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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】吸収性物品
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/15 20060101AFI20230303BHJP
   A61F 13/53 20060101ALI20230303BHJP
【FI】
A61F13/15 141
A61F13/15 142
A61F13/53 100
A61F13/53 300
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019032773
(22)【出願日】2019-02-26
(65)【公開番号】P2020130951
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-12-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】納城 隆一
【審査官】冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-062029(JP,A)
【文献】特開2017-140332(JP,A)
【文献】特開2007-097953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F13/15-13/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水性ポリマー及び親水性繊維を含む吸収性コアと、該吸収性コアを被覆するコアラップシートとを有する吸収体を備え、
前記吸収体の肌対向面側において、重合消臭材料を前記吸収性コアと前記コアラップシートとの間に配するとともに、該重合消臭材料と該吸収性コアとの間に液透過性シートを配して、該重合消臭材料と該吸収性コアとを隔離しており、
前記液透過性シートは、第1繊維層と、第1繊維層よりも繊維間距離が大きい第2繊維層とを厚み方向に有する多層のシートであり、
前記液透過性シートにおける第2繊維層側の面が、前記吸収性コアの肌対向面と対向して配されている、吸収性物品。
【請求項2】
前記吸収体は多孔質消臭剤を含む、請求項に記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記重合消臭材料が、前記多孔質消臭剤と前記吸収性コアとの間に配されている、請求項に記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記吸収体は抗菌剤を含む、請求項1ないしのいずれか一項に記載の吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は先に、尿臭等の排泄物臭を消臭する吸収性物品を提案した(特許文献1参照)。この吸収性物品は、肌当接面、非肌当接面及びその間に位置する吸収体を備えており、更にフェノール性化合物を重合する機能を有する材料と、少なくとも一部にフェニル基を有する多孔性ポリマーとを含むことによって、特に尿に起因する悪臭を効果的に消臭することができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-140332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の吸収性物品は、フェノール性化合物を重合する機能を有する材料を用いるので、フェノールやクレゾール等の臭い成分を重合によって効果的に除去して消臭することができる。しかし、前記材料は排泄物中のフェノール性化合物以外の成分にも作用してしまう可能性があり、排泄物を吸収した後の吸収体が変色するおそれや、それに伴う吸収性物品の外観の悪化のおそれがある点で改善の余地があった。
【0005】
したがって、本発明の課題は、上述した欠点を解決し得る吸収性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、吸水性ポリマー及び親水性繊維を含む吸収性コアと、該吸収性コアを被覆するコアラップシートとを有する吸収体を備え、
