(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】コバルト基合金造形物およびコバルト基合金製造物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 1/04 20230101AFI20230303BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20230303BHJP
B22F 10/25 20210101ALI20230303BHJP
B22F 10/34 20210101ALI20230303BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20230303BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20230303BHJP
C22F 1/10 20060101ALI20230303BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20230303BHJP
【FI】
C22C1/04 B
C22C19/05 Z
B22F10/25
B22F10/34
B22F3/24 C
C22C19/05 C
C22C30/00
C22F1/10 H
C22F1/10 J
C22F1/00 602
C22F1/00 628
C22F1/00 630A
C22F1/00 650A
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 630K
(21)【出願番号】P 2022091284
(22)【出願日】2022-06-06
【審査請求日】2022-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2021160757
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】江口 滋信
(72)【発明者】
【氏名】今野 晋也
(72)【発明者】
【氏名】太田 敦夫
(72)【発明者】
【氏名】杉山 健二
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 祥希
【審査官】清水 研吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-41627(JP,A)
【文献】特表2020-521873(JP,A)
【文献】国際公開第2020/121367(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108115136(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C
B22F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.001≦C<0.100mass%、
9.0≦Cr<20.0mass%、
2.0≦Al<5.0mass%、
13.0≦W<20.0mass%および
39.0≦Ni<55.0mass%を含み、残部がCoおよび不可避不純物であるCo基合金からなる多結晶体であり、
前記多結晶体の結晶粒の内部に形成された偏析セルを有し、前記偏析セルの平均サイズが1μm以上100μm以下であり、前記偏析セルがAlおよびCrを含むことを特徴とするCo基合金製造物。
【請求項2】
Mo≦3.0mass%、
Nb≦2.0mass%
Ti≦2.0mass%および
Ta≦2.0mass%のいずれか1種以上をさらに含む請求項1に記載のCo基合金製造物。
【請求項3】
0.001≦B<0.020mass%、
0.0001≦Zr<0.010mass%、
Mg≦0.10mass%および
Ca≦0.20mass%のいずれか1種以上をさらに含む請求項1または2に記載のCo基合金製造物。
【請求項4】
800℃における0.2%耐力が650MPa以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のCo基合金製造物。
【請求項5】
800℃における0.2%耐力が650MPa以上であることを特徴とする請求項3に記載のCo基合金製造物。
【請求項6】
800℃における引張強度が850MPa以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のCo基合金製造物。
【請求項7】
800℃における引張強度が850MPa以上であることを特徴とする請求項3に記載のCo基合金製造物。
【請求項8】
