光を含み得る。
【0022】
周囲バックグラウンドレベルは、眼の桿体光受容体も錐体光受容体も刺激するために必要であるが、錐体刺激のみが多くの課題にとってより重要であり得る。暗所視輝度レベルは、最も高感度の光受容体である桿体のみが働いているレベルである。明所視輝度レベルは、錐体のみが働いているレベルである。薄明視輝度レベルは、桿体及び錐体が適当な分光組成及び輝度レベルの視覚刺激に同時に反応することにより視覚が媒介されるレベルである。薄明視は、約10-3cd/m2(すなわち、0.001cd/m2)の輝度レベルで始まる。薄明視が終わる輝度レベルは、見える刺激の分光組成、それらのサイズ、及び網膜の場所に応じて大きく変わる。桿体は、30,000cd/m2又は2000~5000暗所視トロランド(scotopic trolands)の輝度レベルで完全に飽和する。桿体視は錐体視よりもはるかに遅いが、錐体視は、実質的に光レベルが高明所視レベルから低薄明視レベルに低下すると遅くなる。本発明のトレーニング技法は、特に桿体がない中心視に関しては、光レベルが錐体にとっては低い、したがって錐体視が遅いことに依存する。これらの低光レベルは、錐体のみが働く200cd/m2という高さであり得る。
【0023】
輝度レベル、特にバックグラウンド輝度レベルは、個人の視覚系を薄明視領域で機能させるのに十分なものであり得る。追加として又は代替として、輝度レベルは、個人の視覚系を低明所視領域で機能させるのに十分なものであり得る。
【0024】
いくつかの態様では、周囲バックグラウンドレベルに関して規定される輝度レベルは、約0.001cd/m2~約200cd/m2の範囲である。
【0025】
いくつかの態様では、周囲バックグラウンドレベルに関して規定される輝度レベルは、約0.001cd/m2~約100cd/m2の範囲である。
【0026】
いくつかの態様では、周囲バックグラウンドレベルに関して規定される輝度レベルは、約0.001cd/m2~約30cd/m2、又は1000~2000暗所視トロランドの範囲である。
【0027】
周囲バックグラウンドレベルに関して規定される輝度レベルは、約0.001cd/m2、すなわち薄明視の下限~約10cd/m2又は約100トロランドの上限の範囲であることが好ましい。上限が約200cd/m2又は約2500トロランドであることも好ましい。桿体光受容体は、飽和して視覚に大きく寄与しなくなるが、錐体視は、それでも通常の昼光レベルの場合よりもはるかに遅くなる。概して、本発明の装置で用いられる周囲バックグラウンド輝度レベルは、1.0cd/m2~200cd/m2又はより詳細には1.0cd/m2~10cd/m2とされ、これは、本発明の方法を実行できると考えられ且つ暗所でプレーする所望の心理状態をもたらすことができる最低レベルと考えられ得る。
【0028】
関心の物体、例えばトレーニング時の発光クリケットボール又はサッカーボールに関して規定された輝度レベルは、錐体で見るのに十分なほど明るくなければならないので、薄明視の下限よりも高くなければならない。すなわち、この輝度レベルは、約10-3cd/m2よりも高い、又は実質的にさらに高い可能性がある。明るすぎる場合、暗所でかなりの光散乱があり、これは周囲輝度レベルを不所望に上げることになる。
【0029】
5人制(室内)会場でサッカーをしている若年競技者の視覚運動技能を強化するために開発されたトレーニング手順で用いられる、本発明の装置の中核的要素の代表例を、表1に関して以下で説明する。
【0030】
この手順では、370ナノメートル付近のピークを有する340ナノメートル~380ナノメートルの無害な長波長UV放射線といくらかの紫の可視光とを放射する高UV放射(ブラックライト)源(240v AC、50Hzの電源を利用したSound Lab UV G007UV投光器)により、周囲照明を発生させた。4つのUV投光器を、均一な放射分布を提供するよう運動場の競技区域の上方に適宜位置決めした。UV光は、衣類、履物、及び引かれたマーカラインを含む蛍光物質を逆反射させて、桿体及び錐体の両方を刺激する可視光を放射させる。チーム選手は、蛍光の橙色、黄色、青色、又は緑色のビブスをつけたフルレングスの白ユニフォームを着用した。白色の履物(運動靴)を着用した。ゴールポスト及び境界線マーカは、通常光下では無色でUV光下では明るい青色の蛍光を発する蛍光青色塗料(ROSCO Invisible Blue #SPF5785)によるものとした。サッカーボールには発光ダイオード(LED)が埋め込まれ、その光は、ボールの表面の半分を構成する透光性の五角形を透過する(Huffy Twilight Lighted Soccer Ball 31002)。
