IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立ビークルエナジー株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】電池制御装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20230303BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20230303BHJP
【FI】
H01M10/48 P
H02J7/00 B
H01M10/48 301
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019124103
(22)【出願日】2019-07-03
(65)【公開番号】P2021009830
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2021-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】505083999
【氏名又は名称】ビークルエナジージャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中尾 亮平
(72)【発明者】
【氏名】マテ ファニー
(72)【発明者】
【氏名】大川 圭一朗
(72)【発明者】
【氏名】和田 陽介
【審査官】宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-147487(JP,A)
【文献】特開2016-126999(JP,A)
【文献】特開2017-017907(JP,A)
【文献】国際公開第2012/169063(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R31/36-31/396
H01M10/42-10/48
H02J7/00-7/12
H02J7/34-7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の内部抵抗値に基づいて前記電池の最大電流値と該最大電流値の通電時の前記電池の算定電圧値とを演算し、前記最大電流値と前記算定電圧値とに基づいて前記電池の最大電力値を演算する電池制御装置であって、
前記最大電流値の演算に用いる前記電池の第一の内部抵抗値と前記算定電圧値の演算に用いる前記電池の第二の内部抵抗値とが異なり、
前記第一の内部抵抗値は、前記電池に対する前記最大電流値の通電開始時から第一の時間が経過した時の前記電池の内部抵抗値に設定され、
前記第二の内部抵抗値は、前記通電開始時から前記第一の時間よりも短い第二の時間が経過した時の前記電池の内部抵抗値に設定されることを特徴とする電池制御装置。
【請求項2】
前記電池に流れる電流に基づいて前記電池の分極電圧を含む前記電池の電圧の時間変化を推定可能な電圧モデルを備え、
前記電圧モデルに基づいて前記第一の内部抵抗値と前記第一の内部抵抗値に対応する通電時間が経過したときの第一の分極電圧を算出するとともに、前記第二の内部抵抗値と前記第二の内部抵抗値に対応する通電時間が経過したときの第二の分極電圧を算出し、
前記第一の内部抵抗値と前記第一の分極電圧に基づいて前記電池の前記最大電流値を演算し、前記第二の内部抵抗値と前記第二の分極電圧と前記最大電流値に基づいて前記電池の前記算定電圧値を演算し、
前記最大電流値と前記算定電圧値とを乗算することで前記最大電力値を演算することを特徴とする請求項1に記載の電池制御装置。
【請求項3】
前記第一の内部抵抗値、または、前記第一の内部抵抗値と前記第一の分極電圧に基づいて前記電池の上限電圧もしくは下限電圧を逸脱しない充電時の前記最大電流値もしくは放電時の前記最大電流値を演算し、
複数の前記電池を接続した組電池および外部負荷との接続を制御するリレーを含む電池システムを構成する構成部材および前記電池の特性を考慮して定まる上限電流値と、前記充電時の前記最大電流値のうち、小さい方を充電時の前記最大電流値として演算し、
前記上限電流値と、前記放電時の前記最大電流値のうち、小さい方を放電時の前記最大電流値として演算することを特徴とする請求項に記載の電池制御装置。
【請求項4】
前記上限電流値により前記充電時の前記最大電流値が定まる前記電池の充電率または温度条件にのみ、前記算定電圧値の演算に用いる内部抵抗として、前記第二の内部抵抗値を用いることを特徴とする請求項に記載の電池制御装置。
【請求項5】
前記上限電流値により前記充電時の前記最大電流値が定まる前記電池の充電率または温度条件にのみ、前記算定電圧値の演算に用いる内部抵抗および分極電圧として、前記第二の内部抵抗値と前記第二の分極電圧を用いることを特徴とする請求項に記載の電池制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から電池を制御する技術に関する発明が知られている(下記特許文献1を参照)。この従来の発明に係る電池制御装置は、単電池の温度、充電状態に応じた内部抵抗値を、単電池の充電または放電継続時間の値毎に記述した内部抵抗テーブルを備える。電池制御装置は、内部抵抗テーブルに記述された内部抵抗値を用いて単電池の最大許容充電電流または最大許容放電電流を算出し、その値にしたがって算出した最大許容充電電力または最大許容放電電力を用いることにより、単電池の充電または放電を制御する(同文献、第0009段落等を参照)。
【0003】
上記従来の電池制御装置によれば、充放電を継続するにしたがって単電池の内部抵抗が変化しても、内部抵抗テーブルから取得する内部抵抗値を変化にしたがって切り替えることにより、内部抵抗の変化に追従することができる。これにより、許容充放電電力を精度よく求めることができる(同文献、第0010段落等を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5715694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の電池制御装置は、電池に流れる電流の通電時間に応じた適切な内部抵抗値を設定することで、その内部抵抗値に対応した電池の充放電時の最大電力値を演算することが可能である。
【0006】
ここで、現時点から所定の秒数にわたって連続して電池に入力可能な電力として充放電時の最大電力値を規定する場合を想定する。この場合、現時点以降から連続して電池に通電可能な電流値を算出し、その電流値に基づいて電池の通電時の電圧を算出し、その電圧と算出した連続して電池に通電可能な電流値とを乗算することで、充放電時の最大電力値を算出する。
【0007】
しかし、通電時の電池の電圧の演算値と実測値とは、一致しないことがある。この場合、前述のように算出された充放電時の最大電力値に相当する二次負荷が電池に入力されると、電池に連続して通電可能な最大電流値の演算値に対し、過大な電流値が電池に通電されるおそれがある。
【0008】
本開示は、電池に過大な電流が通電されない最大電力値を算出することが可能な電池制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様は、電池の内部抵抗値に基づいて前記電池の最大電流値と該最大電流値の通電時の前記電池の算定電圧値とを演算し、前記最大電流値と前記算定電圧値とに基づいて前記電池の最大電力値を演算する電池制御装置であって、前記最大電流値の演算に用いる前記電池の第一の内部抵抗値と前記算定電圧値の演算に用いる前記電池の第二の内部抵抗値とが異なることを特徴とする電池制御装置である。
【発明の効果】
【0010】
本開示の上記一態様によれば、電池に過大な電流が通電されない最大電力値を算出することが可能な電池制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態1に係るハイブリッド自動車の蓄電装置の構成例を示す概略図。
図2図1に示す蓄電装置を構成する単電池制御部の回路構成の一例。
図3図1に示す蓄電装置を構成する組電池制御部の機能ブロック図。
図4図3に示す充電時の最大電力値を演算する機能の機能ブロック図。
図5図3に示す放電時の最大電力値を演算する機能の機能ブロック図。
図6】放電試験時の電池の電圧および内部抵抗の時間変化の一例を示すグラフ。
図7】電池の通電時間による内部抵抗特性の変化を示すグラフ。
図8図3図4で算出される充電時の最大電力値の一例を示すグラフ。
図9図3図4で算出される放電時の最大電力値の一例を示すグラフ。
図10】比較例の電池制御装置の問題点を説明するグラフ。
図11】比較例の電池制御装置の問題点を説明するグラフ。
図12】比較例の電池制御装置の問題点を説明するグラフ。
図13図4に示す組電池制御部の作用を説明するグラフ。
図14図4に示す組電池制御部の作用を説明するグラフ。
図15】実施形態2に係る組電池制御部の図4に相当するブロック図。
図16】実施形態2に係る組電池制御部の図5に相当するブロック図。
図17】電池の電圧挙動を再現する電圧等価回路モデルの一例。
図18】充電時の最大電力相当の負荷を電池に連続的に入力した場合のグラフ。
図19】充電時の最大電力相当の負荷を電池に連続的に入力した場合のグラフ。
図20】放電時の最大電力相当の負荷を電池に連続的に入力した場合のグラフ。
図21】放電時の最大電力相当の負荷を電池に連続的に入力した場合のグラフ。
図22】充電時の最大電力相当の電力を電池に入力したときの波形。
図23】充電時の最大電力相当の電力を電池に入力したときの波形。
図24】放電時の最大電力相当の電力を電池に入力したときの波形。
図25】放電時の最大電力相当の電力を電池に入力したときの波形。
図26】実施形態3に係る組電池制御部において記憶装置に搭載するマップ。
図27】実施形態4に係る組電池制御部の図15に相当するブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本開示に係る電池制御装置の実施形態を説明する。
【0013】
以下では、一例として、本開示に係る電池制御装置をハイブリッド自動車(HEV)の電源を構成する蓄電装置に対して適用した実施形態を説明する。なお、以下の実施形態に係る電池制御装置の構成は、HEV、EVなどの乗用車やハイブリッド鉄道車両などの産業用車両の電源を構成する蓄電装置の蓄電器制御回路にも適用可能である。
【0014】
また、以下では、蓄電装置を構成する蓄電器にリチウムイオン電池を適用した場合を例に挙げて説明する。蓄電器としては、他にもニッケル水素電池や鉛電池、電気二重層キャパシタ、ハイブリッドキャパシタなどを用いることもできる。
【0015】
[実施形態1]
