(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】凍結保存方法及び装置
(51)【国際特許分類】
A01N 1/02 20060101AFI20230306BHJP
F25D 13/00 20060101ALN20230306BHJP
【FI】
A01N1/02
F25D13/00 A
(21)【出願番号】P 2020520621
(86)(22)【出願日】2018-10-12
(86)【国際出願番号】 EP2018077916
(87)【国際公開番号】W WO2019073051
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-09-13
(32)【優先日】2017-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】517322156
【氏名又は名称】アシンプトート リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ASYMPTOTE LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【氏名又は名称】崔 允辰
(74)【代理人】
【識別番号】100207158
【氏名又は名称】田中 研二
(72)【発明者】
【氏名】ピーター・キルブライド
(72)【発明者】
【氏名】ジョージ・ジョン・モリス
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/143346(WO,A1)
【文献】Martin K.,Freeze-drying using vacuum-induced surface freezing,J. of Pharmaceutical Sciences,2002年,91,433-443
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
F25D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凍結保存媒体において生体物質を備える初期液体サンプルの凍結保存のための方法であって、前記方法が、サンプルの上面を冷却して、サンプルの上面で氷層を選択的に形成するステップを備える、方法。
【請求項2】
サンプルを冷却して、そこで生体物質が実質的に位置する又は濃縮されるサンプルの底部に向かって下向きに漸進的に上面で前記氷層からの氷の形成を提供するさらなるステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
サンプルの上面に適用された冷却は、氷層の下のサンプルの層がガラスとして固化して
、ガラス転移温度以下の冷却の結果として、ガラス化した、又はアモルファス固体の、層を形成するまで、続けられる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
氷層の温度よりも5°C未満上の温
度へ氷層の下のサンプルの層を冷却するステップをさらに備える、請求項1、2又は3に記載の方法。
【請求項5】
凍結保存媒体が、ジメチルスルホキシド、ホルムアミド、アセトアミド、C
1-C
3アルコール、1,2-イソプロピルジオール、1,2-プロパンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、グルコース、単糖類、二糖類
、多糖類
、フィコール、ポリエチレングリコール並びにポリビニルピロリジンから選択される少なくとも1つの凍結防止剤を含む水溶液である、請求項1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
凍結保存媒体が、DMSO、若しくは糖類、又は、DMSO及び糖類の組み合わせを備える、請求項1から5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
サンプルの上面上の氷前線が形成した後に氷層の下のサンプルの層へ追加の凍結防止剤を添加するステップをさらに備える、請求項1から6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
追加の凍結防止剤が、氷層又は氷層の下のサンプル液体の温度における減少に応じて漸進的に添加される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
機械的攪拌が、冷却の間にサンプルへ適用される、請求項1から8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
冷却が、サンプル内に位置する熱伝導部材の形態の冷却素子を介した熱伝導によって提供される、請求項1から9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10の何れか一項に記載の凍結保存方法を行うための凍結保存装置(1)。
【請求項12】
ハウジング(10,37)を備え、ハウジングが、キャビティ(12,34)及びキャビティの上のハウジングの屋根(16)に組み込まれた一次冷却素子(18)を備える、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
ハウジングが
、真空又は部分的真空(33)によって断熱された、請求項11に記載の装置。
【請求項14】
さらに、一次冷却素子によって提供される冷却の程度が、制御ユニットによって手動又は自動で制御することができる、請求項11から13の何れか一項に記載の装置。
【請求項15】
キャビティに位置するサンプルの物理的状態の信号特性を提供するように適合された少なくとも1つのセンサー(24,26)をさらに備える、請求項11から14の何れか一項に記載の装置。
【請求項16】
キャビティに位置するサンプルの物理的状態の信号特性を提供するように適合された少なくとも1つのセンサーが、制御ユニットに電気的に接続され
、信号が、キャビティに位置するサンプルにおける氷層の存在又はサンプルの温度を示す、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
キャビティが、1以上の液体入口及び/又は出口ポート(20a,20b)を備える、請求項12又は請求項12に従属する請求項に記載の装置。
【請求項18】
入口ポートへ流体を供給する又は出口ポートから流体を引き出すように構成されたポンプを備える、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
入口ポートへの又は出口ポートからの流体流れが、キャビティに位置するセンサーから受け取られた信号に応答して制御ユニットによって制御される、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
キャビティ内に位置する任意のサンプルを機械的に攪拌するための手段を備える、請求項11から19の何れか一項に記載の装置。
【請求項21】
キャビティの壁又は床の一部を冷却するように適合された二次冷却素子を備える、請求項11から20の何れか一項に記載の装置。
【請求項22】
請求項1から10の何れか一項に記載の方法によって得られる又は請求項11から20の何れか一項に記載の装置によって製造される凍結保存サンプル。
【請求項23】
サンプルが、組織サンプ
ルである、請求項22に記載の凍結保存サンプル。
【請求項24】
請求項11から20の何れか一項に記載の装置における凍結保存における使用のためのサンプル容器。
【請求項25】
サンプル内の温度勾配を均一化するように配されたキャビティにおけるサンプル液体と接触するように位置する少なくとも1つの冷却部材(31)をさらに備える、請求項11から20の何れか一項に記載の装置。
【請求項26】
部材が、ロッドよりも熱伝導性が低い材料の1以上の別個のバンドによって囲まれる熱伝導性材料の少なくとも1つのロッドを含む、請求項25に記載の装置。
【請求項27】
複数のロッドが用いられる、請求項
26に記載の装置。
【請求項28】
密度2g/cm
3、4°Cで>0.5g/cml水の溶解度を有する溶質又は溶質の組み合わせが、
前記凍結保存媒体において濃度>5%w/vで用いられる、請求項1から10の何れか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密度補助ガラス化を含む凍結保存媒体における生体材料の凍結保存のための方法、これらの方法を行うための装置、及びこれらの方法によって保存されるサンプルに関する。
