IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ツェット・エフ・オートモーティブ・ジャーマニー・ゲーエムベーハーの特許一覧

特許7236819積層体の製造方法、積層体、及びエアバッグ
<>
  • 特許-積層体の製造方法、積層体、及びエアバッグ 図1
  • 特許-積層体の製造方法、積層体、及びエアバッグ 図2
  • 特許-積層体の製造方法、積層体、及びエアバッグ 図3
  • 特許-積層体の製造方法、積層体、及びエアバッグ 図4
  • 特許-積層体の製造方法、積層体、及びエアバッグ 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】積層体の製造方法、積層体、及びエアバッグ
(51)【国際特許分類】
   B32B 37/12 20060101AFI20230303BHJP
   C08J 5/12 20060101ALI20230303BHJP
   B32B 25/08 20060101ALI20230303BHJP
   B32B 25/10 20060101ALI20230303BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20230303BHJP
   B60R 21/235 20060101ALI20230303BHJP
【FI】
B32B37/12
C08J5/12 CFD
B32B25/08
B32B25/10
B32B27/36
B60R21/235
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018114710
(22)【出願日】2018-06-15
(65)【公開番号】P2019001164
(43)【公開日】2019-01-10
【審査請求日】2021-04-08
(31)【優先権主張番号】P 2017119101
(32)【優先日】2017-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】521140191
【氏名又は名称】ツェット・エフ・オートモーティブ・ジャーマニー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】山田 洋佑
(72)【発明者】
【氏名】田上 徹
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ルートヴィッヒ
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-101889(JP,A)
【文献】特開2003-293243(JP,A)
【文献】特開2011-058133(JP,A)
【文献】特開平03-007337(JP,A)
【文献】特開平05-338092(JP,A)
【文献】特開昭59-156745(JP,A)
【文献】特開2003-291266(JP,A)
【文献】特開2003-292743(JP,A)
【文献】特開2003-154618(JP,A)
【文献】特開昭58-222847(JP,A)
【文献】特開平03-294542(JP,A)
【文献】特開2002-265891(JP,A)
【文献】特開平09-143848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08J 5/00-5/02
5/12-5/22
B05D 1/00-7/26
B60R 21/16-21/33
C08J 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布と熱可塑性フィルムとを含む積層体の製造方法であって、
前記熱可塑性フィルムが、熱可塑性ポリエステル系エラストマーを含む接着層と、前記接着層に接合されており、前記接着層の融点よりも融点が高く、熱可塑性ポリエステル系エラストマーを含む気密層とを有する多層フィルムであり、
前記基布がポリエステルを含み、
前記接着層及び前記気密層のそれぞれの材料を溶融状態にする工程、
溶融された前記材料を同時に押出成形する工程、かつ、
前記多層フィルムを前記気密層の融点を下回る温度で加熱しながら、前記接着層を前記基布の表面に直接接着させる工程、
を含み、ここで、
前記接着層に含まれる前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーは、ポリエーテルを含むソフトセグメントと、ポリエステルを含むハードセグメントと、を含むブロック共重合体である、
積層体の製造方法。
【請求項2】
前記接着層を前記基布の表面に直接接着させる工程は、加圧により行われる、請求項1に記載の製造方法
【請求項3】
前記基布がエアバッグ用基布である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記気密層の融点が、前記接着層の融点よりも20℃を超えて高い、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
基布と熱可塑性フィルムとを含む積層体であって、
前記熱可塑性フィルムが、熱可塑性ポリエステル系エラストマーを含む接着層と、前記接着層に接合されており、前記接着層の融点よりも融点が高く、熱可塑性ポリエステル系エラストマーを含む気密層とを有する多層フィルムであり、
前記基布がポリエステルを含み、
前記接着層に含まれる前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーは、ポリエーテルを含むソフトセグメントと、ポリエステルを含むハードセグメントと、を含むブロック共重合体であり、かつ、
前記接着層は前記基布の表面に直接接着されている、
積層体。
【請求項6】
請求項に記載の積層体を用いてなるエアバッグであって、
前記基布が袋状に形成されており、前記基布の表面に前記多層フィルムが形成されている、エアバッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体の製造方法、積層体、及びエアバッグに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用エアバッグ、アウトドア用品、包装用途等に用いられる材料として、基布と、当該基布上に形成されたポリマーの層とを備えた積層体が知られている。このような積層体の製造方法としては、基布上に、ポリマー製のフィルムを接着する方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、熱可塑性樹脂繊維からなる布帛に、熱可塑性エラストマーをラミネートすることが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、布帛表面に、放電処理又は紫外線処理の少なくとも一種の処理を施した後、該処理面に接着剤を介して熱可塑性エラストマーを塗付又は積層することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平2-114035号公報
