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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】液体検知方法および液体検知装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/032 20060101AFI20230303BHJP
   G01N 29/38 20060101ALI20230303BHJP
【FI】
G01N29/032
G01N29/38
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019052418
(22)【出願日】2019-03-20
(65)【公開番号】P2020153810
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】392036153
【氏名又は名称】菱電湘南エレクトロニクス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100101133
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 初音
(74)【代理人】
【識別番号】100199749
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 成
(74)【代理人】
【識別番号】100197767
【弁理士】
【氏名又は名称】辻岡 将昭
(74)【代理人】
【識別番号】100201743
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 和真
(72)【発明者】
【氏名】木村 友則
(72)【発明者】
【氏名】坂本 明弘
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊成
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英章
(72)【発明者】
【氏名】廣川 光晴
(72)【発明者】
【氏名】加藤 勇
(72)【発明者】
【氏名】阿部 宏行
(72)【発明者】
【氏名】鳥山 雅康
(72)【発明者】
【氏名】須田 一成
【審査官】清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/150046(WO,A1)
【文献】実開平06-030766(JP,U)
【文献】特開2003-322642(JP,A)
【文献】特開2015-206782(JP,A)
【文献】特開平06-273392(JP,A)
【文献】特開2000-065803(JP,A)
【文献】国際公開第2019/111381(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/004571(WO,A1)
【文献】特表平10-510627(JP,A)
【文献】実開平01-087205(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
G01B 17/00 - G01B 17/08
G01H 1/00 - G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信探触子が、複数の入射角で超音波を板状部に送信することで、それぞれの前記入射角に応じた群速度が互いに異なる複数の板波を前記板状部に伝搬させるステップと、
受信探触子が、前記板状部を伝搬した複数の板波をそれぞれの前記入射角に応じた角度で受信するステップと、
信号処理部が、前記受信探触子によって受信された複数の板波の信号に基づいて、前記板状部に液体が接触しているか否かを検知するステップとを備え、
前記送信探触子は、同じ周波数帯の超音波を複数の前記入射角で前記板状部に送信し、
前記信号処理部は、前記受信探触子によって受信された複数の板波の信号のうち、時間的に最も早く受信された信号を、前記送信探触子および前記受信探触子と前記板状部との接触状態を確認するための基準信号とし、前記基準信号とされた信号よりも時間的に遅れて受信される信号を測定信号として、前記基準信号および前記測定信号を用いて前記板状部に液体が接触しているか否かを検知する
ことを特徴とする液体検知方法。
【請求項2】
前記基準信号は、前記板状部に接触している液体への漏洩による信号振幅の変化が前記測定信号よりも小さく、
前記信号処理部は、前記基準信号の振幅が閾値を超えた場合に、前記測定信号を用いて前記板状部に液体が接触しているか否かを検知する
ことを特徴とする請求項1記載の液体検知方法。
【請求項3】
前記基準信号は、S0モードの板波の信号であり、
前記測定信号は、A0モードの板波の信号である
ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の液体検知方法。
【請求項4】
送信探触子によって複数の入射角で超音波を板状部に送信させ、それぞれの前記入射角に応じた群速度が互いに異なる複数の板波を前記板状部に伝搬させる送信部と、
受信探触子によってそれぞれの前記入射角に応じた角度で受信された複数の板波の信号を入力する受信部と、
前記受信部に入力された複数の板波の信号に基づいて、前記板状部に液体が接触しているか否かを検知する信号処理部とを備え、
前記送信部は、前記送信探触子から、同じ周波数帯の超音波を複数の前記入射角で前記板状部に送信させ、
前記信号処理部は、前記受信探触子によって受信された複数の板波の信号のうち、時間的に最も早く受信された信号を、前記送信探触子および前記受信探触子と前記板状部との接触状態を確認するための基準信号とし、前記基準信号とされた信号よりも時間的に遅れて受信された信号を測定信号として、前記基準信号および前記測定信号を用いて前記板状部に液体が接触しているか否かを検知する
ことを特徴とする液体検知装置。
【請求項5】
前記基準信号は、前記板状部に接触している液体への漏洩による信号振幅の変化が前記測定信号よりも小さく、
前記信号処理部は、前記送信探触子から前記受信探触子までの距離と複数の板波の群速度とに基づいて算出された時間に応じて複数の時間ゲートが設定され、前記受信探触子によって受信された複数の板波の信号のうち、時間的に最も早い時間位置の時間ゲート内に含まれる信号の振幅が閾値を超えた場合に、最も早い時間位置よりも時間的に遅れた時間位置の時間ゲート内に含まれる信号を用いて、前記板状部に液体が接触しているか否かを検知する
ことを特徴とする請求項4記載の液体検知装置。
【請求項6】
前記送信部は、前記送信探触子から、複数の前記入射角で超音波を同時に前記板状部に送信させる
ことを特徴とする請求項4または請求項5記載の液体検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いた液体の検知方法に係り、特に、複数の超音波の板波を液体に伝搬させて目視または打音で検知できない液体を検知する液体検知方法および液体検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
配電設備の一つに、電柱の上部に設置される開閉器がある。その構造は、大まかに説明すると、密封された金属の箱である。長期間使用された開閉器は、パッキンまたは外枠の腐食によって金属の箱の内部に雨水が浸入する。雨水による滞水が許容限度を越えると、開閉器の機能が損なわれて停電事故につながるため、開閉器内の浸水の有無を簡易に検査する技術が求められている。しかしながら、金属の箱の内部を検査する必要があり、電磁波を用いた検査は困難である。そこで、超音波を用いた技術が期待されている。例えば、特許文献1には、密閉された金属の箱の内部の浸水を、超音波を用いて検知する液体検知方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-196996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された液体検知方法は、金属の箱を構成する鋼板上に、受信探蝕子に対向させて送信探蝕子が配置されており、金属の箱の内部に水が存在する場合、送信探蝕子から鋼板に伝搬させた超音波の板波のエネルギーが水に漏洩して、受信探蝕子によって受信される板波の信号の振幅が減少することを利用して、金属の箱の内部に水が存在するか否かを検知している。
【0005】
しかしながら、送信探蝕子または受信探蝕子と鋼板との接触状態が悪い場合、超音波の鋼板における伝達効率が劣化するため、金属の箱の内部に水が存在しなくても、受信探蝕子によって受信される板波の信号の振幅が減少することがある。この場合、特許文献1に記載された液体検知方法では、金属の箱の内部に水が存在しなくても、「水有り」という検知結果が出てしまう。
【0006】
本発明は上記課題を解決するものであり、超音波の板波を伝搬させる板状部に対する送信探蝕子および受信探蝕子の接触状態によらず、当該板状部に接触している液体の有無を検知することができる液体検知方法および液体検知装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る液体検知方法は、送信探触子が、複数の入射角で超音波を板状部に送信し、それぞれの入射角に応じた群速度が異なる複数の板波を板状部に伝搬させるステップと、受信探触子が、板状部を伝搬した複数の板波をそれぞれの入射角に応じた角度で受信するステップと、信号処理部が、受信探触子によって受信された複数の板波の信号に基づいて、板状部に液体が接触しているか否かを検知するステップを備える。