(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】形状測定装置、及び形状測定方法
(51)【国際特許分類】
G01B 5/20 20060101AFI20230303BHJP
【FI】
G01B5/20 C
(21)【出願番号】P 2019138910
(22)【出願日】2019-07-29
【審査請求日】2022-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 一成
(72)【発明者】
【氏名】竹村 文宏
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-228326(JP,A)
【文献】特開2015-102502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状が既知となる既知形状部を複数備え、前記既知形状部が、形状が未知となる未知形状部を介して周期的に配置される測定対象の形状を測定する形状測定装置であって、
前記測定対象に対して接触可能な接触子を有する倣いプローブと、
前記倣いプローブを移動させる移動機構と、
前記移動機構を制御して、前記測定対象に対して所定の押し込み量で前記倣いプローブを押し当てながら前記倣いプローブを前記測定対象に沿って移動させて前記測定対象の形状を測定する自律倣い測定を実施する自律倣い測定部と、
前記測定対象に対して倣い測定を行う際の前記倣いプローブの移動経路を演算する測定経路算出部と、
前記移動機構を制御して、前記移動経路に沿って前記倣いプローブを移動させて前記測定対象の形状を測定する設計値倣い測定を実施する設計値倣い測定部と、
を備え、
前記測定経路算出部は、前記自律倣い測定部によって測定された前記未知形状部の測定結果と、前記既知形状部の設計データとに基づいて、前記測定対象に対する前記移動経路を算出する
ことを特徴とする形状測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の形状測定装置において、
前記自律倣い測定部は、1つの前記未知形状部に対して前記自律倣い測定を実施し、
前記測定経路算出部は、1つの前記未知形状部に対する前記測定結果と、前記既知形状部の前記設計データと、に基づいて、前記移動経路を算出する
ことを特徴とする形状測定装置。
【請求項3】
形状が既知となる既知形状部を複数備え、前記既知形状部が、形状が未知となる未知形状部を介して周期的に配置される測定対象の形状を測定する形状測定装置であって、
前記測定対象に対して接触可能な接触子を有する倣いプローブと、
前記倣いプローブを移動させる移動機構と、
前記移動機構を制御して、前記測定対象に対して所定の押し込み量で前記倣いプローブを押し当てながら前記倣いプローブを前記測定対象に沿って移動させて前記測定対象の形状を測定する自律倣い測定を実施する自律倣い測定部と、
前記測定対象に対して倣い測定を行う際の前記倣いプローブの移動経路を算出する測定経路算出部と、
前記移動機構を制御して、前記移動経路に沿って前記倣いプローブを移動させて前記測定対象の形状を測定する設計値倣い測定を実施する設計値倣い測定部と、
を備え、
前記測定経路算出部は、前記自律倣い測定部によって測定された、前記既知形状部及び前記未知形状部の組み合わせに対する測定結果に基づいて、前記測定対象に対する前記移動経路を算出する
ことを特徴とする形状測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の形状測定装置において、
前記自律倣い測定部は、1組の前記未知形状部及び前記既知形状部の組み合わせに対して前記自律倣い測定を実施し、
前記測定経路算出部は、1組の前記未知形状部及び前記既知形状部の組み合わせに対する前記測定結果に基づいて、前記移動経路を算出する
ことを特徴とする形状測定装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の形状測定装置において、
前記設計値倣い測定部は、前記移動経路に沿った測定において、前記倣いプローブの押し込み量が所定の許容範囲外となった場合に、測定エラー信号を出力し、
前記自律倣い測定部は、前記測定エラー信号が出力された際に、前記自律倣い測定を再度実施する
ことを特徴とする形状測定装置。
【請求項6】
測定対象に対して接触可能な接触子を有する倣いプローブと、前記倣いプローブを移動させる移動機構とを有する形状測定装置を用い、形状が既知となる既知形状部を複数備え、前記既知形状部が、形状が未知となる未知形状部を介して周期的に配置される前記測定対象の形状を測定する形状測定装置であって、
前記移動機構を制御して、前記測定対象に対して所定の押し込み量で前記倣いプローブを押し当てながら前記倣いプローブを前記測定対象に沿って移動させて前記測定対象の形状を測定する自律倣い測定を実施する自律倣い測定ステップと、
前記測定対象に対して倣い測定を行う際の前記倣いプローブの移動経路を演算する経路演算ステップと、
前記移動機構を制御して、前記移動経路に沿って前記倣いプローブを移動させて前記測定対象の形状を測定する設計値倣い測定を実施する設計値倣い測定ステップと、を実施し、
前記経路演算ステップは、前記自律倣い測定ステップによって測定された前記未知形状部の測定結果と、前記既知形状部の設計データと、に基づいて、前記測定対象に対する前記移動経路を算出する
ことを特徴とする形状測定方法。
【請求項7】
測定対象に対して接触可能な接触子を有する倣いプローブと、前記倣いプローブを移動させる移動機構とを有する形状測定装置を用い、形状が既知となる既知形状部を複数備え、前記既知形状部が、形状が未知となる未知形状部を介して周期的に配置される前記測定対象の形状を測定する形状測定装置であって、
前記移動機構を制御して、前記測定対象に対して所定の押し込み量で前記倣いプローブを押し当てながら前記倣いプローブを前記測定対象に沿って移動させて前記測定対象の形状を測定する自律倣い測定を実施する自律倣い測定ステップと、
前記測定対象に対して倣い測定を行う際の前記倣いプローブの移動経路を演算する経路演算ステップと、
前記移動機構を制御して、前記移動経路に沿って前記倣いプローブを移動させて前記測定対象の形状を測定する設計値倣い測定を実施する設計値倣い測定ステップと、を実施し、
