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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】サケの精巣からのPDRNの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07H 21/04 20060101AFI20230303BHJP
【FI】
C07H21/04 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021133970
(22)【出願日】2021-08-19
(65)【公開番号】P2022044559
(43)【公開日】2022-03-17
【審査請求日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】10-2020-0113706
(32)【優先日】2020-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521367558
【氏名又は名称】バイオ メディ ファーム カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】BIO MEDI PHARM CO.LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】クォン オ ナム
(72)【発明者】
【氏名】キム テ-ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム ソン-ヒ
【審査官】土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-245394(JP,A)
【文献】米国特許第04929542(US,A)
【文献】中国特許出願公開第107099501(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110747194(CN,A)
【文献】特開2004-196701(JP,A)
【文献】韓国公開特許第2014-0019609(KR,A)
【文献】特開2015-146760(JP,A)
【文献】HIGAKI Shogo, et. al,"In vitro differentiation of fertile sperm from cryopreserved spermatogonia of the endangered endemic cyprinid honmoroko (Gnathopogon caerulescens)",Scientific Reports,2017年02月17日,Vol.7,pp.1-14
【文献】三浦猛,魚類精子形成の分子制御機構,日本水産学会誌,1996年07月15日,62巻4号,pp.547-550
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H 21/04
C12N
C12P
A01K
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)河口から川の上流10kmまでの河川サケ科魚類の精巣から精液と未成熟な精巣部分とを分離するステップと、
2)前記未成熟な精巣部分を磨砕及び人工精漿液下で希釈するステップと、
3)前記精巣の細胞を人為的に精子に性成熟させるために、前記精巣の希釈液にhCG(human chorionic gonadotropin;ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン)をg精巣当たり25~200IUで処理するステップと、
4)10分~2時間経過後、hCG処理した精巣の希釈液を遠心分離して、活性を有することができる精子を回収するステップと、
5)前記回収された精子からPDRN(Poly Deoxy Ribo Nucleotide)を抽出するステップと、を含み、
前記1)ステップの前記未成熟な精巣は、成熟の程度が異なる部分を区分して分離することによって、0.7%~1.3%の精子活性度を示す、成熟度が相対的に高い部位であることを特徴とする、サケの精巣からのPDRNの製造方法。
【請求項2】
前記サケ科魚類は、サケ亜科、カワヒメマス亜科及びシロマス亜科からなる群から選択される亜科に属する魚種であることを特徴とする、請求項1に記載のPDRNの製造方法。
【請求項3】