図1は、HEVの蓄電装置100の構成例を示す概略図である。蓄電装置100は、たとえば、リレー200を介してインバータ300に接続されたHEVのバッテリである。また、蓄電装置100の組電池制御部150およびインバータ300は、信号線を介して車両制御部400に接続されている。さらにインバータ300は、外部負荷としてのモータジェネレータ500に接続されている。
【0016】
蓄電装置100は、たとえば、組電池110と、単電池管理部120と、電流検知部130と、電圧検知部140と、組電池制御部150と、通信経路160と、絶縁素子170と、記憶装置180と、中央処理装置190とを備えている。また、蓄電装置100は、たとえばリレー200を含む電池システムを構成している。
【0017】
組電池110は、二次電池である複数の単電池1を備えている。組電池110は、たとえば、直流電流の充放電によって電気エネルギーの蓄積および放出が可能な複数の単電池1を直列に接続した構成を有している。個々の単電池1の仕様は特に限定されないが、たとえば、出力電圧が約3.0[V]から約4.2[V]であり、平均出力電圧が約3.6[V]である。
【0018】
図1に示す例において、組電池110は、複数の単電池1が直列に接続されて電池群111が構成され、複数の電池群111が直列に接続された構成を有している。図1では、図示の都合上、組電池110が、直列に接続された二つの電池群111を備え、各々の電池群111が、直列に接続された四つの単電池1を備える例を示している。しかし、組電池110が備える電池群111の数、直列または並列などの電池群111の接続方法、および、各々の電池群111が備える単電池1の数などは、特に限定されない。
【0019】
個々の電池群111は、たとえば単電池1の状態管理および制御の単位となる。なお、複数の電池群111は、並列に接続されていてもよい。また、電池群111を構成する単電池1の数は、すべての電池群111で同数であってもよく、各々の電池群111で異なっていてもよい。
【0020】
図1に示す例において、組電池110は、複数の単電池1がたとえばバスバーを介して直列に接続されて電池群111が構成され、複数の電池群111がたとえばバスバーを介して直列に接続された構成を有している。図1では、図示の都合上、組電池110が、直列に接続された二つの電池群111を備え、各々の電池群111が、直列に接続された四つの単電池1を備える例を示している。しかし、組電池110が備える電池群111の数、直列または並列などの電池群111の接続方法、および、各々の電池群111が備える単電池1の数などは、特に限定されない。
【0021】
個々の電池群111は、たとえば単電池1の状態管理および制御の単位となる。なお、複数の電池群111は、並列に接続されていてもよい。また、電池群111を構成する単電池1の数は、すべての電池群111で同数であってもよく、各々の電池群111で異なっていてもよい。
【0022】
単電池管理部120は、組電池110を構成する単電池1の状態を監視および管理する。単電池管理部120は、たとえば、単電池1の過充電または過放電を判定また診断する機能や、通信エラーなどが発生した場合に異常信号を出力する機能を有し、その判定結果や異常信号を組電池制御部150に出力する。単電池管理部120は、たとえば、複数の単電池制御部121を備えている。
【0023】
単電池制御部121は、たとえば、各々の単電池制御部121に対して設けられている。単電池制御部121は、電池群111を構成する各々の単電池1の状態を監視し、各々の単電池1を制御する。単電池制御部121は、たとえば、制御対象の電池群111から電力の供給を受けて動作する。
【0024】
図2は、図1に示す蓄電装置100を構成する単電池制御部121の回路構成の一例である。単電池制御部121は、たとえば、電圧検出回路121aと、温度検知部121bと、制御回路121cと、信号入出力回路121dとを備えている。また、図示を省略するが、単電池制御部121は、たとえば、単電池1の自己放電や消費電流のばらつきなどにともなって発生する単電池1間の電圧のばらつきを均等化する回路を備えている。
【0025】
電圧検出回路121aは、単電池1の電圧を測定する電圧センサであり、電池群111を構成する各々の単電池1の正極と負極の外部端子の間の電圧を測定する。温度検知部121bは、たとえば単電池1の表面温度を測定する温度センサに接続された温度検出回路である。なお、温度センサによって測定した単電池1の表面温度の検出は、電圧検出回路121aによって行うことも可能である。
【0026】
温度検知部121bは、たとえば、電池群111の全体として少なくとも一つの温度を測定し、その温度をその電池群111を構成する単電池1の温度の代表値として出力する。そのため、図2に示す例において、単電池制御部121は、一つの温度検知部121bを備えている。なお、単電池制御部121は、各々の単電池1に対して一つの温度検知部121bを有してもよい。しかし、この場合は、単電池制御部121に一つの温度検知部121bを設ける場合よりも単電池制御部121の構成が複雑になる。
【0027】
温度検知部121bから出力される単電池1の表面温度は、たとえば、単電池制御部121および組電池制御部150において、単電池1、電池群111、または組電池110(以下、単に「電池」という。)の状態を判定するための各種の演算に用いられる。また、温度検知部121bから出力される単電池1の表面温度は、たとえば、中央処理装置190による各種の演算に用いられる。
【0028】
制御回路121cは、電圧検出回路121aから出力された単電池1の外部端子間の電圧値と、温度検知部121bから出力された単電池1の表面温度の測定値とが入力される。制御回路121cは、入力された各々の単電池1の電圧値と、電池群111ごとの単電池1の表面温度の測定値とを、信号入出力回路121dへ出力する。信号入出力回路121dは、制御回路121cから出力された単電池1の電圧値と、電池群111ごとの単電池1の表面温度の測定値とを、通信経路160および絶縁素子170を介して組電池制御部150へ出力する。
【0029】
図1に示すように、電流検知部130は、たとえば組電池110に流れる電流を検知して電流値を測定する電流計または電流センサである。電圧検知部140は、たとえば組電池110の全体の電圧を検知して電圧値を測定する電圧計または電圧センサである。
【0030】
組電池制御部150は、本開示に係る電池制御装置の一実施形態であり、電池の充放電時の最大電力値を算出して、電池を制御する。組電池制御部150は、たとえば、電池の状態を検知するとともに、電池の状態を管理し、電池を制御する。より具体的には、組電池制御部150には、たとえば、単電池管理部120から出力された単電池1の電圧や温度、電流検知部130から出力された組電池110を流れる電流値、電圧検知部140から出力された組電池110の全体の電圧値などの情報が入力される。
【0031】
組電池制御部150は、たとえば中央処理装置190を備え、入力された情報に基づいて電池の状態を判定および検知する。組電池制御部150は、電池の状態の判定結果または検知結果を、信号線を介して単電池管理部120や車両制御部400へ出力する。
【0032】
また、組電池制御部150は、たとえば中央処理装置190により、入力された情報および記憶装置180に記憶された情報を用いて、組電池110、電池群111および単電池1を適切に制御するための各種の演算を行う。さらに、組電池制御部150は、演算結果や演算結果に基づく指令を、単電池管理部120やリレー200に出力する。
【0033】
また、組電池制御部150は、たとえば通信経路160およびフォトカプラなどの絶縁素子170を介して単電池管理部120に接続され、単電池管理部120との間で信号を送受信する。組電池制御部150には、たとえば、単電池管理部120から出力された判定結果や診断結果、異常信号などが入力される。また、組電池制御部150には、たとえば、記憶装置180からの信号や、車両制御部400からの信号が入力される。
【0034】
組電池制御部150と単電池管理部120とは、たとえば動作電源が異なっている。具体的には、組電池制御部150は、たとえば車載補機用の14[V]系の電源を用い、単電池管理部120は、たとえば組電池110を電源として用いる。そのため、組電池制御部150と単電池管理部120とは、相互に絶縁素子170を介して信号を送受信する。なお、絶縁素子170は、単電池管理部120を構成する回路基板に実装してもよく、組電池制御部150を構成する回路基板に実装してもよい。また、蓄電装置100の構成によっては、絶縁素子170を省略することも可能である。
【0035】
組電池制御部150と単電池管理部120を構成する複数の単電池制御部121との間の通信について、より詳細に説明する。複数の単電池制御部121は、たとえば各々の電池群111と同様に直列に接続されている。すなわち、複数の単電池制御部121は、監視対象の電池群111の電位が最も高い単電池制御部121から、監視対象の電池群111の電位が最も低い単電池制御部121まで、監視対象の電池群111の電位の降順に直列に接続されている。
【0036】
組電池制御部150から出力された情報は、通信経路160および絶縁素子170を介して、監視対象の電池群111の電位が最も高い単電池制御部121に入力される。さらに、組電池制御部150から出力されて監視対象の電池群111の電位が最も高い単電池制御部121に入力された情報およびその単電池制御部121の出力は、その次に監視対象の電池群111の電位が高い単電池制御部121へ入力される。
【0037】
これが順次繰り返されることで、最終的にすべての電池群111の情報を含む情報が監視対象の電池群111の電位が最も低い単電池制御部121から出力され、通信経路160および絶縁素子170を介して組電池制御部150に入力される。なお、隣り合う単電池制御部121間の通信は、たとえば、これらの間に配置した絶縁素子170を介して行うことも可能である。
【0038】
このように、組電池制御部150と、複数の単電池制御部121とは、たとえば通信経路160によってループ状に接続されている。このループ状の接続は、たとえば、デイジーチェーン接続、数珠繋ぎ接続、または芋づる式接続などと呼ばれることがある。
【0039】
記憶装置180は、たとえば、RAMやROMなどのメモリやハードディスクなどによって構成され、図1に示す例において、組電池制御部150の外部に設けられている。なお、記憶装置180は、組電池制御部150を構成する回路基板に実装されて、組電池制御部150の一部を構成していてもよい。また、記憶装置180は、たとえば、組電池制御部150や単電池制御部121を構成する回路基板のそれぞれに実装されていてもよい。
【0040】
記憶装置180は、たとえば、組電池110、それぞれの電池群111、およびそれぞれの単電池1の情報が記憶される。具体的には、たとえば、組電池110の電流制限値などの制限値や、組電池110、各々の電池群111、および各々の単電池1の電池特性に関する情報が記憶されている。
【0041】
