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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】樹脂多孔質体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/28 20060101AFI20230303BHJP
   H01M 50/409 20210101ALI20230303BHJP
【FI】
C08J9/28 101
C08J9/28 CEX
H01M50/409
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020173670
(22)【出願日】2020-10-15
(65)【公開番号】P2022065255
(43)【公開日】2022-04-27
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】松延 広平
(72)【発明者】
【氏名】水口 暁夫
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第89/008679(WO,A1)
【文献】特開2017-164726(JP,A)
【文献】特開2004-111157(JP,A)
【文献】国際公開第98/025997(WO,A1)
【文献】特開2021-134277(JP,A)
【文献】特公昭48-019216(JP,B1)
【文献】特開2011-119276(JP,A)
【文献】特開2011-032314(JP,A)
【文献】特開2003-155371(JP,A)
【文献】特開2005-133080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00- 9/42
B29C 44/00-44/60、67/20
H01M 50/40-40/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶性高分子の良溶媒および前記非水溶性高分子の第1の貧溶媒を含有する混合溶媒に、前記非水溶性高分子が溶解した溶液を調製する工程と、
前記溶液から、前記混合溶媒を気化させて除去する工程と、
を包含し、
前記第1の貧溶媒の沸点が、前記良溶媒の沸点よりも高く、
前記混合溶媒を気化させて除去する工程において、前記非水溶性高分子の第2の貧溶媒の蒸気の存在下で、前記混合溶媒を気化させて除去することによって、空孔を形成して多孔質体を得るものであり、
前記非水溶性高分子が、エチレン-ビニルアルコール共重合体であり、
前記第2の貧溶媒の、前記非水溶性高分子のHSPからの距離Raが、10MPa 1/2 以上である、
樹脂多孔質体の製造方法。
【請求項2】
前記第2の貧溶媒の蒸気の濃度が、6,000体積ppm以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第2の貧溶媒が、鎖状エステル類、環状エーテル類、またはケトン類である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第2の貧溶媒の沸点が、210℃以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記溶液を調製する工程の後であって前記混合溶媒を気化させて除去する工程の前に、基材の表面上に前記調製した非水溶性高分子の溶液を薄膜状に塗工する工程をさらに包含する、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記基材が、二次電池の電極である、請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂多孔質体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水溶性高分子を用いた樹脂多孔質体は、軽量性、緩衝性、断熱性、吸音性、分離性、吸着性等の様々な特性を示し得る。そのため、非水溶性高分子を用いた樹脂多孔質体は、梱包材料、建築資材、吸音材料、掃除用品、化粧用品、分離膜、吸着材、精製用担体、触媒担体、培養担体等の多岐に渡る用途に使用されている。
【0003】
製造コスト等の観点から、非水溶性高分子を用いた樹脂多孔質体の製造方法は簡便であることが望まれている。そこで、非水溶性高分子であるポリフッ化ビニリデンの多孔質体を簡便に製造できる方法として、特許文献1には、ポリフッ化ビニリデンを、その良溶媒とその貧溶媒との混合溶媒に加熱下で溶解させて溶液を調製すること、当該溶液を冷却して成形体を得ること、当該成形体を別の溶媒に浸漬させて上記混合溶媒を別の溶媒と置換すること、および当該別の溶媒を乾燥して除去することを含む、ポリフッ化ビニリデンの多孔質体の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-236292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術の製造方法では、非水溶性高分子の溶液の調製、成形体の析出、溶媒の置換、および乾燥という多くの工程を経る必要がある。また、本発明者らの検討により、樹脂多孔質体の製造においては、樹脂多孔質体の表面に、空孔を有しないスキン層(皮張り層)が形成され易いことが見出された。樹脂多孔質体がスキン層を有する場合には、流体を透過することができず、樹脂多孔質体の用途が限定されるという不利益がある。
【0006】
そこで本発明の目的は、非水溶性高分子を用いて、少ない工程数で、スキン層の形成が抑制された樹脂多孔質体を製造可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示される樹脂多孔質体の製造方法は、非水溶性高分子の良溶媒および前記非水溶性高分子の第1の貧溶媒を含有する混合溶媒に、前記非水溶性高分子が溶解した溶液を調製する工程と、前記溶液から、前記混合溶媒を気化させて除去する工程と、を包含する。前記第1の貧溶媒の沸点は、前記良溶媒の沸点よりも高い。前記混合溶媒を気化させて除去する工程において、前記非水溶性高分子の第2の貧溶媒の蒸気の存在下で、前記混合溶媒を気化させて除去することによって、空孔を形成して多孔質体を得る。このような構成によれば、非水溶性高分子を用いて、少ない工程数で、スキン層の形成が抑制された樹脂多孔質体を製造可能な方法が提供される。
【0008】
ここに開示される製造方法の好ましい一態様では、前記第2の貧溶媒の蒸気の濃度が、6,000体積ppm以上である。このような構成によれば、スキン層の形成をより抑制することができる。
