(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】抗HER2アフィボディ及びこれをスイッチ分子として用いるスウィチャブルキメラ抗原受容体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/31 20060101AFI20230306BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20230306BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20230306BHJP
C07K 14/725 20060101ALI20230306BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230306BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20230306BHJP
C07K 16/44 20060101ALI20230306BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20230306BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230306BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20230306BHJP
【FI】
C12N15/31 ZNA
C07K16/28
C07K19/00
C07K14/725
C12N15/12
C12N15/62 Z
C07K16/44
A61K38/16
A61P35/00
A61K47/68
(21)【出願番号】P 2021549988
(86)(22)【出願日】2021-04-16
(86)【国際出願番号】 KR2021004793
(87)【国際公開番号】W WO2021210939
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2021-08-26
(31)【優先権主張番号】10-2020-0047025
(32)【優先日】2020-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】515286542
【氏名又は名称】アブクロン・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ABCLON INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】キム,キ ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ヒョン-ジョン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジョン-ソ
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/203600(WO,A1)
【文献】特表2018-523487(JP,A)
【文献】特表2020-505014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式で表示されるアミノ酸配列を含む抗HER2アフィボディ:
一般式
VDNKFNKEX
9X
10X
11AYWEIX
17X
18LPNLNX
24X
25QX
27X
28AFIX
32X
33LX
35DDPSQSANLLAEAKKLNDAQAPK
前記一般式において、
(i)前記X
9X
10X
11はLRVで、前記X
17X
18はVKで、前記X
24X
25はPY、PP又はPKで、前記X
27X
28はSR又はITで、前記X
32X
33はRS又はKQで、前記X
35はYである;
(ii)前記X
9X
10X
11はLRGで、前記X
17X
18はTSで、前記X
24X
25はHSで、前記X
27X
28はITで、前記X
32X
33はVSで、前記X
35はYである;
(iii)前記X
9X
10X
11はMRDで、前記X
17X
18はVRで、前記X
24X
25はRI又はPPで、前記X
27X
28はST又はSVで、前記X
32X
33はRS又はRQで、X
35はYである;
(iv)前記X
9X
10X
11はYMLで、前記X
17X
18はVKで、前記X
24X
25はYPで、前記X
27X
28はQHで、前記X
32X
33はRSで、X
35はFである;又は
(v)前記X
9X
10X
11はINKで、前記X
17X
18はISで、前記X
24X
25はKEで、前記X
27X
28はHHで、前記X
32X
33はHSで、X
35はYである。
【請求項2】
前記X
35はYである、請求項1に記載のアフィボディ。
【請求項3】
X
10はRである、請求項1に記載のアフィボディ。
【請求項4】
X
17はVである、請求項1に記載のアフィボディ。
【請求項5】
X
24はPである、請求項1に記載のアフィボディ。
【請求項6】
前記抗HER2アフィボディは、配列番号1~8のいずれか一つのアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗HER2アフィボディ。
【請求項7】
コチニンと結合した、下記一般式で表示される抗HER2アフィボディを含む、キメラ抗原受容体効果器細胞(chimeric antigen receptor-effector cell)を活性化させるためのスイッチ分子(switch molecule):
一般式
VDNKFNKEX
9X
10X
11AYWEIX
17X
18LPNLNX
24X
25QX
27X
28AFIX
32X
33LX
35DDPSQSANLLAEAKKLNDAQAPK
前記一般式において、
(i)前記X
9X
10X
11はLRVで、前記X
17X
18はVKで、前記X
24X
25はPY、PP又はPKで、前記X
27X
28はSR又はITで、前記X
32X
33はRS又はKQで、前記X
35はYである;
(ii)前記X
9X
10X
11はLRGで、前記X
17X
18はTSで、前記X
24X
25はHSで、前記X
27X
28はITで、前記X
32X
33はVSで、前記X
35はYである;
(iii)前記X
9X
10X
11はMRDで、前記X
17X
18はVRで、前記X
24X
25はRI又はPPで、前記X
27X
28はST又はSVで、前記X
32X
33はRS又はRQで、X
35はYである;
(iv)前記X
9X
10X
11はYMLで、前記X
17X
18はVKで、前記X
24X
25はYPで、前記X
27X
28はQHで、前記X
32X
33はRSで、X
35はFである;又は
(v)前記X
9X
10X
11はINKで、前記X
17X
18はISで、前記X
24X
25はKEで、前記X
27X
28はHHで、前記X
32X
33はHSで、X
35はYである。
【請求項8】
前記効果器細胞の活性化は、標的細胞に対する細胞毒性、サイトカイン分泌、及びこれらの組合せであることを特徴とする、請求項7に記載のスイッチ分子。
【請求項9】
前記効果器細胞は、樹状細胞、キラー樹状細胞、肥満細胞、自然殺害細胞、Bリンパ球、Tリンパ球、大食細胞及びこれらの前駆細胞からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項7に記載のスイッチ分子。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか一項のスイッチ分子;及び、薬剤学的に許容される担体を含む、免疫治療用薬剤学的組成物。
【請求項11】
次を含むスウィチャブルキメラ抗原受容体:
(a)請求項7~9のいずれか一項のスイッチ分子;及び
(b)次を含むキメラ抗原受容体:
i)請求項7~9のいずれか一項のスイッチ分子
の前記コチニンを標的化する抗体又はその抗原結合断片を含む細胞外ドメイン(extracellular domain);
ii)膜貫通ドメイン(transmembrane domain);及び
iii)細胞内信号伝達ドメイン。
【請求項12】
前記膜貫通ドメインは、T細胞受容体、CD27、CD28、CD
3エプシロン、CD45、CD4、CD5、CD8(CD8α)、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137及びCD154のアルファ、ベータ又はゼータ鎖からなる群から選ばれるタンパク質の膜貫通ドメインである、請求項11に記載のスウィチャブルキメラ抗原受容体。
【請求項13】
前記細胞内信号伝達ドメインは、CD3ζ(CD3ゼータ)鎖から由来したドメインである、請求項11に記載のスウィチャブルキメラ抗原受容体。
【請求項14】
前記細胞内信号伝達ドメインは、OX40(CD134)、CD2、CD27、CD28、CDS、ICAM-1、LFA-1(CD11a/CD18)及び4-1BB(CD137)からなる群から選ばれる共同刺激分子(costimulatory molecule)
を含む、請求項11
又は13に記載のスウィチャブルキメラ抗原受容体。
【請求項15】
前記i)の抗体又はその抗原結合断片は、抗コチニン抗体である、請求項11に記載のスウィチャブルキメラ抗原受容体。
【請求項16】
前記i)の
前記スイッチ分子の前記コチニンを標的化する抗体又はその抗原結合断片は、配列番号9のHCDR1、配列番号10のHCDR2、配列番号11のHCDR3、配列番号12のLCDR1、配列番号13のLCDR2、
及び配列番号14のLCDR3を含む、請求項11に記載のスウィチャブルキメラ抗原受容体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大韓民国産業通商資源部の支援下で課題番号20002893によってなされたものであり、この課題の研究管理専門機関は韓国産業技術評価管理院、研究事業名は“バイオ産業核心技術開発事業”、研究課題名は“革新スウィチャブルCART技術を用いたHER2標的卵巣癌治療剤開発”、主管機関はアブクロン(株)、研究期間は2018.10.01~2021.06.30である。
【0002】
本特許出願は、2020年4月17日に大韓民国特許庁に提出された大韓民国特許出願第10-2020-0047025号に対して優先権を主張し、この特許出願の開示事項は、本明細書に参照によって組み込まれる。
【0003】
本発明は、“抗HER2アフィボディ及びこれをスイッチ分子として用いるスウィチャブルキメラ抗原受容体”に関する。
【背景技術】
【0004】
初期段階の臨床試験で印象的な成功を収めたにもかかわらず、既存のCAR-T細胞は、生体内での活性化及び拡張に対する制御が不可能な点で限界があった。例えば、CAR-T細胞は、患者の抗原陽性細胞に出会うと104倍数まで急速に増殖し、腫瘍溶解症候群(tumor lysis syndrome,TLS)と致命的なサイトカイン放出症候群(cytokine release syndrome,CRS)による深刻な症状を招く。追加の合併症が、CAR-T細胞の抗原に対する持続的な活性化(persistent on-target activity)によって引起こされることがある。例えば、CART-19の場合、操作されたT細胞が悪性B細胞の他に正常B細胞も無差別的に殺し、長期間のB細胞無形性(B cell aplasia)を引き起こす。最後に、既存CAR-T細胞の固定した抗原特異性は、CART-19治療を受ける全患者の10%にもおいて再発の根源として明らかにされた抗原損失脱出突然変異体(antigen-loss escape mutant)に対する標的化が排除される。したがって、CAR-T細胞の安全性を向上させるために、深刻な毒性を示す場合にCAR-T細胞の活性を調節でき、抗原の突然変異が起きる場合にCAR-T細胞と標的細胞との相互作用を仲裁できるスイッチ分子の開発に対する要求が漸次増加している。
