(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】セルロース含有材料のためのバインダー
(51)【国際特許分類】
B27N 3/00 20060101AFI20230303BHJP
B27K 3/50 20060101ALI20230303BHJP
C08L 89/00 20060101ALI20230303BHJP
C08L 97/02 20060101ALI20230303BHJP
C08K 5/07 20060101ALI20230303BHJP
【FI】
B27N3/00 D
B27K3/50 E
C08L89/00
C08L97/02
C08K5/07
(21)【出願番号】P 2020537862
(86)(22)【出願日】2018-09-20
(86)【国際出願番号】 EP2018075536
(87)【国際公開番号】W WO2019057853
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-08-02
(32)【優先日】2017-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520100055
【氏名又は名称】セステック・イノヴェーションズ・エスペ・ゼット・オ・オ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ハンス-ヨアヒム・エデルマン
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/162300(WO,A1)
【文献】特表2010-501670(JP,A)
【文献】国際公開第2015/086074(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27N 1/00 - 9/00
B27K 1/00 - 9/00
C08K 5/07
C08L 89/00
C08L 97/02
C09J 189/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ヒドロキシアルデヒド、
b)動物由来のタンパク質含有成分、及び
c)フェノール系オリゴマー含有成分
を含
み、
前記フェノール系オリゴマー含有成分がクラフトリグニンであり、かつ、前記クラフトリグニンの重量平均モル質量が1000~5000g/モルである、
セルロース含有材料用バインダー。
【請求項2】
前記ヒドロキシアルデヒドが、α-ヒドロキシ-アルデヒ
ドである、請求項1に記載のバインダー。
【請求項3】
前記ヒドロキシアルデヒドが、少なくとも2つのOH基を有するポリオー
ルと、酸化
剤とから、その場で形成される、請求項1又は2に記載のバインダー。
【請求項4】
前記動物由来のタンパク質含有成分がヘモグロビ
ンを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のバインダー。
【請求項5】
d)植物由来のタンパク質含有成分、をさらに含む、請求項
1~4のいずれか一項に記載のバインダー。
【請求項6】
前記の植物由来のタンパク質含有成分が
植物残渣である、請求項
5に記載のバインダー。
【請求項7】
前記b)動物由来のタンパク質含有成分がカゼインとは異なる場合に、カゼインをさらに含む、請求項
1~6のいずれか一項に記載のバインダー。
【請求項8】
アミド
、尿素
、メラミン、及び/又はジアルデヒ
ドをさらに含む、請求項
1~7のいずれか一項に記載のバインダー。
【請求項9】
カルボン酸、カルボン酸塩、及び/又はカルボン酸無水
物をさらに含む、請求項
1~8のいずれか一項に記載のバインダー。
【請求項10】
7~12の範囲のpH
値を有する、請求項
1~9のいずれか一項に記載のバインダー。
【請求項11】
5.0質量%未
満のアンモニウム塩しか含まな
い、請求項
1~10のいずれか一項に記載のバインダー。
【請求項12】
下記の成分:
【表1】
を混合することによって得られ、少なくも1つ
の成分が表に示す量で使用され、適切な場合には、混合物が乾燥されている、請求項
3~11のいずれか一項に記載のバインダー。
【請求項13】
下記の成分:
【表2】
のうち少なくとも2
つを、表に示した質量割合で有する、請求項
1~12のいずれか一項に記載のバインダー。
【請求項14】
セルロース含有材
料に基づく複合材料を製造するための、請求項
1~13のいずれか一項に記載のバインダーの使用。
【請求項15】
請求項
1~13のいずれか一項に記載のバインダーを、セルロース含有材料とともに
