IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本パーカライジング株式会社の特許一覧

特許7236915アニオン性エポキシ樹脂又はその塩、エマルション、表面処理剤、並びに皮膜を有する材料及びその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】アニオン性エポキシ樹脂又はその塩、エマルション、表面処理剤、並びに皮膜を有する材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/20 20060101AFI20230303BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20230303BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20230303BHJP
   C08J 3/07 20060101ALI20230303BHJP
   C08G 18/80 20060101ALI20230303BHJP
【FI】
C08G59/20
C23C26/00 A
C09D163/00
C08J3/07 CFC
C08G18/80
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019070295
(22)【出願日】2019-04-02
(65)【公開番号】P2020169243
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 勇太
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-201408(JP,A)
【文献】特表2008-516061(JP,A)
【文献】特開2017-186453(JP,A)
【文献】特開平05-086167(JP,A)
【文献】特開2012-102227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/20
C23C 26/00
C09D 163/00
C08J 3/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)で表される構造単位と、
下式(2)及び下式(3)で表される構造単位のうち少なくとも一つと、
下式(8a)及び(9a)で表される基のうち少なくとも一つと、
を含む、アニオン性エポキシ樹脂又はその塩。
【化1】
[式(1)中、R1は下式(1a)、下式(2a)又は下式(3a)で表される構造である。式(2)中、R7は下式(4a)又は下式(5a)で表される構造である。式(3)中、R9は下式(6a)又は下式(7a)で表される構造である。式(8a)中、R11及びR12は各々独立して、水素原子、メチル基又はアルコキシ基を表す。]
【化2】
[式(1a)中、R2は、単結合、C(CH、CH(CH)、CH、S、O又はSOである。式(2a)中、R3~R6は各々独立して、水素原子、メチル基、アルキルカルボニル基、アルコキシ基又はアルコキシカルボニル基を表す。式(5a)中、R8は水素原子又はアルキル基である。]
【請求項2】
下式(5)で表される構造単位を含む、請求項1に記載のアニオン性エポキシ樹脂又はその塩。
【化3】
(式(5)中、R13は炭素数1~20のアルキレン基である。前記アルキレン基はアルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基又はメチレン基を有していてもよい。前記アルキレン基の炭素数が2~20である場合、隣り合う炭素原子を介して環を構成してもよい。前記環はアルキル基及びアルケニル基から選択される1又は2種以上の置換基を1又は2以上有していてもよい。)
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のアニオン性エポキシ樹脂又はその塩を含む、エマルション。
【請求項4】
ブロック化ポリイソシアネート硬化剤を含む、請求項3に記載のエマルション。
【請求項5】
請求項1若しくは請求項2に記載のアニオン性エポキシ樹脂若しくはその塩、又は請求項3若しくは請求項4に記載のエマルションを含む、表面処理剤。
【請求項6】
請求項5に記載の表面処理剤を、表面に金属を有する材料の表面又は表面上に接触させる工程と、接触させた前記表面処理剤を焼き付ける工程とを含む、皮膜を有する材料の製造方法。
【請求項7】
表面に金属を有する材料の表面又は表面上に、請求項1又は請求項2に記載のアニオン性エポキシ樹脂又はその塩を含む皮膜を有する材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン性エポキシ樹脂若しくはその塩及びそれを含むエマルション、該樹脂若しくはその塩又は該エマルションを含む表面処理剤、並びに、該表面処理剤によって形成された皮膜を有する材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アニオン性エポキシ樹脂を含む処理剤を用いて金属材料の表面上に皮膜を形成させる技術が提案されている。例えば特許文献1には、皮膜を形成するのに用いられる、所定のアニオン性エポキシ樹脂を含む分散液に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2005-537338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年においては、上記皮膜に絶縁性だけでなく、耐熱性が求められる場合がある。そこで、本発明は、絶縁性及び耐熱性に優れる皮膜を形成するためのアニオン性エポキシ樹脂若しくはその塩及びそれを含むエマルション、該樹脂若しくはその塩又は該エマルションを含む表面処理剤、並びに、その表面処理剤によって形成された皮膜を有する材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成する本発明は、
[1]式(1):
【化1】
[式(1)中、R1は式(1a):
【化2】
、式(2a):
【化3】
又は下式(3a):
【化4】
で表される構造である。式(1a)中、R2は、単結合、C(CH、CH(CH)、CH、S、O又はSOである。式(2a)中、R3~R6は各々独立して、水素原子、メチル基、アルキルカルボニル基、アルコキシ基又はアルコキシカルボニル基を表す。]で表される構造単位と、
式(2):
【化5】
[式(2)中、R7は式(4a):
【化6】
又は式(5a):
【化7】
で表される構造である。式(5a)中、R8は水素原子又はアルキル基である。]及び式(3):
