(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】フィルター、金属イオンの除去方法及び金属イオン除去装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/42 20230101AFI20230303BHJP
B01J 39/05 20170101ALI20230303BHJP
B01J 41/05 20170101ALI20230303BHJP
B01J 41/07 20170101ALI20230303BHJP
B01J 45/00 20060101ALI20230303BHJP
【FI】
C02F1/42 B
C02F1/42 A
B01J39/05
B01J41/05
B01J41/07
B01J45/00
(21)【出願番号】P 2018001318
(22)【出願日】2018-01-09
【審査請求日】2020-11-11
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 光明
(72)【発明者】
【氏名】岡田 幸久
(72)【発明者】
【氏名】白井 貴章
(72)【発明者】
【氏名】岡田 秀幸
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2003/014205(WO,A1)
【文献】特開昭59-183887(JP,A)
【文献】特開2000-210681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/28,42,60-64
B01J20/00-34,39/00-49/90
B01D15/00-42,39/00-41/04
C08J5/00-22
C08J9/00-42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性基を有する化合物を含有する被処理液中の金属イオンを除去する方法であって、
前記被処理液に強塩基を添加する添加工程と、
前記強塩基が添加された前記被処理液を
、スルホン酸基又はキレート基を有する樹脂であるイオン交換樹脂を含む乾燥ゲル粉末と熱可塑性樹脂粉末とを含有する混合粉末の焼結物又は当該焼結物の膨潤体である多孔質成形体を含み、電気比抵抗値が18MΩ・cm以上の水を、空間速度1200hr
-1
で通液したとき、通液後の水の電気比抵抗値が15MΩ・cm以上のフィルターに通液する通液工程と、
を備える、除去方法。
【請求項2】
前記酸性基を有する化合物が、フェノール樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂及びこれらの樹脂の原料である単量体からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項
1に記載の除去方法。
【請求項3】
前記処理液中の前記酸性基に対する前記強塩基の当量比が、1.0×10
-9以上1.0×10
-4以下である、請求項
1又は
2に記載の除去方法。
【請求項4】
前記通液工程が、
前記被処理液を
、アミノリン酸基、イミノジ酢酸基及び三級アミノ基からなる群より選択される少なくとも一種の基を含むイオン交換樹脂を含む乾燥ゲル粉末と熱可塑性樹脂粉末とを含有する混合粉末の焼結物又は当該焼結物の膨潤体である多孔質成形体を含む第一のフィルターに通液する第一の通液工程と、
前記第一の通液工程を経た前記被処理液を第二のフィルターに通液する第二の通液工程と、を備え、
前記第二のフィルターが、
スルホン酸基又はキレート基を有する樹脂であるイオン交換樹脂を含む乾燥ゲル粉末と熱可塑性樹脂粉末とを含有する混合粉末の焼結物又は当該焼結物の膨潤体である多孔質成形体を含み、電気比抵抗値が18MΩ・cm以上の水を、空間速度1200hr
-1
で通液したとき、通液後の水の電気比抵抗値が15MΩ・cm以上のフィルターである、請求項
1~
3のいずれか一項に記載の除去方法。
【請求項5】
前記第一のフィルターが、
アミノリン酸基、イミノジ酢酸基及び三級アミノ基からなる群より選択される少なくとも一種の基を含むイオン交換樹脂を含む乾燥ゲル粉末と熱可塑性樹脂粉末とを含有する混合粉末の焼結物又は
当該焼結物の膨潤体である多孔質成形体を含
み、電気比抵抗値が18MΩ・cm以上の水を、空間速度1200hr
-1
で通液したとき、通液後の水の電気比抵抗値が15MΩ・cm以上のフィルターである、請求項
4に記載の除去方法。
【請求項6】
アミノリン酸基、イミノジ酢酸基及び三級アミノ基からなる群より選択される少なくとも一種の基を含むイオン交換樹脂を含む乾燥ゲル粉末と熱可塑性樹脂粉末とを含有する混合粉末の焼結物又は当該焼結物の膨潤体である多孔質成形体を含む第一のフィルターと、
前記第一のフィルターを通過した被処理液から金属イオンを除去する第二のフィルターと、
を備え、
前記第二のフィルターが、
スルホン酸基又はキレート基を有する樹脂であるイオン交換樹脂を含む乾燥ゲル粉末と熱可塑性樹脂粉末とを含有する混合粉末の焼結物又は当該焼結物の膨潤体である多孔質成形体を含み、電気比抵抗値が18MΩ・cm以上の水を、空間速度1200hr
-1
で通液したとき、通液後の水の電気比抵抗値が15MΩ・cm以上のフィルターである、金属イオン除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルター、金属イオンの除去方法及び金属イオン除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、集積回路等の電子部品の製造に用いられる溶液として、金属イオン含有量の低い溶液が求められている。例えば、特許文献1には、界面活性剤中の金属含量を高性能半導体材料に使用可能となるppbレベルにまで低減する金属化合物除去装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電子部品の更なる緻密化が進んでいる。緻密化に伴って線幅が狭くなると、わずかな不純物でも悪影響がでてしまうおそれがある。このため、安定性を担保する観点から、電子部品製造用の溶液に許容される金属イオン含有量は更に低くなっており、例えばppbレベルよりも更に低いレベルまで金属イオンを除去することが期待されている。しかし、従来の方法では、金属イオン含有量を十分に低減することが困難であったり、作業工程が多く非効率であったりする場合があった。