【背景技術】
【0002】
凍結保存は、非常に低い温度、例えば-80°C、-136°C又は-196°Cへサンプルを冷却すること、及びその温度で長期間の間それらを維持することを含む、生体材料、例えば生体サンプルの保存のために用いられる技術である。低温へ生体サンプルを冷却することによって、そうでなければそのサンプルを劣化させるであろう化学反応又は酵素反応の速度は、サンプルがもはや劣化しない又は非常に遅い速度でのみ劣化する程度へ遅くされる。結果として、生体サンプルは、長期間にわたって保存され得、その後、使用及び/又は分析のために必要に応じて周囲温度に戻され得る。
【0003】
しかし、冷却プロセスは、生体サンプル上で有害な影響を有し得、そしてこれらの影響を緩和するために、凍結保存のための多くの技術が開発されているが、これらの技術の全ては、固有の制限を有する。従来の凍結保存技術は、制御された冷却を含み、氷晶の形成をもたらす。代替的な氷を含まない技術であるガラス化は、冷却の間に氷結晶の形成を回避し、代わりにアモルファスガラスへの水の固化を含む。
【0004】
凍結保存プロセスの間の生体サンプルへの損傷は、冷却/凍結段階及び加温段階の間に主に生じる。溶液効果、細胞外氷形成、細胞内氷形成、膜効果、溶質毒性および脱水はすべて、サンプル損傷をもたらし得る。これらの効果の内のいくつかは、凍結保存サイクルの間に既知の保護効果を有する化合物を導入することによって低減され得る。凍結保存中の間に保護効果を有する化合物は、凍結防止剤又は凍結保護添加剤(CPAs)と呼ばれる。
【0005】
生体サンプルが出会い得る様々なストレスが存在し、これらのストレスの例及び細胞レベル上のそれらの効果は、以下を含む。i)温度の低下-膜脂質相における変化及び/又は細胞骨格の解重合を潜在的に引き起こし得る;ii)例えば、溶液における溶質の濃度が、溶媒の一部が凍結するにつれて増加する、溶質濃度の上昇が、浸透圧性収縮を引き起こし得る;iii)イオン濃度の上昇-膜タンパク質の可溶化を含む膜上の直接的効果を有し得る;iv)脱水-脂質二重層の不安定化を引き起こし得る;v)塩類の沈殿及び共晶形成-メカニズムはよく理解されていないが、細胞損傷を引き起こし得る;vi)気泡形成-機械的損傷を引き起こし得る;vii)粘度の上昇-浸透を含む拡散プロセスに影響を与え得る;viii)pH変化-タンパク質等の変性を引き起こし得る;ix)細胞が密につまる-膜損傷を引き起こし得る。したがって、これらの様々なストレスへの生体サンプルの曝露を最小限にする凍結保存技術に関する必要性が存在する。
【0006】
従来の又は平衡凍結保存と呼ばれることもある標準的な凍結保存技術では、細胞又はバイオマスは、制御された速度の冷凍庫において特定の速度で、又はより単純な受動冷却デバイスを使用することによって冷却される。サンプル温度がその平衡融点未満に低下すると、氷が(核生成時に)形成し始め、その後氷の結晶がサンプル全体に核生成点から広がり、しばしば修復不能な損傷を引き起こす。氷形成プロセスが進行するにつれて、細胞等の生体サンプルは、これらのチャネル自体が(ガラス化を介して)固化するまで、氷の間の溶質密度の高いチャネルにおいて濃縮し、その後、サンプルは、それらの指定された貯蔵温度で貯蔵される。
【0007】
これらの氷が存在する凍結保存技術は、一般的に、起こり得る直接的な氷の損傷に起因して、組織及び臓器の保存に関して不適切であると考えられる。簡単に言えば、氷の結晶は、細胞間で膨張し得又は細胞内に成長し得、組織マクロ構造、その結果、組織の機能の破壊を引き起こす。実際には、いくつかの細胞外氷は、臓器及び組織において支持され得るが、細胞内氷は、ほとんど常に細胞にとって致命的である。今日まで、氷が存在するシステムにおいて首尾良く凍結保存されてきた唯一の哺乳類臓器は、羊の卵巣であり、これらは、ほとんどの臓器又は実際の組織工学構成物よりも顕著にずっと小さい(Campbellら、Human Reproduction2014Aug;29(8):1749-1763-を参照)。
【0008】
従来の凍結保存は、多数の用途に関する証明された技術であるが、その用途は、一般的に、細胞または小さな凝集体の濁液に限定される。組織、臓器、または多細胞生物等の体積が1mm3を超える生検サンプルに関して、氷の損傷に起因して凍結および解凍の間に材料に対する許容できない損傷が生じる。
【0009】
ガラス化は、平衡凍結保存とは対照的に、氷を含まない凍結保存技術である。様々な機構が、冷却時の氷の成長を回避するためにガラス化において利用される。ガラス化は、ガラス化/凍結保存媒体中に存在するサンプルを、氷の結晶を形成させることなく、そのガラス化/凍結保存媒体のガラス転移温度(Tg)未満にすることを当てにする。ガラス転移温度未満の温度では、システムの粘度は増加し、溶媒/媒体は最終的に固化して、生体材料がアモルファス固体ガラス化/凍結保存媒体の低温マトリックス内に存在する安定なサンプルを送達する。
【0010】
ガラス化を介した凍結保存は、通常、冷却前に生体サンプルに凍結保存媒体を含有する凍結防止剤(CPA)を添加することを伴い、これは、媒体およびサンプルの水性成分の凍結温度を低下させ、サンプルの水性成分の粘度も増加させて、平衡凝固点未満の冷却の間の氷の結晶形成が回避され、液体から固体状態への転移が結晶化を含まないようになる。しかしながら、生体サンプルのガラス化は、典型的には、急速な冷却、例えば、10,000℃/分以上の冷却速度を必要とし、これは、本質的に、非常に小さいサンプルサイズへのアプローチを制限する。典型的には、ガラス化サンプルは、1mm以下の内径を有するストローにおいて与えられる。最新技術を形成する技術を有するガラス化による、より大きなサンプルの凍結保存の成功は、非常に困難である、または不可能である。
【0011】
ガラス化はまた、急速冷却と高圧の同時印加との組合せによっても達成され得るが、これは高いコストを含み、熟練した操作者を必要とする。冷却前のガラス化プロセスにおけるジメチルスルホキシド(DMSO)などの高濃度の溶質の添加は有用であり得るが、結果として得られる溶液の生体サンプルに対する毒性がしばしば観察される一方で、複雑な組織へのこれらの高粘度液体の灌流/拡散は困難であり得る。
【0012】
ガラス化へのさらなるアプローチは、温度の漸進的低下(PLT)または液相線追跡として知られており、冷却中に凍結保存媒体中へのDMSOなどの凍結防止剤の濃度を増加させて、氷の形成を防止し、且つ、冷却開始前に(例えば、周囲温度で)現れるであろう液相線追跡アプローチにおいて達成されるCPAの最終濃度に関連する任意の毒性を低減または排除して、冷却が続くにつれてガラス化サンプルを最終的に送達することを含む。この技術は、1960年代に理論的に最初に提案されたが、臨床サンプルのための技術の成功した実用的な用途は、様々な技術的困難に起因してまだ達成されていない。成功した技術に発展するためのこのアプローチの失敗に関する主な理由は、プロセスが進行するために必要とされる時間、および低い温度で高い溶質濃度で遭遇する非常に高い粘度である。例えば、低温で遭遇する粘性液体、例えば、高濃度のDMSOを有する水溶液は、ポンプ輸送することが非常に困難になり、この方法を実施するための市販の装置は存在しない。現在まで、液相線追跡は、主に段階的に行われてきた。サンプルはCPA溶液に添加され、次いで、その凝固点のすぐ上まで下げられる。次いで、サンプルは、より高いCPA濃度(それゆえ、より低い凝固点)を有する溶液に移され、次いで、新しい凝固点へ冷却され、これは、サンプルがガラス化に十分な濃度になるまで続けられる。この段階的アプローチでは、溶質のキャリーオーバーに関連する問題に遭遇する。さらに、サンプル全体のガラス化を達成するために必要な低温での生体サンプル中への凍結防止剤の拡散が律速となる。液相線追跡はまた、これが生体試料の保存のための要件であるにもかかわらず、滅菌条件下で行うことが困難である。
【0013】
少量の液体中での哺乳類の胚および卵母細胞のガラス化(氷を含まない凍結保存)は、細胞の生存性および機能を保持するのに有効であることが実証されている。しかし、広範な研究にもかかわらず、加温時に構造、生存能力および機能を保持するための、より大きな生体サンプルのガラス化は実証されておらず、主に、これは、急速で十分な冷却/加温速度を達成し、氷核生成を回避し、凍結防止剤の毒性を最小限にすることにおける実際的な困難の結果であるようである。
【0014】
