(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】負極構造体、及び金属空気電池
(51)【国際特許分類】
H01M 12/06 20060101AFI20230303BHJP
H01M 4/06 20060101ALI20230303BHJP
H01M 50/534 20210101ALI20230303BHJP
H01M 50/536 20210101ALN20230303BHJP
H01M 6/32 20060101ALN20230303BHJP
【FI】
H01M12/06 D
H01M12/06 J
H01M4/06 Q
H01M50/534
H01M50/536
H01M6/32 A
(21)【出願番号】P 2019095890
(22)【出願日】2019-05-22
【審査請求日】2022-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000005175
【氏名又は名称】藤倉コンポジット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100121049
【氏名又は名称】三輪 正義
(72)【発明者】
【氏名】雨森 由佳
(72)【発明者】
【氏名】瀬下 真弘
(72)【発明者】
【氏名】高橋 昌樹
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-149530(JP,A)
【文献】特開2018-195478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M12/00-16/00
H01M 4/00- 4/62
H01M 6/24- 6/52
H01M50/50-50/598
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属空気電池用の負極構造体であって、
負極と、タブと、前記負極と前記タブとを固定するリベットと、を有し、
前記タブの表面には、メッキ層が形成されており、
前記リベットは、前記メッキ層よりも低電位な材質で形成されており、
前記リベットと前記メッキ層との自然電位差は、絶対値で、0.1V以上0.5V以下であることを特徴とする負極構造体。
【請求項2】
前記負極は、前記リベットよりも低電位な材質で形成されており、
前記負極と前記リベットとの自然電位差は、絶対値で、0.1V以上1.0V以下であることを特徴とする請求項1に記載の負極構造体。
【請求項3】
前記負極は、前記メッキ層よりも低電位な材質で形成されており、
前記負極と前記メッキ層との自然電位差は、絶対値で、0.2V以上1.5V以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の負極構造体。
【請求項4】
前記リベットは、スチールで形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の負極構造体。
【請求項5】
金属空気電池用の負極構造体であって、
負極と、タブと、前記負極と前記タブとを固定するリベットと、を有し、
前記タブの表面には、メッキ層が形成されており、
前記リベットは、スチールで形成されて
おり、
前記メッキ層は、錫、或いは、ニッケルのうち少なくとも一方の金属元素を含有することを特徴とする負極構造体。
【請求項6】
前記メッキ層は、錫、或いは、ニッケルのうち少なくとも一方の金属元素を含有することを特徴とする請求項1から請求項
4のいずれかに記載の負極構造体。
【請求項7】
前記メッキ層は、錫メッキ層であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の負極構造体。
【請求項8】
前記タブは、銅基材の表面に前記メッキ層が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の負極構造体。
【請求項9】
前記負極を構成する金属は、マグネシウム、或いは、マグネシウム合金であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の負極構造体。
【請求項10】