前記結晶粒の内部にγ´相が整合析出していることを特徴とする請求項1または2に記載のCo基合金製造物。
【請求項9】
前記結晶粒の内部にγ´相が整合析出していることを特徴とする請求項3に記載のCo基合金製造物。
【請求項10】
請求項1または2に記載のCo基合金製造物を製造する製造方法であって、Co基合金からなるワイヤを準備する工程と、
前記ワイヤを積層造形してCo基合金造形体を得る工程と、
前記Co基合金造形体を1150℃未満の温度で固溶化熱処理する工程と、
前記固溶化熱処理する工程後に時効熱処理してCo基合金製造物を得る工程と、を有することを特徴とするCo基合金製造物の製造方法。
【請求項11】
請求項3に記載のCo基合金製造物を製造する製造方法であって、Co基合金からなるワイヤを準備する工程と、
前記ワイヤを積層造形してCo基合金造形体を得る工程と、
前記Co基合金造形体を1150℃未満の温度で固溶化熱処理する工程と、
前記固溶化熱処理する工程後に時効熱処理してCo基合金製造物を得る工程と、を有することを特徴とするCo基合金製造物の製造方法。
【請求項12】
前記積層造形によって得た前記固溶化熱処理する工程前の前記Co基合金造形体が多結晶体の結晶粒の内部に形成した偏析セルを有し、前記偏析セルの平均サイズが1μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項10に記載のCo基合金製造物の製造方法。
【請求項13】
前記積層造形によって得た前記固溶化熱処理する工程前の前記Co基合金造形体が多結晶体の結晶粒の内部に形成した偏析セルを有し、前記偏析セルの平均サイズが1μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項11に記載のCo基合金製造物の製造方法。
【請求項14】
前記時効熱処理工程後の前記Co基合金製造物が前記結晶粒の内部に整合析出したγ´相を有することを特徴とする請求項12に記載のCo基合金製造物の製造方法。
【請求項15】
前記時効熱処理工程後の前記Co基合金製造物が前記結晶粒の内部に整合析出したγ´相を有することを特徴とする請求項13に記載のCo基合金製造物の製造方法。
【請求項16】
前記積層造形の熱源は、電子ビーム、レーザまたはCMTであることを特徴とする請求項10に記載のCo基合金製造物の製造方法。
【請求項17】
前記固溶化熱処理は、800℃以上1050℃以下であることを特徴とする請求項10に記載のCo基合金製造物の製造方法。
【請求項18】
前記固溶化熱処理は、800℃以上1050℃以下であることを特徴とする請求項11に記載のCo基合金製造物の製造方法。
【請求項19】
前記時効熱処理は、900℃で24時間保持した後、800℃で24時間保持することを特徴とする請求項10に記載のCo基合金製造物の製造方法。
【請求項20】
前記時効熱処理は、900℃で24時間保持した後、800℃で24時間保持することを特徴とする請求項11に記載のCo基合金製造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コバルト基合金造形物およびコバルト基合金製造物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コバルト(Co)基合金材は、ニッケル(Ni)基合金材とともに代表的な耐熱合金材料であり、超合金とも称されてタービン(例えば、ガスタービン、蒸気タービン)の高温部材に広く用いられている。Co基合金材は、Ni基合金材と比べて材料コストは高いものの耐食性や耐摩耗性が優れており、固溶強化し易いことから、タービン静翼や燃焼器部材として用いられてきた。
【0003】
従来のCo基合金材として、例えば下記特許文献1がある。特許文献1には、成分組成が0.001≦C<0.100mass%、9.0≦Cr<20.0mass%、2.0≦Al<5.0mass%、13.0≦W<20.0mass%、及び、39.0≦Ni<55.0mass%、を含み、残部がCo及び不可避的不純物からなり、上記不可避的不純物の内、Mo、Nb、Ti、及び、Taは、それぞれ、Mo<0.010mass%、Nb<0.010mass%Ti<0.010mass%、及び、Ta<0.010mass%、であるCo基合金が開示されている。特許文献1には、従来のCo基合金に比べて高温強度が高く、かつ、熱間加工性が従来のCo基合金と同等以上であり、鍛造に適したCo基合金を提供できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Xiangfang Xu, et al.: Enhancing mechanical properties of wire + arc additively manufactured INCONEL 718 superalloy through in-process thermomechanical processing, Material and Design 160 (2018) 1042-1051
