(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】検査装置
(51)【国際特許分類】
G01M 13/021 20190101AFI20230306BHJP
【FI】
G01M13/021
(21)【出願番号】P 2019003887
(22)【出願日】2019-01-11
【審査請求日】2021-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148301
【氏名又は名称】竹原 尚彦
(74)【代理人】
【識別番号】100176991
【氏名又は名称】中島 由布子
(72)【発明者】
【氏名】下坂 俊郎
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-222818(JP,A)
【文献】特開昭64-84129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物の振動を検出する振動検出手段と、
前記振動検出手段が出力する振動信号の同期平均処理を実施する処理手段と、
前記
振動信号の同期平均処理の結果に基づいて、
第1の閾値との比較により、前記検査対象物内の歯車組を構成する歯車部品での異常の有無を判定する判定手段と、を有する検査装置において、
前記歯車部品の外周の歯部が設けられた領域の側面に対向配置された回転センサと、
前記回転センサが出力するパルス信号を
、F/V変換により電圧信号に変換する変換手段と、をさらに備え、
前記処理手段が、前記変換手段が変換した電圧信号
からDC成分を除去したのちに、同期平均処理を実施し、
前記判定手段が、前記電圧信号の同期平均処理の結果に基づいて、
第2の閾値との比較により、前記回転センサ側から見た前記歯部の側面形状の異常の有無を判定
し、
前記振動信号の同期平均処理は、前記回転センサが対向配置された前記歯車部品が1回転する間の振動波形を同期させて平均する処理であり、
前記電圧信号の同期平均処理は、前記回転センサが対向配置された前記歯車部品が1回転する間の電圧信号を同期させて平均する処理である、ことを特徴とする検査装置。
【請求項2】
前記歯部の側面形状の異常の有無が検査される歯車部品は、ヘリカルギアであることを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記検査装置は、前記検査対象物の動作試験を実施する工程に設けられており、
前記歯車部品での異常の有無の判定は、前記動作試験の際に前記振動検出手段が検出した前記検査対象物の振動に基づいて実行され、
前記歯部の側面形状の異常の有無の判定は、前記動作試験の際に前記回転センサが検出した前記検査対象物内の歯車部品の回転に基づいて実行されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記歯車部品での異常の有無の判定と、前記歯部の側面形状の異常の有無の判定は、前記動作試験に並行して実施されることを特徴とする請求項3に記載の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用の自動変速機の完成品の検査で用いられる検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の自動変速機では、回転駆動力の伝達経路上に複数の歯車組が設けられており、各歯車組では、互いに噛合する歯車部品を介して回転が伝達される。
歯車部品は、一例として以下のような手順で作成される。
(1)棒状素材の熱間鍛造により、軸部の長手方向の途中位置に大径部を造形する。(2)大径部の外周に、切削加工により歯部を形成する。(3)歯部が形成された歯車部品の浸炭処理を行う。(4)浸炭処理後の歯車部品において、他の歯車部品との噛合面となる歯部の表面を研磨する。
【0003】
歯部の研磨は、歯部の表面における他の歯車部品との噛合面となる領域や、センサによる検出面となる側面領域を砥石で研磨して、浸炭処理で酸化された素材表面を除去するために実施される。
しかし、例えば車両用の自動変速機に採用されている歯車部品のように、歯部が湾曲したヘリカルギアの場合、歯部の表面の酸化された素材表面を完全に除去することが難しい。
【0004】