前記吸収体の肌対向面側において、重合消臭材料を前記吸収性コアと前記コアラップシートとの間に配するとともに、該重合消臭材料と該吸収性コアとの間に液透過性シートを配して、該重合消臭材料と該吸収性コアとを隔離している、吸収性物品を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、排泄物に起因する悪臭、特に尿に起因する悪臭を効果的に消臭するとともに、排泄物の吸収後も外観が良好な吸収性物品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、吸収性物品の一実施形態を示す断面図である。
図2図2は、吸収性物品の別の実施形態を示す断面図である。
図3図3は、吸収性物品における吸収体の構成部材の配置形態を示す拡大図である。
図4図4は、吸収性物品における吸収体の構成部材の別の配置形態を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の吸収性物品をその好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。本発明の吸収性物品は、着用者の腹側から股間部を介して背側に延びる方向に相当する長手方向とこれに直交する幅方向とを有する縦長の形状をしている。そして吸収性物品は、着用者の股間部に配される股下部並びにその前後に延在する腹側部及び背側部を有する。股下部は、吸収性物品の着用時に着用者の排泄部に対向配置される排泄部対向部を有しており、該排泄部対向部は通常、吸収性物品の長手方向の中央部又はその近傍に位置している。
【0010】
本発明の吸収性物品は、着用者の肌対向面側に位置する表面シートと、非肌対向面側に位置する裏面シートと、両シート間に介在配置された吸収体とを備える。図1には、吸収性物品の一実施形態の断面図が示されている。同図に示すように、吸収性物品1は、表面シート2と、裏面シート3と、両シート2,3間に介在する吸収体4とを備えている。本明細書において、肌対向面とは、吸収性物品1を構成する各部材の表裏両面のうち、着用時に着用者の肌側に配される面であり、非肌対向面とは、吸収性物品1を構成する各部材の表裏両面のうち、着用時に着用者の肌側とは反対側に向けられる面である。以下の説明では、図1ないし図4に示す上側が肌対向面側とし、下側が非肌対向面側とする。
【0011】
表面シート2としては、液透過性を有するシート、例えば不織布や穿孔フィルムなどを用いることができる。表面シートは、その肌対向面側が凹凸形状になっていてもよい。例えば表面シートの肌対向面側に、散点状に複数の凸部を形成することができる。あるいは、表面シートの肌対向面側に、一方向に延びる畝部と溝部とを交互に形成することができる。そのような目的のために、2枚以上の不織布を用いて表面シートを形成することもできる。
【0012】
裏面シート3としては、例えば液難透過性のフィルムやスパンボンド・メルトブローン・スパンボンド積層不織布などを用いることができる。液難透過性のフィルムに、複数の微細孔を設け、該フィルムに水蒸気透過性を付与してもよい。これに加えて、裏面シートの外面に不織布等の風合いの良好なシートを積層してもよい。
【0013】
吸収体4は、吸水性ポリマー及び親水性繊維を含む吸収性コア41と、吸収性コア41を被覆するコアラップシート42とを備えている。吸収性コア41は、少なくともその肌対向面が液透過性のコアラップシート42で被覆されており、肌対向面及び非肌対向面を含む表面の全域がコアラップシート42で被覆されていてもよい。図1に示す実施形態では、吸収性コア41の肌対向面及び非肌対向面を含む表面の全域がコアラップシート42で被覆されている。
【0014】
吸収体4の構成について詳細に説明すると、図1に示すように、吸収性コア41とコアラップシート42との間には、重合消臭材料5が配されている。重合消臭材料5は、フェノール性化合物を重合する機能を有する材料を指し、吸収性物品1が吸収する液、特に尿に含まれているフェノールやクレゾール等のフェノール性化合物を重合させて高分子化し、吸収体4に吸収された尿から揮発するフェノール性化合物の揮発量を低減させるものである。重合消臭材料5は、少なくとも、尿に含まれるフェノール性化合物の代表例であるクレゾールに作用して、その揮発量を低減させるものであることが好ましい。
【0015】