【0005】
本発明は、被処理液中の金属イオンを効率良く除去することができ、金属イオン含有量の極めて低い溶液を容易に得ることが可能な、フィルターを提供することを目的とする。また、本発明は、上記フィルターを用いた金属イオンの除去方法及び金属イオン除去装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、イオン交換樹脂を含む乾燥ゲル粉末と熱可塑性樹脂粉末とを含有する混合粉末の焼結物又はその膨潤体である多孔質成形体を含み、電気比抵抗値が18MΩ・cm以上の水を、空間速度1200hr-1で通液したとき、通液後の水の電気比抵抗値が15MΩ・cm以上である、フィルターに関する。
【0007】
本発明の他の一側面は、被処理液中の金属イオンを除去する方法であって、上述のフィルターに上記被処理液を通液する通液工程を備える、除去方法に関する。
【0008】
一態様において、上記通液工程は、上記被処理液を第一のフィルターに通液する第一の通液工程と、上記第一の通液工程を経た上記被処理液を第二のフィルターに通液する第二の通液工程と、を備えていてよい。このとき、上記第二のフィルターが、上述の本発明の一側面に係るフィルターであってよい。
【0009】
また、上記態様において、上記第一のフィルターは、イオン交換樹脂を含む乾燥ゲル粉末と熱可塑性樹脂粉末とを含有する混合粉末の焼結物又はその膨潤体である多孔質成形体を含んでいてよい。
【0010】
本発明の更に他の一側面は、酸性基を有する化合物を含有する被処理液中の金属イオンを除去する方法に関する。この除去方法は、上記被処理液に強塩基を添加する添加工程と、上記強塩基が添加された上記被処理液を上述の本発明の一側面に係るフィルターに通液する通液工程と、を備えている。
【0011】
一態様において、上記酸性基を有する化合物は、フェノール樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂及びこれらの樹脂の原料である単量体からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてよい。
【0012】
一態様において、上記処理液中の上記酸性基に対する上記強塩基の当量比は、1.0×10-9以上1.0×10-4以下であってよい。
【0013】
一態様において、上記通液工程は、上記被処理液を第一のフィルターに通液する第一の通液工程と、上記第一の通液工程を経た上記被処理液を第二のフィルターに通液する第二の通液工程と、を備えていてよい。このとき、上記第二のフィルターは、上述の本発明の一側面に係るフィルターであってよい。
【0014】
また、上記態様において、上記第一のフィルターは、イオン交換樹脂を含む乾燥ゲル粉末と熱可塑性樹脂粉末とを含有する混合粉末の焼結物又はその膨潤体である多孔質成形体を含んでいてよい。
【0015】
また、上記態様において、上記第二のフィルターにおける上記イオン交換樹脂は、スルホン酸基を含んでいてよく、上記第一のフィルターにおける上記イオン交換樹脂は、アミノリン酸基、イミノジ酢酸基及び三級アミノ基からなる群より選択される少なくとも一種の基を含んでいてよい。
【0016】
本発明の更に他の一側面は、第一のフィルターと、上記第一のフィルターを通過した被処理液から金属イオンを除去する第二のフィルターと、を備え、上記第二のフィルターが、上述の本発明の一側面に係るフィルターである、金属イオン除去装置に関する。
【0017】
一態様において、上記第一のフィルターは、イオン交換樹脂を含む乾燥ゲル粉末と熱可塑性樹脂粉末とを含有する混合粉末の焼結物又はその膨潤体である多孔質成形体を含んでいてよい。
【0018】
また、上記態様において、上記第二のフィルターにおける上記イオン交換樹脂は、スルホン酸基を含んでいてよく、上記第一のフィルターにおける上記イオン交換樹脂は、アミノリン酸基、イミノジ酢酸基及び三級アミノ基からなる群より選択される少なくとも一種の基を含んでいてよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、被処理液中の金属イオンを除去することで、金属イオン含有量の極めて低い溶液を容易に得ることが可能な、フィルターが提供される。また、本発明によれば、上記フィルターを用いた金属イオンの除去方法及び金属イオン除去装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】金属イオン除去装置の一実施形態を示す図である。
【
図2】
図1のII-II線に沿った断面を示す図である。
【
図3】金属イオン除去装置の他の一実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、図面は理解を容易にするため一部を誇張して描いており、寸法比率等は図面に記載のものに限定されるものではない。
【0022】
<フィルター>
本実施形態に係るフィルターは、イオン交換樹脂を含む乾燥ゲル粉末と熱可塑性樹脂粉末とを含有する混合粉末の焼結物又はその膨潤体である多孔質成形体を含んでいる。
【0023】
また、本実施形態に係るフィルターは、電気比抵抗値が18MΩ・cm以上の水を、空間速度1200hr-1で通液したとき、通液後の水の電気比抵抗値が15MΩ・cm以上であることを特徴としたフィルターである。なお、通液前の水は、電気比抵抗値が18MΩ・cm以上であればよく、理論限界値の約18.23MΩ・cmであってもよい。また、通液後の水の電気比抵抗値の上限は特に限定されず、例えば、通液前の水の電気比抵抗値以下であってよい。
【0024】
なお、本明細書中、水の電気比抵抗値は、堀場製作所製インライン比抵抗センサーERF-001-C-Tにより測定される値を示す。
【0025】
上記フィルターによれば、被処理液中の金属イオンを除去することで、金属イオンを含有する被処理液から、金属イオン含有量の極めて低い溶液を容易に得ることができる。
【0026】
本実施形態において、上記焼結物は、自立可能な強度を有していてよく、熱可塑性樹脂粉末によって乾燥ゲル粉末が固定化されていてよい。また、本実施形態では、上記焼結物中で乾燥ゲル粉末が熱可塑性樹脂粉末によって固定化されているため、乾燥ゲル粉末の膨潤により寸法変化が生じた場合でも、自立可能な強度が維持される。すなわち、上記多孔質成形体は、上記焼結物及びその膨潤体のいずれでも自立可能な強度を有していてよい。
