(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】調整装置を備える切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 29/034 20060101AFI20230303BHJP
B23B 39/00 20060101ALI20230303BHJP
【FI】
B23B29/034 B
B23B39/00 B
(21)【出願番号】P 2020503710
(86)(22)【出願日】2018-07-27
(86)【国際出願番号】 EP2018070400
(87)【国際公開番号】W WO2019020785
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-06-29
(31)【優先権主張番号】102017213063.6
(32)【優先日】2017-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】508064506
【氏名又は名称】ギューリング カーゲー
【氏名又は名称原語表記】GUEHRING KG
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘッケル,ゲルド
(72)【発明者】
【氏名】ホルフェルター,ハンスペーター
(72)【発明者】
【氏名】タナー,ユルゲン
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-084484(JP,A)
【文献】特開2006-263829(JP,A)
【文献】特開2000-246519(JP,A)
【文献】実開昭59-120503(JP,U)
【文献】特表2013-521139(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102005028366(DE,A1)
【文献】実開昭48-013891(JP,U)
【文献】実開平01-148206(JP,U)
【文献】米国特許第02874597(US,A)
【文献】米国特許第03324529(US,A)
【文献】米国特許第05396693(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0084320(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0114402(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0014916(US,A1)
【文献】西独国特許出願公開第10052376(DE,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/00-29/34
B23B 35/00-49/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心として回転駆動可能な基体(16;116)と、径方向に調整可能に前記基体(16;116)に配置された少なくとも1つの刃先担持体(12;112)と、前記基体(16;116)に対する前記刃先担持体(12;112)の位置を調整するための調整装置(28)と、を備える切削工具において、
前記刃先担持体(12;112)は、前記基体(16;116)におけるガイド空所(18;118)において、前記回転軸に対して
垂直に摺動可能に配置されており、
前記調整装置(28)は、前記基体(16;116)において前記回転軸に対して横向きに、かつ前記刃先担持体(12;112)の摺動方向に対して横向きに調節可能な調整要素(32)を有し、前記調整要素に前記刃先担持体(12;112)が支持されて
おり、
前記切削工具は、さらに、前記刃先担持体(12;112)に組み込まれていて、前記調整要素(32)に対する前記刃先担持体(12;112)の位置をアジャストするためのアジャスト装置(54)を備えることを特徴とする、切削工具。
【請求項2】
前記刃先担持体(12;112)は、前記ガイド空所(18;118)に形状結合的に収容されていることを特徴とする、請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記刃先担持体(12;112)は、前記ガイド空所(18;118)に相対回動不能に収容されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記ガイド空所は、貫通空所(18)として形成されていることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項5】
前記刃先担持体(12)は、前記回転軸に対して横向きに、かつ前記摺動方向に対して横向きに延在する開口(30)を有し、前記開口に前記調整要素(32)が収容されていることを特徴とする、請求項4に記載の切削工具。
【請求項6】
前記ガイド空所は、有底空所(118)として形成されていることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項7】
前記調整要素(32)は、前記有底空所(118)の底と前記刃先担持体(112)との間に配置されていることを特徴とする、請求項6に記載の切削工具。
【請求項8】
前記刃先担持体(12;112)は、前記基体(16;116)に対して弾性的
に支持されていることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項9】
前記調整装置(28)は、前記調整要素(32)を駆動するねじ装置(34、36)を有することを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項10】
前記調整要素は、前記刃先担持体(12;112)が支持されている制御傾斜(50)を有するねじ付きスリーブ(32)から形成されており、
前記ねじ装置(34、36)は、前記ねじ付きスリーブ(32)とねじ締結されていて前記基体(16;116)に支承された駆動スピンドル(34)を有することを特徴とする、請求項9に記載の切削工具。
【請求項11】
