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特許7236945グラウンドアンカーの緊張力評価方法および緊張力評価システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】グラウンドアンカーの緊張力評価方法および緊張力評価システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/12 20060101AFI20230303BHJP
【FI】
G01N29/12
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019123021
(22)【出願日】2019-07-01
(65)【公開番号】P2021009072
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-04-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 「日本保全学会 第15回学術講演会 要旨集」 発行者 :一般社団法人 日本保全学会 発行日 :2018年7月10日 頁番号:第125頁~第130頁
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 「日本保全学会 第15回学術講演会 要旨集」 発行者 :一般社団法人 日本保全学会 発行日 :2018年7月10日 頁番号:第131頁~第134頁
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 「第53回地盤工学研究発表会 講演集」 発行者 :公益社団法人 地盤工学会 発行日 :2018年7月24日 頁番号:第1459頁~第1460頁
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 「第53回地盤工学研究発表会 講演集」 発行者 :公益社団法人 地盤工学会 発行日 :2018年7月24日 頁番号:第1461頁~ 第1462頁
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 「平成30年度土木学会全国大会 第73回年次学術講演会 DVDーROM版講演概要集」 発行者 :公益社団法人 土木学会 発行日 :2018年8月29日 頁番号:第237頁~第238頁
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 「平成30年度土木学会全国大会 第73回年次学術講演会 DVDーROM版講演概要集」 発行者 :公益社団法人 土木学会 発行日 :2018年8月29日 頁番号:第239頁~第240頁
(73)【特許権者】
【識別番号】505398963
【氏名又は名称】西日本高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000165697
【氏名又は名称】原子燃料工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509177636
【氏名又は名称】有限会社マサクリーン
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 敏
(72)【発明者】
【氏名】浜崎 智洋
(72)【発明者】
【氏名】松永 嵩
(72)【発明者】
【氏名】礒部 仁博
(72)【発明者】
【氏名】佐山 政幸
(72)【発明者】
【氏名】佐山 勝一
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-180951(JP,A)
【文献】浜崎 智洋、外5名,打音診断技術を活用したグラウンドアンカーのあらたな緊張力計測手法に関する実験的研究,土木学会論文集C(地圏工学),日本,J-STAGE,2019年03月20日,第75巻第1号,第90頁~第102頁,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejge/75/1/75_90/_article/-char/ja
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00ーG01N 29/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラウンドアンカーに対して外部から打撃することにより取得された振動特性に基づいて前記グラウンドアンカーの緊張力を評価するグラウンドアンカーの緊張力評価方法であって、
頭部長さおよび頭部外径により定められる頭部形状が異なる複数のグラウンドアンカーに対して、一定の緊張力の下で打撃することにより取得された振動波形から曲げ振動の固有振動周波数を基準周波数として得、前記基準周波数と前記頭部形状との関係式を第一式として導出する第一式導出工程と、
頭部形状が既知の複数のグラウンドアンカーに対して、異なる緊張力の下で打撃することにより取得されたそれぞれの振動波形から、曲げ振動の固有振動周波数を得、前記緊張力と、前記第一式における基準周波数に対する前記曲げ振動の固有振動周波数の比との関係式を第二式として導出する第二式導出工程と、
評価対象のグラウンドアンカーの頭部形状を測定して、前記第一式に基づき評価対象のグラウンドアンカーの基準周波数を算出する基準周波数算出工程と、
前記グラウンドアンカーの頭部を打撃することにより、評価対象のグラウンドアンカーの曲げ振動の固有振動周波数を取得する評価固有振動周波数取得工程と、
算出された前記評価対象のグラウンドアンカーの基準周波数と、取得された前記評価対象のグラウンドアンカーの曲げ振動の固有振動周波数とを、前記第二式に代入して、評価対象のグラウンドアンカーの緊張力を算出する緊張力算出工程とを備え、
前記第一式導出工程が、下記に示す第一式において、基準周波数f (L,D)に対して、頭部長さLおよび頭部外径Dを独立変数として多変量解析することにより、回帰係数αおよびβを決定する工程であることを特徴とするグラウンドアンカーの緊張力評価方法。
【数1】
【請求項2】
前記第二式導出工程が、下記に示す第二式において、緊張力Tに対して、(f’/f(L,D))を独立変数として単回帰分析することにより、回帰係数γおよびδを決定する工程であることを特徴とする請求項に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価方法。
【数2】
【請求項3】
