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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】電気化学反応セルスタック
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0228 20160101AFI20230303BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20230303BHJP
   H01M 8/0215 20160101ALI20230303BHJP
   H01M 8/021 20160101ALI20230303BHJP
   C25B 1/042 20210101ALI20230303BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20230303BHJP
   C25B 9/65 20210101ALI20230303BHJP
   C25B 13/04 20210101ALI20230303BHJP
【FI】
H01M8/0228
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
H01M8/0215
H01M8/021
C25B1/042
C25B9/00 A
C25B9/65
C25B13/04 301
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019166185
(22)【出願日】2019-09-12
(65)【公開番号】P2021044178
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2021-02-01
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519322392
【氏名又は名称】森村SOFCテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 吉晃
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-062145(JP,A)
【文献】特開2018-181745(JP,A)
【文献】特開2018-152255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/021-8/0228
H01M 8/12
C25B 1/042
C25B 9/00
C25B 9/65
C25B 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物を含む電解質層と前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極とを含む電気化学反応単セルと、前記電気化学反応単セルの前記空気極側および前記燃料極側の少なくとも一方に配置され、前記空気極に電気的に接続される集電部材と、を備える複数の電気化学反応単位を備える電気化学反応セルスタックにおいて、
前記複数の電気化学反応単位のうちの少なくとも1つに備えられた前記集電部材は、FeとCrとを含む導電性の基材と、前記基材の表面の少なくとも一部を覆う導電性のコートと、を備え、
前記コートは、Feを含み、かつ、前記コートにおけるFeの濃度(atm%)は、前記基材から離間するほど連続的または段階的に低くなっており、
前記コートにおけるFeの濃度(atm%)の最大値は、前記基材におけるFeの濃度(atm%)の最大値の20%以下である、
ことを特徴とする電気化学反応セルスタック。
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学反応セルスタックにおいて、さらに、
前記少なくとも1つの前記電気化学反応単位は、前記電気化学反応単セルと前記集電部材とを接合し、Coを含む導電性の接合部を備え、
前記コートは、さらに、Coを含み、前記コートにおける前記基材側のCoの濃度(atm%)は、前記接合部におけるCoの濃度(atm%)より低い、
ことを特徴とする電気化学反応セルスタック。
【請求項3】
請求項2に記載の電気化学反応セルスタックにおいて、
前記コートは、さらに、Mnを含み、前記コートにおけるCoの濃度(atm%)は、前記コートにおけるMnの濃度(atm%)の70%以上である、
ことを特徴とする電気化学反応セルスタック。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の電気化学反応セルスタックにおいて、
前記コートは、さらに、MnとCoとを含む
ことを特徴とする電気化学反応セルスタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、電気化学反応セルスタックに関する。
【背景技術】
【0002】
水素と酸素との電気化学反応を利用して発電を行う燃料電池の1つとして、固体酸化物形の燃料電池(以下、「SOFC」という)が知られている。SOFCの構成単位である燃料電池発電単位(以下、「発電単位」という)は、燃料電池単セル(以下、「単セル」という)と、導電性の集電部材とを備える。単セルは、電解質層と、電解質層を挟んで所定の方向に互いに対向する空気極および燃料極とを含む。集電部材は、単セルを構成する空気極または燃料極に電気的に接続される。
【0003】
一般に、単セルの空気極側に配置される集電部材は、Fe(鉄)とCr(クロム)とを含む導電性の基材と、該基材の表面の少なくとも一部を覆う導電性のコートと、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/152924号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、Feを含むコートを用いれば、基材とコートとの接合強度を向上させることができる。しかし、コートにおけるFeの含有量が多いほど、コートの内部においてFeとコートに含まれる他の材料とが反応して高抵抗の化合物が生成され、その結果、コートの導電性が低下する、という問題が生じる。一方、コートの導電性の低下を抑制するために、コートにおけるFeの含有量を少なくすると、基材とコートとの接合強度が低下し、その結果、例えば基材とコートとの境界付近でクラックが発生するおそれがある。すなわち、従来の技術では、コートと基材との接合強度の確保と、Feに起因するコートの抵抗値の増大の抑制とを両立することができなかった。