【0009】
ここに開示される製造方法の好ましい一態様では、前記第2の貧溶媒の、前記非水溶性高分子のHSPからの距離Raが、10MPa1/2以上である。このような構成によれば、スキン層の形成をより抑制することができる。
【0010】
ここに開示される製造方法の好ましい一態様では、前記第2の貧溶媒の沸点が、210℃以下である。このような構成によれば、スキン層の形成をより抑制することが容易となる。
【0011】
得られる樹脂多孔質体の用途および樹脂多孔質体の製造方法の有用性の観点から、ここに開示される製造方法の好ましい一態様では、前記非水溶性高分子が、エチレン-ビニルアルコール共重合体である。
【0012】
ここに開示される製造方法の好ましい一態様では、前記溶液を調製する工程の後であって前記混合溶媒を気化させて除去する工程の前に、基材の表面上に前記調製した非水溶性高分子の溶液を薄膜状に塗工する工程をさらに包含する。このような構成によれば、非水溶性高分子を用いて、少ない工程数で、スキン層の形成が抑制された樹脂多孔質膜を製造可能な方法が提供される。ここで、前記基材が、二次電池の電極である場合には、二次電池の電極一体型セパレータを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る製造方法における混合溶媒除去工程の実施方法の一例の説明図である。
図2】比較例1で得られた薄膜の表面のSEM写真である。
図3】実施例1で得られた薄膜の表面のSEM写真である。
図4】実施例2で得られた薄膜の表面のSEM写真である。
図5】実施例4で得られた薄膜の表面のSEM写真である。
図6】実施例5で得られた薄膜の表面のSEM写真である。
図7】実施例10で得られた薄膜の表面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の樹脂多孔質体の製造方法は、非水溶性高分子の良溶媒および当該非水溶性高分子の第1の貧溶媒を含有する混合溶媒に、当該非水溶性高分子が溶解した溶液を調製する工程(以下、「溶液調製工程」ともいう)と、当該溶液から、当該混合溶媒を気化させて除去する工程(以下、「混合溶媒除去工程」ともいう)と、を包含する。ここで、当該第1の貧溶媒の沸点は、当該良溶媒の沸点よりも高い。当該混合溶媒除去工程において、当該非水溶性高分子の第2の貧溶媒の蒸気の存在下で、当該混合溶媒を気化させて除去することによって、空孔を形成して多孔質体を得る。
【0015】
まず、溶液調製工程について説明する。本発明において「非水溶性高分子の良溶媒」とは、非水溶性高分子に対し、25℃において1質量%以上の溶解性を示す溶媒のことをいう。良溶媒は、非水溶性高分子に対し、25℃において、2.5質量%以上の溶解性を示すことが好ましく、5質量%以上の溶解性を示すことがより好ましく、7.5質量%以上の溶解性を示すことがさらに好ましく、10質量%以上の溶解性を示すことが最も好ましい。なお、本発明に使用される良溶媒の種類は、非水溶性高分子の種類に応じて適宜選択される。良溶媒は、単独の溶媒であってもよく、2種以上の溶媒が混合された混合溶媒であってもよい。
【0016】
本明細書において、非水溶性高分子の第1の貧溶媒と非水溶性高分子の第2の貧溶媒とに共通する事項については、「非水溶性高分子の貧溶媒」または単に「貧溶媒」と記す。本発明において「非水溶性高分子の貧溶媒」とは、非水溶性高分子に対し、25℃において1質量%未満の溶解性を示す溶媒のことをいう。貧溶媒は、非水溶性高分子に対し、25℃において、0.5質量%以下の溶解性を示すことが好ましく、0.2質量%以下の溶解性を示すことがより好ましく、0.1質量%以下の溶解性を示すことがさらに好ましく、0.05質量%以下の溶解性を示すことが最も好ましい。本発明に使用される貧溶媒の種類は、非水溶性高分子の種類に応じて適宜選択される。貧溶媒は、単独の溶媒であってもよく、2種以上の溶媒が混合された混合溶媒であってもよい。
【0017】
特定の高分子化合物に対し、特定の溶媒が良溶媒であるか貧溶媒であるかの判断には、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)を利用することができる。例えば、当該高分子化合物のHSPの分散項、分極項、および水素結合項をそれぞれδD1、δP1、δH1とし、当該溶媒のHSPの分散項、分極項、および水素結合項をそれぞれδD2、δP2、δH2とした場合に、下記式で表される高分子化合物と溶媒とのHSPの距離Ra(MPa1/2)の値が小さいほど、高分子化合物の溶解度が高くなる傾向にある。
Ra=4(δD1-δD2+(δP1-δP2+(δH1-δH2
【0018】
また、上記特定の高分子化合物の相互作用半径をRとした場合に、Ra/Rの比が1未満だと可溶、Ra/Rの比が1だと部分的に可溶、およびRa/Rの比が1を超えると不溶であると予測される。
【0019】
あるいは、サンプル瓶等の中で特定の高分子化合物と特定の溶媒とを混合する試験を行うことにより、当該溶媒が、当該高分子化合物に対して良溶媒であるか貧溶媒であるかを容易に判別することができる。
【0020】
溶液調製工程において、良溶媒と第1の貧溶媒とは、混合され、均一な溶媒として使用される。したがって、良溶媒および第1の貧溶媒は互いに相溶性を有する。本発明においては、使用される第1の貧溶媒の沸点は、使用される良溶媒の沸点よりも高い。空孔率が比較的高く、均質な多孔質体が得られ易いことから、第1の貧溶媒の沸点は、良溶媒の沸点よりも10℃以上高いことが好ましく、90℃以上高いことがより好ましい。第1の貧溶媒の沸点は、乾燥速度の観点から、300℃未満であることが好ましい。
【0021】
本発明において「非水溶性高分子」とは、25℃における水に対する溶解度が1質量%未満である高分子のことをいう。非水溶性高分子の25℃における水に対する溶解度は、0.5質量%以下が好ましく、0.2質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下がさらに好ましい。
【0022】