ここで、歯部の一部に残った酸化された素材表面は、黒色を呈していることから黒皮残りと呼ばれている。歯車部品では、他の歯車部品との噛み合い部分に黒皮残りがあると、回転伝達時の異音の発生原因となる。
そのため、自動変速機の生産ラインでは、完成品の検査工程に、異音の有無を検査する検査装置が設けられている。
【0005】
特許文献1には、異音の有無を検査する検査装置であって、異常のある歯車部品を特定するための装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【0007】
この種の検査装置では、自動変速機の完成品の動作試験を行う際に、動作試験に並行して振動データを取得して、取得した振動データから異音の有無を判断する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、歯車部品の側面領域は、センサの検出面として用いられることがあるので、側面領域が研磨されすぎると、センサによる検出に不具合が生じる。
しかし、異音は削り残しに起因して発生することが多く、研磨され過ぎた場合については、異音の検査では検出できない。
そのため、研磨され過ぎた場合について検査するために、専用の検査機器と検査工程を別途用意する必要がある。そうすると、自動変速機の完成品にかかる検査が長くなる。
そこで、研磨されすぎた場合についての検査をより短時間で行えるようにすることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様は、
検査対象物の振動を検出する振動検出手段と、
前記振動検出手段が出力する振動信号の同期平均処理を実施する処理手段と、
前記振動信号の同期平均処理の結果に基づいて、第1の閾値との比較により、前記検査対象物内の歯車組を構成する歯車部品での異常の有無を判定する判定手段と、を有する検査装置において、
前記歯車部品の外周の歯部が設けられた領域の側面に対向配置された回転センサと、
前記回転センサが出力するパルス信号を、F/V変換により電圧信号に変換する変換手段と、をさらに備え、
前記処理手段が、前記変換手段が変換した電圧信号からDC成分を除去したのちに、同期平均処理を実施し、
前記判定手段が、前記電圧信号の同期平均処理の結果に基づいて、第2の閾値との比較により、前記回転センサ側から見た前記歯部の側面形状の異常の有無を判定し、
前記振動信号の同期平均処理は、前記回転センサが対向配置された前記歯車部品が1回転する間の振動波形を同期させて平均する処理であり、
前記電圧信号の同期平均処理は、前記回転センサが対向配置された前記歯車部品が1回転する間の電圧信号を同期させて平均する処理である、構成の検査装置とした。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、自動変速機の完成品の動作試験を行う際に、動作試験に並行して、歯車部品での異常の有無と、歯部の側面形状の異常の有無を、同じ検査装置を用いて判断できる。
歯部の側面形状の異常は研磨され過ぎた場合に発生するので、研磨され過ぎた場合についての検査をより短時間で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態にかかる検査装置の概略構成図である。
【
図2】制御装置に入力される振動データと、制御装置における振動データの処理を説明する図である。
【
図4】研磨し過ぎた領域を持つ歯部の形状とパルス信号への影響を説明する図である。
【
図5】制御装置に入力される電圧信号と、制御装置における電圧信号の処理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本実施形態にかかる検査装置10の概略構成を示す図である。
【0013】
検査装置10は、振動センサ11と、回転センサ12と、制御装置13と、F/V変換器14(周期/電圧変換器)と、を有している。
検査装置10の検査対象物は、車両用の自動変速機ATである。車両用の自動変速機ATでは、回転駆動力の伝達経路上に複数の歯車組α、βが設けられている。
検査装置10は、歯車組α、βを構成する歯車部品4、5、6、7での不具合の有無を検査するために設けられている。
【0014】
歯車部品を作製する過程には、他の歯車部品との噛合面となる歯部の表面を研磨する工程が含まれている。この工程は、(a)浸炭処理で酸化された素材表面の除去、(b)バリの除去、を目的としている。
【0015】