【0006】
なお、このような課題は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形の電解セル(以下、「SOEC」という。)の構成単位である電解単セルを複数備える電解セルスタックにも共通の課題である。なお、本明細書では、燃料電池単セルと電解単セルとをまとめて電気化学反応単セルと呼び、燃料電池スタックと電解セルスタックとをまとめて電気化学反応セルスタックと呼ぶ。
【0007】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示される技術は、以下の形態として実現することが可能である。
【0009】
(1)本明細書に開示される電気化学反応セルスタックは、固体酸化物を含む電解質層と前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極とを含む電気化学反応単セルと、前記電気化学反応単セルの前記空気極側および前記燃料極側の少なくとも一方に配置され、前記空気極に電気的に接続される集電部材と、を備える複数の電気化学反応単位を備える電気化学反応セルスタックにおいて、前記複数の電気化学反応単位のうちの少なくとも1つに備えられた前記集電部材は、FeとCrとを含む導電性の基材と、前記基材の表面の少なくとも一部を覆う導電性のコートと、を備え、前記コートは、Feを含み、かつ、前記コートにおけるFeの濃度(atm%)は、前記基材から離間するほど低くなっている。
【0010】
本電気化学反応セルスタックでは、FeとCrとを含む基材の表面を覆うコートは、Feを含み、かつ、コートにおけるFeの濃度(atm%)は、基材から離間するほど低くなっている。このため、コートにおける基材側では、Feの濃度が相対的に高いことによって、コートと基材とのFeをともに含むことによる接合強度が確保される。また、コートにおける基材から離間した側では、Feの濃度が相対的に低いことによって、Feが含まれることに起因するコート全体の抵抗値の増大が抑制される。これにより、本電気化学反応セルスタックによれば、コートにおけるFeの濃度が均一である構成に比べて、コートと基材との接合強度の確保と、Feに起因するコートの抵抗値の増大の抑制とを両立することができる。
【0011】
(2)上記電気化学反応セルスタックにおいて、さらに、前記少なくとも1つの前記電気化学反応単位は、前記電気化学反応単セルと前記集電部材とを接合し、Coを含む導電性の接合部を備え、前記コートは、さらに、Coを含み、前記コートにおける前記基材側のCoの濃度(atm%)は、前記接合部におけるCoの濃度(atm%)より低い構成としてもよい。
【0012】
コートおよび接合部は、Coを含むことにより、導電性を向上させることができる。一方、一般的に、基材におけるCoの濃度は極めて低い。また、コートと基材とのCoの濃度差が大きいほど、コートと基材との熱膨張差が大きくなり、その結果、例えば、熱サイクルにおいて基材にクラックが発生するおそれがある。これに対して、本電気化学反応セルスタックでは、コートにおける基材側のCoの濃度(atm%)は、接合部におけるCoの濃度(atm%)より低い。これにより、本電気化学反応セルスタックによれば、コートにおける基材側のCoの濃度が、接合部におけるCoの濃度と同等以上である構成に比べて、コートと基材とのCoの濃度差に起因する熱膨張差を低減することができる。
【0013】
(3)上記電気化学反応セルスタックにおいて、前記コートは、さらに、Mnを含み、前記コートにおけるCoの濃度(atm%)は、前記コートにおけるMnの濃度(atm%)の70%以上である構成としてもよい。
【0014】
本電気化学反応セルスタックでは、コートにおけるCoの濃度(atm%)は、コートにおけるMnの濃度(atm%)の70%以上である。このため、本電気化学反応セルスタックによれば、コートにおけるCoの濃度が、コートにおけるMnの濃度の70%未満である構成に比べて、Coの濃度低下に起因するコートの抵抗値の増加を抑制することができる。
【0015】
(4)上記電気化学反応セルスタックにおいて、前記コートは、さらに、MnとCoとを含み、前記コートにおけるFeの濃度(atm%)の最大値は、前記基材におけるFeの濃度(atm%)の最大値の20%以下である構成としてもよい。
【0016】
本電気化学反応セルスタックでは、コートにおけるFeの濃度(atm%)の最大値は、基材におけるFeの濃度(atm%)の最大値の20%以下である。このため、本電気化学反応セルスタックによれば、コートにおける基材側のFeの濃度が、基材におけるFeの濃度の最大値の20%より高い構成に比べて、Feに起因するコートの抵抗値の増大を抑制することができる。
【0017】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、電気化学反応セルスタック(燃料電池スタックまたは電解セルスタック)、電気化学反応セルスタックを備える電気化学反応システム(燃料電池システムまたは電解セルシステム)、それらの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図である。
図2】発電単位102の構成を概略的に示す説明図(XZ断面図)である。
図3】発電単位102の構成を概略的に示す説明図(YZ断面図)である。
図4】発電単位102の構成を概略的に示す説明図(XY断面図)である。
図5】発電単位102の構成を概略的に示す説明図(XY断面図)である。
図6】コート136付近における各成分元素の濃度(atm%)を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