多くの組織及び組織工学臓器は、患者または培養物からの除去後にいかなる貯蔵寿命も有さない。これは、無駄につながり、且つ、これらの材料を使用する技術の経済性を損ない、そのようなジャストインタイム製造は、通常、組織工学構成物には実現可能ではない。したがって、本明細書に記載されるような、より良好な保存のための方法が必要とされる。
【0015】
生検は、多くの直接的な医学的用途を有し、一般に、臨床生検は、採取後に「迅速に」凍結され、次いで、クリオスタット中で切片化されるが、大量の氷損傷が、構造の解釈を非常に困難にし、生存細胞の回収を不可能にする。あるいは、生検は化学的に固定され、サンプルの超微細構造のより良好な保持をもたらすことができるが、有害なことに、現在使用されている固定剤は、染色法、特にタンパク質の抗原性を認識する染色法をしばしば妨害し、化学的に固定された凍結保存サンプルから細胞生存率を回復することができない。これらの現在の方法は、凍結保存後に生検に対して行われ得る診断検査の範囲およびタイプを制限し、したがって、診断検査は、一般に、保存前に決定されなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、生体サンプル、特に、既存の技術ではしばしば凍結保存できない生検および組織構成物などの組織サンプルの保存に適した、改善された凍結保存方法を提供することである。また、本発明の目的は、本発明による凍結保存方法が実施され得る装置を提供することである。本発明の方法は、より良好に保存されたバイオマスを送達することによって、サンプルが広範囲の用途について検査されることができるバイオバンクを可能にし、サンプルが採取された後の長期間でさえ層別医療アプローチを可能にするであろうことが想定される。
【課題を解決するための手段】
【0017】
第1の態様では、初期に液体である凍結保存媒体において生体物質を備えるサンプルの凍結保存のための方法であって、サンプルの上面を冷却して、サンプルの上面で氷層を選択的に形成するステップを備える、方法を提供する。サンプルの上面に適用される冷却は、氷層の下のサンプルの層がガラスとして固化するまで続けられ、それゆえ凍結保存媒体における生体物質のガラス化した組成物を送達する。好ましくは、冷却は、サンプルの残りの液体成分の大部分の温度を均一化する、好ましくはサンプル液体の中心に位置する熱伝導部材を通して進行する。本方法は、サンプルの上面からサンプルの底部に向かって氷の漸進的な方向性形成を含む。本発明による方法は、広範囲の生体物質、例えば生検または他の組織、人工組織構成物、タンパク質、抗体、または細胞の凍結保存に使用することができる。
【0018】
いくつかの実施形態では、本方法は、氷層の温度に近いが氷層の温度より上の温度、例えば、氷層の温度とは5°C未満、例えば氷層の温度とは0.1°Cから5°C異なる温度へ氷層の下のサンプルの層を冷却するステップをさらに備える。氷層の下のサンプルのこの二次冷却は、温度依存性密度勾配の最小化により、凍結保存媒体中の凍結防止剤および生体物質の重力駆動分離を有利に増強することができる。凍結保存媒体が、ジメチルスルホキシド、ホルムアミド、アセトアミド、C1-C3アルコール、1,2-イソプロピルジオール、1,2-プロパンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、グルコース、単糖類、二糖類(例えば、スクロース、トレハロース、ラクトース)、多糖類(例えば、ラフィノース、デキストラン)、フィコール、ポリエチレングリコール及びポリビニルピロリジンから選択される少なくとも1つの凍結防止剤を含む水溶液であり得る。いくつかの好ましい場合では、凍結保存媒体が、DMSO、若しくは糖類(例えばグルコース)、又は、DMSO及び糖類の組み合わせを備える。いくつかの好ましい実施形態において、凍結防止剤は、DMSO、グリセロール、グルコース、ラフィノース、スクロース、ラクトース、フルクトース、メタノール、およびエチレングリコールから選択される。いくつかの実施形態では、凍結保存媒体は、水中に5%w/v~20%w/vのCPAまたはCPAの組み合わせを含む水溶液である。
【0019】
いくつかの好ましい実施形態では、熱伝導性ロッド部材は、部分的に断熱され、凍結保存媒体を通って伸び、その部材は、冷却されるサンプルの表面からサンプルの底部の上方、例えば、25-65mm、またはより好ましくは底部の上方約45mmまで延在し得る。これは、底部におけるサンプルが、氷-液体サンプル界面の温度に近いが、それより上に保たれることを保証する。いくつかの実施形態では、部材は、氷の核生成のための表面として作用する。いくつかの実施形態では、中心ロッド部材は、そこから氷が成長することができる表面として作用し、氷と液体サンプルとの界面の面積を増加させる。
【0020】
いくつかの実施形態では、重溶質、例えば、密度>2g/cm3を有する分子を凍結保存媒体に導入して、重力誘導凍結分離を助ける。いくつかの実施形態では、重溶質は、臭化セシウム、ヨウ化セシウム、塩化ユーロピウム、塩化インジウム、塩化サマリウム、およびハロゲンの塩のうちの任意の1つまたは複数から選択される。好ましい実施形態では、これらの重溶質は、0.5g超の溶質が4℃で1mlの水に溶解可能であるような、高い溶解度を有する。好ましい実施形態において、これらの重溶質は、細胞に対して非損傷性の影響を有するか、または治療において使用される場合、ヒトの健康に有害ではない。
【0021】
いくつかの好ましい実施形態では、凍結中にサンプルを保持する小胞が使用され、好ましくは、小胞は、氷が形成されるときに存在する、より高い力および/または圧力に耐えることを可能にする寸法柔軟性を有する。いくつかの実施形態では、小胞は、氷の結晶の膨張によって引き起こされる力/圧力の増加に応答して、氷層が壁に対して移動することを可能にするように、平滑または処理された内壁からなる。
【0022】
いくつかの実施形態では、本発明による方法は、サンプルの上面上の氷前線が形成した後に氷層の下のサンプルの層へ追加の凍結防止剤を添加するステップをさらに備える。そのため、本発明は、生検および組織構成物などの臨床的に関連するサンプルの保存のための液相線追跡の実用的な方法を提供し、その場合、氷層または氷層の下の層の温度の低下に応じて、追加の凍結防止剤が漸進的に添加される。
【0023】
本発明による方法は、典型的には5℃/分未満、例えば0.05~5℃/分、好ましくは0.1~2℃/分の範囲の冷却速度を含む。いくつかの実施形態では、冷却プロセスにおける「保持」は、サンプルの凝固点の近くであるが、それより下、例えば、-7℃で1時間~4時間の間に実施することができる。
【0024】
本発明による方法はまた、冷却中に、例えば、攪拌、振盪または超音波処理によって、サンプルに機械的攪拌を適用することを含み得る。
【0025】
さらなる態様では、任意の先行する請求項に記載の凍結保存方法を行うための凍結保存装置を提供する。本発明による装置は、ハウジングを備え、ハウジングは、キャビティと、キャビティ内に挿入された又は挿入可能な熱伝導性部材の形態の一次冷却素子とを備え、又はキャビティの上方にあるハウジングの屋根の一部を形成し、いずれの場合も、キャビティの上方部分内に延びるように、好ましくはキャビティの下方部分には存在しないように配置される。装置のハウジングは一般に断熱されている。
【0026】
凍結保存装置では、一次冷却素子によって提供される冷却の程度が、制御ユニットによって手動又は自動で制御され得る。キャビティ内に位置するサンプルの物理的状態の信号特性を提供するように適合されたセンサーへの取り付けのためのコネクタは、キャビティ内、例えばキャビティ内に位置するサンプル容器内に位置するセンサーと接続するように提供され得る。
【0027】
キャビティ内に位置する任意の1つまたは複数のセンサーは、有利には、キャビティ内に位置するサンプルの物理的状態の信号特性を提供し、一般に、センサーから信号を受信することができ、信号に応答して、サンプルに提供される冷却を制御することができる制御ユニットに電気的に接続される。信号は、例えば、キャビティ内に位置するサンプル内の氷層の存在、又はサンプルの温度、又はサンプルの抵抗率/導電率を示すことができる。
【0028】
装置内のキャビティは、入口ポートおよび出口ポートを備え得る。追加の凍結防止剤は、入口ポートを介してキャビティ内に位置する生体物質に加えることができる、または出口ポートを介して除去することができる。任意選択的に凍結防止剤が水溶液で提供される、生体物質への追加の凍結防止剤の供給は、例えば、流体を入口ポートに押し出す、または流体を入口ポートに向かって引き込むことによって、流体を入口ポートに供給するように構成されたポンプによって制御することができる。追加のCPAは、センサー読取値を追加のCPAの添加の速度と相関させる事前設定されたアルゴリズムに従って導入されてもよく、有利には、完全に自動化されたガラス化プロセスが行われることを可能にする。