前記ねじ装置(34、36)は、前記基体(16;116)において前記ねじ付きスリーブ(32)と距離を置いて固定されたねじ付きブッシュ(36)を有し、
前記駆動スピンドルは、第1ねじ山区分(34a)で前記ねじ付きスリーブ(32)と、かつ、第2ねじ山区分(34b)で前記ねじ付きブッシュ(36)とねじ締結されている差動ねじスピンドル(34)として形成されていることを特徴とする、請求項10に記載の切削工具。
【請求項12】
前記ねじ付きスリーブ(32)と前記ねじ付きブッシュ(36)との間に圧縮ばねが配置されていることを特徴とする、請求項11に記載の切削工具。
【請求項13】
前記調整装置(28)は、前記基体(16;116)に回転運動可能に保持された操作要素(42)を有し
、前記差動ねじスピンドル(34)
は、前記操作要素と回転不能に、かつ
軸方向に摺動可能に接続されていることを特徴とする、請求項11または12に記載の切削工具。
【請求項14】
前記アジャスト装置(54)は、前記刃先担持体(12;112)を前記調整要素(32)に支持する調整ねじ(52)を有することを特徴とする、請求項
1~13のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項15】
前記基体(16;116)におけるガイド空所(18;118)において、それぞれ前記回転軸に対して
垂直に摺動可能に配置され、かつ割り当てられた調整要素(32)に支持されている複数の刃先担持体(12;112)を
備えることを特徴とする、請求項1~
14のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項16】
前記刃先担持体(12;112)は個別に調整可能であることを特徴とする、請求項1
5に記載の切削工具。
【請求項17】
前記刃先担持体(12;112)は、前記回転軸に対して異なる距離に位置調整可能に配置されていることを特徴とする、請求項
15または
16に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部に記載の切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
このような切削工具は、例えばDE10052376A1から知られている。この刊行物に示される切削工具は、回転軸を中心として駆動可能な基体(ベースホルダ)と、基体を長くするHSK(中空テーパシャンク)シャンクとの工作機械側のインターフェイスと、を有する。切削工具の一実施形態では、切削チップ(工具)が装着された刃先担持体(工具ホルダ)が、基体の外周側の開いた収容ポケットに支承されているのに対して、別の実施形態ではそれぞれ切削チップが装着されている2つの刃先担持体が、基体の外周側の開いた収容ポケットにおいてそれぞれ軸方向にずらして支承されている。刃先の摩耗を補償するために、各刃先担持体を径方向に調整可能である。この目的で設けられた調整装置は、基体において長手方向に摺動可能に配置された調整棒(調整マンドレル)と、第1端で調整棒の制御面に、かつ第2端で刃先担持体に支持されている調整要素(押圧要素)とから形成されている。端面側で操作可能な調整ねじによって引き起こされる調整棒の軸方向の摺動時に、1つまたは複数の刃先担持体が、調整棒の割り当てられた制御面とそれぞれの調整要素とによってなる楔面伝動装置(Keilflaechengetriebe)を介して径方向外方へ押し出される。
【0003】
類似の動作原理にもとづく他の1つまたは複数の刃先担持体を備える切削工具は、例えばDE4022579A1、WO2004/012887A2、EP1402979B1、WO98/48964A1、WO2009/005804A1、DE2405694A1またはWO2010/021284A1から知られている。
【0004】
上記の切削工具では、刃先を微調整するため、または刃先の摩耗を補償するために、刃先担持体が基体に相対して弾性変形することによって(例えばDE10052376A1、EP1402979B1、WO2009/005804A1およびDE2405694Aを参照)、または旋回することによって(DE4022579A1、WO2004/012887A2、WO98/48964A1およびWO2010/021284A1を参照)調整可能である。この目的で刃先担持体は、切削工具の基体において軸方向に摺動可能に配置された調整棒と、基体において径方向に摺動可能に、調整棒の楔面と刃先担持体との間に配置された調整要素とを介して径方向に制御される。
【0005】
DE102004052211A1およびDE102005028366A1には、調整棒(引張棒)を介して複数の刃先の各々を個別に後調整することを可能にする多エッジ付き切削工具(中ぐり棒)が記載されている。この目的で複数の刃先担持体(クランプホルダ)の各々の調整装置を、連結装置を介して個別に調整棒と接続することが具体的に提案されている。刃先担持体および中心調整棒の調整装置間に配置されている連結装置によって、刃先の摩耗を補償するべく個々の刃先の後調整が可能になる。
【0006】
さらにDE19649143A1から、刃先の摩耗を補償するために切削工具の基体に対して刃先担持体を個別に調節することを可能にするアジャスト装置が知られている。DE19649143A1のアジャスト装置は、切削工具(中ぐり棒)の基体(シャンク)に配置されており、差動ねじとねじ付きスリーブとから形成されている。作動ねじを回転させることによってねじ付きスリーブが摺動され、それにより刃先担持体もまた、軸方向に旋回可能に支承された前区分を降下または持上げることによって高さ調節される。
【0007】
US4,428,704から、さらに外周側の開いた収容ポケット(recess)に配置された刃先担持体(cartridge)を備える切削工具が知られており、刃先担持体は、スロットによってブリッジ(bight portion)と2つの脚部(legs)とに分割され、2つのうちの一方の脚部が基体(boring bar)と固くねじ締結されており、他方の脚部は、切削チップを支持するとともに、一方の脚部に相対して弾性変形することによって径方向に調整可能である。この目的で刃先担持体内に配置されていて差動ねじを有するアジャスト装置は、刃先担持体ボディの互いに変形可能な脚部間で作用する。しかし刃先担持体の堅固なねじ締結が、基体に対する刃先担持体全体の径方向の調節を妨げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】独国特許出願公開第10052376号明細書