【0031】
上述のように、本発明と共に用いられるライトは、300ナノメートル~420ナノメートルの範囲内の光を放射し得る。放射光はUV光であり得る。具体的には、放射UV光は、300ナノメートル~400ナノメートルの範囲内であり得る。このような放射光は紫又はバイオレットの可視光を含み得る。
【0032】
いくつかの実施形態では、本発明と共に用いられるライトは、340ナノメートル~380ナノメートルの範囲内の光を放射し得る。放射UV光は、実質的に紫又はバイオレットではない可視光を含み得る。
【0033】
本発明による装置は、ハウジング内に格納することができる。すなわち、装置自体は、装置の要素のうち1つ又は複数、代替的には全部を格納するハウジングを含み得る。ハウジングは、ドーム等の形態をとり得る。
【0034】
さらに、ハウジング上に放射吸収コーティングを含むことが好ましい。すなわち、ハウジングの内面に放射吸収コーティング、すなわちブラック又はスーパーブラックコーティングを含むことが好ましい。このように、コーティングは、ハウジング内で可視光の大部分又は実質的には全部を吸収する。このようなコーティングの1つは、Surrey NanoSystemsにより供給されるVantablack(登録商標)コーティングである。
【0035】
いくつかの実施形態は、装置は、個人が着用するモーションキャプチャスーツを含み得る。モーションキャプチャスーツにより、システムが位置マーカ又はフィーチャを3次元で追跡できることで、個人の動きに基づくデータを取り込むことが可能となる。このようなデータを用いて、システムは、本発明の装置及びトレーニング法の適用時の個人のパフォーマンスを測定することができる。
【0036】
さらに、装置は、本発明の装置の適用時の個人のパフォーマンスを視覚的に表示するためのLEDフロア、画面、モニタ等を含み得る。LEDフロア、画面、モニタ等は、ハウジング内に含まれてもよく、又はハウジングの外部に含まれてもよい。LEDフロア、外面、モニタ等は、モーションキャプチャスーツを用いてデータが取り込まれると個人の測定されたパフォーマンスを表示することができる。
【0037】
本発明によるトレーニング法は、選手が、
(i)強化効果を生むよう本発明の装置を用いて柔軟且つ可変の初期量のトレーニングを行うステップと(代表的な方式は週1時間~3時間を4週間~8週間)、
(ii)強化効果を確実に持続させるよう本発明の装置を用いて同じく柔軟且つ可変の追加量のトレーニングを行うステップと(代表的な方式は月2時間~4時間)、
(iii)特定の基準スポーツ課題を強化するようトレーニング方式を変更するステップと
を含む。
【実施例】
【0038】
本発明のトレーニング技法の有効性の主張を裏付けるエビデンスは多様であり、厳密な科学的且つ統計的なエビデンスを含む。
【0039】
種々の形態のエビデンスのうち、実行時のトレーニング技法の効果に関して規定された厳密な実験は、パフォーマンス強化技法を評価するのに最も適切な公認の手段である。実験的評価には2つの方向性があり、(1)このトレーニング技法が異なる代表的スポーツ(例えば、サッカー、クリケット、及び卓球)での視覚運動技能のパフォーマンスの強化に効果的であることを立証することを目的とした研究、及び(2)視覚運動技能の習得及び維持を平均して最も強化するフィジカルプラクティスを決定することを目的とした研究である。
【0040】
両方の実験群において、テストもトレーニングも一般化が望まれる実際の課題(すなわち、スポーツ活動におけるパフォーマンス)に密接に関連することが重要である。これは、長年定着している運動神経の特異性の原則(Henry、1968年)によれば、転移が起こるには視覚運動トレーニングが実際の課題に酷似していなければならないからである。高信頼性且つ高感度のパフォーマンス指標を与える評価法を選択することも重要である。単に主観的なパフォーマンス評定の代わりに、統計的に分析できる間隔及び比例尺度に基づく客観的な定量的スコアリングが好まれる。最後に、実験的エビデンスの利益が特定の実験からではなく主に一般的手法から得られることを指摘しておく。
【0041】
(1)具体的な視覚運動向上テスト