【文献】特開平5-338092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の発明では、ラミネートされる熱可塑性エラストマーは単層である。したがって、熱可塑性エラストマーを、熱を利用してラミネートする場合には、温度調整が難しく、エラストマー層の気密性を確保しつつ、熱可塑性エラストマーと布帛との良好な接着を得ることができない場合がある。一方、接着剤を利用してラミネートする場合には、接着剤を塗布する手間やコストがかかる。
【0007】
また、特許文献2の発明でも、熱可塑性エラストマーの接着に接着剤を用いるため、手間とコストがかかる。
【0008】
上記の点に鑑みて、本発明の一態様は、基布と熱可塑性フィルムとを接着させて積層体を製造する方法において、基布と熱可塑性フィルムとの良好な接着を得ることができ、また少ない手間とコストで行うことができる、積層体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、基布と熱可塑性フィルムとを含む積層体の製造方法であって、前記熱可塑性フィルムが多層フィルムであり、当該多層フィルムが、熱可塑性ポリエステル系エラストマーを含む接着層と、当該接着層に接合されており且つポリマーを含む気密層とを有し、前記気密層の融点が前記接着層の融点よりも高く、前記気密層の融点を下回る温度で加熱しながら、前記多層フィルムを前記接着層の側で前記基布に接着させる工程を含み、前記基布がポリエステルを含む糸を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一形態によれば、基布と熱可塑性フィルムとを接着させて積層体を製造する方法において、基布と熱可塑性フィルムとの良好な接着を得ることができ、また少ない手間とコストで行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一形態で使用される熱可塑性フィルムの模式的な断面図である。
図2】本発明の一形態による積層体の模式的な断面図である。
図3】本発明の一形態による積層体の模式的な断面図である。
図4】本発明の一形態による積層体を製造するための装置の模式図である。
図5】本発明の一形態による積層体の製造工程における基布と多層フィルムとの積層について説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一形態による製造方法は、基布と、熱可塑性フィルムとを積層させて接着させるものであるが、熱可塑性フィルムが、ポリマーを含む気密層と、熱可塑性ポリエステル系エラストマーを含む接着層とを含み、気密層の融点が接着層の融点よりも高くなっている。そして、気密層の融点を下回る温度で加熱しながら、接着層の側で基布に積層させて接着させる。そのため、気密層の気密性を確保しつつ接着層を軟化させて、熱可塑性フィルムを基布に接着させることができる。
【0013】
なお、本明細書において、「フィルム」とは、可撓性の薄膜を意味し、その温度、硬さ等の状態は問わない。よって、上記製造方法において供給される熱可塑性フィルムは、常温以下であってもよいし、常温より高い温度のものであってもよい。また、軟化されて少なくとも部分的に接着機能を発揮できる状態にあるものであってもよい。さらに、「気密層の融点を下回る温度で加熱しながら、接着層の側で基布に積層させて接着させる」には、例えば、常温以下で供給された熱可塑性フィルムを、加熱手段を用いて気密層の融点を下回る温度で加熱しながら基布に接着させることが含まれるし、また例えば、押出機で加熱されてフィルム状に押し出されたポリマーを、基布と接着させることも含まれる。
【0014】
(熱可塑性フィルム)
図1に、本形態の製造方法で用いられる熱可塑性フィルム1の模式的な断面図を示す。図1に示すように、熱可塑性フィルム1は多層フィルムであって、気密層2と、この気密層2に接合されている接着層3とを有する。本形態による製造方法は、このような熱可塑性フィルム1を、基布に接着させる工程を含む。この際、接着層3が基布に接着される側となる。接着層3は熱可塑性ポリエステル系エラストマーを含み、気密層2はポリマーを含み、気密層2の融点は接着層3の融点よりも高くなっている。
【0015】
本明細書において、気密層とは、当該層の内外で気体を流通させない機能を有する層である。また、接着層とは、基布に対して接着性を有する層であり、この接着性は、所定条件下、例えば温度及び/又は圧力を上昇させた条件下で軟化又は融解させることにより発現するものであってよい。多層フィルムが基布に接着されて積層体が形成される際、接着層は、基布に直接的に積層され、積層体中では、基布と気密層との間に挟まれた内部層となる。よって、接着層は、気密層と基布とを接合する層ともいえる。
【0016】
多層フィルムは、気密層と接着層とを有する少なくとも2層の構造を有している。これにより、フィルムを基布へ接着させる際の接着機能と、得られる積層体における気密機能とを各層に別個に持たせることができる。このような多層フィルムを用いることで、単層フィルムを基布に接着させる場合と比べて、基布への接着性(基布と熱可塑性フィルムとの間での耐層間剥離性)及び気密性の両方を確実に有する高品質の積層体を製造することができる。
【0017】
また、気密層の融点は、接着層の融点よりも高くなっている。そのため、多層フィルムを接着層側で、基布に、気密層の融点よりも低い温度で加熱して接着させることで、気密層の軟化を抑えつつ、接着層を、基布との接着に適した柔らかさに軟化又は融解させることができる。これにより、接着層の接着機能が確実に発揮されるとともに、気密層の軟化を抑制して気密層の気密機能を維持することができる。したがって、基布への確実な接着と、多層フィルムの気密性維持とを両立させることができる。
【0018】
本形態による多層フィルムは、接着剤等を介さなくとも、上述のように熱を利用して基布に良好に接着させることができるため、接着剤の使用による手間やコストを低減することができる。また、長期間使用する場合や高温高湿環境下で使用する場合等には、接着剤の変質によって積層体が柔軟性を失ったり、層間剥離が生じたりすることを防止できる。
