(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】多結晶製品の材料特性を特定するための方法および装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/20008 20180101AFI20230303BHJP
【FI】
G01N23/20008
(21)【出願番号】P 2021576736
(86)(22)【出願日】2020-06-24
(86)【国際出願番号】 EP2020067593
(87)【国際公開番号】W WO2020260336
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2021-12-22
(31)【優先権主張番号】102019209068.0
(32)【優先日】2019-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390035426
【氏名又は名称】エス・エム・エス・グループ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(73)【特許権者】
【識別番号】521560160
【氏名又は名称】イーエムエス・メスジュステーメ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】クリンケンベルク・クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ゾマース・ウルリヒ
(72)【発明者】
【氏名】クライン・ヘルムート
(72)【発明者】
【氏名】ロエスト・アレクサンドル
(72)【発明者】
【氏名】ペンシス・オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】クラウトホイザー・ホルスト
【審査官】清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-262300(JP,A)
【文献】特開昭61-010749(JP,A)
【文献】特表2002-541496(JP,A)
【文献】米国特許第06278764(US,B1)
【文献】特開昭56-001341(JP,A)
【文献】中国実用新案第201594172(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
G21K 1/00 - G21K 1/16
G21K 5/00 - G21K 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つのX線源(11)および少なくとも一つのX線検出器(13)を用いたX線回折により、多結晶製品
(1)の製造および品質検査中に多結晶製品
(1)の材料特性を特定するための方法であって、X線源(11)により生成されたX線(15)が、X線ミラー(17)によって多結晶製品(1)の表面(2)に向けられ、そこから生じたX線(15)の回折像が、X線検出器(13)により撮像される方法において、
X線ミラー(17)は、回転対称に形成され、その内周面に鏡面(18)を有し、X線源(11)から出た後に、X線(15)は、前記X線ミラー(17)を通して誘導され、X線(15)は、鏡面(18)でブラッグ反射され、X線ミラー(17)によって単色化されるとともに多結晶製品(1)
およびX線検出器(13)に向けて集束
された後、或いは多結晶製品(1)に向けて集束された後、
多結晶製品(1)の表面(2)に当たり、X線検出器(13)は、面検出器の形態で形成されていることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、X線ミラー(17)の鏡面(18)は、X線源(11)から放出されるX線(15)の中心軸線(A)に関して球形に湾曲させて或いは円筒形に形成されていることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、X線源(11)のX線管(12)は、タングステンアノード(22)、モリブデンアノード(22)または銀アノードの少なくともいずれかを有し、X線ミラー(17)の鏡面(18)は、X線管(12)により生成されたX線(15)が、ブラッグ反射の際に、そのエネルギー領域に関してアノード材料の予め決まった輝線近くに選択されるように特にその湾曲が形成されていることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、X線源(11)のX線管(12)は、タングステンアノードを有し、X線(15)のエネルギー領域は、タングステンのKα線近くに、60keVの値または60keVの領域に選択されることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の方法において、X線源(11)のX線管(12)は、モリブデンアノードを有し、X線(15)のエネルギー領域は、モリブデンのKα線近くに、17.5keVの値または17.5keVの領域に選択されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項3から5のいずれかに記載の方法において、X線源(11)のX線管(12)は、銀アノードを有し、X線(15)のエネルギー領域は、銀のKα線近くに、25.5keVの値または25.5keVの領域に選択されることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の方法において、X線源(11)から放出されるX線(15)の中心軸線(A)の領域に、第一の遮蔽体(24)が配置され、当該遮蔽体を用いて、X線源(11)から出た後に、X線(15)の一部が遮られることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、第一の遮蔽体(24)は、板状、特に円板状に形成され、その面の拡がりを中心軸線(A)に対して直交させるように配向され、X線(15)の一部が、X線ミラー(17)に向かって第一の遮蔽体(24)の脇を抜け、それにより外側に向かって扇形に広げられ、次にX線ミラー(17