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特許7237184ジルコニウム及びジルコニウム合金の表面の酸化されたセラミック層の調製方法及び用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】ジルコニウム及びジルコニウム合金の表面の酸化されたセラミック層の調製方法及び用途
(51)【国際特許分類】
   C23C 8/12 20060101AFI20230303BHJP
   A61L 27/04 20060101ALI20230303BHJP
   A61L 27/30 20060101ALI20230303BHJP
   A61L 27/10 20060101ALI20230303BHJP
   C23C 8/02 20060101ALI20230303BHJP
【FI】
C23C8/12
A61L27/04
A61L27/30
A61L27/10
C23C8/02
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021552569
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-20
(86)【国際出願番号】 CN2019118460
(87)【国際公開番号】W WO2020177386
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-10-19
(31)【優先権主張番号】201910173412.8
(32)【優先日】2019-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521285045
【氏名又は名称】スーチョウ マイクロポート オーソレコン カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シェン,ユー
(72)【発明者】
【氏名】ユー,ティエンバイ
(72)【発明者】
【氏名】ウェン,チー-シン
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-528822(JP,A)
【文献】特表2004-536226(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107675122(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウム又はジルコニウム合金の表面に酸化セラミック層を調製する方法であって、
1)表面酸化処理が実行されるジルコニウム又はジルコニウム合金の標的領域の粗度を低下させて、粗度が0.01μm以下に制御されるステップ、
2)酸化性ガスを含有する雰囲気において表面酸化処理を実行して、酸化セラミック表面層を形成するステップ、及び
3)ステップ2)において使用した酸化性ガスを、不活性ガスを導入して置き換え、冷却プロセスを開始して、酸化セラミック表面層の粗度を低下させる後続の処理を実行することなく、酸化セラミック表面層の調製を完了するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
粗度がステップ1)において、0.002μm~0.010μmの範囲内の値に低下する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ2)における酸化処理の後、標的領域の酸化セラミック表面層の厚さが1μm~20μmの範囲内に制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップ2)における表面酸化処理が、500℃~700℃の範囲内の温度に加熱すること及び前記温度を0.5~10時間維持することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
標的領域の粗度がステップ1)において、研削、機械的研磨、微細機械加工、振動研磨又はこれらの任意の組み合わせによって低下する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ステップ3)における不活性ガスが、窒素である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
