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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】バルブ装置
(51)【国際特許分類】
   F16K 7/16 20060101AFI20230306BHJP
【FI】
F16K7/16 D
F16K7/16 F
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020534077
(86)(22)【出願日】2019-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2019021711
(87)【国際公開番号】W WO2020026579
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-04-15
(31)【優先権主張番号】P 2018143713
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】110002893
【氏名又は名称】弁理士法人KEN知財総合事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 研太
(72)【発明者】
【氏名】篠原 努
(72)【発明者】
【氏名】中田 知宏
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀信
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-119877(JP,A)
【文献】特開2017-223318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の流路及び第2の流路を画定する金属合金製のバルブボディと、
前記バルブボディ上の前記第1の流路の開口周囲に配置されるバルブシートと、
前記バルブシートと係合することにより当該バルブシートを前記バルブボディ上に拘束する内側環状部、前記内側環状部の外周側に配置されかつ前記バルブボディに接触する外側環状部および前記内側環状部と前記外側環状部とを接続しかつ前記第2の流路と連通する複数の開口をもつ接続部を有する金属合金製のインナーディスクと、
周縁部が前記外側環状部に接触し、かつ、前記インナーディスクおよび前記バルブシートを覆うように設けられ、前記バルブシートに対して接触しない開位置及び接触する閉位置の間で移動することにより前記第1の流路と前記第2の流路との連通及び遮断を行う金属合金製のダイヤフラムと、
前記外側環状部と前記ダイヤフラムとの間および前記外側環状部と前記バルブボディとの間をシールすべく、前記ダイヤフラムの周縁部の前記外側環状部の側とは反対側の面を該外側環状部に向けて押圧する押えアダプタと、を有し、
前記インナーディスクは、前記バルブシートよりも高い硬度を有し、かつ、前記バルブボディおよび前記ダイヤフラムの双方よりも低い硬度を有し、
前記インナーディスクの外側環状部は、前記ダイヤフラムと接触する環状の第1の接触端面部と、前記バルブボディと接触する環状の第2の接触端面部とを有し、
前記インナーディスクの外側環状部は、塑性変形を受ける前の状態において、外周面が前記第2の接触端面部に向かって、水平面と垂直面からなる階段状に縮径することにより、当該第2の接触端面部の面積が、前記第1の接触端面部の面積よりも小さくなるように形成されている、バルブ装置。
【請求項2】
前記バルブボディ、ダイヤフラムおよびインナーディスクのうち、前記インナーディスクのみ、または、実質的に前記インナーディスクのみに前記押えアダプタによる押圧による塑性変形が生じる、請求項1に記載のバルブ装置。
【請求項3】
前記インナーディスクは、硬度がHv90~Hv150の範囲にある、請求項2に記載のバルブ装置。
【請求項4】
前記バルブボディは、硬度がHv200以上であり、
前記ダイヤフラムは、硬度がHv400~Hv700の範囲にある、請求項3に記載のバルブ装置。
【請求項5】
前記インナーディスクの外側環状部は、塑性変形を受ける前の状態において、前記第2の接触端面部の半径方向の幅が、前記第1の接触端面部の半径方向の幅よりも小さくなるように形成されている、請求項1に記載のバルブ装置。
【請求項6】
上流側から下流側に向かって複数の流体機器が配列された流体制御装置であって、
