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特許7237046大型低速2ストロークエンジン、そのようなエンジンを潤滑する方法、並びにそのようなエンジン及び方法のための噴射器、弁システム、及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】大型低速2ストロークエンジン、そのようなエンジンを潤滑する方法、並びにそのようなエンジン及び方法のための噴射器、弁システム、及びその使用
(51)【国際特許分類】
   F01M 1/08 20060101AFI20230303BHJP
   F01M 1/14 20060101ALI20230303BHJP
   F01M 1/16 20060101ALI20230303BHJP
   F01M 1/02 20060101ALI20230303BHJP
   F02B 25/00 20060101ALI20230303BHJP
【FI】
F01M1/08 E
F01M1/08 B
F01M1/14
F01M1/16 E
F01M1/02 Z
F02B25/00
【請求項の数】 2
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020147425
(22)【出願日】2020-09-02
(62)【分割の表示】P 2020532950の分割
【原出願日】2018-12-13
(65)【公開番号】P2021011872
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2021-12-09
(31)【優先権主張番号】PA201770936
(32)【優先日】2017-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(31)【優先権主張番号】PA201770940
(32)【優先日】2017-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】511081141
【氏名又は名称】ハンス イェンセン ルブリケイターズ アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100196221
【弁理士】
【氏名又は名称】上潟口 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】バック ペール
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-211531(JP,A)
【文献】特開2011-214690(JP,A)
【文献】特開2011-214693(JP,A)
【文献】特開2011-163386(JP,A)
【文献】特開平10-121931(JP,A)
【文献】特開2017-150537(JP,A)
【文献】特開2016-127266(JP,A)
【文献】特開2015-117834(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0148990(US,A1)
【文献】特開昭62-004977(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102014212690(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 1/08
F01M 1/14
F01M 1/16
F01M 1/02
F02B 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
静止弁部材(53)を備える弁システム(13、15)であって、
前記弁部材(53)は円筒形ブッシング(54)を備え、前記円筒形ブッシング(54)の内側に前記ブッシング(54)の円筒軸と等しい円筒軸を有する円筒形往復式部材(26’)が設けられ、前記往復式部材(26’)は、前記ブッシングの内側で前記円筒軸に沿って、第1位置と第2位置との間を往復式に移動可能であり、
横断管路(58)が、前記静止弁部材(53)を貫通しかつ前記ブッシング(54)を貫通して延び、前記横断管路(58)は、前記ブッシングの一方の側面に第1横断管路セクション(58A)を有し、前記ブッシング(54)の別の側面に第2横断管路セクション(58B)を有し、
前記往復式部材(26’)は、潤滑油が前記円筒軸を横切って前記往復式部材(26’)を通って又はその周囲を流動するための横断通過セクション(26A)を備え、前記往復式部材(26’)の前記通過セクション(26A)は、前記第1位置において前記横断管路(58)を閉じるために前記横断管路(58)から離間するように配置され、前記往復式部材(26’)の前記通過セクション(26A)は、前記第1横断管路セクション(58A)から前記通過セクション(26A)を通り前記第2横断管路セクション(58B)へ流動するために、前記第2位置でのみ前記横断管路(58)と整列するように配置され
第1管路(56)及び第2管路(58)が、前記静止弁部材(53)の中で、前記円筒軸と平行でかつ前記ブッシングの異なる側面に設けられ、前記第1管路(56)は、前記第1横断管路セクション(58A)を介して前記ブッシング(54)に接続され、前記第2管路(57)は、前記第2横断管路セクション(58B)を介して前記ブッシング(54)に接続され、
潤滑油が供給される後室(37)が設けられ、前記後室(37)は、前記第1管路(56)の端部開口部及び前記前記ブッシング(54)の端部開口部に接続され、これにより、潤滑油が、前記第1管路(56)の端部開口部を介して前記第1管路(56)に流入するとともに、前記ブッシング(54)の端部開口部を介して前記ブッシング(54)に流入し、さらに、潤滑油は、前記第1管路(56)から前記横断管路(58)の前記第1横断管路セクション(58A)に流入するが、前記往復式部材(26‘)による前記横断管路(58)の遮断により、前記横断管路(58)を介して前記第2管路(57)へは流れない、弁システム。
【請求項2】
請求項に記載の弁システム(13、15)の、25~100barの範囲の潤滑油圧力で大型低速2ストロークエンジンのシリンダの中へのSIP潤滑油噴射への使用方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型低速2ストロークエンジン、そのようなエンジンを潤滑する方法、並びにそのようなエンジン及び方法のための噴射器、弁システム、及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
環境保護への重点的な取り組みにより、船舶用エンジンからの排出物削減に関する努力が行われている。これには、このようなエンジンの潤滑システムを確実に最適化することも必要である。また、これには競争の激化が加わるとともに、船舶の運航コストのかなりの部分であるという理由でオイル消費の減少という経済的な側面も加わる。オイル消費の減少によってエンジンの寿命が損なわれるべきではないので、潤滑油の減少にも関わらず適切な潤滑を行うことがさらなる懸念となっている。従って、潤滑に関連する着実な改善が必要とされている。
【0003】
大型低速2ストローク船舶用ディーゼルエンジンの潤滑には、シリンダライナ上への潤滑油の噴射又はピストンリングへのオイルクイルの噴射を含む、いくつかの異なるシステムが存在する。
【0004】