記憶装置180は、たとえば、単電池1の電圧値、電流値および温度から、電池の充電状態(state of charge: SOC)を求めるための演算式、テーブル、グラフまたはマップが記憶されている。また、記憶装置180は、たとえば、単電池1の電圧値、電流値および温度から、電池の部抵抗の上昇率(state of Health based on resistance: SOHR)を求めるための演算式、テーブル、グラフまたはマップが記憶されている。これらSOCおよびSOHRを求めるための演算式等は、公知であるため、説明を省略する。
【0042】
また、記憶装置180は、たとえば、後述する組電池制御部150の各種の演算機能において中央処理装置190による演算に使用される各種の演算式、マップ、プログラム、データが記憶されている。記憶装置180に記憶された各種の演算式については、後述する組電池制御部150の各種の演算機能の説明において詳述する。
【0043】
中央処理装置190は、図1に示すように、たとえば組電池制御部150を構成する回路基板に実装されて組電池制御部150の一部を構成し、記憶装置180に対して情報通信可能に接続されている。なお、中央処理装置190は、たとえば、単電池管理部120を構成する回路基板に実装されてもよい。
【0044】
また、中央処理装置190は、たとえば、単電池1に流れる電流を測定する電流センサである電流検知部130に信号線を介して接続され、電流検知部130による電流の測定値を取得する。また、中央処理装置190は、たとえば、組電池110の電圧を測定する電圧検知部140に信号線を介して接続され、電圧検知部140による電圧の測定値を取得する。また、中央処理装置190は、たとえば、図示を省略する環境温度センサに信号線を介して接続され、環境温度センサから単電池1の周囲の環境温度を取得する。
【0045】
また、中央処理装置190は、たとえば、通信経路160および絶縁素子170を介して単電池制御部121に接続されている。これにより、中央処理装置190は、単電池制御部121が備える電圧センサによって測定された電池群111を構成する個々の単電池1の電圧を取得する。また、中央処理装置190は、たとえば、温度センサによって測定された各々の電池群111の少なくとも一つの単電池1の表面温度の測定値を取得する。中央処理装置190は、記憶装置180に記憶された情報や、上記センサ等から取得した情報に基づいて、各種の演算を実行する。
【0046】
図3は、図1に示す組電池制御部150の機能ブロック図である。組電池制御部150は、たとえば、電池状態を検知する機能F1と、充電時の最大電力値を演算する機能F2と、放電時の最大電力値を演算する機能F3とを備えている。図3に示す各機能ブロックは、たとえば、組電池制御部150に入力される情報ならびに記憶装置180に記憶された情報およびプログラムと、それらを読み込んで各種の処理を実行する中央処理装置190と、によって実現することができる。
【0047】
図3に示すように、電池状態を検知する機能F1において、中央処理装置190は、たとえば、単電池1の電圧値、電流値、および温度を入力として、記憶装置180に記憶された演算式等を用い、電池のSOCおよびSOHRを演算して出力する。充電時の最大電力値を演算する機能F2および放電時の最大電力値を演算する機能F3において、中央処理装置190は、たとえば、電池状態を検知する機能F1から出力されたSOCおよびSOHR、ならびに単電池1の温度を入力とする。そして、中央処理装置190は、記憶装置180に記憶された演算式等を用い、充電時の最大電力値を演算する機能F2において充電時の最大電力値Wmax,chgを演算して出力し、放電時の最大電力値を演算する機能F3において放電時の最大電力値Wmax,disを演算して出力する。
【0048】
図4は、図3に示す充電時の最大電力値を演算する機能F2の機能ブロック図である。この機能F2は、たとえば、電流演算用の充電抵抗を演算する機能F21と、電圧演算用の充電抵抗を演算する機能F22と、充電時の最大電流値を演算する機能F23と、充電時の算定電圧を演算する機能F24と、充電時の最大電力値を演算する機能F25とを備えている。
【0049】
電流演算用の充電抵抗を演算する機能F21において、中央処理装置190は、電池のSOC、温度、およびSOHRを入力とし、記憶装置180に記憶された以下の数式(1)およびマップ等を用いて、充電時の最大電流値の演算に用いる内部抵抗値Rchg_iを演算して出力する。
【0050】
【数1】
【0051】
また、電圧演算用の充電抵抗を演算する機能F22において、中央処理装置190は、電池のSOC、温度、およびSOHRを入力とし、記憶装置180に記憶された以下の数式(2)およびマップ等を用いて、内部抵抗値Rchg_vを演算して出力する。この内部抵抗値Rchg_vは、電池に充電可能な電流が通電されたときの電池の電圧の予測値を演算するために用いられる。
【0052】
【数2】
【0053】
また、充電時の最大電流値を演算する機能F23において、中央処理装置190は、電池のSOCと、電流演算用の充電抵抗を演算する機能F21の出力である内部抵抗値Rchg_iを入力とする。また、この機能F23において、中央処理装置190は、図示を省略する上限電流値Ilimit,chg、上限電圧値Vmax、および開回路電圧(open circuit voltage: OCV)を入力とする。
【0054】
この機能F23において、中央処理装置190は、上記のような情報を入力とし、記憶装置180に記憶された以下の数式(3)を用いて、充電時の最大電流値Imax.chgを演算して出力する。なお、この機能F23の入力である上限電流値Ilimit,chgおよび上限電圧値Vmaxは、たとえば蓄電装置100およびリレー200を含む電池システムを構成する部材の材料などによって定まる。また、OCVは、電池が静的な状態に置かれた時に観測される電圧である。
【0055】
【数3】
【0056】
また、充電時の算定電圧値を演算する機能F24において、中央処理装置190は、SOCと、機能F22の出力である電圧演算用の内部抵抗値Rchg_vと、機能F23の出力である充電時の最大電流値Imax.chgを入力とする。そして、この機能F24において、中央処理装置190は、これらの入力を用い、記憶装置180に記憶された以下の数式(4)に基づいて、充電時の算定電圧値Vmax,chgを演算して出力する。
【0057】
【数4】
【0058】
また、充電時の最大電力値を演算する機能F25において、中央処理装置190は、機能F23の出力である充電時の最大電流値Imax.chgと、機能F24の出力である充電時の算定電圧値Vmax,chgを入力とする。そして、この機能F25において、中央処理装置190は、これらの入力を用い、以下の数式(5)に基づいて、充電時の最大電力値Wmax,chgを演算して出力する。なお、数式(5)において、Nは、組電池110を構成する単電池1の数である。
【0059】
【数5】
【0060】
以上のように、充電時の最大電力値を演算する機能F2において、中央処理装置190は、電池状態を検知する機能F1から出力されたSOCおよびSOHR、ならびに単電池1の温度を入力とし、記憶装置180に記憶された演算式等を用い、充電時の最大電力値Wmax,chgを演算して出力する。
【0061】
図5は、図3に示す放電時の最大電力値を演算する機能F3の機能ブロック図である。放電時の最大電力値を演算する機能F3は、たとえば、電流演算用の放電抵抗を演算する機能F31と、電圧演算用の放電抵抗を演算する機能F32と、放電時の最大電流値を演算する機能F33と、放電時の算定電圧値を演算する機能F34と、放電時の最大電力値を演算する機能F35と、を備えている。
【0062】
電流演算用の放電抵抗を演算する機能F31において、中央処理装置190は、電池のSOC、温度、SOHRを入力とし、記憶装置180に記憶された以下の数式(6)およびマップ等に基づいて、放電時の最大電流値の演算に用いる内部抵抗値Rdis_iを演算して出力する。
【0063】
【数6】
【0064】
また、電圧演算用の放電抵抗を演算する機能F32において、中央処理装置190は、電池のSOC、温度、SOHRを入力とし、記憶装置180に記憶された以下の数式(7)およびマップ等に基づいて、内部抵抗値Rdis_vを演算して出力する。この内部抵抗値Rdis_vは、放電時の最大電流値が通電されたときの電池の電圧予測値である算定電圧値を演算するために用いられる。
【0065】
【数7】
【0066】
また、放電時の最大電流値を演算する機能F33において、中央処理装置190は、電池のSOCと、機能F31の出力である内部抵抗値Rdis_iと、記憶装置180に記憶された図示を省略する上限電流値Ilimit,disおよび下限電圧値Vminと、を入力とする。ここで、上限電流値Ilimit,disおよび下限電圧値Vminは、蓄電装置100およびリレー200を含む電池システムを構成する部材の材料などによって定まる。そして、中央処理装置190は、これらの入力と、記憶装置180に記憶された以下の数式(8)に基づいて、放電時の最大電流値Imax.disを演算して出力する。
【0067】
【数8】
【0068】
また、放電時の算定電圧値を演算する機能F34において、中央処理装置190は、電池のSOCと、機能F32の出力である内部抵抗値Rdis_vと、機能F33の出力である放電時の最大電流値Imax.disと、を入力とする。そして、中央処理装置190は、これらの入力と、記憶装置180の記憶された以下の数式(9)に基づいて、放電時の算定電圧値Vmax,disを演算して出力する。
【0069】
【数9】
【0070】
また、放電時の最大電力値を演算する機能F35において、中央処理装置190は、機能F33の出力である最大電流値Imax.disと、機能F34の出力である算定電圧値Vmax,disを入力とし、記憶装置180の記憶された以下の数式(10)に基づいて、放電時の最大電力値Wmax,disを演算して出力する。なお、数式(10)において、Nは、組電池110を構成する単電池1の数である。
【0071】
【数10】
【0072】
以上のように、放電時の最大電力値を演算する機能F3において、中央処理装置190は、電池状態を検知する機能F1から出力されたSOCおよびSOHR、ならびに単電池1の温度を入力とし、記憶装置180に記憶された演算式等を用い、放電時の最大電力値Wmax,disを演算して出力する。
【0073】
次に、前記数式(1)に含まれるマップ(ChgDCR_iMap)と、前記数式(2)に含まれるマップ(ChgDCR_vMap)と、前記数式(6)に含まれるマップ(DisDCR_iMap)と、前記数式(7)に含まれるマップ(DisDCR_vMap)について説明する。これらの電池の内部抵抗値のマップは、たとえば電池のSOCや温度などの条件を様々に異ならせて、その条件ごとにパルス状またはステップ状の電流を電池に入力しまたは電池から出力する充放電試験を行い、データを取得することによって作成することができる。
