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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】衛生薄葉紙
(51)【国際特許分類】
   A47L 13/16 20060101AFI20230306BHJP
   A47K 10/16 20060101ALI20230306BHJP
   B31F 1/07 20060101ALI20230306BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20230306BHJP
   D21H 27/30 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
A47L13/16 A
A47K10/16 C
B31F1/07
D21H27/00 F
D21H27/30 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017190616
(22)【出願日】2017-09-29
(65)【公開番号】P2019063172
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-08-03
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】市川 晴菜
【合議体】
【審判長】佐々木 芳枝
【審判官】田合 弘幸
【審判官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/043388(WO,A1)
【文献】特開2009-28457(JP,A)
【文献】特開2013-202346(JP,A)
【文献】特開2012-179071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47L 13/16
A47K 10/16
D21H 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚のシートを重ね合わせてなるシート積層体にエンボス加工が施された衛生薄葉紙であって、
前記シート積層体の表面にエンボス凸部が形成されており、
前記エンボス凸部の高さが1.4~1.6mmであり、
前記エンボス凸部の頂部の面積率が0.5~1.6%であり、
前記エンボス凸部の密度が58000~130000個/m である、衛生薄葉紙。
【請求項2】
前記エンボス凸部の側面は、前記エンボス凸部の底部から前記エンボス凸部の頂部に向かって、前記エンボス凸部の頂部の面積が前記エンボス凸部に対応するエンボス凹部の開口部の面積よりも小さくなるように傾斜する、請求項に記載の衛生薄葉紙。
【請求項3】
前記各シートの坪量が15~25g/mであり、
前記各シートの厚みが100~200μmである、請求項1または2に記載の衛生薄葉紙。
【請求項4】
圧縮エネルギーが4.0gf・cm/cm以上である、請求項1乃至のいずれか1項に記載の衛生薄葉紙。
【請求項5】
前記エンボス凸部は、ピンエンボス加工により形成されてなる、請求項1乃至のいずれか1項に記載の衛生薄葉紙。
【請求項6】
前記シート積層体の最上層に孔が形成されていない、請求項に記載の衛生薄葉紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛生薄葉紙に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイパー等の衛生薄葉紙は、汚れ、油分、水分等の拭き取り等に使用される。このような衛生薄葉紙には、細部の汚れまで拭き取ることができる性能(拭取り性)が求められる。一方、拭き取った水分等の汚れを素早く吸収し、かつ吸収した水分等を保持する性能(吸収性)等が求められる。
【0003】
例えば、特開2015-195846号公報(特許文献1)には、シートを複数枚重ね合わせてエンボス加工により一体化した紙ワイパーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-195846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、エンボス加工が施された従来の衛生薄葉紙では、油分等の吸収性が十分に得られず、また汚れ等の拭取り性も十分に得られない。
