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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】鋼管用ねじ継手
(51)【国際特許分類】
   F16L 15/04 20060101AFI20230303BHJP
   E21B 17/042 20060101ALI20230303BHJP
【FI】
F16L15/04 A
E21B17/042
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020549976
(86)(22)【出願日】2019-07-24
(86)【国際出願番号】 JP2019028959
(87)【国際公開番号】W WO2020075366
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2018192230
(32)【優先日】2018-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595099867
【氏名又は名称】バローレック・オイル・アンド・ガス・フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(72)【発明者】
【氏名】奥 洋介
(72)【発明者】
【氏名】堂内 貞男
【審査官】杉山 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/194193(WO,A1)
【文献】特表2015-534614(JP,A)
【文献】特表2012-512347(JP,A)
【文献】特表2005-523404(JP,A)
【文献】国際公開第2017/213048(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 15/04
E21B 17/042
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管用ねじ継手であって、
鋼管の一方の先端部に形成される管状のピンと、
前記ピンが挿入されて前記ピンと締結される管状のボックスとを備え、
前記ピンは、
前記ピンの先端部に設けられ、環状面を有するピンショルダと、
前記ピンの外周面に設けられ、楔型ねじで構成される雄ねじと、
前記ピンショルダと前記雄ねじとの間に設けられ、前記ピンの外周面に設けられるピンシールとを含み、
前記ボックスは、
前記ピンショルダに対応して前記ボックスの奥端部に設けられ、環状面を有するボックスショルダと、
前記雄ねじに対応して前記ボックスの内周面に設けられ、楔型ねじで構成される雌ねじと、
前記ピンシールに対応して前記ボックスの内周面に設けられるボックスシールとを含み、
前記ピン及び前記ボックスが締結されているとき、前記ピンショルダは前記ボックスショルダから離れており、
次の式(1)を満た
3%≦(LP-SP)/LP<6% (1)
式(1)中、LPは前記雄ねじの荷重面間のピッチであり、SPは前記雄ねじの挿入面間のピッチであり、
前記雄ねじの荷重面間のピッチは、7.2mm~8.64mmである、鋼管用ねじ継手。
【請求項2】
請求項1に記載の鋼管用ねじ継手であって、
次の式(2)を満たす、鋼管用ねじ継手。
4%≦(LP-SP)/LP6% (2)
【請求項3】
請求項1又は2に記載の鋼管用ねじ継手であって、
次の式(3)を満たす、鋼管用ねじ継手。
-10度≦α≦-1度、かつ、-10度≦β≦-1度 (3)
式(3)中、αは前記雄ねじの荷重面のフランク角であり、βは前記雄ねじの挿入面のフランク角である。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の鋼管用ねじ継手であって、
前記雄ねじ及び前記雌ねじは、完全ねじで構成される完全ねじ部を含み、