【0074】
図6は、電池を放電させてステップ状の電流を出力する放電試験時の電池の電圧および内部抵抗の時間変化の一例を示すグラフである。図6において、グラフ(a)は電流の時間波形であり、グラフ(b)は電圧の時間波形であり、グラフ(c)は内部抵抗の時間波形である。
【0075】
図6のグラフ(a)のように、電流がゼロの休止状態からステップ状に変化して電池が放電を開始すると、図6のグラフ(b)のように、電圧がステップ状に降下する。電池の内部抵抗は、図6のグラフ(c)のように、電池の放電開始後、時間の経過とともに増加している。このように、電池の内部抵抗は、電池の通電時間に応じて変化する。
【0076】
そのため、電池の内部抵抗のマップを作成する際には、電池の通電開始からどれだけ時間が経過したときの電圧と内部抵抗値との関係を採用するかを、あらかじめ決めておく。そして、電池の通電開始時から所定時間経過時の複数の電圧と内部抵抗値との関係を用いて、電池の内部抵抗値のマップを作成する。
【0077】
図7は、電池の通電時間による内部抵抗特性の変化を示すグラフである。図7のグラフ(a)およびグラフ(b)は、横軸をSOC、縦軸を内部抵抗とし、それぞれ、最も高温での内部抵抗特性を実線で表し、最も低温での内部抵抗特性を破線で示し、その間の温度の内部抵抗特性を点線で示している。また、図7のグラフ(a)は、電池に対して相対的に長時間にわたって通電させたときの内部抵抗特性を示し、図7のグラフ(b)は、電池に対して相対的に短時間にわたって通電させたときの内部抵抗特性を示している。
【0078】
図7に示すように、電池の温度が低いほど、電池の内部抵抗は高くなる。また、通電時間が長くなると、内部抵抗が高くなる傾向がある。そのため、前記数式(1)から(10)における電力演算の過程で用いる内部抵抗値Rchg_i,Rchg_v,Rdis_i,Rdis_vには、任意の単数または複数の通電時間に対応する内部抵抗値について、図7に示すようなSOCと温度に応じたマップを作成して記憶装置180に記憶させる。
【0079】
また、前記数式(3),(4),(8),(9)に含まれるOCVは、一般にSOCに応じて変化するため、内部抵抗特性のマップと同様に、あらかじめ実験によりデータを取得してSOCに応じたマップを作成し、記憶装置180に記憶させておく。
【0080】
図8は、前記数式(1)から(5)に基づいて図3図4に示す機能F2で算出された充電時の最大電力値Wmax,chgの一例を示すグラフである。前記数式(3)の入力、すなわち充電時の最大電流値を演算する機能F23の入力である上限電流値Ilimit,chgは、前述のように、たとえば電池システムを構成する部材の材料などによって定まる。この上限電流値Ilimit,chgが、たとえば200[A]などの固定値である場合、充電時の最大電力値Wmax,chgの傾向は、前記数式(3)において選択された最小値がどちらであったかによって異なる。
【0081】
すなわち、前記数式(3)の充電時の最大電流値Imax.chgが、電池システムを構成する部材の材料などによって定まる上限電流値Ilimit,chgである第1の場合は、充電時の最大電力値Wmax,chgの傾向は、図8のグラフ(a)のようになる。一方、前記数式(3)の充電時の最大電流値Imax.chgが、上限電圧値Vmaxによって規定される電流値となる第2の場合は、充電時の最大電力値Wmax,chgの傾向は、図8のグラフ(b)のようになる。
【0082】
充電時の最大電流値Imax.chgが上限電流値Ilimit,chgで制限される前記第1の場合は、上限電流値Ilimit,chgが固定値であるため、充電時の最大電力値Wmax,chgの大小は、電池に上限電流値Ilimit,chgが流れたときの電圧、すなわち前記数式(4)で算出される充電時の算定電圧値Vmax,chgの大小で決まる。前記数式(4)において、電池のSOCが上昇するほどOCVは高くなり、電池の温度が低くなるほど内部抵抗値Rchg_vが高くなるため、充電時の算定電圧値Vmax,chgも、電池のSOCが上昇するほど高くなり、電池の温度が低くなるほど高くなる。そのため、前記数式(5)で算出される充電時の最大電力値Wmax,chgも同様に、図8のグラフ(a)のように、電池のSOCが高くなるほど大きくなり、電池の温度が低くなるほど大きくなる傾向がある。
【0083】
一方、充電時の最大電流値Imax.chgが上限電圧値Vmaxで制限される前記第2の場合は、充電時の最大電流値Imax.chgが電池のSOCや温度に応じて変化するため、充電時の最大電流値Imax.chgの大小によって充電時の最大電力値Wmax,chgの大小が決まる。具体的には、SOCが高くなるほど、OCVが高くなって充電時の最大電流値Imax.chgが小さくなり、電池の温度が低くなるほど、内部抵抗が高くなって充電時の最大電流値Imax.chgが小さくなる傾向がある。したがって、前記数式(5)で算出される充電時の最大電力値Wmax,chgも同様に、図8のグラフ(b)のように、電池のSOCが高くなるほど小さくなり、電池の温度が低くなるほど小さくなる傾向がある。
【0084】
図9は、前記数式(6)から(10)に基づいて図3図4で算出された放電時の最大電力値Wmax,disの一例を示すグラフである。放電時の最大電力値Wmax,disは、SOCが低下するほど低下する。また、電池の温度が低下するほど、電池の内部抵抗が上昇して放電時の最大電力値Wmax,disが低下する傾向がある。
【0085】
以上のように、蓄電装置100の組電池制御部150は、入力された情報、および記憶装置180にあらかじめ記憶されている情報に基づいて、電池の充放電を適切に制御するための充放電時の最大電力値の演算、SOCやSOHRの演算、および電圧均等化制御を行うための演算などを行う。組電池制御部150は、これらの演算結果や、その演算結果に基づく指令を、単電池管理部120や車両制御部400に出力する。
【0086】
インバータ300は、図1に示すように、たとえばリレー200を介して蓄電装置100に接続されている。また、インバータ300は、車両制御部400に接続されている。車両制御部400は、組電池制御部150から出力された情報に基づいて、インバータ300を制御する。蓄電装置100が搭載された車両は、たとえば車両制御部400の制御の下、蓄電装置100がリレー200を介してインバータ300に接続される。これにより、組電池110を構成する単電池1に蓄積された電気エネルギーによってモータジェネレータ500が駆動され、車両が走行する。また、車両の制動時にモータジェネレータ500で発電された回生電力が、インバータ300およびリレー200を介して蓄電装置1000に供給され、組電池110を構成する単電池1が充電される。
【0087】
以下、従来技術および比較例との対比に基づいて、本開示に係る電池制御装置の一実施形態である組電池制御部150の作用を説明する。
【0088】
従来から電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、ハイブリッド自動車(HEV)などに搭載される電池システムは、直列または並列に接続された二次電池と、その二次電池と負荷との電気的な接続のオンオフを制御するためのリレーや電流センサ等の電気的な部品などを備えている。電池システムは、二次電池の劣化による出力低下を抑制するため、電池システムの過渡な使用を検知した場合に、二次電池からモータ等の負荷にかかる電力または電流を制限する電池制御装置を備えている。
【0089】
電池システムは、二次電池を適切な範囲で使用するために電池の電圧および電池に流れる電流に対して制限が設けられている。電池の電圧に対する制限値、すなわち上限電圧および下限電圧や、電流に対する制限値、すなわち上限電流値は、二次電池の過充電の防止や、劣化の進行を抑制することを目的として設定されている。これらは、二次電池に充電可能な最大電力値または二次電池から放電可能な最大電力値、すなわち充電時の最大電力値および放電時の最大電力値を規定する上で重要なパラメータである。
【0090】
二次電池の充放電時の最大電力値の演算には、上述した二次電池の上限電圧値および下限電圧値ならびに上限電流値に加え、二次電池の内部抵抗を用いる。二次電池の内部抵抗は、電流が流れた時間、すなわち通電時間に応じて変化する。そのため、二次電池の充放電中のリアルタイムな最大電力値を規定する際には、二次電池が実際に作動している間の充放電パターンを考慮した適切な内部抵抗を設定し、充放電時の最大電力値を演算する必要がある。
【0091】
前記特許文献1に記載された従来の電池制御装置によれば、充放電を継続するにしたがって単電池の内部抵抗が変化しても、内部抵抗テーブルから取得する内部抵抗値を変化にしたがって切り替えることにより、内部抵抗の変化に追従することができる。(同文献、第0010段落等を参照)。この従来の電池制御装置は、二次電池に流れる電流の通電時間に応じた適切な内部抵抗値を設定することで、その内部抵抗値に対応した二次電池の充放電時の最大電力値を演算することが可能である。
【0092】
ここで、現時点から所定の時間にわたって連続して二次電池に入力可能な電力として充放電時の最大電力値を規定する。この場合、現時点以降から連続して二次電池に通電可能な電流値を算出し、その電流値に基づいて二次電池の通電時の電圧を算出し、その電圧と算出した連続して二次電池に通電可能な電流値とを乗算することで、充放電時の最大電力値を算出する。
【0093】
しかし、通電時の二次電池の電圧の演算値と実測値とは、一致しないことがある。この場合、前述のように算出された充放電時の最大電力値に相当する負荷が二次電池に入力されると、算出された二次電池に連続して通電可能な電流に対し、過大な電流値または過小な電流値が二次電池に流れるおそれがある。
【0094】
ここで、本実施形態の組電池制御部150との比較のために、従来技術に相当する比較例の電池制御装置を想定する。比較例の電池制御装置では、図4に示す充電時の最大電流値Imax.chgの演算用の内部抵抗値Rchg_iと、充電時の算定電圧値Vmax,chgの演算用の内部抵抗値Rchg_vとが同一の内部抵抗値であり、図5に示す放電時の最大電流値Imax.disの演算用の内部抵抗値Rdis_iと、放電時の算定電圧値Vmax,disの演算用の内部抵抗値Rdis_vとが同一の内部抵抗値であるものとする。この比較例の電池制御装置の問題点を、図10から図12を参照して説明する。
【0095】
図10は、比較例の電池制御装置を備える蓄電装置の充電時の電力、電流、内部抵抗および電圧の時間変化の一例を示すグラフである。図10において、グラフ(a)は電池の充電時の電力の時間変化を示し、グラフ(b)は充電時に電池に流れる電流の時間変化を示し、グラフ(c)は充電時の電池の内部抵抗の時間変化を示し、グラフ(d)は充電時の電池の電圧の時間変化を示している。