溶液調製工程で用いられる「非水溶性高分子」は、多孔質の成形体を構成する非水溶性と同じ高分子である。非水溶性高分子としては、良溶媒と貧溶媒とが存在するものが使用される。使用される非水溶性高分子の種類は、良溶媒と貧溶媒とが存在するものである限り特に制限はない。非水溶性高分子の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂;ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂;ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル系樹脂;ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体等のスチレン系樹脂;エチルセルロース、酢酸セルロース、セルロースプロピオネート等の非水溶性セルロース誘導体;ポリ塩化ビニル、エチレン-塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系樹脂;エチレン-ビニルアルコール共重合体等が挙げられる。水溶性高分子を修飾して非水溶化したポリマー等も使用可能である。なかでも、非水溶性高分子の多孔質体の有用性およびその製造方法の有用性の観点から、非水溶性高分子は、脂肪族高分子化合物(すなわち、芳香環を有しない高分子化合物)であることが好ましい。空孔率が比較的高く、均質な多孔質体が得られ易いことから、非水溶性高分子は、付加重合型の高分子化合物(すなわち、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーの当該エチレン性不飽和二重結合の重合によって生成する高分子化合物;例、ビニル系重合体、ビニリデン系重合体)であることが好ましい。三次元ネットワーク状の多孔質構造を有する多孔質体の有用性、およびその製造方法の有用性の観点から、非水溶性高分子は、エチレン-ビニルアルコール共重合体であることが好ましい。
【0023】
非水溶性高分子の平均重合度は、特に限定はないが、好ましくは70以上500,000以下であり、より好ましくは100以上200,000以下である。なお、非水溶性高分子の平均重合度は、公知方法(例、NMR測定等)により求めることができる。
【0024】
以下、特定の非水溶性高分子を例に挙げて、好適な良溶媒および好適な貧溶媒について具体的に説明する。以下の非水溶性高分子に対して、以下説明する良溶媒と貧溶媒を使用することにより、本発明の製造方法を有利に実施することができる。なお、以下に挙げる良溶媒は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。以下に挙げる貧溶媒は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
1.非水溶性高分子がエチレン-ビニルアルコール共重合体である場合
エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)は、モノマー単位として、エチレン単位およびビニルアルコール単位を含有する共重合体である。EVOH中のエチレン単位の含有量は、特に制限はないが、好ましくは10モル%以上であり、より好ましくは15モル%以上であり、さらに好ましくは20モル%以上であり、特に好ましくは25モル%以上である。また、EVOH中のエチレン単位の含有量は、好ましくは60モル%以下であり、より好ましくは50モル%以下であり、さらに好ましくは45モル%以下である。EVOHのけん化度は、特に制限はないが、好ましくは80モル%以上であり、より好ましくは90モル%以上であり、さらに好ましくは95モル%以上である。けん化度の上限は、けん化に関する技術的限界により定まり、例えば、99.99モル%である。なお、EVOHのエチレン単位の含有量およびけん化度は、公知方法(例、H-NMR測定等)により求めることができる。
【0026】
また、EVOHは、通常、エチレンとビニルエステルとの共重合体を、アルカリ触媒等を用いてけん化して製造される。そのため、EVOHは、ビニルエステル単位を含有し得る。当該単位のビニルエステルは、典型的には酢酸ビニルであり、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル等であってよい。EVOHは、本発明の効果を顕著に損なわない範囲で、エチレン単位、ビニルアルコール単位、およびビニルエステル単位以外の他のモノマー単位を含有していてもよい。
【0027】
EVOHの好適な良溶媒としては、水とアルコールとの混合溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が挙げられる。混合溶媒に用いられるアルコールとしては、プロピルアルコールが好ましい。プロピルアルコールは、n-プロピルアルコールおよびイソプロピルアルコールのいずれであってもよい。したがって、特に好適な良溶媒は、水とプロピルアルコールとの混合溶媒、またはDMSOである。
【0028】
EVOHの好適な貧溶媒としては、水;アルコール;酢酸エチル等の鎖状エステル類;γ-ブチロラクトン等の環状エステル類;炭酸プロピレン等の環状カーボネート類;スルホラン等の環状スルホン類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、2-エトキシエタノール等のエーテル基含有モノオール類;1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等のジオール類;1,4-ジオキサン等の環状エーテル類;メチルエチルケトン等のケトン類;などが挙げられる。なかでも、第1の貧溶媒として、環状エステル類、環状カーボネート類、環状スルホン類、またはエーテル基含有モノオール類が好ましく、γ-ブチロラクトン、炭酸プロピレン、スルホラン、またはエーテル基含有モノオール類がより好ましく、γ-ブチロラクトン、またはスルホランがさらに好ましい。第1の貧溶媒の溶解パラメータ(ヒルデブラント(Hildebrand)のSP値)δが、EVOHの溶解パラメータδよりも1.6MPa1/2以上大きいことが好ましい。第2の貧溶媒としては、鎖状エステル類、環状エーテル類、またはケトン類が好ましく、酢酸エチル、1,4-ジオキサン、またはメチルエチルケトンがさらに好ましい。
【0029】
なお、EVOHでは、水およびアルコールは、EVOHの貧溶媒であるが、水とアルコール(特にプロピルアルコール)との混合溶媒は良溶媒である。ここで、水とアルコールとの混合溶媒は、水が減量された良溶媒の、水とアルコールとの混合溶媒と、これよりも沸点が高い貧溶媒の水との混合溶媒みなすことができるため、EVOHの溶液の調製に、水とアルコールとの混合溶媒を単独で用いることができる。よって、本発明において、特定の非水溶性高分子に対し、2種類以上の貧溶媒を混合した溶媒が良溶媒になる場合には、溶液調製のための非水溶性高分子の良溶媒および非水溶性高分子の第1の貧溶媒を含有する混合溶媒として、この2種以上の貧溶媒の混合溶媒を単独で用いることができる。
【0030】
2.非水溶性高分子が酢酸セルロースである場合
