(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】給電装置、及び、給電方法
(51)【国際特許分類】
H01Q 3/24 20060101AFI20230303BHJP
H01Q 3/34 20060101ALI20230303BHJP
H01Q 21/06 20060101ALI20230303BHJP
H02J 50/20 20160101ALI20230303BHJP
H02J 50/40 20160101ALI20230303BHJP
H02J 50/80 20160101ALI20230303BHJP
【FI】
H01Q3/24
H01Q3/34
H01Q21/06
H02J50/20
H02J50/40
H02J50/80
(21)【出願番号】P 2019153727
(22)【出願日】2019-08-26
【審査請求日】2022-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 正明
【審査官】白井 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-148619(JP,A)
【文献】特表2019-510463(JP,A)
【文献】特開2018-098770(JP,A)
【文献】特表2019-506833(JP,A)
【文献】特表2015-521459(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108446503(CN,A)
【文献】小坂 亮太 Ryota KOSAKA,屋内環境における連携型APによる測位システムの構築および実験検証 Indoor Localization System based on Multiple AP and its Experimental Investigation,電子情報通信学会技術研究報告 Vol.115 No.473 IEICE Technical Report,日本,一般社団法人電子情報通信学会 The Institute of Electronics,Information and Communication Engineers,第115巻
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 3/24
H01Q 3/34
H01Q 21/06
H02J 50/20
H02J 50/40
H02J 50/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2次元アンテナグリッドの少なくとも1個のアンテナ素子から送電される電力を受電したデバイスの受電電力に基づいて、第1ベイズ最適化処理により前記受電電力が第1所定値以上になる場合の所定の組み合わせの複数のアンテナ素子を求める、アンテナ選択部と、
前記所定の組み合わせの複数のアンテナ素子からそれぞれ送電される電力を前記デバイスが受電する際の複素振幅が第2所定値以上になるように、第2ベイズ最適化処理により前記所定の組み合わせの複数のアンテナ素子がそれぞれ出力する電力の位相を制御する位相制御部と
を含む、給電装置。
【請求項2】
前記アンテナ選択部は、前記第1ベイズ最適化処理として、前記2次元アンテナグリッドのうちの1個のアンテナ素子から送電される電力、又は、前記2次元アンテナグリッドのうちの少なくとも2個のアンテナ素子から順次送電される電力を受電したデバイスの受電電力に基づいて、前記2次元アンテナグリッドが配列される2次元平面内において、前記受電電力が前記第1所定値以上になる場合の所定の組み合わせの複数のアンテナ素子を求める、請求項1記載の給電装置。
【請求項3】
前記位相制御部は、第2ベイズ最適化処理により前記所定の組み合わせの複数のアンテナ素子がそれぞれ出力する電力の位相を制御する際に、前記所定の組み合わせの複数のアンテナ素子のうちの第1アンテナ素子が前記電力を出力する第1位相を第1の所定位相と前記第1の所定位相に180度加算した位相とに設定するとともに、前記所定の組み合わせの複数のアンテナ素子のうちの第2アンテナ素子が前記電力を出力する第2位相を第2の所定位相と前記第2の所定位相に180度加算した位相とに設定した状態で、前記第1位相及び前記第2位相で規定される2次元探索領域において、前記デバイスが受電する際の複素振幅が第3所定値以上になる場合の前記第1位相及び前記第2位相を含むエリアを前記2次元探索領域のうちの1/4のエリアに絞る、請求項1記載の給電装置。
【請求項4】
前記位相制御部は、前記1/4のエリアにおいて、前記第1位相を第1ピッチで振るとともに、前記第2位相を第2ピッチで振りながら、前記デバイスが受電する際の複素振幅が前記第3所定値よりも大きい第4所定値以上になる場合の前記第1位相及び前記第2位相を含むエリアを前記1/4のエリアの内部でさらに絞る、請求項3記載の給電装置。
【請求項5】
前記位相制御部は、前記1/4のエリアの内部でさらに絞ったエリアの内部で、前記第1位相を第3ピッチで振るとともに、前記第2位相を第4ピッチで振りながら、前記デバイスが受電する際の複素振幅が前記第4所定値よりも大きい第5所定値以上になる場合の前記第1位相及び前記第2位相を含むエリアを前記1/4のエリアの内部でさらに絞ったエリアの内部でさらに絞る、請求項4記載の給電装置。
【請求項6】
前記第3ピッチは前記第1ピッチよりも小さく、前記第4ピッチは前記第2ピッチよりも小さい、請求項5記載の給電装置。
【請求項7】
前記1/4のエリアは、前記第1位相及び前記第2位相を2軸とする前記2次元探索領域を2軸に沿って4等分して得る4個のエリアのうちのいずれか1個のエリアである、請求項3乃至6のいずれか一項記載の給電装置。
【請求項8】
前記デバイスの受電電力は、前記デバイスが受電する電力のRSSI値、又は、前記デバイスが受電する電力による充電量によって表される、請求項1乃至7のいずれか一項記載の給電装置。
【請求項9】
2次元素子グリッドの複数の素子から送信される光信号を受信したデバイスの受信量に基づいて、第1ベイズ最適化処理により前記受信量が第1所定値以上になる場合の所定の組み合わせの複数の素子を求める、素子選択部と、