前記リベットは、ブラインドリベットであることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれかに記載の負極構造体。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれかに記載の負極構造体と、前記負極に対向して配置される正極と、前記負極と前記正極との間に電解液を収容可能な筐体と、を有することを特徴とする金属空気電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属空気電池に適用される負極構造体、及びそれを用いた金属空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
金属空気電池では、正極(空気極)において、大気中の酸素を正極活物質として利用し、当該酸素の酸化還元反応が行われる。一方、負極(金属極)において、金属の酸化還元反応が行われる。金属空気電池のエネルギー密度は高く、災害時等における非常用電源等の役割として期待されている。電解液を金属空気電池に給水する事で発電が開始される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2013/094000号
【文献】特開2007-27020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来では、負極と、端子としてのタブとの接続部に、例えば、アルミニウムによるハトメ(以下、アルミハトメと称する)を用いていた。しかしながら、接続部が電解液に触れたり、或いは浸漬されると、接続部付近の腐食が進行し、早期に、負極がタブから離脱する問題があった。例えば、接着剤により、接続部をコーキングすることで腐食をある程度抑制できるが、コーキングの工程が増えてしまい、製造工程が煩雑化する。したがって、コーキングすることなく腐食を抑制できる負極構造が求められた。
【0005】
また、アルミハトメは手作業であるため、負極とタブ間の接続強度にばらつきが生じ、負極とタブ間の抵抗値が増大する問題があった。
【0006】
以上の腐食や抵抗値増大により、従来の金属空気電池では、長期にわたって高出力を持続することができなかった。
【0007】
特許文献1や特許文献2には、2つの導電性金属部材間を、メッキ層を介して、溶接や溶着により接合する電池の構造が開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2は、上記にした金属空気電池に関する従来課題に言及しておらず、金属空気電池に適用されるものではない。
【0009】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、特に、コーキングすることなく、電解液に接触した際の接続部付近の腐食を抑制でき、長期にわたって高出力を持続することが可能な負極構造体、及びそれを用いた金属空気電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の負極構造体は、金属空気電池用の負極構造体であって、負極と、タブと、前記負極と前記タブとを固定するリベットと、を有し、前記タブの表面には、メッキ層が形成されており、前記リベットは、前記メッキ層よりも低電位な材質で形成されており、前記リベットと前記メッキ層との自然電位差は、絶対値で、0.1V以上0.5V以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明では、前記負極は、前記リベットよりも低電位な材質で形成されており、前記負極と前記リベットとの自然電位差は、絶対値で、0.1V以上1.0V以下であることが好ましい。
【0012】
本発明では、前記負極は、前記メッキ層よりも低電位な材質で形成されており、前記負極と前記メッキ層との自然電位差は、絶対値で、0.2V以上1.5V以下であることが好ましい。
【0013】
本発明では、前記リベットは、スチールで形成されていることが好ましい。
【0014】
本発明の負極構造体は、金属空気電池用の負極構造体であって、負極と、タブと、前記負極と前記タブとを固定するリベットと、を有し、前記タブの表面には、メッキ層が形成されており、前記リベットは、スチールで形成されており、前記メッキ層は、錫、或いは、ニッケルのうち少なくとも一方の金属元素を含有することを特徴とする。
【0015】
本発明では、前記メッキ層は、錫、或いは、ニッケルのうち少なくとも一方の金属元素を含有することが好ましい。本発明では、前記メッキ層は、錫メッキ層であることがより好ましい。
【0016】
本発明では、前記タブは、銅基材の表面に前記メッキ層が形成されていることが好ましい。
【0017】
本発明では、前記負極を構成する金属は、マグネシウム、或いは、マグネシウム合金であることが好ましい。
【0018】
