(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】難溶性物質の超微粒子の分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 9/02 20060101AFI20230303BHJP
A61K 8/35 20060101ALI20230303BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20230303BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20230303BHJP
A61K 31/122 20060101ALI20230303BHJP
A61K 31/255 20060101ALI20230303BHJP
A61K 31/335 20060101ALI20230303BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20230303BHJP
A61K 31/375 20060101ALI20230303BHJP
A61K 47/08 20060101ALI20230303BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230303BHJP
B01F 23/41 20220101ALI20230303BHJP
B01J 13/00 20060101ALI20230303BHJP
【FI】
B01D9/02 602B
A61K8/35
A61K9/10
A61K9/14
A61K31/122
A61K31/255
A61K31/335
A61K31/337
A61K31/375
A61K47/08
A61K47/10
B01D9/02 601L
B01D9/02 603Z
B01D9/02 604
B01D9/02 609Z
B01D9/02 611A
B01D9/02 620
B01D9/02 625A
B01F23/41
B01J13/00 B
(21)【出願番号】P 2021552041
(86)(22)【出願日】2019-10-16
(86)【国際出願番号】 JP2019040709
(87)【国際公開番号】W WO2021075003
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-01-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507342478
【氏名又は名称】株式会社 ナノ・キューブ・ジャパン
(73)【特許権者】
【識別番号】599048638
【氏名又は名称】CBC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100188651
【氏名又は名称】遠藤 広介
(72)【発明者】
【氏名】中崎 義晃
(72)【発明者】
【氏名】音山 貴史
(72)【発明者】
【氏名】宮入 真也
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-112679(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0231082(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0197085(US,A1)
【文献】特表2002-518318(JP,A)
【文献】特開2012-236192(JP,A)
【文献】特開2007-007524(JP,A)
【文献】特開2013-039547(JP,A)
【文献】国際公開第2005/019363(WO,A1)
【文献】特開平08-229303(JP,A)
【文献】特開2019-177374(JP,A)
【文献】特開2008-285455(JP,A)
【文献】特開2009-113010(JP,A)
【文献】特開2010-036116(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103462906(CN,A)
【文献】欧州特許出願公開第02417970(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 9/02
B01J 13/00
B01F 23/40
A61K 8/00- 8/99
A61K 9/10- 9/72
A61K 31/10
A61K 31/337
A61K 47/00-47/69
A61Q 1/00-90/00
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤を含む分散媒中に、媒質として、前記分散媒に難溶性の物質がナノオーダーの粒子径で分散した分散液を製造する方法であって、
良溶媒に前記難溶性物質および界面活性剤を溶解させた溶液を準備し、
前記溶液を、100~4000℃/秒の降温速度にて、前記難溶性物質が溶液中で析出する温度まで急冷して、前記良溶媒中に粒子径がナノオーダーレベルの難溶性物質の超微粒子を生成させ、
(i)前記溶液に分散媒を混合した後に前記溶液と分散媒との混合液から前記良溶媒を分離するか、または、(ii)前記溶液から前記良溶媒を分離した後に分散媒を混合することを含み、
前記分散媒が水または1-ブタノールであり、
前記分散媒が水の場合、前記難溶性物質は水に難溶性の物質であり、前記分散媒が1-ブタノールの場合、前記難溶性物質はアスコルビン酸である、方法。
【請求項2】
前記溶液温度の降温を、マイクロ熱交換器を用いて行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(i)における良溶媒の分離が、前記溶液と分散媒との混合液から前記良溶媒を留去させることにより行われる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記(ii)における良溶媒の分離が、前記良溶媒を乾燥させることにより行われる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記水に難溶性の物質が、コエンザイムQ10、ドセタキセル、パクリタキセル、ブスルファンおよびアザジラクチンからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記難溶性物質が水に難溶性の物質である場合には、前記良溶媒が、アセトン、エタノール、2-プロパノールおよびプロピレングリコールからなる群から選択される少なくとも一種の溶媒であり、前記難溶性物質がアスコルビン酸である場合には、前記良溶媒が水である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記超微粒子の平均粒子径が0.5nm以上300nm以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項で得られる分散液から、難溶性物質超微粒子含有粉末を製造する方法であって、前記分散液に所望により賦形剤を加えた後、分散媒を除去して難溶性物質超微粒子含有粉末を得る、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難溶性の物質の分散液の製造方法に関し、さらに詳細には、界面活性剤を含む分散媒中に、媒質として、前記分散媒に難溶性の物質がナノオーダーの粒子径で分散した分散液を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水等の分散媒への溶解度が低い難溶性物質を含有する医薬製剤において、溶解性等の観点から一定のレベル以上の毒性を示す有機溶媒を用いることが知られている。しかしながら、QOL(Quality Of Life)の観点から、それら毒性を示す有機溶媒は用いないことが好ましい。非特許文献1においても、前記溶媒の医薬品中への残留量は厳しく規制されており、理想的には、できるだけ低毒性の溶媒を用いるべきであることも記載されている。
【0003】
一方、水等の分散媒への溶解度が低い難溶性物質を該分散媒に分散させるために、分散する物質の粒子を微粒子化する方法が知られている。上記微粒子化方法としては、ビーズミル、ジェットミル等の粉砕機やホモジナイザー等を用いてせん断や衝突、摩擦等の物理的な力を付与することにより粉砕する方法が挙げられる。しかしながら、物理的な力を付与して強制的に粒子の粒子径を小さくすると、衝撃や熱等により難溶性物質が変性または分解することがある。したがって、物理的な力をかけずに微粒子化する方法が望まれている。
【0004】
