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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20230303BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20230303BHJP
【FI】
C08J5/04 CEP
C08J3/20 Z CEZ
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021541843
(86)(22)【出願日】2019-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2019033547
(87)【国際公開番号】W WO2021038723
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006943
【氏名又は名称】リョービ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】大本 剛士
(72)【発明者】
【氏名】山田 徹也
(72)【発明者】
【氏名】宮本 和幸
(72)【発明者】
【氏名】林 蓮貞
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-006875(JP,A)
【文献】特開2017-014406(JP,A)
【文献】特開2018-197304(JP,A)
【文献】特許第6091589(JP,B2)
【文献】特開2019-014865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04- 5/10、 5/24
B29B 11/16、 15/08- 15/14
B29C 70/00- 70/88
C08B 1/00- 37/18
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
D06M 13/00- 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタール樹脂と、セルロースナノファイバーと、アミド系分散剤とを含有し、
前記セルロースナノファイバーは、セルロースの水酸基の一部がアセチル化されており、
前記セルロースナノファイバーが、綿由来であり、且つ、アセチル化された水酸基の占める割合たる平均置換度が0.3~1.0であり、
前記アミド系分散剤が、ポリオキシエチレンアルキルアミドであり、
前記セルロースナノファイバーの含有量が10~20質量%であり、且つ、前記アミド系分散剤の含有量が2~5質量%である、複合材料。
【請求項2】
30~120℃における線膨張係数が50ppm/℃以下である、請求項1に記載の複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアセタール樹脂とセルロースナノファイバーとを含有する複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリアセタール樹脂は、優れた機械的強度を有し、安価であるため、各種製品の材料に使用されている。例えば、ポリアセタール樹脂は、優れた摺動性を有するため、歯車やジッパーなどの材料として用いられている。
【0003】
また、近年では、ポリアセタール樹脂などの樹脂材料は、繊維と複合させることにより強度を向上させた繊維強化プラスチック(FRP)として用いられている。FRPに含まれる繊維材料としては、ガラスファイバー、カーボンファイバー又はセルロースナノファイバーなどが挙げられる。これらの中でも、セルロースナノファイバーは、軽量性に優れ、リサイクルの容易性や低環境負荷などの観点から好ましい繊維材料である。
【0004】
セルロースナノファイバーを含有する複合材料が、期待される機能を発揮するためには、樹脂に対するセルロースナノファイバーの分散性が重要となる。しかしながら、セルロースが多くの水酸基を有していることによって、セルロースナノファイバーは高い親水性を有するため、通常、セルロースナノファイバーは疎水性が高い樹脂とは混ざりにくい。これを克服するために、セルロースの水酸基が有機基に修飾された修飾セルロースナノファイバーを樹脂に含有させた複合材料が提案されている。
【0005】