)の鏡面(18)に当たることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の方法において、第一の遮蔽体(24)は、貫通口(25)を有した開口絞り(L)として又はコリメータ(K)の形態で形成され、それにより、X線の一次ビームの軸線に近い一部(15Z)が、貫通口(25)若しくはコリメータ(K)を通り抜け、次に、X線ミラー(17)の鏡面(18)に当たらないように、X線ミラー(17)の中央の開口部(27)を多結晶製品(1)に向かって通過して行くことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法において、開口絞り(L)の貫通口(25)の直径若しくはコリメータ(K)の直径および縦方向長さは、X線の一次ビームの軸線に近い一部であって、発散角が10°までの一部(15Z)を通過させるように選択されていることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載の方法において、中心軸線(A)の近く又はその上を進んで行くX線の一部(15Z)は、適したフィルタ(F)により単色化され、好ましくは、タングステンアノードの場合に、フィルタ(F)は、材料がイッテルビウムまたはハフニウムであるか又はイッテルビウムまたはハフニウムの材料から構成されているか、モリブデンアノードの場合に、フィルタ(F)は、材料がジルコンであるか又はジルコンの材料から構成されているか、或いは、銀アノードの場合に、フィルタ(F)は、材料がロジウムであるか又はロジウムの材料から構成されているかの少なくともいずれかであることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の方法において、単色化されるか或いは集束されるかの少なくともいずれかのX線(15
m,f,15Z)は、多結晶製品(1)を通り抜けてくることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、多結晶製品(1)は、最大30mmの厚さ、好ましくは最大25mm、さらに好ましくは最大20mm、さらに好ましくは最大15mm、さらに好ましくは最大10mm、さらに好ましくは最大5mmの厚さを有していることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項12または13に記載の方法において、X線源(11)から放出されるX線(15)の中心軸線(A)上に、X線検出器(13)に隣接させて第二の遮蔽体(14)が配置され、それにより、単色化されて少なくとも中心軸線(A)上を進んで行くX線(15Z)が、多結晶製品(1)を通り抜けてきた後に、第二の遮蔽体(14)により遮られることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1から11のいずれかに記載の方法において、単色化されるか或いは集束されるかの少なくともいずれかのX線(15
m,f,15Z)が少なくとも多結晶製品(1)の表面近接層(2)で反射されることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法において、多結晶製品(1)は、少なくとも0.1mmの厚さ、好ましくは0.2mm、さらに好ましくは0.3mm、さらに好ましくは0.4mm、さらに好ましくは0.5mm、さらに好ましくは0.6mm、さらに好ましくは0.7mm、さらに好ましくは0.8mm、さらに好ましくは0.9mm、さらに好ましくは1mm、さらに好ましくは少なくとも2mm、さらに好ましくは少なくとも3mm、さらに好ましくは少なくとも4mm、さらに好ましくは少なくとも5mm、さらに好ましくは少なくとも6mm、さらに好ましくは少なくとも7mm、さらに好ましくは少なくとも8mm、さらに好ましくは少なくとも9mm、さらに好ましくは少なくとも10mm、さらに好ましくは少なくとも20mm、さらに好ましくは少なくとも100mmの厚さまたはさらに好ましくは200mmを上回る厚さを有することを特徴とする方法。
【請求項17】
多結晶製品
(1)の製造または品質検査中にX線回折を用いて多結晶製品
(1)の材料特性を特定するための装置(10)であって、
少なくとも一つのX線源(11)と、少なくとも一つのX線検出器(13)とを有し、X線源(11)により生成されたX線(15)が、X線ミラー(17)によって多結晶製品(1)の表面(2)へと放出可能とされ、そこから生じるX線(15)の回折像がX線検出器(13)により検出可能とされている装置において、
X線ミラー(17)は、中央の開口部(27)を有する回転対称のキャリア本体(26)を有し、X線源(11)により生成されるX線(15)が前記X線ミラー(17)を通過しながら誘導可能とされ、キャリア本体(26)の内周面(28)に鏡面(18)が形成され、X線(15)が当該X線ミラー(17)により単色化されるとともに多結晶製品(1)
およびX線検出器(13)に向けて集束
され、或いは多結晶製品(1)に向けて集束され、
X線検出器(13)は、面検出器の形態で形成されていることを特徴とする装置。
【請求項18】
請求項17に記載の装置(10)において、キャリア本体(26)がトロイダル形状または断面において円環状に形成されていることを特徴とする装置。
【請求項19】
請求項18に記載の装置(10)において、X線ミラー(17)の鏡面(18)は、X線源(11)から放出されるX線(15)の中心軸線(A)に関して球形に湾曲させて又は円筒形に形成されていることを特徴とする装置。
【請求項20】
請求項18または19に記載の装置(10)において、X線ミラー(17)の鏡面(18)が高配向性グラファイト結晶(20)から構成されていることを特徴とする装置。
【請求項21】
請求項20に記載の装置(10)において、高配向性グラファイト結晶は、フィルム状コーティング(20)の形態でキャリア本体(26)の内周面(28)に配置されていることを特徴とする装置。
【請求項22】
請求項20または21に記載の装置(10)において、高配向性グラファイト結晶(20)は、キャリア本体(26)の内周面(28)に物理的または化学的に形成されていることを特徴とする装置。