【0005】
ヒト表皮成長因子受容体2(HER2、或いは、“HER2/neu”又は“ErbB-2”とも呼ばれる。)は、表皮成長因子受容体ファミリーに属する185kDaの膜横断受容体である。HER2遺伝子の増幅及びタンパク質の過剰発現は、多数類型の癌の発病と進行において中枢的な役割を担う。HER2は、乳癌の25~30%、胃癌の15~35%、及び卵巣癌の7~38%で過剰発現し、不良な生存率と相関関係がある。HER2タンパク質は、近年、癌療法の重要な予測性バイオマーカー及び標的として台頭した。そのファミリーの他の構成員との同種二量体化又は異種二量体化は、細胞内チロシンキナーゼドメインの活性化を促し、MAPK及びAkt信号伝達経路を通じて媒介される細胞生存と増殖を触発する。臨床で利用可能なHER2標的化療法は、受容体二量体化を防ぐ抗体、例えば、トラスツズマブ(ハーゼプチン(Herceptin)、ジェネンテック(Genentech)社)及びペルツズマブ(パージェタ(Perjeta)、ジェネンテック社)、抗体-薬物接合体、例えばT-DM1(カドサイラ(Kadcyla)、ジェネンテック社)又はチロシン-キナーゼドメインを標的化する小分子抑制剤(例えば、ラパチニブ、タイバーブ(Tyverb)、グラクソスミスクライン(GlaxoSmithKline);二重HER2及びEGFR抑制剤)を含む。
【0006】
本明細書全体を通じて多数の論文及び特許文献が参照され、その引用が表示されている。引用された論文及び特許文献の開示内容は、その全体として本明細書に参照によって組み込まれ、本発明の属する技術分野のレベル及び本発明の内容がより明確に説明される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】PCT国際公開公報WO2012-096760A1(2012.07.19.公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、従来CAR-Tで知られた合併症無しでHER2を発現させる癌を治療できるキメラ抗原受容体を開発しようと鋭意研究努力した。その結果、コチニンと結合した抗HER2アフィボディをスイッチ分子として用いてコチニンを標的化するキメラ抗原受容体と共に処理する場合、HER2を発現させる癌細胞株に反応して免疫細胞活性を誘導することを究明し、本発明を完成するに至った。
【0009】
したがって、本発明の目的は、新規な抗HER2アフィボディを提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、コチニンが結合した抗HER2アフィボディを含むスイッチ分子を提供することである。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、前記スイッチ分子及び前記スイッチ分子を標的化するキメラ抗原受容体を含むスウィチャブルキメラ抗原受容体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によれば、本発明は、下記一般式で表示されるアミノ酸配列を含む抗HER2アフィボディを提供する:
一般式
VDNKFNKEX9X10X11AYWEIX17X18LPNLNX24X25QX27X28AFIX32X33LX35DDPSQSANLLAEAKKLNDAQAPK
本明細書の一般式で定義したXyの形式で表現されたアミノ酸残基は、本一般式のアミノ酸配列からなるポリペプチドのターゲット抗原に対する特異的な結合特性を提供するアミノ酸残基の位置であり、前記Xyは、20種の全天然アミノ酸残基から選択されてよく、前記yは、一般式のアミノ酸配列においてy番目に該当することを意味する。
【0013】
本明細書においてXyの形式で定義されていない位置のアミノ酸残基は、スキャフォールドアミノ酸又はスキャフォールドと呼ぶ。前記スキャフォールドアミノ酸は、本発明のポリペプチドのターゲット抗原との結合親和性を付与する前記Xy形態の無作為的アミノ酸とは区別されるアミノ酸配列であり、本発明のポリペプチド又はポリペプチド複合体としての構造的安定性を付与する。
【0014】
前記一般式において、
(i)前記X9X10X11はLRVで、前記X17X18はVKで、前記X24X25はPY、PP又はPKで、前記X27X28はSR又はITで、前記X32X33はRS又はKQで、前記X35はYである;
(ii)前記X9X10X11はLRGで、前記X17X18はTSで、前記X24X25はHSで、前記X27X28はITで、前記X32X33はVSで、前記X35はYである;
(iii)前記X9X10X11はMRDで、前記X17X18はVRで、前記X24X25はRI又はPPで、前記X27X28はST又はSVで、前記X32X33はRS又はRQで、X35はYである;
(iv)前記X9X10X11はYMLで、前記X17X18はVKで、前記X24X25はYPで、前記X27X28はQHで、前記X32X33はRSで、X35はFである;又は
(v)前記X9X10X11はINKで、前記X17X18はISで、前記X24X25はKEで、前記X27X28はHHで、前記X32X33はHSで、X35はYである。
【0015】
本発明の一具現例において、前記X35はYである。
【0016】
本発明の一具現例において、X10はRである。
【0017】
本発明の一具現例において、X17はVである。
【0018】
本発明の一具現例において、X24はPである。
【0019】
本発明の一具現例において、前記抗HER2アフィボディは、配列番号1~8のいずれか一つのアミノ酸配列を含む。
【0020】
本明細書において、“アフィボディ(Affibody(登録商標))”分子は、黄色ブドウ状球菌(Staphylococcus aureus)のタンパク質A(Protein A)のうち、IgGに親和性がある部位であるZ-ドメイン(Z domain)である。本明細書において“アフィボディ(affibody)”は、“Z body”又は“Zb”とも表現される。アフィボディは、58個のアミノ酸残基からなる小さいタンパク質である。このようなアフィボディ分子のタンパク質配列においてIgGと結合面を形成する13個のアミノ酸は、アミノ酸配列によって様々なターゲット抗原に対する結合が可能であり、無作為的な配列が可能なので、ライブラリー(library)が構築できる。アフィボディ分子は、抗体と類似に、ライブラリーからファージディスプレイ(phage display)、酵母タンパク質雑種法(yeast two hybrid,Y2H)などのスクリーニング方法を用いて、様々なターゲット抗原に対して結合できるアフィボディ分子を選別することができる。また、アフィボディは、分子量が6kDaと非常に小さいため、一般に、150kDaの分子量を持つIgG形態の抗体と比較して、人体投与時に全身的に広がり、腎臓濾過によって速く除去される特徴がある。したがって、アフィボディは、主に、診断試料研究開発に応用されている(Goldstein R et al.,2013,Expert Rev Anticancer Ther.)。アフィボディは、一般IgGと結合した二重抗体の形態としても開発されている(Yu F et al.,2014,MAbs)。第1世代Z変異体(Zドメインの変異体)に基づくポリペプチドスキャフォールドに関する発明が、PCT公開公報WO95/19374に開示されたことがあり、第2世代Z変異体に基づくポリペプチドスキャフォールドに関する発明が、PCT公開公報WO2009/080811に開示されたことがある。
【0021】
本発明の他の態様によれば、本発明は、上記の抗HER2アフィボディをエンコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を提供する。
【0022】
本発明の一具現例において、本発明の前記抗HER2アフィボディをエンコードするヌクレオチド配列は、前記抗HER2アフィボディを構成するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列であればよく、いかなる特定ヌクレオチド配列にも限定されないということは当業者に明らかである。これは、ヌクレオチド配列の変異が発生しても、変異されたヌクレオチド配列をタンパク質として発現させるとタンパク質配列において変化をもたらさない場合もあるためである。これをコドンの縮退性という。したがって、前記ヌクレオチド配列は、機能的に均等なコドン又は同一のアミノ酸をコードするコドン(例えば、コドンの縮退性によって、アルギニン又はセリンに対するコドンは6個である)、又は生物学的に均等なアミノ酸をコードするコドンを含むヌクレオチド配列を含む。
【0023】
本明細書において、用語“核酸(nucleic acids)”は、DNA(gDNA及びcDNA)並びにRNA分子を包括的に含む意味を有し、核酸分子において基本構成単位であるヌクレオチドは、自然のヌクレオチドの他に、糖又は塩基部位が変形された類似体(analogue)も含む(Scheit,Nucleotide Analogs,John Wiley,New York(1980);Uhlman and Peyman,Chemical Reviews,90:543-584(1990))。
【0024】
上述した生物学的均等活性を有する変異を考慮すれは、前記抗HER2アフィボディを構成するアミノ酸配列をコードする本発明の核酸分子は、これと実質的な同一性(substantial identity)を示す配列も含むものと解釈される。前記の実質的な同一性は、上述した本発明の配列と任意の他の配列を、極力対応するようにアライン(align)し、当業界で一般に用いられるアルゴリズムを用いてアラインされた配列を分析した場合に、少なくとも60%以上の相同性、具体的には70%以上の相同性、より具体的には80%以上の相同性、さらに具体的には90%以上の相同性、最も具体的には95%以上の相同性を示す配列を意味する。配列比較のためのアラインメント(alignment)方法は当業界に公知されている。アラインメントに対する様々な方法及びアルゴリズムは、Smith and Waterman,Adv.Appl.Math.2:482(1981);Needleman and Wunsch,J.Mol.Bio.48:443(1970);Pearson and Lipman,Methods in Mol.Biol.24:307-31(1988);Higgins and Sharp,Gene73:237-44(1988);Higgins and Sharp,CABIOS 5:151-3(1989);Corpet et al.,Nuc.Acids Res.16:10881-90(1988);Huang et al.,Comp.Appl.BioSci.8:155-65(1992)and Pearson et al.,Meth.Mol.Biol.24:307-31(1994)に開示されているが、これに限定されるものではない。
【0025】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、上述した抗HER2アフィボディをコードする核酸分子を含む組換えベクターを提供する。
【0026】
本明細書において、用語“ベクター”は、宿主細胞において目的遺伝子を発現させるための手段であり、プラスミドベクター;コスミドベクター;そしてバクテリオファージベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター及びアデノ関連ウイルスベクターのようなウイルスベクターなどを含む。
【0027】
本発明の具体的な具現例によれば、本発明のベクターにおいて前記アフィボディをエンコードする核酸分子は、前記ベクターのプロモーターと作動的に結合(operatively linked)している。