前記所定の組み合わせの複数の素子からそれぞれ送信される光信号を前記デバイスが受信する際の複素振幅が第2所定値以上になるように、第2ベイズ最適化処理により前記所定の組み合わせの複数の素子がそれぞれ出力する光信号の位相を制御する位相制御部と
を含む、給電装置。
【請求項10】
2次元アンテナグリッドの少なくとも1個のアンテナ素子から送電される電力を受電したデバイスの受電電力に基づいて、第1ベイズ最適化処理により前記受電電力が所定値以上になる場合の所定の組み合わせの複数のアンテナ素子を求めることと、
前記所定の組み合わせの複数のアンテナ素子からそれぞれ送電される電力を前記デバイスが受電する際の複素振幅が所定値以上になるように、第2ベイズ最適化処理により前記所定の組み合わせの複数のアンテナ素子がそれぞれ出力する電力の位相を制御することと
を含む、給電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給電装置、及び、給電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、第1送電器と第1送電アンテナとを有するマスター送電部と、第2送電器と複数の第2送電アンテナとを有する一つ以上のスレーブ送電部を用い、受電機器を検出したのち、スレーブ送電部からの送電停止状態で、第1送電アンテナの方向を検出し、マスター送電部からの送電停止状態で、受電機器が受電する電力量が最大となる第2送電アンテナを検出し、マスター送電部又はスレーブ送電部のどちらか片方の送電電波の位相を、受電機器が受電する電力量が最大となる位相に調整する無線給電方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の無線給電方法では、第2送電アンテナを検出するために、検出したすべての受電機器について送電を行い、受電機器が受電する電力量が最大となる位相に調整するために、受電電力が最大になる第2送電アンテナを検出する処理を検出したすべての受電機器について行っている。
【0005】
このため、所望のアンテナと位相を検出するために必要な演算量が非常に多いという課題がある。
【0006】
そこで、所望のアンテナと位相を検出するための試行回数、演算量、またはその両方を低減した給電装置、及び、給電方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施の形態の給電装置は、2次元アンテナグリッドの少なくとも1個のアンテナ素子から送電される電力を受電したデバイスの受電電力に基づいて、第1ベイズ最適化処理により前記受電電力が第1所定値以上になる場合の所定の組み合わせの複数のアンテナ素子を求める、アンテナ選択部と、前記所定の組み合わせの複数のアンテナ素子からそれぞれ送電される電力を前記デバイスが受電する際の複素振幅が第2所定値以上になるように、第2ベイズ最適化処理により前記所定の組み合わせの複数のアンテナ素子がそれぞれ出力する電力の位相を制御する位相制御部とを含む。
【発明の効果】
【0008】
所望のアンテナと位相を検出するための試行回数、演算量、またはその両方を低減した給電装置、及び、給電方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態の給電装置100を示す図である。
【
図3】アンテナサブセット選択処理を説明する図である。
【
図4】アンテナサブセット選択処理を説明する図である。
【
図5】アンテナサブセット選択処理を説明する図である。
【
図6】アンテナサブセット選択処理を説明する図である。
【
図7】アンテナサブセット選択処理を説明する図である。
【
図8】位相制御処理で利用する給電装置100及びデバイス50を示す図である。
【
図9】デバイス50のアンテナ51によって受電される受電電力の受電ベクトルPtを表す図である。
【
図10】位相制御処理で利用する給電装置100及びデバイス50を示す図である。
【
図11】位相制御部143の制御処理を説明する図である。
【
図12】位相制御部143の制御処理を説明する図である。
【
図13】位相制御部143の制御処理を説明する図である。
【
図14】位相制御部143の制御処理を説明する図である。
【
図15】デバイス50の受電電力の電界分布の目的関数が表す分布を示す図である。
【
図16】位相制御部143がベイズ最適化処理を用いた位相制御処理で求めたRSSI値の推定分布を示す図である。
【
図17】位相制御部143がベイズ最適化処理を用いた位相制御処理で求めたRSSI値の推定分布を示す図である。
【
図18】位相制御部143がベイズ最適化処理を用いた位相制御処理で求めたRSSI値の推定分布を示す図である。
【
図19】位相制御部143がベイズ最適化処理を用いた位相制御処理で求めたRSSI値の推定分布を示す図である。
【
図20】位相制御部143がベイズ最適化処理を用いた位相制御処理で求めたRSSI値の推定分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の給電装置、及び、給電方法を適用した実施の形態について説明する。
【0011】
<実施の形態>
図1は、実施の形態の給電装置100を示す図である。以下では、XYZ座標系を用いて説明する。平面視とはXY平面視のことである。
【0012】
給電装置100は、一例として、スマート工場、大規模プラント、物流センタ、倉庫等の大規模な施設に配置される。給電装置100は、アレイアンテナ110、フェーズシフタ120、マイクロ波発生源130、及び制御装置140を含み、デバイス50に非接触で給電(マイクロ波給電)を行う。
【0013】
デバイス50は、
図1の下側に拡大して示すように、アンテナ51、受電電力モニタ部52、及び充電部53を有する。
【0014】
アンテナ51は、1又は複数のアンテナ素子111から電力を受電するためのアンテナである。アンテナ51は、受電した電力を受電電力モニタ部52及び充電部53に出力する。
【0015】