【0019】
本明細書において、層の融点とは、層の温度を上昇させた場合に層が軟化して、層中のポリマーの分子同士が相対運動を始め、ポリマーが流動性を示すようになる温度を指す。よって、接着層及び気密層の融点は、それぞれ接着層及び気密層中のポリマー(ポリマーアロイを含む)の融点ということができる。このようなポリマーの融点は、示差走査熱量計で測定された融解ピーク温度とすることができる。
【0020】
(接着層)
本形態において、接着層は、熱可塑性エラストマー、具体的には熱可塑性ポリエステル系エラストマーを含む。熱可塑性エラストマーは、ハードセグメント(高融点セグメント、結晶性セグメントともいう)と、ソフトセグメント(低融点セグメント、非結晶性セグメントともいう)とを含むブロック共重合体であることが好ましい。熱可塑性エラストマーは、熱により軟化して流動性を示し、熱を加えてない状態ではゴム様の弾性を示すことができる。
【0021】
接着層に熱可塑性ポリエステル系エラストマーを使用することで、積層体の耐層間剥離性を向上させることができる。すなわち、接着層と基布との接着性及び接着層と気密層との接着性を、常温においても、高温及び/又は高湿の条件下においても向上させることができる。特に、本形態では、熱可塑性ポリエステル系エラストマーを含む接着層と、ポリエステルを含む基布とを組み合わせているため、優れた耐層間剥離性を有する積層体を得ることができる。また、積層体の柔軟性や機械的強度を向上させることができる。
【0022】
熱可塑性ポリエステル系エラストマーは、ハードセグメントとして主として芳香族ポリエステル等を含み且つソフトセグメントとして主として脂肪族ポリエーテル等を含むポリエステル・ポリエーテル型であってもよいし、ハードセグメントとして主として芳香族ポリエステル等を含み且つソフトセグメントとして主として脂肪族ポリエステル等を含むポリエステル・ポリエステル型であってもよい。
【0023】
熱可塑性ポリエステル系エラストマーのハードセグメントは、芳香族ポリエステル、例えば、芳香族ジカルボン酸成分とジオール成分とにより形成されるポリエステルを含むセグメントであると好ましい。
【0024】
芳香族ジカルボン酸成分となる芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、ナフタレン-2,7-ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ジフェニル-4,4'-ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4'-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-スルホイソフタル酸、及び3-スルホイソフタル酸ナトリウム等が挙げられる。上記芳香族ジカルボン酸成分は、芳香族ポリエステル中に単独で又は2種以上が組み合わされて含まれていてよい。また、ハードセグメントにおいて、上記芳香族ジカルボン酸成分の一部が、脂環式又は脂肪族カルボン酸に置き換えられていてもよい。
【0025】
ジオール成分となるジオールとしては、分子量400以下のジオール、例えば、1,4-ブタンジオール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール等の脂肪族ジオール、1,1-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ジシクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール等の脂環族ジオール、キシリレングリコール、ビス(p-ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p-ヒドロキシ)ジフェニルプロパン、2,2'-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン、1,1-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4'-ジヒドロキシ-p-ターフェニル,4,4'-ジヒドロキシ-p-クオーターフェニル等の芳香族ジオールが挙げられる。上記ジオール成分は、芳香族ポリエステル中に単独で又は2種以上が組み合わされて含まれていてよい。
【0026】
ハードセグメントに含まれるポリエステルは、耐熱性、ガスバリア性の観点から、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートが好ましく、ポリブチレンテレフタレートがより好ましい。
【0027】
熱可塑性ポリエステル系エラストマーのソフトセグメントは、脂肪族ポリエーテル及び/又は脂肪族ポリエステルを含んでいることが好ましい。脂肪族ポリエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール(ポリテトラメチレンエーテルグリコール)、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコール等が挙げられる。また、脂肪族ポリエステルとしては、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペート等が挙げられる。
【0028】
これらの脂肪族ポリエーテル及び/又は脂肪族ポリエステルのうち、弾性や成形性の観点から、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコール、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペート等が好ましく、これらの中でも、特にポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール(ポリテトラメチレンエーテルグリコール)、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、及び、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコールが好ましい。
【0029】
ソフトセグメントの数平均分子量としては、共重合された状態において300~6000程度であることが好ましい。
【0030】