前記曲げ振動の固有振動周波数として、1次の曲げ振動モードの固有振動周波数を用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価方法。
【請求項4】
前記曲げ振動の固有振動周波数として、2次以上の曲げ振動モードの固有振動周波数を用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価方法。
【請求項5】
前記曲げ振動の固有振動周波数として、2次の曲げ振動モードの固有振動周波数を用いることを特徴とする請求項に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価方法。
【請求項6】
前記曲げ振動の固有振動周波数として、2次以上の曲げ振動モードの固有振動周波数を用い、
前記曲げ振動の固有振動周波数の取得に際して、グラウンドアンカーの振動波形の測定点を、グラウンドアンカーの頭部の緊張材固定具寄りの側面に設置することを特徴とする請求項または請求項に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価方法。
【請求項7】
振動波形の取得に際して、ハンマの打撃により振動波形を発生させ、振動検出センサにて取得することを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価方法。
【請求項8】
前記振動検出センサとして、AEセンサを用いることを特徴とする請求項に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価方法。
【請求項9】
振動波形を数値解析することにより振動波形から周波数分布を得、
得られた周波数分布から、曲げ振動の固有振動周波数を取得することを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価方法。
【請求項10】
前記数値解析において、高速フーリエ変換処理を施すことを特徴とする請求項に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価方法。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価方法に用いられるグラウンドアンカーの緊張力評価システムであって、
グラウンドアンカーに対して打撃することにより振動波形を取得する振動波形取得手段と、
前記グラウンドアンカーの頭部長さおよび頭部外径により定められる頭部形状を測定する頭部形状測定手段と、
取得された振動波形に対して周波数分布解析を行って、前記グラウンドアンカーの曲げ振動の固有振動周波数を取得する固有振動周波数取得手段と、
前記頭部形状が異なる複数のグラウンドアンカーに対して、一定の緊張力の下で打撃することにより取得された振動波形から曲げ振動の固有振動周波数を基準周波数として得、前記基準周波数と前記頭部形状との関係式を第一式として導出する第一式導出手段と、
頭部形状が既知の複数のグラウンドアンカーに対して、異なる緊張力の下で打撃することにより取得されたそれぞれの振動波形から、曲げ振動の固有振動周波数を得、前記緊張力と、前記第一式における基準周波数に対する前記曲げ振動の固有振動周波数の比との関係式を第二式として導出する第二式導出手段と、
評価対象のグラウンドアンカーの頭部形状を測定して、前記第一式に基づき評価対象のグラウンドアンカーの基準周波数を算出する基準周波数算出手段と、
前記グラウンドアンカーの頭部を打撃することにより、評価対象のグラウンドアンカーの曲げ振動の固有振動周波数を取得する評価固有振動周波数取得手段と、
算出された前記評価対象のグラウンドアンカーの基準周波数と、取得された前記評価対象のグラウンドアンカーの曲げ振動の固有振動周波数とを、前記第二式に代入して、評価対象のグラウンドアンカーの緊張力を算出する緊張力算出手段とを備えていることを特徴とするグラウンドアンカーの緊張力評価システム。
【請求項12】
前記振動波形取得手段において、前記グラウンドアンカーに対する打撃手段として、ハンマを備えていることを特徴とする請求項11に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価システム。
【請求項13】
前記振動波形取得手段において、前記振動波形を取得する手段として、振動検出センサを備えていることを特徴とする請求項11または請求項12に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価システム。
【請求項14】
前記振動検出センサが、AEセンサであることを特徴とする請求項13に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価システム。
【請求項15】
前記固有振動周波数取得手段が、前記振動波形を数値解析して周波数分布を得る数値解析手段を備えていることを特徴とする請求項11ないし請求項14のいずれか1項に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価システム。
【請求項16】
前記数値解析手段が、高速フーリエ変換処理手段を備えていることを特徴とする請求項15に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラウンドアンカーの施工不良や経年劣化等を診断するために使用されるグラウンドアンカーの緊張力評価方法および緊張力評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
グラウンドアンカー(以下、「アンカー」ともいう)工法は、グラウンドアンカーを対象となる法面に複数埋設させて所定の緊張力を付与することにより、所定のプレストレスを定着地盤に伝達して、反力構造物と地盤とを一体化させて、法面や斜面における地盤の状態を保持、管理する工法であり、道路法面や津波防波堤壁、掘削工事における土留め工、港湾施設などで広く用いられている。
【0003】
このとき、アンカーの施工状況が適切に維持、管理されている必要があり、例えば、高速道路におけるアンカーの維持管理については、アンカー頭部や支圧された構造物の劣化状況の把握、周辺地盤の動きの観察とあわせて、残存引張り力、いわゆる緊張力の測定が実施されている。
【0004】
緊張力を評価する手法としては、センターホール型ジャッキ、あるいは小型・軽量ジャッキを用いたリフトオフ試験がある。しかしながら、このようなジャッキを用いたリフトオフ試験は、緊張力を測定することはできるものの、これらの機器、とりわけ、センターホール型ジャッキの設置や落下防止対策等を考慮すると、多くの時間や作業員が必要となる。また、地質や材料(アンカー)が経年劣化している場合、最悪、アンカーの引き抜きや、アンカーの自由長部の破断等に繋がる恐れがある。