前記経路演算ステップは、前記自律倣い測定ステップによって測定された、前記既知形状部及び前記未知形状部の組み合わせに対する測定結果に基づいて、前記測定対象に対する前記移動経路を算出する
ことを特徴とする形状測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一形状の構造体が一定周期で配置される測定対象を測定する形状測定装置、及び形状測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯車のように、複数の同一形状の構造体(例えば歯車の歯)が一定の周期で配置された測定対象を測定する測定装置が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
この非特許文献1は、歯車の形状を測定する測定機に関する。一般に歯車は、歯切り工具を取り付けた工作機により作成される。歯切り工具の歯先形状は、それぞれ異なる形状であり、この歯切り工具の歯先形状や、歯車の加工方法によって、歯車の各歯の歯元形状も、歯車によってそれぞれ異なる形状となる。よって、通常、歯車の歯元形状に関する情報は、歯車の図面に記載されることがない。
そこで、非特許文献1に記載の測定機では、1軸プローブを使用して、形状が未知となる歯元部分に対して、2回のプロービング測定を実施する。そして、その測定結果から、歯車の概略形状を算出して、倣い測定用の測定経路を算出する。この後、測定機のプローブを倣いプローブに交換し、倣い測定によって歯車の形状を測定する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】大阪精密機械(株) 田口哲也、「最新の歯車測定機と測定技術」、機械技術2016年8月号、p.56-57
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1のような従来の測定機では、2回のプロービング測定を実施する必要があり、かつ、1軸プローブを倣いプローブに交換する必要もある。このため、測定に要する時間が長くなる、との課題がある。
また、形状が未知の測定対象に対して、プローブ接触子を一定の押し込み量で接触させながら倣い測定を行う、自律倣い測定を実施することも考えられる。この場合、プローブを交換する必要がない。しかしながら、自律倣い測定では、未知の形状の測定対象に対して、押し込み量を一定に維持して倣い測定を行う必要があるので、プローブが測定対象から離脱したり、押し込みすぎたりしないように、測定速度を小さくする必要がある。このため、自律倣い測定を行った場合でも、測定時間が長くなる、との課題がある。
【0005】
本発明は、上記のような課題に鑑みて、一部に未知の形状が含まれる測定対象に対して、迅速に形状測定を実施可能な形状測定装置、及び形状測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る第一態様の形状測定装置は、形状が既知となる既知形状部を複数備え、前記既知形状部が、形状が未知となる未知形状部を介して周期的に配置される測定対象の形状を測定する形状測定装置であって、前記測定対象に対して接触可能な接触子を有する倣いプローブと、前記倣いプローブを移動させる移動機構と、前記移動機構を制御して、前記測定対象に対して所定の押し込み量で前記倣いプローブを押し当てながら前記倣いプローブを前記測定対象に沿って移動させて前記測定対象の形状を測定する自律倣い測定を実施する自律倣い測定部と、前記測定対象に対して倣い測定を行う際の前記倣いプローブの移動経路を演算する測定経路算出部と、前記移動機構を制御して、前記移動経路に沿って前記倣いプローブを移動させて前記測定対象の形状を測定する設計値倣い測定を実施する設計値倣い測定部と、を備え、前記測定経路算出部は、前記自律倣い測定部によって測定された前記未知形状部の測定結果と、前記既知形状部の設計データとに基づいて、前記測定対象に対する前記移動経路を算出する。
【0007】
本態様の形状測定装置では、未知形状部に対して自律倣い測定部による自律倣い測定を実施する。そして、測定経路算出部は、自律倣い測定部により測定された未知形状部に対する測定結果と、既知形状部に対する設計データと、に基づいて、移動経路を算出する。このため、設計値倣い測定部は、未知形状部を含む測定対象に対しても、測定対象全体に対して設計値倣い測定を実施することができる。この際、従来のように未知形状部に対して1軸プローブを用いたプロービング測定を実施する必要がなく、プローブ交換に係る手間もないため、迅速な測定が可能となる。また、測定対象全体を自律倣い測定により測定する場合では、測定速度に限界がある。これに対して、本態様では、一部の未知形状部のみ自律倣い測定を実施すればよく、その他の部分は、設計値倣い測定による測定を実施する。したがって、測定対象全体に自律倣い測定を実施する場合に比べて、測定に係る時間を短縮することができる。
【0008】
本態様の形状測定装置では、前記自律倣い測定部は、1つの前記未知形状部に対して前記自律倣い測定を実施し、前記測定経路算出部は、1つの前記未知形状部に対する前記測定結果と、前記既知形状部の前記設計データと、に基づいて、前記移動経路を算出することが好ましい。
本態様では、複数の未知形状部のいずれか1つのみに対して自律倣い測定を実施すればよい。これにより、自律倣い測定に係る時間を短縮できるので、測定対象全体の形状測定に係る時間も短縮できる。
【0009】
本発明の第二態様に係る形状測定装置は、形状が既知となる既知形状部を複数備え、前記既知形状部が、形状が未知となる未知形状部を介して周期的に配置される測定対象の形状を測定する形状測定装置であって、前記測定対象に対して接触可能な接触子を有する倣いプローブと、前記倣いプローブを移動させる移動機構と、前記移動機構を制御して、前記測定対象に対して所定の押し込み量で前記倣いプローブを押し当てながら前記倣いプローブを前記測定対象に沿って移動させて前記測定対象の形状を測定する自律倣い測定を実施する自律倣い測定部と、前記測定対象に対して倣い測定を行う際の前記倣いプローブの移動経路を算出する測定経路算出部と、前記移動機構を制御して、前記移動経路に沿って前記倣いプローブを移動させて前記測定対象の形状を測定する設計値倣い測定を実施する設計値倣い測定部と、を備え、前記測定経路算出部は、前記自律倣い測定部によって測定された、前記既知形状部及び前記未知形状部の組み合わせに対する測定結果に基づいて、前記測定対象に対する前記移動経路を算出する。