船舶用エンジン用の潤滑油噴射器の一例は、欧州特許第1767751号に開示されており、シリンダライナ内部のノズル通路への潤滑油の経路を可能にするために逆止弁が使用されている。逆止弁は、ノズル通路のすぐ上流側の弁座に往復動式ばね押しボールを備え、ボールは加圧された潤滑油によって変位する。ボール弁は、例えば1923年の英国特許第214922号に開示されているように前世紀初頭まで遡る原理に基づいた伝統的な技術手段である。
【0005】
従来の潤滑と比較して、代替的な比較的新しい潤滑方法は、商業的スワールインジェクション型(SIP)と呼ばれる。これは、潤滑油の霧状の液滴の噴霧をシリンダ内部の掃気スワール渦に噴射することに基づく。潤滑油は、螺旋状に上方に向かうスワール渦によりシリンダの上死点(TDC)に向かって引き寄せられ、薄い均一な層としてシリンダ壁に外向きに押し付けられる。これについては、国際公開第2010/149162号及び国際公開第2016/173601号に詳細に説明されている。噴射器は、典型的には弁ニードルである往復動式弁部材が内部に設けられた噴射器ハウジングを備える。弁部材は、例えばニードル先端部を用いて、ノズル開口部への潤滑油の通路を正確なタイミングに従って開閉する。現在のSIPシステムでは、霧状の液滴の噴霧が通常35~40barの圧力で行われ、この圧力は、シリンダ内に導入される小さなオイル噴流と協働するシステムに使用される10bar未満の油圧よりもかなり高い。一部のタイプのSIP弁では、高圧の潤滑油を用いてばね式の弁部材をばね力に抗してノズル開口部から離して動かすことにより、高圧のオイルが霧状の液滴としてそこから放出されるようになる。オイルの排出は、弁部材上の油圧低下につながり、潤滑油噴射器に再び高圧の潤滑油が供給される次の潤滑油サイクルまで弁部材は元の位置に戻るようになる。
【0006】
このような大型船舶用エンジンでは、複数の噴射器がシリンダの周りに円形に配置され、各噴射器は、各噴射器からシリンダ内に潤滑油の噴流又は噴霧を供給するため、先端に1又は2以上のノズル開口部を備える。船舶用エンジンにおけるSIP潤滑油噴射器システムの例は、国際公開第2002/35068号、国際公開第2004/038189号、国際公開第2005/124112号、国際公開第2010/149162号、国際公開第2012/126480号、国際公開第2012/126473号、国際公開第2014/048438号、及び国際公開第2016/173601号に開示される。
【0007】
上記の国際公開第2012/126473号及び国際公開2016/173601号、並びに欧州特許第1426571号及び欧州特許第1586751号には、ノズルにおける電気機械式出口弁が開示されている。電気コイルは、対応する電磁応答部を備えた出口弁部材に電磁力を及ぼす。励磁時、出口弁部材は、ノズル開口部でその弁座から引き戻され、潤滑油供給源から弁部材を通過してノズルの外へ潤滑油が流れるように開く。実際には、電気機械式応答部を備えた出口弁部材は比較的長く、出口弁部材への作用に僅かな遅延をもたらす質量を有する。
【0008】
これらのシステムは出口弁部材の電気機械式作動を用いるが、オイル圧を用いて弁座から出口弁部材を押し戻すことも可能である。一例が欧州特許第1426571号に開示されており、電気機械式パイロット弁が使用され、出口弁部材後方のパイロット圧を切り替えることによってノズル開口部で出口弁を開閉するために、出口弁部材後方にパイロット圧を供給するようになっている。パイロット圧の切り替えは、出口弁後方の体積に流入及び流出する流れを必要とし、これが出口弁部材の迅速な動きを遅延させる。電気機械式出口弁と比較して、このパイロット型弁には、弁部材後方の体積を空にするために潤滑油の戻りラインを必要とするという不都合な点もあり、これがシステムのコスト及び複雑さを増大させ、漏れのリスクを高める。さらに、パイロット型噴射弁は、エンジンシリンダからの背圧に対して敏感である。
【0009】
しかしながら、SIP噴射の場合、オイル消費を最小限に抑えるという目的に加えて、正確に制御された時間調整が必須である。この理由から、SIPシステムは、噴射サイクルの間の迅速な反応応答のために最適化する必要がある。従って、改善に対する変わらない動機付けが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】欧州特許第1767751号
【文献】英国特許第214922号
【文献】国際公開第2010/149162号
【文献】国際公開第2016/173601号
【文献】国際公開第2002/35068号
【文献】国際公開第2004/038189号
【文献】国際公開第2005/124112号
【文献】国際公開第2010/149162号
【文献】国際公開第2012/126480号
【文献】国際公開第2012/126473号
【文献】国際公開第2014/048438号
【文献】国際公開第2016/173601号
【文献】欧州特許第1426571号
【文献】欧州特許第1586751号
【文献】欧州特許第1426571号
【文献】国際公開第2008/141650号
【文献】独国特許第102013104822号
【非特許文献】
【0011】
【文献】Rathesan Ravendran、外4名、「2ストローク船舶エンジンで使用される潤滑オイルのレオロジー挙動」、産業用潤滑及びトライボロジ、2017年、第69巻、第5号、p.750-753
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、当技術分野における改善をもたらすことである。特定の目的は、噴射器による潤滑油放出のより良い速度及び体積制御を提供することである。特に、大型低速2ストロークエンジンにおいてSIP弁で潤滑を改善することを目的とする。これらの目的は、以下で説明する、複数の噴射器を備えた大型低速2ストロークエンジン、そのようなエンジンを潤滑する方法、並びにそのようなエンジン及び方法のための噴射器、及びその使用によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
大型低速2ストロークエンジンは、内部に往復式ピストンを有するシリンダを備え、複数の噴射器が、噴射フェーズの間にシリンダの周囲の様々な位置に潤滑油を噴射するためにシリンダの周囲に沿って分散配置される。例えば、大型低速2ストロークエンジンは、船舶用エンジン又は発電プラントの大型エンジンである。一般的に、エンジンはディーゼル燃料又はガス燃料、例えば天然ガス燃料を燃焼させる。
【0014】
エンジンはさらに制御装置を備える。制御装置は、噴射フェーズの間に噴射器による潤滑油噴射の量及びタイミングを制御するように構成される。随意的に、制御装置によって噴射頻度も制御される。高精度噴射に関して、制御装置がコンピュータに電子的に接続される又はコンピュータを備えるとすると好都合であり、コンピュータは、エンジンの実際の状態及び動作に関するパラメータを監視する。このようなパラメータは、最適化された噴射の制御に役立つ。随意的に、制御装置は、既存のエンジンをアップグレードするためのアドオンシステムとして設けられる。さらなる有利なオプションは、制御装置を、監視用ディスプレイと、噴射プロファイル及び随意的にエンジンの状態に関するパラメータの調整及び/又はプログラミング用の入力パネルとを備えるヒューマンマシンインタフェース(HMI)へ接続することである。電子データ接続は、随意的に有線又は無線、もしくはそれらの組み合わせである。
【0015】
用語「噴射器」は、潤滑油入口と、潤滑油出口としてノズル開口部を備えた単一の噴射ノズルとを備えたハウジングと、ノズル開口部への潤滑油の通路を開閉するハウジング内部の可動部材とを備える噴射弁システムに使用される。噴射器は、シリンダ壁を貫通してシリンダ内に延びる単一のノズルを有するが、噴射器が適切に取り付けられる場合、ノズル自体は、随意的に複数の開口部を有する。例えば、複数の開口部を備えたノズルは、国際公開2012/126480号に開示される。
