(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20230306BHJP
H01M 10/056 20100101ALI20230306BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230306BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20230306BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230306BHJP
H01M 50/437 20210101ALI20230306BHJP
H01M 50/44 20210101ALI20230306BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20230306BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20230306BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20230306BHJP
H01M 50/454 20210101ALI20230306BHJP
H01M 50/457 20210101ALI20230306BHJP
H01M 50/46 20210101ALI20230306BHJP
H01G 11/24 20130101ALI20230306BHJP
H01G 11/26 20130101ALI20230306BHJP
H01G 11/56 20130101ALI20230306BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/056
H01M10/052
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M50/437
H01M50/44
H01M50/414
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/454
H01M50/457
H01M50/46
H01G11/24
H01G11/26
H01G11/56
(21)【出願番号】P 2018126882
(22)【出願日】2018-07-03
【審査請求日】2021-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】714006565
【氏名又は名称】川上 総一郎
(72)【発明者】
【氏名】川上総一郎
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-031429(JP,A)
【文献】特開2008-103258(JP,A)
【文献】特開2011-154902(JP,A)
【文献】特開2007-165061(JP,A)
【文献】特開平11-007942(JP,A)
【文献】特開2001-015162(JP,A)
【文献】特開2017-199639(JP,A)
【文献】特開平11-260336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00- 4/62
H01M 50/40-50/497
H01G 11/00-11/86
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも負極、リチウムイオン伝導体、正極から構成され、該負極と正極の間に該リチウムイオン伝導体が正負極と接して設けられているリチウムイオンの挿入脱離が可能な蓄電デバイスにおいて、少なくとも該負極又は正極のいずれか一方の表面が、二重結合と単結合が交互に並んだ構造の共役π電子系が直線的な分子鎖に沿って連なる一次元構造及び、エステル結合、エーテル結合、チオエーテル(スルフィド)結合、カルボニル基、環状構造の群から選択される一種以上の構造から成る層で被覆され、該被覆層が加熱により変形が容易な熱可塑性樹脂とリチウムイオン伝導性粒子を含有し、
上記負極又は正極の少なくともいずれか一方が、少なくとも活物質と導電助剤と加熱により変形が容易な熱可塑性樹脂とリチウムイオン伝導性粒子と、
ポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホナート)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-メチルチオフェン-'co'-3'-オクチルチオフェン)、ポリ(3-チオフェンアルカンスルホン酸)ナトリウム、ポリ(3-(ペルフルオロオクチル)チオフェン)から成る群から選択される一種以上の二重結合と単結合が交互に並んだ構造の共役π電子系が直線的な分子鎖に沿って連なる一次元構造のポリマーもしくはそれらのオリゴマーから成る、
ことを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項2】
前記負極又は正極のいずれか一方の表面を被覆する層が、少なくとも幹ポリマーの枝分かれ部分が二重結合と単結合が交互に並んだ構造の共役π電子系が直線的な分子鎖に沿って連なる一次元構造を有する導電性ポリマー構造で、エステル結合、エーテル結合、チオエーテル(スルフィド)結合、カルボニル基、環状構造の群から選択される一種以上の結合含有の架橋構造も有するグラフトポリマーから成ることを特徴とする請求項1記載の蓄電デバイス。
【請求項3】
前記負極と正極間に設けられたリチウムイオン伝導体が、少なくとも
、平均繊維径1μm以下のガラス繊維
の不織布と
、加熱により変形が容易な熱可塑性樹脂とリチウムイオン伝導性固体電解質粒子と、二重結合と単結合が交互に並んだ構造の共役π電子系が直線的な分子鎖に沿って連なる一次元構造のポリマーもしくはオリゴマーから成ることを特徴とする請求項1記載の蓄電デバイス。
【請求項4】
前記リチウムイオン伝導性固体電解質粒子が、硫化物系リチウムイオン導電体、NASICON型リチウムイオン伝導体、ペロブスカイト型リチウムイオン伝導体、ガーネット型リチウムイオン導電体から成る群から選択される一種類以上の固体電解質粒子であることを特徴とする請求項3記載の蓄電デバイス。
【請求項5】
前記リチウムイオン伝導性粒子が、硫化物系リチウムイオン導電体、NASICON型リチウムイオン伝導体、ペロブスカイト型リチウムイオン伝導体、ガーネット型リチウムイオン導電体、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ニオブ、から成る群から選択される一種類以上のイオン伝導性粒子であることを特徴とする請求項
1記載の蓄電デバイス。
【請求項6】
少なくとも、平均繊維径1μm以下のガラス繊維の不織布と、熱可塑性樹脂と、リチウムイオン伝導性固体電解質粒子と、ポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホナート)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-メチルチオフェン-'co'-3'-オクチルチオフェン)、ポリ(3-チオフェンアルカンスルホン酸)ナトリウム、ポリ(3-(ペルフルオロオクチル)チオフェン)から成る群から選択される一種以上の二重結合と単結合が交互に並んだ構造の共役π電子系が直線的な分子鎖に沿って連なる一次元構造の導電性ポリマーもしくはオリゴマーとから成り、
該熱可塑性樹脂の比率は20~50重量% 、該導電性ポリマーもしくはオリゴマーの比率は10~50重量% 、該リチウムイオン伝導性固体電解質粒子の比率は20~60重量% 、該ガラス繊維の不織布の比率は10~50重量%であることを特徴とする蓄電デバイス用シート状固体電解質。
【請求項7】
前記リチウムイオン伝導性固体電解質粒子が、硫化物系リチウムイオン導電体、NASICON型リチウムイオン伝導体、ペロブスカイト型リチウムイオン伝導体、ガーネット型リチウムイオン導電体から成る群から選択される一種類以上の固体電解質粒子であることを特徴とする請求項6記載の蓄電デバイス用シート状固体電解質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学反応にてリチウムイオンを蓄積・放出できる蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中のCO2ガス量の増加が主因の温室効果により地球の気候変動が生じている可能性が指摘されている。移動手段として使用されている自動車から排出されるCO2、NOx、炭化水素などを含む大気汚染も健康への影響を指摘されている。原油等のエネルギーの高騰と環境保全、災害時の対応から、最近、エネルギー効率の高い、蓄電デバイスに蓄えた電気で作動させる電気モーターとエンジンを組み合わせたハイブリッド車や電気自動車、発電設備からの電力をネットワーク管理して電力需要バランスの最適化をするシステムであるスマートグリッド、蓄電システムに大きな期待が寄せられて来ている。また、情報通信の分野でもスマートフォンなどの情報端末が情報の授受と発信が容易であることから、急激に社会に浸透しつつある。このような状況下、スマートフォン、ハイブリッド車や電気自動車、スマートグリッド等の性能を高め、生産コストを抑制するために、高出力密度と高エネルギー密度、長寿命を併せ持つキャパシタもしくは二次電池の蓄電デバイスの開発が期待されている。