酢酸セルロースの好適な良溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等の含窒素極性溶媒(特に含窒素非プロトン性極性溶媒);蟻酸メチル、酢酸メチル等のエステル類;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン等の環状エーテル類;メチルグリコール、メチルグリコールアセテート等のグリコール誘導体;塩化メチレン、クロロホルム、テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素;炭酸プロピレン等の環状カーボネート類;DMSO等の含硫黄極性溶媒(特に含硫黄非プロトン性極性溶媒)などが挙げられる。なかでも、含硫黄非プロトン性極性溶媒が好ましく、DMSOがより好ましい。
【0031】
酢酸セルロースの好適な貧溶媒としては、1-ヘキサノール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等のアルコール類が挙げられる。アルコール類としては、炭素数4~6の1価または2価のアルコール類が好ましい。
【0032】
3.非水溶性高分子がポリフッ化ビニリデンである場合
ポリフッ化ビニリデンの好適な良溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等の含窒素極性溶媒(特に含窒素非プロトン性極性溶媒);DMSO等の含硫黄極性溶媒(特に含硫黄非プロトン性極性溶媒)などが挙げられる。なかでも、含窒素非プロトン性極性溶媒が好ましく、N,N-ジメチルホルムアミドがより好ましい。
【0033】
ポリフッ化ビニリデンの好適な貧溶媒としては、1-ヘキサノール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、グリセリン等のアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン等の環状エーテル類等が挙げられる。なかでも、アルコール類が好ましく、炭素数3~6の2価または3価のアルコール類がより好ましい。
【0034】
4.非水溶性高分子がフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体である場合
フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(P(VDF-HFP))は、モノマー単位として、フッ化ビニリデン単位およびヘキサフルオロプロピレン単位を含有する共重合体である。これらの単位の共重合割合は特に制限はなく、セパレータの特性に応じて適宜決定すればよい。フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体は、公知方法に従い合成して入手することができ、市販品(例、アルケマ社製Kynar FLEX 2850-00、2800-00、2800-20、2750-01、2500-20、3120-50、2851-00、2801-00、2821-00、2751-00、2501-00等)としても入手可能である。
【0035】
P(VDF-HFP)の好適な良溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン等の環状エーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等の含窒素極性溶媒(特に含窒素非プロトン性極性溶媒);DMSO等の含硫黄極性溶媒(特に含硫黄非プロトン性極性溶媒)などが挙げられる。気化による除去が容易であることから、良溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、またはテトラヒドロフランが好ましく、アセトン、またはメチルエチルケトンがより好ましい。
【0036】
P(VDF-HFP)の好適な貧溶媒としては、水;1-ヘキサノール、1,2-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、グリセリン等のアルコール類などが挙げられる。環境に対する負荷の低さ、入手の容易さ、取り扱いの容易さ等の観点から、貧溶媒としては、水、または炭素数3~6の2価または3価のアルコール類が好ましい。
【0037】
非水溶性高分子、良溶媒、および第1の貧溶媒の使用量は、使用するこれらの種類に応じて適宜選択するとよい。非水溶性高分子の混合量は、良溶媒100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、さらに好ましくは10質量部以上である。また、非水溶性高分子の混合量は、良溶媒100質量部に対して、40質量部以下、より好ましくは上35質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下である。第1の貧溶媒の混合量は、良溶媒100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上、さらに好ましくは30質量部以上である。また、第1の貧溶媒の混合量は、良溶媒100質量部に対して、好ましくは400質量部以下、より好ましく200質量部以下、さらに好ましくは100質量部以下である。これらの量を変化させることで、得られる多孔質体の孔の状態(例、空孔率、空孔径など)を制御することができる。
【0038】
非水溶性高分子の溶液は、本発明の効果を著しく損なわない範囲内で、非水溶性高分子および混合溶媒以外の成分をさらに含有していてもよい。
【0039】
非水溶性高分子の溶液の調製方法には特に制限はない。非水溶性高分子を良溶媒に溶解させて、そこに第1の貧溶媒を添加して均一に混合してもよい、非水溶性高分子を、良溶媒と第1の貧溶媒との混合溶媒に添加して、非水溶性高分子を溶解させてもよい。溶液の調製には、公知の撹拌装置、混合装置等を用いることができる。非水溶性高分子の溶液の調製の際には、超音波照射、加熱等を行ってもよい。加熱温度としては、例えば40℃以上100℃以下である。加熱により非水溶性高分子の溶液を調製した後、良溶媒と第1の貧溶媒とが分離しない範囲で冷却してよい。また、この冷却は、非水溶性高分子が析出しない範囲で行うことが好ましい。析出した非水溶性高分子が不純物となり得るためである。
【0040】