【文献】独国特許出願公開第4022579号明細書
【文献】国際公開第2004/012887号
【文献】欧州特許第1402979号明細書
【文献】国際公開第98/48964号
【文献】国際公開第2009/005804号
【文献】独国特許出願公開第2405694号明細書
【文献】国際公開第2010/021284号
【文献】独国特許出願公開第102004052211号明細書
【文献】独国特許出願公開第102005028366号明細書
【文献】独国特許出願公開第19649143号明細書
【文献】米国特許第4,428,704号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、従来技術から公知の解決策では、それぞれの刃先担持体の刃先の調節が、切削工具の長手方向に延在する刃先担持体の弾性変形もしくは旋回により行われる。しかし弾性変形もしくは旋回のために必要な刃先担持体の軸方向の広がりは、軸方向に切削工具に設けられていてもよい刃先担持体の数を制限する。さらに、刃先の弾性変形もしくは旋回もしくは作用点による刃先の調節は当然のことながら不正確である。
【0010】
したがって上述の従来技術を出発点として、本発明は、回転軸を中心として回転駆動可能な基体と基体における径方向に調整可能な刃先担持体と、コンパクトな構造であり調整装置とともに切削工具の軸方向にわずかな構造空間しか必要としない、基体に対する刃先担持体の位置を調整するための調整装置と、を備える切削工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、請求項1の特徴を有する切削工具により解決される。利点または好ましい展開形態はそれぞれ従属請求項の主題である。
【0012】
本発明による切削工具は、好ましくは、特にいわゆる軸受通路の孔を後加工する、または孔を精密加工するために用いられる。このような工具は、例えば自動車産業において、シャフト、例えばクランクシャフトまたはカムシャフトを支承するための軸受通路の並べて配置された複数の軸受ウェブの孔を加工するために用いられる。特にこの場合、軸受通路の複数の軸受ウェブを同時に加工できるようにするために切削工具が殊に多エッジ付きに形成され、それにより切削工具の基体には、複数の刃先担持体が軸受ウェブの距離に相当する軸方向の距離を置いて、殊に列をなして配置されている。
【0013】
本発明による切削工具は、回転軸を中心として回転駆動可能な基体と、径方向に調整可能に基体に配置された少なくとも1つの刃先担持体と、基体に対する刃先担持体の位置を調整するための調整装置と、を有している。刃先担持体は、基体におけるガイド空所において、基体の回転軸に対して横向きに、殊に径方向に、摺動可能に配置されている。調整装置は、基体において基体の回転軸に対して横向きに、および刃先担持体の摺動方向に対して横向き(垂直)に調節可能な調整要素を有し、調整要素に刃先担持体が支持されている。
【0014】
刃先担持体の、したがって刃先担持体に配置された(切断要素の)刃先の特に径方向の摺動可能性によって、基体および切削加工されるべき工作物に対する切断要素の正確な調整および調節、特に従来技術から知られているような旋回または弾性変形によって刃先担持体を調節する場合よりも正確な調整を達成することができる。当然のことながら、刃先担持体は複数の刃先(切断要素)を備えていてもよい。
【0015】
軸受通路の複数の軸受ウェブを加工するために、本発明による切削工具は、それぞれ基体における対応するガイド空所において回転軸に対して横向きに、殊に径方向に、摺動可能に配置されており、それぞれの刃先担持体に割り当てられた調整要素に支持されている複数の刃先担持体を有していてもよい。すなわち、各刃先担持体に、調整要素を有する1つの調整装置が割り当てられており、それにより刃先担持体が個別に調整可能であり、調整要素は、基体の回転軸に対して垂直に、かつ刃先担持体の摺動方向に対して垂直に調節可能である。その際、刃先担持体は、基体の回転軸に対して同じ距離または異なる距離に位置調整可能に配置されていてもよい。さらに、刃先担持体間の間隔が切削工具の長手方向に均等であってもよいし、可変であってもよい。
【0016】
刃先担持体もしくはそれぞれの刃先担持体は、これに割り当てられた基体のガイド空所に殊に形状結合的に収容されており、ガイド空所(Fuehrungseinsparung)に設置されるドリルビットとして形成されていてもよい。その際、ガイド空所は、本発明による切削工具の基体の回転軸に対して垂直に、刃先担持体の摺動方向に延在する。
【0017】
好ましい実施形態では、ガイド空所は、貫通空所として、特に貫通孔として形成されている。この場合、刃先担持体は、好ましくは基体の回転軸に対して横向き(垂直)に、かつ刃先担持体の摺動方向に対して横向き(垂直)に延在する、刃先担持体に割り当てられた調整装置の調整要素を収容するための開口を有する。ガイド空所を取り囲む基体の壁には、調整装置もしくは調整装置の端/端領域を収容するための収容開口部(切欠部または収容部とも呼ばれる)が設けられている。
【0018】
これに代わる実施形態では、ガイド空所有底空所として、すなわち底もしくは床を有する空所として、特に非貫通孔として形成されており、有底空所の底は、有底空所の、刃先担持体の刃先とは反対の位置にある端に設けられている。この場合、調整装置の調整要素は、殊に有底空所の底/床と刃先担持体との間に配置されている。この実施形態でも、有底空所を取り囲む基体の壁は、調整装置を収容するための対応する収容開口部を有する。
【0019】
刃先担持体には、径方向外方へ突出する少なくとも1つの切断要素が設けられていてもよい。切断要素は、特に刃先を有する切削チップ、殊に反転式切削チップである。切断要素は、刃先担持体に設けられた座において、例えば、ねじ締結、クランプなどによって位置調整可能であってもよいし、あるいは、例えば接着または半田付けによって位置固定的に収容されていてもよい。