なお、上述の熱可塑性ポリエステル系エラストマーは、ラジカル発生剤の存在下で、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸又はその誘導体等によって変性されていてもよい。変性のために添加される不飽和カルボン酸又はその誘導体は、熱可塑性ポリエステル系エラストマー100重量部に対して、0.1~30重量部であると好ましい。このような変性に用いられる成分の種類及び量は、接着される基布の材料や用途に応じて適宜選択することができる。
【0031】
接着層における熱可塑性ポリエステル系エラストマー中のハードセグメントの含有割合は、熱可塑性ポリエステル系エラストマー100質量%に対して、10~60質量%であると好ましく、20~40質量%であるとより好ましい。10質量%以上とすることで、多層フィルム及び積層体の機械的強度、耐熱性、高温高湿下での耐久性を向上させることができる。また、60質量%以下とすることで、多層フィルム及び積層体の適度な弾性、可撓性、及び成形性を確保することができる。
【0032】
接着層における熱可塑性ポリエステル系エラストマー中のソフトセグメントの含有割合は、熱可塑性ポリエステル系エラストマー100質量%に対して、50~90質量%であると好ましく、60~80質量%であるとより好ましい。50質量%以上とすることで、多層フィルム及び得られる積層体の適度な弾性、可撓性、及び成形性を確保することができる。また、90質量%以下とすることで、多層フィルム及び得られる積層体の機械的強度を向上させることができる。
【0033】
熱可塑性ポリエステル系エラストマー中のソフトセグメントの含有割合は、熱可塑性ポリエステル系エラストマーの融点や軟化点に関係する。一般に、熱可塑性ポリエステル系エラストマー中のソフトセグメントの含有割合が大きくなる程、熱可塑性ポリエステル系エラストマーの融点や軟化点は低くなる。よって、接着層における熱可塑性ポリエステル系エラストマー中のソフトセグメントの含有割合を調整することで、熱可塑性ポリエステル系エラストマーの融点を調整することができ、ひいては接着層の融点を調整することができる。
【0034】
接着層に用いられる熱可塑性ポリエステル系エラストマーの融点は、80℃以上であると好ましく、100℃以上であるとより好ましく、130℃以上であるとさらに好ましい。また、接着層に用いられる熱可塑性ポリマーの融点の上限は、気密層の融点を下回る温度であれば、特に限定されないが、250℃以下であると好ましく、200℃以下であるとより好ましく、170℃以下であるとさらに好ましい。
【0035】
接着層は、上述の熱可塑性ポリエステル系エラストマーを2種以上含むことができる。また、熱可塑性ポリエステル系エラストマーに加えて、ポリエステル系でない別の熱可塑性エラストマー、例えば、ポリアミド系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリブタジエン系エラストマー等のうち1種以上を含むことができる。また、エラストマーでない別のポリマー、例えば、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のうち1種以上を含むこともできる。
【0036】
熱可塑性ポリエステル系エラストマーの市販品としては、東レ・デュポン株式会社製「Hytrel(登録商標)」、三菱化学株式会社製「Primalloy(登録商標)」、東洋紡績株式会社製「ペルプレン(登録商標)」の各シリーズ等が挙げられる。
【0037】
接着層には、ポリマー以外のその他の成分が添加されていてもよい。その他の成分としては、顔料、充填材、酸化防止剤、加水分解安定剤、アンチブロッキング剤等の添加剤が挙げられる。
【0038】
接着層全体の厚さは、5~50μmであると好ましく、5~30μmであるとさらに好ましい。
【0039】
(気密層)
気密層は、ポリマーを含み、好ましくは熱可塑性ポリマーを含む。また、得られる積層体の弾性や機械的強度を向上させる観点から、気密層は、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリスチレン系、ポリブタジエン系の熱可塑性エラストマーを含むことが好ましく、中でも、熱可塑性ポリエステル系エラストマーを含むことが好ましい。気密層が熱可塑性ポリエステル系エラストマー含む場合には、接着層における熱可塑性ポリエステル系エラストマーについて説明したものから選択して使用することができる。
【0040】
気密層及び接着層において同系の熱可塑性エラストマーを用いた場合、例えば気密層及び接着層のいずれにも熱可塑性ポリエステル系エラストマーを用いた場合には、気密層と接着層との間の接合は強固になり、多層フィルム全体としての機械的強度も向上させることができる。また、基布に接着させて積層体とした場合には、積層体全体としての機械的強度を向上させることができる。気密層と接着層との層間結合力が、常温において、また長期保存後及び/又は高温高湿保存後においても向上する。
【0041】
また、気密層及び接着層において熱可塑性ポリエステル系エラストマーを用いる場合、気密層で用いられる熱可塑性ポリエステル系エラストマー中のハードセグメントの種類と接着層で用いられる熱可塑性ポリエステル系エラストマー中のハードセグメントの種類とは、互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、気密層で用いられる熱可塑性ポリエステル系エラストマー中のソフトセグメントの種類と接着層で用いられる熱可塑性ポリエステル系エラストマー中のソフトセグメントの種類とは、互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、気密層で用いられる熱可塑性ポリエステル系エラストマー中のハードセグメントの種類及びソフトセグメントの種類と、接着層で用いられる熱可塑性ポリエステル系エラストマー中のハードセグメントの種類及びソフトセグメントの種類とはそれぞれ、互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。セグメントの種類が互いに同じである場合には、気密層と接着層との間での結合力が強まり、多層フィルム内での層間剥離が起こりにくくなり、多層フィルム及び積層体の機械的強度を一層向上させることができる。
【0042】
気密層に用いられるポリマーの融点は、接着層の融点を上回る温度とすることができる。よって、多層フィルムを、気密層の融点を下回る温度で加熱して基布に接着することで、接着層が接着機能を有するように軟化又は融解させても、気密層が変形又は変質することを防止でき、気密層の気密機能を維持することができる。
