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特許7236886異常検知装置、異常検知方法、及び異常検知システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】異常検知装置、異常検知方法、及び異常検知システム
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/18 20060101AFI20230303BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20230303BHJP
   G05B 19/4155 20060101ALI20230303BHJP
【FI】
G05B19/18 X
G05B23/02 302Z
G05B23/02 R
G05B19/4155 V
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019046444
(22)【出願日】2019-03-13
(65)【公開番号】P2020149368
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000233295
【氏名又は名称】株式会社日立情報通信エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱田 吉基
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/229870(WO,A1)
【文献】特開平10-228304(JP,A)
【文献】特開2015-018389(JP,A)
【文献】特開2002-166353(JP,A)
【文献】特開2018-073327(JP,A)
【文献】特開2005-022052(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18、19/4155
G05B 23/02
B23Q 17/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数回の加工作業が行える対象装置の異常を検知する異常検知装置であって、
前記対象装置の状態を観測する観測センサが出力した観測センサデータ当該観測センサデータが出力された際の前記対象装置の加工条件及び作業内容の少なくとも一つを含む前提条件、及び当該前提条件下で行った累積加工回数を取得するデータ取得部と、
前記対象装置が過去に正常状態で稼働中に前記観測センサが出力した観測センサデータ、該観測センサデータが出力された際の前提条件、及び当該前提条件下で行った累積加工回数を関連付けて学習センサデータとして記憶する学習センサデータ記憶部と、
前記対象装置の観測対象回を基準として、加工回数がそれ以下であり、かつ同一の前提条件下で出力された前記学習センサデータを前記学習センサデータ記憶部に記録された学習センサデータ群から選択し、選択した学習センサデータに基づいて、前記観測対象回における前記対象装置の状態を予測した予測センサデータを生成する予測センサデータ選択部と、
前記観測対象回における観測センサデータ、及び前記予測センサデータの比較結果に基づいて、前記観測対象回における前記対象装置の異常発生を検知する異常検知部と、
を備えることを特徴とする異常検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の異常検知装置において、
前記予測センサデータ選択部は、前記対象装置が同一の前提条件下で加工作業を1回行った際の状態変化量を、前記学習センサデータに基づいて演算し、
前記学習センサデータ記憶部から前記観測対象回よりも加工回数が少なく、かつ同一の前提条件下で出力された学習センサデータのうち、前記観測対象回に最も近い加工回数の学習センサデータを読み出し、前記最も近い回数と前記観測対象回との差分回数分の前記状態変化量を前記読み出した学習センサデータに対して進めることにより前記観測対象回の前記対象装置の状態を予測し、当該予測したデータを前記予測センサデータとして選択する、
ことを特徴とする異常検知装置。
【請求項3】
請求項1に記載の異常検知装置において、
前記予測センサデータ選択部は、既知の前提条件であるが初めての加工工程の場合に前記既知の前提条件と同一の前提条件下で出力された前記学習センサデータを前記学習センサデータ記憶部に記録された学習センサデータ群から選択し、選択した学習センサデータを前記予測センサデータとして選択し、
