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特許7237443ビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及びビールテイスト飲料の香味を改善する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】ビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及びビールテイスト飲料の香味を改善する方法
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/021 20190101AFI20230306BHJP
   C12C 12/02 20060101ALI20230306BHJP
   C12C 5/02 20060101ALI20230306BHJP
   C12C 7/053 20060101ALI20230306BHJP
   C12C 7/00 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
C12G3/021
C12C12/02
C12C5/02
C12C7/053
C12C7/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017093131
(22)【出願日】2017-05-09
(65)【公開番号】P2018186773
(43)【公開日】2018-11-29
【審査請求日】2020-05-01
(73)【特許権者】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100135242
【弁理士】
【氏名又は名称】江守 英太
(72)【発明者】
【氏名】松井 雄太
(72)【発明者】
【氏名】新開 哲朗
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03717471(US,A)
【文献】特開2016-149975(JP,A)
【文献】国際公開第2014/196265(WO,A1)
【文献】熊田順一,日本醸造協會雜誌,第71巻 第11号,1976年,pp.819-830
【文献】吉田 重厚,英独和ビール用語辞典,日本,財団法人 日本醸造協会,2004年02月15日,p.164
【文献】16 し好飲料類、日本食品標準成分表2015年版(七訂)[online]、2015年、retrieved from the internet<URL:https://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/02/16/1365343_1-0216r9.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G、C12C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料として麦芽及び糖類を含み、原料中の麦芽の比率が50質量%以上67質量%未満であり、糖質含有量が0.59g/100ml以下であり、タンパク質含有量が0.25g/100ml以上0.60g/100ml以下である、ビールテイスト飲料。
【請求項2】
原料中の糖類の比率が30質量%以上50質量%未満である、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
酢酸イソアミル濃度が4.0ppm以下である、請求項1又は2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項4】
麦芽を含む原料を用い、
原料中の麦芽の比率が50質量%以上67質量%未満であり、
糖質原料としてショ糖を用い、
ビールテイスト飲料の糖質含有量が0.59g/100ml以下、タンパク質含有量が0.25g/100ml以上0.60g/100ml以下となるように調整することを含む、ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項5】
糖質原料としてショ糖を用い、ビールテイスト飲料の糖質含有量が0.59g/100ml以下、タンパク質含有量が0.25g/100ml以上0.60g/100ml以下となるように調整することを含む、原料中の麦芽の比率が50質量%以上67質量%未満であるビールテイスト飲料の香味を改善する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及びビールテイスト飲料の香味を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の嗜好性の多様化から、発泡酒、リキュールなどのビールテイスト飲料が広く消費されている。このようなビールテイスト飲料の消費拡大に伴って、ビールテイスト飲料の香味を向上させる方法が種々報告されている。例えば特許文献1には、ビールテイスト飲料のキレを維持しつつ、コクを増強する方法として、水溶性食物繊維と、一定量の高甘味度甘味料を含有するビールテイスト飲料が開示されている。