A.実施形態:
A-1.構成:
(燃料電池スタック100の構成)
図1は、本実施形態における燃料電池スタック100の構成を概略的に示す外観斜視図である。図1には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸を示している。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶものとするが、燃料電池スタック100がそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。図2以降についても同様である。
【0020】
燃料電池スタック100は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向)に並べて配置された複数(本実施形態では7つ)発電単位102と、7つの発電単位102を上下から挟むように配置された一対のエンドプレート104,106とを備える。図1に示す燃料電池スタック100に含まれる発電単位102の個数は、あくまで一例であり、発電単位102の個数は燃料電池スタック100に要求される出力電圧等に応じて適宜決められる。なお、上記配列方向(上下方向)は、特許請求の範囲における第1の方向に相当する。
【0021】
燃料電池スタック100のZ方向回りの周縁部には、上側のエンドプレート104から下側のエンドプレート106にわたって上下方向に延びる複数の(本実施形態では8つの)貫通孔108が形成されている。各貫通孔108に挿入されたボルト22とボルト22にはめられたナット24とによって、燃料電池スタック100を構成する各層は締め付けられて固定されている。
【0022】
各ボルト22の軸部の外径は各貫通孔108の内径より小さい。そのため、各ボルト22の軸部の外周面と各貫通孔108の内周面との間には、空間が確保されている。燃料電池スタック100のZ方向回りの外周における1つの辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22A)と貫通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から酸化剤ガスOGが導入され、その酸化剤ガスOGを各発電単位102に供給するガス流路である酸化剤ガス導入マニホールド161として機能し、該辺の反対側の辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22B)と貫通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の空気室166から排出されたガスである酸化剤オフガスOOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する酸化剤ガス排出マニホールド162として機能する(図2参照)。また、燃料電池スタック100のZ方向回りの外周における他の辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22D)と貫通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から燃料ガスFGが導入され、その燃料ガスFGを各発電単位102に供給する燃料ガス導入マニホールド171として機能し、該辺の反対側の辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22E)と貫通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の燃料室176から排出されたガスである燃料オフガスFOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する燃料ガス排出マニホールド172として機能する(図3参照)。なお、本実施形態では、酸化剤ガスOGとして例えば空気が使用され、燃料ガスFGとして例えば都市ガスを改質した水素リッチなガスが使用される。
【0023】
(エンドプレート104,106の構成)
一対のエンドプレート104,106は、導電性を有し、略矩形の平板形状の部材であり、Fe(鉄)とCr(クロム)とを含む導電性の材料(例えばステンレス等の金属)により形成されている。一方のエンドプレート104は、最も上に位置する発電単位102の上側に配置され、他方のエンドプレート106は、最も下に位置する発電単位102の下側に配置されている。一対のエンドプレート104,106によって複数の発電単位102が押圧された状態で挟持されている。上側のエンドプレート104は、燃料電池スタック100のプラス側の出力端子として機能し、下側のエンドプレート106は、燃料電池スタック100のマイナス側の出力端子として機能する。
【0024】
(発電単位102の構成)
図2から図5は、発電単位102の構成を概略的に示す説明図である。図2には、図1図4および図5のII-IIの位置における発電単位102の断面構成を示しており、図3には、図1図4および図5のIII-IIIの位置における発電単位102の断面構成を示しており、図4には、図2のIV-IVの位置における発電単位102の断面構成を示しており、図5には、図2のV-Vの位置における発電単位102の断面構成を示している。
【0025】
図2および図3に示すように、発電の最小単位である発電単位102は、単セル110と、セパレータ120と、空気極側フレーム130と、空気極側集電体134と、燃料極側フレーム140と、燃料極側集電体144と、発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ150とを備えている。セパレータ120、空気極側フレーム130、燃料極側フレーム140、インターコネクタ150におけるZ方向回りの周縁部には、上述したボルト22が挿入される貫通孔108に対応する孔が形成されている。
【0026】