【化8】
[式(3)中、R9は式(6a):
【化9】
又は式(7a):
【化10】
で表される構造である。]で表される構造単位のうち少なくとも一つと、
式(8a):
【化11】
[式(8a)中、R11及びR12は各々独立して、水素原子、メチル基又はアルコキシ基を表す。]及び式(9a):
【化12】
で表される基のうち少なくとも一つと、
を含む、アニオン性エポキシ樹脂又はその塩;
【0006】
[2]式(5):
【化13】
[式(5)中、R13は炭素数1~20のアルキレン基である。前記アルキレン基はアルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基又はメチレン基を有していてもよい。前記アルキレン基の炭素数が2~20である場合、隣り合う炭素原子を介して環を構成してもよい。前記環はアルキル基及びアルケニル基から選択される1又は2種以上の置換基を1又は2以上有していてもよい。]で表される構造単位を含む、上記[1]に記載のアニオン性エポキシ樹脂又はその塩;
【0007】
[3]上記[1]又は[2]に記載のアニオン性エポキシ樹脂又はその塩を含む、エマルション;
[4]ブロック化ポリイソシアネート硬化剤を含む、上記[3]に記載のエマルション;
[5]上記[1]若しくは[2]に記載のアニオン性エポキシ樹脂若しくはその塩、又は上記[3]若しくは[4]に記載のエマルションを含む、表面処理剤;
[6]上記[5]に記載の表面処理剤を、表面に金属を有する材料の表面又は表面上に接触させる工程と、接触させた前記表面処理剤を焼き付ける工程とを含む、皮膜を有する材料の製造方法;
[7]表面に金属を有する材料の表面又は表面上に、上記[1]又は[2]に記載のアニオン性エポキシ樹脂又はその塩を含む皮膜を有する材料;
などである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、絶縁性及び耐熱性に優れる皮膜を形成するためのアニオン性エポキシ樹脂若しくはその塩及びそれを含むエマルション、該樹脂若しくはその塩又は該エマルションを含む表面処理剤、並びに、その表面処理剤によって形成された皮膜を有する材料及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、具体的な実施形態を示し、本発明を詳細に説明する。
<アニオン性エポキシ樹脂又はその塩>
本実施形態に係るアニオン性エポキシ樹脂(以下、単に「樹脂」と称することがある。)は、上式(1)で表される構造単位と、上式(2)及び上式(3)で表される構造単位のうち少なくとも一つと、上式(8a)及び(9a)で表される基のうち少なくとも一つと、を含む。
【0010】
樹脂としては、式(1)及び式(2)の各構造単位並びに式(8a)の基の組み合わせ;式(1)及び式(2)の各構造単位並びに式(9a)の基の組み合わせ;式(1)及び式(3)の各構造単位並びに式(8a)の基の組み合わせ;式(1)及び式(3)の各構造単位並びに式(9a)の基の組み合わせ;式(1)、式(2)及び式(3)の各構造単位並びに式(8a)の基の組み合わせ;式(1)、式(2)及び式(3)の各構造単位並びに式(9a)の基の組み合わせ;式(1)及び式(2)の各構造単位並びに式(8a)及び式(9a)の各基の組み合わせ;式(1)及び式(3)の各構造単位並びに式(8a)及び式(9a)の各基の組み合わせ;式(1)、式(2)及び式(3)の各構造単位並びに式(8a)及び式(9a)の各基の組み合わせ;等を挙げることができる。
【0011】
式(1)において、R1は上式(1a)、式(2a)又は式(3a)で表される構造である。R1が式(1a)である場合、式(1a)中、R2は、単結合、C(CH、CH(CH)、CH、S、O又はSOである。R1が式(2a)である場合、式(2a)中、R3~R6は各々独立して、水素原子、メチル基、アルキルカルボニル基、アルコキシ基又はアルコキシカルボニル基を表す。なお、式(1)の構造単位として、これらの構造単位のうち、1の構造単位が樹脂に含まれていてもよいが、2以上の構造単位が含まれていてもよい。
【0012】
式(2)において、R7は上式(4a)又は式(5a)で表される構造である。R7が式(5a)である場合、式(5a)中、R8は水素原子又はアルキル基である。なお、式(2)の構造単位として、これらの構造単位のうち、1の構造単位が樹脂に含まれていてもよいが、両方の構造単位が含まれていてもよい。
【0013】
式(3)において、R9は上式(6a)又は式(7a)で表される構造である。なお、式(3)の構造単位として、これらの構造単位のうち、1の構造単位が樹脂に含まれていてもよいが、両方の構造単位が含まれていてもよい。
【0014】
式(8a)において、R11及びR12は各々独立して、水素原子、メチル基又はアルコキシ基を表す。好ましくは、R11及びR12が水素原子である。なお、式(8a)の基として、これらの基のうち、1の基が樹脂に含まれていてもよいが、2以上の基が含まれていてもよい。
【0015】
このような樹脂を用いることにより、絶縁性及び耐熱性に優れる皮膜を形成することができる。ここで、耐熱性とは、高温状態で曝されても皮膜の性能が低下し難いことを意味する。
【0016】
上述のような樹脂は、上式(5)で表される構造単位をさらに含んでいてもよい。この構造単位を含む樹脂を用いることにより、柔軟性を有する皮膜を形成することができる。式(5)において、R13は炭素数1~20のアルキレン基である。アルキレン基は、アルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基又はメチレン基から選ばれる1種の置換基を1又は2個以上有していてもよく、アルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基及びメチレン基から選ばれる2種以上の置換基をそれぞれ1個又は2個以上有していてもよい。R16が炭素数2~20のアルキレン基である場合、該アルキレン基における隣り合う炭素原子を介して環を構成してもよい。環は、アルキル基及びアルケニル基から選択される1又は2以上の置換基を有していてもよく、アルキル基及び/又はアルケニル基の2個の置換基を有することが好ましい。環が2個の置換基を有する場合、該2個の置換基は、同一であっても異なっていてもよい。環としては、例えば、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、ベンゼン環、デカリン環において2つの炭素-炭素結合が2重結合であるビシクロ環(例えば、ビシクロ[4.4.0]デカン-1,7-ジエン等)を挙げることができる。
【0017】