【0016】
用語「噴射フェーズ」は、潤滑油が噴射器によってシリンダ内に噴射されている時間に関して使用される。用語「アイドルフェーズ」は、各噴射フェーズの間の時間に関して使用される。用語「アイドル状態」は、アイドルフェーズにおける構成要素の状態に関して使用される。用語「アイドルフェーズ位置」は、アイドルフェーズの間にアイドル状態にある場合の可動構成要素の位置に関して使用され、これは、噴射フェーズ位置とは対照的である。用語「噴射サイクル」は、噴射シーケンスを開始して次の噴射シーケンスが始まるまでに掛かる時間に関して使用される。例えば、噴射シーケンスは単一の噴射を含み、その場合、噴射サイクルは、噴射フェーズの開始から次の噴射フェーズの開始までで計測される。噴射の「タイミング」という用語は、噴射器による噴射フェーズの開始をシリンダ内部のピストンの特定位置に対して相対的に調整することに関して使用される。噴射の「頻度」という用語は、エンジンの1回転当たりの噴射器による繰り返される噴射の回数に関して使用される。頻度が1の場合、1回転当たり1回の噴射がある。頻度が1/2の場合、2回転当たり1回の噴射がある。この用語法は、上述の従来技術に合致している。
【0017】
実際の実施形態では、噴射器のハウジングは、潤滑油を受け入れるための潤滑油入口ポートを含む基部を備え、さらに基部をノズルと剛結合する流動室、通常は剛性円筒形流動室を備える。流動室は中空であり、従って、潤滑油が流動室内で基部からノズルに流動することを可能にする。噴射器の取り付け時、流動室がエンジンのシリンダ壁を貫通して延びるので、ノズルは流動室によってシリンダ内部に堅固に保持される。基部は、流動室の反対側の端部に設けられるので、通常はシリンダ壁の外側に位置する。例えば、噴射器は、外筒壁の上に取り付けるために基部にフランジを備える。
【0018】
本発明を完全に理解するために、ポンプシステムから複数の噴射器を備えたシリンダまでのかなりの長さの潤滑油導管がシステムの不正確さをもたらすことが見出されていることが指摘される。長い導管は、高圧の潤滑油に曝された時に僅かに膨張して縮む傾向があり、噴射される潤滑油のタイミング及び量に僅かな不確定性をもたらす。さらに、潤滑油は噴射サイクルの間に微小な圧縮及び膨張を受け、これがその作用を強める。この作用は小さいが、噴射に関して数ミリ秒範囲の誤差をもたらし、これは、僅か10ミリ秒又は1ミリ秒未満でさえある短いSIP噴射時間と比較してかなりのものとなる。このような不正確なタイミングの作用は、潤滑油の圧力が高くて噴射時間が短いために、SIP潤滑システムにかなりの影響を及ぼす。また、噴射量は通常、噴射サイクルで加圧オイルがノズルに供給される時間の長さによって調整され、その場合、正確なタイミングに影響を与える不確定要因は、解消されないにしても最小限に抑える必要があることに留意されたい。噴射に関する改善は、様々な実施形態及び詳細を用いて以下に記載するようなシステム及び方法で達成される。
【0019】
便宜上、用語「前方動作」は、ノズル開口部に向かう動作に使用し、ノズル開口部から離れる反対方向の動作を「後方動作」と呼ぶ。
【0020】
各噴射器は、潤滑油給送導管から潤滑油を受け入れるために潤滑油入口を備える。通常、潤滑油給送導管は、潤滑油の圧力を適切なレベルに上昇させる可能性のある潤滑油ポンプを含む、共通潤滑油供給システムに接続される。説明されるシステムの場合、噴射器の潤滑油入口で一定の潤滑油圧力を提供すれば十分である。
【0021】
各噴射器は、ノズルにおいて、噴射フェーズの間に圧力がそこでの所定の限度を超えて上昇するとノズル開口部への潤滑油流動のために開くように、及び噴射フェーズ後に圧力がデイかするとそれを閉じるように構成された出口弁システムを備える。出口弁システムは、シリンダからの背圧で閉じ、また、各噴射の間のアイドルフェーズで潤滑油がシリンダに入るのを防ぐ。さらに、出口弁システムは、噴射後の短い閉鎖時間を助け、噴射される潤滑油のタイミング及び体積の精度を高める。
【0022】
例えば、出口弁システムは、出口逆止弁を備える。出口逆止弁において、出口弁部材、例えばボール、楕円体、プレート、又はシリンダには、出口弁ばねによって出口弁座に対して予応力が付与される。出口弁システムの上流側の流動室内に加圧された潤滑油が供給される状態では、予応力を付与するばね力は潤滑油の圧力によって打ち消され、その圧力がばね力よりも高くなると、出口弁部材は出口弁座から変位し、逆止出口弁は、ノズル開口部を介してシリンダ内に潤滑油を噴射するために開く。例えば、出口弁ばねは、ノズル開口部から離れる方向で出口弁部材に作用するが、反対の動きも可能である。
【0023】
噴射器は、潤滑油入口から出口弁システムへの潤滑油流動経路を備え、潤滑油は、潤滑油入口からノズルへ流れ、出口弁システムを通ってノズル開口部で噴射器から外へ流れる。
【0024】
上述の国際公開第2008/141650号及び独国特許第102013104822号は、このような不正確性をもたらす噴射器から遠く離れた注入を開示するが、本発明は、異なるアプローチを用いる。
【0025】
この問題を解決して、噴射器による潤滑油放出の速度及び体積をより良く制御するという目的を達成するために、各噴射器は、出口弁システムに加えて電動入口弁システムを備え、入口弁システムは、制御装置に電気的に接続され、潤滑油入口とノズルの出口弁システムとの間の流動経路に配置され、制御装置から受け取った電気制御信号に応答して潤滑油入口からノズルへの潤滑油流れを開閉することによって、ノズル開口部を介して分注される潤滑油を調節するようになっている。
【0026】
入口弁システムは、噴射器の一部としてノズルの上流側に離間して配置され、また、出口弁システムの上流側に離間して配置される。
【0027】
噴射器の入口弁システムは、噴射フェーズのために入口弁システムが開いたままとなる時間で噴射用の潤滑油量を注入する。その時間は制御装置によって決定される。
【0028】
随意的に、噴射フェーズの間の、シリンダ上の全噴射器の又は噴射器のサブグループの総消費量を得るために体積流量計を使用することができる。
【0029】
例えば、エンジンを潤滑するために、本方法は、制御装置から電動入口弁システムに電気制御信号を送るステップと、この制御信号によって、潤滑油を、潤滑油給送導管から潤滑油入口を通り入口弁システムを通って、入口弁システムを出口弁システムと流れ接続する導管に流動させるために入口弁システムを開放させるステップとを含む。潤滑油給送導管が噴射フェーズにおいて出口弁システムを開放するのに十分な高い圧力でもって入口弁システムを介して潤滑油を供給するために、潤滑油給送導管内の潤滑油の圧力は、出口弁システムの開放を決定する所定の限度を超えることに留意されたい。従って、潤滑油が、入口弁システムを通って入口弁システムと出口弁システムとの間の導管に流入すると、出口弁システムは該出口弁システムで圧力上昇を引き起こし、出口弁システムが開いて潤滑油を導管からノズル開口部へ流動させ、潤滑油がノズル開口部を介してシリンダの中に噴射される。潤滑期間の終了時、制御装置からの電気制御信号が変更され、潤滑油入口からノズル開口部への潤滑油供給のために入口弁システムを再び閉鎖させる。導管内の圧力が再び低下し、出口弁システムが閉じる。
【0030】
このように、噴射器には2つの弁システムが存在する。入口弁システムは制御装置からの電気信号によって調節され、入口弁システムが開いて潤滑油給送導管から出口弁システムへ高圧の潤滑油の流れが生じると、出口弁システムは、出口弁システムの高圧の潤滑油によってのみ作動する。入口弁システムの可動部品を出口弁システムの可動部品と連結する機械的結合は存在しない。これら2つのシステムの開放及び閉鎖の間の連結は、入口弁システムから出口弁システムへ流れる潤滑油によってのみ行われる。