【0096】
比較例の電池制御装置を備える蓄電装置では、電池が休止状態から充電が開始されると、電池のSOCが変化することで、充電時の最大電力値は、時間の経過とともに変化する。そのため、図10では、時間の経過とともに変化する電力の演算値をそのまま電池に入力する場合を想定する。また、図8に示すように、充電時の最大電力値の挙動は、前記数式(3)で最小値としてどちらの電流値が選択されるかによって変化する。そのため、図10では、充電時の最大電流値Imax.chgが上限電流値Ilimit,chgで制限される前記第1の場合(図8のグラフ(a)の場合)における、電力、電流、内部抵抗値、電圧の挙動を示している。
【0097】
充電時の最大電流値Imax.chgが上限電流値Ilimit,chgで制限される前記第1の場合には、充電時の最大電力値が、SOCの上昇にともなって増加するため、充電時のSOCの上昇により、図10のグラフ(a)のように、充電時の最大電力値も増加する傾向にある。このとき、電池システムの構成部材で決まる充電時の上限電流値Ilimit,chgが固定値であるため、図10のグラフ(b)に点線で示す演算上の充電時の最大電流値Imax.chgが固定値となる。
【0098】
しかし、図10のグラフ(b)において実線で示すように、実際に電池に流れる電流値は、休止状態から通電が開始されたときに、点線で示す演算上の充電時の最大電流値Imax.chgを大きく超え、時間の経過とともに減少して演算上の充電時の最大電流値Imax.chgに収束している。このような現象が生じるのは、次のような理由による。
【0099】
図10のグラフ(c)において実線で示す実際の電池の内部抵抗値は、電池の通電開始時が最小値であり、時間の経過とともに増加している。そのため、図10のグラフ(d)に実線で示す実際の電池の電圧値も同様に、電池の通電開始時が最小値であり、時間の経過とともに増加している。
【0100】
比較例の電池制御装置においては、電圧の演算に使用する電池の内部抵抗値は、図10のグラフ(c)において点線で示すように、充電開始から所定時間が経過した時点の実際の電池の内部抵抗値に固定されている。そのため、電池の充電開始から所定時間が経過するまでの間、図10のグラフ(c)において実線で示す実際の電池の内部抵抗値は、点線で示す電圧の演算に使用する電池の内部抵抗値よりも小さくなる。
【0101】
そのため、図10のグラフ(c)において点線で示す演算用の内部抵抗値に基づいて算出された充電時の最大電力値で電池の充電が開始されると、図10のグラフ(b)において実線で示す実際の電流値が点線で示す最大電流値Imax.chgを大きく超えることになる。このときに流れる電流値による充電時の最大電力値は、以下の数式(11)のようになる。
【0102】
【数11】
【0103】
数式(11)において、上段の右辺が比較例の電池制御装置によって演算された充電時の最大電力値であり、図10のグラフ(b)に点線で示す最大電流値Imax.chgと、図10のグラフ(c)に破線で示す電圧演算用の内部抵抗値Rchg_vが含まれている。また、上段の右辺に等しい下段の右辺には、図10のグラフ(b)に実線で示す実際の電流値Imax.chg’と、図10のグラフ(c)に実線で示す実際の内部抵抗値Rchg_v’が含まれている。
【0104】
この数式(11)により、図10のグラフ(c)において破線で示す電圧演算用の内部抵抗値Rchg_vが実線で示す実際の内部抵抗値Rchg_v’より大きい場合、図10のグラフ(b)において実線で示す電流値Imax.chg’が点線で示す最大電流値Imax.chgよりも大きくなることが分かる。ただし、所定時間の経過後は、図10のグラフ(c)において破線で示す電圧演算用の内部抵抗値Rchg_vに実線で示す実際の内部抵抗値Rchg_v’が収束し、図10のグラフ(b)において実線で示す電流値Imax.chg’が点線で示す最大電流値Imax.chgに一致する。
【0105】
図11は、比較例の電池制御装置を備える蓄電装置の充電時の電力、電流、内部抵抗および電圧の時間変化の一例を示すグラフである。図11において、グラフ(a)は電池の充電時の電力の時間変化を示し、グラフ(b)は充電時に電池に流れる電流の時間変化を示し、グラフ(c)は充電時の電池の内部抵抗の時間変化を示し、グラフ(d)は充電時の電池の電圧の時間変化を示している。
【0106】
図10では、充電時の最大電流値Imax.chgが上限電流値Ilimit,chgで制限される前記第1の場合を示したが、図11では、充電時の最大電流値Imax.chgが上限電圧値Vmaxで制限される前記第2の場合における、電力、電流、内部抵抗値、電圧の挙動を示す。前述のように比較例の電池制御装置を備える蓄電装置では、電池が休止状態から通電が開始されると、電池のSOCが変化することで、充電時の最大電力値は、時々刻々と変化する。そのため、図11においても、時間の経過ととともに変化する電力の演算値をそのまま電池に入力する場合を想定する。
【0107】
充電時の最大電流値Imax.chgが上限電圧値Vmaxで制限される前記第2の場合には、図11のグラフ(a)のように、充電中に電池のSOCの上昇にともなって、充電時の最大電力値が減少していく。同様に、図11のグラフ(b)のように、充電中に電池のSOCの上昇にともなって、電流値が減少していく。充電時の最大電流値Imax.chgが上限電圧値Vmaxで制限される前記第2の場合においても、図11のグラフ(c)のように、所定時間が経過するまでの間は、実線で示す実際の電池の内部抵抗が、点線で示す演算用の電池の内部抵抗よりも小さい。そのため、充電開始から所定時間が経過するまでの間、図11のグラフ(b)において、実線で示す実際に電池に流れる電流値が、点線で示す充電時の最大電流値Imax.chgよりも大きくなる。
【0108】
以上のように、比較例に係る電池制御装置を備えた蓄電装置では、電池の電圧の演算に用いる内部抵抗値が、実際の電池の内部抵抗値と異なると、電池に流れる電流が、電池の充電時の最大電流値Imax.chgを超過するおそれがある。特に、前記第1の場合に、電池システムの構成部材等による制約で決まる充電時の上限電流値Ilimit,chgを超過する現象は、電池システムの安全性や耐久性に影響を与えるおそれがある。
【0109】
次に、比較例の電池制御装置を備える蓄電装置において、放電時の最大電力値に相当する電力を出力した場合の挙動について、図12を参照して説明する。なお、図12においても、図10および図11と同様に、時間の経過とともに変化する放電時の最大電力値の演算値をそのまま電池から出力させる場合を想定して説明する。また、放電時においても、電流および電圧の演算用の内部抵抗として、放電開始から所定時間が経過した時点の実際の電池の内部抵抗を固定値として用い、この演算用の内部抵抗に基づいて算出した放電時の最大電力値を放電した場合を想定する。
【0110】
放電時は、SOCの低下にともなって、放電時の最大電力値が低下する。このとき、図11のグラフ(b)に実線で示すように、電池に実際に流れる電流値は、時間の経過にともなって低下する。放電時は、充電時と異なり、図12のグラフ(b)において、実線で示す実際に電池に流れる電流の絶対値は、点線で示す放電時の最大電流値の絶対値よりも小さくなっている。なお、放電時の電流値はマイナスの値であるため、ここでは電流値の比較を電流値の絶対値の大小で行っている。このように、図12のグラフ(b)において、実線で示す実際に電池に流れる電流の絶対値が、点線で示す放電時の最大電流値の絶対値よりも小さくなるのは、次のような理由による。
【0111】
比較例の電池制御装置では、図12のグラフ(c)において点線で示す演算用の内部抵抗値を、所定時間が経過した時点の実際の電池の内部抵抗に固定している。そのため、電池の放電開始から所定時間が経過するまでの間は、点線で示す演算用の内部抵抗値が実線で示す実際の電池の内部抵抗値よりも大きくなる。この場合、図12のグラフ(b)に示すように、電圧演算用の内部抵抗値を用いて算出した放電時の最大電力値で電池を放電させた場合に、実線で示す電池に実際に流れる電流値の絶対値は、点線で示す演算上の放電時の最大電流値の絶対値よりも小さくなる。このときに流れる電流値による放電時の最大電力値は、以下の数式(12)のようになる。
【0112】
【数12】
【0113】
数式(12)において、上段の右辺が比較例の電池制御装置によって演算された放電時の最大電力値であり、図12のグラフ(b)に点線で示す演算用の電流値Imax.disと、図12のグラフ(c)に破線で示す演算用の内部抵抗値Rdis_vが含まれている。また、上段の右辺に等しい下段の右辺には、図12のグラフ(b)に実線で示す電流値Imax.dis’と、図12のグラフ(c)に実線で示す実際の内部抵抗値Rdis_v’が含まれている。
【0114】
この数式(12)により、図12のグラフ(c)において破線で示す演算用の内部抵抗値Rdis_vが実線で示す実際の内部抵抗値Rdis_vより大きい場合、図12のグラフ(b)において実線で示す電流値Imax.dis’の絶対値が、点線で示す演算用の電流値Imax.disの絶対値よりも小さくなることが分かる。ただし、所定時間の経過後は、図12のグラフ(c)において破線で示す電圧演算用の内部抵抗値Rdis_vが実線で示す実際の内部抵抗値Rdis_v’に収束し、図12のグラフ(b)において実線で示す電流値Imax.dis’が点線で示す演算用の電流値Imax.disに一致する。
【0115】
このように、比較例の電池制御装置は、前述の充電時とは異なり、放電時に電池に実際に流れる電流値は、放電時の最大電流値の絶対値よりも小さくなる。したがって、比較例の電池制御装置は、放電時において、演算用の内部抵抗値を、所定時間が経過した時点の実際の電池の内部抵抗に固定していることで、より安全性が高くなっている。そのため、以下では、比較例の電池制御装置において、電池に流れる電流値が最大電流値を超える電池の充電時に焦点を当てて、本開示に係る電池制御装置の一実施形態である組電池制御部150の作用を説明する。
【0116】
本実施形態の組電池制御部150は、前述のように、電池の内部抵抗値Rchg_i,Rdis_i,Rchg_v,Rdis_vに基づいて電池の最大電流値Imax.chg(またはImax.dis)とその最大電流値の通電時の電池の算定電圧値Vmax,chg(またはVmax,dis)とを演算し、その最大電流値と算定電圧値とに基づいて電池の最大電力値Wmax,chg(またはWmax,dis)を演算する電池制御装置である。そして、組電池制御部150は、最大電流値Imax.chg(またはImax.dis)の演算に用いる電池の第一の内部抵抗値Rchg_i(またはRdis_i)と算定電圧値Vmax,chg(またはVmax,dis)の演算に用いる第二の内部抵抗値Rchg_v(またはRdis_v)とが異なる。