前記4)ステップの時間経過は10分~1時間であることを特徴とする、請求項1に記載のPDRNの製造方法。
【請求項4】
前記未成熟な精巣は、精原細胞又は精細胞を含むことを特徴とする、請求項1に記載のPDRNの製造方法。
【請求項5】
前記5)ステップの前に精子を含む懸濁液に淡水を入れ、精子が有したATPを消尽させてPDRNの純度を高めるステップをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載のPDRNの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サケの精巣からのPDRNの製造方法に関し、より詳細には、従来は他の用途に用いられていた未成熟な精巣にホルモンを処理することによってPDRNを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PDRN(Polydeoxyribonucleotide)は、生物体内の組織再生(anagenesis)活性物質に存在し、50個~2000個の間の塩基対で構成された鎖状のデオキシリボヌクレオチド重合体(deoxyribonucleotide polymers)で結合してなり、細胞成長活性剤であって、靭帯、腱、皮膚などの我々の体内組織の再生及び炎症の緩和に特別な効果を奏している。
【0003】
PDRNは、ヒトの胎盤中に極少量入っている物質であり、倫理的な問題と医薬品の生産性などの困難があるので、魚類の中のPDRNが代案として提示された。核酸の含有量において、マス、サケの精液及び精巣は量的に優れてもいるが、これよりさらに重要なのは質的に優れていることである。DNAは、五炭糖、リン酸及び4種類の塩基(アデニン、グアニン、チミン、シトシン)が含まれたヌクレオチドで構成されるが、マス及びサケは、この組み合わせのバランスがヒトのものと96.5%一致する。このような類似性は、捨てられる核酸なしで全て使用できるという点に大きな意味がある。
【0004】
前記PDRNは、欧州などで医薬品として許可されており、傷の治癒及び美容に用いられている。過去では、PDRNは、主にサケ又はマスから精液の分離を経て、DNAの低分子量化過程を通じて製造されるものであり、このようなPDRNを取得するのに用いられたDNA分離法は、これまでに技術的に発展してきており、哺乳類及びその他の種に応用されてきた。具体的にいうと、過去では、魚類の組織からDNAを分離するために、フェノール及びクロロホルムを用いていた。
【0005】
薬理作用に優れた様々な治療剤あるいは化粧品の素材として用いられているサケ科の魚類のDNA切片(fragment)として知られているポリデオキシリボヌクレオチド(Poly Deoxy Ribo Nucleotide;PDRN)は、精子を含んでいる液状の精液から得ている。
【0006】
高純度のDNA切片であるPDRNを得るために、薬理用に精液(sperm fluidまたはseminal fluid)を遠心分離して緩衝溶液で洗浄した後、エタノール(ethanol)あるいは酢酸ナトリウム(sodium acetate)とイソプロパノール(Isopropanol)との混合物を用いて抽出する方法は、多数の特許と製造メーカで用いている基本的な抽出方法に対する基本原理である。
【0007】
また、同じ方法で、精巣(testicular)には、一般の配偶子形成(gametogenesis)において精液に多量含まれている精子(sperm)となる精細胞(spermatid)、精母細胞(Spermatocyte)、精原細胞(spermatogonium)が全て含まれており、特に、これらの生殖細胞(germ cell)に栄養を供給するための栄養細胞(nurse cell)を、生殖細胞よりも多く含有している。
【0008】
一般の魚類の精巣は、図1に示すように、体腔の脊椎方向の体腔壁に付いて成熟し、性成熟過程で生殖細胞が大きくなるにつれ、生殖巣の熟度指数(Gonadal Somatic Index、GSI)が高くなり、雌の場合に20~50%まで増加するが、雄の場合には1~5%程度で、雄から確保される精巣の量は多くない。
【0009】
反面、精液からPDRNを抽出するときは、遠心分離を行い、精子のみを濃縮した後、この集められた精子(あるいは精虫)のみを持って有機溶媒で分離させるが、この精子の構成は、本発明で得ようとするDNA、すなわち、PDRNである遺伝体と共に、尾を動かすことができるようにするATPを含有する推進体と、卵膜を貫通できるようにする先体(Acrosome)を有している。