前記複数の流体機器は、請求項1ないし5のいずれかに記載のバルブ装置を含む、流体制御装置。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかに記載のバルブ装置を用いて、流体の流量を調整する、流量制御方法。
【請求項8】
密閉されたチャンバ内においてプロセスガスによる処理工程を要する半導体装置の製造プロセスにおいて、前記プロセスガスの制御に請求項1ないし5のいずれかに記載のバルブ装置を用いる、半導体製造装置。
【請求項9】
密閉されたチャンバ内においてプロセスガスによる処理工程を要する半導体装置の製造プロセスにおいて、前記プロセスガスの流量制御に請求項1ないし5のいずれかに記載のバルブ装置を用いる、半導体製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブ装置、流体制御装置、流体制御方法、半導体製造装置及び半導体製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体製造工程においては、半導体製造装置のチャンバに対して、各種のプロセスガスの供給を制御する流体制御装置が用いられる。例えば、原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition 法)等においては、基板に膜を堆積させる処理プロセスに使用する処理ガスをより正確な流量で安定的に供給可能でかつ小型化された流体制御装置が求められている。
引用文献1は、上記のような流体制御装置に用いられるダイヤフラム弁を開示している。このダイヤフラム弁は、ボディに着脱可能に配置されたシートと、このシートをボディ上に拘束するシートホルダを備える。このシートホルダは、シートをボディ上に拘束することに加え、ダイヤフラムの周縁部を支持する役割を果たしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-036563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
引用文献1に開示したようなダイヤフラム弁では、バルブ毎に流量のばらつきが比較的大きいという問題が存在した。
本発明の目的の一つは、上述の事情に鑑みてされたものであり、より正確な流量で安定的に供給可能で、装置間で流量のばらつきが抑制されたバルブ装置、そのバルブ装置を用いた流体制御装置、流体制御方法、半導体製造装置及び半導体製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のバルブ装置は、第1の流路及び第2の流路を画定する金属合金製のバルブボディと、
前記バルブボディ上の前記第1の流路の開口周囲に配置されるバルブシートと、
前記バルブシートと係合することにより当該バルブシートを前記バルブボディ上に拘束する内側環状部、前記内側環状部の外周側に配置されかつ前記バルブボディに接触する外側環状部および前記内側環状部と前記外側環状部とを接続しかつ前記第2の流路と連通する複数の開口をもつ接続部を有する金属合金製のインナーディスクと、
周縁部が前記外側環状部に接触し、かつ、前記インナーディスクおよび前記バルブシートを覆うように設けられ、前記バルブシートに対して接触しない開位置及び接触する閉位置の間で移動することにより前記第1の流路と前記第2の流路との連通及び遮断を行う金属合金製のダイヤフラムと、
前記外側環状部と前記ダイヤフラムとの間および前記外側環状部と前記バルブボディとの間をシールすべく、前記ダイヤフラムの周縁部の前記外側環状部の側とは反対側の面を当該外側環状部に向けて押圧する押えアダプタと、を有し、
前記インナーディスクは、前記バルブシートよりも高い硬度を有し、前記バルブボディおよび前記ダイヤフラムの双方よりも低い硬度を有する。
【0006】
好適には、前記バルブボディ、ダイヤフラムおよびインナーディスクのうち、前記インナーディスクのみ、または、実質的に前記インナーディスクのみに前記押えアダプタによる押圧による塑性変形が生じる。
【0007】
好適には、前記ダイヤフラムは、前記バルブボディよりも硬度が低く、
前記インナーディスクは、前記ダイヤフラムよりも硬度が低い。
【0008】
より好適には、前記インナーディスクは、硬度がHv90~Hv150の範囲にあり、
前記ボディは、硬度がHv200以上であり、
前記ダイヤフラムは、硬度がHv400~Hv700の範囲にある。
【0009】
好適には、前記インナーディスクの外側環状部は、前記ダイヤフラムと接触する環状の第1の接触端面部と、前記バルブボディと接触する環状の第2の接触端面部とを有し、