【0117】
図13および図14は、本実施形態の組電池制御部150の作用を説明するグラフである。図13において、グラフ(a)は電池の充電時の電力の時間変化を示し、グラフ(b)は充電時に電池に流れる電流の時間変化を示し、グラフ(c)は充電時の電池の内部抵抗の時間変化を示し、グラフ(d)は充電時の電池の電圧の時間変化を示している。以下では、図11に示す比較例の電池制御装置のグラフとの相違点を中心に、図13のグラフを説明する。
【0118】
まず、本実施形態の組電池制御部150は、図13のグラフ(c)において点線で示すように、算定電圧値Vmax,chgの演算に用いる電池の第二の内部抵抗値Rchg_vが、たとえば、実線で示す電池の通電開始時またはその直後の内部抵抗値に設定されている。そのため、図13のグラフ(b)において、実線で示す電池に電力が入力された瞬間に電池に実際に流れる電流値は、破線で示す最大電流値Imax.chgと一致する。すなわち、図13のグラフ(c)において、電池の通電開始時に、点線で示す電圧演算用の内部抵抗値Rchg_vが実線で示す実際の内部抵抗値Rchg_v’に一致するため、図13のグラフ(b)に実線で示す実際に電池に流れる電流値は点線で示す最大電流値Imax.chgに一致する。
【0119】
電池に電力が入力された瞬間に、電池に最大電流値Imax.chgが流れた後は、図13のグラフ(c)に実線で示す電池の内部抵抗は、時間の経過とともに点線で示す電圧演算用の内部抵抗値Rchg_vよりも大きくなる。すなわち、前記数式(11)において、実際の内部抵抗値Rchg_v’が電圧演算用の内部抵抗値Rchg_vよりも大きくなるため、図13(b)に実線で示すように、電池に流れる電流は、最大電流値Imax.chgよりも小さくなる。
【0120】
以上により、本実施形態の組電池制御部150によれば、最大電流値Imax.chgの演算に用いる電池の第一の内部抵抗値Rchg_iと算定電圧値Vmax,chgの演算に用いる第二の内部抵抗値Rchg_vとを異ならせ、第二の内部抵抗値Rchg_vを電池に電力が入力された瞬間またはその直後の電池の内部抵抗値に設定することで、電池に過大な電流が通電されない最大電力値Wmax,chgを算出することが可能である。ここで、直後とは、たとえば電圧、電流などを測定するセンサのサンプリング周期である。
【0121】
次に、図14を参照して、充電時の最大電流値Imax.chgが上限電圧値Vmaxで制限される前記第2の場合における本実施形態の組電池制御部150の作用を説明する。図14において、グラフ(a)は電池の充電時の電力の時間変化を示し、グラフ(b)は充電時に電池に流れる電流の時間変化を示し、グラフ(c)は充電時の電池の内部抵抗の時間変化を示し、グラフ(d)は充電時の電池の電圧の時間変化を示している。
【0122】
この第2の場合においても、前記第1の場合と基本的には同様であり、図14のグラフ(c)において、点線で示す電圧演算用の内部抵抗値Rchg_vが実線で示す実際の内部抵抗値Rchg_v’に一致する。そのため、図14のグラフ(b)において実線で示す実際に電池に流れる電流値は、電池の通電開始時およびその直後に、点線で示す最大電流値Imax.chgと等しくなる。その後は、図14のグラフ(c)に示すように、実線で示す実際の内部抵抗値Rchg_v’が、点線で示す電圧演算用の内部抵抗値Rchg_vよりも大きくなる。
【0123】
そのため、図14のグラフ(b)において実線で示す実際に電池に流れる電流値は、点線で示す最大電流値Imax.chgよりも小さくなる。したがって、本実施形態の組電池制御部150によれば、最大電流値Imax.chgの演算に用いる電池の第一の内部抵抗値Rchg_iと算定電圧値Vmax,chgの演算に用いる第二の内部抵抗値Rchg_vとを異ならせ、第二の内部抵抗値Rchg_vを電池に電力が入力された瞬間またはその直後の電池の内部抵抗値に設定することで、電池に過大な電流が通電されない最大電力値Wmax,chgを算出することが可能である。
【0124】
本実施形態の組電池制御部150では、第二の内部抵抗値Rchg_vを電池に電力が入力された瞬間またはその直後の電池の内部抵抗値に設定することで、最大電流値Imax.chgの演算に用いる電池の第一の内部抵抗値Rchg_iと算定電圧値Vmax,chgの演算に用いる第二の内部抵抗値Rchg_vとを異ならせた。これにより、図13および図14に示すように、電池に過大な電流が通電されない最大電力値Wmax,chgを算出することが可能である。
【0125】
また、本実施形態の組電池制御部150では、たとえば100[msec]程度から10[msec]程度の範囲の制御周期で電流や電圧などのデータをサンプリングしている。そのため、電池に電力が入力された瞬間に見える電池の内部抵抗値は、一制御周期、すなわち一サンプリング周期前の電流、電圧の取得データと、現時点における取得データとで決まる。このときに見える内部抵抗は、パルスやステップ状の電力を電池に入力してから一サンプリング周期後に見える内部抵抗値と等しい。このため、実際の運用上は、サンプリング周期に対応する内部抵抗値、たとえば、電力の入力から100[msec]後に見える内部抵抗を、電圧演算用の内部抵抗値Rchg_vとすることができる。
【0126】
なお、本実施形態の組電池制御部150において、第一の内部抵抗値Rchg_iは、電池に対する最大電流値Imax.chgの通電開始時から第一の時間が経過した時の電池の内部抵抗値に設定され、第二の内部抵抗値Rchg_vは、通電開始時点から第一の時間よりも短い第二の時間が経過したときの電池の内部抵抗値に設定される。具体的には、たとえば、第二の時間を上記サンプリング周期とし、第一の時間をサンプリング周期よりも長い所定の時間とすることができる。
【0127】
以上説明したように、本実施形態によれば、電池に過大な電流が通電されない最大電力値Wmax,chgを算出することが可能な電池制御装置である組電池制御部150を提供することができる。
【0128】
[実施形態2]
以下、図1から図3を援用し、図15から図25を参照して、本開示に係る電池制御装置の実施形態2を説明する。
【0129】
前述の実施形態1の組電池制御部150では、最大電流値Imax.chg,Imax.disの演算に用いる電池の第一の内部抵抗値Rchg_i,Rdis_iと、その最大電流値Imax.chg,Imax.disの通電時の電池の算定電圧値Vmax,chg,Vmax,disの演算に用いる第二の内部抵抗値Rchg_v,Rdis_vとを異なる値に設定し、連続的な充電時に演算した充電時および放電時の最大電流値Imax.chg,Imax.disを超過しないようにした。本実施形態の組電池制御部150では、前述の実施形態1に加え、さらに現時点までの充放電の履歴(前時点までに充放電されたことによって生じている分極電圧)考慮した演算式を適用する。
【0130】
より具体的には、本実施形態の組電池制御部150は、記憶装置180および中央処理装置190による演算機能が、前述の実施形態1と異なっている。本実施形態の組電池制御部150のその他の点は、前述の実施形態と同様であるので、同様の部分には、同一の符号を付して説明を省略する。
【0131】
図15は、実施形態1の図4に相当する本実施形態の組電池制御部150の充電時の許容電力を演算する機能F2’のブロック図である。本実施形態の組電池制御部150は、図4に示す機能F21および機能F22に代えて、電流演算用の充電等価回路のパラメータを演算する機能F21’と、電圧演算用の充電等価回路のパラメータを演算する機能F22’を備えている。
【0132】
図15に示すように、電流演算用の充電等価回路のパラメータを演算する機能F21’は、電池のSOC、SOHR、温度、および電流演算用の連続通電時間t_curを入力とし、最大電流値の演算用の内部抵抗値Rchg_iと、分極電圧Vp_iを出力する。電圧演算用の充電等価回路のパラメータを演算する機能F22’は、電池のSOC、SOHR、温度、および電圧演算用の連続通電時間t_volを入力とし、算定電圧値の演算用の内部抵抗値Rchg_vと、分極電圧Vp_vを出力する。
【0133】
さらに、充電時の最大電流値を演算する機能F23’は、機能F21’の出力である内部抵抗値Rchg_iと、分極電圧Vp_iを入力として、充電時の最大電流値Imax,chgを出力する。充電時の算定電圧を演算する機能F24’は、機能F22’の出力である内部抵抗値Rchg_vと、分極電圧Vp_vを入力とし、充電時の算定電圧値Vmax,chgを出力する。充電時の最大電力を演算する機能F25’は、機能F23’の出力である最大電流値Imax,chgと、機能F24’の出力である算定電圧値Vmax,chgを入力とし、充電時の最大電力値Wmax,chgを出力する。
【0134】
まず、図17を参照して、電池の充放電の履歴、すなわち分極電圧の演算方法を説明する。図17は、電池の電圧挙動を再現する電圧等価回路モデルすなわち電圧モデルMの一例である。電圧モデルMは、たとえば記憶装置180に記憶されている。電圧モデルMは、電池のOCVを模擬する起電力成分に対し、時間に依存しない電池材料のオーミックな抵抗成分であるRoと、時間に応じて変化する分極電圧Vpを模擬する、分極抵抗RpとコンデンサCの並列回路を直列に接続した構成になっている。なお、図17において、τは、分極抵抗RpとコンデンサCの並列回路における分極時定数成分である。
【0135】
図17に示す電圧モデルMに基づく電池の電圧(Closed Circuit Voltage: CCV)は、以下の数式(13)および(14)で表される。
【0136】
【数13】
【0137】
【数14】
【0138】
数式(13)および(14)に含まれるOCV,Ro,Rp,τは、SOCや温度に応じたマップとして、あらかじめ電池を使った充放電試験結果から抽出し、たとえば記憶装置180に記憶させて実装する。これにより、数式(13)および(14)に基づいて、電池の充放電中にリアルタイムな電圧挙動を演算することが可能である。なお、数式(14)において、Vp_zは、一制御周期前の分極電圧を示しており、tsは、制御周期を示している。
【0139】
図17および数式(14)における分極電圧Vpは、現時点までの電池の充放電によって生じうる電圧成分を示している。この分極電圧Vpを、後述する充電時および放電時の最大電力の演算に使用することで、現時点までの電圧履歴を考慮した充電時および放電時の最大電力を演算する。以降では、図17ならびに前記数式(13)および(14)に基づいて、充電時の最大電力を演算する例を説明する。
【0140】
電流演算用の充電等価回路のパラメータを演算する機能F21’において、中央処理装置190は、前述のように、電池のSOC、SOHR、温度、および電流演算用の連続通電時間t_curを入力とし、記憶装置180に記憶された以下の数式(15)から(17)に基づいて、内部抵抗値Rchg_iと分極電圧Vp_iを演算する。ここで、分極電圧Vp_iは、現時点までに発生した分極電圧Vpの連続通電時間t_curに相当する時間経過後の分極電圧である。