本発明では、前記リベットは、ブラインドリベットであることが好ましい。
【0019】
本発明の金属空気電池は、上記に記載の負極構造体と、前記負極に対向して配置される正極と、前記負極と前記正極との間に電解液を収容可能な筐体と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の負極構造体によれば、負極とタブとを強固に接合することができるとともに、接続部としてのリベットが電解液に触れたり浸漬しても、接続部をコーキングすることなく腐食を抑制することができる。このため、本発明の負極構造体を金属空気電池に適用することで、長期にわたって高出力を持続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本実施の形態における金属空気電池の断面模式図である。
【
図2】
図2Aは、本実施の形態における負極構造体の正面図であり、
図2Bは、
図2Aに示す負極構造体をA-A線に沿って切断し矢印方向から見た断面図である。
【
図3】実施例1、2及び比較例1、2の、定電流放電試験における時間と電圧との関係を示すグラフである。
【
図4】
図3の試験終了後における実施例2及び比較例2の負極構造体の状態を示す写真である。
【
図6】本実施例3(ブラインドリベット)及び従来例(アルミナハトメ)の、負極とタブ間の抵抗値を測定したグラフである。
【
図7】実施例4、及び比較例3、4の負極構造体を、食塩水に3日間浸漬した後の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0023】
図1に示す金属空気電池1は、金属空気電池ユニット2と、ケース3と、を有して構成される。
【0024】
図1に示すように、金属空気電池ユニット2は、例えば、3つの金属空気電池セル22を並設して構成される。金属空気電池セル22の数を限定するものではない。
【0025】
図1に示すように、各金属空気電池セル22は、正極(空気極)6と、負極(金属極)7と、筐体8とを、有して構成される。
図2に示すように、正極6及び負極7は、夫々、筐体8に支持されている。正極6と負極7とは、横方向(紙面左右方向)に、所定の間隔を空けて対向配置されている。
【0026】
図1に示すように、各金属空気電池セル22の筐体8には、空気室10と液室11とが設けられる。
図1に示すように、空気室10の上部は、外部に開放された開口部10aを構成している。空気は、開口部10aから空気室10へ導かれる。
【0027】
図1に示すように、正極6は、空気室10と液室11との間に配置されている。正極6は、空気室10及び液室11の双方に露出した状態で配置されている。
【0028】
図1に示すように、負極7は、正極6から液室11内に所定距離だけ離れた位置に配置されている。
【0029】
図1に示す実施の形態では、筐体8の底部8aに、液室11にまで通じる給水口13が設けられている。よって、
図1に示すように、金属空気電池ユニット2を、電解液5を入れたケース3内に浸すと、電解液5は給水口13を介して各液室11内に同時に注入される。
【0030】
図1に示すように、電解液5が液室11を満たすと、例えば、負極7がマグネシウム(Mg)であるとき、負極7の近傍においては、下記(1)で示す酸化反応が生じる。また、正極6においては、下記(2)で示す還元反応が生じる。マグネシウム空気電池全体としては、下記(3)に示す反応が起こり、放電が行われる。
(1)2Mg →2Mg
2++4e
-
(2)O
2+2H
2O+4e
- →4OH
-
(3)2Mg+O
2+2H
2O →2Mg(OH)
2
【0031】
なお、
図1に示す実施の形態では、給水口13を、筐体8の底部8aに設けたが、例えば、筐体8の側部8bに設けてもよく、或いは、底部8aと側部8bの双方に設けてもよい。また、給水口13を筐体8の上部に設けることも可能であるが、その場合は、給水口13を、空気室10の開口部10aよりも下側に位置させることが必要である。
【0032】
図1に示す負極7は、筐体8の底部8aに設けられた給水口13と対向して配置されることが好ましい。負極7と正極6の酸化還元反応の際に生じる生成物を、給水口13を介してケース3側に放出しやすい。これにより、生成物が、各金属空気電池セル22内に溜まることによる電極の破損や電気特性の劣化を抑制することが可能である。
【0033】
また、