【0003】
一方で、近年の健康志向の上昇から、糖質含有量の低いビールテイスト飲料の需要が高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-166169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、原料中の麦芽の比率が50質量%以上70質量%未満である低糖質(例えば、糖質含有量が1.0g/100ml未満)のビールテイスト飲料は、酸味が目立ち、濃醇さが不十分で、かつエグ味(飲料を飲んだ際に後に残るエグ味)と硫化物臭が感じられ、全体として香味に欠けるという課題が本発明者らによって新たに見出された。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、低糖質でありながら、良好な酸味と濃醇さを有し、かつエグ味と硫化物臭が低減され、全体として香味が改善されたビールテイスト飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、原料中の麦芽の比率が50質量%以上70質量%未満であり、糖質含有量が1.0g/100ml未満であり、タンパク質含有量が0.20g/100ml以上である、ビールテイスト飲料を提供する。本発明のビールテイスト飲料は、タンパク質含有量が上記範囲であることにより、良好な酸味と濃醇さを有し、かつエグ味と硫化物臭が低減され、全体として香味が改善されている。
【0008】
上記ビールテイスト飲料は、原料中の麦芽の比率が50質量%以上67質量%未満であることが好ましい。原料中の麦芽の比率が上記範囲であることにより、酸味と濃醇さがより良好なものとなり、かつエグ味と硫化物臭が低減されるというビールテイスト飲料の香味改善効果がより顕著なものとなる。
【0009】
上記ビールテイスト飲料は、原料として糖類を用いることが好ましい。これにより、麦芽由来の不快な香味を低減することができる。
【0010】
上記ビールテイスト飲料は、酢酸イソアミル濃度が4.0ppm以下であることが好ましい。これにより、酢酸イソアミル臭が低減され、ビールテイスト飲料の香味がより一層改善される。
【0011】
本発明はまた、麦芽を含む原料を用い、原料中の麦芽の比率が50質量%以上70質量%未満であり、ビールテイスト飲料の糖質含有量が1.0g/100ml未満、タンパク質含有量が0.20g/100ml以上となるように調整することを含む、ビールテイスト飲料の製造方法を提供する。
【0012】
本発明はまた、ビールテイスト飲料の糖質含有量が1.0g/100ml未満、タンパク質含有量が0.20g/100ml以上となるように調整することを含む、原料中の麦芽の比率が50質量%以上70質量%未満であるビールテイスト飲料の香味を改善する方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、良好な酸味と濃醇さを有し、かつエグ味と硫化物臭が低減され、全体として香味が改善された、低糖質のビールテイスト飲料、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本明細書において「原料」とは、酒税法(平成二八年三月三一日法律第一六号)に基づいて決定されたビールテイスト飲料の製造に用いられる全原料のうち、水及びホップ以外のものを意味する。
【0016】
本明細書において「約」とは、±3%の範囲内の数値を示す。
【0017】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、原料中の麦芽の比率が50質量%以上70質量%未満であり、糖質含有量が1.0g/100ml未満であり、タンパク質含有量が0.2g/100ml以上である。
【0018】
本明細書において、ビールテイスト飲料とは、ビール様の香味を有する飲料を意味する。ビールテイスト飲料は、アルコール度数が1v/v%以上であるビールテイストアルコール飲料であってもよく、アルコール度数が1v/v%未満であるノンビールテイストアルコール飲料であってもよい。本実施形態に係るビールテイスト飲料は、ビールテイスト飲料としてのアルコール感を担保する観点から、アルコール度数が1v/v%以上であるビールテイストアルコール飲料であることが好ましい。なお、本明細書においてアルコールとは、特に言及しない限りエタノールを意味する。