【0010】
結果的に、精液及び精巣からそれぞれ有機溶媒で抽出した物質内のPDRNの含量は、根本的に差があり、精液から高い純度のPDRNを得ることができるが、栄養細胞などを含有している精巣から抽出する場合、有機溶媒に溶解される様々な物質が共に抽出されざるを得ない。
【0011】
中国特許(特許文献1)において、PDRNは、精液として表現される“seminal fluid”から確保しており、韓国の拒絶された特許(特許文献2)では、精巣を凍結乾燥して有機溶媒で抽出してPDRNを確保するとされているが、精液と精巣から得たPDRNにおいて純度の差があることは認識しており、高純度のPDRNを得るために精子(精液)から抽出することが最も効率が良いとしている。
【0012】
したがって、基本的な抽出方法は、洗浄及び有機溶媒で抽出するものと確立されているため、最近の特許と文献では、PDRNの抽出方法ではなく、PDRNの活用法、すなわち、薬理作用あるいは化粧品関連の効果に関する特許が登録され、論文が出されている。
【0013】
精巣で精子が作られると、精液が集められるが、開腹を行う場合、まだ未成熟な精巣は集められて凍結乾燥などの過程を経るようになるが、精巣の成熟の程度に応じて精漿液に希釈してホルモン(hCG)処理して遥かに多くの精子(精液)を得ることができ、一匹のサケ科魚類から得られる精液を100~200倍さらに多く確保することができる。
【0014】
本発明に使用される精漿液は、Rosengrave P,Taylor H,Montgomerie R,Metcalf V,McBride K and Gemmell NJ,2008.Chemical composition of seminal and ovarian fluids of chinook salmon(Oncorhynchus tshawytscha) and their effects on sperm motility traits.CBP A 152,123-129に記載された精液の無機質の濃度に関する情報、及びBartlett MJ,Steeves TE,Gemmell NJ and Rosengrave PC,2017.Sperm competition risk drives rapid ejaculate adjectments mediated by seminal fluid.eLIFE6:e28811.に記載された人工精漿液の情報に基づいて定められた(80mMのNaCl、40mMのKCl、1mMのCaCl2、20mMのTris-HCl)。
【0015】
中国特許で言及しているPDRNの原料であるseminal fluidは、サケ科魚類の精液を意味するもので、精巣に基づいて抽出することを意味するものではなかった。
【0016】
また、欧州特許(特許文献3)は、胎盤をベースとして抽出するものとして方法が確立されているが、他の動物の他の組織にも適用可能であることを言及しているだけで、事例は紹介していない。しかし、本発明では、生きている或いは新鮮なサケの精巣の採取及び血流洗浄から始まるため、本発明で得ようとする精巣にて活力を有する精子を作り、その精子からPDRNを得る方法とは根本的に異なる。
【0017】
そこで、本発明者らは、従来から広く活用されてきた精液や成熟した精巣ではなく、未成熟な精巣からPDRNを抽出するために努力する中で、様々なホルモンのうちhCG(human chorionic gonadotropin)を処理する場合、未成熟な精巣で精子に成熟させて高純度のPDRNを抽出できることを確認することによって本発明を完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】中国特許出願公開第107287186号明細書
【文献】韓国公開特許第10-2019-0139633号公報
【文献】欧州特許第0226254号明細書
【非特許文献】
【0019】
【文献】キム・ヒョウォン、キム・ジョンヒョン、キム・デグン、ジョン・ミンファン、チ・スンチョル、ヤン・サングン、アン・チョルミン、ミョン・ジョンイン、キム・デジュン、2018、「hCGの濃度及び投与間隔による養殖産の雄ウナギ(Anguilla japonica)の性成熟誘導効果」、水産海洋教育研究、30,1578-1586