前記異常検知部は、前記初めての加工工程における観測センサデータ、及び前記予測センサデータの比較結果に基づいて、前記初めての加工工程における観前記観測対象回における前記対象装置の異常発生を検知する、
を備えることを特徴とする異常検知装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の異常検知装置において、
ノイズ又は外れ値を含む観測センサデータを除去する閾値超過判定部を更に備え、
前記予測センサデータ選択部は、前記予測センサデータの分散値又は標準偏差を求め、
前記閾値超過判定部は、前記分散値又は前記標準偏差に基づいて、前記予測センサデータが正規分布に準じて発生しうるばらつきの上限閾値及び下限閾値を設定し、前記観測対象回の観測センサデータの値が前記上限閾値を超えた場合、又は前記下限閾値を下回った場合は、当該観測センサデータを異常検知処理の対象外とする、
ことを特徴とする異常検知装置。
【請求項5】
請求項4に記載の異常検知装置において、
前記閾値超過判定部が、前記下限閾値以上かつ前記上限閾値以下に値が収まると判定した前記観測センサデータに含まれる少なくとも一つ以上の主成分を含む統計特徴量、及び前記予測センサデータに含まれる少なくとも一つ以上の主成分を含む統計特徴量を其々抽出する特徴量抽出部と、
前記観測センサデータに含まれる統計特徴量、及び前記予測センサデータに含まれる統計特徴量のクラスタリングを行う統計処理部と、
前記統計処理部によるクラスタリング結果に基づいて、前記観測センサデータ及び前記予測センサデータの類似度を判定し、当該類似度に基づいて前記対象装置の異常の有無を判定する異常検知部と、
前記異常の有無の判定結果を出力する判定結果情報出力部と、
を更に備えることを特徴とする異常検知装置。
【請求項6】
請求項5に記載の異常検知装置において、
前記異常検知部が、前記対象装置の異常はないとの判定に用いた前記観測センサデータを、前記学習センサデータ記憶部に記録する学習センサデータ更新部を更に備える、
ことを特徴とする異常検知装置。
【請求項7】
複数回の加工作業が行える対象装置の異常を検知する異常検知方法であって、
前記対象装置の状態を観測する観測センサが出力した観測センサデータ当該観測センサデータが出力された際の前記対象装置の加工条件及び業内容の少なくとも一つを含む前提条件、及び当該前提条件下で行った累積加工回数を取得するステップと、
前記対象装置が過去に正常状態で稼働中に前記観測センサが出力した観測センサデータ、該観測センサデータが出力された際の前提条件、及び当該前提条件下で行った累積加工回数を関連付けて学習センサデータとして記憶するステップと、
前記対象装置の観測対象回を基準として、加工回数がそれ以下であり、かつ同一の前提条件下で出力された前記学習センサデータを読み出し、読み出した学習センサデータに基づいて、前記観測対象回における前記対象装置の状態を予測した予測センサデータを生成するステップと、
前記観測対象回における観測センサデータ、及び前記予測センサデータの比較結果に基
づいて、前記観測対象回における前記対象装置の異常発生を検知するステップと、
を含むことを特徴とする異常検知方法。
【請求項8】
請求項1に記載の異常検知装置と、
前記異常検知装置により異常を検知する対象となる対象装置と、をネットワークで接続して構成される異常検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は異常検知装置、異常検知方法、及び異常検知システムに係り、特に製造・加工装置の異常検知技術に関する。
【0002】
設備の異常検知システムとして、特許文献1には「(1)データ間の類似度に着目し、正常事例からなるコンパクトな学習センサデータを生成、(2)類似度と異常有無により、新規データを学習センサデータに追加、(3)設備のアラーム発生区間を学習センサデータから削除、(4)随時更新された学習センサデータを部分空間法でモデル化し、観測データと部分空間の距離関係に基づき、異常候補を検知、(5)イベント情報を対象にした解析を組み合わせて、異常候補から異常を検知、(6)学習センサデータの活用頻度分布に基づいて、観測データの乖離度を求め、観測データの異常要素を特定する(要約抜粋)」構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-218725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