【請求項23】
請求項20から22のいずれかに記載の装置(10)において、高配向性グラファイト結晶(20)またはグラファイト結晶フィルム(20)は、それぞれ結晶学的に高配向性の熱分解グラファイト(HOPG,HAPG)から構成されていることを特徴とする装置。
【請求項24】
請求項17から23のいずれかに記載の装置(10)において、X線源(11)とX線ミラー(17)との間に配置され、X線の一部がX線源(11)から出た後に遮られる第一の遮蔽体(24)を特徴とする装置。
【請求項25】
請求項24に記載の装置(10)において、第一の遮蔽体(24)は、板状、特に円板状に形成され、その面の拡がりを、X線源(11)から放出されるX線(15)の中心軸線(A)に対して直交させるように配向されていることを特徴とする装置。
【請求項26】
請求項24または25に記載の装置(10)において、第一の遮蔽体(24)は、貫通口(25)を有する開口絞り(L)またはコリメータ(K)として形成され、好ましくは、開口絞り(L)の貫通口(25)の直径若しくはコリメータ(K)の直径と縦方向長さが、貫通口(25)若しくはコリメータ(K)を通り抜けるX線の一次ビームの軸線に近い一部(15Z)が発散角10°まで通過させられるように選択されていることを特徴とする装置。
【請求項27】
請求項17から26のいずれかに記載の装置(10)において、X線の一次ビームの軸線に近い一部(15Z)を単色化するのに用いられるフィルタ(F)であって、好ましくは、タングステンアノードの場合に、材料がイッテルビウムまたはハフニウムであるか或るいはイッテルビウムまたはハフニウムの材料から構成され、モリブデンアノードの場合に、材料がジルコンであるか又はジルコンの材料から構成されているか、或いは、銀アノードの場合に材料がロジウムであるか又はロジウムの材料から構成されているかの少なくともいずれかであるフィルタ(F)を特徴とする装置。
【請求項28】
請求項17から27のいずれかに記載の装置(10)において、X線源(11)のX線管(12)は、タングステン(W)、モリブデン(Mb)および/または銀(Ag)から構成されている少なくとも一つのアノードを有し、好ましくは、X線管(12)は、複数のアノードを有し、それらのアノードは、タングステンアノード、モリブデンアノードおよび/または銀アノードから形成されていることを特徴とする装置。
【請求項29】
請求項17から28のいずれかに記載の装置(10)において、X線源(11)とX線検出器(13)は、それぞれ多結晶製品(1)の異なる側に配置され、X線源(11)により生成されたX線(15)は、多結晶製品(1)を通り抜けることを特徴とする装置。
【請求項30】
請求項29に記載の装置(10)において、X線源(11)から放出されるX線(15)の中心軸線(A)上に、X線検出器(13)に隣接させて配置されている第二の遮蔽体(14)を特徴とする装置。
【請求項31】
請求項17から28のいずれかに記載の装置(10)において、X線源(11)とX線検出器(13)は、多結晶製品(1)の同じ側に配置され、X線源(11)により生成されたX線(15)は、多結晶製品(1)の表面(2)で反射されることを特徴とする装置。
【請求項32】
多結晶製品
(1)の製造または品質検査中にX線回折を用いて多結晶製品
(1)の材料特性を特定するための方法であって、請求項17から31のいずれかに記載の装置が使用される方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分おいて書きに記載の、多結晶製品、特に金属製品の材料特性を特定するための方法および請求項17の前提部分おいて書きに記載の、対応する或いは同じ目的のために使用される装置に関する。
【0002】
従来技術より、金属ストリップおよび金属シート、特に熱間圧延および冷間圧延および/または焼きなましされたFe、Al、Ti、Niその他の金属の合金が、連続的な製造の途中でさらに監視若しくは点検され、それにより出来上がった製品の特性を管理することが公知である。同じように、このことは例えばAl2O3またはZrO2製の基板などのセラミック材料についても言える。プロセスパラメータ、特に熱間圧延ライン、冷間圧延ライン、焼きなましライン及び検査ラインにおけるシート温度および/またはシート速度を制御することで、X線撮像による異方性材料特性のオンライン特定を用いながら製品特性を最適化することができる。
【0003】
異方性の結晶性材料特性を特定するためにX線構造解析を用いることは、実験室規模では従来技術の一つに挙げられる。この方法は、精確に集束された或いはコリメートされた略平行なX線ビームがサンプルに向けられ、サンプルの結晶格子で回折されることに基づいている。その回折角は、ブラッグの式に従い、格子定数とX線の波長に依存する。生じた回折像は、検出器により撮像される。検出器により撮像された回折像の品質と情報内容は、検出器に到達する光子の数に依存し、従って、X線の強度と露光時間に依存する。
【0004】
特許文献1より、圧延されたシートおよびストリップを、これらを透過させるように照射するX線ビームを用いて組織解析する方法および装置が知られている。この場合、調査される材料の結晶格子構造におけるX線ビームの回折が解析され、そこから組織の数値が計算される。このとき使用される検出器は、エネルギー分散型であり、多色X線で動作する。このような技術は、同じく、Hermann-J. Kopineckらによる論文(「Industrial on-line texture determination in rolled steel strips」Journal of Nondestructive Evaluation,第12巻,第1号,1993年)からも知られている。
【0005】
さらに、X線構造解析に関連して、単色X線を必要とする角度分散型の検出器を使用することも知られている。角度分散型の方法に必要な単色X線は、通常、目的の波長のみを通過させる結晶フィルタにより引き出される。次に、X線ビームは、X線光学ユニット、コリメータまたはキャピラリによって集束されたビームまたはコリメートされたビームにまとめられる。
【0006】