【0006】
本発明の課題は、吸収性および拭取り性に優れる衛生薄葉紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係る第1の態様は、複数枚のシートを重ね合わせてなるシート積層体にエンボス加工が施された衛生薄葉紙であって、前記シート積層体の表面にエンボス凸部が形成されており、前記エンボス凸部の高さが1.2~1.8mmであり、前記エンボス凸部の頂部の面積率が0.35~2.0%である、衛生薄葉紙を提供する。ここで、エンボス凸部の頂部の面積率とは、シート積層体の面積に占めるエンボス凸部の頂部の面積の割合である。
【0008】
第1の態様では、シート積層体の表面に形成されるエンボス凸部の高さを1.2~1.8mmとし、エンボス凸部の頂部の面積率を0.35~2.0%とすることにより、シート積層体に対してエンボス凸部の密度を高くすることができる。エンボス凸部の密度が高くなると、油分や水分等の吸収速度が上がる。そのため、第1の態様では、このようなエンボス凸部をシート積層体の表面に形成することにより、油分等の吸収性を向上させることができる。
【0009】
また、第1の態様では、エンボス凸部の密度が高くなることにより、衛生薄葉紙が圧縮され易くなり、衛生薄葉紙が柔らかくなる。このような柔軟性を有する衛生薄葉紙では、汚れ等を拭取る際に、汚れ等が衛生薄葉紙に密着し易くなるため、汚れ等が落ち易くなる。また、エンボス凸部の密度が高くなると、衛生薄葉紙の表面に形成される凹凸が増えるため、汚れ等を掻き取り易くなる。そのため、第1の態様では、このようにエンボス凸部の密度が高いことにより、汚れ等の拭取り性を向上させることができる。
【0010】
さらに、第1の態様では、シート積層体の表面に形成されるエンボス凸部の高さと頂部の面積率を上述の範囲にすることで、衛生薄葉紙の引張強度を高くすることができる。また、エンボス凸部の密度が高くなると、シート積層体を構成する各シート間の接合力が強くなり、シート間の剥離を抑制することができる。そのため、第1の態様では、衛生薄葉紙の堅牢性を向上させることができる。
【0011】
また、第1の態様では、エンボス凸部の高さと頂部の面積率を上述の範囲にすることにより、衛生薄葉紙の坪量や嵩を増やさずに吸収性と拭取り性を向上させることができる。そのため、第1の態様では、衛生薄葉紙の坪量等の増加に伴う製品コストの増加を避けることができる。
【0012】
第2の態様は、前記エンボス凸部の密度が55000~180000個/mである、衛生薄葉紙を提供する。第2の態様では、シート積層体に対してエンボス凸部の密度を55000~180000個/mとすることにより、吸収性および拭取り性が高い衛生薄葉紙を確実に得ることができる。
【0013】
第3の態様は、前記エンボス凸部の側面が、前記エンボス凸部の底部から前記エンボス凸部の頂部に向かって、前記エンボス凸部の頂部の面積が前記エンボス凸部に対応するエンボス凹部の開口部の面積よりも小さくなるように傾斜する、衛生薄葉紙を提供する。
【0014】
第3の態様では、エンボス凸部の頂部の面積がエンボス凹部の開口部の面積よりも小さくなるようにエンボス凸部の側面を傾斜させることにより、エンボス凸部の底部からエンボス凸部の頂部に向かって先細りのエンボス凸部を形成することができる。エンボス凸部が先細りとなる構造は、汚れ等を掻き取り易い構造である。そのため、第3の態様では、このようなエンボス凸部を形成することにより、汚れ等の拭取り性を確実に向上させることができる。
【0015】
第4の態様は、前記各シートの坪量が15~25g/mであり、前記各シートの厚みが100~200μmである、衛生薄葉紙を提供する。第4の態様では、シート積層体を構成する各シートの坪量と厚みがこのような範囲に含まれることにより、吸収性および拭取り性が高い衛生薄葉紙が確実に得られる。なお、各シートの坪量、厚みがそれぞれ低すぎると衛生薄葉紙の強度が低下し、高すぎると製品コストが高くなる可能性がある。
【0016】
