(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/16 20060101AFI20230306BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20230306BHJP
F16J 15/3212 20160101ALI20230306BHJP
F16J 15/3224 20160101ALI20230306BHJP
F16J 15/3268 20160101ALI20230306BHJP
F16J 15/3284 20160101ALI20230306BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
F16J15/16 B
F16J15/3204 201
F16J15/3212
F16J15/3224
F16J15/3268
F16J15/3284
F16C33/78 D
F16C33/78 Z
(21)【出願番号】P 2018246446
(22)【出願日】2018-12-28
【審査請求日】2021-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100087538
【氏名又は名称】鳥居 和久
(74)【代理人】
【識別番号】100085213
【氏名又は名称】鳥居 洋
(72)【発明者】
【氏名】林 奈央
(72)【発明者】
【氏名】中村 智也
(72)【発明者】
【氏名】松本 康司
(72)【発明者】
【氏名】高田 仁志
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 恵一
【審査官】山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-160943(JP,A)
【文献】特開2019-168068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/16
F16J 15/3204
F16J 15/3212
F16J 15/3224
F16J 15/3268
F16J 15/3284
F16C 33/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転輪と、
前記回転輪と同心に径方向に分離して配置される固定輪と、
前記回転輪または固定輪いずれか一方の軸方向の一側
の外方に設けられた樹脂製リングと、
前記回転輪または固定輪いずれか他方の軸方向の一側
の外方に固定され、径方向の自由端が前記樹脂製リングの軸方向の一側
の外方に重なって摺動する環状鉄板と、を備え、
前記樹脂製リングの軸方向の一側の外方が、前記環状鉄板の固定位置よりも軸方向の外側位置にあり、前記環状鉄板の自由端が前記樹脂製リングに接触した状態で撓んで前記回転輪と前記固定輪との間に密封空間を形成することを特徴とする密封装置。
【請求項2】
前記環状鉄板が接触する前記樹脂製リングの接触面がR面に形成されている請求項1記載の密封装置。
【請求項3】
前記回転輪が外周面に軌道面を有する内輪、前記固定輪が内周面に軌道面を有する外輪であり、前記内輪と外輪の両軌道面間に転動自在に複数の転動体を配置したことを特徴とする請求項1又は2記載の密封装置。
【請求項4】
前記回転輪が内周面に軌道面を有する外輪、前記固定輪が外周面に軌道面を有する内輪であり、前記外輪と内輪の両軌道面間に転動自在に複数の転動体を配置したことを特徴とする請求項1又は2記載の密封装置。
【請求項5】
前記樹脂製リングの材質が、四弗化エチレン樹脂(PTFE)を含有する複合樹脂からなる請求項1~4のいずれかの項に記載の密封装置。
【請求項6】
前記樹脂製リングの材質が、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)を含有する複合樹脂からなる請求項1~4のいずれかの項に記載の密封装置。
【請求項7】
前記環状鉄板の材質が、ステンレスである請求項1~6のいずれかの項に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転輪と、前記回転輪と同心に径方向に分離して配置される固定輪とを備える軸受などの前記回転輪と前記固定輪との間に、砂などの異物の侵入を防止する密封装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
砂などの異物の侵入を防止する密封装置、例えば、大量のレゴリス(粉塵)に直接曝される月面ローバーの足回りに使用される軸受の異物侵入防止用の密封装置としては、極低温でも使用できるように、ゴム素材や接着剤を使用しないものが好ましい場合がある。
【0003】
従来、温度による劣化の問題がなく極低温でも使用できる密封装置として、樹脂製のカラーを撓ませて軸受幅面に押し当てる構造が知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】2017年10月25日~27日開催の第61回宇宙科学技術連合講演会、「月面ローバー用耐粉塵カラーシールの実用性評価」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、非特許文献1に記載された密封装置は、
図5及び
図6に示すように、接触面に突起20aを有する樹脂製のカラー20を、回転輪または固定輪の幅面に押し当てて回転輪と固定輪との間に密封空間を形成する構成である。
【0006】