透過法または反射法における産業用オンラインX線構造解析では、解析可能で統計的に意味のある調査対象材料の回折像を生成するために、できるだけ短い時間で最大限可能なサンプル量を照射しなければならない。利用できるX線源の有効に使える強度が低いために、これまでのところ、検出器に長い露光時間が必要になり、その長い露光時間が、この方法を薄いストリップと吸収が少ないワークに制限している。この測定をプロセス制御に用いる場合には、制御の応答時間が長くなり、その結果、プロセスフローの妨げ並びに生産性と製品品質の低下をまねくことになる。
【0007】
有効に使えるX線が少ないのは、X線管が強く発散する円錐状の一次ビームを生成することに起因するものである。従って、X線光子の一部しかサンプル方向に放出されない。集束に用いられるX線光学ユニットとキャピラリは、X線強度のかなりの部分を吸収する。しかも、とりわけキャピラリは、例えばタングステンKα放射線等の短波長のX線を用いる場合、キャピラリ壁における全反射の角度が不十分なせいで効果的ではない。
【0008】
特許文献3より、X線構造分析を使用して金属ストリップ上の亜鉛メッキ層の厚さを調査することが知られている。それで、この文献によれば、金属ストリップ上のコーティングされた亜鉛層がその厚さに関して解析されるが、亜鉛層の組織および金属ストリップの組織は調査されない。
特許文献2は、冶金学的な製造中の金属製品の特性の、X線回折の原理に従った非接触で非破壊的な特定を開示する。そこでは、X線源とX線検出器を用いて金属製品の微細構造が決定され、X線源とX線検出器は、それぞれ稼動しながら冷却される撮像チャンバ内に配置され、点検対象の金属製品は、X線源とX線検出器の間を通過させるように移動させられる。その際にX線を束ねるために用いられるコリメータは、サンプルの法線方向にのみビームを通過させる管および/またはディスクから構成される。従って、発散するX線の大部分が遮蔽される。その一方、特に透過法では、高い吸収性のせいで、露光時間を短縮させ且つサンプル厚もさらに分厚くできる高コントラストで統計的に意味のある高解像度の回折像を生成するためには、高いビーム強度が必要である。
特許文献4およびTamuraらの論文(「Submicron x-ray diffraction and its applications to problems in materials and environmental science」Review of Scientific Instruments,第73巻,第3号,2002年3月1日発行,第1369-1372頁)より、それぞれ、請求項1の前提部分おいて書きに記載の一般の方法および請求項17の前提部分おいて書きに記載の一般の装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】欧州特許第0352423号明細書
【文献】国際公開第2017/202904号
【文献】欧州特許出願公開第1233265号明細書
【文献】欧州特許出願公開第3372994号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明は、多結晶製品のその材料特性に関する解析を最適化するとともに、より多くの異なる製品類に拡張することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、請求項1の特徴を有する方法および請求項17の特徴を有する装置により解決される。本発明の有利な発展形態は、従属請求項に規定されている。
【0012】
本発明は、少なくとも一つのX線源および少なくとも一つのX線検出器を用いたX線回折により、多結晶製品、特に金属製品の製造または品質検査中に多結晶製品、特に金属製品の材料特性を特定するための方法を提供する。この方法では、X線源により生成されたX線が、多結晶製品の表面に向けられ、そこから生じたX線の回折像が、X線検出器により撮像される。ここで使用されるX線ミラーは、回転対称に形成され、その内周面に鏡面を有し、X線源から出た後に、X線は、X線ミラーを通して誘導され、X線は、X線ミラーの鏡面でブラッグ反射され、このX線ミラーによって単色化されるとともに多結晶製品および/またはX線検出器に向けて集束された後、金属製品の表面に当たり、X線検出器は、面検出器の形態で形成されている。
【0013】
同様に、本発明は、多結晶製品、特に金属製品の製造または品質検査中にX線回折を用いて多結晶製品、特に金属製品の材料特性を特定するための装置も提供する。このような装置は、少なくとも一つのX線源と、少なくとも一つのX線検出器とを有し、X線源により生成されたX線が多結晶製品の表面へと放出可能とされ、そこから生じたX線の回折像がX線検出器により検出可能とされている。この装置はさらに、中央の開口部を有する回転対称のキャリア本体を有するX線ミラーを有し、当該X線ミラーは、X線源により生成されたX線が当該X線ミラーを通過しながら誘導可能とされるように設けられ、キャリア本体の周面に鏡面が形成され、X線は、X線ミラーによって単色化されるとともに多結晶製品および/またはX線検出器に向けて集束される。このX線検出器は、面検出器の形態で形成されている。
【0014】
本発明によって材料特性を特定することができる多結晶製品は、金属のストリップおよびシート、例えば、熱間圧延と冷間圧延および/または焼きなましされたFe、Al、Ti、Niその他の金属の合金であり得る。これらに代えて、多結晶製品は、セラミック材料、特にAl2O3またはZrO2製の基板から構成されていてもよい。
【0015】
本発明は、基本的に、X線ミラーおよびそれに付属の鏡面を使用することによって、生成されたX線が調査対象の多結晶製品に向けて集束されるか或いはX線検出器上に集束されるかの少なくともいずれかであり、その際に、X線管の多色の放射線が殆ど損失無く単色化されるという知見に基づいている。これにより、調査対象の製品に向けられるX線の、有効に作用若しくは使用可能な強度が有利にも増加することになる。
【0016】