前記インナーディスクの外側環状部は、塑性変形を受ける前の状態において、前記第2の接触端面部の面積が、前記第1の接触端面部の面積よりも小さくなるように形成されている、構成を採用できる。この場合に、前記インナーディスクの外側環状部は、塑性変形を受ける前の状態において、前記第2の接触端面部の半径方向の幅が、前記第1の接触端面部の半径方向の幅よりも小さくなるように形成されている、構成とすることができる。
【0010】
本発明の流体制御装置は、上流側から下流側に向かって複数の流体機器が配列された流体制御装置であって、前記複数の流体機器は、上記のバルブ装置を含む流体制御装置である。
【0011】
本発明の流体制御方法は、上記のバルブ装置を用いて、流体の流量を調整する流体制御方法である。
【0012】
本発明の半導体製造装置は、密閉されたチャンバ内においてプロセスガスによる処理工程を要する半導体装置の製造プロセスにおいて、前記プロセスガスの制御に上記のバルブ装置を用いる半導体製造装置である。
【0013】
本発明の半導体製造方法は、密閉されたチャンバ内においてプロセスガスによる処理工程を要する半導体装置の製造プロセスにおいて、前記プロセスガスの流量制御に上記のバルブ装置を用いる半導体製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、より安定的に流量を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るバルブ装置の構成を示す一部に断面図を含む図。
図2図1のバルブ装置における、閉状態を示す要部拡大断面図。
図3図1のバルブ装置における、開状態を示す要部拡大断面図。
図4A】インナーディスクの正面図
図4B図4AのIVB-IVB線におけるインナーディスクの断面図。
図5図4Bの円A内の拡大断面図。
図6】外側環状部の塑性変形の一例を示す拡大断面図。
図7】外側環状部の塑性変形の他の例を示す拡大断面図。
図8】本発明の一実施形態に係るバルブ装置の半導体製造プロセスへの適用例を示す概略図。
図9】本実施形態のバルブ装置を用いる流体制御装置の一例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。説明において同様の要素には同一の符号を付して、重複する説明を適宜省略する。
先ず、図9を参照して、本発明が適用される流体制御装置の一例を説明する。
図9に示す流体制御装置には、幅方向W1,W2に沿って配列され長手方向G1,G2に延びる金属製のベースプレートBSが設けられている。なお、W1は正面側、W2は背面側,G1は上流側、G2は下流側の方向を示している。ベースプレートBSには、複数の流路ブロック992を介して各種流体機器991A~991Eが設置され、複数の流路ブロック992によって、上流側G1から下流側G2に向かって流体が流通する図示しない流路がそれぞれ形成されている。
【0017】
ここで、「流体機器」とは、流体の流れを制御する流体制御装置に使用される機器であって、流体流路を画定するボディを備え、このボディの表面で開口する少なくとも2つの流路口を有する機器である。具体的には、開閉弁(2方弁)991A、レギュレータ991B、プレッシャーゲージ991C、開閉弁(3方弁)991D、マスフローコントローラ991E等が含まれるが、これらに限定されるわけではない。なお、導入管993は、上記した図示しない流路の上流側の流路口に接続されている。
【0018】
本発明は、上記した開閉弁991A、991D、レギュレータ991B等の種々のバルブ装置に適用可能であるが、本実施形態では、開閉弁(3方弁)に適用する場合を例に挙げて説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係る閉状態におけるバルブ装置1の構成を示す断面図である。図2は、図1のバルブ装置1における、閉状態を示す要部拡大断面図である。図3は、図1のバルブ装置1における、開状態を示す要部拡大断面図である。
図1に示すように、バルブ装置1は、ケーシング6と、ボンネット5と、ボンネットナット8と、バルブボディ2と、インナーディスク3と、バルブシート48と、ダイヤフラム41と、押えアダプタ43と、ダイヤフラム押え42と、ステム44と、コイルばね45とを有している。なお、図中の矢印A1,A2は上下方向であってA1が上方向、A2が下方向を示すものとする。