図1に示す実施の形態では、負極7の下部を自由端としている。これにより、負極7を適切に給水口13に対向して配置することができる。また、負極7の下部を自由端とすることで、負極7の下部を揺動させることができる。このため、正極6と負極7との間に生成物が堆積したときに、負極7を撓らせることができ、生成物による押圧力を緩和でき、負極7及び正極6の破損を抑制することが出来る。
【0034】
図2A、
図2Bに示すように、本実施の形態の負極構造体20は、負極7と、タブ15と、負極7及びタブ15を固定するリベット16と、を有して構成される。
図2A及び
図2Bに示す負極構造体20を、
図1に示す金属空気電池1に適用することができる。なお、
図1では、負極構造体20を簡潔に示した。
【0035】
負極7を構成する金属は、Mg、Mg合金、亜鉛(Zn)、Zn合金、アルミニウム(Al)、或いは、Al合金のうちいずれかであることが好ましい。このうち、負極7を構成する金属は、Mg、或いは、Mg合金であることがより好ましい。後述する実験では、負極7としてMg板を用いて、タブ15及びリベット16の好ましい材質を選択している。
【0036】
タブ15は、金属材料で形成されている。
図2Bに示すように、タブ15は、例えば、略L字状に折り曲げられており、タブ15の折り曲げ先端部15aには、開口部15bが形成されている。タブ15は、隣接する金属空気電池セル22の正極6側と開口部15bにてねじ止め等がなされて、電気的に接続される。これにより、各金属空気電池セル22は、直列に接続される。
【0037】
タブ15の表面15cには、メッキ層17が形成されている。具体的には、タブ15は、銅(Cu)基材の表面に、メッキ層17が形成された構成であることが好ましい。
【0038】
メッキ層17は、錫(Sn)、或いは、ニッケル(Ni)のうち少なくとも一方の金属元素を含有することが好ましい。したがって、メッキ層17を構成する金属元素は、Sn、Ni、或いは、Sn及びNiを含むことが好ましい。本実施の形態では、Sn、又はNi以外の金属元素を含んでいてもよい。本実施の形態では、メッキ層17は、Snメッキ層であることが特に好ましい。
【0039】
図2Bに示すように、負極7及びタブ15には、重ねて接合される領域に、締結穴7d、15dが形成されており、リベット16が、締結穴7d、15dに挿入されている。リベット16は、本体部16aと、フランジ16bとが一体的に形成される。フランジ16bは、本体部16aの一端に形成されており、本体部16aの外側にて、本体部16aよりも大きい径で形成されている。
【0040】
ブラインドリベットでは、フランジ16bを備えた筒状の本体部16a(リベット16)にシャフトを挿入した状態で、リベット16を締結穴7d、15dに挿入する。そして、シャフトを引き抜くと、フランジ16bと反対側の頭部16cが潰れて、かしめられる。
【0041】
ところで、従来において、負極とタブの接続部には、アルミハトメが用いられていた。しかしながら、アルミハトメは、手作業であるため、接続強度にばらつきが生じやすい問題があった。また、負極とタブの接続部が電解液に触れたりすると、腐食しやすいため、腐食を抑制すべく、接着剤によるコーキングをしており、工程数が増え手間がかかっていた。
【0042】
そこで、本発明者らは、負極とタブとをリベットで接続するとともに、各部材の自然電位に関し、誠意研究を重ねた結果、リベットとタブ表面のメッキ層との自然電位差を所定範囲内に調整することで、従来の課題を解決するに至った。
【0043】
すなわち、本実施の形態の負極構造体20は、(1)リベット16が、メッキ層17よりも低電位な材質で形成されていること、(2)リベット16とメッキ層17との自然電位差が、絶対値で、0.1V以上0.5V以下であること、を特徴とする。
【0044】
ここで、自然電位は、海水中での値である。測定条件としては、例えば、流速を、2.4~4.0m/s、温度を、10~27℃とした。リベット16とメッキ層17との自然電位差は、絶対値で、0.15V以上0.45V以下であることがより好ましい。また、リベット16とメッキ層17との自然電位差は、絶対値で、0.17V以上0.42V以下であることが更に好ましい。
【0045】
また、本実施の形態の負極構造体20は、(3)負極7が、リベット16よりも低電位な材質で形成されていること、(4)負極7とリベット16との自然電位差が、絶対値で、0.1V以上1.0V以下であること、が好ましい。負極7とリベット16との自然電位差は、絶対値で、0.4V以上1.0V以下であることがより好ましい。このとき、負極7には、Mg、Mg合金、Zn、或いは、Zn合金を適用することができる。負極7とリベット16との自然電位差は、絶対値で、0.6V以上1.0V以下であることが更に好ましい。このとき、負極7には、Mg、或いは、Mg合金を適用することができる。