本発明で使用に供されるX線ミラーは、モノクロメータに取って代わり、その結果、通常であればモノクロメータ若しくはKβ除去フィルタによって引き起こされる吸収損失を回避する。加えて、一次のX線が集束または平行化される。従来の多層膜系と比較すると、上述のX線ミラーの構造は、例えば真空を常に保ち続ける必要がないため、ビーム収量の点で遥かに効果的であり、動作時に、より高い費用対効果で使用することができる。
【0017】
本発明のさらなる利点は、X線管により生成される一次ビームの強度の比較的良好な収量を通じて、制御の応答時間が短縮され、さらに、X線構造解析の原理をより分厚い製品(例えば金属のストリップ)およびより多くの吸収が生じる材料にまで拡張できることにある。本発明を用いることで、低損失のX線ビームの集束若しくは平行化の効果がもたらされ、これにより、回折される光子数が多くなり、それに伴いX線の有効強度が増加し、回折像の質が向上して、それによりX線測定の統計的な信頼性が高まることになる。
【0018】
本発明の有利な発展形態において、X線ミラーの鏡面は、X線源から放出されるX線の中心軸線に関して球形に湾曲させて或いは円筒形に形成されている。ここで、X線ミラーの鏡面は、例えば上記の回転対称のキャリア本体(このキャリア本体は、本発明の装置の一部である。)の内周面に着設されたフィルム状コーティングの形態による高配向性グラファイト結晶から構成されていてもよい。いずれの場合であれ、X線管から放出された放射線は、湾曲したグラファイト結晶フィルム上でブラッグ反射により集束されるとともに単色化される。焦点は、フィルムの曲率(湾曲)によって設定される。
【0019】
X線ミラーのキャリア本体に関しては、このキャリア本体が、好ましくはトーラスの形に、つまりトロイダル形状または断面において円環状に形成されていることをここで別途指摘しておく。いずれの場合であれ、この形状の場合、キャリア本体の中央の開口部を通してX線がX線ミラーの内側に入り込み、X線ミラーを通り抜けてくることもできることが重要である。
【0020】
本発明の有利な発展形態において、X線源のX線管は、タングステンアノード、モリブデンアノードまたは銀アノードの少なくともいずれかを有していてもよい。この場合、X線ミラーの鏡面は、特にその湾曲(曲率)が次のように形成されている。すなわち、X線管により生成されたX線が、ブラッグ反射の際に、そのエネルギー領域に関してアノード材料の予め決まった輝線近くに選択されるように形成されている。
【0021】
X線源のX線管がタングステンアノードを有する場合、X線のエネルギー領域は、タングステンのKα線近くに、60keVの値または60keVの領域に選択される。
【0022】
X線源のX線管がモリブデンアノードを有する場合、X線のエネルギー領域は、モリブデンKα線近くに、17.5keVの値または17.5keVの領域に選択される。
【0023】
X線源のX線管が銀アノードを有する場合、X線のエネルギー領域は、銀のKα線近くに、25.5keVの値または25.5keVの領域に選択される。
【0024】
上述したタングステン、モリブデンまたは銀の材料に関しては、X線源のX線管のアノードは、これらの材料から製造されているのでもよいし或いは少なくともこれらの材料を含むのでもよいことをここで別途指摘しておく。
【0025】
本発明による多結晶製品の材料特性の特定は、透過法の原理に従って又は反射法の原理若しくは再帰反射法の原理に従って行なうことができる。
【0026】
透過法の原理では、単色化された及び/又は集束されたX線は、多結晶製品を貫いて通り抜けてくる。この場合、一方ではX線源が、他方ではX線検出器が、それぞれ多結晶製品の異なる側に配置されている。
【0027】
本発明による方法の有利な発展形態において、この方法が透過法の原理に基づいているとき、多結晶製品は、最大30mmの厚さ、好ましくは最大25mm、さらに好ましくは最大20mm、さらに好ましくは最大15mm、さらに好ましくは最大10mm、さらに好ましくは最大5mmの厚さを有している。上述の値に関しては、これがそれぞれ多結晶製品の厚さに関する可能な上限であり得ることは言うまでもない。
【0028】
上で説明したように、本発明による方法は、反射法の原理若しくは再帰反射法の原理に従っても実行することができる。この場合、X線源とX線検出器は、多結晶製品の同じ側に配置され、X線源により生成されたX線は、少なくとも多結晶製品の表面近接層上または表面近接層内において反射される。
【0029】
本発明による方法の有利な発展形態において、この方法が反射法の原理若しくは再帰反射法の原理に基づいているとき、多結晶製品は、少なくとも0.1mmの厚さを有することができる。この多結晶製品は、好ましくは、0.2mm、さらに好ましくは0.3mm、さらに好ましくは0.4mm、さらに好ましくは0.5mm、さらに好ましくは0.6mm、さらに好ましくは0.7mm、さらに好ましくは0.8mm、さらに好ましくは0.9mm、さらに好ましくは1mm、さらに好ましくは少なくとも2mm、さらに好ましくは少なくとも3mm、さらに好ましくは少なくとも4mm、さらに好ましくは少なくとも5mm、さらに好ましくは少なくとも6mm、さらに好ましくは少なくとも7mm、さらに好ましくは少なくとも8mm、さらに好ましくは少なくとも9mm、さらに好ましくは少なくとも10mm、さらに好ましくは少なくとも20mm、さらに好ましくは少なくとも100mmの厚さまたはさらに好ましくは200mmを上回る厚さを有することもできる。上述の値に関しては、これがそれぞれ多結晶製品の厚さに関する可能な下限であり得ることは言うまでもない。
【0030】
本発明による方法が反射法の原理若しくは再帰反射法の原理に基づく可能性に関して、補足的に、多結晶製品の表面上のコーティングを調査し、それに基づいて少なくとも一つの材料特性を特定することもこれにより可能であるということを指摘しておいてもよい。
【0031】
本発明のさらなる長所は、以下のようになる:
-サンプル上若しくは調査対象の多結晶製品上における有効に使用できるX線強度の増加。
-検出器上におけるより鮮明で詳細な回折像の生成。
-集束された高エネルギーのX線を透過法で用いることにより、厚さ>>1mmのより分厚いストリップおよびワークへの適用領域の拡大。
-従来のX線ではこれまで調査できなかった吸収性のより高い材料(例えば、亜鉛、銅、真鍮その他の銅合金)へのさらなる適用領域の拡大。
