(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】単結晶X線構造解析装置および試料ホルダ取り付け装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/20025 20180101AFI20230306BHJP
G01N 23/205 20180101ALI20230306BHJP
G01N 23/207 20180101ALI20230306BHJP
【FI】
G01N23/20025
G01N23/205
G01N23/207
(21)【出願番号】P 2020557644
(86)(22)【出願日】2019-11-21
(86)【国際出願番号】 JP2019045689
(87)【国際公開番号】W WO2020105720
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2018218756
(32)【優先日】2018-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0163280(US,A1)
【文献】特開2018-155680(JP,A)
【文献】国際公開第2014/038220(WO,A1)
【文献】特開平11-304999(JP,A)
【文献】特開2010-203843(JP,A)
【文献】特開2010-286431(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0211674(US,A1)
【文献】米国特許第07660389(US,B1)
【文献】特開2003-139726(JP,A)
【文献】X-ray analysis on the nanogram to microgram scale using porous complexes,NATURE,Macmillan Publishers Limited.,2013年03月28日,Vol. 495,pp. 461-466,doi: 10.1038/nature12527
【文献】放射光ビームラインにおける試料交換システムの開発,第32回日本ロボット学会学術講演会,2014年09月04日,RSJ2014AC1Q3-01
【文献】新しいナノサイエンス-酸素分子を一列にならべる-,SPring-8 Information,第8巻,第6号,日本,2003年11月,第406-412頁
【文献】多孔性配位高分子のナノ細孔に吸着した水素分子の直接観測,SPring-8 Information,第10巻,第1号,2005年01月,第24-29頁
【文献】粉末結晶による精密構造物性の研究,SPring-8 Information,第11巻,第4号,日本,2006年07月,第202-219頁
【文献】放射光粉末回折法による先端材料の精密構造物性の研究,応用物理,第74巻,第9号,2005年09月,第1201-1204頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-G01N 23/2276
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
Science Direct
ACS PUBLICATIONS
APS Journals
Nature
SCIENCE
Scitation
KAKEN
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質の構造解析を行う単結晶X線構造解析装置に試料を保持する試料ホルダを取り付ける試料ホルダ取り付け装置であって、
着脱可能なアプリケータに装着されて提供された前記試料ホルダを、前記単結晶X線構造解析装置のゴニオメータに、前記試料ホルダを前記アプリケータから取り外した状態で取り付ける試料ホルダ取付け機構を備え、
前記試料ホルダは、
前記ゴニオメータの先端部に着脱可能に形成された基台部と、前記基台部に設けられ、内部に形成された複数の微細孔に前記試料を吸蔵可能な細孔性錯体結晶
を取り付けられる保持部とを
有し、
前記アプリケータは、前記試料ホルダが嵌入される収納空間を有し、
前記試料ホルダ取付け機構は、前記試料ホルダを前記アプリケータから取り外し、前記ゴニオメータに取り付けることができる試料ホルダ把持部を有し、
前記細孔性錯体結晶は、前記試料ホルダが前記ゴニオメータに取り付けられた状態で、前記試料ホルダのX線照射部からのX線が照射される位置に固定されていることを特徴と
する試料ホルダ取り付け装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の試料ホルダ取り付け装置において、
前記試料ホルダ把持部は、前記試料ホルダを把持した状態で回動可能であ
り、前記アプリケータに収容された状態とは上下が逆転した状態で、前記試料ホルダを前記ゴニオメータに取り付けられることを特徴とする試料ホルダ取り付け装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の試料ホルダ取り付け装置において、
前記試料ホルダ把持部は、前記基台部を保持/解放でき、前記基台部の外周を保持して前記試料ホルダを前記アプリケータから取り外し、前記ゴニオメータへ取り付けることを可能にすることを特徴とする試料ホルダ取り付け装置。
【請求項4】
請求項1
から請求項3のいずれか一項に記載の試料ホルダ取り付け装置において、
前記試料ホルダ取付け機構は、前記アプリケータを把持するアプリケータ把持部と、を備え、
前記試料ホルダ把持部または前記アプリケータ把持部の少なくとも一方は、前記試料ホルダ把持部が前記試料ホルダを把持した状態で、前記アプリケータ把持部が把持している前記アプリケータから前記試料ホルダを取り外す方向に移動可能であることを特徴とする試料ホルダ取り付け装置。