受電電力モニタ部52は、RFID(Radio Frequency Identifier)タグのIC(Integrated Circuit)の部分に、電力検出部を付加した構成を有し、アンテナ52Aが接続されている。受電電力モニタ部52は、アンテナ51から電力が供給されると、供給された電力に相当する大きさを表すRSSI(Received Signal Strength Indicator:受信信号強度)と、ICの内部メモリに格納されているIDとを含むパケットデータを放射する。放射されたパケットデータは、制御装置140によって受信される。
【0016】
充電部53は、一例として二次電池又はキャパシタであり、アンテナ51から供給される電力を充電する。充電部53には、電力を消費する負荷が接続されていてもよい。例えば、負荷は、温度や湿度等を検出するセンサであってもよく、この場合にはデバイス50をセンサデバイスとして取り扱うことができる。
【0017】
また、デバイス50が移動可能な移動体に取り付けられている場合には、充電部53が充電する電力は、負荷としての移動体のモータ等の動力源や制御部等を駆動するための電力として利用することができる。
【0018】
アレイアンテナ110は、2次元アンテナグリッドの一例であり、一例としてマトリクス状に配置されるアンテナ素子111を含む。アンテナ素子111は、一例として、X方向に16個、Y方向に16個で256個ある。256個のアンテナ素子111は、XY平面上に位置する。
【0019】
各アンテナ素子111は、送電ケーブル130Aを介してマイクロ波発生源130に接続されている。制御装置140によって制御されることにより、256個のアンテナ素子111のうちの選択されたアンテナ素子111は、マイクロ波発生源130からマイクロ波帯の電力が供給されることによって給電される。アンテナ素子111は、平面視で矩形状のパッチアンテナである。アンテナ素子111は、-Z方向側にグランド電位に保持されるグランド板を有していてもよい。
【0020】
各アンテナ素子111は、上述したスマート工場等の大規模な施設の天井や柱等に取り付けられている。各アンテナ素子111の間の間隔は、一例として、アンテナ素子111の通信周波数における波長の数波長に相当する。アンテナ素子111の通信周波数は、一例としてマイクロ波帯を想定しており、一例として915MHzである。
【0021】
また、
図1には、一例として、デバイス50がアレイアンテナ110に含まれる256個のアンテナ素子111のうちの3個のアンテナ素子111から電力を受電している状態を示す。これは、制御装置140によって選択された3個のアンテナ素子111が電力を出力し、デバイス50が受電している状態を表す。このように、制御装置140によって選択された複数のアンテナ素子111の集合をアンテナサブセット110Aと称す。
【0022】
フェーズシフタ120は、各アンテナ素子111に1個ずつ接続されており、各アンテナ素子111と送電ケーブル130Aとの間に挿入されている。
図1では、説明の便宜上、1個のアンテナ素子111及びフェーズシフタ120を拡大して示す。
【0023】
フェーズシフタ120は、マイクロ波発生源130から送電ケーブル130Aを介して伝送される電力の位相をシフトしてアンテナ素子111に出力する。フェーズシフタ120は、位相調節部の一例である。
【0024】
マイクロ波発生源130は、256個のフェーズシフタ120に接続されており、所定の電力のマイクロ波を供給する。マイクロ波発生源130は、電波発生源の一例である。マイクロ波の周波数は、一例として915MHzである。なお、ここでは給電装置100がマイクロ波発生源130を含む形態について説明するが、マイクロ波に限られるものではなく、所定の周波数の電波であればよい。
【0025】
制御装置140は、制御部の一例であり、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、及び不揮発性メモリ等を有するマイクロコンピュータであり、一例として、離散型ウェーブレット・マルチトーン(DMWT)を用いることができる。
【0026】
制御装置140は、アンテナ140Aを有し、デバイス50から送信されるパケットデータを受信する。パケットデータには、デバイス50がアレイアンテナ110のうちの幾つかのアンテナ素子111から受信する電波のRSSI値が含まれる。
【0027】
制御装置140は、給電するアンテナ素子111の選択制御、256個のフェーズシフタ120における位相の制御、マイクロ波発生源130の電力の出力制御、及び、ベイズ最適化処理による所定の制御を行う。ベイズ最適化処理による所定の制御については後述する。
【0028】
図2は、制御装置140の構成を示す図である。制御装置140は、主制御部141、アンテナ選択部142、位相制御部143、及びメモリ144を有する。主制御部141、アンテナ選択部142、及び位相制御部143は、制御装置140が実行するプログラムの機能を機能ブロックとして示したものである。また、メモリ144は、制御装置140のメモリを機能的に表したものである。
【0029】
主制御部141は、制御装置140の処理を統括する処理部であり、アンテナ選択部142及び位相制御部143が実行する処理以外の処理を実行する。主制御部141は、例えば、フェーズシフタ120の位相調節や、マイクロ波発生源130の電力の出力制御を行う。
【0030】
アンテナ選択部142は、アレイアンテナ110の複数のアンテナ素子111の中から順次選択された1つのアンテナ素子111から送電される電力を受電したデバイス50の受電電力に基づいて、ベイズ最適化処理(第1ベイズ最適化処理の一例)により受電電力が最も大きくなる場合の所定の組み合わせの複数のアンテナ素子111を求める。所定の組み合わせの複数のアンテナ素子111は、アンテナサブセット110Aを構築する。アンテナ選択部142の詳細な制御内容については、
図3乃至
図7を用いて後述する。所定の組み合わせの複数のアンテナ素子111の数は、アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111の数である。
【0031】