歯車部品では、歯部の領域における酸化された素材表面の除去が不十分であると、回転駆動力の伝達時に、他の歯車部品との噛み合い部分に異音が生じる。
歯車部品の回転軸方向における歯部の側面領域は、回転センサ12による検知面となっている。そのため、歯部の側面領域の素材表面を研磨し過ぎた場合には、歯部の側面領域の形状が規定の形状とは異なるものになる結果、回転センサ12による検知に支障が生じる。
【0016】
本実施形態の検査装置10は、自動変速機の生産ラインにおいて、完成品の検査工程に設置されている。
検査装置10は、振動センサ11や回転センサ12の出力信号に基づいて、歯車部品の表面素材の除去が不十分であるか否かの検査(検査1)と、素材表面を削りすぎているか否かの検査(検査2)を、完成品の自動変速機の一回の動作試験において並行して行える仕様となっている。
【0017】
振動センサ11は、自動変速機ATの略中央の直上に設けられている。振動センサ11は、完成品の動作検査を実施する際に、検査対象物である自動変速機ATの振動を検出し、検出した振動を示す信号(振動信号)を制御装置13に出力する。
【0018】
回転センサ12は、歯車部品7(例えば、ファイナルギア)や回転軸X1、X2、X3の回転速度を検出し、歯車部品7の回転速度を示すパルス信号や、回転軸X1、X2、X3の回転速度を示すパルス信号を、制御装置13に出力する。
図1では、回転センサ12を代表して一つのみ記載しているが、自動変速機ATには、回転センサ12が、検出対象ごとに設けられており、回転センサ12の各々は、検出対象の回転速度を示すパルス信号を、制御装置13に出力する。
なお、歯車部品7(例えば、ファイナルギア)の回転速度を示すパルス信号は、F/V変換器14にも出力される。
【0019】
F/V変換器14は、回転センサ12から入力される回転パルス信号を、F/V変換(周期/電圧変換)により電圧信号に変換する。変換された電圧信号は、制御装置13に出力される。
【0020】
図1に示すように、振動センサ11の出力信号(振動信号)は、検査装置10の入出力ポートにおけるチャンネル1(Ch1)から入力される。回転センサ12のパルス信号は、入出力ポートにおける入力ポートInから入力される。F/V変換器14の出力信号(電圧信号)は、検査装置10の入出力ポートにおけるチャンネル2(Ch2)から入力される。
【0021】
制御装置13は、RAM、ROM、不揮発性メモリなどの記憶媒体と、CPUなどを含んでいる。制御装置13は、記憶媒体に記憶されたプログラムに基づいて、歯車部品の表面素材の除去が不十分であるか否かの検査(検査1)と、素材表面を削りすぎているか否かの検査(検査2)を実施する。
【0022】
制御装置13は、記憶媒体に記憶されたプログラムに基づいて、同期平均処理を実施する処理手段131、歯車部品での異常の有無を判定する判定手段132、として機能する。
【0023】
処理手段131は、自動変速機AT(検査対象物)の振動を検出する振動センサ11(振動検出手段)が出力する振動信号の同期平均処理と、F/V変換器14(変換手段)が変換した電圧信号の同期平均処理を実施する。
【0024】
判定手段132は、振動信号の同期平均処理の結果に基づいて、自動変速機AT(検査対象物)内の歯車組を構成する歯車部品での異常の有無を判定する。さらに、電圧信号の同期平均処理の結果に基づいて、回転センサ12側から見た歯部71の側面形状の異常の有無を判定する。
【0025】
以下、検査装置10の制御装置13で実施される検査1と検査2を説明する。
[検査1]
始めに、歯車部品の表面素材の除去が不十分であるか否かの検査1を実施する際の処理を説明する。
なお、以下の説明は、歯車組αが検査対象の歯車組であり、歯車組αを構成する一方の歯車部品4が持つ複数の歯部のうちの一歯に、表面素材の除去が不十分な領域があるものとして説明する。この場合には、歯車部品4、5の間での回転駆動力の伝達時に、異音が生じ、少なくとも一方の歯車部品4に打痕が生じていることになる。
【0026】
図2は、制御装置13に入力される振動データと、制御装置13における振動データの処理を説明する図である。
図2の(a)は、振動センサ11から制御装置13に入力される振動データの波形を説明する図である。
図2の(b)は、
図2の(a)の振動データに対して、エンベロープ処理を行ったのちの振動波形Bを、エンベロープ処理の前の振動波形Aと共に示した図である。