【請求項5】
請求項
1から4のいずれか一項に記載の試料ホルダ取り付け装置において、
前記試料ホルダ把持部は、前記試料ホルダの前記細孔性錯体結晶を取り付けたピン状の保持部の延長方向に移動可能であることを特徴とする試料ホルダ取り付け装置。
【請求項6】
請求項
1から
5のいずれか一項に記載の試料ホルダ取り付け装置において、
前記試料ホルダ把持部は、前記試料ホルダを把持した状態で、前記ゴニオメータの試料ホルダ取付け位置に前記試料ホルダを取り付ける方向に移動可能であることを特徴とする試料ホルダ取り付け装置。
【請求項7】
物質の構造解析を行う単結晶X線構造解析装置であって、
X線を発生するX線源と、
前記試料ホルダと、
前記試料ホルダを取り付けて回動するゴニオメータと、
前記ゴニオメータに取り付けられた前記試料ホルダに保持された前記試料に対して前記X線源からのX線を照射するX線照射部と、
前記試料により回折又は散乱されたX線を検出して測定するX線検出測定部と、
前記X線検出測定部に検出された回折又は散乱X線に基づいて前記試料の構造解析を行なう構造解析部と、
請求項1から請求項
6のいずれか一項に記載の試料ホルダ取り付け装置と、を備えることを特徴とする単結晶X線構造解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料の構造をその原子や分子の配列などのミクロな集合構造によって解析することを可能にする次世代の単結晶X線構造解析装置に関し、特に、解析する対象となる単結晶試料の装置への搭載をも含めた単結晶X線構造解析装置および試料ホルダ取り付け装置の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
新たなデバイスや材料の研究開発では、日常的に材料の合成、材料の評価、それに基づいた次の研究方針の決定が行なわれている。短期間に材料開発を行うためのX線回折を用いた物質の構造解析では、目的の材料の機能・物性を実現する物質構造を効率良く探索するために、構造解析を効率的に行うことを可能とする物質の構造解析を中心とした物質構造の探索方法とそれに用いるX線構造解析は必要不可欠である。
【0003】
しかし、当該手法で得られた結果に基づいて構造解析を行うことは、X線の専門家でなければ難しかった。そのため、X線の専門家でなくても構造解析を行うことができるX線構造解析システムが求められていた。その中でも、特に、以下の特許文献1にも知られるように、単結晶X線構造解析は、正確で精度の高い分子の立体構造を得ることができる手法として注目されている。
【0004】
他方、この単結晶X線構造解析には、試料を結晶化して単結晶を用意しなければならないという大きな制約があった。しかしながら、以下の非特許文献1や2、更には、特許文献2にも知られるように、「結晶スポンジ」と呼ばれる材料(例えば、直径0.5nmから1nmの細孔が無数に開いた細孔性錯体結晶)の開発によって、結晶化しない液体状化合物や結晶化を行うに足る量を確保できない試料なども含め、単結晶X線構造解析を広く適用することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-3394号公報
【文献】再公表特許WO2016/017770号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Makoto Fujita; X-ray analysis on the nanogram to microgram scale using porous complexes; Nature 495, 461-466; 28 March 2013
【文献】Hoshino et al. (2016), The updated crystalline sponge method IUCrJ, 3, 139-151
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した結晶スポンジを利用した従来技術になる単結晶X線構造解析では、各種の装置によって分離された数ng~数μg程度の極微量の試料を寸法100μm程度の極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジの骨格内に吸蔵する工程と共に、更に、この試料を吸蔵した極微小な結晶スポンジを取り出し、器具に取り付け、単結晶X線構造解析装置内のX線照射位置に搭載するという微細で緻密な作業を伴う工程を、迅速かつ正確に行うことを必要とする。なお、これらの短時間で行う微細かつ緻密な作業は、結晶スポンジに吸蔵した後の試料の測定結果に多大な影響を及ぼすこととなり、非常に重要な作業となる。
【0008】
このことから、本発明は、上述した従来技術における問題点に鑑みて達成されたものであり、その目的は、特に、X線構造解析の専門知識がなくても、本発明により提案される試料ホルダの利用を含めて、結晶スポンジによる単結晶X線構造解析における試料を吸蔵した極微細で脆弱(fragile)な結晶スポンジを取り出して装置内のX線照射位置に搭載する作業を、迅速に、かつ、確実かつ容易に行うことを可能とする、換言すれば、歩留まり良くかつ効率的で、汎用性に優れ、かつ、試料ホルダの搭載の自動化を含むユーザフレンドリな単結晶X線構造解析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)物質の構造解析を行う単結晶X線構造解析装置に試料を保持する試料ホルダを取り付ける試料ホルダ取り付け装置であって、着脱可能なアプリケータに装着されて提供された前記試料ホルダを、前記単結晶X線構造解析装置のゴニオメータに、前記試料ホルダを前記アプリケータから取り外した状態で取り付ける試料ホルダ取付け機構を備え、前記試料ホルダは、内部に形成された複数の微細孔に前記試料を吸蔵可能な細孔性錯体結晶を含み、前記細孔性錯体結晶は、前記試料ホルダが前記ゴニオメータに取り付けられた状態で、前記試料ホルダの前記X線照射部からのX線が照射される位置に固定されていることを特徴としている。
