(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】鋳鉄用黒鉛球状化剤
(51)【国際特許分類】
C21C 1/10 20060101AFI20230306BHJP
B22D 1/00 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
C21C1/10 102
B22D1/00 E
(21)【出願番号】P 2018240646
(22)【出願日】2018-12-25
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000222875
【氏名又は名称】東洋電化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119725
【氏名又は名称】辻本 希世士
(74)【代理人】
【識別番号】100072213
【氏名又は名称】辻本 一義
(74)【代理人】
【識別番号】100168790
【氏名又は名称】丸山 英之
(72)【発明者】
【氏名】山本 展也
(72)【発明者】
【氏名】横澤 和憲
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04162917(US,A)
【文献】特開昭51-109209(JP,A)
【文献】国際公開第2015/034062(WO,A1)
【文献】特開昭56-005912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 1/10
B22D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムが10~40重量%、グラファイトが5~70重量%含有され
、レアアース、ケイ素、鉄が含有されている組成物と、前記組成物が鋼板にて被覆されたワイヤー状に形成されていることを特徴とする鋳鉄用黒鉛球状化剤。
【請求項2】
前記レアアースが0.1~10重量%、前記ケイ素が1~50重量%含有されていることを特徴とする請求項1に記載の鋳鉄用黒鉛球状化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳鉄へのマグネシウム添加において、マグネシウムの添加歩留まりを向上させる球状化剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、鋳鉄には炭素が少量含有されており、鋳鉄の組織中に黒鉛が晶出することとなり、その晶出した黒鉛の形状によって、鋳鉄の機械的物性が種々変化する。鋳鉄中に黒鉛が片状に晶出される鋳鉄は、ねずみ鋳鉄と呼ばれ、引張強度が低く伸びがなく脆いが、鋳鉄中に黒鉛が球状に晶出されるように工夫された鋳鉄は、ダクタイル鋳鉄と呼ばれ、鋳鉄の靭性が向上するために自動車部品、水道管など種々の構造物に使用されている。この鋳鉄中に黒鉛を球状化させるために、マグネシウムを添加することが有用であることが見出され、工業的に最も広く使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、30~70重量%のケイ素、1~9.5重量%のマグネシウム、4重量%以下のカルシウム、7重量%以下のレアアース、0.5~4重量%の炭素、残部を鉄とする黒鉛球状化剤が開示されている。
【0004】
そして、特許文献2には、30~70重量%のケイ素、2~7重量%のマグネシウム、1~4重量%のレアアース、0.5~5重量%の炭素、0.9重量%以下のカルシウム、残部を鉄とする黒鉛球状化剤が開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、マグネシウム基合金の、粒径が1mm~10mmである細粒と、鋼または鋳鉄の、粒径が1mm~10mmである細粒とを、混合し、圧縮成形した黒鉛球状化剤や、そのマグネシウム基合金を3~30質量%含む前記黒鉛球状化剤などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭60-46308号公報
【文献】特開昭62-161909号公報
【文献】特開2008-179854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、マグネシウムは、約650℃で溶融し、約1100℃で沸騰するため、鋳鉄の溶融温度で一般に1400~1500℃であることから、特許文献1から特許文献3のようなマグネシウムを含有する球状化剤を溶融している鋳鉄に添加したときに、添加して間もなくマグネシウムが爆発的に気化して、鋳鉄中におけるマグネシウムの歩留まりが低く、マグネシウムの添加量が多く必要で添加コストが高くなったり、気化後に空気中の酸素と反応して生じる大量の白煙が作業環境を悪化させたりするという課題があった。
【0008】
また、球状化剤におけるマグネシウムの含有割合を特許文献3の球状化処理剤のように高くすれば、溶融した鋳鉄の表層でより激しい反応が起こるために、溶融した鋳鉄が周囲に激しく飛散するようにもなり、作業員の安全上の課題があることから、球状化剤におけるマグネシウムの含有割合を高くすることが困難であった。