次に、混合溶媒除去工程について説明する。当該混合溶媒除去工程においては、第2の貧溶媒の蒸気の存在下で、良溶媒および第1の貧溶媒を気化(特に、揮発)させて除去する。この混合溶媒除去工程において、非水溶性高分子の多孔質状の骨格が形成される。この混合溶媒除去工程では、混合溶媒を除去する操作によって、具体的には第1の貧溶媒の気化によって、空孔を形成して、樹脂多孔質体を得る。典型的には、例えば、非水溶性高分子と、第1の貧溶媒が高濃度化した混合溶媒とを相分離させることによって、空孔を形成する。具体的には、第1の貧溶媒は、良溶媒よりも沸点が高いため、当該工程では、第1の貧溶媒よりも良溶媒が優先的に気化する。良溶媒が減少していくと、混合溶媒中の第1の貧溶媒の濃度が増加する。非水溶性高分子の第1の貧溶媒に対する溶解度が、良溶媒に対する溶解度よりも小さいため、非水溶性高分子と、第1の貧溶媒が高濃度化した混合溶媒とが相分離して、非水溶性高分子の多孔質状の骨格が形成される。この相分離は、スピノーダル分解であってよい。最終的には、良溶媒が除去されて非水溶性高分子が析出し、高沸点の第1の貧溶媒が気化により除去されて空孔が生成する。このようにして、非水溶性高分子の多孔質体が生成する。なお、非水溶性高分子と、第1の貧溶媒が高濃度化した混合溶媒とを相分離させるには、良溶媒の種類と使用量および第1の貧溶媒の種類と使用量を適切に選択するとよい。
【0041】
ここで、大気、不活性ガス雰囲気等の通常採択される雰囲気下で、気化による混合溶媒の除去を行う場合、非水溶性高分子の溶液と雰囲気との界面が乾燥界面となる。溶液の界面部分では、溶液内部と比べて混合溶媒の気化速度が大きくなり、これにより、溶液の界面部分と内部とで組成にズレが生じる。その結果、溶液の界面部分では多孔質化が起こらず、得られる樹脂多孔質体の表層部にスキン層が形成される。
【0042】
これに対し、本発明においては、第2の貧溶媒の蒸気の存在下で、気化による混合溶媒の除去を行う。言い換えると、本発明では、第2の貧溶媒の蒸気を含む雰囲気下で、気化による混合溶媒の除去を行う。このようにすれば、非水溶性高分子の溶液の界面部分において、積極的に相分離に起因する多孔質化を引き起こすことができ、得られる多孔質体の表層部でのスキン層の形成を抑制することができる。
【0043】
混合溶媒除去工程において蒸気として用いられる第2の貧溶媒は、上記溶液調製工程で用いた第1の貧溶媒と同じであっても、異なっていてもよい。混合溶媒除去工程において蒸気として用いられる第2の貧溶媒を選択するための一つの指標として、非水溶性高分子の溶液との親和性の観点から、蒸気として用いられる第2の貧溶媒は、上記溶液調製工程で用いた第1の貧溶媒の内の少なくとも1種を含むことが好ましい。一例では、上記溶液調製工程で一種類の貧溶媒を用いた場合に、混合溶媒除去工程で、その一種類の貧溶媒の蒸気を使用する。別の例では、上記溶液調製工程で二種類以上の貧溶媒を用いた場合に、混合溶媒除去工程で、その二種類以上の貧溶媒のうちの一種類の貧溶媒の蒸気を使用する。また別の例では、上記溶液調製工程で二種類以上の貧溶媒を用いた場合に、混合溶媒除去工程で、その二種類以上の貧溶媒すべての蒸気を使用する。非水溶性高分子がEVOHである場合、スキン層の形成抑制効果がより高いことから、混合溶媒除去工程で用いられる第2の貧溶媒として好ましくは、プロピルアルコールである。
【0044】
混合溶媒除去工程において蒸気として用いられる第2の貧溶媒を選択するための別の指標として、非水溶性高分子のHSPからの距離Ra(上記式参照)が挙げられる。ここで距離Raが大きい方が、非水溶性高分子との親和性が低くなるため、非水溶性高分子の溶液の表層部での相分離による多孔質骨格の形成が起こりやすくなる。よって、第2の貧溶媒の、非水溶性高分子のHSPからの距離Ra(言い換えると、第2の貧溶媒と非水溶性高分子とのHSPの距離Ra)は、特に限定されないが、スキン層の形成をより抑制できることから、好ましくは10MPa1/2以上である。この距離Raが10MPa1/2以上である場合には、得られる樹脂多孔質体の表層部の孔の形状、大きさ等を改善することもできる。
【0045】
混合溶媒除去工程において蒸気として用いられる第2の貧溶媒を選択するためのまた別の指標として、沸点が挙げられる。ここで、第2の貧溶媒の沸点が比較的低い方が、第2の貧溶媒の蒸気化が容易であり、蒸気濃度を容易に高めることができる。したがって、第2の貧溶媒の沸点は、特に限定されないが、スキン層の形成をより抑制することが容易となることから、好ましくは210℃以下であり、より好ましくは160℃以下であり、さらに好ましくは130℃以下であり、最も好ましくは110℃以下である。一方、第2の貧溶媒の沸点は、好ましくは60℃以上であり、より好ましく70℃以上であり、さらに好ましくは75℃以上である。第2の貧溶媒の沸点を適切に選択することにより、得られる樹脂多孔質体の表層部の孔の形状、大きさ等を改善することもできる。
【0046】
なお、本明細書において「第2の貧溶媒の蒸気の存在下で良溶媒および第1の貧溶媒を気化させる」とは、「(気化を行う)雰囲気に外部から第2の貧溶媒の蒸気が加えられた状態で、良溶媒および第1の貧溶媒を気化させる」ことをいう。よって、「第2の貧溶媒の蒸気の存在下」には、「別途第2の貧溶媒の蒸気を加えることなく、非水溶性高分子の溶液に含まれる第1の貧溶媒が気化して生成する蒸気がごく微量雰囲気に存在する状態」は含まれない。雰囲気の第2の貧溶媒の蒸気濃度は、多孔質化が起こる限り特に制限はない。第2の貧溶媒の蒸気濃度は、例えば、1,000体積ppm(すなわち、0.1000体積%)以上、あるいは2,000体積ppm以上である。第2の貧溶媒の蒸気濃度が高い方が、多孔質体の表層部での孔形成が多く起こりやすい。そのため、第2の貧溶媒の蒸気濃度は、好ましくは6,0000体積ppm以上であり、より好ましくは10,000体積ppm以上であり、最も好ましくは20,000体積ppm以上である。
【0047】
混合溶媒除去工程において、雰囲気に第2の貧溶媒の蒸気を導入する方法については特に制限はなく、公知方法に従って雰囲気に第2の貧溶媒の蒸気を導入することができる。当該方法の一例では、第2の貧溶媒を加熱ししつつ、ドライ空気、窒素ガス等をバブリングしながら第2の貧溶媒に供給することによって、第2の貧溶媒の蒸気を含有するガスを調製し、このガスを、混合溶媒を気化させる雰囲気に供給する。
【0048】
良溶媒および第1の貧溶媒の混合溶媒を気化させる方法は、例えば、加熱による方法、風乾による方法などが挙げられる。これらの方法は公知の乾燥方法と同様にして実施することができる。操作の実施の容易さの観点から、加熱による方法が好ましい。加熱温度は、特に制限はないが、混合溶媒が沸騰せず、かつ非水溶性高分子および第1の貧溶媒が分解しない温度であることが好ましい。具体的には、加熱温度は、例えば25℃以上、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上である。また、加熱温度は、例えば180℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは125℃以下である。加熱時間は、溶媒の種類や加熱温度に応じて適宜決定すればよい。加熱時間が長い方が、スキン層の形成がより抑制される傾向にあることから、好ましくは15秒以上であり、より好ましくは30秒以上である。良溶媒および第1の貧溶媒を気化させる間は、非水溶性高分子の溶液を静置することが好ましい。
