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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】励磁作動ブレーキ
(51)【国際特許分類】
   F16D 55/36 20060101AFI20230303BHJP
   F16D 65/16 20060101ALI20230303BHJP
   H01F 7/06 20060101ALI20230303BHJP
   F16D 121/20 20120101ALN20230303BHJP
【FI】
F16D55/36 A
F16D65/16
H01F7/06 P
F16D121:20
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019016665
(22)【出願日】2019-02-01
(65)【公開番号】P2020125761
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000185248
【氏名又は名称】小倉クラッチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 基
(72)【発明者】
【氏名】黒須 義弘
(72)【発明者】
【氏名】小内 宏泰
(72)【発明者】
【氏名】村上 幸佑
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-028510(JP,A)
【文献】特開2010-014156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00-71/04
H01F 7/06
F16D 121/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被制動部材としての制動軸と、
環状に形成されて中空部に前記制動軸が遊嵌状態で通され、前記制動軸の軸方向における一端部に磁極面が形成されたフィールドコアと、
前記フィールドコアに設けられた励磁コイルと、
前記フィールドコアの前記磁極面に向けて前記軸方向に並びかつ互いに重なる状態で配置され、前記制動軸に前記軸方向へ移動自在かつ前記制動軸と一体に回転するように取付けられた複数のアーマチュアと
前記複数のアーマチュアを前記フィールドコアに向けて付勢するばね部材とを備え、
前記ばね部材は、圧縮コイルばねによって構成されているとともに、前記制動軸が通された状態で前記複数のアーマチュアを前記フィールドコアに向けて付勢するように構成され、
前記フィールドコアに磁気によって吸引されるアーマチュアの数は、前記励磁コイルに供給される電力の大きさに応じて変わり、
前記励磁コイルが励磁されていない状態において、前記複数のアーマチュアのうち前記フィールドコアに近いアーマチュアが前記ばね部材のばね力のみによって前記フィールドコアに接触して摩擦抵抗が生じ、最小制動トルクが得られることを特徴とする励磁作動ブレーキ。
【請求項2】
請求項1記載の励磁作動ブレーキにおいて、
前記複数のアーマチュアの軸心部は、前記制動軸のカット面を有する連結部に前記制動軸の軸方向へ移動可能に嵌合していることを特徴とする励磁作動ブレーキ。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の励磁作動ブレーキにおいて、
前記複数のアーマチュアは、前記フィールドコアに近いアーマチュアであって前記フィールドコアとの接触部分で摩擦抵抗が生じる内側のアーマチュアと、前記フィールドコアとの間に前記内側のアーマチュアが位置する外側のアーマチュアとを含み、
前記励磁コイルに供給される電力が相対的に小さい場合は、磁気吸引力が主に前記内側のアーマチュアに作用し、
前記励磁コイルに供給される電力が相対的に大きい場合は、磁気吸引力が前記外側のアーマチュアにも作用して前記内側のアーマチュアが前記外側のアーマチュアによって押されて前記磁極面に強く押し付けられ、制動力が増大することを特徴とする励磁作動ブレーキ。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか一つに記載の励磁作動ブレーキにおいて、