このような技術状況下、分散媒として毒性の高い有機溶媒を使用しなくとも難溶性物質を変性または分解させることなく、分散媒中に安定的に分散させる技術が求められているといえる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】医薬品の残留溶媒ガイドラインについて(平成10年3月30日 医薬審第307号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、分散媒として毒性の高い有機溶媒を使用しなくとも、分散媒に難溶解性の物質(以下、単に難溶性物質ともいう)を変性または分解させることなく、当該分散媒中に安定的に分散させることができる分散液を製造する方法の提供を目的とする。また、本発明の別の目的は、上記製造方法により得られた分散液、または前記難溶性物質を含むナノオーダーの粒子径を有する超微粒子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記したような課題に対して鋭意検討を行った結果、難溶性物質および界面活性剤を良溶媒に溶解した溶液を特定の降温速度にて急冷することにより、ナノオーダーレベルの粒子径を有する難溶性物質の超微粒子を生成できることを見出した。そして、ナノオーダーレベルの粒子径を有する難溶性物質の超微粒子が、水性分散媒中に安定的に分散することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明には、以下の発明が包含される。
(1) 界面活性剤を含む分散媒中に、媒質として、前記分散媒に難溶性の物質がナノオーダーの粒子径で分散した分散液を製造する方法であって、
良溶媒に前記難溶性物質および界面活性剤を溶解させた溶液を準備し、
前記溶液を、100~4000℃/秒の降温速度にて、前記難溶性物質が溶液中で析出する温度まで急冷して、前記良溶媒中に粒子径がナノオーダーレベルの難溶性物質の超微粒子を生成させ、
(i)前記溶液に分散媒を混合した後に前記溶液と分散媒との混合液から前記良溶媒を分離するか、または、(ii)前記溶液から前記良溶媒を分離した後に分散媒を混合することを含む、方法。
(2) 前記溶液温度の降温を、マイクロ熱交換器を用いて行う、(1)に記載の方法。
(3) 前記(i)における良溶媒の分離が、前記溶液と分散媒との混合液から前記良溶媒を留去させることにより行われる、(1)または(2)に記載の方法。
(4) 前記(ii)における良溶媒の分離が、前記良溶媒を乾燥させることにより行われる、(1)または(2)に記載の方法。
(5) 前記難溶性物質が、コエンザイムQ10、ドセタキセル、パクリタキセル、ブスルファン、アザジラクチンおよびアスコルビン酸からなる群から選択される少なくとも一種である、(1)~(4)のいずれか一つに記載の方法。
(6) 前記分散媒が、水、エタノール、プロピレングリコールおよび1-ブタノールからなる群から選択される少なくとも一種である、(1)~(5)のいずれか一つに記載の方法。
(7) 前記良溶媒が、アセトン、エタノール、2-プロパノール、プロピレングリコールおよび水からなる群から選択される少なくとも一種の溶媒である、(1)~(6)のいずれか一つに記載の方法。
(8) 前記超微粒子の平均粒子径が0.5nm以上300nm以下である、(1)~(7)のいずれか一つに記載の方法。
(9) (1)~(8)のいずれか一つで得られる分散液から、難溶性物質超微粒子含有粉末を製造する方法であって、前記分散液に所望により賦形剤を加えた後、分散媒を除去して難溶性物質超微粒子含有粉末を得る、方法。
(10) 粒子径がナノオーダーレベルの難溶性物質の超微粒子であって、
前記微粒子の平均粒子径が0.5nm以上300nm以下であり、粒子径の変動係数が5以下である、微粒子。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、界面活性剤を含んでなる良溶媒に難溶性物質を溶解させた溶液を急冷して難溶性物質の超微粒子を生成させ、(i)前記溶液に分散媒を混合した後に、前記溶液と分散媒との混合液から前記良溶媒を分離するか、または、(ii)前記溶液から良溶媒を分離した後に分散媒を混合することにより、難溶性物質をナノオーダーの粒子径で分散した分散液を製造でき、該分散液は安定的に分散するという特徴を有している。本発明の超微粒子は、水やエタノール等の毒性のない、または低毒性の分散媒に安定して分散できる点で有利である。また、本発明の分散液は、毒性の高い溶媒を用いずに製造できる点で有利である。したがって、毒性の高い溶媒により生じる副作用等の発生を低減できる上で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明による製造方法のフロー図を示したものである。
【
図2】実施例1において得られたコエンザイムQ10の超微粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)画像(12万倍)である。
【
図3】実施例1において得られたコエンザイムQ10の超微粒子の粒子径分布を示す。
【
図4A】実施例2において得られたブスルファンの超微粒子の分散液、または参考例2-1、参考例2-2において得られたブスルファンの粒子の分散液の2時間静置後の写真を示す。
【
図4B】実施例2において得られたブスルファンの超微粒子の分散液、または参考例2-1、参考例2-2において得られたブスルファンの粒子の分散液の2時間静置後のレーザー照射の写真を示す。
【
図5A】実施例3において得られたドセタキセルの超微粒子の分散液、または、参考例3-1、参考例3-2において得られたドセタキセルの粒子の分散液の2時間静置後の写真を示す。
【
図5B】実施例3において得られたドセタキセルの超微粒子の分散液、または、参考例3-1、参考例3-2において得られたドセタキセルの粒子の分散液の2時間静置後のレーザー照射の写真を示す。
【発明の具体的説明】
【0011】
本発明の難溶性物質の分散液の製造方法は、前記難溶性物質および界面活性剤を良溶媒に溶解した溶液の温度を急冷し、前記良溶媒中に難溶性物質の超微粒子を生成させ、(i)前記溶液に前記分散媒を混合した後に、前記溶液と分散媒との混合液から前記良溶媒を分離するか、または、(ii)前記溶液から良溶媒を分離した後に分散媒を混合することを含むことを一つの特徴としている。
【0012】
<分散媒に難溶性の物質>
本発明における分散媒に難溶性の物質とは、分散媒に不溶性であるかまたはほとんど溶けないかのいずれかの物質をいい、第十七改正日本薬局方に記載の「溶けにくい」、「極めて溶けにくい」および「ほとんど溶けない」に該当する物質を包含する。本発明における難溶性物質は、例えば分散媒への溶解度が、通常の医薬化合物の取扱い温度、例えば、20±5℃において、約10mg/mL以下であり、好ましくは5mg/mL以下であり、より好ましくは0.5mg/mL以下であり、さらに好ましくは0.3mg/mL以下であり、さらに好ましくは0.1mg/mL以下であり、さらに好ましくは0.01mg/mL以下である。
【0013】
本発明における難溶性物質は、特に限定されるものではなく、農薬、医薬品(動物薬も含む)、医薬部外品、化粧品、食品、食品添加物またはサプリメントにおいて使用され、または将来使用されるものが含まれる。かかる難溶性物質としては、特に限定されないが、コエンザイムQ10等のベンゾキノン系化合物およびその誘導体;ドセタキセル、パクリタキセル等のタキサン系化合物およびその誘導体;アザジラクチン等のリモノイド;ルチン等のフラボノイド;ブスルファン等のアルキルスルホネート系化合物およびその誘導体;アスコルビン酸等の水溶性ビタミン;クルクミン等のポリフェノール系化合物およびその誘導体;パルミチン酸アスコルビル、トコフェロール等の脂溶性ビタミン;セラミドNP、セラミドNG等のスフィンゴ脂質;オリザノール、ベタメタゾン、ジプロピオン酸デキサメタゾン等のステロイド系化合物およびその誘導体;クロトリマゾール等のアゾール系化合物およびその誘導体;グリセオフルビン、プランルカスト等のベンゾピラン系化合物およびその誘導体;クラリスロマイシン等のマクロライド系化合物およびその誘導体;(S)-(+)-ナプロキセン等のナフタレン系化合物およびその誘導体;オキサプロジン等のオキサゾール系化合物およびその誘導体;インドメタシン等のインドール系化合物およびその誘導体;没食子酸プロピル等の油溶性芳香族カルボン酸系化合物およびその誘導体;銅フタロシアニン等のフタロシアニン系化合物およびその誘導体;没食子酸等の水溶性芳香族カルボン酸系化合物およびその誘導体;セレコキシブ等のピラゾール系化合物およびその誘導体;イブプロフェン等のカルボン酸系化合物およびその誘導体;アセトアミノフェノン等のアニリン系化合物およびその誘導体;フェルビナク等のビフェニル系化合物およびその誘導体;フェノフィブラート等のベンゾフェノン系化合物およびその誘導体;プロポフォール等のフェノール系化合物およびその誘導体が挙げられ、好ましくは、コエンザイムQ10等のベンゾキノン系化合物およびその誘導体;ドセタキセル、パクリタキセル等のタキサン系化合物およびその誘導体;アザジラクチン等のリモノイド;ブスルファン等のアルキルスルホネート系化合物およびその誘導体;アスコルビン酸等の水溶性ビタミンが挙げられる。
【0014】
<分散媒>
本発明の分散媒としては、特に限定されず、難溶性物質が不溶性であるかまたはほとんど溶けないかのいずれかの溶媒が挙げられ、難溶性物質に対し、第十七改正日本薬局方に記載の「溶けにくい」、「極めて溶けにくい」および「ほとんど溶けない」に該当する溶媒を包含する。本発明における分散媒としては、例えば、20±5℃における、難溶性物質の溶解度(難溶性物質/分散媒)が10mg/mL以下である溶媒が挙げられる。副作用等の低減の観点から、かかる分散媒は、「医薬品の残留溶媒ガイドラインについて(平成10年3月30日 医薬審第307号)」における水、低毒性な分散媒、適当な毒性データが見当たらない溶媒、またはそれらの組み合わせが挙げられる。本発明の分散媒としては、難溶性物質の種類にもよるが、好ましくは、水、エタノール、プロピレングリコール、1-ブタノール、動植物油脂、テトラヒドロフラン、スクワラン、またはそれらの組み合わせ等が挙げられ、より好ましくは、水、エタノール、プロピレングリコール、1-ブタノール、またはそれらの組み合わせ等、さらに好ましくは、水、プロピレングリコール、1-ブタノールまたはそれらの組み合わせ等である。
