(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】エンジンルームカバー
(51)【国際特許分類】
F02B 77/13 20060101AFI20230303BHJP
B62D 25/10 20060101ALI20230303BHJP
B60R 13/08 20060101ALI20230303BHJP
【FI】
F02B77/13 A
B62D25/10 G
B60R13/08
(21)【出願番号】P 2019157053
(22)【出願日】2019-08-29
【審査請求日】2022-04-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100158067
【氏名又は名称】江口 基
(74)【代理人】
【識別番号】100147854
【氏名又は名称】多賀 久直
(72)【発明者】
【氏名】中根 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】杉本 寛樹
(72)【発明者】
【氏名】志水 広征
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-526418(JP,A)
【文献】特開2018-161905(JP,A)
【文献】特開平7-317105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 77/13
B62D 25/10
B60R 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有すると共に通気性がないシート材と、
車両のエンジンルームに設置され、前記シート材をロール状に巻き取り可能に構成されたロール機構と、を備え、
前記ロール機構から引き出した前記シート材を、前記エンジンルームを塞ぐエンジンフードと該エンジンルームに設置された装置との間を区切るように配置した使用状態と、該シート材を該ロール機構に巻き取って前記装置の上方から退避させた収納状態とに変更可能に構成されている
ことを特徴とするエンジンルームカバー。
【請求項2】
前記シート材は、使用状態において、前記エンジンフードおよび前記装置から離して配置されている請求項1記載のエンジンルームカバー。
【請求項3】
前記ロール機構は、前記エンジンルームの後部に配置されて、前記シート材に巻き取り方向の力を付与するように構成され、
前記シート材は、保持手段によって使用状態で保持可能に構成されている請求項1または2記載のエンジンルームカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンフードとエンジンルームに設置された装置との間に配置されるエンジンルームカバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両では、エンジンフードに防音材を取り付けて、エンジンルームに設置されたエンジンが発するエンジン音を外部に漏れ難くしている。例えば、特許文献1に開示の防音装置は、エンジンとの間に空間を置いて配置されたカバーと、エンジンフードの内側面に設けられた吸音材とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した防音装置は、エンジンを覆って取り付けられるので、エンジンのメンテナンスの際に邪魔になってしまう。
【0005】
本発明は、従来の技術に係る前記問題に鑑み、これらを好適に解決するべく提案されたものであって、メンテナンスの邪魔にならないエンジンルームカバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本発明に係るエンジンルームカバーは、
可撓性を有すると共に通気性がないシート材と、
車両のエンジンルームに設置され、前記シート材をロール状に巻き取り可能に構成されたロール機構と、を備え、
前記ロール機構から引き出した前記シート材を、前記エンジンルームを塞ぐエンジンフードと該エンジンルームに設置された装置との間を区切るように配置した使用状態と、該シート材を該ロール機構に巻き取って前記装置の上方から退避させた収納状態とに変更可能に構成されていることを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るエンジンルームカバーによれば、音漏れを好適に防止できると共に、メンテナンスに際して邪魔にならない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施例に係るエンジンルームカバーが設置された車両の一部を示す縦断面図であり、シート材が使用状態にある。
【
図2】実施例のエンジンルームカバーが設置された車両の一部を示す縦断面図であり、シート材が収納状態にある。
【
図3】実施例のエンジンルームカバーが設置された車両の一部を示す平面図であり、シート材が使用状態にある。