【0046】
また、本実施の形態の負極構造体20は、(5)負極7が、メッキ層17よりも低電位な材質で形成されていること、(6)負極7とメッキ層17との自然電位差が、絶対値で、0.2V以上1.5V以下であること、が好ましい。負極7とメッキ層17との自然電位差は、絶対値で、0.6V以上1.4V以下であることがより好ましい。このとき、負極7には、Mg、Mg合金、Zn、或いは、Zn合金を適用することができる。負極7とメッキ層17との自然電位差は、絶対値で、1.0V以上1.4V以下であることが更に好ましい。このとき、負極7には、Mg、或いは、Mg合金を適用することができる。
【0047】
また、本発明者らは、負極とタブとをリベットで接続した負極構造体における、各部材の材質に関し、誠意研究を重ねた結果、負極とタブとを、スチールからなるリベットにより接続することで、従来の課題を解決するに至った。
【0048】
ここで、スチールは、炭素鋼であり、スチールには、ステンレス(stainless
steel)を含まない。限定するものではないが、スチールには、トップ工業株式会社製のSDシリーズ、株式会社ロブテックス製のNSシリーズ、福井鋲螺株式会社製のスタンダードタイプ、FXタイプ、GTタイプ、CPタイプ、PLタイプ、PLXタイプ、HLタイプ、ポップリベット・ファスナー株式会社製のスタンダード、高圧着(HR)、構造体用、シールド、低座屈、軟材質向けを用いることができる。
【0049】
上記した自然電位差の条件においても、リベット16にステンレスは含まれない。自然電位差の条件では、上記した(1)の条件を満たすことで、リベット16にステンレスを含まないよう制御しやすくなる。
【0050】
本実施の形態では、リベット16を用いて、負極7とタブ15とを固定することで、接続強度のばらつきを低減することができる。これにより、負極7とタブ15間の抵抗値を低減することができる。
【0051】
また、
図1には図示していないが、液室11に電解液5が注入されると、負極7が電解液5に浸されるとともに、電解液5の水位によっては、リベット16及びタブ15も電解液5に接触し或いは浸される。
【0052】
このとき、リベット16とタブ表面のメッキ層17との自然電位差が所定範囲内から外れたり、リベット16にステンレスを用いると、リベット16及びタブ15が電解液5に触れることで腐食が進行し、早期に、負極7がタブ15から離脱する。すなわち、負極7を十分に使い切る前に電池反応が終了する。
【0053】
これに対し、リベット16とタブ表面のメッキ層17との自然電位差を、所定範囲内で調整し、また、リベット16をスチールとすることで、後述する実験に示すように、リベット16及びタブ15が電解液5に触れても腐食を抑制でき、リベット16にステンレスを用いた場合と比べて、相当量の負極7を電池反応に使用することができる。このように、負極7とタブ15とを、リベット16により固定し、このとき、リベット16とタブ15との自然電位差を所定範囲に調整したり、スチールからなるリベット16を用いることで、接続強度のばらつきを低減できるとともに、コーキングしなくても腐食を抑制することができる。以上により、長期にわたって高出力を持続することができる。
【0054】
本実施の形態では、リベット16とタブ表面のメッキ層17との自然電位差に加えて、上記した(3)(4)、或いは、(5)(6)、又は、(3)~(6)を満たすことが好ましい。これにより、より効果的に腐食を抑制することができ、より長期にわたって高出力を持続することができる。ここで、限定するものではないが、スチール(炭素鋼)の海水中における自然電位は、-0.5から-0.7程度、Snの海水中における自然電位は、-0.3から-0.5程度、Niの海水中における自然電位は、-0.1から-0.3程度、Mgの海水中における自然電位は、-1.4~-1.65程度、Znの海水中における自然電位は、-0.9~-1.1程度、Alの海水中における自然電位は、-0.65~-0.85程度である。各金属の海水中における自然電位の値は、例えば、エバラ時報No.220(2008-7)第32頁
図5「海水中における電位例」、溶接学会誌 第79巻(2010)第3号 第249頁 「常温静止海水中における各種金属の腐食電位」を参考にすることができる。SnやNiは、メッキ層17に適用される。すなわち、メッキ層17は、Snメッキ層、或いは、Niメッキ層であることが好ましく、Snメッキ層であることが特に好ましい。本実施の形態では、リベット16の材質をスチールとし、メッキ層17をSnメッキ層とする組合せが、より効果的に腐食を抑制することができ、より長期にわたって高出力を持続することができる。なお、メッキ層を設けず、Cu板が露出したタブを用いると、腐食が進行し、長期にわたって高出力を得られないことがわかっている。