なお、アンテナ選択部142が求める所定の組み合わせの複数のアンテナ素子111は、受電電力が最も大きくなる場合に限らず、受電電力が所定値(第1所定値の一例)以上になる場合であればよい。受電電力が最も大きくなる場合は、受電電力が所定値以上になる場合のうちの最良の形態である。所定値は適切な値に設定すればよい。
【0032】
位相制御部143は、アンテナサブセット110Aを構築する所定の組み合わせの複数のアンテナ素子111から同時に送電される電力をデバイス50が受電する際の複素振幅が所定値(第2所定値の一例)以上になるように、ベイズ最適化処理(第2ベイズ最適化処理の一例)により、アンテナサブセット110Aを構築する所定の組み合わせの複数のアンテナ素子111がそれぞれ出力する電力の位相を制御する。位相制御部143の詳細な制御内容については、
図8乃至
図20を用いて後述する。
【0033】
メモリ144は、主制御部141、アンテナ選択部142、及び位相制御部143が処理を実行する際に用いるデータやプログラム等を格納する。
【0034】
以下、制御装置140が実行する制御処理について説明する。制御装置140が実行する処理には、主に、アンテナサブセット選択処理と位相制御処理がある。
【0035】
まず、
図3乃至
図7を用いてアンテナサブセット選択処理について説明する。アンテナサブセット選択処理は、制御装置140のうちのアンテナ選択部142によって主に行われる。
図3乃至
図7は、アンテナサブセット選択処理を説明する図である。
【0036】
図3には、デバイス50をあるXY座標の位置に配置し、256個のアンテナ素子111からデバイス50に順次送電を行った場合に、デバイス50が各アンテナ素子111から受電する受電電力に相当した大きさを表すRSSI値を示す。なお、256個のアンテナ素子111のZ方向の位置は等しく、デバイス50のZ方向の位置は一定(不変)であることとする。
【0037】
デバイス50がX=10、Y=10の位置にある場合には、
図3に示すようにX=10、Y=10の位置におけるRSSI値が最大になり、X=10、Y=10の位置から離れるに従ってRSSI値が減衰する特性を示す。
【0038】
図3に示すRSSI値が減衰する特性値の分布は、以下で説明するベイズ最適化処理では本来は未知の目的関数によって表されるものである。アンテナサブセット選択処理では、
図3に示すような分布を表す目的関数を完全に求めることなく、ベイズ最適化処理により、デバイス50の位置を表すXY座標をできる限り少ない試行回数で求める。
【0039】
図4は、256個のアンテナ素子111のうちの4個のアンテナ素子111からデバイス50に順次送電を行い、デバイス50が4個のアンテナ素子111から順次受電する受電電力に相当した大きさを表すRSSI値を用いて、ベイズ最適化処理で求めた(予測した)RSSI値の分布を示す。デバイス50の位置は、
図3に示す分布を示す場合と同一である。
【0040】
4個のアンテナ素子111は、256個のアンテナ素子111から、あまり偏りがないように選択すればよい。例えば、X方向とY方向をともに1個目~8個目と9個目~16個目とに分けることで256個のアンテナ素子111を4個のエリアに分け、各エリアの中央に近い位置のアンテナ素子111を選択すればよい。
【0041】
4個のアンテナ素子111から送電を行ってデバイス50から受信する4個のRSSI値を用いて、ベイズ最適化処理でRSSI値の推定分布を求めると、一例として
図4に示す分布が得られる。
【0042】
図4に示す推定分布では、X=10、Y=10とその周囲と、X=9~16かつY=9~16の領域とにおいてRSSI値が高くなっている。
【0043】
図5は、上述した4個のアンテナ素子に加えてベイズ最適化によりアンテナ素子を順次選択して試行を進め、合計6個のアンテナ素子111からデバイス50に順次送電を行い、デバイス50が6個のアンテナ素子111から順次受電する受電電力に相当する大きさを表すRSSI値を用いて、ベイズ最適化処理で求めた(予測した)RSSI値の推定分布を示す。デバイス50の位置は、
図3に示す分布を示す場合と同一である。
【0044】
6個のアンテナ素子111から送電を行ってデバイス50から受信する6個のRSSI値を用いて、ベイズ最適化処理でRSSI値の推定分布を求めると、一例として
図5に示す分布が得られる。
【0045】
図5に示す分布では、X=10、Y=10とその周囲においてRSSI値が高くなっている。
【0046】
図6及び
図7は、さらにベイズ最適化によりアンテナ選択を順次進め、それぞれ、256個のアンテナ素子111のうちの合計8個及び合計10個のアンテナ素子111からデバイス50に順次送電を行い、デバイス50が8個及び10個のアンテナ素子111から順次受電する受電電力を表すRSSI値を用いて、ベイズ最適化処理で求めた(予測した)RSSI値の推定分布を示す。デバイス50の位置は、
図3に示す分布を示す場合と同一である。
【0047】
8個及び10個のアンテナ素子111から送電を行ってデバイス50から受信する8個又は10個のRSSI値を用いて、ベイズ最適化処理でRSSI値の推定分布を求めると、一例として
図6及び
図7に示す分布が得られる。
【0048】
図6及び
図7に示す分布では、X=10、Y=10とその周囲においてRSSI値が高くなっている。
【0049】
アンテナ選択部142は、
図4乃至
図7に示すように、256個のアンテナ素子111から所定数のアンテナ素子111を選択し、選択した所定数のアンテナ素子111から送電される電力を受電したデバイス50の受電電力に基づいて、ベイズ最適化処理により受電電力推定値が最も大きくなる場合の所定数のアンテナ素子111の組み合わせをアンテナサブセット110Aとして求める。
【0050】
アンテナサブセット110Aを求める際には、256個のアンテナ素子111から適切な数(ここでは一例として4個~10個)のアンテナ素子111を選択し、ベイズ最適化処理により受電電力推定値が最も大きくなる場合の所定数のアンテナ素子111の組み合わせをアンテナサブセット110Aとして求めればよい。
【0051】
このような処理を複数回繰り返すことにより、より高い精度でアンテナサブセット110Aを構築する複数のアンテナ素子111を選択することができる。
【0052】