このような複合材料として、特許文献1には、ポリアセタール樹脂とセルロースの水酸基の一部がアセチル化された修飾セルロースナノファイバーとを含有する複合材料が記載されている。アセチル化された修飾セルロースナノファイバーは、セルロースの水酸基の一部がアセチル化されているため、疎水性が向上している。これによって、アセチル化された修飾セルロースナノファイバーは、ポリアセタール樹脂との親和性が向上し、修飾されていないセルロースナノファイバーと比較して、ポリアセタール樹脂に対する良好な分散性を示し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特許第6091589号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された複合材料は、セルロースナノファイバーの添加による効果が十分に発揮されないという問題点を有している。特に、該複合材料は、各種製品に成形される際に求められる機能が十分ではないという問題点を有している。例えば、該複合材料は、寸法安定性が十分ではなく、成形時の収縮が大きくなり、それによって、成形に困難性を伴うという欠点を有している。
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は、従来技術と比較して、優れた機能を発揮し得る複合材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一般的に、セルロースナノファイバーは、アセチル化などの化学修飾によって結晶化度が低下する。また、アモルファス部分は結晶性部分と比較して熱的に不安定であるため、結晶化度が低下したセルロースナノファイバーは、熱分解し易くなる。
【0010】
これに対して、本発明者らは、セルロースナノファイバーの中でも綿由来のセルロースナノファイバーの結晶化度が比較的高いことを見出し、さらに、綿由来のセルロースナノファイバーは、化学修飾の前後において、結晶化度が低下しにくいことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明に係る複合材料は、
ポリアセタール樹脂と、セルロースナノファイバーとを含有し、
前記セルロースナノファイバーは、セルロースの水酸基の一部がアシル化されており、
前記セルロースナノファイバーが、綿由来である、複合材料である。
【0012】
また、好ましくは、本発明に係る複合材料は、前記アシル化が、アセチル化である。
【0013】
好ましくは、本発明に係る複合材料は、アミド系分散剤をさらに含有する。
【0014】
好ましくは、本発明に係る複合材料は、前記アミド系分散剤が、ポリオキシエチレンアルキルアミドである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施例における製造例1のCNFのSEM画像である。
図2図2は、実施例における製造例2のCNFのSEM画像である。
図3図3は、実施例における製造例3のCNFのSEM画像である。
図4図4は、実施例における製造例1~3のCNFのIRスペクトルである。
図5図5は、実施例における製造例1~5のCNFのXRDチャートである。
図6図6は、実施例における製造例1~5のCNFのTGチャートである。
図7図7は、DMAチャートの一例を示し、DMAチャートから軟化温度を求める方法を示すための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る複合材料の一実施形態について説明する。
【0017】
本実施形態に係る複合材料は、ポリアセタール樹脂と、セルロースナノファイバーと、アミド系分散剤とを含有し、前記セルロースナノファイバーは、セルロースの水酸基の一部がアシル化されている。また、前記セルロースナノファイバーは、綿から取得されたセルロース繊維を原料とする。
【0018】
前記複合材料は、各種部品の成形材料として使用され、例えば、射出成形などによって自動車の部品や精密部品などに成形され得る。前記複合材料は、成形時の温度が通常180~220℃に設定され、好ましくは180~200℃に設定されて成形される。このため、前記複合材料は、このような成形条件下における優れた成形性を有していることが好ましい。このような観点から、前記複合材料の30~120℃における線膨張係数は、好ましくは90ppm/℃以下、より好ましくは70ppm/℃以下、さらに好ましくは50ppm/℃以下である。また、前記複合材料の前記線膨張係数は、通常10ppm/℃以上である。なお、前記線膨張係数は、実施例に記載された測定方法によって測定される。
【0019】