【0141】
【数15】
【0142】
【数16】
【0143】
【数17】
【0144】
ここで、数式(16)に含まれるRp(SOC,T)およびτ(SOC,T)は、以下の数式(18)および(19)で表される。
【0145】
【数18】
【0146】
【数19】
【0147】
電圧演算用の充電等価回路のパラメータを演算する機能F22’において、中央処理装置190は、SOC、温度、SOHR、電圧演算用の通電可能時間t_volを入力とする。そして、中央処理装置190は、上記の入力と以下の数式(20)および(21)に基づいて、内部抵抗値Rchg_vと分極電圧Vp_vを出力する。ここで、中央処理装置190は、記憶装置180に記憶された前記数式(16)により算出された現時点までに発生した分極電圧Vpのt_volに相当する時間経過後の分極電圧Vp_vを演算する。
【0148】
【数20】
【0149】
【数21】
【0150】
充電時の最大電流値を演算する機能F23’において、中央処理装置190は、機能F21’から出力される内部抵抗値Rchg_iおよび分極電圧Vp_iと、SOCと、を入力とする。また、中央処理装置190は、図示を省略する電池システムの構成部材などから定まる上限電流値Ilimit,chgと上限電圧値Vmaxを入力とする。また、中央処理装置190はこれらの入力と、記憶装置180に記憶された以下の式(22)に基づいて充電時の最大電流値Imax,chgを演算する。
【0151】
【数22】
【0152】
充電時の算定電圧を演算する機能F24’において、中央処理装置190は、SOCと、機能F22’の出力である内部抵抗値Rchg_vおよび分極電圧Vp_v、機能F23’の出力である最大電流値Imax,chgを入力とする。そして、中央処理装置190は、これらの入力と、記憶装置180に記憶された以下の数式(23)によって、充電時の算定電圧値Vmax,chgを演算する。
【0153】
【数23】
【0154】
充電時の最大電力を演算する機能F25’において、中央処理装置190は、機能F23’の出力である充電時の最大電流値Imax,chgと機能F24’の出力である充電時の算定電圧値Vmax,chgを入力とする。そして、中央処理装置190は、これらの入力と記憶装置180に記憶された以下の数式(24)に基づいて、充電時の最大電力値Wmax,chgを出力する。なお、数式(24)において、Nは蓄電装置100を構成する単電池1の個数を示している。
【0155】
【数24】
【0156】
図16は、実施形態1の図5に相当する本実施形態の組電池制御部150の放電時の最大電力を演算する機能F3’のブロック図である。本実施形態の組電池制御部150は、図5に示す機能F31および機能F32に代えて、電流演算用の放電等価回路のパラメータを演算する機能F31’と、電圧演算用の放電等価回路のパラメータを演算する機能F32’を備えている。
【0157】
図16に示すように、電流演算用の放電等価回路のパラメータを演算する機能F31’は、電池のSOC、SOHR、温度、および電流演算用の連続通電時間t_curを入力とし、最大電流値の演算用の内部抵抗値Rdis_iと、分極電圧Vp_iを出力する。電圧演算用の放電等価回路のパラメータを演算する機能F32’は、電池のSOC、SOHR、温度、および電圧演算用の連続通電時間t_volを入力とし、算定電圧値の演算用の内部抵抗値Rdis_vと、分極電圧Vp_vを出力する。
【0158】
さらに、放電時の最大電流値を演算する機能F33’は、機能F31’の出力である内部抵抗値Rdis_iと、分極電圧Vp_iを入力として、放電時の最大電流値Imax,disを出力する。放電時の算定電圧を演算する機能F34’は、機能F32’の出力である内部抵抗値Rdis_vと、分極電圧Vp_vを入力とし、放電時の算定電圧値Vmax,disを出力する。
【0159】
電流演算用の放電等価回路のパラメータを演算する機能F31’において、中央処理装置190は、前述のように、電池のSOC、SOHR、温度、および電流演算用の連続通電時間t_curを入力とする。さらに、中央処理装置190は、これらの入力と、記憶装置180に記憶された以下の数式(25)に基づいて、内部抵抗値Rdis_iを演算する。また、中央処理装置190は、現時点までに発生した分極電圧Vpのt_curに相当する時間経過後の分極電圧Vp_iを前記数式(17)に基づいて演算する。
【0160】
【数25】
【0161】
電圧演算用の放電等価回路のパラメータを演算する機能F32’において、中央処理装置190は、SOC、温度、SOHR、電圧演算用の通電時間t_volを入力とする。そして、中央処理装置190は、上記の入力と記憶装置180に記憶された以下の数式(26)に基づいて、内部抵抗値Rdis_vを出力する。ここで、中央処理装置190は、前記数式(16)により算出された現時点までに発生した分極電圧Vpのt_volに相当する時間経過後の分極電圧Vp_vを前記数式(21)に基づいて演算する。
【0162】
【数26】
【0163】
放電時の最大電流値を演算する機能F33’において、中央処理装置190は、機能F31’から出力される内部抵抗値Rdis_iおよび分極電圧Vp_i、SOCを入力とする。また、中央処理装置190は、図示を省略する電池システムの構成部材などから定まる上限電流値Ilimit,disと下限電圧値Vminを入力とする。また、中央処理装置190はこれらの入力と、記憶装置180に記憶された以下の式(27)に基づいて放電時の最大電流値Imax,disを演算する。
【0164】
【数27】
【0165】
放電時の算定電圧を演算する機能F34’において、中央処理装置190は、機能F32’の出力である内部抵抗値Rdis_vおよび分極電圧Vp_v、機能F23’の出力である最大電流値Imax,disを入力とする。そして、中央処理装置190は、これらの入力と、記憶装置180に記憶された以下の数式(28)によって、放電時の算定電圧値Vmax,disを演算する。
【0166】
【数28】
【0167】
放電時の最大電力を演算する機能F35’において、中央処理装置190は、機能F33’の出力である放電時の最大電流値Imax,disと機能F34’の出力である放電時の算定電圧値Vmax,disを入力とする。そして、中央処理装置190は、これらの入力と記憶装置180に記憶された以下の数式(29)に基づいて、放電時の最大電力値Wmax,disを出力する。なお、数式(29)において、Nは蓄電装置100を構成する単電池1の個数を示している。
【0168】
【数29】
【0169】
次に、前記数式(24)または(29)に基づいて算出した充電時または放電時の最大電力に関し、比較例に係る電池制御装置の課題と本実施形態の組電池制御部150による作用を図18から図25を参照して説明する。
【0170】
比較例に係る電池制御装置は、前述の実施形態で説明したように、パルス電流またはステップ電流を電池に通電し、所定の時間が経過した時の電池の内部抵抗を、電流の演算用の内部抵抗と電圧の演算用の内部抵抗として用いる。これは、本実施形態において、電流の演算用の通電時間t_curと、電圧の演算用の通電時間t_volを同じ値に設定することに相当する。
【0171】
ここで、前述の実施形態1と同様に、逐次演算される充電時の最大電力および放電時の最大電力相当の負荷を、電池に連続的に入力した場合のグラフを、図18から図21に示す。各図においてグラフ(a)は、電力の時間変化、グラフ(b)は、電流の時間変化、グラフ(c)は、電圧の時間変化を、それぞれ示している。
【0172】
また、図18は、充電時の最大電流値Imax.chgが上限電流値Ilimit,chgで制限される前記第1の場合であり、図19は、充電時の最大電流値Imax.chgが上限電圧値Vmaxで制限される前記第2の場合である。図20は、放電時の最大電流値Imax.disが上限電流値Ilimit,disで制限される前記第1の場合であり、図21は、放電時の最大電流値Imax.disが下限電圧値Vminで制限される前記第2の場合である。
【0173】
本実施形態の組電池制御部150による電力の演算式は、図17で示した等価回路モデルを応用した算出式となっている。想定した等価回路モデルが電池の電圧挙動を完全に再現できると仮定すると、図18図19で示している充電時の最大電力相当の電力を入力する試験では、グラフ(c)に点線と実線で示すように、前記数式(23)で演算される充電時の最大電流の通電時の電圧値と、実際の電池の電圧との間で不一致が発生している。
【0174】
つまり、図18および図19のグラフ(c)のように、点線で示す演算した電池の電圧が実線で示す実測した電圧よりも大きな値となっている分、グラフ(a)に示すように、過剰に演算された充電時の最大電力を入力している。そのため、図18および図19のグラフ(b)のように、破線で示す充電時の最大電流値に比べ、実線で示す実際の電流が過剰に電池に流れてしまうことになる。
【0175】
一方で、放電時の最大電力相当の電力を出力する試験では、図20および図21のグラフ(c)において点線で示すように、前記数式(28)で演算される放電時の最大電流が通電している時の電池の電圧値は、実線で示す実際の電圧値よりも低い。その分、グラフ(a)のように、過小に演算された放電時の最大電力を出力している。そのため、図20および図21のグラフ(b)において、実線で示す実際の電流値の絶対値が、点線で示す放電時の最大電流値の絶対値に比べ、過小に流れてしまうことになる。
【0176】
次に、本実施形態の組電池制御部150の作用を、図22から図25を参照して説明する。実施形態1の組電池制御部150と同様に、充電時または放電時の最大電流が通電された時の電池の電圧を演算に使用する電圧演算用の通電時間t_volを、電力が入力された瞬間の電圧を再現出来るよう、0に設定した例で説明する。図22および図23は、t_volを0としたときの充電時の最大電力相当の電力を入力したときの波形を示し、図24および図25は、t_volを0としたときの放電時の最大電力相当の電力を入力したときの波形を示している。
【0177】
図22および図23に示すように、t_Volを0としたことにより、前記数式(23)で演算される算定電圧と実際の電池の電圧が一致するため、流れる電流値も充電時の最大電流相当の電流が流れることが分かる。つまり、本実施形態の組電池制御部150によれば、比較例の電池制御装置や従来技術の適用時のような過剰な電流が電池に流れることなく充電することができる。
【0178】