【0029】
いくつかの実施形態では、入口ポートへの流体流れは、キャビティに位置するセンサーから受け取られた信号に応答して制御ユニットによって制御され、このような装置は、凍結保存の液相線追跡技術に有用である。例えば攪拌、振盪又は超音波処理によって、キャビティ内に位置するサンプルを機械的に攪拌するための手段を備えることもある。いくつかの好ましい実施形態では、凍結保存装置は、キャビティの壁又は床の一部を冷却するように適合された二次冷却素子を備える。二次冷却素子は、氷前線からの生体物質および凍結防止剤の重力駆動分離を促進することによって、凍結保存プロセスを加速することができる。使用時に、二次冷却素子は、氷前線の下のサンプルの一部を、サンプル中の氷層の温度のすぐ上の温度へ冷却し、一般に、氷前線がサンプルの上部に形成された後にのみ開始され、いずれの場合も、サンプルの上面で氷前線が形成された後にのみ、サンプルを0℃未満の温度へ冷却する。二次冷却素子によって提供される冷却の程度及び速度は、例えば、予めプログラムされた冷却アルゴリズムに適合するように、制御ユニットによって制御することができる。
【0030】
さらなる態様では、本発明は、本発明による方法によって得られる又は本発明による装置によって製造される凍結保存サンプルも提供する。本発明による生体物質の凍結保存サンプルは、生検または他の組織、人工組織構成物、タンパク質、抗体または細胞であり得る。
【0031】
本技術は、例として、添付の図面において概略的に示される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図2】ハウジング内に位置する凍結保存を受けるサンプルを有する装置の断面図を示す。
【
図3】凍結保存媒体全体にわたる熱の伝導および均質化のための中央ロッドの形態の熱伝導性部材の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明による凍結保存方法では、凍結保存の分野で従来行われているように、生体物質は、凍結保存剤(凍結防止剤/CPA)として機能する溶質を含有する水溶液中に保存される。凍結防止剤の水溶液は、本明細書では凍結保存媒体(CPM)と呼ばれる。サンプルという用語は、凍結保存媒体中の生体物質を指すために本明細書で使用される。生体物質は、例えば、生検または他の組織、人工組織構成物、タンパク質、抗体または細胞であり得る。
【0034】
本発明による凍結保存方法の開始時に、生体物質および凍結保存媒体は、0℃と体温との間、例えば0℃と室温との間の温度で組み合わされる。生体物質は、生体物質の性質に応じて、凍結保存媒体に浸漬または懸濁させることができる。次に、得られた凍結保存用サンプル、すなわち、本明細書では単にサンプルと呼ぶ凍結保存媒体中の生体物質を冷却して、第1の段階で、例えば、以下でより詳細に説明する熱伝導性部材によって補助されて、上面および表面から下方に成長する実質的に純粋な体積の結晶氷を形成し、一実施形態では、中心ロッドの形態で、当然のことながら、凍結防止剤が富化された、すなわち、凍結保存プロセスの開始時に凍結保存媒体と比較して高濃度の凍結防止剤を含有する凍結保存媒体のマトリックス中に生体物質を含むガラス化層を形成する。
【0035】
本発明による凍結保存技術は、サンプルにわたって重力駆動濃度および任意選択で温度勾配を確立することによって、生体サンプルと凍結防止剤との分離を達成する。(凍結保存のための)サンプルにわたる重力駆動濃度および温度勾配の確立は、サンプルをチャンバ(すなわち、凍結保存プロセス中に冷却される凍結チャンバまたはキャビティ)内に配置し、技術の第1の冷却段階において、サンプルの上面に選択的に冷却を適用し、それによってその上での氷の形成を引き起こすことによって達成される。
【0036】
中央ロッドおよびサンプルの上面に形成される氷の層は、「純粋な」氷、すなわち、溶質(すなわち、凍結防止剤および生体物質)を実質的にまたは完全に含まない氷である。凍結保存媒体からの氷としての水の除去および発生期の氷層からの溶質の排除の結果として、サンプルの未凍結部分における溶質(凍結防止剤および生体サンプル)のバルク濃度の増加、および新たに形成された氷の直下の凍結保存媒体における溶質凍結防止剤(および任意の生体サンプル)の濃度の局所的増加が存在する。この事象は、氷前線の真下の凍結保存媒体の層の密度の増加を引き起こし、重力の影響下で、凍結保存媒体のこのより高密度の部分は、サンプルの底部に向かって沈むであろう。したがって、冷却、凍結、分離、沈降サイクルが繰り返されるにつれて、溶質の重力駆動濃度勾配が確立される。
【0037】
サンプルの上面への冷却が維持されるにつれて、氷層は、サンプル内へと下方に、且つ中心ロッドから外側に成長し続ける。同時に、氷前線の下の未凍結サンプル層中の凍結防止剤濃度が増加する。未凍結の凍結保存媒体の凝固点は、凍結保存媒体中の凍結防止剤濃度が増加するにつれて低下するので、結果として生じる未凍結の凍結保存媒体中の溶質濃度の増加は、氷前線以外でのサンプル中の氷形成を嫌う。最終的に、高い方から低いほうへの、方向性の氷の成長は、凍結防止剤と、ガラス転移温度(Tg)未満の凝固点を有する生体物質とが豊富な氷層の下のサンプル中の層を送達する。サンプルのこの部分は、連続的な冷却時にガラス化して、凍結保存されたサンプルを送達するであろう。
【0038】
氷領域間に凍結防止剤の豊富なチャネルが形成される従来の凍結保存技術とは対照的に、本発明の方法において、凍結防止剤と、ガラス転移温度(Tg)未満の凝固点を有する生体物質と豊富な層は、氷前線の下に位置し、有意な氷の損傷を伴わずに比較的大きなサンプルの保存に適している。さらに、従来技術の一部を形成するガラス化方法とは対照的に、本発明の方法は、極端に速い冷却速度または圧力の印加を必要としない。したがって、本発明の方法は、従来の凍結保存およびガラス化アプローチによる保存には大きすぎる生体サンプルの凍結保存を成功させる機会を提供する。例えば、1mm3を超えるサイズを有するサンプルを本発明の方法で凍結保存することができる。
【0039】
好ましい実施形態では、本発明による凍結保存方法は、サンプルの上部に氷層が確立された後に開始する第2の冷却段階を含む。
【0040】
第2の冷却段階の任意の実施形態では、その最上面上でサンプルを冷却することに加えて、凍結チャンバ内のサンプルに対する追加の冷却が適用される。この追加の冷却は、一般に、サンプルの表面より下の凍結チャンバの容積に適用され、すなわち、サンプルの上部で氷前線が確立された後にのみ、凍結チャンバの壁もしくは床、または壁もしくは床の一部で冷却することによって適用される。いずれの場合も、追加の冷却自体は、氷の凍結を引き起こすのに十分ではなく、氷の形成は、凍結保存中にサンプルの上面に提供される一次冷却によって常に開始され、維持される。この追加の冷却が適用されて、サンプルの未凍結部分の温度を、氷前線の温度のすぐ上の温度、例えば、氷前線の温度の5℃以下上の温度、または氷前線の温度の2℃以下上の温度に下げる。理論に束縛されるものではないが、この追加の冷却の適用は、そうでなければサンプルにわたる溶質の重力駆動濃度勾配に干渉し得る任意の熱浮力効果に対抗し得ると考えられる。さらに、この第2の冷却はまた、サンプル中の上部から底部への氷の成長を加速することによって、凍結保存プロセスを加速し得る。
【0041】
第2段階冷却の好ましい実施形態では、アルミニウムなどの部分的に断熱された、より高い熱伝導性材料の中央ロッドが、凍結防止剤媒体全体に熱を伝導し、温度勾配を最小限にする。
【0042】
上述したように、等温システムでは、氷前線から排除される溶質は、氷前線の下、すなわち氷/未凍結サンプル界面で、水溶液中の溶質のより高度に濃縮されたゾーンをもたらすであろう。高溶質濃度は低溶質濃度システムよりも密度が高いので、この高溶質領域は、サンプルの底部、すなわち重力下でサンプル容器の底部に沈むであろう。
【0043】
この重力沈降効果は、大きな温度勾配が存在する場合、ある程度妨げられ得ると考えられる。純水システムでは、最大密度は+4℃で生じ、温度がさらに低下すると密度が低下する。断熱されたサンプルホルダの上部から氷が形成される純水システムでは、液体システムの最も冷たい部分は、水-氷界面で生じるであろう。氷前線から下向きに(すなわち、重力が増加する方向に)進むと、水の温度および密度は、サンプルの底部において+4℃で最大密度に達するまで増加するであろう。同じことが水/溶質システムにも当てはまることになるが、最大密度の温度は、溶質およびその初期濃度に応じて数度変動するであろう。