【
図4】実施例のエンジンルームカバーが設置された車両の一部を示す平面図であり、シート材が収納状態にある。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明に係るエンジンルームカバーにつき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照して以下に説明する。なお、以下の説明では、車両の向きを基準として方向を指称する。具体的には、車両のフロント側を前側とし、リア側を後側とし、車両の進行方向を向いたときの右手側を右側とし、同じく車両の進行方向を向いたときの左手側を左側とする。また、エンジンフード側を上側とし、エンジン側を下側とする。
【実施例】
【0010】
図1に示すように、乗用車等の車両10には、エンジン、吸気ダクト等の吸気系、バッテリー、ラジエターなどの様々な装置14がエンジンルーム12に設置されている。各装置14は、上面が湾曲したり、凹凸したりするなど、上面が様々な形状になっている。また、エンジンルーム12に設置された装置14は、互いに上面の高さが異なっている。
【0011】
車両10は、エンジンルーム12の上部に開口する開口部12aを、エンジンフード16で開閉可能に覆っている。車両10は、エンジンフード16を閉じることで開口部12aを塞ぎ、このとき、エンジンフード16とエンジンルーム12に設置された装置14とが対向して配置される(
図1参照)。車両10は、エンジンフード16を開くことで開口部12aを開放し、これにより開口部12aを介してエンジンルーム12に外部からアクセス可能となる(
図2参照)。
【0012】
図1~
図4に示すように、車両10には、エンジンルーム12からの音漏れを防止するエンジンルームカバー18が設置されている。エンジンルームカバー18は、可撓性を有すると共に通気性がないシート材20と、車両10のエンジンルーム12に設置され、シート材20をロール状に巻き取り可能に構成されたロール機構22とを備えている。エンジンルームカバー18は、ロール機構22から引き出したシート材20を、エンジンルーム12を塞ぐエンジンフード16とエンジンルーム12に設置された装置14との間を区切るように配置可能に構成されている(
図1および
図3参照)。また、エンジンルームカバー18は、シート材20をロール機構22に巻き取って装置14の上方から退避させることが可能である(
図2および
図4参照)。このように、エンジンルームカバー18は、シート材20をロール機構22から引き出した使用状態(
図1および
図3参照)と、シート材20をロール機構に巻き取った収納状態(
図2および
図4参照)とに変更可能に構成されている。本開示でいう可撓性は、シート材20を丸めるような曲げ変形ができると共に、曲げた状態から再び伸ばすことができることを指す。シート材20は、弾性を有していてもよいが、シート材20自体に弾性があることは必須ではない。
【0013】
シート材20は、塩化ビニル系樹脂などの熱可塑性樹脂からなる樹脂シート、アルミニウムなどからなる金属シート(箔)、独立気泡構造を有する発泡シートなどの非通気性材料からなる層を少なくとも備えている。非通気性とすることで、シート材20に遮音性を付与することができる。樹脂シートとしては、塩化ビニル系樹脂以外に、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂等のオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタラート系樹脂などが挙げられる。金属シートとしては、アルミニウムシート(箔)、樹脂シートにアルミニウムなどの金属を蒸着したアルミニウム蒸着樹脂シートなどが挙げられる。金属シートは、シート材20の遮音性を更に高めたり、熱源からの輻射熱を反射することで遮熱性を付与したりすることができる。シート材20は、エンジンルーム12内で使用されるため、耐熱性に優れた材料であることが好ましい。なお、耐熱性を有する発泡シートとしては、例えば、ポリウレタンフォーム、シリコンフォームなどが挙げられる。
【0014】
シート材20は、非通気性材料のみの単層であってもよいが、非通気性材料からなる層に他の材料を積層した複層構造であってもよい。シート材20を複層構造とする場合、物性や耐熱性などの特性の異なる同じ材質(例えば、物性や耐熱性の異なる2種類以上の塩化ビニル系樹脂)を重ねても、異なる材質を2種類以上重ねても何れであってもよい。非通気性材料に積層する他の材料としては、例えば、非通気性材料と異なる材質の樹脂シート、金属シート、連続気泡構造を有する発泡シート、独立気泡構造を有する発泡シート、不織布やグラスウールなどの繊維シート、塗膜などを挙げることができる。なお、金属シートは、非通気性のシート状態で使用してもよいが、金属シートの一部にスリットや貫通孔などを設けて通気性のシート状態で使用してもよい。発泡シートとしては、ポリウレタンフォームやメラミンフォームなどの熱硬化性樹脂の発泡体、ポリオレフィンフォームなどの熱可塑性樹脂の発泡体、シリコンフォームなどのシリコンの発泡体が使用できる。これらの発泡シートは、独立気泡構造を有していても、連続気泡構造を有していても、その両方を有していても何れであってもよい。発泡シートが連続気泡構造であれば、シート材20に吸音性や断熱性を付与することができ、独立気泡構造であれば、特に断熱性を付与できる。塗膜としては、断熱塗料、遮熱塗料などが挙げられる。なお、耐熱性を有する繊維シートとしては、例えばグラスウールなどが挙げられる。