【0009】
そこで、本発明では、上記課題を鑑み、鋳鉄中における黒鉛を球状化させるために有用であるマグネシウムを高い含有割合で含有するとともに、マグネシウムの爆発的反応を緩和し、鋳鉄中におけるマグネシウムの歩留まりを向上させることができる鋳鉄用黒鉛球状化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
〔1〕すなわち、本発明は、マグネシウムが10~40重量%、グラファイトが5~ 70重量%含有され、レアアース、ケイ素、鉄が含有されている組成物と、前記組成物 が鋼板にて被覆されたワイヤー状に形成されていることを特徴とする鋳鉄用黒鉛球状化 剤である。
【0012】
〔2〕そして、前記レアアースが0.1~10重量%、前記ケイ素が1~50重量% 含有されていることを特徴とする前記〔1〕に記載の鋳鉄用黒鉛球状化剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、鋳鉄中における黒鉛を球状化させるために有用であるマグネシウムを高い含有量で含有するとともに、マグネシウムの爆発的反応を緩和し、鋳鉄中におけるマグネシウムの歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明である実施例の鋳鉄用黒鉛球状化剤及び比較例の球状化剤を添加したときにおける各種条件下におけるマグネシウムの歩留りを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る鋳鉄用黒鉛球状化剤に関して、詳しく説明する。なお、範囲を表す表現は上限と下限を含むものである。また、マグネシウム、炭素などからなる組成物におけるそれぞれの成分の含有割合は、当該組成物中における含有割合を示す。
【0016】
マグネシウム(Mg):
マグネシウムは、鋳鉄中の黒鉛を球状化するための有効成分である。マグネシウムの含有割合は、10~40重量%であることが好ましく、15~35重量%であることがより好ましく、20~35重量%であることが最も好ましい。組成物中におけるマグネシウムの含有割合がこの範囲であると、鋳鉄用黒鉛球状化剤を溶湯に添加したときに溶湯内の全体に亘って黒鉛の球状化を促進することができる。
【0017】
そして、マグネシウムは、所定粒子径の粒状の単体として混合することもできるし、単体のマグネシウムとして含有することができるし、マグネシウム、ケイ素及び鉄からなる合金などとして含有することができるし、また、それらに不可避的な少量の不純物が包含されていてもよい。
【0018】
炭素(C):
炭素は、マグネシウムの沸点以上の高温の溶湯にマグネシウムが接触するときにマグネシウムの爆発的な気化を抑制する有効成分であり、球状化剤に共存させることで、溶融鋳鉄に投入したマグネシウムの量に対する冷却後の鋳鉄におけるマグネシウムの量の残存割合であるマグネシウムの歩留りを向上させることができ、ひいては鋳鉄中における黒鉛の球状化を促進し靭性を有するダクタイル鋳鉄を製造することができる。また、炭素は鉄など他の成分の金属よりも安価なため、球状化剤の単価を下げることもでき経済性にも優れる。炭素の含有割合は、5~70重量%であることが好ましく、7~50重量%であることがより好ましく、10~45重量%であるこが最も好ましい。組成物中における炭素の含有割合がこの範囲であると、上述したように、マグネシウムの爆発的な気化を抑制することができ、マグネシウムの歩留りを向上させることができる。
【0019】
そして、炭素は、グラファイト、無定形炭素、炭化ケイ素などの炭素を包含する材料として含有することができ、また、それらに不可避的な少量の不純物が包含されていてもよい。
【0020】
ケイ素(Si):
ケイ素は、組成物中において含有されるマグネシウムの濃度を低くし、マグネシウムの爆発的な反応を抑えるために含有されることが可能である。ケイ素の含有割合は、マグネシウムと炭素の含有量に応じて変動させ、調整をするものであるが、1~50重量%であることが好ましく、5~40重量%であることがより好ましく、10~30重量%であることが最も好ましい。組成物中におけるケイ素の含有割合がこの範囲であると、球状化剤において含有されるマグネシウムを希釈化してマグネシウムの爆発的な気化を抑制することができるとともに、鋳鉄用黒鉛球状化剤のコストを低減することができる。
【0021】
そして、ケイ素は、所定粒子径の粒状の単体として混合することもできるし、単体のケイ素として含有することができるし、ケイ素、鉄からなる合金などとして含有することができるし、また、それらに不可避的な少量の不純物が包含されていてもよい。
【0022】
レアアース(RE):
レアアースは、鋳鉄中の黒鉛を球状化させるための補助などする成分であり、スカンジウム、イットリウムの2元素と、ランタノイド元素であるランタンからルテチウムまでの15元素の総称である。レアアースの含有割合は、0.1~10重量%であることが好ましく、0.1~6重量%であることがより好ましく、0.5~5重量%であることが最も好ましい。組成物中におけるレアアースの含有割合がこの範囲であると、鋳鉄用黒鉛球状化剤を溶湯に添加したときに黒鉛の球状化を促進し、さらに、溶湯が凝固したときの引け量を抑えることができる。