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、産業用製品の製造において、切削や鋳造などの従来の加工法では製造が難しい複雑な形状を簡便に製造できるプロセスとして、積層造形(Additive Manufacturing;AM)が適用されるようになってきている。AM法の中でも、ワイヤを原料とするワイヤ積層造形(Wire Additive Manufacturing、以下「WAM」と称する)は、造形速度が速い、設備コストが低い、材料の歩留まりが良い等の利点があり、大きな金属部品を作る手法として工業製造部門から注目されている。タービンの高温部材の製造にもこのWAM法を適用すべく、例えば非特許文献1にはINCONEL(ハンティントン アロイズ コーポレイションの登録商標)718等のNi基合金を用いた造形方法が検討されている。しかしながら、上記Ni基合金のWAM造形体は従来のNi基合金鍛造材に比べて機械的強度の低下が大きく、十分な特性が得られていない。したがって、従来のNi基合金鍛造材およびCo基合金鍛造材に対して強度の低下が少なく、同程度の高温強度を有するWAM造形体の開発が望まれている。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、WAM法を用いて、従来のNi基合金鍛造材およびCo基合金鍛造材に対して強度の低下が少なく、また、従来のNi基合金鍛造材およびCo基合金鍛造材と同程度の高温強度を有し、かつ歩留まりの向上を実現するCo基合金製造物およびCo基合金製造物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、0.001≦C<0.100mass%、9.0≦Cr<20.0mass%、2.0≦Al<5.0mass%、13.0≦W<20.0mass%および39.0≦Ni<55.0mass%を含み、残部がCoおよび不可避不純物であるCo基合金からなる多結晶体であり、上記多結晶体の結晶粒の内部に形成された偏析セルを有し、上記偏析セルの平均サイズが1μm以上100μm以下であり、偏析セルがAlおよびCrを含むことを特徴とするCo基合金製造物である。
【0009】
また、上記目的を達成するための本発明の他の態様は、Co基合金からなるワイヤを準備する工程と、ワイヤを積層造形してCo基合金造形体を得る工程と、Co基合金造形体を1150℃未満の温度で固溶化熱処理する工程と、固溶化熱処理する工程後に時効熱処理してCo基合金製造物を得る工程と、を有することを特徴とするCo基合金製造物の製造方法である。
【0010】
本発明のより具体的な構成は、特許請求の範囲に記載される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、WAM法を用いて、従来のNi基合金鍛造材およびCo基合金鍛造材に対して強度の低下が少なく、また、従来のNi基合金鍛造材およびCo基合金鍛造材と同等以上の高温強度を実現するCo基合金製造物およびCo基合金製造物の製造方法を提供することができる。
【0012】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】Co基合金の造形後(熱源:CMT)に、固溶化熱処理および時効処理した組織を示すSEM観察写真
【
図2】Co基合金の造形後(熱源:CMT)に、固溶化熱処理および時効処理した組織を示すSEM観察写真
【
図3】Co基合金の造形後(熱源:電子ビーム)の組織を示すSEM観察写真
【
図4】Co基合金の造形後(熱源:電子ビーム)に、固溶化熱処理および時効処理した組織を示すSEM観察写真
【
図5】Co基合金の鍛造後に、固溶化熱処理及び時効処理した組織を示す光学顕微鏡ミクロ組織写真
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のCo基合金製造物とその製造方法について、製造方法のフローに沿って説明する。なお、本明細書において、Co基合金ワイヤを積層造形して得た造形体であり、熱処理前の物を「Co基合金造形体」と称し、Co基合金造形体に固溶化熱処理および時効処理を施した物を「Co基合金製造物」と称する。
【0015】
上述したように、本発明のCo基合金製造物の製造方法は、(1)Co基合金からなるワイヤを準備する工程、(2)ワイヤを積層造形してCo基合金造形体を得る工程(積層造形工程)、(3)Co基合金造形体を1150℃未満の温度で固溶化熱処理する工程(固溶化熱処理工程)および(4)固溶化熱処理する工程後に時効熱処理してCo基合金製造物を得る工程(時効処理工程)を有する。以下、各工程を詳述する。