重合消臭材料5は、上述したフェノール性化合物を酸化させて酸化物とし、該酸化物とフェノール性化合物とを重合させて高分子化する作用、又は該酸化物どうしを重合させて高分子化する作用のうち少なくとも一方を有するものであることが更に好ましい。以下の説明では、フェノール性化合物の酸化及び重合による高分子化を「酸化重合」ともいう。このような重合消臭材料5としては、酸化重合作用を有する酵素及び触媒等が挙げられる。消臭性の向上の観点から、これらのうち少なくとも一方を用いることがより好ましく、これらを併用することが更に好ましい。
【0016】
酸化重合作用を有する酵素としては、ラッカーゼ、チロシナーゼ等のフェノールオキシターゼを用いることが好ましく、尿に由来するフェノール性化合物を酸化重合して消臭効果を高める観点から、ラッカーゼを用いることが更に好ましい。
【0017】
酸化重合作用を有する触媒としては、銅/ピリジン錯体、銅/アミン錯体等の銅錯体や、鉄/シッフ塩基錯体等の鉄錯体等の金属錯体が好ましく用いられる。金属錯体とは、分子の中心に金属又は金属イオンが存在し、それを取り囲むように非共有電子対を持つ配位子を有する化合物である。配位子としては、例えばアミン類やポリアミン類、シッフ塩基、ハロゲンイオン、ヒドロキシイオン等、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0018】
図1に示す吸収性物品1は、吸収体4の少なくとも肌対向面側において、コアラップシート42とは別の液透過性シート6が、重合消臭材料5と吸収性コア41との間に配されている。液透過性シート6は、重合消臭材料5と吸収性コア41とを隔離して、これらの部材の物理的な接触を防ぐものである。
【0019】
液透過性シート6は、液透過性且つ通気性のシートである。液透過性シート6は、単層及び多層を問わない一枚のシートからなるシングルプライの構造であってもよく、あるいは単層及び多層を問わないシートを複数枚重ね合わせたマルチプライの構造であってもよい。図1に示す実施形態では、液透過性シート6は、単層且つ一枚のシートからなるシングルプライの構造として示されている。
【0020】
液透過性シート6としては、例えば、スパンボンド不織布、エアスルー不織布、エアレイド不織布、スパンレース不織布、メルトブロー不織布等の各種の不織布等を用いることができる。液透過性シート6には、重合消臭材料5と吸収性コア41との物理的な接触を防ぐ限りにおいて、開孔又はスリットが形成されていてもよい。
【0021】
図1に示すように、重合消臭材料5を吸収体4の肌対向面側にのみ配する場合、消臭性を向上させる観点から、重合消臭材料5の含有量は、坪量で表して、0.05g/m以上であることが好ましく、0.1g/m以上であることが更に好ましく、また、5g/m以下であることが好ましく、1g/m以下であることが更に好ましい。吸収体4の肌対向面に加えて、重合消臭材料5を吸収体の側面や非肌対向面にも配する場合は、重合消臭材料5の合計量が上述した含有量の範囲内となるように、吸収体の各面に配する重合消臭材料5の量を適宜調整すればよい。
【0022】
吸収性コア41に含まれる吸水性ポリマーとしては、自重の20倍以上の液体を吸収・保持でき且つゲル化し得るものが好ましく、例えば、デンプンや架橋カルボキシルメチル化セルロース、アクリル酸又はアクリル酸アルカリ金属塩の重合体又は共重合体等、ポリアクリル酸及びその塩並びにポリアクリル酸塩グラフト重合体が挙げられる。吸水性ポリマーの粒径は好ましくは1μm以上1000μm以下のものである。吸水性ポリマーの形状は、球状、塊状、ブドウ状、粉末状又は繊維状でありうる。
【0023】
吸収性コア41に含まれる親水性繊維としては、例えばパルプをはじめとするセルロース等の繊維が挙げられる。コアラップシート42としては、液透過性のシートを用いることができ、例えば親水性繊維からなる薄葉紙や、液透過性を有する不織布などを用いることができる。
【0024】
上述の表面シート、裏面シート及び吸収体に加え、吸収性物品の具体的な用途に応じ、該吸収性物品の肌対向面側の長手方向に沿う両側部に、長手方向に沿って延びる防漏カフが配される場合がある。防漏カフは一般に、基端部と自由端とを備えている。防漏カフは、吸収性物品の肌対向面側に基端部を有し、肌対向面側から起立している。防漏カフは、液抵抗性ないし撥水性で且つ通気性の素材から構成されている。防漏カフの自由端又はその近傍には、糸ゴム等からなる弾性部材を伸長状態で配してもよい。吸収性物品の着用状態においてこの弾性部材が収縮することによって、防漏カフが着用者の身体に向けて起立するようになり、表面シート上に排泄された液が、表面シート上を伝い吸収性物品の幅方向外方へ漏れ出すことが効果的に阻止される。
【0025】