図2の(c)は、振動波形Aに対して同期平均処理(同期加算平均処理)を行った後の振動波形C、Dを重畳表示した図である。振動波形Cは、打痕のある歯車部品4の振動波形であり、振動波形Dは、打痕のない歯車部品5の振動波形である。
【0027】
制御装置13には、
図2の(a)に示すような波形の振動データが入力される。
制御装置13は、
図2の(a)に示す振動データ(振動信号)から、検査対象の歯車組αの固有振動数に対応する周波数帯域の信号成分を抽出する。これにより得られた振動波形Aが、
図2の(b)において細線で示されている。
検査対象の歯車組の振動波形Aにおいて一定時間毎に現れているピークP1は、打痕付きの歯車部品に起因する振動(異音)に相当するものである。
【0028】
制御装置13は、
図2の(b)に示す振動波形Aに対して、エンベロープ処理を施すことで、振動波形Aの外形を取り出した振動波形Bを得る。
ここで、エンベロープ処理とは、包絡線処理とも呼ばれ、振幅の外形を取り出す処理である。エンベロープ処理では、振動信号の振動波形とヒルベルト変換後波形の直交座標値から複素数を算出し、算出した複素数の絶対値波形を包絡線化することにより振動波形の包絡線に比例した出力が得られる。
【0029】
図2(b)の振動波形Bに対して、同期平均処理を行ったのち、検査対象の歯車組の一方の歯車部品の振動波形と、他方の歯車部品の振動波形とに分離する。これにより、
図2の(c)に示す振動波形C、振動波形Dが得られる。
なお、
図2の(c)では、横軸に時間を縦軸に振幅が示されている。
【0030】
ここで、同期平均処理とは、ノイズを含んだ振動波形(信号波形)から特定の周期に一致する成分のデータを取り出すための処理であり、処理対象の振動波形に対する各回転軸X1、X2、X3の寄与を特定するための処理である。
【0031】
同期平均処理では、各回転軸X1、X2、X3に対応する振動波形の各々に対して、以下の処理を実行する。
(I)各回転軸X1、X2、X3が1回転するのに必要な時間を、回転センサ12の出力パルスから算出する。
(II)回転軸が規定回数回転する間の振動波形を、回転軸X1、X2、X3毎に取得する。
(III)回転軸が規定回数回転する間の振動波形を、回転軸が1回転する間の振動波形に分割して、得られた1回転分の振動波形の各々を、同期させた上で重畳して出力値を加算する。
(IV)加算された出力値を規定回数で除算して、回転軸が1回転する間の振動波形(出力値)を平均化する。
【0032】
そうすると、
図2の(c)の振動波形Cに示すように、回転軸X1についてはピーク値Pmaxが高い振動波形になる一方で、振動波形Dに示すように、回転軸X2についてはピーク値Pmaxが低い振動波形になる。
【0033】
続いて制御装置13は、同期平均処理で得られた振動波形C、振動波形Dと、閾値Th1との比較により、振動波形C、振動波形Dにおいて、出力値が閾値Th1よりも大きい領域が存在するか否かを確認する。
そして、出力値が閾値Th1よりも大きい領域が存在する場合に、打痕付きの歯車があると判定し、存在しない場合には、打痕付きの歯車がないと判定する。
【0034】
図2の(c)の場合には、検査対象が歯車組αであるので、回転軸X1に固定された歯車部品4に打痕があると判定されることになる。
【0035】
なお、ここでは、検査対象が歯車組αである場合を例に挙げて説明した。他の歯車組βについては、歯車組αに対して打痕の有無を確認する処理に並行して、打痕の有無を確認する処理が実行される。
【0036】
なお、自動変速機ATに複数の検査対象の歯車組がある場合には、歯車組の各々についての打痕の有無を確認する処理が、自動変速機ATの1回の動作試験の間に取得されたデータを用いて実行される。
すなわち、検査対象の歯車組が複数ある場合であっても、動作試験を複数回行わずに済むようになっている。
【0037】
[検査2]
次に、歯車部品の素材表面を研磨し過ぎているか否かの検査2を実施する際の処理を説明する。
なお、以下の説明は、歯車組βが検査対象の歯車組であり、歯車組βを構成する一方の歯車部品7が持つ複数の歯部71のうちの一歯に、素材表面を研磨し過ぎた領域があるものとして説明する。
【0038】
図3は、歯車部品7(ファイナルギア)を説明する図であり、
図3の(a)は、歯車部品7の斜視図であり、