前記完全ねじ部は、前記鋼管の軸方向において、40~60mmの長さを有する、鋼管用ねじ継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼管用ねじ継手に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、油井や天然ガス井等(以下、総称して「油井」ともいう)の試掘又は生産、オイルサンドやシェールガス等の非在来型資源の開発、二酸化炭素の回収や貯留(CCS(Carbon dioxide Capture and Storage))、地熱発電、あるいは温泉等では、油井管と呼ばれる鋼管が用いられる。鋼管同士の連結には、ねじ継手が用いられる。
【0003】
この種の鋼管用ねじ継手の形式は、カップリング型とインテグラル型とに大別される。カップリング型の場合、連結対象の一対の管材のうち、一方の管材が鋼管であり、他方の管材がカップリングである。この場合、鋼管の両端部の外周に雄ねじが形成され、カップリングの両端部の内周に雌ねじが形成される。そして、鋼管の雄ねじがカップリングの雌ねじにねじ込まれ、これにより両者が締結されて連結される。インテグラル型の場合、連結対象の一対の管材がともに鋼管であり、別個のカップリングを用いない。この場合、鋼管の一端部の外周に雄ねじが形成され、他端部の内周に雌ねじが形成される。そして、一方の鋼管の雄ねじが他方の鋼管の雌ねじにねじ込まれ、これにより両者が締結されて連結される。
【0004】
一般に、雄ねじが形成された管端部の継手部分は、雌ねじに挿入される要素を含むことから、「ピン」と称される。一方、雌ねじが形成された管端部の継手部分は、雄ねじを受け入れる要素を含むことから、「ボックス」と称される。これらのピン及びボックスは、管材の端部であるため、いずれも管状である。
【0005】
例えば大深度の油井に用いられるねじ継手に対しては、浅い部分では油井管の自重による大きな引張荷重が負荷され、深い部分では熱膨張による大きな圧縮荷重が負荷される。
【0006】
また、ねじ継手には、内部からの流体圧力(以下、「内圧」ともいう)及び外部からの流体圧力(以下、「外圧」ともいう)に対して密封性能が必要であり、深度が深いほど要求される密封性能も高くなる。このため、ねじ継手には、金属同士が接触するメタルシールが設けられる。メタルシールは、ピンの外周面に設けられるピンシールと、ボックスの内周面に設けられるボックスシールとから構成される。ピンシールの径はボックスシールの径よりもわずかに大きい。ピンシール及びボックスシールの径の差を干渉量という。ねじ継手が締結されてシール同士が密着すると、干渉量によりピンシールが縮径しかつボックスシールが拡径する。シールの各々が元の径に戻ろうとする弾性回復力により、シールに接触圧力が発生してシールが全周で密着し、密封性能が発揮される。
【0007】
米国再発行特許第30647号明細書(特許文献1)、米国特許第6158785号明細書(特許文献2)、及び国際公開WO2015/194193号(特許文献3)は、楔形ねじを用いたねじ継手を開示する。楔形ねじのねじ山幅は螺旋方向に沿って徐々に変化する。楔形ねじは、ダブテイル形とも称され、高いトルク性能を得ることができる。しかし、特許文献1~3のいずれにも楔形ねじのねじ山幅の変化率は全く記載されていない。
【0008】
特表2012-512347号公報(特許文献4)もまた、楔形ねじを用いたねじ継手を開示する。雄ねじ領域の両端付近では、雄スタビングフランク間のリード及び雄ロードフランク間のリードはともに一定である。同様に、雌ねじ領域の両端付近でも、雌スタビングフランク間のリード及び雌ロードフランク間のリードはともに一定である。したがって、ねじ領域の両端付近では、ねじ山幅は一定である。ロードフランク間のリードとスタビングフランク間のリードとの間に差があることは認められるが、その差の具体的な数値は全く記載されていない。
【0009】
本明細書は、以下の先行技術文献を引用により援用する。
【0010】
【文献】米国再発行特許第30647号明細書
【文献】米国特許第6158785号明細書
【文献】国際公開WO2015/194193号
【文献】特表2012-512347号公報
【開示の概要】
【0011】