第5の態様は、圧縮エネルギーが4.0gf・cm/cm以上である、衛生薄葉紙を提供する。ここで、圧縮エネルギーとは、上限荷重まで圧縮した際の圧縮仕事量の積分値である。圧縮エネルギーが大きいことは、衛生薄葉紙の強度が高く、丈夫な(堅牢性に優れた)衛生薄葉紙であることを示す。また、圧縮エネルギーが大きいことは、衛生薄葉紙が圧縮され易く、柔らかいことを示す。
【0017】
第5の態様では、衛生薄葉紙の圧縮エネルギーを4.0gf・cm/cm以上とすることにより、衛生薄葉紙の引張強度を高くすることができ、堅牢性の高い衛生薄葉紙を確実に得ることができる。また、圧縮エネルギーがこのような範囲に含まれる衛生薄葉紙は、圧縮され易い傾向となるため、柔らかい(柔軟性がある)衛生薄葉紙を確実に得ることができる。
【0018】
第6の態様は、前記エンボス凸部が、ピンエンボス加工により形成されてなる、衛生薄葉紙を提供する。ここで、ピンエンボス加工は、複数枚のシートを一体化する細かいエンボス凹部またはエンボス凸部(凹凸)を形成するエンボス加工である。また、ピンエンボスは、エンボス凸部の底部が形成される面と該エンボス凸部の底部から頂部に向かうエンボス凸部の側面とエンボス凸部の底部が形成される面との角度が約50~80°のエンボスである。
【0019】
第6の態様では、このようなピンエンボス加工によってエンボス凸部を形成することにより、シート積層体に対するエンボス凸部の形成が容易である。また、このようなピンエンボス加工によってエンボス凸部を形成することにより、各シート間はピンエンボス加工による凹凸を介して接合されるため、接着剤を用いずにシート積層体の各シートを接合することができる。
【0020】
また、ピンエンボス加工は、シートに形成されるエンボス凹部またはエンボス凸部が細かいため、シート間の空間を確保しながらシート積層体にエンボス加工を行うことができる。そのため、第6の態様では、吸収した油分等はシート間に保持され、またシート間を移動することができるので、油分等の吸収性を向上させることができる。
【0021】
第7の態様は、前記シート積層体の最上層に孔が形成されていない、衛生薄葉紙を提供する。第7の態様では、ピンエンボス加工により表面にエンボス凸部が形成されたシート積層体の最上層には孔が形成されていないため、衛生薄葉紙の表裏はエンボス凸部の頂部を介して貫通していない。これにより、衛生薄葉紙の一方の面で拭取られた油分等が、衛生薄葉紙の他方の面に裏抜けするのを防ぐことができる。
【0022】
また、シート積層体の最上層に孔が形成されていない衛生薄葉紙にピンエンボス加工が施される場合、ピンエンボス加工で用いられるピンはシート積層体の最上層まで貫通させない。そのため、第7の態様では、ピンエンボス加工の際に紙粉が飛散するのを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一態様によれば、吸収性および拭取り性に優れる衛生薄葉紙を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本実施形態に係る衛生薄葉紙の平面を示す図である。
図2図1の衛生薄葉紙を構成するシート積層体の積層構造を示す図である。
図3図1の一部(P1部分)を拡大した図である。
図4図3の一部(P2部分)を拡大した図である。
図5図4をA方向に視た図である。
図6図4をB方向に視た図である。
図7】従来の衛生薄葉紙を構成するシート積層体の積層構造を示す図である。
図8図7の一部(P2部分)を拡大した図である。
図9図8をA方向に視た図である。
図10図8をB方向に視た図である。
図11】本実施形態(実施例1~3)の衛生薄葉紙を用いて、インクを塗布したステンレスプレートのインク塗布面を拭取ったときの、インク塗布面の状態を撮影した写真である。
図12】比較例1、2の衛生薄葉紙を用いて、インクを塗布したステンレスプレートのインク塗布面を拭取ったときの、インク塗布面の状態を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、各図面において、特に説明がない限り、同一の又は対応する構成については同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0026】
図1は、本実施形態に係る衛生薄葉紙の平面を示す図であり、図2は、図1の衛生薄葉紙を構成するシート積層体の積層構造を示す図である。また、図3は、図1の一部(P1部分)を拡大した図であり、図4は、図3の一部(P2部分)を拡大した図である。さらに、図5は、図4をA方向に視た図であり、図6は、図4をB方向に視た図である。