バルブボディ2は、ステンレス鋼により形成されており、上面2a、これに対向する底面2b、互いに対向する側面2c及び2dを画定している。バルブボディ2は第1の流路21及び第2の流路22、23を画定している。第1の流路21及び第2の流路22,23はバルブボディの底面2bでそれぞれ開口している。なお、バルブ装置1は、第1の流路21と第2の流路22,23とを連通および遮断する三方弁であるが、本発明はこれに限定されるわけではなく、二方弁にも当然適用可能である。
【0020】
図2および図3に示すように、バルブボディ2は、上面2aから上方向A1に向けて延在する円筒部24を画定している。円筒部24の外周には、ボンネットナット8が螺合するねじ部25が形成されている。円筒部24の内周側は、バルブシート48、インナーディスク3およびダイヤフラム41を収容する弁室C1を画定している。弁室C1の底面27には、環状溝26が形成され、流路22,23の一端部と連通している。
【0021】
ケーシング6は、ダイヤフラム41を操作する図示しないアクチュエータを内蔵し、このアクチュエータは、ボンネット5に固定されているとともにアクチュエータの可動部が上下方向A1,A2に延びるステム44と接続されている。アクチュエータは、圧縮エア等の駆動ガスで駆動されるものが使用されるが、これに限定されるわけではない。
ボンネット5の下端部の外周面5aは、バルブボディ2の円筒部24の内周に嵌合しており、ボンネット5の環状の下端面5bは、押えアダプタ43の上面に接触している。ボンネット5は、バルブボディ2の円筒部24のねじ部25に螺合するボンネットナット8を締付けることにより、ボンネットナット8がボンネット5の突出部5tに係合し、ボンネット5が下方向A2に押圧される。ボンネット5の環状の下端面5bとバルブボディ2の弁室C1の底面27との間には、ダイヤフラム41の周縁部とインナーディスク3の外側環状部31とが介在している。なお、本実施形態では、押えアダプタ43とボンネット5とを別体としたが、ボンネットと押さえアダプタとを一体的に形成してもよい。
【0022】
ステム44は、ボンネット5の内部において、コイルばね45により、ボンネット5に対して下方向A2、つまりダイヤフラム41を閉位置に移動させる方向に付勢されている。
ステム44は、下端部に形成された凹部44aにダイヤフラム押え42が嵌め込まれている。ダイヤフラム押え42は、ダイヤフラム41の中央部上面に当接するポリイミド等の合成樹脂製である。本実施形態では、コイルばね45を使用しているが、これに限定されるわけではなく、皿ばねや板バネ等の他の種類の弾性部材を使用することができる。
バルブボディ2の弁室C1の底面27には、流路21の開口の周囲に円環状の突起2kが形成され、これにバルブシート48の内周が嵌合することで、弁室C1の底面27上に位置決めされている。バルブシート48は、PFA、PA、PI、PTFE等の樹脂製であるが、後述するように、インナーディスク3よりも軟らかい金属であってもよい。
【0023】
インナーディスク3は、弁室C1内に配置され、図4A,4Bに示すように、内側環状部32、外側環状部31及び接続部37を有している。インナーディスク3は、ステンレス合金等の金属材料で形成されている。
内側環状部32は第1の流路21の開口周囲に配置され、開口33を有している。外側環状部31は内側環状部32と同心の環状形状である。接続部37は、第2の流路22と連通する複数の開口34を有し内側環状部32と外側環状部31とを接続する。
外側環状部31の外周面は、バルブボディ2の円筒部24の内周面に嵌合している。外側環状部31の上側の環状の第1の接触端面部31f1は、ダイヤフラム41の周縁部の下面と接触する。外側環状部31の下側の環状の第2の接触端面部31f2は、バルブボディ2の弁室C1の平坦な底面27に接触する。
内側環状部32の開口33の内周面の形状と、バルブシート48の外周面の形状とは合致するように形成されており、バルブボディ2の弁室C1の平坦な底面27に位置決めされたバルブシート48の外周面に内側環状部32の開口33の内周面が上方から嵌ることで、バルブシート48は内側環状部32により底面27に押さえつけられて底面27に拘束される。
【0024】
ダイヤフラム41は、その周縁部が、インナーディスク3の外側環状部31の第1の接触端面部31f1と接触し、インナーディスク3およびバルブシート48を覆い、流路21と流路22,23とを連通させる流路を画定する。ダイヤフラム41は、バルブシート48に対して接触する閉位置及び非接触の開位置の間で移動することにより第1の流路21と第2の流路22,23との連通及び遮断を行う。ダイヤフラム41は、例えば、ニッケル合金薄板からなるものとされ、円形に切り抜き、中央部を上方へ膨出させた逆皿形に形成される。ダイヤフラムは、例えば、ステンレス鋼薄板からなるものや、ステンレス鋼薄板とニッケル・コバルト合金薄板との積層体よりなるものとしてもよい。また、ダイヤフラム41は、1枚であっても、複数枚を重ねた積層体であってもよく、仕様や条件などによって自由に選択することができる。