【0027】
従来のゲル材料を用いた吸着材では、ゲル材料が吸水等によって大きな寸法変化及び強度低下を起こすことから、ゲル材料を支持体に保持したり、ビーズ状に成形したりすることが一般的であった。これに対して、本実施形態に係るフィルターは、上記のとおり自立可能なフィルターであってよく、この場合、省スペースで効率良く金属イオンを除去することができる。
【0028】
本実施形態において、乾燥ゲル粉末は、吸水により膨潤してゲル状を呈する粉末であればよく、例えばハイドロゲル粒子を乾燥させて得ることができる。
【0029】
乾燥ゲル粉末は、イオン交換樹脂を含んでいる。イオン交換樹脂は、イオン交換基又はキレート基を有する樹脂であってよい。イオン交換基としては、例えば、スルホン酸基、カルボン酸基、三級アミノ基、四級アンモニウム基等が挙げられる。三級アミノ基としては、例えば、ジアルキルアミノ基(-NR1
2で表される基(R1はそれぞれ独立に置換又な無置換のアルキル基を示す。))が挙げられ、より具体的には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等が挙げられる。また、四級アンモニウム基としては、例えば、トリアルキルアンモニウム基(-N+R2
3で表される基(R2はそれぞれ独立に置換又は無置換のアルキル基を示す。))が挙げられ、より具体的には、トリメチルアンモニウム基、ジメチルエチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム基等が挙げられる。キレート基としては、例えば、ポリアミン、アミノリン酸基、イミノジ酢酸基、尿素基、チオール基、ジチオカルバミン酸基等が挙げられる。
【0030】
イオン交換樹脂は、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、セルロース、ポリアミド等の樹脂であってよく、これらの樹脂は、上述のイオン交換基又はキレート基を有するように修飾されていてもよく、ジビニルベンゼン等の架橋剤により架橋されていてもよい。
【0031】
乾燥ゲル粉末は、イオン交換樹脂を主成分として含有していてよい。なお、ここで主成分とは、含有量が50質量%(好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上)であることを示す。
【0032】
乾燥ゲル粉末は、無機材料を更に含んでいてもよい。無機材料としては、例えば、シリカゲル、アルミナゲル、スクメタイト等が挙げられる。これらの無機材料は、上述のイオン交換基又はキレート基を有するように修飾されていてもよい。
【0033】
乾燥ゲル粉末の吸水率は、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。これにより、被処理液が微量に水分を含有していても、当該水分を効率良く除去して、金属イオンをより効果的に除去することができる。また、乾燥ゲル粉末の吸水率は、90質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましい。これにより多孔質成形体の強度がより向上する傾向がある。
【0034】
なお、本明細書中、乾燥ゲル粉末の吸水率は、JIS K 7209:2000に準拠した乾燥減量法によって求められる値を示す。より具体的には、乾燥ゲル粉末を十分な水で膨潤させてなる膨潤ゲルの重量(W1)を測定し、次いで105℃のオーブン(アドバンテック社(東京都文京区)製DRM620DB)中で24時間以上乾燥後、乾燥重量(W2)を測定し、下記式(I)によって吸水率を求める。
吸水率(%)=(W1-W2)×100/W1 (I)
【0035】
乾燥ゲル粉末の平均粒子径d1は、例えば0.1μm以上であってよく、好ましくは1μm以上である。また、乾燥ゲル粉末の平均粒子径d1は、例えば500μm以下であってよく、好ましくは200μm以下である。
【0036】
乾燥ゲル粉末は、例えば、ハイドロゲル粒子を乾燥させて得ることができる。乾燥方法は特に限定されず、例えば、熱風乾燥、撹拌乾燥、真空乾燥等の方法が挙げられる。
【0037】
乾燥ゲル粉末は、含水率10質量%以下まで乾燥したものであることが好ましい。乾燥ゲル粉末の含水率は、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下である。
【0038】
なお、本明細書中、乾燥ゲル粉末の含水率は、乾燥減量法によって測定される値を示す。具体的には、乾燥ゲル粉末の重量(W3)を測定し、次いで105℃のオーブン(アドバンテック社(東京都文京区)製DRM620DB)中で24時間以上乾燥後、乾燥重量(W4)を測定し、下記式(II)によって吸水率を求める。
含水率(%)=(W3-W4)/W3×100 (II)
【0039】
本実施形態において、熱可塑性樹脂粉末は、熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂材料からなる粉末であって、焼結により互いに部分的に融着して多孔質構造を形成することができる。
【0040】
熱可塑性樹脂粉末中の熱可塑性樹脂の含有量は、熱可塑性樹脂粉末の全量基準で、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0041】
熱可塑性樹脂粉末は、熱可塑性樹脂以外の他の成分を更に含有していてもよい。他の成分としては、例えば、ステアリン酸塩等の可塑剤、タルク、シリカ、酸化防止剤等が挙げられる。
【0042】
熱可塑性樹脂粉末は、熱可塑性樹脂として、超高分子量ポリエチレン及びポリアミドからなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0043】
超高分子量ポリエチレンとしては、重量平均分子量が7.5×105g/mol以上5×107g/mol以下であるものが好ましく、1.0×106g/mol以上1.2×107g/mol以下であるものがより好ましい。なお、超高分子量ポリエチレンの重量平均分子量は、下記の方法で測定される値である。
1."StandardTest Method for Dilute Solution Viscosity of EthylenePolymers," D1601,Annual Book of ASTM Standards, American Society forTesting and Materials.