【0044】
浮力効果は、溶質が存在する場合、濃度駆動効果にある程度対抗する可能性があり得る。より詳細には、溶質が氷前線から排除されるにつれて氷表面の直下に形成される溶質高密度ゾーンは、溶質の高濃度に起因して浮力が小さくなることになるが、逆に、その低温に起因して、すなわち、その温度が、凍結保存媒体の水溶液がその最高密度を有する温度よりも低いので、浮力が大きくなるであろう。温度勾配の大きさ、氷前線の速度、および溶質の構成および濃度は、これらの効果のうちのどれが優勢であるかを決定するであろう。
【0045】
したがって、最大の凍結分離を確実にするために、そのサンプルの上面の下のサンプルの一部、およびそこから下方に成長する氷層(上面は、凍結保存プロセスの開始から連続的に冷却される)での、溶液の凝固点のすぐ上の温度へ向けた冷却は、これがサンプルにわたる温度勾配を低減するので有利である。氷層の下のサンプルの未凍結部分に向けられる冷却は、任意の適切な手段、例えば、ハウジングの壁および/または床に組み込まれ、キャビティと熱的に接触する熱機関の冷却素子、冷却浴、冷却ジャケットまたは冷却回路によって提供することができる。
【0046】
この第2の冷却段階は、有利には、サンプル中の任意の温度勾配を最小化する。その結果、温度によって引き起こされる浮力の効果は、低減または排除されることになり、これは、氷前線からの溶質および生体物質の、凍結によって引き起こされる分離を促進する。液体成分中の溶質濃度が増加するにつれて、残りの液体の凝固点は低下することになり、したがって、サンプルの未凍結部分の温度は、新しい凝固点のすぐ上までさらに低下させることができる。凍結保存プロセスの間、サンプルの最も冷たいゾーンは、サンプルの上面およびこの表面から下方に成長する氷層であろう。
【0047】
いくつかの実施形態では、本発明による方法は、遠心分離機で行うことができる。この場合、上面からの凍結とは、遠心分離中の回転軸に最も近いサンプルの表面での(すなわち、最低重力点での)サンプルの凍結を指す。他の全ての場合において、サンプルの上面での凍結は、気液界面での、または液体レベルが、それが含まれる容器もしくは凍結チャンバの屋根要素と同一平面である場合には、屋根要素とサンプルとの間の界面での、液体サンプルにわたる凍結を指す。屋根は静的システム内のサンプルの垂直方向最上部に位置するので、氷は最低重力点に形成される。
【0048】
いくつかの好ましい実施形態では、上記で定義した重溶質は、重溶質および凍結防止剤のゾーンの重力誘導沈降を加速するために、凍結保護媒体が添加される。
【0049】
氷が形成された後の溶液の凝固点は、サンプルの上面での、およびサンプルの上面からの氷前線の形成および進行を感知することによって自動的に決定することができる。感知は、任意の適切な手段によって行うことができる。例えば、センサーは、温度、光学的、または熱量測定の読み取りを検出することができ、または測定、例えば、サンプルの液体成分の光学的(例えば、濁度)または電気的特性(例えば、導電率、抵抗率など)の自動測定に依存することができる。したがって、本発明の好ましい技術は、サンプルの上部における氷層の存在およびサンプル内の下方へのその成長を検出するステップを含むことができる。これらの技術では、サンプルの上部に氷層が存在することを示す読み取り値は、サンプルの上面の下のサンプルを、サンプルの上部から成長する氷層の温度よりもわずかに高い、好ましくは氷層の温度よりも5℃未満高い、例えば2℃未満高い、または1℃未満高い温度の冷却することを起こし得る。
【0050】
本発明の技術は、サンプル、すなわち凍結保存媒体中の凍結保存のための生体物質を凍結チャンバに入れるステップを含み得る。サンプルは、凍結チャンバに直接導入されてもよく、または容器内に存在してもよい。サンプルが容器中に存在する場合、容器は密閉されていてもよい。サンプルが容器内に存在する場合、容器は、液体入力および/または出力ポートおよび/または圧力逃がしバルブを備えてもよく、入力/出力ポートは、例えば、押込嵌め様式で、装置内の対応するポートと密閉可能に係合するように適合される。存在する任意の入力/出力ポートまたは圧力逃がしバルブは、一般に、生体物質を含有するサンプル層がガラス化する段階まで機能することができるように、容器の底部に向かって提供される。任意の入力/出力ポートは、容器への液体の流入および容器からの液体の流出を制御するためのバルブを備え得、このようなバルブは、バルブ制御ユニットによって制御され得、従って、プログラムされた量のさらなるCPAまたはCPMが、キャビティまたはサンプル容器に位置する1つのセンサーまたは複数のセンサーから得られる読み取り値に応答して導入されることを可能にする。この有利な構成は、キャビティまたは容器内の1つのセンサーまたは複数のセンサーからの読み取り値に応答してCPA濃度を変調して自動液相線追跡ガラス化を実施することを可能にする。あるいは、またはさらに、サンプルの未凍結部分におけるCPA濃度の調節は、所定のアルゴリズムに従ってサンプルから得られた読み取り値に応答して修正され得る。同じ利点は、バルブ制御ユニットによって制御されるバルブを装置の入口/出口ポートに装備することによって得ることができ、その場合、存在し得る入口/出口ポート上の任意のバルブは遠隔制御される必要はなくてよい。
【0051】
本発明の技術は、任意の適切な凍結防止剤(CPA)、例えば、当技術分野の凍結保存方法において一般的に使用されるものを使用することができる。
【0052】
CPAは、凍結保存プロセスにおいて生体サンプルが受けるストレスの一部を緩和するために使用される。本発明の方法における使用に適したCPAは水溶性であり、一般に水と安定な水素結合を形成する。CPAが水分子と安定な水素結合を形成する能力は、凍結保存媒体の凝固点を低下させる。
【0053】
CPAの役割は多様であり、その使用の状況および濃度に依存する。例えば、低分子量CPAは、冷却プロセス中に細胞に入り得る、すなわち細胞膜を通過し得、冷却中に細胞内で氷核生成が起こる傾向を低減し得る。高分子量CPAは、通常、細胞膜を通過せず、従って、細胞または組織サンプルの細胞外環境においてそれらの効果を発揮することになる。細胞外流体の凝固点を低下させる際に、CPAは、細胞からの水の過剰な流出を防止することができ、それによってその最小臨界体積を超える細胞の収縮を防止する。細胞収縮を減少させることによって、CPAは細胞内流体の過剰濃度を減衰させることができ、それによってタンパク質の沈殿を阻害することができる。理想的には、CPAは、その保護効果を発揮するために十分な速度で生体サンプル中に灌流することができ、本発明の方法の有利には遅い冷却速度は、10,000°C/分の冷却速度が一般的である従来技術のガラス化方法と比較して、凍結保存プロセスの冷却段階中の漸進的灌流を可能にする。CPAはまた、細胞に対して毒性であり得る凍結プロセスの間の過剰な塩濃度の生成を防止し得る。凍結保存媒体において、溶質(すなわち、CPA)の相対濃度は、それが溶解される溶媒(水)が固化する(凍結する)につれて増加するであろう。
【0054】
任意の適切なCPAまたはCPAの組み合わせが、本発明の方法において使用され得る。本発明の方法において単独でまたは組み合わせて使用され得る既知のCPAの例は、ジジメチルスルホキシド、ホルムアミド、アセトアミド、C1-C3アルコール、1,2-イソプロピルジオール、1,2-プロパンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、グルコース、単糖類、二糖類(例えばスクロース、トレハロース、ラクトース)、多糖類(例えばラフィノース、デキストラン)、フィコール、ポリエチレングリコールおよびポリビニルピロリジンである。CPAの選択は、凍結保存されるサンプルの性質にある程度依存するであろう。従って、細胞膜を横切るCPAの伝達は、タンパク質サンプルを保存するときに重要な考慮事項ではないであろうが、細胞、組織および工学組織構成物の保存については、これはより大きな要因であろう。同様に、CPAがサンプル中に灌流/拡散する能力は、単離された細胞と比較して組織サンプルにとってより重要であることは当業者には明らかであろう。
【0055】