異常検知を行う装置(以下「対象装置」という)の状態を予測するにあたり、センサデータにノイズや外れ値が含まれていると、状態の分析結果にノイズや外れ値の特徴が異常として現れて、正しく状態を分析することができない。そこで、一般的にノイズや外れ値をデータ前処理により除去すること行われているが、そのためには除去判定基準として適切な閾値を設定する必要がある。
【0005】
しかし、例えば研磨装置の研磨プレートや切削装置の切削刃のように、対象装置の状態が稼働時間や稼働状態によって随時変化する場合、除去判定基準とすべき対象装置の状態が刻一刻と変化するので、除去判定基準を対象装置の変化状態に合わせて適切に設定することが難しいという課題がある。
【0006】
特許文献1では、「(1)データ間の類似度に着目し、正常事例からなるコンパクトな学習センサデータ」を基に異常検知を行っているが、正常事例の状態が変化する場合、その変化に追従してどのように異常検知を行っているかについては考慮されておらず、上記課題を解決することができていない。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、正常状態が逐次変化する装置の異常検知精度を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は特許請求の範囲に記載の構成を備える。その一例をあげるならば、複数回の加工作業が行える対象装置の異常を検知する異常検知装置であって、前記対象装置の状態を観測する観測センサが出力した観測センサデータ当該観測センサデータが出力された際の前記対象装置の加工条件及び作業内容の少なくとも一つを含む前提条件、及び当該前提条件下で行った累積加工回数を取得するデータ取得部と、前記対象装置が過去に正常状態で稼働中に前記観測センサが出力した観測センサデータ、該観測センサデータが出力された際の前提条件、及び当該前提条件下で行った累積加工回数を関連付けて学習センサデータとして記憶する学習センサデータ記憶部と、前記対象装置の観測対象回を基準として、加工回数がそれ以下であり、かつ同一の前提条件下で出力された前記学習センサデータを前記学習センサデータ記憶部に記録された学習センサデータ群から選択し、選択した学習センサデータに基づいて、前記観測対象回における前記対象装置の状態を予測した予測センサデータを生成する予測センサデータ選択部と、前記観測対象回における観測センサデータ、及び前記予測センサデータの比較結果に基づいて、前記観測対象回における前記対象装置の異常発生を検知する異常検知部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上記発明によれば、正常状態が逐次変化する装置の異常検知精度を向上させる技術を提供することができる。なお上記した以外の目的、構成、効果は以下の実施形態により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】製造・加工装置の異常検知システムの概略構成を示す図
図2】異常検知装置の機能ブロック図
図3】異常検知システムの処理の流れを示すフローチャート
図4】データ取得部が取得するデータ構造例を示す図
図5】学習センサデータ記憶部に記憶される学習センサデータ群のデータ構造例を示す図
図6】抵抗値センサデータ特徴量主成分分析結果を示す図
図7】異常判定例を示す図
図8】予測センサデータ選択処理の流れを示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、製造・加工装置の異常検知システム1の概略構成を示す図である。
【0012】
異常検知システム1は、異常検知の対象となる対象装置10と異常検知装置20とをネットワーク30を介して通信接続して構成される。
【0013】
対象装置10は、製品の製造装置、製品の加工装置等種類は問わない。より具体的には、ウェハ製造装置、研磨装置、切削装置等の製造・加工装置でもよいし、IoT機器でもよい。
【0014】
対象装置10は、複数回の加工作業が行える装置である。本実施形態では、複数回の加工作業を行って1加工工程を完結させる装置を例に挙げる。例えば、対象装置10としてウェハの研磨装置がある。研磨装置で行う加工作業は、ウェハの種類、仕上げ状態、単位時間当たりの研磨回数(プレートの回転速度(rpm)を設定することで調整する)など加工作業の条件を設定し、1つのウェハの研磨作業に際して複数回の研磨作業を行う。本実施形態では、加工作業の条件を「前提条件」、1つのウェハの研磨作業の開始から終了までを「1加工工程」と称する。そして1加工工程において、例えば100回の研磨作業を行う。前提条件とは、例えばセンサデータがウェハの仕上げ状態(具体的には加工目標値としての高さ、面粗さ、平面度等がある)、ウェハの種類、研磨に使用する研磨プレートの累積使用回数、累積使用時間など研磨プレートのうち研磨に使用する部位を特定した部位位置情報等がある。