【0003】
上記蓄電デバイスとして、現在製品化されているものの中で、最もエネルギー密度が高いものは、負極の活物質に黒鉛等のカーボン、正極の活物質にはリチウムと遷移金属の化合物、を使用したリチウムイオン二次電池(通称:リチウムイオン電池)である。リチウムイオン二次電池の電極は、一般的には活物質と導電助剤とバインダーにバインダーの溶媒を加えて混練しスラリーを調製した後、スラリーを金属箔である集電体上に塗工し、形成されている。リチウムイオン二次電池は負極と正極の間にリチウムイオン伝導体を挟んだ構成になっている。上記リチウムイオン伝導体には負極と正極の電子伝導による短絡を防ぐためのセパレータとしての微多孔性ポリマーフィルムにリチウムイオンを含む電解液を含浸させたもの、あるいは固体状のリチウムイオン伝導体が用いられている。上記バインダーには、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(CMC)、ポリイミドなどのポリマーが用いられている。上記バインダーに用いられているポリマーは絶縁体であり、前記電極中の活物質と導電助剤の粒子のサイズもその分散状態も一様で均一でないため、前記リチウムイオン伝導体と接する電極表面の各活物質粒子の、集電体からの電気抵抗は均一でない。すなわち、導電助剤が十分に分散していない箇所では、バインダーが絶縁体であるために電極中の導電パスが形成されない。その場合、電極中で電池反応に寄与しない活物質粒子領域が生じる。また、活物質粒子、導電助剤粒子は全く均一でなく、電極中の上記活物質粒子、導電助剤粒子が全く均一に分散しているわけではないため、電極表層ならびに内部の活物質粒子の充放電時の電位は均一ではなく、不均一な電位での電池反応が各電極中の活物質粒子では起き、電解液の分解反応やリチウムのデンドライト成長など、電池の性能と寿命を低下させる一因になっている。
【0004】
リチウムイオン二次電池の出力特性ならびに急速充電特性を改善するために、上記バインダーの電子伝導とイオン伝導を改善する提案がなされている。特許文献1ならびに特許文献2では、バインダーポリマーにアニリン系導電性ポリマーを混合して、電極を形成することが提案されている。特許文献3では正極活物質とカーボンブラック、アニリン系導電性ポリマーと水溶性ポリマーから成る正極が提案されている。特許文献4ではフッ素元素含有アニリン系導電性ポリマーを添加して正極を形成することが提案されている。しかし、特許文献1~4のいずれも、提案の導電性ポリマーは活物質ならびに集電体の金属箔への接着力が弱い点、バインダーポリマーとの均一な混合が容易ではない点から、長サイクル寿命を達成できないという問題点を有している。
【0005】
現在、商用化されているリチウムイオン二次電池では、負極活物質に黒鉛やハードカーボン等のカーボン材料で構成されるが、さらなる高容量化のための新たな電極材料(活物質)として、多くのリチウムイオンを貯蔵・放出できる、スズやシリコン、並びにそれらの合金が研究されている。スズやシリコンは電気化学的により多くのリチウムイオンを蓄えることができるが、充放電により膨張と収縮を繰り返し、該活物質表面に電解液の分解から生じるSolid Electrolyte Interphase(SEI)層が成長し、電極の抵抗は増大して充放電性能は低下する。
充放電サイクルにおける電極の抵抗増加を抑制する方法として、導電性ポリマーを用いる手法が報告されている。非特許文献1ならびに非特許文献2ではポリフルオレンにシリコンとの接着力向上のためにカルボニルとエステル結合を導入した導電性ポリマーでシリコンナノ粒子を包んだ複合体電極を形成し、リチウム挿入時の体積膨張が小さく、サイクル寿命が伸びると報告されている。非特許文献3では、アニリンとフィチン酸の重合架橋ポリマーでシリコンナノ粒子を包んだシリコンナノ粒子-ポリアニリンハイドロゲル複合体電極を形成し、長期充放電サイクルにて高容量を維持できることが報告されている。しかし、上記非特許文献1~3の導電性ポリマーは、活物質粒子と集電体である金属との接着力が十分高いとは言えず、接着力を維持するために電極層中の導電性ポリマーの含有量が高くなるため、電極当たりの蓄電容量を低下させている。なお、上記非特許文献の電極中のシリコン:ポリマー比率は重量比で非特許文献1ならびに非特許文献2の場合で2:1、非特許文献3の場合で3:1である。
【0006】
また、特許文献5~8では電極表面に被覆層を設けることが提案されている。特許文献5~7は充放電の繰り返しによって発生し短絡の主原因になるリチウムのデンドライトの発生を抑える目的での、負極表面、もしくは正極表面、又は正極と負極両表面に、電池反応に関与するイオンを透過できる構造の皮膜で被覆する提案である。特許文献8は、無機酸化物等のフィラーと結着剤から成る耐熱層の形成の提案である。上記特許文献5~8に用いられるポリマーはそれ自体が電子伝導性を有していないため、リチウムイオン二次電池において、リチウムイオン伝導体と接する電極表面の各活物質粒子の集電体からの電気抵抗を均一にすることはできていない。
【0007】
さらに、リチウムイオン伝導性固体電解質を用いて全固体化したリチウムイオン電池も提案されている。上記全固体リチウムイオン電池は、電池内に可燃性の有機溶媒を用いないので、電池反応で有機溶媒の分解反応が起きずSEI層の生成が抑制され、かつ可燃性を低減でき、安全装置の簡素化が図れるという利点があるが、リチウムイオン伝導体に電解液を用いる場合に比較して、固体電解質粒子と電極活物質粒子との接触を良好にする必要がある。特許文献9~11では拘束部材で電池を拘束して電極活物質粒子との接触を良好にする方法が提案されている。しかしながら、拘束部材のセッテイング時には高い加圧が必要であり、拘束部材の使用で電池のエネルギー密度が低下するという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-109596号公報
【文献】特開2003-109597号公報
【文献】特開2007-052940号公報
【文献】特開2015-109210号公報
【文献】特開平6-283157号公報
【文献】特開平6-168739号公報
【文献】米国特許第6395423号
【文献】特開2006-196248号公報
【文献】特開2008-103284号公報
【文献】特開2011-159534号公報
【文献】特開2018-73629号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Advanced Materials 23,4679-4683(2011)
【文献】Scientific Reports 4, Aticle number: 3684(2014)
【文献】Nature Communications 4,Aticle number: 1943(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、長期充放電サイクルにおいても電極の抵抗の増大が小さく、放電容量の低下が小さい蓄電デバイスを提供することを目的とする。なお、蓄電デバイスは、キャパシタ、二次電池、キャパシタと二次電池の組み合わせたデバイス、また、それらに発電機能を組み込んだデバイスをも含む。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、リチウムイオンの吸蔵放出を充放電に利用したリチウム(イオン)二次電池等の蓄電デバイスの、活物質と導電助剤と集電体ならびにバインダーから少なくとも構成される電極において、充放電の繰り返しで電極の抵抗が増大し、電極の充放電容量の低下が起きる要因に、(1)該活物質の粒子径が単一ではない、(2)該活物質の粒子が電極中に均一に分散されていない、(3)該導電助剤の粒子が電極中に均一に分散されていない、(4)集電体から各活物質粒子までの電気抵抗が均一ではない、ことから、充放電時の各活物質粒子の電位と電流密度が等しくない、そのため、充放電で挿入放出される各活物質粒子中のリチウム元素濃度が異なり、リチウムの挿入放出に伴う各活物質粒子の体積変化も異なると推察した。更に、充放電時に上記影響を最も受けるのは、リチウムイオン伝導体と接する電極最表面の活物質粒子であり、電極中のリチウムイオン伝導体と接する最表面の各活物質粒子の電位を等電位に近づけることで、充放電の繰り返しによる電極の抵抗の増大と電極の充放電容量の低下を抑え、電池の性能劣化ならびに寿命低下を抑制できると考えた。