送信探触子は、同じ周波数帯の超音波を複数の入射角で板状部に送信し、信号処理部は、受信探触子によって受信された複数の板波の信号のうち、時間的に最も早く受信された信号を、送信探触子および受信探触子と板状部との接触状態を確認するための基準信号とし、基準信号とされた信号よりも時間的に遅れて受信された信号を測定信号として、基準信号および測定信号を用いて板状部に液体が接触しているか否かを検知する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、同じ周波数帯の超音波が複数の入射角で板状部に送信され、板状部に伝搬された複数の板波の信号のうち、時間的に最も早く受信された信号を基準信号とし、基準信号よりも時間的に遅れて受信された信号を測定信号として、基準信号および測定信号を用いて板状部に液体が接触しているか否かを検知する。基準信号を用いて板状部に対する送信探触子または受信探触子の接触状態を判定することができるので、超音波の板波を伝搬させる板状部に対する送信探蝕子および受信探蝕子の接触状態によらず、当該板状部に接触している液体の有無を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る液体検知方法の概要を示す概念図である。
図2】板波の位相速度と周波数との関係を示すグラフである。
図3】板波の群速度と周波数との関係を示すグラフである。
図4図4Aは、シミュレーションにおいて受信探触子によって受信された板波の信号の波形を示すグラフである。図4Bは、シミュレーションにおいて送信探触子から送信された超音波信号の波形を示すグラフである。
図5】実施の形態1に係る液体検知方法のシミュレーション条件を示す説明図である。
図6図6Aは、送信探触子と受信探触子が良好な接触状態で設置され、内部に水が存在しない金属箱を示す図である。図6Bは、図6Aの状態で受信探触子によって受信された板波の信号の波形を示すグラフである。
図7図7Aは、送信探触子と受信探触子が良好な接触状態で設置され、内部に水が存在する金属箱を示す図である。図7Bは、図7Aの状態で受信探触子によって受信された板波の信号の波形を示すグラフである。
図8図8Aは、送信探触子と受信探触子が不良な接触状態で設置され、内部に水が存在しない金属箱を示す図である。図8Bは、図8Aの状態で受信探触子によって受信された板波の信号の波形を示すグラフである。
図9】実施の形態1に係る液体検知装置の構成を示すブロック図である。
図10】実施の形態1に係る液体検知方法を示すフローチャートである。
図11図11Aは、図6Bの板波の信号と板波の信号が受信される時間位置に設定された時間ゲートを示す図である。図11Bは、図7Bの板波の信号と板波の信号が受信される時間位置に設定された時間ゲートを示す図である。図11Cは、図8Bの板波の信号と板波の信号が受信される時間位置に設定された時間ゲートを示す図である。
図12図12Aは、実施の形態1に係る液体検知装置の機能を実現するハードウェア構成を示すブロック図である。図12Bは、実施の形態1に係る液体検知装置の機能を実現するソフトウェアを実行するハードウェア構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る液体検知方法の概要を示す概念図である。実施の形態1に係る液体検知方法は、例えば図1に示すように、送信探触子1と受信探触子2が取り付けられた金属箱3の内部に水4が存在するか否かを検知する方法である。検知対象が水4である場合を示したが、水以外の液体であってもよい。また、試験体は、液体が溜まる構造体であれば、金属の箱形状でなくてもよい。
【0011】
送信探触子1および受信探触子2は、金属箱3の底部に対向して設置されている。送信探触子1および受信探触子2が取り付けられた金属箱3の底部は、送信探触子1から複数の入射角で超音波が送信され、それぞれの入射角に応じた群速度が異なる複数の板波が伝搬される板状部である。
【0012】
送信探触子1は、振動子1aおよび振動子1bを備える。振動子1aは、S0モードの板波が効率よく励振される角度で送信探触子1に設けられ、振動子1bは、A0モードの板波が効率よく励振される角度で送信探触子1に設けられる。すなわち、振動子1aから送信された超音波は、その入射角に応じてS0モードの板波となって金属箱3の底部を伝搬する。振動子1bから送信された超音波は、その入射角に応じてA0モードの板波となって金属箱3の底部を伝搬する。
【0013】
受信探触子2は、振動子2aおよび振動子2bを備える。振動子2aは、金属箱3の底部を伝搬してきたS0モードの板波が効率よく受信される角度で受信探触子2に設けられ、振動子2bは、金属箱3の底部を伝搬してきたA0モードの板波が効率よく受信される角度で受信探触子2に設けられる。すなわち、振動子2aは、金属箱3の底部を伝搬してきたS0モードの板波を、その入射角に応じた角度で受信する。振動子2bは、金属箱3の底部を伝搬してきたA0モードの板波を、その入射角に応じた角度で受信する。