より好適には、アルキレン基は、炭素数が2~18であり、かつ、メチレン基を1個、炭素数が5~9のアルキル基を1個若しくは2個、又は、炭素数が5~9の、アルキル基、アルケニル基及びアルカジエニル基から選ばれる1種又は2種の置換基を2個、有するか;あるいは、アルキレン基は、炭素数が2~18であり、隣り合う炭素原子を介して上記環のいずれかを構成し、環は、それぞれ独立に、炭素数が5~9の、アルキル基、アルケニル基又はアルカジエニル基である2個の置換基を有する。
【0018】
上記アルキレン基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状でもよい。アルキレン基としては、例えば、炭素数1~20のアルキレン基を挙げることができ、より具体的には、メチレン鎖、エチレン鎖、プロピレン鎖、ブチレン鎖、ペンチレン鎖、ヘキシレン鎖、へプチレン鎖、オクチレン鎖、ノニレン鎖、デシレン鎖、ウンデシレン鎖、ドデシレン鎖等の炭素数1~12のアルキレン基を挙げることができる。
【0019】
上記アルキル基、並びに、アルキルカルボニル基、アルコキシ基及びアルコキシカルボニル基におけるアルキル基としては、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。これらアルキル基としては、例えば、炭素数1~20のアルキル基を挙げることができ、より具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等の炭素数1~12のアルキル基を挙げることができる。
【0020】
上記アルケニル基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状でもよい。アルケニル基としては、例えば、炭素数2~20のアルケニル基を挙げることができ、より具体的には、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基等の炭素数2~12のアルケニル基を挙げることができる。
【0021】
上記アルカジエニル基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状でもよい。アルカジエニル基としては、例えば、ブタジエニル基、ペンタジエニル基、ヘキサジエニル基、ヘプタジエニル基、オクタジエニル基、ノナジエニル基、デカジエニル基等の炭素数4~10のアルケニル基を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
なお、式(5)の構造単位として、これらの構造単位のうち、1の構造単位が樹脂に含まれていてもよいが、2以上の構造単位が含まれていてもよい。
【0023】
本実施形態に係る樹脂の重量平均分子量は特に制限されるものではないが、10000以上1000000以下の範囲内であることが好ましい。本明細書における重量平均分子量の値は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により測定し、ポリスチレンで換算した値である。
【0024】
本実施形態に係る樹脂の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;アンモニウム塩;モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、メチルエタノールアミン塩、ジメチルエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩;テトラメチルアミン塩、テトラエチルアミン塩等のアルキルアミン塩;メチルベンジルアミン塩、ジメチルベンジルアミン塩等のベンジルアミン塩;ピロリジン塩、ピペリジン塩等の脂環式アミン塩;等が挙げられる。
【0025】
<樹脂又はその塩の製造方法>
本発明に係る樹脂又はその塩は、該樹脂又は該塩における構造単位の組み合わせに従い、有機溶媒に、式(1)で表される構造単位を有する化合物(以下、「化合物(1)」と称する)、式(2)で表される構造単位を有する化合物(以下、「化合物(2)」と称する)、式(3)で表される構造単位を有する化合物(以下、「化合物(3)」と称する)、式(8a)で表される基を有する化合物(以下、「化合物(8a)」と称する)、式(9a)で表される基を有する化合物(以下、「化合物(9a)」と称する)等を適宜配合し、また、必要に応じて式(5)で表される構造単位を有する化合物(以下、「化合物(5)」と称する)をさらに配合し、所定の温度で重合反応を行うことにより製造することができる。なお、必要に応じて、反応触媒をさらに配合し、重合反応を行ってもよい。重合反応温度は特に制限されるものではないが、通常70℃以上200℃以下の範囲内である。反応時間は特に制限されるものではないが、通常10分間以上24時間以内の範囲内である。
【0026】
化合物(1)としては、例えば、式(1)で表される構造単位の両末端に水素原子が結合したジヒドロキシ化合物;式(1)で表される構造単位の両末端にグリシジル基が結合したジグリシジルエーテル化合物;該ジヒドロキシ化合物の片末端又は両末端におけるヒドロキシ基と、2以上のグリシジルオキシ基を有するポリグリシジルオキシ化合物におけるエポキシ基とを反応させた反応物;該ジグリシジルエーテル化合物の片末端又は両末端におけるエポキシ基と、2以上のヒドロキシ基を有するポリオール化合物におけるヒドロキシ基とを反応させた反応物;等が挙げられる。
【0027】
ジグリシジルエーテル化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールE、ビスフェノールF、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、1,6-ジヒドロキシナフタレン等の両末端におけるヒドロキシ基の水素原子がグリシジル基に置換した化合物が挙げられる。
【0028】
ジヒドロキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールE、ビスフェノールF、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、2,2’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、等のビスフェノール化合物;カテコール、3-メチルカテコール、4-メチルカテコール、3-メトキシカテコール、3’,4’-ジヒドロキシアセトフェノン、3,4-ジヒドロキシ安息香酸エチル、2,3-ジヒドロキシ安息香酸メチル、3,4-ジヒドロキシ-2-メチル安息香酸メチル、2’,3’-ジヒドロキシ-4’-メトキシアセトフェノン、レゾルシノール、5-メトキシレゾルシノール、2-メチルレゾルシノール、5-メチルレゾルシノール、3’,5’-ジヒドロキシアセトフェノン、2’,6’-ジヒドロキシアセトフェノン、2’,4’-ジヒドロキシアセトフェノン、3,5-ジヒドロキシ安息香酸メチル、2,6-ジヒドロキシ安息香酸メチル、3,5-ジヒドロキシ-4-メトキシ安息香酸メチル、2,4-ジヒドロキシ-6-メトキシ安息香酸エチル、ヒドロキノン、メチルヒドロキノン、メトキシヒドロキノン、2’,5’-ジヒドロキシアセトフェノン、2,3-ジメチルヒドロキノン、2,6-ジメチルヒドロキノン、トリメチルヒドロキノン、テトラメチルヒドロキノン等のジヒドロキシベンゼン化合物;2,3-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,8-ジヒドロキシナフタレン、1,2-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン;等が挙げられる。
【0029】
ポリグリシジルオキシ化合物としては、例えば、ジグリシジルエーテル化合物の他、コハク酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,3-プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、グリセロールアルキレンオキサイド付加物のトリグリシジルエーテル等を挙げることができる。なお、ポリグリシジルオキシ化合物として、後述の、トリグリシジルエーテル化合物、テトラグリシジルエーテル化合物等を用いてもよい。
【0030】
ポリオール化合物としては、例えば、ジヒドロキシ化合物の他、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラエチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、ネオペンチルグリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、シクロヘキシルジメタノール、1,3-アダマンタンジオール等が挙げられる。なお、ポリオール化合物として、後述の、トリヒドロキシ化合物、テトラヒドロキシ化合物等を用いてもよい。
【0031】
化合物(2)としては、例えば、式(2)で表される構造単位における3つの末端に水素原子が結合したトリヒドロキシ化合物;式(2)で表される構造単位における3つの末端にグリシジル基が結合したトリグリシジルエーテル化合物;該トリヒドロキシ化合物における1以上のヒドロキシ基と、上記ポリグリシジルオキシ化合物におけるエポキシ基とを反応させた反応物;該トリグリシジルエーテル化合物における1以上のエポキシ基と、上記ポリオール化合物におけるヒドロキシ基とを反応させた反応物;等が挙げられる。
【0032】
トリグリシジルエーテル化合物としては、例えば、α,α,α’-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1-エチル-4-イソプロピルベンゼン、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン又はトリス(4-ヒドロキシフェニル)メタン等の3つの末端におけるヒドロキシ基の水素原子がグリシジル基に置換した化合物が挙げられる。
【0033】
トリヒドロキシ化合物としては、例えば、α,α,α’-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1-エチル-4-イソプロピルベンゼン、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン又はトリス(4-ヒドロキシフェニル)メタン等が挙げられる。
【0034】
化合物(3)としては、例えば、式(3)で表される構造単位における4つの末端に水素原子が結合したテトラヒドロキシ化合物;式(3)で表される構造単位における4つの末端にグリシジル基が結合したテトラグリシジルエーテル化合物;該テトラヒドロキシ化合物における1以上のヒドロキシ基と、上記ポリグリシジルオキシ化合物におけるエポキシ基とを反応させた反応物;該テトラグリシジルエーテル化合物における1以上のエポキシ基と、上記ポリオール化合物におけるヒドロキシ基とを反応させた反応物;等が挙げられる。
【0035】
テトラグリシジルエーテル化合物としては、例えば、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタン又は1,1’-メチレンビス(2,7-ナフタレンジオール)等の4つの末端におけるヒドロキシ基の水素原子がグリシジル基に置換した化合物が挙げられる。
【0036】
テトラヒドロキシ化合物としては、例えば、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1’-メチレンビス(2,7-ナフタレンジオール)等が挙げられる。
【0037】
化合物(8a)としては、例えば、式(8a)で表される構造にヒドロキシル基が結合した化合物又はその塩等が挙げられる。より具体的には、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸、4-ヒドロキシ-3-メトキシベンゼンスルホン酸等の化合物又はその塩が挙げられるがこれらに制限されるものではない。
【0038】
化合物(9a)としては、例えば、式(9a)で表される構造にヒドロキシル基が結合した化合物又はその塩等が挙げられる。より具体的には、1-ナフトール-4-スルホン酸、1-ナフトール-3-スルホン酸、2-ナフトール-6-スルホン酸、2-ナフトール-7-スルホン酸等の化合物又はその塩が挙げられるがこれらに制限されるものではない。
【0039】
化合物(8a)又は化合物(9a)が塩である場合、その塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;アンモニウム塩;モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、メチルエタノールアミン塩、ジメチルエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩;テトラメチルアミン塩、テトラエチルアミン塩等のアルキルアミン塩;メチルベンジルアミン塩、ジメチルベンジルアミン塩等のベンジルアミン塩;ピロリジン塩、ピペリジン塩等の脂環式アミン塩;等が挙げられる。
【0040】