典型的には、冷却開始前の本発明の方法における凍結保存媒体中のCPAの濃度またはCPAの濃度の合計は、50%以下(w/v)、通常40%以下(w/v)、例えば10%~40%(w/v)である。CPAの10%未満の濃度では、氷核生成がより重要な要因となり、一方で、CPAの50%を超える濃度では、ガラス化は保証されないことがある。重力補助分離を促進するために、いくつかの重溶質を凍結保存媒体に添加することができる。
【0056】
本発明の方法において使用することができる凍結保護剤の例には、メタノール、エタノール、1,2-イソプロピルジオール、1,2-プロパンジオール、グリセロール、エチレングリコール、ホルムアミド、アセトアミドおよびジメチルスルホキシドなどのアルコールである細胞膜を通過することができる低分子量(Mr<400)CPA、ならびに単糖類(例えばグルコース)、二糖類(例えばスクロース、トレハロース、ラクトース)、多糖類(ラフィノース、デキストラン)、フィコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリジノン、タンパク質およびウシ胎児血清などの高分子量および/または非透過性CPAが含まれるが、これらに限定されない。特に好ましいCPAは、DMSO、グリセロール、グルコース、プロピレングリコール、およびポリエチレングリコールである。いくつかの好ましい実施形態では、CPAの混合物を使用することができる。例えば、DMSOなどの低分子量CPAは、炭水化物などの非透過性CPAと併用され得、生体サンプルに最適な凍結保存を与え得る。
【0057】
DMSOは、本発明による方法における使用の好ましいCPAの例である。DMSOが本発明による方法において使用される場合、最初の凍結保存媒体は、典型的に均質媒体はであろう。したがって、10体積%のDMSOを含有する水溶液は、本発明による方法において凍結保存媒体として使用され得る。この場合、理解されるように、プロセス中の氷成長は、凍結保存媒体から水を除去し、サンプルの液体部分中のDMSOの濃度は、初期の10%値から徐々に増加する。本方法が進行するにつれて、次第に濃縮された(且つ高密度の)水性DMSO溶液は、液体層の凝固点を低下させ、氷前線からの溶質DMSOの分離を促進するであろう。同時に、任意の細胞膜を横切るDMSOの移動が促進されることになり、細胞間および細胞内氷形成の阻害におけるDMSOの凍結保護効果は完全に発現され得、したがって、氷結晶成長の剪断応力に関連する細胞膜などの生体材料中の感受性構造への損傷を防止または実質的に低減する。DMSOはまた、ガラス温度を上昇させることができ、したがって、そうでない場合よりも高い温度でガラス化を進行させることができる。
【0058】
CPAとしての炭水化物(例えば、糖類CPA)の使用は、これらのCPAの溶液中の密度効果が、氷前線でのサンプルおよび溶質の重力分離を駆動するために特に良好であるため、有利であり得る。好ましい重溶質は、ハロゲンの可溶性塩を含む。
【0059】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、生体サンプル材料へのまたは生体サンプル材料からの溶質拡散を補助するために、または凍結保存媒体を均一化するために、冷却中に凍結保存媒体の攪拌をさらに含み得る。サンプルの攪拌(agitation)は、サンプルの攪拌(stirring)、振盪または超音波処理を含み得る。
【0060】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、冷却中に凍結保存媒体中のCPAの濃度をさらに増加させるために、冷却中にサンプルに追加の溶質を添加するステップを含むことができる。例えば、DMSOの50%水溶液は、より低い濃度のDMSO(または代替のCPA、またはCPAの混合物)を含む対応する量の液体凍結保存媒体の代わりに凍結保存媒体に添加され得る。この溶質の添加は、例えば、対応する体積の凍結保存媒体が排出されるか、またはそうでなければ出口ポートを通して引き出される注入ポートを通した、単一または複数回の注入によってであり得る。あるいは、溶質の添加は、CPA濃度をさらに変化させるために、一定速度または可変速度で行われ得る。CPAの濃度が、減少するサンプル温度の関数として増加するように、追加の溶質の複数回のまたは連続的な注入が、液相線追跡タイプの方法で使用され得る。この液相線追跡アプローチは、有利には、周囲温度にて毒性であろう高濃度の溶質が使用されることを可能にし、より低い温度では、CPAが発現し得る任意の固有の毒性効果が低減または排除されるであろう。追加のCPAの導入は、サンプル中の氷層またはサンプルの未凍結層の温度の低下に応じてプログラムされ得る。したがって、冷却は、最適に保存されたサンプルを送達するために、事前設定された冷却アルゴリズムを介して進行することができる。
【0061】
いくつかの実施形態では、本発明による方法は、凍結チャンバ内の圧力を印加または解放するステップを含んでもよい。これは、そうでなければ凍結および冷却時のサンプルの体積変化の結果として生じ得る、凍結チャンバへの任意の損傷または破裂のリスクを回避することができる。圧力解放は、任意の好適な手段を介して、例えば、バルブ(例えば、圧力逃がしバルブまたは注入/排出ポート(すなわち、入力/出力ポート))を介して凍結チャンバから液体を流出させることによって、またはその中で一定の圧力を維持するように構成された凍結チャンバに取り付けられるピストン配列の使用を介して、達成され得る。
【0062】
いくつかの実施形態では、本発明による方法は、サンプル容器の底部に位置するか、または取り外し可能に取り付けられたバイアルもしくは複数のバイアルまたはマルチウェルプレート内の生体サンプルをガラス化するステップを含む。サンプルバイアルまたはマルチウェルプレートがサンプル容器の底部に取り付けられる方法では、凍結保存プロセスの終了時にガラス化サンプルを含有するバイアルまたはマルチウェルプレートは、凍結保存プロセスが完了した後、保管のために取り外され得る。
【0063】
本発明の方法におけるサンプルの温度低下の速度は、生体サンプルへの凍結防止剤の拡散を促進するように選択される。低温での生体物質へのCPAの拡散のための十分な時間を可能にする非線形冷却プロファイルが一般に好ましい。適切な時間/温度プロファイルは、凍結防止剤濃度、サンプルの拡散係数、サンプルの寸法、および所与の温度でのCPMの粘度などの物理的パラメータから計算することができる。低温では、非常に高い粘度に遭遇し、生体サンプルと凍結濃縮溶液との境界条件によって拡散が制限されることになる可能性が高く、拡散を増大させるために混合が実施され得る。一般に、本発明による方法におけるサンプルの冷却の速度は、比較的遅く、従来のガラス化アプローチよりもはるかに遅く、例えば、0.1~2℃/分、好ましくは0.5℃/分未満である。
【0064】
本発明はまた、本発明の方法によって凍結保存された生体サンプル、例えば生検または他の組織、人工組織構成物、タンパク質、抗体、または細胞に関する。得られたサンプルは、最終貯蔵の前にさらなる処理、例えば凍結乾燥を受けることができ、これは、従来の方法によって得られるものよりも優れた、および/または従来の方法によって得られるものよりも低コストで、凍結乾燥材料を有利に送達することができる。
【0065】
本発明はまた、本発明による凍結保存方法を実施するための装置を提供する。
【0066】
本発明による装置は、ハウジングを備え、ハウジングが、キャビティ及びハウジングの屋根に組み込まれた一次冷却素子を備える。一次冷却素子は、キャビティの上面と熱接触しており、好ましくは、キャビティの上面全体を実質的に又は完全に横切って延びる。例えば、熱接点は、ハウジング内のキャビティの上面に広がる金属板であってもよい。いくつかの実施形態では、ハウジングは、蓋(屋根)が設けられたカップ(すなわち、そこから上方に突出する床および壁を有する)の一般的な形態を有してもよく、蓋は冷却素子を備える。カップの形状は、単一の壁(例えば、湾曲した壁)または複数の壁が存在するかどうかを決定するであろう。
【0067】
装置の一次冷却素子は、サンプルの最上面を介してサンプルから熱エネルギーを除去し、それによって、キャビティ内に配置された生体サンプルの最上面を冷却し、その結果、その表面上に氷層を形成させる。いくつかの実施形態では、一次冷却素子は、ヒートポンプ、例えばスターリングエンジンなどの能動冷却素子であり得る。いくつかの実施形態では、キャビティ内に位置する生体サンプルの上面からの熱抽出は、液体窒素等の材料における相転移に伝導され、且つそれによって吸収され、したがって、生体サンプルの最上面を冷却し、その上に氷形成を引き起こすことができる。いくつかの実施形態では、核生成を誘起し、氷のための表面がサンプル容器の端から離れて下方に成長することを可能にし、サンプル全体にわたって温度を均一化するために、中央ロッドは、一次冷却素子に永久的にまたは磁気的に接続される。