【0015】
研磨装置でウェハを交換しながら同じ研磨プレートで研磨作業を続行すると、研磨プレートが摩耗する。すると、同一種類のウェハに対して同一の前提条件、同一回数の研磨作業を行ったとしても研磨プレートの摩耗量が変化する。例えば、新しい研磨プレートでウェハを1回研磨した際の摩耗量(研磨プレートの状態変化量に相当する)は、何度も研磨作業を行った研磨プレートでウェハを1回研磨した際よりも摩擦が大きい分、摩耗量が大きくなることがある。
【0016】
研磨プレートの摩耗状態の異常を検知しようとする際には、正常時の研磨プレートの観測センサデータを参照用データとし、これと観測対象回の研磨プレートの観測センサデータとの比較を行う。その際、上記のように、同一の前提条件、同一回の研磨作業であっても研磨プレートの摩耗量(状態変化量)が異なることから、参照用データもそれにつられて適宜変化させたい。
【0017】
そこで、異常検知装置20では、固定的な参照用データではなく、逐次変化する参照用データを選択し、観測対象回の観測センサデータと類似度を比較して異常検知判定を行う。
【0018】
対象装置10は、対象装置10の装置状態を観測する少なくとも1つ以上の観測センサ11を備える。本実施形態では、観測センサ11が出力した観測センサデータは複数次元のデータである。よって、観測センサデータに対してPCA分析(主成分分析)を含む統計処理を行い、その結果を用いて異常判定を行う。その詳細は後述する。観測センサ例として抵抗値センサ、圧力センサを用いてもよい。また、温度センサ、気圧センサ、湿度センサ、振動センサ、加速度センサなど、対象装置10の種類によって観測したい装置状態が異なるので、対象装置10の種類に応じた各種観測センサを用いてもよい。後述するPCA分析は複数次元の観測センサデータがある場合に有用な分析法である。ここでいう「複数次元の観測センサデータ」には、同一種類の観測センサ(例えば抵抗値センサ)が複数箇所に取り付けられ、各観測センサからの出力を合わせて複数次元の観測センサデータを形成するケース、抵抗値と圧力値など収集内容が異なる種類の観測センサ11が複数取り付けられ、各観測センサからの出力を合わせて複数次元の観測センサデータを形成するケース、更に1つの観測センサ11から得られる時系列センサデータ系列に対しFFT(高速フーリエ変換)を行うと、FFTの対象データ数に応じて基本的には2^n乗個の結果が得られることから、1つの観測センサ11の出力から複数次元の観測センサデータを形成するケースがある。
【0019】
異常検知装置20は、対象装置10に取り付けられた観測センサ11が出力した観測センサデータを取得し、これに基づいて対象装置10の異常検知を行う。観測センサデータの値は、電流値、圧力、温度、抵抗値等様々である。異常検知装置20は、これら各種観測センサデータの波形を用いて対象装置10の状態を自動的に予測し、異常を検知する。
【0020】
異常検知装置20は、CPU201、ROM202、RAM203、HDD204、通信I/F205、出入力I/F206及びこれらを互い接続するバス207を備えたコンピュータにより構成される。出入力I/F206には、ディスプレイ70及びキーボードやマウス、タッチパネルからなる入力装置71が接続される。
【0021】
図2は、異常検知装置20の機能ブロック図である。
【0022】
異常検知装置20は、データ取得部21、予測センサデータ選択部22、学習センサデータ記憶部23、前処理部24、統計処理部25、異常検知部26、判定結果情報出力部27、及び学習センサデータ更新部28を含む。前処理部24は閾値超過判定部24a、特徴量抽出部24bを含む。統計処理部25は、PCA部25a、クラスタリング部25bを含む。異常検知部26は、クラスタ比較部26a、異常候補判定部26b、異常候補レベル判定部26cを含む。各機能ブロックの処理内容は、後述する。学習センサデータ記憶部23は、HDD204の記憶領域により構成される。それ以外の機能ブロックは、各機能ブロックの機能を実現するソフトウェアをCPU201が実行することで形成される。
【0023】
図3は、異常検知システム1の処理の流れを示すフローチャートである。
【0024】