【0010】
(2)また、本発明の試料ホルダ取り付け装置において、前記試料ホルダ取付け機構は、前記試料ホルダを把持する試料ホルダ把持部と、前記アプリケータを把持するアプリケータ把持部と、を備え、前記試料ホルダ把持部または前記アプリケータ把持部の少なくとも一方は、前記試料ホルダ把持部が前記試料ホルダを把持した状態で、前記アプリケータ把持部が把持している前記アプリケータから前記試料ホルダを取り外す方向に移動可能であることを特徴としている。
【0011】
(3)また、本発明の試料ホルダ取り付け装置において、前記試料ホルダ把持部は、前記試料ホルダの前記細孔性錯体結晶を取り付けたピン状の保持部の延長方向に移動可能であることを特徴としている。
【0012】
(4)また、本発明の試料ホルダ取り付け装置において、前記試料ホルダ把持部は、前記試料ホルダを把持した状態で、回動可能であることを特徴としている。
【0013】
(5)また、本発明の試料ホルダ取り付け装置において、前記試料ホルダ把持部は、前記試料ホルダを把持した状態で、前記ゴニオメータの試料ホルダ取付け位置に前記試料ホルダを取り付ける方向に移動可能であることを特徴としている。
【0014】
(6)また、本発明の単結晶X線構造解析装置は、物質の構造解析を行う単結晶X線構造解析装置であって、X線を発生するX線源と、前記試料ホルダと、前記試料ホルダを取り付けて回動するゴニオメータと、前記ゴニオメータに取り付けられた前記試料ホルダに保持された前記試料に対して前記X線源からのX線を照射するX線照射部と、前記試料により回折又は散乱されたX線を検出して測定するX線検出測定部と、前記X線検出測定部に検出された回折又は散乱X線に基づいて前記試料の構造解析を行なう構造解析部と、(1)から(4)のいずれか一項に記載の試料ホルダ取り付け装置と、を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
上述した本発明によれば、本発明により提案される試料ホルダやアプリケータと共に、その取付け機構を利用することにより、迅速性も必要とされる従来の緻密でかつ微細な作業を伴わず、微量の試料を吸蔵させた後の極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジへ試料の吸蔵とその後の装置への搭載等を含む一連の作業を、迅速に、かつ確実かつ容易に行うことが出来る、換言すれば、歩留まり良くかつ効率的で、汎用性にも優れ、かつ、試料ホルダの搭載の自動化を含むユーザフレンドリな単結晶X線構造解析装置が提供される。このことから、結晶スポンジによる単結晶X線構造解析を容易に利用可能にして、広く普及させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施の形態になる単結晶X線回折装置を備えた単結晶X線構造解析装置の全体構成を示す図である。
【
図2】上記単結晶X線回折装置の構成を示す図である。
【
図3】上記単結晶X線構造解析装置内部の電気的構成を示すブロック図である。
【
図4】上記単結晶X線構造解析装置により得られるXRDSパターン又はイメージを示す写真を含む図である。
【
図5】上記単結晶X線構造解析装置においてX線回折データ測定・処理ソフトウェアを実行した画面の一例を示す写真を含む図である。
【
図6】上記単結晶X線構造解析装置の構造解析プログラムを用いて作成した分子モデルを表示した画面を含む図である。
【
図7】上記単結晶X線回折装置のゴニオメータを中心にした構造の一例を示す写真を含む図である。
【
図8】上記ゴニオメータに取り付ける試料ホルダの全体構成を示す斜視図である。
【
図9】上記ゴニオメータに取り付ける試料ホルダの断面図である。
【
図10】上記試料ホルダをセットとして提供する場合の状態の一例を示す図である。
【
図11】試料ホルダを用いた単結晶X線構造解析方法の一例を示すフロー図である。
【
図12】上記単結晶X線構造解析方法において用いられる前処理装置の構成一例を示す図である。
【
図13】上記単結晶X線解析装置において試料ホルダをアプリケータから取り外してゴニオメータに搭載する試料ホルダ取外し/搭載機構の構成の一例を示す概念図である。
【
図14】上記試料ホルダ取外し/搭載機構による取外し/搭載動作の一例を示す動作説明図である。
【
図15】上記試料ホルダ取外し/搭載機構による他の取外し/搭載動作を示す動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態になる、結晶スポンジを利用した単結晶X線構造解析装置について、添付の図面を参照しながら、詳細に説明する。なお、本出願において「AまたはB」の表現は、「AおよびBの少なくとも一方」を意味し、AおよびBがありえないという特段の事情がない限り「AおよびB」を含む。
【0018】
添付の
図1には、本発明の一実施の形態になる、単結晶X線回折装置を含む単結晶X線構造解析装置の全体外観構成が示されており、図からも明らかなように、単結晶X線構造解析装置1は、冷却装置やX線発生電源部を格納した基台4と、その基台4の上に載置された防X線カバー6とを有する。
【0019】
防X線カバー6は、単結晶X線回折装置9を包囲するケーシング7及びそのケーシング7の前面に設けられた扉8等を有する。ケーシング7の前面に設けられた扉8は開くことができ、この開いた状態で内部の単結晶X線回折装置9に対して種々の操作を行うことができる。なお、図に示す本実施形態は、後にも述べる結晶スポンジを利用して物質の構造解析を行う単結晶X線回折装置9を含んだ単結晶X線構造解析装置1である。
【0020】
単結晶X線回折装置9は、