前記複数のアーマチュアは、互いに同一の材料によって形成されているとともに同一の形状に形成されていることを特徴とする励磁作動ブレーキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転部材や移動部材の制動またはその制動状態を保持する励磁作動ブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、励磁作動ブレーキ(以下、単に電磁ブレーキという)は、制動装置および制動保持装置を構成するものであり、様々な分野において安全装置として使用されている。この種の従来の電磁ブレーキは、励磁コイルを有するフィールドコアが移動できないように支持体に固定され、制動の対象となる制動軸にアーマチュアが設けられていることが多い。この電磁ブレーキにおいては、励磁コイルに通電されてアーマチュアがフィールドコアに磁気により吸着されることによって、制動軸の回転が制動される。
【0003】
この種の電磁ブレーキに生じる摩擦トルクTは、摩擦係数μ×軸方向の全圧力P×摩擦面の有効半径R×摩擦面の数Nという計算式によって求められる。このトルク値は、鉄心のB(磁束密度)-H(磁界の強さ)特性に沿った値になる。このため、電磁ブレーキの制動トルクは、図12中に破線や二点鎖線で示すように、励磁コイルに印加する電圧の増大に伴って大きくなる。
【0004】
図12において破線は、制動トルクが相対的に低くなるように構成された電磁ブレーキ(以下、単に低トルク用電磁ブレーキという)の動作特性を示し、図12において二点鎖線は、制動トルクが相対的に高くなるように構成された電磁ブレーキ(以下、単に高トルク用電磁ブレーキという)の動作特性を示す。
高トルク用電磁ブレーキは、低トルク用電磁ブレーキより磁気吸引力を大きくすることができるため、高い制動トルクが得られる。また、図12から分かるように、高トルク用電磁ブレーキの最小制動トルクは、低トルク用電磁ブレーキの最小制動トルクより大きい。
【0005】
一方、従来の電磁ブレーキとしては、例えば特許文献1に記載されているものがある。この特許文献1に示す電磁ブレーキは、フィールドコアに磁気吸着される第1および第2のアーマチュアを有している。これらのアーマチュアのうち、第1のアーマチュアは、ばね力が相対的に弱い複数の板ばねを介して制動軸に支持され、第2のアーマチュアは、ばね力が相対的に強い複数の板ばねを介して制動軸に支持されている。
【0006】
この従来の電磁ブレーキによれば、励磁コイルに通電する電流値が相対的に小さい場合は第1のアーマチュアがフィールドコアに磁気吸着されて相対的に小さい制動力が生じる。励磁コイルに通電する電流値が相対的に大きい場合には、第1のアーマチュアと第2のアーマチュアとがそれぞれフィールドコアに磁気吸着されて制動力が増大する。このため、最小制動トルクと最大制動トルクとの差を大きくとることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-28510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の電磁ブレーキの中には、最小制動トルクが生じている状態において制動軸を回すことができ、しかも、制動軸を停止させるときには大きな最大制動トルクで完全に止めることができる性能を求められているものがある。この要請に応えるためには、大きな最大制動トルクを得るために高トルク用電磁ブレーキを使用する必要がある。しかし、従来の高トルク用電磁ブレーキでは、最小制動トルクが低トルク用電磁ブレーキの最小制動トルクより大きくなってしまうために、最小制動トルクが生じている状態で制動軸が回り難くなってしまい、上述した要請に応えることはできなかった。
【0009】
このような不具合は、特許文献1に開示されているような、最小制動トルクと最大制動トルクとの差を大きくとることが可能な電磁ブレーキを使用することにより、ある程度は解消する。しかし、特許文献1に示す電磁ブレーキでは、二つのアーマチュアを個別に支持するために、ばね力が異なる複数の板ばねが必要であるから、構造が複雑になるとともに部品数が多くなるという新たな問題が生じる。