【0055】
また、リベット16は、ブラインドリベットであることが好ましい。ブラインドリベットを用いることで、より強固に負極7とタブ15間をかしめることができる。また、ブラインドリベットを用いることで、一方向からかしめることができ、負極7とタブ15の接続強度をより安定化できるとともに、負極7とタブ15間を容易に固定することができる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の実施例及び比較例により本発明の効果を説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。特に、各実験に示す数値や写真に示す形状は一例であり、これらに拘束されるものではない。
【0057】
実験では、以下の表1に示す4つの負極構造体を用いた。すなわち、実施例1の負極構造体では、タブに、Cu基材の表面にNiメッキが施されたもの、リベットに、スチールからなるブラインドリベットを用いた。実施例2の負極構造体では、タブに、Cu基材の表面にSnメッキが施されたもの、リベットに、スチールからなるブラインドリベットを用いた。比較例1の負極構造体では、タブに、Cu基材の表面にNiメッキが施されたもの、リベットに、ステンレスからなるブラインドリベットを用いた。比較例2の負極構造体では、タブに、Cu基材の表面にSnメッキが施されたもの、リベットに、ステンレスからなるブラインドリベットを用いた。なお、各実施例及び各比較例ともに、負極として同じMg板を用いた。
【0058】
【0059】
実験では、実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の各負極構造体を、金属空気電池に組み込み、タブ及びリベットが電解液である食塩水に浸した。
【0060】
そして、菊水電子工業製の電子負荷装置(PLZ-50F)を用い、1A定電流放電試験を行った。その実験結果が
図3に示されている。
【0061】
図3に示すように、タブのメッキとしてNiメッキを用い、リベットにステンレスを用いた比較例1では、約6時間を過ぎると急激に電圧が低下することがわかった。
【0062】
また、タブのメッキとしてSnメッキを用い、リベットにステンレスを用いた比較例2では、比較例1に比べて、電圧の低下を抑制できるものの、実施例1や実施例2に比べて、約6時間後に、電圧の低下が大きくなる傾向が見られた。
【0063】
これに対し、スチールのリベットを用いた実施例1及び、実施例2では、効果的に、電圧の低下を抑制できることがわかった。また、タブのメッキとしてNiメッキを用いた実施例1では、約9時間まで安定して高い電圧を維持できるが、タブのメッキとしてSnメッキを用いた実施例2では、更に、10時間程度まで高い電圧を維持できることがわかった。
【0064】
ここで、スチール(炭素鋼)の海水中における自然電位は、-0.5から-0.7程度、Snの海水中における自然電位は、-0.3から-0.5程度、Niの海水中における自然電位は、-0.1から-0.3程度、Mgの海水中における自然電位は、-1.4~-1.65程度、ステンレスの海水中における自然電位は、-0.2~-0.05程度であった。なお、測定条件としては、流速を、2.4~4.0m/s、温度を、10~27℃の範囲とした。
【0065】
本実施例のように、リベットをスチールとし、タブのメッキとしてNiメッキ、或いは、Snメッキを用いた構成では、リベットのほうが、メッキよりも低電位であった。また、実施例では、リベットとメッキ層との自然電位差は、絶対値で、0.1V以上0.5V以下であった。このように、リベットとメッキ層との自然電位差を調整することで、長期にわたって高出力を持続できることがわかった。
【0066】
また、本実施例のように、リベットにスチールを用いることで、長期にわたって高出力を持続できることがわかった。
【0067】
また、本実施例では、負極(Mg)は、リベット(スチール)よりも低電位な材質で形成されており、負極とリベットとの自然電位差は、絶対値で、0.1V以上1.0V以下であった。また、本実施例では、負極は、メッキ層よりも低電位な材質で形成されており、負極とメッキ層との自然電位差は、絶対値で、0.2V以上1.5V以下であった。また、タブには、Niメッキ或いはSnメッキを施すことが好ましく、特に、Snメッキを施すことが、より長期にわたって高出力を持続でき、特に、好ましいことがわかった。
