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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】パワーモジュール及びスイッチング電源
(51)【国際特許分類】
   H01L 25/07 20060101AFI20230306BHJP
   H01L 25/18 20230101ALI20230306BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20230306BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20230306BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20230306BHJP
   H05K 1/02 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
H01L25/04 C
H01L23/12 J
H05K9/00 M
H05K9/00 K
H05K7/20 C
H05K1/02 Q
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018116516
(22)【出願日】2018-06-19
(65)【公開番号】P2019220563
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002037
【氏名又は名称】新電元工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 亘
(72)【発明者】
【氏名】森永 雄司
(72)【発明者】
【氏名】久徳 淳志
【審査官】井上 和俊
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/179547(WO,A1)
【文献】特開2012-134194(JP,A)
【文献】特開2004-207432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 25/07
H01L 23/12
H05K 9/00
H05K 7/20
H05K 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子と、
前記スイッチング素子を囲むように配置された複数の配線パターンとを備えるパワーモジュールであって、
前記複数の配線パターンのうち一の配線パターンである第1配線パターンには、少なくとも2本のリードが隣接して配設されており、
前記第1配線パターンは、前記2本のリードの間にあるスペースに突き出すように配置された突出部を有することを特徴とするパワーモジュール。
【請求項2】
請求項1に記載のパワーモジュールにおいて、
前記パワーモジュールは、2つのスイッチング素子を備えるハーフブリッジ回路であり、
前記第1配線パターンは、ハーフブリッジ回路の中点に対応する中点用配線パターンであり、前記突出部は、前記中点用配線パターンに設けられていることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項3】
請求項1に記載のパワーモジュールにおいて、
前記パワーモジュールは、2つのスイッチング素子を備えるハーフブリッジ回路であり、
前記第1配線パターンは、前記2つのスイッチング素子のうちいずれか一方のスイッチング素子における電力端子に接続された電力端子用配線パターンであり、前記突出部は、前記電力端子用配線パターンに設けられていることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項4】
2つのスイッチング素子と、
複数の配線パターンとを備えるハーフブリッジ回路を備えるパワーモジュールであって、
前記ハーフブリッジ回路の中点に対応する中点用配線パターンには、少なくとも2本のリードが隣接して配設されており、
前記中点用配線パターンは、前記2本のリードの間にあるスペースに突き出すように配置された突出部を有することを特徴とするパワーモジュール。
【請求項5】
請求項2~4のいずれかに記載のパワーモジュールにおいて、
前記2つのスイッチング素子として、第1ドレイン電極、第1ソース電極及び第1ゲート電極を有するノーマリオン型の第1半導体チップと、第2ドレイン電極、第2ソース電極及び第2ゲート電極を有し、前記第1ソース電極が前記第2ドレイン電極と電気的に接続された状態となるように前記第1半導体チップ上の平面的に見て前記第1半導体チップと重なる位置に配置されたノーマリオフ型の第2半導体チップとを有し、前記第1ゲート電極が、前記第2ソース電極と電気的に接続されているカスコードスイッチからなるハイサイド用スイッチング素子及びローサイド用スイッチング素子を備え、
前記ハイサイド用スイッチング素子の前記第2ソース電極は、前記ローサイド用スイッチング素子の前記第1ドレイン電極と電気的に接続されていることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のパワーモジュールにおいて、
前記複数の配線パターンは、配線ラインの側部に凹部又は切り欠きが形成された配線パターン分割直列接続構造、及び/又は、配線パターンが分離スリット又は複数の分離スリットにより平行に2分割された接続パターン分割並列接続構造を有することを特徴とするパワーモジュール。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のパワーモジュールにおいて、
前記スイッチング素子及び/又は前記配線パターンは、電磁波吸収材で覆われていることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項8】
請求項7に記載のパワーモジュールにおいて、
前記電磁波吸収材は、絶縁性の樹脂を配線パターン側にした2層構造であることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項9】
請求項7に記載のパワーモジュールにおいて、
前記電磁波吸収材は、絶縁性の樹脂に配合されていることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項10】
請求項7に記載のパワーモジュールにおいて、