図2にも示すように、X線管11及びゴニオメータ12を有する。X線管11は、ここでは図示しないが、フィラメントと、フィラメントに対向して配置されたターゲット(「対陰極」とも言う)と、それらを気密に格納するケーシングとを有し、このフィラメントは、
図1の基台4に格納されたX線発生電源部によって通電されて発熱して熱電子を放出する。また、フィラメントとターゲットとの間にはX線発生電源部によって高電圧が印加され、フィラメントから放出された熱電子が高電圧によって加速されてターゲットに衝突する。この衝突領域がX線焦点を形成し、このX線焦点からX線が発生して発散する。より詳細には、このX線管11は、ここでは図示しないが、マイクロフォーカス管と多層膜集光ミラー等の光学素子を含んで構成されており、より高い輝度のビームを照射することが可能であり、また、Cu、MoやAgなどの線源から選択可能となっている。上記に例示するように、フィラメントと、フィラメントに対向して配置されたターゲットと、それらを気密に格納するケーシングが、X線源として機能し、マイクロフォーカス管と多層膜集光ミラー等の光学素子を含むX線照射のための構成がX線照射部として機能する。
【0021】
また、ゴニオメータ12は、解析すべき試料Sを支持すると共に、試料SのX線入射点を通る試料軸線ωを中心として回転可能とするθ回転台16と、θ回転台16のまわりに配置されて試料軸線ωを中心として回転可能な2θ回転台17とを有する。なお、試料Sは、本実施形態の場合、後にも詳述する試料ホルダ250の一部に予め取り付けられた結晶スポンジの内部に吸蔵されている。ゴニオメータ12の基台18の内部には、上述したθ回転台16及び2θ回転台17を駆動するための駆動装置(図示せず)が格納されており、これらの駆動装置によって駆動されて、θ回転台16は所定の角速度で間欠的又は連続的に回転し、いわゆるθ回転する。また、これらの駆動装置によって駆動されて2θ回転台17は間欠的又は連続的に回転し、いわゆる2θ回転する。上記の駆動装置は任意の構造によって構成できるが、例えば、ウォームとウォームホイールとを含んで構成される動力伝達構造によって構成できる。
【0022】
ゴニオメータ12の外周の一部にはX線検出器22が載置されており、このX線検出器22は、例えば、CCD型やCMOS型の2次元ピクセル検出器、ハイブリッド型ピクセル検出器などによって構成される。なお、X線検出測定部は、試料により回折又は散乱されたX線を検出して測定する構成を指し、X線検出器22およびこれを制御する制御部を含む。
【0023】
単結晶X線回折装置9は、以上のように構成されているので、試料Sは、ゴニオメータ12のθ回転台16のθ回転によって試料軸線ωを中心としてθ回転する。この試料Sがθ回転する間、X線管11内のX線焦点から発生して試料Sへ向けられるX線は所定の角度で試料Sに入射して回折・発散する。即ち、試料Sへ入射するX線の入射角度は試料Sのθ回転に応じて変化する。
【0024】
試料Sに入射するX線の入射角度と結晶格子面との間でブラッグの回折条件が満足されると、その試料Sから回折X線が発生する。この回折X線はX線検出器22に受光されてそのX線強度が測定される。以上により、入射X線に対するX線検出器22の角度、すなわち回折角度に対応する回折X線の強度が測定され、この測定結果から試料Sに関する結晶構造等が解析される。
【0025】
続いて、
図3(A)は、上記単結晶X線構造解析装置における制御部110を構成する電気的な内部構成の詳細の一例を示す。なお、本発明が以下に述べる実施形態に限定されるものでないことは、もちろんである。
【0026】
この単結晶X線構造解析装置1は、上述した内部構成を含んでおり、更に、適宜の物質を試料として測定を行う測定装置102と、キーボード、マウス等によって構成される入力装置103と、表示手段としての画像表示装置104と、解析結果を印刷して出力するための手段としてのプリンタ106と、CPU(Central Processing Unit)107と、RAM(Random Access Memory)108と、ROM(Read Only Memory)109と、外部記憶媒体としてのハードディスク111などを有する。これらの要素はバス112によって電気的に相互につながれている。
【0027】
画像表示装置104は、CRTディスプレイ、液晶ディスプレイ等といった画像表示機器によって構成されており、画像制御回路113によって生成される画像信号に従って画面上に画像を表示する。画像制御回路113はこれに入力される画像データに基づいて画像信号を生成する。画像制御回路113に入力される画像データは、CPU107、RAM108、ROM109及びハードディスク111を含んで構成されるコンピュータによって実現される各種の演算手段の働きによって形成される。プリンタ106は、インクプロッタ、ドットプリンタ、インクジェットプリンタ、静電転写プリンタ、その他任意の構造の印刷用機器を用いることができる。なお、ハードディスク111は、光磁気ディスク、半導体メモリ、その他、任意の構造の記憶媒体によって構成することもできる。
【0028】
ハードディスク111の内部には、単結晶X線構造解析装置1の全般的な動作を司る分析用アプリケーションソフト116と、測定装置102を用いた測定処理の動作を司る測定用アプリケーションソフト117と、画像表示装置104を用いた表示処理の動作を司る表示用アプリケーションソフト118とが格納されている。これらのアプリケーションソフトは、必要に応じてハードディスク111から読み出されてRAM108へ転送された後に所定の機能を実現する。
【0029】