楔形ねじの荷重面及び挿入面は負のフランク角を有するため、楔形ねじは締結時にかしめ合うことで高いトルク性能を発揮する。また、楔形ねじは、締結を容易にするために、ねじ山幅がピン又はボックスの先端に近づくに連れて狭くされることがある。言い換えれば、荷重面ピッチと挿入面ピッチとの間に差がある。このピッチ差は「デルタリード」と呼ばれる。デルタリードは、ピン及びボックスの先端付近のねじ山幅を決定する。
【0012】
ねじピッチの絶対値による影響を考慮し、デルタリードに代えて、「ウェッジ比(Wedge Ratio)」が用いられることもある。ウェッジ比は、デルタリードを荷重面ピッチで除したもので、荷重面ピッチに対するデルタリードの比率としてパーセンテージで表示される。
【0013】
ウェッジ比が大きいということは、ねじ山幅の減少率も大きいことを意味する。ウェッジ比が大きいと、ねじ山幅がピン及びボックスの先端付近で狭くなる。ねじ山幅が狭いと、大きな引張荷重がかかったとき、楔形ねじが耐えきれず、ねじ山そのものが破壊される可能性がある。そのため、ウェッジ比の設定には注意が必要である。以下、楔形ねじが引張荷重に耐えうる性能を「引張性能」という。
【0014】
上記特許文献4(特表2012-512347号公報)は、ウェッジ比の適正化を開示する。しかし、ウェッジ比が引張性能に加えてトルク性能及び密封性能に及ぼす影響を評価した文献は存在しない。
【0015】
本開示の目的は、高いトルク性能、高い引張性能及び高い密封性能を発揮できる鋼管用ねじ継手を提供することである。
【0016】
本発明者らは、トルク性能及び引張性能をともに向上させる適正なウェッジ比について鋭意検討を重ねた結果、ウェッジ比を変化させることにより、高いトルク性能、高い引張性能及び高い密封性能を発揮できることを見出した。
【0017】
本開示に係る鋼管用ねじ継手は、管状のピンと、管状のボックスとを備える。管状のピンは、鋼管の一方の先端部に形成される。管状のボックスは、ピンが挿入されてピンと締結される。ピンは、ピンショルダと、雄ねじと、ピンシールとを含む。ピンショルダは、ピンの先端部に設けられ、環状面を有する。雄ねじは、ピンの外周面に設けられる。雄ねじは、楔型ねじで構成される。ピンシールは、ピンショルダと雄ねじとの間に設けられ、ピンの外周面に設けられる。ボックスは、ボックスショルダと、雌ねじと、ボックスシールとを含む。ボックスショルダは、ピンショルダに対応してボックスの奥端部に設けられ、環状面を有する。雌ねじは、雄ねじに対応してボックスの内周面に設けられる。雌ねじは、楔型ねじで構成される。ボックスシールは、ピンシールに対応してボックスの内周に設けられる。ピン及びボックスが締結されているとき、ピンショルダはボックスショルダから離れている。ねじ継手は、次の式(1)を満たす。
【0018】
3%≦(LP-SP)/LP≦7% (1)
【0019】
式(1)中、LPは雄ねじの荷重面間のピッチである。SPは雄ねじの挿入面間のピッチである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施の形態に係る鋼管用ねじ継手の管軸方向に沿った縦断面図である。
図2図2は、図1中の雄ねじ及び雌ねじを拡大した縦断面図である。
図3図3は、図1中のメタルシールを拡大した縦断面図である。
図4図4は、密封性能の評価に供試した荷重条件の経路を示す図である。
図5図5は、荷重面ピッチが7.2mmの場合におけるウェッジ比と降伏トルクとの関係を示すグラフである。
図6図6は、荷重面ピッチが8.64mmの場合におけるウェッジ比と降伏トルクとの関係を示すグラフである。
図7図7は、荷重面ピッチが10.8mmの場合におけるウェッジ比と降伏トルクとの関係を示すグラフである。
図8図8は、荷重面ピッチが7.2mmの場合におけるウェッジ比と相当塑性ひずみとの関係を示すグラフである。
図9図9は、荷重面ピッチが8.64mmの場合におけるウェッジ比と相当塑性ひずみとの関係を示すグラフである。
図10図10は、荷重面ピッチが10.8mmの場合におけるウェッジ比と相当塑性ひずみとの関係を示すグラフである。
図11図11は、荷重面ピッチが7.2mmの場合におけるウェッジ比と最小シール接触面圧との関係を示すグラフである。
図12図12は、荷重面ピッチが8.64mmの場合におけるウェッジ比と最小シール接触面圧との関係を示すグラフである。