【文献】Ohta H.およびTanaka H.、1997、「Relationship between serum levels of human chorionic gonadotropin(hCG) and 11-ketotestosterone after a single injection of hCG and induced maturity in the male Japanese eel」、Anguilla japonica.Aquaculture、153,123-134
【文献】キム・ダルヨン、キム・ソンゴン、キム・トンス、2016、「コウライケツギョ配合飼料馴致研究-コウライケツギョ(1年モノ)配合飼料馴致個体の成長度試験。in 2016年度の始業研究事業報告書」、京畿道海洋水産資源研究所、84-91
【文献】順天郷大学校、2011、「絶滅危機の淡水魚類の人工増殖マニュアル」、環境部、pp93
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、精子から大量のPDRNを得るために、精巣にhCGを処理することによって、人工的に精子を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、1)サケ科魚類の精巣から精液と未成熟な精巣部分とを分離するステップと;2)前記未成熟な精巣部分をやんわりと磨砕及び人工精漿液下で希釈するステップと;3)前記精巣の細胞を人為的に精子に性成熟させるために、前記精巣の希釈液にhCG(human chorionic gonadotropin;ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン)を一定の濃度で処理するステップと;4)一定時間経過後、hCG処理した精巣の希釈液を遠心分離して、活性を有することができる精子を回収するステップと;5)前記回収された精子からPDRN(Poly Deoxy Ribo Nucleotide)を抽出するステップと;を含むサケの精巣からの高純度PDRNの抽出方法を提供する。
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の一態様のPDRNの抽出方法において、前記サケ科魚類は、サケ亜科、カワヒメマス亜科及びシロマス亜科からなる群から選択される亜科に属する魚種であることが好ましく、前記サケ科魚類は、河口から川の上流10kmまでの河川サケであることが好ましい。
【0023】
また、本発明の一態様のPDRNの抽出方法において、前記1)ステップにおいて、前記未成熟な精巣は、成熟の程度が異なる部分を区分して分離することによって、0.7%以上の精子活性度を示す、成熟度が相対的に高い部位であることが好ましく、前記3)ステップにおいて、前記hCG処理は、精巣1g当たり25~200IUを使用することが好ましい。
【0024】
また、本発明の一態様のPDRNの抽出方法において、前記4)ステップの一定時間経過は10分~1時間であることが好ましく、前記未成熟な精巣は、精原細胞又は精細胞を含むことが好ましく、前記5)ステップの前に精子を含む懸濁液に淡水を入れ、精子が有したATPを消尽させてPDRNの純度を高めるステップをさらに含むことが好ましい。
【0025】
hCG(human chorionic gonadotropin)は、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモンであって、妊婦の尿に混じって出てくるホルモンである。
コイ、フナあるいは金魚は、年中12℃以下で飼育する場合、いつでも、受精卵が必要とする12~18時間以前にhCG500IU/kgあるいは500IU/個体を注射して、注射した翌日の夜明けから朝に自然に受精卵を得ることができるように雌と雄の生殖巣が成熟することを確認した。また、ウナギの場合、雌は、サケ脳下垂体抽出物(salmon pituitary extract)を注射して配偶子(卵)を性成熟させるが、雄の場合、hCGを500IU/kgの濃度で毎週注射して、3ヶ月で成熟した精子を得ることができ、雌の成熟した成熟卵との混合で受精卵を得ることができる。
【0026】
本発明の一実施例は、精巣から精液と未成熟な精巣部分とを区分し、未成熟な精巣部分において成熟の程度が異なる部分を区分して分離させた後、成熟度が相対的に高い部位を集めて、人工精漿液下でやんわりと磨砕/希釈し、希釈された活性度が高い部位の精巣の希釈液にhCGを一定の濃度で処理し、10~30分経過後、遠心分離して、活性を有することができる精子を回収してPDRNの原料として使用することである。
【0027】