また、前記複合材料の100℃における貯蔵弾性率(E´)は、好ましくは1000MPa以上であり、より好ましくは1100MPa以上であり、さらに好ましくは1200MPa以上であり、より一層好ましくは1500MPa以上である。これによって、前記複合材料は、優れた耐熱性と機械特性を有し得る。また、前記複合材料の100℃における貯蔵弾性率(E´)は、通常2500MPa以下である。なお、前記貯蔵弾性率は、実施例に記載された測定方法によって測定される。
【0020】
前記ポリアセタール樹脂は、アセタール構造-(-O-CRH-)-(Rは水素原子又は有機基を示す)を繰り返し構造に有する高分子である。通常、Rが水素原子であるオキシメチレン基(-OCH-)が、主たる構成単位である。前記ポリアセタール樹脂は、ポリアセタールホモポリマーであってもよく、ポリアセタールコポリマーであってもよい。また、前記ポリアセタール樹脂は、前記ポリアセタールホモポリマー又は前記ポリアセタールコポリマーの含有量が通常90質量%以上であり、好ましくは95質量%以上であればよく、一部に他のポリマー成分を含んでいてもよい。
【0021】
種子毛植物の種子から採取される種子毛繊維を原料としている。前記種子毛植物としては、綿、アクンド、カポックが例示され、これらの中でも、綿が好ましい。綿の種子は、コットンボールと呼ばれる繊維に覆われており、該コットンボールは、種子を覆うリンター及びリンターの外側を覆うリントから形成されている。リントの方がリンターよりも繊維長が長いため、一般的に、リントは、綿糸や綿織物の原料として使用され、リンターは、リンターパルプやレーヨンとして使用される。なお、前記セルロースナノファイバーは、リントから製造されてもよく、リンターから製造されてもよい。本実施形態では、前記セルロースナノファイバーは、リンターから製造されたリンターパルプを原料としている。
【0022】
綿由来の前記セルロースナノファイバーは、他の植物、例えば針葉樹由来のセルロースナノファイバーと比較して、リグニンの含有量が少ない。ここで、前記リグニンは、熱によって分解し易いため、その含有量が多い場合、セルロースナノファイバーの熱安定性も低下し得る。よって、綿由来の前記セルロースナノファイバーを含有する複合材料は、優れた熱安定性を有し得る。前記セルロースナノファイバーにおける前記リグニンの含有量は、500ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがより好ましい。なお、前記リグニンの含有量は、Klason法によって測定される。
【0023】
前記セルロースナノファイバーは、ナノレベルに解繊されている。前記ナノレベルとは、前記セルロースナノファイバーの平均繊維径が、通常15~800nmであり、好ましくは20~500nmであることを意味する。なお、前記セルロースナノファイバーは、前記複合材料中において、前記平均繊維径が上記値であればよい。例えば、平均繊維径が数10μm程度のセルロース繊維が、前記ポリアセタール樹脂と混練されることによって、ナノレベルに解繊されてもよい。また、前記平均繊維径は、実施例に記載された測定方法によって測定される。
【0024】
また、前記セルロースナノファイバーの平均繊維長は、通常0.5~100μmであり、好ましくは1~80μmである。なお、前記平均繊維長は、実施例に記載された測定方法によって測定される。
【0025】
前記セルロースナノファイバーは、セルロースの水酸基の一部がアシル化されている。言い換えれば、前記セルロースナノファイバーのセルロースの水酸基の一部が、化学式RCOOで標記されるアシル基に置換されている。アシル基としては、Rが、炭素数1~18のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~12のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~4のアルキル基であることがさらに好ましい。例えば、前記アシル基としては、アセチル基、ブチリル基又はラウリル基が好ましい。これらの中でも、アセチル基を有する前記セルロースナノファイバーが、優れた熱安定性を発揮し、また、製造コストが安価になるという観点から、好ましい。
【0026】