【0005】
その上、個々のアンカーの健全度を評価することも重要であるが、多数のアンカーが施工された斜面全体を評価する必要もある。しかし、多数のアンカーを対象として迅速に測定することが難しい。そして、小型・軽量ジャッキについては、センターホール型ジャッキほどではないにしても、設置に時間を要する。
【0006】
そこで、アンカーの固有振動周波数を基に緊張力を非破壊で評価する健全性の評価技術が種々提案されている。例えば、特許文献1には、アンカーの軸垂直方向の固有振動周波数により緊張力を診断する技術として、測定対象と健全なアンカー、それぞれの固有振動周波数を高次の振動モードに亘って比較することで損傷位置を診断する評価技術が提案されている。
【0007】
そして、特許文献2には、振動周波数として、パワースペクトル量が最大の卓越成分の周波数を用い、予めアンカーの頭部長さと振動周波数と導入荷重(緊張力)との関係を求めておき、対象となるアンカーの頭部長さと振動周波数から導入荷重を推定する技術が提案されている。
【0008】
また、本発明者等は、回帰分析などの多変量解析を用いて緊張力と頭部長さ、振動周波数、自由長その他の複数の評価パラメータとの関係を示す健全度評価数式モデルを構築し、この健全度評価数式モデルに基づいて緊張力を求めることで、アンカーの設置現場において精度良く緊張力を評価する評価技術を開発している(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2001-074706号公報
【文献】特開2003-121278号公報
【文献】特開2017-194275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1、2に記載されている評価技術は、精度が高いとは言えなかった。例えば、特許文献1に記載の評価技術は、支圧板やアンカーの頭部長さ等のアンカーの設置状況を考慮していないため、測定対象の設置状況に応じて評価値がばらつくことが想定される。また、固有振動周波数のみに着目した評価であるため、形状、材質、設置状況の違いによっては、誤った評価をする恐れがある。
【0011】
そして、特許文献2に記載の評価技術においては、用いているパワースペクトル量が最大となる周波数成分が、計測条件、検査対象の形状および拘束条件によって大きく左右されるため、判断の基準としては適していない。また、現場と実験装置とでは、反力壁や定着部が違っているため、導出された関係式では評価できない場合がある。
【0012】
また、特許文献3に記載されている評価技術では、高い精度を達成しようとすると、健全度評価数式モデルを構築する段階で多くの測定データを取得する必要がある。
【0013】
そこで、本発明は、グラウンドアンカーの緊張力を、非破壊且つ高い精度で、より効率良く短時間に評価することができるグラウンドアンカーの緊張力評価技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、緊張力が付与されたアンカーの頭部において緊張材が支持されている様子が、片持ち梁と共通している点に着目した。また、特許文献3において、健全度評価数式モデルを用いた評価技術を開発する過程で得られた横方向の曲げ振動が緊張力と相関があり、横方向の曲げ振動を示す振動のピーク周波数が緊張力を評価するパラメータとして好ましく使用できるという知見に着目した。そして、片持ち梁における軸力と曲げ振動の固有振動周波数の関係を示す理論式が、アンカーの緊張力とアンカー頭部の曲げ振動の固有振動周波数の関係に適用できると考えた。
【0015】
しかしながら、アンカー頭部は、片持ち梁とはその固定状態が同じとは言えず、前記した軸力と曲げ振動の固有振動周波数の関係を示す理論式が、そのままでは適用できないことが分かった。そこで、本発明者は、実験と理論の両面からさらに検討を行い、前記理論式に基づいて、アンカーに付与されている緊張力と曲げ振動の固有振動周波数との関係式を導出し、この関係式を評価対象のアンカーに適用した場合、上記課題が解決できることを見出した。
【0016】
請求項1および請求項に記載の発明は、上記の知見に基づくものであり、請求項1に記載の発明は、
グラウンドアンカーに対して外部から打撃することにより取得された振動特性に基づいて前記グラウンドアンカーの緊張力を評価するグラウンドアンカーの緊張力評価方法であって、
頭部長さおよび頭部外径により定められる頭部形状が異なる複数のグラウンドアンカーに対して、一定の緊張力の下で打撃することにより取得された振動波形から曲げ振動の固有振動周波数を基準周波数として得、前記基準周波数と前記頭部形状との関係式を第一式として導出する第一式導出工程と、
頭部形状が既知の複数のグラウンドアンカーに対して、異なる緊張力の下で打撃することにより取得されたそれぞれの振動波形から、曲げ振動の固有振動周波数を得、前記緊張力と、前記第一式における基準周波数に対する前記曲げ振動の固有振動周波数の比との関係式を第二式として導出する第二式導出工程と、
評価対象のグラウンドアンカーの頭部形状を測定して、前記第一式に基づき評価対象のグラウンドアンカーの基準周波数を算出する基準周波数算出工程と、
前記グラウンドアンカーの頭部を打撃することにより、評価対象のグラウンドアンカーの曲げ振動の固有振動周波数を取得する評価固有振動周波数取得工程と、
算出された前記評価対象のグラウンドアンカーの基準周波数と、取得された前記評価対象のグラウンドアンカーの曲げ振動の固有振動周波数とを、前記第二式に代入して、評価対象のグラウンドアンカーの緊張力を算出する緊張力算出工程とを備え、
前記第一式導出工程が、下記に示す第一式において、基準周波数f (L,D)に対して、頭部長さLおよび頭部外径Dを独立変数として多変量解析することにより、回帰係数αおよびβを決定する工程であることを特徴とするグラウンドアンカーの緊張力評価方法である。
【0018】
【数1】
【0019】
また、請求項に記載の発明は、
前記第二式導出工程が、下記に示す第二式において、緊張力Tに対して、(f’/f(L,D))を独立変数として単回帰分析することにより、回帰係数γおよびδを決定する工程であることを特徴とする請求項に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価方法である。
【0020】
【数2】
【0021】