【0012】
上記等電位にする方策として、電子伝導性がありリチウムイオンの移動も可能な導電性ポリマー部位とリチウムイオンと親和性のある熱可塑性ポリマーで電極表面を被覆することを見出し、本発明に至った。二重結合と単結合が交互に並んだ構造の共役π電子系が直線的な分子鎖に沿って連なる一次元構造の分子構造を有するポリマーもしくはオリゴマーに電子伝導とリチウムイオン伝導を担わせ、エステル結合、エーテル結合、チオエーテル(スルフィド)結合、カルボニル基、環状構造の群から選択される一種以上の構造を有しかつ加熱で変形の容易な熱可塑性樹脂に、電極活物質との密着を担わせた。さらに、固体電解質粒子と親和性の高い導電性ポリマーもしくはオリゴマーと熱可塑性樹脂を選択することで、固体電解質粒子を被覆層に良分散でき、リチウムイオン伝導度を高めることも見出した。
【0013】
更に、ガラス繊維と加熱により変形が容易な熱可塑性樹脂とリチウムイオン伝導性固体電解質粒子と、二重結合と単結合が交互に並んだ構造の共役π電子系が直線的な分子鎖に沿って連なる一次元構造のポリマーもしくはオリゴマーから形成した固体電解質シートを前記表面被覆の電極と組み合わせ、固体電解質シートを負極と正極の電極で挟んで加熱加圧し、冷却することで、電極活物質粒子と固体電解質粒子の接触も良好な全固体電池を作製することが可能であることを見出した。また、初期充放電時の電極の膨張収縮による電極活物質粒子と固体電解質粒子の接触不良も、再度加熱加圧し冷却することによって、電極活物質粒子と固体電解質粒子の良好な接触を回復できることも見出した。
【0014】
上記課題を解決するために、本発明においては、少なくとも負極、リチウムイオン伝導体、正極から構成され、該負極と正極の間に該リチウムイオン伝導体が正負極と接して設けられているリチウムイオンの挿入脱離が可能な蓄電デバイスにおいて、少なくとも該負極又は正極のいずれか一方の表面が、二重結合と単結合が交互に並んだ構造の共役π電子系が直線的な分子鎖に沿って連なる一次元構造及び、エステル結合、エーテル結合、チオエーテル(スルフィド)結合、カルボニル基、環状構造の群から選択される一種以上の構造から成る層で被覆され、該被覆層が加熱により変形が容易な熱可塑性樹脂を含有することを特徴とする蓄電デバイスを提供する。
【0015】
本発明によれば、電極表面の電位をより均一にすることができ、充電時の副反応を抑制することができ、その結果充放電の繰り返し寿命を伸ばすことが可能になる。前記エステル結合、エーテル結合、チオエーテル(スルフィド)結合、カルボニル基、環状構造はリチウムイオンとの親和性が高く、リチウムイオンの伝導性に寄与する。前記共役π電子系は、電界の印加で電解質中のカチオンとアニオンの電気化学的なドーピングが可能でそれによって電子伝導性が高まるし、リチウムイオンの伝導の仲介を担うことができる。
【0016】
また、上記発明において、前記負極表面又は正極のいずれか一方の表面を被覆する層が、少なくとも幹ポリマーの枝分かれ部分が二重結合と単結合が交互に並んだ構造の共役π電子系が直線的な分子鎖に沿って連なる一次元構造を有する導電性ポリマー構造で、エステル結合、エーテル結合、チオエーテル(スルフィド)結合、カルボニル基、環状構造の結合を含む架橋構造を有するグラフトポリマーから成ることも好ましい。上記グラフトポリマーは電極活物質と導電助剤とバインダーと集電体からなる電極のバインダーとしても機能させることができる。上記架橋構造を有していることで機械強度が高まり、充放電に伴う電極の膨張収縮に耐え得る構造になる。上記グラフトポリマーの幹ポリマーとしては側鎖に-OH、-COOH、-COO-、-NH2、-CO-、-CHO、-O-、-SO3Hから成る群から選択される一種類以上の官能基を有するのが好ましい。上記官能基を有することで、電極活物質との高い接着力を得ることができる。
【0017】
上記発明においては、前記負極表面又は正極の少なくともいずれか一方の表面を被覆する層が、リチウムイオン伝導性粒子を含有することが好ましい。これにより、リチウムイオン伝導性を向上できる。上記リチウムイオン伝導性粒子が、硫化物系リチウムイオン導電体、NASICON型リチウムイオン伝導体、ペロブスカイト型リチウムイオン伝導体、ガーネット型リチウムイオン導電体、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ニオブ、から成る群から選択される一種類以上のイオン伝導性粒子であることが好ましい。
【0018】
上記本発明の蓄電デバイスにおいて負極と正極間に設けるリチウムイオン伝導体が、少なくともガラス繊維と加熱により変形が容易な熱可塑性樹脂とリチウムイオン伝導性固体電解質粒子と、二重結合と単結合が交互に並んだ構造の共役π電子系が直線的な分子鎖に沿って連なる一次元構造のポリマーもしくはオリゴマーから成ることが好ましい。上記リチウムイオン伝導性固体電解質粒子が、硫化物系リチウムイオン導電体、NASICON型リチウムイオン伝導体、ペロブスカイト型リチウムイオン伝導体、ガーネット型リチウムイオン導電体、から成る群から選択される一種類以上の固体電解質粒子であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、充放電の繰り返しによる容量低下を抑制できるリチウムイオン二次電池をはじめとする蓄電デバイスを提供することができる。また、本発明は、活物質と固体電解質との接触性を向上させることができる全固体リチウムイオン二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の蓄電デバイスは、少なくとも負極、リチウムイオン伝導体、正極から構成され、該負極と正極の間に該リチウムイオン伝導体が正負極と接して設けられているリチウムイオンの挿入脱離が可能な蓄電デバイスであって、少なくとも該負極又は正極のいずれか一方の表面が、二重結合と単結合が交互に並んだ構造の共役π電子系が直線的な分子鎖に沿って連なる一次元構造及び、エステル結合、エーテル結合、チオエーテル(スルフィド)結合、カルボニル基、環状構造の群から選択される一種以上の構造から成る層で被覆され、該被覆層が加熱により変形が容易な熱可塑性樹脂を含有する。
【0021】
上記共役π電子系が直線的な分子鎖としては、導電性ポリマーもしくはオリゴマーである、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンスルフィド、ポリアセチレン、のポリマー及びオリゴマー並びにそれらの誘導体が好ましく、ポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホナート)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-メチルチオフェン-'co'-3'-オクチルチオフェン)、ポリ(3-チオフェンアルカンスルホン酸)ナトリウム、ポリ(3-(ペルフルオロオクチル)チオフェン)、及びそれらの誘導体、オリゴチオフェンがより好ましい。
【0022】
上記熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリエチレンオキサイド、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体、エチルセルロース、プロピオン酸セルロース、アセチルセルロース、ポリアミドイミド、ポリスルフォン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、アクリル樹脂、アクリロニトリル-スチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、及びそれらの誘導体が好ましく、エステル結合、エーテル結合、チオエーテル(スルフィド)結合、カルボニル基、環状構造、から選択される一種以上の構造を有することがより好ましい。
【0023】
また、本発明の負極表面又は正極のいずれか一方の表面を被覆する層は、少なくとも幹ポリマーの枝分かれ部分が二重結合と単結合が交互に並んだ構造の共役π電子系が直線的な分子鎖に沿って連なる一次元構造を有する導電性ポリマー構造で、架橋構造も有するグラフトポリマーから成ってもよい。
【0024】
本発明の前記電極の被覆層としては、リチウムイオン伝導性粒子を含有するのが好ましい。上記イオン伝導性粒子としては、硫化物系リチウムイオン導電体、NASICON型リチウムイオン伝導体、ペロブスカイト型リチウムイオン伝導体、ガーネット型リチウムイオン導電体、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ニオブから成る群から選択される一種類以上のイオン伝導性粒子であることが好ましい。
【0025】