【0014】
板波が効率よく励振される角度と効率よく受信される角度は同じであり、その角度は、金属箱3の材質および厚さと超音波の周波数とから決定される。また、金属箱3の内部に水4が存在する場合、水4側に向いた矢印で示すように、S0モードおよびA0モードの板波は、水4へのエネルギー漏洩が生じる。ただし、位相速度および群速度がA0モードの板波よりも速いS0モードの板波は、A0モードの板波に比べて、水4へのエネルギー漏洩が非常に少ない。
【0015】
図2は、板波の位相速度と周波数との関係を示すグラフである。図3は、板波の群速度と周波数との関係を示すグラフである。図2および図3において、金属箱3の底部が厚さ2mmのステンレスである場合の関係を示している。図2に示すように、送信探触子1によって送信される超音波の周波数を0.5MHzとした場合に、S0モードの板波が位相速度5210m/sで底部を伝搬し、A0モードの板波が位相速度2277m/sで底部を伝搬する。
【0016】
すなわち、金属箱3の底部には、振動子1aが、位相速度5210m/sの板波が効率よく伝搬する角度で設置され、振動子1bが、位相速度2277m/sの板波が効率よく伝搬する角度で設置される。同様に、金属箱3の底部には、振動子2aが、位相速度5210m/sの板波が効率よく受信される角度で設置され、振動子2bが、位相速度2277m/sの板波が効率よく受信される角度で設置される。なお、板波が効率よく伝搬する角度は、送信探触子1および受信探触子2の材質によって異なるので、ここでは特定せずに説明する。
【0017】
図3に示すように、送信探触子1によって送信される超音波の周波数を0.5MHzとした場合、S0モードの板波が群速度4957m/sで底部を伝搬し、A0モードの板波が群速度3066m/sで底部を伝搬する。S0モードの板波は、位相速度および群速度がともにA0モードの板波よりも速い。このようなS0モードは、A0モードと比較すると水中へのエネルギー漏えいが非常に少ないという特徴がある。実施の形態1に係る液体検知方法は、この特徴を利用して液体検知を行うものである。
【0018】
振動子1aおよび振動子1bが、それぞれ、S0モードの板波およびA0モードの板波を効率よく励振する角度で金属箱3の底部に設置されていると、S0モードの板波およびA0モードの板波が、図1に矢印で示すように、金属箱3の底部を伝搬する。このとき、板波は、継続時間が有限なパルスとみなすことができる。これらの板波は金属箱3の底部を伝搬し、受信探触子2で受信される。振動子2aおよび振動子2bが、それぞれ、S0モードの板波およびA0モードの板波を効率よく受信する角度で金属箱3の底部に設置されていると、振動子2aによってS0モードの板波が受信され、振動子2bによってA0モードの板波が受信される。
【0019】
次に、送信探触子1と金属箱3の底部との接触状態、受信探触子2と金属箱3の底部との接触状態、および、金属箱3の内部における水4の有無によって、S0モードの板波とA0モードの板波がどのように受信探触子2に受信されるかについてシミュレーションを行った結果について説明する。
【0020】
図4Aは、シミュレーションにおいて受信探触子2によって受信された板波の信号の波形を示すグラフである。図4Bは、シミュレーションにおいて送信探触子1から送信された超音波信号の波形を示すグラフである。図4Bに示すように、送信探触子1から送信される超音波信号は、中心周波数0.5MHzで比較的広帯域なものとした。なお、このシミュレーションにおいて、振動子1aおよび振動子1bは、図4Bに示した超音波信号を同時に金属箱3の底部に送信する。
【0021】
図5は、実施の形態1に係る液体検知方法の上記シミュレーション条件を示す説明図である。図5に示すように、送信探触子1および受信探触子2は、金属箱3の底部に対向して設置され、探触子間距離Aは100mmである。金属箱3の底部は、厚さBが2mmのステンレスであり、その内側および外側には塗膜が設けられている。塗膜の厚さは、内側が50μmであり、外側が250μmである。
【0022】
図6Aは、送信探触子1と受信探触子2が良好な接触状態で設置され、内部に水が存在しない金属箱3を示す図である。図6Aに示す金属箱3は、図5を用いて説明したシミュレーション条件を満たしている。図6Bは、図6Aの状態で受信探触子2によって受信された板波の信号の波形を示すグラフである。図6Bの信号波形は、振動子1aおよび振動子1bによって、図4Bに示した超音波信号が同時に図6Aに示す金属箱3の底部に送信されたときに、振動子2aおよび振動子2bによってそれぞれ受信された板波の信号波形である。
【0023】