緊張力の評価には、1次の曲げ振動モードおよび2次以上の高次の曲げ振動モードにおける固有振動周波数のいずれもが適用できるが、2次以上の振動モードの固有振動周波数の方が1次の振動モードより緊張力に対する感度が高く、緊張力をより高い分解能の下で評価することができる。一方、実用上は、2次の振動モードの固有振動周波数を用いても十分に評価できるため、効率上は2次の振動モードが好ましい。
【0022】
即ち、請求項に記載の発明は、
前記曲げ振動の固有振動周波数として、1次の曲げ振動モードの固有振動周波数を用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価方法である。
【0023】
そして、請求項に記載の発明は、
前記曲げ振動の固有振動周波数として、2次以上の曲げ振動モードの固有振動周波数を用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価方法である。
【0024】
また、請求項に記載の発明は、
前記曲げ振動の固有振動周波数として、2次の曲げ振動モードの固有振動周波数を用いることを特徴とする請求項に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価方法である。
【0025】
次に、振動波形の測定点をアンカーの頭部の緊張材固定具寄りの側面に設置した場合、2次を含む高次の曲げ振動モードの振動をより高い感度で測定することができる。
【0026】
即ち、請求項に記載の発明は、
前記曲げ振動の固有振動周波数として、2次以上の曲げ振動モードの固有振動周波数を用い、
前記曲げ振動の固有振動周波数の取得に際して、グラウンドアンカーの振動波形の測定点を、グラウンドアンカーの頭部の緊張材固定具寄りの側面に設置することを特徴とする請求項または請求項に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価方法である。
【0027】
そして、上記の振動波形の測定に際しては、グラウンドアンカーの頭部をハンマにて打撃し、それにより発生した振動波形を振動検出センサにて取得する。ハンマとしては、プラスチックハンマ、ゴムハンマ、木ハンマ、テストハンマ、鉄ハンマなど、特に限定されないが重さも軽く、持ち運びに便利なテストハンマが好ましい。また、振動検出センサとしては、振動を取得可能な加速度計や、マイクロフォンなどを用いてもよいが、計測対象に直接接触させて計測することができ、高感度で振動信号を取得することができるアコースティックエミッションセンサ(AEセンサ)を用いることが好ましい。
【0028】
即ち、請求項に記載の発明は、
振動波形の取得に際して、ハンマの打撃により振動波形を発生させ、振動検出センサにて取得することを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価方法である。
【0029】
そして、請求項に記載の発明は、
前記振動検出センサとして、AEセンサを用いることを特徴とする請求項に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価方法である。
【0030】
また、振動波形から周波数分布を得て曲げ振動の固有振動周波数を取得する方法としては、振動波形を数値解析することが好ましく、さらに、この数値解析において高速フーリエ変換処理を施すことがより好ましい。
【0031】
即ち、請求項に記載の発明は、
振動波形を数値解析することにより振動波形から周波数分布を得、
得られた周波数分布から、曲げ振動の固有振動周波数を取得することを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価方法である。
【0032】
また、請求項10に記載の発明は、
前記数値解析において、高速フーリエ変換処理を施すことを特徴とする請求項に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価方法である。
【0033】
そして、上記した各請求項におけるグラウンドアンカーの緊張力評価方法は、システムの点からも捉えることができる。即ち、請求項11に記載の発明は、
請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価方法に用いられるグラウンドアンカーの緊張力評価システムであって、
グラウンドアンカーに対して打撃することにより振動波形を取得する振動波形取得手段と、
前記グラウンドアンカーの頭部長さおよび頭部外径により定められる頭部形状を測定する頭部形状測定手段と、
取得された振動波形に対して周波数分布解析を行って、前記グラウンドアンカーの曲げ振動の固有振動周波数を取得する固有振動周波数取得手段と、
前記頭部形状が異なる複数のグラウンドアンカーに対して、一定の緊張力の下で打撃することにより取得された振動波形から曲げ振動の固有振動周波数を基準周波数として得、前記基準周波数と前記頭部形状との関係式を第一式として導出する第一式導出手段と、
頭部形状が既知の複数のグラウンドアンカーに対して、異なる緊張力の下で打撃することにより取得されたそれぞれの振動波形から、曲げ振動の固有振動周波数を得、前記緊張力と、前記第一式における基準周波数に対する前記曲げ振動の固有振動周波数の比との関係式を第二式として導出する第二式導出手段と、
評価対象のグラウンドアンカーの頭部形状を測定して、前記第一式に基づき評価対象のグラウンドアンカーの基準周波数を算出する基準周波数算出手段と、
前記グラウンドアンカーの頭部を打撃することにより、評価対象のグラウンドアンカーの曲げ振動の固有振動周波数を取得する評価固有振動周波数取得手段と、
算出された前記評価対象のグラウンドアンカーの基準周波数と、取得された前記評価対象のグラウンドアンカーの曲げ振動の固有振動周波数とを、前記第二式に代入して、評価対象のグラウンドアンカーの緊張力を算出する緊張力算出手段とを備えていることを特徴とするグラウンドアンカーの緊張力評価システムである。
【0034】
また、請求項12に記載の発明は、
前記振動波形取得手段において、前記グラウンドアンカーに対する打撃手段として、ハンマを備えていることを特徴とする請求項11に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価システムである。
【0035】
また、請求項13に記載の発明は、
前記振動波形取得手段において、前記振動波形を取得する手段として、振動検出センサを備えていることを特徴とする請求項11または請求項12に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価システムである。