表面酸化処理についての標的領域が、別のベアリング表面と直接接触する領域である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ステップ2)における酸化性ガスを含有する雰囲気が、酸素及び/又はオゾンを含有する雰囲気である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ステップ3)における不活性ガスが、希ガスから選択される1種以上である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、医療用インプラントにおける使用のための材料の分野に属し、特に、ジルコニウム及びジルコニウム合金の表面の酸化されたセラミック層の調製方法及び用途に関する。
【背景技術】
【0002】
科学者によって何年も前に裏付けられているように、ジルコニウム及びジルコニウム合金は、優れた機械的特性、耐腐食性及び生体適合性を有する。そのため、これらは、医療用インプラントにおける使用に非常に良好な材料として認識されている。医療用インプラントに使用される材料については、医療用インプラントの実用寿命が最も重要である。とりわけ、医療用インプラントが若い患者に使用される場合、インプラントは、患者の寿命を通じて使用できることが望ましい。
【0003】
しかしながら、ジルコニウム及びジルコニウム合金は摩耗への耐性が十分ではなく、これによって、ベアリングインプラント、例えば股関節及び膝関節の置換への適用が限定的となる。このようなベアリングインプラントの実用寿命期間は、使用したジルコニウム又はジルコニウム合金の機械的特性、耐腐食性及び生体適合性だけでなく、別の接触表面、例えば、超高分子量ポリエチレンで作製された表面に対して動く際に、ジルコニウム又はジルコニウム合金の表面に発生する摩耗を含めた要素に影響される。このような摩耗は、多数の摩耗粒子を生じて関節表面の摩擦係数を増大させ、したがってさらに摩耗を強めるだけでなく、ヒトの健康に長期的な害を生じ得る金属イオンを放出する。そのため、ジルコニウム及びジルコニウム合金が、例えばベアリング型のインプラント装置の製造に使用される場合、耐摩耗特性を強化することが必要である。
【0004】
米国特許第2,987,352号明細書は、空気中でジルコニウム/ジルコニウム合金を酸化して、その表面に濃い藍色の酸化物層を形成することを開示している。形成された濃い藍色の酸化セラミック表面層は非常に硬く緻密であり、有意に改善された耐摩耗性をジルコニウム/ジルコニウム合金に付与する。この思想に従って、米国特許第5,037,438号明細書は、酸化ジルコニウム表面を有するジルコニウム合金人工器官を開示している。しかしながら、酸化セラミック表面層は、概して、均一でない厚さを有する。相対的に動く表面同士の摩擦係数を減少させて摩耗を軽減するために、表面酸化セラミック層の粗度を可能な限り低減することが必要である。そのため、酸化物表面層を精巧に研磨しなければならない。しかしながら、研磨プロセスは、酸化物表面層の異なる位置において、まちまちの厚さの損失をもたらす。その上、濃い藍色の酸化セラミック表面層は、非常に薄くかつ一様でない厚さを有する傾向がある。これにより、厚さが薄い位置では酸化セラミック表面層が完全に除去され、したがって、酸化セラミック表面層の完全性を失うことで、人工器官の耐摩耗性をひどく損なう。一様でない酸化セラミック表面層では、境界面における金属基材との接触が一様ではなくなり、酸化セラミック表面層と金属基材との間の結合強度が弱まる。これによって、使用中に金属基材から酸化セラミック表面層が容易に剥がれるようになり、したがって、大きなリスクが生じる。
【0005】
酸化ジルコニウムコーティングの成長は一定でない速度で進行し、転換点を迎えることになるという、さらなる研究が示されている。この点より前では、コーティングの厚さの増加は放物線状プロファイルに従い、形成される酸化セラミック表面層は、優れた緻密度、高い結合強度及び良好な耐摩耗性を有する。この点より後では、コーティングの厚さの増加は線形プロファイルに従い、形成されるコーティングには多数のマイクロクラックがあり、不良な結合強度及び粗悪な耐摩耗性を有する(Tatsumi Arima et al., Oxidation properties of Zr-Nb alloys at 973-1273 K in air. Progress in Nuclear Energy, 51(2009):307-312.)。酸化セラミック表面層について、最適な厚さは3~7μmの範囲内である。この範囲内の厚さであれば、コーティングは、最適な内部緻密度、高い結合強度及び優れた耐摩耗性を備える。しかしながら、実際的な操作では、形成された酸化セラミック表面層は、医療用インプラントに要求される0.02μm以下の目標表面粗度Raまで研磨された後、酸化セラミック表面層は2~5μmの厚さを失う。明らかに、最適な厚さ範囲内の厚さを有する酸化セラミック表面層が研磨された場合、残った酸化セラミック表面層は、適用要件を満たすことができない最終厚さを有することになる。一方、研磨プロセス後に残りの厚さが十分な酸化セラミック表面層を得るためには、より大きな厚さを有する初期酸化セラミック表面層を形成することが要求される。しかしながら、より大きな厚さでは、酸化セラミック表面層の特性を損なう。