【0020】
刃先担持体は、殊に、基体に対して弾性的に、殊にばね弾性的に支持されており、それにより刃先担持体は、基体の回転軸に対して垂直に摺動可能である。このために、好ましい実施形態による刃先担持体は、1つまたは複数の圧縮ばねを介して基体に対して支持されているクロスビームと接続されており、圧縮ばねは、刃先担持体の摺動方向に延在している。クロスビームもまた刃先担持体の摺動方向に対して垂直に、殊に基体の回転軸に対して平行に延在している。
【0021】
本発明による切削工具の調整装置は、殊に調整装置の調整要素を駆動するためのねじ装置を有している。好ましい実施形態では、調整要素は、刃先担持体が支持されている制御傾斜を有するねじ付きスリーブから形成されている。ねじ付きスリーブは、その軸方向に、すなわち基体の回転軸に対して横向き(垂直)に、かつ刃先担持体の摺動方向に対して横向き(垂直)に摺動可能である。ねじ装置は、基体に支承されていてねじ付きスリーブとねじ締結されている駆動スピンドルを有する。ねじ装置は、好ましくはさらに、基体においてねじ付きスリーブに対して離間して固定されたねじ付きブッシュ(軸受ブッシュとも呼ばれる)を有する。ねじ付きブッシュは、基体において定置に配置されている。ねじ付きブッシュは、特に製造技術上の理由から、ねじ孔の代わりに、刃先担持体を取り囲む基体に設けられている。
【0022】
駆動スピンドルは、第1ねじ山区分でねじ付きスリーブと、かつ、第2ねじ山区分でねじ付きブッシュとねじ締結されている、殊に差動ねじスピンドルとして形成されている。ねじ付きスリーブとねじ付きブッシュとは差動ねじスピンドルに螺合されている。第1ねじ山区分と第2ねじ山区分とは、異なるねじピッチ(リード)を有するが、同じねじ方向(螺旋方向)を有していてもよい。差動ねじスピンドルを操作すると、ねじ付きスリーブがスピンドル軸の方向に、すなわち基体の回転軸に対して垂直に、かつ刃先担持体の摺動方向に対して垂直に、差動ねじスピンドルの2つのねじ山区分のピッチ差に相当する区間移動する。ねじ付きスリーブとねじ付きブッシュとの間には、差動ねじスピンドルの第1ねじ山区分の雄ねじとねじ付きスリーブの雌ねじとの間のねじ山遊び(Gewindespiel)、ならびに差動ねじスピンドルの第2ねじ山区分の雄ねじとねじ付きブッシュの雌ねじとの間のねじ山遊びを低減するために圧縮ばねが設けられていてもよい。
【0023】
駆動スピンドルとねじ付きスリーブとねじ付きブッシュとは、基体の回転軸に対して垂直に、かつ刃先担持体の摺動方向に対して垂直に延在する。刃先担持体のためのガイド空所が貫通空所として形成されている実施形態では、駆動スピンドルおよびねじ付きスリーブは、刃先担持体に設けられていて、特に実質的に正方形または矩形の横断面を有していてもよい開口を通って延在する。
【0024】
本発明による切削工具の調整装置もしくは各調整装置には、殊に、基体に回転運動可能に保持された操作要素が割り当てられており、操作要素は、駆動スピンドルもしくは差動ねじスピンドルと回転不能に、かつ特に軸方向に可動に係合しており、駆動スピンドルもしくは差動ねじスピンドルの回転操作のために用いられる。操作要素は、殊に、例えば10個のマーク/目盛り線による段階付けを有し、それにより半径(Halbdurchmesser)で0.001mmの調整精度を正確に実現することができるいわゆるスケールリングを備える。操作要素もしくは操作要素のスケールリングは、殊に、本発明による切削工具の基体にばねリングによって取り付けられ、同時に駆動スピンドルもしくは差動ねじスピンドルの長手方向連結器をなす。
【0025】
本発明による切削工具の調整装置によって、刃先担持体が刃先担持体に保持された切断要素が基体の回転中心軸または長手方向中心軸に対して最小の直径、径方向に例えば所定の(小さい)距離(例えば0.2mmの距離)を置いて外側にある、基体の外周の高さまたは外周の内側に位置する内方制御された位置と、刃先担持体に保持された切断要素が、基体の回転中心軸または長手方向中心軸に対して最大半径、すなわち予め与えられた呼び径寸法であり、すなわち基体の外周にわたって(大きい)径方向距離(例えば0.5mmの距離)を置いた、外方制御された位置との間で径方向に調節可能である。刃先担持体に保持された切断要素の加工直径における0.2mm~0.5mmの調節範囲は、例えば円周に10個の目盛り線付きのスケールリングを有する操作要素を用いて達成することができ、その際、送りステップ(Zustellschritt)は、加工直径において0.002mm~0.005mmであり、スケールリングを最大10回転させる必要がある。それにより上記の調節範囲で無段の小調節および大調節が可能である。
【0026】
本発明による切削工具の刃先担持体のための調整装置に加えて、刃先担持体に組み込まれていて、調整要素に対する刃先担持体の位置をアジャストするためのアジャスト装置が設けられていてもよく、アジャスト装置を介して、例えば切削工具の製造時に調整要素に対する刃先担持体の位置をプリセットすることができる。
【0027】
アジャスト装置は、好ましくは、殊に調整ねじとして、特にジャックボルトとして形成された調整部材を有し、この調整部材を介して刃先担持体が調整要素に、特に調整要素であるねじ付きスリーブの制御傾斜に支持されている。調整ねじは、殊にスリットを設けたねじ付きブッシュに配置され、ねじ付きブッシュのねじ山遊びはねじ付きピンによって調整もしくは調節可能である。汚れまたは不精密によって引き起こされるアジャスト不良を可能な限り少なく抑えるために、調整要素、特に調整要素の制御傾斜に調整ねじを点状接触させるように努めることが有利である。点状接触は、丸い面によって特に簡単に達成される。このために、好ましくは調整ねじとして形成された調整部材の、制御面の向かい側の端が丸くされてもよい。
【0028】