前記セルロースナノファイバーにおけるセルロースの水酸基のうち、アシル化された水酸基が占める割合は、平均置換度として示される。該平均置換度は、通常木材パルプの場合は0.1~0.5であり、好ましくは0.2~0.45である。一方、綿由来リンターパルプの場合は、0.1~1.5であり、好ましくは、0.2~1.2、より好ましくは0.3~1.0である。また、該平均置換度は、前記アシル基の種類によって好ましい値が異なる。例えば、アセチル基の場合、好ましくは0.1~1.5であり、より好ましくは0.2~1.2であり、ブチリル基の場合、好ましくは0.05~1.3であり、より好ましくは0.1~1.2であり、また、ラウリル基の場合、好ましくは0.05~1.2であり、より好ましくは0.1~1.0である。ラウリル基はRの炭素数が12であり、アルキル側鎖が比較的長く、該アルキル側鎖がセルロースの表面を覆い得る。よって、ラウリル基を有するセルロースナノファイバーは、平均置換度が比較的低い場合であっても、前記ポリアセタール樹脂との優れた親和性を有し得る。また、平均置換度が低い場合、セルロースナノファイバーの結晶化度の低下が抑制され得るため好ましい。なお、前記平均置換度は、実施例に記載された測定方法によって測定される。
【0027】
前記セルロースナノファイバーは、セルロースI型結晶を有している。前記セルロースナノファイバーにおける前記セルロースI型結晶の含有率は、結晶化度として示される。綿由来の前記セルロースナノファイバーは、他の植物由来のセルロースナノファイバーと比較して、前記結晶化度が高い。また、通常、前記セルロースナノファイバーがアシル化されると、アシル化された部分がアモルファスとなるため、前記結晶化度は低下する。これに対して、綿由来の前記セルロースナノファイバーは、アシル化によって前記結晶化度が低下しにくい。この理由として、綿由来のセルロースナノファイバーは、アシル化剤が内部に浸透しにくく、前記ポリアセタール樹脂との親和性に大きく影響する表面部分が効率的にアシル化されるためであると考えられる。また、前記アシル化剤がセルロースナノファイバーの内部に浸透しにくいことは、内部のセルロースがアシル化されにくいことを意味し、すなわち、内部の前記結晶化度が低下しにくいことを意味する。高い結晶化度を有するセルロースナノファイバーは、熱安定性が高く、前記ポリアセタール樹脂との混練時に熱分解しにくい。よって、このようなセルロースナノファイバーを含有する前記複合材料は、優れた機能を発揮し得る。
【0028】
前記結晶化度は、好ましくは45%以上であり、より好ましくは50%以上であり、さらに好ましくは70%以上であり、より一層好ましくは75%以上であり、最も好ましくは80%以上である。なお、前記結晶化度は、実施例に記載された測定方法によって測定される。また、図5に示されるように、綿由来の前記セルロースナノファイバーは、粉末X線結晶回折(XRD)チャートにおいて、2θ=14.9°及び16.5°に特異的なピークを示す。
【0029】
ここで、前記ポリアセタール樹脂の融点が比較的高いことにより、混練時の温度も比較的高い温度(通常、180~220℃であり、好ましくは180~200℃)に設定される。また、通常、混練時の発熱によって、混練物の温度は、設定された前記温度よりも数10℃高くなり得る。このため、前記セルロースナノファイバーは、このような温度条件下での耐熱性を有していることが好ましい。このような観点から、前記セルロースナノファイバーの熱分解温度(5%減量温度)は、290℃以上であることが好ましく、より好ましくは300℃以上であることがより好ましく、310℃以上であることがさらに好ましく、320℃以上であることがより一層好ましい。綿由来の前記セルロースナノファイバーは、他の植物由来のセルロースナノファイバーと比較して耐熱性が高く、すなわち、上記のような熱分解温度を有し得る。これによって、前記セルロースナノファイバーは、前記ポリアセタール樹脂との混練時において、熱分解しにくく、前記複合材料が、優れた機能を発揮し得る。なお、前記セルロースナノファイバーの熱分解温度は、通常360℃以下である。また、前記熱分解温度は、実施例に記載された測定方法によって測定される。
【0030】
前記セルロースナノファイバーの含有量は、前記複合材料全体量に対して、通常4~50質量%であり、好ましくは10~30質量%であり、より好ましくは10~20質量%である。
【0031】
前記アミド系分散剤は、分子中にアミド基を有する分散剤であり、化学式RCONRで標記される。前記アミド系分散剤は、混練時の温度条件下において液体であることが好ましく、混練時の温度条件下において揮発しにくいものであることが好ましい。前記アミド系分散剤の融点は、通常200℃以上であり、好ましくは250℃以上である。また、前記アミド系分散剤の沸点は、通常200℃以上であり、好ましくは250℃以上である。
【0032】