図13図13は、荷重面ピッチが10.8mmの場合におけるウェッジ比と最小シール接触面圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本実施の形態に係る鋼管用ねじ継手は、管状のピンと、管状のボックスとを備える。管状のピンは、鋼管の一方の先端部に形成される。管状のボックスは、ピンが挿入されてピンと締結される。ピンは、ピンショルダと、雄ねじと、ピンシールとを含む。ピンショルダは、ピンの先端部に設けられ、環状面を有する。雄ねじは、ピンの外周面に設けられる。雄ねじは、楔型ねじで構成される。ピンシールは、ピンショルダと雄ねじとの間に設けられ、ピンの外周面に設けられる。ボックスは、ボックスショルダと、雌ねじと、ボックスシールとを含む。ボックスショルダは、ピンショルダに対応してボックスの奥端部に設けられ、環状面を有する。雌ねじは、雄ねじ部に対応してボックスの内周面に設けられる。雌ねじは、楔型ねじで構成される。ボックスシールは、ピンシール面に対応してボックスの内周面に設けられる。ピン及びボックスが締結されているとき、ピンショルダはボックスショルダから離れている。ねじ継手は、次の式(1)を満たす。
【0022】
3%≦(LP-SP)/LP≦7% (1)
【0023】
式(1)中、LPは雄ねじの荷重面間のピッチである。SPは雄ねじの挿入面間のピッチである。
【0024】
好ましくは、上記ねじ継手は、次の式(2)を満たす。
【0025】
4%≦(LP-SP)/LP≦6% (2)
【0026】
上記ねじ継手は、次の式(3)を満たしていてもよい。
【0027】
-10度≦α≦-1度、かつ、-10度≦β≦-1度 (3)
【0028】
式(3)中、αは雄ねじの荷重面のフランク角、βは雄ねじの挿入面のフランク角である。
【0029】
雄ねじ及び雌ねじは、完全ねじで構成される完全ねじ部を含んでいてもよい。完全ねじ部は、鋼管の軸方向において、40~60mmの長さを有していてもよい。
【0030】
以下、図面を参照し、本実施の形態に係る鋼管用ねじ継手を説明する。図中同一及び相当する構成には同一の符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0031】
図1を参照して、本実施形態に係る鋼管用ねじ継手1は、管状のピン10と、管状のボックス20とを備える。ピン10は、鋼管2の一方の先端部に形成される。ボックス20は、ピン10が挿入されてピン10と締結される。以下、鋼管2の先端部以外の部分を特に「鋼管本体」という場合がある。
【0032】
ピン10は、ピンショルダ12と、雄ねじ11と、ピンシール13とを含む。ピンショルダ12は、ピン10の先端部に設けられ、環状面を有する。雄ねじ11は、ピン10の外周面に螺旋状に形成される。雄ねじ11は、楔型ねじで構成される。ピンシール13は、ピンショルダ12と雄ねじ11との間に設けられ、ピン10の外周面に設けられる。ボックス20は、ボックスショルダ22と、雌ねじ21と、ボックスシール23とを含む。ボックスショルダ22は、ピンショルダ12に対応してボックス20の奥端部に設けられ、環状面を有する。雌ねじ21は、雄ねじ11に対応してボックス20の内周面に螺旋状に形成される。雌ねじ21は、楔型ねじで構成される。ボックスシール23は、ピンシール13に対応してボックス20の内周面に設けられる。ピン10及びボックス20が締結されているとき、ピンショルダ12はボックスショルダ22から離れている。
【0033】
また、ピン10及びボックス20が締結されているとき、雄ねじ11の挿入面及び荷重面がそれぞれ雌ねじ21の挿入面及び荷重面と接触し、かつ、ピンシール13がボックスシール23と接触する。ショルダ角は、管軸TAに対して90°である。ショルダ角は、ピンショルダ12及びボックスショルダ22の各々が管軸(鋼管2の軸)TAに垂直な面となす角度である。
【0034】