本発明による切削工具の調整装置が基体の回転軸に対して横方向と、刃先担持体の摺動方向に対して横方向とに延在することによって、刃先担持体の省スペース的な配置が切削工具の軸方向に、すなわち長手方向に可能であり、それにより多数の刃先担持体と、したがって多数の刃先/切断要素を切削工具の(軸方向もしくは長手方向に見て)狭い空間に設けることができる。異なった加工ステップ(例えば粗削り、セミフィニッシュ、フィニッシュ、傾斜面を設けるなど)に対して、通常、異なった刃先/切断要素が用いられるので、本発明による切削工具では、多数の加工ステップのための刃先が比較的短い軸方向の広がりの区分に収納することができ、それにより本発明による切削工具は、例えば軸受通路の軸受箇所を加工する場合に、ある加工ステップから次の加工ステップへの切り替え時、したがってある刃先から別の刃先への切り替え時に、長手方向に短い区間にわたって往復運動させさえすればよく、有利にも軸受通路の加工のために本発明による切削工具が1つだけ必要である。すなわち異なった加工ステップ用に形成された刃先担持体/切断要素を有する異なった切削工具間で交換する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図2】本発明の第1実施形態による切削工具の横断面図である。
【
図3】本発明の
図2に示された本発明の第1実施形態の縦断面図である。
【
図4】本発明の第2実施形態による切削工具の横断面図である。
【
図5】
図4に示された本発明の第2実施形態のアジャスト装置を有する刃先担持体を含む部分の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付の図面をもとにして本発明による切削工具の好ましい実施形態について説明する。
【0031】
図1~
図3は、本発明の第1実施形態による切削工具10の横断面図および縦断面図および側面図を示す。切削工具10は、切断要素14を有する少なくとも1つの刃先担持体12を具備する。切断要素14は、切削チップ、特に反転式切削チップによってなってもよい。これに代えて、刃先担持体12は、切削チップの代わりに、切断要素として、例えば切削インサート、切削バー(Schneidleiste)などを支持してもよい。切断要素14は、いずれの場合も、割り当てられた加工箇所、特にポジション箇所(Lagestelle)の切削加工するための少なくとも1つの特定の形状の刃先を有する。切削工具10は、殊に図示されない冷却器もしくは冷却剤供給器を備えている。
【0032】
軸受通路(図示せず)の複数の軸受箇所を加工するために、切削工具10は、切断要素14を有する殊に複数の刃先担持体12を具備し、切断要素は、切削工具10の軸方向もしくは長手方向に、すなわち切削工具10の詳しく図示されない回転中心軸もしくは長手方向中心軸に対して平行に離間して、好ましくは一列に配置されている。その際、切断要素14は、粗仕上げ加工、セミフィニッシュ加工、フィニッシュ加工のために、かつ必要に応じて工作物に傾斜面を備えて形成されてもよい。切断要素14が配置される軸方向間隔は、加工されるべき工作物もしくは工作物領域、例えば軸受通路の軸受ウェブが配置されている間隔に相当する。このような軸受通路は、例えば内燃機関の加工されるべきシリンダクランクハウジングに設けられている。したがって本発明による切削工具10は、軸受通路工具として、または一般に孔の後加工工具または孔の精密加工工具として用いることができる。
【0033】
本発明による切削工具10は、切削工具10の詳しく示されない回転中心軸または長手方向中心軸(
図1において:参照符号11)を中心として回転駆動可能な、図示された実施形態では例示的に中ぐり棒として形成されている(工具シャンクとも呼ばれる)基体16を有する。基体16は、その後端に、図示された実施形態ではいわゆるHSK(中空テーパシャンク)シャンクを有する工作機械スピンドル側のインターフェイス13を具備する。これに代えて、例えばいわゆるSK(急勾配テーパ)シャンクまたはそれに類するものが設けられてもよい。
【0034】
刃先担持体12は、基体16に設けられたガイド空所18に収容されており、ガイド空所18は、基体16もしくは切削工具10の回転軸に対して垂直に延在する。刃先担持体12は、ガイド空所18において基体16の回転軸に対して横向きに、特に径方向に摺動可能に配置されている。刃先担持体12と、したがってガイド空所18とは、特に円形の横断面を有するが、例えば矩形、特に正方形の横断面を有することもできる。
【0035】
刃先担持体12は一端に、切断要素14を収容するための詳しく図示されない切断要素座を有する。刃先担持体12は、向かい側に位置する他端に、刃先担持体12の延在方向に対して垂直に、殊に基体16の回転軸と平行に、かつ側方で刃先担持体12にわたって基体16内へ延在するクロスビーム20と接続され、クロスビームは基体16にばね弾性的に支承されている。特に刃先担持体12の横断面が円形の場合、クロスビーム20は、さらに、ガイド空所18における刃先担持体12の回り止め(Verdrehsicherung)をなす。すなわち刃先担持体12は、クロスビーム20を介して基体16にばね弾性的に支持されている。刃先担持体12にクロスビーム20を収容するために、刃先担持体12の、切断要素14の向かい側に位置する端に、溝22が刃先担持体12に設けられていてもよい。クロスビーム20は、刃先担持体12において、例えば溝22に挿入されるねじ23によって取り付けられ、ねじ23は、基体16の外側から操作可能である。刃先担持体12から離反する側で、クロスビーム20は殊に丸くされ、曲率半径は基体16の半径に対応する。基体16のガイド空所18を取り囲む壁には、刃先担持体12から側方へ突出するクロスビーム20の端を収容するための切欠部24が設けられている。
【0036】
クロスビーム20と、したがって刃先担持体12を基体16にばね弾性的に支承するために、基体16において、切欠部24に圧縮ばね26が組み込まれており、この圧縮ばねは、刃先担持体12の摺動方向に、刃先担持体12に対して横向きに延在するクロスビーム20を、特に刃先担持体12から側方に突出するクロスビーム20の、同様に切欠部24に収容される端を押す。殊にクロスビーム20の各端に1つの圧縮ばね26が割り当てられている。したがって切欠部24は、基体16において一方ではクロスビーム20の延在方向に延在し、他方では刃先担持体12の摺動方向に延在する。基体16にはさらに1つまたは複数の溝が設けられており、これらの溝はクロスビーム20の、したがって刃先担持体12の回動を防止する。これらの溝は、殊に切欠部24もしくは切欠部の、側方に突出するクロスビーム20の端を収容する領域によって形成されている。