、100~250℃の範囲の温度にて
、1~250バー
ルの圧力において、加
工し加圧する、複合材料の製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法によって得られる複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合材料、例えば、ボードの形態の複合材料の製造に適したセルロース含有材料、特に木材及び紙用のバインダーに関する。
【背景技術】
【0002】
NH基を含む化合物とホルムアルデヒドとの重縮合によって得られるアミノプラスチックは、木材ベースの複合材料の製造のために、工業的に大規模に使用されている。この目的のために、低分子の、ほとんど架橋されていない予備縮合物がバインダーとして提供されており、これは、複合材料の製造中に、とりわけ熱の影響下で、架橋したデュロプラストへと硬化される。アミノプラスチックに基づく木材バインダーとして、主に尿素ホルムアルデヒド樹脂(UF樹脂)、メラミンホルムアルデヒド樹脂(MF樹脂)、及びジシアンジアミドホルムアルデヒド樹脂(DD樹脂)が使用されている。
【0003】
米国特許第4,172,057号明細書は、ヒドロキシアルデヒド又はヒドロキシケトン、例えばグルコースの導入によって変性されている尿素ホルムアルデヒド樹脂及びメラミンホルムアルデヒド樹脂を記載している。この変性樹脂は繊維に加工され、それらは製紙用接着剤として使用される。
【0004】
アミノプラスチックに基づく公知の木材バインダーの重大な欠点は、それらを用いて製造された複合材がホルムアルデヒドを放出することであり、ホルムアルデヒドは発がん性として分類されている(指令2008/1272/ECの付属書VIによるカテゴリー1B)。アミノプラストに基づく木材バインダーにおいてホルムアルデヒドを他のカルボニル化合物で置き換えるこれまでの試みは、代替材料が高価すぎ、且つ得られたバインダーが必要とされる特性、特に硬化時間、機械的安定性、及び耐水性を有していないという事実によって繰り返し失敗している。
【0005】
国際公開第2015/086035 A1号及び国際公開第2015/086074 A1号は、木材又は天然繊維に基づく複合材料のためのバインダーとしてのホルムアルデヒドフリー樹脂の製造方法を記載しており、その方法では、ヒドロキシモノアルデヒドがアミン、アミド、又は芳香族ヒドロキシ化合物と反応されている。ヒドロキシモノアルデヒド、特にグリコールアルデヒド又はグリセラルアルデヒドは、極性反転反応によって上流の合成工程においてホルムアルデヒドから形成される。このプロセスは複雑かつ高コストであり、上流の合成ステップからの未反応のホルムアルデヒドが樹脂、及びそれから製造された複合材料に混入するリスクもある。
【0006】
ホルムアルデヒドに基づくアミノプラスチックの代替として、ポリメリックジフェニルメタンジイソシアネート(PMDI)などのイソシアネートに基づくバインダーも、木材ベースの複合材料の製造にわずかに使用されている。しかし、これらのバインダーは、昔ながらのアミノプラスチックと比較して何倍も高価である。さらに、イソシアネートに基づくバインダーを使用して製造された複合材料は、火災が起きた時又はサーマルリサイクル中に、かなりの量のシアン化水素酸及びその他の有毒なシアン化合物を放出することが問題である。さらに、PMDIなどのイソシアネートに基づく未硬化のバインダー及びその製造に用いられる出発物質、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)及びメチレンジフェニルアミン(MDA)も、かなりの毒性を有する。したがって、イソシアネートに基づくバインダーは、健康と環境の観点から、ホルムアルデヒドに基づくバインダーの安全な代替品と評価することはできない。
【0007】
DE 10 2014 105 879 AIは、セルロース含有基材及び多成分バインダーを含む複合材料の製造方法を記載している。バインダーの第1成分は動物の血液を含み、バインダーの第2成分は、過酸化物、尿素、ミョウバン、硫酸アルミニウム、亜硫酸ナトリウム、グリセロール、ホルムアルデヒド、イソシアネート、ヘキサミン、ラウリル硫酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、アルミニウム塩、リグニンスルホン酸塩、水ガラス、エタノール、クエン酸、水酸化ナトリウム、及び/又はハイドロワックスのグループからの少なくとも1つの添加剤を含む。ホルムアルデヒド又はイソシアネートは、木材チップとバインダーの架橋を改善するために用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第4172057号明細書