【0068】
冷却はまた、市販の冷却循環浴システムを介して提供され得、冷たい液体が、圧縮冷却器からの冷却を送達するために使用される。さらに、ペルチェエンジンシステムが採用され得る。
【0069】
凍結保存媒体中の生体物質のサンプルは、ハウジングに、すなわちハウジングの屋根、床または壁に設けられた装填扉を開くことによって、キャビティ内に直接導入することができる。あるいは、凍結保存媒体中の生体物質のサンプルは、容器、すなわちサンプル容器に収容することができ、サンプル容器は、ハウジングに設けられた装填扉を介してキャビティ内に導入することができる。装填扉は、いくつかの実施形態では、屋根または床の全領域に及ぶことができる。
【0070】
サンプルがキャビティ内に直接導入される実施形態では、キャビティは、凍結保存中にサンプルから液体の望ましくない流出または進入を防止するように形成される。サンプルがサンプル容器に導入される実施形態では、サンプル容器または任意選択でその一部は、長期保存のための凍結保存の終了時にキャビティから好都合に除去することができる。
【0071】
ハウジングは、好ましくは、凍結保存の間にサンプルの効率的な冷却を可能にし且つサンプル中に低温が生成されることを可能にするように、断熱される。非断熱ハウジングの使用は、比較的高出力の冷却素子を必要とすることになり、凍結保存プロセスの効率を損なうであろう。
【0072】
いくつかの実施形態では、ハウジングは、凍結保存プロセス中にキャビティ内に位置するサンプルの物理的状態に関する読み取り値を提供するように構成された1つまたは複数のセンサーを備える。例えば、1以上の熱電対センサーは、サンプルの垂直軸に沿った1以上の点における温度の監視を可能にするために存在してもよい。1つまたは複数のセンサーから得られた温度読み取り値が用いられ、サンプルの下方への氷前線の進行を監視する、または氷前線の下のサンプルの部分にガラス化が生じたかどうかを立証することができる。さらなる例として、光源と光センサーとの組み合わせが用いられ、氷前線の確立およびサンプル中のその位置を監視することができる。さらなる例として、サンプルの導電率または抵抗率の変化を検出するためのセンサーが用いられ、例えば、凍結保存プロセスが進行するにつれて、サンプルの液体部分中の溶質の濃度に関する情報を提供することができる。よりさらなる例として、センサーは、圧力センサーであってもよく、サンプルまたはハウジング内の圧力変化を感知するために使用され得る。
【0073】
キャビティ内に位置する容器内にサンプルが与えられる(すなわち、導入され、容器内に収容される)実施形態では、ハウジングは、追加的にまたは代替的に、容器内に位置するセンサーと接触する1つまたは複数の導電性接点を特徴とすることができる。容器内に位置されるセンサーは、そうでなければ容器がない場合にハウジング内で使用されるタイプのもの(例えば、熱電対、光センサー、電極または圧力センサー)であってもよい。例えば、サンプル容器には、導電率または抵抗率の読み取り値を得ることを可能にする電極、または容器内のサンプルの温度を決定することを可能にする熱電対が設けられ得る。
【0074】
いくつかの実施形態では、装置は、凍結保存プロセス中にサンプル内の安定した圧力を保証するように、および/またはサンプル内の温度および相の変化から生じる任意の体積変化を補償するように構成されたハウジングに接続されたピストンを備える。装置がピストンを含む実施形態では、ピストンは、ハウジングの屋根または床に都合よく位置することができる。例えば、ピストンは、サンプル内の圧力変化に応答して、屋根またはその一部をハウジングの床から離れるようにまたは床に向かうように移動させるように構成され得、したがって、ハウジング内の圧力をその初期値に回復する。ピストンはまた、凍結保存プロセスの開始時にサンプルを高圧下に配置するために、またはバイアス力を印加することによって、ハウジングの屋根における冷却素子とハウジングにおけるキャビティ内に位置するサンプルとの間の良好な熱接触を確実にするために使用されてもよい。他の好適なバイアス手段が適用されて、圧力を平衡させる、またはサンプル、例えばサンプル容器内のサンプルと一次冷却素子との間の良好な熱接触を確実にすることができる。
【0075】
いくつかの好ましい実施形態では、ハウジングは、例えば、キャビティまたはその中に位置するサンプル容器からの流体の添加または除去を可能にする、入力および/または出力ポートを備えることができる。これらの入力および/または出力ポートは、凍結保存中のサンプルへの追加の生体物質もしくはCPAの入力、若しくは凍結保存中の過剰な液体の除去を可能にするために、または凍結保存プロセス中の血管系若しくは臓器の灌流を可能にするために提供することができる。したがって、いくつかの好ましい実施形態では、装置は、灌流手段、例えば、サンプル中に提供される臓器またはその血管系を通る滅菌灌流液の流れを導入、除去または確立するためのポンプを備えるであろう。入力ポートおよび出力ポートは、好ましくは、キャビティまたはその中に位置するサンプル容器への物質の入力または出力の速度を制御するためのバルブまたはタップを備える。
【0076】
サンプルがサンプル容器内に存在する場合、サンプル容器上の入力ポートおよび/または出力ポートは、本発明による装置内の相補的な液体入力/出力ポートと封止可能に係合することができる。封止可能に係合するという用語は、流体が望ましくない漏れなしにサンプル容器に流入することができるように、サンプル容器および装置の入力/出力ポートが係合することを意味する。例えば、容器上の入力/出力ポートは、プッシュフィット接続によって容器上の対応する入力/出力ポートと係合し得る。
【0077】
本発明による装置は、制御ユニットおよびポンプユニットを備えることができ、それにより、凍結保存プロセス中のサンプルへの追加のCPAの導入が、キャビティ内に、例えばキャビティ内に位置するサンプル容器内に位置するセンサー、例えば熱電対からの読み取りに応答して自動的にトリガされることができる。したがって、液相線追跡のプロセスは、キャビティ(すなわち、凍結チャンバ)および/またはサンプル容器における1つまたは複数のセンサーからのフィードバックによって実行することができる。理解されるように、中央制御ユニットは、複数の制御機能を実行することができ、例えば、一次冷却素子および、存在する場合には、二次冷却素子によって提供される冷却、ならびにサンプルの未凍結部分への任意の追加の凍結防止剤の導入の速度およびタイミングを制御することができる。制御ユニットは、センサーから受信された信号を処理するためのプロセッサと、例えば、初期CPA濃度/初期の複数のCPA濃度またはサンプルの性質に応じて、ガラス化プロトコルのためのプログラムおよびアルゴリズムを記憶するためのメモリ素子とを備えてもよい。
【0078】
キャビティ、またはその中に配置するためのサンプル容器は、サンプルが与えられる様式に適切なように、キャビティまたはサンプル容器の床の上に生体サンプルを保持するために、プラットフォーム、例えば、膜またはメッシュなどの液体透過性プラットフォームを含んでもよい。これは、例えば、生体物質が凍結保存媒体中に懸濁されている場合に、生体物質を除去することなく凍結保存媒体の除去を可能にすることができ、これは、例えば、液相線追跡凍結保存方法において有利であり得る。加えて、プラットフォームは、生体物質がキャビティまたはサンプル容器の底部から離れて保持されることを確実にし、したがって、生体物質が凍結保存媒体のガラス化マトリックス内に封入されることを確実にする。
【0079】
いくつかの実施形態では、装置は、その中に位置するサンプル中の液体濃度を均質化するための、および/またはその中に位置するサンプル中の生体物質へのまたは生体物質からの溶質拡散を補助するための攪拌手段を備える。攪拌手段は、攪拌機、機械的もしくは磁気的攪拌機、または振動板、または音波攪拌手段、例えば超音波源であってよい。磁気攪拌器が存在する場合、キャビティまたはサンプル容器内に磁気従動子が存在し、このような実施形態では、磁気従動子は、好ましくは、キャビティまたはサンプル容器内の上記のようなプラットフォームの下に位置する。
【0080】
上記の実施形態のいずれにおいても、キャビティは、サンプル容器上の相補的な取り付け点を介してキャビティ内のサンプル容器の固定を可能にするために、取り付け時にその床または壁上に取り付け点を備えることができる。同様の取り付け点をキャビティの屋根に設けることもできる。