上記被覆層の膜厚は、電極表面を十分被覆し、電池容量密度の低下を招かないために0.5~10μmであることが好ましく、1~5μmであることがより好ましい。
【0026】
本発明の前記電極の被覆層は次の二通りの方法、
(1)エステル結合、エーテル結合、チオエーテル(スルフィド)結合、カルボニル基、環状構造を有する熱可塑性樹脂に、二重結合と単結合が交互に並んだ構造の共役π電子系が直線的な分子鎖に沿って連なる一次元構造を有する導電性ポリマーもしくはオリゴマーを分散したものを電極表面に塗工する、
(2)熱可塑性樹脂と、二重結合と単結合が交互に並んだ構造の共役π電子系が直線的な分子鎖に沿って連なる一次元構造を有する導電性ポリマーの原料となるモノマーと架橋剤の混合物を電極表面に塗工しグラフト重合する、
によって形成することができる。上記被覆層には、リチウムイオン伝導粒子を塗工前に混合してもよい。
上記(1)の被覆層の熱可塑性樹脂の比率は20~60重量%、導電性ポリマーもしくはオリゴマーの比率は10~60重量%、混合するリチウムイオン伝導粒子の比率は0~70重量%の範囲が被覆層の機械強度と接着力を保ち、リチウムイオン伝導度を保持するために好ましい。イオン伝導性を向上し、被膜強度を確保するためには、混合するリチウムイオン伝導粒子の比率は20~50重量%の範囲がより好ましい。
上記(2)の被覆層の熱可塑性樹脂の比率は20~60重量%、導電性ポリマーもしくはオリゴマーの比率は10~60重量%、架橋剤の比率は1~10重量%、混合するリチウムイオン伝導粒子の比率は0~70重量%の範囲が被覆層の機械強度と接着力を保ち、リチウムイオン伝導度を保持するために好ましい。イオン伝導性を向上し、被膜強度を確保するためには、混合するリチウムイオン伝導粒子の比率は20~50重量%の範囲がより好ましい。
上記(2)の導電性ポリマーもしくはオリゴマーの原料モノマーとしては、アニリン、チオフェン、ピロール、フラン、3,4-エチレンジオキシチオフェン、フラン、フルオレン、フェニレンビニレン、ピリジン、ピリミジン、キノリン、イソキノリン、ナフチリジン、キノキサリン、及びそれらの誘導体が好ましい。
上記(2)の架橋剤としては、ジビニルモノマー、トリビニルモノマーが好ましく、具体例としては、ジエチレングリコールジビニルエーテル、アジピン酸ジビニル、ジアリルミン、ジビニルスルフォン、1,5-ヘキサジエン、イソフタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、フタル酸ジアリル、テトラアリルオキシエタン、トリアリルアミン、シアヌル酸トリアリル、1,2,4-トリビニルシクロヘキサン、テレフタル酸ジアリル等が挙げられ、エステル結合、エーテル結合、チオエーテル(スルフィド)結合、カルボニル基、環状構造、から選択される一種以上の構造を有することがより好ましい。
上記(2)のグラフト重合の手法としては、電子線照射による重合、ラジカル開始剤を用いた熱重合、紫外線開始剤を用いた光重合、が用いられる。上記ラジカル開始剤としては、過硫酸アンモニウム、2,2'-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]4水和物、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2'-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2'-アゾビス-(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、1,1'-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)等が挙げられる。上記紫外線開始剤としては、ミヒラーズケトン、ベンゾインイソプロピルエーテル、アセトフェノン、ベンゾフェノン、クロロチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジエチルケタール、α-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-フェニルプロパン等が挙げられる。
【0027】
上述の硫化物イオン伝導性粒子の具体例としては、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-LiI-LiBr、Li2S-P2S5-Li2O、Li2S-P2S5-Li2O-LiI、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-B2S3-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI等を挙げることができる。上記NASICON型リチウムイオン伝導性粒子の具体例としては、Li1+x+yAlxTi2-xSiyP3-yO12(例えばLi1.3Al0.3Ti1.7P3O12、Li1.5Al0.5Ge1.5P3O12、Li1.48Al0.41Ti1.69Si0.33P2.64O12)等を挙げることができる。上記ペロブスカイト型リチウムイオン伝導性粒子の具体例としては、Li3xLa2/3-xTiO3(例えばLi0.33La0.55TiO3、Li0.29La0.57TiO3)等を挙げることができる。上記ガーネット型リチウムイオン導電性粒子の具体例としては、Li7La3Zr2O12、等を挙げることができる。上記酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ニオブの具体例としては、WO3、MoO3、Nb2O5、及び非晶質タングステン酸化物、非晶質モリブデン酸化物、非晶質ニオブ酸化物等が挙げられる。
【0028】
本発明の蓄電デバイスの負極と正極間に設けるイオン伝導体としては、少なくともガラス繊維と加熱により変形が容易な熱可塑性樹脂とリチウムイオン伝導性固体電解質粒子と、二重結合と単結合が交互に並んだ構造の共役π電子系が直線的な分子鎖に沿って連なる一次元構造のポリマーもしくはオリゴマーから成ることが好ましい。上記リチウムイオン伝導性固体電解質粒子としては、前述の電極の被服層に混合するリチウムイオン伝導性粒子の具体例に挙げた、硫化物系リチウムイオン導電体、NASICON型リチウムイオン伝導体、ペロブスカイト型リチウムイオン伝導体、ガーネット型リチウムイオン導電体が用いられる。上記熱可塑性樹脂としては、前述の電極の被覆層に含まれる熱可塑性樹脂の具体例に挙げた樹脂が使用できる。上記共役π電子系が直線的な分子鎖に沿って連なる一次元構造のポリマーもしくはオリゴマーとしては、前述の電極の被覆層に含まれる導電性ポリマーもしくはオリゴマーの具体例に挙げたものが使用できる。
以下、より具体的な本発明の蓄電デバイスの実施の形態について説明する。
【0029】
[蓄電デバイス]
本発明の蓄電デバイスは、リチウムイオンの還元酸化反応を利用する蓄電デバイスであって、少なくとも、前記本発明の被覆処理を施した電極構造体を少なくとも負極もしくは正極のいずれか一方に用いられ、負極とイオン伝導体と正極から構成される。
蓄電デバイスの作製は以下の手順で行う。 先ず、負極集電体と負極活物質層から成る負極と、正極集電体と正極活物質層から成る正極の間に、イオン伝導体をはさんで積層して電極群を形成し、十分に露点温度が管理された乾燥空気あるいは乾燥不活性ガス雰囲気下で、この電極群を電槽(ハウジング,外装)に挿入した後、各電極と各電極端子とを各々の電極リードで接続し、電槽を密閉することによって、蓄電デバイスは組み立てられる。なお、蓄電デバイスは、キャパシタ、二次電池、キャパシタと二次電池の組み合わせたデバイス、また、それらに発電機能を組み込んだデバイスをも含む。
【0030】
本発明の蓄電デバイスのイオン伝導体としては、電解液(電解質を溶媒に溶解させて調製した電解質溶液)を保持させたセパレータ、固体電解質、電解液を高分子ゲルなどでゲル化した固形化電解質、高分子ゲルと固体電解質の複合体、イオン性液体などのリチウムイオンの伝導体が使用できる。上記イオン伝導体として固体電解質を採用した場合には、充放電による副反応の電解液の分解反応が抑制され、充放電サイクルによる放電容量の低下を抑制することができる。また、固体電解質をシート化することで、蓄電デバイスの組立工程が簡略化でき製造コストを低減できる。
【0031】
〈固体電解質シート〉
上記本発明の蓄電デバイスのイオン伝導体に少なくともガラス繊維と加熱により変形が容易な熱可塑性樹脂とリチウムイオン伝導性固体電解質粒子と、二重結合と単結合が交互に並んだ構造の共役π電子系が直線的な分子鎖に沿って連なる一次元構造の導電性ポリマーもしくはオリゴマーから成るイオン伝導体シートを用いることで、製造プロセスを簡略化でき、エネルギー密度を高めることが可能である。