【0019】
ビールテイストアルコール飲料としては、例えば、酒税法(平成二八年三月三一日法律第一六号)上のビール、発泡酒、その他の発泡性酒類、リキュールに分類されるものが挙げられる。
【0020】
ビールテイストアルコール飲料のアルコール度数の下限は、例えば、1v/v%以上、2v/v%以上、3v/v%以上、4v/v%以上、又は5v/v%以上であってもよい。また、ビールテイストアルコール飲料のアルコール度数の上限は、例えば、20v/v%以下、15v/v%以下、10v/v%以下、9v/v%以下、8v/v%以下、7v/v%以下、6v/v%以下、5v/v%以下、4v/v%以下、又は3v/v%以下であってもよい。
【0021】
ノンアルコールビールテイスト飲料は、実質的にアルコールを含有しないビールテイスト飲料である。ノンアルコールビールテイスト飲料のアルコール度数は、1v/v%未満であればよく、0.5v/v%以下であってよく、0.1v/v%以下であってよく、0.005v/v%未満(0.00v/v%)であってもよい。
【0022】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、発泡性であってもよく、非発泡性であってもよい。本実施形態に係るビールテイスト飲料は、発泡性であることが好ましい。本明細書において発泡性とは、20℃におけるガス圧が0.049MPa(0.5kg/cm)以上であることをいい、非発泡性とは、20℃におけるガス圧が0.049MPa(0.5kg/cm)未満であることをいう。発泡性とする場合、ガス圧の上限は0.294MPa(3.0kg/cm)程度であってもよく、0.235MPa(2.4kg/cm)程度であってもよい。
【0023】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、原料中の麦芽の比率が50質量%以上70質量%未満であればよく、50質量%以上67質量%未満、50質量%以上66.6質量%以下、50質量%以上60質量%以下、又は50質量%以上55質量%以下であってよい。原料中の麦芽の比率が上記範囲であると、酸味と濃醇さがより良好なものとなり、かつエグ味と硫化物臭が低減されるというビールテイスト飲料の香味改善効果が奏される。
【0024】
麦芽は、麦を発芽させることにより得ることができる。麦としては、例えば、大麦、小麦、ライ麦、カラス麦、オート麦、ハト麦、エン麦等であってよく、大麦であることが好ましい。麦芽にはモルトエキスが含まれる。
【0025】
本実施形態に係るビールテイスト飲料において、原料中の麦芽は色麦芽を含んでいてもよい。原料中の色麦芽の使用比率は、例えば、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、又は10質量%以上であってよい。原料中の色麦芽の使用比率は、例えば、15質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、又は1質量%以下であってよい。色麦芽を配合することによって、得られるビールテイスト飲料の色を調整することができる。
【0026】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、原料が麦芽以外の麦原料を含んでもよい。麦芽以外の麦原料としては、例えば、大麦、小麦、ライ麦、カラス麦、オート麦、ハト麦、エン麦等の麦;麦エキス等の麦加工物が挙げられる。麦エキスは、麦から糖分及び窒素分を含む麦エキス分を抽出することにより得られる。麦芽以外の麦原料としては、1種を単独で使用してもよく、複数種を併用してもよい。
【0027】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、原料が麦原料以外の植物原料を含んでもよい。麦原料以外の植物原料としては、例えば、とうもろこし、米類、コウリャン等の穀類;馬鈴薯、サツマイモ等のイモ類;大豆、エンドウ等の豆類等が挙げられる。本実施形態に係るビールテイスト飲料においては、より濃醇な味わいを担保する観点から、原料としてとうもろこしを用いないことが好ましい。