【0010】
本発明の目的は、最小制動トルクと最大制動トルクとの差を大きくとることが可能で、しかも構造が簡単な励磁作動ブレーキを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するために、本発明に係る励磁作動ブレーキは、被制動部材としての制動軸と、環状に形成されて中空部に前記制動軸が遊嵌状態で通され、前記制動軸の軸方向における一端部に磁極面が形成されたフィールドコアと、前記フィールドコアに設けられた励磁コイルと、前記フィールドコアの前記磁極面に向けて前記軸方向に並ぶように配置され、前記制動軸に前記軸方向へ移動自在かつ前記制動軸と一体に回転するように取付けられた複数のアーマチュアとを備え、前記フィールドコアに磁気によって吸引されるアーマチュアの数は、前記励磁コイルに供給される電力の大きさに応じて変わるものである。
【0012】
本発明は、前記励磁作動ブレーキにおいて、さらに、前記複数のアーマチュアを前記フィールドコアに向けて付勢するばね部材を備えていてもよい。
【0013】
本発明は、前記励磁作動ブレーキにおいて、前記複数のアーマチュアは、互いに同一の材料によって形成されているとともに同一の形状に形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明において、励磁コイルに供給される電力(例えば励磁コイルを流れる電流)が相対的に小さい場合は、複数のアーマチュアのうち、フィールドコアに最も近い内側のアーマチュアが磁気によって吸引され、この内側のアーマチュアがフィールドコアの磁極面に磁気によって吸着される。このようにアーマチュアが磁極面に吸着されることにより制動軸が制動される。この場合は、実質的に低トルク用電磁ブレーキとして機能し、相対的に小さい最小制動トルクが得られる。
【0015】
励磁コイルに供給される電流が増大することにより、この内側のアーマチュアより外側(フィールドコアとは反対側)に位置するアーマチュアもフィールドコアに磁気によって吸引されるようになる。この外側のアーマチュアは、フィールドコアに吸引されることによって、内側のアーマチュアをフィールドコアに向けて押す。このため、内側のアーマチュアが外側のアーマチュアによって付勢されて磁極面に強く押し付けられるようになり、制動力が増大する。
【0016】
この場合は、実質的に高トルク用電磁ブレーキとして機能し、高トルク用電磁ブレーキと同等の最大制動トルクが得られる。
複数のアーマチュアを軸方向に移動自在に支持する部材は制動軸であるから、複数のアーマチュアを支持するために専用の部品は不要である。
したがって、本発明によれば、最小制動トルクと最大制動トルクとの差を大きくとることが可能で、しかも構造が簡単な励磁作動ブレーキを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る励磁作動ブレーキの正面図である。
図2】本発明に係る励磁作動ブレーキの背面図である。
図3図2におけるIII-III線断面図である。
図4】フィールドコアの正面図である。
図5】フィールドコアの背面図である。
図6図5におけるVI-VI線断面図である。
図7】制動軸とアーマチュアの断面図である。
図8】低電流が供給されているときの磁束の状態を示す要部の断面図である。
図9】高電流が供給されているときの磁束の状態を示す要部の断面図である。
図10】複数のアーマチュアの変形例を示す断面図である。
図11】複数のアーマチュアの変形例を示す断面図である。
図12】励磁作動ブレーキの制動トルクと電圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る励磁作動ブレーキの一実施の形態を図1図9を参照して詳細に説明する。
図1に示す励磁作動ブレーキ1(以下、単に電磁ブレーキという)1は、図1および図2の中心部に位置する制動軸2を被制動部材とし、この制動軸2の回転を制動するノーギャップ方式の電磁ブレーキである。この電磁ブレーキ1は、制動軸2と、この制動軸2が貫通するフィールドコア組立体3と、このフィールドコア組立体3の一端側に配置された複数のアーマチュア4,4と、この複数のアーマチュア4,4をフィールドコア組立体3に向けて付勢するばね部材5(図3参照)などを備えている。以下において、この電磁ブレーキ1の構成を説明するうえで方向を示すにあたっては、便宜上、複数のアーマチュア4,4が位置する一端側を前側として説明する。