2."StandardSpecification for Ultra-High-Molecular-Weight PolyethyleneMolding and ExtrusionMaterials," D4020, Annual Book of ASTM Standards,American Society forTesting and Materials
【0044】
超高分子量ポリエチレンの融点は、特に制限されず、例えば130℃~135℃であってよい。また、超高分子量ポリエチレンのメルトインデックスは、1.0g/10min(ASTM D1238(ISO1133)、190℃、荷重21.6kg)以下であることが好ましく、0.5g/10min以下であることがより好ましい。
【0045】
ポリアミドとしては、例えば、融点が150℃以上200℃以下の半結晶ポリアミド微粒子を好適に用いることができる。また、このようなポリアミドとしては、単量体単位あたりの炭素原子数の平均が10個以上であるものが好ましい。
【0046】
熱可塑性樹脂粉末の平均粒子径は特に限定されず、例えば0.5μm以上であってよく、1μm以上であってもよい。また、熱可塑性樹脂粉末の平均粒子径は、例えば500μm以下であってよく、100μm以下であってもよい。熱可塑性樹脂粉末の平均粒子径を大きくすることで多孔質成形体の隙間が増えて通液性が向上する傾向があり、小さくすることで多孔質成形体がより密になって強度が一層向上する傾向がある。
【0047】
熱可塑性樹脂粉末は、非球形の樹脂粉末であることが好ましい。熱可塑性樹脂粉末は、例えば、小球粒子が葡萄の房状に凝集した形状を有するものであってよく、球状粒子に複数の突起が形成された金平糖状の形状を有するものであってもよい。非球形の熱可塑性樹脂粉末によれば、膨潤時の寸法変化に対する耐性が一層向上する傾向がある。
【0048】
熱可塑性樹脂粉末は、多孔質粉末であることが好ましい。多孔質の熱可塑性樹脂粉末の嵩密度は、例えば0.1~0.7g/cm3であってよく、0.2~0.6g/cm3であってもよい。なお、本明細書中、多孔質の熱可塑性樹脂粉末の嵩密度は、ISO60に準拠した方法で測定される値を示す。
【0049】
本実施形態において、熱可塑性樹脂粉末の平均粒子径d1に対する乾燥ゲル粉末の平均粒子径d2の比d2/d1は、1.3以上であることが好ましい。また、熱可塑性樹脂粉末の平均粒子径d1に対する、乾燥ゲル粉末の平均粒子径d2と乾燥ゲル粉末の吸水膨潤時の平均粒子径d3との差の比(d3-d2)/d1は、4.0以下であることが好ましい。これにより、多孔質成形体の強度がより向上し、自立可能なフィルターとしてより好適に用いることができるようになる。
【0050】
熱可塑性樹脂粉末の平均粒子径d1は、JIS Z 8825:2013に準拠したレーザー回折式・散乱法によって求められるD50の値を示す。より具体的には、熱可塑性樹脂粉末について、マルバーン社(イギリス、ウスター)製マスターサイザー3000を用いたレーザー回折・散乱法によって粒度分布を求め、粒子数が全体の小さい方から積算して50%となるD50を平均粒子径d1とする。
【0051】
乾燥ゲル粉末の吸水膨潤時の平均粒子径d3は、乾燥ゲル粉末を十分な水で膨潤させてなる膨潤ゲルの平均粒子径を示す。本実施形態において、膨潤ゲルの平均粒子径d3は、JIS Z 8825:2013に準拠したレーザー回折式・散乱法によって求められるD50の値を示す。より具体的には、膨潤ゲルについて、マルバーン社(イギリス、ウスター)製マスターサイザー3000を用いたレーザー回折・散乱法によって粒度分布を求め、粒子数が全体の小さい方から積算して50%となるD50を平均粒子径d3とする。
【0052】
本実施形態において、乾燥ゲル粉末の平均粒子径d2は、膨潤ゲルの平均粒子径d3と乾燥ゲル粉末の吸水による線膨張率αとから下記式(III)によって求められる値を示す。
平均粒子径d2=平均粒子径d3/(1+線膨張率α) (III)
【0053】
本実施形態において、乾燥ゲル粉末の吸水による線膨張率αは、以下の方法で求められる値を示す。まず、JIS K 7365:1999に準拠した方法で測定される見掛け密度から、乾燥ゲル粉末の体積(V1)と、当該乾燥ゲル粉末を十分な水で膨潤させてなる膨潤ゲルの体積(V2)を求める。これらの体積V1及びV2から、下記式(IV)によって線膨張率αが得られる。
線膨張率α=((V2/V1)1/3-1) (IV)
【0054】
熱可塑性樹脂粉末の平均粒子径d1に対する乾燥ゲル粉末の平均粒子径d2の比d2/d1は、1.3以上が好ましく、より好ましくは2以上である。また、比d2/d1は、好ましくは50以下であり、より好ましくは25以下である。これにより、膨潤による寸法変化によって多孔質成形体が脆くなることが避けられ、より強度の高いフィルターが得られやすくなる。
【0055】
熱可塑性樹脂粉末の平均粒子径d1に対する、乾燥ゲル粉末の平均粒子径d2と乾燥ゲル粉末の吸水膨潤時の平均粒子径d3との差の比(d3-d2)/d1は、4.0以下であり、好ましくは3.0以下である。また、比(d3-d2)/d1は、好ましくは0.2以上であり、より好ましくは0.3以上である。これにより、膨潤による寸法変化によって多孔質成形体が脆くなることが避けられ、より強度の高いフィルターが得られやすくなる。
【0056】
本実施形態において、多孔質成形体は、乾燥ゲル粉末及び熱可塑性樹脂粉末を含む混合粉末を焼結して形成される。
【0057】
多孔質成形体は、その一態様において、熱可塑性樹脂粉末の焼結により形成された多孔質構造中に乾燥ゲル粉末が分散して固定化されたものということができる。また、多孔質成形体は、熱可塑性樹脂粉末によって乾燥ゲル粉末が相互に結着された成形体ということもできる。
【0058】
混合粉末中、乾燥ゲル粉末の含有量は、熱可塑性樹脂粉末の含有量100質量部に対して、10質量部以上であることが好ましく、25質量部以上であることがより好ましい。また、混合粉末中、乾燥ゲル粉末の含有量は、熱可塑性樹脂粉末の含有量100質量部に対して、900質量部以下であることが好ましく、300質量部以下であることがより好ましい。
【0059】