技能習得に関する実験は、初期のパフォーマンスレベルについて等化した後の、均一母集団から無作為に選択された複数の被験者群を用いる研究計画の変形である。これらの群は、(1)暗所での本発明による視覚トレーニング(実験群)、(2)通常(照明)環境での視覚トレーニング(対照群)であり、被験者が実験群と同じ数の実践トレーニングセッションに参加する最適な対照、及び(3)特にトレーニングしないもの(対照)である。トレーニングを受ける被験者の前(トレーニング前)及び後(トレーニング後)のパフォーマンスを、同様のトレーニングを受けた又はトレーニングを受けていない対照群の被験者のパフォーマンスと比較して、施された実践条件の結果として彼らのパフォーマンススコアが異なるか否かを判断する。本発明から得られる技能強化の3つの科学的研究を、若年サッカー選手及び2つのクリケット選手群という3つの異なる若年競技者群で行った。3つの研究全てで、本発明のトレーニング手順が実験群に有益であり、実験群が示すパフォーマンス向上は目覚ましい又は顕著なものであった。
【0042】
1.若年サッカー選手
サッカー技能測定・評定システムであるSupaskills(登録商標)という名称で販売されているJohnston SUPAskills Testとして知られるトレーニング前評価に基づき、年齢8歳~9歳の若年サッカー選手20人を実験及び対照(通常)トレーニング条件に無作為に割り当てた(http://www.supaskills.com参照)。SUPAskills(登録商標)は、チーム選手の評定及び若年選手の評価の手段として国際サッカー連盟(FIFA)及び英国プレミアリーグに公認されている。SUPAskills(登録商標)評価技法は、サッカーに関連するあらゆる異なる技能の100種の標準化された測定を含む。リフティング、ドリブル、パス、スワービング、ヘディング、ボレー、ペナルティ、セットプレー(dead ball)、ターンシュート、及びチップを含む10通りの所定の反復練習について、距離、速度、時間、及び正確さが評価される。各練習のスコアのセットを合計して、最終スコア及びSTATS(技能及び時間+正確さ=集計&統計(Skills and Time + Accuracy = Total & Statistics))を得る。
【0043】
実験群及び対照群のそれぞれを、10人の選手で構成した。トレーニング中、実験条件及び対照条件の両方で、選手を各5人の2つの対抗するチームに分けた(5人制として知られる)。対照群は、選手の上達がトレーニングプロトコル自体の結果ではなく本発明のトレーニング条件の結果であることを立証するために必須であった。
【0044】
選手のトレーニングは、週3時間(3日に分ける)を4週間行った。トレーニングは、5人制室内会場で行われた。トレーニングの開始前及び終了後に、個々の選手のパフォーマンスをSUPAskills(登録商標)評価により評価した。
【0045】
下記の表1は、5人制室内会場でサッカーをする若年競技者の視覚運動技能を強化するために開発されたトレーニング手順で用いる本発明の装置の中核的要素の代表例を示す。実験群及び対照群の両方のサッカートレーニングモデルで用いる中核的要素のそれぞれに関するcd/m2単位の輝度値を、下記の表1に示す。
【0046】
【0047】
実験群では、370ナノメートル付近のピークを有する340ナノメートル~380ナノメートルの範囲内の無害な長波長UV放射線といくらかの紫領域の可視光とを放射する高UV放射(ブラックライト)源により、周囲照明を発生させ、これを発生させるのは240v AC、50Hzの電源を利用したSound Lab UV G007UV投光器とした。4つのUV投光器を、均一な放射分布を提供するよう運動場の競技区域の上方に適宜位置決めした。UV光は、衣類、履物、及び引かれたマーカラインを含む蛍光物質を逆反射させて、桿体及び錐体の両方を刺激する可視光を放射させる。チーム選手は、蛍光の橙色、黄色、青色、又は緑色のビブスをつけたフルレングスの白ユニフォームを着用した。ビブスには、チームを識別しやすいように電池式LED光を補った。運動靴の形態の白色の履物を着用した。ゴールポスト及び境界線マーカは、通常光下では無色でUV光を受けると明るい青色の蛍光を発する蛍光青色塗料(ROSCO Invisible Blue 5785)によるものとした。サッカーボールには発光ダイオード(LED)が埋め込まれ、その光は、ボールの表面の半分を構成する透光性の五角形を透過する(Huffy Twilight Lighted Soccer Ball 31002)。
【0048】
4週間のトレーニング期間の開始前及び終了後に評価された個々の選手のパフォーマンスを、二元配置分散分析統計モデル(ANOVA)により比較した。これは、トレーニングセッションと対照(すなわちトレーニング無し)セッションとの間の統計的有意性のロバスト検定である。