【0010】
本態様の形状測定装置では、一部の未知形状部及び既知形状部に対して自律倣い測定部による自律倣い測定を実施する。そして、測定経路算出部は、自律倣い測定部により測定された未知形状部及び既知形状部に対する測定結果に基づいて、移動経路を算出する。このため、本態様においても、第一態様と同様に、設計値倣い測定部は、未知形状部を含む測定対象の全体に対して設計値倣い測定を実施することができる。このため、測定に係る時間を短縮することができる。さらに、本態様では、既知形状部に対する設計データがない場合でも、移動経路を算出することができる。
【0011】
本態様の形状測定装置では、前記自律倣い測定部は、1組の前記未知形状部及び前記既知形状部の組み合わせに対して前記自律倣い測定を実施し、前記測定経路算出部は、1組の前記未知形状部及び前記既知形状部の組み合わせに対する前記測定結果に基づいて、前記移動経路を算出することが好ましい。
本態様では、複数の未知形状部及び既知形状部の組み合わせのうちのいずれか1つのみに対して自律倣い測定を実施すればよい。これにより、自律倣い測定に係る時間を短縮できるので、測定対象全体の形状測定に係る時間も短縮できる。
【0012】
第一態様及び第二態様の形状測定装置において、前記設計値倣い測定部は、前記移動経路に沿った測定において、前記倣いプローブの押し込み量が所定の許容範囲外となった場合に、測定エラー信号を出力し、前記自律倣い測定部は、前記測定エラー信号が出力された際に、前記自律倣い測定を再度実施することが好ましい。
本態様では、設計値倣い測定の実施中に測定エラー信号が発生した場合に、測定エラー信号が出力され、これにより、自律倣い測定部による自律倣い測定が再度実施される。例えば、第一態様の形状測定装置では、設計値倣い測定において測定エラー信号が発生した場合、再度一部の未知形状部に対する自律倣い測定を実施する。また、第二態様の形状測定装置では、設計値倣い測定において測定エラー信号が発生した場合、再度一部の未知形状部及び既知形状部に対する自律倣い測定を実施する。これにより、測定経路算出部によって、移動経路が再度演算される。よって、設計値倣い測定部は、再演算された移動経路にしたがって、設計値倣い測定を実施すればよい。この場合、測定エラー信号によって測定が中断されることがなく、自律倣い測定と、設計値倣い測定とにより、測定精度を維持しつつ、迅速な測定を実施することができる。
【0013】
本発明に係る第三態様の形状測定方法は、測定対象に対して接触可能な接触子を有する倣いプローブと、前記倣いプローブを移動させる移動機構とを有する形状測定装置を用い、形状が既知となる既知形状部を複数備え、前記既知形状部が、形状が未知となる未知形状部を介して周期的に配置される前記測定対象の形状を測定する形状測定装置であって、前記移動機構を制御して、前記測定対象に対して所定の押し込み量で前記倣いプローブを押し当てながら前記倣いプローブを前記測定対象に沿って移動させて前記測定対象の形状を測定する自律倣い測定を実施する自律倣い測定ステップと、前記測定対象に対して倣い測定を行う際の前記倣いプローブの移動経路を演算する経路演算ステップと、前記移動機構を制御して、前記移動経路に沿って前記倣いプローブを移動させて前記測定対象の形状を測定する設計値倣い測定を実施する設計値倣い測定ステップと、を実施し、前記経路演算ステップは、前記自律倣い測定ステップによって測定された前記未知形状部の測定結果と、前記既知形状部の設計データと、に基づいて、前記測定対象に対する前記移動経路を算出する。
本態様では、第一態様と同様、一部の未知形状部のみ自律倣い測定を実施し、その測定結果に基づいて、設計値倣い測定を実施するための移動経路を算出する。よって、第一態様と同様に、測定対象全体に自律倣い測定を実施する場合に比べて、測定に係る時間を大幅に短縮することができる。
【0014】
本発明に係る第四態様の形状測定方法は、測定対象に対して接触可能な接触子を有する倣いプローブと、前記倣いプローブを移動させる移動機構とを有する形状測定装置を用い、形状が既知となる既知形状部を複数備え、前記既知形状部が、形状が未知となる未知形状部を介して周期的に配置される前記測定対象の形状を測定する形状測定装置であって、前記移動機構を制御して、前記測定対象に対して所定の押し込み量で前記倣いプローブを押し当てながら前記倣いプローブを前記測定対象に沿って移動させて前記測定対象の形状を測定する自律倣い測定を実施する自律倣い測定ステップと、前記測定対象に対して倣い測定を行う際の前記倣いプローブの移動経路を演算する経路演算ステップと、前記移動機構を制御して、前記移動経路に沿って前記倣いプローブを移動させて前記測定対象の形状を測定する設計値倣い測定を実施する設計値倣い測定ステップと、を実施し、前記経路演算ステップは、前記自律倣い測定ステップによって測定された、前記既知形状部及び前記未知形状部の組み合わせに対する測定結果に基づいて、前記測定対象に対する前記移動経路を算出する。
本態様では、第二態様と同様、一部の未知形状部及び既知形状部の組み合わせに対してのみ自律倣い測定を実施し、その測定結果に基づいて、設計値倣い測定を実施するための測定経路を演算する。よって、第二態様と同様に、測定対象全体に自律倣い測定を実施する場合に比べて、測定に係る時間を大幅に短縮することができる。また、設計データがなくても、未知形状部及び既知形状部を含む測定対象に対する正確な形状測定を実施することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、従来のように未知形状部に対して1軸プローブを用いたプロービング測定を実施する必要がなく、プローブ交換に係る手間もないため、迅速な測定が可能となる。また、測定対象全体を自律倣い測定により測定する場合では、測定速度に限界があるが、本発明では、一部の未知形状部のみ自律倣い測定を実施すればよく、その他の部分は、設計値倣い測定による測定を実施するので、測定対象全体に自律倣い測定を実施する場合に比べて、測定に係る時間を大幅に短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第一実施形態の形状測定装置の概略構成を示す斜視図。