【0043】
上述のように、気密層の融点は接着層の融点よりも高くなっているが、気密層の融点と接着層の融点との差は、好ましくは10~100℃、より好ましくは20~80℃とすることができ、20℃超であるとさらに好ましい。本形態による方法では、多層フィルムを、熱を利用して基布に接着させるため、気密層の融点と接着層の融点との差を上記の範囲とすることで、温度の制御が容易になる。そのため、接着層が十分に軟化せずに接着機能を果たせなかったり、或いは気密層が軟化して変形又は変質する等して気密性が損なわれたりしている不良品の発生を低減でき、生産安定性を向上させることができる。
【0044】
気密層の融点は、特に限定されないが、100℃以上であると好ましく、150℃以上であるとより好ましく、180℃以上であるとさらに好ましい。また、気密層に用いられる熱可塑性ポリマーの融点の上限も、特に限定されないが、多層フィルムの成形時の取り扱いやすさを考慮すると、300℃以下であると好ましく、270℃以下であるとより好ましく、230℃以下であるとさらに好ましい。
【0045】
気密層が熱可塑性ポリエステルエラストマーを含む場合には、熱可塑性ポリエステル系エラストマー中のハードセグメントの含有割合は、熱可塑性ポリエステル系エラストマー100質量%に対して、40~95質量%であると好ましく、60~90質量%であるとより好ましい。40質量%以上とすることで、多層フィルム及び積層体の機械的強度、耐熱性、高温高湿下での耐性を向上させることができる。また、95質量%以下とすることで、多層フィルム及び積層体の適度な弾性、可撓性、及び成形性を確保することができる。
【0046】
また、上記の場合、気密層における熱可塑性ポリエステル系エラストマー中のソフトセグメントの含有割合は、熱可塑性ポリエステル系エラストマー100質量%に対して、5~60質量%であると好ましく、10~50質量%未満であるとより好ましい。5質量%以上とすることで、多層フィルム及び積層体の適度な弾性、可撓性、及び成形性を確保することができる。60質量%以下とすることで、多層フィルム及び積層体の機械的強度、耐熱性、高温高湿下での耐性を向上させることができる。
【0047】
なお、気密層における熱可塑性ポリエステル系エラストマー中のソフトセグメントの含有割合(Pss)に対する、接着層における熱可塑性ポリエステル系エラストマー中のソフトセグメントの含有割合(Psa)の比の値(Psa/Pss)は、1.2~5であると好ましく、1.4~3.5であるとより好ましい。上記範囲とすることで、生産安定性を向上させることができ、また機械的強度や耐熱性を有しつつ、弾性、柔軟性等も優れた多層フィルム、及び積層体を得ることができる。
【0048】
気密層は、上述の熱可塑性ポリエステル系エラストマーを2種以上含むことができる。また、気密層は、ポリエステル系でない別の熱可塑性エラストマーを配合することができるし、エラストマーでないポリマーを配合することができる。
【0049】
気密層には、接着層と同様、ポリマー以外のその他の成分が添加されていてもよい。その他の成分としては、顔料、充填材、酸化防止剤、加水分解安定剤、アンチブロッキング剤等の添加剤が挙げられる。
【0050】
気密層全体の厚さは、5~50μmであると好ましく、5~30μmであるとさらに好ましい。
【0051】
(多層フィルムの層構成)
上述のように、熱可塑性フィルム(多層フィルム)は、気密層と接着層とを有している。接着層は、1層であってもよいし複数であってもよい。接着層が複数ある場合には、各接着層を構成する材料は、同じであってもよく、異なっていてもよい。また、複数の接着層の各層の融点は、同じであってもよいし異なっていてもよい。気密層も、同様に、1層であってもよいし、複数であってもよい。気密層が複数ある場合には、各気密層を構成する材料及び融点もそれぞれ、同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0052】
具体的な構成としては、第1の接着層、第2の接着層、及び気密層が、この順で積層されている多層フィルムを形成することができる。この場合、第1の接着層及び第2の接着層のいずれかに顔料等の色素を添加することができる。このような構成により、使用する色素の量を減らすことができ、積層体の製造コストを下げることができる。
【0053】
また、接着層を3層とし、第1の接着層、第2の接着層、第3の接着層、及び気密層が、この順で積層されている多層フィルムを形成することができる。また、気密層を2層とし、第1の接着層、第2の接着層、第1の気密層、及び第2の気密層が、この順で積層されている多層フィルムを形成することもできる。
【0054】
(多層フィルムの製造)
多層フィルムは、接着層と気密層とを接合させることによって製造することができる。その場合、予め、接着層及び気密層をそれぞれ別個のシート又はフィルムとして、押出成形等により成形しておき、互いを接合させて一体化させることができる。例えば、各シート又はフィルムを重ねて熱プレス又は熱ロールによって溶融圧着する方法、成形されたシート又はフィルム上に溶融した材料を押し出す押出ラミネート法等が挙げられる。
【0055】
また、接着層及び気密層の各層の材料をそれぞれ溶融状態にして、同時に押出成形(共押出)し、インフレーション成形法、Tダイ法を用いて成形することができる。このうち、大面積化が可能であり生産性に優れるインフレーション法を用いることが好ましい。
【0056】
(基布)
本明細書において、基布とは、多層フィルムと基布との積層により得られる、最終製品である積層体の強度を確保するための支持体として機能するシート状の構造体である。ここで、シート状とは、平面状の他、筒状、袋状、風船状に形成された形状も含む。
【0057】
基布は、繊維を含むものが好ましく、織物、編物、不織布であってよく、全体にわたり又は部分的に縫製がされていてもよい。中でも、機械的強度が高いことから、織物が好ましく、複数の経糸と複数の緯糸とを組み合わせた2軸構造であると好ましく、複数の経糸と、複数の緯糸と、複数の斜糸とを組み合わせた3軸構造とすることもできる。これらのうち2軸構造の基布が好ましく、強度及び製造の容易性から、平織された織物であるとより好ましい。また、基布には、平面状の基布ではなく、目的とする製品の形状に合わせて、湾曲面を有することができるよう、縫い目なく袋状に織り上げられたもの(One Piece Woven)も含まれる。
【0058】