【0016】
(1)Co基合金ワイヤの準備
本発明のワイヤ積層造形のワイヤを構成するCo基合金製造物を構成するCo基合金の組成は、以下のような元素を含み、残部がCo及び不可避的不純物からなる。添加元素の種類、その成分範囲、及び、その限定理由は、以下の通りである。
【0017】
(a)0.001≦C<0.100mass%
Cは、W及びCrと結合し、粒内及び粒界の炭化物生成に寄与する。粒状の炭化物の粒界への析出は、主に粒界強化に有効であり、熱間加工性及び高温強度を向上させる。特に、粒界強度の改善によって高温における伸び及び絞りが改善されるので、引張特性及びクリープラプチャー特性を向上させる効果が大きい。このような効果を得るためには、C含有量は、0.001mass%以上である必要がある。C含有量は、さらに好ましくは、0.005mass%以上である。
【0018】
一方、C含有量が過剰になると、炭化物の粒内生成の促進による粒内強度の上昇、及び、粒界へのフィルム状炭化物の析出によって、強度特性が低下する。従って、C含有量は、0.100mass%未満である必要がある。C含有量は、さらに好ましくは、0.050mass%未満である。
【0019】
本発明に係るCo基合金は、Cr含有量及びW含有量に加えてC含有量を最適化にすることによって炭化物を最適な形状で粒界に析出させ、これによって高温延性を高め、著しい特性の改善を達成した点が大きな特徴である。ここで「炭化物」とは、CとCr及び/又はWを主成分とする種々の炭化物全般を指す。
【0020】
(b)9.0≦Cr<20.0mass%
Crは、Oと結合し、表層に緻密なCr2O3層を形成するため、耐酸化性の改善に有効である。Cr含有量が少ないと、緻密なCr2O3層の生成が困難であり、十分な耐酸化性が得られない。また、Crは、Cと結合し、種々の炭化物を粒内及び粒界に生成するため、熱間加工性の向上及び高温延性の改善に寄与する。このような効果を得るためには、Cr含有量は、9.0mass%以上である必要がある。Cr含有量は、さらに好ましくは、10.0mass%、さらに好ましくは、10.5mass%以上である。
【0021】
一方、Cr含有量が過剰になると、融点が低下し、高温の機械的特性を低下させる原因となる。従って、Cr含有量は、20.0mass%未満である必要がある。Cr含有量は、さらに好ましくは、19.5mass%未満、さらに好ましくは、18.5mass%未満である。
【0022】
本発明に係るCo基合金は、Cr含有量を最適化することによって炭化物を最適な形状で析出させ、これによって高温延性の著しい改善を達成した点が大きな特徴のひとつである。
【0023】
(c)2.0≦Al<5.0mass%
Alは、Co3(Al、W)のL12型金属間化合物相(γ´相)の安定化元素であり、準安定相であるγ´相を安定相として析出させ、高温強度特性を改善させるために必要な元素である。Al含有量が少ないと、強度特性を向上させるのに十分な量のγ´相を生成させることができない。また、Alは、Crと同じくAl2O3の生成によって耐酸化性を改善する元素である。このような効果を得るためには、Al含有量は、2.0mass%以上である必要がある。Al含有量は、さらに好ましくは、2.5mass%以上、さらに好ましくは、3.0mass%以上である。
【0024】
一方、Al含有量が過剰になると、融点が低下し、高温特性(熱間加工性及び高温延性)を低下させる原因となる。従って、Al含有量は、5.0mass%未満である必要がある。Al含有量は、さらに好ましくは、4.5mass%未満、さらに好ましくは、4.3mass%未満である。
【0025】
なお、「Co3(Al、W)のL12型金属間化合物相(γ´相)」とは、Co、Al及びWのみからなるγ´相だけでなく、Coサイト及び/又は(Al、W)サイトの一部が他の元素に置換されたものも含まれる。
【0026】
(d)13.0≦W<20.0mass%
Wは、Co3(Al、W)のL12型金属間化合物相(γ´相)の安定化元素であり、高温強度に効果のあるγ´相を生成するのに必要な元素である。W含有量が少ないと、強度を向上させるのに十分な量のγ´相を生成させることができない。また、Wは、Cと結合し、種々の炭化物を生成する。粒界炭化物の析出は、高温強度特性、特に高温延性(伸び、絞り)の向上に有効である。このような効果を得るためには、W含有量は、13.0mass%以上である必要がある。W含有量は、さらに好ましくは、14.5mass%以上、さらに好ましくは、15.0mass%以上である。
【0027】