化合物(5)としては、例えば、式(5)で表される構造単位の両末端に水素原子が結合したジカルボン酸化合物が挙げられる。より具体的には、ジカルボン酸化合物としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、2,2-ジメチルグルタル酸、3,3-ジメチルグルタル酸、アジピン酸、2,2-ジメチルアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、2-エチルアゼライン酸、セバシン酸、1,9-ノナンジカルボン酸、1,10-デカンジカルボン酸、1,11-ウンデカンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸、1,13-トリデカンジカルボン酸、1,14-テトラデカンジカルボン酸、1,15-ペンタデカンジカルボン酸、1,16-ヘキサデカンジカルボン酸、1,17-ヘプタデカンジカルボン酸、1,18-オクタデカンジカルボン酸、1,19-ノナデカンジカルボン酸、1,20-イコサンジカルボン酸、イタコン酸、フタル酸、ダイマー酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキセンジカルボン酸等が挙げられる。上記ダイマー酸としては、例えば、市販の、ハリダイマー200、250又は270S(各ハリマ化成グループ株式会社);ツノダイム205、216、228、395又は346(各筑野食品工業株式会社);Unydyme 14、14R、T-17、18、T-18、22、T-22、27、35、M-9、M-15、M-35若しくは40、又はCentury D-75、D-77、D-78若しくはD-1156、又はSylvatal 7001若しくは7002(各アリゾナケミカル社);Empol 1016、1003、1026、1028、1061、1062、1008又は1012(各BASF社);水素化ダイマー酸(average M~570;Sigma-Aldrich社)等が挙げられる。
【0041】
各化合物(1)~(5)の配合量は、製造しうる樹脂における各構造単位の比率に応じて適宜設定すればよい。
【0042】
有機溶媒としては、化合物(1)~(5)を溶解できるものであれば特に制限されないが、例えば、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル等のグリコールエーテル系有機溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系有機溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド系有機溶媒を用いることができる。これらの有機溶媒は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
反応触媒としては、上記重合反応を促進するものであれば特に制限されないが、例えば、ジメチルベンジルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の3級アミン;テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド等の4級アンモニウム塩;等を用いることができる。これらの反応触媒は1種を用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
上述のように製造した樹脂において、式(1)、式(2)、式(3)、式(5)等で表される構造単位、又は式(8a)、式(9a)等で表される基が含まれるか否かの確認は、核磁気共鳴装置を用いてH NMR及び/又は13C NMRを測定することにより行うことができる。
【0045】
<エマルション>
本実施形態に係るエマルションは、上記アニオン性エポキシ樹脂又はその塩を含む。エマルションは、例えば、転相乳化法によってアニオン性エポキシ樹脂又はその塩を水中に分散させることで得ることができる。分散させる際の温度は特に制限されるものではないが、5℃以上50℃以下であることが好ましい。
【0046】
エマルションは、エポキシ樹脂の硬化剤を含んでいてもよい。エポキシ樹脂の硬化剤としては、ポリアミン化合物、ポリアミド樹脂、イミダゾール化合物、ポリメルカプタン化合物、酸無水物、ブロック化ポリイソシアネート、ポリメチロール化合物、フェノール樹脂等が挙げられるが、これに制限されるものではない。これらの内、特に好ましいのはブロック化ポリイソシアネート硬化剤である。また、ブロックポリイソシアネート硬化剤とともに硬化触媒を含ませてもよい。これらを含ませる場合、エマルションは、アニオン性エポキシ樹脂又はその塩とブロック化ポリイソシアネート硬化剤と硬化触媒を予め混合した後、転相乳化法によって水中に混合物を分散させることで得ることができる。
【0047】
上記ブロック化ポリイソシアネート硬化剤は、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基にブロック剤を反応させ、イソシアネート基を保護することにより得ることができる。
【0048】
上記ポリイソシアネート化合物としては、イソシアネート基を2以上有する化合物であれば特に制限されるものではなく、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ポリメリックMDI(クルードMDI:ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート)、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。これらのポリイソシアネート化合物は、1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
ブロック剤としては、例えば、ε-カプロラクタム、γ-ブチロラクタム等のラクタム系化合物、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム系化合物、フェノール、パラ-t-ブチルフェノール、クレゾール等のフェノール系化合物、n-ブタノール、2-エチルヘキサノール等のアルコール類又はエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル系化合物等が挙げられる。これらのブロック剤は、1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、上記ポリイソシアネート化合物の種類によって適切なものを選択することができる。
【0050】