吸収性物品は更に、非肌対向面の表面に粘着剤層を有していてもよい。粘着剤層は、吸収性物品を、下着や別の吸収性物品に固定するために用いられる。
【0026】
以上の構成を有する吸収性物品1によれば、吸収体4の少なくとも肌対向面側に重合消臭材料5が配されているので、尿等の排泄物に含まれる悪臭成分であるフェノール性化合物を酸化重合させて高分子化し、吸収体4に吸収された尿から揮発するフェノール性化合物に起因する悪臭を知覚させづらくする。その結果、排泄物に起因する悪臭、特に尿に起因する悪臭を効果的に消臭することができる。これに加えて、重合消臭材料5と吸収性コア41との間に液透過性シート6を配することによって、重合消臭材料5と、吸収体4におけるフェノール性化合物以外の排泄物中成分との意図しない酸化重合反応を抑制し、吸収体4に吸収された排泄物の変色、特に吸収体に吸収された尿の変色を防ぐことができる。その結果、排泄物吸収後の吸収性物品の外観を良好なものとすることができる。また、液透過性シート6が吸収体の肌対向面側に配されることによって、吸収体4に吸収された尿の逆戻りを生じにくくすることができる。
【0027】
本発明に用いられる液透過性シート6は通気性を有しているので、重合消臭材料5と、酸化に必要な空気中の酸素との親和性を高めて、揮発したフェノール性化合物の重合消臭材料5による高分子化を良好に進行させることができる。その結果、排泄物からの悪臭を効果的に消臭することができるという利点もある。
【0028】
図1と異なる別の実施形態として、図2に示す実施形態が挙げられる。本実施形態の吸収性物品は、重合消臭材料5が吸収体4の肌対向面側及び非肌対向面側の双方に配されている。これとともに、一枚の液透過性シート6が、吸収体4における吸収性コア41の肌対向面及び非肌対向面を含む表面の全域を被覆するように配されており、該シート6によって重合消臭材料5と吸収性コア41とを隔離している。このような構成を有していることによって、重合消臭材料5と吸収性コア41とを隔離しつつ、吸収体4の全体を被覆できるので、吸収体の変色に起因する吸収性物品の外観の悪化を抑制するとともに、尿等の排泄物からの悪臭をより効果的に消臭することができ、また、意図しない悪臭の漏出を防止することができる。本実施形態における重合消臭材料5の含有量は、重合消臭材料5の合計量が上述した含有量の範囲内となるように適宜調整すればよい。
【0029】
上述のとおり、液透過性シート6は、一枚のシートからなるシングルプライの構造であるか、又は複数枚のシートを重ね合わせたマルチプライの構造であり得る。図1に示す液透過性シート6は単層且つ一枚のシートからなるシングルプライの構造であるが、これに代えて、液透過性シート6を多層且つ一枚のシートからなるシングルプライの構造、或いは、液透過性シート6を単層及び多層を問わないシートを複数枚重ね合わせたマルチプライの構造とした実施形態とすることができる。
【0030】
詳細には、図3に示す吸収性物品1は、液透過性シート6として、繊維集合体からなる第1繊維層61と、繊維集合体からなる第2繊維層62とを吸収性物品1の厚み方向Zに有する多層のシートが配されており、液透過性シート6における第2繊維層62側の面が、吸収性コア41の肌対向面と対向して配されている。液透過性シート6における第2繊維層62は、第1繊維層61よりも繊維間距離が大きい繊維層であることが好ましい。つまり、第1繊維層61は相対的に緻密な構造を有し、且つ第2繊維層62は相対的に嵩高な構造を有していることが好ましい。シングルプライの構造を有する液透過性シート6を用いる場合、例えば、第1繊維層61と第2繊維層62とを有する多層且つ一枚の液透過性シート6とすればよく、マルチプライの構造を有する液透過性シート6を用いる場合、例えば第1繊維層61としての第1繊維シートと、第2繊維層62としての第2繊維シートとを積層した多層且つ複数枚の液透過性シート6とすることができる。第1繊維シート及び第2繊維シートの少なくとも一方が多層構造である場合、第1繊維シートの全体が後述する第1繊維層61の物性を満たせばよく、同様に、第2繊維シートの全体が後述する第2繊維層62の物性を満たせばよい。このような構成を有していることによって、緻密な構造を有する第1繊維層によって尿などの液状排泄物をシート面方向に拡散させて、液状排泄物と重合消臭材料5との接触効率を高めて消臭効果を一層高めるとともに、吸収性コア41に液状排泄物を素早く吸収させることができる。これに加えて、嵩高な構造を有する第2繊維層62によって、重合消臭材料5と吸収性コア41に吸収された排泄物との接触を防止して変色を防ぐとともに、液透過性シート6の通気性を高くして酸化重合反応を促進させ、フェノール性化合物に由来する臭いに対する消臭効果を高めることができる。