上記固体電解質シートは以下の手順で作製される。熱可塑性樹脂に、二重結合と単結合が交互に並んだ構造の共役π電子系が直線的な分子鎖に沿って連なる一次元構造の導電性ポリマーもしくはオリゴマーと、リチウムイオン伝導性固体電解質粒子と、ガラス繊維とを分散させた後、加熱成形してシート状に加工する。または、加熱あるいは溶媒に溶解して液状化した熱可塑性樹脂に、導電性ポリマーもしくはオリゴマーと、リチウムイオン伝導性固体電解質粒子を分散させる。ついで、ガラス繊維の不織布を含浸させた後、固化させプレス処理して固体電解質シートを作製する。上記固体電解質シートの熱可塑性樹脂の比率は20~50重量%、導電性ポリマーもしくはオリゴマーの比率は10~50重量%、固体電解質粒子の比率は20~60重量%、ガラス繊維の比率は10~50重量%、の範囲が被覆層の機械強度と接着力を保ち、リチウムイオン伝導度を保持するために好ましい。上記固体電解質シート中の導電性ポリマーもしくはオリゴマーは、固体電解質粒子間のイオン伝導を補助する機能を担う。上記固体電解質シート中の熱可塑性樹脂は加熱によって変形が可能で冷却によって形状が維持されることから、大きなプレス圧と拘束部材を必要とせずに負極と固体電解質シート、固体電解質シートと正極を密着させることが可能になる。上記固体電解質シート中のガラス繊維は、固体電解質の自立フィルム化ならびに、熱可塑性樹脂の液状化時にも負極と正極間のギャップを保持し短絡を防ぐ機能を担う。
【0032】
〈電解液〉
前記イオン伝導体に電解液を使用する場合は、負極と正極間に電気的短絡を防ぐために設けられたセパレータの微細孔に電解液を含浸して使用される。セパレータとしては、ミクロポア構造あるいは不織布構造を有する樹脂フィルムが用いられ、樹脂材料としては、ポリエチレン,ポリプロピレン等のポリオレフィン,ポリイミド,ポリアミドイミド,セルロースが好ましい。上記微孔性樹脂フィルムは、耐熱性を高めるために、リチウムイオンを通過する、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の金属酸化物粒子含有層が表面に被覆されていてもよい。上記電解液の電解質には、リチウムイオン(Li+)とルイス酸イオンから成る塩の、LiBF4、LiPF6、LiAsF6、LiClO4、LiCF3SO3、LiBPh4(Ph:フェニル基)、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF3)2、及びこれらの混合塩、等が用いられる。上記電解質の溶媒としては、例えば、アセトニトリル、ベンゾニトリル、プロピレンカーボネイト、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ニトロベンゼン、ジクロロエタン、ジエトキシエタン、1,2-ジメトキシエタン、クロロベンゼン、γ-ブチロラクトン、ジオキソラン、スルホラン、ニトロメタン、ジメチルサルファイド、ジメチルサルオキシド、3-メチル-2-オキダゾリジノン、2-メチルテトラヒドロフラン、3-プロピルシドノン、二酸化イオウ、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、又はこれらの混合液が使用できる。上記溶媒の水素元素をフッ素元素で置換した構造の溶媒も利用できる。さらに、イオン性液体も使用できる。上記溶媒は、例えば、活性アルミナ、モレキュラーシーブ、五酸化リン、塩化カルシウムなどで脱水するか、溶媒によっては、不活性ガス中のアルカリ金属共存下で蒸留して不純物除去と脱水をも行なうのがよい。前記電解質を前記溶媒に溶解して調製される電解液の電解質濃度は、0.5から10モル/リットルの範囲の濃度であることが高いイオン伝導度を有するために好もしい。電極と電解液との反応を抑制するために、電極表面に安定なフッ化物を形成する、フルオロエチレンカーボネートやジフルオロエチレンカーボネートなどの有機フッ素化合物を添加することが好ましい。さらに、上記電解液に、導電性ポリマーの原料であるモノマー、ビニル基を2つ以上有したビニル化合物を添加するのも好ましい。導電性ポリマーの原料であるモノマー及びビニル基を2つ以上有したビニル化合物は、充電池に電解重合で、電極表面にポリマー皮膜を形成し、電極表面での電解液の分解反応等を抑制する。
また、上記電解液をゲル化剤で固形化するのも好ましい。ゲル化剤としては電解液の溶媒を吸収して膨潤するようなポリマー、シリカゲルなどの吸液量の多い多孔質材料を用いるのが望ましい。上記ポリマーとしては、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリエチレングリコールなどが用いられる。さらに、上記ポリマーは架橋構造のものがより好ましい。
【0033】
[表面被覆前の負極もしくは正極用電極構造体]
本発明の被覆処理前の電極構造体は、以下の手順で作製する。負極もしくは正極の活物質粒子、導電助剤、バインダーを混合し、適宜バインダーの溶剤を添加して、粘度を調整しながら混練してスラリーを形成し、集電体上に該スラリーを塗工した後、所定の温度処理と乾燥を行い、プレス機にて電極層の厚さと密度を調製して電極構造体を形成する。次いで得られた電極構造体に前述の被覆処理を施す。上記被覆処理を施す前に、被覆層との密着性を向上させるために、ドーパミン水溶液に浸して、ポリドーパミンの被覆処理を行ってもよい。
【0034】
[電極活物質]
前記蓄電デバイスの負極活物質としては、少なくともシリコン、シリコン合金、酸化シリコン、スズ合金、黒鉛、難黒鉛化性カーボン、チタン-リチウム酸化物、チタン酸化物から成る群から選択される少なくとも一種類以上の物質であることが好ましい。前記負極活物質はシリコン、シリコン合金、酸化シリコン、スズ合金、から選択される微粉であることがより好ましく、シリコン、シリコン合金、酸化シリコンから選択される微粉であることが最も好ましい。さらに、シリコン元素主体の活物質表面には少なくともAl,Zr,Mg,Ca,Laから選択される1種以上の金属元素とLiから少なくとも形成される複合酸化物層を有しているのが好ましい。上記複合酸化物層は、充電時の不可逆量の主原因の酸化シリコンの生成を抑制する。また、シリコン元素主体の活物質表面は非晶質カーボンによって被覆されていてもよい。
前記蓄電デバイスの正極活物質は、遷移金属酸化物、遷移金属リン酸化合物、リチウム-遷移金属酸化物、リチウム-遷移金属リン酸化合物、硫黄、硫黄化合物から成る群から選択される少なくとも一種類以上の物質であることが好ましい。上記正極活物質に含有される遷移金属元素としては、Ni,Co,Mn,Fe,Cr,Vなどが主元素としてより好ましく用いられる。上記正極活物質は、Mo,W,Nb,Ta,V,B,Ti,Ce,Al,Ba,Zr,Sr,Th,Mg,Be,La,Ca,Yから選択される元素を主成分とする酸化物もしくは複合酸化物と複合化されていてもよい。上記正極活物質表面には少なくともAl,Zr,Mg,Ca,Laから選択される1種以上の金属元素とLiから少なくとも形成される複合酸化物層を有しているのが好ましい。上記複合酸化物層の被覆によって、充電時の分解反応や構成金属イオンの流出を抑制する。
【0035】
[バインダー]
前記電極構造体を形成する活物質と導電助剤とを結着するバインダーには、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸、ポリフッ化ビリニデン、スチレン-ブタジエンゴム等が好ましい。また、該ポリマーを幹ポリマーとして導電性ポリマーの原料モノマーとビニル基を2つ以上有するビニル化合物を重合させたグラフトポリマーを用いてもよい。
【0036】
[導電助剤]
前記導電助剤としては、アセチレンブラック、黒鉛粉、膨張化黒鉛粉、カーボンファイバー、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェンから成る群から選択される少なくとも一種類以上の炭素材料が好ましい。
【0037】
[集電体]
集電体を形成する材料としては、電気伝導度が高く、且つ、電池反応に不活性な材質が望ましい。正極用集電体の好ましい材質としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレススチール、チタン、白金から選択される一種類以上金属材料から成るものが挙げられる。正極用集電体のより好ましい材質としては安価で電気抵抗の低いアルミニウムが用いられる。負極用集電体の好ましい材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、ステンレススチール、チタン、白金から選択される一種類以上金属材料から成るものが挙げられる。負極用集電体より好ましい材料としては安価で電気抵抗の低い銅が用いられる。