【0027】
図1において、ワイパー10は、産業用ワイパーであり、本発明に係る衛生薄葉紙の一例である。なお、本実施形態の衛生薄葉紙は、ワイパーに限定されず、ティシュペーパー、キッチンペーパー、キッチンタオル等の衛生薄葉紙が含まれる。また、衛生薄葉紙の用途は、家庭用、業務用のいずれも対象となり得る。
【0028】
ワイパー10は、クレープ積層体20にエンボス加工が施されたものである(図3参照)。また、クレープ積層体20は、4枚のクレープ紙11~14が重ねられて一体化したものである(図1図3参照)。なお、クレープ紙11~14は、本発明における複数枚のシートの一例であり、クレープ積層体20は、本発明におけるシート積層体の一例である。
【0029】
クレープ積層体20を構成するクレープ紙11~14には、クレープが形成された公知のクレープ紙を用いることができる。クレープ紙は、シートの抄紙工程において抄紙機のドライヤーの出口で、ドクターブレードと呼ばれる刃を当てることにより表面に細かいシワが形成された紙である。また、クレープ積層体20を構成するクレープ紙の枚数は、2枚以上であれば特に限定されないが、ワイパー10の製造時または使用時の取り扱い性の観点から、クレープ紙の枚数は5枚以下が好ましい。
【0030】
クレープ紙11~14には、パルプを主材とする原紙が用いられる。パルプの組成は、衛生薄葉紙の種類に応じて公知の組成とすることができる。パルプ組成は、例えば、NBKP(針葉樹クラフトパルプ)やNUKP(針葉樹未晒しパルプ)などの針葉樹パルプと、LBKP(広葉樹クラフトパルプ)やLUKP(広葉樹未晒しパルプ)などの広葉樹パルプとを適宜の比率にした組成にすることができる。
【0031】
また、広葉樹パルプに対して針葉樹パルプの比率が多いパルプ組成とするのが好ましい。針葉樹パルプと広葉樹パルプの比は、例えば50:50~100:0とすることができる。より好的には針葉樹パルプの比率は70%以上であるのがよい。また、パルプの種類としては、雑誌や新聞古紙を再生した古紙パルプを使用してもよく、その場合は古紙パルプの比率は10~100%とすることができる。
【0032】
ワイパー10では、クレープ積層体20にエンボス加工が施されている。エンボス加工の種類は、特に限定されず、クレープ積層体20の表面に凹凸が形成されるものであればよい。また、エンボス加工によりクレープ積層体20に孔が形成されるものでもよい。さらに、エンボス加工によりクレープ積層体20に孔を形成しながら、クレープ積層体20を構成するクレープ紙11~14を接合してもよい。
【0033】
このようなエンボス加工によって、クレープ積層体20にはエンボス30が形成されている(図3参照)。エンボス30は、凹エンボス31と凹エンボス31に対応する凸エンボス32とで構成されている。そして、凹エンボス31と凸エンボス32とは、クレープ積層体20の表裏に複数形成されている(図3図6参照)。また、凸エンボス32はいずれも、略同じ高さを有している。なお、エンボス30の凸エンボス32は、本発明においてシート積層体の表面に形成されるエンボス凸部の一例である。
【0034】
エンボス30の凹エンボス31と凸エンボス32は、ピンエンボス加工等の公知のエンボス付与方法により形成される。具体的には、図示しない複数の金属製のピンをクレープ紙11からクレープ紙13まで(またはクレープ紙14からクレープ紙12まで)貫通させ、クレープ紙14(またはクレープ紙11)を貫通しないように、クレープ紙11~14にピンエンボス加工が施されている。
【0035】
このような構成では、クレープ積層体20の最上層(クレープ紙14)に孔が形成されない。すなわち、ワイパー10の表裏は、凸エンボス32の頂部33を介して貫通していない。そのため、例えば、ワイパー10の表面で拭取られた油分等がワイパー10の裏面に裏抜けするのを抑制することができる。
【0036】
なお、ピンエンボス加工は、上述のようにクレープ紙11~13を貫通してもよいが、クレープ紙14からクレープ紙12まで貫通させ、クレープ紙11を貫通しないように行っても良い。また、エンボス加工用のピンを、クレープ紙11~14の全てに貫通させないことにより、ピンエンボス加工の際に紙粉が飛散するのを防ぐことができる。