オペレータは異常検知装置20のGUIを用いて予測パラメータ、学習・観測センサデータのファイルパスを設定する(S101)。ここでいう「ファイルパスを設定」とは、加工の前提条件の設定ファイルや、学習・観測センサデータのリストファイルを指定(設定)するということである。ファイルパスは、それぞれのファイルの格納場所や、予測結果出力ファイルの保存場所を示す。
【0025】
データ取得部21は、観測センサデータと当該観測データを出力した際の前提条件と取得する(S102)。図4は、データ取得部21が取得するデータ構造例を示す図である。本例では、観測センサ11を固有に示す観測センサIDに、観測センサデータを出力した際の前提条件、及び当該前提条件下で行った累積加工回数を関連付けた観測センサデータ(センサ値)を対象装置10が生成して異常検知装置20に送信する。各回の研磨作業における累積加工回数及びそのとき観測された観測センサデータ(センサ値)を、複数回、望ましくは1加工工程分含んだ観測センサデータは、時系列センサデータを構成する。図4の観測センサデータが各観測回のセンサ値を含む観測センサデータの場合は、異常検知装置20側でスタックして時系列センサデータを形成してもよいし、対象装置10側で1加工工程における初回から最終回までのセンサ値をスタックし、これらをまとめることで時系列センサデータからなる観測センサデータを生成して、異常検知装置20に送信してもよい。
【0026】
データ取得部21は、受信したデータから前提条件を予測センサデータ選択部22に出力する。予測センサデータ選択部22は、取得した前提条件と同じ前提条件に関連付けられた学習センサデータを、学習センサデータ記憶部23から読み出し、予測センサデータを選択する(S103)。
【0027】
図5は、学習センサデータ記憶部23に記憶される学習センサデータ群のデータ構造例を示す図である。学習センサデータ群とは、事前収集した同一加工条件(同一前提条件)の過去の正常状態における観測センサデータ(事前収集された観測センサデータは、今回の観測センサデータと区別するために、以後の説明では学習センサデータと称する)の集合体のことである。
【0028】
予測センサデータ選択部22は、観測センサデータに付加された前提条件と同一の前提条件に関連付けられた学習センサデータから、部品劣化に伴う加工効率変動の偏差(状態変化量)を求める。予測センサデータ選択部22は、前回の観測センサデータを参考情報として参照し、加工工程の実施回数が最も近いものから加工工程の実施回数が1回低い学習センサデータを予測センサデータとして選択する。例えば5回目の研磨工程の状態予測をする際には、4回目の研磨工程で得られた時系列センサデータからなる学習データを選択する。本ステップで実行される予測センサデータの選択処理の詳細は、後述する。
【0029】
更に予測センサデータ選択部22は、外れ値、ノイズ判定閾値として、選択した予測センサデータに対し±Nσの標準偏差又は分散値を加えて上限閾値、下限閾値を設定する(S104)。
【0030】
閾値超過判定部24aは、前述の閾値を基準として、閾値を超過したセンサデータはノイズや外れ値として扱い、後段のPCA分析に使用しないよう除外する(S105)。これは、後述の統計処理部25におけるPCA分析にて特徴量データを次元削減しデータの要約を行った結果、ノイズや外れ値の特徴が高い寄与率として抽出される問題を回避するためである。
【0031】
特徴量抽出部24bでは、時系列の観測センサデータの波形を統計的に分析、比較するにあたり、統計処理のための特徴量を抽出する処理、例えば、フィルタ処理やフーリエ変換といった処理を行う(S106)。
【0032】
本ステップでは、閾値を超過したデータを後段の統計分析処理対象から除外し、前述の予測及び観測センサデータに対し、特徴量抽出処理としてフィルタ処理(微分によるDC成分のカット)やハニング窓関数の適用、FFT(高速フーリエ変換)を行い、その特徴量を統計的に分析、比較する。
【0033】
統計処理部25は、センサデータ及び予測センサデータの其々に対して、後に続く異常判定処理のための統計処理を行う(S107)。
【0034】
図6は、抵抗値センサデータ特徴量の主成分分析結果を示す図である。図6のグラフは、横軸が加工回数、縦軸がセンサ値を示す。また図5のグラフは、複数回の加工作業を行って1回の加工工程を行った際の観測センサデータのグラフを、複数加工工程分重畳したものである。ステップS106において、ノイズ・外れ値が現れた回の観測センサデータは下限値を下回っているため、特徴量分析から除外する。そしてステップS106で、閾値内の観測センサデータに対してのみ統計処理を行うことで、ショート発生によるノイズの影響を受けることなく、部品劣化予兆を観測する。