【0015】
分散媒は、難溶性物質の種類に基づき適宜選択することができる。例えば、難溶性物質が、クルクミン等のポリフェノール系化合物またはその誘導体;パルミチン酸アスコルビル、トコフェロール等の脂溶性ビタミン;セラミドNP、セラミドNG等のスフィンゴ脂質;オリザノール、ベタメタゾン、ジプロピオン酸デキサメタゾン等のステロイド系化合物またはその誘導体;没食子酸プロピル等の油溶性芳香族カルボン酸エステル系化合物またはその誘導体;銅フタロシアニン等のフタロシアニン系化合物またはその誘導体;セレコキシブ等のピラゾール系化合物またはその誘導体;コエンザイムQ10等のベンゾキノン系化合物またはその誘導体;ドセタキセル、パクリタキセル等のタキサン系化合物またはその誘導体;アザジラクチン等のリモノイド;ブスルファン等のアルキルスルホネート系化合物またはその誘導体である場合には、分散媒は水、プロピレングリコール、グリセリン等が挙げられ、好ましくは水である。例えば、難溶性物質が、グリセオフルビン、プランルカスト等のベンゾピラン系化合物またはその誘導体;クラリスロマイシン等のマクロライド系化合物またはその誘導体;クロトリマゾール等のアゾール系化合物またはその誘導体;(S)-(+)-ナプロキセン等のナフタレン系化合物またはその誘導体;オキサプロジン等のオキサゾール系化合物またはその誘導体;インドメタシン等のインドール系化合物またはその誘導体;イブプロフェン等のカルボン酸系化合物またはその誘導体;アセトアミノフェノン等のアニリン系化合物またはその誘導体;フェルビナク等のビフェニル系化合物またはその誘導体;フェノフィブラート等のベンゾフェノン系化合物またはその誘導体;プロポフォール等のフェノール系化合物またはその誘導体である場合には、分散媒は水が好ましい。例えば、難溶性物質がアスコルビン酸等の水溶性ビタミンである場合には、分散媒はプロピレングリコール、1-ブタノール、動植物油脂等が挙げられ、好ましくは、プロピレングリコール、1-ブタノール、動植物油脂である。例えば、難溶性物質が没食子酸等の水溶性芳香族カルボン酸系化合物またはその誘導体である場合には、分散媒は動植物油脂、スクワラン等が挙げられ、好ましくは、動植物油脂である。
【0016】
<良溶媒>
本発明の良溶媒としては、特に限定されないが、難溶性物質の溶解度が上記分散媒より大きい溶媒であることが必要である。本発明における良溶媒としては、難溶性物質の種類にもよるが、例えば、20±5℃において、難溶性物質の溶解度(難溶性物質/良溶媒)が10mg/mLより大きい溶媒が挙げられ、好ましくは難溶性物質の溶解度が20mg/mL以上の溶媒、より好ましくは難溶性物質の溶解度が30mg/mL以上の溶媒である。また、本発明の良溶媒は、55±5℃において、難溶性物質の溶解度が10mg/mLより大きい溶媒であってもよく、好ましくは難溶性物質の溶解度が20mg/mL以上の溶媒、より好ましくは難溶性物質の溶解度が30mg/mL以上の溶媒である。かかる良溶媒としては、具体的には、水、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、アルコールエーテル系溶媒、アルコールエステル系溶媒、エステル系溶媒、ラクトン系溶媒、無極性溶媒、芳香族系溶媒、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒、および油脂が挙げられる。上記アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、2-プロパノール、プロパンジオール、2-メチル-1,3プロパンジオール、イソペンチルジオール、タルピネオール、イソペンチルジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、イソプレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等が挙げられる。上記ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。上記エーテル系溶媒としては、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、1,4-ジオキサン、クラウンエーテル、テトラヒドロフラン等が挙げられる。上記アルコールエーテル系溶媒としては、メトキシエタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。上記アルコールエステル系溶媒としては、エチレングリコールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。上記エステル系溶媒としては、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。上記ラクトン系溶媒としては、ブチルラクトン等が挙げられる。上記無極性溶媒としては、ヘキサン、シクロヘキサン、スクワラン、流動パラフィン等が挙げられる。上記芳香族系溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトフェノン等が挙げられる。上記油脂としては、例えば、天然油脂が挙げられ、具体的には、サラダ油、椿油、パーム油、菜種油、オリーブ油、紅花油、アマニ油等の動植物油等が挙げられる。これらは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。良溶媒は、難溶性物質の種類によるが、好ましくはケトン系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、水、またはそれらの組み合わせであり、より好ましくはアセトン、エタノール、2-プロパノール、プロピレングリコール、テトラヒドロフラン、水、またはそれらの組み合わせである。良溶媒は、分散媒と混合した場合、留去により除去できるように、良溶媒の沸点が分散媒の沸点より低いことが好ましい。なお、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、メタノール、エチレングリコール、1,4-ジオキサン、メトキシエタノール、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレンは、医薬品の残留溶媒ガイドラインについて(非特許文献1)によると、一定のレベル以上の毒性を示す溶媒(クラス2)に相当する溶媒であることから、現段階においてその残留量に注意が必要である。
【0017】
良溶媒は、難溶性物質の種類に基づき適宜選択することができる。例えば、難溶性物質が、クルクミン等のポリフェノール系化合物またはその誘導体;パルミチン酸アスコルビル、トコフェロール等の脂溶性ビタミン;セラミドNP、セラミドNG等のスフィンゴ脂質;オリザノール、ベタメタゾン、ジプロピオン酸デキサメタゾン等のステロイド系化合物またはその誘導体;没食子酸プロピル等の油溶性芳香族カルボン酸エステル系化合物またはその誘導体;銅フタロシアニン等のフタロシアニン系化合物またはその誘導体;セレコキシブ等のピラゾール系化合物またはその誘導体;コエンザイムQ10等のベンゾキノン系化合物またはその誘導体;ドセタキセル、パクリタキセル等のタキサン系化合物またはその誘導体;アザジラクチン等のリモノイド;ブスルファン等のアルキルスルホネート系化合物またはその誘導体である場合には、良溶媒は、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒等が挙げられ、好ましくは、エタノール、2-プロパノール、プロピレングリコール、アセトン、テトラヒドロフランである。例えば、難溶性物質がアスコルビン酸等の水溶性ビタミンである場合には、好ましい良溶媒は水等が挙げられる。例えば、難溶性物質が没食子酸等の水溶性芳香族カルボン酸系化合物またはその誘導体である場合には、良溶媒は、アルコール系溶媒、水等が挙げられ、好ましくは、エタノール、水である。
【0018】
また、本発明の別の態様によれば、難溶性物質が、クルクミン等のポリフェノール系化合物またはその誘導体;パルミチン酸アスコルビル、トコフェロール等の脂溶性ビタミン;セラミドNP、セラミドNG等のスフィンゴ脂質;ドセタキセル、パクリタキセル等のタキサン系化合物またはその誘導体;アザジラクチン等のリモノイドである場合には、良溶媒はアルコール系溶媒、エーテル系溶媒等が挙げられ、好ましくはエタノール、テトラヒドロフランである。また、難溶性物質が、アザジラクチン等のリモノイドである場合には、良溶媒はアルコール系溶媒が好ましく、エタノール、2-プロパノール、プロピレングリコールがより好ましく、エタノールがさらに好ましい。難溶性物質が、銅フタロシアニン等のフタロシアニン系化合物またはその誘導体;セレコキシブ等のピラゾール系化合物またはその誘導体;コエンザイムQ10等のベンゾキノン系化合物またはその誘導体;ブスルファン等のアルキルスルホネート系化合物またはその誘導体である場合には、良溶媒はケトン系溶媒等が挙げられ、好ましくはアセトンである。