【0006】
加えて、研磨は、伝統的な表面酸化プロセスにおいて不可欠である。高温酸化が完了した後の冷却プロセスが遅い冷却プロセスである場合、ジルコニウム又はジルコニウム合金が酸化性雰囲気に依然として曝露されるため、酸化セラミック表面層は、この冷却プロセス中にさらに増加した厚さを有する。しかしながら、不適当な温度で形成された酸化物層は不良な品質を有するので、研磨して除去しなければならない。冷却プロセスが速い冷却プロセスである場合、加工物の内側と外側との間の有意な温度差に起因して、熱応力によりマイクロクラックが生じ、酸化物層の最外表面領域に容易に発現する。これによっても、このような領域を研磨して除去する必要性が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第2,987,352号明細書
【文献】米国特許第5,037,438号明細書
【非特許文献】
【0008】
【文献】Tatsumi Arima et al., Oxidation properties of Zr-Nb alloys at 973-1273 K in air. Progress in Nuclear Energy, 51(2009):307-312.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の場合を鑑みて、酸化セラミック表面層の粗度を制御して、酸化セラミック表面層に対する研磨プロセスの有害な効果を回避する新たな方法を開発することが望ましい。
【0010】
上記問題を克服するために、本出願は、ジルコニウム又はジルコニウム合金の表面に酸化セラミック層を調製する方法であって、ジルコニウム又はジルコニウム合金に対する表面酸化処理後の研磨プロセスを必要とすることなく、申し分のない粗度及び制御された均一な厚さを有する酸化セラミック表面層を直接得ることができ、したがって、酸化セラミック表面層の研磨によって生じるジルコニウム又はジルコニウム合金の表面の問題を解決することができる方法を提案する。ここで、「ジルコニウム/ジルコニウム合金」という用語は、酸化セラミック表面層を調製する方法が、純粋なジルコニウム金属及びジルコニウム合金に適用可能であることを指す。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題を解決するために、本出願は、ジルコニウム又はジルコニウム合金の表面に酸化セラミック層を調製する方法であって、
1)表面酸化処理が実行されるジルコニウム又はジルコニウム合金の標的領域の粗度を低下させて、粗度が0.01μm以下に制御されるステップ、
2)酸化性ガスを含有する雰囲気において表面酸化処理を実行して、酸化セラミック表面層を形成するステップ、及び
3)ステップ2)において使用した酸化性ガスを、不活性ガスを導入して置き換え、冷却プロセスを開始して、酸化セラミック表面層の粗度を低下させる後続の処理を実行することなく、酸化セラミック表面層の調製を完了するステップ
を含む、方法を提供する。
【0012】
任意選択で、粗度はステップ1)において、0.002μm~0.010μmの範囲内の値に低下する。
【0013】
任意選択で、ステップ2)における酸化処理の後、標的領域の酸化セラミック表面層の厚さは1μm~20μmの範囲内に制御される。
【0014】
任意選択で、ステップ2)における表面酸化処理は、500℃~700℃の範囲内の温度に加熱すること及びその温度を0.5~10時間維持することを含む。
【0015】
任意選択で、標的領域の粗度はステップ1)において、研削、機械的研磨、微細機械加工、振動研磨又はこれらの任意の組み合わせによって低下する。
【0016】
任意選択で、ステップ3)における不活性ガスは、窒素及び希ガスからなる群から選択される1つ以上である。
【0017】
任意選択で、表面酸化処理についての標的領域は、別のベアリング表面と直接接触する領域である。