【0035】
PCA部25aは、観測センサデータと予測センサデータについてPCA分析を行い、データの次元削減(=要約)を行う。その結果から、累積寄与率の高い順に主成分をN個選択し、センサデータと予測センサデータそれぞれの主成分得点を得る。
【0036】
クラスタリング部25bは、観測センサデータと予測センサデータそれぞれの主成分得点を基にクラスタリングを行う。FFT後の予測センサデータと観測センサデータをPCA分析し、累積寄与率の高い主成分の主成分得点を散布図にプロットしクラスタリングを行う。
【0037】
異常検知部26は、予測センサデータとS103にて前処理を行った観測センサデータとを比較することで異常判定を行う(S108)。
【0038】
クラスタ比較部26aは、センサデータクラスタと予測センサデータクラスタ間で主成分得点の分布状況を比較する。
【0039】
異常候補判定部26bは、観測センサデータクラスタ内に予測センサデータクラスタを逸脱する分布が存在した場合、当該回のセンサデータは正常とは異なる振る舞いをしていると判定する。逸脱を判定する範囲は、予測センサデータの分布座標の各軸に対し、+方向の最大値、-方向の最小値で定める。ただし、定めた範囲を調整する機能を別途具備する。
【0040】
図7は、異常判定例を示す図である。図7では、累積寄与率上位2位までを使用しているため2次元で表現している。異常候補判定部26bは、予測センサデータの分布範囲より逸脱したデータを、異常候補に分類する。
【0041】
異常候補レベル判定部26cは、異常候補判定部26bが正常とは異なる振る舞いをしていると判定した当該回の観測センサデータの逸脱の軸方向、距離に関して分類を行う。異常候補のレベル分類については、予測センサデータの分布との逸脱の距離や逸脱方向のバリエーションによって分類する方法がある。
【0042】
異常候補判定部26bが異常ありと判定した場合は、判定結果情報出力部27は、前述の分析により観測センサデータに閾値超過や異常候補と疑われる挙動の有無をディスプレイ70のGUIに出力する(S109)。閾値超過、異常候補が共に検出されなかった場合は、正常と判定する。また判定結果情報出力部27は、加工毎の判定結果を履歴画面(GUI)に表示してもよい。
【0043】
学習センサデータ更新部28は、分析の結果、観測センサデータを正常と判定した場合は、当該観測センサデータの特徴を次回用の学習センサデータとして採用すると判断する。そして、学習センサデータ記憶部23に記憶する。これにより、学習センサデータ記憶部23に記憶された既存の学習センサデータ群が更新される。
【0044】
図8は、予測センサデータ選択処理の流れを示すフローチャートである。
【0045】
予測センサデータ選択部22は、取得した前提条件が未知である、即ち、学習センサデータ記憶部23にまだ記録されていない前提条件であると判定すると(S201/No)、学習センサデータ記憶部23に新たな前提条件とその前提条件下で取得された観測センサデータの記録を開始する(S202)。新たな前提条件とその前提条件下で取得された観測センサデータの記録処理は、学習処理に相当する。
【0046】
予測センサデータ選択部22は、前提条件が既知である、即ち、学習センサデータ記憶部23に記録されている前提条件であると判定し(S201/Yes)、観測対象回の加工工程が既知の前提条件ではあるが、状態予測を開始してから初の加工工程である又は前提条件の変更があったと判定すると(S203/Yes)、学習センサデータ記憶部23に記録された学習センサデータ群から観測対象回と同じ前提条件の学習センサデータのみを選出する(S204)。
【0047】
予測センサデータ選択部22は、観測対象回の前提条件が初めての加工工程であると判定すると(S205/Yes)、初めての加工工程用の学習センサデータを選択し(S206)、予測センサデータ選択処理を終了する。初めての加工工程用の学習センサデータは予め学習センサデータ記憶部23に記憶されているものとする。
【0048】