この単結晶X線構造解析装置1は、更に、上記測定装置102によって得られた測定データを含めた各種の測定結果を記憶するための、例えば、クラウド領域に置かれたデータベースも含んでいる。図の例では、後にも説明するが、上記の測定装置102によって得られたXRDSイメージデータを格納するXRDS情報データベース120、顕微鏡により得られた実測イメージを格納する顕微鏡イメージデータベース130、更には、例えば、XRFやラマン光線等、X線以外の分析により得られた測定結果や、物性情報を格納するその他分析データベース140が示されている。なお、これらのデータベースは、必ずしも、単結晶X線構造解析装置1の内部に搭載される必要はなく、例えば、外部に設けられてネットワーク150等を介して相互に通信可能に接続されてもよい。このようにして、単結晶X線構造解析装置1は、X線検出測定部により、測定装置102を用いた測定処理の動作を制御するとともに、試料により回折又は散乱されたX線を検出することで得られた測定データを含めた各種の測定結果を受け取り、管理する。また、構造解析部により、試料により回折又は散乱されたX線を検出することで得られた測定データを含めた各種の測定結果に基づいて試料の構造解析を行なう。
【0030】
データファイル内に複数の測定データを記憶するためのファイル管理方法としては、個々の測定データを個別のファイル内に格納する方法も考えられるが、本実施形態では、
図3(B)に示すように、複数の測定データを1つのデータファイル内に連続して格納することとしている。なお、
図3(B)において「条件」と記載された記憶領域は、測定データが得られたときの装置情報および測定条件を含む各種の情報を記憶するための領域である。
【0031】
このような測定条件としては、(1)測定対象物質名、(2)測定装置の種類、(3)測定温度範囲、(4)測定開始時刻、(5)測定終了時刻、(6)測定角度範囲、(7)走査移動系の移動速度、(8)走査条件、(9)試料に入射するX線の種類、(10)試料高温装置等といったアタッチメントを使ったか否か、その他、各種の条件が考えられる。
【0032】
XRDS(X-ray Diffraction and Scattering)パターン又はイメージ(
図4を参照)は、上記測定装置102を構成するX線検出器22の2次元空間である平面上で受け取られたX線を、当該検出器を構成する平面状に配列された画素毎に受光/蓄積して、その強度を測定することにより得られるものである。例えば、X線検出器22の各画素毎に、積分によって受光したX線の強度を検出することによれば、rとθの2次元空間上のパターン又はイメージが得られる。
【0033】
<測定用アプリケーションソフト>
照射されるX線に対する対象材料によるX線の回折や散乱によって得られる観測空間上のXRDSパターン又はイメージは、対象材料の実空間における電子密度分布の情報を反映している。しかしながら、XRDSパターンは、rとθの2次元空間であり、3次元空間である対象材料の実空間における対称性を直接的に表現するものではない。そのため、一般的に、現存のXRDSイメージだけでは、材料を構成する原子や分子の(空間)配列を特定することは困難であり、X線構造解析の専門知識を必要とする。そのため、本実施例では、上述した測定用アプリケーションソフトを採用して自動化を図っている。
【0034】
その一例として、
図5(A)及び(B)にその実行画面を示すように、単結晶構造解析のためのプラットフォームである「CrysAlis
Pro」と呼ばれるX線回折データ測定・処理ソフトウェアを搭載し、予備測定、測定条件の設定、本測定、データ処理などを実行する。更には、「AutoChem」と呼ばれる自動構造解析プラグインを搭載することにより、X線回折データ収集と並行して、構造解析および構造の精密化を実行する。そして、
図6にも示す「Olex
2」と呼ばれる構造解析プログラムにより、空間群決定から位相決定、分子モデルの構築と修正、構造の精密化、最終レポート、CIFファイルの作成を行う。
【0035】
以上、単結晶X線構造解析装置1の全体構造やその機能について述べたが、以下には、特に、本発明に係る結晶スポンジと、それに関連する装置や器具について、添付の図面を参照しながら詳細に述べる。
【0036】
<結晶スポンジ>
上述したように、内部に直径0.5nmから1nmの細孔が無数に開いた、寸法が数10μm~数100μm程度の極微小で脆弱(fragile)な細孔性錯体結晶である「結晶スポンジ」と呼ばれる材料の開発によって、単結晶X線構造解析は、結晶化しない液体状化合物や、或いは、結晶化を行うに足る量が確保できない数ng~数μgの極微量の試料なども含め、広く適用することが可能となっている。
【0037】
しかしながら、現状においては、上述した結晶スポンジの骨格内への試料の結晶化である吸蔵(post-crystallization)を行うためには、各種の前処理(分離)装置によって分離された数ng~数μg程度の極微量の試料を、既に述べたように、容器内において、シクロヘキサン等の保存溶媒(キャリア)に含浸して提供される外径100μm程度の極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジの骨格内に吸蔵させる工程が必要となる。更には、その後、この試料を吸蔵した極微小で脆弱(fragile)な取り扱い難い結晶スポンジを、迅速に(結晶スポンジが乾燥により破壊されない程度の短い時間で)、容器から取り出し、単結晶X線回折装置内のX線照射位置に、より具体的には、ゴニオメータ12の試料軸(所謂、ゴニオヘッドピン)の先端部に、センタリングを行いながら正確に搭載する工程を必要とする。これらの工程は、X線構造解析の専門知識の有無に関わらず、作業者に非常な緻密性を要求する微細で、かつ、迅速性をも要求する作業であり、結晶スポンジに吸蔵した後の試料の測定結果に多大な影響を及ぼすこととなる。即ち、これらの作業が極微小な結晶スポンジを利用した単結晶X線構造解析を歩留まりの悪いものとしており、このことが、結晶スポンジを利用した単結晶X線構造解析が広く利用されることから阻害される一因ともなっている。
【0038】