【0018】
任意選択で、ステップ2)における酸化性ガスを含有する雰囲気は、酸素及び/又はオゾンを含有する雰囲気である。
【0019】
本出願はまた、ジルコニウム又はジルコニウム合金の表面に酸化セラミック層を調製する方法であって、
1)表面酸化処理が実行されるジルコニウム又はジルコニウム合金の標的領域の粗度を低下させて、粗度が0.01μm以下に制御されるステップ、
2)ジルコニウム又はジルコニウム合金の表面に表面酸化処理を実行して、酸化セラミック表面層を形成するステップ、及び
3)形成された酸化セラミック表面層の粗度を低下させるステップ
を含む、方法を提供する。
【0020】
本出願はまた、金属基材、酸素リッチ拡散層及び酸化セラミック表面層を含む、医療用インプラントにおける使用のための材料であって、金属基材がジルコニウム又はジルコニウム合金で作製されており、酸素リッチ拡散層及び酸化セラミック表面層が、上に定義される方法によって形成されている、材料を提供する。
【0021】
任意選択で、医療用インプラントは、股関節又は膝関節に使用されるベアリングインプラントである。
【発明の効果】
【0022】
本出願によれば、表面の粗度は、表面酸化処理の前に制御されており、それによって、酸化処理後の表面粗度が適用要件を直接満たすことができる。それだけでなく、表面酸化処理の後、酸化性ガスを不活性ガスで置き換えることで、冷却プロセス中に除去しなければならない不良な品質の層の形成が回避される。上記2つの長所によって、後続の研磨プロセスの必要性を完全に回避すること、並びに酸化セラミック表面層の完全性及び均一性を残すことができ、酸化セラミック表面層の保護特性が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】特定の実施形態による、医療用インプラントにおける使用のための材料の構造を図示した模式断面図である。
図2】実施形態1によって酸化されたサンプル1の断面を示す、金属顕微鏡画像である。
図3】研削及び研磨された図2のサンプルの断面を示す、金属顕微鏡画像である。
図4】実施形態1によって酸化されたサンプル2の断面を示す、金属顕微鏡画像である。
図5】実施形態2によって酸化されたサンプル3の断面を示す、金属顕微鏡画像である。
図6】研削及び研磨された図5のサンプルの断面を示す、金属顕微鏡画像である。
図7】実施形態2によって酸化されたサンプル4の断面を示す、金属顕微鏡画像である。
図8】実施形態3によって酸化されたサンプル5の断面を示す、金属顕微鏡画像である。
図9】実施形態3によって酸化されたサンプル6の断面を示す、金属顕微鏡画像である。
【0024】
図面において、
10 酸化セラミック表面層、20 酸素リッチ拡散層、30 金属基材である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
ジルコニウム又はジルコニウム合金の表面に酸化セラミック層を調製する方法は、以下の詳細なステップを含む。
【0026】
(1)表面酸化処理が実行されるジルコニウム/ジルコニウム合金表面、少なくとも別のベアリング表面と直接接触する部分の粗度Raを、0.01μm未満(すなわちRa<0.01μm)、好ましくは0.002~0.010μmの範囲内(すなわちRa=0.002~0.010μm)、より好ましくは0.003~0.008μmの範囲内(すなわちRa=0.003~0.008μm)の値に低下させるステップ。例えば、Raを、0.004~0.007μmの範囲内(すなわちRa=0.004~0.007μm)又は0.005~0.006μmの範囲内(すなわちRa=0.005~0.006μm)に低下させてもよい。ここで、「ベアリング」という語は、インプラントの表面が、別の物体(別のインプラント又はヒトの骨等)に対して押し込まれる関係、及び別の物体に対して動く関係、例えば、膝関節の脛骨関節表面及び大腿関節表面の間の関係を意味する。「別のベアリング表面」という用語は、表面酸化処理を実行されたインプラント表面と接触する別のインプラント又はヒトの骨の表面を指す。
【0027】