インターコネクタ150は、導電性を有し、略矩形の平板形状の部材であり、FeとCrとを含む導電性の材料(例えばフェライト系ステンレス等の金属)により形成されている。インターコネクタ150は、発電単位102間の電気的導通を確保すると共に、発電単位102間での反応ガスの混合を防止する。なお、本実施形態では、2つの発電単位102が隣接して配置されている場合、1つのインターコネクタ150は、隣接する2つの発電単位102に共有されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ150は、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ150と同一部材である。また、燃料電池スタック100は一対のエンドプレート104,106を備えているため、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えておらず、最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていない。
【0027】
単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んで上下方向(発電単位102が並ぶ配列方向)に互いに対向する空気極(カソード)114および燃料極(アノード)116とを備える。なお、本実施形態の単セル110は、燃料極116で電解質層112および空気極114を支持する燃料極支持形の単セルである。
【0028】
電解質層112は、略矩形の平板形状部材であり、少なくともZrを含んでおり、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、CaSZ(カルシア安定化ジルコニア)等の固体酸化物により形成されている。空気極114は、略矩形の平板形状部材であり、例えば、ペロブスカイト型酸化物(例えばLSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)、LSM(ランタンストロンチウムマンガン酸化物)、LNF(ランタンニッケル鉄))により形成されている。燃料極116は、略矩形の平板形状部材であり、例えば、Ni(ニッケル)、Niとセラミック粒子からなるサーメット、Ni基合金等により形成されている。このように、本実施形態の単セル110(発電単位102)は、電解質として固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。
【0029】
セパレータ120は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔121が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。セパレータ120における孔121の周囲部分は、電解質層112における空気極114の側の表面の周縁部に対向している。セパレータ120は、その対向した部分に配置されたロウ材(例えばAgロウ)により形成された接合部124により、電解質層112(単セル110)と接合されている。セパレータ120により、空気極114に面する空気室166と燃料極116に面する燃料室176とが区画され、単セル110の周縁部における一方の電極側から他方の電極側へのガスのリークが抑制される。なお、セパレータ120が接合された単セル110をセパレータ付き単セルともいう。
【0030】
図2から図4に示すように、空気極側フレーム130は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、マイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム130の孔131は、空気極114に面する空気室166を構成する。空気極側フレーム130は、セパレータ120における電解質層112に対向する側とは反対側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、空気極側フレーム130によって、発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ150間が電気的に絶縁される。また、空気極側フレーム130には、酸化剤ガス導入マニホールド161と空気室166とを連通する酸化剤ガス供給連通孔132と、空気室166と酸化剤ガス排出マニホールド162とを連通する酸化剤ガス排出連通孔133とが形成されている。
【0031】
図2図3および図5に示すように、燃料極側フレーム140は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。燃料極側フレーム140の孔141は、燃料極116に面する燃料室176を構成する。燃料極側フレーム140は、セパレータ120における電解質層112に対向する側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、燃料極側フレーム140には、燃料ガス導入マニホールド171と燃料室176とを連通する燃料ガス供給連通孔142と、燃料室176と燃料ガス排出マニホールド172とを連通する燃料ガス排出連通孔143とが形成されている。
【0032】