【0028】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、原料として糖類(糖質原料)を用いることが好ましい。糖類としては、平成11年6月25日付けの酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達第3条において規定される「糖類」であれば特に制限されない。糖類は、単糖類、二糖類、三糖類又はこれらの組み合わせであってよく、四糖以上の糖類を更に含んでいてもよい。単糖類としては、例えば、ブドウ糖、果糖、ガラクトース、キシロース、アラビノース、タガトース等が挙げられる。二糖類としては、例えば、ショ糖、ラクトース、麦芽糖、イソマルトース、トレハロース、セロビオース等が挙げられる。三糖類としては、例えば、マルトトリオース、イソマルトトリオース、ラフィノース等が挙げられる。四糖以上の糖類としては、例えば、スタキオース、マルトテトラオース等が挙げられる。糖類の形態は、例えば、粉末状、顆粒状、ペースト状、液状等であってよい。液状の糖類としては、例えば、ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖、高果糖液糖、砂糖混合異性化液糖等の液糖であってもよい。糖類はグラニュー糖又は上白糖であってもよい。
【0029】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、原料としての糖類における単糖類、二糖類及び三糖類の質量を合計した比率が50質量%以上、70%質量以上、90%質量以上、又は95質量%以上であってもよい。また、本実施形態に係るビールテイスト飲料は、原料としての糖類における単糖類の質量を合計した比率が50質量%以上、70%質量以上、90%質量以上、又は95質量%以上であってもよい。また、本実施形態に係るビールテイスト飲料は、原料としての糖類における二糖類の質量を合計した比率が50質量%以上、70%質量以上、90%質量以上、又は95質量%以上であってもよい。
【0030】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、原料中の糖類の比率が50質量%未満、40質量%以下、33.4質量%以下、33質量%以下、又は30質量%以下であってよい。また、本実施形態に係るビールテイスト飲料は、原料中の糖類の比率が5質量%以上、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、又は40質量%以上であってよい。
【0031】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、糖質含有量が1.0g/100ml未満である。本明細書において糖質とは、食品の栄養表示基準(平成15年厚生労働省告示第176号)に基づく糖質をいう。具体的には、糖質は、食品から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分、水分及びアルコール分を除いたものをいう。ビールテイスト飲料中の糖質含有量は、当該ビールテイスト飲料の重量から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分、水分及びアルコール分の量を控除することにより算定される。タンパク質、脂質、灰分、水分の量は、栄養表示基準に掲げる方法により測定する。アルコール分の量は、水分量とともに測定することができる。具体的には、タンパク質の量は改良デュマ法による全窒素(タンパク質)の定量法で測定し、脂質の量はエーテル抽出法、クロロホルム・メタノール混液抽出法、ゲルベル法、酸分解法又はレーゼゴットリーブ法で測定し、食物繊維の量は高速液体クロマトグラフ法又はプロスキー法で測定し、灰分の量は酢酸マグネシウム添加灰化法、直接灰化法又は硫酸添加灰化法で測定し、水分及びアルコール分の量はカールフィッシャー法、乾燥助剤法、減圧加熱乾燥法、常圧加熱乾燥法又はプラスチックフィルム法で測定することができる。
【0032】
本実施形態に係るビールテイスト飲料の糖質含有量は、1.0g/100ml未満、0.8g/100ml以下、0.7g/100ml以下、又は0.5g/100ml以下であってもよい。また、本実施形態に係るビールテイスト飲料の糖質含有量は、0.1g/100ml以上、0.2g/100ml以上、0.3g/100ml以上、又は0.5g/100ml以上であってもよい。糖質含有量は、酵素(特に多糖分解酵素)の種類及び添加量、原料の種類及び使用量等によって調整することができる。
【0033】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、タンパク質含有量が0.20g/100ml以上である。タンパク質含有量は、改良デュマ法による全窒素(タンパク質)の定量法で測定することができる。
【0034】