すなわち、本発明は、新鮮なサケ科魚類の精巣で活性を有する精子を人為的に作って高純度のPDRNを製造することに関する。新鮮な精巣は成熟度が部位別に異なるが、生殖孔に近いほど、hCGによる成熟で精原細胞1個から減数分裂によって精細胞と精子が4個まで作られるため、使用された精巣の総重量(wet weight)を超えて収率が得られるので、総確保率が増加する。結果的に、沈殿物を除いて精細胞から精子に変わった状態の乾燥重量が、hCG処理を施したときに1.6倍増加し、最終82%以上のPDRN抽出物が、hCG処理された処理区において、未処理区に比べて、純粋PDRNを基準として2.3倍~3.9倍まで多く得ることができる。そして、一匹の雄から一度に採取可能な精液から得られた純粋PDRNを基準として、平均40.1倍多い高純度のPDRNを確保することができる。また、成熟した精子に環境水を接触させることで、ATPの消尽によるさらに高い高純度のPDRNを作り出すことができる。
【発明の効果】
【0028】
サケ科魚類の一匹の雄から得られる精液は約30~50mLで、現在、韓国では、受精作業に使用して残った精液を使用するため、10~20mL程度しか得られないことが限界である。
【0029】
しかし、上述したように、本発明の一態様は、精巣から高純度のPDRNを抽出する方法であり、既存のサケ科魚類から自然に作られて一度に採取可能な20mL(最大50mL)の精子(精液)から、純度の高いPDRNの原料を100倍~200倍以上確保することができる。すなわち、活性が高い精液から得ることができるPDRNよりも非常に高い高濃度で、高純度のPDRNを精巣から得ることができる。本発明に係るPDRNの製造方法によれば、マス又はサケの精液及び精巣から高収率でPDRNを製造することができ、それのみならず、従来の他社の方法よりも、コスト及び手順の面において経済的な方法でPDRNを抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】一般的な魚類の体腔内の未成熟生殖巣(雌雄共通)の空間的位置を示す断面図(横断面及び縦断面)である。
図2】一般的な魚類の体腔内の未成熟生殖巣(雌雄共通)の縦断面の拡大図である。
図3】一般的な魚類の精液中の精子の様子を示す断面図(左側)及び顕微鏡写真(右側)である。
図4】サケ科魚類の成熟した雄の精巣の位置別の等級の区分を示した簡略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を各ステップ別に説明する。
第1ステップ:精液と未成熟な精巣部分とを分離
サケ科魚類の精巣から精液と未成熟な精巣部分とを分離する。図4のD部分から流れる精液を集めて原料として使用し、C部分を、D部位から精液を全て抜き取った後、所定の位置で切断する。
【0032】
図4によれば、精巣は、精液が出る部分Dと、その残りの未成熟な精巣A,B,Cとに分けられる。特に、ホルモン(hCG)の未処理時に、A及びB部位では精子の活性がほとんど現れず、Cの場合にも1%前後の低い活性を示す。成熟した精液Dでは、100%の精子活性を示す。
【0033】
第2ステップ:未成熟な精巣の磨砕及び希釈
未成熟な精巣(図4のA、B、C)を磨砕し、下記の精漿液(seminal plasma)を用いて希釈する。磨砕の過程は、精巣をはさみで細かく切ると、精巣の精細胞などを包んでいる膜を剥ぎ取ることができるが、この膜を剥ぎ取った後、手袋をはめた手で優しく潰す方法を用いる。
【0034】
このとき、精漿液の組成は、80mMのNaCl、40mMのKCl、1mMのCaCl、20mMのTris-HClからなり、具体的には、ナトリウム(Na)159.26±8.84mM、カリウム(K)33.72±2.01mM、塩素(chlorine;Cl)133.04±5.96mM、カルシウム(Ca)1.68±0.2mM、及びマグネシウム(Mg)0.988±0.13mMを含有する(Hatef Aら、2007、Aquaculture Research、38,1175-1181参照)。有機成分は、総タンパク質0.75±0.14mg・100mL-1、コレステロール2.86±0.58mg・L-1、及びブドウ糖3.81±1.04mM・L-1である。
【0035】
第3ステップ:hCGの処理