また、集電体の形状としては、板状であるが、この“板状”とは、厚みについては実用の範囲上で特定されず、厚み約5μmから100μm程度の“箔”といわれる形態をも包含する。また、板状であって、例えばメッシュ状、スポンジ状、繊維状をなす部材、パンチングメタル、表裏両面に三次元の凹凸パターンが形成されたメタル、エキスパンドメタル等を採用することもできる。上記三次元の凹凸パターンが形成された板状あるいは箔状金属は、例えば、マイクロアレイパターンあるいはラインアンドスペースパターンを表面に設けた金属製もしくはセラミック製のロールに圧力をかけて、板状あるいは箔状の金属に転写することで、作製できる。特に、三次元の凹凸パターンが形成された集電体を採用した蓄電デバイスには、充放電時の電極面積あたりの実質的な電流密度の低減、電極層との密着性の向上、機械的強度の向上から、充放電の電流特性の向上と充放電サイクル寿命の向上の効果がある。
【0038】
[蓄電デバイスのセル形状]
本発明で製造する蓄電デバイスの具体的なセル形状としては、例えば、扁平形、円筒形、直方体形、シート形などがある。又、セルの構造としては、例えば、単層式、多層式、スパイラル式などがある。その中でも、スパイラル式円筒形のセルは、負極と正極の間にセパレータを挟んで多重に巻くことによって、電極面積を大きくすることができ、充放電時に大電流を流すことができるという特徴を有する。また、直方体形やシート形のセルは、複数の電池を収納して構成する機器の収納スペースを有効に利用することができる特徴を有する。
【0039】
(電槽)
電槽(ハウジング、外装)の材料としては、ステンレススチール、アルミニウム合金、チタンクラッドステンレス材、銅クラッドステンレス材、ニッケルメッキ鋼板、樹脂フィルムとアルミニウム箔との積層体であるアルミニウムラミネートフィルムなども多用される。
他の電槽の材質としては、ステンレススチール以外にも亜鉛などの金属、ポリプロピレンなどのプラスチック、または、金属もしくはガラス繊維とプラスチックの複合材、も用いることができる。
【0040】
(安全弁)
リチウム二次電池には、電池の内圧が高まった時の圧力を逃すための安全対策として、安全弁が備えられている。安全弁としては、例えば、破裂箔、ゴム、スプリング、金属ボール、などが使用できる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例にそって、本発明をさらに詳細に説明する。
【0042】
[シリコンが主成分の蓄電デバイス用負極活物質の調製]
(負極活物質シリコン合金粉の調製例AM1)
窒素ガス置換したチャンバー内面とボールがジルコニア製の振動ボールミル容器に、シリコン粉65重量部、スズ粉35重量部、銅粉5重量部、黒鉛粉5重量部、クエン酸リチウム4水和物を1重量部、硝酸アルミニウム9水和物を4重量部、エタノール5重量部を挿入し、10時間処理した後、窒素ガス雰囲気下で300℃の熱処理を行い、黒鉛含有非晶質化シリコン-スズ-銅合金粉を調製した。上記添加したクエン酸リチウムと硝酸アルミニウムは熱分解して、シリコン-スズ-銅合金粉を表面被覆するリチウム-アルミニウム複合酸化皮膜を形成する。
(負極活物質シリコン-黒鉛複合体粉の調製例AM2)
金属シリコン粉をエタノールに10重量%分散した溶液を湿式ビーズミルにて300nm以下の粒径に粉砕し、得られたスラリーに、シリコン100重量部に対して、クエン酸リチウム4水和物を1重量部、硝酸アルミニウム9水和物を26.7重量部、人造黒鉛粉137.5部、グラフェン12.5部の比率となるように添加して、湿式ビーズミルで分散して混合液を得た。得られた混合液をスプレードライヤーにて窒素ガス雰囲気下熱風温度300℃で噴霧乾燥した後、更に、窒素ガス雰囲気下600℃で熱処理を行い、リチウム-アルミニウム複合酸化膜被覆のシリコン-黒鉛複合体粉を調製した。
【0043】
(被覆処理を施した正極活物質の調製例CM1)
クエン酸リチウム4水和物1重量部、硝酸アルミニウム9水和物20重量部の混合物のエタノール溶液に、硝酸アルミニウム9水和物の285倍の重量比のニッケル-コバルト-マンガン酸リチウム粉LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2を添加し、撹拌の後、スプレードライヤーにて窒素ガス雰囲気下熱風温度300℃で噴霧乾燥して、リチウム-アルミニウム複合酸化膜被覆のニッケル-コバルト-マンガン酸リチウム粉を調製した。リチウム-アルミニウム複合酸化膜被覆の厚さは透過電子顕微鏡観察から、5nm程度であった。
【0044】
[蓄電デバイスの作製]
作製作業は露点-50℃以下の水分を管理した乾燥雰囲気下で行なった。
【0045】
〈実施例1〉
(負極の作製)
上記負極活物質調製例AM1で調製したシリコン-スズ-銅合金粉を40重量部、人造黒鉛45重量部、アセチレンブラック5重量部、ポリアミック酸のN-メチル-2-ピロリドン溶液を固形分として10重量部を混合し、適宜粘度調整のためのN-メチル-2-ピロリドンを添加して、混練して電極層形成用スラリー(スラリー状の負極合剤)を調製した。得られたスラリーをコーターで厚さ20μmの銅箔上に塗工した後、110℃で60分間乾燥の上、ロールプレス機にて厚さ及び密度を調整し、さらに減圧下300℃で2時間熱処理を施して、銅箔の集電体上に密度1.4g/cm3の活物質層を形成し表面被覆前の電極構造体を得た。
次に、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのランダム共重合体を35重量部、導電性高分子のポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)を30重量部、固体電解質70Li2S・30P2S5微粉末35重量部を混合し、ポリマーの溶媒としてトルエンを添加し混練して得られたスラリーを、先に得られた表面被覆前の電極構造体表面に塗布し、80℃で1時間乾燥後、さらに減圧下150℃で2時間乾燥し、表面被覆層を形成した負極用電極構造体を作製した。
次いで適宜所定のサイズに電極構造体を切断後、ニッケルリードを集電体の銅箔のタブにスポット溶接機で溶接し、リード端子を取り出して負極を作製した。
なお、上記70Li2S・30P2S5微粉末はLi2Sを70重量部とP2S5を30重量部混合し、アルゴンガス雰囲気下で遊星ボールミルにて粉砕調製し、ついでアルゴンガス雰囲気下270℃で熱処理した後、再度解砕処理を行って調製した。
【0046】
(正極の作製)
上記正極活物質調製例CM1のリチウム-アルミニウム複合酸化膜被覆のニッケル-コバルト-マンガン酸リチウム粉を94重量部、アセチレンブラック3重量部、ポリフッ化ビリニデンのN-メチル-2-ピロリドン溶液を固形分として3重量部を混合し、適宜粘度調整のためのN-メチル-2-ピロリドンを添加して、混練して電極層形成用スラリー(スラリー状の負極合剤)を調製した。得られたスラリーをコーターで厚さ17μmのアルミニウム箔上に塗工した後、110℃で10分間乾燥の上、ロールプレス機にて厚さ及び密度を調整し、さらに減圧下150℃で2時間熱処理を施して、アルミニウム箔の集電体上に密度3.3g/cm3の活物質層を形成し表面被覆前の電極構造体を得た。次に、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのランダム共重合体を35重量部、導電性高分子のポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)を30重量部、固体電解質70Li2S・30P2S5微粉末を35重量部、を混合し、ポリマーの溶媒とトルエンを添加し混練して得られたスラリーを、先に得られた表面被覆前の正極用電極構造体表面に塗布し、80℃で1時間乾燥後、さらに減圧下150℃で2時間乾燥し、表面被覆層を形成した。
次いで適宜所定のサイズに電極構造体を切断後、アルミニウムリードを集電体のアルミニウム箔のタブに超音波溶接機で溶接し、リード端子を取り出して正極を作製した。
【0047】
(リチウムイオン伝導体シートの作製)
前記負極の作製時に使用した固体電解質粉と同様の方法にて調製した70Li2S・30P2S5微粉末40重量部と導電性高分子のポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)25重量部を、融点50℃のエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのランダム共重合体35重量部に混合し、該共重合体の溶融温度に加熱した後、平均繊維径1μm以下のガラス繊維の不織布に含浸させプレスして、厚さ10μmのリチウムイオン伝導体シートを作製した。
【0048】
(電池の組み立て)
パウチセルは、以下の手順で作製した。先に作製した、負極、リチウムイオン伝導体シート、正極を順次積層した。ポリエチレン/アルミニウム箔/ナイロン構造のアルミラミネートフィルムをポケット状にした電槽に、積層した負極/リチウムイオン伝導体シート/正極を挿入し減圧にした後、60℃に加熱した加熱ロールプレス機で負極とリチウムイオン伝導体シートならびにリチウムイオン伝導体シートと正極を接着させ、電槽を減圧にした後、ヒートシールしてパウチセルを作製した。なお、上記アルミラミネートフィルムの外側はナイロンフィルム、その内側はポリエチレンフィルムとした。