本実施形態に係るビールテイスト飲料のタンパク質含有量は、0.20g/100ml以上、0.25g/100ml以上、0.30g/100ml以上、0.35g/100ml以上、0.40g/100ml以上、0.45g/100ml以上、又は0.50g/100ml以上であってもよい。また、本実施形態に係るビールテイスト飲料のタンパク質含有量は、0.60g/100ml以下、0.55g/100ml以下、0.50g/100ml以下、0.45g/100ml以下、0.40g/100ml以下、0.35g/100ml以下、又は0.30g/100ml以下であってもよい。タンパク質含有量が上記範囲であると、ビールテイスト飲料の酸味と濃醇さが良好なものとなり、かつエグ味と硫化物臭が低減される。タンパク質含有量は、酵素(特にプロテアーゼ)の種類及び添加量、原料の種類及び使用量等によって調整することができる。
【0035】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、酵素及び植物原料由来のタンパク質のほか、原料として別途用いたタンパク質を含んでいてもよい。このようなタンパク質としては、例えば小麦タンパク、大豆タンパク、エンドウタンパク等、又はそれらの分解物等が挙げられる。
【0036】
本実施形態に係るビールテイスト飲料の食物繊維含有量は、1.0g/100ml未満、0.7g/100ml未満、0.5g/100ml未満、0.3g/100ml未満、又は0.2g/100ml未満であってよい。食物繊維含有量は、高速液体クロマトグラフ法又はプロスキー法で測定することができる。食物繊維含有量は、原料の種類及び使用量等によって調整することができる。
【0037】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、植物原料由来の食物繊維のほか、原料として別途用いた食物繊維を含んでいてもよい。このような食物繊維としては、例えば難消化性デキストリンが挙げられる。本実施形態に係るビールテイスト飲料においては、後味の質(後味がしっかりしたものであり、かつ渋味が少ないものであること)がより良好なものとなる観点から、原料として食物繊維を用いないことが好ましい。
【0038】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、酵母エキスを原料として使用してもよいが、酵母エキス特有の香りをビールテイスト飲料に持ち込まない観点から、原料として酵母エキスを使用していないことが好ましい。
【0039】
本実施形態に係るビールテイスト飲料における酢酸イソアミルの濃度は4.0ppm以下であることが好ましく、3.0ppm以下であることがより好ましく、2.0ppm以下であることが更に好ましい。また、本実施形態に係るビールテイスト飲料における酢酸イソアミルの濃度は0.5ppm以上であることが好ましく、1.0ppm以上であることがより好ましい。酢酸イソアミルの濃度が上記範囲であると、酢酸イソアミル臭が低減され、ビールテイスト飲料の香味がより一層改善される。酢酸イソアミルの濃度は、原料の種類及び使用量、酵母の種類及び添加量、発酵条件等によって調整することができる。
【0040】
酢酸イソアミルの濃度は、改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集、2013年増補改訂)の「8.22 低沸点香気成分」に記載の方法によって測定することができる。
【0041】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、高甘味度甘味料を含んでいてもよい。高甘味度甘味料としては、例えば、人工甘味料、ステビア等が挙げられる。人工甘味料としては、例えば、アセスルファムカリウム、スクラロース、アスパルテーム、アドバンテーム、ネオテーム等が挙げられる。本実施形態に係るビールテイスト飲料は、人工甘味料特有の味質をビールテイスト飲料に持ち込まない観点から、人工甘味料を含まないことが好ましい。
【0042】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、着色料を含んでいてもよい。着色料としては、例えば、カラメル色素、クチナシ色素、果汁色素、野菜色素、合成色素等が挙げられる。本実施形態に係るビールテイスト飲料は、着色料特有の味質をビールテイスト飲料に持ち込まない観点から、着色料を含まないことが好ましい。
【0043】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、上述した高甘味度甘味料、着色料に加えて、飲料に通常配合される酸化防止剤、香料、酸味料、塩類等の添加剤を含んでいてもよい。本実施形態に係るビールテイスト飲料は、酸化防止剤、香料、酸味料、塩類を含まないことが好ましい。