図5は、内周面に軌道面を有する外輪21、外周面に軌道面を有する内輪22、前記外輪21と内輪22の両軌道面間に転動自在に複数の転動体23を配置した軸受を示しており、前記樹脂製のカラー20は、外輪21の一側面に間座24によって固定され、樹脂製のカラー20の内径側の自由端を内輪22の幅面に接触させる構造である。
【0007】
また、
図6は、外周面に軌道面を有する内輪22、内周面に軌道面を有する外輪21、前記外輪21と内輪22の両軌道面間に転動自在に複数の転動体23を配置した軸受を示しており、前記樹脂製のカラー20は、内輪22の一側面に間座25によって固定され、樹脂製のカラー20の外径側の自由端を外輪21の幅面に接触させる構造である。
【0008】
この従来の密封装置は、カラー20の内径側もしくは外径側に突起20aを設け、カラー20を突起20aと径方向に重ならない位置で回転輪もしくは固定輪のどちらか一方の幅面に幅締めすることにより、突起の盛上り量の分だけ樹脂製のカラー20に撓みが生じるようにして回転輪と固定輪との間の密封空間の密封を保っている。
【0009】
ところで、軸受は、その構成部品である外輪21、内輪22、転動体23の間にすきまを有しているものが多く、また、力を受けた際に接触部に変形を生じることなどから、通常、外輪21と内輪22の間には相対変位が生じる。上記従来の密封装置を軸受の異物侵入防止シールとして適用した場合、ラジアル方向への相対変位はカラー20と回転輪の幅面のとの間で摺動を生じるのみで、すきまは発生しない。また、軸方向への相対変位の場合、カラー20の撓みのうち弾性変形分が、カラー20が内外輪間の相対変位に追従し、密封が保たれる。
【0010】
しかしながら、上記従来の密封装置の場合、突起20aは接触している回転輪または固定輪の幅面との間で摺動し、カラー20が摩耗すると、カラー20の撓み量が減少し、シール性が低下する恐れがある。
【0011】
また、カラー20を構成する樹脂は、長時間変形を加え続けることにより塑性変形する性質を有することから、撓みのうち弾性変形量が減少し、シール性が低下する恐れもある。
【0012】
そこで、この発明は、樹脂材の摩耗や塑性変形によるシール性の低下を抑制した密封装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の課題を解決するために、この発明は、回転輪と、前記回転輪と同心に径方向に分離して配置される固定輪と、前記回転輪または固定輪いずれか一方の軸方向の一側に設けられた樹脂製リングと、前記回転輪または固定輪いずれか他方の軸方向の一側に固定され、径方向の自由端が前記樹脂製リングの軸方向の一側に重なって摺動する環状鉄板とを備え、前記環状鉄板を、前記樹脂製リングに対して軸方向に撓み接触させて前記回転輪と前記固定輪との間に密封空間を形成することを特徴とする。
【0014】
前記環状鉄板が接触する前記樹脂製リングの接触面は、R面に形成しておくことが好ましい。
【0015】
前記回転輪が外周面に軌道面を有する内輪、前記固定輪が内周面に軌道面を有する外輪であり、前記内輪と外輪の両軌道面間に転動自在に複数の転動体を配置した構成、あるいは、前記回転輪が内周面に軌道面を有する外輪、前記固定輪が外周面に軌道面を有する内輪であり、前記外輪と内輪の両軌道面間に転動自在に複数の転動体を配置した構成を採用することができる。
【0016】
前記樹脂製リングの材質は、四弗化エチレン樹脂(PTFE)を含有する複合樹脂、あるいは、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)を含有する複合樹脂を採用することができる。
【0017】
また、前記環状鉄板の材質としては、ステンレスを採用することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、この発明の密封装置は、回転輪または固定輪いずれか一方の軸方向の一側に設けられた樹脂製リングと、前記回転輪または固定輪いずれか他方の軸方向の一側に固定され、径方向の自由端が前記樹脂製リングの軸方向の一側に重なって摺動する環状鉄板とを備え、前記環状鉄板を、前記樹脂製リングに対して軸方向に撓み接触させて前記回転輪と前記固定輪との間に密封空間を形成するものであるから、従来技術のように、樹脂材料の摩耗や塑性変形の問題も発生せず、シール性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】この発明の
図1の実施形態の変形例を示す断面図である。
【
図3】この発明の他の実施形態を示す断面図である。
【
図4】この発明の
図3の実施形態の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は、この発明の第1の実施形態に係る軸受1を示している。
【0022】
この軸受1は、軸2の外周に設けられ、外周面に軌道面を有する内輪3と、内周面に軌道面を有する外輪4と、前記内輪3と外輪4の間に複数組み込まれる球状の転動体5と、転動体5を等間隔に保持する保持器6とを有する玉軸受である。
【0023】
前記外輪4の内周面の両端には、内輪3の外周面の両端に向かって延びるシールリング7a、7bが装着されている。
【0024】
前記外輪4の軸方向の一側には、樹脂製リング8が配置され、この樹脂製リング8は間座9によって外輪4の一側に固定されている。
【0025】
一方、前記内輪3の軸方向の一側には、環状鉄板10が配置され、この環状鉄板10は間座11によって内輪3の一側に固定されている。環状鉄板10の径方向の外径側の自由端は、前記樹脂製リング8の軸方向の一側に重なる位置にある。
【0026】
また、前記樹脂製リング8の軸方向の一側の外方の固定位置Aと、前記環状鉄板10の軸方向の固定位置Bである内輪3の軸方向の側面とは、固定位置Bの方が固定位置Aよりも軸受1側、即ち、固定位置Aが固定位置Bよりも軸方向の外側位置にあり、前記環状鉄板10の自由端が前記樹脂製リング8に接触した状態で撓むようになっている。