【文献】国際公開第2015/086035号
【文献】国際公開第2015/086074号
【文献】ドイツ国特許出願公開第102014105879号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
木材に基づく複合材料のための公知のバインダーは、したがって、それらに関連する健康及び生態学的リスク、それらの技術的特性、又はそれらの経済効率に関して様々な欠点を有する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明は、従来技術の欠点を回避し、優れた技術的特性、特に加工時間ならびにそれを用いて製造した複合材料の機械的安定性及び耐水性に関して優れた技術的特性を有し、好ましくは冷蔵なしに一成分システムとして貯蔵可能かつ輸送可能な、木材及び紙などセルロース含有材料用のバインダーを提供するという目的に基づいている。さらには、バインダーは安価であり、特に天然原料から入手可能でなければならない。バインダーは、健康に有害かつ環境に有害である成分、例えば、ホルムアルデヒド及びイソシアネートをほとんど又は全く含まずに得ることができること、及びそれらから製造される複合材料が前述の対応する放出がないことも望ましい。
【0011】
本発明によれば、上記の目的は、請求項1~16によるセルロース含有材料のためのバインダーによって解決される。本発明の主題は、請求項17によるバインダーの使用、請求項18による複合材料の製造方法、及び請求項19に記載の複合材料でもある。
【0012】
本発明によるセルロース含有材料のためのバインダーは、それが以下のものを含有するという事実によって特徴付けられる。
(a)ヒドロキシアルデヒド、
(b)動物由来のタンパク質成分、及び
(c)フェノール系オリゴマーを含む成分。
【0013】
「結合剤」という用語は、複合材料中の同一又は異なる材料及び基材を一緒に結合し又は接着することができる薬剤を指す。特に、バインダーは、塊状の材料又は広い基材(extended substrate)を、接着により、凝集により、及び/又は反応により、結合又は接着することができる。したがって、バインダーは、接着剤ともいうことができる。
【0014】
「セルロース含有材料」という用語は、特に、セルロース、ヘミセルロース、ホロセルロース、又はリグノセルロースを含む材料をいう。セルロース含有材料の例は、木材、パルプ、ストロー(わら)、バガス、ケナフ、竹、サイザル麻、麻、ココナツ繊維、及び紙、特に木材及び紙である。セルロース含有材料は、チップなどの塊状材料及び繊維の形で、又はストランド、ベニア、厚紙、及び集成材などの広い基材の形で提供されうる。特に、セルロース含有材料は、無垢材、木材チップ、おがくず、砕木パルプ、木粉、ウッドダスト、機械パルプの形で、並びに廃木材や古紙などのリサイクル材料の形で使用することができる。
【0015】
本発明によれば、バインダーはヒドロキシアルデヒドを含む。ヒドロキシアルデヒドは、α-ヒドロキシ-アルデヒド、特にα-ヒドロキシ-C2~C10-アルデヒド、好ましくはα-ヒドロキシ-C3~C10-アルデヒド、特に好ましくはα-ヒドロキシ-C3~C5-アルデヒド、特に好ましくはα,β-ジヒドロキシ-C3~C5-アルデヒド、そして最も好ましくはグリセルアルデヒドであることが好ましい。
【0016】
好ましい実施態様によれば、ヒドロキシアルデヒドは、ポリオール及び酸化剤からその場で形成される。使用されるポリオールは、特に、少なくとも2つのOH基を有するポリオール、特に少なくとも2つの隣接(ビシナル)OH基を有するポリオール、好ましくは少なくとも2つの隣接(ビシナル)OH基を有するC2~C10-ポリオール、特に好ましくは少なくとも2つの隣接(ビシナル)OH基を有するC3~C10-ポリオール、さらに好ましくは少なくとも2つの隣接(ビシナル)OH基を有するC3~C5-ポリオール、特に好ましくは少なくとも3つの隣接(ビシナル)OH基を有するC3~C5-ポリオール、最も好ましくはグリセロールである。過酸化物が酸化剤として好ましく使用され、過酸化水素が特に好ましい。特に好ましい実施形態では、ヒドロキシアルデヒドは、グリセロール及び過酸化水素から形成される。ポリオールは、バインダーの総質量を基準にして、好ましくは1~30質量%、特に4~15質量%、好ましくは6~10質量%、特に好ましくは7~8質量%の量で使用される。酸化剤は、バインダーの総質量を基準にして、好ましくは0.5~10質量%、特に1~5質量%、好ましくは1.5~4質量%、特に好ましくは2~3質量%の量で使用される。過酸化水素が酸化剤として使用される場合、それは、水溶液の形態で、特に約35質量%の濃度をもつ水溶液の形態で、好ましくは使用される。