【
図2】第一実施形態の形状測定装置の機能構成を示すブロック図。
【
図3】第一実施形態での測定対象の一例である歯車の概略を示す図。
【
図4】第一実施形態の形状測定方法を示すフローチャート。
【
図5】第二実施形態の形状測定方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第一実施形態]
以下、本発明に係る第一実施形態について説明する。
図1は、第一実施形態の形状測定装置100の概略構成を示す斜視図である。
図2は、本実施形態の形状測定装置100の機能構成を示すブロック図である。
形状測定装置100は、
図1に示すように、測定機本体1及び制御装置2を含んで構成される。測定機本体1及び制御装置2は、例えばケーブル3を介して接続されている。なお、測定機本体1及び制御装置2の間に、例えばモーションコントローラ等の別の装置を介してもよく、ケーブル3に替えて、無線通信等により通信可能に接続されていてもよい。
【0018】
[測定機本体1の構成]
測定機本体1は、例えば
図1に示すように、ステージ11と、倣いプローブ12と、倣いプローブ12を移動可能に保持する移動機構13と、を備えて構成されている。
具体的には、ステージ11は、除振台等を介して設置される定盤であり、測定対象Wが載置される水平面(XY平面)を有する。
このステージ11の一端部(例えば、
図1に示す例では+X側の端部)には、移動機構13を構成するY駆動機構131が設けられている。
【0019】
移動機構13は、例えば
図1に示すように、Y駆動機構131、第一ビーム支持体132A、第二ビーム支持体132B、ビーム133、Xスライダ134、及びZスライダ135を含んで構成されている。
Y駆動機構131は、第一ビーム支持体132Aを保持し、かつ、当該第一ビーム支持体132Aを、Y方向に沿って移動させる。Y駆動機構131には、図示略の駆動源、駆動源からの駆動力により駆動されて第一ビーム支持体132AをY方向に移動させる駆動伝達部、及び、Y方向への移動量を検出するYスケールが設けられている。
【0020】
第一ビーム支持体132Aは、Y駆動機構131に立設され、Y駆動機構131によりY方向に沿って移動可能となる。
第二ビーム支持体132Bは、第一ビーム支持体132Aに対して平行に設けられている。第二ビーム支持体132Bとステージ11との間には、エアベアリングが設けられており、第二ビーム支持体132Bは、摩擦抵抗の影響を受けることなく、ステージ11に対してY方向に移動可能となる。
ビーム133は、第一ビーム支持体132A及び第二ビーム支持体132Bの間に架橋される、X方向に平行な梁部材である。ビーム133には、Xスライダ134と、X駆動機構133Aとが設けられている。
X駆動機構133Aは、例えば、図示略の駆動源、駆動源からの駆動力により駆動されてXスライダ134をX方向に移動させる駆動伝達部、及び、X方向への移動量を検出するXスケールを備えている。
【0021】
Xスライダ134は、Zスライダ135をZ方向に移動可能に保持し、Zスライダ135をZ方向に沿って駆動させるZ駆動機構134Aを備える。Z駆動機構134Aは、例えば、図示略の駆動源、駆動源からの駆動力により駆動されてZスライダ―135をZ方向に移動させる駆動伝達部、及び、Z方向への移動量を検出するZスケールが設けられている。
Zスライダ135の先端部には、倣いプローブ12が固定される。
【0022】
倣いプローブ12は、Zスライダ135に装着される図示略のプローブ本体と、プローブ本体に対して着脱可能に取り付けられるスタイラス121とを備え、スタイラス121の先端には、例えば球状の先端球122(接触子)が設けられている。また、プローブ本体には、先端球122のX,Y,Z方向の押し込み量を検出する変位検出部が設けられている。
【0023】
このような測定機本体1では、ステージ11上に載せられた測定対象Wに対して、先端球122を接触させて、先端球122を基準位置(中立位置)から所定の押し込み量だけ押し込むと、変位検出部は、XYZ方向への押し込み量、つまり、先端球122のXYZ座標値(基準位置からの変位量)を検出し、制御装置2に出力する。
また、測定機本体1のY駆動機構131、X駆動機構133A、Z駆動機構134Aに設けられた各スケールは、移動機構13によるX,Y,Z方向の移動量を検出し、制御装置2に出力する。
【0024】
また、本実施形態の測定機本体1は、
図2に示すように、測定機制御部14を備える。測定機制御部14は、例えばマイコン等によって構成され、測定機本体1の動作を制御する。
具体的には、この測定機制御部14は、
図2に示すように、測定切替部141、設計値倣い測定部142、及び自律倣い測定部143として機能する。
測定切替部141は、制御装置2からの制御指令に基づいて、測定機本体1の動作を切り替える。具体的には、測定切替部141は、自律倣いフラグのオンオフを制御する。
【0025】
設計値倣い測定部142は、測定切替部141によって、自律倣いフラグがオフである場合に、測定対象Wに対する設計値倣い測定を実施する。この設計値倣い測定部142は、制御装置2から測定経路を受信し、受信した測定経路にしたがって、倣いプローブ12を移動させることで、測定対象Wに対する設計値倣い測定を実施する。
また、設計値倣い測定部142は、設計値倣い測定の実施中に、倣いプローブ12の先端球122の押し込み量が所定の許容範囲外となった場合に測定エラー信号を出力する。つまり、変位検出部によって、所定の上限値を超える押し込み量が検出された場合や、先端球122が測定対象Wから離脱して押し込み量が検出されなくなった場合に、測定エラー信号が出力される。
なお、測定エラー信号が出力されると、測定切替部141は、自律倣いフラグをオンに切り替える。
【0026】