【0037】
これに代わる実施形態では、クロスビーム20は、基体16の回転方向に対して垂直に、すなわち開口30の長手方向に対して平行に延在し、殊に基体16に固定された支持要素(例えばピン)が、刃先担持体12の外周に設けられた切欠部内に突出し、切欠部内に、もしくは切欠部から同様にクロスビーム20の端/端領域が突出する。この実施形態では、これらの切欠部に圧縮ばねが設けられており、圧縮ばねは支持要素に支持され、クロスビーム20もしくはクロスビームの端/端領域を押す。
【0038】
刃先担持体12と、したがって切断要素14とをその摺動方向に、ガイド空所18において基体16の回転軸に対して横向きに摺動させるために、刃先担持体12に調整装置28が割り当てられている。刃先担持体12は開口30を有し、この開口に調整装置28が緩く、すなわち遊びをもって挿通され、それにより刃先担持体12において調整装置28が基体16の回転軸に対して横向きに、かつ刃先担持体12の摺動方向に対して横向きに配置されている。すなわち開口30は、一方でガイド空所18に対して垂直に延び、他方で基体16の回転軸に対して垂直に延びる。開口30は矩形の、特に正方形の横断面を有することが好ましい。少なくとも刃先担持体12の摺動方向には、調整装置28(もしくは調整装置の後述される調整要素32)と開口30の内壁との間に、殊に両側に遊隙31(余地とも呼ばれる)が設けられ、それにより刃先担持体12をその摺動方向に、ガイド空所18におけるこの遊隙31において摺動させることができる。
【0039】
調整装置28は、殊に軸方向に摺動可能なねじ付きスリーブとして形成される調整要素32と、駆動スピンドル34を有するねじ装置とを具備する。ねじ付きスリーブ32の軸方向摺動可能性とは、開口30の長手軸に沿った、すなわち基体16の回転軸に対して垂直の、および刃先担持体12の摺動方向に対して垂直の摺動可能性と解される。ねじ装置は、さらに、基体16において、固く、すなわち回動不能に、および摺動不能に切欠部38に配置されている定置のねじ付きブッシュ36(軸受ブッシュとも呼ばれる)を備えることが好ましく、切欠部は、開口30のように、基体16の回転軸に対して横向きに、かつ刃先担持体12の摺動方向に対して横向きに延在し、ガイド空所18の内部に向かって開いている。基体16にねじ付きブッシュ36を固く固着する(Verankerung)ために、ねじ付きブッシュ36はその外周に非環状の湾入部37を有していてもよく、この湾入部を、基体16の外側から操作可能な、特に加圧ピンとして形成されているピン39が押す。ねじ付きブッシュ36は基体16において、プレス嵌め、半田付け、接着、またはそれに類するものによって回転不能および軸方向固定的に固着されていてもよい。
【0040】
切欠部38は、さらに、ねじ付きブッシュ36に入った駆動スピンドル34の端と、殊に、場合によっては開口30からねじ付きブッシュ36の方向に突出するねじ付きスリーブ32の端を収容する。開口30から突出する駆動スピンドル34の端、および場合によっては、開口30から突出する、回転可能および軸方向に摺動可能に支承されたねじ付きスリーブ32の端を収容するために、開口30の向かい側でも同様に、切欠部38の向きに合わせられ、かつガイド空所18の内部に向かって開いている切欠部41が設けられていてもよい。
【0041】
駆動スピンドルは、殊に差動ねじスピンドル34(差動ねじ山ねじとも呼ばれる)として形成されており、第1ねじ山区分34aと第2ねじ山区分34bとを有する。第1ねじ山区分34aは、ねじ付きスリーブ32の詳しく示されないねじ孔とねじ締結されるのに対して、第2ねじ山区分34bは、ねじ付きブッシュ36の詳しく示されないねじ孔とねじ締結される。第1ねじ山区分34aと第2ねじ山区分34bとは、異なるねじピッチ(リード)を有するが、同じねじ方向(螺旋方向)を有している。それゆえ差動ねじスピンドル34を回転操作すると、ねじ付きスリーブ32は、差動ねじスピンドル34の詳しく図示されないスピンドル軸に沿って、差動ねじスピンドル34の2つのねじ山区分34a、34bのピッチ差に相当する区間だけ移動する。スピンドル軸は、刃先担持体12の摺動方向に対して垂直に、および基体16の回転軸に対して垂直に延在する。ピッチ差にもとづいて、ねじ付きスリーブ34を、差動ねじスピンドル34の回動によって非常に正確に摺動させることができる。例えばねじ付きスリーブ34を差動ねじスピンドル34の一回転当たり0.1mm摺動させるように、ねじ山区分34a、34bのねじピッチを設定することができる。そのような摺動のために、ねじ付きブッシュ36は、特に5.75°のピッチの傾斜を有していてもよい。調整装置28もしくは調整装置の差動ねじスピンドル34には殊に潤滑剤供給器40が割り当てられている。
【0042】
回転操作するために、駆動スピンドルもしくは差動ねじスピンドル34は、そのねじ付きブッシュから遠い端において操作要素42と回転不能に、軸方向に摺動可能に接続されている。図示された実施例では、操作要素42は、特にスケールリング44を備え、かつ基体16における対応する収容部46において、殊にばねリング48を介して回転可能に支承されている。すなわちスケールリング44を有する操作要素42は、収容部46において回転運動可能に支承されている。スケールリング44は、殊に操作要素42において図示されない切欠部に配置されている。収容部46は、殊に、ねじ付きブッシュ36のための切欠部38の、およびこの切欠部の向かい側に位置する差動ねじスピンドル34(場合によってはねじ付きスリーブ32)のための切欠部41の向きに合わせられ、好ましくは切欠部41へ移行する。したがって操作要素42は、駆動スピンドルもしくは差動ねじスピンドル34のための長手方向連結器として機能する。スケールリング44は、例えば10個のマーク/マーキングを有し、それにより半径(Halbmesser)で特に0.001mmの調節/調整精度を得ることができる。ユーザは、収容部46を通じて、操作要素42もしくは操作要素のスケールリング44を切削工具10の外側から操作することができる。
【0043】