【0019】
フィールドコア組立体3は、図3に示すように、図3において最も外側に位置する有底円筒状のフィールドコア11に各種の部品を組付けて形成されている。フィールドコア11は、環状に形成されて中空部に制動軸2が遊嵌状態で通されている。詳述すると、フィールドコア11は、図3図6に示すように、径方向の内側に位置する円筒状の内側円筒部12と、この内側円筒部12と同一軸線上に位置付けられて内側円筒部12より径方向の外側に位置する円筒状の外側円筒部13と、内側円筒部12の前端と外側円筒部13の前端とを接続する環状の円板部14とを有している。
【0020】
内側円筒部12の内周部には、図3に示すように、第1および第2の滑り軸受15,16が設けられている。内側円筒部12は、これらの第1および第2の滑り軸受15,16を介して制動軸2を回転自在かつ軸方向へ移動自在に支持している。第1および第2の滑り軸受15,16は、フィールドコア11を通る磁束Φが制動軸2に漏洩することを防ぐために、非磁性材料によって形成されている。
第1および第2の滑り軸受15,16のうち、後側に位置する第1の滑り軸受15は、制動軸2に取付けられた抜け止めリング17と接触し、制動軸2の前側への移動を規制している。
【0021】
内側円筒部12の外周面であって後側の端部には、円環状のコア板18が嵌合状態で固着されている。このコア板18の外周面と外側円筒部13の内周面との間には断磁用の空隙Sが形成されている。
外側円筒部13は、内側円筒部12より後側に突出するように形成されている。この外側円筒部13の後端には、径方向の外側へ延びる取付用フランジ19が一体に形成されている。
【0022】
円板部14は、制動軸2の軸方向においてフィールドコア11の一端部(前端部)に位置している。この円板部14の前面は、フィールドコア11の磁極面21である。この磁極面21には、後述する複数のアーマチュア4,4のうち、フィールドコア11と隣り合う内側のアーマチュア4Aがばね部材5のばね力で押し付けられている。この円板部14は、内側円筒部12および外側円筒部13と協働して環状溝22を形成している。この環状溝22の中には、励磁コイル23がボビン24とともに収容されている。
励磁コイル23は、給電用ケーブル25(図1および図2参照)を介して電源装置(図示せず)に接続されており、電源装置によって給電されることにより励磁し、磁束Φを発生させる。給電用ケーブル25は、外側円筒部13の貫通孔26(図6参照)に通されてフィールドコア11の外に導出されている。
【0023】
フィールドコア11の円板部14は、励磁コイル23が通電されることにより発生した磁束Φが複数のアーマチュア4,4を通って迂回するように、磁束Φを通り難くする断磁部31を有している。
断磁部31は、図3に示すように、円板部14の前面に開口する溝32を含んでいる。この溝32は、図4に示すように、前側から見て環状に形成されており、円板部14の前面(磁極面21)を径方向の内側と外側とに分けている。円板部14の前面であって溝32より径方向の内側には、平坦な第1の磁極面21Aが形成されている。円板部14の前面であって溝32より径方向の外側には、平坦な第2の磁極面21Bが形成されている。第1の磁極面21Aと第2の磁極面21Bは、制動軸2の軸方向において同一位置に形成されている。
【0024】
溝32の中には、図3に示すように、摩擦板33が設けられている。摩擦板33は、環状に形成されて溝32の中に嵌合状態で固着されている。また、摩擦板33は、溝32に取付けられた状態で第1および第2の磁極面21A,21Bより僅かに突出するように構成されている。
溝32の溝底32a(図6参照)には、複数のスリット34が形成されている。この実施の形態においては、溝32の中に3つのスリット34が形成されている。スリット34の開口形状は、制動軸2の軸心を中心とする円弧状の長円である。3つのスリット34は、円板部14を周方向に3等分する位置にそれぞれ形成されており、それぞれ溝底32aを前後方向に貫通している。3つのスリット34が溝32に形成されることにより、溝32の溝底32aであってスリット34どうしの間にはブリッジ部35が形成される。