自律倣い測定部143は、測定切替部141によって、自律倣いフラグがオンである場合に、測定対象Wに対する自律倣い測定を実施する。この自律倣い測定部143は、倣いプローブ12の押し込み量が所定の一定値となるように、先端球122を測定対象Wに押し当て、倣いプローブ12の押し込み量を一定値に維持したまま倣い測定を行う測定である。自律倣い測定では、設計データに基づいた測定経路は必要とされないが、押し込み量を一定値に維持するために、倣いプローブ12の移動速度が大きく制限される。
【0027】
[制御装置2の構成]
制御装置2は、例えば、パーソナルコンピュータ等のコンピュータによって構成されており、測定機本体1に対して測定指令を出力し、測定機本体1から入力される測定対象Wに対する測定結果を評価する。
具体的には、制御装置2は、メモリ等により構成された記憶部と、CPU(Central Processing Unit)等により構成された演算部とを備える。そして、演算部が、記憶部に記憶されているソフトウェアプログラムを読み込み実行することで、
図2に示すように、設計データ取得部21、測定方法取得部22、測定経路算出部23、測定結果演算部24、測定結果評価部25、測定結果表示部26等として機能する。
【0028】
設計データ取得部21は、ユーザにより入力された測定対象Wの設計データを取得する。設計データは、例えば、光学記録媒体等の記録媒体から取得されてもよく、インターネット等の通信回線を介して取得されてもよい。
測定方法取得部22は、ユーザにより設定された測定方法を取得する。本実施形態では、測定対象Wが歯車等の所定形状を有する対象物である場合に、自律倣い測定と、設計値倣い測定との双方を用いた組み合わせ測定を実施する。当該形状測定方法に関しての詳細は、後述する。一方、本実施形態では、ユーザによって測定方法を指定することもでき、この場合、測定方法取得部22が、ユーザの入力操作に基づいて測定方法を取得する。したがって、歯車に対して、設計値倣い測定のみによる形状測定や、自律倣い測定のみによる形状測定も可能となる。
【0029】
測定経路算出部23は、設計値倣い測定を実施する際の倣いプローブ12の移動経路(測定経路)を演算する。例えば、測定対象Wに対して、設計値倣い測定のみにより形状測定を実施する場合、測定経路算出部23は、設計データ取得部21から取得された測定対象Wの設計データに基づいて測定経路を算出する。また、測定対象Wが歯車等の所定形状を有する対象物であり、自律倣い測定及び設計値倣い測定の双方を用いた形状測定を行う場合、測定経路算出部23は、設計データに加え、自律倣い測定により得られた測定結果を用いて測定経路を演算する。
【0030】
測定結果演算部24は、測定機本体1から入力される測定データ、つまり、Yスケール、Xスケール、Zスケールにより計測される倣いプローブ12のXYZ方向への移動量、変位検出部により検出される先端球122のXYZ方向への押し込み量に基づいて、測定対象Wの形状を測定する。
【0031】
測定結果評価部25は、測定結果演算部24により測定された測定結果を評価する。具体的には、測定結果評価部25は、測定データが異常値を示していないか否かを判定する。
測定結果表示部26は、測定結果評価部25の評価結果に応じて、測定結果を出力する。例えば、制御装置2に接続されたディスプレイに測定結果を表示させたり、制御装置2に接続されたプリンターに測定結果を印刷させたりする。
【0032】
[形状測定方法]
次に、本実施形態の形状測定装置100による形状測定方法について説明する。
本実施形態の形状測定装置100では、多種多様な対象物を測定対象Wとして、その形状を測定することができるが、特に、歯車のように、形状が既知である既知形状部と、形状が未知である未知形状部とが含まれる測定対象Wに対して好適に形状測定を実施することができる。ここでは、上記のような既知形状部と未知形状部とを含む測定対象Wに対する形状測定方法、より具体的には、歯車に対する形状測定について説明する。
【0033】
ここで、測定対象Wの一例である歯車について説明する。
図3は、本実施形態での測定対象Wの一例である歯車40の概略を示す図である。
図3に示すように、歯車40は、複数の歯形部41と、複数の歯元部42とを含み、歯形部41が一定間隔で周期的に配置され、隣り合う歯形部41の間に1つの歯元部42が配置される形状となる。このような歯車40は、一般に、歯切り工具を用いて製造される。
ここで、歯形部41は、歯車40の噛合対象に対して噛み合わされる部分であり、歯切り工具によって高い精度で所定の設計データに基づいて成形される。すなわち、歯形部41は、形状が既知となる既知形状部となる。
一方、歯元部42は、一般に、歯車の加工方法や、歯切り工具の歯先形状によってその形状が微小に異なり、設計データに基づいた形状とはならない。すなわち、歯元部42は、形状が未知となる未知形状部となる。
【0034】
ところで、従来、三次元測定を用いた歯車40の形状測定では、歯元部42の形状は重要視されていなかった。しかしながら、近年、歯元部42の形状は、歯車40の強度を分析する上で重要なファクターであると判明し、歯形部41のみならず、歯元部42の形状を正確に形状測定することが重要視されている。
ところが、従来の三次元測定装置では、自律倣い測定と設計値倣い測定とのいずれか一方のみしか選択することができない。設計値倣い測定により歯車40を測定する場合、上記のように、歯元部42の形状が未知であるので、プローブ経路を正しく設定することができない。つまり、プローブ経路によって、歯車40に対して先端球122を押し込みすぎたり、先端球122が歯車40から離脱したりすることがあり、この場合、測定が中断されてしまう。また、自律倣い測定では、形状が未知となる部分に対しても精度の高い測定が可能であるが、押し込み量を一定範囲に維持したまま倣いプローブ12を移動させる必要があるので、倣いプローブ12の移動速度が遅くなり、測定に係る時間が長くなってしまう。
これに対して、本実施形態の形状測定装置100は、歯車40のような、既知形状部と未知形状部とが周期的に配置される測定対象Wに対して、一部の未知形状部に対する自律倣い測定と、既知形状部の設計データとに基づいて、設計値倣い測定で歯車40を測定する際の倣いプローブ12の移動経路を算出し、形状測定を実施する。以下、具体的に、その方法について説明する。
【0035】
図4は、本実施形態の形状測定方法を示すフローチャートである。