【0019】
また、本発明のさらなる別の態様によれば、難溶性物質が、オリザノール、ベタメタゾン、ジプロピオン酸デキサメタゾン等のステロイド系化合物またはその誘導体である場合には、良溶媒は、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒等が挙げられ、好ましくは、エタノール、アセトンである。難溶性物質がオリザノールである場合には、より好ましい良溶媒はエタノールである。難溶性物質が、ベタメタゾン、ジプロピオン酸デキサメタゾンである場合には、より好ましい良溶媒はアセトンである。難溶性物質が、グリセオフルビン、プランルカスト等のベンゾピラン系化合物またはその誘導体である場合には、良溶媒は、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒等が挙げられ、好ましくは、アセトン、テトラヒドロフランである。難溶性物質がグリセオフルビンである場合には、より好ましい良溶媒はアセトンである。難溶性物質がプランルカストである場合には、より好ましい良溶媒はテトラヒドロフランである。難溶性物質が、クラリスロマイシン等のマクロライド系化合物またはその誘導体である場合には、良溶媒は、ケトン系溶媒等が挙げられ、好ましくは、アセトンである。難溶性物質が、クロトリマゾール等のアゾール系化合物またはその誘導体;(S)-(+)-ナプロキセン等のナフタレン系化合物またはその誘導体;オキサプロジン等のオキサゾール系化合物またはその誘導体;インドメタシン等のインドール系化合物またはその誘導体;没食子酸プロピル等の油溶性芳香族カルボン酸系化合物またはその誘導体;銅フタロシアニン等のフタロシアニン系化合物またはその誘導体;セレコキシブ等のピラゾール系化合物またはその誘導体;イブプロフェン等のカルボン酸系化合物またはその誘導体;アセトアミノフェノン等のアニリン系化合物またはその誘導体;フェルビナク等のビフェニル系化合物またはその誘導体;フェノフィブラート等のベンゾフェノン系化合物またはその誘導体;プロポフォール等のフェノール系化合物またはその誘導体である場合には、良溶媒は、アルコール系溶媒等が挙げられ、好ましくは、エタノールである。
【0020】
本発明の難溶性物質の含有量は、特に限定されないが、良溶媒と難溶性物質および界面活性剤を含む溶液全体に対し、例えば、0.001~70質量%、好ましくは0.01~60質量%、さらに好ましくは0.1~50質量%とすることができる。
【0021】
本発明の分散液における難溶性物質の含有量は、特に限定されないが、分散液全量に対し、例えば、0.001~50質量%、好ましくは0.001~30質量%、より好ましくは0.01~20質量%、さらに好ましくは0.1~10質量%とすることができる。
【0022】
<界面活性剤>
界面活性剤としては、農薬、医薬品、医薬部外品または食品において使用され、または将来使用されるものが含まれる。かかる界面活性剤としては、特に限定されるものではなく、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤のいずれでも使用できる。また、これら界面活性剤は低分子型、高分子型のいずれであってもよい。
アニオン系界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル、アルキルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル、ポリオキシアルキレンエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアリールエーテル硫酸エステル、アマイドエーテル硫酸エステル等の硫酸エステルおよびその塩;アルキルリン酸エステル、アリールリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアリールエーテルリン酸エステル等のリン酸エステルおよびその塩;アルキルリン酸、アリールリン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンアリールエーテルリン酸等のリン酸およびその塩;アルキルベンゼンスルホン酸、オレフィンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸エステル等のスルホン酸およびその塩;アルキルカルボン酸、アリールカルボン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸、ポリオキシエチレンアリールエーテルカルボン酸等のカルボン酸およびその塩;ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸塩等のスルホカルボン酸およびその塩;アナニネートおよびその塩;脂肪酸メチルアラニンおよびその塩;サルコシン誘導体、タウリン誘導体等が挙げられる。ジアルキルスルホコハク酸エステル塩としては、例えば、ジアルキルスルホコハク酸エステルナトリウムが挙げられ、具体的に、ネオコール YSK(第一工業製薬株式会社製)等が挙げられる。
カチオン系界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルポリエチレングリコールトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルアミドアミン;アルキルアミン、芳香族アミン等のアミンおよびその塩;第四級アンモニウム塩等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、アルキルベンタイン型、動植物油脂肪酸アルキルベンタイン型、アルキルアミドベタイン型、動植物油脂肪酸アルキルアミドベンタイン型、アルキルアミンオキサイド型、アミノ酸系両性界面活性剤型、アミンオキサイド型、脂肪酸アミドアルキジメチルアミンオキシド型、ヒドロキシアルキルヒドロキシアルキルサルコシン型、およびイミダゾリニウムベタイン型の界面活性剤が挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、グリコールヒドロキシプロピルエーテル型、アルキルロールアマイド型、ポリオキシエチレンアルキルエーテル型、ポリオキシエチレンアリールエーテル型、ポリオキシアルキレン誘導体、ポリオキシエチレンアルキルエステル型、ポリオキシエチレンアリールエステル型、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油型、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油エーテル型、ポリオキシエチレン脂肪酸エタノールアミド型、ポリオキシエチレン動植物油脂肪酸エタノールアミド型、ポリオキシプロピレン脂肪酸イソプロパノールアミド型、ポリオキシプロピレン動植物油脂肪酸イソプロパノールアミド型、脂肪酸エタノールアミド型、動植物油脂肪酸エタノールアミド型、モディファイド動植物油脂肪酸エタノールアミド型、脂肪酸イソプロパノールアミド型、動植物脂肪酸イソプロパノールアミド型、ポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール型、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル型、ポリオキシエチレン脂肪酸エーテル型、ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル型、グリセリン脂肪酸エステル型、ポリオキシエチレングリセリンエステル型、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル型、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル型、ソルビタン脂肪酸エステル型、ショ糖脂肪酸エステル型、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル型、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル型、低臭化ポリエーテル型、ポリオキシエチレンアルキルアミン型、ポリオキシエチレン動植物油アルキルアミン型、ポリオキシエチレンカプリリルアミン型、ポリオキシエチレン動植物油カプリリルアミン型、ポリオキシエチレンアリールアミン型、アルキルアルカノールアミド型、およびアルキルポリグルコシド型の界面活性剤等が挙げられる。ポリオキシエチレン脂肪酸エステル型界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンジステアレートが挙げられ、具体的には、エマノーン3299RV(花王株式会社製)等が挙げられる。また、ポリオキシエチレン脂肪酸エーテル型界面活性剤としては、具体的には、エマルゲン 123P(花王株式会社製 )等が挙げられる。ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル型界面活性剤としては、具体的には、PBC-34(日本サーファクタント工業株式会社製)等が挙げられる。ショ糖脂肪酸エステル型界面活性剤としては、具体的には、コスメライク L-160A(第一工業製薬株式会社製)等が挙げられる。