【0027】
前記固定位置Aと固定位置Bとの軸方向の距離は、軸受1の軸方向の内部すきまの1/2以上とし、軸受1の内輪3と外輪4の軸方向位置に相対変位が生じても、環状鉄板10が撓みが生じるように設定されている。
【0028】
前記環状鉄板10の厚さは、撓みに対する環状鉄板10の内部の発生応力やシール面での接触力が小さくなるよう、形状を維持できる範囲でなるべく薄く設けられ、例えば、0.01mm以上で設定されている。
【0029】
前記環状鉄板10に撓みを加えた際に発生する環状鉄板10内部の発生応力は、環状鉄板10の厚さH、環状鉄板10の固定径b(環状鉄板10を固定する間座11の外径)、シール面径a(軸2の中心から環状鉄板10と樹脂製リング8との接触位置までの距離)、環状鉄板10の撓み量wによって決まる。したがって、環状鉄板10の固定径bとシール面径aの値が近くなると環状鉄板10内部の発生応力が大きくなるため、環状鉄板10の材料強度を超えないようにシール面径aをある一定以上とする必要がある。特に、固定径b/シール面径aの比の値が0.7より大きくなると接触力および発生応力が急激に増加するため、少なくとも0.7以下となるように設定する。同時に、シール面径aはシールの摺動部で発生するトルクに影響するため、材料強度を満足する範囲でなるべく小さい径とする。
【0030】
前記樹脂製リング8の内径が外輪4の内径に比べて小さい場合には、樹脂製リング8に撓みが発生することを防ぐために、
図2に示すように、樹脂製リング8と同一内径を有する間座13を外輪4と樹脂製リング8の間に挟むようにすることが好ましい。
【0031】
前記樹脂製リング8の先端は前記環状鉄板10とのエッジ当たりを防止するために、R面にすることが好ましい。
【0032】
前記樹脂製リング8の材質は、摺動部でのトルクが小さく摩耗しにくい特性が求められるため、四弗化エチレン樹脂(PTFE)、あるいはポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)を含有する複合樹脂が望ましい。
【0033】
前記環状鉄板10の材質としては、ステンレス、例えば、SUS304を用いることができる。
【0034】
この第1の実施形態に係る軸受1は、回転輪が外輪4、固定輪が内輪3の場合と、回転輪が内輪3、固定輪が外輪4の場合とがある。
【0035】
この第1の実施形態に係る軸受1において、軸方向には、内輪3・外輪4とも幅締めして拘束されているため、外輪4、樹脂製リング8、間座9は、互いに相対回転しない配置となり、内輪3、環状鉄板10、間座11は、互いに相対回転しない配置となる。
【0036】
そして、回転輪が外輪4、固定輪が内輪3の場合には、外輪4、樹脂製リング8、間座9は、回転し、樹脂製リング8と環状鉄板10の間で摺接する。
【0037】
一方、回転輪が内輪3、固定輪が外輪4の場合には、内輪3、環状鉄板10、間座11は、回転し、環状鉄板10と樹脂リング8との間で摺接する。
【0038】
次に、
図3に示すこの発明の第2の実施形態に係る軸受1について説明する。
【0039】
この
図2の実施形態では、前記内輪3の軸方向の一側には、樹脂製リング8が配置され、この樹脂製リング8は間座12によって内輪3の一側に固定されている。
【0040】
一方、前記外輪4の軸方向の一側には、環状鉄板10が間座14によって外輪4の一側に固定されている。環状鉄板10の径方向の内径側の自由端は、前記樹脂製リング8の軸方向の一側に重なる位置で樹脂製リング8に対して撓み接触している。
【0041】
この第2の実施形態に係る軸受1も、回転輪が外輪4、固定輪が内輪3の場合と、回転輪が内輪3、固定輪が外輪4の場合とがある。
【0042】
この第2の実施形態において、軸方向は内輪3・外輪4ともに幅締めして拘束されているため、外輪4、間座14、環状鉄板10は、互いに相対回転しない配置となり、内輪3、樹脂製リング8と、間座12は、互いに相対回転しない配置となる。
【0043】
そして、回転輪が外輪4、固定輪が内輪3の場合には、外輪4、間座14、環状鉄板10は、回転し、環状鉄板10と樹脂製リング8の間で摺接する。
【0044】
一方、回転輪が内輪3、固定輪が外輪4の場合には、内輪3、樹脂製リング8と、間座12は、回転し、環状鉄板10は、樹脂リング8と摺接する。
【0045】
前記樹脂製リング8に撓みが発生することを防ぐために、
図4に示すように、樹脂製リング8と同一内径を有する間座15を内輪4と樹脂製リング8の間に挟むようにしてもよい。
【0046】
以上の実施形態では、この発明を軸受に適用した例について説明したが、軸受の内輪、外輪に代わるような、相互に運動する2つの円筒形状の装置に対しても適用することができる。また、前記の実施形態では、樹脂製リング8や環状鉄板10の固定は間座で幅締めする固定方法を適用した例を示したが、工数や精度、部品点数、重量などの目標値に従い、接着、ボルト固定、溶接、圧入などその他手法の選択も可能である。
【0047】
この発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、この発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内の全ての変更を含む。
【符号の説明】
【0048】
1 :軸受
2 :軸
3 :内輪
4 :外輪
5 :転動体
6 :保持器
7a、7b :シールリング
8 :樹脂製リング
9 :間座
10 :環状鉄板
11、12、13、14、15 :間座