【0028】
本明細書において、用語“作動的に結合した”とは、核酸発現調節配列(例えば、プロモーター、シグナル配列、又は転写調節因子結合位置のアレイ)と他の核酸配列間の機能的な結合を意味し、これによって、前記調節配列は前記他の核酸配列の転写及び/又は解読を調節するようになる。
【0029】
本発明の組換えベクターシステムは、当業界に公知の様々な方法を用いて構築でき、これに関する具体的な方法は、Sambrook et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001)に開示されており、この文献は、本明細書に参照によって組み込まれる。
【0030】
本発明のベクターは、典型的に、遺伝子クローニングのためのベクター又はタンパク質の発現のためのベクターとして構築されてよい。また、本発明のベクターは、原核細胞又は真核細胞を宿主として構築されてよい。
【0031】
例えば、本発明のベクターが発現ベクターであり、真核細胞を宿主とする場合には、哺乳動物細胞のゲノムから由来したプロモーター(例えば、メタロチオニンプロモーター、β-アクチンプロモーター、ヒトヘモグロビンプロモーター及びヒト筋肉クレアチンプロモーター)又は哺乳動物ウイルスから由来したプロモーター(例えば、アデノウイルス後期プロモーター、ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター、SV40プロモーター、サイトメガロウイルスプロモーター、HSVのtkプロモーター、マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、HIVのLTRプロモーター、モロニーウイルスのプロモーター、エプスタインバールウイルス(EBV)のプロモーター及びラウス肉腫ウイルス(RSV)のプロモーター)が用いられてよく、これらは一般に、転写終結配列としてポリアデニル化配列を有する。
【0032】
本発明のベクターはそれから発現するポリペプチド又はタンパク質の精製を容易にするために、他の配列と融合されてもよい。融合される配列は、例えば、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(Pharmacia,USA)、マルトース結合タンパク質(NEB,USA)、FLAG(IBI,USA)及び6x His(hexahistidine;Quiagen,USA)などがある。
【0033】
一方、本発明の発現ベクターは、選択標識として、当業界で通常用いられる抗生剤耐性遺伝子を含み、例えば、アンピシリン、ゲンタマイシン、カベニシリン、クロラムフェニコール、ストレプトマイシン、カナマイシン、ゲネチシン、ネオマイシン及びテトラサイクリンに対する耐性遺伝子がある。
【0034】
本発明の他の態様によれば、本発明は、前記組換えベクターで形質転換された宿主細胞を提供する。
【0035】
本発明のベクターを安定且つ連続してクローニング及び発現させ得る宿主細胞は、当業界に公知のいかなる宿主細胞も利用可能である。例えば、前記ベクターの好適な真核細胞宿主細胞は、サル腎臓細胞7(COS7:monkey kidney cells)、NSO細胞、SP2/0、チャイニーズハムスター卵巣(CHO:Chinese hamster ovary)細胞、W138、仔ハムスター腎臓(BHK:baby hamster kidney)細胞、MDCK、骨髄腫細胞株、HuT78細胞及びHEK-293細胞を含むが、これに限定されない。
【0036】
本明細書において、用語“形質転換された”、“形質導入された”又は“形質感染された”とは、外因性核酸が宿主細胞内に伝達又は導入される過程のことを指す。“形質転換された”、“形質導入された”又は“形質感染された”細胞は、外因性核酸で形質転換、形質導入又は形質感染された細胞であり、前記細胞は、当該細胞及びその継代培養による子孫細胞を含む。
【0037】
本発明の他の態様によれば、本発明は、コチニンと結合した、下記一般式で表示される抗HER2アフィボディを含むキメラ抗原受容体効果器細胞(chimeric antigen receptor-effector cell)を活性化するためのスイッチ分子(switch molecule)を提供する:
一般式
VDNKFNKEX9X10X11AYWEIX17X18LPNLNX24X25QX27X28AFIX32X33LX35DDPSQSANLLAEAKKLNDAQAPK
前記一般式において、
(i)前記X9X10X11はLRVで、前記X17X18はVKで、前記X24X25はPY、PP又はPKで、前記X27X28はSR又はITで、前記X32X33はRS又はKQで、前記X35はYである;
(ii)前記X9X10X11はLRGで、前記X17X18はTSで、前記X24X25はHSで、前記X27X28はITで、前記X32X33はVSで、前記X35はYである;
(iii)前記X9X10X11はMRDで、前記X17X18はVRで、前記X24X25はRI又はPPで、前記X27X28はST又はSVで、前記X32X33はRS又はRQで、X35はYである;
(iv)前記X9X10X11はYMLで、前記X17X18はVKで、前記X24X25はYPで、前記X27X28はQHで、前記X32X33はRSで、X35はFである;又は
(v)前記X9X10X11はINKで、前記X17X18はISで、前記X24X25はKEで、前記X27X28はHHで、前記X32X33はHSで、X35はYである。
【0038】
本発明の一具現例において、前記X35はYである。
【0039】
本発明の一具現例において、X10はRである。
【0040】
本発明の一具現例において、X17はVである。
【0041】
本発明の一具現例において、X24はPである。
【0042】
本発明の一具現例において、前記抗HER2アフィボディは、配列番号1~8のいずれか一つのアミノ酸配列を含む。
【0043】
前記コチニンは、ニコチン代謝の主要産物であり、下記化学式1の構造を有する物質のことを指す。
【0044】
【0045】
本明細書において“スイッチ分子(switch molecule)”とは、前記キメラ抗原受容体を用いたT細胞治療剤、すなわち、CAR-Tと呼ばれる細胞治療剤において、CARのターゲット認識ドメインとCARの細胞シグナリングドメインを分離し、これを媒介するアダプター分子(adaptor molecule)を意味する。スイッチ分子は、異種標的(Heterogenous target)、又は耐性腫瘍(resistant tumor)に対してCARのターゲットを交替したり、或いはCARを発現させる細胞の過度な活性化によって副作用が発生するとき、スイッチ分子の投与によるたCAR細胞の活性減少を可能にする(Cao et al.,Angew Chem Int Ed Engl.2016 June 20;55(26):7520-7524.)。
【0046】
本発明の一具現例において、前記効果器細胞の活性化は、標的細胞に対する細胞毒性、サイトカイン分泌、及びこれらの組合せである。
【0047】
本発明の一具現例において、前記効果器細胞は、樹状細胞、キラー樹状細胞、肥満細胞、自然殺害細胞、Bリンパ球、Tリンパ球、大食細胞及びこれらの前駆細胞からなる群から選ばれるが、これに限定されない。
【0048】
本発明において、前記スイッチ分子を構成する抗HER2アフィボディとコチニン(cotinine)は、化学的コンジュゲーションによって結合する。
【0049】
前記化学的コンジュゲーションは、化学的架橋剤によってなされてよい。前記化学的架橋剤には、EDC(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochloride)、DCC(dicyclohexyl carbodiimide)、NHS(N-hydroxysuccinimide)、Sulfo-NHS(N-hydroxysulfosuccinimide)、イミドエステル系架橋剤、Sulfo-SMCC(sulfosuccinimidyl 4-(N-maleimidomethyl)cyclohexane-1-carboxylate)などがあるが、これに限定されるものではなく、本発明の属する分野において通常用いられる如何なる化学的架橋剤も使用可能である。
【0050】
本発明の一具現例において、前記スイッチ分子を構成する抗HER2アフィボディには、コチニンが1個分子以上、2個分子、又は3個分子以上結合してよい。
【0051】
本発明の具体的な具現例において、前記抗HER2アフィボディを構成するポリペプチドのN末端又はC末端にコチニンが結合してよい。
【0052】
本発明の他の具体的な具現例において、前記抗HER2アフィボディを構成するポリペプチドのN末端及びC末端の両方にコチニンが結合してもよい。
【0053】
本発明の一具現例において、前記スイッチ分子を構成する抗HER2アフィボディとコチニンが直接に連結されてもよく、又はリンカーを介して間接に連結されてもよい。
【0054】
通常の技術者であれば、融合タンパク質の作製時に、一般に、融合しようとする機能的一部分(moiety)の間にリンカーを使用することを含むことができ、異なる特性を有する他の種類のリンカー、例えば、柔軟性アミノ酸リンカー、非柔軟性リンカー及び切断可能なアミノ酸リンカーがあることを知っているだろう。リンカーは、融合タンパク質の発現量増加、生物学的活性向上、ターゲッティングを可能にしたり或いは薬動学を変更させるための目的で、又は融合タンパク質の安定性を増加させ、フォールディング(folding)を向上させる目的で使用されてきた。
【0055】
したがって、本発明の具体的な具現例によれば、前記スイッチ分子は、少なくとも一つのリンカー、例えば、柔軟性アミノ酸リンカー、非柔軟性リンカー及び切断可能なアミノ酸リンカーから選ばれる少なくとも一つのリンカーを含むことができる。本発明の具体的な一具現例において、前記リンカーは、前記抗HER2アフィボディとコチニンとの間に配列される。
【0056】
この場合、前記リンカーは、一般式(GnSm)p又は(SmGn)pと表示されるアミノ酸配列からなり得る:
ここで、前記n、m及びpは独立に、
nは、1~7範囲の整数であり;
mは、0~7範囲の整数であり;
nとmの和は、8以下の整数であり;及び
pは、1~7範囲の整数である。
【0057】
本発明の他の具体的な具現例によれば、前記リンカーは、n=1~5で、m=0~5である。より具体的な具現例において、n=4で、m=1である。さらに具体的な具現例において、前記リンカーは(G4S)3又は(S4G)3である。さらに他の具現例において、前記リンカーはGGGGSである。
【0058】
さらに他の具体的な具現例において、前記リンカーはVDGSである。さらに他の具体的な具現例において、前記リンカーはASGSである。
【0059】
本明細書において、前記スイッチ分子を構成する抗HER2アフィボディをはじめとする本明細書で発現するポリペプチド又は融合タンパク質は、ポリペプチド/融合タンパク質のC末端及び/又はN末端に少なくとも一つの追加アミノ酸を含むことができる。前記の追加アミノ酸残基は、例えば、生産性、精製(purification)、生体内又は生体外における安定化、複合体のカップリング又は検出を向上させるための目的で個別的又は集合的に追加されてよい。例えば、前記ポリペプチド又は融合タンパク質は、前記ポリペプチド又は融合タンパク質のC末端及び/又はN末端にシステイン残基を追加に含むことができる。追加のアミノ酸残基は、精製又はポリペプチドの検出のための“タグ(tag)”を提供してもよく、例えば、そのタグは、そのタグと特異的な抗体との相互作用のためのものである。His6タグの場合、固定化した金属親和性クロマトグラフィー(IMAC)のために、His6タグ、(HisGlu)3タグ(“HEHEHE”タグ)、“myc”(c-myc)タグ又は“FLAG”タグ)のようなタグを提供することができる。