【0037】
本実施形態では、このようなピンエンボス加工により、クレープ紙11~14がエンボス30の形成と同時にエンボス30を介して接合され、クレープ紙11~14が一体化したクレープ積層体20が構成される。そして、凹エンボス31がクレープ積層体20の一方の面上に形成され、凸エンボス32がクレープ積層体20の他方の面上に凹エンボス31に対応して形成される(図1図6参照)。
【0038】
クレープ紙11~14が接合されるとは、ピンエンボス加工により、クレープ紙11~13に形成された凸部が各上層に位置するクレープ紙12~14に形成された凹部に凸エンボス32を介して圧接された状態で嵌め込まれることである。なお、上述のように、クレープ紙11~13は、凸エンボス32を介して貫通しているが、クレープ紙14は、貫通していない。
【0039】
本実施形態のクレープ積層体20は、各クレープ紙11~14にエンボスが形成されていない状態でクレープ紙11~14を積層したクレープ積層体20にエンボス加工が施されているが、このようなエンボス加工に限定されない。例えば、各クレープ紙を積層する前に予め各クレープ紙にエンボスを形成しておき、エンボスが形成されたこれらのクレープ紙を積層しても良い。なお、本実施形態のクレープ積層体20を用いると、積層される前のクレープ紙11~14毎にエンボス加工を施す必要がないため、ワイパー10の製造が容易である。
【0040】
本実施形態では、クレープ積層体20に形成されるエンボス30は、所定の間隔で配置されているが、エンボス30の凸の配置間隔は特に限定されない。本実施形態では、図4に示すように、図4のA方向に視たときのエンボス30の凸の配置間隔は、D1(1.75mm):D2(3.5mm)=1:2となっている。また、図4のB方向(A方向に対して55°回転した方向)に視たときのエンボス30の配置間隔は、D3(2.5mm):D4(5mm)=1:2となっている。
【0041】
本実施形態では、クレープ積層体20に形成されるエンボス30の凸エンボス32の高さH1を1.2mm~1.8mmにすることができ、好ましくは1.3~1.7mm、より好ましくは1.4~1.6mmにする。なお、凸エンボス32の高さH1は、凸エンボス32の頂部33と凸エンボス32の底部(凹エンボス31の開口部)35との距離である。
【0042】
さらに、本実施形態では、クレープ積層体20に形成されるエンボス30の凸エンボス32の頂部33の面積率を0.35~2.0%にすることができ、好ましくは0.4~1.8%、より好ましくは0.5~1.6%にする。ここで、凸エンボス32の頂部33の面積率とは、クレープ積層体20の面積に占める凸エンボス32の頂部33の面積の割合である。
【0043】
本実施形態では、クレープ積層体20の表面に形成される凸エンボス32の高さH1を1.2~1.8mmとし、凸エンボス32の頂部33の面積率を0.35~2.0%とすることにより、クレープ積層体20に対して凸エンボス32の密度が高くなる。ワイパー10は、凸エンボス32の密度が高くなると、油分や水分等の吸収速度を上げることができる。そのため、本実施形態では、凸エンボス32を高い密度でクレープ積層体20の表面に形成することにより、ワイパー10において油分等の吸収性を向上させることができる。
【0044】
また、本実施形態では、クレープ積層体20に対して凸エンボス32の密度が高くなることで、ワイパー10が圧縮され易くなり、ワイパー10が柔らかくなる。このような柔軟性を有するワイパー10では、汚れ等を拭取る際に、汚れ等がワイパー10に密着し易くなるため、汚れ等が落ち易くなる。また、このように凸エンボス32の密度が高くなると、ワイパー10の表面に形成される凹凸が増えるため、汚れ等を掻き取り易くなる。そのため、本実施形態では、クレープ積層体20に対してエンボス凸部の密度が高いことにより、汚れ等の拭取り性を向上させることができる。
【0045】
さらに、本実施形態では、クレープ積層体20の表面に形成される凸エンボス32の高さと凸エンボス32の頂部33の面積率をそれぞれ上述の範囲にすることで、ワイパー10の引張強度を高くすることができる。また、凸エンボス32の密度が高くなると、クレープ積層体20を構成するクレープ紙11~14間の接合力が強くなり、クレープ紙11~14間の剥離を抑制することができる。そのため、本実施形態では、堅牢性に優れる(または丈夫な)ワイパー10が得られる。