本発明は、上述したような発明者の知見に基づいて達成されたものであり、極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジによる単結晶X線構造解析を、以下に述べる結晶スポンジ用試料ホルダ(単に、試料ホルダともいう)やその取扱い(操作)器具であるアプリケータと共に、以下にも述べる試料ホルダ取付け機構を用いることにより、迅速に、確実かつ容易に行うことを可能とするものであり、換言すれば、歩留まり良くかつ効率的で、汎用性に優れ、かつ、ユーザフレンドリな単結晶X線構造解析装置を実現するものである。即ち、本発明に係る次世代の単結晶X線構造解析装置では、極微量な試料Sを吸蔵した極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジを用意すると共に、更には、当該試料S(結晶スポンジ)を吸蔵容器から取り出して、結晶スポンジが乾燥により破壊されない程度の短時間で、迅速に、ゴニオメータ12の先端部の所定位置に、正確かつ迅速に取り付けなければならないという、大きな制約があるが、特に、汎用性にも優れた試料ホルダの搭載の自動化を含むユーザフレンドリな装置を実現するためには、かかる作業を、高度な専門知識や作業の緻密性を要求せずに、迅速かつ容易に実行可能なものとする必要がある。
【0039】
本発明は、かかる課題を解消し、即ち、極微小で脆弱(fragile)な取り扱い難い結晶スポンジを使用しながらも、当該結晶スポンジに吸蔵した試料の装置への搭載作業をも含め、誰でも、迅速かつ確実かつ容易に、歩留まり良く効率的で、ユーザフレンドリに行うことが可能で、かつ、汎用性にも優れた単結晶X線構造解析を行うための装置や方法、更には、そのための器具を提供するものであり、以下に詳述する。
【0040】
図7(A)は、ゴニオメータ12の先端部を拡大して示しており、この図では、本発明により提案される解析すべき試料を吸蔵する結晶スポンジ200をその先端部に予め取り付けた器具である、
図7(B)に拡大図を示した、所謂、試料ホルダ250が、ゴニオメータ12の先端部のゴニオヘッド121に取り付けられる(マウントされる)様子を示している。なお、この試料ホルダ250は、例えば、磁力などを利用した取付け/位置決め機構によって、ゴニオメータ12の先端部のゴニオヘッド121に対して着脱可能で、かつ、誰でも正確な位置に容易かつ高精度に取り付けることが可能となっている。
【0041】
<結晶スポンジ用試料ホルダとアプリケータ>
図8は、上述した試料ホルダ250の全体斜視図を、そして、
図9はその断面を示している。試料ホルダ250は、ゴニオメータ12の先端部のゴニオヘッド121(
図7(A)参照)に取り付けられる金属等からなる円盤状又は円錐状のホルダの基台部251には、ピン(円柱)状の試料保持部(以下、単に保持部ともいう)252(所謂、ゴニオヘッドピンに対応する)が、その一方の面(図では下面)の中央部に植立されており、かつ、このピン状の保持部252の先端の所定の位置には、上述した解析すべき試料を吸蔵するための結晶スポンジ200が、予め試料ホルダ250と一体に取り付けて固定されている。また、円盤状の基台部251の他の面(図では上面)には、図示しないマグネット等の位置決め機構等が設けられている。この位置決め機構により試料ホルダ250は、ゴニオメータ12の先端部に着脱自在に取り付けられる。
【0042】
また、
図8および
図9には、試料ホルダ250と共に使用されて、当該試料ホルダに予め取り付けられた結晶スポンジ200に試料を吸蔵させるための取扱い(操作)器具である、所謂、アプリケータ300が示されている。このアプリケータ300は、例えば、ガラスや樹脂や金属等の透明又は不透明な部材で形成されており、その内部には、上記の試料ホルダ250を収納するための収納空間301が形成されており、更に、その上部には、試料ホルダ250を嵌入し、かつ、取り出すための開口部302が形成されている。
【0043】
更に、アプリケータ300の開口部302の一部には、その内部の収納空間301に試料ホルダ250を収納した状態で外部から気密に保たれるよう、例えば、シール部(
図9中に斜線部で示す)が設けられている。他方、試料ホルダ250の基台部251には、アプリケータ300の内部(収納空間301)に位置する結晶スポンジ200に対して解析すべき試料を導入するための一対の貫通した細孔253、253が形成されている。細孔253、253は、試料導入構造の好ましい一例であり、その他の構造も採られうる。なお、図示しないが、これらの細孔253、253にもシール部が設けられており、これにより、図にも示すように、試料を結晶スポンジ200に導入するための試料導入管(以下、単に導入管ともいう)254、254が当該細孔253、253に挿入された状態でも、アプリケータ300内部の収納空間301は気密状態に保たれる。
【0044】
このような構成の試料ホルダ250によれば、又は、更にその取り扱い(操作)器具であるアプリケータ300と一体化(ユニット化)して提供することによって、当該試料ホルダ250の一部を構成するピン状の保持部252(ゴニオヘッドピンに対応)の先端部に取り付けた結晶スポンジ200を、破損し、或いは、試料ホルダ250から逸脱することなく、安全かつ容易に取り扱うことができる。即ち、極微量な試料を吸蔵した当該結晶スポンジ200を、従来のように吸蔵容器から単体で取り出されて損傷することなく、安全で簡単かつ容易に、かつ、乾燥により破壊されない程度の短時間で、迅速に、ゴニオヘッド121上に準備することができる。本実施例では、この試料の吸蔵が完了した試料ホルダ250を、アプリケータ300から取り外し、ゴニオメータ12の先端部のゴニオヘッド121(
図7(A)を参照)に取り付ける。これにより、結晶スポンジ200に吸蔵した当該試料Sは、高度な専門知識や緻密な作業を必要とすることなく、単結晶X線回折装置9内の所定の位置に容易に、正確かつ迅速に配置されることとなる。