【0017】
動物由来のタンパク質含有成分は、好ましくは、ヘモグロビン、特に動物の血液由来のヘモグロビン、又はタンパク質濃縮物、特に動物の血液由来のタンパク質濃縮物である。好ましくは、タンパク質含有成分は、粉末、例えば、動物の全血粉末、特に動物の血液カテゴリー3の粉末、血漿粉末、又はヘモグロビン粉末の形態で使用される。別の実施形態では、骨及び皮などの動物性廃棄物の分解によって得られるタンパク質濃縮物が、動物由来のタンパク質性成分として使用される。そのようなタンパク質濃縮物は、例えばSaval社から入手可能である。タンパク質濃縮物は、特に、粉末又は濃縮物、例えば約35質量%の固形分を有する濃縮物の形態で使用することができる。好ましくは、動物由来のタンパク質含有成分は、バインダーの総質量に基づき、乾燥物質に基づいて1~20質量%、特に3~10質量%、好ましくは4~10質量%の量で使用される。
【0018】
バインダーはまた、フェノール系オリゴマー含有成分を含む。フェノール系オリゴマーを含有する成分は、好ましくは、リグニンから誘導される。好ましくは、フェノール系オリゴマー(phenolic oligomers)は、1000~5000g/モル、特に2000~3000g/モルの範囲の重量平均モル質量を有する。フェノール系オリゴマーを含む適切な成分は、特に、オルガノソルブプロセス(Organosolv process)(ソーダプロセスともいわれる)、ミロックスプロセス(Milox process)、フォルマセルプロセス(Formacell process)、オルガノセルプロセス(Organocell process)、及び好ましくは硫酸塩プロセス(クラフトプロセス(Kraft process)としても知られる)によるリグノセルロースの分解によって得られる。硫酸塩プロセスによって得られるフェノール系オリゴマーを含む成分は、「クラフトリグニン」ともいわれる。フェノール系オリゴマーを含む成分、好ましくはクラフトリグニンは、特に、スプレー乾燥された粉末の形態で使用することができる。さらに、フェノール系オリゴマーを含有する成分、特にクラフトリグニンは、バインダーの全質量を基準にして、乾燥物質に基づいて1~20質量%、特に2~15質量%、好ましくは2~12質量%、特に好ましくは6~10質量%の量で使用されることが好ましい。
【0019】
好ましい実施形態では、本発明によるバインダーはまた、
(d)植物由来のタンパク質含有成分、を含む。
【0020】
植物由来のタンパク質含有成分は植物残渣であることが特に好ましい。「植物残渣」という用語は、植物材料に由来するプロセス残留物、例えば、特に、蒸留残渣、例えばバイオエタノールの製造における蒸留残渣、パルプ、例えば、ジャガイモデンプンの製造におけるパルプ、又はプレスケーキ、例えば、種子油の生産におけるプレスケーキをいう。プロセス残渣の液体部分をろ過又は沈殿によって分離して、植物残渣を形成することができる。 適切な植物材料の例は、ホップ、大麦、小麦、米、及びトウモロコシである。 穀類、特に小麦に基づく植物残渣が特に好ましい。さらに、植物由来のタンパク質含有成分は、10~50質量%、特に20~40質量%、最も好ましくは約30質量%のタンパク質含量を有することが好ましい。
【0021】
植物由来のタンパク質含有成分は、好ましくは、バインダーの総質量に基づき、乾燥物質に基づいて0~20質量%、特に1~15質量%、好ましくは3~7質量%、特に好ましくは4~6質量%の量で使用される。さらに、バインダーは、フェノール系オリゴマー含有成分、特にクラフトリグニン、及び植物由来のタンパク質含有成分、特に植物残渣を、それぞれ乾燥物質に基づいて、3:1~1:3、特に2:1~1:2、好ましくは1.5:1~1:1.5、特に好ましくは約1:1の質量比で含むことが好ましい。
【0022】
好ましくは、バインダーは、動物由来のその他のタンパク質含有成分、特にカゼインも含む。動物由来のそのさらなるタンパク質含有成分は、好ましくは、バインダーの全質量を基準として、乾燥物質に基づいて0~20質量%、特に1~15質量%、好ましくは2.5~15質量%、特に好ましくは2.5~5質量%の量で使用される。バインダーは、特に好ましくは酸化カルシウムまたは水酸化カルシウムを含み、特に、動物由来のそのさらなるタンパク質含有成分の乾燥物質に基づいて、0.5~5質量%、特に1~4質量%、特に好ましくは2~3質量%の量で酸化カルシウムまたは水酸化カルシウムを含む。