特にねじ付きスリーブ32として形成された調整要素は、刃先担持体12が支持される制御傾斜50を有する。制御傾斜50は、差動ねじスピンドル34の回転軸と斜角、特に鋭角をなす。したがって操作要素40によって差動ねじスピンドル34を回転させると、調整要素もしくはねじ付きスリーブ32が差動ねじスピンドル34の回転軸/スピンドル軸に沿って摺動する。その際、調整要素32の制御傾斜50も同様に差動ねじスピンドル34の回転軸/スピンドル軸に沿って摺動する。制御傾斜50で支持される刃先担持体12は、ガイド空所18における刃先担持体12の形状結合的配置によって、差動ねじスピンドル34の回転軸に沿う運動が阻止され、ばね弾性的支承にもとづいて、制御傾斜50がスピンドル軸に沿って摺動した場合に、ガイド空所18においてスピンドル軸に対して垂直に、そしてさらに基体16の回転軸に対して垂直に摺動し、それにより切断要素14は、基体16から径方向に離れる向きに、または基体に向かって(または実施形態によっては基体の中へすら)移動される。この径方向の摺動は、有利にも基体16の回転軸を中心とした切断要素14の、もしくは切断要素の刃先の回転なしに行われ、それにより切断要素14/切断要素の刃先の正確な調整を達成することができる。
【0044】
殊に刃先担持体12は、制御傾斜50の向かい側に位置するとともに切断要素14から離反する側に調整部材52を有し、この調整部材は、殊に刃先担持体12の摺動方向に延在するとともに切断要素14から離反する側の、丸くした楔面52aとして形成されている端で制御傾斜50に支持されている。図示された実施形態は、調整部材の端面側の丸い楔面52aと制御傾斜50との間の点接触を特徴とし、この点接触は、刃先担持体12の低汚染度と特に正確な調整とを保証する。差動ねじスピンドル34を操作要素40によって回転させ、それにより制御傾斜50が刃先担持体12の摺動方向に対して垂直の方向に摺動すると、調整部材52が、そして調整部材52を介して刃先担持体12全体が基体16の回転軸に対して垂直に、かつ差動ねじスピンドル34の回転軸に対して垂直に摺動される。本発明による切削工具10では、刃先担持体12は、圧縮ばね26、ならびに調整要素/ねじ付きスリーブ32もしくは調整要素の制御傾斜50と調整部材52および発生する切削の切削圧との協働のみでその位置に保持される。圧縮ばね26は、その弾発力に関して殊に、刃先担持体12がどの位置にあってもクロスビーム22が基体16の外周から径方向に突出しないように形成されている。
【0045】
調整部材52は、殊に調整装置28に加えて設けられたアジャスト装置54の一部であり、特に、切削工具10の製造時に調整要素32(特にその制御傾斜50)に対する刃先担持体12の位置をプリセットするために用いられる。
【0046】
この目的で、本発明による切削工具10の各刃先担持体12には、特に、例えば0.2mm~0.5mmの範囲の微調整のために用いられる調整装置28に加えてアジャスト装置54が割り当てられ、このアジャスト装置を介して刃先担持体12を調整要素32に対して個別に基体16の径方向にアジャスト可能である。
【0047】
上述したように、アジャスト装置54は、基体16の回転軸に対して殊に垂直に、かつ駆動スピンドル/差動ねじスピンドル34の回転軸/スピンドル軸に対して垂直に調節可能である調整部材52を備えている。このために調整部材52は、調整要素もしくはねじ付きスリーブ32の制御傾斜50に支持され、刃先担持体12の摺動方向に調節可能である、調整ねじとして、特にジャックボルトとして形成されている。調整ねじ52は、刃先担持体12において回転不能および摺動不能に取り付けられているとともに同様に刃先担持体12の摺動方向に延在するねじ付きブッシュ56(アジャスト装置ねじ付きブッシュまたはアジャストねじ付きブッシュとも呼ばれる)を介して刃先担持体12に組み込まれている。調整ねじ52には、基体16もしくは切削工具10の外側からねじ付きブッシュ56の切断要素側の端によって、特に目盛りを備えていてもよい図示されない調整スパナを用いてアクセスすることができる。調整ねじ52を回すことによって、したがって刃先担持体12の摺動方向に調整部材52を摺動させることによって、調整要素32に相対する刃先担持体12の位置と、したがって切削工具10の加工直径とを特にプリセット時に調整するか、または後から変更することができる。制御傾斜50に支持された調整ねじ52を回すことによって、ガイド空所18内で刃先担持体12がその摺動方向に動かされる。刃先担持体12および調製部材/調整ねじ52は、特に加工直径を4mmまで調整できるようになっている。
【0048】
アジャスト装置54のねじ付きブッシュ56には、殊にスリットが設けられ、すなわちいくつかのセグメントになるようにスリット(セグメントスリットもしくは壁セグメントスリット)を設けて形成されており、その際、妨げになるねじ山遊びはないが、調整部材/調整ねじ52の操作/調節がまだ可能であるようにねじ付きブッシュ56のねじ山遊びを調整することができるねじ付きピン58が設けられている。
【0049】
ねじ付きブッシュ56は、殊に詳しく図示されないねじ付きブッシュ壁を貫通するU字形スリットを有し、ねじ付きブッシュ56においてこのU字形スリットによって、ねじ付きブッシュ56の軸方向に延在する壁セグメントが形成され、壁セグメントは、ねじ付きブッシュの径方向に弾性的に、特に内方へ変形可能なように、残りのねじ付きブッシュ壁と材料ヒンジ(Materialgelenk)を介して接続されている。ねじ付きブッシュ56は、その調整装置側の端に、刃先担持体12の詳しく図示されないストッパに当接するフランジ57を有する。
【0050】
ねじ付きピン58は、ねじ付きブッシュ56の側方に、駆動スピンドル/差動ねじスピンドル34の回転軸に対して平行に延在していて、刃先担持体12において開口30に対して平行に延在する貫通空所60に支承されており、長手方向に摺動させることができる。貫通空所60は、刃先担持体12の外周において開いており、それにより特に刃先担持体12をガイド空所18に挿入する前に、例えば相応の調整スパナを用いてねじ付きピン58にアクセスし、このねじ付きピンによってねじ付きブッシュ56のねじ山遊びを調整することができる。ねじ付きピン58によってねじ山遊びを調整した後に、かつ調整ねじ52によって刃先担持体12の摺動方向に、刃先担持体12の位置を調整要素32に対してプリセット/アジャストした後に、調整ねじ52を固定することができる。