図7Aは、送信探触子1と受信探触子2が良好な接触状態で設置され、内部に水が存在する金属箱3を示す図である。図7Aに示す金属箱3は、図6Aと同様に、図5を用いて説明したシミュレーション条件を満たしている。図7Bは、図7Aの状態で受信探触子2によって受信された板波の信号の波形を示すグラフである。図7Bの信号波形は、振動子1aおよび振動子1bによって、図4Bに示した超音波信号が同時に図7Aに示す金属箱3の底部に送信されたときに、振動子2aおよび振動子2bによってそれぞれ受信された板波の信号波形である。
【0024】
図8Aは、送信探触子1と受信探触子2が不良な接触状態で設置され、内部に水が存在しない金属箱3を示す図である。図8Aに示す金属箱3は、図6Aと同様に、図5を用いて説明したシミュレーション条件を満たしている。図8Bは、図8Aの状態で受信探触子2によって受信された板波の信号の波形を示すグラフである。図8Bの信号波形は、振動子1aおよび振動子1bによって、図4Bに示した超音波信号が同時に図8Aに示す金属箱3の底部に送信されたときに、振動子2aおよび振動子2bによってそれぞれ受信された板波の信号波形である。
【0025】
図6B図7Bから明らかなように、金属箱3の内部に水4がある場合、A0モードの板波のエネルギーが水4に漏洩していくので、A0モードの板波の信号の振幅は、大幅に低下する。これに対して、S0モードの板波のエネルギーは、あまり水4に漏洩しないので、S0モードの板波の信号の振幅は、あまり変化しない。
【0026】
図8Bから分かるように、金属箱3の底部に対する送信探触子1および受信探触子2の接触状態が悪くなると、S0モードの板波の信号の振幅は減少する。すなわち、S0モードの板波の信号の振幅は、水4の影響をあまり受けないが、金属箱3の底部に対する送信探触子1および受信探触子2の接触状態の影響を大きく受ける。従って、S0モードの板波は、金属箱3の底部に対する送信探触子1および受信探触子2の接触状態をチェックする基準信号として用いることができる。これに対して、A0モードの板波は、水4の影響を大きく受けるので、液体検知の測定信号として用いることができる。
【0027】
図7B図8Bを比較すると、測定信号であるA0モードの板波の信号の振幅は、殆ど同じであるので、測定信号の振幅だけに着目すると、液体の有無の検知は難しい。一方、基準信号であるS0モードの板波の信号の振幅は、図7B図8Bを比較すると、図8Bの方が明らかに小さくなっている。このため、基準信号および測定信号を用いることで、液体の有無の検知が容易になる。
【0028】
例えば、基準信号の振幅が予め設定された閾値を超えた場合、金属箱3の底部に対する送信探触子1および受信探触子2の接触状態が良いものと判断し、引き続き、測定信号を用いて液体検知を行う。一方、基準信号の振幅が閾値以下であった場合には、金属箱3の底部に対する送信探触子1および受信探触子2の接触状態が悪いものと判断して液体検知を行わない。このとき、作業者が、送信探触子1および受信探触子2の一方または両方の設置位置を変えるか、または、設置し直す。これにより、前述した従来の課題を解決することができる。
【0029】
なお、これまでは、S0モードの板波を基準信号として用い、A0モードの板波を測定信号として用いたが、S0モードおよびA0モードに限定されるものではない。例えば、前述したような特徴を有する板波であれば、他のモードを基準信号および測定信号として用いても構わない。さらに、モード数も、2つに限るものではない。
【0030】
次に、実施の形態1に係る液体検知装置について説明する。
図9は、実施の形態1に係る液体検知装置10の構成を示すブロック図である。図9に示すように、液体検知装置10は、送信部11、受信部12および信号処理部13を備える。送信部11は、送信探触子1に接続されており、送信探触子1によって複数の入射角で超音波を金属箱3の底部に送信させ、それぞれの入射角に応じた群速度が互いに異なる複数の板波を上記底部に伝搬させる。受信部12は、受信探触子2に接続されており、受信探触子2によって金属箱3の底部を伝搬した複数の板波をそれぞれの入射角に応じた角度で受信させる。
【0031】
信号処理部13は、受信探触子2によって受信された複数の板波の信号に基づいて、金属箱3の底部に水4が接触しているか否かを検知する。例えば、信号処理部13は、受信探触子2によって受信された複数の板波の信号のうち、時間的に最も早く受信された信号を基準信号とし、基準信号とされた信号よりも時間的に遅れて受信された信号を測定信号として、基準信号および測定信号を用いて金属箱3の底部に水4が接触しているか否かを検知する。
【0032】
図10は、実施の形態1に係る液体検知方法を示すフローチャートであり、図9の液体検知装置10の動作を示している。信号処理部13には、送信探触子1から受信探触子2までの距離と複数の板波の群速度とに基づいて算出された時間に応じて、ゲート(1)とゲート(2)が設定されているものとする。ゲート(1)は、時間的に最も早い時間位置の時間ゲートであり、ゲート(2)は、最も早い時間位置にあるゲート(1)よりも時間的に遅れた時間位置の時間ゲートである。