【0045】
また、解析すべき試料を結晶スポンジ200に導入する際、以下にも一例を示す吸蔵装置(ソーキングマシン)を利用することにより、より具体的には、当該装置からの一対の試料導入管254、254を貫通した細孔253、253に挿入し、上述した極微小な結晶スポンジ200に対して極微量な試料を導入して、必要な結晶スポンジ200への吸蔵を行うことも可能である。また、試料ホルダ250は、その取扱い(操作)器具であるアプリケータ300と共に一体化(ユニット化)し、更には、
図10にも示すように、解析作業に必要な数だけ揃えて箱状のケースに収納し、所謂、セットとして提供することも可能であろう。
【0046】
<結晶スポンジ用試料ホルダを用いた単結晶X線構造解析方法>
続いて、結晶スポンジ200が予め取り付けられた試料ホルダ250を用いることによって実行される単結晶X線構造解析方法について、以下に説明する。なお、試料ホルダ250とアプリケータ300とは、上述したように、一体(ユニット)として、或いは、セットとして提供されてもよい。
【0047】
図11は、本発明の一実施例である、試料ホルダ250を用いた単結晶X線構造解析方法を概念化して示している。かかる方法では、上述したように、アプリケータ300と共に一体(ユニット)で提供される試料ホルダ250に対し、極微量な試料を導入して、必要な吸蔵を行う。その際、上記の例では、試料ホルダ250をアプリケータ300内に収納した状態で、試料ホルダ250に形成した一対の貫通した細孔253、253(
図9を参照)に対して一対の試料導入管254、254を挿入することによって、試料を試料ホルダ250の先端に取り付けた結晶スポンジ200に吸蔵させることができる。
【0048】
より具体的には、
図12にも示すように、例えば、前処理装置400を構成するLC(液体クロマトグラフィ)401、GC(気体クロマトグラフィ)402、更には、
SFC(超臨界流体クロマトグラフィ)403やCE(
キャピラリー電気泳動)404等によって抽出された極微量な試料Sは、その担体(キャリア)と共に、各種の切替弁や調圧装置を備えて必要な条件(流量や圧力)で流体を供給する吸蔵装置(ソーキングマシン)500を介して、試料ホルダ250の細孔253、253に挿入される一対の試料導入管254、254(
図9を参照)に供給され、当該試料はアプリケータ300内部の収納空間301に選択的に導入される。すなわち試料は、供給側配管から供給側の試料導入管254に送られ、供給側の試料導入管254の先端部分からアプリケータ300の内部の試料ホルダ250に供給される。試料のみ、または試料と保存溶媒(キャリア)とが混合された溶液が、供給側の試料導入管254内を流れ供給される。このことにより、導入された当該極微量の試料Sは、アプリケータ300の収納空間301内において、試料ホルダ250のピン状の保持部252の先端に取り付けた結晶スポンジ200に接触して試料の吸蔵が行われる。なお、ここでの電気泳動装置は、キャピラリー電気泳動や等電点電気泳動等、種々の電気泳動装置を含む。吸蔵装置500を用いる場合、試料が注入された状態で所定の時間が経過した後、排出側の試料導入管254から過剰な試料、または試料と保存溶媒(キャリア)とが混合された溶液が排出される。吸蔵装置500を用いない場合、不要な保存溶媒(キャリア)または溶液が排出側の試料導入管254内を流れ排出される。したがって、排出側の試料導入管254には、試料が流れない場合がありうる。なお、気体や超臨界流体をキャリアとした場合には、試料を含んだキャリアが排出される。
【0049】
そして、この吸蔵工程が完了した試料ホルダ250は、アプリケータ300から取り外されて、単結晶X線回折装置9内の所定の位置、即ち、ゴニオメータ12の先端部のゴニオヘッド121のゴニオヘッドピンの先端に対応するX線管11からのX線ビームが集光されて照射される位置に、例えば、以下にも述べる試料ホルダ取付け機構や上述した磁力等の位置決め機構を利用して、正確に取り付けられる。
【0050】
<試料ホルダ取付け機構>
図13は、上述した吸蔵が完了した結晶スポンジ200を取り付けた試料ホルダ250を、アプリケータ300から取り外してゴニオメータ12の先端部のゴニオヘッド121に取り付ける(マウントする)ための試料ホルダ取付け機構600の構成の一例を示している。この試料ホルダ取付け機構600は、図にも示すように、互いに平行に配置され、かつ、互いに接近又は離反して移動して(図の矢印を参照)その間に試料ホルダ250の基台部251を保持/解放する一対の棒状の把持部611、611を含む試料ホルダ把持部610と、やはり、互いに平行に配置され、かつ、接近又は離反して移動可能で(図の矢印を参照)、その間にアプリケータ300を保持/解放する一対の棒状の部材621、621を含んだアプリケータ把持部620とを備えている。特に、前者の試料ホルダ把持部610は、図に矢印で示すように、更にそれ自体が回動すると共に、ゴニオメータ12のゴニオヘッド121に向かってその位置を移動することが可能に構成されている。なお、この試料ホルダ取付け機構600は、その機能から、単結晶X線回折装置9内のゴニオメータ12に近接した位置に配置されることが好ましいであろう。なお、試料ホルダ取付け機構600は、吸蔵装置500や吸蔵装置500と単結晶X線回折装置9との間など、単結晶X線回折装置9外に配置されてもよい。
【0051】
そして、試料ホルダ把持部610により試料ホルダ250の基台部251を把持し、同時に、アプリケータ把持部620によりアプリケータ300を把持した後、