【0031】
実際の実施形態では、入口弁システムは、アイドルフェーズで入口弁部材が流動経路を遮断するアイドルフェーズ位置から、噴射フェーズで入口弁部材が流動経路を開放し、その流動経路を介して潤滑油を流動させる噴射フェーズ位置へ移動するように配置された可動の電動入口弁部材を備える。入口弁部材は、入口弁ばねによってアイドルフェーズ位置に向かって予応力が付与されることが好都合である。
【0032】
一部の実施形態では、可動入口弁部材を電気的に駆動するために、入口弁システムは、入口弁部材が流動経路を遮断するアイドルフェーズ位置から、噴射フェーズで潤滑油噴射のために、流動経路を介して潤滑油を流動させるために入口弁部材が流動経路を開放する噴射フェーズ位置へ入口弁部材を変位させるように配置された、可動の電動剛性変位部材を備える。
【0033】
典型的に、入口弁システムは、入口弁システムを開放するために、潤滑油入口の潤滑油圧力に逆らって動かされる。
【0034】
例えば、入口弁システムは、例えばボール、楕円体、プレート、又はシリンダなどの入口弁部材を備え、入口弁部材は、アイドル状態のために入口弁ばねによって入口弁座に対して予応力が付与され、さらに噴射フェーズのために入口弁ばねの力に逆らって入口弁座から入口弁部材が変位した状態で潤滑油を潤滑油入口から出口弁システムへ通過させるように配置される。
【0035】
随意的に、電動剛性変位部材は、潤滑油噴射の間に、例えば入口弁座から入口弁部材を押し込むための押込み部材である。
【0036】
例えば、入口弁システムは、変位部材を駆動するためにソレノイドを備える。この場合、ソレノイドコイルの電気的励磁時に変位部材、例えば押込み部材を駆動するために、変位部材はソレノイドプランジャ及びソレノイドコイルの構成体に結合される。随意的に、変位部材はソレノイドプランジャに結合されるが、ソレノイドコイルは噴射器内に固定される。もしくは、変位部材は、該変位部材と一緒に移動可能ソレノイドコイルに結合される。
【0037】
ソレノイドの代わりに、圧電素子は、入口弁システムの一部として押込み部材などの変位部材を駆動するために使用される。
【0038】
噴射フェーズの後、変位部材の動作が逆転し、入口弁部材は入口弁座に戻される。一部の実際的な実施形態では、変位部材は剛性ロッドである。
【0039】
原理上、変位部材を入口弁部材に固定し、入口弁部材を入口弁座に押し付けるか又は引き戻すことができる。しかしながら、そうする必要はなく、変位部材は、入口弁部材に固定されない押込み部材である。特に、入口弁システムの開放速度を高くするために、以下の実施形態が有用であることが分かっている。この場合、変位部材は、入口弁部材に固定されない押込み部材である。さらに、アイドル状態では、押込み部材は、入口弁部材から所定距離、例えば0.1~2mm、随意的に0.2~1mmだけ離間して設けられる。制御装置からの制御信号により、押込み部材は入口弁部材に向かって加速され、可動入口弁部材と衝突する前に速度を得て、衝突によって、入口弁部材をその閉じたアイドル状態の位置、例えば逆止弁の入口弁座から、押し進める。押込み部材は、入口弁部材と衝突する前に所定距離にわたって加速されるので、押込みによる入口弁部材、例えばボールの入口弁座からの変位は急激であり、その結果、噴射器を通る潤滑油の流れを開始させるために非常に短い時間で入口弁システムが開放する。入口弁システムを開放するための短い時間は、高精度の時間調整を意味する。
【0040】
一部の実施形態では、アイドル状態における入口弁部材から押込み部材までの距離は調整可能である。例えば、押込み部材の移動距離は、可動端部停止部によって調整できる。
【0041】
押込み部材がソレノイドプランジャ/コイル構成においてソレノイドプランジャに固定される場合、調整可能な端部停止部は、随意的にソレノイドプランジャに設けられる。
【0042】
一部の実施形態では、押込み部材はプッシュロッドであり、随意的にソレノイドプランジャに結合され、ソレノイドコイルの励磁時にソレノイドプランジャと共に変位する。例えば、プッシュロッドは、入口弁部材との接触のためね、例えば衝突のための第1端部を有し、第1端部との接触によって、例えば衝突によって可動入口弁部材を変位させる。
【0043】
実際の実施形態では、潤滑油入口及び入口弁システムは、入口弁ハウジング内に設けられる。随意的に、出口弁システムはノズル内に設けられ、流動室は、入口弁ハウジングをノズルと接続する中空剛性管体の形態で設けられる。
【0044】
噴射器をシリンダ壁に取り付けるために、随意的に、噴射器は、流動室の周りに設けられたフランジを備える。例えば、フランジは入口弁ハウジングに対してボルト留めされ、それにより、流動室を入口弁ハウジングに固定する。
【0045】
本明細書に記載するシステムは、多くの利点を有する。
【0046】
第1の利点は、別個の入口弁システム及び出口弁システムを設けることにより、入口弁システム及び出口弁システムの動作中に動く必要がある可動の入口弁部材及び出口弁部材の全質量が低減される。質量の低減により可動体の反応時間が短くなり、本システムは、高い反応速度と対応するタイミング及び量に関する高い精度を示す。
【0047】
第2の利点は、例えばプッシュロッドなどの押込み部材を備えた電気制御式入口弁システムは、例えばボールなどの入口弁部材に対する急激な衝突を示すので、噴射の開始は非常に急激であり、それゆえ正確に時間調整される。
【0048】
第3の利点は、本システムは、戻りラインが不要なので噴射器4に対して単一の潤滑油ラインだけを用いるので、設置コスト及び労力が最小限に抑えられ、故障リスクが最小限に抑えられる。これは、エンジンが大型であり数メートル長の戻りラインを必要とすることになるからである。また、潤滑油のための潜在的な戻り配管内のデッドボリュームに起因する、閉弁時の時間及び量の不正確性が回避される。
【0049】
第4の利点は、出口弁システムを備えた噴射器は、シリンダからの高圧に対して安定している。
【0050】
出口弁システムがノズルに逆止弁を備え、逆止弁が、弁座に対してばねで押し付けられる弁部材、例えばボールを備える場合、故障に対する高度の堅牢性が認められた。これらのシステムは単純であり、目詰まりのリスクは最小限である。また、弁座は、特に弁部材がボールである場合に、自己浄化性があって偏摩耗をほとんど受けない傾向があり、そのため、長期に亘る高い信頼性が提供される。従って、噴射器は単純で信頼性が高く、迅速かつ正確であり、低製造コストの標準的な構成部品で構築するのが容易である。
【0051】
また、本発明は、例えば前述の欧州特許第1767751号に開示されるような、出口弁システムが噴射器内に設けられ、噴射器に給送する弁システムが噴射器から離れて設けられるシステムに優る明確な利点を有する。上記の噴射器は、入口弁システムから出口弁システムへの短くて剛性のある流動室しか有していないので、比較的長い導管におけるオイルの微小な圧縮及び膨張が、導管自体の膨張と共に回避されるという理由で、噴射量及びタイミングの不確定性並びに不正確性が最小限度になる。
【0052】
以下の実施形態は、逆止ボール弁の有用な代替案である。
【0053】
これらの実施形態では、入口弁部材は、静止弁部材のブッシングの内側に設けられる往復式部材である。静止弁部材は、ブッシングを貫通して横方向に延びる横断管路を備え、横断管路は、アイドルフェーズにおいて往復式部材によって閉鎖され、噴射フェーズのために往復式部材の通過セクションが横断管路と整列した時にだけ開放される。横断管路が開放されると、噴射器の潤滑油入口が噴射器のノズル開口部と連通し、潤滑油がノズル開口部からエンジンのシリンダの中に噴射される。