【0060】
本発明の他の態様によれば、本発明は、上述したスイッチ分子;及び薬剤学的に許容される担体を含む免疫治療用薬剤学的組成物を提供する。
【0061】
本明細書において“免疫治療(immunotherapy)”とは、兔疫体系が癌を除去するように手伝う癌の治療方法である。免疫治療は、能動的免疫治療と受動的免疫治療とに区分される。能動的免疫治療は、i)癌細胞又は癌細胞によって生成された物質を人体に注入して兔疫体系を活性化させる癌ワクチン治療(cancer vaccine therapy)、ii)サイトカイン(インターフェロン、インターロイキンなど)、成長因子などの免疫調節剤(immune-modulating agents)を投与して特定の白血球を活性化させる免疫調節治療を含む。受動的免疫治療は、特定の癌細胞に結合する治療的抗体(therapeutic antibody)と免疫細胞治療(immune cell therapy)を含む。免疫細胞治療は、具体的に、樹状細胞ワクチン治療(dendritic cell vaccine therapy)とCAR-T(chimeric antigen receptor T cell)治療、NK細胞治療(natural killer cell therapy)、CTL治療(cytotoxic T lymphocyte therapy)、養子細胞転移(adoptive cell transfer)などを含むが、これに限定されない。本発明において、免疫治療は主に、上述の免疫細胞治療を意味する。
【0062】
本発明のスイッチ分子は、HER2抗原に特異的に結合するアフィボディを含むところ、本発明のスイッチ分子を有効成分として含む薬剤学的組成物を使用して治療できる疾患は、HER2を発現させる細胞と関連したヒト及び哺乳動物の疾患である。具体的に、前記疾患は、乳癌、胃癌、卵巣癌、直結腸癌、子宮内膜癌であるが、これに限定されない。
【0063】
本発明の薬剤学的組成物に含まれる薬剤学的に許容される担体は、製剤時に一般に用いられるものであり、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルジネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、滑石、ステアリン酸マグネシウム及びミネラルオイルなどを含むが、これに限定されない。
【0064】
本発明の薬剤学的組成物は、これらの成分の他に、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などもさらに含むことができる。適切な薬剤学的に許容される担体及び製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(19th ed.,1995)に詳細に記載されている。
【0065】
本発明の薬剤学的組成物は、経口又は非経口で投与でき、例えば、静脈内注入、皮下注入、血内注入、筋肉内注入、腹腔内注入、胸骨内注入、腫瘍内注入、局所投与、鼻内投与、脳内投与、頭蓋骨内投与、肺内投与及び直腸内投与などで投与できるが、これに限定されない。
【0066】
本発明の薬剤学的組成物の適切な投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、病態、食べ物、投与時間、投与経路、排泄速度及び反応感応性のような要因によって様々であり、熟練した通常の医師は、所望する治療又は予防に効果的な投与量を容易に決定及び処方できる。本発明の好ましい具現例によれば、本発明の薬剤学的組成物の1日投与量は、0.0001~100mg/kgである。本明細書において、用語“薬剤学的有効量”とは、上述した疾患を予防又は治療するのに十分な量を意味する。
【0067】
本明細書において、用語“予防”は、疾患又は疾患状態の防止又は保護的な治療を意味する。本明細書において、用語“治療”は、疾患状態の減少、抑制、鎮静又は根絶を意味する。
【0068】
本発明の薬剤学的組成物は、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に実施できる方法によって、薬剤学的に許容される担体及び/又は賦形剤を用いて製剤化することによって単位容量の形態で製造されてもよく、又は多回容量容器内に内入させて製造されてよい。このとき、剤形は、オイル又は水性媒質中の溶液、懸濁液又は乳化液の形態であるか、或いはエキス剤、散剤、坐剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤又はカプセル剤の形態であってもよく、分散剤又は安定化剤をさらに含むことができる。
【0069】
本発明の薬剤学的組成物は、また、上述したスイッチ分子に加えて、他の薬剤学的活性薬剤又は薬物、例えば、アスパラギナーゼ、ブスルファン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、メトトレキサート、パクリタキセル、リツキシマブ、ビンブラスチン、ビンクリスチンなどの化学治療剤を含むことができる。
【0070】
本発明の他の態様によれば、本発明は、次を含むスウィチャブルキメラ抗原受容体を提供する:
(a)上述したコチニンが結合した抗HER2アフィボディを含むスイッチ分子;及び
(b)次を含むキメラ抗原受容体:
i)前記スイッチ分子を標的化する抗体又はその抗原結合断片を含む細胞外ドメイン(extracellular domain);
ii)膜貫通ドメイン(transmembrane domain);及び
iii)細胞内信号伝達ドメイン。
【0071】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、上述した本発明のスイッチ分子、及び前記本発明のスイッチ分子を標的化するキメラ抗原受容体を含むCAR-効果器細胞治療的システムを提供する。
【0072】
本発明に係るCAR-効果器細胞治療的システムを用いると、特定癌細胞の表面抗原(例えば、HER2)に特異的に結合するスイッチ分子、及び前記スイッチ分子を標的化するキメラ抗原受容体を発現させる効果器細胞(例えば、T細胞、樹状細胞、NK細胞)を、投与が必要な患者に投与して癌(例えば、HER2発現に関連した細胞の癌)を治療することができる。
【0073】
本明細書において、用語“キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor,CAR)”とは、効果器細胞信号伝達又は効果器細胞活性化ドメイン(例えば、T細胞信号伝達又はT細胞活性化ドメイン)に連結されたターゲット結合ドメイン(例えば、単一鎖可変断片(scFv))を含む人工的に作製されたハイブリッドタンパク質(融合タンパク質)又はポリペプチドである。キメラ抗原受容体は、一般に、単一クローン抗体の抗原結合性質を用いて非MHC制限方式により、選択された標的に対するT細胞特異性及び反応性を再誘導する能力を有する。非MHC制限された抗原認識は、CARを発現させるT細胞に、抗原処理に関係なく抗原を認識する能力を提供し、腫瘍逃避の主要メカニズムを回避させる。また、CARは、T細胞で発現するとき、有利には内在性T細胞受容体(TCR)アルファ及びベータ鎖と二量体化しない。
【0074】
本発明のキメラ抗原受容体は、スウィチャブルキメラ抗原受容体(switchable chimeric antigen receptor,sCAR)である。一般的な従来のクラシックキメラ抗原受容体(classical chimeric antigen receptor)の細胞外ドメインは、特定抗原(例えば、HER2抗原、CD19抗原などの腫瘍関連抗原(tumor associated antigen,TAA))を標的化する抗体又は抗原結合断片を含む。しかし、本発明のキメラ抗原受容体の細胞外ドメインは、上述したスイッチ分子(具体的には、スイッチ分子のコチニン)を標的化する。
【0075】
本発明の一具現例において、前記i)の抗体又はその抗原結合断片は、抗コチニン抗体又はその抗原結合断片である。
【0076】
本発明の具体的な具現例において、前記抗コチニン抗体又はその抗原結合断片は、配列番号9のHCDR1、配列番号10のHCDR2、配列番号11のHCDR3、配列番号12のLCDR1、配列番号13のLCDR2、配列番号14のLCDR3を含むが、これに限定されない。
【0077】
本発明の一具現例において、前記膜貫通ドメインは、T細胞受容体、CD27、CD28、CD3、エプシロン、CD45、CD4、CD5、CD8(CD8α)、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137及びCD154のアルファ、ベータ又はゼータ鎖からなる群から選ばれるタンパク質の膜貫通ドメインである。
【0078】
本発明の一具現例において、前記細胞内信号伝達ドメインは、刺激分子、補助刺激分子の細胞内信号伝達ドメインであり、前記CARが発現する細胞の活性化を担当する。
【0079】
前記細胞内信号伝達ドメインは、非制限的に、TCR、CD3ゼータ、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3エプシロン、CD86、一般のFcRガンマ、FcRベータ(FcエプシロンR1b)、CD79a、CD79b、FcガンマRIIa、DAP10、DAP12、T細胞受容体(TCR)、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、CD83と特異的に結合するリガンド、CDS、ICAM-1、GITR、BAFFR、HVEM(LIGHTR)、SLAMF7、NKp80(KLRF1)、CD127、CD160、CD19、CD4、CD8アルファ、CD8ベータ、IL2Rベータ、IL2Rガンマ、IL7Rアルファ、ITGA4、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CD11d、ITGAE、CD103、ITGAL、CD11a、LFA-1、ITGAM、CD11b、ITGAX、CD11c、ITGB1、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、TNFR2、TRANCE/RANKL、DNAM1(CD226)、SLAMF4(CD244、2B4)、CD84、CD96、CEACAM1、CRTAM、Ly9(CD229)、CD160(BY55)、PSGL1、CD100(SEMA4D)、CD69、SLAMF6(NTB-A、Ly108)、SLAM(SLAMF1、CD150、IPO-3)、BLAME(SLAMF8)、SELPLG(CD162)、LTBR、LAT、GADS、SLP-76、PAG/Cbp、NKp44、NKp30、NKp46、NKG2D、本明細書に記載の他の共同刺激分子、これらの任意の誘導体、変異体又は断片、同じ機能上の能力を有する共同刺激分子の任意の合成配列、及びこれらの任意の組合せを含む。
【0080】
本発明の具体的な具現例において、前記細胞内信号伝達ドメインは、CD3ゼータ鎖から由来したドメインである。
【0081】
本発明の具体的な具現例において、前記CD3ゼータ鎖から由来した細胞内信号伝達ドメインは、配列番号23の塩基配列によってエンコードされるアミノ酸配列を含むものである。
【0082】
本発明の具体的な具現例において、前記細胞内信号伝達ドメインは、OX40(CD134)、CD2、CD27、CD28、CDS、ICAM-1、LFA-1(CD11a/CD18)及び4-1BB(CD137)からなる群から選ばれる共同刺激分子(costimulatory molecule)をさらに含むものである。前記細胞内信号伝達ドメインは、上述したドメインの他にも、当該分野に公知された別の細胞内信号伝達分子から収得又は由来してもよく、細胞内信号伝達ドメインが由来する分子の全体又はその断片を含むことができる。