ダイヤフラム押え42は、コイルばね45の復元力により常時下方向A2に付勢されており、図2に示したように、ダイヤフラム41は中心部付近をダイヤフラム押え42により押圧されることで変形し、バルブシート48に押し付けられた状態となる。これにより、第1の流路21と、第2の流路22,23との間の流路は閉鎖される。
図示しないアクチュエータを駆動して、ステム44を上方向A1に移動させると、図3に示すように、ダイヤフラム41は、バルブシート48から離れる。これにより、流路21と流路22,23との間の流路は開放され、流路21と流路22,23とが連通する。
【0025】
上記構造のバルブ装置1では、ダイヤフラム41の周縁部とインナーディスク3の外側環状部31との間およびインナーディスク3の外側環状部31とバルブボディ2との間を確実にシールするために、ボンネットナット8を締め付けてボンネット5の下端面5bから押えアダプタ43を下方向A2に押す力を作用させ、押えアダプタ43でダイヤフラム41の周縁部の外側環状部31の側とは反対側の面を外側環状部31に向けて押圧する。
この結果、ダイヤフラム41とインナーディスク3との間およびバルブボディ2とインナーディスク3との間に生じる塑性変形により、各部材間が密接してシールされる。
【0026】
外側環状部の構造
図5図4Bの円A内の拡大断面図を示す。
図5に示すように、インナーディスク3の外側環状部31は、上端側にダイヤフラム41の周縁部と接触する環状の平坦面からなる第1の接触端面部31f1と、下端側にバルブボディ2の弁室C1の底面27に接触する環状の平坦面からなる第2の接触端面部31f2とを有する。インナーディスク3は、第1の接触端面部31f1においてのみダイヤフラム41と接触し、ダイヤフラム41は第1の接触端面部31f1によって支持されている。インナーディスク3は、第2の接触端面部31f2においてのみバルブボディ2の弁室C1の底面27と接触している。インナーディスク3の内側環状部32は、バルブボディ2の弁室C1の底面27とは接触していない。
重要な点は、第2の接触端面部31f2の半径方向の幅X2は、第1の接触端面部31f1の半径方向の幅X1よりも小さくなるように形成されていることである。本実施形態では、第2の接触端面部31f2は、上下方向A1,A2において、第1の接触端面部31f1の直下に位置しているので、第2の接触端面部31f2の総面積は、第1の接触端面部31f1の総面積よりも小さい。
なお、第2の接触端面部31f2が第1の接触端面部31f1に対して内周寄り又は外周よりに位置していてもよいが、第2の接触端面部31f2の総面積が第1の接触端面部31f1の総面積よりも小さくなるように形成されている必要がある。
外側環状部31に、図5の構造を採用した理由については後述する。
【0027】
複数のバルブ装置1の間における流量のばらつきを抑制するために、ボンネットナット8の締め付けトルクの管理が従来から行われていた。
しかしながら、ボンネットナット8の締め付けトルクの管理のみでは、複数のバルブ装置1の間における流量のばらつきを十分には抑制できていないのが実状である。
【0028】
本発明者らは、複数のバルブ装置1の間における流量のばらつきが発生する原因の一つとして、ダイヤフラム41とインナーディスク3との間およびバルブボディ2とインナーディスク3との間に生じる塑性変形に着目した。すなわち、ダイヤフラム41とバルブシート48との相対的な位置関係は、ダイヤフラム41とインナーディスク3とバルブボディ2との間に生じる塑性変形量および樹脂製のバルブシート48の変形量によって大きく変わると予測される。各部材のそれぞれに塑性変形が生じる構成では、ダイヤフラム41とバルブシート48との相対的な位置関係を精密に管理するのは容易ではない。
そこで、本発明者らは、ダイヤフラム41とインナーディスク3とバルブボディ2のうち、各部材間の相対的な硬度を調整し、インナーディスク3にのみ、または、実質的にインナーディスク3のみに押えアダプタ43からの押圧力を受けて塑性変形が生じる構成とした。
【0029】