【0049】
混合溶媒除去工程の実施方法の一例を、図1を用いて説明する。なお、混合溶媒除去工程の実施方法は、以下説明する方法に限られない。
【0050】
図1に示すように、バブラー12と熱電対14を備えるタンク10を準備し、タンク10内に第2の貧溶媒20を供給する。タンク10にはフィルタハウジング等を利用することができる。またタンク10の側面にラバーヒータ等のヒータ30を取り付ける。タンク10のバブラー12と、窒素ガスボンベ等のガスボンベ40とを、ガス導入管50によって接続する。また、ガス導出管60によって、タンク10と、乾燥容器70とを接続する。乾燥容器70は、濃度計72と、排気口(図示せず)とを有する。乾燥容器70の下部にホットプレート80を配置する。乾燥容器70内に、非水溶性高分子の溶液を配置する。第2の貧溶媒20が気化しやすいように、ヒータ30でタンク10を加熱する。このとき熱電対14によって第2の貧溶媒20の温度を測定して、第2の貧溶媒20の温度管理を行う。ガスボンベ40からガスをタンク10に供給する。バブラー12によって、第2の貧溶媒20に気泡状にガスを供給する。これにより、タンク10の上部は、第2の貧溶媒20の蒸気を含むガスで満たされる。この第2の貧溶媒20の蒸気を含むガスを、ガス導出管60を介して、乾燥容器70内に供給する。これにより、雰囲気に第2の貧溶媒20の蒸気が導入される。ホットプレート80により、乾燥容器70内の非水溶性高分子の溶液を加熱して、混合溶媒を気化させる。なお、導入された貧溶媒20の蒸気が液化しないように、ホットプレート80の温度を設定する。好適には、ホットプレート80の温度を、ヒータ30の温度よりも高くする。気化した混合溶媒を、容器70の排気口から排出する一方で、第2の貧溶媒20の蒸気を含むガスの乾燥容器70への供給を続ける。このとき、濃度計72によって、第2の貧溶媒20の蒸気濃度を測定し、第2の貧溶媒20の蒸気を含むガスの供給量および排気口からの排出速度を管理する。なお、第2の貧溶媒20の蒸気濃度は、ヒータ30およびホットプレート80の温度、バブラー12によるバブリング速度、ガス導出管60の断熱性などを変化させることにより、調整することができる。
【0051】
所望の形状の多孔質体を得る場合、当該所望の形状に対応した形状の型に非水溶性高分子の溶液を入れ、これを第2の貧溶媒の蒸気の存在下で加熱する方法を好適に用いることができる。膜状の多孔質体を得る場合、基材の表面上に非水溶性高分子の溶液を薄膜状に塗工し、これを第2の貧溶媒の蒸気の存在下で加熱する方法を好適に用いることができる。
【0052】
有益な用途が多いことから、本発明においては、膜状の多孔質体を得ることが好ましい。よって、本発明に係る製造方法は、溶液調製工程の後であって混合溶媒除去工程の前に、基材の表面上に調製した非水溶性高分子の溶液を薄膜状に塗工する工程(以下、「塗工工程」ともいう)を含むことが好ましい。
【0053】
膜状の樹脂多孔質体を得る場合の塗工工程について詳細に説明する。用いられる基材は、基材として機能し得る限り特に限定されない。基材は、最終的に多孔質体から剥離して用いられるものであってもよいし、剥離せずに用いられるものであってもよい。基材の形状は、特に限定されず、平面を有するものが好ましい。形状の例としては、シート状、フィルム状、箔状、板状等が挙げられる。基材の構成材料としては、樹脂、ガラス、金属等が挙げられる。
【0054】
上記樹脂の例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等が挙げられる。
【0055】
上記金属の例としては、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス鋼等が挙げられる。また、ガラス繊維強化エポキシ樹脂等の繊維強化樹脂などの複数の材料を用いたものを基材として用いることができる。
【0056】
また、基材は、複層構造を有していてもよい。例えば、基材は、フッ素樹脂を含む剥離層を有していてもよい。例えば、基材は、樹脂層を有する紙等であってよい。
【0057】
基材が剥離せずに用いられる場合、得られる多孔質体の機能層としての役割を有するものであってもよい。例えば、基材は、補強材、支持材等の機能を有していてもよい。また、基材は、二次電池の電極(特に二次電池の電極の活物質層)であってもよい。このとき、樹脂多孔質体の製造方法を、二次電池の電極一体型セパレータの製造方法とすることができる。
【0058】
非水溶性高分子の溶液の塗工方法は特に制限されず、基材の種類に応じて適宜選択すればよい。塗工方法の例としては、ダイコーティング法、グラビアコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、ブレードコーティング法、スプレーコーティング法、キャスティング法等が挙げられる。塗工厚みは特に制限されず、多孔質体の用途に応じて適宜設定すればよく、例えば、1μm以上500μm以下であり、好ましくは10μm以上300μm以下である。
【0059】
非水溶性高分子の溶液が塗工された基材を第2の貧溶媒の蒸気の存在下で加熱する方法は、上述の通りである。
【0060】
以上のようにして、樹脂多孔質体を得ることができる。樹脂多孔質体は、スキン層の形成が抑制されているため、一つの主面から、それと対向する主面まで孔が連通した三次元ネットワーク状の多孔構造を有する。本発明の製造方法によれば、平均孔径が、例えば0.5μm以上(特に0.9μm以上、さらには1.4μm以上)5μm以下(特に4.2μm以下、さらには3.8μm以下)の多孔質体を得ることができる。なお、平均孔径は、多孔質体の断面電子顕微鏡写真を撮影し、100個以上の孔の径の平均値として求めることができる。孔の断面が非球状である場合には、孔の最大径と最小径との平均を孔径としてよい。また、本発明の製造方法によれば、空孔率が、例えば15%以上(特に42%以上、さらには51.5%以上、さらにまた61.5%以上)80%未満(特に75%未満)の多孔質体を得ることができる。なお、空孔率は、公知方法に従い、真密度と見かけ密度を用いて算出することができる。
【0061】