混合粉末は、乾燥ゲル粉末及び熱可塑性樹脂粉末以外の成分を添加剤としてさらに含有していてもよい。例えば、混合粉末は、活性炭、重金属減少媒体、ヒ素除去媒体、抗微生物性媒体、イオン交換媒体、ヨウ素化、樹脂、繊維、ガス吸着媒体等をさらに含有していてもよい。このような添加剤の含有量は、混合粉末の全量基準で20質量%以下とすることが好ましく、5質量%以下とすることがより好ましい。
【0060】
本実施形態において、混合粉末は、多孔質成形体の所望の形状に応じて金型等に充填され、焼結される。混合粉末の焼結は、熱可塑性樹脂粉末の融着が生じる条件で行うことができる。
【0061】
焼結温度は、例えば、熱可塑性樹脂粉末中の熱可塑性樹脂の融点以上の温度とすることができる。焼結温度は、例えば140℃以上であってよく、好ましくは150℃以上である。また、焼結温度は、例えば200℃以下であってよく、180℃以下であってもよい。
【0062】
焼結時間は特に制限されず、例えば5分~120分とすることができ、10分~60分であってもよい。
【0063】
多孔質成形体は、焼結時に混合粉末を充填する型を適宜選択することで、様々な形状に成形することができる。例えば、多孔質成形体は、ディスク状、中空円筒状、釣鐘型、円錐、中空星型等の多様な形状に成形することができる。
【0064】
多孔質成形体の厚さは、例えば0.2mm以上であってよく、好ましくは1mm以上、より好ましくは5mm以上である。また、多孔質成形体の厚さは、例えば1000mm以下であってよく、好ましくは100mm以下である。
【0065】
多孔質成形体は、混合粉末の焼結物であってよく、当該焼結物を膨潤させて膨潤体であってもよい。焼結物は、例えば、溶媒で膨潤させることができる。溶媒としては、例えば、水、有機溶媒等が挙げられる。本実施形態では、焼結物を膨潤させる極性溶媒は、有機溶媒であることが好ましく、PGMEA(プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタート)、PGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)、シクロヘキサン、乳酸エチル等が特に好ましい。
【0066】
本実施形態に係るフィルターは、上記多孔質成形体を含む。本実施形態に係るフィルターは、多孔質成形体から構成されたフィルターであってもよく、金属イオンを十分に除去し得る範囲で他の部材等を更に有していてもよい。
【0067】
本実施形態に係るフィルターの形状は特に限定されず、例えば、円柱状、角柱状、板状、釣鐘状、球状、半球状、方体等であってよく、これらは中空であってもよい。
【0068】
本実施形態に係るフィルターは、上述のとおり、電気比抵抗値が18MΩ・cm以上の水を、空間速度1200hr-1で通液したとき、通液後の水の電気比抵抗値が15MΩ・cm以上であることを特徴としたフィルターである。
【0069】
このようなフィルターを得る方法は、特に限定されないが、例えば、上記多孔質成形体に洗浄液を流通させることで、上記多孔質成形体を洗浄する方法等が挙げられる。洗浄液としては、例えば、水、有機溶媒、酸性溶液、塩基性溶液又はこれらの混合液等を用いることができる。洗浄条件は特に限定されず、例えば、洗浄時の流速が10mL/分~10L/分であってよく、洗浄時の空間速度が6~6000hr-1であってもよい。また、洗浄時の洗浄液の温度は、例えば1℃~99℃であってよい。
【0070】
<金属イオンの除去方法>
本実施形態に係る金属イオンの除去方法は、被処理液中の金属イオンを除去する方法であって、上述のフィルターに被処理液を通液する通液工程を備えている。
【0071】
本実施形態に係る除去方法によれば、金属イオン(特に、Naイオン、Feイオン、Kイオン、Caイオン、Coイオン、Crイオン、Niイオン等)を効率良く除去することができ、金属イオン含有量の極めて少ない液体(例えば、各金属イオンの含有量がそれぞれ500ppt以下、更に好ましくは150ppt以下、更に好ましくは100ppt以下の液体)を得ることができる。
【0072】
本実施形態では、被処理液中の金属イオンの含有量は特に限定されない。例えば、被処理液中の金属イオンの含有量は、1ppb以上であってよく、100ppb以上であってもよい。被処理液中の金属イオンの含有量の上限は特に限定されないが、例えば100ppm以下であってよく、1000ppb以下であってもよい。
【0073】
被処理液は、水等の水系溶媒であってもよく、PGMEA等の有機溶媒であってもよく、これらの混合液であってもよい。
【0074】
被処理液を通液する際の条件は特に限定されず、例えば、空間速度(SV)は6~200hr-1であってよい。また、一次圧は、例えば20~300kPaであってよい。
【0075】
被処理液は、有機化合物を更に含有していてよい。すなわち、本実施形態では、有機化合物が溶媒に溶解してなる溶液から、金属イオンを除去することもできる。また、本実施形態では、被処理液に添加物を加えてから、金属イオンを除去することもできる。
【0076】
好適な一態様において、上記除去方法は、酸性基を有する化合物を含有する被処理液中の金属イオンを除去する方法であってよい。このとき、上記除去方法は、上記被処理液に強塩基を添加する添加工程と、強塩基が添加された被処理液を上記実施形態に係るフィルターに通液する通液工程と、を備えるものであってよい。
【0077】
上記態様では、添加工程を経ることで、酸性基を有する化合物を含有する被処理液から、金属イオンをより顕著に除去することができる。
【0078】
酸性基を有する化合物は、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよい。酸性基としては、例えば、フェノール性水酸基、カルボキシル基、スルホン基、硝酸基等が挙げられ、これらのうち、添加工程による効果がより顕著に奏される観点から、フェノール性水酸基が好ましい。
【0079】
酸性基を有する化合物は、例えば、フェノール樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂及びこれらの樹脂の原料である単量体からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてよい。また、添加工程による効果がより顕著に奏される観点から、酸性基を有する化合物は、フェノール樹脂を含むことが好ましい。