予測センサデータ選択部22は、観測対象回の前提条件が初の加工工程ではなく、前提条件にも変更がないと判定した場合(S203/No)、又は観測対象回の前提条件に変更があると判定した場合(S203/Yes、S204、S205/No)、予測センサデータ選択部22は、前回加工の学習センサデータが更新されていなければ(S207/No)、前回の加工で使用した予測センサデータから状態変化量を差分Δ回進めた学習センサデータを予測センサデータとして選択する(S208)。その後、予測センサデータ選択処理を終了する。差分Δ回は、観測対象回から前回の加工で使用した予測センサデータにおける加工回数である。例えば観測対象回は、5回目の加工作業であるのに対し、前回の加工で使用した予測センサデータが3回目の加工作業で得られた学習センサデータであれば、2回分の状態変化が起きていないと仮定して、状態変化量を2回分進めて予測センサデータを生成する。
【0049】
予測センサデータ選択部22は、前回加工の学習センサデータが更新されていると判定すると(S207/Yes)、最新学習センサデータと、学習センサデータ群の特徴量とを比較し、最も近い学習センサデータから状態変化量を1回分進めた学習センサデータを演算し、そのデータを予測センサデータとして選択する(S209)。その後、予測センサデータ選択処理を終了する。
【0050】
本実施形態の作用効果は以下のとおりである。異常検知の対象となる製造・加工装置などにおいて、観測する加工自体の加工設定と、過去の同一加工設定の学習センサデータを比較する際、装置自体の部品の消耗、劣化具合が当該観測回より前の処理内容に依存し、異なるため、同一加工設定の正常な学習センサデータ同士でも学習センサデータ波形の形状が異なるケースがある。従来技術では、このような正常センサデータの形状自体が定まらないケースにおいて、過去の同一加工設定の学習センサデータを単純に選択して固定的な閾値を設けることにより、閾値誤りによる過剰な異常検出の発生や、本来見つけたい異常が検出できないケースが発生してしまうという問題があった。
【0051】
これに対して、本実施形態に係る異常検知システム1では、対象装置10の製造・加工状態を規定する前提条件と、その前提条件下で正常に稼働した際の観測センサデータとを関連付けて学習センサデータとして記録し、この学習センサデータを用いて観測対象回の状態を予測した予測センサデータを生成する。そして予測センサデータと観測センサデータとを比較して異常検知を行う。
【0052】
これにより、正常な学習センサデータ波形の形状が定まらなくても、観測対象回の観測センサデータとの比較が行える。
【0053】
また、主成分分析でデータの要約(次元削減)を行った際、その結果において、累積寄与率の上位にあげられる主成分にノイズや外れ値の特徴成分が現れにくくなり、本来見つけたい異常の特徴成分が上位にくることにより、有意な予兆(閾値を超過しない範囲内で正常とは異なる振る舞いしている状態)を検知することができる。
【0054】
上記各実施形態は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変更態様は本発明の技術的範囲に属する。例えば、上記では研磨装置を例に挙げて説明したが、本実施形態の異常検知システム1の適用分野はそれに限らない。例えば、事例1として、ワイヤ放電切削加工機械の予防保全(ワイヤから放電し加工対象物を切削する装置)に適用できる。この場合、学習・観測センサデータを用いて放電加工処理部のワイヤの断線の予兆を検知し保全する。ワイヤの消耗が、放電時の電気的な観測センサデータに影響を与えると考えられる。
【0055】
また事例2として、紡績機の故障予知に本実施形態を適用してもよい。学習・観測センサデータを用いて合成繊維のワインダー、加工機の糸切れ等の予兆を検知し防止する。繊維は環境的な要因の影響を受けやすいと考えられる。
【0056】
このように、使用による消耗劣化の他に、経年劣化や温度・湿度による環境的な要因などが、装置のパフォーマンスや、部品、加工対象物の状態に影響することで、正常時の観測センサデータ波形及び異常と正常を判定する閾値が変動するようなケースにおいて、本実施形態は適用可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 :異常検知システム
10 :対象装置
11 :観測センサ
20 :異常検知装置
21 :データ取得部
22 :予測センサデータ選択部
23 :学習センサデータ記憶部
24 :前処理部
24a :閾値超過判定部
24b :特徴量抽出部
25 :統計処理部
25a :PCA部
25b :クラスタリング部
26 :異常検知部
26a :クラスタ比較部
26b :異常候補判定部
26c :異常候補レベル判定部
27 :判定結果情報出力部
28 :学習センサデータ更新部
30 :ネットワーク
70 :ディスプレイ
71 :入力装置
図1
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