【0083】
本発明のキメラ抗原受容体の膜貫通ドメイン及び細胞内信号伝達ドメインは、上述した具体的な膜貫通ドメイン及び細胞内信号伝達ドメインから選ばれる1以上の組合せで含まれてよい。例えば、本発明のキメラ抗原受容体は、CD8ヒンジ及び膜貫通領域、CD137細胞質領域及びCD3ζの細胞内信号伝達ドメインを含むことができる。さらに他の例として、本発明のキメラ抗原受容体は、CD8α膜貫通ドメイン及びCD28及びCD3ζの細胞内信号伝達ドメインを含むことができる。
【0084】
本発明の一具現例において、前記キメラ抗原受容体は、先行配列(leader sequence,LS)を選択的にさらに含む。前記先行配列は、キメラ抗原受容体を構成する組換えポリペプチドのアミノ末端(N-terminal)に位置する。前記先行配列は、キメラ抗原受容体の細胞内プロセス及び細胞膜に局在化(localization)しながら抗原結合ドメインから任意に切断される。
【0085】
本発明の具体的な具現例において、前記先行配列は、配列番号20の塩基配列でエンコードされるアミノ酸配列を含む先行配列である。
【0086】
本発明のキメラ抗原受容体の前記HER2結合ドメインは、ヒンジドメイン(又は、スぺーサ)によって前記膜貫通ドメインに連結される。
【0087】
本発明の他の具現例によれば、前記ヒンジドメインは、IgG1、IgG2、IgG4、又はIgDに由来したヒンジ、CD8又はCD28に由来したヒンジ、CD28に由来した細胞外ドメイン(ECD)又はこれらの組合せである。
【0088】
本発明の具体的な具現例において、前記ヒンジドメイン及び膜貫通ドメインは、配列番号21の塩基配列でエンコードされるアミノ酸配列を含む。
【0089】
本明細書において、用語“抗体(antibody)”は、特定抗原に特異的に結合する抗体であり、完全な抗体の形態の他に、抗体分子の抗原結合断片(antigen binding fragment)も含む。完全な抗体は、2本の全長の軽鎖及び2本の全長の重鎖を有する構造であり、それぞれの軽鎖は重鎖とジスルフィド結合で連結されている。重鎖定常領域は、ガンマ(γ)、ミュー(μ)、アルファ(α)、デルタ(δ)及びエプシロン(ε)のタイプを有し、サブクラスとしてガンマ1(γ1)、ガンマ2(γ2)、ガンマ3(γ3)、ガンマ4(γ4)、アルファ1(α1)及びアルファ2(α2)を有する。軽鎖の定常領域は、カッパ(κ)及びラムダ(λ)のタイプを有する(Cellular and Molecular Immunology,Wonsiewicz,M.J.,Ed.,Chapter 45,pp.41-50,W.B.Saunders Co.Philadelphia,PA(1991);Nisonoff,A.,Introduction to Molecular Immunology,2nd Ed.,Chapter 4,pp.45-65,sinauer Associates,Inc.,Sunderland,MA(1984))。
【0090】
本明細書において、前記抗体は、単一クローン抗体、多クローン抗体、合成抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、単一ドメイン抗体、及び単鎖可変断片からなる群から選ばれる抗体を含む。
【0091】
本明細書において、用語“抗原結合断片(antigen binding fragment)”は、抗原結合機能を保有している断片を意味し、Fab、F(ab’)、F(ab’)2及びFvなどを含む。抗体断片のうち、Fab(fragment antigen binding)は、軽鎖及び重鎖の可変領域、軽鎖の定常領域及び重鎖の最初の定常領域(CH1)を有する構造であり、1個の抗原結合部位を有する。Fab’は、重鎖CH1ドメインのC末端に一つ以上のシステイン残基を含むヒンジ領域(hinge region)を有するという点でFabと異なる。F(ab’)2抗体は、Fab’のヒンジ領域のシステイン残基がジスルフィド結合をなしながら生成される。Fvは、重鎖可変部位及び軽鎖可変部位だけを有する最小の抗体断片であり、Fv断片を生成する組換え技術は、PCT国際公開特許出願WO88/10649、WO88/106630、WO88/07085、WO88/07086及びWO88/09344に開示されている。二重鎖Fv(two-chain Fv)は、非共有結合で重鎖可変部位と軽鎖可変部位とが連結されており、単鎖Fv(single-chain variable fragment,scFv)は一般に、ペプチドリンカーを介して重鎖の可変領域と単鎖の可変領域とが共有結合で連結されたり或いはC末端で直接連結されており、二重鎖Fvと同様にダイマーのような構造を有することができる。このような抗体断片はタンパク質加水分解酵素によって得られたり(例えば、全抗体をパパインで制限切断すればFabが得られ、ペプシンで切断すればF(ab’)2断片が得られる。)、或いは遺伝子組換え技術によって作製可能である。
【0092】
本明細書において、用語“重鎖”は、抗原に特異性を付与するための十分な可変領域配列を有するアミノ酸配列を含む抗体の可変領域ドメインVH及び3個の定常領域ドメインCH1、CH2及びCH3を含む全長重鎖及びその断片を全て意味する。また、本明細書において、用語“軽鎖”は、抗原に特異性を付与するための十分な可変領域配列を有するアミノ酸配列を含む抗体の可変領域ドメインVL及び定常領域ドメインCLを含む全長軽鎖及びその断片を全て意味する。
【0093】
本明細書において、用語“CDR(complementarity determining region)”は、免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の高可変領域(hypervariable region)のアミノ酸配列を意味する(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,4th Ed.,U.S.Department of Health and Human Services,National Institutes of Health(1987))。重鎖(CDRH1、CDRH2及びCDRH3)及び軽鎖(CDRL1、CDRL2及びCDRL3)にはそれぞれ3個のCDRが含まれている。CDRは、抗体が抗原又はエピトープに結合する上で主要な接触残基を提供する。
【0094】
本明細書において、用語“ヒト化抗体”とは、非ヒト(例えば、ネズミ)抗体の非ヒト免疫グロブリンから由来した最小配列を含有するキメラ免疫グロブリン、その免疫グロブリン鎖又は断片(例えば、Fv、Fab、Fab’、F(ab’)2又は抗体の他の抗原結合下位配列)である。大部分の場合、ヒト化した抗体は、受容者の相補性決定領域(CDR)の残基が、目的とする特異性、親和性及び能力を有する非ヒト種(供与者抗体)、例えば、マウス、ラット又はウサギのCDRの残基に置き換えられたヒト免疫グロブリン(受容者抗体)である。一部の場合に、前記ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基は、相応する非ヒト残基に置き換えられる。また、ヒト化した抗体は、受容者抗体からも或いは取り込まれたCDR又はフレームワーク配列からも発見されない残基を含むことができる。このような変形は、抗体性能をさらに改善及び最適化するためになされる。一般に、前記ヒト化された抗体は、少なくとも1つ、及び典型的に2つの実質的に全ての可変ドメインを含むはずであり、前記ドメインにおいて前記CDR領域の全部又は実質的に全部は、非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に相応し、前記FR領域の全部又は実質的に全部は、ヒト免疫グロブリンのFR領域の配列を有する。前記ヒト化した抗体は、免疫グロブリン定常領域(Fc region)の少なくとも一部又は実質的なヒト免疫グロブリンの定常領域(Fc region)配列を含む。
【0095】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、前記キメラ抗原受容体ポリペプチドをエンコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を提供する。
【0096】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、前記キメラ抗原受容体ポリペプチドをエンコードする核酸分子を含む組換えベクターを提供する。
【0097】
本明細書において、用語“ベクター”は、伝達ベクターと発現ベクターを含む。
【0098】
本明細書において、用語“伝達ベクター”は、単離した核酸を含み、単離した核酸を細胞内部に伝達するために利用可能な物質の組成を指す。線形ポリヌクレオチド、イオン性又は両親媒性化合物と連結されたポリヌクレオチド、プラスミド及びウイルスを含むが、これに限定されない。より具体的に、前記伝達ベクターは、自己複製性プラスミド又はウイルスを含む。前記用語は、細胞内への核酸の転移を促進させる非プラスミド及び非ウイルス性化合物、例えば、ポリリシン化合物、リポソームなどをさらに含み得るものと解釈される必要がある。ウイルス性伝達ベクターは、アデノウイルスベクター、アデノ連関ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターを含むが、これに限定されるものではない。
【0099】
本発明の一具現例において、前記ベクターはレンチウイルスベクターである。本発明の具体的な一具現例において、前記ベクターはプロモーターをさらに含む。前記プロモーターは、例えば、EF-1alphaプロモーターであり得るが、これに限定されない。
【0100】
本発明の具体的な具現例において、前記EF-1alphaプロモーターは、配列番号19の塩基配列を含む。
【0101】
本発明の他の具現例において、前記ベクターは、レトロウイルスベクターでよい。レトロウイルスは、遺伝子伝達システムのための便利なプラットホームを提供する。遺伝子伝達のために選択された遺伝子は、レトロウイルスベクター内に挿入され、レトロウイルス粒子内にパッケージングされてよい。次いで、組み換えられたレトロウイルスは、インビボ又はインビトロで目的とする宿主細胞に伝達されてよい。多くのレトロウイルスベクターが関連技術分野に知られている。
【0102】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、前記キメラ抗原受容体を発現させる効果器細胞(effector cell)を提供する。前記キメラ抗原受容体は、上述したスイッチ分子を標的化する。
【0103】
本発明の一具現例によれば、前記効果器細胞は、樹状細胞、キラー樹状細胞、肥満細胞、自然殺害細胞、Bリンパ球、Tリンパ球、大食細胞及びこれらの前駆細胞からなる群から選ばれる。
【0104】
本発明の具体的な具現例によれば、前記Tリンパ球は、炎症性Tリンパ球、細胞毒性Tリンパ球、調節Tリンパ球又はヘルパーTリンパ球からなる群から選ばれてよい。
【0105】
本発明において、前記効果器細胞は、自己細胞又は同種異型細胞の集団を含む。すなわち、前記効果器細胞は、本発明のキメラ抗原受容体を発現させる自己細胞又は同種異型細胞の集団を含む。
【0106】
本明細書において、用語“自己”とは、個体に再導入される予定である、同じ個体から由来した任意の物質のことを指す。本明細書において、用語“同種”とは、物質が導入される個体と同じ種の異なる動物から由来した任意の物質のことを指す。
【0107】
また、本発明の一具現例によれば、前記効果器細胞は、本発明のキメラ抗原受容体をエンコードする核酸分子を含むベクターで形質感染又は形質導入された細胞の集団を含む。前記形質感染又は形質導入は、上述したように、当業界に知られた様々な手段によって制限なく行われてよい。
【0108】