【0023】
好ましい実施形態によれば、バインダーはまた、アミド及び/又はジアルデヒドを含む。適切なアミドの例は、カプロラクタム、尿素、特にメラミンである。好ましくは、アミドは、バインダーの総質量に基づいて、0~40質量%、特に1~30質量%、好ましくは2~10質量%、特に好ましくは4~6質量%の量で使用される。特に好ましい実施形態では、アミドは、バインダーの総質量に基づいて、0~10質量%、特に1~8質量%、好ましくは2~6質量%、特に好ましくは4~5質量%の量で使用される。別の特に好ましい実施形態では、アミドは、バインダーの総質量に基づいて、1~40質量%、特に10~35質量%、好ましくは20~30質量%の量で使用される。適切なジアルデヒドの例は、グルタルアルデヒド、特にグリオキサールである。ジアルデヒドは、バインダーの総質量を基準として、0~10質量%、特に1~8質量%、好ましくは2~6質量%、特に好ましくは3~4質量%の量で好ましくは使用される。特に好ましくは、バインダーは、アミドとジアルデヒドの組み合わせ、特にメラミンとグリオキサールの組み合わせを含む。アミドとジアルデヒドは、好ましくは1:1~1:10、特に1:2~1:7.5、好ましくは1:2.5~1:5のモル比で使用される。
【0024】
別の好ましい実施形態によれば、バインダーはまた、カルボン酸、カルボン酸塩、及び/又はカルボン酸無水物、特に酢酸又は酢酸塩、マレイン酸又はマレイン酸塩及び/又は無水マレイン酸を含む。カルボン酸、カルボン酸塩、及び/又はカルボン酸無水物は、バインダーの総質量に基づいて、0~20質量%、特に1~15質量%、好ましくは2.5~10質量%、特に好ましくは2.5~20質量%の量で好ましくは使用される。カルボン酸、カルボン酸塩、及び/又はカルボン酸無水物を含むバインダーは、木材を含まないセルロース含有材料、例えば、わら、紙、ボール紙、厚紙に特に適している。
【0025】
さらに、バインダーは添加剤を含んでもよい。適切な添加剤の例は、基材をよりよく濡らすための湿潤剤(wetting agent)、消泡剤、増粘剤、平滑剤、難燃剤、染料、及び防腐剤、例えば防カビ剤である。通常、添加剤は、バインダーの総質量を基準にして、高々15質量%まで、特に高々10質量%まで、好ましくは高々5質量%までの量で使用される。特に長い貯蔵寿命を達成するために、防腐剤、特にベータナフトール又はチモールなどの殺カビ剤は、バインダーの総質量に基づいて、好ましくは0.1~10質量%、特に0.5~5質量%、特に好ましくは1~3質量%の量で使用される。
【0026】
また、バインダーは通常、水を含む。好ましくは、バインダーは、0~80質量%、特に40~75質量%の含水量を有する。
【0027】
さらに、本発明によるバインダーは、好ましくは8~11の範囲のpH値、好ましくは8.5~10の範囲のpH値、好ましくは9~10の範囲のpH値、最も好ましくは約9のpH値を有する。
【0028】
バインダーが5.0質量%未満、特に2.0質量%未満、好ましくは1.0質量%未満、最も好ましくは0.5質量%未満のアンモニウム塩、例えば、硫酸アンモニウム、アンモニウム明ばん、リグニンスルホン酸アンモニウム、及びリン酸水素アンモニウムしか含まないことがさらに好ましく、バインダーは最も好ましくはアンモニウム塩を実質的に含まない。
【0029】
さらに、バインダーは2.0質量%未満、特に1質量%未満~0質量%、好ましくは0.5質量%未満、特に好ましくは0.1質量%未満のホルムアルデヒドしか含有しないことが好ましく、最も好ましくは、バインダーはホルムアルデヒドを実質的に含まない。
【0030】
本発明によれば、以下の成分を混合することによって得られるバインダーが特に好ましく、混合物の総質量に基づいて、成分の少なくとも1つ、好ましくは全てが示された量で使用される。
【0031】
【表1】
適切な場合には、得られた混合物は乾燥される。
【0032】
バインダーの総質量に対する個々の成分の量について上で定義した範囲は、混合物の総質量に対して使用される成分の量についてのさらに好ましい範囲を表している。
【0033】
さらに、以下の成分のうち少なくとも2つ、好ましくは全てをその特定した質量割合で含むバインダーが特に好ましい。
【0034】
【0035】