【0036】
また、請求項14に記載の発明は、
前記振動検出センサが、AEセンサであることを特徴とする請求項13に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価システムである。
【0037】
また、請求項15に記載の発明は、
前記固有振動周波数取得手段が、前記振動波形を数値解析して周波数分布を得る数値解析手段を備えていることを特徴とする請求項11ないし請求項14のいずれか1項に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価システムである。
【0038】
また、請求項16に記載の発明は、
前記数値解析手段が、高速フーリエ変換処理手段を備えていることを特徴とする請求項15に記載のグラウンドアンカーの緊張力評価システムである。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、グラウンドアンカーの緊張力を、非破壊且つ高い精度で、より効率良く短時間に評価することができるグラウンドアンカーの緊張力評価技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】グラウンドアンカーの構造を模式的に示す断面図である。
図2】モックアップ試験に用いられる供試体の一例を模式的に示す側面図である。
図3】本発明の一実施の形態において、振動波形の測定方法を説明する図である。
図4】本発明の一実施の形態において、得られた振動波形の一例を示す図である。
図5】本発明の一実施の形態において、得られた周波数分布の一例を示す図である。
図6】緊張力を変化させて取得された周波数分布の一例を示す図である。
図7】固有振動周波数を評価値とし、評価値と緊張度の関係の一例を示す図である。
図8】固有振動周波数を評価値とし、評価値と緊張度の関係の他の一例を示す図である。
図9】固有振動周波数を評価値とし、評価値と緊張度の関係のさらに他の一例を示す図である。
図10】FEM解析および室内試験で得られた周波数分布の一例を示す図である。
図11】緊張力を変化させたときの固有振動周波数の変化の一例を示す図である。
図12】緊張力を変化させたときの固有振動周波数の変化の他の一例を示す図である。
図13】固有振動周波数と緊張力の関係の一例を示す図である。
図14】固有振動周波数とD/Lの関係の一例を示す図である。
図15】固有振動周波数とD/Lの関係の一例を示す図である。
図16】緊張力と(f/fの関係の一例を示す図である。
図17】緊張力の推定(算出)値と実測値との関係の一例を示す図である。
図18】振動波形の測定方法の検討方法を説明する図である。
図19】振動波形の測定点の位置と各測定点で取得された曲げ振動の周波数分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明を実施の形態に基づき、図面を参照して説明する。
【0042】
[1]アンカーの緊張力評価方法
本実施の形態のアンカーの緊張力評価方法は、片持ち梁における軸力と曲げ振動の固有振動周波数との関係を示す理論式に基づき導出されたアンカーに付与されている緊張力と曲げ振動の固有振動周波数との関係式を評価対象のアンカーに適用することにより、アンカーの緊張力を算出して評価する。以下、具体的に説明する。
【0043】
1.緊張力と固有振動周波数の関係式の導出
(1)アンカーの構成
はじめに、アンカーの一般的な構成について説明する。図1は、グラウンドアンカーの構造を模式的に示す断面図である。アンカー1は、アンカー頭部11、緊張材(テンドン)14、および定着部16を備えている。緊張材14は円柱状に形成されて、一端がアンカー頭部11に連結され、他端がボーリング孔20に形成された定着部16に固定されている。なお、緊張材14において、14aは自由長部であり、11aは余長部である。そして、緊張材14には、軸方向の引張り力(緊張力)が加わっている。
【0044】
アンカー頭部11は、余長部11a以外に緊張材固定具11b、支圧板(ベースプレート)11c、および受圧板11dを備えている。余長部11aは、緊張力により緊張材固定具11bを介して支圧板11cに定着されており、余長部11aの先端から支圧板11cの上面までで頭部長さを形成している。なお、アンカーの上部における定着にはナット定着型、くさびまたはくさび・ナット併用型などの方式が通常使用されており、例えば、ナット定着型の場合には、アンカー頭部11にはボルトが使用されて、緊張材固定具11bであるナットとの螺着により緊張材14が固定されている。
【0045】
(2)緊張力評価式の導出
片持ち梁の場合、固有振動周波数fは、下記の式(1)を理論式として用いることにより求めることができる。また、軸力が作用する両端単純支持梁の場合、固有振動周波数f’は、下記の式(2)を理論式として用いることにより求めることができる。そして、これらの理論式を参照することで、緊張力評価式を導出することができる。
【0046】
【数3】
【0047】
【数4】
【0048】
式(1)より、Lが大きくなるに従って、fが小さくなって低周波側にシフトしていくことが分かる。
【0049】
そして、式(2)を、(f’/f)=1+(T/nPc)と変形させることにより、nおよびPcが決まっていると、(f’/f)と軸力Tとは直線的な関係となって、f’を測定することができれば、(f’/f)の値に基づいて軸力Tを算出できることが分かる。そして、nが固定されている場合には、Tが大きくなるに従って、f’が大きくなって高周波側にシフトしていき、Tが固定されている場合には、nが大きくなるに従って、f’/f、即ち、シフト幅が大きくなっていくことが分かる。
【0050】
(3)アンカーにおける関係式の導出
本発明者は、上記した片持ち梁、および両端単純支持梁における関係式を参考にして、緊張力が付与されたアンカー頭部における曲げ振動の固有振動周波数は、アンカー頭部の形状と関係しており、また、一定の緊張力における基本周波数と任意の固有振動周波数との比(周波数比)が緊張力と関係していると推測して、以下のように、「アンカー頭部の形状と曲げ振動の固有振動周波数との関係」、「緊張力と固有振動周波数との関係」の順に実験と検討を行い、この推測が正しいことを確認した。
【0051】
(a)アンカー頭部の形状と曲げ振動の固有振動周波数との関係
前記したように、アンカー頭部の固定状態は片持ち梁とは異なっているため、上記した片持ち梁における関係式を、そのままアンカーにおける関係式として適用することができない。