高分子型界面活性剤としては、ポリカルボン酸およびその塩;ポリアクリル酸およびその塩;アクリル酸-マレイン酸共重合体、ポリメタクリル酸およびその塩;ポリアミド、ポリエステル、ポリ乳酸、ポリアリルアミンおよびその塩;ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物およびその塩;酢酸ビニル、ポリビニルピドリドン、酢酸ビニル・ビニルポロリドン共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコールコポリマー;ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物;ポリアルキレンポリイミンアルキレンオキシド付加物、ポリビニルカプロラクタム・ポリビニルアセテート・ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、ポリオキシエチレン・ポオキシプロピレングリコール、ポリエチレンイミン、スチレン-マレイン酸コポリマーおよびその塩、ポリジアリルジメチルアンモニウムおよびその塩;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール縮合物;ショ糖アルキルエステル、ショ糖アリールエステル、アルギン酸、寒天、アラビアゴム、キタンサンガム、トラガントガム、デンプン、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシセルロース、カルボキシアルキルセルロース、カチオン化セルロース等の糖誘導体およびその塩;ゼラチン、コラーゲン等のタンパク質等が挙げられる。
上記界面活性剤は、単独で用いても良いが、必要により2種以上で用いてもよい。
好ましい界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤が挙げられ、より好ましくは、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル型界面活性剤、ポリオキシエチレン脂肪酸エーテル型界面活性剤、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル型界面活性剤、ショ糖脂肪酸エステル型界面活性剤である。
【0023】
界面活性剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、良溶媒と難溶性物質および界面活性剤を含む溶液全体に対し、0.1~80質量%、好ましくは1~70質量%、より好ましくは2~60質量%とすることができる。
【0024】
本発明において、界面活性剤を使用することは、超微粒子が、水やエタノール等の毒性のない、または低毒性の分散媒に安定して分散できる点で有利である。理論に拘束されるものではないが、界面活性剤は、製造工程中の急冷した良溶媒中において、析出した超微粒子を安定的に分散させることに寄与していると考えられる。
【0025】
本発明の、難溶性物質と界面活性剤との質量比(難溶性物質:界面活性剤)は、例えば、1:0.1~500程度の範囲であり、好ましくは、1:0.1~300程度、より好ましくは、1:1~300程度の範囲である。
【0026】
<製造方法>
本発明の難溶性物質分散液の製造方法は、良溶媒に前記難溶性物質および界面活性剤を溶解した溶液を準備し、前記溶液を、100~4000℃/秒の降温速度にて、前記難溶性物質が溶液中で析出する温度まで急冷して、前記良溶媒中に粒子径がナノオーダーレベルの難溶性物質の超微粒子を生成させ、その後、前記溶液に分散媒を混合した後に前記溶液と分散媒との混合液から前記良溶媒を分離するか、または前記溶液から良溶媒を分離した後に分散媒を混合することを含む。上記溶液を急冷する手段は、特に限定されない。急冷する手段の一例として、マイクロ熱交換器を用いた実施形態を以下、図面を参照にしながら説明する。
【0027】
図1は、本発明による製造方法のフロー図を示したものである。先ず、原料液として、良溶媒に難溶性物質および界面活性剤を溶解した溶液1を準備する(以下、原料液1ともいう)。原料液1は、良溶媒に難溶性物質および界面活性剤を溶解させることにより調製することができる。原料液を入れる容器は還流器が付いていることが好ましい。
【0028】
上記した原料液1の入った容器から加温器3へと原料液1を供給する。供給した原料液の流量、すなわち、流路を流通する原料液の流量は、0.1μL/分~5L/分、好ましくは0.5mL/分~2L/分、より好ましくは10mL/分~500mL/分である。
原料液1の加温器3への供給には、送液ポンプ2を使用することができる。送液ポンプとしては、シリンジ型のものも使用できるが、送液の脈動を抑え、正確な容量の連続移送ができるプランジャーポンプを好適に使用することができる。加温器3の温度は、例えば、20~300℃、好ましくは30~180℃に調整される。したがって、上記加温器3において、原料液1の温度が20~300℃、好ましくは30~180℃に調整される。加温器3としては、マイクロ交換器に移動するまでの間に難溶性物質が析出しないように予備的に加熱するための装置を使用することができる。
また、原料液1、送液ポンプ2、加温器3、マイクロ熱交換器4、チェックバルブ7、容器8のそれぞれを接続する流路の等価直径は0.1~5mmが好ましい。
【0029】
加温器3を通過し、加熱された原料液は、そのまま、外気に触れることなくマイクロ熱交換器4に供給される。マイクロ熱交換器4とは、微小な空間中で熱交換を行うことを目的とする微小流路を有する熱交換器である。本発明に使用されるマイクロ熱交換器の流路の等価直径は5mm以下であり、好ましくは0.5~3mm、より好ましくは、0.5~2mmである。この範囲の流路径であれば、流路断面の形状は特に限定されず、キャピラリー状、チューブ状、基板状に流路を形成したものなどが挙げられる。また、流路の長さは、冷却対象物、冷却条件、流量等に応じて適宜変更できるが、5cm~30m程度、より好ましくは、5cm~100cmである。
【0030】
マイクロ熱交換器としては、例えば複数のマイクロ熱交換器を直列に繋げた連続マイクロ熱交換器や並列に配置したマイクロ熱交換器を使用してもよい。マイクロ熱交換器の数を増やすことにより、単位時間あたりに得られる超微粒子の量を増加させることができる。マイクロ熱交換器の形状等については特に制限はなく、公知のものを使用でき、T字型やY字型マイクロ熱交換器等いかなる形状のものを用いてもよい。
【0031】
また、マイクロ熱交換器の材質は、特に制限されるものではなく、例えば従来使用されている、ガラス、石英、セラミック、シリコン等の無機材料、ポリオレフィン樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリジメチルシロキサン等のシリコン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂やエポキシ樹脂、フェノール樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂等の有機材料が挙げられる。これらのなかでも、耐薬品性や耐熱性等の観点から、ガラス、石英が好ましい。マイクロ熱交換器の材質として無機材料を用いた場合、ミクロンオーダーの流路を形成するには、半導体加工技術の分野で周知の光リソグラフィー技術により形成したり、パルスレーザー加工により形成することができる。また、有機材料を用いた場合、紫外線を照射して硬化させる光パターニング技術により、ミクロンオーダーの流路を形成することもできる。
【0032】
マイクロ熱交換器4では、加熱した原料液を急冷、好ましくは高速急冷、より好ましくは超高速急冷することにより難溶性物質の超微粒子を析出することができる。急冷による析出は難溶性物質の良溶媒への溶解度の温度による差を利用するものであり、好ましくはマイクロ晶析とも称される。急冷操作における温度差Δtは、(加温器3での出口温度)-(マイクロ熱交換器4の出口温度)として求めることができる。温度差Δtとしては、5~400℃が挙げられ、好ましくは、5~250℃、より好ましくは20~200℃である。
また、降温速度は、Δt/(冷却時間)として算出することができ、急冷により超微粒子化を行う観点から、100~4000℃/秒とする必要がある。好ましい降温速度は、200~3000℃/秒、より好ましくは300~2000℃/秒である。
難溶性物質が溶液中で析出する温度は、難溶性物質の種類、難溶性物質の溶液中での濃度、および良溶媒の種類等に基づき設定でき、溶液において難溶性物質が析出し始める温度以下が好ましく、析出し始める温度より10℃以上低いことがより好ましい。例えば、難溶性物質としてコエンザイムQ10、良溶媒としてアセトンを用いた場合、析出し始める温度より20℃以上低いことが好ましい。ここで、粒子の析出の開始は、恒温油槽に入れた難溶性物質の溶液の温度を徐々に下げていくと粒子が析出し濁りが生じるので、目視により観察することができる。
【0033】