【0068】
図4は、試験終了後における実施例2及び比較例2の負極構造体の状態を示す写真である。
図5は、その模式図である。
【0069】
図4及び
図5の左図は、試験終了後における実施例2の負極構造体を示し、
図4及び
図5の右図は、試験終了後における比較例2の負極構造体を示す。
【0070】
図4及び
図5に示すように、比較例2の負極構造体では、負極であるMg板の面積が大きく残ったまま、リベット付近の腐食により、Mg板とタブとが分離していることがわかった。一方、
図4に示す実施例2では、比較例2に比べて、リベット付近の腐食の進行を抑制できており、その結果、負極であるMg板がかなり小さくなるまで、Mg板とタブとが分離しなかったことがわかった。
【0071】
また、アルミハトメにより負極とタブとを固定した従来例と、スチールからなるブラインドリベットにより負極とタブとを固定した実施例3の抵抗値を測定した。従来例と実施例3の各負極構造体を複数用意し、各負極構造体の負極(Mg板)とタブに同じものを使用した。タブには、Cu基材の表面にSnメッキが施されたものを使用した。実験では、
図2に示す負極の下端付近と、タブの先端付近との間の抵抗値を測定した。その実験結果が
図6に示されている。
【0072】
図6に示すように、ブラインドリベットを用いた実施例は、アルミハトメを用いた従来例に比べて、抵抗値を低くすることができた。これは、アルミハトメでは、ハンドプレスにてかしめ作業を行うため、かしまり具合が弱くなるのに対し、ブラインドリベットでは、空気圧を利用してかしめを行うため、かしまり具合を強くできるためである。
【0073】
このように、スチールからなるリベットにより、負極とタブとを固定することで、接続強度を強くできことができると共に、リベット付近に電解液が接触或いは浸漬しても、コーキングすることなく、腐食を抑制できることがわかった。以上により、スチールからなるリベットを用いた実施例では、アルミハトメを用いた従来例や、ステンレスからなるリベットを用いた比較例に比べて、長期にわたって高出力を持続できることがわかった。
【0074】
また、
図7は、実施例4、及び比較例3、4の各負極構造体を、食塩水(NaCl=10%)に3日間浸漬した後の写真であり、
図8は、その模式図である。
【0075】
実施例4の負極構造体では、タブに、Cu基材の表面にSnメッキが施されたもの、リベットに、スチールからなるブラインドリベットを用いた。比較例3の負極構造体では、タブに、Cu板(めっきなし)、リベットに、スチールからなるブラインドリベットを用いた。比較例4の負極構造体では、タブに、Cu板(めっきなし)、リベットに、ステンレスからなるブラインドリベットを用いた。なお、各実施例及び各比較例ともに、負極として同じMg板を用いた。
【0076】
図7、
図8に示すように、実施例4は、タブと負極の分離は見られなかったが、比較例3、4では、タブと負極が分離していた。また比較例4は、タブを構成するCu板の変色も見られた。
【0077】
このように、タブの表面にメッキを施さず、Cu基材が露出した状態のものを使用すると、メッキを施した実施例に比べて、リベット付近の腐食が進行し、早期に、負極とタブとが分離することがわかった。したがって、タブの表面にメッキを施すことにより、特に、Snメッキを施すことにより、より長期にわたって高出力を持続できることがわかった。
【0078】
また、本実施例のように、スチールからなるリベットを用い、更に好ましくは、タブの表面に、Snメッキを施すことにより、電解液の量を通常より多く使用しても、ステンレスからなるリベットを用いた場合に比べて、高出力の時間を延ばせるとわかった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の金属空気電池によれば、長期にわたって高出力を持続でき、災害時等における非常用電源等として有効に適用することが出来る。
【符号の説明】
【0080】
1 :金属空気電池
2 :金属空気電池ユニット
3 :ケース
5 :電解液
6 :正極
7 :負極
7d、15d :締結穴
8 :筐体
10 :空気室
11 :液室
13 :給水口
15 :タブ
15a :折り曲げ先端部
15b :開口部
16 :リベット
16a :本体部
16b :フランジ
16c :頭部
17 :メッキ層
20 :負極構造体
22 :金属空気電池セル