また、図24および図25のグラフ(c)に示すように、t_Volを0としたことにより、前記数式(28)で演算される放電時の最大電流が通電された時の電池の算定電圧値が、電池の実際の電圧値と一致する。そのため、図24および図25のグラフ(b)に示すように、電池に流れる電流値も放電時の最大電流相当の電流が流れることが分かる。つまり、本実施形態の組電池制御部150によれば、比較例の電池制御装置や従来技術の適用時のような過剰な制限をかけずに、放電することができる。
【0179】
以上のように、本実施形態の組電池制御部150は、電池に流れる電流に基づいて電池の分極電圧を含む電池の電圧の時間変化を推定可能な電圧モデルMを備える。そして、組電池制御部150は、その電圧モデルMに基づいて第一の内部抵抗値Rchg_iと第一の内部抵抗値Rchg_iに対応する通電時間t_curが経過したときの第一の分極電圧Vp_iを推定する。また、組電池制御部150は、第二の内部抵抗値Rchg_vと第二の内部抵抗値Rchg_vに対応する通電時間t_volが経過したときの第二の分極電圧Vp_vを推定する。さらに、組電池制御部150は、第一の内部抵抗値Rchg_iと第一の分極電圧Vp_iに基づいて電池の最大電流値Imax,chgを演算し、第二の内部抵抗値Rchg_vと第二の分極電圧Vp_vと最大電流値Imax,chg(またはImax,dis)に基づいて電池の算定電圧値Vmax,chgを演算する。そして、組電池制御部150は、最大電流値Imax,chgと算定電圧値Vmax,chgとを乗算することで最大電力値Wmax,chgを演算する。
【0180】
したがって、本実施形態の組電池制御部150によれば、充電時は過剰な電流が流れることを抑制することが可能となり、放電時は過剰に制限することなく電池の放電性能を最大限引き出すことが可能となる。
【0181】
[実施形態3]
以下、図1から図3を援用し、図26を参照して、本開示に係る電池制御装置の実施形態3を説明する。
【0182】
本実施形態の組電池制御部150は、記憶装置180に記憶された前記数式(2)のマップ、ChgR_vMap(SOC,T)に含まれる内部抵抗値が、前述の実施形態1に係る組電池制御部150と異なっている。本実施形態の組電池制御部150のその他の点は、前述の実施形態と同様であるので、同様の部分には、同一の符号を付して説明を省略する。
【0183】
実施形態1の組電池制御部150では、電圧演算用の充電内部抵抗として、全SOC、全温度領域で電力が入力された瞬間に見える内部抵抗値を記憶装置180に記憶させて実装し、演算に使用する例を示した。前記数式(3)における上限電流値Ilimit,chgは電池だけでなく電池システムを構成する部材による制約も考慮された値であるため、これを超えての電池システムの運用は回避すべきである。
【0184】
したがって、充電時の最大電流値Imax.chgが上限電流値Ilimit,chgで制限される前記第1の場合における条件では、実施形態1のように、電圧演算用の内部抵抗値に、電力が入力された瞬間の抵抗値を設定することが必要となる。しかし、充電時の最大電流値Imax.chgが上限電圧値Vmaxで制限される前記第2の場合は、上限電流値Ilimit,chgよりも小さい値で充電時の最大電流が演算されている。充電時の最大電流は、所定の時間が経過した時点の電池抵抗値を用いていることから、所定の時間の経過後に上限電圧に到達する電流値として演算されている。そのため、電力が入った瞬間に上限電圧を逸脱することはない。
【0185】
また、上限電流値Ilimit,chgよりも小さな充電可能電流に対して、これを上回る電流が流れても、上限電流値Ilimit,chgよりも小さい値であれば、蓄電装置100の運用上の問題はない。つまり、前記第2の場合においては、電圧演算用の内部抵抗値として、必ずしも電力が入力された瞬間に見える抵抗値を用いる必要はないと考えられるが、実施形態1では全SOC、全温度域で同一の内部抵抗値を使用していたため、充電時の最大電力を過剰に制限してしまうことになる。
【0186】
そこで、本実施形態では、上限電流値Ilimit,chgで制限される前記第1の場合に該当するSOC、温度領域においては、実施形態1と同様に電力が入力された瞬間に見える内部抵抗値を使用し、これ以外の前記第2の場合に該当するSOC、温度領域では、電力が入力されて以降、所定の時間が経過後の内部抵抗値(たとえば、電流演算用の内部抵抗値と同じ値)を使用する。つまり、前記第1の場合と前記第2の場合の領域で、電圧演算用の内部抵抗値として使用する抵抗値を変更する。
【0187】
本実施形態の組電池制御部150において、前記数式(2)のChgR_vMap(SOC,T)として記憶装置180に搭載するマップの構成を、図26に示す。図26のマップ(a)は、電流演算用の内部抵抗値を用いて演算した充電時の最大電流値をSOCと温度に応じたテーブルとして整理した表である。図26のマップ(a)では、上限電流値Ilimit,chgを200[A]とした場合、高温、低SOC側で、200[A]で制限される領域がある(点線で囲まれた領域)。
【0188】
上述した理由から、200[A]で制限される領域は、200[A]を確実に超えないようにするため、実施形態1のように、電力が入力された瞬間の内部抵抗値を記憶装置180に記憶させて搭載する。その他の領域については、従来同様の通電開始後10[sec]経過時点の内部抵抗値または2[sec]や5[sec]等の電力が通電した瞬間に見える内部抵抗値とは異なる内部抵抗値を設定する。
【0189】
図26のマップ(b)に具体例を示す。図26のマップ(a)で抽出した200[A]でリミットされる領域(点線で囲まれた領域)では、電力が入力された瞬間に見える抵抗値が設定され、これ以外の領域では異なる抵抗値が設定されている(200[A]でリミットされる領域の抵抗値よりも大きな値が設定されている)。これにより、演算した充電時の最大電流が例えば200[A]を超過する領域では、200[A]の逸脱が起こらないような充電時の最大電力が演算できる。
【0190】
また、当該領域以外では、電力が入った瞬間の内部抵抗値で演算した電力よりも大きな電力で充電時の最大電力を規定することが可能となる。なお、電力が入力された瞬間に見える抵抗値を設定する領域は、線形補間の影響を考慮し、200[A]制限領域に隣接する直近の格子点に対しても、電力が入力された瞬間の内部抵抗を設定してもよい。また、前記第1の場合および前記第2の場合の領域は、電池の劣化状態に応じても異なるため、劣化に応じたマップをあらかじめ作成しておき、劣化に応じた適切な内部抵抗値を演算するようにしてもよい。
【0191】
本実施形態の組電池制御部150によれば、蓄電装置100として超えてはいけない上限電流値Ilimit,chgで制約される領域のみ、これを確実に守れるよう電力が入力された瞬間の内部抵抗値を電圧演算用内部抵抗値として設定するようにすることができる。これにより、特に充電時に、過剰な最大電力の制限がかからないように、電池を制御することが可能となる。
【0192】
[実施形態4]
以下、図1から図3を援用し、図27を参照して、本開示に係る電池制御装置の実施形態4を説明する。
【0193】
実施形態3では、充電時の最大電流値Imax.chgが上限電流値Ilimit,chgで制限される前記第1の場合および充電時の最大電流値Imax.chgが上限電圧値Vmaxで制限される前記第2の場合でそれぞれ演算に用いる内部抵抗マップに搭載する内部抵抗値を使い分ける例を示した。しかしながら、実施形態2のように、所定の時間の時間が経過したときの内部抵抗値を記憶装置180に実装せずに電力を演算する場合、つまり、秒数などの時間を指定し、時間に対応した内部抵抗値を演算する機能を有するような場合、実施形態3のような手法を採用することが出来ない。そこで、本実施形態では、前記数式(3)、(22)の上限電流値でリミットされる場合に、リミットされることを示すフラグを出力し、このフラグをもとに、電圧演算用の内部抵抗値を切り替える例を説明する。
【0194】
本実施形態の組電池制御部150は、記憶装置180および中央処理装置190で構成される機能ブロックが、前述の実施形態1に係る組電池制御部150と異なっている。本実施形態の組電池制御部150のその他の点は、前述の実施形態1と同様であるので、同様の部分には、同一の符号を付して説明を省略する。
【0195】
図27は、実施形態2の図15に相当する本実施形態の組電池制御部150のブロック図である。本実施形態の組電池制御部150は、充電時の最大電流を演算する機能F23’の出力に上限電流値でリミットされた場合に、リミットされたことを通知するためのフラグを出力する。出力されたフラグは、電圧演算用の充電等価回路のパラメータを演算する機能F22’へ入力される。フラグを受け取った機能F22’は、入力されてくるフラグをもとに、上限電流値で制限される領域では、電圧演算用の通電時間t_volを「0」に設定し、これ以外は、たとえば、5[sec]、10[sec]を設定する。
【0196】
上述のような構成により、たとえば200[A]の上限電流値を逸脱せずに充電することが可能となる。さらに、上限電流値を超過しない領域の場合は、電圧演算に使用する内部抵抗値を任意の値に変更することで、過剰な充電可能電力の制限を回避することが可能である。電圧演算に使用する内部抵抗値の任意の値としては、たとえば電流演算用の通電時間t_curと同じ値でもよいし、これ以外の値でもよい。
【0197】
本実施形態の組電池制御部150によれば、実施形態3と同様に、蓄電装置として超えてはいけない上限電流値で制約される領域のみ、これを確実に守れるよう電力が入力された瞬間の内部抵抗値を電圧演算用内部抵抗値として設定するようにすることができる。これにより、特に充電時に過剰な最大電力の制限がかからないように電池を制御することが可能となる。
【0198】
以上、図面を用いて本開示に係る電池制御装置の実施形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本開示に含まれるものである。
【符号の説明】
【0199】
1:単電池(電池)、
100:蓄電装置(電池システム)
110:組電池(電池)、
111:電池群(電池)、
150:組電池制御部(電池制御装置)
200:リレー(電池システム)、
500:モータジェネレータ(外部負荷)、
Imax.chg:最大電流値、
Imax.dis:最大電流値、
Ilimit,chg:上限電流値、
Ilimit,dis:上限電流値、
M:電圧モデル
Rchg_i:内部抵抗値(第一の内部抵抗値)、
Rchg_v:内部抵抗値(第二の内部抵抗値)、
Rdis_i:内部抵抗値(第一の内部抵抗値)、
Rdis_v:内部抵抗値(第二の内部抵抗値)、
Vmax,chg:算定電圧値、
Vmax,dis:算定電圧値、
Wmax,chg:最大電力値、
Wmax,dis:最大電力値、
Vp_i:分極電圧、
Vp_v:分極電圧、
Vmax:上限電圧、
Vmin:下限電圧、
SOC:充電率。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27