【0049】
〈実施例2〉
(負極の作製)
上記実施例1と同様にして、被覆処理前の負極用電極構造体を作製した。次に、ヒドロキシエチルセルロース35重量部、導電性高分子 (3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホナート) 30重量部、固体電解質Li1.5Al0.5Ge1.5P3O12微粉末35重量部を混合し、イオン交換水を添加して混練して得られたスラリーを、先に得られた表面被覆前の電極構造体表面に塗布し、80℃で1時間乾燥後、さらに減圧下120℃で2時間乾燥し、表面被覆層を形成した負極用電極構造体を作製した。
次いで適宜所定のサイズに電極構造体を切断後、ニッケルリードを集電体の銅箔のタブにスポット溶接機で溶接し、リード端子を取り出して負極を作製した。
【0050】
(正極の作製)
正極の被覆層形成には、ヒドロキシエチルセルロース35重量部、導電性高分子 (3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホナート) 30重量部、固体電解質Li1.5Al0.5Ge1.5P3O12微粉末35重量部を混合し、イオン交換水を添加して混練して得られたスラリーを用いた。それ以外は、上記実施例1と同様にして正極を作製した。
【0051】
(リチウムイオン伝導体シートの作製)
固体電解質Li1.5Al0.5Ge1.5P3O12微粉末40重量部と導電性高分子の(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホナート)25重量部を、ヒドロキシエチルセルロース35重量部に混合しイオン交換水を添加して混練しスラリーを調製した。調製したスラリーを平均繊維径1μm以下のガラス繊維の不織布に塗工し乾燥後、加熱ロールプレス機にて150℃でプレスして、厚さ10μmのリチウムイオン伝導体シートを作製した。
【0052】
(電池の組み立て)
パウチセルは、以下の手順で作製した。積層した負極/リチウムイオン伝導体シート/正極を150℃に加熱した加熱ロールプレス機でプレスして、負極とリチウムイオン伝導体シートならびにリチウムイオン伝導体シートと正極を接着させ電極群を作製した。ついで、作製した電極群をポリエチレン/アルミニウム箔/ナイロン構造のアルミラミネートフィルムをポケット状にした電槽に挿入し減圧にした後、ヒートシールしてパウチセルを作製した。
【0053】
〈実施例3〉
(負極の作製)
上記実施例1と同様にして、被覆処理前の負極用電極構造体を作製した。次に、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのランダム共重合体35重量部、導電性高分子のポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)30重量部、固体電解質Li1.5Al0.5Ge1.5P3O12微粉末35重量部を混合し、溶媒としてトルエンを添加し、混練して得られたスラリーを、先に得られた表面被覆前の電極構造体表面に塗布し、80℃で1時間乾燥後、さらに減圧下150℃で2時間乾燥し、表面被覆層を形成した負極用電極構造体を作製した。
次いで適宜所定のサイズに電極構造体を切断後、ニッケルリードを集電体の銅箔のタブにスポット溶接機で溶接し、リード端子を取り出して負極を作製した。
【0054】
(正極の作製)
正極の被覆層形成には、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのランダム共重合体を35重量部、導電性高分子のポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)を30重量部、固体電解質Li1.5Al0.5Ge1.5P3O12微粉末35重量部を混合し、溶媒としてトルエンを添加し、混練して得られたスラリーを用いた。それ以外は、上記実施例1と同様にして正極を作製した。
【0055】
(リチウムイオン伝導体としての電解液)
十分に水分を除去したエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを体積比3:7で混合した溶媒に、六フッ化リン酸リチウム塩(LiPF6)を1M(モル/リットル)溶解して、さらにビニレンカーボネートを3重量%添加して、電解液を調製した。
【0056】
(電池の組み立て)
先に作製した負極、セパレータフィルム、先に作製した正極を積層し、電極群を形成した。次に、ポリエチレン/アルミニウム箔/ナイロン構造のアルミラミネートフィルムを円筒状にした電槽に電極群を挿入し電極リード部のラミネートフィルム部をヒートシールした。ついで、先に調製した電解液を注入し、減圧にした後、ヒートシールして封入しパウチセルを作製した。上記セパレータとしては厚さ17μmで気孔率40%のミクロポア構造のポリエチレンフィルムを使用した。
【0057】
〈実施例4〉
(負極の作製)
上記実施例1と同様にして、被覆処理前の負極用電極構造体を作製した。次に、ヒドロキシエチルセルロース55重量部、導電性高分子 (3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホナート) 45重量部、を混合し、イオン交換水を添加して混練して得られたスラリーを、先に得られた表面被覆前の電極構造体表面に塗布し、80℃で1時間乾燥後、さらに減圧下120℃で2時間乾燥し、表面被覆層を形成した負極用電極構造体を作製した。
次いで適宜所定のサイズに電極構造体を切断後、ニッケルリードを集電体の銅箔のタブにスポット溶接機で溶接し、リード端子を取り出して負極を作製した。
【0058】
(正極の作製)
上記正極活物質調製例CM1のリチウム-アルミニウム複合酸化膜被覆のニッケル-コバルト-マンガン酸リチウム粉を94重量部、アセチレンブラック3重量部、ポリフッ化ビリニデンのN-メチル-2-ピロリドン溶液を固形分として3重量部を混合し、適宜粘度調整のためのN-メチル-2-ピロリドンを添加して、混練して電極層形成用スラリー(スラリー状の正極合剤)を調製した。得られたスラリーをコーターで厚さ17μmのアルミニウム箔上に塗工した後、110℃で10分間乾燥の上、ロールプレス機にて厚さ及び密度を調整し、さらに減圧下150℃で2時間熱処理を施して、アルミニウム箔の集電体上に密度3.3g/cm3の活物質層を形成し表面被覆前の電極構造体を得た。次いで適宜所定のサイズに電極構造体を切断後、アルミニウムリードを集電体のアルミニウム箔のタブに超音波溶接機で溶接し、リード端子を取り出して正極を作製した。
【0059】
(リチウムイオン伝導体としての電解液)
実施例3と同様にして電解液を調製した。
(電池の組み立て)
先に作製した負極、セパレータフィルム、先に作製した正極を積層し、電極群を形成した。次に、実施例3と同様にしてパウチセルを作製した。
【0060】
〈実施例5〉
(負極の作製)
上記負極活物質調製例AM2で調製したシリコン-黒鉛複合体粉を85重量部、アセチレンブラック5重量部、ポリアクリル酸ナトリウム水溶液を固形分(アクリル酸ナトリウム)として10重量部を混合し、適宜粘度調整のためのイオン交換水を添加して、混練して電極層形成用スラリー(スラリー状の負極合剤)を調製した。得られたスラリーをコーターで厚さ20μmの銅箔上に塗工した後、110℃で60分間乾燥の上、ロールプレス機にて厚さ及び密度を調整し、さらに減圧下150℃で2時間熱処理を施して、銅箔の集電体上に密度1.4g/cm3の活物質層を形成し表面被覆前の電極構造体を得た。
次に、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのランダム共重合体を35重量部、導電性高分子のポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)を30重量部、固体電解質70Li2S・30P2S5微粉末35重量部を混合し、ポリマーの溶媒とトルエンを添加し混練して得られたスラリーを、先に得られた表面被覆前の電極構造体表面に塗布し、80℃で1時間乾燥後、さらに減圧下150℃で2時間乾燥し、表面被覆層を形成した負極用電極構造体を作製した。
次いで適宜所定のサイズに電極構造体を切断後、ニッケルリードを集電体の銅箔のタブにスポット溶接機で溶接し、リード端子を取り出して負極を作製した。
なお、上記70Li2S・30P2S5微粉末はLi2Sを70重量部とP2S5を30重量部混合し、アルゴンガス雰囲気下で遊星ボールミルにて粉砕調製し、ついで270℃で熱処理した後、再度解砕処理を行って調製した。
【0061】
(正極の作製)
実施例1と同様にして、正極を作製した。
(リチウムイオン伝導体シートの作製)