【0025】
複数のアーマチュア4,4は、図7に示すように、それぞれ円板状に形成されており、フィールドコア11の第1および第2の磁極面21A,21Bに向けて制動軸2の軸方向に並ぶように配置されている。図7の破断位置は図3中にVII-VII線によって示す位置である。この実施の形態による複数のアーマチュア4,4は、互いに同一の磁性材料によって形成されているとともに、同一の形状に形成されている。ここでいう同一の形状とは、厚みおよび外径が同一であって、外形も同一であることをいう。この実施の形態においては、2枚のアーマチュア4が互いに重なる状態で使用されている。以下においては、便宜上、2枚のアーマチュア4,4のうち、フィールドコア11に近い一方のアーマチュア4を内側のアーマチュア4Aといい、他方のアーマチュア4を外側のアーマチュア4Bという。
この実施の形態による内側のアーマチュア4Aと外側のアーマチュア4Bは、最終形状に形成された後に硬化処理が施されている。
【0026】
内側および外側のアーマチュア4A,4Bの軸心部は、図7に示すように、制動軸2の一対のカット面36を有する連結部2aに制動軸2の軸方向へ移動可能に嵌合している。このため、内側および外側のアーマチュア4A,4Bは、制動軸2に軸方向へ移動自在かつ制動軸2と一体に回転するように取付けられている。
外側のアーマチュア4Bは、図3に示すように、制動軸2の前端側のスプリングシート41との間に設けられたばね部材5によって、制動軸2に対して後側に付勢されている。
【0027】
このようにばね部材5によって後方に向けて押された外側のアーマチュア4Bは、内側のアーマチュア4Aの前面に当接し、内側のアーマチュア4Aをフィールドコア11に向けて押す。この実施の形態においては、内側のアーマチュア4Aが本発明でいう「他のアーマチュア」に相当し、外側のアーマチュア4Bが本発明でいう「フィールドコアとの間に他のアーマチュアが存在するアーマチュア」に相当する。
この実施の形態によるばね部材5は、圧縮コイルばねによって構成されている。スプリングシート41は、制動軸2が貫通するリングからなり、制動軸2に係合したスナップリング42に後側から重ねられている。
【0028】
このように構成された電磁ブレーキ1においては、内側のアーマチュア4Aがフィールドコア11の摩擦板33に接触した状態で回転することによって、制動軸2に摩擦抵抗が付与され、制動軸2が制動される。励磁コイル23が励磁されていない状態においては、内側のアーマチュア4Aはばね部材5のばね力のみによって摩擦板33に押し付けられる。この電磁ブレーキ1においては、このように内側のアーマチュア4Aがばね部材5のばね力のみで摩擦板33に押し付けられることにより最小制動トルクが得られる。このため、この電磁ブレーキ1の最小制動トルクは、励磁コイル23に通電して得られる最小の制動トルクより小さくなる。
【0029】
励磁コイル23が通電されて磁束Φが生じ、この磁束Φが内側のアーマチュア4Aを通るようになると、内側のアーマチュア4Aに磁気吸引力が作用し、内側のアーマチュア4Aが磁気吸引力によって助勢されて摩擦板33に押し付けられるようになる。このため、内側のアーマチュア4Aと摩擦板33との接触部分に生じる摩擦抵抗が増大する。このとき、内側のアーマチュア4Aを摩擦板33に押し付ける力は、励磁コイル23に供給される電流(電圧)の大きさに応じて変化する。
【0030】
励磁コイル23に供給される電力が相対的に小さい場合(低電流が供給される場合)は、図8に示すように、磁束Φが円板部14の断磁部31を避けて第1および第2の磁極面21A,21Bを通って内側のアーマチュア4Aに迂回する。このように供給電力が小さいときには、内側のアーマチュア4Aから外側のアーマチュア4Bに磁束Φが迂回することはないか、迂回したとしてもきわめて少なくなる。このため、この場合は、電磁ブレーキ1が実質的に低トルク用電磁ブレーキとして機能する。
【0031】