まず、制御装置2の設計データ取得部21は、測定対象Wの歯車40に対する設計データを取得する(ステップS1)。ステップS1では、例えば、ユーザが制御装置2を操作して設計データを入力することで、設計データ取得部21により設計データが取得される。
【0036】
次に、測定経路算出部23は、入力された設計データに基づいて、歯車40の設計値を算出する(ステップS2)。つまり、CADデータ等の設計データから、歯車の歯形部41の形状設計値を算出する。
【0037】
この後、測定方法取得部22は、測定対象Wに対する測定方法を取得する(ステップS3)。つまり、ユーザは、測定対象Wの全体が未知形状部である場合に実施する自律倣い測定、測定対象Wの全体が既知形状部である場合に実施する設計値倣い測定、及び、測定対象Wに既知形状部と未知形状部とが含まれる場合に実施する複合測定のいずれかを選択することができる。測定方法取得部22は、ユーザの入力操作に基づいて、測定方法を取得する。なお、ここでは、ステップS2の後にステップS3を実施したが、ステップS1やステップS2の前にステップS3が実施されてもよい。
この後、測定経路算出部23は、ステップS3において、取得した測定方法に応じて、測定機本体1に対して測定指令を出力する。
【0038】
ステップS3で、「自律倣い測定」が取得された場合、測定経路算出部23は、測定機本体1に対して自律倣い測定による測定対象Wの測定を指令する。この場合、測定機制御部14の測定切替部141は、自律倣いフラグをオンに設定する。これにより、測定機本体1において、自律倣い測定のみによる形状測定が実施される。
ステップS3で、「設計値倣い測定」が取得された場合、測定経路算出部23は、設計値に基づいた倣いプローブ12の移動経路を算出し、測定機本体1に測定指令と移動経路とを出力する。
なお、自律倣い測定のみの形状測定、及び設計値倣いのみの形状測定は、従来の形状測定方法と同様であり、ここでの説明は省略する。
【0039】
ステップS3で、「複合測定」が取得された場合、測定経路算出部23は、倣いプローブ12の移動経路を算出する(ステップS4:経路演算ステップ)。
初回のステップS4では、ステップS2により計算された設計値に基づいた倣いプローブ12の移動経路が算出される。つまり、歯形部41の設計値のみに基づいて、歯形部41に対する移動経路のみが算出されることになる。
【0040】
次に、測定経路算出部23は、移動経路が明確であるか否かを判定する(ステップS5)。つまり、測定経路算出部23は、形状が未知となる部分を挟んだ移動経路が生成されていないか否かを判定する。初回のステップS4では、歯形部41に対する移動経路しか演算されておらず、歯元部42に対する移動経路が設定されていないので、測定経路算出部23は、ステップS5でNoと判定する。
【0041】
ステップS5において、Noと判定される場合、測定経路算出部23は、自律倣い測定指令を測定機本体1に出力する。これにより、測定機制御部14の測定切替部141は、自律倣いフラグをオンとし、自律倣い測定部143による、1個分の歯元部42に対する形状測定が実施される(ステップS6:自律倣い測定ステップ)。この際、隣り合う歯形部41の端部は、ステップS2の設計値から判明している。よって、測定経路算出部23は、歯形部41の端部間に対して自律倣い測定を実施するように測定指令を出力すればよく、これにより、1個分の歯元部42に対する測定を実施することができる。
【0042】
ステップS6の後、ステップS4に戻る。
つまり、ステップS6によって、自律倣い測定の測定データが制御装置2に入力される。これにより、測定結果演算部24は、測定データに基づいて歯元部42に対する形状データを演算し、演算された形状データを測定経路算出部23に出力する。そして、2回目以降のステップS4では、測定経路算出部23は、ステップS2で得られた歯形部41の設計データと、ステップS6により得られた歯元部42に対する形状データとを合成して、歯形部41に対する移動経路と歯元部42に対する移動経路が連続となる倣いプローブ12の移動経路を算出する。
この際、測定経路算出部23は、設計データに基づいた各歯形部41の間を、ステップS6で得られる形状データで埋めて移動経路を算出する。よって、ステップS6では、全ての歯元部42に対して自律倣い測定を行う必要がなく、上述のように1つの歯元部42に対する測定のみを実施すればよい。
【0043】
なお、ステップS6の形状測定において、測定エラーの発生等によって歯元部42に対する形状測定精度が低下した場合、一対の歯形部41の設計データを形状データで連結できない。この場合、歯形部41に対する移動経路と歯元部42に対する移動経路とが不連続となるので、ステップS5で再びNoと判定され、歯元部42に対する再度の自律倣い測定が実施される。
また、本実施形態では、隣り合う歯形部41の設計データの間を、1つの歯元部42に対応する形状データで連結して移動経路を算出するが、必ずしも、全ての歯形部41の間に対して形状データを適合できるとは限らない。例えば、一部の組では、測定した歯元部42の設計データを当てはめても、設計データに基づく移動経路と、形状データに基づく移動経路とが不連続となる場合もある。この場合でも、ステップS5でNoと判定されるが、この際、ステップS6で当該一部の組に属する歯元部42を対象として、自律倣い測定が実施されてもよい。つまり、測定経路算出部23は、歯形部41に対する設計データと、初回の自律倣い測定によって得られた歯元部42の形状データとに基づいて移動経路を算出し、形状データが適合しない歯元部42に対してのみ、再度の自律倣い測定により得られた形状データを用いて移動経路を算出してもよい。
【0044】
そして、ステップS5でYesと判定されると、測定経路算出部23は、測定機本体1に対して算出された移動経路に基づいた設計値倣い測定を指令する測定指令を出力する(ステップS7)。
これにより、測定機本体1では、測定切替部141により自律倣いフラグがオフに切り替えられ、設計値倣い測定部142が、入力された移動経路に基づいて、倣いプローブ12を移動させて、設計値倣い測定を開始する(ステップS8)。
また、設計値倣い測定部142は、測定により得られる測定データを監視し、先端球122の押し込み量が、所定の許容範囲外となった場合には、測定エラー信号を出力する。測定切替部141は、設計値倣い測定部142から測定エラー信号が出力されたか否かを判定する(ステップS9)。