【0044】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、容器に入れて提供することができる。容器は密閉できるものであればよく、金属製(アルミニウム製又はスチール製など)のいわゆる缶容器・樽容器を適用することができる。また、容器は、ガラス容器、ペットボトル容器、紙容器、パウチ容器等を適用することもできる。容器の容量は特に限定されるものではなく、現在流通しているどのようなものも適用することができる。なお、気体、水分及び光線を完全に遮断し、長期間常温で安定した品質を保つことが可能な点から、金属製の容器を適用することが好ましい。
【0045】
本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法は、麦芽を含む原料を用い、原料中の麦芽の比率が50質量%以上70質量%未満であり、ビールテイスト飲料中の糖質含有量が1.0g/100ml未満、タンパク質含有量が0.20g/100ml以上となるように調整することを含む。
【0046】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、例えば、麦芽を含む麦原料、水、及び必要に応じて糖類(糖質原料)、酵素、各種添加剤を混合して麦原料を糖化し、糖化液を濾過して得られた麦汁に、必要に応じて、ホップの添加、煮沸、冷却等を行って発酵前液を得る仕込工程、発酵前液にビール酵母を添加し、必要に応じて酵素を添加して発酵させる発酵工程を経ることで製造することができる。ビールテイスト飲料中の糖質含有量は、例えば、上記仕込工程及び/又は発酵工程において、酵素(特に多糖分解酵素)の種類及び添加量、原料の種類及び使用量等を適宜調整することによって、1.0g/100ml未満となるように調整することができる。また、ビールテイスト飲料中タンパク質含有量は、上記仕込工程において、例えば、酵素(特にプロテアーゼ)の種類及び添加量、原料の種類及び使用量等を適宜調整することによって、0.20g/100ml以上となるように調整することができる。
【0047】
上記仕込工程及び/又は発酵工程で添加する多糖分解酵素としては、例えば、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、プルラナーゼ、グルコアミラーゼ、α-グルコシダーゼ、イソアミラーゼ、セルラーゼ(β-グルカナーゼを含む)、ヘミセルラーゼが挙げられる。多糖分解酵素は、1種を単独で使用してもよく、複数種を併用してもよい。多糖分解酵素の添加量は、使用する酵素の種類、酵素活性、原料の種類等に応じて適宜調節することができる。多糖分解酵素の添加量は、例えば、原料の総量に対して0.001質量%以上、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、1.0質量%以上、又は2.0質量%以上であってよく、5.0質量%以下、3.0質量%以下、1.0質量%以下、0.5質量%以下、0.4質量%以下、0.3質量%以下、又は0.1質量%以下であってよい。
【0048】
上記仕込工程で添加するプロテアーゼとしては、例えば、酸性プロテアーゼ、中性プロテアーゼ、アルカリプロテアーゼ、カルボキシペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、エキソ型プロテアーゼ、エンド型プロテアーゼが挙げられる。また、エンド型及びエキソ型両方の性質を有するプロテアーゼが挙げられる。プロテアーゼは、1種を単独で使用してもよく、複数種を併用してもよい。プロテアーゼの添加量は、使用する酵素の種類、酵素活性、原料の種類等に応じて適宜調節することができる。プロテアーゼの添加量は、例えば、原料の総量に対して0.001質量%以上、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上、又は0.3質量%以上であってよく、0.5質量%以下、0.4質量%以下、0.3質量%以下、又は0.1質量%以下であってよい。
【0049】
仕込工程で添加するホップとしては、例えば、乾燥ホップ、ホップペレット、ホップエキスを用いることができる。ホップは、ローホップ、ヘキサホップ、テトラホップ、イソ化ホップエキス等のホップ加工品であってもよい。
【0050】
本実施形態に係るビールテイストアルコール飲料の製造方法は、上記発酵工程で得られた発酵後液に対して濾過、加熱(殺菌)、アルコールの添加、カーボネーション等を行う発酵後工程を含んでもよい。
【0051】
発酵後工程で添加するアルコールとしては、例えば、スピリッツを用いることができ、中でも大麦スピリッツが好ましい。一実施形態として、ビールテイスト飲料はスピリッツ(好ましくは、大麦スピリッツ)を含んでもよい。発酵後工程で添加するアルコールの量は、発酵後液の総量に対して1v/v%未満、0.5v/v%未満、0.1v/v%未満、又は0.05v/v%未満であってよい。
【0052】