【0033】
送信部11は、信号処理部13から制御信号を入力すると、電気信号が発生して送信探触子1を励振する。送信探触子1は、複数の入射角で超音波を、試験体である金属箱3の底部に送信する(ステップST11)。受信探触子2は、金属箱3の底部を伝搬してきた超音波信号を受信し、受信した信号を電気信号に変換して受信部12に出力する。受信部12は、必要があれば信号を増幅し、信号処理部13に出力する。
【0034】
信号処理部13は、受信部12から入力された受信信号のうち、時間的に最も早い時間位置のゲート(1)の受信信号と、ゲート(1)よりも時間的に遅れた時間位置のゲート(2)の受信信号をメモリに格納する(ステップST12)。ここでは、時間ゲートの数が2つである場合を示したが、3つ以上の信号をターゲットとする場合には、時間ゲートの数も3つ以上設定しておく。
【0035】
図11Aは、図6Bの板波の信号と板波の信号が受信される時間位置に設定された時間ゲートを示す図である。図11Bは、図7Bの板波の信号と板波の信号が受信される時間位置に設定された時間ゲートを示す図である。図11Cは、図8Bの板波の信号と板波の信号が受信される時間位置に設定された時間ゲートを示す図である。図11A図11Bおよび図11Cにおいて、ゲート(1)は、基準信号であるS0モードの板波信号が受信される、時間的に最も早い時間位置に設定された時間ゲートである。一方、ゲート(2)は、測定信号であるA0モードの板波信号が受信される、ゲート(1)よりも時間的に遅れた時間位置の時間ゲートである。
【0036】
信号処理部13は、ゲート(1)の信号振幅を求める(ステップST13)。続いて、信号処理部13は、ゲート(1)の信号振幅が予め設定された閾値を超えているか否かを判定する(ステップST14)。図11Aおよび図11Bに示すように、ゲート(1)の信号振幅が閾値を超えている場合(ステップST14;YES)、信号処理部13は、試験体(金属箱3の底部)に対する送信探触子1および受信探触子2の接触状態が良好であると判断し、ゲート(2)の信号を用いて金属箱3内の液体(水4)の有無を検知する(ステップST15)。
【0037】
例えば、信号処理部13は、ゲート(2)の信号の振幅が予め設定された閾値を超えているか否かを判定する。図11Aに示すように、ゲート(2)の信号振幅が閾値を超えている場合、信号処理部13は、試験体(金属箱3)内に「水無し」という検知結果を出力する。また、ゲート(2)の信号振幅が閾値以下である場合、信号処理部13は、試験体(金属箱3)内に「水有り」という検知結果を出力する。なお、試験体内に水があっても水深によっては、図11Bに示す受信信号にならず、測定信号の振幅が閾値を超えることがある。この場合、測定信号の受信時間を併用すれば、液体検知が可能である。
【0038】
図11Cに示すように、ゲート(1)の信号振幅が閾値以下である場合(ステップST14;NO)、信号処理部13は、金属箱3の底部に対する送信探触子1および受信探触子2の接触状態が不良であると判定する(ステップST16)。この場合、金属箱3の底部に対する送信探触子1および受信探触子2の接触状態が悪いので、信号処理部13は、液体検知を行わない。ここで、図10に示した一連の処理が終了する。なお、このとき、作業者が、送信探触子1および受信探触子2の設置位置を変えるか、設置し直す。
【0039】
次に、実施の形態1に係る液体検知装置10の機能を実現するハードウェア構成について説明する。液体検知装置10における送信部11、受信部12および信号処理部13の機能は、処理回路によって実現される。すなわち、液体検知装置10は、図10に示したステップST11からステップST16までの処理を実行するための処理回路を備える。処理回路は、専用のハードウェアであってもよいが、メモリに記憶されたプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)であってもよい。
【0040】
図12Aは、液体検知装置10の機能を実現するハードウェア構成を示すブロック図である。図12Bは、液体検知装置10の機能を実現するソフトウェアを実行するハードウェア構成を示すブロック図である。図12Aおよび図12Bにおいて、送受信インタフェース回路100は、送信探触子1と送信部11との間でやり取りされる信号を中継し、受信探触子2と受信部12との間でやり取りされる信号を中継するインタフェースである。表示インタフェース回路101は、信号処理部13から表示器101aへ出力されるデータを中継するインタフェースである。表示器101aは、液体検知結果を表示する表示器である。液体検知結果は、数字として表示器101aに表示してもよいし、LEDランプの明るさで表示してもよい。表示方法は限定されるものではない。