【0046】
また、本実施形態では、凸エンボス32の高さと凸エンボスの頂部33の面積率を上述の範囲にすることにより、ワイパー10の坪量や嵩を増やさずに吸収性と拭取り性を向上させることができる。そのため、本実施形態では、ワイパー10の坪量等の増加に伴う製品コストの増加を避けることができる。
【0047】
クレープ積層体20に対する凸エンボス32の密度の範囲は、任意であるが、本実施形態では、凸エンボス32の密度が55000~180000個/mになるように、凸エンボス32がクレープ積層体20に形成されている。凸エンボス32の密度を55000~180000個/mとすることにより、吸収性および拭取り性に優れたワイパー10を確実に得ることができる。なお、エンボス凸部の密度は、好ましくは56000~150000個/mであり、より好ましくは58000~130000個/mである。
【0048】
本実施形態は、図4図6に示すように、凸エンボス32の側面34が傾斜している。具体的には、ワイパー10では、凸エンボス32の底部(凹エンボス31の開口部)35から凸エンボス32の頂部(凹エンボス31の底部)33に向かって、凸エンボス32の頂部33の面積が凸エンボスの底部35の面積よりも小さくなるように傾斜している。
【0049】
すなわち、凸エンボス32は、凸エンボス32の底部(凹エンボス31の開口部)35から凸エンボス32の頂部(凹エンボス31の底部)33に向かって先細り(またはテーパ)となっている。このように凸エンボス32が先細りとなる構造は、汚れ等を掻き取り易い構造であるため、このような凸エンボス32を有するワイパー10は、汚れ等の拭取り性に優れるものとなる。
【0050】
また、凸エンボス32の頂部(凹エンボス31の底部)33、凸エンボス32の底部(凹エンボス31の開口部)35は、いずれも平面視で四角形状を有している(図3図4参照)。また、凸エンボス32の頂部33の四角形状と凸エンボス32の底部35の四角形状とは相似形の関係にある。これにより、凸エンボス32の形状は、切頭四角錐を有するものとなっている。なお、凸エンボス32の形状は、切頭四角錐に限定されるものではなく、切頭三角錐、切頭円錐等の形状を有していても良い。
【0051】
クレープ積層体20を構成する各クレープ紙11~14の坪量及び厚みはそれぞれ任意である。本実施形態では、各クレープ紙11~14の坪量を15~25g/mとし、厚みを100~200μmとしている。クレープ積層体20を構成する各クレープ紙11~14の坪量と厚みをこのような範囲にすることにより、吸収性および拭取り性に優れたワイパー10が確実に得られる。なお、クレープ紙の坪量、厚みがそれぞれ低すぎると衛生薄葉紙の強度が低下し、高すぎると製品コストが高くなる可能性がある。
【0052】
ワイパー10の物理特性は、任意であるが、本実施形態では、圧縮エネルギーが4.0gf・cm/cm以上となるようにワイパー10が形成されている。本実施形態では、ワイパー10の圧縮エネルギーを4.0gf・cm/cm以上とすることにより、ワイパー10の引張強度が高くなり、堅牢性に優れたワイパー10を確実に得ることができる。また、圧縮エネルギーがこのような範囲に含まれるワイパー10は圧縮され易い傾向となるため、本実施形態によれば、ワイパー10を柔らく(柔軟性を付与)することができる。
【0053】
本実施形態では、凸エンボス32がピンエンボス加工によりクレープ積層体20に形成するのが好ましい。本実施形態では、このようなピンエンボス加工によって凸エンボス32を形成することにより、クレープ積層体20に対して容易に凸エンボス32を形成することができる。また、クレープ紙11~14間はピンエンボス加工による凹凸を介して接合されるため、接着剤を用いずにクレープ積層体20を構成するクレープ紙11~14を接合することができる。
【0054】
また、ピンエンボス加工によりクレープ紙11~14に形成される凹エンボス31または凸エンボス32は細かいため、クレープ紙11~14間の空間を確保しながらクレープ積層体20に凸エンボス32を形成することができる。そのため、本実施形態では、吸収した油分等はクレープ紙11~14間に保持され、また油分等はクレープ紙11~14間を移動することができるので、油分等の吸収性を向上させることができる。