上記OPWは、膨らませて内部に空気を貯めて使用される、エアバッグ等の用途で好適に用いることができる。このうち、カーテンエアバッグのために利用されるOPWは、複数の部屋が形成された複雑な曲面を有し、膨らませた時に凹凸が形成される構造を有し得る。通常、このような凹凸のある構造を有する基布にフィルムを接着させた場合、凹凸のない基布にフィルムを接着させるのに比べ、基布とフィルムとの間で剥離が生じやすい。しかしながら、本形態による多層フィルムを用いることで、凹凸のあるOPWであっても、多層フィルムを良好に接着することができ、層間剥離を防止することができる。
【0059】
繊維を構成するポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートといったポリアルキレンテレフタレート等のホモポリエステル、ポリエステルの繰り返し単位を構成する酸成分にイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸又はアジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸などを共重合したポリエステル繊維を含むことが好ましい。
【0060】
また、ポリエステル繊維に加えて、ポリエステル繊維以外の合成繊維、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、無機繊維、及びこれらの組合せ(混紡、混織を含む)を含んでいてもよい。繊維としては、芯鞘型繊維、サイドバイサイド型繊維、分割型繊維などの複合繊維を用いることもできる。
【0061】
なお、基布が織物である場合、基布は2種以上の繊維を含んでいてよく、例えば、異なる方向に延在する糸に用いられる繊維として、それぞれ異なる種類の繊維を使用することができる。より具体的には、経糸と緯糸とを含む2軸構造を有する場合、経糸と緯糸とを異なる種類の繊維とすることができる。この場合、経糸及び緯糸の少なくとも一方をポリエステル繊維とすることができる。
【0062】
本形態による方法では、基布がポリエステルを含む繊維を含み、多層フィルムの接着層が熱可塑性ポリエステル系エラストマーを含んでいることで、基布と多層フィルムとの接着性が向上し、得られる積層体においては、基布と多層フィルムとの間での剥離が起こりにくい。
【0063】
基布は、総繊度(単糸繊度×合糸数)が100~700dtexである糸を用いて形成されていることが好ましい。また、基布に用いられている繊維の単糸繊度は、1~10dtexであると好ましい。
【0064】
基布が平織の織物である場合、織り密度としては、経糸及び緯糸がそれぞれ、5~30本/cmであることが好ましい。
【0065】
基布の目付(1m当たり重量)は、積層体(最終製品)の収納性やコストを考慮して、300g/m以下、より好ましくは200g/m以下、さらに好ましくは190g/m以下、さらに好ましくは150g/m以下、100g/m以下とすることができる。また、機械的強度を確保する観点から、好ましくは30g/m以上、より好ましくは50g/m以上、さらに好ましくは70g/m以上とすることができる。
【0066】
(積層体)
図2に、本発明の一形態による積層体の模式的な断面図を示す。積層体5は、上述した気密層2と接着層3とを備えた多層フィルム1と、基布4とが互いに接着されて構成されている。
【0067】
図2の例では、基布4の一方の面に多層フィルム1が配置されているが、本形態の多層フィルムは、基布4の両面に設けることもできる。また、基布として、縫い目なく袋状に折られたOPWを用いた場合には、図3に示すように、袋の空気を抜き畳んだ状態で、両面に多層フィルム1a、1bがそれぞれ積層されたものであってもよい。図3に示す積層体は、エアバッグ等に使用することができる。
【0068】
(積層体の製造方法)
本発明の一形態による積層体の製造方法は、前記気密層の融点を下回る温度で加熱しながら、前記多層フィルムを前記接着層の側で前記基布に接着させる工程を含むものである。
【0069】
図4に、本形態による積層体の製造方法を実施するための積層体製造装置20を模式的に示す。図4では、基布4の両面に多層フィルムが積層された積層体を製造するための装置について説明する。積層体製造装置20は、加熱部22及び冷却部24を備えている。
【0070】
図4の積層体製造装置20を用いた製造方法においては、まず、予めリール等に巻き取られていた基布4、及び多層フィルム1a、1bをそれぞれ巻き解いて、基布4の両面(上面及び下面)に多層フィルム1a、1bをそれぞれ重ね合せる。具体的には、図示のように、気密層2a及び接着層3aを有する多層フィルム1aを、接着層3aが基布4側となるように重ね合せる。また、気密層2b及び接着層3bを有する多層フィルム1bを、接着層3bが基布4側となるように重ね合せる。そして、重ね合された多層フィルム1b、基布4、及び多層フィルム1aを、加熱部22に送り、加熱部22において加熱しながら加圧する。
【0071】
加熱部22は、例えば、一対の対向するロール(ニップロール等)、又は図示の例のような一対の対向するベルトからなる加圧手段を備えている。そして、このような一対の加圧手段の間に、重ね合わせられた多層フィルム1b、基布4、及び多層フィルム1aを通すことで、加熱及び加圧を行うことができる。加熱及び加圧は、図示の例のように同じ手段によって行われても、それぞれ別の手段によって行われてもよい。ここで、多層フィルムの接着層の融点は気密層の融点を下回る温度であるので、加熱部22における加熱温度を、気密層の融点を下回る温度とすることで、接着層が十分に軟化した状態で接着層を基布へと押し付けることができる。これにより、多層フィルム1a、1bを基布4の両面へとそれぞれ接着させることができ、多層フィルム1b、基布4、及び多層フィルム1aを備えた積層体5を形成することができる。
【0072】
続いて、加熱部22を通過した積層体5を、冷却部24へと送る。冷却部24においては、積層体5の温度を、好ましくは常温にまで下げることができる。冷却部24は、冷却媒体を含む冷却手段や吸気手段等を備えていてよい。また、冷却部24において、図示の例のように、一対の対向するベルトからなる加圧手段を用いて加圧されてもよいが、加圧は必ずしも必要ではない。
【0073】
なお、図4の製造装置において、多層フィルム1a及び1bのいずれかを省略することで、図2に示すような、基布4の片面に多層フィルム1が積層された積層体を製造することができる。
【0074】