表面酸化処理を実行された一般的なジルコニウム又はジルコニウム合金医療用インプラント、特にジルコニウム-ニオブ合金から製造された股関節又は膝関節人工器官は、概して、0.02μm以下の表面粗度を有することが要求される。このような表面粗度は、先行技術では、酸化処理後に酸化セラミック表面層を研磨することによって実現しなければならない。反対に、本出願によれば、金属表面を前処理して、粗度を所定の範囲内に事前に制御する。発明者は反復実験を通じて、所定の範囲内の粗度を有する金属が、酸化可能であり、したがって、直接、適用要件を満たす表面粗度を有する酸化セラミック表面層を形成することができ、酸化処理後の研磨ステップを省けることを裏付けた。この表面粗度制御ステップでは、粗度Raを0.010μm超の値に低下させる場合、表面酸化処理から生じる酸化セラミック層は、要件を満足しない0.02μm超の表面粗度Raを有することがあり、粗度Raを0.002μm以下に低下させる場合、費用が高過ぎ、粗度は実際の必要性を超え、したがって、費用対効果を考慮すると推奨されない。
【0028】
表面粗度の改質は、研削、機械的研磨、微細機械加工、振動研磨又はこれらの任意の組み合わせによって遂行することができる。
【0029】
(2)ステップ(1)においてその表面粗度を変化させたジルコニウム又はジルコニウム合金に、表面酸化処理を実行するステップ。詳細には、ステップ(1)からのジルコニウム又はジルコニウム合金を、酸化性ガスを含有する雰囲気中に載置し、500~700℃(好ましくは550~600℃)の範囲内の温度に加熱し、ジルコニウム又はジルコニウム合金を高温で0.5~10時間(好ましくは2~6時間)維持する。ジルコニウム又はジルコニウム合金上に形成される酸化セラミック表面層は、1~20μm、好ましくは3~10μm、より好ましくは3~7μm、例えば4μm、5μm又は6μmの厚さを有する。酸化性ガスとは、酸化力を有するガス、例えば酸素又はオゾンを指し、酸化性ガスを含有する雰囲気とは、この酸化性ガスを含有する雰囲気を指し、経済性及び入手の容易さを考慮すると空気であることが好ましい。
【0030】
酸化セラミック表面層が過剰に大きい厚さを有するまで成長する場合、層内に多数のマイクロクラックが発生し、不良な結合強度及び粗悪な耐摩耗性が生じる。層が薄過ぎる場合、不十分な耐摩耗性を喫することがある。酸化セラミック表面層が上記範囲内の厚さを有する場合、層は最適な内部緻密度、高い結合強度及び優れた耐摩耗性を有することができる。表面酸化セラミック層を後で研磨する必要がないため、層が厚過ぎる必要はない。そのため、表面酸化セラミック層の厚さを上記範囲内に直接制御することができ、後続の研磨を排除することで、酸化セラミック表面層の完全性及び均一性を証明することができ、総体的な性能がさらに改善する。
【0031】
好ましくは、冷却プロセス中に窒素若しくは不活性ガス、例えばヘリウム、ネオン若しくはアルゴン、又はこれらの組み合わせを導入することによって、酸化性ガスが置き換えられる。このようにして、ジルコニウム/ジルコニウム合金の表面酸化処理が終了し、温度は室温にゆっくりと低下する。
【0032】
後続の不活性ガスによる置き換えによって、冷却プロセス中における、後で除去しなければならない品質が劣る膜層コーティングの形成が回避され、したがって、酸化セラミック表面層の品質がさらに向上する。上流の粗度制御及び下流のガスの置き換えを通じて、酸化処理後の研磨が首尾よく省かれ、したがって、研磨に起因する問題が解決される。
【0033】
上記方法は、医療用インプラントにおける使用のための材料を製造するのに使用することができ、この材料は図1に示すように内側から外側に配列された、金属基材30、酸素リッチ拡散層20及び酸化セラミック表面層10を含む。金属基材30は、表面酸化処理を施されていない金属材料である。酸化セラミック層10は、酸素元素が本質的に酸化物の形態で存在する層である。酸素リッチ拡散層20は、酸素の含有率が金属基材中の酸素の含有率よりも高く、酸素元素が本質的に溶質原子の形態で存在する層である。ここで、金属基材30はジルコニウム金属又はジルコニウム合金であり、酸素リッチ拡散層20及び酸化セラミック表面層10は上記方法によって形成される。このような材料は、ベアリング性能を有することが要求される医療用インプラント、特に股関節又は膝関節におけるベアリングインプラントの製造における使用に好適である。
【0034】
図2~9に示す金属顕微鏡写真のそれぞれにおいて、中間の暗領域は酸化セラミック表面層10であり、右端の最も明るい領域は金属基材30であることに留意されたい。使用した金属顕微鏡の能力に制限されて、写真中の酸素リッチ拡散層20を金属基材30から区別することは困難であろう。実際、酸素リッチ拡散層20は、1~2μmの厚さを有する淡色層であり、暗色の酸化セラミック表面層10の近くにある。
【0035】
理解を容易にするために、ジルコニウム又はジルコニウム合金の表面に酸化セラミック層を調製する方法を、いくつかの実施形態を参照しながら以下にさらに記載する。これらの実施形態は、本出願を説明する目的で提示するに過ぎず、いかなる意味でも保護範囲を限定しない。