【実施例
【0055】
以下、本実施形態について、さらに実施例を用いて具体的に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例に限定されるものではない。各実施例、比較例の測定、評価は、以下のようにして行った。
【0056】
[坪量(原紙及び坪量)]
ワイパーのクレープ積層体を構成する各クレープ紙(原紙)及びワイパー(製品)の坪量(g/m)は、JIS P 8124(1998)に準拠する方法で測定をした。
【0057】
[厚み(原紙及び坪量)]
ワイパーのクレープ積層体を構成する各クレープ紙の厚み(μm)は、JIS P 8111(1998)の条件下で、各クレープ紙を十分に調湿した後、ダイヤルゲージ(尾崎製作所製、ピーコックG型)を用いて測定した。
【0058】
[柔軟性]
ワイパーの柔軟性を圧縮エネルギーから評価した。圧縮エネルギーの測定は、12cm×12cmに裁断した試験片(製品状態で測定し、4プライ製品であれば、4プライのまま測定)を用意し、圧縮試験機(カトーテック製、KES-G5)を用いて、300gf/cm荷重時の圧縮エネルギーWC(gf・cm/cm)を測定する。測定条件は、加圧子面積:2cm、力計:1kg、CHECKスイッチ:MES、DEF出力感度ダイヤル:2mm/V、上限荷重:300gf/cm(SENS:10、STOROKE SETダイヤル:6)、SPEED:0.02cm/s(SPEED RANGEスイッチ:0.1、SPEED SETスイッチ:2)、CONTROLスイッチ:INT、STOPスイッチ:OFFとする。
【0059】
[堅牢性]
ワイパーの堅牢性として引張強度(乾燥引張強度および湿潤引張強度)を測定した。乾燥引張強度は、JIS P 8113(2006)に準拠して測定した測定値[cN]であり、縦方向(繊維の配向と平行方向)を測定した。湿潤引張強度は、JIS P 8135に準拠して測定した測定値(cN/25mm)であり、縦方向(繊維の配向と平行方向)を測定した。なお、各引張強度における試料は、製品状態(4プライ製品であれば、4プライのまま)で、約150mm縦×25mm幅に裁断したワイパーである。
【0060】
[吸水スピード]
300μLの水をマイクロピペットでワイパー(製品)に滴下し、水滴がワイパーに接触した瞬間から、水が完全に吸収されて紙表面の反射が消えるまでの時間を、ストップウォッチを用いて0.01秒単位で測定する。試験は5回行い、その平均値を小数点第1位まで記録する試験要領によって得た数値とする。
【0061】
[吸水量]
ワイパーの吸水量を測定した。吸水量の測定は、ワイパー(製品)を100mm×100mmカットした試験片を水に入れ、この試験片に水が浸透したら、水から引き上げ、30秒後の試験片の重量を測定する。吸水量は、ワイパーの面積あたりのワイパーが吸収した水の量(g/m)である。
【0062】
[吸油スピード]
200μLの食用油をマイクロピペットでワイパー(製品)に滴下し、油滴がワイパーに接触した瞬間から、油が完全に吸収されて紙表面の反射が消えるまでの時間を、ストップウォッチを用いて0.01秒単位で測定する。試験は5回行い、その平均値を小数点第1位まで記録する試験要領によって得た数値とする。
【0063】
[吸油量]
ワイパーの吸油量を測定した。吸油量の測定は、ワイパー(製品)を100mm×100mmカットした試験片を食用油に入れ、この試験片に油が浸透したら、油から引き上げ、30秒後の試験片の重量を測定する。吸油量は、ワイパーの面積あたりのワイパーが吸収した油の量(g/m)である。
【0064】
[拭取り性]
ワイパーの拭取り性を確認した。拭取り性の確認は、ステンレス(材質:ステンレス)のプレート(寸法:10cm×20cm)にインク(Pentel製、WFCT23)を塗り、恒温恒湿室内(JIS P 8111(1998)に規定されている、23℃、50%R.H.)に15時間放置した後に500μLの水を滴下し、ワイパー(製品)でインクを拭取ったときのステンレスのインク塗布面を撮影し、撮影した写真から拭取り具合を確認した(図11図12参照)。拭取り性の評価は、以下の基準で行った。
◎ とても良く落ちた
〇 良く落ちた
△ わずかに落ちた
× 殆ど落ちなかった。