なお、アンテナサブセット選択処理でアンテナ選択部142が選択するアンテナサブセット110Aを構築するアンテナ素子111の数は、1個以上であればよい。
【0053】
また、ここでは、推定受電電力が最も大きくなる場合の所定数のアンテナ素子111の組み合わせをアンテナサブセット110Aとして求める形態について説明したが、推定受電電力が最も大きくなる場合に限らず、推定受電電力が第1所定値以上になる場合の所定数のアンテナ素子111の組み合わせをアンテナサブセット110Aとして求めてもよい。
【0054】
このように、アンテナ選択部142は、ベイズ最適化処理(第1ベイズ最適化処理の一例)として、アレイアンテナ110の少なくとも1個のアンテナ素子111から送電される電力を受電したデバイス50の受電電力に基づいて、アレイアンテナ110が配列される2次元平面内において、受電電力推定値が第1所定値以上になる場合の所定の組み合わせの複数のアンテナ素子111(アンテナサブセット110A)を求める。
【0055】
次に、位相制御処理について説明する。
図8は、位相制御処理で利用する給電装置100及びデバイス50を示す図である。ここでは、3個のアンテナ素子111を111A、111B、111Cとして区別する。一例として、アンテナサブセット選択処理でアンテナ選択部142が3個のアンテナ素子111A、111B、111Cを選択したこととし、それぞれが出力する電力の位相をφ1、φ2、φ3とする。また、φ1を0度に固定し、位相制御部143がφ2、φ3を制御する場合について説明する。
【0056】
図9は、デバイス50のアンテナ51によって受電される受電電力の受電ベクトルPtを表す図である。受電ベクトルPtは、3個のアンテナ素子111A、111B、111Cによって送電され、デバイス50のアンテナ51によって受電された電力P1、P2、P3のベクトル(以下、送電ベクトルP1、P2、P3)の合計である。受電電力の受電ベクトルPtの長さは、複素振幅であり、受電電力の大きさを表す。送電ベクトルP1は電力の位相がφ1であり、送電ベクトルP2は電力の位相がφ2であり、送電ベクトルP3は電力の位相がφ3である。なお、I軸は実軸、Q軸は虚軸である。
【0057】
図9(A)に示すように、送電ベクトルP1、P2、P3の方向が揃っていない場合は、受電ベクトルPtの長さ(複素振幅)は短くなるが、
図9(B)に示すように、送電ベクトルP1、P2、P3の方向が揃っている場合は、受電ベクトルPtの長さ(複素振幅)は長くなる。
【0058】
そこで、位相制御部143は、送電ベクトルP1、P2、P3の方向を揃えることで受電ベクトルPtの複素振幅が長くなるように、φ2、φ3を制御する。
【0059】
図10は、位相制御処理で利用する給電装置100及びデバイス50を示す図である。
図10(A)には、2個のアンテナ素子111A、111Bを示し、それぞれが出力する電力の位相をφ1、φ2とする。また、φ1を0度に固定し、位相制御部143がφ2を制御する場合について説明する。なお、
図10(A)では制御装置140を省略する。
【0060】
図10(B)に示すように、2個のアンテナ素子111A、111Bによって出力され、デバイス50のアンテナ51によって受電される受電電力の受電ベクトルPtは、デバイス50のアンテナ51によって受電された電力P1、P2のベクトル(送電ベクトルP1、P2)の合計のベクトルである。受電電力の受電ベクトルPtの長さは、複素振幅であり、受電電力の大きさを表す。送電ベクトルP1は電力の位相がφ1であり、送電ベクトルP2は電力の位相がφ2である。なお、I軸は実軸、Q軸は虚軸である。
【0061】
図10(C)に示すように、送電ベクトルP2の位相を1度から360度まで変化させると、受電電力は正弦波状に変化し、受電電力の山と谷はともに1個のみである。
【0062】
なお、ここでは、2個のアンテナ素子111A、111Bについて説明したが、2個のアンテナ素子111A、111Cについても同様である。
【0063】
次に、
図11乃至
図14を用いて、位相制御部143がベイズ最適化処理(第2ベイズ最適化処理の一例)を用いて、受電ベクトルPtの複素振幅が大きくなるようにアンテナ素子111A、111B、111Cの出力電力の位相を制御する処理について説明する。
図11乃至
図14は、位相制御部143の制御処理を説明する図である。
【0064】
まず、位相制御部143は、
図11に示すように、ベイズ最適化処理(第2ベイズ最適化処理の一例)において、アンテナサブセット110Aを構築する3個のアンテナ素子111A、111B、111Cのうちの1個のアンテナ素子111B(第1アンテナ素子の一例)が出力する電力の位相φ2(第1位相の一例)をα度(第1の所定位相の一例)と(α+180)度(第1の所定位相に180度加算した位相)とに設定するとともに、アンテナサブセット110Aを構築する3個のアンテナ素子111A、111B、111Cのうちの他の1個のアンテナ素子111C(第2アンテナ素子の一例)が出力する電力の位相φ3(第2位相の一例)をβ度(第2の所定位相の一例)と(β+180)度(第2の所定位相に180度加算した位相)とに設定する。
図11では、一例としてα=90度であり、β=90度である。
【0065】
位相制御部143は、主制御部141にフェーズシフタ120の位相調節とマイクロ波発生源130の電力の出力制御を行わせて、φ2=α度でφ3=β度、φ2=(α+180)度でφ3=β度、φ2=α度でφ3=(β+180)度、φ2=(α+180)度でφ3=(β+180)度の4点Q1~Q4(
図11に黒丸で示す4点Q1~Q4)に順次設定させる。なお、アンテナ素子111Aが出力する電力の位相φ1は固定値であり、一例として0度である。点Q1~Q4は、位相φ2、φ3で特定される動作点である。
【0066】
また、位相制御部143は、
図11に示す位相φ2(第1位相の一例)及び位相φ3(第2位相の一例)で規定されるφ2-φ3平面の位相φ2が1度≦第2≦360度で位相φ3が1度≦φ3≦360度の領域(2次元探索領域の一例)を4個のエリアA1~A4に分ける。なお、位相φ2、φ3は、1度刻みである。
【0067】