【0049】
ANOVAモデルはF比を利用し、F比が通常は5%又は1%レベルで有意であるような大きさである場合、その差が専ら又は単に確率的変動により生じるとは言えないことを示す。その代わりに、F比が有意であれば、その差は実験又はトレーニング条件と通常又は対照条件との間の真の有意差によると言える。換言すれば、F比が有意である場合、暗所でのトレーニングはパフォーマンスに有益な好影響を及ぼすとみなすことができる。さらにこれは、実験群及び対照群の平均が相互に統計的に異なるか否かを評価するスチューデントのt検定と組み合わせられる。有意性はP<0.05に設定した。実験群と対照群との間の差は、統計的に有意ではなかったが、トレーニング後SUPAskills(登録商標)評価技法での評価では実験群が大きな上達を示す傾向にあった。有意な効果の欠如は、若年選手の若い年齢及びフォーマンスの日々の変動によりある程度説明がつく。
【0050】
2.クリケット選手
大学生年齢のクリケット選手を対象とした第1の研究では、8人のクリケット選手が本発明の装置及び方法を用いたトレーニングを受けた。これは、本発明の装置により設定された光条件下でクリケットボウリングマシン(bowling machine:投球機)でのバッティング実践を伴った。トレーニングは8週間にわたって続けられ、週2セッションで構成され、各セッションは2時間に及んだ(合計16セッション)。8人の選手全員がバッティングの上達を示した。彼らのバッティングは平均で33%上達し、パフォーマンス強化は暗所での視覚トレーニングによるものであった。
【0051】
8週間のトレーニング期間前、期間中、及び期間直後に、実験群のパフォーマンス指標を調べた。各クリケット選手のバッティングパフォーマンスを監視し、各選手が打った球の総数を記録した。結果を
図1に示し、丸及び点線はトレーニング前のバッティングパフォーマンスを示し、黒丸及び実線はトレーニング後のバッティングパフォーマンスを示す。
【0052】
球は、クリケットボウリングマシンで74mph~90mphの範囲内の速度で各クリケット選手に投げられた。トレーニング前ベースライン(丸及び点線)に対して、全ての選手が自身の総打球数に関してバッティングパフォーマンスの非常に大きな向上を示した。
図1に示す結果の統計を、下記の表2で見ることができる。図示の結果は統計的有意性が高い。
【0053】
【0054】
図2を参照すると、全ての選手が、所定の球数を打つことができた最高速度に関しても上達を示した。この場合の所定の球数は3球以上とした。
図2に示す結果の統計を、下記の表3で見ることができる。この場合も、図示の結果は統計的有意性が高い。
【0055】
【0056】
しかしながら、これらのデータを視覚運動トレーニングから得られるパフォーマンス強化として解釈するのにはいくつかの問題がある。無作為割当を用いておらず、対照群をテストしていない。
【0057】
大学クリケット選手を対象とした第2の研究では、実験計画のいくつかの重要な改善を導入した。選手を実験群及び対照群に分けた。ホーソン効果を回避するために、暗所でのトレーニングと明所でのトレーニングとで異ならせる以外に、他の全因子を一定に保った(例えば、練習量、指示、テスト環境及び条件)。
【0058】
本発明のトレーニング法は、異なるタイプの運動、スポーツ、又は活動に用いることができる。娯楽的活動及びアマチュア又はプロスポーツに携わる競技者の視覚運動技能(例えば、目と手又は目と足)の速度及び正確さ(注意、協応、及び反応時間)の訓練及び強化に主にこれを用いることができる。
【0059】
強化は単一のスポーツ(例えば、フットボール/サッカー、クリケット、卓球)にも活動にも制限されず、高速動作視覚運動パフォーマンス(目と手、目と足の協応等)を伴う全ての視覚運動活動の強化に及ぶ。実際には、強化は、素早い反射神経及び反応時間を要するいかなるスポーツにも適用することができる。さらに、本発明のトレーニング法は、強力且つロバストなクロスオーバー効果が可能である。すなわち、1タイプのスポーツ(例えば卓球)のトレーニングが、他のスポーツ(例えばテニス)の上達をもたらし得る。本トレーニング法は、スポーツ外傷後の早期回復(リハビリテーション)に、且つ視覚障害者、身体障害者、及び/又は精神障害者の学習にも適用することができる。
【0060】
したがって、上記実施形態の記載が単なる例であり何ら限定的な意味はないこと、及び添付の特許請求の範囲に記載の本発明の範囲から逸脱することなく種々の変更及び修正が可能であることが、当業者には理解されよう。