励磁コイル23に供給される電力が相対的に大きい場合(高電流が供給される場合)は、図9に示すように、内側のアーマチュア4Aを通過して外側のアーマチュア4Bを通る磁束Φaが増える。そして、外側のアーマチュア4Bも磁気吸引力で円板部14に吸引されるようになり、外側のアーマチュア4Bが内側のアーマチュア4Aをフィールドコア11に向けて押すようになる。すなわち、フィールドコア11に磁気によって吸引されるアーマチュア4の数は、励磁コイル23に供給される電力の大きさに応じて変わる。
【0032】
このため、内側のアーマチュア4Aが外側のアーマチュア4Bによって押されて磁極面21(摩擦板33)に強く押し付けられるようになり、制動力が増大する。この場合は、実質的に高トルク用電磁ブレーキとして機能し、高トルク用電磁ブレーキと同等の最大制動トルクが得られる。
この電磁ブレーキ1において、複数のアーマチュア4,4を軸方向に移動自在に支持する部材は制動軸2であるから、複数のアーマチュア4,4を支持するために専用の部品は不要である。
したがって、この実施の形態によれば、最小制動トルクと最大制動トルクとの差を大きくとることが可能で、しかも構造が簡単な電磁ブレーキ(励磁作動ブレーキ)を提供することができる。
【0033】
この電磁ブレーキ1の制動トルクは、励磁コイル23に印加される電圧の変化に伴って図12中に実線で示すように変化する。図12に示すように、この実施の形態の電磁ブレーキ1においては、電流(電圧)値が低いときには、低トルク用電磁ブレーキの制動トルクの最小値に近似した制動トルクを得ることができるとともに、電流(電圧)値が高くなったときには、高トルク用電磁ブレーキの制動トルクの最大値に近似した制動トルクを得ることができる。また、この実施の形態を採ることにより、電圧が低い状態から高い状態に移行する過程において、従来の低トルク用電磁ブレーキおよび高トルク用電磁ブレーキより制動トルクの増加率が高くなる動作特性が得られることが分かった。なお、電磁ブレーキ1の励磁コイル23の巻数などの設計上の数値は、高トルク用電磁ブレーキの数値とは相異する。
【0034】
この実施の形態による電磁ブレーキ1は、複数のアーマチュア4,4をフィールドコア11に向けて付勢するばね部材5を備えている。このため、ばね部材5のばね力を変えることによって、励磁コイル23が励磁されていない状態で得られる制動トルクの大きさを変えることができる。したがって、最小制動トルクの調整幅が広い電磁ブレーキを提供することができる。
【0035】
この実施の形態による電磁ブレーキ1の複数のアーマチュア4,4は、互いに同一の材料によって形成されているとともに、同一の形状に形成されている。このため、部品の共通化が図られ、製造コストを低減することができる。
【0036】
(複数のアーマチュアの変形例)
複数のアーマチュアは、図10および図11に示すように構成することができる。
図10に示す電磁ブレーキ1は、内側のアーマチュア4Aと、外側のアーマチュア4Bと、これらの内側のアーマチュア4Aと外側のアーマチュア4Bとの間に挟まれた中央のアーマチュア4Cとを備えている。このように、複数のアーマチュア4を装備するにあたって、制動軸2の軸方向に並ぶアーマチュア4の枚数は2枚に限定されることはなく、3枚以上であってもよい。
【0037】
図11に示す内側のアーマチュア4Aは、外側のアーマチュア4Bより厚く形成されている。これらの内側のアーマチュア4Aと外側のアーマチュア4Bは、厚みが異なる他は同一の構成となるように形成されている。
このようにアーマチュア4の枚数を変えたり、一部のアーマチュア4の厚みを変えることにより、制動時に低トルク用電磁ブレーキの特性から高トルク用電磁ブレーキの特性に移行する際の電圧や制動トルクの増加率などが変わるから、所望の特性を有する電磁ブレーキを容易に製造することができる。
【符号の説明】
【0038】
1…電磁ブレーキ(励磁作動ブレーキ)、2…制動軸、3…フィールドコア組立体、4…アーマチュア、4A…内側のアーマチュア、4B…外側のアーマチュア、5…ばね部材、11…フィールドコア、21A…第1の磁極面、21B…第2の磁極面、23…励磁コイル、Φ,Φa…磁束。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12