【0080】
添加工程で用いられる強塩基は特に限定されない。強塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム等の金属水酸化物、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等の水酸化テトラアルキルアンモニウム等が挙げられる。
【0081】
処理液中の酸性基に対する強塩基の当量比は、好ましくは1.0×10-9以上であり、より好ましくは1.0×10-8以上である。また、上記当量比は、好ましくは1.0×10-4以下であり、より好ましくは1.0×10-5以下である。これにより、通液工程で金属イオンがより顕著に除去される。
【0082】
本実施形態において、被処理液は、他のフィルターを通過したものであってもよい。すなわち、通液工程は、被処理液を第一のフィルターに通液する第一の通液工程と、第一の通液工程を経た被処理液を第二のフィルターに通液する第二の通液工程と、を備えるものであってよい。このとき、第二のフィルターとして上述のフィルターが用いられ、第一のフィルターは特に限定されない。
【0083】
好適な一態様において、上記第一のフィルターは、イオン交換樹脂を含む乾燥ゲル粉末と熱可塑性樹脂粉末とを含有する混合粉末の焼結物又はその膨潤体である多孔質成形体を含むものであってもよい。
【0084】
本態様の第一のフィルターとしては、上記実施形態に係るフィルターと同様のフィルターが例示できる。但し、第一のフィルターは、電気比抵抗値が18MΩ・cm以上の水を、空間速度1200hr-1で通液したとき、通液後の水の電気比抵抗値が15MΩ・cm以上である必要はない。
【0085】
本態様においては、第二のフィルター(すなわち、上記実施形態に係るフィルター)におけるイオン交換樹脂がスルホン酸基を含み、第一のフィルターにおけるイオン交換樹脂がアミノリン酸基、イミノジ酢酸基及び三級アミノ基からなる群より選択される少なくとも一種の基を含むことが好ましい。このような第一のフィルター及び第二のフィルターの組み合わせによれば、例えば、第一のフィルターがFeイオン等を除去することに伴ってNaイオン等を溶出してしまう場合であっても、第二のフィルターが溶出したNaイオン等を除去できるため、金属イオン含有量を顕著に低減することができる。
【0086】
<金属イオン除去装置>
本実施形態に係る金属イオン除去装置は、上記実施形態に係るフィルターを含む除去部を備えている。
【0087】
図1は、金属イオン除去装置の好適な一形態を説明するための図であり、
図2は、
図1のII-II線に沿った断面を示す図である。
図1に示す金属イオン除去装置100は、上記実施形態に係るフィルター11を含む除去部10と、被処理液21を貯留する第一のタンク20と、金属イオン除去後の液体31を貯留する第二のタンク30と、を備えている。また、除去部10は、フィルター11によって内部が第一の領域12と第二の領域13とに区分されている。
【0088】
第一のタンク20と除去部10とは、第一のラインL1によって連結されており、第一のタンク20中の被処理液21は、第一のラインL1を通って、除去部10の第一の領域12に送液される。第一の領域12に送られた被処理液21は、フィルター11を通過して第二の領域13に移動し、このとき被処理液21中の金属イオンがフィルター11により除去される。第二のタンク30と除去部10とは、第二のラインL2によって連結されており、フィルター11を通過した被処理液(液体31)は、第二の領域13から第二のラインL2を通って、第二のタンク30に送液される。
【0089】
図3は、金属イオン除去装置の好適な他の一形態を説明するための図である。
図3に示す金属イオン除去装置200は、第一のフィルター51を含む第一の除去部50と、第二のフィルター61を含む第二の除去部60と、被処理液71を貯留する第一のタンク70と、第一のフィルター51を通過した中間液81を貯留する第二のタンク80と、第二のフィルター61を通過して金属イオンが除去された液体91を貯留する第三のタンク90と、を備えている。第二のフィルター61は、上記実施形態に係るフィルターである。
【0090】
第一のタンク70と第一の除去部50とは、第一のラインL11によって連結されており、第一のタンク70中の被処理液71は、第一のラインL11を通って第一の除去部50に送液される。第一の除去部50に送液された被処理液71は第一のフィルター51に通液される。第一の除去部50は第二のラインL12によって第二のタンク80と連結されており、第一のフィルター51を通過した中間液81が、第二のラインL12を通って第二のタンク80に送液される。
【0091】
第二のタンク80と第二の除去部60とは、第三のラインL13によって連結されており、第二のタンク80中の中間液81は、第三のラインL13を通って第二の除去部60に送液される。第二の除去部60に送液された中間液81は第二のフィルター61に通液される。第二の除去部60は第四のラインL14によって第三のタンク90と連結されており、第二のフィルター61を通過して金属イオンが除去された液体91が、第四のラインL14を通って第三のタンク90に送液される。
【0092】
好適な一態様において、第一のフィルター51は、イオン交換樹脂を含む乾燥ゲル粉末と熱可塑性樹脂粉末とを含有する混合粉末の焼結物又はその膨潤体である多孔質成形体を含むものであってもよい。
【0093】
本態様の第一のフィルター51としては、上記実施形態に係るフィルターと同様のフィルターが例示できる。但し、第一のフィルター51は、電気比抵抗値が18MΩ・cm以上の水を、空間速度1200hr-1で通液したとき、通液後の水の電気比抵抗値が15MΩ・cm以上である必要はない。
【0094】
本態様においては、第二のフィルター61(すなわち、上記実施形態に係るフィルター)におけるイオン交換樹脂がスルホン酸基を含み、第一のフィルター51におけるイオン交換樹脂がアミノリン酸基、イミノジ酢酸基及び三級アミノ基からなる群より選択される少なくとも一種の基を含むことが好ましい。このような第一のフィルター51及び第二のフィルター61の組み合わせによれば、被処理液中に複数の金属イオンが含有していた場合(例えば、鉄イオン及びナトリウムイオン)であっても、各金属イオンを顕著に低減することができる。