ポリアミン化合物としては、1級アミノ基を2以上有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、メンセンジアミン、イソホロンジアミン、m-キシレンジアミン、m-フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。これらのポリアミン化合物は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0051】
ポリアミド樹脂としては、アミド結合によってポリマー化した化合物であれば特に制限されるものではない。ポリアミド樹脂は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0052】
イミダゾール化合物としては、イミダゾール環構造を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウム・トリメリテート、エポキシ-イミダゾールアダクト等が挙げられる。これらのイミダゾール化合物は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0053】
ポリメルカプタン化合物としては、メルカプト基を2以上有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、トリメチロールプロパン・トリスチオグリコレート、ペンタエリスリトール・テトラキスチオグリコレート、トリメチロールプロパン・β-チオプロピオネート、またはペンタエリスリトール・β-チオプロピオネート等が挙げられる。これらのポリメルカプタン化合物は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0054】
酸無水物としては、該酸無水物の環構造が開環した際に2つのカルボキシル基を形成する化合物であれば特に制限されるものではなく、例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、グリセロールトリストリメリテート、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルブテニルテトラヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水コハク酸、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物、アルキルスチレン-無水マレイン酸共重合体、クロレンド酸無水物、ポリアゼライン酸無水物等が挙げられる。これらの酸無水物は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0055】
ポリメチロール化合物としては、メチロール基を2以上有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、メチロールメラミン、メラミン樹脂等が挙げられる。これらのポリメチロール化合物は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0056】
フェノール樹脂としては、繰り返し構造においてフェノール基を有するものであれば特に制限されるものではない。フェノール樹脂は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0057】
硬化触媒としては、例えば、すず系触媒、ビスマス系触媒、チタン系触媒、ジルコニウム触媒、アミン系触媒、カルボキシレート系触媒、トリアルキルホスフィン系触媒等、公知の触媒を用いることができる。これらの硬化触媒は、1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
<表面処理剤>
本実施形態に係る表面処理剤は、上記アニオン性エポキシ樹脂若しくはその塩、又は上記エマルションを含む。表面処理剤は、表面処理剤に使用される公知の、酸、酸化剤、各種添加剤等をさらに含んでいてもよい。
【0059】
酸及び酸化剤としては、例えば、弗化水素酸又はその塩、弗化珪素酸又はその塩、弗化チタン酸又はその塩、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(III)、メタンスルホン酸鉄(III)、フッ化鉄(III)、塩化鉄(III)、クエン酸鉄(III)等の水溶性鉄化合物、酢酸、燐酸、硫酸、硝酸、過酸化水素、過塩素酸、過マンガン酸等の過酸化物等が挙げられる。これらの酸又は酸化剤は単独若しくは2種以上組み合わせて使用することができる。なお、塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;アンモニウム塩;モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、メチルエタノールアミン塩、ジメチルエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩;テトラメチルアミン塩、テトラエチルアミン塩等のアルキルアミン塩;メチルベンジルアミン塩、ジメチルベンジルアミン塩等のベンジルアミン塩;ピロリジン塩、ピペリジン塩等の脂環式アミン塩;等が挙げられる。
【0060】
添加剤としては、例えば、pH調整剤、ORP調整剤、キレート剤、耐候剤、抗菌剤、抗カビ剤、顔料、充填材、防錆剤、顔料、染料、造膜助剤、無機架橋剤、有機架橋剤(例えばカルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、メラミン系架橋剤等)、シランカップリング剤、ブロッキング防止剤、粘度調整剤、レベリング剤、消泡剤、分散安定剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、無機、有機充填剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
上記表面処理剤は、例えば、水性媒体に、上記アニオン性エポキシ樹脂を、必要に応じて、さらに、酸、酸化剤、各種添加剤等を加えて混合することにより製造することができる。また、上記エマルションを表面処理剤として用いてもよいし、上記エマルションに酸、酸化剤、各種添加剤等を加えて混合したものを表面処理剤として用いてもよい。
【0062】
<皮膜を有する材料及びその製造方法>
本実施形態に係る皮膜を有する材料の製造方法(以下、単に「製造方法」と称する)は、上記表面処理剤を、表面に金属を有する材料の表面又は表面上に接触させる第1工程と、接触させた表面処理剤(未硬化の皮膜)を焼き付ける第2工程とを含む。なお、この製造方法は、第1工程と第2工程との間に、必要に応じて、未硬化の皮膜を水洗する工程を行ってよい。
【0063】