【0045】
そして、測定エラー信号が出力され、ステップS9でYesと判定された場合、測定切替部141は、自律倣い測定フラグをオンにし、測定エラー信号の発生部分に対し、自律倣い測定部143により自律倣い測定が実施される(ステップS10)。この場合、ステップS4に戻り、ステップS6の自律倣い測定時と同様、設計データと、自律倣い測定により得られた形状データに基づいて、移動経路が再度算出される。
【0046】
ステップS9において、Noと判定される場合は、測定機制御部14は、測定対象Wに対する測定が完了したか否かを判定する(ステップS11)。ステップS11でNoと判定される場合は、測定を継続し、ステップS9に戻る。
ステップS11でYesと判定される場合、測定結果演算部24は、測定機本体1から入力された測定データに基づいて測定対象Wの形状を測定し、測定結果評価部25による測定結果の評価処理、及び測定結果表示部26による測定結果の出力処理が実施され、測定対象Wに対する形状測定処理を終了させる。
なお、上記の形状測定方法は、歯車40を測定対象Wとした例であるが、例えば、歯形部と歯元部が直線上に配置されたラック等、複数の既知形状部と、複数の既知形状部間に配置される未知形状部とを備えた対象物に対しても同様の方法によって形状測定を実施することができる。
【0047】
[本実施形態の作用効果]
本実施形態の形状測定装置100は、複数の既知形状部(歯形部41)及び複数の未知形状部(歯元部42)を含み、既知形状部(歯形部41)が、未知形状部(歯元部42)を介して周期的に配置される測定対象Wの形状を測定するものである。この形状測定装置100の測定機本体1は、測定対象Wの表面に対して接触可能な先端球122を有する倣いプローブ12と、倣いプローブ12を移動させる移動機構13と、移動機構13を制御して測定対象Wに対する測定を実施する測定機制御部14と、を備える。また、測定機制御部14は、測定対象Wの形状を自律倣い測定により測定する自律倣い測定部143と、倣いプローブ12を設計データに基づいた移動経路に沿って移動させて測定対象Wの形状を設計値倣い測定により測定する設計値倣い測定部142とを備える。また、形状測定装置100の制御装置2は、測定対象Wに対して設計値倣い測定を行う際の倣いプローブ12の移動経路を演算する測定経路算出部23を備える。この測定経路算出部23は、自律倣い測定部143によって測定された未知形状部(歯元部42)の測定結果に基づく形状データと、既知形状部(歯形部41)の設計データとに基づいて、測定対象Wに対する倣いプローブ12の移動経路を算出する。
【0048】
このため、本実施形態では、測定対象Wに未知形状部(歯元部42)がある場合でも、移動経路を設定することができ、設計値倣い測定部142が、測定対象Wの全体に対して設計値倣い測定を実施することができる。
また、本実施形態では、従来のように、未知形状部(歯元部42)に対して1軸プローブを用いたプロービング測定を実施する必要がなく、プローブ交換に係る手間もかからない。また、1部の歯元部42に対して自律倣い測定を実施すればよいので、測定対象Wの全体を自律倣い測定により測定する場合に比べて、形状測定に係る時間を大幅に短縮できる。
【0049】
本実施形態では、自律倣い測定部143は、1つの未知形状部(歯元部42)に対して自律倣い測定を実施し、測定経路算出部23は、1つの未知形状部(歯元部42)の測定結果に基づいた形状データと、設計データとに基づいて、移動経路を算出する。
したがって、自律倣い測定部143によって、複数の未知形状部(歯元部42)のいずれか1つのみに対して自律倣い測定を実施すればよく、形状測定に係る時間をさらに短縮できる。
【0050】
また、本実施形態では、設計値倣い測定部142は、移動経路に沿って倣いプローブ12を移動させた際に、倣いプローブ12の押し込み量が所定の許容範囲外となった場合に、測定エラー信号を出力する。そして、自律倣い測定部143は、測定エラー信号が出力された際に、自律倣い測定を再度実施する。
これにより、測定エラー信号が出力された場合に、その測定エラー信号が出力された部位に対して、再度、未知形状部(歯元部42)に対する自律倣い測定が実施され、その結果に基づいて、測定経路算出部23によって、移動経路が再度算出される。このため、測定エラー信号によって測定対象Wに対する形状測定が中断されることがなく、自律倣い測定と、設計値倣い測定とにより、測定精度を維持しつつ、迅速な測定を実施することができる。
【0051】
[第二実施形態]
次に、第二実施形態について説明する。
上記第一実施形態では、自律倣い測定によって歯元部42に対する測定が実施されて、その形状データが算出され、測定経路算出部23は、歯元部42の形状データと、歯形部41の設計データとを用いて、倣いプローブ12の移動経路を算出した。
これに対して、第二実施形態では、測定経路算出部23が、歯形部41の設計データを用いず、自律倣い測定の測定結果に基づいた形状データのみを用いて測定対象Wの移動経路を設定する点で、上記第一実施形態と相違する。
なお、以降の説明にあたり、既に説明した事項については同符号を付し、その説明を省略または簡略化する。
【0052】
本実施形態の形状測定装置100は、
図1及び
図2に示す第一実施形態と同様の構成を有し、測定機本体1と、制御装置2とを備えて構成されている。
ここで、第一実施形態では、複合測定を実施する際に、測定経路算出部23は、歯形部41に関する設計データを必要とした。これに対して、本実施形態の測定経路算出部23は、測定対象Wに対する設計データを必要としない。具体的には、本実施形態では、自律倣い測定部143は、歯車40の1歯分の歯形部41と歯元部42とに対して自律倣い測定を実施する。これにより、測定結果演算部24は、この、1歯分の歯形部41から歯元部42に対する測定結果から、1歯分の形状データを生成する。そして、測定経路算出部23は、1歯分の形状データを組み合わせて歯車40の形状を算出し、倣いプローブ12の移動経路を算出する。
【0053】
図5は、本実施形態の形状測定装置100の形状測定方法を示すフローチャートである。