また、基布4として、縫い目なく織られた筒状又は袋状のOPWを用いることもできる。これにより、図3に示すような積層体を製造することができる。その場合には、基布4は、袋状の基布4の内部から空気が抜かれてシート状にされ、予めリール等に巻かれており、重ね合される前に巻き解かれる。そして、基布4の上面及び下面に、上述のように多層フィルム1a、1bをそれぞれ重ね合せる。この場合、基布4が袋状になっているので、基布4の上面及び下面はいずれも基布4の表面となる。
【0075】
図5に、平らにされた状態で積層体製造装置20に投入された基布4の上面及び下面に、多層フィルム1a、1bがそれぞれ重ね合された状態の図を模式的に示す。図5に示すように重ね合わされた多層フィルム1a、基布4、及び多層フィルム1bは、加圧部22において、一対の加圧手段によって両面から加圧される。これにより、図3に示すような、多層フィルム1a、1bが基布4の上面及び下面にそれぞれ接合され、また多層フィルム1a、1bの縁部が、加熱により又は接着剤により互いに接合されることで、積層体(エアバッグ)6(図3)を得ることができる。余分な縁部は切断されてもよい。このようにして、基布が袋状に形成されており、基布の表面に多層フィルムが形成されているエアバッグを製造することができる。
【0076】
積層体を製造する際の加熱温度は、接着層の融点以上であって気密層の融点を下回る温度であれば、特に限定されない。加熱温度は、気密層の融点を下回る温度で、且つ接着層が軟化する温度とすることができる。具体的には、120~250℃であることが好ましい。また、加圧ローラの圧力は、多層フィルム及び基布の構成にもよるが、5~700N/cm、好ましくは10~500N/cmとすることができる。さらに、積層体製造時の運転条件等に応じて5~50N/cmとすることができる。
【0077】
上述のように、本形態による積層体の製造方法は、気密層の融点を下回る温度で加熱しながら、多層フィルムを接着層の側で基布に接着させる工程を含むものとすることができる。ここで、「気密層の融点を下回る温度で加熱しながら…接着させる工程」は、気密層の融点を下回る温度で接着させる工程であればよい。別言すれば、この工程は、多層フィルムが、気密層の融点を下回る温度で加熱された状態を保ちながら、多層フィルムを基布に接着させる工程といえる。
【0078】
よって、例えば、基布の搬送装置に近接させて多層フィルムの製造装置を配設した積層体製造装置を用いて、積層体を製造することができる。図4において、多層フィルム1a及び1bの少なくとも一方を、リールに巻き取られた状態から供給するのではなく、多層フィルムの製造装置(Tダイ等を含む押出機)から直接供給する構成とすることができる。この場合、押出機内で加熱され押出機からフィルム状に押し出された多層材料は、少なくとも気密層の融点を下回る温度であるが常温より高温の状態で供給され得る。そして、このような多層フィルムを基布上に配置して、必要に応じて加圧及び/又は加熱若しくは温度維持を行いながら、多層フィルムと基布との接着を行うことができる。
【0079】
なお、基布の製造装置(織機等)と積層体の製造装置とを近接させて配設した積層体製造装置を用いて、積層体を製造することもできる。すなわち、織られた直後の基布上に、押出機等から押し出された多層フィルムを重ね合せ、必要に応じて加圧及び/又は加熱若しくは温度維持を行って、積層体を製造することができる。
【0080】
このように、本形態による積層体の製造方法は、気密層の融点を下回る温度で、多層フィルムを接着層の側で基布に接着させる工程を含むものであってよい。
【0081】
(用途)
本形態の方法によって製造される積層体は、車両用エアバッグ、アウトドア用品、包装用途等において好適に用いられ、特に車両用エアバッグ、とりわけカーテンエアバッグの製造に好適に用いられる。カーテンエアバッグとは、サイドウインドウ上部のルーフライン等に取り付けられており、衝突時等に高荷重が作用した場合に、サイドウインドウに沿わせて鉛直下方にカーテン状に展開させるエアバッグを指す。
【0082】
カーテンエアバッグは、展開時には、作動後数秒間、例えば6~7秒間にわたり膨らんだ状態が維持されるため、カーテンエアバッグの材料には耐圧性が求められる。また、カーテンエアバッグは、展開前は、長期間にわたり、折り畳まれた又は丸められた状態でケーシング等に収納されることが多く、高温・高湿の環境に晒されることも多い。本形態による多層フィルム及び積層体は、そのような用途であっても好適に使用することができる。
【0083】
フィルムと基布とを有する積層体が、車両のエアバッグとして用いられる場合には、安全性を考慮して、積層体に対して様々な性能が要求される。安全性については各国で基準が設定されているが、その基準は厳しくなる傾向にある。例えば、米国においては近年、エアバッグの安全性基準が引き上げられ、高温高湿下での耐久性について言えば、例えば、従来の高温高湿接着性の試験における温度及び圧力条件が、温度40℃、相対湿度92%、168時間であったものが、温度70℃、相対湿度95%、408時間というより過酷なものとなった。そのため、かかる過酷な高温高湿環境下で耐えうるエアバッグの材料が求められていた。これに対し、本形態による製造方法で製造される積層体は、このような過酷な高温高湿下で保存された後であっても層間剥離を起こしにくく、優れた耐久性を示す。
【0084】
また、エアバッグを製造する上で、製品の低コスト化は常に求められている。エアバッグに用いられる基布の材料としては従来、ナイロン等のポリアミドが用いられることが多かったが、比較的安価なポリエステル製の基布が使用されるようになっている。そのため、ポリエステル製糸を含む基布に対しても接着性の高いフィルム材料が求められていたが、従来のフィルムでは、ポリエステル製基布に対する接着性が十分でない場合があった。本形態による積層体は、ポリエステルを含む基布と多層フィルムとを有するものであるが、ポリエステルを含む基布と、気密層と熱可塑性ポリエステル系エラストマーを含む接着層とを有し、且つ気密層の融点が接着層の融点より高くなっているフィルムを用いていることから、基布とフィルムとの間の接着性が、常温及び高温高湿下の条件においてともに優れている。
【実施例
【0085】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0086】
本実施例においては、気密層と接着層とを備えた多層フィルムを形成し、さらにその多層フィルムを基布に接着して積層体を製造し、評価を行った。
【0087】
[多層フィルムの原料]
多層フィルムの原料として、以下のものを使用した。なお、各原料の融点は、示差走査熱量計で測定された融解ピーク温度である。
【0088】