マイクロ熱交換器内の流路の温度は、溶液において難溶性物質が析出し始める温度以下とする必要があり、析出し始める温度より10℃以上低いことが好ましい。このような温度条件とするため、マイクロ熱交換器4は、冷却剤等により冷却され、マイクロ熱交換器4は上記冷却剤を含む容器5内に配置してもよい。上記冷却剤としては、液体窒素、液体ヘリウム、ドライアイス、氷等、または液体窒素、液体ヘリウム、ドライアイス、氷等を用いて冷却されたエチレングリコール等の溶媒が挙げられる。流路を流通する溶液の流量は、例えば0.1μL/分~5L/分、好ましくは0.5mL/分~2L/分、より好ましくは10mL/分~500mL/分である。このような流量で、上記のような流路長のマイクロ熱交換器を原料液が通過することにより、超微粒子の析出を行うことが可能となる。また、マイクロ熱交換器を用いた場合には流れの乱れを大きくすることができ(乱流を生み出すことができ)、さらに、マイクロ熱交換器は上記のように流路径が小さく、流量(すなわち体積)に対する流路の表面積が極めて大きいため、マイクロ熱交換器内で所定温度に保持された流路を通過する原料液の温度を厳密に制御することができる。
【0034】
マイクロ熱交換器内の流路の圧力は、良溶媒への難溶性物質の溶解性向上または沸騰防止の観点から、3.0MPa以下が好ましく、0.5~2.0MPaがより好ましい。このような圧力とするため、チェックバルブ7で調節されてもよい。
【0035】
マイクロ熱交換器内において超微粒子の析出が行われた液は、出口から取り出されて容器8内で保持される。
【0036】
容器8内で保持された液から、分散媒に難溶性物質がナノオーダーの粒子径で分散した分散液を製造する方法として、以下(i)、(ii)の方法が挙げられる。
(i)容器8内で保持された液に分散媒を混合した後に、上記溶液と分散媒との混合液から留去、好ましくは減圧濃縮により良溶媒を分離し、上記分散媒に難溶性物質がナノオーダーの粒子径で分散した分散液が得られる。ここで、容器8内で保持された液と分散媒との質量比(容器8内で保持された液:分散媒)は、1:0.1~10が好ましい。
【0037】
上記で得られた分散液に所望により賦形剤を加えた後、分散媒を除去することにより、難溶性物質超微粒子含有粉末が得られる。分散媒の除去としては、乾燥が挙げられ、凍結乾燥、噴霧乾燥、真空乾燥、熱風乾燥が好ましく、凍結乾燥または真空乾燥がより好ましい。配合する賦形剤の分散液に対する質量比(分散液:賦形剤)は、特に限定されないが、例えば、1:1~100程度の範囲であり、好ましくは1:5~20である。また、配合する賦形剤の、難溶性物質の超微粒子に対する質量比(難溶性物質の超微粒子:賦形剤)は、特に限定されないが、例えば、1:1~500程度の範囲であり、好ましくは、1:10~400程度、より好ましくは、1:50~300程度である。ここで、上記難溶性物質超微粒子含有粉末には、飛散防止の観点から、結合剤を含有させることが好ましい。したがって、上記難溶性物質超微粒子含有粉末の調製において、上記分散液中に結合剤をさらに配合させておくことが好ましい。
【0038】
(ii)容器8内で保持された液から良溶媒を分離した後に分散媒を混合し、上記分散媒に難溶性物質がナノオーダーの粒子径で分散した分散液が得られる。ここで、良溶媒の分離方法としては、凍結乾燥、噴霧乾燥、真空乾燥、熱風乾燥が挙げられ、好ましくは、凍結乾燥または真空乾燥である。また、容器8内で保持された液と分散媒との質量比(容器8内で保持された液:分散媒)は、1:0.1~10が好ましい。
【0039】
(i)と同様、上記で得られた分散液に所望により賦形剤を加えた後、分散媒を乾燥等で除去することにより、難溶性物質超微粒子含有粉末が得られる。また、(ii)では、容器8内で保持された液からの良溶媒の分離によっても難溶性物質超微粒子含有粉末が得られる。ここで、(i)と同様、飛散防止の観点から、分散液または良溶媒に結合剤を含有させることが好ましい。
【0040】
<超微粒子>
上記の本発明の方法により得られる難溶性物質の超微粒子は微結晶(結晶状態)であることが好ましい。なお、超微粒子は、難溶性物質の微結晶粒子の表面に界面活性剤の分子が付着したような構造であると考えられる。
【0041】
本発明の分散液中の難溶性物質の超微粒子の平均粒子径は特に限定されるものではないが、例えば0.5~300nm、好ましくは0.8~200nm、より好ましくは1~100nm、さらに好ましくは1~10nm、さらに好ましくは1~5nmである。平均粒子径(個数基準)は、公知の透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察したTEM画像から任意に200個の超微粒子の面積を測定し、その粒子と同一の面積をもつ正円の直径として得られた粒子径の平均値をいうものとする。
ここで、分散液中の難溶性物質の超微粒子の平均粒子径は、当業者に理解できるように、分散液中の成分の種類、それらの配合比率等の条件に基づき、適宜設定できる。
【0042】
また、難溶性物質の超微粒子の粒子径の変動係数は、例えば5以下、好ましくは1以下、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.2以下、さらに好ましくは0.1以下、さらに好ましくは0.05以下、さらに好ましくは0.01以上0.05以下である。したがって、上述のように、非常に粒子径が揃っていることも本発明の特徴である。
なお、難溶性物質の超微粒子の粒子径の変動係数 CV は、標準偏差 s を平均粒子径で除算して得られる値であり、以下の式で示される。
【数1】
上記式において、s は標準偏差、s
2 は分散、n は粒子の総数、x
i は個々の粒子の粒子径、x
ave は平均粒子径を示す。
【0043】
上記のようにして得られるナノオーダーの粒子径を有する微粒子は、ブラウン運動により水等の分散媒(貧溶媒)中であっても安定的に分散状態を保持することができる。また、分散媒中に超微粒子を分散した分散液は、該微粒子の粒子径がナノオーダーにあることから、白濁しておらず透明である。
【0044】
分散媒を除去して得られた難溶性物質超微粒子含有粉末における難溶性物質の微粒子も分散液中の難溶性物質の超微粒子と同様の平均粒子径、形状を有する。また、難溶性物質の超微粒子の分散液にマンニトール等の賦形剤を加え乾燥させることにより、難溶性物質の超微粒子が賦形剤に吸着した難溶性物質超微粒子含有粉末を得ることができる。
【0045】
本発明の超微粒子における、難溶性物質と界面活性剤との質量比(難溶性物質:界面活性剤)は、例えば、1:0.1~500程度の範囲であり、好ましくは、1:0.1~300程度、より好ましくは、1:1~300程度である。
【0046】
<難溶性物質超微粒子含有粉末>
本発明の難溶性物質超微粒子含有粉末は難溶性物質の超微粒子とともに賦形剤を含んでいてもよい。
【0047】
本発明の難溶性物質超微粒子含有粉末における難溶性物質の超微粒子の含有量は、特に限定されないが、難溶性物質超微粒子含有粉末全量に対し、例えば、0.001~30質量%または95~100質量%であり、好ましくは0.01~20質量%または96~100質量%、さらに好ましくは0.1~10質量%または98~100質量%とすることができる。
【0048】
本発明の難溶性物質超微粒子含有粉末における賦形剤の含有量は、特に限定されないが、難溶性物質超微粒子含有粉末全量に対し、例えば、70~99.9質量%または0質量%であり、好ましくは70~99.8質量%または0質量%、さらに好ましくは80~99.7質量%または0質量%とすることができる。
【0049】
本発明の難溶性物質超微粒子含有粉末における、難溶性物質の超微粒子と賦形剤との質量比(難溶性物質の超微粒子:賦形剤)は、本発明の難溶性物質超微粒子含有粉末が賦形剤を含む場合、例えば、1:1~500程度の範囲であり、好ましくは、1:10~400程度、より好ましくは、1:50~300程度である。
【0050】
本発明で用いられる賦形剤としては、特に限定されるものではなく、経口上許容可能または薬学的に許容可能なものが含まれる。かかる賦形剤としては、マンニトール、フルクトース、ソルビトール、ラクトース、デキストリン、シクロデキストリン、セルロース、デンプン、白糖;炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、タルク、シリカ等の無機物が挙げられ、好ましくはマンニトール、ラクトースである。
【0051】
<組成物>
本発明の分散液および難溶性物質の超微粒子含有粉末はそのまま、または所望により経口上許容可能または薬学的に許容可能な添加剤等と共に調製して、組成物として用いることができる。かかる添加剤として、溶剤、溶解補助剤、溶解剤、滑沢剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、界面活性剤、調整剤、キレート剤、pH調整剤、緩衝剤、賦形剤、増粘剤、着色剤、芳香剤または香料等が挙げられる。
【0052】
本発明の組成物としては、特に限定されないが、動物薬を含む医薬品、医薬部外品、農薬、化粧品、食品、食品添加物またはサプリメントが好ましい。
【0053】
本発明の組成物に配合される難溶性物質の含有量は、特に限定されないが、例えば、組成物全量に対し、0.001~30質量%、好ましくは0.01~20質量%とすることができる。