実施例1と同様にしてリチウムイオン伝導体シートを作製した。
(電池の組み立て)
実施例1と同様にしてパウチセルを作製した。
【0062】
〈実施例6〉
(負極の作製)
上記負極活物質調製例AM2で調製したシリコン-黒鉛複合体粉を85重量部、アセチレンブラック5重量部、ポリアクリル酸ナトリウム水溶液を固形分(アクリル酸ナトリウム)として10重量部を混合し、適宜粘度調整のためのイオン交換水を添加して、混練して電極層形成用スラリー(スラリー状の負極合剤)を調製した。得られたスラリーをコーターで厚さ20μmの銅箔上に塗工した後、110℃で60分間乾燥の上、ロールプレス機にて厚さ及び密度を調整し、さらに減圧下150℃で2時間熱処理を施して、銅箔の集電体上に密度1.4g/cm3の活物質層を形成し表面被覆前の電極構造体を得た。
次に、ヒドロキシエチルセルロース55重量部、導電性高分子 (3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホナート) 45重量部、を混合し、イオン交換水を添加して混練して得られたスラリーを、先に得られた表面被覆前の電極構造体表面に塗布し、80℃で1時間乾燥後、さらに減圧下120℃で2時間乾燥し、表面被覆層を形成した負極用電極構造体を作製した。
次いで適宜所定のサイズに電極構造体を切断後、ニッケルリードを集電体の銅箔のタブにスポット溶接機で溶接し、リード端子を取り出して負極を作製した。
【0063】
(正極の作製)
実施例4と同様にして正極を作製した。
(リチウムイオン伝導体としての電解液)
実施例4と同様にして電解液を調製した。
(電池の組み立て)
実施例4と同様にしてパウチセルを作製した。
【0064】
〈実施例7〉
(負極の作製)
上記負極活物質調製例AM2で調製したシリコン-黒鉛複合体粉を85重量部、アセチレンブラック5重量部、ポリビニルアルコール水溶液を固形分(ポリビニルアルコール)として6重量部、ジエチレングリコールジビニルエーテルを1重量部、アニリンを3重量部、WO3を重量部3重量部、紫外線開始剤の4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノンを0.5重量部、混合し、適宜粘度調整のためのイオン交換水を添加して、混練して電極層形成用スラリー(スラリー状の負極合剤)を調製した。得られたスラリーをコーターで厚さ20μmの銅箔上に塗工した後、110℃で60分間乾燥の上、紫外線照射して光重合反応をさせた。次にロールプレス機にて厚さ及び密度を調整し、さらに減圧下150℃で2時間熱処理を施して、銅箔の集電体上に密度1.4g/cm3の活物質層を形成し表面被覆前の電極構造体を得た。
次いで適宜所定のサイズに電極構造体を切断後、ニッケルリードを集電体の銅箔のタブにスポット溶接機で溶接し、リード端子を取り出して負極を作製した。
【0065】
(正極の作製)
実施例4と同様にして正極を作製した。
(リチウムイオン伝導体としての電解液)
実施例4と同様にして電解液を調製した。
(電池の組み立て)
実施例4と同様にしてパウチセルを作製した。
【0066】
〈参考例1〉
(負極の作製)
上記負極活物質調製例AM1で調製したシリコン-スズ-銅合金粉を40重量部、人造黒鉛45重量部、アセチレンブラック5重量部、ポリアミック酸のN-メチル-2-ピロリドン溶液を固形分として10重量部を混合し、適宜粘度調整のためのN-メチル-2-ピロリドンを添加して、混練して電極層形成用スラリー(スラリー状の負極合剤)を調製した。得られたスラリーをコーターで厚さ20μmの銅箔上に塗工した後、110℃で60分間乾燥の上、ロールプレス機にて厚さ及び密度を調整し、さらに減圧下300℃で2時間熱処理を施して、銅箔の集電体上に密度1.4g/cm3の活物質層を形成し表面被覆前の電極構造体を得た。
次いで適宜所定のサイズに電極構造体を切断後、ニッケルリードを集電体の銅箔のタブにスポット溶接機で溶接し、リード端子を取り出して負極を作製した。
【0067】
(正極の作製)
上記正極活物質調製例CM1のリチウム-アルミニウム複合酸化膜被覆のニッケル-コバルト-マンガン酸リチウム粉を94重量部、アセチレンブラック3重量部、ポリフッ化ビリニデンのN-メチル-2-ピロリドン溶液を固形分として3重量部を混合し、適宜粘度調整のためのN-メチル-2-ピロリドンを添加して、混練して電極層形成用スラリー(スラリー状の負極合剤)を調製した。得られたスラリーをコーターで厚さ17μmのアルミニウム箔上に塗工した後、110℃で10分間乾燥の上、ロールプレス機にて厚さ及び密度を調整し、さらに減圧下150℃で2時間熱処理を施して、アルミニウム箔の集電体上に密度3.3g/cm3の活物質層を形成し表面被覆前の電極構造体を得た。次いで適宜所定のサイズに電極構造体を切断後、アルミニウムリードを集電体のアルミニウム箔のタブに超音波溶接機で溶接し、リード端子を取り出して正極を作製した。
【0068】
(リチウムイオン伝導体としての電解液)
十分に水分を除去したエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを体積比3:7で混合した溶媒に、六フッ化リン酸リチウム塩(LiPF6)を1M(モル/リットル)溶解して、さらにビニレンカーボネートを3重量添加して電解液を調製した。
【0069】
(電池の組み立て)
先に作製した負極、セパレータフィルム、先に作製した正極を積層し、電極群を形成した。次に、ポリエチレン/アルミニウム箔/ナイロン構造のアルミラミネートフィルムを円筒状にした電槽に電極群を挿入し電極リード部のラミネートフィルム部をヒートシールした。ついで、先に調製した電解液を注入し、減圧にした後、ヒートシールして封入してパウチセルを作製した。上記セパレータとしては厚さ17μmで気孔率40%のミクロポア構造のポリエチレンフィルムを使用した。
【0070】
参考例2
(負極の作製)
上記負極活物質調製例AM2で調製したシリコン-黒鉛複合体粉を85重量部、アセチレンブラック5重量部、ポリアクリル酸ナトリウム水溶液を固形分(アクリル酸ナトリウム)として10重量部を混合し、適宜粘度調整のためのイオン交換水を添加して、混練して電極層形成用スラリー(スラリー状の負極合剤)を調製した。得られたスラリーをコーターで厚さ20μmの銅箔上に塗工した後、110℃で60分間乾燥の上、ロールプレス機にて厚さ及び密度を調整し、さらに減圧下150℃で2時間熱処理を施して、銅箔の集電体上に密度1.4g/cm3の活物質層を形成し表面被覆前の電極構造体を得た。
次いで適宜所定のサイズに電極構造体を切断後、ニッケルリードを集電体の銅箔のタブにスポット溶接機で溶接し、リード端子を取り出して負極を作製した。
【0071】
(正極の作製)
参考例1と同様にして正極を作製した。
(リチウムイオン伝導体としての電解液)
参考例1と同様にして電解液として調製した。
(電池の組み立て)
参考例1と同様にしてパウチセルを作製した。
【0072】
[蓄電デバイスの評価]
実施1から実施例7、並びに参考例1と参考例2のセルの正極活物質の容量密度を190mAh/gとして、電極重量から計算した容量を基準に、0.1C(1Cとは定電流放電して,ちょうど 1 時間で放電終了となる電流値)の電流値で、25℃の雰囲気にて4.2V~2.5Vの電池電圧範囲にて、充放電を行い、放電容量を決定した。なお、全固体電池である実施例1、実施例2、実施例5にて作製したセルは初回充放電後に、電極と固体電解質シートの密着性を改善するために、加熱したロールプレス機でセルのプレス処理を行った。
上記放電量を元に、45℃の雰囲気下で、0.5Cの電流値で充電はCCCV(定電流定電圧充電)で最大電圧4.3Vで充電時間は3.5時間、放電は0.5Cでの電流値で2.5Vまで行う条件にて、充放電を100回繰り返し、100回目の放電時の容量保持率(%)の大小を比較評価した。なお、充電と放電の間の休止時間は0.5時間とした。
【0073】
その結果、実施例1~実施例4と参考例1の比較では、容量保持率が高かった順としては、実施例1≧実施例2>実施例3>実施例4>参考例1であった。なお、実施例1と実施例2とでは、固体電解質のイオン伝導度の差のためか、実施例1のセルの放電量が高かった。
実施例5~実施例7と参考例2の比較では、容量保持率が高かった順としては、実施例5>実施例7≧実施例6>参考例2であった。
以上の結果から、いずれの場合も本発明の電極表面を被覆したセルでの充放電の繰り返し時の容量低下が小さいことがわかった。特に、リチウムイオン伝導体に、熱可塑性樹脂と導電性高分子と固体電解質の複合体を用いた場合には充放電の繰り返し時の容量低下が小さいことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上、説明してきたように、本発明によれば、充放電の繰り返しによる放電容量の低下の少ない、寿命の長い蓄電デバイスを提供することができる。