本発明によれば、冷却して成形体を析出させる操作および溶媒を置換する操作を行う必要がなく、非水溶性高分子の溶液の調製と、良溶媒および貧溶媒の気化という工程により、樹脂多孔質体を製造することができる。すなわち、本発明によれば、少ない工程数で樹脂多孔質体を製造することができる。また、本発明においては、樹脂多孔質体の表層部におけるスキン層の形成が抑制されている。したがって、樹脂多孔質体は、幅広い用途に使用可能である。
【0062】
樹脂多孔質体の用途の例としては、梱包材料、建築資材、吸音材料、掃除用品、化粧用品、分離膜、吸着材、精製用担体、触媒担体、培養担体等が挙げられる。また、スキン層がないために電解液を透過可能であることを利用して、樹脂多孔質体を、二次電池用のセパレータとして使用することができる。樹脂多孔質体を、セパレータ用途に適用する場合には、活物質層の上に直接セパレータを形成できるため、セパレータの製造面において有利である。
【0063】
したがって、上記の製造方法は、非水溶性高分子の良溶媒および当該非水溶性高分子の第1の貧溶媒を含有する混合溶媒に、当該非水溶性高分子が溶解した溶液を調製する工程と、当該溶液を、電極の活物質層上に塗工する工程と、当該塗工された溶液から、当該混合溶媒を気化させて除去する工程とを包含し、当該第1の貧溶媒の沸点が、当該良溶媒の沸点よりも高く、当該混合溶媒を気化させて除去する工程において、当該非水溶性高分子の第2の貧溶媒の蒸気の存在下で、当該混合溶媒を気化させて除去することによって、空孔を形成して多孔質体を得る、二次電池の電極一体型セパレータの製造方法として応用することができる。
【0064】
電極が正極である場合には、活物質層(すなわち、正極活物質層)は、正極活物質を含み得る。正極活物質としては、例えばリチウム遷移金属酸化物(例、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNiO、LiCoO、LiFeO、LiMn、LiNi0.5Mn1.5等)、リチウム遷移金属リン酸化合物(例、LiFePO等)等が挙げられる。正極活物質層は、活物質以外の成分、例えば導電材、バインダ、リン酸リチウム等を含み得る。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(例、グラファイト等)の炭素材料を好適に使用し得る。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。
【0065】
電極が負極である場合には、活物質層(すなわち、負極活物質層)は、負極活物質を含み得る。負極活物質としては、例えば黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料などが挙げられる。負極活物質層は、活物質以外の成分、例えばバインダや増粘剤等を含み得る。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)等を使用し得る。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等を使用し得る。
【0066】
活物質層は、典型的には集電体上に形成される。集電体の例としては、アルミニウム箔、銅箔等が挙げられる。
【0067】
各工程の操作については、上述の通りである。この二次電池用の電極一体型セパレータの製造方法は、二次電池の電極一体型セパレータを、少ない工程数で製造することができるという点で非常に優れている。
【0068】
以上のようにして製造されたセパレータ一体型電極は、公知方法に従い、各種の二次電池に用いることができる。二次電池として好適には、リチウム二次電池であり、当該リチウム二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両駆動用電源などに好適に用いることができる。
【実施例
【0069】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0070】
実施例1
サンプル瓶に、エチレン-ビニルアルコール共重合体(クラレ社製「エバール L171B」:エチレン含有率27モル%、以下「EVOH」と記す)1gを秤量した。これに、良溶媒として水とn-プロピルアルコール(nPA)とを体積比5:5で含有する混合溶媒10mLと、第1の貧溶媒としてγ-ブチロラクトン(GBL)1.8mLとを添加した。サンプル瓶を80℃~90℃に加熱し、EVOHがこれらの溶媒に完全に溶解するまで撹拌して、EVOH溶液を得た。EVOH溶液を25℃に冷却した後、基材としてのアルミニウム箔上にキャスティングにより塗布した。このとき、塗布厚みは100μmであった。
【0071】
フィルタハウジングの下部にバブラーを取り付け、これを、SUS製パイプを介して窒素ボンベに接続した。フィルタハウジングにサーモスタット付きのラバーヒータを巻き付けた。フィルタハウジングに熱電対を取り付け、フィルタハウジングの上部を、バルブ付きのポリウレタンチューブを介して塩化ビニル製のボックスと接続した。ボックスには、濃度計を取り付け、ボックスをホットプレート上に置いた。また、EVOH溶液を塗布したアルミニウム箔を、ボックス内に配置した。フィルタハウジング内に第2の貧溶媒としてnPAを加え、nPAをラバーヒータにより30℃に加熱した。その後、窒素ボンベから窒素ガスをフィルタハウジングに供給し、バブラーでバブリングすることで、フィルタハウジング内にnPAの蒸気を発生させた。nPAの蒸気を含有する窒素ガスをボックスに供給した。ボックス内の窒素ガス中のnPAの蒸気の濃度は、6,000体積ppmであった。なお、nPAとEVOHとのHSPの距離Raは、7.3MPa1/2であり、nPAの沸点は97℃である。EVOH溶液を塗布したアルミニウム箔を、ホットプレートにより70℃で30秒間加熱して、良溶媒および第1の貧溶媒を気化させて除去した。このようにして、アルミニウム箔上にEVOHの薄膜を得た。
【0072】
実施例2
ボックス内の窒素ガス中のnPAの蒸気の濃度が20,000体積ppmになるようにnPAの蒸気を含有する窒素ガスをボックスに供給した以外は、実施例1と同様の方法により、アルミニウム箔上にEVOHの薄膜を得た。
【0073】
比較例1
ボックス内にnPAの蒸気を導入せずに良溶媒および第1の貧溶媒を気化させて除去した以外は、実施例1と同様の方法により、アルミニウム箔上にEVOHの薄膜を得た。
【0074】
〔液浸透評価〕