したがって、本発明の具体的な具現例によれば、本発明の効果器細胞、例えば、Tリンパ球、又は自然殺害細胞に伝達され、本発明のキメラ抗原受容体をエンコードする核酸分子はmRNAに転写され、前記mRNAからキメラ抗原受容体が翻訳されて効果器細胞の表面に発現する。
【0109】
本発明の実施例から立証される通り、本発明のコチニンと結合した抗HER2アフィボディを含むスイッチ分子及び前記スイッチ分子のコチニンを標的化するキメラ抗原受容体を発現させる効果器細胞は、表面にHER2を発現させる癌細胞株であるSKOV3(卵巣癌細胞株)を効果的に死滅させる。したがって、本発明の抗HER2スイッチ分子及び前記スイッチ分子を標的化するキメラ抗原受容体を発現させる効果器細胞は、HER2を発現させる癌腫に対する治療用薬剤学的組成物の有効成分として有用に用いることができる。
【0110】
本発明の薬剤学的組成物は、上述したCAR発現効果器細胞、例えば、複数のCAR発現効果器細胞を一つ以上の製薬的又は生理学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤と組み合わせて含むことができる。前記薬剤学的組成物は、緩衝剤、例えば、中性緩衝塩水、ホスフェート緩衝塩水など;炭水化物、例えば、グルコース、マンノース、スクロース又はデキストラン、マンニトール;タンパク質;ポリペプチド又はアミノ酸、例えば、グリシン;抗酸化剤;キレーティング剤、例えば、EDTA又はグルタチオン;アジュバント(例えば、水酸化アルミニウム);及び防腐剤を含むことができる。本発明の一具現例において、前記薬剤学的組成物は静脈内投与のために製剤化される。
【0111】
本発明の薬剤学的組成物は、経口又は非経口で投与でき、例えば、静脈内投与、皮下投与、血内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、腫瘍内投与、脳内投与、頭蓋骨内投与、肺内投与及び直腸内投与などで投与できるが、これに限定されるものではない。
【0112】
本発明の効果器細胞を含む薬剤学的組成物は、皮膚内又は皮下注射によって患者に投与される。一具現例において、本発明の薬剤学的組成物は、静脈内注射によって投与される。他の具現例において、本発明の薬剤学的組成物は、腫瘍、リンパ節、又は感染部位内に直接投与されてもよい。
【0113】
本発明を必要とする対象体は、高容量化学療法を用いた標準治療を受けることができる。本発明の一具現例において、本発明を必要とする対象体には、化学療法後に又は化学療法と同時に、本発明の増殖されたCAR-T細胞が投与されてよい。他の具現例において、増殖されたCAR-T細胞は、手術前又は手術後に投与される。
【0114】
本発明の薬剤学的組成物の“免疫学的有効量”、“抗腫瘍有効量”、“腫瘍抑制有効量”、又は“治療量”に適合した投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、病態、食べ物、投与時間、投与経路、排泄速度及び反応感応性のような要因によって決定され、熟練した通常の医者は所望の治療又は予防に効果的な投与量を容易に決定及び処方でき、適切な投与量は臨床試験によって決定されるだろう。本明細書において用語“治療”は、疾患状態の減少、抑制、鎮静又は根絶を意味する。本明細書において用語“抗腫瘍”は、腫瘍体積の減少、腫瘍細胞数の減少、転移数の減少、期待寿命の増加、腫瘍細胞増殖の減少、腫瘍細胞生存の減少、又は癌的病態と関連した様々な生理学的症状の改善を含むが、これに制限されない。
【0115】
本願に記載されたT細胞を含む薬剤学的組成物は、通常、104~109細胞/kg体重、いくつかの場合に105~106細胞/kg体重(前記範囲内の全ての整数値を含む。)の投与量で投与できるといえよう。T細胞組成物は、また、これらの投与量で多回投与されてもよい。細胞は、免疫療法において通常知られた注入技術を用いて投与できる(例えば、[Rosenberg et al.,New Eng.J.of Med.319:1676,1988]参照)。
【0116】
本発明の薬剤学的組成物は、また、上述した有効成分に加えて、他の薬剤学的活性薬剤及び療法と組み合わせて用いられてもよい。前記“組合せ”は、同時又は併用投与と表現されてもよい。本願に記載のCAR発現効果器細胞及び少なくとも一つの追加の治療剤は同時に、同一の組成物内に又は別個の組成物内に、又は順次に投与されてよい。順次投与のために、本願に記載のCAR発現効果器細胞が最初に投与され、追加の作用剤はその次に投与されてもよく、その逆の順序で投与されてもよい。
【0117】
上記本発明の薬剤学的組成物と組み合わせて使用可能な治療剤には、当業界に公知の1以上の化学治療剤(例えば、アスパラギナーゼ、ブスルファン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、メトトレキサート、パクリタキセル、リツキシマブ、ビンブラスチン、ビンクリスチンなど)、1以上の標的治療剤(例えば、ベバシズマブ(bevacizumab)、オラパリブ(olaparib)など)、PD-1/PD-L1特異的な免疫関門抑制剤(例えば、オプジーボ、キイトルーダ)があるが、これに限定されるものではない。
【0118】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、前記のキメラ抗原受容体を発現させる効果器細胞;及び、前記キメラ抗原受容体と結合するスイッチ分子を、治療が必要な対象体に投与する段階を含む、HER2発現に関連した疾患の治療方法を提供する。
【0119】
CAR-Tを用いた腫瘍又は癌と関連した疾患の治療途中に、癌細胞の細胞表面分子に突然変異が起こる場合(例えば、HER2抗原の変異)には、既存のCARが突然変異の発生した癌細胞を認識できず、治療効果が減少したり或いは治療が不可能である。この場合、突然変異の発生した細胞の表面分子を標的化する新規なスイッチ分子を対象体にさらに投与すれば、先に投与されたスイッチ分子に代えて持続した癌の治療効果が期待できよう。
【0120】
また、本発明の他の態様によれば、本発明は、(a)上述したキメラ抗原受容体を発現させる効果器細胞(CAR-effector cell)及び前記キメラ抗原受容体と結合する本発明のスイッチ分子を、治療が必要な対象体に投与する段階;及び、(b)対象体に先に投与されたスイッチ分子と異なる標的細胞の細胞表面分子と結合する1つ以上のスイッチ分子(例えば、cotinine-conjugated anti-EGFR)、又は標的化モイエティがないスイッチ分子(例えば、cotinine only)を対象体にさらに投与する段階を含む、対象体内CAR-効果器細胞の活性を抑制する方法を提供する。
【0121】
CAR-Tを用いた腫瘍又は癌と関連した疾病又は状態の治療途中に、CAR-T細胞の活性化が過度になる場合、腫瘍溶解症候群(tumor lysis syndrome,TLS)、サイトカイン放出症候群(cytokine release syndrome,CRS)などの合併症が発生することがあり、これは患者に致命的である。本発明のスイッチ分子を用いるCAR-効果器細胞治療システムを用いれば、CARを発現させる効果器細胞が癌細胞の細胞表面分子を直接に認識せず、CARが標的化するスイッチ分子を介して間接に認識する。したがって、対象体に先に投与されたスイッチ分子と異なる標的細胞の細胞表面分子と結合する1つ以上のスイッチ分子、又は標的化モイエティがないキメラ抗原受容体に結合するスイッチ分子を対象体にさらに投与すれば、CARがそれ以上既存の癌細胞を標的化できず、これによってCAR-T細胞の過度な活性を抑制することができる。
【発明の効果】
【0122】
本発明は、抗HER2アフィボディ及びコチニンが結合した抗HER2アフィボディを含むスイッチ分子を提供する。本発明の抗HER2アフィボディは、コチニンが結合したとき、Cot-sCARTと共に処理される場合にHER2を発現させる陽性細胞株に反応して免疫細胞活性を誘導するので、sCART治療剤のスイッチ分子として有用に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【
図1】HER2に特異的に結合するアフィボディをペリプラズム抽出物(periplasmic extract)の形態で確認した図である。
【
図2A】3種のHER2発現細胞を対象にHER2に結合するアフィボディの細胞結合能力を確認し、MFI値をグラフ化した図である(A.NCI-N87、B.SK-OV-3、C.MDA-MB-231)。
【
図2B】3種のHER2発現細胞を対象にHER2に結合するアフィボディの細胞結合能力を確認し、MFI値をグラフ化した図である(A.NCI-N87、B.SK-OV-3、C.MDA-MB-231)。
【
図2C】3種のHER2発現細胞を対象にHER2に結合するアフィボディの細胞結合能力を確認し、MFI値をグラフ化した図である(A.NCI-N87、B.SK-OV-3、C.MDA-MB-231)。
【
図3】HER2に結合する5種のアフィボディをFc結合形態で生産し、HER2タンパク質の結合程度を定量的に比較確認した図である。
【
図4A】HER2に結合する5種のアフィボディをFc結合形態で生産し、HER2発現細胞4種の細胞に対する結合程度を定量的に分析した図である(A.NCI-N87、B.SK-OV-3、C.MDA-MB-453、D.MDA-MB-231)。
【
図4B】HER2に結合する5種のアフィボディをFc結合形態で生産し、HER2発現細胞4種の細胞に対する結合程度を定量的に分析した図である(A.NCI-N87、B.SK-OV-3、C.MDA-MB-453、D.MDA-MB-231)。
【
図4C】HER2に結合する5種のアフィボディをFc結合形態で生産し、HER2発現細胞4種の細胞に対する結合程度を定量的に分析した図である(A.NCI-N87、B.SK-OV-3、C.MDA-MB-453、D.MDA-MB-231)。
【
図4D】HER2に結合する5種のアフィボディをFc結合形態で生産し、HER2発現細胞4種の細胞に対する結合程度を定量的に分析した図である(A.NCI-N87、B.SK-OV-3、C.MDA-MB-453、D.MDA-MB-231)。
【
図5】コチニンが結合したアフィボディ5種のHER2タンパク質結合程度を定量的に確認した図である。
【
図6】HER2陽性細胞であるSK-OV-3とHER2陰性細胞であるRaji細胞に対してコチニンが結合したアフィボディと抗コチニン抗体を用いたキメラ抗原受容体T細胞(Cot-sCART)の細胞毒性効果を測定した図である。
【
図7A】免疫欠乏マウス(NSG)にSKOV3-Luc細胞株で疾患モデルを形成した後、当該モデルに対するコチニンが結合したアフィボディとCot-sCARTの効能を測定した図である(A.発光(Luminescence)測定イメージ、B.発光信号(Luminescence signal)定量資料)。
【
図7B】免疫欠乏マウス(NSG)にSKOV3-Luc細胞株で疾患モデルを形成した後、当該モデルに対するコチニンが結合したアフィボディとCot-sCARTの効能を測定した図である(A.発光(Luminescence)測定イメージ、B.発光信号(Luminescence signal)定量資料)。
【
図8A】SKOV3-Luc細胞株で形成された疾患モデルに対するコチニンが結合したアフィボディとCot-sCARTの効能評価において、コチニンが結合したアフィボディの濃度による効能を確認した図である(A.発光測定イメージ、B.発光信号定量資料)。
【
図8B】SKOV3-Luc細胞株で形成された疾患モデルに対するコチニンが結合したアフィボディとCot-sCARTの効能評価において、コチニンが結合したアフィボディの濃度による効能を確認した図である(A.発光測定イメージ、B.発光信号定量資料)。
【