-結晶方位についてのさらなる材料特性の特定;特に、例えば異方性の塑性特性および異方性の弾性特性、電磁気学的特性、再結晶度および/または粒径等の物理機械的なパラメータの特定。
-材料処理プラントにおける応答時間の短縮と制御の改善。
【0032】
以下に、おおまかに簡略化された図面に基づき、本発明の好ましい実施例を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】第一の実施形態による本発明の装置を示す図である。
【
図2】第二の実施形態による本発明の装置を示す図である。
【
図3】調査対象の製品に向けてX線を集束させるためのそれぞれ異なる変形例を示す図である。
【
図4】調査対象の製品に向けてX線を集束させるためのそれぞれ異なる変形例を示す図である。
【
図5】調査対象の製品に向けてX線を集束させるためのそれぞれ異なる変形例を示す図である。
【
図6】光量子フラックスによるビーム強度の例示的な説明図である。
【
図7】本発明の装置を生産プラントに使用した場合の簡略化された応用例を示す図である。
【
図8】生産プラントに本発明の装置を使用した場合のさらに他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に、多結晶製品の少なくとも一つの材料特性をその製造中またはそれに付随する品質検査中に決定するための本発明による装置10およびそれに対応する方法の好ましい実施形態を
図1-8を参照して示すとともに説明する。図中の同じ特徴には、それぞれ同じ符号が付されている。図面は、単に簡略化して特に縮尺無しで表されていることをここで別途指摘しておく。
【0035】
図1には、多結晶製品、特に金属製品1の少なくとも一つの材料特性を透過法の原理に従って特定できるように用いられる本発明の装置10の第一の実施形態が簡略化して示されている。
【0036】
この装置10は、少なくとも一つのX線源11および少なくとも一つのX線検出器13を有している。これに関して、
図1は、X線源11とX線検出器13が、それぞれ多結晶製品1の異なる側に配置されていることを示している。
【0037】
X線源11は、アノード22を備えたX線管12を有する。このアノード22は、タングステン、モリブデンまたは銀の材料から構成されている或いはこれらの材料の少なくとも一つを含むことができる。
【0038】
装置10は、X線源11と調査対象の製品1の間に配置されたX線ミラー17を有している。X線ミラー17は、回転対称に形成され、その内周面に鏡面18(
図3参照)を有している。X線ミラー17についてのさらなる詳細は、以下に別途説明する。X線源11により生成されたX線15には、中心軸線Aがある。
【0039】
X線源11から放出されたX線15は、先ずX線ミラー17を通過しながら誘導される。このときX線15は、ブラッグ反射され、X線は単色化されるとともに多結晶製品1に向けて集束された後、製品1の表面2に当たる。
【0040】
図1では、X線ミラー17の鏡面でのブラッグ反射により単色化されて多結晶製品1に向けて集束されたX線の一部は、“15
m,f”の符号で表されている。追加的または代替的に、単色化されたX線15
m,fは、X線検出器13に向けても集束させることができる。
【0041】
図1の実施形態では、X線15
m,fは、多結晶製品1に当たった後、製品1を通り抜ける途中で材料の結晶格子において回折される。初めに予め説明したように、回折角は、ブラッグの式に従って材料の格子定数と入射するX線の波長に依存する。
【0042】
図1では、生じたX線の回折像は、“16”の符号で表されており、この回折像が次にX線検出器13で撮像される。このとき、生じた回折像16が中心軸線Aに関して或いは中心軸線Aに対して扇形に広げられる角度は、例えば、それぞれ“2θ
1”および“2θ
2”の符号で表されている。
【0043】
X線検出器13が位置する製品1の側には、X線検出器に隣接させて第二の遮蔽体14(“ビームストップ”)が配置されている。第二の遮蔽体14は、中心軸線A上において製品1を通り抜けてくる、回折を受けないX線が遮られ、それによりX線がX線検出器13に届かなくなる結果、起こり得る破損から検出器が保護されるという効果を発揮する。
【0044】
透過法の原理に従う
図1の実施形態を用いた多結晶製品1の調査方法は、露光時間並びにX線の波長と強度によっても、また、ビームを通過させる対象の製品1の厚さによっても制限されている。それにもかかわらず、透過法の原理に従ったこのような測定方法には、製品1の(材料の)特性をその厚さ全体に亘って把握することができるという長所がある。
【0045】
いずれにせよ、透過法の原理に従った測定方法は、特に、厚さが薄い製品1、例えば、厚さが10mmより薄い、好ましくは5mmより薄い、さらに好ましくは1mmより薄い場合もある薄い金属シートまたは鋼板に適している。
【0046】
図2には、多結晶製品、特に金属製品の少なくとも一つの材料特性を反射法ないし再帰反射法の原理に従って特定できるように用いられる本発明の装置10の第二の実施形態が簡略化されて示されている。
図1の実施形態とは違って、この場合には、X線検出器13は、調査対象の多結晶製品1の、X線源11と同じ側に配置されている。
【0047】
反射法の原理に従った
図2の実施形態を用いた多結晶製品1の調査方法の場合、製品1の表面2に斜めに入射するX線ビームが、ブラッグの式に従って結晶格子において反射される。ビームが通過する表面層の厚さは、入射角と露光時間だけでなく、X線源の波長と強度にも依存する。再帰反射法は、表面に近い領域にしか適用できないものの、この方法は、比較的厚い製品1、例えば、厚さが10mmより厚い、好ましくは100mmより厚い、さらに好ましくは200mmより厚い金属シートまたは鋼板の場合にも適用できる。
【0048】
図1に図示されている場合と同様に、
図2の実施形態では、生じた回折像は、“16”の符号で表されており、この回折像は、多結晶体1の表面2で反射されたX線から生じる。詳しくはこのとき、得られる回折角も中心軸線Aに対して計測され、例えば、それぞれ“2θ
1”および“2θ
2”の符号で表されている。
【0049】
その他の点では、