hCGは、human chorionic gonadotropinの略字であって、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン25~200IU/gで10分~1時間処理して、未成熟な精巣の細胞を人為的に精子に性成熟させる。具体的には、前記潰された精巣に精漿液を入れ、希釈した後、インペラが装着された低速撹拌機を用いてゆっくり撹拌しながら、hCGを定量処理する。ただし、インペラの速度が速いと、細胞が破壊されてしまい、PDRNとして不純物が増加する可能性が高くなるので注意しなければならない。
【0036】
hCG処理した場合、精巣のA部位は3%前後に向上するが、B部位は35%、C部位は89%の高い活性を示すので、全重量の45%に該当するC部位の精巣を用いて成熟した精子を作り出せば、不純物の少ない高純度のPDRNを作り出すことができる(図4、表1参照)。
【0037】
第4ステップ:遠心分離
hCG処理した精巣希釈液を1,000~10,000RCF(Relative Centrifugal Force)の速度で20分以上遠心分離して、沈殿した、活性を有し得る精子を回収する。
【0038】
第5ステップ:PDRNの抽出
前記回収された精子から通常の方法でPDRN(PolyDeoxyRiboNucleotide)を抽出する。この抽出過程は、様々な方法が可能であるので、省略する。本発明の特徴は、PDRNの抽出方法ではなく、前記に記載したように、高純度のPDRNを抽出できる人工精液の製造にあるためである。
【0039】
PDRNの抽出過程は、例えば、精子を溶解バッファー(Lysis Buffer)で処理した後、冷凍させて粉末化し、遠心分離でDNAを分離した後、タンパク質などを除去してDNAを浄化した後、遠心分離してDNAを沈殿させ、これを洗浄してDNAを精製する。最終的に、1.Restriction digest、2.The transmission of high-frequency acoustic energy、3.Neublization forces、4.Sonication、5.Needle shearingなどのうちの一つの方法でDNAを分節化(fragmentation)する。
【実施例
【0040】
以下、本発明に係る好ましい実施例をより具体的に提示して詳細に説明する。しかし、以下の実施例は、この技術分野における通常の知識を有する者に本発明が十分に理解されるように提供されるものであって、様々な他の形態に変形可能であり、前記のような実施例によって本発明が限定されるものではない。
【0041】
<実施例1>hCG処理の有無によるサケの精巣の部位別の精子の活性度(%)
本発明では、雄サケから、精液が出るD部分(図4参照)を除いて未成熟状態の精巣を採取した。ホルモン(hCG)の未処理時に、AとB部位では精子の活性がほとんど現れず、Cの場合にも1%前後の低い活性を示し、成熟した精液では100%の精子活性を示した。しかし、hCG処理した場合、精巣のA部位は3%前後に向上するが、B部位は35%、C部位は89%の高い活性を示しており、全重量の45%に該当するC部位の精巣を用いて成熟した精子を作り出せば、不純物の少ない高純度のPDRNを作り出すことができるものと判断した(図4、表1)。
【0042】
【表1】
【0043】
10月に河川で捕獲された雄の精巣のC部位に3種類のホルモンを処理したとき、LhRH(黄体形成ホルモン分泌ホルモン;luteinizing hormone-releasing hormone)及びDHPにおいて、それぞれ5%と4%の低い精子活性を示したが、hCG処理された実験区では80%の高い精子活性を示し、不純物の少ない精液の製造が可能になった(表2)。
【0044】
【表2】
【0045】
海面サケの場合には、hCG処理を施しても、ほとんど精子活性を示しておらず(表3)、9~12月の間に河川に上がってきた河川サケを対象として精巣のC部位にhCG処理を施した場合、河川サケは成熟個体であるため、精子活性の差は大きくなかった(表4)。そして、河川の河口堰からの距離による精子の活性は、河口堰(距離0m)で捕獲された雄サケの場合に65%、1kmの地点で捕獲された雄の場合に85%の精子活性を示したが、2km及び3kmの地点で捕獲された雄サケの場合に97~98%の高い精子活性を示した(表5)。
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
【表5】
【0049】
前記河川サケの捕獲河口との距離は、河口から河川に上がってきた距離を意味する。すなわち、海の海面サケにはhCGがほとんど作用しないが、サケが河川に上がってきたとすれば、性成熟が始まったものであるため、hCGが作用し始める。前記表5によれば、海の近くよりも川の上流側に行くほど、hCGがよく作用することを確認することができる。