【0015】
シート材20を複層構造とする場合、耐熱性に優れる材質を装置14側に配置することが好ましい。また、シート材20を異なる材質で複層構造とする場合、非通気性材料の下側(装置14側)に、発泡シート、繊維シートまたは金属シートなどを配置することが好ましい。これにより、発泡体シートや繊維シートなどが有する吸音性や断熱性および金属シートが有する遮熱性を、シート材20にそれぞれ付与することができる。例えば、塩化ビニル系樹脂からなる非通気性材料の下側にポリウレタンフォームからなる発泡シートを積層し、更に、ポリウレタンフォームの下側に貫通孔を有するアルミニウム箔を積層すれば、耐熱性に優れ、遮音性、吸音性、断熱性および遮熱性を有するシート材20とすることが可能となる。
【0016】
シート材20の厚みは、使用状態における剛性が確保でき、ロール機構22に巻き取りが可能であれば、特に限定されないが、例えば、0.1mm~5mmの範囲にすることが好ましい。また、非通気性材料に積層する他の材料は、非通気性材料の全面に配置されていてもよく、一部にのみ配置されていてもよい。更に、非通気性材料の前後左右方向において、部位毎に異なる材料を配置してもよい。
【0017】
図1および
図2に示すように、実施例のエンジンルームカバー18は、ロール機構22がエンジンルーム12の後部に配置されている。エンジンルームカバー18は、シート材20をロール機構22から前側へ引き出して、装置14の上方を覆う使用状態とされる。実施例では、エンジンルーム12の開口部12aが、使用状態にあるシート材20によって全体的に覆われるようになっている。また、エンジンルームカバー18は、シート材20をロール機構22によって使用状態から後方へ巻き取って、装置14の上方から退避させる収納状態とされる。ここで、ロール機構22は、シート材20に対して巻き取り方向の力を常に付与するように構成されている。
【0018】
エンジンルームカバー18は、シート材20を保持手段24,26によって使用状態で保持可能に構成されている。
図1に示すように、実施例の保持手段は、シート材20の前縁部に設けられた穴である係合部24と、車両10に設けられたピン状の係合受部26とによって構成されている。保持手段は、係合部24を係合受部26に嵌め合わせることで、係合部24を係合受部26に引っ掛けて、ロール機構22から加えられる巻き取り方向の力に抗して、シート材20を使用状態で保持するようになっている。保持手段は、係合部24を係合受部26から取り外すことで、シート材20の保持を解除できる着脱可能な構成である。
【0019】
図1に示すように、エンジンルームカバー18は、使用状態にあるシート材20が、エンジンフード16および装置14の両方から離して配置される。エンジンルームカバー18は、使用状態にあるシート材20とエンジンフード16との間に空間(上側空間)を設けると共に、使用状態にあるシート材20と装置14との間に空間(下側空間)を設けるようになっている。シート材20は、使用状態において、シート材20の上側および下側の両方に独立した空間を形成するように配置される。このように、エンジンルームカバー18は、上側空間と下側空間との間での空気(音や熱)の移動を、使用状態のシート材20によって制限し、下側空間の音や熱が上側空間に伝わることを防止している。
【0020】
エンジンルームカバー18は、使用状態にあるシート材20によって、エンジンフード16と装置14との間を区切って、シート材20で隔てられて独立した2つの空間を形成することができる。これにより、装置14から発するエンジン音などの騒音が、エンジンフード16側から外部に漏れ出すことを抑えることができる。また、シート材20によってエンジンルーム12の開口部12a全体を覆うように構成すれば、装置14から生じる音の漏れを低減するだけでなく、エンジンフード16や、エンジンフード16と車体の合わせ目を介して外部に漏れ出るエンジン音を効果的に抑えて、車両10の静粛性(防音性)の向上に大きく寄与し得る。
【0021】