第1工程における接触方法としては、例えば、ディップ(浸漬)法、塗布法、スプレー法、流しかけ法、電着塗装法等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。接触の温度及び時間は特に制限されるものではないが、それらは、通常5℃以上50℃以下の範囲内と、0.1秒以上1時間以内の範囲内である。
【0064】
表面に金属を有する材料としては、材料の全部又は一部の表面に金属を含むものであれば特に制限されるものではなく、材料の全部又は一部の表面が、少なくとも金属で構成されているものであればよい。金属としては、特に制限されるものではないが、例えば、鉄、鉄合金、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金等が挙げられる。なお、表面に銅又は銅合金を有する材料を用いる場合には、上記表面処理剤にキレート剤として銅錯化剤を添加することが好ましい。これにより、銅又は銅合金に皮膜を形成することが可能となる。
【0065】
銅錯化剤としては、銅イオンと錯体を形成しうる化合物であれば特に限定されるものではなく、例えば、チオ尿素、アルキルチオ尿素(例えば、メチルチオ尿素、エチルチオ尿素など)、アセチルチオ尿素、アルケニルチオ尿素(例えば、1-アリル-2-チオ尿素など)、アリールチオ尿素(例えば、1-フェニル-2-チオ尿素など)、チオアセトアミド、チオール系化合物(例えば、チオグリコール酸、チオシアン酸などのメルカプト基含有化合物)、ピリジン系化合物(例えば、2,2’-ビピリジルなどのピリジル基含有化合物)、ジフェニルカルバジド、チオ硫酸、アゾ系化合物(アゾ基含有化合物)などが挙げられる。これらの銅錯化剤は、1種のみ用いてもよいが、2種以上を併用してもよい。
【0066】
本実施形態に係る製造方法は、第1工程の前に材料の表面に対して脱脂処理工程を行ってもよい。脱脂処理は、材料に応じて適した脱脂処理剤を用いて公知の方法により行うことができる。なお、脱脂処理剤としては、例えば、公知の、酸性脱脂剤、アルカリ性脱脂剤、溶剤脱脂剤等が挙げられるがこれらに制限されるものではない。脱脂処理方法としては、特に限定されないが、例えば、スクラブ洗浄、スプレー洗浄(噴射洗浄)、ディップ(浸漬)洗浄等の方法が挙げられる。
【0067】
本実施形態に係る製造方法は、脱脂処理工程後、第1工程前に、材料の表面上を水洗する水洗工程を行ってもよいが、水洗工程後、第1工程前にさらに材料の表面上を乾燥する乾燥工程を行ってもよい。乾燥方法としては、公知の方法を適用できる。
【0068】
また、第1工程前の脱脂処理工程、水洗工程、乾燥工程等の後であって、第1工程前に、材料における金属に対して化成処理皮膜を形成させる化成処理工程を行なってもよい。化成処理は、公知の化成処理剤に材料を接触させることにより行われる。なお、化成処理方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法を適用することができる。なお、化成処理工程後、第1工程前に、水洗工程を行ってもよいし、さらに、水洗工程後、第1工程前に乾燥工程を行ってもよい。
【0069】
上記製造方法により、表面に金属を有する材料の表面又は表面上にアニオン性エポキシ樹脂又はその塩を含む皮膜を有する材料を製造することができる。皮膜に含まれるアニオン性エポキシ樹脂又はその塩の形態は、そのままの形態であっても、架橋物の形態であってもよい。また、上記表面処理剤にブロック化ポリイソシアネート硬化剤が含まれる場合には、皮膜に含まれるアニオン性エポキシ樹脂又はその塩の形態は、アニオン性エポキシ樹脂又はその塩と、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤との架橋物の形態であってもよい。皮膜の厚さとしては、特に制限されるものではないが、通常0.1μm以上1000μm以下の範囲内である。
【0070】
<樹脂等の用途>
上記アニオン性エポキシ樹脂又はその塩、エマルション、表面処理剤等は、接着剤、メガネ、光学材料(例えば、撮像用レンズに代表されるもの)、ライニング剤、インキ、レジスト、液状レジスト、印刷版、絶縁ワニス、絶縁シート、積層板、プリント基盤、封止剤(例えば、半導体装置用・LEDパッケージ用・液晶注入口用・有機EL用・光素子用・電気絶縁用・電子部品用・分離膜用等のもの)、成形材料、パテ、ガラス繊維含浸剤、目止め剤、パッシベーション膜(例えば、半導体用・太陽電池用等のもの)、層間絶縁膜、保護膜、プリズムレンズシート(例えば、液晶表示装置のバックライトに使用されるもの)、フレネルレンズシート(例えば、プロジェクションテレビ等のスクリーンに使用されるもの)、レンチキュラーレンズシート等のレンズシートのレンズ部、又はこのようなシートを用いたバックライト等、光学レンズ(例えば、マイクロレンズ等のもの)、光学素子、光コネクター、光導波路、光学的造形用注型剤等の用途に利用できる。ただし、上記アニオン性エポキシ樹脂又はその塩、エマルション、表面処理剤等の用途は、上記に限定されない。
【実施例
【0071】
本発明のアニオン性エポキシ樹脂、エマルション及び表面処理剤について、実施例及び比較例を説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0072】
≪アニオン性エポキシ樹脂≫
<実施例1>
表1に示すように、237.7gのA1と、30.0gのB1と、21.5gのC1を、536.0gのN-メチル-2-ピロリドンに加え、撹拌しながら120℃に加温した。その後、その温度を維持しながら0.6gのジメチルベンジルアミンを加えて1.5時間反応させた。その後、113.9gのA2及び60.9gのD1を加えてさらに5時間反応させた。その後、反応溶液を冷却し、固形分濃度46.4%、重量平均分子量約110,000のアニオン性エポキシ樹脂を得た。
【0073】
<実施例2~22及び比較例1~2>
表1に示す各成分を所定量(仕込み量:質量部)用いて、実施例1と同様の方法で、実施例2~22及び比較例1~2のアニオン性エポキシ樹脂を得た。
【0074】
【表1】
【0075】
表1中の各記号は、以下の成分をそれぞれ示す。
<成分A>
A1:ビスフェノールAのジグリシジルエーテル化合物(jER#828EL、三菱ケミカル社製)
A2:ビスフェノールA(出光興産社製)
A3:1,6-ジヒドロキシナフタレンのジグリシジルエーテル化合物(EPICLON HP-4032D、DIC社製)
A4:レゾルシノール(東京化成工業社製)
<成分B>