【0050】
<実施例2>hCGの処理条件によるサケの精巣の“C”部位で作られた精子の活性度(%)
河川に上がってきた雄サケの精巣のC部位を緩衝溶液で希釈した後、hCGの処理濃度による精子の活性は、処理しなかった場合に2%と非常に低く、50IU/g精巣の処理濃度まで継続して精子活性が増加し、50~200IU/g精巣の処理濃度で82%以上の精子活性を示した(表6)。
【0051】
【表6】
【0052】
表6のような実験環境で、hCGの処理濃度別の経過時間による精子の活力を比較した。処理しなかった対照区では、活力の差がなく、25IU/g精巣の処理区では、最大73%まで処理1時間経過時に増加し、50IU/g精巣の処理区では、処理10分頃から85%の高い精子活性を示し、20~30分経過時には94%以上の高い精子活性を示した。しかし、60分経過時には83%に減少し、120分経過時には32%に急激に低くなる精子活性を示した。そして、100IU/g精巣の処理区では30分後、200IU/g精巣の処理区では処理20分経過後に、高くなった精子の活力が低くなることが確認され、50~200IU/g精巣の処理区において、処理後20分を超える処理時間では、精子の活性がむしろ低下することが確認された(表7)。
【0053】
【表7】
【0054】
<実施例3>精巣の“C”部位のhCGの処理条件によるPDRN抽出収率(%)
本発明に用いられた精巣は、河川に上がってきた雄サケの精巣のC部位を10gずつ用い、比較のために、正常に採取された精液30mLを用いた(表8)。そして、50IU/g及び100IU/g精巣の濃度でhCG処理した場合、精巣全体と上層液80%以上を使用した結果とに区分して導出した。
【0055】
処理しなかった場合、乾燥重量は5.10gで、hCGの処理区に比べて低い乾燥重量を示し、精液を用いた場合の2.89gよりも高かった。これは、処理しない場合に精液よりも重量が重いのは、栄養細胞の重量が重いためであり、hCGの処理区で乾燥重量が高いのは、hCGの処理によって精原細胞が精細胞に減数分裂することによって、細胞の数が増加したためと判断される。そして、hCGの処理区において上層液の乾燥重量が低いのは、栄養細胞などの精細胞に分化しない成分が20%程度存在するので、上層液において低い乾燥重量が示されるものと判断される。
【0056】
そして、これらのそれぞれの抽出効率は、未処理及びhCG処理した全精巣を使用した場合にそれぞれ10.2%と14.7%前後を示し、上層液のみを使用した場合に7.0~7.2%の抽出効率を示し、100%精液を使用した場合に6.1%の抽出効率を示した。これらのPDRNの含量(又は純度)は、精巣10gを使用した場合に、未処理区で10%、hCG処理し、全体を使用した場合に45~52%であった。しかし、上層液と精液を使用したものは、いずれも92%以上のPDRN純度を示すことが確認された。
【0057】
これに基づいて、雄サケ1匹から得ることができるPDRNの量を計算した結果、1匹の雄の精液全体を使用した場合に0.26gのPDRNを得ることができ、未処理の精巣では0.16gを得たが、hCG処理区では、精巣を使用した場合に5.77~7.63gのPDRNを得、上層液を使用した場合、hCGの濃度に関係なく10.51g以上のPDRNを得た。このPDRNの確保率は、精液を介して確保したものと比較したとき、未処理の場合は0.6倍、50IU処理した全精巣を用いた場合に21.8倍であったが、hCG処理後に上層液を選択して使用した場合に39.7~40.1倍のPDRNの確保率を示した。
【0058】
また、ここで得られた上層液は、精子の比率が非常に高い懸濁液であるため、環境水(淡水)に露出させて精子を動くようにして、精子の推進体にあるATPを消尽させる効果があるため、より高い純度のPDRNを得ることができると判断される。しかし、この過程で活性を有さない精子の場合、沈殿物として除去されるため、効率の面で考慮する必要があると判断される。しかし、精子から抽出したPDRNの含量が92%以上であるため、向上の効果は大きくないと判断される。
【0059】
【表8】
【0060】
以上、好ましい実施例を挙げて本発明を詳細に説明したが、本発明は、前記の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で当分野における通常の知識を有する者によって様々な変形が可能である。
図1
図2
図3
図4