驚くべきことに、本発明によるバインダーは、複合材料の製造に特に有利ないくつかの特性を有することが判明した。特に、バインダーは、チップボードなどの複合材料の製造のために通常の条件下で制御され且つ迅速なやり方で硬化し、したがって、複合材料の連続製造プロセスにおいて特に有利なやり方で使用することができる。このようにして製造された複合材料は、優れた機械的安定性及び耐水性を有している。特に、この複合材料は、DIN EN 312-1に準拠した少なくともクラスP3の耐水性を有する。このバインダーはまた、安価に入手可能な天然原料から得ることができ、健康及び環境に有害なホルムアルデヒド及びイソシアネートなどの成分無しに形成することができる。さらに、バインダーは冷蔵なしに、1成分システムとして何か月ものあいだ保管及び輸送することができる。
【0036】
通常、バインダーは希釈していない形態で使用される。あるいは、バインダーは、例えばプライマーとして、希釈して使用することもできる。最後に、バインダーは乾燥した形態で使用することもできる。
【0037】
本発明によるバインダーは、公知のバインダーと組み合わせて使用することもできる。 適切な公知のバインダーの例は、ポリメリックジイソシアネート(PMDI)、乳化ポリメリックイソシアネート(EPI)、ポリ酢酸ビニル(PVAC)、フルフラール及びフルフリルアルコールに基づく樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、並びに飽和及び不飽和アクリレートに基づく架橋ポリマーである。本発明によるバインダーは、すべての混合比で、公知のバインダー、特に市販の分散液の形態の公知のバインダーと適合性がある。
【0038】
本発明によるバインダーは、複合材料の製造に特に適している。したがって、本発明の主題は、複合材料、特にセルロース含有材料に基づく複合材料を製造するための、本発明によるバインダーの使用でもある。適切なセルロース含有材料の例は、木材、セルロース、わら(ストロー)、バガス、ケナフ、竹、サイザル麻、麻、ココナツ繊維、紙、ボール紙(cardboard)、及び板紙(paperboard)、特に、木材及び紙である。特に、セルロース含有材料は、無垢材、木材チップ、おがくず、砕木、木粉、ウッドダスト、及び機械パルプの形態で、並びにリサイクル材料、例えば、廃木材又は古紙の形態で使用することができる。
【0039】
本発明の主題はまた、セルロース含有材料が本発明によるバインダーで処理される複合材料の製造方法である。本発明によるバインダーはセルロース含有材料と、特に加熱下、好ましくは加熱及び加圧下で固化する。好ましくは、この方法は、バインダーをセルロース含有材料とともにプレスする工程を含む。典型的には、この処理は100~250℃の温度において、特に1~250バール、好ましくは10~180バールの圧力で行われる。
【0040】
バインダーは、特別な改造なしに、自動化された生産ラインなどのすべての一般的な加工機においてだけでなく、手動プレスでも使用できる。全ての公知かつ一般的な手順を本発明によるバインダーを用いて実施することもできる。
【0041】
温度及び圧力を制御することにより、本発明によるバインダーの処理時間及び硬化挙動を容易に調節することができる。複合ボードのためのプレス時間は、通常、セルロース含有材料のタイプ、プレス温度、プレス圧力、及びボードの厚さに左右される。本発明によるバインダーを用いて、10秒/mm板厚より短いプレス時間を通常の処理条件下で実施することができる。
【0042】
最後に、本発明の主題は、本発明による方法によって得られる複合材料でもある。適切な複合材料の例は平面及び3次元成形製品及び成形体、特に家具及び建設業向けのもの、例えばボード、特に家具ボード、建築材料ボード及び断熱ボード、レンガ、パレットブロック、コンクリート型枠部材、押し出し成形部材、及び3D成形部材、並びにダスト結合リサイクル製品及び再生板紙などの平面及び3次元成形製品及び成形体である。
【0043】
以下において、本発明を実施形態によってより詳細に説明する。
【0044】
実施形態
以下の表にしたがって本発明による10のバインダーを形成し、様々な複合材料の製造に使用した。
【0045】
【0046】
【0047】
例1(チップボード)
上の表による組成1を有する一成分形バインダーを、示された出発成分を混合することによって形成した。チップボードの製造のために、松の木のチップ(スクリーン画分>0.6mm×4mm、4質量%の含水率)を、ドラムミキサー中でスプレーすることによってバインダーと混合して、チップを均一に濡らすことを達成した。バインダーの質量分率は8質量%だった。
【0048】