図2図3および図5に示すように、燃料極側集電体144は、燃料室176内に配置されている。燃料極側集電体144は、インターコネクタ対向部146と、複数の電極対向部145と、各電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ連接部147とを備えており、例えば、ニッケルやニッケル合金、ステンレス等により形成されている。具体的には、燃料極側集電体144は、方形の平板形部材に切り込みを入れ、複数の方形部分を曲げ起こすように加工することにより製造される。曲げ起こされた方形部分が電極対向部145となり、曲げ起こされた部分以外の穴あき状態の平板部分がインターコネクタ対向部146となり、電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ部分が連接部147となる。なお、図5における部分拡大図では、燃料極側集電体144の製造方法を示すため、複数の方形部分の一部の曲げ起こし加工が完了する前の状態を示している。電極対向部145は、燃料極116における電解質層112に対向する側とは反対側の表面に接触しており、インターコネクタ対向部146は、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面に接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102におけるインターコネクタ対向部146は、下側のエンドプレート106に接触している。燃料極側集電体144は、このような構成であるため、燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)とを電気的に接続する。なお、電極対向部145とインターコネクタ対向部146との間には、例えばマイカにより形成されたスペーサー149が配置されている。そのため、燃料極側集電体144が温度サイクルや反応ガス圧力変動による発電単位102の変形に追随し、燃料極側集電体144を介した燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)との電気的接続が良好に維持される。
【0033】
図2から図4に示すように、空気極側集電体134は、空気室166内に配置されている。空気極側集電体134は、複数の略四角柱状の集電体要素135から構成されており、FeとCrとを含む導電性の材料(例えばフェライト系ステンレス等の金属)により形成されている。ここで、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面を、インターコネクタ150の空気室側表面152という。複数の集電体要素135は、上下方向(Z方向)に直交する面方向(X方向、Y方向)において互いに間隔を空けつつ、空気室側表面152から突出するように形成されている。以下、空気極側集電体134のうち、空気極114側への突出方向の先端部を、空気極側集電体134の先端部135Bという。また、空気極側集電体134のうち、先端部135Bとインターコネクタ150の空気室側表面152とをつなぐ側面部を、空気極側集電体134の側面部135Cという。空気極側集電体134の先端部135Bは、空気極114における電解質層112に対向する側とは反対側の表面に接触している。インターコネクタ150および空気極側集電体134は、特許請求の範囲における基材に相当する。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102における空気極側集電体134は、上側のエンドプレート104に接触している。空気極側集電体134は、このような構成であるため、空気極114とインターコネクタ150(またはエンドプレート104)とを電気的に接続する。この場合、上側のエンドプレート104および空気極側集電体134は、特許請求の範囲における基材に相当する。なお、空気極側集電体134とインターコネクタ150とが一体の部材として形成されていてもよい。
【0034】
図2および図3に示すように、空気極側集電体134の表面(先端部135Bおよび側面部135Cの表面)と、インターコネクタ150の空気室側表面152(上側のエンドプレート104における空気極114に対向する側の表面)とは、導電性のコート136によって覆われている。なお、空気極側集電体134に対する熱処理によって酸化クロムの被膜ができることがあるが、その場合には、コート136は、当該被膜ではなく、当該被膜が形成された空気極側集電体134を覆うように形成された層である。導電性の基材(空気極側集電体134(または集電体要素135)およびインターコネクタ150(上側のエンドプレート104)と、該基材の表面を覆うコート136とは、特許請求の範囲における集電部材(以下、「集電部材200」という)に相当する。コート136の詳細構成は後述する。
【0035】
空気極114と空気極側集電体134とは、導電性の接合層138により接合されている。接合層138は、Co(コバルト)を含む導電性の材料(例えば、Mn1.5Co1.5やMnCo、ZnCo、ZnMnCoO等のスピネル型酸化物)により形成されている。接合層(接合部)138は、例えば、接合層用のペーストが空気極114の表面の内、空気極側集電体134を構成する各集電体要素135の先端部と対向する部分に印刷され、各集電体要素135の先端部がペーストに押し付けられた状態で所定の条件で焼成されることにより形成される。接合層138により、空気極114と空気極側集電体134とが電気的に接続される。先に、空気極側集電体134は空気極114の表面と接触していると述べたが、正確には、(コート136に覆われた)空気極側集電体134と空気極114との間には接合層138が介在している。接合層138は、特許請求の範囲における接合部に相当する。
【0036】
A-2.燃料電池スタック100における発電動作:
図2に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161に酸化剤ガスOGが供給されると、酸化剤ガスOGは、酸化剤ガス導入マニホールド161から各発電単位102の酸化剤ガス供給連通孔132を経て、空気室166に供給される。また、図3に示すように、燃料ガス導入マニホールド171に燃料ガスFGが供給されると、燃料ガスFGは、燃料ガス導入マニホールド171から各発電単位102の燃料ガス供給連通孔142を経て、燃料室176に供給される。
【0037】
各発電単位102の空気室166に酸化剤ガスOGが供給され、燃料室176に燃料ガスFGが供給されると、単セル110において酸化剤ガスOGおよび燃料ガスFGの電気化学反応による発電が行われる。各発電単位102において、単セル110の空気極114は空気極側集電体134(およびコート136、接合層138)を介して一方のインターコネクタ150に電気的に接続され、燃料極116は燃料極側集電体144を介して他方のインターコネクタ150に電気的に接続されている。また、燃料電池スタック100に含まれる複数の発電単位102は、直列に接続されている。そのため、燃料電池スタック100の出力端子として機能するエンドプレート104,106から、各発電単位102において生成された電気エネルギーが取り出される。なお、SOFCは、比較的高温(例えば摂氏700度から1000度)で発電が行われることから、起動後、発電により発生する熱で高温が維持できる状態になるまで、燃料電池スタック100が加熱器により加熱されてもよい。