【0036】
特に述べない限り、以下の実施形態において使用する各材料又は試薬は市販されており、本方法において採用する各プロセス又はパラメータは、従来技法によって実現することができる。
【0037】
[実施形態1]
Zr-2.5Nb合金(2.5重量%のNbを含有するジルコニウム合金)サンプルを研削及び研磨した結果、サンプル1は0.3792μmという低下した表面粗度Raを有し、サンプル2は0.0038μmという低下した表面粗度Raを有した。サンプル1及び2を管状炉内に一緒に載置し、空気中で550℃に加熱し、この温度を6時間維持した。続いて、空気を排気し、アルゴンを炉に導入した。5℃/分の速度で100℃以下にゆっくりと冷却した後、サンプル1及び2を取り出し、粗さ計を用いて測定した。結果は、酸化処理後にサンプル1の粗度Raは0.6852μmに上昇し、サンプル2の粗度は0.0158μmに上昇したことを示した。図2は、酸化されたサンプル1の断面の金属顕微鏡画像であり、金属基材(右)、酸化セラミック表面層(左)、及び金属基材と酸化セラミック表面層との間の酸素リッチ拡散層を示している。このとき、酸化処理後のサンプル1の断面画像を取得し、図3に示した。酸化処理後のサンプル2の表面粗度Raは、Ra<0.02μmの要件を既に満たしているため、研磨処理を実行する必要はない。酸化処理後のサンプル2の断面画像を金属顕微鏡によって取得し、図4に示した。
【0038】
図2から見て取れるように、表面酸化処理を施したサンプル1は、約5.82μmの平均厚さを有する酸化セラミック表面層を備える。このような厚さは、3~7μmの最適な厚さ範囲に含まれる。しかしながら、酸化処理前のサンプル1の表面がひどく上下しているため、酸化セラミック表面層及び基材の間の境界面はひどく上下している。加えて、酸化セラミック表面層の成長には、表面粗度の上昇が付随した。上記2つの要素はともに、酸化セラミック表面層の表面粗度の急上昇をもたらす。図3は、0.0184μmのRaまでさらに研削及び研磨された、サンプル1の断面を示す金属顕微鏡画像である。見て取れるように、研削及び研磨した後の残りの酸化セラミック表面層は、極めて一様でない厚さの分布を呈し、部分的な領域ではジルコニウム-ニオブ合金基材の曝露さえ呈する。この理由は、低い粗度のために研削及び研磨するプロセスの間に、酸化セラミック表面層の凸部が大きな厚さを失い、一方で凹部はわずかな厚さを失うためであった。研削及び研磨処理の後、酸化セラミック表面層は最も厚い位置で4.728μmの厚さを有するが、最も薄い位置では酸化セラミック層がほとんど保存されない。明白に、この酸化セラミック表面層は使用不能である。
【0039】
対照的に、図4のサンプル2は、3~7μmの最適な厚さ範囲内である、約6.21μmの厚さを有する酸化セラミック表面層を有していた。サンプル2の初期表面粗度は非常に低いため、形成された酸化セラミック表面層は5.859μm~6.373μmで変動する均一な厚さを有し、すなわちわずか0.26μmの許容範囲(tolerance)を有する。この酸化セラミック表面層は、表面粗度の観点からはまったく申し分なかったため、さらなる研磨処理の実行が不要であり、層の完全性が損なわれないため、酸化セラミック表面層は大きく改善された特性を備えることができる。本方法によって得られる酸化セラミック表面層は、均一な厚さを有し、表面酸化セラミック層及び基材の間の境界面は実質的に水平面であり、ジルコニウム/ジルコニウム合金の理想的な酸化セラミック表面層となっている。
【0040】
[実施形態2]
産業用の純粋なジルコニウムを研削及び研磨した結果、サンプル3は0.3886μmという低下した表面粗度Raを有し、サンプル4は0.0042μmという低下した表面粗度Raを有した。サンプル3及び4を管状炉内に一緒に載置し、空気中で600℃に加熱し、この温度を4時間維持した。続いて、空気を排気し、アルゴンを炉に導入した。5℃/分の速度で100℃以下にゆっくりと冷却した後、サンプル3及び4を取り出し、粗さ計を用いて測定した。結果は、酸化処理後にサンプル3の粗度Raは0.7705μmに上昇し、サンプル4の粗度は0.0158μmに上昇したことを示した。図5は酸化されたサンプル3の断面を示す金属顕微鏡画像であり、一方の図6は、0.0177μmの表面粗度Raまでさらに研削及び研磨したサンプル3の断面を示す金属顕微鏡画像である。酸化処理後のサンプル4の表面粗度Raは、Ra<0.02μmの要件を既に満たしているため、研磨処理を実行する必要はない。酸化処理後のサンプル4の断面画像を金属顕微鏡によって取得し、図7に示した。