【0081】
上記の実施形態のいずれかにおいて、装置は、二次冷却素子をさらに備えてもよい。二次冷却素子は、屋根の下のキャビティの一部に冷却を供給するためにハウジング内に配置される。使用時に、二次冷却素子は、サンプルの上面に氷層が形成されると、サンプルの未凍結部分を冷却する。二次冷却素子は、氷層がサンプルの表面上に形成されたことを示すセンサー読み取り値が得られると動作するように構成されてもよい。使用時に二次冷却素子がサンプルの未凍結部分をサンプルの上部の氷層の温度のすぐ上の温度まで冷却するように、二次冷却素子によって適用される冷却を制御するための制御ユニットを設けることができる。
【0082】
本発明による装置はまた、本発明による技術によって凍結保存されたサンプルを解凍するように適合された加熱手段、例えば電気抵抗加熱素子を含んでもよい。
【0083】
加熱手段は、凍結保存装置のキャビティの屋根、床または壁に一体化することができる。使用時には、加熱手段を用いて、サンプルのガラス化層に熱を供給する。装置内のセンサーは、少なくとも1つのセンサーからの読み取りに応答して、凍結保存サンプルが加温される速度を制御して、サンプル中の氷形成のリスクを最小限に抑えることができる制御ユニットに提供することができる。例えば、電気抵抗加熱素子は、サンプル容器内の凍結保存サンプルの制御された加温に使用するために、キャビティの屋根に統合することができる。この場合、サンプル容器は、サンプルのガラス化層、すなわちガラス化プロセスにおける氷前線の下の層がキャビティの屋根と熱的に接触して配置されるように、キャビティの屋根に取り付けることができる。次いで、サンプルの加熱は、制御された様式で進められ、使用または分析の準備ができた解凍サンプルを送達することができる。加温素子はまた、冷却速度をより敏感に制御するために、凍結保存中に冷却システムと併せて使用されてもよい。
【0084】
本発明がよりよく理解され得るように、非装填動作状態(
図1)および装填動作状態(
図2)において本発明の凍結保存方法を実施するための装置の例が、以下に説明される。当業者によって理解されるように、単純な概略断面図は、例としてのみ提供され、本発明の範囲を限定するものではない。
【0085】
実施例
図1は、本発明による凍結保存方法を実施することができる装置1の断面図を示す。装置は、ハウジングの本体14とその屋根16とによって画定されるキャビティ12が中に位置するハウジング10を備える。一次冷却素子18、例えばコールドプレートは、ルーフ16に組み込まれ、チャンバと熱接触する。キャビティに、例えばその中に位置するサンプルに冷却素子によって提供される冷却の程度は、制御ユニット(図示せず)によって制御することができる。
図1において、デバイスには、チャンバへの流体の導入またはチャンバからの流体の除去のための入力ポート20aおよび出力ポート20bが設けられており、図示されていないが、これらのポートには、キャビティ12またはその中に位置する容器(図示せず)への流体の流れ、およびそこからの流体の流れを制御するためのバルブが装備されている。ポート20はまた、凍結保存媒体中の生体サンプルを提供することができ且つ凍結保存されたサンプルを保管のためにキャビティから取り出すことができる、キャビティ(図示せず)内に位置するサンプル容器と封止可能に係合することができる。
図1の装置では、凍結保存中にキャビティ内の圧力を調節するように構成されたピストン22が存在する。
【0086】
図示されていないが、本体14は、通常、ガラス化中にキャビティからの過度の熱損失を回避するために断熱され、したがって、効率的なデバイス性能を可能にする。本体14には、屋根部分の下のキャビティの一部に冷却を提供するための二次冷却素子を設けることもできる。二次冷却素子は、冷却液体回路、冷却浴、または任意の他の好適な冷却素子であってもよい。二次冷却素子によって提供される二次冷却は、制御可能であり、したがって、屋根における一次冷却素子に隣接するサンプルの領域のみから氷が形成され、次いで下方に成長することを可能にする。キャビティ内のサンプルの状態を検出するために、キャビティ内にセンサー24および26を設けることができる。例示的なセンサーは、サンプルからの直接的な温度読み取り値を提供するための熱電対、またはサンプル内の氷前線の下向きの進行に関するフィードバックを提供するための光源に結合されたフォトダイオードを含む。
【0087】
図2は、同様の装置1の断面図であり、キャビティ内に位置する未凍結の凍結保存媒体30中の生体物質のサンプルが凍結保存を受けており、ハウジング10の屋根16に位置する一次冷却素子18に隣接するサンプルの頂部に氷前線32が確立されている。凍結保存中の氷の成長の方向は矢印34で示されている。生体サンプルは、透過性棚38上に保持された組織サンプル36などの固体として存在してもよい。あるいは、サンプルは溶液中にあってもよく、キャビティの底部とまたはキャビティ内に位置するサンプル容器(図示せず)と封止可能に係合するバイアル40に導入されてもよい。入口/出口ポート20cは、入口/出口ポート20a及び20bを補完するように設けられる。
【0088】
操作において、凍結保存媒体中の生体物質のサンプルは、ハウジング本体14および屋根16によって画定されるキャビティ内に、必要に応じて、屋根16に位置する一次冷却素子18およびハウジング10の壁または底部に位置する任意の二次冷却素子との良好な熱接触を提供するような形状のサンプル容器内に装填される。サンプルへの冷却は、最初に一次冷却素子18によって提供され、サンプルの上部に氷前線32を発生させる。溶質(すなわち、CPA)およびサンプルは、氷前線32から排除され、氷の下の溶質富化氷の密度の増加により、ハウジングの底部に向かって重力下で落下する。
【0089】
氷前線32がサンプルの上部に確立されると、ハウジング10の壁または床に位置する二次冷却素子による二次冷却を作動させることができ、二次冷却は、氷前線32の下のサンプル30の一部を氷前線32の温度よりわずかに高い温度まで冷却するように制御される。冷却素子によって提供される冷却は、制御ユニットによって制御され、キャビティ壁上に位置するか、またはキャビティ内に位置するサンプル容器(存在する場合)内に位置するセンサーからのフィードバックに応答して調節することができる。冷却は、氷前線32より下の未凍結層30の温度が、残留する未凍結の凍結保存媒体のガラス転移温度未満に下がるまで進行し、冷却を続けると、この層は凍結するのではなくガラス化する、すなわちガラスとして固化する。入力/出力ポート20a、20b、20cは、追加の凍結防止剤を少しずつ且つ漸進的に導入することを可能にし、したがって、実用的な液相線追跡凍結保存技術を実施することを可能にする。ガラス化した生体サンプルは、透過性棚38(存在する場合)上にまたはサンプルの底部のバイアル40に位置することができる。
【0090】
図3は、熱伝導性部材の好ましい実施形態を示し、この場合、熱伝導および培養媒体全体にわたる温度の均質化のために使用される中央ロッド31の形態である。中央ロッド31は、カラー31aを使用してスターリングエンジン又は他の冷却源に熱的に接続される。このカラーは、洗浄および氷核生成を助けるための滑らかな被覆を潜在的に含む、焼結金属などの半導電性材料で構成することができる。中央ロッドのコア31cは、アルミニウムまたはアルミニウム合金などの熱伝導性材料で構成される。好ましい実施形態では、断熱材31bはコア31cに沿って間隔を置いて存在して、ロッドの別個のステップでの等しい伝導を確実にする。他の実施形態では、様々な厚さの連続断熱材料を使用して、サンプルに同様の影響を及ぼすことができる。
【0091】
図4は、上述の装置1の修正版である装置1’を示すさらなる実施形態を示し、ここでは、中央ロッド31がサンプルキャビティ34内に配置され、サンプルキャビティ34は、断熱33、例えば真空または部分真空を含むハウジング37内に保持される。中央ロッドは、スターリングエンジン22または他の冷却源に接続され、サンプルキャビティ34内に配置される。キャビティは、凍結保存媒体35で満たされるか、または部分的に満たされる。生体物質36は、この媒体の底部に配置または保持され、冷却が主にロッド31を介して始まると、生体物質を取り囲む底部での液体は、最初は液体状態のままであり、
図1および
図2を参照して上述したように動作可能であり得る。
【0092】
以上、本発明の実施例について説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良、変形、及び省略が可能である。