前記アミド系分散剤としては、脂肪酸アミド、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルアミド及びポリオキシプロピレンアルキルアミドからなる群より選ばれる1又は2以上のものが挙げられる。このようなアミド系分散剤のR部分は、前記ポリアセタール樹脂との親和性を示し得る構造であることが好ましい。このような観点から、Rは、好ましくは炭素数3~25、より好ましくは炭素数5~20のアルキル基又はアルケニル基である。
【0033】
前記脂肪酸アミドとしては、ステアリン酸モノアミド、オレイン酸モノアミド、エルカ酸モノアミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミドなどが挙げられる。
【0034】
前記脂肪酸アルカノールアミドとしては、ヤシ脂肪酸モノエタノールアミド、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド、ラウリン酸イソプロパノールアミド、牛脂脂肪酸ジエタノールアミド、ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミドなどが挙げられる。
【0035】
前記ポリオキシエチレンアルキルアミドとしては、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ポリオキシエチレンラウリン酸モノエタノールアミドなどが挙げられる。
【0036】
前記ポリオキシプロピレンアルキルアミドとしては、ポリオキシプロピレンヤシ油脂肪酸モノイソプロパノールアミドなどが挙げられる。
【0037】
前記アミド系分散剤は、前記化学式におけるR又はRの少なくとも一つが水素原子であることが好ましい。このようなアミド系分散剤は、前記水素原子が、前記セルロースナノファイバーにおける前記アシル基のカルボニル酸素原子と水素結合を形成し得る。よって、このようなアミド系分散剤は、前記セルロースナノファイバーとの親和性を示し得る。
【0038】
さらに、前記アミド系分散剤は、前記化学式におけるRが水素原子であり、Rが-(CO)H(ポリオキシエチレンアルキル基)であることが好ましい。このようなアミド系分散剤としては、日油株式会社製のナイミッド(登録商標)が挙げられる。このようなアミド系分散剤は、前記ポリオキシエチレン基の部分がポリアセタール樹脂との高い親和性を示し、且つ、前記水素原子が、前記セルロースナノファイバーにおける前記アシル基のカルボニル酸素原子と水素結合を形成し得る。すなわち、このようなアミド系分散剤は、前記ポリアセタール樹脂及び前記セルロースナノファイバーそれぞれとの親和性を示す構造を有しており、これによって、これらの間で界面活性剤のように機能し得る。よって、このようなアミド系分散剤は、前記複合材料中の前記セルロースナノファイバーの分散を促進し得る。
【0039】
前記アミド系分散剤の含有量は、前記複合材料全体に対して、通常1~10質量%であり、好ましくは2~5質量%である。
【0040】
次に、本実施形態に係る複合材料の製造方法について説明する。
【0041】
まず、前記セルロースナノファイバーの製造方法について説明する。
【0042】
前記セルロースナノファイバーの原料は、前記リンターパルプである。前記リンターパルプの結晶化度は、好ましくは50%以上であり、より好ましくは70%以上であり、さらに好ましくは75%以上であり、より一層好ましくは80%以上である。前記リンターパルプは、市販されているものを使用することができる。
【0043】
前記セルロース繊維をアシル化及び解繊する方法は、従来公知の方法を採用することができる。好ましい方法としては、スーパーマスコロイダーなどの解繊装置を使用し、前記セルロース繊維を、カルボン酸ビニルエステルやカルボン酸無水物などのアシル化剤と酸触媒又は塩基触媒とDMSOなどの有機溶媒とを含む処理液によって処理し、アシル化されたセルロース繊維を取得する方法が挙げられる。該方法によれば、リファイナーや高圧ホモジナイザーなどを使用する機械的な解繊方法と比較して、前記セルロース繊維の結晶化度の低下が抑制され得る。
【0044】
前記アシル化剤としては、無水酢酸、無水酪酸、ラウリン酸無水物などのカルボン酸無水物;酢酸、酪酸、ラウリン酸などのカルボン酸;酢酸ビニル、酪酸ビニル、ラウリン酸ビニルなどのカルボン酸ビニル:ハロゲン化酢酸、ハロゲン化酪酸、ハロゲン化ラウリン酸などのカルボン酸ハロゲン化物などが挙げられる。
【0045】
前記有機溶媒としては、DMSOの他、ホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどの非プロトン性極性溶媒が好ましい。
【0046】