本実施形態に係るノンアルコールビールテイスト飲料の製造方法は、上記発酵工程を含まなくてもよい。また、本実施形態に係るノンアルコールビールテイスト飲料の製造方法は、上記発酵工程において、発酵期間を短くしてアルコールの生成を抑制することを含んでもよく、上記発酵工程で得られた発酵後液を蒸留又は希釈することによりアルコールを除去又は低減させることを含んでもよい。さらに、本実施形態に係るノンアルコールビールテイスト飲料の製造方法は、上記仕込工程で得られた発酵前液(麦汁)又は実質的にアルコールを含有しない発酵後液に対して、濾過、加熱(殺菌)、カーボネーション等を行う工程を含んでもよい。
【0053】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、良好な酸味と濃醇さを有し、かつエグ味と硫化物臭が低減され、香味が改善されるという効果を奏する。したがって、本発明の一実施形態として、ビールテイスト飲料中の糖質含有量が1.0g/100ml未満、タンパク質含有量が0.20g/100ml以上となるように調整することを含む、原料中の麦芽の比率が50質量%以上70質量%未満であるビールテイスト飲料の香味を改善する方法が提供される。また、本発明の一実施形態として、ビールテイスト飲料中の糖質含有量が1.0g/100ml未満、タンパク質含有量が0.20g/100ml以上となるように調整することを含む、原料中の麦芽の比率が50質量%以上70質量%未満であるビールテイスト飲料に良好な酸味と濃醇さを付与し、エグ味と硫化物臭を低減する方法が提供される。
【実施例
【0054】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
〔試験例1:ビールテイストアルコール飲料の製造及び評価(1)〕
(試験例1-1~1-3のビールテイストアルコール飲料の製造)
表1に示す比率の麦芽、水、及び麦芽に対して1.28質量%の多糖分解酵素を仕込槽に投入し、常法に従って糖化液を製造した。得られた糖化液を濾過して麦汁を得た。得られた麦汁に、表1に示す比率の糖類(グラニュー糖)、及びホップを添加して煮沸し、沈殿物を分離、除去した後、冷却した。得られた発酵前液(冷麦汁)にビール酵母を添加し、所定期間発酵させ、試験例1-1~1-3のビールテイストアルコール飲料を製造した。
【0056】
(試験例1-4のビールテイストアルコール飲料の製造)
仕込工程で、一部の多糖分解酵素を用いなかったこと以外は試験例1-1のビールテイストアルコール飲料の製造と同様の条件で、試験例1-4のビールテイストアルコール飲料を製造した。
【0057】
(タンパク質量の測定及び糖質量の算出)
上記製造した各ビールテイストアルコール飲料の水分、アルコール分、タンパク質、灰分の量をそれぞれ測定した。水分とアルコール分は常圧加熱乾燥法により測定した。タンパク質量は、改良デュマ法による全窒素(タンパク質)の定量法により測定した。灰分量は、直接灰化法により測定した。ビールテイストアルコール飲料中の脂質量を0g/100ml、食物繊維量を0g/100mlとみなし、ビールテイストアルコール飲料の重量から、水分、アルコール分、タンパク質量及び灰分量を引いた値をビールテイストアルコール飲料の糖質量(g/100ml)として算定した。結果を表1に示す。
【0058】
(官能評価)
上記製造した各ビールテイストアルコール飲料について、訓練された5名のパネルにより官能評価を行った。官能評価は、酸味、濃醇さ、エグ味、硫化物臭及びジアセチル臭の評価項目について、1~5の5段階で行い、その平均値を評価スコアとした。酸味は、数値が高いほど酸味が目立たずより良好に感じられることを示す。濃醇さは、数値が高いほど良好に感じられることを示す。エグ味は、飲料を飲んだ際に後に残るエグ味であり、数値が高いほどエグ味がより感じられないことを示す。硫化物臭及びジアセチル臭は、数値が高いほど臭いがより感じられないことを示す。また、全体としての香味について、上記評価項目のうち、酸味、濃醇さ、エグ味及び硫化物臭の評価スコアの合計が4未満をE、4以上8未満をD、8以上12未満をC、12以上16未満をB、16以上をAとして評価した。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
原料中の麦芽比率がそれぞれ約50質量%及び60質量%で糖質含有量が1.0g/100ml未満である試験例1-1及び1-2のビールテイストアルコール飲料では、原料中の麦芽比率が70質量%で糖質含有量が1.0g/100ml未満である試験例1-3、及び原料中の麦芽比率が約50質量%で糖質含有量が1.01g/100mlである試験例1-4のビールテイストアルコール飲料と比較して、酸味が目立ち、濃醇さが不十分で、かつエグ味と硫化物臭が感じられ、全体として香味に欠けていることが確認された。