エンジンルームカバー18は、使用状態にあるシート材20によって、エンジンフード16と装置14との間を区切って、シート材20で隔てられて独立した2つの空間を形成することができる。これにより、エンジン等の装置14からの熱を、シート材20によってエンジンフード16に伝わらないように断熱することができる。これにより、エンジンフード16が熱くなることを抑えることができる。また、使用状態にあるシート材20によって、エンジン等の発熱する装置14が冷えないように保温することができる。これにより、例えば、アイドリングストップからの再始動時などにおいて、エンジンを始動し易くすることができたり、装置14が高温状態にあってもエンジンフード16の温度上昇を抑えたりすることができる。
【0022】
エンジンルームカバー18は、エンジンフード16と装置14との間を区切るようにエンジンフード16の下側に配置されたシート材20によって、エンジンフード16に荷重が加わった場合におけるエンジンフード16の変形を制御(低減)することができる。具体的には、エンジンフード16に瞬間的に外部から衝撃が加わったとき、エンジンフード16の変形を許容して、シート材20が荷重を受けつつ変形することで、衝撃を逃がすことができる。従って、エンジンルームカバー18によれば、車両10の歩行者安全性能を向上することができる。
【0023】
エンジンルームカバー18は、使用状態にあるシート材20によって装置14を覆うので、エンジンルーム12の見栄えを向上することができる。エンジンルームカバー18は、係合受部26または開口部12aに合わせてシート材20の前後寸法を設定することで、使用状態において、たるみを少なくした状態でシート材20を張って、見栄えをよくすることができる。また、エンジンルームカバー18は、開口部12aよりもシート材20の前後寸法を大きくしておけば、ロール機構22からシート材20を引き出して車両10に合わせることができ、複数の車種に1種類のエンジンルームカバー18で対応することも可能となる。
【0024】
エンジンルームカバー18は、シート材20をロール機構22に巻き取って装置14の上方から退避させた収納状態にすることができる。従って、装置14をメンテナンスするときに、シート材20を収納状態とすれば、シート材20がメンテナンスの邪魔にならず、サービス性に優れている。そして、シート材20をロール機構22から引き出すだけで、使用状態にすることができ、使い勝手がよい。
【0025】
エンジンルームカバー18は、使用状態にあるシート材20が、エンジンフード16および装置14から離して配置されるので、シート材20およびエンジンフード16の間に独立した空気層(上側空間)が形成されると共に、シート材20および装置14の間に独立した空気層(下側空間)が形成される。このように、エンジンルームカバー18は、シート材20で区分された2つの独立した空気層を形成して、上側空間と下側空間との間で空気の移動を制限することで、遮音性や吸音性などの音特性および断熱性などの熱特性を向上することができる。
【0026】
エンジンルームカバー18は、ロール機構22によってシート材20に巻き取り方向の力を付与すると共に、保持手段24,26によって使用状態でシート材20を保持可能である。エンジンルームカバー18は、使用状態にあるシート材20がロール機構22によってテンションがかけられ、たるみによる装置14との干渉を防止できると共に、見栄えがよくなる。そして、エンジンルームカバー18は、シート材20を使用状態から収納状態とするとき、ロール機構22によって巻き取りが補助されるので、使い勝手がよい。
【0027】
(変更例)
前述した構成に限らず、例えば以下のようにしてもよい。
(1)保持手段は、前述した構成に限らない。例えば、シート材に磁石を設けて、鉄製の構造体や装置に磁石で取り付ける構成や、シート材または車両側にクリップを設けて、相手方をクリップで挟んでシート材を使用状態で保持するなど、様々な構成を採用可能である。
(2)ロール機構から引き出したシート材の縁部を、エンジンフードに取り付けてもよい。この場合、エンジンフードの開閉に合わせてシート材がロール機構から巻き出しまたは巻き取りされるようにすればよい。
(3)シート材の上面、下面または両面に文字や絵柄等を設けてもよい。文字や絵柄は、例えば、スクリーン印刷等で行えばよい。
(4)シート材は、エンジンルームを全体的に覆ってもよいが、一部のみを覆ってもよい。この場合、エンジン等の特に騒音や熱が発生する部位の上側に配置するとよい。
(5)シート材は、複数設けてもよい。この場合、例えば、あるシート材をエンジンルームに取り付け、別のシート材をエンジンフードに取り付けるなど、取り付け対象を変えてもよい。複数のシート材を設けることで、上側空間および下側空間に加えて中央空間を設けるなど、空間を上下方向に複数の層に区切ることができ、空気の移動をより制限することができる。なお、複数のシート材は、同じ構成としてもよく、異なる構成としてもよい。
【符号の説明】
【0028】
10 車両,12 エンジンルーム,14 装置,16 エンジンフード,
20 シート材,22 ロール機構,24 係合部(保持手段),
26 係合受部(保持手段)