図9A】親和性が向上したクローンをFc結合形態で生産し、HER2タンパク質の結合程度を定量的に比較確認した図である。
【
図9B】親和性が向上したクローンをFc結合形態で生産し、HER2タンパク質の結合程度を定量的に比較確認した図である。
【
図10】コチニンが結合した最適化されたアフィボディのHER2タンパク質結合程度を定量的に確認した図である。
【
図11】コチニンが結合した最適化されたアフィボディのHER2発現細胞であるSK-OV-3に対する結合能を測定した図である。
【
図12】HER2陽性細胞であるSK-OV-3に対してコチニンが結合した最適化されたアフィボディとCot-sCARTの細胞毒性効果を測定した図である。
【発明を実施するための形態】
【0124】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の要旨によって本発明の範囲がこれらの実施例に制限されないということは、当業界における通常の知識を有する者にとって明らかであろう。
【0125】
実施例
本明細書全体を通じて、特定物質の濃度を示すために使われる“%”は、別に断りのない限り、固体/固体は(重量/重量)%、固体/液体は(重量/体積)%、そして液体/液体は(体積/体積)%である。
【0126】
実施例1.HER2に対するアフィボディ(Affibody)開発
実施例1-1.パンニングを用いたアフィボディの選別
HER2-ECD-Fcタンパク質を使用し、アフィボディライブラリーからパンニングを用いて、HER2に特異的に結合するクローンを選別した。また、HER2を発現させる細胞に結合するクローンを確認して5種のアフィボディを選別した。
【0127】
アフィボディライブラリーは、VSCM13ヘルパーファージを用いてファージ形態に レスキュー(rescue)してパンニングに使用した。初めて抗原に結合させるライブラリーファージの数は1013個以上を使用し、4回のパンニングラウンドを経て進行した。親和性(Affinity)の高いファージを選択的に選別する戦略により、パンニングラウンドが増えるにつれて抗原量は減らし(10μg、5μg、2μg、1μg)、洗浄回数は伸ばす(3回、5回、7回、10回)方法を適用した。
【0128】
パンニングの各ラウンドで得たバインダーファージは、ER2537に感染(infection)させて得たコロニーをELISA方法で抗原に対する結合の有無を確認した。バインダーファージを感染させて得たコロニーをSB培地(MOPS 10g/L、バクト酵母エキス20g/L、トリプトン30g/L)に接種した後、OD600で0.8になるまで培養した後、1mM IPTG(エルピーエスソリューション、IPTG025)を入れて30℃で振盪培養してアフィボディを過発現させた。BBSバッファー(200mMホウ酸、150mM NaCl、1mM EDTA)を用いてペリプラズム抽出を行い、これを用いてELISA方法でバインダーをスクリーニングした。ELISAは、2μg/mLの濃度でHER1-ECD-Fc、HER2-ECD-Fc、HER3-ECD-Fc、HER4-ECD-Fcタンパク質がコートされたプレートにアフィボディペリプラズム抽出物を処理し、2次抗体(anti-HA-HRP(Roche,12013819001))を処理した後、TMB(biofx,TMBC-1000-01)で発色反応を発生させ、ELISAリーダ器(Perkinelmer,Victor3)を用いてOD
450値を測定した(
図1)。ELISAの結果、HER2タンパク質に特異的に結合するアフィボディを確認し、配列(sequence)を確認した結果、23種のユニーククローン(unique clone)を確認した。
【0129】
ユニーククローンのペリプラズム抽出物を用いて、HER2発現細胞3種-NCI-N87(ATCC,CRL-5822)、SK-OV-3(韓国細胞株銀行、30077)、MDA-MB-231(韓国細胞株銀行、30026)を用いて細胞バインダーを確認した。3種のHER2発現細胞を5×10
5cells/tubeで準備した後、1200rpmで3分遠心分離して細胞を集め、5% FBS含有PBSで洗浄した後、アフィボディが含まれたペリプラズム抽出物を200uL処理し、4℃で1時間培養した。200uLの5% FBS含有PBSを用いて1200rpmで3分間遠心分離する方法で細胞を3回洗浄した。その後、anti-HA-FITC(Life Technologies,A11013)を1μg/mLで細胞に処理し、光を遮断したまま4℃で45分間培養した。200uLの5% FBS含有PBSを用いて1200rpmで3分間遠心分離する方法で細胞を3回洗浄した後、FACS機器(Beckmann coulter,FC500)を用いて蛍光の強度を測定した(
図2A~
図2C)。ELISA及び細胞結合テストにより、結合能に優れた5種のアフィボディ(ZQAA1、7、8、11、22)を選別した(表1)。
【0130】
【0131】
実施例1-2.選別されたアフィボディの結合能確認
選別された5種のアフィボディをFc結合形態(Zb-Fc)でクローニングし、HER2タンパク質の結合とHER2発現細胞の結合程度を確認した。ELISAは、2μg/mLの濃度でhHER2-ECD-Hisタンパク質がコートされたプレートに、精製されたZb-Fc 5種を60nMから始めて1/5希釈(dilution)して7ポイントで処理し、2次抗体(anti-hIgG-Fc-HRP(Invitrogen,H10007))を処理した後にTMBで発色反応を発生させ、ELISAリーダ器を用いてOD
450値を測定し、グラフプリズム(Graph prism)を用いてEC
50値を求めた(
図3、表2)。
【0132】
【0133】
アフィボディのHER2発現細胞において結合程度を確認するために、HER2発現が高い順にNCI-N87、SK-OV-3、MDA-MB-453(韓国細胞株銀行、30131)、MDA-MB-231 4種の細胞を5×10
5cells/tubeで準備した後、1200rpmで3分遠心分離して細胞を集め、5% FBS含有PBSで洗浄した後、Zb-Fc 5種を60nMから始めて1/5希釈して7ポイントで処理し、4℃で1時間培養した。200μLの5% FBS含有PBSを用いて1200rpmで3分間遠心分離する方法で細胞を3回洗浄した。その後、anti-human-Fc-FITC(Life Technologies,A11013)を1μg/mLで細胞に処理し、光を遮断したまま4℃で45分間培養した。200μLの5% FBS含有PBSを用いて1200rpmで3分間遠心分離する方法で細胞を3回洗浄した後、FACS機器を用いて蛍光の強度を測定した。測定されたMFI値をグラフプリズムを用いてEC
50値を求めた(
図4A~
図4D、表3)。
【0134】
【0135】
実施例2.コチニンが結合したアフィボディ開発及びその活性確認
実施例2-1.コチニンが結合したアフィボディの製造
本発明の抗HER2アフィボディを抗スウィチャブルCARシステムのスイッチ分子として使用するために、コチニンが結合したアフィボディ-コチニン複合体(Switch molecule、スイッチ分子)を合成した(表4)。
【0136】
【0137】
実施例2-2.コチニンが結合したアフィボディのHER2結合能確認
本発明者らは、前記実施例2-1で作製したコチニンが結合したアフィボディ5種のHER2タンパク質に対する結合の有無を確認した。まず、HER2-ECD-Hisタンパク質を抗原として用いたELISAを行った。HER2-ECD-Hisタンパク質がコートされたプレートに、コチニンが結合したアフィボディを2μg/mL処理した。2次抗体(Anti-Cotinine IgG)を、HER-ECD-Hisタンパク質とコチニンが結合したアフィボディの複合体に処理した後、3次抗体(anti-hIgG-Fc-HRP(Invitrogen,H10007))に結合した2次抗体を標識した。標識された複合体の定量は、TMBで発色反応を発生させてELISAリーダ器(PerkinElmer,Victor3)を用いてOD
450値を測定した(
図5)。
【0138】
実施例2-3.抗コチニン抗体断片が連結されたキメラ抗原受容体を含むレンチウイルスの作製
抗コチニン抗体断片を用いてキメラ抗原受容体を開発した。キメラ抗原受容体は、CD8リーダ、scFv形態の抗コチニン、CD8ヒンジ及び膜貫通領域、CD137細胞質領域、及びCD3ゼータの細胞質領域をコドン最適化した後、pLenti6-V5/DESTレンチウイルスベクター(Invitrogen,V53306)にSpeI/XhoIで切断及び結紮させた。製造されたコンストラクトは塩基配列分析によって確認した。前記抗コチニン抗体及びその抗原結合断片のアミノ酸及び塩基配列は、配列番号9~18に示した。
【0139】
製造されたレンチウイルスコンストラクトを、ウイルス外皮タンパク質であるVSV-G(vesicular stomatitis indiana virus G protein)をコードする核酸と、gag、pol及びrev遺伝子を含むプラスミドであるpCMV-dR8.91と共に、Lenti-X293T(Takara Bio Inc.,632180)細胞株に形質導入させた。形質導入は、リポフェクタミン2000(Invitrogen,11668019)を使用してメーカーのプロトコル通りに行った。72時間後、レンチウイルス含有培養液を遠心分離型フィルター装置(Millipore,UFC910024)を用いて10倍濃縮して保管した。
【0140】
実施例2-4.抗コチニン抗体断片を含むキメラ抗原受容体が表面に提示された細胞毒性T細胞(Cot-sCART)の製造
実施例2-3で製造されたレンチウイルスを用いて、抗コチニン抗体断片を含むキメラ抗原受容体が表面に提示された細胞毒性T細胞を製造した。
【0141】
まず、ヒトのナイーブT細胞を分離してDynabeadsTM Human T-Activator CD3/CD28(Thermofisher scientific,11131D)で24時間刺激し、ポリブレン(Sigma-Aldrich,H9268)及び前記レンチウイルスを前記細胞に添加して24時間培養しながら形質導入させた。その後、IL-2(Gibco,CTP0021)が含まれた培地に入れ換えて5% CO2、37℃の条件で培養した。製造された抗コチニン抗体断片を含むキメラ抗原受容体が表面に提示されたT細胞(Anti-Cotinine CAR-T cell,Cot-sCART)は、製造後24時間以内に次の実験に使用した。
【0142】
実施例2-5.コチニンが結合したアフィボディとCot-sCARTを用いた細胞毒性効果確認
実施例2-4で製造したCot-sCARTとコチニンが結合したアフィボディを用いて、前記T細胞とコチニンが結合したアフィボディ複合体が細胞表面のHER2を認識することによって、キメラ抗原受容体細胞の活性化を誘導するか否かを確認した。
【0143】
具体的に、HER2陽性細胞株であるSKOV-3とHER2陰性細胞株であるRajiに、GFP-ルシフェラーゼが発現するレンチウイルス(Biosettia,GlowCell-16p-1)を導入して、遺伝子導入細胞株であるSKOV3-Luc及びRaji-Luc細胞株を構築して実験に使用した。まず、SKOV3-Luc細胞株及びRaji-Luc細胞株を96ウェルプレートにウェル当たり1×10
4個となるように分注した。Luc細胞株が分注されたプレートに、ウェル当たり処理比率に合わせて製造した細胞毒性T細胞を添加した。Luc細胞株と細胞毒性T細胞が処理された試験群に、コチニンが結合したアフィボディを濃度に合わせて添加(0.1、1、10nM)し、5% CO