【0041】
図5に示すように、表面酸化処理を施したサンプル3は、約8.66μmの平均厚さを有する酸化セラミック表面層を備える。サンプル3の表面はひどく上下し、サンプル3における酸化セラミック表面層及び基材の間の境界面は、湾曲した境界面である。図6は、0.0177μmのRaまでさらに研削及び研磨された、サンプル3の断面を示す金属顕微鏡画像である。研削及び研磨処理の後、酸化セラミック表面層では最も厚い位置で5.037μmの厚さを残し、最も薄い位置では1.439μmの厚さを残すに過ぎない。研削及び研磨された酸化セラミック表面層がサンプルNo.3の表面全体を依然として覆っているが、残った酸化セラミック表面層は一様でない厚さを有し、相対的に薄い位置では不良な保護性能を有する。特に、研削及び研磨処理後の酸化セラミック表面層が全体を覆うことを確実にするため、表面酸化処理には、より厚い酸化セラミック表面層を調製することが要求される。しかしながら、上記粗度のもとで形成される酸化セラミック表面層は、表面酸化セラミック層の性能に影響を及ぼす、最適な厚さ範囲である3~7μmを既に超えている。
【0042】
図7に示すように、酸化処理後のサンプル4は、平均厚さが約10.22μmである酸化セラミック表面層を有していた。厚さが最適範囲(3~7μm)外であるが、サンプル表面は平坦なままである。酸化セラミック表面層は、厚さが均一であり、基材との平坦で鮮明な境界面及び良好な保護特性を有していた。
【0043】
[実施形態3]
Zr-2.5Nb合金サンプルを研削及び研磨した結果、サンプル5は0.0056μmという低下した表面粗度Raを有し、サンプルNo.6は0.0055μmという低下した表面粗度Raを有した。サンプル5及び6を別々の管状炉内に載置し、両方とも空気中で600℃に加熱し、この温度を4時間維持した。続いて、サンプル5を中に載置した炉について、空気を排気し、アルゴンを炉に導入した後、5℃/分の速度で100℃以下にゆっくりと冷却した。次いで、サンプル5を炉から取り出した。対照的に、サンプル6は依然として酸化性雰囲気において、5℃/分の速度で100℃以下にゆっくりと冷却し、次いで取り出した。粗さ計を用いて測定すると、酸化処理後にサンプル5の粗度Raは0.0162μmに上昇し、サンプル6の粗度は0.0426μmに上昇した。
【0044】
図8は、サンプル5の断面を示す金属顕微鏡画像である。図8は、形成された酸化セラミック層が、約9.54μmの均一な平均厚さ、並びに平坦な表面及び基材との平坦で真っ直ぐな境界面を有することを示す。粗度RaがRa<0.02μmの範囲内であるため、サンプル5はさらに研磨することなく、ベアリングインプラント、例えば股関節又は膝関節の製造に直接使用することができる。サンプル6は当初の酸化性雰囲気において冷却するので、サンプル6の表面が冷却プロセス中に酸化され続けた結果、より厚い酸化セラミック表面層を形成する。図9に示すように、形成された酸化セラミック表面層は約11.28μmの厚さを有し、不良な品質の酸化物が層の外表面に存在することで、酸化されたサンプル6の表面粗度は、Ra<0.02μmの範囲を超えて著しく上昇する。そのため、ベアリングインプラント、例えば股関節及び膝関節の適用要件を満たすことができるまで、さらに研磨しなければならない。とはいえ、酸化処理前の研磨処理によって、酸化セラミック表面層が基材との平坦な境界面を有することで、層が研磨後に均一な厚さを維持することができ、不均一な厚さ及びいくつかの位置で過剰に小さい厚さという問題を排除できる。
【0045】
要約すれば、本出願によれば、ジルコニウム/ジルコニウム合金表面の粗度Raは、表面酸化処理の前にRa<0.01μmまで低下しており、酸化セラミック表面層が最適な厚さに成長することができ、粗度をまさに最終生成物に要求される範囲内(Ra<0.02μm)に制御することができる。不活性雰囲気における冷却プロセスによって、冷却プロセス中の酸化セラミック表面層の性能劣化を回避することができ、これによって、酸化処理後の研削及び研磨処理を省いて、不可欠な酸化セラミック表面層を得ることができる。加えて、研削及び研磨処理から生じる損失に備えて一定の厚さを保存する必要がないため、酸化セラミック表面層を正確に最適な厚さに成長させることができる。これによって酸化物層は、最適な内部緻密度、高い結合強度及び優れた耐摩耗性を有することができる。
【0046】