図2を参照して、雄ねじ11の荷重面111及び雌ねじ21の荷重面211は、フランク角αを有する。雄ねじ11の挿入面112及び雌ねじ21の挿入面212は、フランク角βを有する。フランク角αは、管軸(鋼管2の軸)TAに垂直な平面VPに対する荷重面111,211の角度である。フランク角βは、管軸TAに垂直な平面VPに対する挿入面112,212の角度である。荷重面111,211又は挿入面112,212が平面VPと平行な場合、フランク角は0度である。雄ねじ11の荷重面111が平面VPよりもピン10の先端側に傾倒している場合(言い換えれば、雌ねじ21の荷重面211が平面VPよりもボックス20の先端側に傾倒している場合)、荷重面111,211のフランク角αは正である。反対に、雄ねじ11の荷重面111が平面VPよりもピン10の鋼管本体側に傾倒している場合(言い換えれば、雌ねじ21の荷重面211が平面VPよりもボックス20の鋼管本体側に傾倒している場合)、荷重面111,211のフランク角αは負である。また、雄ねじ11の挿入面112が平面VPよりもピン10の鋼管本体側に傾倒している場合(言い換えれば、雌ねじ21の挿入面212が平面VPよりもボックス20の鋼管本体側に傾倒している場合)、挿入面112,212のフランク角は正である。反対に、雄ねじ11の挿入面112が平面VPよりもピン10の先端側に傾倒している場合(言い換えれば、雌ねじ21の挿入面212が平面VPよりもボックス20の先端側に傾倒している場合)、挿入面112,212のフランク角は負である。楔形ねじのフランク角α及びβはいずれも負である。
【0035】
特に限定されないが、雄ねじ11及び雌ねじ21は全て完全ねじで構成され、不完全ねじは存在しないのが好ましい。全てのねじ11,21を完全ねじで構成すれば、雄ねじ11と雌ねじ21の接触面積が増加し、トルク性能が向上する。完全ねじ部(完全ねじで構成される雄ねじ11及び雌ねじ21)の長さは、例えば40~60mmである。
【0036】
鋼管用ねじ継手1は、次の式(1)を満たす。
【0037】
3%≦(LP-SP)/LP≦7% (1)
【0038】
好ましくは、鋼管用ねじ継手1は、次の式(2)を満たす。
【0039】
4%≦(LP-SP)/LP≦6% (2)
【0040】
式(1)及び(2)中、LPは雄ねじ11の荷重面111間のピッチ(以下、「荷重面ピッチ」という。)である。SPは雄ねじ11の挿入面112間のピッチ(以下、「挿入面ピッチ」という。)である。(LP-SP)/LPはウェッジ比を表す。荷重面ピッチLPは、雌ねじ21の荷重面211間のピッチと等しい。挿入面ピッチSPは、雌ねじ21の挿入面212間のピッチと等しい。
【0041】
すなわち、ウェッジ比の上限は7%、好ましくは6%である。ウェッジ比の下限は3%、好ましくは4%である。
【0042】
鋼管用ねじ継手1は、次の式(3)を満たす。
【0043】
-10度≦α≦-1度、かつ、-10度≦β≦-1度 (3)
【0044】
式(3)中、αは雄ねじ11の荷重面111のフランク角である。βは雄ねじ11の挿入面112のフランク角である。雄ねじ11の荷重面111のフランク角αは、雄ねじ11の挿入面112のフランク角βと同じであってもよく、又は異なっていてもよい。雄ねじ11の荷重面111のフランク角αは、雌ねじ21の荷重面211のフランク角αと実質的に同じである。雄ねじ11の挿入面112のフランク角βは、雌ねじ21の挿入面212のフランク角βと実質的に同じである。
【0045】
厳密には、荷重面ピッチLP、挿入面ピッチSP、及びフランク角α,βは、締結前の値が用いられる。
【0046】
図1を参照して、ピン10は、ピンショルダ12と、ピンシール13と、雄ねじ11とを備える。ピンショルダ12は、ピン10の先端部に設けられている。ピンショルダ12は、管状のピン10の先端面に配置されている。したがって、ピンショルダ12は環状面である。ピンシール13は、ピン10の外周面に設けられる。ピンシール13は、ピンショルダ12と雄ねじ11との間に配置されている。ピンシール13は、例えば、円弧もしくは楕円弧を管軸TAの周りに回転させた回転体の周面、又は管軸TAを軸とする円錐台の周面で構成される。あるいは、ピンシール13は、これらの周面を2種以上組み合わせてなる。ボックス20は、ボックスショルダ22と、ボックスシール23と、雌ねじ21とを備える。ボックスショルダ22は、ピンショルダ12に対応して、ボックス20の奥端部に設けられる。