2及び37℃の条件で24時間培養した。培養後、細胞毒性T細胞の毒性効果をルシフェラーゼ測定(Bio-Gloルシフェラーゼ分析システム、Promega,G7941)によって確認した。細胞毒性効果は、細胞毒性T細胞、コチニンと結合したアフィボディとLuc細胞株の培養後、残っているSKOV3-Luc或いはRaJi-Luc細胞株を3X溶解バッファー(Lysis buffer)(75mMトリス(pH 8.0)、30%グリコール、3%トリトンX100)で破砕して溶出するルシフェラーゼを基質と反応させて確認した。Luc細胞株だけを培養したウェルから出るシグナルを100%にして溶解(lysis)比率を決定した。
図6に示すように、処理されたコチニンが結合したアフィボディの濃度にしたがって細胞毒性効果が現れることが確認でき、3種(Cot-ZQAA1-Cot、Cot-ZQAA8-Cot、Cot-ZQAA11-Cot)のコチニンが結合したアフィボディの細胞毒性が相対的に優れていることを確認した。
【0144】
実施例2-6.コチニンが結合したアフィボディとCot-sCARTを用いた疾患動物モデル効能評価
実施例2-4で製造したCot-sCARTとコチニンが結合したアフィボディを用いて、前記T細胞とコチニンが結合したアフィボディ複合体を用いたキメラ抗原受容体細胞の活性を疾患動物モデルから確認した。
【0145】
具体的に、実施例2-5で構築したHER2陽性細胞株であるSKOV3-Luc細胞株を、免疫欠乏しているNSGマウス(The Jackson Laboratory,005557)に腹腔投与した。投与後5日目にルシフェリン(Promega,P1043)を腹腔注射し、発光測定機器(Perkin Elmer,IVIS100)を用いて、腹部に形成されたSKOV3-Luc細胞株を測定し、無作為にグループを分けた。7日目にCot-sCART(2.0E+6CARTセル)を腹腔投与した後、2日間隔で、コチニンが結合したアフィボディ(Cot-zHER2;0.25mg/kg)を腹腔投与した。コチニンが結合したアフィボディを腹腔投与後にSKOV3-Luc細胞の変化を発光測定機器で測定した。
図7A及び
図7Bから確認できるように、Cot-sCARTにコチニンが結合したアフィボディが投与されたNSGマウスのみから、SKOV3-Luc細胞が減少することが確認できた。
【0146】
コチニンが結合したアフィボディの濃度によるキメラ抗原受容体細胞の活性変化も疾患動物モデルから確認した。前記実験と同一に腹腔投与によって腹部にSKOV3-Luc細胞株が位置しているNSGマウスにCot-sCARTを腹腔投与した。Cot-sCARTを腹腔投与したNSGマウスに、コチニンが結合したアフィボディを25μg/kg、2.5μg/kgに分けて処理した。処理した結果、
図8A及び
図8Bから確認できるように、濃度にしたがって、コチニンが結合したアフィボディが多く投与されたNSGマウスでSKOV3-Luc細胞がより速く減少することが確認できた。
【0147】
実施例3.ZQAA1とZQAA8に対する親和性成熟(affinity maturation)
実施例3-1.パンニングを用いた親和性が向上したアフィボディの選別
アフィボディZQAA1とZQAA8の親和性成熟サブライブラリー(affinity maturation sub library)を作製し、HER2に対する親和性が向上するアフィボディを選別した。
【0148】
アフィボディは、3個のhelixを有する構造であるが、そのうち、Helix1とHelix2はターゲットの結合に関与しており、総13個のアミノ酸の変異(variation)を有している。ZQAA1とZQAA8に基づいて、各Helix1の7個アミノ酸に無作為変異を与えるサブライブラリーとHelix2の6個アミノ酸に無作為変異を与えるサブライブラリーを作製した。各サブライブラリーは、VSCM13ヘルパーファージを用いてファージ形態にレスキューしてパンニングに使用した。最初に抗原に結合させるライブラリーファージの数は1013個以上とした。Dynabeads M-280ストレプトアビジン(Invitrogen,11205D)を用いてbiotin-HER2-ECD-Fcを結合させ、レスキューしたファージを結合する方式で5ラウンドのパンニングを経て行った。親和性の高いファージを選択的に選別する戦略として、パンニングラウンドが増加するにつれて抗原量は減らし(100nm、10nM、1nM、0.1nM、0.01nM)、洗浄回数(10回、15回、20回、25回、30回)は増やす方法を用いた。パンニングの各ラウンドで得たバインダーファージをER2537に感染させて得たコロニーに対してELISA方法で抗原への結合の有無を確認し、配列(sequence)分析の結果、ZQAA1のhelix1サブライブラリーは10種、ZQAA1のhelix2サブライブラリーは23種、ZQAA8のhelix1サブライブラリーは0種、ZQAA8のhelix2サブライブラリーは35種のユニーククローンを確認した。
【0149】
ユニーククローンのペリプラズム抽出物を用いて、拡張された洗浄(extended wash)方法と、発現対比結合の程度を比較する方法の2つの方法を行って親クローン(parental clone)と対比して選択した。バインダーファージを感染させて得たコロニーを、SB培地(MOPS 10g/L、バクト酵母エキス20g/L、トリプトン30g/L)に接種した後、OD600で0.8になるまで培養した後、1mM IPTG(エルピーエスソリューション、IPTG025)を入れて30℃で振盪培養し、アフィボディを過発現させた。BBSバッファー(200mMホウ酸、150mM NaCl、1mM EDTA)を用いてアフィボディのペリプラズム抽出を行った。
【0150】
拡張された洗浄方法は、2μg/mLの濃度でHER2-ECD-Fcタンパク質がコートされたプレートにアフィボディペリプラズム抽出物を処理し、2次抗体(anti-HA-HRP(Roche,12013819001))を処理した後にTMB(biofx,TMBC-1000-01)で発色反応を発生させ、ELISAリーダ器(Perkinelmer,Victor3)を用いてOD450値を測定した。これと同時に、HER2-ECD-Fcタンパク質がコートされたプレートにアフィボディペリプラズム抽出物を処理した後、洗浄バッファー(0.05% tween in PBS)で2時間放置した後、2次抗体(anti-HA-HRP(Roche,12013819001))を処理しTMB(biofx,TMBC-1000-01)で発色反応を発生させ、ELISAリーダ器(Perkinelmer,Victor3)を用いてOD450値を測定した。洗浄バッファーに放置しなかったプレートのO.D値対比洗浄バッファーに放置したプレートのO.D値を、親クローンと比較して、向上したクローンを選定する作業を行った。
【0151】
発現対比結合の程度を比較する方法は、2μg/mLの濃度でHER2-ECD-Fcタンパク質がコートされたプレートに、アフィボディペリプラズム抽出物を原液から階段希釈(serial dilution)して処理し、2次抗体(anti-HA-HRP(Roche,12013819001))を処理した後にTMB(biofx,TMBC-1000-01)で発色反応を発生させ、ELISAリーダ器(Perkinelmer,Victor3)を用いてOD450値を測定した。同時に、NCメンブレンにペリプラズム抽出物を原液から階段希釈してドッティング(dotting)を行った。メンブレンに抽出物が吸着して乾燥したことを確認した後、NCメンブレンを5% BSA in TBSTが入っているボトルで1時間培養した。その後、anti-HA-HRP(Roche,12013819001)を処理した後、EDC溶液(AbClon,Abc-3001)で発色反応を発生させ、イメージングシステム(Bio-rad,CemiDoc touch)を用いて発現程度を確認した。発現程度が見られない希釈濃度でELISA OD450値を親クローンと比較し、優れたクローンを選定した。ZQAA1ベースでは5クローン、ZQAA8ベースでは1クローンを選択し、Zb-Fc形態でクローニングを行った。
【0152】
動物細胞で生産されたZb-Fcを用いて各HER2タンパク質の結合をELISA法とBLI法でKD測定によって親クローンと比較確認した。ELISAは、2μg/mLの濃度でhHER2-ECD-hisタンパク質がコートされたプレートに、精製されたZb-Fcを60nMから始めて1/5希釈して7ポイントで処理し、2次抗体(anti-hIgG-Fc-HRP(Invitrogen,H10007))を処理した後にTMB(biofx,TMBC-1000-01)で発色反応を発生させ、ELISAリーダ器(Perkinelmer,Victor3)を用いてOD
450値を測定した(
図9A及び
図9B)。
【0153】
ELISA法によって選別された一部のクローンに対してBLI法を用いてKD値を測定した。AR2Gセンサーチップ(PALL,18-5092)にZb-Fcタンパク質を2~5μg/mLの各クローンに合う濃度でEDC/NHSを用いたアミンカップリング方法で固定させた。Zb-Fcが固定されたセンサーチップに、hHER2-ECD-hisタンパク質を、800nMから12.5nMまでの範囲における各クローンに合う濃度で10分間結合させ、15分間解離させる方法でKD値を測定した。測定の結果、親クローン対比約11倍以上のKD値を有するクローンを確保した(表5)。測定された結果値に基づき、最適化されたHER2に対するアフィボディとしてZQAA1234、ZQAA1239、ZQAA8293を選別した。
【0154】
【0155】
実施例4.最適化されたHER2に対するアフィボディを用いたスイッチ生産及び活性分析
実施例4-1.コチニンが結合したアフィボディの製造
本発明によって最適化された抗HER2アフィボディを抗スウィチャブルCARシステムのスイッチ分子として使用するために、コチニン結合によるアフィボディ-コチニン複合体(Switch molecule、スイッチ分子)を合成した(表6)。
【0156】
【0157】
実施例4-2.コチニンが結合した最適化されたアフィボディのHER2結合能確認
本発明者らは、前記実施例4-1で作製したコチニンが結合した最適化されたアフィボディ3種のHER2.ECD結合の有無を確認した。実施例2-2で用いられた方法と同様に、コチニンが結合した最適化されたアフィボディに対するHER2.ECDの結合能力をELISA分析法で確認した(
図10)。
【0158】
また、HER2陽性細胞株であるSKOV-3細胞株に対する結合能を確認した。実施例2-3と同じ方法でコチニンが結合した最適化されたアフィボディを標識し、細胞株に結合した抗体断片に対する分析を流細胞分析機で測定した(
図11)。
【0159】
図10及び
図11に示すように、本発明のコチニンが結合した最適化されたアフィボディ3種(Cot-ZQAA1234、Cot-ZQAA1239、Cot-ZQAA8293)の結合能が測定できた。
【0160】
実施例4-3.コチニンが結合した最適化されたアフィボディとCot-sCARTを用いた細胞毒性効果確認
実施例2-4で製造したCot-sCARTとコチニンが結合した最適化されたアフィボディを用いて、前記T細胞とコチニンが結合したアフィボディ複合体が細胞表面のHER2を認識することによって、キメラ抗原受容体細胞の活性化を誘導するか否かを確認した。実施例2-5と同一の方法でSKOV3-Luc及びRaji-Luc細胞株、コチニンが結合した最適化されたアフィボディとCot-sCARTを培養後、細胞毒性T細胞の毒性効果をルシフェラーゼ測定(Bio-Gloルシフェラーゼ分析システム、Promega,G7941)によって確認した。
図12に示すように、処理されたコチニンが結合した最適化されたアフィボディの濃度にしたがって細胞毒性効果が現れることが確認できた。3種(Cot-ZQAA1234、Cot-ZQAA1239、Cot-ZQAA8293)のコチニンが結合した最適化されたアフィボディのうち、Cot-ZQAA1234、Cot-ZQAA1239の細胞毒性活性が相対的に優れることを確認した。
【配列表】