一方、W含有量が過剰になると、粒内及び粒界にA7B6で表されるμ相に代表される有害相を形成し、熱間加工性が著しく低下する。従って、W含有量は、20.0mass%未満である必要がある。W含有量は、さらに好ましくは、19.0mass%未満、さらに好ましくは、18.0mass%未満である。
【0028】
なお、「A7B6化合物(μ相)」とは、Co7W6由来の化合物であり、Aサイト(Coサイト)がNi、Cr、Al、Fe等により、また、Bサイト(Wサイト)がTa、Nb、Ti、Zr等により、それぞれ置換された化合物も含まれる。
【0029】
(e)39.0≦Ni<55.0mass%
Niは、Coサイトを置換し、(Co、Ni)3(Al、W)のL12型金属間化合物相を生成する。また、Niは、母相γ及び強化相γ´に均等に分配される。特に、γ’相のCoサイトがNiで置換されると、γ´相の固溶温度が上昇し、高温強度特性が向上する。このような効果を得るためには、Ni含有量は、39.0mass%以上である必要がある。Ni含有量は、さらに好ましくは、41.0mass%以上、さらに好ましくは、43.0mass%以上である。
【0030】
一方、Ni含有量が過剰になると、母相γの融点が低下し、熱間加工性が低下する。従って、Ni含有量は、55.0mass%未満である必要がある。Ni含有量は、さらに好ましくは、52.0mass%未満、さらに好ましくは、50.0mass%未満である。
【0031】
(f)Mo≦3.0mass%
Moは、母相であるγ相の固溶強化に寄与するとともに、μ相を安定化させるため、Wと併せて添加することも有効である。但し、過剰な含有は耐酸化性を低下させる。これらを考慮して、Moは3.0mass%以下の範囲とする。
【0032】
(g)Nb≦2.0mass%
(h)Ta≦2.0mass%
Nb及びTaは、γ´-(Ni,Co)3(Al,W,Ti,Nb,Ta)を安定化させる。但し、過剰な含有は金属間化合物δ-Ni3(Nb,Ta)を粒界に板状に析出させてクリープ強度を低下させてしまう。これらを考慮して、Nb及びTaはそれぞれ、2.0mass%以下の範囲内とする。
【0033】
(i)Ti≦2.0mass%
Tiは、Nb及びTaと同様にγ´-(Ni,Co)3(Al,W,Ti,Nb,Ta)を安定化させる。但し、過剰な含有は金属間化合物η-Ni3Tiを粒界に板状に析出させてクリープ強度を低下させてしまう。これらを考慮して、Tiは2.0mass%以下の範囲内とする。
【0034】
本発明に係るCo基合金は、上述した元素に加えて、以下のいずれか1以上の元素をさらに含んでいても良い。付加的な添加元素の種類、その成分範囲、及び、その限定理由は、以下の通りである。
【0035】
(j)0.001≦B<0.020mass%
(k)0.0001≦Zr<0.010mass%
B及びZrは、いずれも粒界の強化元素として働き、熱間加工性の改善を促す。このような効果を得るためには、B含有量は、0.001mass%が好ましい。また、Zr含有量は、0.0001mass%以上が好ましい。
【0036】
一方、B又はZrの含有量が過剰になると、いずれも加工性が低下する。従って、B含有量は、0.020mass%未満が好ましい。また、Zr含有量は、0.010mass%未満が好ましい。
【0037】
(l)Mg≦0.10mass%
(m)Ca≦0.20mass%
Mg及びCaは、いずれもSを固定し、熱間加工性の改善を促す。このような効果を得るためには、MgやCaを添加することが好ましい。
【0038】
一方、Mg又はCaの含有量がSに対して過剰になると、Mg又はCaの化合物を生成し、加工性を低下させる原因となる。従って、Mg含有量は、0.10mass%以下が好ましい。また、Ca含有量は、0.20mass%以下が好ましい。
【0039】
(2)積層造形工程
Co基合金ワイヤのワイヤ積層造形の熱源は、電子ビーム、レーザまたはCMT(Cold Metal Transfer)のいずれを使用しても良い。積層条件は、後述するCo基合金の組織を得ることができれば特に限定は無いが、電子ビームを用いる場合、熱源の出力:42kW以下、造形速度:3.18kg/hr以上11.34kg/hr以下が好ましい。また、CMTを用いる場合、熱源の出力:42.6W以上28.75kW以下、造形速度:1.6kg/hr以上3.5kg/hr以下が好ましい。
【0040】
また、いずれの熱源においても、熱源の出力P(kW)と単位時間当たりの積層量V(kg/hr)との関係が、0.0426<P<42かつ1.6<V<11.34を満たすように制御することが好ましい。
【0041】