【0023】
そして、レアアースは、所定粒子径の粒状の単体又は所定元素の複合物として混合することもできるし、単体又は複合物のレアアースを含有することができるし、それらとケイ素、鉄からなる合金などとして含有することができるし、また、それらに不可避的な少量の不純物が包含されていてもよい。
【0024】
鉄(Fe):
鉄は、組成物の基材として含有することが可能であり、ケイ素と同様に、球状化剤において含有されるマグネシウムの濃度を低くし、マグネシウムの爆発的な反応を抑えるために含有されることが可能である。
【0025】
そして、鉄は、所定粒子径の粒状の単体として混合することもできるし、鉄、ケイ素からなる合金などとして含有することができるし、また、それらに不可避的な少量の不純物が包含されていてもよい。
【0026】
また、本発明の鋳鉄用黒鉛球状化剤は、不純物として、マンガン、リン、クロム、チタン、アルミニウム、スズなどが不可避的に混合されていてもよい。
【0027】
本発明の鋳鉄用黒鉛球状化剤は、溶湯に添加されるときには、上記のそれぞれの成分を含有する組成物が、薄い鋼板などで緊密に被覆されたコアードワイヤーとして線状に形成されている。上記のそれぞれの成分を含有する組成物が、薄い鋼板などで被覆されていることにより、当該球状化剤を鋳鉄の溶湯に添加するときに、鋼板などの被覆材が溶融するまでマグネシウムや炭素などが溶融鋳鉄に接触しないためにマグネシウムなどを溶融鋳鉄の液面から深い位置まで送ることができ、マグネシウム歩留りが高くなるので、実用可能な球状化剤とすることができる。なお、コアードワイヤーとして線状に形成されている鋳鉄用黒鉛球状化剤において、各成分の含有割合は、被覆した鋼板は全体の重量として含めず、各成分からなる組成物の含有量の総量に対する各成分の重量としての割合である。
【実施例】
【0028】
〔実施例1〕
マグネシウム(Mg)31.0重量%、レアアース(RE)3.5重量%、ケイ素(Si)12.0重量%、炭素(C)44.3重量%残部を鉄(Fe)及び微量の不純物成分との組成となるそれら成分を有する単体及び合金からなる混合物を充填したコアードワイヤーとして球状化剤を作製した。
【0029】
〔実施例2〕
マグネシウム(Mg)31.0重量%、レアアース(RE)3.5重量%、ケイ素(Si)28.1重量%、炭素(C)10.0重量%、残部を鉄(Fe)及び微量の不純物成分との組成となるそれら成分を有する単体及び合金からなる混合物を充填したコアードワイヤーとして球状化剤を作製した。
【0030】
〔比較例1〕
マグネシウム(Mg)31.0重量%、レアアース(RE)3.5重量%、ケイ素(Si)41.1重量%、残部を鉄(Fe)及び微量の不純物成分との組成となるそれら成分を有する単体及び合金からなる混合物を充填したコアードワイヤーとして球状化剤を作製した。
【0031】
そして、1450℃又は1480℃の温度で溶融されている100kgの鋳鉄溶湯に、上記球状化剤を含有されるマグネシウムの含有割合が鋳鉄に対して0.12重量%と同じくなるようにそれぞれ所定の長さを送線速度20m/分又は送線速度30m/分にて添加した。そして添加処理した球状化剤含有鋳鉄溶湯から、カントバック分析用メダル試料をそれぞれ採取した。
<Mg歩留り>
1450℃の鋳鉄溶湯に送線速度20m/分で球状化剤を添加した場合、1450℃の鋳鉄溶湯に送線速度30m/分で球状化剤を添加した場合、1480℃の鋳鉄溶湯に送線速度20m/分で球状化剤を添加した場合、1480℃の鋳鉄溶湯に送線速度30m/分で球状化剤を添加した場合のそれぞれにおいて、実施例のカントバック分析用試料、比較例のカントバック分析用試料の成分分析を実施し、分析したマグネシウムの含有率と溶湯重量からの積で求められる残留しているマグネシウム重量に対して、コアードワイヤーにて溶湯へ投入した球状化剤のマグネシウム重量で除して百分率とすることで、各マグネシウムの歩留まりの割合を算出した。
【0032】
上記実施例及び比較例における球状化剤の組成を表1に、そして、球状化剤を添加するそれぞれの条件における鋳鉄中のマグネシウム歩留まりの結果をまとめて表2に示す。また、表2の結果をグラフ化したものを
図1に示す。
【0033】
【0034】
【0035】
表1、表2、
図1に示されるように、実施例1及び実施例2の球状化剤を用いた場合において、いずれの溶湯温度及び送線速度の条件下においても、溶融鋳鉄に添加したマグネシウム重量に対する残存したマグネシウム重量の残存割合である歩留りが、比較例1と比べて向上することがわかった。これにより、鋳鉄中における黒鉛の球状化をより促進し、靭性を有するダクタイル鋳鉄を製造することができるが示唆される。また、これらの実施例及び比較例の結果から、マグネシウムの気化を抑制する効果としては、ケイ素よりも炭素の方が高いことが分かり、炭素がマグネシウムの爆発的な気化をより効果的に抑制していることが分かった。さらに、炭素のこのような作用により、マグネシウムを31重量%という高い含有割合で含有されているものの、球状化剤を溶湯に添加しても溶湯の飛散は従来とさほど変わらず、安全上においても使用できるものであることが分かった。