【0054】
特定の弁システムは、軽量の構成要素、特に潤滑油流動のために開閉する往復式部材によって高速で作動する。さらに、構成要素は、構造が比較的簡単で、製造コストが安価である。これらの利点に加えて、本弁システムは信頼性が高く堅牢であり、目詰まりリスクが低い。構成要素が比較的小さな圧力荷重を受けるので、この弁システムは耐用年数も長い。
【0055】
噴射の間に往復式部材の通過セクションがブッシングの横断管路と整列する、この弁システムの原理は、入口弁に有用であるだけでなく、逆止ボール弁の代わりとして出口弁にも使用できる。従って、実際の実施形態では、入口弁システム又は出口弁システム、或いはその両方が、このような弁システムを備える。以下に、さらに詳細な実施形態を説明する。
【0056】
随意的に、このような弁システムは静止弁部材を備え、静止弁部材は円筒形ブッシングを備え、その内部で円筒形往復式部材は、ブッシングの円筒軸と等しい円筒軸を備え、ブッシングの内部で円筒軸に沿って第1位置と第2位置の間を往復式に移動可能である。用語「円筒形ブッシング」は、ブッシングが円筒形中空を有することを説明するために使用されるが、一般に、必ずしめ円形断面を備える必要はない。円筒形往復式部材がブッシングの円筒形中空にぴったりと嵌合するので、ブッシング内部で往復式部材を潤滑するだけで、シリンダの中に噴射される潤滑油量と比較して無視できる最小限の潤滑油量は別として、潤滑油は円筒形往復式部材と円筒形ブッシングの間を流れることができない。
【0057】
横断管路は、静止弁部材を貫通し、ブッシングを貫通して延びる。横断管路は、ブッシングの一方の側面に第1横断管路セクションを有し、ブッシングの別の側面に第2横断管路セクションを有する。往復式部材は、潤滑油が円筒軸を横切って横断管路セクションを流れるために、潤滑油が往復式部材を貫通してそれに沿って及び/又はその周囲を流れるための横断通過セクションを備える。往復式部材の通過セクションは、アイドルフェーズにおいて横断管路を閉じるための第1位置で、ブッシングの横断管路から離れているように配置される。噴射フェーズでは、往復式部材の通過セクションは、往復式部材を第2位置に移動させることによって横断管路と整列し、第1横断管路セクションから通過セクションを介して第2横断管路セクションへ流れるようにする。一部の実際的な実施形態では、往復式部材は、ばねにより第1位置に向かって予応力が付与される。
【0058】
随意的に、通過セクションは往復式部材の縮小セクションとして設けられ、往復式部材が第2位置にありその縮小セクションがブッシングの2つの対向する管路セクションと整列する場合、潤滑油は、往復式部材の縮小セクションの周りのブッシングの第1横断管路セクションからブッシングの第2横断管路セクションの中に流れるようになっている。
【0059】
第2横断管路セクションの密封を提供するために、以下の実施形態が有用である。ブッシングの第2横断管路セクションは、直径dの管路入口開口部を有し、往復式部材は、dよりも大きい第1直径Dを有する。その場合、往復式部材は、加圧潤滑油によって又は弁システムが潤滑油以外の液体に使用される事例では他の加圧液体によって、第1横断管路セクションの管路入口開口部に対して緊密に押し付けられる。
【0060】
例えば、静止弁部材において、第1管路及び第2管路は、円筒軸に平行でかつブッシングの異なる側面に設けられる。第1管路は、第1横断管路セクションを介してブッシングに接続され、第2管路は、第2横断管路セクションを介してブッシングに接続される。
【0061】
弁システムは、潤滑油噴射器に限定されるものではなく、他の装置並びに適宜他の液体に使用できるような汎用特性を有することが指摘される。しかしながら、潤滑油噴射器に特に好都合である。
【0062】
弁システムが噴射器の入口弁システムとして使用される場合、往復式部材の第1位置はアイドルフェーズに対するアイドルフェーズ位置であり、往復式部材の第2位置は噴射フェーズに対する噴射位置である。ブッシングの異なる側面に設けられる第1管路及び第2管路は、随意的に上記のように静止弁部材に設けられるが、代替的に、静止弁部材が少なくとも部分的に流動室の内側に設けられる場合、周囲のハウジングの中に、例えば、噴射器の基部をノズルと接続するこの流動室の中に設けることができる。第1管路は潤滑油入口と連通し、第2管路は出口弁システムと連通する。従って、アイドルフェーズの場合、往復式部材の通過セクションは、アイドルフェーズ位置では横断管路から離れているように配置され、横断管路を閉じて第1横断管路セクションから第2横断管路セクションへ潤滑油が流れないようにする。噴射フェーズの場合、往復式部材の通過セクションは、噴射位置でのみ横断管路と整列するように配置され、噴射フェーズでは潤滑油入口から第1管路を通り、次に第1横断管路セクションを通り、次に通過セクションを通り、次に第2横断管路セクションを通り、次に第2管路を通って出口弁システムへ連続的に潤滑油が流れる。
【0063】
例えば、噴射器は、0.1~1mm、例えば0.2~0.5mmのノズル開口部を有するノズルを備え、オイルミストとも呼ばれる霧状の液滴の噴霧を放出するように構成される。
【0064】
霧状の液滴の噴霧はSIP潤滑において重要であり、その場合、ピストンがTDCに向かう移動の際に噴射器を通過するより前に、潤滑油の噴霧がシリンダ内部の掃気空気中に繰り返し噴射される。霧状の液滴は、TDCに向かう掃気空気のスワール渦運動のためにTDCに向かう方向に運ばれるので、掃気空気中に拡散されてシリンダ壁上に分配される。噴霧の霧化は、ノズルにおける潤滑油噴射器内の高圧潤滑油による。この高圧噴射に関して、圧力は10barより高く、通常25~100barである。一例として、30~80bar、随意的に35~60barの幅がある。噴射時間は短く、通常は5~30ミリ秒(msec)程度である。しかしながら、噴射時間は、1msec又は1msec未満にさえ、例えば0.1msecにまで調整することができる。従って、僅か数msecの不正確さが、噴射プロファイルを有害に変えてしまう可能性があり、そういう理由で、上述したように、例えば0.1msecの精度などの高い精度が必要とされる。
【0065】
また、粘度は霧化に影響を与える。船舶用エンジンで使用される潤滑油は、通常、40℃で約220cSt、100℃で20cStという典型的な動粘度を持ち、これは202~37mPa・sの粘度に換算される。有用な潤滑油の例は、高性能、船舶用ディーゼルエンジン・シリンダオイルのExxonMobil(登録商標)Mobilgard(商標)560VSである。船舶用エンジンに有用な他の潤滑油は、他のMobilgard(商標)オイル並びにCastrol(登録商標)Cyltechオイルである。船舶用エンジンに一般的に使用される潤滑油は、40~100℃の範囲でほぼ同一の粘度プロファイルを有し、例えば0.1~0.8mmのノズル開口部径を有し、潤滑油がノズル開口部で30~80barの圧力を有し、温度が30~100℃又は40~100℃の範囲にある場合に、霧化に関して全てが有用である。また、Rathesan Ravendran、Peter Jensen、Jesper de Claville Christiansen、Benny Endelt、Erick Appel Jensenによるこの主題に関する発表論文、「2ストローク船舶エンジンで使用される潤滑オイルのレオロジー挙動」、産業用潤滑及びトライボロジ、2017年、第69巻、第5号、p.750-753、https://doi.org/10.1108/ILT-03-2016-0075を参照されたい。
【0066】