【0031】
第1繊維層61と第2繊維層62との繊維間距離を互いに異ならせるためには、各層の構成繊維の繊維径を異なるものとしたり、各層の構成繊維の剛性を異なるものとしたり、構成繊維として捲縮繊維を用いたり、繊維層の厚みを異なるものとしたり、嵩回復処理を施した繊維層を用いたりすることができる。詳細には、第2繊維層62の構成繊維の繊維径を第1繊維層61の構成繊維の繊維径よりも太くしたり、第2繊維層62の構成繊維の剛性を第1繊維層61の構成繊維の剛性よりも高くしたり、第2繊維層62の構成繊維を捲縮繊維とし、且つ第1繊維層61の構成繊維には捲縮繊維でない繊維又は捲縮の度合が第2繊維層62の構成繊維よりも小さい繊維を用いたり、第2繊維層62の厚みを第1繊維層61の厚みよりも厚くしたり、第2繊維層62に熱風処理等の嵩回復処理を施した繊維層を用いたりすることができる。
【0032】
第1繊維層61の繊維間距離は、1μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。また、第2繊維層62の繊維間距離は、第1繊維層61の繊維間距離よりも大きいことを条件として、1μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。
【0033】
酸化重合反応の促進による消臭効果の向上と、変色に起因する吸収性物品の外観の悪化の抑制とを両立する観点から、上述した液透過性シート6は、単層若しくは多層であるか、又はシングルプライ若しくはマルチプライであるかを問わず、コアラップシート42よりも繊維間距離が大きいことが好ましい。詳細には、液透過性シート6の全体の繊維間距離は、1μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。また、コアラップシート42の繊維間距離は、液透過性シート6の繊維間距離よりも小さいことを条件として、1μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。
【0034】
上述した繊維間距離は、以下に示すWrotnowskiの仮定に基づく式(1)により求めることができる。Wrotnowskiの仮定に基づく式は、一般に、不織布等の繊維集合体を構成する繊維の繊維間距離を求める際に用いられる。繊維間距離A(μm)は、繊維層又はシートを測定試料としたときに、測定試料の厚みh(mm)、測定試料の坪量e(g/m)、測定試料を構成する繊維の繊維径d(μm)、及び測定試料の繊維密度ρ(g/cm)から算出する。厚みhは、測定試料に0.5g/cmの荷重をかけてレーザー変位計で測定した値とする。坪量eは、所定の大きさ、例えば、0.12m×0.06mの平面視四角形形状に切り出した測定試料の質量を測定し、該質量から測定試料の面積を除することによって算出する。繊維径dは、走査型電子顕微鏡(セイコーインスツルメント株式会社製、DSC6200)を用いて、10本の繊維を対象として、繊維の長さ方向に直交する方向に切断した繊維断面の直径を測定したときの、これらの直径の算術平均値とする。繊維密度ρは、繊維を構成する原料樹脂の種類及びその構成比率が判明している場合には、原料樹脂の密度と構成比率とから算出された密度の平均値を繊維密度ρとし、繊維を構成する原料樹脂の種類及びその構成比率が判明していない場合には、密度勾配管を使用して、JIS L1015に記載の密度勾配管法の測定方法に準じて測定した値を繊維密度ρとする。
測定試料の質量を、測定試料の面積及び厚みの積で除することによって求めることができる。
繊維間距離A=[{d×√(π×ρ×h×1000)}/2√e]-d ・・・(1)
【0035】
吸収性物品1には、吸収体4に多孔質消臭剤を含有させることが好ましい。このような構成を有していることによって、尿を吸収した吸収性コア41から揮発したフェノール性化合物は重合消臭材料5によって酸化重合され、重合消臭材料5で重合できなかったフェノール性化合物及びフェノール性化合物以外の臭い成分は多孔質消臭剤によって吸着されるので、尿などの排泄物に対する高い消臭効果及びその消臭効果の良好な持続性が達成される。
【0036】