ボックスショルダ22は、ピンショルダ12と同様、環状面である。ボックスショルダ22は、締結状態においてピンショルダ12との間に一定のすき間を形成する。ボックスシール23は、ピンシール13に対応して、ボックス20の内周面に設けられる。ボックスシール23は、ボックスショルダ22と雌ねじ21との間に配置される。ボックスシール23は、例えば、円弧もしくは楕円弧を管軸TAの周りに回転させた回転体の周面、又は管軸TAを軸とする円錐台の周面で構成される。あるいは、ボックスシール23は、これらの周面を2種以上組み合わせてなる。ボックスシール23は、締結状態においてピンシール13に接触して、ピンシール面13とともにメタルシールを形成する。
【0047】
なお、締結状態において、ピンショルダ12とボックスショルダ22に所定のすき間を設けることで、楔形ねじのロックに及ぼす影響を少なくしている。すき間については1.5mm~2.5mm程度設けておいた方が良い。
【0048】
ピンシール13およびボックスシール23の位置については、ねじの加工時に刃物がシール13,23に干渉するのを避けるために、ピン10のねじ切り開始位置、又はボックス20のねじ切り上がり位置から所定の距離が必要である。この距離は、少なくとも1.5×LP(ねじの荷重面ピッチの1.5倍)以上設けておいた方が良い。
【0049】
本実施の形態は、雄ねじ11及び雌ねじ21を楔形ねじで構成し、かつ、そのウェッジ比を3~7%に設定しているため、高いトルク性能、高い引張性能及び高い密封性能を発揮することができる。
【0050】
ねじ継手1は、カップリング型でもインテグラル型でもよい。カップリング型ねじ継手は、2つのピンと、カップリングとを備える。一方のピンは、一方の鋼管の先端部に形成される。他方のピンは、他方の鋼管の先端部に形成される。カップリングは、2つのボックスを含む。一方のボックスは、カップリングの一方端部に形成される。他方のボックスは、カップリングの他方端部に形成される。一方のボックスは、一方のピンが挿入されて一方のピンと締結される。他方のボックスは、一方のボックスの反対側に形成され、他方のピンが挿入されて他方のピンと締結される。一方、インテグラル型ねじ継手は、2本の鋼管を互いに接続するためのものであり、ピンと、ボックスとを備える。インテグラル型ねじ継手では、一方の鋼管がピンを備え、他方の鋼管がボックスを備える。
【0051】
以上、実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限り種々の変更が可能である。
【実施例
【0052】
本実施の形態の効果を検証するため、有限要素法(FEM)によってトルク性能及び引張性能を評価した。評価対象を楔形ねじ継手とし、以下の鋼管を用いた。
【0053】
サイズ:9-5/8インチ(管本体外径:244.48mm、管本体内径:216.8mm)
材料:API規格の油井管材料L80(公称耐力YS=552MPa(80ksi))
ねじテーパ:1/12
ねじ長さ:50mm(ピン)、60mm(ボックス)
ねじ高さ:1.8mm
フランク角:-5度(荷重面及び挿入面の両方とも)
荷重面ピッチ:7.2mm、8.64mm、又は10.8mm
ウェッジ比:2~10%
挿入面ピッチ:ウェッジ比に応じて逆算
【0054】
評価対象のねじ継手は、図1に示されるように、雄ねじ11、ピンショルダ12、ピンシール13、雌ねじ21、ボックスショルダ22、及びボックスシール23で構成される。雄ねじ11及び雌ねじ21は全て楔形ねじかつほぼ完全ねじで構成される。
【0055】
表1は、解析に供試した27種類のねじ継手(サンプル)の寸法等を示す。
【表1】
【0056】
解析の際には、図1に示されるねじ継手1をベースにして、雄ねじ11及び雌ねじ21の寸法を変更し、トルク性能及び引張性能を評価した。
【0057】
[トルク性能の評価]
トルク性能については、締結トルク線図において締結トルクが降伏し始める値MTV(Maximum Torque Value)を降伏トルクと定義し、その値で評価した。
【0058】
[引張性能の評価]