図3の(b)は、歯車部品7を回転軸Xの径方向から見た図である。
図4は、歯車部品7の歯部71における研磨し過ぎた領域Rxを持つ歯部71Xの形状と、歯部71Xの形状のパルス信号への影響を説明する図である。
図4の(a)は、歯車部品7の側面領域701を回転軸X方向から見た図であって、外周の歯部71周りを拡大した図である。
図4の(b)は、回転センサ12の出力パルスを説明する図であって、研磨し過ぎた領域Rxの影響を示す図である。
なお、
図4の(a)では、歯車部品7の外周に弧状に並ぶ歯部71を、説明の便宜上、直線状に並べて示している。
【0039】
図5は、制御装置13に入力され
る信号と、制御装置13におけ
る信号の処理を説明する図である。
図5の(a)は、F/V変換器14(周期/電圧変換器
)に入力され
る信号の波形(信号波形)を説明する図である。
図5の(b)は、
図5の(a)の電圧信号に対して、
F/V変換処理を行ったのちの信号波形Eを示した図である。
図5の(c)は、信号波形Eに対して
フィルタ処理を行った後の信号波形Fを示した図である。
信号波形Fは、研磨し過ぎた領域Rxを持つ歯車部品7(ファイナルギア)の波形である。
【0040】
図3に示すように、回転軸Xの径方向から見て、歯車部品7(ファイナルギア)の外周の歯部71は回転軸Xに対して所定角度傾斜すると共に、回転軸X方向の一方の側面70aから他方の側面70bに向かうにつれて、歯スジが捻れるように湾曲したヘリカルギアである。
【0041】
歯車部品7では、回転軸X方向における一方の側面70aにおける歯部71が形成された外周側の所定幅の範囲(側面領域701)が、回転センサ12による検知面となっている。
ここで、側面領域701の研磨は、フレージング加工により行われる。フレージング加工では、回転させた歯車部品7に、研削歯を持つツールを接触させて、側面領域701を研磨する。
フレージング加工では、研削歯が側面領域に接触した時点で、歯車部品の回転による応力がツールに作用するので、研削歯と側面領域との接触角度が変化しやすい。接触角度が変化すると、研削歯が最初に接触する歯の側面領域に、研磨し過ぎた領域Rx(
図4の(a)参照)が形成され易くなる傾向がある。
【0042】
図3の(b)に示すように、回転センサ12は、回転軸X方向から側面領域701に対向して設けられている。回転軸Xの径方向における側面領域701の略中間を通る線分Lm上(
図4の(a)参照)に、回転センサ12の検知面12aが対向している。
【0043】
回転センサ12は、検知面12aの延長上を歯溝部72が通過した場合に、オン信号を出力し、歯部71が通過した場合にオフ信号を出力する(
図4の(b)参照)。
そのため、側面領域701が適切に研磨された歯車部品7の場合、歯部71とこの歯部71に隣接する歯溝部72との回転軸X周りの周方向の幅Wは、回転軸X周りの周方向の全周に亘って略一定である。そのため、歯車部品7が一定速度で回転している場合、回転センサ12が出力するパルス信号では、オフ信号からオン信号までの時間幅tは、一定の値となる。
【0044】
図4の(a)に示すように、浸炭処理後の研磨により、側面領域701の素材表面が研磨され過ぎた場合、歯車部品7はヘリカルギアであるので、研磨され過ぎた領域Rxの分だけ、歯部71の回転軸X周りの周方向の幅Wが狭くなる。
【0045】
そうすると、回転センサ12の出力パルスは、研磨され過ぎた領域Rxの影響を受けて、領域Rxを持つ歯部71Xの前後で、オフ信号からオン信号までの時間幅tが変化する。
すなわち、領域Rxを持つ歯部71Xと歯溝部72に対応するオフ信号からオン信号までの時間幅は、領域Rxの影響を受けて、時間幅aだけ短くなる(t-a)。
【0046】
歯車部品7の回転方向において、歯部71Xの上流側で隣接する歯部71と歯溝部72に対応するオフ信号からオン信号までの時間幅は、領域Rxの影響を受けて、時間幅aだけ長くなる(t+a)。
【0047】
そうすると、回転センサ12のパルス信号が入力される制御装置13において、歯車部品7の回転速度を適切に検知できなくなる。
【0048】
本実施形態では、領域Rxを持つ歯部71Xの存在を適切に検出できるようにするために、回転センサ12のパルス信号を、F/V変換器14を介して制御装置13に入力する。そして、制御装置13が、F/V変換器14を介して入力される電圧信号(信号波形)に対する検査2を行って、領域Rxを持つ歯部71Xの有無を確認している。