用語「ソレノイドコイル」は、2以上のコイル、例えば2又は3のコイルを使用することが可能であり場合によって好都合なので「少なくとも1つのソレノイドコイル」として理解すべきである。
【0067】
図面を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0068】
図1】エンジン内のシリンダの一部の概略図である。
図2a】噴射器を概観図で示す。
図2b】入口弁ハウジングの拡大断面図を示す。
図3】ノズルの一例を示す。
図4】ノズルの代替例を示す。
図5】別の実施形態を示す。
図6a】噴射器ハウジングを概観図で示す。
図6b】噴射器ハウジングを拡大図で示す。
図7】出口弁システムの第2の実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0069】
図1は、例えば船舶用ディーゼルエンジンなどの大型低速2サイクルエンジンのシリンダ1の半分を示す。シリンダ1は、シリンダ壁3の内側にシリンダライナ2を備える。シリンダ壁3の内部には、シリンダ1の中に潤滑油を噴射するための複数の噴射器4が設けられている。図示のように、噴射器4は、円周に沿って隣接する噴射器4の間で同じ角距離でもって分散配置されるが、これは必須ではない。また、軸方向に変位した噴射器の配置、例えば噴射器が1つおきに隣接する噴射器に対してピストンの上死点(TDC)に向かって変位した配置も可能なので、円周に沿う配置は必須ではない。
【0070】
各噴射器4は、ノズル開口部5’を備えたノズル5を有し、ノズル開口部5’から、例えば微小液滴7と共に微細な霧状の噴霧8として潤滑油が高圧下でシリンダ1の中に放出される。
【0071】
例えば、ノズル開口部5’は、0.2~0.5mmなどの0.1~0.8mmの直径を有し、10~100barの圧力で、例えば25~100bar、随意的に30~80bar又はさらには50~80barの圧力で、潤滑油を微細な噴霧8に霧状化するが、これは、潤滑油の小さな噴流とは対照的である。シリンダ1の中の掃気スワール渦14は、シリンダライナ2上への潤滑油の均一な分配が得られるように、噴霧8を運んでシリンダライナ2に押し付ける。この潤滑システムは、本分野ではスワールインジェクション原理、SIPとして知られている。
【0072】
しかしながら、改善された潤滑システムに関連して、例えば噴流をシリンダライナに向ける噴射器などの他の原理も想定される。
【0073】
随意的に、シリンダライナ2は、噴射器4からの噴霧8又は噴流に適切な空間を提供するためのフリーカット6を備える。
【0074】
噴射器4は、潤滑油の圧力を適切なレベルまで上昇させる可能のある潤滑油ポンプを含むエンジンの潤滑油供給部9’、例えばオイル回路から、給送導管9、一般には共通給送導管9を介して潤滑オイルを受け入れる。例えば、給送導管9内の圧力は、25~100barの範囲、随意的に50~80barの範囲にあり、これはSIP弁に対する典型的な圧力範囲である。
【0075】
噴射器4は、電気ケーブル10を介して制御装置11と電気的に通信する電気コネクタ10’を備える。制御装置11は、噴射器4によるノズル5を介した潤滑油の噴射を制御するために噴射器4に電気制御信号を送る。図示のように、各噴射器4に一本のケーブル10が設けられ、これにより、それぞれの噴射器による噴射の個別の制御が可能となる。しかしながら、一本の電気ケーブル10から電気制御信号を受け取ると全ての噴射器4が同時に噴射するように、一本の電気ケーブル10を制御装置11から全ての噴射器4に対して設けることも可能である。もしくは、制御装置11から噴射器のサブグループ、例えば噴射器の2、3、4、5、又は6のサブグループに一本の電気ケーブル10を設けることも可能であり、第1のサブグループは、第1のケーブル10を介して制御装置によって制御され、第2のサブグループは、第2のケーブル10を介して制御される。ケーブル及びサブグループの数は好ましい構成に応じて選択される。
【0076】
制御装置11から噴射器4への電気制御信号は、エンジンのシリンダ1の中でのピストン動作と同期した正確に時間調整されたパルスで提供される。例えば、同期に関して、制御装置システム11は、コンピュータ11’を備えるか又はコンピュータ11’に有線又は無線で電子的に接続され、コンピュータ11’は、例えば、速度、負荷、及びクランク軸の位置などのエンジンの実際の状態及び動作に関するパラメータを監視するが、クランク軸の位置は、シリンダ内のピストンの位置を示す。
【0077】
コンピュータ11’及び制御装置システム11は、随意的に接続される。制御装置10は、コンピュータ11’と協働して、電流が1又は複数の電気ケーブル10を介して供給される時間に基づく、噴射フェーズの時間長を決定する。
【0078】
以下では、図1のシステムで使用する噴射器を説明する。しかしながら、これらの噴射器は、SIP噴射を用いることなく、他のエンジンシリンダ潤滑システムでも使用することができる。
【0079】
図2は、噴射器4の原理図を示す。図2aは、例示する噴射器の3つの異なる図、上面図、端面図及び断面側面図を備えた概観図である。図2bは、拡大された入口弁システムの一部分である。噴射器4は、潤滑油給送導管9から潤滑油を受け入れるために潤滑油入口12を備える。潤滑油入口12は、潤滑フェーズの間に潤滑油給送導管9から受け入れた潤滑油の量を調節するために潤滑油入口12と連通する入口弁システム13を備えた入口弁ハウジング21内に設けられる。また、噴射器4は、ノズル開口部5’を介して分注される潤滑油を調節するための出口弁システム15を備える。剛性流動室16は、潤滑油のノズル5への流れのために、入口弁システム13を出口弁システム15と接続する。図示の実施形態では、流動室16は、中空の剛性ロッドとして設けられる。流動室16は、Oリング22によって入口弁システム13の入口弁ハウジング21に対して密封され、入口弁ハウジング21に対してボルト24でボルト留められるフランジ23によって入口弁ハウジング21に対してしっかりと保持される。
【0080】
図3は出口弁システム15の一実施例を詳細に示し、出口弁システム15は、出口逆止出口弁17を備える。出口逆止出口弁17において、ボールとして例示する出口弁部材18が、出口弁ばね20によって出口弁座19に対して予応力が付与される。流動室16内に加圧潤滑油が供給されると、出口弁ばね20の予応力を付与した力は潤滑油の圧力によって打ち消され、その圧力がばね力よりも高くなると、出口弁部材18はその出口弁座19から変位し、出口逆止出口弁17は、ノズル開口部5’を介してシリンダ1の中に潤滑油を噴射するために開く。例示するように、出口弁ばね20は、出口弁部材18に対してノズル開口部5’から離れる方向に作用する。アイドル状態での逆止出口弁17の閉鎖は、各噴射フェーズの間に流動室16からノズル開口部5’を介してシリンダ1の中への意図しない潤滑油の流動を防止する。
【0081】
図2bは、入口弁システム13をより詳細に示す。入口弁ハウジング21の内部において、逆止入口弁25には、入口弁ばね28によって入口弁座27に対して予応力が付与された入口弁部材26が設けられる。入口弁部材26はボールとして例示するが、異なる形状、例えば、卵形、円錐形、平面形、又は円筒形もまた機能するであろう。入口弁部材26が、入口弁ばね28の力に逆らって、並びに潤滑油入口12における潤滑油給送導管9からの潤滑油圧力に逆らって入口弁座27から変位すると、潤滑油は、潤滑油入口12から入口弁ばね28に沿って流れ、入口弁部材26及び入口弁座27を通過し、入口弁部材26の反対側の流路29に入る。流路29から、潤滑油は通路30を流れ、図3に示す出口弁システム17へ流れるために流動室16の中空部16’に入る。
【0082】