【0061】
〔試験例2:ビールテイストアルコール飲料の製造及び評価(2)〕
(実施例1-1のビールテイストアルコール飲料の製造)
表2に示す比率の麦芽、水、麦芽に対して1.28質量%の多糖分解酵素、及び麦芽に対して0.07質量%のエンド型及びエキソ型両方の性質を有するプロテアーゼを仕込槽に投入し、常法に従って糖化液を製造した。得られた糖化液を濾過して麦汁を得た。得られた麦汁に、表2に示す比率の糖類(グラニュー糖)、及びホップを添加して煮沸し、沈殿物を分離、除去した後、冷却した。得られた発酵前液(冷麦汁)にビール酵母を添加し、所定期間発酵させ、実施例1-1のビールテイストアルコール飲料を製造した。
【0062】
(実施例1-2のビールテイストアルコール飲料の製造)
仕込工程で、麦芽に対して0.40質量%のプロテアーゼを用いたこと以外は実施例1-1のビールテイストアルコール飲料の製造と同様の条件で、実施例1-2のビールテイストアルコール飲料を製造した。
【0063】
(実施例1-3のビールテイストアルコール飲料の製造)
仕込工程で、麦芽に対して1.00質量%のプロテアーゼを用いたこと以外は実施例1-1のビールテイストアルコール飲料の製造と同様の条件で、実施例1-3のビールテイストアルコール飲料を製造した。
【0064】
(実施例1-4のビールテイストアルコール飲料の製造)
仕込工程で、麦芽に対して2.00質量%のプロテアーゼを用いたこと以外は実施例1-1のビールテイストアルコール飲料の製造と同様の条件で、実施例1-4のビールテイストアルコール飲料を製造した。
【0065】
(実施例1-5のビールテイストアルコール飲料の製造)
発酵工程で、発酵前液に対して、0.15質量%のβ-アミラーゼ、0.15質量%のグルコアミラーゼ、及び0.08質量%のプルラナーゼを更に添加したこと以外は実施例1-1のビールテイストアルコール飲料の製造と同様の条件で、実施例1-5のビールテイストアルコール飲料を製造した。
【0066】
(実施例1-6のビールテイストアルコール飲料の製造)
仕込工程で、表2に示す比率の麦芽、表2に示す比率の糖類(グラニュー糖)、及び麦芽に対して0.06質量%のプロテアーゼを用いたこと以外は実施例1-1のビールテイストアルコール飲料の製造と同様の条件で、実施例1-6のビールテイストアルコール飲料を製造した。
【0067】
上記製造した各ビールテイストアルコール飲料のタンパク質量及び糖質量について、上記試験例1と同様の方法で測定、算出した。結果を表2に示す。また、上記製造した各ビールテイストアルコール飲料の酸味、濃醇さ、エグ味、硫化物臭、ジアセチル臭及び全体としての香味について、上記試験例1と同様の方法で官能評価を行った。結果を表2に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
タンパク質含有量が0.2g/100ml以上である実施例1-1~1-6のビールテイストアルコール飲料では、タンパク質含有量が0.2g/100ml未満である試験例1-1又は1-2のビールテイストアルコール飲料と比較して、酸味と濃醇さが良好であり、エグ味と硫化物臭が低減され、全体として香味が改善されていることが確認された。
【0070】
〔試験例3:ビールテイストアルコール飲料の製造及び評価(3)〕
試験例2で製造した実施例1-5のビールテイスト飲料に、飲料中の酢酸イソアミルが表3に示す濃度となるように酢酸イソアミルを適宜添加し、実施例2-1~2-3のビールテイスト飲料を調製した。調製したビールテイスト飲料の酸味、濃醇さ、エグ味、硫化物臭、及びジアセチル臭について、訓練されたパネルが4名であること以外は上記試験例1と同様に官能評価を行った。また、評価項目として酢酸イソアミル臭を加えて評価した。酢酸イソアミル臭は、数値が高いほど臭いがより感じられないことを示す。また、全体としての香味について、上記評価項目のうち、酸味、濃醇さ、エグ味、硫化物臭及び酢酸イソアミル臭の評価スコアの合計が5未満をE、5以上10未満をD、10以上15未満をC、15以上20未満をB、20以上をAとして評価した。結果を表3に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
酢酸イソアミル濃度が3.0ppm以下である実施例1-5、2-1及び2-2のビールテイストアルコール飲料では、酢酸イソアミル臭があまり感じられず、全体としての香味も改善されていた。一方、酢酸イソアミル濃度が5.0ppmである実施例2-3のビールテイストアルコール飲料では、実施例1-5、2-1及び2-2と比較して酢酸イソアミル臭が強く感じられるものの、全体としての香味は改善されていた。