多孔質消臭剤としては、例えば活性炭、シリカゲル、多孔性ポリマー、ゼオライト等の多孔質鉱物等が挙げられ、これらは単独で又は複数用いることができる。多孔性ポリマーとしては、例えば多孔性ポリスチレン、多孔性ポリ置換スチレン、多孔性スチレンコポリマー、多孔性置換スチレンコポリマー、多孔性ポリエチレンテレフタレート、多孔性ポリブチレンテレフタレート、多孔性2,6-ジフェニルーp-フェニレンオキサイドポリマー、架橋性ビニルモノマーと他のモノマーとの共重合ポリマー等を用いることができる。置換スチレンとは、スチレンのオルト位、メタ位、パラ位又はこれらの組み合わせの部位が、メチル基やハロゲン等の官能基により、1以上5以下の部位で置換されたスチレンを意味する。
【0037】
架橋性ビニルモノマーは、ビニル基を二つ以上有するモノマーである。架橋性ビニルモノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられ、ジビニルベンゼンが好ましい。モノマー成分中の架橋性ビニルモノマーの割合が大きいほど、比表面積の大きい消臭粒子が得られる。従って、全モノマー成分中における架橋性ビニルモノマーの割合は、5質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、50質量%以上が更に好ましく、また、100質量%以下が好ましく、95質量%以下が更に好ましい。
【0038】
架橋性ビニルモノマーと重合される他のモノマーとしては、例えば、芳香族系ビニルモノマー、不飽和酸エステル、不飽和酸、ヘテロ芳香環を有するビニルモノマー等が挙げられる。芳香族系ビニルモノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ビニルベンジルクロライド等が挙げられる。不飽和酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸グリシジル等が挙げられる。不飽和酸としては、(メタ)アクリル酸が挙げられる。ヘテロ芳香環を有するビニルモノマーとしては、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、1-ビニルイミダゾール、2-ビニルピリミジン等が挙げられる。本明細書において、(メタ)アクリレートとはアクリレート又はメタクリレートを意味し、(メタ)アクリル酸とはアクリル酸又はメタクリル酸を意味する。
【0039】
吸収体4に多孔質消臭剤を含有させる場合、図4に示すように、重合消臭材料5が多孔質消臭剤8と吸収性コア41との間に配されていることが好ましい。つまり、多孔質消臭剤8は、重合消臭材料5よりも厚み方向の外方に配されていることが好ましい。多孔質消臭剤8は、例えば図4に示すように、コアラップシート42内に保持させたり、コアラップシート42の肌対向面又は非肌対向面に散布又は塗布して付着させたりすることができる。多孔質消臭剤8をコアラップシート42内に保持させる方法としては、例えばコアラップシート42の原料となる繊維状物と多孔質消臭剤との混合スラリーを抄紙する方法等が挙げられる。このような配置となっていることによって、尿を吸収した吸収性コア41から揮発したフェノール性化合物は重合消臭材料5によって酸化重合されるとともに、重合消臭材料5で重合できなかったフェノール性化合物及びフェノール性化合物以外の臭い成分は、重合消臭材料5よりも厚み方向の外方に位置する多孔質消臭剤に吸着されるので、多孔質消臭剤の消臭持続性を高めることができ、その結果、尿などの排泄物に対する消臭効果及び消臭持続性に優れた吸収性物品となる。
【0040】
多孔質消臭剤8の含有量は、坪量で表して、0.1g/m以上であることが好ましく、0.5g/m以上であることが更に好ましく、また、10g/m以下であることが好ましく、5g/m以下であることが更に好ましい。
【0041】
尿などの排泄物の腐敗を防止して臭いの増加を防ぐ観点から、吸収体は抗菌剤を含むことが好ましい。抗菌剤を配する位置は特に限定されないが、水分が集積しやすい吸水性ポリマーの近傍での腐敗を防ぐとともに、長期的且つ持続的な抗菌作用を付与する観点から、吸水性ポリマーに抗菌剤を含ませることが好ましい。吸水性ポリマーに抗菌剤を含ませる方法は、例えば特開2016-104119号公報に記載の抗菌性微粒子を吸水性ポリマーの表面に付着させる方法が挙げられる。
【0042】