入口弁部材26(ボール)を変位させるために、プッシュロッドとして例示する押込み部材31が、流路29内に往復式に設けられる。押込み部材31は、入口弁部材26に固定されず、ソレノイドコイル32で駆動される往復式ソレノイドプランジャ33に固定される。ソレノイドプランジャ33は、アイドルフェーズ状態にある場合、プランジャばね34によって後退している。ソレノイドコイル32が電流で励磁されると、ソレノイドプランジャ33は、プランジャストップ35に接して停止するまで、プランジャばね34の力に逆らって前方に移動する。ソレノイドプランジャ33の移動により、押込み部材(プッシュロッド)31は、入口弁座27から離れるように入口弁部材(ボール)26を押し込み、潤滑油が入口逆止弁25を介して流動室16内へ流動できるようにする。
【0083】
好都合な実施形態では、押込み部材(プッシュロッド)31はアイドル状態の場合に入口弁部材(ボール)26から所定距離だけ引き戻されるので、押込み部材31と入口弁部材26との間に遊動距離が存在する。ソレノイドコイル32が励磁されると、押込み部材31は、初期加速の後で入口弁部材26に衝突する前に、ソレノイドコイル32によって遊動距離に亘って加速される。その結果、加速の初めの部分で入口弁部材26が押込み部材31と一緒に移動する状況と比べて、入口弁部材26が入口弁座27から急激に変位する。結果として、入口弁部材26の迅速な変位は、シリンダ1の中への潤滑油噴射の開始の正確な時間調整に好都合である。随意的に、遊動距離はソレノイドプランジャ33の端部の調整ねじ36で調整可能である。
【0084】
噴射フェーズの後で、ソレノイドコイル32への電流を遮断することにより、入口12からノズル5への潤滑油供給が停止され、ソレノイドプランジャ33がプランジャばね34によって押し戻される結果となり、入口弁部材26は、噴射サイクルのアイドルフェーズのために緊密な入口弁座27に戻る。
【0085】
図4は、出口弁システム15の第2の代替実施形態を示している。出口弁システム15の一般化原理は、国際公開第2014/048438号に開示されるものと同様である。また、この参考文献は、本明細書に提示する噴射器4の付加的な技術詳細並びに機能の説明を与えるが、便宜上、ここでは繰り返さない。ノズル開口部5’は、潤滑油を放出するためにノズル5の先端部に設けられる。ノズル5の空洞40の内部には、出口弁部材18が設けられ、出口弁部材18は、ステム41と、ノズル先端44の円筒形空洞部43内に摺動自在に配置された円柱形シールヘッド42とを備える。弁部材18のこの位置は、ばね45によってノズル先端部44から離れるように後方へ予応力が付与され、流路46を通してステム41の後部47に作用するオイル圧によって前方へオフセットされ、オイル圧はばね力に逆らって作用する。シールヘッド43が摺動してノズル開口部5’から遠くに進んで潤滑オイルが内部空洞46からノズル開口部5’を通過して放出されるように、ノズル部材18が前方に押されない限り、ノズル開口部5’は、ノズル先端部44で円筒形空洞部43に当接するシールヘッド42によって密封される。
【0086】
図5は別の入口弁システム13を示し、押込み部材31とソレノイドプランジャ33が組み合わされている。ソレノイドコイル32内での押込み部材及びソレノイドプランジャ33の移動方向は、流動室16に平行である。図2bの実施形態と比較すると、押込み部材31の移動方向は90度回転している。これは、その機能に関して類似の原理にもかかわらず、図2bよりもさらに小型の構成をもたらす。従って、図2bに関連して行った説明は、押込み部材31及び入口弁部材の動作、並びに入口12から流路29内の押し部材31へ、及びそれに沿って通路30を通り流動室16の中空部16’への潤滑油の流れに関して、図4の入口弁システム13にも等しく適用され、潤滑油の流動経路は、中空部分16’を通る。
【0087】
図6aは、噴射器4の噴射器ハウジング51を示す。噴射器ハウジング51は、例えば図3a、図3bのようなタイプ又は図4のようなタイプのノズル5に連結される。ハウジング51は、基部60と、基部60をノズル5にしっかりと連結する剛性中空ロッドである管状流動室16とを備える。流動室16は、Oリング22によって基部60に対して密封される。
【0088】
基部60は、潤滑油を潤滑油給送導管9から受け入れるための潤滑油入口12を備える。潤滑油入口12は、噴射フェーズの間に潤滑油給送導管9から受け入れられ、流動室16の中空部16’を介してノズル5に送られる潤滑油の量を調節するために入口弁システム13と連通する。
【0089】
ノズル開口部5’を介して分注される潤滑油を調節するために、噴射器4は同様に出口弁システム15を備える。
【0090】
図6bは、図6aの入口弁システム13を拡大して示す。入口弁システム13は、往復式部材26’が摺動自在に配置される長手方向ブッシング54を備えた静止弁部材53を備える。往復式部材26’は、ブッシング54の内側にぴったりと嵌合し、潤滑油が、少なくとも潤滑油噴射に影響を及ぼす程度ではなく、ブッシング54の内側で往復式部材26’を潤滑するのに潜在的に十分な程度で往復式部材26’の外側とブッシング54の内側との間を流れるようになっている。往復式部材26’は、縮小セクション26Aとして例示する通過セクション(throughput section)を備え、その機能は以下で説明する。通過セクションは、往復式部材26’の横方向に設けた流路とすることもできることが指摘される。
【0091】
静止弁部材53は静止後部53Aと静止前部53Bを有し、これらは、例示する実施形態では単一部品として組み合わせて提供される。弁部材53の一方の側面に、弁部材53に沿って流動室16の長手方向に延びる第1管路56が設けられ、弁部材53の反対の側面に、弁部材53に沿って流動室16の長手方向に延びる第2管路57が設けられる。長手方向は、往復式部材26’及びブッシング54の円筒軸と同一である。横断管路58は第1管路56を第2管路57と接続するために弁部材53に設けられる。しかしながら、第1管路56と第2管路57の接続は、縮小セクション26Aとして例示する通過セクションが横断管路58と面一になるように、往復式部材26’がノズル5に向かって前方に移動した時にだけ行われる。
【0092】
往復式部材25の往復運動は、プッシュロッドとして例示する変位部材31によってもたらされ、変位部材31は、ソレノイドコイル32によって駆動される往復式プランジャ33に固定される。変位部材31は、螺旋状入口弁ばね28によって逆向きにばね付勢されたヘッド59上に作用する。ヘッド59は、往復式部材26’に固定され一緒に移動する。プランジャ33、ヘッド59、及び往復式部材26’は、アイドルフェーズ状態にある場合に入口弁ばね28によって後退する。ソレノイドコイル32が電流で励磁されると、プランジャ33はノズルに向かって前方に移動し、次に、プランジャ33がストップ35に接して停止するまで、ヘッド59及び往復式部材26’が入口弁ばね28の力に逆らって前方に移動するという結果となる。往復式部材26’の最前方位置では、往復式部材26’の縮小セクション26Aは、横断管路56と面一である。
【0093】
潤滑油入口12が給送導管9から潤滑油を受け入れると、潤滑油は、潤滑油入口12を通り後部通路37を通って後室37に流入し、そこには入口弁ばね28も配置されている。オイルは、後室37から第1管路56に流入し、ブッシング54の前部に流入する。また、潤滑油は、第1管路56から横断管路58の第1横断管路セクション58Aに流入するが、往復式部材26’による横断管路58の遮断により、横断管路58を介して第2管路57へは流れない。
【0094】