【0052】
具体的には、アンカーの場合、通常の片持ち梁と異なり、アンカー頭部11は緊張力によって定着されており、緊張力が加わらない状態での固有振動周波数fは存在しない。また、余長部11aの一方の端部を単に片持ちしても、アンカーにおける余長部11aの定着条件を再現することはできない。このため、例えば、ナット・プレートの境界条件、縦弾性係数(ヤング率)等が異なり、fを求めることができない。
【0053】
そこで、本発明者は、片持ち梁における理論式(1)を参考にして、軸力が加わっていないときの固有振動周波数fに替えて、一定の緊張力の下での固有振動周波数(基準周波数)fを、頭部形状(頭部長さLおよび頭部外径D)との関係式で表すことを検討し、下記の第一式に思い至った。
【0054】
【数5】
【0055】
第一式より、基準周波数f(L,D)は、頭部長さL、頭部外径Dにより決定されることが分かるが、そのためには、定数であるα、βを予め定めておく必要がある。そこで、本実施の形態においては、まず、頭部長さLおよび頭部外径Dが異なる複数のグラウンドアンカーの各々を、一定の緊張力で固定した状態の下で打撃して、それぞれの振動波形を取得する。次いで、取得された振動波形を周波数分布解析して、それぞれ、固有振動周波数f(L,D)を求める。そして、得られたf(L,D)と(D/L)との関係について、回帰分析を行い、定数α、βを回帰係数として求める。
【0056】
(b)緊張力と固有振動周波数との関係
次に、両端単純支持梁における理論式(2)に基づいて、第一式と、緊張力が異なるアンカーの振動測定結果とから、下記の第二式を緊張力評価式として作成できることに思い至った。
【0057】
【数6】
【0058】
第二式より、緊張力Tは、基準周波数f(L,D)および実測された固有振動周波数f’により決定されることが分かるが、そのためには、定数であるγ、δを予め定めておく必要がある。そこで、本実施の形態においては、第一式からf(L,D)が求められたアンカーに対して、異なる緊張力Tを与えて打撃して振動波形を取得した後、周波数分布解析をして、それぞれにおける固有振動数f’を求める。そして、緊張力Tと、(f’/fとの関係について、回帰分析を行い、定数γ、δを回帰係数として求める。
【0059】
(c)緊張力の評価
このように、本実施の形態においては、第一式導出工程と第二式導出工程の2段階に分けて、少ないデータであっても、適切に、高い精度で、α、β、γ、δの決定を行っている。このため、アンカーの種類に応じて、緊張力と固有振動数とを精度高く関係付けて、測定対象における固有振動数を求めることができ、実験の結果においても、アンカーにおける緊張力を高い精度で短時間に評価することができた。
【0060】
なお、具体的なデータの取得には、既設のアンカーを対象として測定した頭部長さ、頭部外径および振動波形が用いられる。また、モックアップ試験による測定データを用いることもできる。モックアップ試験に用いられる供試体の一例を、図2に模式的側面図として示す。なお、図2では、寸切ボルトを用いた供試体であり、図2において、21は寸切りボルト、22はナット、23はコンクリートブロック、24は貫通穴である。そして、振動波形の測定に際しては、寸切りボルト21の頭部の側面に振動検出センサをセットし、頭部の側面をハンマで打撃することにより頭部に横方向の曲げ振動を発生させる。
【0061】
なお、上記第一式におけるアンカーの頭部長さLは、図2図3に示す余長部11aの先端から螺着されたナットの下端までの長さLである。また、頭部外径Dは、図3に示すボルトの差し渡し径Dである。なお、図3は本実施の形態において、振動波形の測定方法を説明する図である。
【0062】
2.本実施の形態における評価対象の緊張力の具体的な算出
本実施の形態において、評価対象の緊張力Tは、具体的には、以下の手順に従って算出する。まず、評価対象のアンカーの頭部の材質、定着方式を確認する。次に、評価対象のアンカーの頭部長さLおよび頭部外径Dを測定する。また、曲げ振動の振動波形を測定し、測定された振動波形を周波数分析して固有振動周波数f’を取得する。次に、測定された頭部長さLおよび頭部外径Dを該当する第一式に適用して、評価対象のアンカーの基準周波数fを算出し、取得された固有振動周波数f’および基準周波数fを第二式に適用して、評価対象のアンカーの緊張力Tを算出する。
【0063】
これにより、本実施の形態においては、緊張力を高い精度で、容易に算出することができる。
【0064】
[2]緊張力評価システム
本実施の形態の緊張力評価システムは、以下の各手段を備えている。
・グラウンドアンカーに対して打撃することにより振動波形を取得する振動波形取得手段
・グラウンドアンカーの頭部長さおよび頭部外径により定められる頭部形状を測定する頭部形状測定手段
・取得された振動波形に対して周波数分布解析を行ってグラウンドアンカーの曲げ振動の固有振動周波数を取得する固有振動周波数取得手段
・頭部形状が異なる複数のグラウンドアンカーに対して、一定の緊張力の下で打撃することにより取得された振動波形から曲げ振動の固有振動周波数を基準周波数として得、基準周波数と頭部形状との関係式を第一式として導出する第一式導出手段
・頭部形状が既知の複数のグラウンドアンカーに対して、異なる緊張力の下で打撃することにより取得されたそれぞれの振動波形から、曲げ振動の固有振動周波数を得、緊張力と、第一式における基準周波数に対する曲げ振動の固有振動周波数の比との関係式を第二式として導出する第二式導出手段
・評価対象のグラウンドアンカーの頭部形状を測定して、第一式に基づき評価対象のグラウンドアンカーの基準周波数を算出する基準周波数算出手段
・グラウンドアンカーの頭部を打撃することにより、評価対象のグラウンドアンカーの曲げ振動の固有振動周波数を取得する評価固有振動周波数取得手段
・算出された評価対象のグラウンドアンカーの基準周波数と、取得された評価対象のグラウンドアンカーの曲げ振動の固有振動周波数とを、第二式に代入して、評価対象のグラウンドアンカーの緊張力を算出する緊張力算出手段
【0065】
上記した各手段は、一連のシステムとして処理されるように、例えば、パーソナルコンピュータ(PC)などに、プログラムとして内蔵されていることが好ましい。
【0066】
なお、具体的な頭部形状測定手段としては、例えば、メジャー、直尺、デプスゲージ、レーザ距離計などが用いられる。
【0067】
そして、振動波形取得手段には、ハンマの打撃により振動波形を発生させる加振手段および発生した振動波形を取得する振動検出センサを備えている。
【0068】