また、前記処理液には、セルロース繊維の解繊を促す解繊剤を添加してもよい。解繊剤としては、R-CHO(Rは、水素原子、炭素数1~16のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基又はアリール基を表す)で表されるアルデヒド;R-COO-CH=CH2(R6は、炭素数1~24のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基又はアリール基を表す)で表されるカルボン酸ビニルエステルが挙げられる。
【0047】
次に、ろ過や遠心分離などによって、前記アシル化されたセルロース繊維から前記処理液を除去し、洗浄溶媒として2-プロパノール且つ/又はジメチルアセトアミドなどを用いて前記処理されたセルロース繊維を洗浄し、濃縮することによって前記洗浄溶媒の一部を除去し、ペースト状セルロースナノファイバーを取得する。該ペースト状セルロースナノファイバーに含まれるセルロースナノファイバーの含有量は、全体量に対して通常5~30%である。
【0048】
次に、前記複合材料の製造方法について説明する。
【0049】
まず、一般的に使用されている撹拌機を使用して、前記ペースト状セルロースナノファイバー及び前記アミド系分散剤を混合し、分散剤処理されたセルロースナノファイバーを取得する。
【0050】
次に、前記分散剤処理されたセルロースナノファイバー及び前記ポリアセタール樹脂を混練溶媒中に分散させ、混練機を使用して混練し、混練物を取得する。通常、混練温度は180~195℃である。なお、混練時の混練機の回転数や混練時間は、取得する複合材料の量や複合材料に含有させるセルロースナノファイバーの量などを考慮して、適宜変更することができる。
【0051】
前記混練溶媒としては、エタノール又は2-プロパノールなどのアルコール系溶媒、ジメチルアセトアミド又は2-メチル-2-ピロリドンなどのアミド系溶媒を使用することができる。また、これらの溶媒を2種以上混合して使用してもよい。前記有機溶媒としては、前記アミド系溶媒が好ましく、これらの中でも、ジメチルアセトアミドが好ましい。
【0052】
次に、真空乾燥機などを使用して、前記混練物を乾燥し、前記複合材料を取得する。乾燥温度は、通常80~125℃である。
【0053】
上記の通り、本発明に係る複合材料は、
ポリアセタール樹脂と、セルロースナノファイバーとを含有し、
前記セルロースナノファイバーは、セルロースの水酸基の一部がアシル化されており、
前記セルロースナノファイバーが、綿由来である。
【0054】
前記セルロースナノファイバーは、綿由来であるため、他の植物由来のセルロースナノファイバーと比較して、高い結晶化度を示し、また、アシル化によって前記結晶化度が低下しにくい。よって、斯かる構成によれば、前記セルロースナノファイバーが、前記ポリアセタール樹脂との混練時に熱分解しにくいため、前記複合材料が優れた機能を発揮し得る。例えば、前記複合材料は、優れた寸法安定性を有し、それによって、優れた成形性を有し得る。
【0055】
前記複合材料では、前記アシル化が、アセチル化であってもよい。
【0056】
かかる構成によれば、前記複合材料がより優れた機能を有し得、さらに、比較的安価に製造され得る。
【0057】
前記複合材料では、アミド系分散剤をさらに含有していてもよい。
【0058】
かかる構成によれば、前記セルロースナノファイバーと前記ポリアセタールとの混練時、前記セルロースナノファイバーの分散が促進されるため、前記複合材料が、さらに優れた機能を発揮し得る。
【0059】
前記複合材料では、前記アミド系分散剤がポリオキシエチレンアルキルアミドであってもよい。
【0060】
かかる構成によれば、前記セルロースナノファイバーと前記ポリアセタールとの混練時、前記セルロースナノファイバーの分散がさらに促進されるため、前記複合材料がより一層優れた機能を発揮し得る。
【0061】
なお、本発明に係る複合材料は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。また、本発明に係る複合材料は、上記した作用効果により限定されるものでもない。本発明に係る複合材料は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例
【0062】
次に、実施例を挙げて、本発明についてさらに詳しく説明する。
【0063】
[使用原料]
・セルロースナノファイバー(以下、CNFとも言う)の原料として、リンターパルプ及び針葉樹木材パルプ(Georgia-Pacific社製)を使用した。
・アシル化剤として、酢酸ビニル(ナカライテスク社製)、酪酸ビニル(ナカライテスク社製)、ラウリン酸ビニル(ナカライテスク社製)を使用した。