潤滑油の圧力により、往復式部材26’は、第2横断管路セクション58Bの入口開口部58Cに押し付けられる。図示のように、往復式部材26’が第2横断管路セクション58Bの直径dよりも大きい直径Dを備えた円筒形である場合、しっかりした密封が達成される。
【0095】
ソレノイドコイル32が電流で励磁されると、往復式部材26’は、その縮小セクション26が横断管路58と面一になるまでが前方に押し込まれ、潤滑油が第1管路56から横断管路58の第1横断管路セクション58Aに、そして第1横断管路セクション58Aから縮小セクション26Aを介して第2横断管路セクション58Bに、さらに横断管路58の反対側の端部で第2管路57に流れることができる。第2管路57は、潤滑油が第2管路57からノズル5に流動できるように、中空部16’と連通する。潤滑油が十分に加圧されると、潤滑油は出口弁56を開き、ノズル開口部5’からエンジンのシリンダ1の中に放出される。
【0096】
ソレノイド32が噴射フェーズの終了時に再び非励磁状態になると、入口弁ばね28は、ヘッド59及びプランジャ33と共に往復式部材26’を前方噴射位置からアイドルフェーズの後方位置に再び押し戻す。
【0097】
図7aは閉鎖状態の出口弁システム15を示し、図4bは開放状態を示す。出口弁システム15には代替的な逆止出口弁17’が設けられ、それは入口弁システム13の原理と同様に構成される。また、この場合、出口弁システム15はノズル5に設けられる。しかしながら、ノズル5の上流側に設けることもできるので、これは厳密に必須ではない。
【0098】
入口弁システム13と同様に、代替的な出口弁システム15は、後部53A及び前部53Bを備えた静止弁部材53を備え、例示の実施形態ではそれらは単一部品として提供される。出口弁システムは、往復式部材26’が摺動自在に配置される長手方向ブッシング54を備える。往復式部材26’は、潤滑油が往復式部材26’の外側とブッシング54の内側との間に少なくとも無視できる程度以上には流れないようにブッシング54の内側にぴったりと嵌合するので、潤滑油噴射への影響は回避される。往復式部材26’は、図6bに関して説明したのと同じ機能の縮小セクション26Aを備える。
【0099】
弁部材53の一方の側面に第1長手方向管路56が長手方向に設けられ、弁部材53の反対の側面に第2管路57が長手方向に設けられる。横断管路58は、第1管路56と第2管路57を接続するために弁部材53に設けられるが、第1管路56と第2管路57の接続は、図4bに示すように、縮小セクション26Aが第1横断管路セクション58A及び第2横断管路セクション58Bと面一になるように、往復式部材26’がノズル開口部5’に向かって前方に移動した時にだけ行われる。この状況では、潤滑油は、第1管路56から横断管路58の第1横断管路セクション58Aに流れ、第1横断管路セクション58Aから縮小セクション26Aの周りへ流れ、第2横断管路セクション58Bに流れ、横断管路58の反対側の端部で第2管路57に流れることができる。
【0100】
第2管路57は、往復式部材26’の別の縮小セクション26Bの周囲に設けられた前室40と連通する。往復式部材26’の前部26Cは、エンジンのシリンダの圧力に抗して前室40を堅く締める。前部26Cは、結果としてエンジンのシリンダ1と連通する開口流路39内で、前方に摺動するように配置されることが指摘される。また、前部26Cは、ノズル開口部5’をしっかりと覆う。円筒形の前部26Cの締付け原理は、国際公開第2014/048438号に開示された従来技術の原理と同様である。
【0101】
ノズル開口部5’に向かう往復式部材26'の前方動作は、出口弁ばね20の力、及び開口流路39内で往復式部材26’の端部26Cに反対方向に作用するエンジンのシリンダからの圧力に逆らってヘッド59に作用する、中空部16’からの十分に加圧された潤滑油によって達成される。ヘッド59が前方に押し込まれると、潤滑油は、ヘッド59の周りを流れて第1管路56に入り、第1管路56から横断管路58の第1横断管路セクション58Aに入り、第1横断管路セクション58Aから縮小セクション26Aを介して第2横断管路セクション58Bに入り、横断管路58の反対側の端部で第2管路57に流れる。潤滑油は第2管路57から前室40に流入する。開口流路39内の端部26Cがノズル開口部5’を通り越して押し込まれるように往復式部材26’が前方に十分に押し込まれると、潤滑油は前室40からノズル開口部5’の外へ流出する。
【0102】
潤滑油の圧力が往復式部材53を前方位置に保持するために十分に高い限り、潤滑油は、中空部16’を通ってノズル開口部5’から流出することになる。噴射フェーズの後で、ソレノイドコイル32への電流を遮断することにより、潤滑油入口12からノズル5への潤滑油の供給が停止され、噴射サイクルのアイドルフェーズのために、プランジャ33がヘッド59及び変位部材26’と一緒にプランジャばね34によって押し戻されるという結果となる。
【0103】
原理的には、図6の弁は、油圧駆動の入口弁として使用することもできる。
【符号の説明】
【0104】
1 シリンダ
2 シリンダライナ
3 シリンダ壁
4 噴射器
4A 噴射器4の入口ポート
4B 噴射器4の圧力制御ポート
5 ノズル
5’ ノズル開口部
6 ライナのフリーカット
7 単一噴射器4からの霧状噴霧
8 スワール渦噴霧
9 潤滑油給送導管
9’ 潤滑油供給部
10 電気信号ケーブル
10’ 電気信号ケーブルと噴射器内のソレノイドとの電気接続
11 制御装置
11’ コンピュータ
12 噴射器4の潤滑油入口
13 噴射器4の入口弁システム
14 シリンダ内のスワール渦
15 噴射器4の出口弁システム
16 入口弁システム13を出口弁システム15と接続する流動室
16’ 流動室16の中空部
17 出口ボール弁として例示する出口逆止弁
18 出口弁部材
19 出口弁座
20 出口弁ばね
21 入口弁システム15の入口弁ハウジング
22 流動室16の端部にあるOリング
23 流動室を保持するためのフランジ
24 入口弁ハウジング21に対してフランジ23及び流動室16を保持するためのボルト
25 入口逆止弁
26 ボールとして例示する入口弁部材
26’ 電動円柱形の往復式弁部材として例示する入口弁部材
26A 往復式弁部材の縮小セクションとして例示する通過セクション
26B (代替出口弁システムにおける)往復式部材25の別の縮小セクション
26C 往復式部材26’の端部
27 入口弁座
28 入口弁ばね
29 入口弁システム内の流路
30 流路29から流動室16の中空部16’への通路
31 変位部材(実施形態ではソレノイドプランジャ33に固定された押込み部材として、ロッドとして例示される)
32 ソレノイドコイル
33 ソレノイドコイル31内のソレノイドプランジャ
34 プランジャばね
35 プランジャストップ
36 遊動距離を調整するための調整ねじ
37 入口弁システム13の後室
38 入口12と後室37の間の後部通路
39 開口流路
40 空洞
41 ステム
42 円柱形シールヘッド
43 円筒形空洞部
44 ノズル先端
45 ばね
46 流路
47 ステム41の後部
51 噴射器弁ハウジング
51’ 噴射器ハウジング51の基部
53 静止弁部材
53A 静止弁部材の後部
53B 静止弁部材の前部
54 往復式部材26’周囲のブッシング
56 流動室16の長手方向に延びる第1管路
57 流動室16の長手方向に延びる第2管路
58 横断管路
58A 横断管路58の第1横断管路セクション
58B 横断管路58の第2横断管路セクション
58C 第2横断管路セクション58Bの入口
59 (代替出口弁システムにおける)往復式部材のヘッド
図1
図2a
図2b
図3
図4
図5
図6a
図6b
図7a
図7b