【0049】
F/V変換器14では、回転センサ12から入力される回転パルス信号が、F/V変換(周期/電圧変換)によ
り変換され
て、制御装置13には、
図5の(
b)に示すような波形
の信号が入力される。
【0050】
制御装置13では、入力された電圧信号においてDC成分(回転が上昇・下降する成分)の除去と、高速サンプリングと、フィルタ処理と
、を実施して、
図5の(
c)に示すような信号波
形を得る。
図5の(b)では、横軸が時間tであり、縦軸が回転軸X3の回転数である。
信号波形Eにおいて一定時間毎に現れているピークP2は、研磨し過ぎた領域Rxを持
つ歯部71Xに起因するものである。
【0051】
制御装置13では、
図5の(
c)に示す信号波
形に対して、同期平均処理を行う。
信号波
形に対する同期平均処理では、
(I)回転軸X3が所定回数回転する間の信号波形を、回転軸X3が1回転する間の信号波形に分割して、得られた1回転分の信号波形の各々を、同期させた上で重畳して、信号の出力値を加算する。
(II)加算された信号の出力値を所定回数で除算して、回転軸が1回転する間の信号波
形(出力値)を平均化する
。
【0052】
続いて制御装置13は、同期平均処理で得られた信号波形と、閾値Th2との比較により、信号波形において、出力値が閾値Th2よりも大きい領域が存在するか否かを確認する。
そして、出力値が閾値Th2よりも大きい領域が存在する場合に、研磨し過ぎた領域Rxを持つ歯部71Xがあると判定し、存在しない場合には、研磨し過ぎた領域Rxを持つ歯部71Xがないと判定する。
【0053】
図5の(c)の場合には、研磨し過ぎた領域Rxを持つ歯部71Xがあると判定されることになる。
【0054】
このように、研磨し過ぎた領域Rxを持つ歯部71Xが存在するか否かの検査2のための処理が、自動変速機ATの1回の動作試験の間に取得されたデータを用いて実行される。
この検査2は、前記した検査1と並行して実行することができるので、検査1と検査2を行うに当たり、動作試験を複数回行わずに済むようになっている。
【0055】
回転センサ12のパルス信号をF/V変換して制御装置13に取り込んで処理できない従来例の場合には、以下の手順にて検査2を実施していた。
(i)「検査2」のための専用の動作パターンを、完成品の自動変速機の検査用のパターンとは別に用意する。
(ii)自動変速機を、「検査2」のための専用の動作パターンで別途駆動して、外部の取り出し端末(データロガー)で、回転センサ12の出力信号を読み取る。
(iii)読み取った回転センサ12の出力信号を、専用の解析装置で解析して、研磨し過ぎた領域Rxを持つ歯部71Xが存在するか否かを判断する。
【0056】
上記したように、本実施形態の場合には、自動変速機の動作試験に並行して、振動データと、電圧信号を取得する。そして、取得した振動データの処理による異音の有無の判断と、取得した電圧信号の処理による研磨し過ぎた領域Rxを持つ歯部71Xの有無の判断を、動作試験に並行して実施できる。
【0057】
そのため、従来例の場合に比べて、より短い時間で、歯車組における不具合の有無を判断できる。これにより、完成品の自動変速機の検査工程での滞留時間を短くできるので、自動変速機の生産効率の向上が期待できる。
【0058】
本実施形態では、検査装置の検査対象が車両用の自動変速機である場合を例示した。本件発明にかかる検査装置の検査対象は、自動変速機のみに限定されない。
例えば、減速歯車列を有する減速機などのように、内部に複数の歯車組を有する他の装置における歯車部品での異常の有無の判断にも適用できる。
【0059】
以上の通り、本実施形態に係る検査装置10は、以下の構成を有している。
(1)検査装置10は、
自動変速機AT(検査対象物)の振動を検出する振動センサ11(振動検出手段)と、
制御装置13と、を有する。
制御装置13は、
振動センサ11が出力する振動信号の同期平均処理を実施する処理手段131、
同期平均処理の結果に基づいて、自動変速機AT(検査対象物)内の歯車組α、βを構成する歯車部品4、5、6、7での異常の有無を判定する判定手段132、として機能する。
検査装置10は、
歯車部品7の外周の歯部71が設けられた領域の側面に対向配置された回転センサ12と、
回転センサ12が出力するパルス信号を電圧信号に変換するF/V変換器14(変換手段)と、を有している。