【0095】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0096】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0097】
(実施例A-1)
<乾燥ゲル粉末A-1>
スルホン酸基を有する強酸性陽イオン交換樹脂粒子を、110℃のオーブン(アドバンテック社(東京都文京区)製DRM620DB)中で36時間以上乾燥して、平均粒子径が440μmの乾燥ゲル粉末を得た。次いで、この乾燥ゲル粉末を粉砕して、平均粒子径d2が90μmの乾燥ゲル粉末A-1を調製した。
【0098】
<熱可塑性樹脂粉末A-1>
熱可塑性樹脂粉末として、セラニーズ社製(ドイツ、オーバーハウゼン)製、商品名「GUR 2126」(超高分子量ポリエチレン粉末、重量平均分子量:約4.5×106g/mol、平均粒子径d1:32μm)を用いた。
【0099】
<フィルターの作製>
乾燥ゲル粉末A-1(50質量部)と熱可塑性樹脂粉末A-1(50質量部)とを混合し、型に充填後、160℃のオーブン中で10分加熱して、外径約60mm、内径約28mm、長さ約250mmの中空円筒状のフィルターを作製した。作製したフィルターは、開口部の一方を塞ぎ、フィルターの外側から内側に被処理液が流通するようにした。作製したフィルターを洗浄液で48時間以上かけて処理して、実施例A-1のフィルターA-1を得た。
【0100】
得られたフィルターA-1に、電気比抵抗値が18MΩ・cmの水を、空間速度1200hr-1で通液したところ、通液後の水の電気比抵抗値は17.6MΩ・cmであった。
【0101】
(実施例A-2)
<乾燥ゲル粉末A-2>
アミノリン酸基を有するキレート樹脂粒子を、110℃のオーブン(アドバンテック社(東京都文京区)製DRM620DB)中で36時間以上乾燥して、平均粒子径が440μmの乾燥ゲル粉末を得た。次いで、この乾燥ゲル粉末を粉砕して、平均粒子径d2が90μmの乾燥ゲル粉末A-2を調製した。
【0102】
<フィルターの作製>
乾燥ゲル粉末A-1に代えて乾燥ゲル粉末A-2を用いたこと以外は、実施例A-1と同様にしてフィルターA-2を作製した。
【0103】
得られたフィルターA-2に、電気比抵抗値が18MΩ・cmの水を、空間速度1200hr-1で通液したところ、通液後の水の電気比抵抗値は15.5MΩ・cmであった。
【0104】
(実施例A-3)
洗浄液での処理を72時間以上に延長したこと以外は、実施例A-2と同様にしてフィルターA-3を作製した
【0105】
得られたフィルターA-3に、電気比抵抗値が18MΩ・cmの水を、空間速度1200hr-1で通液したところ、通液後の水の電気比抵抗値は16.4MΩ・cmであった。
【0106】
(比較例X-1)
洗浄液での処理を24時間以下に短縮したこと以外は、実施例A-1と同様にしてフィルターX-1を作製した。
【0107】
得られたフィルターX-1に、電気比抵抗値が18MΩ・cmの水を、空間速度1200hr-1で通液したところ、通液後の水の電気比抵抗値は13.6MΩ・cmであった。
【0108】
(比較例X-2)
洗浄液での処理を24時間以下に短縮したこと以外は、実施例A-2と同様にして、フィルターX-2を作製した。
【0109】
得られたフィルターX-2に、電気比抵抗値が18MΩ・cmの水を、空間速度1200hr-1で通液したところ、通液後の水の電気比抵抗値は12.8MΩ・cmであった。
【0110】
(比較例X-3)
洗浄液での処理を行わなかったこと以外は、実施例A-2と同様にして、フィルターX-3を作製した。
【0111】
得られたフィルターX-3に、電気比抵抗値が18MΩ・cmの水を、空間速度1200hr-1で通液したところ、通液後の水の電気比抵抗値は0.03MΩ・cmであった。
【0112】
[流通試験A-1(PGMEAの流通試験)]
上記実施例及び比較例で得られたフィルターに、PGMEA(プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタート)を、1次側圧力50kPa、流量100ml/分の条件で通液させた。通液前後のPGMEA中のナトリウムイオンの含有量及び鉄イオンの含有量を測定した。結果を表1に示す。
【0113】
[流通試験A-2(フェノール樹脂含有溶液の流通試験)]
上記実施例及び比較例で得られたフィルターに、フェノール樹脂(旭有機材料株式会社製SP1006N)を5質量%含むPGMEA溶液を、1次側圧力50kPa、流量100ml/分の条件で通液させた。通液前後の溶液中のナトリウムイオンの含有量及び鉄イオンの含有量を測定した。結果を表1に示す。
【0114】
【0115】
(実施例B-1)
<乾燥ゲル粉末B-1-1>
実施例A-2と同様にして、平均粒子径d2が90μmの乾燥ゲル粉末を作製し、これを乾燥ゲル粉末B-1-1とした。
【0116】
<熱可塑性樹脂粉末B-1>
熱可塑性樹脂粉末として、セラニーズ社製(ドイツ、オーバーハウゼン)製、商品名「GUR 2126」(超高分子量ポリエチレン粉末、重量平均分子量:約4.5×106g/mol、平均粒子径d1:32μm)を用いた。
【0117】
<第一のフィルターB-1-1の作製>
乾燥ゲル粉末B-1-1(40質量部)と熱可塑性樹脂粉末B-1(60質量部)とを混合し、型に充填後、160℃のオーブン中で10分加熱して、径約47mm、厚さ約5mmの円盤状のフィルターを作製した。作製したフィルターは、フィルターの上側から下側に被処理液が流通するようにした。このフィルターを、第一のフィルターB-1-1とした。
【0118】
得られた第一のフィルターB-1-1に、電気比抵抗値が18MΩ・cmの水を、空間速度1200hr-1で通液したところ、通液後の水の電気比抵抗値は0.4MΩ・cmであった。
【0119】
<乾燥ゲル粉末B-1-2>
実施例A-1と同様にして、平均粒子径d2が90μmの乾燥ゲル粉末を作製し、これを乾燥ゲル粉末B-1-2とした。
【0120】