【0065】
[剥離性]
ワイパーの剥離性を確認した。剥離性の確認は、ワイパー(製品状態)の角を持ち、10回振り、プライの剥離を確認した。
【0066】
剥離性の評価は、以下の基準で行った。
〇 クレープ紙が剥離した。
× クレープ紙は剥離しなかった
【0067】
以下、実施例及び比較例について、説明する。
【0068】
[実施例1]
実施例1では、坪量19.2g/m、厚み170μmの原紙4枚(クレープ紙11~14)を重ね合わせたクレープ積層体20にピンエンボス加工が施されたワイパー10を用意した(図1図3参照)。また、ワイパー10は、製品としての坪量は76.8g/m、紙厚は450μmであった。また、エンボス条件として、クレープ積層体20に形成されたエンボス30は、凸エンボス32の高さ(H1)1.5mm、凸エンボス32の頂部33(凹エンボス31の底部)の形状を四角形とし、凸エンボス32の密度120000個/m、凸エンボス32の頂部33の面積率0.75%とした。測定及び評価の結果を表1に示す。
【0069】
[実施例2]
実施例2では、原紙として坪量18.5g/m、厚み140μmとし、エンボス条件として凸エンボス32の密度82500個/m、凸エンボス32の頂部33の面積率0.52%とし、製品として坪量73.8g/mとした以外は、実施例1と同様にした。測定及び評価の結果を表1に示す。
【0070】
[実施例3]
実施例3では、原紙として坪量18.5g/m、厚み140μmとし、エンボス条件として凸エンボス32の密度60000個/m、凸エンボス32の頂部33の面積率1.5%とし、製品として坪量73.8g/m、紙厚478μmとした以外は、実施例1と同様にした。測定及び評価の結果を表1に示す。
【0071】
[比較例1]
比較例1では、エンボス条件として、クレープ積層体20に形成されたエンボス30を、凸エンボス32の高さ(H2)2.4mm、凸エンボス32の密度50750個/m、凸エンボス32の頂部33の面積率0.31%とした以外は、実施例1と同様にした。測定及び評価の結果を表1に示す。
【0072】
[比較例2]
比較例2では、原紙4枚を重ね合わせたクレープ積層体にピンエンボス加工が施された市販のワイパーを用意した。このワイパーは、製品として坪量が77g/m、紙厚が448μmであった。また、エンボス条件は、凸エンボスの頂部(凹エンボスの底部)の形状が四角形であり、凸エンボスの密度が90000個/mであった。測定及び評価の結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
表1より、クレープ積層体20の表面に形成された凸エンボス32の高さが1.2~1.8mmであり、凸エンボス32の頂部の面積率が0.35~2.0%であるワイパー10は、圧縮エネルギーが4.0gf・cm/cm以上、引張強度が2500cN以上、吸水量が800(g/m)以上、吸水スピードが5秒以下、吸油量が800(g/m)以上、吸油スピードが15秒以下、拭取り性が◎、剥離性が○となった(実施例1~3)。
【0075】
これに対して、凸エンボス32の高さ1.2~1.8mm、凸エンボス32の頂部の面積率0.35~2.0%の条件を満たさないワイパー10は、圧縮エネルギーが4.0gf・cm/cm未満、引張強度が2500cN未満、吸水量は800(g/m)以上だが吸水スピードが5秒を超え、吸油量は800(g/m)以上だが吸油スピードが15秒を超え、拭取り性が△、剥離性が×となった(比較例1、2)。
【0076】
これらの結果から、クレープ積層体20の表面に形成された凸エンボス32の高さが1.2~1.8mmであり、凸エンボス32の頂部の面積率が0.35~2.0%であるワイパー10(実施例1~3)は、吸収性および拭取り性に優れていることが判った。また、実施例1~3のワイパー10は、柔軟性および堅牢性に優れていることも判った。
【0077】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0078】
10 ワイパー
11~14 クレープ紙
20 クレープ積層体
30 エンボス
31 凹エンボス
32 凸エンボス
33 頂部
34 側面
35 底部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
図11
図12