積層造形後のCo基合金造形体のCo基合金造形体は、溶融凝固組織を有し、多結晶体である母相(γ相)の結晶粒内に平均サイズが1μm以上100μm以下の偏析セルが形成される。偏析セルの平均サイズは、SEM(Scanning Electron Microscope)による観察写真から偏析セルを10個選び、偏析セル間の長さを平均した値である。なお、本発明でいう偏析セルとは、積層造形における溶融凝固過程で形成される、デンドライト様構造を形成する途中段階の構造、またはデンドライト構造の少なくとも1つを含むものである。SEMによる観察写真において、セルの内部とセル間の境界領域の明暗に差異があり、色の濃い部分、または薄い部分で囲まれた領域を指す。SEM観察写真における明暗の差は、セル内部の平均組成と境界領域の平均組成とに差異があることを意味する。このように、偏析セルでは所定の合金成分がセル内部や境界領域に偏在している。
【0042】
(3)固溶化熱処理工程
Co基合金造形体を造形後、固溶化熱処理を行う。熱処理条件は、造形後の残留応力を解放するのに十分な温度以上で、かつ、上述した偏析セルが消失しない温度で行うことが好ましい。具体的には、800℃以上1150℃未満が好ましく、800℃以上1000℃未満がより好ましい。時間は、熱処理温度に応じて決定することが好ましい。熱処理条件の一例として、1050℃で2時間保持することができる。
【0043】
(4)時効処理工程
固溶化熱処理工程後、時効処理工程を行う。熱処理条件は、従来の条件を適用することができ、500℃以上1100℃以下、1~100時間で行うことができる。また、温度を2種類にする2段時効を行ってもよい。熱処理条件の一例として、900℃で24時間保持後、800℃で24時間保持することができる。
【0044】
時効処理後、本発明のCo基合金製造物が得られる。時効処理によって、上述した特許文献1と同様に、Co基合金の母相であるγ相の結晶粒内にγ´相が整合析出し、析出強化機構を構成する。
【0045】
本発明のコバルト基合金造形物の製造方法によれば、高温強度を有する材料を用いて積層造形が可能である。造形体で部材を製作する場合、鍛造材から製作する場合よりも加工しろ(例えば切削加工で切削粉として廃棄される部分)を大幅に削減することができるため、生産性を高めて歩留まりを向上することができる。
【実施例】
【0046】
本発明のCo基合金製造物と従来のCo基合金鍛造材および従来のNi基合金造形体の高温強度を評価した(実施例1~実施例6、比較例1~比較例4)。実施例1~6、及び比較例1~4の合金組成(mass%)を表1に示す。実施例1~6および比較例4の合金組成はCOWALOY(大同特殊鋼株式会社の登録商標)である。比較例1、2は、それぞれINCONEL625、及びINCONEL718であり、比較例3、はWASPALOYの合金組成である。
【0047】
【0048】
実施例1~6、および比較例1~4の造形体または鍛造品に対して固溶化熱処理、及び時効処理をした。各熱処理条件を表2に示す。実施例1は電子ビームで造形したCo基合金造形体に、実施例2~6はCMTで造形したCo基合金造形体に、それぞれ、固溶化熱処理および時効熱処理を施したものである。比較例1、2は、INCONEL625、INCONEL718のWAM造形体に対して固溶化熱処理、時効熱処理を施したものであり、比較例3、4はWASPALOYおよびCOWALOYの鍛造品に固溶化熱処理および時効熱処理を施したものである。比較例の熱処理条件が実施例と異なっているが、これは合金組成によって強化相の固溶温度や応力除去に必要な条件が異なるためである。表2の熱処理は各合金組成に適した条件となっている。
【0049】
【0050】
[微細組織観察]
図1および
図2は本発明の実施例2のCo基合金の造形後(熱源:CMT)、固溶化熱処理後および時効処理後の組織を示すSEM観察写真である。
図1および
図2中、薄い灰色部分は軽元素(アルミニウム(Al),クロム(Cr)等)であり、濃い灰色部分はCo,Ni,タングステン(W)等である。これらの組成は、反射電子像によるマッピングによって検出することができる。
【0051】
図1に示すように、造形後の組織は溶融凝固組織を有し、多結晶体である母相(γ相)の結晶粒内に平均サイズが1μm以上100μm以下の偏析セル1を有していた。この偏析セルは、Co基合金材をワイヤ積層造形することで現れる特徴的な組織である。偏析セル1の境界部には、W炭化物が析出していた。なお、偏析セル1は、固溶化熱処理後および時効処理後の結晶組織でも確認された。また、
図1よりも倍率の高い
図2に示すように、時効処理の後は、Co基合金の母相に整合析出したγ´相2が観察された。実施例2と同様の偏析セル1、及び時効処理後に析出したγ´相2は、実施例3から6(熱源:CMT)のCo基合金造形体においても確認された。
【0052】