本実施形態の形状測定装置100では、第一実施形態と同様、ステップS3を実施することで、ユーザは測定対象Wに対する測定方法を、自律倣い測定と、設計値倣い測定と、複合測定とから選択することができる。なお、測定方法として、自律倣い測定や設計値倣い測定が選択された場合についての説明は省略する。
ステップS3によって測定方法として、複合測定が取得された場合、測定経路算出部23は、まず、測定機本体1に対して、自律倣い測定の測定指令を出力する。
これにより、測定機制御部14の測定切替部141は、自律倣いフラグをオンとし、自律倣い測定部143による、1歯分の歯形部41と歯元部42とに対する形状測定が実施される(ステップS12:自律倣い測定ステップ)。
【0054】
ステップS12によって、自律倣い測定の測定データが制御装置2に入力されると、測定結果演算部24は、測定データに基づいて歯形部41及び歯元部42に対する形状データを演算し、演算された形状データを測定経路算出部23に出力する。
これにより、測定経路算出部23は、1歯分の歯形部41及び歯元部42に対する形状データを複数合成することで、倣いプローブ12の移動経路を算出する(ステップS4A:経路演算ステップ)。
以降の処理に関しては、第一実施形態と同様である。
【0055】
[本実施形態の作用効果]
本実施形態の形状測定装置100では、第一実施形態と同様、測定機本体1と制御装置2とを備え、測定機本体1は、倣いプローブ12と、移動機構13と、設計値倣い測定部142及び自律倣い測定部143として機能する測定機制御部14とを備える。また、制御装置2は、測定経路算出部23を備える。そして、本実施形態では、測定経路算出部23は、自律倣い測定部143によって測定された未知形状部(歯元部42)と既知形状部(歯形部41)との測定結果に基づく形状データを用いて、測定対象Wに対する倣いプローブ12の移動経路を算出する。
このため、本実施形態では、測定対象Wに対する設計データが用意できない場合でも、測定対象Wの一部の既知形状部(歯形部41)及び未知形状部(歯元部42)に対する自律倣い測定を実施するだけで、設計値倣い測定を実施するための倣いプローブ12の移動経路を算出することができる。よって、測定対象Wの全体を自律倣い測定により測定する場合に比べて、測定に要する時間を短縮することができる。
【0056】
本実施形態では、自律倣い測定部143は、1組の既知形状部(歯形部41)及び未知形状部(歯元部42)の組み合わせに対して自律倣い測定を実施し、測定経路算出部23は、1組の既知形状部(歯形部41)及び未知形状部(歯元部42)の組み合わせの測定結果に基づいた形状データを用いて移動経路を算出する。
したがって、自律倣い測定部143によって、複数組の既知形状部(歯形部41)及び未知形状部(歯元部42)を測定する場合に比べて、測定時間の短縮を図ることができる。
【0057】
[変形例]
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0058】
上記第一実施形態では、ステップS8において、設計値倣い測定を開始した後、測定エラー信号が出力されると、ステップS10のように自律倣い測定に切り替え、測定経路算出部23は、ステップS10の自律倣い測定の測定結果に基づいて、ステップS4の移動経路の算出を再度行う例を示した。
これに対して、設計値倣い測定部142から測定エラー信号が出力された場合、以降の測定処理を、自律倣い測定に切り替えてもよい。この場合、測定エラー信号が出力される前までは、設計値倣い測定により得られた測定データを用い、測定エラー信号の出力後は、自律倣い測定により得られた測定データを用いて、測定対象Wの形状を測定する。
第二実施形態においても同様であり、測定エラー信号が出力されると、ステップS4Aに戻らず、自律倣い測定による形状測定を継続してもよい。
【0059】
第一実施形態では、ステップS6で、1つの歯元部42に対して自律倣い測定を実施し、ステップS4で、測定経路算出部23は、複数の歯形部41に対する設計データと、1つの歯元部42に対する自律倣い測定の測定結果に基づく形状データとを用いて、移動経路を算出した。これに対して、ステップS6において、歯車40に設けられる全ての歯元部42のうちの一部(複数個)に対して、自律倣い測定を実施してもよい。第二実施形態のステップS12も同様であり、全ての歯形部41及び歯元部42の組み合わせのうちの一部(複数組)に対して、自律倣い測定を実施してもよい。
【0060】
上記実施形態では、測定機本体1として、倣いプローブ12を、XYZ方向に移動可能に保持する移動機構13を備える構成としたが、移動機構13の構成としては、上記実施形態に限定されない。例えば、多関節アーム等によって倣いプローブ12が保持され、多関節アームの角度を自動制御することで、倣いプローブ12を移動させる構成としてもよい。また、倣いプローブ12の移動方向を、X方向、Y方向、及びZ方向としたが、例えば、X方向及びZ方向の2軸方向にのみ移動可能としてもよい。
【0061】
上記第一実施形態では、歯元部42が未知形状部であり、歯形部41が既知形状部である例を示したが、これに限定されない。例えば、歯形部41が未知形状部であり、歯元部42が既知形状部である場合では、歯形部41に対して実施した自律倣い測定の測定結果と、設計データに基づいた歯元部42の形状設計値とを用いて、倣いプローブ12の移動経路を算出してもよい。また、歯形部41の一部のみが未知形状部である場合や、歯元部42の一部のみが未知形状部である場合も同様であり、当該未知形状部に対する自律倣い測定の測定結果と、既知形状部の形状設計値とを用いて倣いプローブ12の移動経路を算出すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、複数の既知形状部と複数の未知形状部とを含み、既知形状部が周期的に一定間隔で配置され、隣り合う既知形状部の間に未知形状部が設けられる、歯車やラック等の測定対象を測定する形状測定装置に適用できる。
【符号の説明】
【0063】
1…測定機本体、2…制御装置、12…倣いプローブ、13…移動機構、14…測定機制御部、21…設計データ取得部、22…測定方法取得部、23…測定経路算出部、24…測定結果演算部、40…歯車、41…歯形部(既知形状部)、42…歯元部(未知形状部)、100…形状測定装置、122…先端球(接触子)、W…測定対象。