【0041】
処理回路が図12Aに示す専用のハードウェアの処理回路102である場合、処理回路102は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせたものが該当する。液体検知装置10における送信部11、受信部12および信号処理部13の機能を別々の処理回路で実現してもよく、これらの機能をまとめて1つの処理回路で実現してもよい。
【0042】
処理回路が図12Bに示すプロセッサ103である場合に、液体検知装置10における送信部11、受信部12および信号処理部13の機能は、ソフトウェア、ファームウェアまたはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせによって実現される。なお、ソフトウェアまたはファームウェアは、プログラムとして記述されてメモリ104に記憶される。
【0043】
プロセッサ103は、メモリ104に記憶されたプログラムを読み出して実行することで、液体検知装置10における送信部11、受信部12および信号処理部13の機能を実現する。例えば、液体検知装置10は、プロセッサ103によって実行されるときに、図10に示したフローチャートにおけるステップST11からステップST16までの処理が結果的に実行されるプログラムを記憶するためのメモリ104を備える。これらのプログラムは、送信部11、受信部12および信号処理部13の手順または方法を、コンピュータに実行させる。メモリ104は、コンピュータを、送信部11、受信部12および信号処理部13として機能させるためのプログラムが記憶されたコンピュータ可読記憶媒体であってもよい。
【0044】
メモリ104は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically-EPROM)などの不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVDなどが該当する。なお、液体検知装置10によって検知された液体の有無または水深といった処理結果は、適宜記録媒体に記録される。
【0045】
液体検知装置10における送信部11、受信部12および信号処理部13の機能について一部を専用のハードウェアで実現し、一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現してもよい。例えば、送信部11および受信部12は、専用のハードウェアである処理回路102で機能を実現し、信号処理部13は、プロセッサ103がメモリ104に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより機能を実現する。このように、処理回路は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェアまたはこれらの組み合わせにより上記機能を実現することができる。
【0046】
以上のように、実施の形態1に係る液体検知方法において、同じ周波数帯の超音波が複数の入射角で試験体に送信し、試験体に伝搬された複数の板波の信号のうち、時間的に最も早く受信された信号を基準信号とし、基準信号よりも時間的に遅れて受信された信号を測定信号として、基準信号および測定信号を用いて試験体に液体が接触しているか否かを検知する。このように基準信号を用いて試験体に対する送信探触子1または受信探触子2の接触状態を判定することができるので、試験体に対する送信探触子1および受信探触子2の接触状態によらず、試験体に接触している液体の有無を検知することができる。
【0047】
実施の形態1に係る液体検知方法において、S0モードの板波とA0モードの板波との間の群速度が異なることを利用している。群速度が異なり、かつ、送信探触子1と受信探触子2と間隔に一定の距離があれば、両モードを同時に送信しても、図6B図7Bおよび図8Bに示したように、A0モードの板波が時間的に遅延するので、前述した液体検知処理が可能となる。
【0048】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、実施の形態の任意の構成要素の変形もしくは実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 送信探触子、1a,1b,2a,2b 振動子、2 受信探触子、3 金属箱、4 水、10 液体検知装置、11 送信部、12 受信部、13 信号処理部、100 送受信インタフェース回路、101 表示インタフェース回路、101a 表示器、102 処理回路、103 プロセッサ、104 メモリ。
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