エリアA1は、1度≦φ2≦180度かつ1度≦φ3≦180度のエリアである。エリアA2は、180度<φ2≦360度かつ1度≦φ3≦180度のエリアである。エリアA3は、1度≦φ2≦180度かつ180度<φ3≦360度のエリアである。エリアA4は、180度<φ2≦360度かつ180度<φ3≦360度のエリアである。エリアA1~A4は、φ2-φ3平面の位相φ2が1度≦φ2≦360度で位相φ3が1度≦φ3≦360度の領域(2次元探索領域の一例)の1/4のエリアである。
【0068】
位相制御部143は、アンテナ素子111B、111Cが出力する電力の位相φ2、φ3を4点Q1~Q4の各々に順次設定した状態で、アンテナ素子111A、111B、及び111Cから送電される電力をデバイス50が受電する際の受電電力の推定値が所定値(第3所定値の一例)以上になる場合の位相φ2、φ3を含むエリアをエリアA1~A4のうちの1個に絞る。
【0069】
より具体的には、位相制御部143は、アンテナ素子111B、111Cが出力する電力の位相φ2、φ3を4点Q1~Q4の各々に設定した状態で得られるデバイス50の4個の受電電力の推定値のうち、最も大きい受電電力の推定値を与える点を含むエリアに絞る。
【0070】
最も大きい受電電力の推定値を与える点を含むエリアは、受電電力が所定値(第3所定値の一例)以上になる場合の位相φ2、φ3を含むエリアの一例である。このため、最も大きい受電電力の推定値を与える位相φ2、φ3を含むエリアに限らず、所定値(第3所定値の一例)以上になる場合の位相φ2、φ3を含むエリアであればよい。
【0071】
この結果、一例として
図12に示すように、位相制御部143によって、1度≦φ2≦180度かつ1度≦φ3≦180度のエリアA1に絞られたこととする。このように、位相φ2、φ3に180度を加算した位相を利用すれば、φ2-φ3平面を4等分した4個のエリアA1~A4の各々において、1回ずつデバイス50の受電電力を表すRSSI値を用いて受電電力の推定値を得ることができる。
【0072】
また、φ2-φ3平面における4点Q1~Q4でのデバイス50の受電電力の推定値の大小を比較すれば、φ2-φ3平面を4等分した4個のエリアA1~A4におけるデバイス50の受電電力の大小関係の傾向を掴むことができる。
【0073】
また、φ2-φ3平面を4等分した4個のエリアA1~A4にそれぞれ含まれる4点Q1~Q4でのデバイス50の受電電力の推定値のうち、最も大きい受電電力の推定値が得られるエリアA1を選択すれば、エリアA1の内部又はエリアA1の近くの領域で受電ベクトルPtの長さが最も長くなる位相φ2、φ3の最適値が得られる確率が高くなる。このため、エリアA1~A4のすべてについて位相φ2、φ3の最適値を探索する必要がなくなり、演算量を削減することができる。
【0074】
位相制御部143は、上述のように1個に絞った
図12に示すエリアA1において、位相φ2(第1位相の一例)をピッチPH1(第1ピッチの一例)で振るとともに、位相φ3(第2位相の一例)をピッチPH2(第2ピッチの一例)で振りながら、アンテナ素子111A、111B、及び111Cから送電される電力をデバイス50が受電して得る受電電力を表すRSSI値を用いて受電電力の推定分布を算出する。
【0075】
これにより、
図12に示すエリアA1のメッシュの各交点における受電電力の推定値が得られる。交点の数だけ送電ベクトルP2、P3の組み合わせが得られるため、位相制御部143は、アンテナ素子111B、111C(
図8参照)から送電される電力の位相φ2、φ3を各組み合わせの位相φ2、φ3に設定して、デバイス50の受電電力を表すRSSI値を用いて受電電力の推定値を取得する。
【0076】
そして、位相制御部143は、得られた受電電力の推定値のうち最も大きい受電電力の推定値(第4所定値の一例)を与える位相φ2、φ3によって特定される点Q11(
図13参照)を取得する。点Q11は、位相φ2、φ3によって特定される動作点である。
【0077】
位相制御部143は、点Q11の位相φ2、φ3で得られた受電電力の推定値が点Q1の位相φ2、φ3で得られた受電電力の推定値よりも大きければ、点Q11を中心とする探索を継続する。なお、点Q11の位相φ2、φ3で得られた受電電力の推定値が点Q1の位相φ2、φ3で得られた受電電力の推定値と等しいか、あるいはそれよりも小さければ、点Q1の位相φ2、φ3を中心点としたまま探索を継続する。
【0078】
なお、ここでは、エリアA1のメッシュで得られた受電電力の推定値のうち最も大きい受電電力の推定値を与える位相φ2、φ3によって特定される点Q11を取得する形態について説明した。すなわち、第4所定値の一例は、エリアA1のメッシュで得られた受電電力の推定値のうち最も大きい受電電力の推定値であった。
【0079】
しかしながら、エリアA1のメッシュで得られた受電電力の推定値のうち、点Q1の位相φ2、φ3で得られた受電電力の推定値よりも大きい所定値以上になる場合の位相φ2、φ3によって特定される点Q11を取得してもよい。すなわち、第4所定値は、点Q1の位相φ2、φ3で得られた受電電力の推定値よりも大きい所定値であってもよい。
【0080】
図13では、位相制御部143は、点Q11を中心とするエリアA11の内部で、さらに探索を行う。エリアA11は、メッシュで示す領域であり、エリアA1よりも狭い(小さい)。エリアA11は、エリアA1よりもさらに絞ったエリアの一例である。
【0081】
位相制御部142は、エリアA11の内部で、位相φ2(第1位相の一例)をピッチPH3(第3ピッチの一例)で振るとともに、位相φ3(第2位相の一例)をピッチPH4(第4ピッチの一例)で振りながら、アンテナ素子111A、111B、及び111Cから送電される電力をデバイス50が受電して得る受電電力を表すRSSI値を用いて受電電力の推定分布を算出する。ピッチPH3はピッチPH1よりも小さく、ピッチPH4はピッチPH2よりも小さい。
【0082】
このとき、エリアA11のメッシュの交点の数だけ送電ベクトルP2、P3の組み合わせが得られるため、位相制御部143は、アンテナ素子111B、111C(
図8参照)から送電される電力の位相φ2、φ3を各組み合わせの位相φ2、φ3に設定して、デバイス50の受電電力を表すRSSI値を用いて受電電力の推定値を取得する。