バインダーで濡らしたチップを、市販の離型剤で濡らしたプレス板上に均一に散布し、チップケーキを形成した。そのチップケーキを手で予めプレスし、次に実験用プレートプレス中、200℃の温度にて120秒間、150バールの圧力でプレスした。プレス時間は、圧力が完全に高まった時点から測定した。12mmの厚さのチップボードが得られ、すなわち、プレス時間は10秒/mmボード厚だった。
【0049】
得られたチップボードについて、DIN EN 312-1(2010)に準拠して、以下の技術値を測定した。
膨潤厚さ:14%
曲げ強度:15.2N/mm2
曲げ弾性率:2954N/mm2
横引張強さ:0.62N/mm2
【0050】
これは、DIN EN 312-1(2010)に準拠したクラスP3チップボードの技術値が達成されたことを意味する。
【0051】
得られたチップボードのホルムアルデヒド放出は、DIN EN 717-1(2006)に準拠したチャンバー法を使用して測定した。これは、12時間後に0.024mg/m3、24時間後に0.019mg/m3、240時間後に0.005mg/m3だった。驚くべきことに、未処理の松の木材チップの天然のホルムアルデヒド放出は6分の1でさえあった。
【0052】
例2(配向されたストランドボードプレート)
上記の表による組成2を有する一成分形バインダーを、示された出発成分を混合することによって形成した。12mm厚さのOSB(Oriented Strand Board)ボードを製造するために、ドラムプロセスを使用して、木材フレーク(質量で2~4%の水分含有量)をバインダーで濡らした。バインダーの質量部分は8質量%だった。
【0053】
バインダーで濡らしたフレークを分散させてケーキを形成し、プレス用のボードプレスに置いた。次に、このようにして調製したケーキを、200℃の温度及び165barの圧力で120秒間プレスして、OSBボードを形成した。
【0054】
DIN EN 312-1(2010)に準拠したクラスP3のOSBボードの技術値が達成された。
【0055】
例3(薄いチップボード)
上の表による組成3を有する一成分形バインダーを、示された出発成分を混合することによって形成した。カレンダー(AUMA 30)上で、メンデ(Mende)プロセスに従って、820kg/m3の比重をもつ薄いチップボード(3.0mm)を製造するために、松の木のチップ(スクリーン画分>0.6mm×4mm)を、ドラムミキサー(Loedige)中で115kgのバインダー(バインダー含有量14質量%に相当)で濡らした。
【0056】
3.0mmの厚さボードは、140barの圧力及び175℃の温度にて、30秒かけて形成した。カレンダープラントのフィード速度は22m/分だった。
【0057】
DIN EN 312-1(2010)に準拠したクラスP3の薄いチップボードの技術値が達成された。
【0058】
例4(チップボード)
上の表による組成4を有する一成分形バインダーを、示された出発成分を混合することによって形成した。チップボード(22mmの厚さ)を製造するために、松の木チップ(0.6mm×4mmより大きなふるい分率、2.5質量%の含水量)をスプレーによってバインダーと混合し、チップケーキを形成した。バインダーの質量分率は8質量%だった。
【0059】
チップケーキは、シングルオープニングプレス(single-opening press)中で、200℃の温度、155barの圧力、及び12秒/mmボード厚さでプレスした。
【0060】
DIN EN 312-1(2010)に準拠したクラスP3チップボードの技術値が達成された。
【0061】
例5(中密度ファイバーボード)
上の表による組成5を有する一成分形バインダーを、示された出発成分を混合することによって形成した。中密度ファイバーボード(MDFボード)を製造するために、リファイナーによって解繊された松の木チップを、約1質量%の含水率まで乾燥させた。バインダーはスプレー工程においてドラムによる糊付けによって適用した。 バインダーの質量比率は8質量%だった。
【0062】
上で湿らせた木質繊維を185℃において140barの圧力でプレスした。連続プレス中でのプレス時間は、8秒/mmボード厚(ボード厚1mm当たり8秒)だった。6mmのボードを48秒で製造した。
【0063】
DIN EN 312-1(2010)に準拠したクラスP3のMDFボードの技術値が達成された。
【0064】
例6(合板パネル)
上の表による組成6の2成分形バインダーを、示された出発成分を混合することによって形成した。バインダー成分Aは、グリセロール、過酸化水素、Saval社のタンパク質濃縮物、植物残渣、及び小麦粉を含み、バインダー成分Bは、クラフトリグニン、フルオロカーボネート、メラミン、グリオキサール、及びレゾルシノールを含んでいた。