・ポリプラスチックス社製のポリアセタール樹脂(以下、POMとも言う)を使用した。
・アミド系分散剤として、ナイミッド(登録商標)MT-215(日油株式会社製)を使用した。
【0064】
[セルロースナノファイバーの製造例]
表1における製造例1のCNFは、次のようにして製造した。酢酸ビニル10g、炭酸ナトリウム1.5g及びDMSO90gをそれぞれ三口フラスコに入れて混合し、処理液を調製した。得られた処理液にリンターパルプ3gを加え、50℃で3時間反応した後、水で洗浄した。その後、スーパーマスコロイダーを用いて解繊することにより製造例1のアセチル化CNFを取得した。
【0065】
[平均繊維径及び平均繊維長の測定方法]
CNFの平均繊維径及び平均繊維長を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定した。具体的には、FE-SEM(JSM-6700F、日本電子株式会社製)を使用し、下記測定条件で倍率100~100000倍のSEM画像を取得し、任意の繊維50本の繊維径及び繊維長を測定し、それぞれの算術平均値を平均繊維径及び平均繊維長とした。図1~3に、製造例1~3のCNFのSEM画像を示した。
(測定条件)
・Ptコート条件:10mA、60秒
・加速電圧:5kV
・SEI:二次電子像
・LEI:下方検出器像(二次電子像+反射電子像)
【0066】
[平均置換度の測定方法]
セルロースナノファイバーの平均置換度は、下記滴定法によって測定した。
(滴定法)
CNF0.5gを水酸化ナトリウム(モル数A)/エタノール/水の混合液100mLに分散させ、23℃で4時間撹拌することにより、アシル基を加水分解した。水酸化ナトリウム、エタノールと水の比率は、アシル基の種類により調整する。例えば、アセチル化されたCNFの場合、水酸化ナトリウム5g/エタノール50g/水50gの混合液を用いた。一方、ラウリル化されたCNFの場合、水酸化ナトリウム5g/エタノール80g/水20gの混合液を用いた。ろ過することによって、残渣(アシル基が水酸基に変換されたCNF)と反応溶液(カルボン酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムが溶解した混合液)とを分離した。前記残渣を設定温度105℃で真空乾燥し、乾燥中の残渣の1時間ごとの質量変化が0.01%以下になったことが認められた時点で乾燥を終了し、乾燥した残渣の質量(W)を秤量した。また、塩酸水溶液を用いて前記反応溶液中の水酸化ナトリウム量を滴定し、そのモル数(C)を求めた。下記式によって、平均置換度を算出した。同じCNFは3回測定し、3回測定から得られた値の平均値を採用した。
セルロースのモル数(M)=W/162
アシル基が分解して生成したカルボン酸のモル数B=A-C
平均置換度=B/M
【0067】
[CNFのIR分析]
CNFをFT-IRを使用して分析した。図4にIRスペクトルを示した。IRスペクトルにおいて、1370cm-1付近のスペクトルは、セルロースのC-H結合による吸収である。また、1750cm-1付近のスペクトルは、アシル基のC=O結合による吸収である。図4のIRスペクトルから、製造例1~5のCNFは、アシル基を有することが認められた。
【0068】
[結晶化度の測定方法]
CNFの粉末X線結晶回折(XRD)を、試料水平型多目的X線回折装置(UltimaIV、株式会社リガク製)を使用して分析した。図5に示したように、製造例1~5のCNFは、2θ=22.6°にピークを示したため、セルロースI型結晶を有することが認められた。また、リンターパルプを原料とするCNF(製造例1~4)は、2θ=14.9°及び16.5°に特異的なピークを示した。一方、針葉樹木材パルプを原料とするCNF(製造例5)は、このようなピークを示さなかった。
(測定条件)
・X線:Cu/40kV/40mA
・スキャンスピード:10°/分
・走査範囲:2θ=5~70°
(結晶化度の算出方法)
下記式によって、結晶化度を算出した(Textile Res. J.29:786-794, 1959参照)。
結晶化度(%)=[(I200-IAM)/I200]×100
200:2θ=22.6°の回折強度
AM:アモルファス部の回折強度であり2θ=18.5°の回折強度
【0069】
[熱分解温度の測定方法]
CNFの熱分解挙動を示差熱熱重量同時測定装置(STA7200、株式会社日立ハイテクサイエンス製)を使用して分析した。図6に測定結果を示した。
(測定条件)
・雰囲気:アルゴンガス(流量300mL/分)
・温度範囲:30~400℃
・昇温速度:10℃/分