抗菌剤としては、尿臭の増加の要因の一つであるβグルクロニダーゼを産生する微生物の増殖を抑制可能な剤が好ましく用いられる。このような抗菌剤としては、例えばピロクトンオラミン(別名ピロクトンエタノールアミン)等のヒドロキサム酸誘導体、ピロミド酸、ピペミド酸、シノキサシン等のピリドンカルボン酸誘導体、セチルリン酸ベンザルコニウム等の四級アンモニウム化合物等が挙げられ、これらの一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
抗菌剤の含有量は、吸水性ポリマーの質量に対して、50ppm以上であることが好ましく、200ppm以上であることが更に好ましく、5000ppm以下であることが好ましく、3500ppm以下であることが更に好ましい。例えば、抗菌剤としてピロクトンオラミンを用い、該抗菌剤を吸水性ポリマーの表面に付着させる場合、抗菌剤の含有量は、吸水性ポリマーの質量に対して、200ppm以上であることが好ましく、500ppm以上であることが更に好ましく、2000ppm以下であることが好ましく、1000ppm以下であることが更に好ましい。
【0044】
以上、本発明をその実施形態に基づいて説明したが、本発明は、前記実施形態に制限されない。例えば、液透過性シート6は、吸収性コア41の肌対向面側及び非肌対向面側にのみに配され、吸収性コア41の両側面には配されていなくてもよい。
【実施例
【0045】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明の範囲はかかる実施例に制限されるものではない。
【0046】
〔実施例1〕
親水性繊維及び吸水性ポリマーを含む吸収性コア41を、コアラップシート42で被覆して、50mm×100mmの寸法を有し、重合消臭材料5、液透過性シート6、多孔質消臭剤8及び抗菌剤を含む吸収体を作製した。吸収体4の肌対向面側には、重合消臭材料5を吸収性コア41とコアラップシート42との間に配した。また吸収体4の肌対向面側には、第1繊維層61として繊維間距離が38μmのスパンボンド不織布と、第2繊維層62として繊維間距離が89μmのエアスルー不織布とを積層したマルチプライの多層シートからなる液透過性シート6を、重合消臭材料5と吸収性コア41との間に配し、これらの部材を隔離した。重合消臭材料5及び多孔質消臭剤8は、以下の表1に示す化合物を同表に示す含有量で用いた。多孔質消臭剤8は、コアラップシート内に保持させた。また抗菌剤は、以下の表1に示す含有量で吸水性ポリマーの表面に付着させた。
【0047】
〔実施例2〕
液透過性シート6を繊維間距離が89μmのエアスルー不織布からなる単層且つ一枚のシングルプライのシートとし、多孔質消臭剤8及び抗菌剤を以下の表1に示す含有量で用いたほかは、実施例1と同様に吸収体4を作製した。
【0048】
〔実施例3ないし5〕
多孔質消臭剤8及び抗菌剤として、以下の表1に示す化合物を同表に示す含有量で用いたほかは、実施例1と同様に吸収体4を作製した。
【0049】
〔比較例1〕
親水性繊維及び吸水性ポリマーを含む吸収性コア41を、コアラップシート42で被覆した吸収体を用いた。本比較例の吸収体は、重合消臭材料5、液透過性シート6、多孔質消臭剤8及び抗菌剤を含まないものであった。
【0050】
〔比較例2〕
親水性繊維及び吸水性ポリマーを含む吸収性コア41を、以下の表1に示す多孔質消臭剤8を同表に示す含有量でシート内に保持させたコアラップシート42で被覆したほかは、比較例1と同様に吸収体を製造した。本比較例の吸収体は、重合消臭材料5、液透過性シート6及び抗菌剤を含まないものであった。
【0051】
〔比較例3〕
親水性繊維と、重合消臭材料5を含有させた吸水性ポリマーとを含む吸収性コア41を、コアラップシート42で被覆したほかは、比較例1と同様に吸収体を製造した。重合消臭材料5は、以下の表1に示す化合物を同表に示す含有量で吸水性ポリマーに含有させた。本比較例の吸収体は、液透過性シート6、多孔質消臭剤8及び抗菌剤を含まないものであった。
【0052】
〔比較例4〕
親水性繊維と、抗菌剤を付着させた吸水性ポリマーとを含む吸収性コア41を、コアラップシート42で被覆したほかは、比較例1と同様に吸収体を製造した。抗菌剤は、以下の表1に示す化合物を同表に示す含有量で吸水性ポリマーの表面に付着させた。本比較例の吸収体は、重合消臭材料5、液透過性シート6及び多孔質消臭剤8を含まないものであった。
【0053】
〔比較例5〕