引張性能については、ねじ継手1が降伏する引張荷重と同等の荷重を締結されたねじ継手に負荷し、雄ねじ11及び雌ねじ21の中で最も先端側に位置するねじの荷重面111,211及び挿入面112,212の付け根部分に生じる相当塑性ひずみの最大値で評価した。本発明者らの実管試験からの経験上、相当塑性ひずみが0.08程度になると、ねじ山が破壊するリスクが高くなる。そのため、相当塑性ひずみの閾値を0.080として、これよりも低い値であれば引張性能に優れると評価した。ただし、さらに安全側に余裕を見て、相当塑性ひずみの閾値を0.070としてもよい。
【0059】
[密封性能の評価]
密封性能評価については、図4に示されるように、実体試験を模擬した複合荷重を負荷し、シール13,23に生じる接触面圧を算出した。シール接触面圧の分布から平均接触面圧及びピーク接触面圧を求め、荷重経路において接触面圧が最も低い値を最小接触面圧と定義し、その値で評価した。荷重条件の経路はISO13679で規定される荷重条件の経路に従い、軸力は継手の降伏楕円の95%の値を負荷し、圧力は継手の降伏楕円の47.5%の値を負荷した。
【0060】
[解析結果]
図5図7は、有限要素解析で得た降伏トルクの値を示す。横軸にウェッジ比、縦軸にそれに対応するMTVの値をプロットした。ねじピッチに関係なく、MTVはウェッジ比に応じて増加し、特に2~3%の領域で最も上昇した。図6で確認できる通り、ウェッジ比が9%付近でMTVが最大になり、その後、下降に転じた。
【0061】
トルク性能が増加した要因として以下の点が考えられる。ウェッジ比が高いと、ピン10の先端付近でねじ山幅が狭くなり、ねじ山幅が狭いピン10をねじ山幅が広いボックス20で締付けることにより、高い接触圧が発生したためと考えられる。
【0062】
図8図10は、前述した通り、引張荷重を締結されたねじ継手1にかけたときに生じる相当塑性ひずみの最大値とウェッジ比との関係を示すグラフである。この相当塑性ひずみは、雄ねじ11及び雌ねじ21の中で最も先端側に位置するねじの荷重面111,211及び挿入面112,212の付け根部分に生じるものである。
【0063】
図8に示されるように、荷重面ピッチLP=7.2mmの場合、ウェッジ比が6%以上になると、雄ねじに生じる相当塑性ひずみの最大値が0.070を超え、ウェッジ比が8%になると、相当塑性ひずみの最大値が0.080を超えることが判明した。
【0064】
図9に示されるように、荷重面ピッチLP=8.64mmの場合、ウェッジ比が7%になると、雄ねじに生じる相当塑性ひずみが0.070を超え、9%になると、相当塑性ひずみの最大値が0.080を超えることが判明した。
【0065】
図10に示されるように、荷重面ピッチLP=10.8mmの場合、ウェッジ比が10%以上になると、雄ねじに生じる相当塑性ひずみの最大値が0.080を超え、ねじが破壊される可能性が高くなることが判明した。
【0066】
図11図13は、前述した通り、複合荷重をねじ継手1に負荷した際に生じるシールのピーク接触圧及び平均接触圧の最小値とウェッジ比との関係を示すグラフである。図より、ウェッジ比を変化させてもシールの最小接触面圧はほとんど変化がなく、ウェッジ比の影響は軽微であることが判明した。
【0067】
上記結果より、トルク性能を向上するには、ウェッジ比は高いほど良い。しかし、前述の通り、ウェッジ比が高すぎると、ピン(雄ねじ)及び/又はボックス(雌ねじ)の先端付近のねじ山が破壊されるリスクが高くなるため、ウェッジ比は7%以下としておいたほうが良い。また、ねじ山幅の減少はねじ底幅の増加に等しく、ねじ切り時のパス数の増加、インサートの寿命の低下につながることから、製造の観点からも極端に高いウェッジ比も望ましくない。以上より、適切なウェッジ比は3~7%であった。
【符号の説明】
【0068】
1:鋼管用ねじ継手
10:ピン
11:雄ねじ
12:ピンショルダ
13:ピンシール
20:ボックス
21:雌ねじ
22:ボックスショルダ
23:ボックスシール
111,211:荷重面
112,212:挿入面
LP:荷重面ピッチ
SP:挿入面ピッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図13