【0065】
合板(ラミネートウッド)の製造のために、バインダー成分Aを、2mmの厚さのカバノキベニヤの片側にロールで塗布し、これは固形分を増やし且つバインダーの「穴あき」を防ぐために405タイプの小麦粉で伸ばした。バインダー成分Aの塗布量は80g/m2だった。バインダー成分Bを2番目のカバノキベニヤの片側にロールで塗布した。バインダー成分Bの塗布量は40g/m2だった。次に、バインダー成分が塗布された2枚のベニアの上側の面を互いに重ね合わせ、140℃のプレス温度及び65barの圧力で120秒間、一緒にプレスした。
【0066】
例7(化粧貼り面)
上の表による組成7を有する一成分形バインダーを、示された出発成分を混合することによって形成した。化粧貼り表面を作成するために、両面接着剤塗布ローラーを使用して、キャリアボードとして80g/m2でチップボードの両面にバインダーをロール塗布した。 接着剤を塗布したキャリアボードを、0.8mmの厚さのオーク材のベニヤの上に置いた。 上側もオーク材のベニヤで覆い、短サイクルプレスへ送った。プレス圧力は70N/mm2であり、プレス時間は110℃で90秒だった。
【0067】
例8(チップボード)
上の表による組成8を有する一成分形バインダーを、示された出発成分を混合することによって形成した。チップボード(16mmの厚さ)を製造するために、松の木のチップ(スクリーン画分>0.6mm×4mm、2~4質量%の水分含有量)を、スプレーによってバインダーと混合し、チップケーキを形成した。バインダーの質量分率は7質量%だった。
【0068】
そのチップケーキを、210℃の温度及び150barの圧力にて、シングルオープニングプレス上で130秒のプレス時間でプレスした。
【0069】
DIN EN 312-1(2010)に準拠したクラスP3チップボードの技術値が達成された。
【0070】
例9(ストローボード)
上の表による組成9を有する一成分形バインダーを、示された出発成分を混合することによって形成した。バインダーは、2つの供給ノズルを備えたバッチミキサー(Loedige)を使用して、長さが高々20mmの未処理のストローファイバー(約6質量%水分含有量の)に適用した。バインダーの質量分率は10質量%だった。
【0071】
その濡らしたストローファイバー(藁繊維)を、180℃及び140barの圧力でプレスした。シングルオープニングプレス中でのプレス時間は12秒/mmボード厚だった。スペーサープレートを使用して、550kg/m3の比重をもちボード厚さ20mmのボードを製造した。
【0072】
以下の値は、DIN EN 622に準拠して決定した。
かさ密度:550kg/m3
横引張強度:0.58N/mm2
厚みの膨潤(24時間):14.3%
曲げ強度:28.2N/mm2
【0073】
これにより、DIN EN 622に準拠したクラスP3ファイバーボードの技術値が達成されている。
【0074】
したがって、本発明によるバインダーはまた、その表面がケイ酸塩又はワックス層を有する藁などのセルロース含有天然物に基づく複合材料の製造を可能にする。これは特に驚くべきことであり、なぜなら、従来のバインダー、例えばアミノプラスチックに基づく従来のバインダーは、そのような天然物を処理するのに適していないからである。
【0075】
藁の代わりに、その他のセルロース含有繊維を使用することができ、それは好ましくは若い植物又は一年生植物又はトウモロコシの穂軸、ピーナッツの殻などの細断されたもの、及びリサイクル紙に基づくものであってもよい。
【0076】
例10(ファイバーボード)
上の表による組成10を有する一成分形バインダーを、示された出発成分を混合することによって形成した。ファイバーボードの製造のために、リファイナーによって解繊された木材チップを、約4質量%の含水率にまで乾燥させた。プラウシェアミキサー及びエアレススプレーを使用してその木質繊維上にバインダーをスプレーした。バインダーの質量分率は8質量%だった。その濡らした木質繊維を、スペーサープレートを使用して200℃でプレスして、120kg/m3の比重をもつ20mmの厚さのボードを形成した。プレス時間は160秒であり、したがって8秒/mmボード厚だった。
【0077】
DIN EN 622-4に準拠して得られたファイバーボードの曲げ強度は1.3N/mm2だった。このように、DIN EN 622-4に準拠した屋外用多孔質木材繊維ボードの技術値が達成された。
【0078】
得られたファイバーボードからの5時間、24時間、及び48時間後の揮発性有機化合物(VOC)の放出量を次の表に示す。
【0079】