図3および
図4は本発明の実施例1のCo基合金の造形後(熱源:電子ビーム)(
図3)、固溶化熱処理後および時効処理後(
図4)の組織を示すSEM観察写真である。
図3に示すように、熱源として電子ビームを用いた場合もCMTを用いた場合と同様に、造形後の結晶組織に偏析セル1が確認された。偏析セル1は固溶化熱処理後および時効処理後の結晶組織でも確認された。また時効処理後には、
図4に示すようにγ´相2が観察された。なお、偏析セル1の形状がCMTの場合と異なっているのは、熱源の違いに起因している。
【0053】
比較例1,2は熱源を電子ビームとしたWAM造形体である。本発明のWAM造形体と同様に溶融凝固過程で形成されるデンドライト構造(偏析セル)の存在は確認されたが、合金の組成が異なるため、時効処理後にγ´相は確認されなかった。また比較例3,4は鍛造で製造されており、本発明の偏析セルは確認されなかった。なお、参考として
図5に比較例4の鍛造体(鍛造後に、固溶化熱処理及び時効処理した組織)の光学顕微鏡ミクロ組織写真を示す。鍛造組織3が形成されており、本発明の偏析セルとは異なることが分かる。
【0054】
次に、高温強度の評価として、以下の試験を実施した。
【0055】
[引張試験]
各材料より試験部φ8mm、試験片長さ90mmの試験片を切り出した。この試験片を用いて、室温および800℃にて引張試験を行い、0.2%耐力、引張強さ、及び破断伸びを測定した。それぞれの試験による評価結果を表3に併記する。なお、比較例2は非特許文献1に記載の結果だが、800℃での評価結果がないため値の記載はない。
【0056】
【0057】
表3に示す通り、本発明のCo基合金製造物の実施例1~6は、比較例1、2の造形体よりも、室温および800℃における0.2%耐力、引張強さが高いことがわかる。比較例1、2に比べて本発明のCo基合金製造物の強度が高いのは、析出強化機構を構成するγ´相がCo基合金の母相であるγ相の結晶粒内に整合析出しているためである。
【0058】
比較例3の鍛造材と比較すると、実施例5を除いての室温の0.2%耐力は低く、室温の引張強さは実施例1~6いずれも比較例3より低くなっている。また比較例4の鍛造材と比較した場合、実施例1~6は室温における0.2%耐力が最大で130MPa、引張強さは最大で259MPa低くなっている(いずれも実施例6との差)。しかしながら、800℃における0.2%耐力、引張強さは、比較例3の鍛造材と比較した場合は、実施例1~6の方が0.2%耐力、引張強さは高くなっている。また比較例4の鍛造材と比較すると、800℃における0.2%耐力の差は最大98MPa、引張強さの差は最大57MPaであり(いずれも実施例3との差)、室温の値に比べて差が小さくなっていることがわかる。
【0059】
本発明のCo基合金製造物(COWALOYのWAM造形体)の室温での強度(0.2%耐力、引張強度)は、従来のCOWALOY鍛造材よりも若干低いものの、INCONEL625、INCONEL718造形体よりも高いことがわかった。また800℃においても、従来のNi基合金鍛造材(WASPALOY)およびCo基合金鍛造材(COWALOY)と同等以上の高温強度を確保できることがわかった。
【0060】
以上、説明したように、本発明によれば、WAMを用いて、従来のNi基合金鍛造材およびCo基合金鍛造材に対して強度低下が少なく、また、従来のNi基合金鍛造材およびCo基合金鍛造材と同等以上の高温強度を有し、かつ歩留まりの向上を実現するCo基合金製造物およびCo基合金製造物の製造方法を提供できることが示された。
【0061】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0062】
1…Co基合金の母相に形成された偏析セル、2…Co基合金の母相に整合析出したγ´相。3…鍛造組織
【要約】
【課題】WAM法を用いて、従来のNi基合金鍛造材およびCo基合金鍛造材に対して強度の低下が少なく、また、従来のNi基合金鍛造材およびCo基合金鍛造材と同等以上の高温強度を実現するCo基合金製造物およびCo基合金製造物の製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明のCo基合金製造物は、0.001≦C<0.100mass%、9.0≦Cr<20.0mass%、2.0≦Al<5.0mass%、13.0≦W<20.0mass%および39.0≦Ni<55.0mass%を含み、残部がCoおよび不可避不純物であるCo基合金からなる多結晶体であり、前記多結晶体の結晶粒の内部に形成された偏析セルを有し、上記偏析セルの平均サイズが1μm以上100μm以下であり、前記偏析セルがAlおよびCrを含むことを特徴とする。
【選択図】
図1