具体的には、バルブシート48の硬度をH1、インナーディスク3の硬度をH2、ダイヤフラム41の硬度をH3、バルブボディ2の硬度をH4とすると、下記式(1)を満たすように硬度H1~H4を調整した。
【0030】
H1<H2<H3,H4 (1)
【0031】
より具体的には、バルブシート48の硬度H1を、Hv(30)~Hv80(ビッカースで測定不能なので、ロックウェルからの換算値)、インナーディスク3の硬度H2をHv90~Hv150、ダイヤフラム41の硬度H3をHv400~Hv700、バルブボディ2の硬度H4をHv200~Hv400に調整した。
【0032】
バルブ装置1を組み立てた際に、インナーディスク3のみに塑性変形を生じさせる構成とすることにより、ダイヤフラム41とバルブシート48との相対的な位置関係に影響を及ぼす要素をインナーディスク3の塑性変形に絞り込み、かつ、インナーディスク3の硬度を精密に管理することで、ダイヤフラム41とバルブシート48との相対的な位置関係の管理が容易になり、複数のバルブ装置1の間の流量のばらつきを抑制することが可能となる。
【0033】
次に、外側環状部31の図5の構造の作用について説明する。
図6および図7に、インナーディスク3の外側環状部31が押えアダプタ43からの押圧力を受けて、第2の接触端面部31f2が塑性変形する例を示す。なお、図6図7において、第1の接触端面部31f1における塑性変形は省略している。
インナーディスク3の外側環状部31は、ダイヤフラム41の周縁部を介して押えアダプタ43から力F1を受けると、第2の接触端面部31f2は、バルブボディ2の底面27から反力F2を受ける。力F1と反力F2は向きが逆向きで大きさは同じである。
第2の接触端面部31f2は反力F2を受けて塑性変形するが、図6に示すように、外側環状部31の第2の接触端面部31f2の一部が内周側および外周側にはみ出すように変形する場合と、図7に示すように、外側環状部31の第2の接触端面部31f2の一部が内周側に偏って塑性変形する場合等が想定される。
重要な点は、第1の接触端面部31f1と第2の接触端面部31f2とには、逆向きで同じ大きさの力が作用しているが、第2の接触端面部31f2の総面積が第1の接触端面部31f1の総面積よりも小さい。したがって、第2の接触端面部31f2に生じる応力は、第1の接触端面部31f1に生じる応力よりも大きくなり、第2の接触端面部31f2の塑性変形量は第1の接触端面部31f1の塑性変形量と比較して相対的に大きくなる。第2の接触端面部31f2の塑性変形にともなって、バルブシート48も内側環状部32によりバルブボディ2の底面27に向けて押圧され第2の接触端面部31f2の塑性変形量に対応して変形する。第2の接触端面部31f2の塑性変形量を相対的に増加させたとしても、それに応じてバルブシート48のダイヤフラム41との接触面の上下方向A1,A2の位置および上下方向A1,A2のダイヤフラム41の位置も下方向A2に移動する。その結果、ダイヤフラム41とバルブシート48との相対的な位置関係は維持される。
一方、第1の接触端面部31f1に生じる応力を相対的に小さくすることで、第1の接触端面部31f1の塑性変形量は相対的に小さくなり、ダイヤフラム41とバルブシート48との相対的な位置関係の変動も相対的に小さくなる。
【0034】
外側環状部31の第2の接触端面部31f2の塑性変形量が相対的に増加すると、バルブボディ2の底面27と第2の接触端面部31f2との密着性が増し、第2の接触端面部31f2と底面27との間のシール性が改善される。
外側環状部31の第1の接触端面部31f1の塑性変形量が相対的に減少したとしても、押えアダプタ43の押圧力は、第1の接触端面部31f1を通じてインナーディスク3に作用するため、ダイヤフラム41と第1の接触端面部31f1との間のシール性が著しく低下することはない。
【0035】
本実施形態によれば、バルブ装置1の組み立て時に塑性変形を受ける部材を各部材間の相対的な硬度を調整することでインナーディスク3のみに絞り、なおかつ、インナーディスク3の硬度を正確に管理することで、ダイヤフラム41とバルブシート48との相対的な位置関係を容易にかつより正確に管理することが可能となる。この結果、複数のバルブ装置1の間で生じる流量のばらつきを抑制することが可能となる。
また、本実施形態によれば、インナーディスク3の外側環状部31の第1の接触端面部31f1と第2の接触端面部31f2の相対的な面積を調整することで、第1の接触端面部31f1と第2の接触端面部31f2に生じる応力を調整し、第2の接触端面部31f2の塑性変形量を相対的に増加させることが可能となる。この結果、ダイヤフラム41とバルブシート48との相対的な位置関係の変動を抑えつつ、第2の接触端面部31f2とバルブボディ2との間のシール性を改善できる。