図14にも矢印で示すように、試料ホルダ把持部610は、把持した試料ホルダ250をアプリケータ300から取り外す方向へ、例えば、ここでは垂直方向に、より具体的には、ピン状の保持部252の延長方向に沿って移動する。このことによれば、試料ホルダ250は、そのピン状の保持部252の先端に取り付けられた結晶スポンジ200がアプリケータ300の一部に当接して破損・逸脱されることなく、安全に、アプリケータ300から取り外すことができる。その後、試料ホルダ把持部610は、それ自体が回転する(図の矢印を参照)ことにより試料ホルダ250の上下に逆転した状態で、試料ホルダ250をゴニオメータ12のゴニオヘッド121の先端に取り付ける。
【0052】
あるいは、
図15にも示すように、試料ホルダ把持部610(又はアプリケータ把持部620)により基台部251(又はアプリケータ300)の外周を把持した状態でゴニオヘッド121の位置へ移動し、回転して、アプリケータ300と一体となっている試料ホルダ250をゴニオヘッド121上に搭載してもよい。なお、この場合には、その後、アプリケータ把持部620によりアプリケータ300の外周を把持し、同時に、試料ホルダ把持部610によって基台部251を把持して静止した状態で、アプリケータ把持部620が垂直方向に移動することにより、上記と同様に、結晶スポンジ200を、アプリケータ300の一部に当接して破損・逸脱することなく、安全に、アプリケータ300から取り外してゴニオヘッド121の先端に取り付けることができる。なお、上記では試料ホルダ把持部610及びアプリケータ把持部620は、それぞれ、一対の平行移動が可能な棒状の部材から構成されるとして説明したが、これらの把持部は、試料ホルダ又はアプリケータを把持可能であればよく、その他、回転可能な部材によって構成されてもよく、或いは、所謂、ロボットアームのような把持手段(把持部)を採用して構成されてもよいことは、当業者であれば自明であろう。
【0053】
このことによれば、ゴニオメータ12のゴニオヘッド121の先端に取り付けられる試料ホルダ250のピン状の保持部252の一部(先端)に取り付けられた結晶スポンジ200は、吸蔵が完了した後、試料ホルダ250をアプリケータ300から取り外す際においても、その他の部位に当接して破損・逸脱されることなく、安全かつ迅速に、X線管11からのX線ビームが集光されて照射される位置に正確に配置されることとなる。換言すれば、結晶スポンジ200に吸蔵された試料は、正確に、かつ、迅速かつ安全に、X線回折装置9内の所定の位置に配置され、その後、単結晶X線回折装置によって当該試料Sからの回折X線の強度が測定されて、その結晶構造等が解析されることとなる。
【0054】
このように、本発明の試料ホルダ250やアプリケータ300、更には、試料ホルダ取付け機構600を利用することによれば、誰でも容易かつ安全に、極微量の試料を、試料ホルダ250に予め一体に取り付けられた極微小な寸法の結晶スポンジ200に吸蔵させると共に、その後、当該試料Sをゴニオメータ12に高精度で正確な位置に結晶スポンジが乾燥により破壊されない短時間で迅速に、かつ、安全に搭載することが可能となる。なお、その後、上述した単結晶X線回折装置9によって試料Sに所要の波長のX線を照射しながら対象材料によるX線の回折や散乱測定し、上述した単結晶X線構造解析装置を構成する測定用アプリケーションソフトにより構造解析を行って分子モデルの構築や最終レポートの作成等を行うことは現状と同様である。即ち、本実施例によれば、創薬や生命科学のみならず各種の材料研究の現場などにおいて、発見又は設計した新たな構造物の分子構造・集合構造(実空間)を、迅速、安全、かつ簡単に確認することが可能となる。
【0055】
以上に詳述したように、本発明によれば、新たに提案された試料ホルダやアプリケータ、更には、その取付け機構を利用することにより、X線構造解析の専門知識がなくても、極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジを利用した単結晶X線構造解析を、従来必要とされた緻密で微細な作業を伴わずに、迅速、確実かつ容易に行うことが出来る、換言すれば、結晶スポンジを利用した単結晶X線構造解析を、歩留まり良くかつ効率的に行うことが可能な、汎用性に優れ、かつ、試料ホルダの搭載の自動化を含むユーザフレンドリな単結晶X線構造解析装置が提供される。
【0056】
なお、以上には本発明の種々の実施例を説明したが、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するためにシステム全体を詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、またある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能であり、また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能であろう。
【0057】
本発明は、物質構造の探索方法やそれに用いるX線構造解析装置等において広く利用可能である。
【0058】
なお、本国際出願は、2018年11月22日に出願した日本国特許出願第2018-218756号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願第2018-218756号の全内容を本国際出願に援用する。
【符号の説明】
【0059】
1…単結晶X線構造解析装置(全体)、9…単結晶X線回折装置、11…X線管、12…ゴニオメータ、22…X線検出器、102…測定装置、103…入力装置、104…画像表示装置、107…CPU、108…RAM、109…ROM、111…ハードディスク、116…分析用アプリケーションソフト、117…測定用アプリケーションソフト、121…ゴニオヘッド、250…試料ホルダ、200…結晶スポンジ、251…基台部、252…ピン状の保持部、253…細孔、254…試料導入管、300…アプリケータ、301…収納空間、302…開口部、600…試料ホルダ取付け機構、610…試料ホルダ把持部、620…アプリケータ把持部、611、621…把持部。