図3は、前記したように、本実施の形態において、振動波形の測定方法を示す模式図である。振動波形は、余長部11aの側面に、例えばAEセンサなどの振動検出センサを設置し、余長部11aの側面をハンマで打撃することにより測定される。測定された振動波形は、PCに記録される。図4に、得られた振動波形の一例を示す。
【0069】
PCには、数値解析ソフト、単回帰分析や重回帰分析などの多変量解析のソフト、および有限要素法(FEM)などの構造解析ソフトが、予め、インプットされている。PCは、数値解析ソフトを用いて、記録された振動波形に対して数値解析を施して周波数分析を行うことにより、固有振動周波数が含まれている周波数分布を取得する。取得された周波数分布は表示装置に表示される。図5に、得られた周波数分布の一例を示す。この周波数分布から曲げ振動の固有振動ピークが特定され、固有振動周波数が求められる。
【0070】
なお、数値解析には、高速フーリエ変換(FFT)、自己回帰型の最大エントロピー法(MEM)、自己回帰モデル(AR)、自己回帰-移動平均モデル(ARMA)等公知の解析方法を用いることができるが、この内でも、短時間での処理が可能なFFTが好ましい。
【0071】
また、PCは、回帰分析ソフトを用いて一定の緊張力の下で、頭部長さおよび頭部外径が異なる複数のグラウンドアンカーの曲げ振動の固有振動周波数(固有振動ピークの周波数)、頭部長さおよび頭部外径の測定結果に基づいて、第一式のαおよびβの値を特定する。
【0072】
また、第一式で頭部長さおよび頭部外径の関数として算出される固有振動周波数を基準周波数とし、頭部長さおよび頭部外径が既知のアンカーについて、緊張力を変化させたときに取得される曲げ振動の固有振動周波数に基づいて、単回帰分析を用いて第二式のγおよびδの値を特定する。
【0073】
また、評価対象のアンカーを対象として、測定された頭部長さ、頭部外径を第一式に適用して基準周波数fを算出し、測定された固有振動周波数f’と算出された基準周波数fを第二式に適用して緊張力Tを算出して、表示装置に表示する。
【0074】
また、PCは、必要に応じて適宜FEMソフトを用いて緊張力Tと固有振動周波数f’との関係を示す式を導出し、実測データを基に導出された第一式、第二式を用いて算出された緊張力Tを検証する。このとき、前記したように、緊張力と固有振動数とが精度高く関係付けられているため、緊張力を高い精度で短時間に評価して検証することができる。
【実施例
【0075】
以下、実施例に基づき、本発明をより具体的に説明する。
【0076】
1.実験1
実験1では、片持ち梁における理論式(1)および両端単純支持梁における理論式(2)におけるT、f’およびLにおける相互の関係が、アンカーにおいても適用可能であることを検証した。また、併せて、既往のFEMによる理論的解析による検証を行った。
【0077】
(1)実験(室内試験)による検証
アンカー供試体としては、頭部定着機構がナットによるネジ定着式であり、緊張材が多重PC鋼撚り線タイプで全長4700mmのアンカーを用いた。このとき、アンカーを緊張材の構成および頭部外径の大きさによって、No.1からNo.4の4タイプに分け、それぞれのタイプについて、頭部長さを100mm、200mm、300mm(No.1のみ280mm)の3水準とした。そして、引張り試験機で所定の荷重を緊張力として負荷し、それぞれにおける固有振動周波数f’を求めた。
【0078】
各タイプのアンカーの仕様および負荷した試験荷重(緊張力)の大きさを表1にまとめて示す。なお、この試験荷重(緊張力)は、それぞれが、各供試体の降伏点荷重をTYS、引張荷重をTUS、アンカーの許容緊張力をT(=0.6TUS)とした時、順に、0.2T/0.5T/0.8T/T/T~0.9TYSの中間/0.9TYSの6段階で示されている。
【0079】
【表1】
【0080】
供試体No.1、頭部長さ100mmの周波数分布を図6に示す。図6において、縦軸は振動信号の強度(Magnitude)であり、横軸は周波数である。また、四角で囲った数値は、それぞれ、固有振動周波数f’であり、実線が1次モード、破線が2次モードの固有振動周波数を示している。
【0081】
また、供試体No.1~No.4の頭部長さ100mm、200mm、300mm(No.1は280mm)の1次モードおよび2次モードの固有振動集発数f’と緊張度の関係を図7図9に示す。図7図9において縦軸は評価値(固有振動周波数)であり、横軸は緊張度を0.6Tusに対する割合(比)で示している。
【0082】
図7図9から、いずれの供試体においても、1次モードの固有振動周波数、2次モードの固有振動周波数のいずれも、緊張度(緊張力)が大きくなるに伴って高周波数側にシフトしており、固有振動周波数に基づいて緊張力が算出できることが分かる。
【0083】
また、1次モードの固有振動周波数より2次モードの固有振動周波数の方がシフトの幅が大きく表れており、2次モードの固有振動周波数の緊張力に対する感度が、1次モードに比べて高いことが分かり、2次モードの固有振動周波数を用いることにより、緊張力評価の分解能が向上し得る見通しが確認できた。
【0084】
また、固有振動周波数のシフトの幅は、緊張力が低い領域では大きいが、高い領域では若干緩和傾向を示した。この結果は、式(2)において固有振動周波数f’が緊張力Tの平方根に比例することと符合している。また、図7図9の比較から、式(2)が示唆しているように、頭部長さが大きくなるに伴って、固有振動周波数が低周波数側にシフトすることが確認された。
【0085】
(2)FEM解析による検証
検証は、供試体No.2を対象とし、再現性を向上させるため、PCケーブル、ナット、およびマンション(アンカープレート:支圧板および受圧板)をモデル化したアンカー頭部モデルを用いた。なお、頭部長さは300mmとし、アンカー下面およびPCケーブル下面を完全固定した。また、マンションとナットの接触による剛性低下を模擬するため、ナット中央部のヤング率を変化させた。
【0086】
具体的なFEM解析は、緊張力の影響を考慮した時系列応答解析によって行った。そして、解析結果から得られたアンカー頭部の横方向の振動を周波数解析することで周波数分布を得、このうち、1次周波数、2次周波数を指標として、実験結果と比較検証した。
【0087】
解析に用いた材料定数を表2に示す。また、解析条件を表3に示す。なお、共通の解析条件として、すべり接触の摩擦係数は0.1とし、緊張材-マンション間およびマンション-ナット間の接触条件は結合接触、打撃荷重は1000Nで継続時間2.0×10-4秒の三角パルスを入力した。