【0038】
酸化剤オフガスOOG(各発電単位102において発電反応に利用されなかった酸化剤ガス)は、図2に示すように、空気室166から酸化剤ガス排出連通孔133、酸化剤ガス排出マニホールド162を経て、燃料電池スタック100の外部に排出される。また、燃料オフガスFOG(各発電単位102において発電反応に利用されなかった燃料ガス)は、図3に示すように、燃料室176から燃料ガス排出連通孔143、燃料ガス排出マニホールド172を経て、燃料電池スタック100の外部に排出される。
【0039】
A-3.コート136の詳細構成:
上述したように、集電部材200のコート136は、基材(空気極側集電体134(または集電体要素135)およびインターコネクタ150(上側のエンドプレート104))のうち、空気室166側(空気極114に対向する側)の表面全体(空気極側集電体134の先端部135Bおよび側面部135Cの表面、インターコネクタ150の空気室側表面152(上側のエンドプレート104における空気極114に対向する側の表面))を覆っている。基材は、FeとCrとを含む導電性の材料により形成されており、コート136は、Feを含む導電性の材料により形成されている。本実施形態では、コート136は、Feに加えて、O(酸素)とMn(マンガン)とCoとを含んでいる。コート136が、Feに比べて導電性が高い材料(MnやCo等)を含むことにより、コート136の抵抗値が小さくなり、導電性が向上する。より具体的には、コート136は、マンガンとコバルトとを含むスピネル型酸化物(例えば、Mn1.5Co1.5、MnCo)により形成されている。
【0040】
ここで、コート136は、Feの濃度(atm%)に関し、少なくとも次の第1の要件を満たす。
<第1の要件>
コート136におけるFeの濃度は、基材から離間するほど低くなっている。
コート136におけるFeの濃度は、コート136の成分元素のうちの酸素を除く成分元素におけるFeの原子数割合(atm%)を意味する。
例えば、コート136のうち、コート136と基材との境界付近におけるFeの濃度に比べて、該境界から基材とは反対側に離間したコート136の内部におけるFeの濃度が低くなっていれば、第1の要件を満たす。コート136におけるFeの濃度は、基材(境界付近)から離間する位置(コート136の内部)に向けて連続的に低くなっていてもよいし、段階的に低くなっていてもよい。
【0041】
なお、第1の要件を満たすコート136を形成する方法は、例えば次の通りである。一の方法は、O(酸素)とMnとCoとに加えてFeを含む液体を、スプレーコートにより基材の表面に塗布してコート136を形成する方法である。これにより、基材の表面付近において、コート136に含まれるFeと基材に含まれるFeとが相互に拡散し、その結果、コート136におけるFeの濃度が、基材から離間するほど低くなる。また、別の方法は、Feの濃度が互いに異なる複数の層を積層してコート136を形成する方法である。例えば、基材の表面上にFeを含む第1のコート層を形成し、その第1のコート層の上にFeを含まない第2のコート層を形成し、その結果、コート136におけるFeの濃度が、基材から離間するほど低くなる。
【0042】
さらに、コート136は、Coの濃度に関し、次の第2の要件を満たすことが好ましい。
<第2の要件>
コート136における基材側のCoの濃度(atm%)は、接合層138におけるCoの濃度(atm%)より低い。
コート136におけるCoの濃度は、コート136の成分元素のうちの酸素を除く成分元素におけるCoの原子数割合(atm%)を意味し、接合層138におけるCoの濃度は、接合層138の成分元素のうちの酸素を除く成分元素におけるFeの原子数割合(atm%)を意味する。
なお、コート136と接合層138との境界の特定方法は後述する。
【0043】
さらに、コート136は、Coの濃度およびMnの濃度に関し、次の第3の要件を満たすことが好ましい。
<第3の要件>
コート136におけるCoの濃度(atm%)は、コート136におけるMnの濃度(atm%)の70%以上である。
コート136におけるMnの濃度は、コート136の成分元素のうちの酸素を除く成分元素におけるMnの原子数割合(atm%)を意味する。
【0044】
さらに、コート136は、Feの濃度に関し、次の第4の要件を満たすことが好ましい。
<第4の要件>
コート136におけるFeの濃度(atm%)の最大値は、基材におけるFeの濃度(atm%)の最大値の20%以下である。
基材におけるFeの濃度は、基材のうち、該基材の厚み方向(コート136と基材の表面とが対向する方向)の中心付近におけるFeの濃度である。
【0045】
図6は、本実施形態のコート136付近における各成分元素の濃度(atm%)を示す説明図である。具体的には、図6には、接合層138とコート136と基材とにおけるFeの濃度とCoの濃度とMnの濃度とのそれぞれの推移のグラフの一例が図示されている。図6の縦軸は、各成分元素の濃度であり、横軸は、接合層138とコート136と基材とにおけるコート136の厚み方向(コート136と基材の表面とが対向する方向)の位置を示す。符号H1が示す位置は、接合層138とコート136との境界(以下、「第1の境界H1」という)であり、符号H2が示す位置は、コート136と基材との境界(以下、「第2の境界H2」という)である。
【0046】