比較例1および実施例1,2で得られた薄膜の表面に電解液を滴下して、電解液が薄膜の裏面まで浸透したか否かを目視で評価した。なお、電解液には、ジメチルカーボネート(DMC)とエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とをDMC:EC:EMC=1:1:1の体積比で含む混合溶媒に、LiPFを1.0mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。結果を表1に示す。電解液が薄膜の裏面まで浸透する場合には、スキン層がなく多孔質化されていると判断できる。一方、電解液が浸透しない場合は、スキン層が形成されていると判断できる。
【0075】
〔SEM観察による評価〕
比較例1および実施例1,2で得られた薄膜の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した。比較例1および実施例1,2で得られた薄膜の表面のSEM写真を、それぞれ図2~4に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1の結果が示すように、比較例1では、電解液が薄膜の裏面まで浸透しなかった。さらに、SEM画像(図2)に示すように、比較例1で得られた薄膜の表面には孔がほとんど確認できなかった。このことから、比較例1では、薄膜の表面にスキン層が形成されたことがわかる。
【0078】
一方、実施例1および2では、電解液が薄膜の裏面まで浸透した。さらにSEM画像(図3および4)に示すように、実施例1および2で得られた薄膜の表面には多くの孔が確認できた。このことから、実施例1および2で得られた薄膜は、スキン層が形成されることなく多孔質化されたことがわかる。また、図3および4の比較より、貧溶媒の蒸気濃度が高い方が、表面の孔が多く、スキン層形成抑制効果が高いことがわかる。
【0079】
上記実施例において、樹脂多孔質体の製造に必要な工程は、非水溶性高分子の溶液の調製と、気化による混合溶媒の除去である。よって以上のことから、本発明によれば、非水溶性高分子を用いて、少ない工程数で、スキン層の形成が抑制された樹脂多孔質体を製造できることがわかる。
【0080】
実施例3
蒸気として導入する第2の貧溶媒の種類を、nPAから酢酸エチルに変更し、ラバーヒータの温度を50℃とした以外は実施例1と同様の方法により、アルミニウム箔上にEVOHの薄膜を得た。なお、酢酸エチルとEVOHとのHSPの距離Raは、10.6MPa1/2であり、酢酸エチルの沸点は77℃である。
【0081】
実施例4
蒸気として導入する第2の貧溶媒の種類を、nPAから酢酸エチルに変更し、ラバーヒータの温度を60℃とした以外は実施例1と同様の方法により、アルミニウム箔上にEVOHの薄膜を得た。なお、実施例3よりラバーヒータの温度を高くしたことにより、実施例4の第2の貧溶媒の蒸気濃度は、実施例3よりも高くなっている。
【0082】
実施例5
ホットプレートでの乾燥時間を15秒に変更した以外は、実施例4と同様の方法により、アルミニウム箔上にEVOHの薄膜を得た。
【0083】
実施例6
ホットプレートでの乾燥時間を60秒に変更した以外は、実施例4と同様の方法により、アルミニウム箔上にEVOHの薄膜を得た。
【0084】
実施例7
蒸気として導入する第2の貧溶媒の種類を、nPAから1,4-ジオキサンに変更し、ラバーヒータの温度を60℃とした以外は実施例1と同様の方法により、アルミニウム箔上にEVOHの薄膜を得た。なお、1,4-ジオキサンとEVOHとのHSPの距離Raは、13.2MPa1/2であり、1,4-ジオキサンの沸点は101℃である。
【0085】
実施例8
ホットプレートでの乾燥温度を90℃とした以外は実施例1と同様の方法により、アルミニウム箔上にEVOHの薄膜を得た。
【0086】
実施例9
蒸気として導入する第2の貧溶媒の種類を、nPAからメチルエチルケトン(MEK)に変更し、ラバーヒータの温度を60℃とした以外は実施例1と同様の方法により、アルミニウム箔上にEVOHの薄膜を得た。なお、MEKとEVOHとのHSPの距離Raは、10.1MPa1/2であり、MEKの沸点は80℃である。
【0087】
実施例10
ホットプレートでの乾燥時間を60秒に変更した以外は、実施例9と同様の方法により、アルミニウム箔上にEVOHの薄膜を得た。
【0088】
〔表面多孔化評価〕
実施例3~10で得られた薄膜の表面の、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、表面SEM画像を取得した。この表面SEM画像を用いて、薄膜の表面において、孔が占める割合(%)を求めた。具体的には、薄膜の表面の所定の面積内に存在する各孔の面積を測定し、薄膜の表面の所定の面積内における孔の合計面積を求めた。そして、孔が占める割合(%)=(孔の合計面積/薄膜の表面の所定の面積)×100を計算した。以下の基準により、表面の多孔化の程度を評価した。この評価については、実施例1,2および比較例1についても行った。その結果を表2に示す。
A:孔が占める割合が25%以上
B:孔が占める割合が5%以上25%未満
C:孔が占める割合が1%以上5%未満
D:孔が占める割合が1%未満
【0089】
また、参考として、実施例4、5および10で得られた薄膜の表面SEM画像を図5~7にそれぞれ示す。
【0090】
【表2】
【0091】
表2の結果が示すように、酢酸エチル、1,4-ジオキサンおよびMEKを、蒸気として導入する第2の貧溶媒として用いた場合には、nPAを用いた場合と比べて、蒸気濃度が低くても、薄膜表面の多孔化の程度が大きくなることがわかる。
【0092】
また図4~7の結果が示すように、nPAを用いた場合には、孔の形状がいびつであるが、酢酸エチル、1,4-ジオキサンおよびMEKを用いた場合には、孔の形状が円形で揃っていることがわかる。
【0093】
以上のことから、酢酸エチル、1,4-ジオキサンおよびMEKの方がnPAよりも、表面を多孔化する能力が高く、蒸気として導入する第2の貧溶媒として優れていることがわかる。ここで、酢酸エチル、1,4-ジオキサンおよびMEKの、EVOHのHSPからの距離(Ra)は、それぞれ10MPa1/2以上である。ここで距離(Ra)が大きい方がEVOHとの親和性が低くなるため、相分離による多孔質骨格の形成がし易くなる。よって、EVOHのHSPからの距離(Ra)が10MPa1/2以上であることが、スキン層の形成を抑制する上でより有利であることがわかる。
【符号の説明】
【0094】
10 タンク
12 バブラー
14 熱電対
20 貧溶媒
30 ヒータ
40 ガスボンベ
50 ガス導入管
60 ガス導出管
70 乾燥容器
72 濃度計
80 ホットプレート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7