【0083】
この結果、
図13に示すエリアA11のメッシュの各交点における受電電力の推定値が得られる。位相制御部143は、得られた受電電力の推定値のうち最も大きい受電電力の推定値を与える位相φ2、φ3によって特定される点Q12を取得する。点Q12は、位相φ2、φ3によって特定される動作点である。
【0084】
位相制御部143は、点Q12の位相φ2、φ3で得られた受電電力の推定値が点Q11の位相φ2、φ3で得られた受電電力の推定値よりも大きければ、点Q12(
図14参照)を中心とする探索を継続する。なお、点Q12の位相φ2、φ3で得られた受電電力の推定値が点Q11の位相φ2、φ3で得られた受電電力と等しいか、あるいはそれよりも小さければ、点Q11の位相φ2、φ3を中心点としたまま探索を継続する。
【0085】
なお、ここでは、エリアA11のメッシュで得られた受電電力の推定値のうち最も大きい受電電力の推定値を与える位相φ2、φ3によって特定される点Q12を取得する形態について説明した。すなわち、第5所定値の一例は、エリアA11のメッシュで得られた受電電力の推定値のうち最も大きい受電電力の推定値であった。
【0086】
しかしながら、エリアA11のメッシュで得られた受電電力の推定値のうち、点Q11の位相φ2、φ3で得られた受電電力の推定値よりも大きい所定値以上になる場合の位相φ2、φ3によって特定される点Q12を取得してもよい。すなわち、第5所定値は、点Q11の位相φ2、φ3で得られた受電電力の推定値よりも大きい所定値であってもよい。
【0087】
図14では、位相制御部143は、点Q12を中心とするエリアA12の内部で、さらに探索を行う。エリアA12は、メッシュで示す領域であり、エリアA11よりも狭い(小さい)。エリアA12は、エリアA11よりもさらに絞ったエリアの一例である。
【0088】
エリア12における探索は、エリア11における探索と同様である。すなわち、位相φ2、φ3の方向におけるピッチをピッチPH3、PH4よりもさらに小さくし、ベイズ最適化処理で、点Q12の位相φ2、φ3で得られた受電電力よりも大きい電力が得られる点の位相φ2、φ3を求めることになる。
【0089】
次に、位相制御部143が実行する位相制御処理において選択する送電ベクトルについて説明する。ここでは、アンテナ素子111A、111B、111C(
図8参照)から送電を行うこととし、アンテナ素子111Aが送電する電力の位相φ1は、一例として0度である。すなわち、送電ベクトルP1は固定である。
【0090】
図15は、デバイス50の受電電力の電界分布であり、本来は未知の目的関数が表す分布を示す図である。
図15において、2個の横軸は、位相φ2、φ3を示し、縦軸は電界分布を規格化した値(単位なし)で示す。
【0091】
図16乃至
図20は、位相制御部143がベイズ最適化処理を用いた位相制御処理で求めたRSSI値の推定分布を示す図である。
図16乃至
図20において、2個の横軸は、位相φ2、φ3を示し、縦軸はRSSI値を規格化した値(単位なし)で示す。
【0092】
図15は、256個のアンテナ素子111からデバイス50に電力を順次送電した場合の電界分布を示しており、本来は未知の目的関数によって表されるものである。
図15に示す電界分布は、送電ベクトルP1の位相を固定した状態で、送電ベクトルP2、P3の位相を360(度)×360(度)=129600個の組み合わせの位相に設定して、順次送電を行った場合にデバイス50が受電する電力の電界分布を表す。なお、位相φ2、φ3の最適値は、位相φ2=270度、φ3=200度である。
【0093】
また、129600個の組み合わせに含まれる位相φ2、φ3は、一例として、
図1におけるX軸を位相φ2(1度≦φ2≦360度)に相当する軸とし、Y軸を位相φ3(1度≦φ3≦360度)に相当する軸とした場合に、X、Yの座標に相当する位相φ2、φ3として按分すればよい。
【0094】
図16乃至
図20は、それぞれ、送電ベクトルP2、P3の位相φ2、φ3の組み合わせが4組、5組、6組、7組、8組で、各送電ベクトルでの送電が順次行われた場合に、デバイス50によって順次受電される受電電力に基づいて、位相制御部143がベイズ最適化処理を用いた位相制御処理で求めた受電電力の推定分布を示す図である。送電ベクトルP2、P3の位相φ2、φ3の組み合わせが4組、5組、6組の場合は、それぞれ、
図11、
図13、
図14に対応する。
【0095】
まず、位相φ2方向及び位相φ3方向において180度ずつ位相差を有する4組の送電ベクトルで順次送電することで、
図16に示すように、φ2-φ3平面の位相φ2が1度≦第2≦360度で位相φ3が1度≦φ3≦360度の領域(2次元探索領域の一例)の1/4のエリアに絞られる。これは、
図12でエリアA1に絞られた状態と同様である。
【0096】
次に、
図16で絞られたエリアの中で、位相φ2及び位相φ3の方向に所定のピッチで仮想的なメッシュを作成し、交点に相当する5組の位相φ2及び位相φ3の送電ベクトルP2、P3の組を用いて、アンテナ素子111A、111B、111Cから送電を行う。この場合にデバイス50が受電する受電電力に相当した大きさを表すRSSI値を用いて、位相制御部143がベイズ最適化処理を用いた位相制御処理で求めたRSSI値の推定分布は、
図17に示す通りである。
【0097】
同様に、
図16で絞られたエリアの中で、仮想的なメッシュの交点に相当する6組の位相φ2及び位相φ3の送電ベクトルP2、P3の組を用いて、アンテナ素子111A、111B、111Cから送電を行った場合に、位相制御部143がベイズ最適化処理で求めたRSSI値の推定分布は、
図18に示す通りである。
【0098】
同様に、仮想的なメッシュの交点に相当する7組の位相φ2及び位相φ3の送電ベクトルP2、P3の組を用いて、アンテナ素子111A、111B、111Cから送電を行った場合に、位相制御部143がベイズ最適化処理で求めたRSSI値の推定分布は、
図19に示す通りである。
【0099】
また、同様に、仮想的なメッシュの交点に相当する8組の位相φ2及び位相φ3の送電ベクトルP2、P3の組を用いて、アンテナ素子111A、111B、111Cから送電を行った場合に、位相制御部143がベイズ最適化処理で求めたRSSI値の推定分布は、