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
まず、CASE No.1~6までのFEM解析および室内試験で得られた周波数分布を図10に示す。図10に示すように、ナット中央部のヤング率が材料定数と同じ205GPaの場合、FEM解析の固有振動ピークは実験結果より高周波側の値となっている。これは、アンカープレート下部を完全固定としていること、マンション-ナット間およびナット-プレート間を結合接触としていることで、解析モデル全体の剛性が、室内試験より高くなっているためと考えられる。
【0091】
一方、ナット中央部のヤング率を低下させた場合、アンカー頭部の振動に寄与する剛性が低下するため、固有振動ピークが低周波側にシフトする。なお、実験結果と良い一致を示すナット中央部のヤング率は、4.1~8.2GPa(材料定数の0.02~0.04倍)であった。
【0092】
次に、CASE No.7~8の解析結果を図11に、CASE No.9~10の解析結果を図12に示す。なお、図11図12において、縦軸は振動信号のMagnitudeであり、横軸は周波数である。図11図12に示すように、いずれのCASEにおいても1次モード、2次モードの双方で、緊張力の増加に伴い固有振動周波数が高周波数側にシフトしており、特に2次モードの振動においてシフト幅が大きいことが分かる。
【0093】
また、上記したFEM解析結果の傾向を定量的に評価するために、図13に、室内試験結果とFEM解析結果をまとめて示す。図13において、縦軸は固有振動周波数であり、横軸は緊張力である。図13に示すように、室内試験結果とFEM解析結果とは近似しており、FEM解析によっても緊張力の増加に伴う、固有振動周波数の上昇が再現可能であることが確認できた。
【0094】
2.実験2
実験2では、実測データを基に回帰分析することにより、第一式と第二式の導出を行った。なお、実験は、高速道路の法面に施工されたアンカーを対象として、アンカー頭部の振動測定を実施した。なお、アンカーの種類は、上部固定形式がナット定着タイプで、緊張材がPC鋼より線タイプのものを対象とした。緊張材の構成は、1×φ21.8とした。ここで、新設アンカーについては、頭部の定着作業が完了した後に打音診断を実施した。一方、既設アンカーについては、打音検査後にリフト試験を行い、予め、緊張力を測定しておいた。
【0095】
(1)アンカーの諸元
実験対象のアンカーの諸元を表4に示す。
【0096】
【表4】
【0097】
(2)第一式の導出
第一式の導出に際しては、緊張力が319.6~339.6kNとほぼ一定の試験箇所2の新設のアンカーのデータを用いた。振動波形の測定にはAEセンサを用いた。また、式を導出するための固有振動周波数には、分解能に優れる2次モードの固有振動周波数を用いた。
【0098】
回帰分析の結果を図14に示す。図14において、縦軸は周波数、即ち2次モードの固有振動周波数であり、横軸はD/Lである。図14に示すように、相関係数Rは0.9701であり、緊張力がほぼ一定の場合、得られた固有振動周波数とD/Lとは良い相関性があることが分かる。また、図14に示した回帰式から、第一式の回帰係数は、α=3794.5、β=466.93と決定された。
【0099】
また、試験箇所1、3の実験結果も含め、全データを1つにまとめて記載した図を、図15に示す。図15より、緊張力が244kN、237~273kNと、試験箇所2より小さい試験箇所1、3の場合、固有振動周波数が試験箇所2のアンカーで求められた回帰式よりも低周波数側にシフトしていることが分かる。このことは、既往の室内試験で得られた緊張力の増加/低下に伴い、固有振動周波数が上昇/低下する傾向と符合している。
【0100】
(3)第二式の導出
次に、第二式を導出するため、縦軸を緊張力、横軸を(f’/fとする図を作成した。作成した図を図16に示す。
【0101】
図16に示すように、相関係数Rは0.4024であり、緊張力と(f’/fとは相関性があることが分かる。また、図16に示した単回帰式から、第二式の回帰係数は、γ=481.93、δ=-175.82と決定された。
【0102】
緊張力Tは、上記単回帰式で求められる。この単回帰式で求められる緊張力と実測された緊張力との関係を図17に示す。図17において、縦軸は推定緊張力、即ち単回帰式を用いて算出された緊張力であり、横軸は実緊張力である。右肩上がりの実線は、推定緊張力=実緊張力であることを示す線であり、実線と平行な上下の破線が、推定緊張力と実緊張力との差が10%であることを示す線である。図17から、44本中25本、即ち57%のアンカーが±10%の範囲で推定可能であり、±20%に全アンカーが収まることが分かる。
【0103】
3.実験3
前記のように、2次モードの振動の固有振動周波数の方が1次モードの固有振動周波数より緊張力の分解能が高いことが分かった。そこで、実験3では、他の振動信号、例えば1次モードの振動信号に邪魔されず、2次モードの振動信号を効率良く取得する測定方法について検討した。
【0104】
具体的には、図18に示す寸切ボルトを用いて実験を行った。図18において、21はM24寸切りボルトであり、22はナットであり、23はコンクリートブロックであり、24は貫通穴である。また、25は油圧ジャッキであり、SはAEセンサであり、Hはハンマである。
【0105】
図19に検討結果を示す。図19は、図18において、測定点(1)、即ち、寸切りボルトの先端部の側面で測定した振動波形、および測定点(2)、即ち、緊張材固定具であるナットよりの側面で測定した振動波形から得られた周波数分布を示す図である。図19から、測定点(1)では1次モードの振動成分を効果的に拾えることが分かる。一方、測定点(2)で測定、即ち、余長部11aの緊張材固定具よりの側面に振動検出センサをセットし、緊張材固定具よりの側面をハンマで打撃して加振した場合、1次モードの振動成分が小さく、2次以上の高次の振動モードの振動成分が捉え易いことが分かる。
【0106】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0107】
1 (グラウンド)アンカー
11 アンカー頭部
11a 余長部
11b 緊張材固定具(ナット)
11c 支圧板
11d 受圧板
14 緊張材
14a 自由長部
16 定着部
20 ボーリング孔
21 寸切りボルト
22 ナット
23 コンクリートブロック
24 貫通穴
25 油圧ジャッキ
S AEセンサ
H ハンマ
D 頭部外径
L 頭部長さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19