(熱分解温度=5%減量温度)
図6に、製造例1~5のCNFのTGチャートを示した。TGチャートにおいて、100℃までの質量減少は水分の蒸発による減少である。よって、TGチャートにおける200℃の質量を基準にして、質量が5%減少した温度(5%減量温度)を熱分解温度とした。
【0070】
表1に、製造例1~5のCNFの各測定結果を示した。リンターすなわち綿由来のCNFは、結晶化度が80%程度に維持されており、且つ、高い熱分解温度を示した。これに対して、針葉樹由来のCNFは、結晶化度及び熱分解温度が比較的低い値を示した。これらの結果から、綿由来のCNFは、比較的高い熱安定性を有しているため、前記複合材料を製造する際の前記ポリアセタール樹脂との混練時において熱分解しにくいと考えられた。よって、このようなCNFを含有する複合材料は、優れた機能を発揮し得ると考えられた。
【0071】
【表1】
【0072】
[複合材料の製造]
表2の配合に従い、複合材料をシート状の複合シートとして作製した。なお、表2におけるCNFの配合量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対する配合量を表す。また、CNFとPOMとの混練では、混練溶媒としてエタノール(EtOH)、2-プロパノール(IPA)、ジメチルアセトアミド(DMAc)又はN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を使用した(実施例8においてはDMAc/EtOHの混合溶媒)。以下、代表的な複合材料の製造例を示す。
【0073】
複合材料にアミド系分散剤を含有させたCNFの調製実施例では、アミド系分散剤を溶解した溶媒にCNFを添加し、スターラーを用い又は機械攪拌により、120~180分、20~30℃で分散させ、分散剤処理されたCNFを調製した。
【0074】
CNF(又は分散剤処理されたCNF)及びPOMの混練にはラボプラストミルを使用し、180~195℃、回転数45~100rpmで20~70分混練した。次に、真空乾燥機を使用し、得られた混練物を120℃で5時間乾燥し、未成形複合材料を取得した。前記未成形複合材料を、ホットプレス機を使用し、190℃で4分加熱し、180kg/cmの圧力で1分加圧後、室温にて放冷し、複合シートを作製した。取得した複合シートについて、下記測定方法によって各種データを取得し、寸法安定性、動的粘弾性及び引張特性を評価した。
【0075】
[線膨張係数の測定方法]
前記複合シートの線膨張係数を熱機械分析(TMA)の機能を備えた動的粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製Q800型DMA)を使用して測定した。
(測定条件)
・静荷重:50mN
・温度範囲:30~120℃(30℃における長さの変化を0%とした)
・昇温速度:3℃/分
・試験片:幅5mm及び長さ25~30mmの短冊形、厚み0.1~0.3mm
【0076】
[動的粘弾性の測定方法]
前記複合シートの動的粘弾性(DMA)を、前記動的粘弾性測定装置を使用して測定した。
(測定条件)
・測定モード:引張
・試験片:幅5mm及び長さ25~30mmの短冊形、厚み0.1~0.3mm
・つかみ間距離:15mm
・昇温速度:3℃/分
・ひずみ:0.1%
・測定温度:-100~160℃又は室温~160℃
(軟化温度の求め方)
図7に示すように、貯蔵弾性率の変化を示す曲線のうち、低温側に認められる直線部分を延長した直線と、貯蔵弾性率の低下速度が最大となる部分の接線との交点が示す温度を軟化温度とする。
【0077】
[引張試験の方法]
下記測定条件によって、前記複合シートの引張試験を実施した。
(測定条件)
・試験片:幅5mmの短冊形
・つかみ具間距離:20mm
・引張速度:5mm/分
【0078】
表2に示す測定結果から、綿由来のCNFを含有する複合材料は、線膨張係数が低い値を示しており、優れた寸法安定性を有していることが認められた。特に、アミド系分散剤を含有する複合材料は、顕著に線膨張係数が低い値を示し、精密部品へ適用され得る可能性を示した。
【0079】
また、綿由来のCNFを含有する複合材料は、100℃における貯蔵弾性率が比較的高い値を示しており、優れた耐熱性を有することが認められた。特に、アミド系分散剤を含有する複合材料は、それを含有しない複合材料よりも貯蔵弾性率が高く、より優れた耐熱性を有するため、より高い温度領域でも利用可能であることが認められた。
【0080】
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7