【0051】
図4および
図5は、刃先担持体112が基体116の回転軸に対して垂直に、かつ調整装置28の回転軸もしくは長手軸に対して垂直に摺動可能であるガイド空所が、有底空所118として、すなわち底/床119を有する空所として形成されている本発明による切削工具110の第2実施形態を示す。刃先担持体112は、有底空所119において殊に形状結合的かつ回動不能に、しかし軸方向に摺動可能に支承されている。調整要素32を有する調整装置28と調整装置に割り当てられた操作要素42とは、
図1~
図3に示された第1実施形態のものに実質的に相当し、それらについての記載も参照されたい。調整部材52を有するアジャスト装置54、切断要素14、および潤滑剤供給器40についても同じことが当てはまる。
【0052】
図4および
図5に示される本発明による切削工具110の実施形態では、調整装置28が有底空所118の床119に配置されており、それにより調整装置28と、したがって調整装置の調整要素32も刃先担持体112の摺動方向に見て床119と刃先担持体112との間に配置されている。第1実施形態に相応して、調整装置28もしくは調整装置の駆動スピンドル34の長手方向/回転軸の方向に、一方で基体116において操作要素42を回転可能に収容するための収容部46と、他方で基体116において有底空所118のもう1つの側において、定置のねじ付きブッシュ36を取り付けるための切欠部38が設けられており、収容部46と切欠部38とは互いの向きに合わせられている。さらに、必要な場合、収容部46と刃先担持体112との間に調整装置28の回転軸の方向に駆動スピンドルもしくはねじスピンドル34のための切欠部41と、場合によってはねじ付きスリーブ32とが基体116に設けられていてもよく、ねじ付きスリーブは収容部46および切欠部38の向きに合わせられ、かつ収容部46がこのねじ付きスリーブへ移行することが好ましい。
【0053】
すなわち、
図4および
図5に示された実施形態では、刃先担持体112が、第1実施形態でのように刃先担持体112の摺動方向で両側にではなく、調整装置28もしくは調整要素32の片側にのみ形成されている。刃先担持体112は、第2実施形態でも弾性的に、殊にばね弾性的に支承されている。このために、刃先担持体112において、基体116に取り付けられ/固定されたクロスビーム120が特に緩く、基体116および有底空所壁に向かって開いた収容部125に支承されており、それにより刃先担持体112をその摺動方向に、基体116に取り付けられたクロスビーム120に相対して摺動させることができるが、その摺動方向もしくはその長手軸を中心として回転させることはできない。したがってクロスビーム120は、刃先担持体112のための回り止めをなす。収容部125は、殊にアジャスト装置54のねじ付きブッシュ56のための詳しく図示されない収容部へ移行し、それにより収容部125を介してアジャスト装置54の調整部材もしくは調整ねじ52を調節することができ、その際、収容部125の直径(もしくは収容部の縦断面における広がり)は、殊にねじ付きブッシュ56のための収容部より大きい。クロスビーム120は、刃先担持体112の摺動方向に対して殊に垂直に、調整装置28の長手方向に基体116内へ延在する。クロスビーム120は、基体116の外側から操作可能なねじ123を介して固定され、基体116に取り付けられることが好ましい。
【0054】
収容部125には、殊に、好ましくはコイルばねの形態の少なくとも1つの圧縮ばね136が配置されており、この圧縮ばねには、その切断要素から離反した側にクロスビーム120が支持されている。クロスビーム120は、殊に圧縮ばね136に取り付けられている。殊にコイルばねとして形成された圧縮ばね126によって、さらにアジャスト装置54の調整部材52へアクセスすることができる。刃先担持体112は、圧縮ばね136を介してばね弾性的にクロスビーム120に、厳密には刃先担持体112の摺動方向にばね弾性的に支承されている。
【0055】
クロスビーム120と、同様にクロスビームの収容部125とは、基体116の回転軸に沿って、厳密にはアジャスト装置54の殊に両側に延在し、基体116の回転軸の方向の収容部125の広がりは、同一方向のねじ付きブッシュ56の広がりより大きい。この場合、クロスビーム120から見て、収容部125には、アジャスト装置54もしくはアジャスト装置のねじ付きブッシュ56の両側に図示されない圧縮ばねが設けられていてもよく、これらの圧縮ばねは、クロスビーム120の向かい合う両端もしくは端領域に取り付けられており、ねじ付きブッシュ36を取り囲む収容部125の床に支持されている。特にこれらの、殊に2つの圧縮ばねの取り付けスペースを提供するために、刃先担持体112と、したがって有底空所118とが矩形に、特に正方形に形成されていてもよい、このことは第1実施形態の刃先担持体12および貫通空所18にも当てはまる。
【0056】
軸受通路の切削加工は別として、本発明による切削工具は、孔の所定の呼び径へのあらゆる後加工または精密加工のために使用することができる。それゆえ本発明による切削工具は、シリンダクランクハウジングまたはそれに類するものにピストンボアを加工するためにも用いることができる。この場合、切削工具は唯一の刃先担持体12、112を有するだけで十分であり得る。
【0057】
さらに、特に
図1に示されているような図示された実施形態では、複数の刃先担持体もしくは切断要素が切削工具の基体に沿って所定の軸方向間隔で一列に配置されている。しかし一列の配置は強制的ではない。所定の軸方向間隔で配置された刃先担持体は、周方向に互いにずらして、例えば渦巻状に配置されていてもよく、その場合それぞれの刃先担持体に割り当てられた調整装置もしくは調整要素は、これらに割り当てられた刃先担持体の摺動方向に対して垂直に向けられ/配置されている。周方向にずらした配置によって、切削工具の適用領域に応じて刃先担持体間の間隔をさらに短くすることができ、より多くの刃先担持体を基体に配置することができる。したがって周方向にずらした配置は、より大きい設計自由度を提供する。