【0036】
次に、図8を参照して、上記したバルブ装置1の適用例について説明する。
図8に示す半導体製造装置980は、ALD法による半導体製造プロセスを実行するための装置であり、981はプロセスガス供給源、982はガスボックス、983はタンク、984は制御部、985は処理チャンバ、986は排気ポンプを示している。
ALD法による半導体製造プロセスでは、処理ガスの流量を精密に調整する必要があるとともに、基板の大口径化により、処理ガスの流量をある程度確保する必要もある。
ガスボックス982は、正確に計量したプロセスガスを処理チャンバ985に供給するために、開閉バルブ、レギュレータ、マスフローコントローラ等の各種の流体制御機器を集積化してボックスに収容した集積化ガスシステム(流体制御装置)である。
タンク983は、ガスボックス982から供給される処理ガスを一時的に貯留するバッファとして機能する。
制御部984は、バルブ装置1への操作ガスの供給制御による流量調整制御を実行する。
処理チャンバ985は、ALD法による基板への膜形成のための密閉処理空間を提供する。
排気ポンプ986は、処理チャンバ985内を真空引きする。
【0037】
上記のようなシステム構成によれば、処理チャンバに正確な流量のプロセスガスを安定供給できるため、ウエハを均一に成膜できる。
【0038】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されない。当業者であれば、本発明の範囲内で、種々の追加や変更等を行うことができる。例えば、上記適用例では、バルブ装置1をALD法による半導体製造プロセスに用いる場合について例示したが、これに限定されるわけではなく、本発明は、例えば原子層エッチング法(ALE:Atomic Layer Etching 法)等、精密な流量調整が必要なあらゆる対象に適用可能である。
【0039】
上記実施形態では、アクチュエータとして、ガス圧で作動するシリンダに内蔵されたピストンを用いたが、本発明はこれに限定されるわけではなく、制御対象に応じて最適なアクチュエータを種々選択可能である。
【0040】
上記実施形態では、バルブ装置1を流体制御装置としてのガスボックス982の外部に配置する構成としたが、開閉バルブ、レギュレータ、マスフローコントローラ等の各種の流体機器を集積化してボックスに収容した流体制御装置に上記実施形態のバルブ装置1を含ませることも可能である。
【0041】
上記実施形態では、流体制御装置として複数の流路ブロック992にバルブ装置を搭載したものを例示したが、分割タイプの流路ブロック992以外にも、一体型の流路ブロックやベースプレートに対しても本発明のバルブ装置は適用可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 :バルブ装置
2 :バルブボディ
2a :上面
2b :底面
2c,2d:側面
2k :突起
3 :インナーディスク
5 :ボンネット
5a :外周面
5b :下端面
5t :突出部
6 :ケーシング
8 :ボンネットナット
21 :第1の流路
22,23:第2の流路
24 :円筒部
25 :ねじ部
26 :環状溝
27 :底面
31 :外側環状部
31f1 :第1の接触端面部
31f2 :第2の接触端面部
32 :内側環状部
33 :開口
34 :開口
37 :接続部
41 :ダイヤフラム
42 :ダイヤフラム押え
43 :押えアダプタ
44 :ステム
44a :凹部
45 :コイルばね
48 :バルブシート
980 :半導体製造装置
981 :プロセスガス供給源
982 :ガスボックス
983 :タンク
984 :制御部
985 :処理チャンバ
986 :排気ポンプ
991A :開閉弁(流体機器)
991B :レギュレータ(流体機器)
991C :プレッシャーゲージ(流体機器)
991D :開閉弁(流体機器)
991E :マスフローコントローラ(流体機器)
992 :流路ブロック
993 :導入管
A1 :上方向
A2 :下方向
BS :ベースプレート
C1 :弁室
G1 :長手方向上流側
G2 :長手方向下流側
H1~H4:硬度
W1 :幅方向正面側
W2 :幅方向背面側
X1 :第1の接触端面幅
X2 :第2の接触端面幅

図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9