制御装置13では、
処理手段131が、F/V変換器14(変換手段)が変換した電圧信号の同期平均処理を実施し、
判定手段132が、電圧信号の同期平均処理の結果に基づいて、回転センサ12側から見た歯部71の側面形状の異常の有無を判定する。
【0060】
このように構成すると、本発明によれば、自動変速機ATの完成品の動作試験を行う際に、動作試験に並行して、歯車部品4~7での異常の有無と、歯部71の側面形状の異常の有無を、同じ検査装置10を用いて判断できる。
歯部71の側面形状の異常は研磨されすぎた場合に発生するので、研磨され過ぎた場合についての検査をより短時間で行うことができる。
【0061】
本実施形態に係る検査装置10は、以下の構成を有している。
(2)歯部71の側面形状の異常の有無が検査される歯車部品7は、ヘリカルギアである。
【0062】
ヘリカルギアである歯車部品7(ヘリカルギア)は、回転軸Xの径方向から見て、歯車外周の歯部71が、回転軸Xに対して所定角度傾斜すると共に、回転軸X方向の一方の側面70aから他方の側面70bに向かうにつれて、歯スジが捻れるように湾曲している。
ここで、歯部の側面領域の研磨は、例えばフレージング加工により行われる。フレージング加工では、ツールが持つ研削歯が側面領域に接触した時点で、歯車部品の回転による応力がツールに作用して、研削歯と側面領域との接触角度が変化しやすい。接触角度が変化すると、研削歯が最初に接触する歯部の側面領域に、研磨し過ぎた領域Rx(
図4の(a)参照)が形成され易くなる。
そのため、ヘリカルギアは、歯部71の側面形状の異常が比較的に生じやすい歯車部品である。このような歯車部品の歯部における側面形状の異常の有無を、別途専用の機器や工程を用意することなく、自動変速機ATの動作試験に並行して検査できるので、異常の有無の検査に要する時間を短縮しつつ、適切に行えるようになる。
【0063】
本実施形態に係る検査装置10は、以下の構成を有している。
(3)検査装置10は、自動変速機AT(検査対象物)の動作試験を実施する工程に設けられている。
歯車部品4~7での異常の有無の判定(検査1)は、自動変速機ATの動作試験の際に振動センサ11(振動検査手段)が検出した自動変速機ATの振動に基づいて実行される。
歯部71の側面形状の異常の有無の判定(検査2)は、自動変速機ATの動作試験の際に回転センサ12が検出した自動変速機ATにおける歯車部品7の回転に基づいて実行される。
【0064】
このように構成すると、検査1と検査2を、自動変速機ATの動作試験に並行して行うことができる。
検査1や検査2のために、別途検査用の工程や、検査用に自動変速機ATの動作パターンを別途用意する必要がない。
これにより、検査1と検査2をより簡便に実施できる。
【0065】
本実施形態に係る検査装置10は、以下の構成を有している。
(4)歯車部品4~7での異常の有無の判定(検査1)と、歯部71の側面形状の異常の有無の判定(検査2)は、自動変速機ATの動作試験に並行して実施される。
【0066】
このように構成すると、自動変速機ATの動作試験後に、検査1と検査2による異常の有無の判断を並行して行うことができ、検査2をするために、自動変速機ATを専用の動作パターンで動作させる必要がない。
これにより、自動変速機ATの動作試験後と、検査1と、検査2と、に要する時間を短縮できる。これにより、自動変速機ATが、完成検査のための工程に滞留する時間が短くなるので、自動変速機の生産効率の向上が期待できる。
【0067】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は、これら実施形態に示した態様のみに限定されるものではない。発明の技術的な思想の範囲内で、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0068】
4、5、6 歯車部品
7 歯車部品
70a、70b 側面
71 歯部
71X 歯部
72 歯溝部
10 検査装置
11 振動センサ
12 回転センサ
13 制御装置
14 F/V変換器
131 処理手段
132 判定手段
701 側面領域
AT 自動変速機
A、B、C、D 振動波形
E、F 信号波形
Lm 線分
P1、P2 ピーク
Pmax ピーク値
Rx 領域
Th1 閾値
Th2 閾値
X、X1、X2、X3 回転軸
α、β 歯車組