【0054】
本発明の組成物は、上記分散液または難溶性物質の超微粒子含有粉末および所望により経口上許容可能または薬学的に許容可能な添加剤を混合、溶解、分散、懸濁するなどの公知の手法により、調製することができる。また、本発明の組成物の調製においては、本発明の効果を妨げない限り、上記手法により調製された混合物、溶解物、分散物、懸濁物などに、均質化処理や殺菌処理を施してもよい。
【0055】
また、本発明の組成物の形態は、本発明の効果を妨げない限り、特に制限されず、固形状、半固形状または液状であってもよいが、固形状または液状であることが好ましい。
【0056】
また、本発明の組成物の剤形は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、注射剤、錠剤(例えば、裸錠、糖衣錠、フィルムコーティング錠、腸溶錠、徐放錠、口腔内崩壊錠、舌下錠、チュアブル錠等)、カプセル剤(例えば、硬カプセル、軟カプセル)、エリキシル剤、丸剤、粉剤、散剤、顆粒剤、水剤、トローチ剤、シロップ剤、ドライシロップ剤、乳剤、懸濁剤、液剤、吸入剤、エアロゾル剤、粉末吸入剤、坐剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤、バップ剤、ローション剤、点滴剤、眼軟膏剤、点眼剤、点鼻剤等が挙げられる。本発明の組成物の剤形は、好ましくは、注射剤、点滴剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、粉剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、ドライシロップ剤、乳剤、液剤、懸濁剤、水剤、トローチ剤等が挙げられる。
【0057】
一つの態様によれば、本発明の組成物を適用する対象は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、好ましくは哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。本発明の別の態様によれば、本発明の組成物が農薬である場合には、本発明の組成物を適用する対象は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、植物、昆虫類、蜘蛛類、線虫類、細菌類、真菌類、ウイルス類、ネズミ等の哺乳類が挙げられる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの試験例に限定されるものではない。なお、本発明の測定方法および単位は、特段の記載がない限り、日本工業規格(JIS)の規定に従う。
【0059】
実施例1:コエンザイムQ10の超微粒子の分散液の調製
還流器付き容器に94.5gのアセトンを入れ、界面活性剤としてPBC-34(日本サーファクタント工業株式会社製)を5g加えて撹拌した。その後、コエンザイムQ10(ユビキノン-10、和光純薬工業株式会社製)を0.5g加え撹拌し、原料液とした。なお、コエンザイムQ10のアセトンへの25℃での溶解度は、30mg/mL以上であった。
【0060】
上述のように調製された原料液を、50℃に加温した後、送液ポンプで加温器へ流した。加温した原料液の加温器の出口での温度は130℃であった。
【0061】
次に、加温した原料液の急速冷却を、マイクロ熱交換器を用いて行った。流量、流路の等価直径、流路の長さ、冷却前後での温度差等から求めた降温速度は1400℃/秒であった。また、マイクロ熱交換器における流量は20mL/分であった。急速冷却により得られた液のマイクロ熱交換器の出口での温度は-10℃であった。マイクロ熱交換器の配管内の圧力は、2.0MPaを越えない様に調節した。マイクロ熱交換器から出た液は、淡黄色の透明液であった。
【0062】
得られた液100mLに水を100mL加え、減圧濃縮によりアセトンを留去し、コエンザイムQ10の超微粒子の水分散液を得た。得られた水分散液は淡黄色透明であった。なお、コエンザイムQ10の水への25℃での溶解度は、0.01mg/mL以下であった。溶解度の測定方法としては、具体的には、1mgのコエンザイムQ10に100mLの水を加え、25℃で1時間撹拌後1時間静置した。その結果、結晶が存在したことから上記溶解度と判断した。
【0063】
また、透過型電子顕微鏡(H-7650、株式会社日立ハイテクノロジーズ)を用いて水分散液中のコエンザイムQ10の超微粒子の平均粒子径を以下のようにして測定した。まず、超微粒子の水分散液を観察用グリッドに載せ、その後に乾燥させ、TEM観察用試料を得た。平均粒子径は、該試料のTEM画像から超微粒子200個の粒子径をMac-View(株式会社マウンテック)を用いて算出した。このとき、超微粒子の粒子径は、その粒子と同一の面積をもつ正円の直径として求められる。また、得られた粒子径に基づき粒子径分布(個数基準)を作成し、平均粒子径および標準偏差を算出した。その結果、平均粒子径は2.47nmであり、標準偏差は0.1088nmであった。
図2はTEM画像の一部を示す。得られた粒子径分布を
図3に示す。ここで、粒子径は均一であり、粒子の形状も均一であった。
【0064】
実施例1-1:コエンザイムQ10の超微粒子含有粉末の調製
実施例1で得られた水分散液から水を除去し、コエンザイムQ10の超微粒子含有粉末を得た。具体的には、水分散液をロータリーエバポレーターR-200(BUCHI社製)を使用して、10Torrまで減圧し40℃にて真空乾燥を行った。その結果、コエンザイムQ10の超微粒子含有粉末を得た。
【0065】
実施例2:ブスルファンの超微粒子の分散液の調製
還流器付き容器に94.5gのアセトンを入れ、界面活性剤としてコスメライク L-160A(第一工業製薬株式会社製)を5g加えて撹拌した。その後、ブスルファン(和光純薬工業株式会社製)を0.5g加え撹拌し、原料液とした。なお、ブスルファンのアセトンへの50℃での溶解度は、30mg/mL以上であった。
【0066】
上述のように調製された原料液を、50℃に加温した後、送液ポンプで加温器へ流した。加温した原料液の加温器の出口での温度は130℃であった。
【0067】
次に、加温した原料液の急速冷却を、マイクロ熱交換器を用いて行った。流量、流路の等価直径、流路の長さ、冷却前後での温度差等から求めた降温速度は1400℃/秒であった。また、マイクロ熱交換器における流量は20mL/分であった。急速冷却により得られた液のマイクロ熱交換器の出口での温度は-10℃であった。マイクロ熱交換器の配管内の圧力は、2.0MPaを越えない様に調節した。マイクロ熱交換器から出た液は、無色の透明液であった。
【0068】
得られた液100mLに水を100mL加え、減圧濃縮によりアセトンを留去し、ブスルファンの超微粒子の水分散液を得た。得られた水分散液は無色透明であった。なお、ブスルファンの水への25℃での溶解度は、0.01mg/mL以下であった。上記溶解度は、コエンザイムQ10の代わりにブスルファンを用いた以外は実施例1と同様にして測定した。
【0069】
ブスルファンの超微粒子の平均粒子径の測定は、透過型電子顕微鏡を用いて実施例1と同様に行った。その結果、平均粒子径は3nmであった。また、標準偏差は0.1063nmであった。
【0070】
実施例2-1:ブスルファンの超微粒子含有粉末の調製
実施例2で得られた水分散液に賦形剤を加えた後に水を除去し、ブスルファンの超微粒子含有粉末を得た。具体的には、水分散液1gに対してマンニトール10gを加えロータリーエバポレーターR-200を使用して、10Torrまで減圧し40℃にて真空乾燥を行った。その結果、ブスルファンの超微粒子含有粉末を得た。
【0071】
参考例2-1、2-2:急冷処理を行わないブスルファンの粒子の分散液の調製
参考例2-1として、界面活性剤を含まず、急冷処理を行わないブスルファンの粒子の分散液を調製した。参考例2-1の分散液の調製は、界面活性剤を用いず、加温器での加温、急速冷却を行わない以外は実施例2と同様に行った。
参考例2-2として、急冷処理を行わないブスルファンの粒子の分散液を調製した。参考例2-2の分散液の調製は、加温器での加温、急速冷却を行わない以外は実施例2と同様に行った。
【0072】
試験例1:ブスルファンの超微粒子の分散液の安定性試験
上記実施例2、参考例2-1および参考例2-2の分散液をそれぞれガラス容器に入れ2時間静置した。2時間後に目視での溶解性の確認およびレーザーの照射を行った。
ここで、目視での溶解性の確認は、健常な視力(視力1.0以上)を有するパネルが、照度300~2000ルクスの光の下、分散液と目との距離を垂直方向で20cm離して行った。確認はパネル3名により行った。その結果、実施例2の分散液は、2時間静置後に無色透明であり、沈殿物は認められなかった。一方、参考例2-1、2-2の分散液は、2時間静置後に沈殿物が認められた。結果を
図4Aに示す。
また、2時間静置後にレーザーポインター(波長520nm)を照射した。その結果、実施例2の分散液は、チンダル現象が確認されたが、参考例2-1、2-2の分散液では、チンダル現象は確認されなかった。結果を
図4Bに示す。
【0073】
実施例3:ドセタキセルの超微粒子の分散液の調製