図2の実施形態では、X線ミラー17により単色化されて集束されたX線15
m,fは、
図1の場合と同様に生成することができるので、繰返しを避けるために
図1に対する説明を参照されたい。
【0050】
以下に、集束されたおよび/または単色化されたX線を生成するための装置10の詳細とともに他の変形例を
図3-5を参照しながら説明する。
図3-5による変形例は、それぞれ択一的なものとして理解されるべきであり、
図1による本発明の装置10の第一の実施形態の場合にも、
図2による第二の実施形態の場合にも使用することができる。
【0051】
図3は、X線ミラー17を通る簡略化された縦断面図を示す。
【0052】
X線ミラー17は、回転対称のキャリア本体26を有し、このキャリア本体は、好ましくはトロイダル形状若しくはトーラスの形に形成されているか又は断面で円環状に形成されており、いずれの場合も中央の開口部27を備えている。
【0053】
キャリア本体26の内周面28には、前に既に述べたX線ミラー17の鏡面18が形成されているか或いは備えられている。
【0054】
X線源11および付属のX線管12(
図3の画像領域の左側に示されている)から放出されるX線15の中心軸線Aに関して、X線ミラー17の鏡面18は、好ましくは球形に湾曲させて形成されている。
【0055】
X線ミラー17の鏡面18は、例えば、フィルム状コーティング20の形態でキャリア本体26の内周面28に着設されている高配向性グラファイト結晶から構成されていてもよい。
【0056】
これに代えて、高配向性グラファイト結晶が、キャリア本体26の内周面28に物理的または化学的に形成されているのでもよい。
【0057】
いずれの場合も、高配向性グラファイト結晶またはグラファイト結晶フィルム20は、それぞれ結晶学的な高配向性熱分解グラファイト(HOPG,HAPG)から構成されていてもよい。
【0058】
図3の変形例では、X線管12とX線ミラー17との間に、例えば、平板状のディスクの形態の第一の遮蔽体24が配置されている。
【0059】
図3における領域Iは、側面視した第一の遮蔽体24を拡大したものを示し、この遮蔽体が、その面の拡がりを中心軸線Aに対して直交させて、つまり、中心軸線Aに対して90°の角度にして配置されていることを明確に表している。
【0060】
X線管12から放出されたX線15は、先ず第一の遮蔽体24に当たる。このとき、第一の遮蔽体24を用いることで、X線の一部がその外周側を通り越していき(脇を抜けていき)、それにより外側に向かって扇形に拡げられるという効果が得られる。
【0061】
外側に扇形に拡げられたX線15の一部は、そうして次にX線ミラー17の中に入って行き、その中で鏡面18上において反射される。
図1について既に説明したように、X線のこの一部は、次に、X線ミラー17の鏡面18でのブラッグ反射によって単色化された後、単色化されて集束されたX線15
m,fとして(
図3中右に向かって)多結晶製品1および/またはX線検出器13に向かってX線ミラー17を後にする。
【0062】
図4による変形例は、第一の遮蔽体24の形態においてのみ
図3の変形例とは異なる。
【0063】
図4の領域IIは、正面視した第一の遮蔽体24を拡大したものを示し、この遮蔽体が、貫通口25を有した開口絞りLとして形成されていることを明確に表している。それでもこの場合、第一の遮蔽体24が、
図3の領域Iに示されているように、その面の拡がりを中心軸線Aに対して直交させて配置されていることには変りはない。
【0064】
図4の変形例による第一の遮蔽体24に形成された貫通口25は、X線の一次ビームの軸線に近い(
図4において“15Z”の符号で表されている)一部が、先ずこの貫通口25を通り、次いで、X線ミラー17の中央の開口部27を通り抜け、その際に、X線ミラー17の鏡面18と接触したり相互作用したりすることがないという効果をもたらす。換言すれば、X線の一次ビームの軸線に近い一部15Zは、調査対象の多結晶製品1に向かってX線ミラー17の中央の開口部27を通過し、その際に、X線ミラーの鏡面18で反射されることがない。
第一の遮蔽体24のさらに他の効果は、
図3の変形例について既に説明したように、X線15が、X線ミラー17に向かって第一の遮蔽体24の外周側を通り越していくとともに外側へと扇形に拡げられるという点にあり、その効果は、
図4の変形例においても依然として保証されている。
【0065】
図4の変形例ではさらに、例えば、X線管12とX線ミラー17との間に配置することのできるフィルタFが設けられている。このフィルタFは、いかなる場合であれ、好ましくは中心軸線A上または少なくとも中心軸線A近くに配置され、貫通口25を通り抜けた後に中心軸線A近くまたは中心軸線A上を進んで行くX線の一部15Zが適切に単色化されるようにする。
【0066】
タングステンアノードの場合、フィルタFは、材料がイッテルビウムまたはハフニウムであるか或いはそういった材料から構成されている。さらに、このフィルタFに関して、このフィルタFは、モリブデンアノードの場合に材料がジルコンである又はジルコンの材料から構成されているか、或いはこのフィルタFは、銀アノードの場合に材料がロジウムであるか又はロジウムの材料から構成されているかの少なくともいずれかであることを指摘しておく。
【0067】
図4に図示したものとは違って、フィルタFは、例えば、X線ミラー17の右側であって、いかなる場合であれ調査対象の多結晶製品1の手前側の他の位置に配置することもできる。
【0068】
フィルタFを用いることで、軸線付近のX線の一部15Zが、多結晶製品1の表面2に当たる前に適切に単色化されるようになる。
【0069】
図4による変形例の場合に第一の遮蔽体24が開口絞りLとして形成されるのに用いられる上述した貫通口25の効果により、調査対象の多結晶製品1の表面2上において、X線の二つの光線部分、すなわち、X線ミラー17を用いて単色化され集束されたX線15
m,fも、X線の一次ビームの、フィルタFを通して単色化された軸線に近い一部15Zも、いずれも当たるという結果になる。X線のエネルギーが同じこれら二つの部分を用いて、つまり、
図1の装置10の第一の実施形態による透過法の原理或いは