熱可塑性ポリエステル系エラストマー(PTEE-1):ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、数平均分子量2000のポリテトラメチレンエーテルグリコールをソフトセグメントとする、ポリエステル-ポリエーテルブロック共重合体。上記共重合体中、ポリブチレンテレフタレートの含有割合が25重量%であり、ポリテトラメチレンエーテルグリコールセグメントの含有量が75重量%である(融点152℃)。
【0089】
熱可塑性ポリエステル系エラストマー(PTEE-2):ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、数平均分子量2000のポリテトラメチレンエーテルグリコールをソフトセグメントとする、ポリエステル-ポリエーテルブロック共重合体。上記共重合体中、ポリブチレンテレフタレートの含有割合が35重量%であり、ポリテトラメチレンエーテルグリコールセグメントの含有割合が65重量%である(融点185℃)。
【0090】
熱可塑性ポリエステル系エラストマー(PTEE-3):ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、数平均分子量2000のポリテトラメチレンエーテルグリコールをソフトセグメントとする、ポリエステル-ポリエーテルブロック共重合体。上記共重合体中、ポリブチレンテレフタレートの含有割合が58重量%であり、ポリテトラメチレンエーテルグリコールセグメントの含有量が42重量%である(融点207℃)。
【0091】
[多層フィルム及び積層体の評価]
<常温での接着性(常温での耐層間剥離性)>
多層フィルムと基布とを積層させて得られた積層体から、50mm×150mmの試験片を作製し、試験片(積層体)の基布の部分を固定しつつ、多層フィルムの部分(気密層及び接着層)を180°方向に引張速度100mm/分で引きはがした際に要した力を剥離力(N/mm)として測定した。評価基準は以下の通りである。
〇:剥離力が0.5N/mm超であった。
△:剥離力が0.3~0.5N/mmであった。
×:剥離力が0.3N/mm未満であった、又は多層フィルム内で層間剥離が生じた。
【0092】
<高温高湿接着性(高温高湿下での耐層間剥離性)>
上述のようにして得られた試験片を密閉容器内に入れ、容器内の条件を温度70℃、相対湿度95%にして408時間にわたり保った。容器から取り出した試験片(積層体)の基布の部分を固定しつつ、多層フィルムの部分(気密層及び接着層)を180°方向に引張速度100mm/分で引きはがした際に要した力を剥離力(N/mm)として測定した。評価基準は以下の通りである。
〇:剥離力が0.5N/mm超であった。
△:剥離力が0.3~0.5N/mmであった。
×:剥離力が0.3N/mm未満であった、又は多層フィルム内で層間剥離が生じた。
【0093】
なお、剥離力測定では、剥離試験中に多層フィルムが破断したり延伸されたりすることを防ぐため、多層フィルムの気密層側に、接着剤を介して厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り合せて補強して用いた。
【0094】
[実施例1]
(多層フィルム)
3つの押出機を有するインフレーション押出装置(Dr Collin社製)を用いて多層フィルムの製造を行った。各押出機にそれぞれ、熱可塑性ポリエステル系エラストマー(PTEE-1)、熱可塑性ポリエステル系エラストマー(PTEE-1)、及び熱可塑性ポリエステル系エラストマー(PTEE-3)を投入し、各原料の融点以上で溶融し、インフレーション法にて3層フィルムを作製した。
【0095】
得られたフィルムは、熱可塑性ポリエステル系エラストマー(PTEE-1)からなる第1の接着層、熱可塑性ポリエステル系エラストマー(PTEE-1)からなる第2の接着層、及び熱可塑性ポリエステル系エラストマー(PTEE-3)からなる気密層が、この順に積層された3層フィルムであった。第1の接着層、第2の接着層、及び気密層の押出量はそれぞれ、10g/mであった。
【0096】
(多層フィルムと基布との積層)
基布として、ポリエチレンテレフタレート製の繊維で織られた平織基布を使用した。経糸及び緯糸の総繊度はいずれも470dtexであり、織り密度は、経糸及び緯糸それぞれ22本/cmであった。
【0097】
積層装置(Mayer製、Twin-belt flat lamination system)を用いて、上記PET製基布と上記3層フィルムとを、接着層が基布表面に接するよう積層し、200℃で加熱し、ニップロールで18N/cmに加圧しながら、上記接着層を軟化させて、基布と3層フィルムとを積層した。得られた積層体の常温での接着性及び高温高湿保存後の接着性を評価した。結果を表1に示す。
【0098】
[実施例2]
(多層フィルム)
熱可塑性ポリエステル系エラストマー(PTEE-1)に代えて、熱可塑性ポリエステル系エラストマー(PTEE-2)を用いた以外は、実施例1と同様にして3層フィルムを作製した。得られたフィルムは、熱可塑性ポリエステル系エラストマー(PTEE-2)からなる第1の接着層、熱可塑性ポリエステル系エラストマー(PTEE-2)からなる第2の接着層、及び熱可塑性ポリエステル系エラストマー(PTEE-3)からなる気密層が、この順に積層された3層フィルムであった。第1の接着層、第2の接着層、及び気密層の押出量はそれぞれ、10g/mであった。
【0099】
(多層フィルムと基布との積層)
実施例1と同様の方法で、基布と多層フィルムとの積層体を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0100】
[比較例1]
(多層フィルム)
実施例1と同様の3層フィルムを製造した。
【0101】
(多層フィルムと基布との積層)
基布を、ナイロン製のものに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、多層フィルムと基布とを積層させ、積層体を作製した。用いたナイロン製基布は、経糸及び緯糸の総繊度はいずれも470dtexであり、織り密度は、経糸及び緯糸それぞれ22本/cmであった。実施例1と同様にして、常温での接着性及び高温高湿保存後の接着性を評価した。結果を表1に示す。
【0102】
【表1】
【符号の説明】
【0103】
1、1a、1b 熱可塑性フィルム(多層フィルム)
2、2a、2b 気密層
3、3a、3b 接着層
4 基布
5 積層体
6 積層体(エアバッグ)
20 積層体製造装置
22 加熱部
24 冷却部
図1
図2
図3
図4
図5