B1:α,α,α’-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1-エチル-4-イソプロピルベンゼンにおける3つのヒドロキシ基における水素原子がグリシジル基に置換された化合物(TECHMORE VG-3101L、プリンテック社製)
B2:1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタンのトリグリシジルエーテル化合物(jER#1032H60、三菱ケミカル社製)
B3:1,1’-メチレンビス(2,7-ナフタレンジオール)のテトラグリシジルエーテル化合物(EPICLON HP-4710、DIC社製)
B4:1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタンのテトラグリシジルエーテル化合物(jER#1031S、三菱ケミカル社製)
<成分C:全て東京化成工業社製>
C1:4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸ナトリウム
C2:4-ヒドロキシ-3-メトキシベンゼンスルホン酸カリウム
C3:1-ナフトール-4-スルホン酸
C4:1-ナフトール-3-スルホン酸
C5:2-ナフトール-6-スルホン酸
C6:2-ナフトール-7-スルホン酸
C7:イセチオン酸ナトリウム
<成分D>
D1:ジカルボン酸化合物(ハリダイマー270S、ハリマ化成社製)
D2:アジピン酸(東京化成工業社製)
D3:1,16-ヘキサデカンジカルボン酸(東京化成工業社製)
【0076】
≪ブロック化ポリイソシアネート硬化剤の合成≫
<製造例1>
ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(コスモネートM-200、三井化学社製)452.3gにメチルイソブチルケトン 77.1gを加え、70℃に加温した後、ブチルセロソルブ 470.7gをゆっくり滴下し、滴下終了後90℃に加温した。続けて、90℃の条件下で12時間反応させ、イソシアネート基を完全にブロックしたブロック化ポリイソシアネート硬化剤を得た。なお、イソシアネート基がブロックされたことは、赤外吸収スペクトル測定により、未反応のイソシアネート基由来の吸収がみられるかどうかを確認することで行った。
【0077】
≪エマルション≫
<実施例23>
実施例1のアニオン性エポキシ樹脂 646.5gに純水 353.5gをゆっくりと添加し、転相乳化法によって固形分濃度30%のエマルションを製造した。
【0078】
<実施例24~44及び比較例3~4>
表2に示すように、各種アニオン性エポキシ樹脂を用いて、実施例23と同様の方法で実施例24~44及び比較例3~4のエマルションを製造した。
【0079】
<実施例45>
実施例1のアニオン性エポキシ樹脂 442.1g、製造例1で合成したブロック化ポリイソシアネート硬化剤 97.7g、及びジオクチル錫(ネオスタンU-820、日東化成社製)6.7gを混合し、その後、純水 453.5gをゆっくりと添加し、転相乳化法によって固形分濃度30%のエマルションを製造した。
【0080】
<実施例46~66及び比較例5~6>
表2に示すように、各種アニオン性エポキシ樹脂を用いて、実施例45と同様の方法で、実施例46~66及び比較例5~6のエマルションを製造した。
【0081】
【表2】
【0082】
≪表面処理剤≫
<実施例67>
実施例23のエマルション 333.0gに、黒色顔料(SANDYE DP BLACK CN、山陽色素社製)5.5g及びNSD-300(日本パーカライジング社製)53.0gを添加し、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを3.5に調整した後、過酸化水素水を用いてORP(酸化還元電位)を380-420mVに調整し、表面処理剤を調製した。
【0083】
<実施例68~110及び比較例7~10>
実施例23のエマルションの代わりに、表3に示す各種エマルションを用いる以外は、実施例67と同様の方法で、実施例68~110及び比較例7~10の表面処理剤を調製した。
【0084】
【表3】
【0085】
≪皮膜を有する金属材料の製造≫
<金属材料>
金属材料として、SPC:冷延鋼板(SPCC-SD、板厚:0.8mm)を用いた。
【0086】
<脱脂処理>
アルカリ性脱脂剤[ファインクリーナーE2001(日本パーカライジング社製)のA剤及びB剤がそれぞれ13g/kg及び7g/kgとなるように水に混合した脱脂剤]を用いて、45℃で2分間スプレーすることによって金属材料の表面上を脱脂した。
【0087】
<表面処理>
脱脂した金属材料を、実施例67の表面処理剤に25℃で1分間浸漬した後、金属材料を水洗した。水洗した金属材料を180℃(PMT:焼付時の金属材料の最高温度)で20分間焼き付け、表面上に膜厚20μmの皮膜を有する金属材料(実施例111)を得た。
【0088】
<実施例112~154>
表4に示すように、実施例68~110及び比較例7~10の表面処理剤を用いて、実施例111の製造方法と同様に、実施例112~154及び比較例11~14の皮膜を有する金属材料を得た。
【0089】
<<評価試験>>
実施例111~154及び比較例11~14の皮膜を有する金属材料を用いて、各種評価試験を行った。
【0090】
<耐熱絶縁性試験>
実施例111~154及び比較例11~14の金属材料を260℃で5時間静置させた後、各金属基材における皮膜の電気絶縁性(耐電圧:A)を耐電圧試験機(TOS9201、菊水電子工業株式会社製)にて測定した。また、実施例111~154及び比較例11~14の金属材料を260℃で5時間静置させる前の皮膜の耐電圧(B)も測定した。それらの測定結果に基づいて耐電圧の比(A/B)を算出し、以下の評価基準に従って耐熱絶縁性を評価した。なお、測定条件は、初期電圧を50V、昇圧速度を50V/秒とし、カットオフ電流を1.0mAとした。
(評価基準)
◎:耐電圧の比が0.70以上である
〇:耐電圧の比が0.50以上0.70未満である
×:耐電圧の比が0.50未満である
【0091】
<耐熱耐食性試験>
実施例111~154及び比較例11~14の金属材料を260℃で5時間静置させた後、該金属材料における皮膜に対して、カッターを用いて金属材料に到達する深さでクロス(×)状にカットを施し、5%の塩化ナトリウム水溶液(中性)を35℃で480時間噴霧した。その後、カット部における錆の膨れ幅(カット部からの片側最大膨れ幅)を測定し、以下の評価基準に従って耐熱耐食性を評価した。
(評価基準)
◎:膨れ幅が2.5mm以下である
〇:膨れ幅が2.5mm超3.5mm以下である
×:膨れ幅が3.5mm超である
【0092】
各評価試験の結果を表4に示す。なお、評価試験の結果が「〇」以上を合格と判断した。
【表4】