図2の装置10の第二の実施形態による反射法の原理を用いて、調査対象の多結晶製品1の材料特性が特定される。
【0070】
図5による変形例は、第一の遮蔽体24の形態においてのみ
図4による変形例とは異なる。
図5の変形例では、第一の遮蔽体24は、特に管状のコリメータKの形態で形成されている。この種のコリメータKを用いることで、既に
図4の変形例に対するものと同じ効果、つまり、その外周部分において、そこからX線ミラー17に向かって外側に拡がるX線15の扇形の拡がりと、X線の一次ビームの、軸線に近い一部15Zの通過とのいずれもが得られる。
【0071】
図5の変形例の場合でも、X線ミラー17の鏡面18と相互作用するに至らない、X線の一次ビームの、軸線に近い一部15Zが適切に単色化されるのに用いられるフィルタFが設けられている。
【0072】
図4および
図5による変形例に関してここで別途強調しておいてもよいのは、X線の一次ビームの軸線に近い一部15Zが、発散角10°までそこを通過させられるように開口絞りLの貫通口25の直径或いはコリメータKの直径と縦方向長さが選択されているということである。
【0073】
これに代えて、貫通口25の直径或いはコリメータKの直径と縦方向長さに関する寸法を、X線の一次ビームの、そこを通過させられる軸線に近い一部15Zの発散角が10°より小さくなるように、例えば9.5°、9°、8.5°、8°、7.5°、7°、6.5°、6°、5.5°、5°の値またはさらに小さい値をとるように選択することも可能である。上記の例示的な値は、それらの間の全ての可能な値(例えば9.8°、9.4°、9.3°、8.6°、8.1°等々)をも含めて、いずれも発散角に対する上限値であり、その発散角が、貫通口25或いはコリメータKを通り抜けてくるときのX線の一次ビームの軸線に近い一部15Zに生じる。
【0074】
図6のグラフには、タングステンアノードを有するX線管12の一例に関して、光子エネルギーの関数としてのスペクトルによる光量子フラックスの二つのスペクトルA(X線光学系あり、コリメータとフィルタなし)とスペクトルB(コリメータとフィルタあり、X線光学系なし)とが示されている。これらのグラフから明らかとなるのは、光量子フラックスにより表されたビーム強度が、タングステン管のKα蛍光線付近のエネルギー領域において、X線ミラー17の形態のX線ミラー光学系を用いることで、おおよそ5倍にまで増加できるということである。
【0075】
図7のグラフは、生産ラインの一例に関連させて、調査対象の多結晶製品1、ここでは例えば金属若しくは鋼からなる帯状の材料について、時間若しくは炉の長さの関数としてのプロセスの推移に関して本発明の装置10の可能な配置を概略的に示している。
【0076】
最後に、
図8の描写を参照すると、図には、例えばスラブおよび/または鋼板などの帯状の材料1の生産ラインのさらに他の一例がかなり簡略化されて示されており、図中、紙面左側から右側に搬送が行なわれ、右端でリール106により巻き取られる。この生産ラインの他の可能な構成要素は、少なくとも一つのロールスタンド100、冷却セクション104および輸送セクション104から構成される。この生産ライン内で本発明の装置10を配置することのできるおよび/または本発明による方法に従った測定プロセスを実行することのできる可能な位置は、
図8中、符号“P1”、“P2”及び“P3”により象徴的に表されている。これに関して、本発明による装置10および対応する方法は、これらの位置P1-P3のうちの一つ又は複数において配置若しくは実行することができることは言うまでもない。
【0077】
上で説明した本発明の装置10の実施形態により、有効な一次ビーム強度を改善することができるとともに、それに伴って、調査される多結晶製品1上で生じる回折光線若しくは多結晶製品1を通過しながら生じる回折光線も改善することができる。これにより、さらなる以下の長所が得られる:
-装置10との関連で提供され得る制御応答時間の短縮。
-付加的な異方性材料特性の特定、特に結晶方位、再結晶率および粒径の特定に関する制御の改善。
-より分厚いストリップおよびワークへの応用の拡張。
-HOPG/HAPG光学系を使用することで、これまで使用されてきたKβ吸収フィルタに比べて著しい強度の向上がもたらされる。さらに、多層膜ミラーに比べて動作時および入手時にコスト上の利点が生じる。
-より短い露光時間、従って、移動する製品、特に焼きなましプラント若しくは圧延機内を走行するストリップ上におけるより高い解像度。
-より吸収性の高いワークへの応用の拡張。
-より強いコントラスト、より高い解像度およびより改善された計数統計を通じたより良好な測定結果。
-回折像からの直接的で斬新な高速の数学的組織解析。組織解析の結果に基づいてオンラインで機械的な特性値、例えば、弾性的な異方性の挙動若しくは塑性的な異方性の挙動(r値)を特定することができるので、連続的な品質保証が確保される。
-回折像からさらに粒径について述べることができる。
-角度分散型のデータ取得のための高速で読み取り可能な最新の半導体表面検出器を用いることにより、エネルギー分散型の測定方法の問題(強力な検出器冷却、結晶方位の浅い情報深さ)を回避することができる。
測定データを高速で読み取り、それを評価することで、制御の応答時間が改善する。
【符号の説明】
【0078】
1 多結晶の(例えば金属の)製品
2 (製品1の)表面
10 装置
11 X線源
12 X線管
13 X線検出器
14 第二の遮蔽体(“ビームストップ”)
15 X線
15m,f 単色化され集束されたX線
15Z 中心軸線A上またはその近くのX線の一部
16 (X線の)回折像
17 X線ミラー
18 (X線ミラー17の)鏡面
20 グラファイト結晶フィルム
22 (X線管12の)アノード
24 第一の遮蔽体(“ビームストップ”)
25 (遮蔽体24の)貫通口
26 キャリア本体
27 (キャリア本体26の)中央の開口部
28 内周面
100 ロールスタンド
102 冷却セクション
104 輸送セクション
106 リール
A 中心軸線
F フィルタ
K コリメータ
L 開口絞り
P1 (装置10のための)第一の可能な測定位置
P2 (装置10のための)第二の可能な測定位置
P3 (装置10のための)第三の可能な測定位置