図20に示す通りである。
【0100】
以上のように、
図16に示す1/4に絞られたエリアは、
図17乃至
図20に示すRSSI値の最大値を与える領域を含んでおり、最初に位相φ2方向及び位相φ3方向において180度ずつ位相差を有する4組の送電ベクトルでエリアを絞ることにより、演算量を低減できることが確認できた。
【0101】
また、
図16で絞られたエリアの中で、メッシュを細かくすることにより、
図17から
図20に示すRSSI値の推定分布をベイズ最適化処理で求めることができた。
図17乃至
図20に示すように、メッシュが細かくなるにつれ(送電ベクトルP2、P3の組の数が増えるにつれ)、
図15に示す分布の形状により近づいた形状が得られている。
【0102】
なお、以上では、アンテナサブセット110Aが3個のアンテナ素子111A、111B、111Cを含み、位相φ2、φ3による2次元探索領域を用いて説明したが、アンテナサブセット110Aが2個のアンテナ素子111を含む場合には、位相φ2だけの1次元探索領域でφ2の最適値を求めればよい。
【0103】
また、以上では、アンテナサブセット110Aが3個のアンテナ素子111A、111B、111Cを含む形態について説明したが、アンテナサブセット110Aが4個以上のアンテナ素子111を含む場合には、次のようにしてもよい。
【0104】
図21は、アンテナ素子111を示す図である。
図21には、3行×3列の9個のアンテナ素子111を示す。説明の便宜上、9個のアンテナ素子111に1~9のアンテナ番号を割り振る。9個のアンテナ素子111を次の4個のグループG1~G4に分ける。G1={1,2,5}であり、グループG1は、アンテナ番号が1、2、5のアンテナ素子111を含むことを意味する。同様に、G2={3,5,6}であり、G3={4,5,7}であり、G4={5,8,9}である。
【0105】
グループG1~G4は、すべて中央に位置するアンテナ番号5のアンテナ素子111を含む。このように9個のアンテナ素子111を複数のグループに分けて、すべてのグループG1~G4が共通のアンテナ素子111(ここではアンテナ番号5のアンテナ素子111)を含むようにする。そして、アンテナ番号5のアンテナ素子111を上述のアンテナ素子111Aのように位相φ1を固定する基準のアンテナ素子111に設定し、残りの2個のアンテナ素子111の位相φ2、φ3の最適値を求めればよい。このような処理を4個のグループG1~G4について同時に行えばよい。
【0106】
以上のように、実施の形態によれば、アンテナサブセット選択処理及び位相制御処理においてベイズ最適化処理を利用することにより、デバイス50に給電する際における送電ベクトルP2、P3の位相φ2、φ3の最適値を演算するための演算量を低減することができる。
【0107】
より具体的には、アンテナサブセット選択処理では、アンテナ選択部142は、アレイアンテナ110の256個のアンテナ素子111から選択した少なくとも1個のアンテナ素子111から送電される電力を受電したデバイス50の受電電力に基づいて、アレイアンテナ110が配列される2次元平面内において、受電電力が第1所定値以上になる場合の所定の組み合わせの複数のアンテナ素子111をアンテナサブセット110Aとして求める。
【0108】
また、位相制御処理では、位相制御部143は、まず、位相φ2方向及び位相φ3方向において180度ずつ位相差を有する4組の送電ベクトルでエリアを絞り、絞られたエリアの中で、仮想的なメッシュを作成する。メッシュの交点に相当する複数組の送電ベクトルP2、P3を用いてアンテナ素子111A、111B、111Cから送電を行った場合のデバイス50の受電電力を表すRSSIの推定値に基づいて、位相制御部143がベイズ最適化処理を行えば、位相φ2、φ3の最適値を求めることができる。
【0109】
すなわち、実施の形態によれば、アレイアンテナ110に含まれる複数のアンテナ素子111の中から、アンテナサブセット110Aに含まれる少なくとも1個以上のアンテナ素子111を少ない演算量で求めることができ、さらに、アンテナサブセット110Aに含まれる複数のアンテナ素子111の各々の位相を少ない演算量で求めることができる。
【0110】
したがって、所望のアンテナ素子111と位相を検出するための試行回数、演算量、またはその両方を低減した給電装置100、及び、給電方法を提供することができる。
【0111】
なお、以上では、デバイス50の受電電力モニタ部52がアンテナ素子111から受電した電力を表すRSSI値を含むパケットデータを放射する形態について説明したが、RSSI値の代わりに、デバイス50が受電した電力による充電量を表すデータをパケットデータに含めてもよい。
【0112】
また、デバイス50がカメラや受光部を有する場合には、RSSI値の代わりに、デバイス50が受光した光量を表すデータをパケットデータに含めてもよい。
【0113】
また、以上では、アレイアンテナ110が256個のアンテナ素子111を含む形態について説明した。しかしながら、例えば、ドローンのような移動体に複数(例えば4個程度)のアンテナ素子111を同一平面状に位置するように搭載し、ドローンが飛行する位置を少しずつずらすことにより、ドローンに搭載される4個のアンテナ素子111の位置がアレイアンテナ110に含まれる256個のアンテナ素子111の位置になるようにして、256箇所から送電した場合にデバイス50で得られるRSSI値を取得してもよい。この場合には、アンテナ選択部142の代わりに移動位置選択部を含み、アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111の位置を求めるようにすればよい。
【0114】
以上、本発明の例示的な実施の形態の給電装置、及び、給電方法について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0115】
50 デバイス
100 給電装置
110 アレイアンテナ
120 フェーズシフタ
140 制御装置
142 アンテナ選択部
143 位相制御部