還流器付き容器に94.5gのエタノールを入れ、界面活性剤としてエマルゲン 123P (花王株式会社製)を5g加えて撹拌した。その後、ドセタキセル(東京化成工業株式会社製)を0.5g加え撹拌し、原料液とした。なお、ドセタキセルのエタノールへの60℃での溶解度は、20mg/mL以上であった。
【0074】
上述のように調製された原料液を、50℃に加温した後、送液ポンプで加温器へ流した。加温した原料液の加温器の出口での温度は130℃であった。
【0075】
次に、加温した原料液の急速冷却を、マイクロ熱交換器を用いて行った。流量、流路の等価直径、流路の長さ、冷却前後での温度差等から求めた降温速度は1400℃/秒であった。また、マイクロ熱交換器における流量は20mL/分であった。急速冷却により得られた液のマイクロ熱交換器の出口での温度は-10℃であった。マイクロ熱交換器の配管内の圧力は、2.0MPaを越えない様に調節した。マイクロ熱交換器から出た液は、無色透明液であった。
【0076】
得られた液100mLに水を100mL加え、減圧濃縮によりエタノールを留去し、ドセタキセルの微粒子の水分散液を得た。得られた水分散液は無色透明であった。なお、ドセタキセルの水への25℃での溶解度は、0.01mg/mL以下であった。上記溶解度は、コエンザイムQ10の代わりにドセタキセルを用いる以外は実施例1と同様にして測定した。
【0077】
ドセタキセルの超微粒子の平均粒子径の測定は、透過型電子顕微鏡を用いて実施例1と同様に行った。その結果、平均粒子径は3nmであった。また、標準偏差は0.5811nmであった。
【0078】
実施例3-1:ドセタキセルの超微粒子含有粉末の調製
実施例3で得られた水分散液に賦形剤を加えた後に水を除去し、ドセタキセルの超微粒子含有粉末を得た。具体的には、水分散液1gに対してマンニトール10gを加えロータリーエバポレーターR-200を使用して、10Torrまで減圧し40℃にて真空乾燥を行った。その結果、ドセタキセルの超微粒子含有粉末を得た。
【0079】
参考例3-1、3-2:急冷処理を行わないドセタキセル粒子の分散液の調製
参考例3-1として、界面活性剤を含まず、急冷処理を行わないドセタキセルの粒子の分散液を調製した。参考例3-1の分散液の調製は、界面活性剤を用いず、加温器での加温、急速冷却を行わない以外は実施例3と同様に行った。
参考例3-2として、急冷処理を行わないドセタキセルの粒子の分散液を調製した。参考例3-2の分散液の調製は、加温器での加温、急速冷却を行わない以外は実施例3と同様に行った。
【0080】
試験例2:ドセタキセルの超微粒子の分散液の安定性試験
上記実施例3、参考例3-1および参考例3-2の分散液をそれぞれガラス容器に入れ2時間静置した。2時間後に目視での溶解性の確認およびレーザーの照射を試験例1と同様に行った。
目視での確認の結果、実施例3の分散液は、2時間静置後に無色透明であり、沈殿物は認められなかった。一方、参考例3-1、3-2の分散液は、2時間静置後に懸濁しており、沈殿物も認められた。結果を
図5Aに示す。
レーザー照射の結果、実施例3の分散液のチンダル現象が確認された。結果を
図5Bに示す。
【0081】
実施例4:パクリタキセルの超微粒子の分散液の調製
還流器付き容器に94.5gのエタノールを入れ、界面活性剤としてエマルゲン 123P (花王株式会社製)を5g加えて撹拌した。その後、パクリタキセル(東京化成工業株式会社製)を0.5g加え撹拌し、原料液とした。なお、パクリタキセルのエタノールへの25℃での溶解度は30mg/mL以上であった。
【0082】
上述のように調製された原料液を、50℃に加温した後、送液ポンプで加温器へ流した。加温した原料液の加温器の出口での温度は130℃であった。
【0083】
次に、加温した原料液の急速冷却を、マイクロ熱交換器を用いて行った。流量、流路の等価直径、流路の長さ、冷却前後での温度差等から求めた降温速度は1400℃/秒であった。また、マイクロ熱交換器における流量は20mL/分であった。急速冷却により得られた液のマイクロ熱交換器の出口での温度は-10℃であった。マイクロ熱交換器の配管内の圧力は、2.0MPaを越えない様に調節した。マイクロ熱交換器から出た液は、無色の透明液であった。
【0084】
得られた液100mLに水を100mL加え、減圧濃縮によりエタノールを留去し、パクリタキセルの超微粒子の水分散液を得た。得られた水分散液は無色透明であった。なお、パクリタキセルの水への25℃での溶解度は、0.01mg/mL以下であった。上記溶解度は、コエンザイムQ10の代わりにパクリタキセルを用いた以外は実施例1と同様にして測定した。
【0085】
パクリタキセルの超微粒子の平均粒子径の測定は、透過型電子顕微鏡を用いて実施例1と同様に行った。その結果、平均粒子径は3nmであった。また、標準偏差は0.2605nmであった。
【0086】
実施例4-1:パクリタキセルの超微粒子含有粉末の調製
実施例4で得られた水分散液に賦形剤を加えた後に水を除去し、パクリタキセルの超微粒子含有粉末を得た。具体的には、水分散液1gに対してマンニトール10gを加えロータリーエバポレーターR-200を使用して、10Torrまで減圧し40℃にて真空乾燥を行った。その結果、パクリタキセルの超微粒子含有粉末を得た。
【0087】
実施例5:アザジラクチンの超微粒子の分散液の調製
還流器付き容器に94.5gのエタノールを入れ、界面活性剤としてネオコール YSK(第一工業製薬株式会社製)を5g加えて撹拌した。その後、アザジラクチン(FORTUNE BIO TECH LTD製)を0.5g加え撹拌し、原料液とした。なお、アザジラクチンのエタノールへの25℃での溶解度は、30mg/mL以上であった。
【0088】
上述のように調製された原料液を、50℃に加温した後、送液ポンプで加温器へ流した。加温した原料液の加温器の出口での温度は130℃であった。
【0089】
次に、加温した原料液の急速冷却を、マイクロ熱交換器を用いて行った。流量、流路の等価直径、流路の長さ、冷却前後での温度差等から求めた降温速度は1400℃/秒であった。急速冷却により得られた液のマイクロ熱交換器の出口での温度は-10℃であった。また、マイクロ熱交換器における流量は20mL/分であった。マイクロ熱交換器の配管内の圧力は、2.0MPaを越えない様に調節した。マイクロ熱交換器から出た液は、無色の透明液であった。
【0090】
得られた液100mLに水を100mL加え、減圧濃縮によりエタノールを留去し、アザジラクチンの超微粒子の水分散液を得た。得られた水分散液は無色透明であった。なお、アザジラクチンの水への20℃での溶解度は、0.1mg/mL以下であった。上記溶解度は、コエンザイムQ10の代わりにアザジラクチンを用い、水の量を10mLとし、温度を20℃とした以外は実施例1と同様にして測定した。
【0091】
アザジラクチンの超微粒子の平均粒子径の測定は、透過型電子顕微鏡を用いて実施例1と同様に行った。その結果、平均粒子径は3nmであった。また、標準偏差は0.2589nmであった。
【0092】
実施例5-1:アザジラクチンの超微粒子含有粉末の調製
実施例5で得られた水分散液に賦形剤を加えた後に水を除去し、アザジラクチンの超微粒子含有粉末を得た。具体的には、水分散液1gに対してマンニトール10gを加えロータリーエバポレーターR-200を使用して、10Torrまで減圧し40℃にて真空乾燥を行った。その結果、アザジラクチンの超微粒子含有粉末を得た。
【0093】
実施例6:アスコルビン酸の超微粒子の分散液の調製
還流器付き容器に70.0gの水を入れ、界面活性剤としてエマノーン3299RV(花王株式会社製)を5g加えて撹拌した。その後、L(+)-アスコルビン酸(和光純薬工業株式会社製)を30.0g加え撹拌し、原料液とした。なお、L(+)-アスコルビン酸の水への25℃での溶解度は、30mg/mL以上であった。
【0094】
上述のように調製された原料液を、50℃に加温した後、送液ポンプで加温器へ流した。加温した原料液の加温器の出口での温度は130℃であった。
【0095】
次に、加温した原料液の急速冷却を、マイクロ熱交換器を用いて行った。流量、流路の等価直径、流路の長さ、冷却前後での温度差等から求めた降温速度は1400℃/秒であった。また、マイクロ熱交換器における流量は20mL/分であった。急速冷却により得られた液のマイクロ熱交換器の出口での温度は-10℃であった。マイクロ熱交換器の配管内の圧力は、2.0MPaを越えない様に調節した。マイクロ熱交換器から出た液は、淡黄色の透明液であった。
【0096】
得られた液100mLに1-ブタノールを100mL加え、減圧濃縮により水を留去し、アスコルビン酸の超微粒子の1-ブタノール分散液を得た。得られた1-ブタノール分散液は淡黄色透明であった。なお、L(+)-アスコルビン酸の1-ブタノールへの25℃での溶解度は、0.1mg/mL以下であった。上記溶解度は、コエンザイムQ10の代わりにL(+)-アスコルビン酸を用い、100mLの水の代わりに10mLの1-ブタノールとした以外は実施例1と同様にして測定した。
【0097】
アスコルビン酸の超微粒子の平均粒子径の測定は、透過型電子顕微鏡を用いて実施例1と同様に行った。その結果、平均粒子径は3nmであった。また、標準偏差は0.08651nmであった。
【符号の説明】
【0098】
1 原料液
2 送液ポンプ
3 加温器
4 マイクロ熱交換器
5 容器
6 出口
7 チェックバルブ
8 容器