なお、各成分元素の濃度は、走査型電子顕微鏡(SEM)に付属されたエネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いて元素分析することにより、特定することができる。また、第1の境界H1の位置の特定方法は、次の通りである。図6に示すようにFeの濃度は、基材におけるFeの濃度のピーク(変曲点)からコート136側に向かって低減していく。このFeの濃度の低減領域において、Feのピークの濃度が0.8atm%となる位置を、第1の境界H1の位置として特定する。第2の境界H2の位置の特定方法は、Feの濃度のピークのうち、Crの濃度のピークよりコート136側に存在するピークの位置であるとする。なお、図6に示すように、基材における第2の境界H2の近傍には、Crの濃度が極めて高いピークが存在する。この要因は、基材の表面より若干、基材の内部側に位置する部分(図6のΔZ1参照)に、基材に含まれたCrにより生成されたクロミア層が形成されているからであると考えられる。この結果、第2の境界H2の位置を示す上記Feのピークが、該Crのピークよりコート136側に存在すると考えられる。なお、Crの濃度のピークよりコート136側に存在するFeのピークの濃度は、例えば5atm%以上、15atm%以下である。
【0047】
図6に示すように、Feの濃度のグラフによれば、基材にはFeが含まれており、接合層138にはFeがほとんど含まれていない。コート136では、第1の境界H1付近におけるFeの濃度が最も高く、第2の境界H2付近におけるFeの濃度が最も低くなっており、第1の境界H1から第2の境界H2に近づくに連れて、Feの濃度が連続的に低くなっている。すなわち、図6におけるコート136は、上述の第1の要件を満たす。
【0048】
Coの濃度のグラフによれば、コート136における基材(第2の境界H2)側のCoの濃度は、接合層138におけるCoの濃度より低い。コート136における基材側とは、コート136のうち、コート136と接合層138との境界(第2の境界H2)から基材とは反対側に5μmまでの領域(図6のΔZ2参照)であるとする。すなわち、図6におけるコート136は、上述の第2の要件を満たす。ただし、図6では、コート136における接合部(第1の境界H1)側の濃度は、コート136における基材側のCoの濃度に比べて高い。これにより、コート136における接合部側の濃度がコート136における基材側のCoの濃度と同程度である構成に比べて、コート136の全体におけるCoの濃度が高いため、コート136の導電性を向上させることができる。なお、図6では、コート136におけるCoの濃度は、第1の境界H1から第2の境界H2に近づくに連れて連続的に低くなっている。また、接合層138におけるCoの濃度は、第1の境界H1に近づくに連れて連続的に低くなっている。
【0049】
Coの濃度およびMnの濃度のグラフによれば、コート136におけるCoの濃度の平均値は、コート136におけるMnの濃度の平均値の70%以上である。すなわち、図6におけるコート136は、上述の第3の要件を満たす。なお、コート136におけるCoの濃度は、コート136におけるMnの濃度の80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
【0050】
Feの濃度のグラフによれば、コート136におけるFeの濃度の最大値P1は、基材におけるFeの濃度の最大値P2の20%以下である。なお、コート136におけるFeの濃度の最大値P1は、基材におけるFeの濃度の最大値P2の15%以下であることがより好ましい。なお、接合層138の上下方向の厚さは、例えば5μm以上、30μmであり、コート136の上下方向の厚さは、例えば5μm以上、20μmである。
【0051】
A-4.本実施形態の効果:
上述したように、本実施形態の集電部材200の基材は、Crを含む金属により形成されている。このような基材が、燃料電池スタック100の作動中に例えば摂氏700度から1000度程度の高温の雰囲気にさらされると、基材の表面からCrが放出されて拡散する「Cr拡散」と呼ばれる現象が発生することがある。Cr拡散が発生すると、基材がCr欠乏によって異常酸化したり、拡散したCrが空気極114の表面に付着して空気極114での電極反応速度が低下する「空気極のCr被毒」と呼ばれる現象が発生したりすることがあるため、好ましくない。これに対しては、上述したように、本実施形態における燃料電池スタック100では、集電部材200のコート136は、基材のうち、空気室166側の表面全体を覆っている。これにより、基材からのCr拡散を抑制することができる。
【0052】
また、本実施形態では、FeとCrとを含む基材の表面を覆うコート136は、Feを含み、かつ、コート136におけるFeの濃度(atm%)は、基材から離間するほど低くなっている(上記第1の要件)。このため、コート136における基材側では、Feの濃度が相対的に高いことによって、コート136と基材とのFeをともに含むことによる接合強度が確保される。また、コート136における基材から離間した側では、Feの濃度が相対的に低いことによって、Feが含まれることに起因するコート136全体の抵抗値の増大が抑制される。これにより、本実施形態によれば、コート136におけるFeの濃度が均一である構成に比べて、コート136と基材との接合強度の確保と、Feに起因するコート136の抵抗値の増大の抑制とを両立することができる。
【0053】
また、本実施形態では、コート136および接合層138は、Coを含むことにより、導電性を向上させることができる。一方、一般的に、基材におけるCoの濃度は極めて低い。また、コート136と基材とのCoの濃度差が大きいほど、コート136と基材との熱膨張差が大きくなり、その結果、例えば、熱サイクルにおいて基材にクラックが発生するおそれがある。これに対して、本実施形態では、コート136における基材側のCoの濃度(atm%)は、接合層138におけるCoの濃度(atm%)より低い(上記第2の要件)。これにより、本実施形態によれば、コート136における基材側のCoの濃度が、接合層138におけるCoの濃度と同等以上である構成に比べて、コート136と基材とのCoの濃度差に起因する熱膨張差を低減することができる。
【0054】