親水性繊維及び吸水性ポリマーを含む吸収性コア41を、コアラップシート42で被覆して、50mm×100mmの寸法を有し、重合消臭材料5、多孔質消臭剤8及び抗菌剤を含む吸収体を作製した。本比較例の比較例は、液透過性シート6を含まないものであった。重合消臭材料5は、以下の表1に示す化合物を同表に示す含有量で吸水性ポリマーに含有させた。多孔質消臭剤8は、以下の表1に示す化合物を同表に示す含有量でコアラップシート42内に保持させた。また、抗菌剤は、以下の表1に示す化合物を同表に示す含有量で吸水性ポリマーの表面に付着させた。
【0054】
〔比較例6〕
親水性繊維及び吸水性ポリマーを含む吸収性コア41を、コアラップシート42で被覆して、50mm×100mmの寸法を有し、重合消臭材料5、液透過性シート6、多孔質消臭剤8及び抗菌剤を含む吸収体を作製した。重合消臭材料5は、以下の表1に示す化合物を同表に示す含有量で、液透過性シート6と吸収性コア41との間に配した。液透過性シート6は、繊維間距離が89μmの単層且つ一枚のシートを用いた。多孔質消臭剤8は、以下の表1に示す化合物を同表に示す含有量でコアラップシート42内に保持させた。また、抗菌剤は、以下の表1に示す化合物を同表に示す含有量で吸水性ポリマーの表面に付着させた。
【0055】
〔尿臭の評価〕
実施例及び比較例の吸収体と人尿10mLとを、50mmφの秤量ビン中に入れて混合し、30分又は12時間静置して、サンプルとした。このサンプルの尿臭を以下の評価基準に従って5人の専門モニターに評価してもらい、その算術平均を尿臭官能値とした。結果を以下の表1に示す。尿臭官能値が低いほど、消臭性能が高いことを意味し、2.0未満であれば消臭性能が十分に奏されていると判断した。
【0056】
〔尿臭の評価基準〕
4:強い尿臭
3.5:やや強い尿臭
3:尿臭と判別できる臭い
2.5:やや弱い尿臭
2:弱い尿臭
1.5:非常に弱い尿臭
1:尿臭とわからないわずかな臭い
0.5:尿臭とわからない非常にわずかな臭い
0:無臭
【0057】
〔変色の評価〕
上述の〔尿臭の評価〕で作製した12時間静置後のサンプルについて、その変色の度合を以下の基準に従って目視にて評価した。結果を以下の表1に示す。
【0058】
〔変色の評価基準〕
○:人尿混合前後で吸収体が変色せず、良好な外観である。
△:人尿混合後に吸収体がわずかに変色したが、許容できる外観である。
×:人尿混合後に吸収体が変色し、外観が悪い。
【0059】
実施例及び比較例に用いた材料を以下に示す。表1に示したラッカーゼの配合量はでんぷん添加品としての配合量である。また、表1では、液透過性シート6を「BrS」とも表記している。表1中、「-」は使用していないことを示す。
【0060】
・親水性繊維:フラッフパルプ、商品名「NB416」、Weyerhaeuser社製
・吸水性ポリマー:商品名「アクアリックCA」、日本触媒株式会社製
・ジビニルベンゼン/メタクリル酸:ジビニルベンゼンとメタクリル酸とをモノマー成分として共重合して得た多孔性共重合ポリマー(モノマー比:ジビニルベンゼン95%、メタクリル酸5%)
・ジビニルベンゼン/ビニルピリジン:ジビニルベンゼンとビニルピリジンとをモノマー成分として共重合して得た多孔性共重合ポリマー(モノマー比:ジビニルベンゼン75%、ビニルピリジン25%)
・ジビニルベンゼン/スチレン:商品名「DIAIONHP20SS」、三菱化学株式会社製
・ラッカーゼ:商品名「ラッカーゼMl20」(でんぷん添加品)、天野エンザイム株式会社製
・ピロクトンオラミン:商品名「オクトピロックス」、クラリアント社製
【0061】
【表1】
【0062】
表1に示すように、重合消臭材料と吸収性コア41とを隔離するように液透過性シート6が配された実施例1ないし5は、重合消臭材料を含まないか、又は重合消臭材料が液透過性シート6の肌対向面側以外の部位に配された比較例1ないし6と比較して、知覚される尿臭が同等以下に低減されており、消臭性が高く、またその持続性も高いことが判る。また、実施例1ないし5と、重合消臭材料を含む比較例3、5及び6とを比較すると、尿の吸収後でも変色が生じないことが判る。したがって、本発明の吸収性物品は、尿等の排泄物に起因する悪臭を効果的に消臭することができ、且つ尿などの排泄物の吸収後も外観が良好なものである。
【符号の説明】
【0063】
1 吸収性物品
2 表面シート
3 裏面シート
4 吸収体
41 吸収性コア
42 コアラップシート
5 フェノール性化合物を重合する機能を有する材料(重合消臭材料)
6 液透過性シート
61 第1繊維層
62 第2繊維層
8 多孔質消臭剤
図1
図2
図3
図4