<第二のフィルターB-1-2の作製>
乾燥ゲル粉末B-1-2(40質量部)と熱可塑性樹脂粉末B-1(60質量部)とを混合し、型に充填後、160℃のオーブン中で10分加熱して、径約47mm、厚さ約5mmの円盤状のフィルターを作製した。作製したフィルターは、フィルターの上側から下側に被処理液が流通するようにした。作製したフィルターを、洗浄液で48時間以上処理して、第二のフィルターB-1-2を得た。
【0121】
得られた第二のフィルターB-1-2に、電気比抵抗値が18MΩ・cmの水を、空間速度1200hr-1で通液したところ、通液後の水の電気比抵抗値は17.6MΩ・cmであった。
【0122】
<金属イオン除去装置の作製>
被処理液が第一のフィルターB-1-1及び第二のフィルターB-1-2にこの順に通液するように、各フィルターを連結して金属イオン除去装置を作製した。
【0123】
(実施例B-2)
<乾燥ゲル粉末B-2-1>
イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂粒子を、110℃のオーブン(アドバンテック社(東京都文京区)製DRM620DB)中で36時間以上乾燥して、平均粒子径が440μmの乾燥ゲル粉末を得た。次いで、この乾燥ゲル粉末を粉砕して、平均粒子径d2が90μmの乾燥ゲル粉末B-2-1を調製した。
【0124】
<第一のフィルターB-2-1の作製>
乾燥ゲル粉末B-1-1に代えて乾燥ゲル粉末B-2-1を用いたこと以外は、実施例B-1の<第一のフィルターB-1-1の作製>と同様にして、第一のフィルターを作製し、第一のフィルターB-2-1を得た。
【0125】
得られた第一のフィルターB-2-1に、電気比抵抗値が18MΩ・cmの水を、空間速度1200hr-1で通液したところ、通液後の水の電気比抵抗値は0.1MΩ・cmであった。
【0126】
<金属イオン除去装置の作製>
第一のフィルターB-1-1を第一のフィルターB-2-1に変更したこと以外は、実施例B-1と同様にして金属イオン除去装置を作製した。
【0127】
(実施例B-3)
<乾燥ゲル粉末B-3-1>
三級アミン基を有する弱塩基性イオン交換樹脂粒子を、110℃のオーブン(アドバンテック社(東京都文京区)製DRM620DB)中で36時間以上乾燥して、平均粒子径が440μmの乾燥ゲル粉末を得た。次いで、この乾燥ゲル粉末を粉砕して、平均粒子径d2が90μmの乾燥ゲル粉末B-3-1を調製した。
【0128】
<第一のフィルターB-3-1の作製>
乾燥ゲル粉末B-1-1に代えて乾燥ゲル粉末B-3-1を用いたこと以外は、実施例B-1の<第一のフィルターB-1-1の作製>と同様にして、第一のフィルターを作製し、第一のフィルターB-3-1を得た。
【0129】
得られた第一のフィルターB-3-1に、電気比抵抗値が18MΩ・cmの水を、空間速度1200hr-1で通液したところ、通液後の水の電気比抵抗値は3.7MΩ・cmであった。
【0130】
<金属イオン除去装置の作製>
第一のフィルターB-1-1を第一のフィルターB-3-1に変更したこと以外は、実施例B-1と同様にして金属イオン除去装置を作製した。
【0131】
(比較例Y-1)
実施例B-2で作製した第一のフィルターB-2-1のみを用いて、金属イオン除去装置を作製した。
【0132】
(比較例Y-2)
実施例B-3で作製した第一のフィルターB-3-1のみを用いて、金属イオン除去装置を作製した。
【0133】
[流通試験B-1(フェノール樹脂含有溶液の流通試験)]
上記実施例及び比較例で得られた金属イオン除去装置に、フェノール樹脂(旭有機材料株式会社製SP1006N)を5質量%含むPGMEA溶液を供給し、第一のフィルター及び第二のフィルター(比較例では第一のフィルターのみ)にPGMEA溶液を通液させた。通液前後の溶液中のナトリウムイオンの含有量及び鉄イオンの含有量を測定した。結果を表2に示す。
【0134】
【0135】
(実施例C-1)
<フィルターC-1の作製>
実施例A-2と同様にしてフィルターを作製し、フィルターC-1とした。
【0136】
<金属イオンの除去>
フェノール樹脂(旭有機材料株式会社製SP1006N)を10質量%含むPGMEA溶液を準備した。また、水酸化ナトリウムを10質量%含む水溶液を調製し、この水溶液から、水酸化ナトリウムを1000ppm含有するIPA(イソプロパノール)溶液を調製した。上記PGMEA溶液100質量部に対して、上記IPA溶液0.01質量部を添加して、水酸化ナトリウムを0.1ppm含有する被処理液を調製した。得られた被処理液を、1次圧力50kPa、流量20ml/分の条件でフィルターC-1に流通させ、流通前後のナトリウムイオンの含有量及び鉄イオンの含有量を測定した。結果を表3に示す。
【0137】
(実施例C-2)
<金属イオンの除去>
フェノール樹脂(旭有機材料株式会社製SP1006N)を10質量%含むPGMEA溶液を準備した。また、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)を10質量%含む水溶液を調製し、この水溶液から、TMAHを1000ppm含有するIPA溶液を調製した。上記PGMEA溶液100質量部に対して、上記IPA溶液0.01質量部を添加して、TMAHを1000ppm含有する被処理液を調製した。得られた被処理液を、1次圧力50kPa、流量20ml/分の条件でフィルターC-1に流通させ、流通前後のナトリウムイオンの含有量及び鉄イオンの含有量を測定した。結果を表3に示す。
【0138】
(参考例1)
<金属イオンの除去>
フェノール樹脂(旭有機材料株式会社製SP1006N)を10質量%含むPGMEA溶液を準備した。このPGMEA溶液を、1次圧力50kPa、流量20ml/分の条件でフィルターC-1に流通させ、流通前後のナトリウムイオンの含有量及び鉄イオンの含有量を測定した。結果を表3に示す。
【0139】
【符号の説明】
【0140】
10…除去部、11…フィルター、20…第一のタンク、30…第二のタンク、100…金属イオン除去装置、50…第一の除去部、51…第一のフィルター、60…第二の除去部、61…第二のフィルター、70…第一のタンク、80…第二のタンク、90…第三のタンク、200…金属イオン除去装置。