また、本実施形態では、コート136におけるCoの濃度(atm%)の平均値は、コート136におけるMnの濃度(atm%)の平均値の70%以上である(第3の要件)。このため、本実施形態によれば、コート136におけるCoの濃度が、コート136におけるMnの濃度の70%未満である構成に比べて、Coの濃度低下に起因するコート136の抵抗値の増加を抑制することができる。
【0055】
また、本実施形態では、コート136におけるFeの濃度(atm%)の最大値は、基材におけるFeの濃度(atm%)の最大値の20%以下である(第4の要件)。このため、本実施形態によれば、コート136における基材側のFeの濃度が、基材におけるFeの濃度の最大値の20%より高い構成に比べて、Feに起因するコート136の抵抗値の増大を抑制することができる。
【0056】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の各実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0057】
上記実施形態では、集電部材200のコート136は、マンガンとコバルトとを含むスピネル型酸化物により形成されているとしたが、コート136は、Feを含んでいればよく、例えば、スピネル型酸化物以外の酸化物を含むとしてもよい。また、コート136は、さらに、酸素、マンガンおよびコバルト以外の成分元素(例えば、亜鉛(Zn)、銅(Cu))を含んでいてもよい。
【0058】
上記実施形態では、コート136は、基材のうち、空気室166側の表面全体を覆っていたが、コート136は、基材のうち、空気室166側の表面の少なくとも一部を覆っていればよい。例えば、コート136は、空気極側集電体134の先端部135Bの表面と側面部135Cの表面とインターコネクタ150の空気室側表面152との少なくとも1つを覆っていてもよい。また、上記実施形態では、空気極114側の集電部材を覆うコート136を例示したが、燃料極116側の集電部材(燃料極側集電体144等)を覆うコートに本発明を適用してもよい。
【0059】
また、上記各実施形態において、空気極側集電体134と、隣接するインターコネクタ150とが別部材であってもよい。また、燃料極側集電体144は、空気極側集電体134と同様の構成であってもよく、燃料極側集電体144と、隣接するインターコネクタ150とが一体部材であってもよい。また、空気極側フレーム130ではなく燃料極側フレーム140が絶縁体であってもよい。また、空気極側フレーム130や燃料極側フレーム140は、多層構成であってもよい。
【0060】
また、上記実施形態において、集電部材200のコート136は、第2の要件から第4の要件のいずれかを満たさなくてもよい。また、上記実施形態では、燃料電池スタック100に含まれるすべての発電単位102について、コート136は第1の要件を満たすとしたが、燃料電池スタック100に含まれる少なくとも1つの発電単位102について、そのような構成となっていれば、集電部材200全体としての耐酸化性を向上させることができるという効果を奏する。
【0061】
また、上記実施形態では、燃料電池スタック100は複数の平板形の単セル110が積層された構成であるが、本発明は、他の構成、例えば国際公開第2012/165409号に記載されているように、複数の略円筒形の燃料電池単セルが直列に接続された構成にも同様に適用可能である。
【0062】
また、上記実施形態では、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素との電気化学反応を利用して発電を行うSOFCを対象としているが、本発明は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形の電解セル(SOEC)の最小単位である電解セル単位や、複数の電解セル単位を備える電解セルスタックにも同様に適用可能である。なお、電解セルスタックの構成は、例えば特開2016-81813号公報に記載されているように公知であるためここでは詳述しないが、概略的には上述した実施形態における燃料電池スタック100と同様の構成である。すなわち、上述した実施形態における燃料電池スタック100を電解セルスタックと読み替え、発電単位102を電解セル単位と読み替えればよい。ただし、電解セルスタックの運転の際には、空気極114がプラス(陽極)で燃料極116がマイナス(陰極)となるように両電極間に電圧が印加されると共に、貫通孔108を介して原料ガスとしての水蒸気が供給される。これにより、各電解セル単位において水の電気分解反応が起こり、燃料室176で水素ガスが発生し、貫通孔108を介して電解セルスタックの外部に水素が取り出される。このような構成の電解セル単位および電解セルスタックにおいても、上記実施形態と同様に、コート136は少なくとも第1の要件を満たすという構成を採用すれば、コート136と基材との接合強度の確保と、Feに起因するコート136の抵抗値の増大の抑制とを両立できるという効果を奏する。
【符号の説明】
【0063】
22:ボルト 24:ナット 100:燃料電池スタック 102:発電単位 104,106:エンドプレート 108:貫通孔 110:単セル 112:電解質層 114:空気極 116:燃料極 120:セパレータ 121:孔 124:接合部 130:空気極側フレーム 131:孔 132:酸化剤ガス供給連通孔 133:酸化剤ガス排出連通孔 134:空気極側集電体 135:集電体要素 135B:先端部 135C:側面部 136:コート 138:接合層 140:燃料極側フレーム 141:孔 142:燃料ガス供給連通孔 143:燃料ガス排出連通孔 144:燃料極側集電体 145:電極対向部 146:インターコネクタ対向部 147:連接部 149:スペーサー 150:インターコネクタ 152:空気室側表面 161:酸化剤ガス導入マニホールド 162:酸化剤ガス排出マニホールド 166:空気室 171:燃料ガス導入マニホールド 172:燃料ガス排出マニホールド 176:燃料室 200:集電部材 FG:燃料ガス FOG:燃料オフガス H1:第1の境界 H2:第2の境界 OG:酸化剤ガス OOG:酸化剤オフガス
図1
図2
図3
図4
図5
図6