ここで言及する医療用インプラントは、人体に外科的に創出された又は自然に発生した空隙中に載置することができる、移植可能な医療用機器を指すことに留意されたい。医療用インプラントの例としては、限定するものではないが、外科用インプラント、例えば人工関節(整形外科用、脊椎、心血管及び神経外科用)インプラント、構造的人工器官、義歯並びに他の人工臓器;金属材料(ステンレス鋼、コバルト系合金、チタン及びその合金、並びに形状記憶合金を含む)、ポリマー、高分子材料、無機非金属材料、セラミック材料等から作製されるインプラント;移植可能な機器、例えば移植可能な整形外科用機器、移植可能な審美的及び形成外科用機器及び材料;移植可能な器具、例えば骨(プレート、ネジ、ピン、ロッド)、脊椎内固定装置、ステープラ、膝蓋コンセントレータ、骨ワックス、骨再建材料、形成外科材料、心臓又は組織再建材料、眼内充填材料、神経パッチ等;介入的機器、例えば介入的カテーテル、ステント、塞栓及び他の装置;並びに整形(整形)外科用機器、例えば解剖刀、ドリル、剪刀、鉗子、のこぎり、のみ、やすり、鉤、針スリッカー、活性機器(active instrument)、肢伸長用ブレース、多目的一側外部固定装置及び整形(整形)外科的使用のための他の機器を挙げることができる。
【0047】
最後に、上記実施形態は本出願の技術的解決を説明するために提供されるに過ぎず、これを限定することを意図するものでは決してないことに留意されたい。上記実施形態を参照しながら本出願を詳細に記載してきたが、当業者によって、これらの実施形態への修正は依然として可能であり、又は技術的特徴部のすべて若しくは一部を等価物に置換することができる。このような修正置換は、対応する技術的解決の本質が、本出願の様々な実施形態の保護範囲から逸脱することをもたらさない。
本発明は、以下の態様を含む。
[項1]
ジルコニウム又はジルコニウム合金の表面に酸化セラミック層を調製する方法であって、
1)表面酸化処理が実行されるジルコニウム又はジルコニウム合金の標的領域の粗度を低下させて、粗度が0.01μm以下に制御されるステップ、
2)酸化性ガスを含有する雰囲気において表面酸化処理を実行して、酸化セラミック表面層を形成するステップ、及び
3)ステップ2)において使用した酸化性ガスを、不活性ガスを導入して置き換え、冷却プロセスを開始して、酸化セラミック表面層の粗度を低下させる後続の処理を実行することなく、酸化セラミック表面層の調製を完了するステップ
を含む、方法。
[項2]
粗度がステップ1)において、0.002μm~0.010μmの範囲内の値に低下する、項1に記載の方法。
[項3]
ステップ2)における酸化処理の後、標的領域の酸化セラミック表面層の厚さが1μm~20μmの範囲内に制御される、項1に記載の方法。
[項4]
ステップ2)における表面酸化処理が、500℃~700℃の範囲内の温度に加熱すること及び前記温度を0.5~10時間維持することを含む、項1に記載の方法。
[項5]
標的領域の粗度がステップ1)において、研削、機械的研磨、微細機械加工、振動研磨又はこれらの任意の組み合わせによって低下する、項1に記載の方法。
[項6]
ステップ3)における不活性ガスが、窒素及び希ガスからなる群から選択される1つ以上である、項1に記載の方法。
[項7]
表面酸化処理についての標的領域が、別のベアリング表面と直接接触する領域である、項1に記載の方法。
[項8]
ステップ2)における酸化性ガスを含有する雰囲気が、酸素及び/又はオゾンを含有する雰囲気である、項1に記載の方法。
[項9]
ジルコニウム又はジルコニウム合金の表面に酸化セラミック層を調製する方法であって、
1)表面酸化処理が実行されるジルコニウム又はジルコニウム合金の標的領域の粗度を低下させて、粗度が0.01μm以下に制御されるステップ、
2)ジルコニウム又はジルコニウム合金の表面に表面酸化処理を実行して、酸化セラミック表面層を形成するステップ、及び
3)形成された酸化セラミック表面層の粗度を低下させるステップ
を含む、方法。
[項10]
金属基材、酸素リッチ拡散層及び酸化セラミック表面層を含む、医療用インプラントにおける使用のための材料であって、金属基材がジルコニウム又はジルコニウム合金で作製されており、酸素リッチ拡散層及び酸化セラミック表面層が、項1から9のいずれか一項に記載の方法によって形成されている、材料。
[項11]
医療用インプラントが、股関節又は膝関節に使用されるベアリングインプラントである、項10に記載の材料。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9