前記電磁波吸収材は、導電性電磁波吸収材、誘電性電磁波吸収材又は磁性電磁波吸収材のいずれかであることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項11】
請求項7に記載のパワーモジュールにおいて、
前記電磁波吸収材は、電磁波の伝播を変化させる電磁波偏向体が含まれていることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項12】
請求項7~11のいずれかに記載のパワーモジュールにおいて、
前記電磁波吸収材は、前記スイッチング素子のオン・オフで発生するdv/dt又はdi/dtに対応した周波数の電磁波を吸収する電磁波吸収材であることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載のパワーモジュールにおいて、
前記スイッチング素子は、ガリウムナイトライド、炭化シリコン、酸化ガリウム、又は、ダイヤモンドから成る半導体素子であることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項14】
請求項1~13のいずれかに記載のパワーモジュールを備えることを特徴とするスイッチング電源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーモジュール及びスイッチング電源の放熱と電磁波吸収構造に関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチング電源装置においては、次世代デバイスの進展に伴いスイッチングの高速化が進んでいる。スイッチングの高速化は、ノイズを発生し易く、電源や周辺機器の動作が不安定になるという課題があった。
【0003】
ノイズ低減に対しては、特許文献1のような先行技術がある。この特許文献1においては、アナログ高周波処理を行う回路とデジタルロジック処理を行う回路を混在させたモジュールICのそれぞれの回路が発生するノイズがモジュールIC内の他の回路に影響を与えないようにする集積回路が開示されている。この集積回路では、デジタルロジック回路とアナログ高周波回路の少なくとも一方を、電磁波吸収体樹脂で封止して、一体のパッケージに収納させた構成とし、電磁波吸収体樹脂で封止された回路から放射されるノイズが、この電磁波吸収体樹脂で吸収されて、集積回路内の他の回路へのノイズの影響を低減させるようにしている。
【0004】
通信機器はGHz帯の周波数を使用するため、電磁波が発生しやすく、一般に電磁波吸収体が設けられている。電磁波吸収体は、マイクロ波IC用パッケージの一部に配置する方法と、素子を覆うように直接配置する方法がある。
【0005】
特許文献2では、マイクロ波IC用パッケージにおいて、絶縁性フレキシブル基板の一方の面にマイクロ波信号用配線、接地用配線、直流バイアス供給用配線が形成され、絶縁性フレキシブル基板の一方の面と反対側の面の少なくとも一部に、電磁波吸収材料を配置している。
【0006】
特許文献3では、素子間干渉電波シールド型高周波モジュール及び電子装置に関し、MCM型回路基板上に簡易封止して実装されたチップ間の電磁波干渉を抑えるために、配線を設けた回路基板上に搭載した複数の能動素子チップの内のミリ波以上の高周波帯域で作動する能動素子チップを、能動素子チップの動作周波数帯域に電磁波吸収効果のある金属粒子を分散させた絶縁樹脂層によって封止している。
【0007】
特許文献4は、電磁波の他、温度にも注目し、内部で発生した電磁波を効率良く吸収することができ、不要な電磁波の放射を抑制することができるとともに、内部が局所的に高温度になるのを防止でき、内部温度の上昇を低減することができるようにしている。発熱する電磁波発生源を内蔵した通信モジュールにおいて、電磁波発生源からの電磁波を吸収する電磁波吸収体と、電磁波発生源と電磁波吸収体との間に挟み込まれたシート状の伝熱体とを備え、電磁波吸収体を貫通し伝熱体に至る棒状の複数の伝熱部材をアレイ状に配置して、電磁波吸収体の外側に配置した伝熱性基材に電磁波発生源が発生した熱を伝達するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2002-134679号公報
【文献】特開平6-188322号公報
【文献】特開2003-298004号公報
【文献】特開2007-251639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しなしながら、従来技術は特許文献1のように、小さい電力(数W程度)のICに効果があるが、次世代デバイスを搭載した高速大電力変換モジュール(数kWレンジモジュール)にそのまま適用しようとしても、数百V数百A級(例えば400V100A級)のスイッチングで生じる高dv/dt、高di/dt、寄生インダクタ等に起因する大きなノイズを抑制できない。また、従来技術においては、熱ストレスサイクル試験や高温高湿試験など、パワーモジュールに要求される実用レベルの耐性がないといった課題があった。
【0010】
パワーモジュールは、高電圧を高速にスイッチングすることが要求され、近年においては、次世代デバイスの進展に伴いチョッパ回路におけるスイッチングの高速化が進んでいる。スイッチングの高速化は、例えばスイッチングのターンオフタイミングで、スイッチング素子に対して大きなサージ電圧が印加されストレスをもたらす場合があり、更には、寄生インダクタンスや寄生コンデンサ等の条件によっては、自励発振して制御不能となる場合もあった。
【0011】
次世代のスイッチング素子には、SiC(シリコン・カーバイド)やGaN(ガリウム・ナイトライド)といった高電圧、大電流での高速スイッチング可能な素子が使用され、数百ボルトで数百アンペアレベルのMHzオーダーでのスイッチングとなる。このため、スイッチング素子の寄生容量や寄生インダクタンスによる高周波ノイズは電磁波として他の電子機器に影響を及すという課題がある。
【0012】
スイッチング周波数の高周波数化に対しては、dv/dtによるノイズは避けられず、電流iによる配線でのdi/dtに比例した寄生インダクタンスの逆起電力が発生し、電磁波となって放射される。
【0013】
電磁波のシールは、通信機器においては電磁波吸収体を使用し、マイクロ波IC用パッケージの一部に配置する方法と、素子を覆うように直接配置する方法が従来から採用されているが、通信機器での信号はパワースイッチングデバイスに比べて電圧がかなり低い。さらに、通信機器での電磁波は、使用周波数によるノイズであり、電磁波対策を行う周波数が明確である。
【0014】
これに対して、高電圧、大電流での高速スイッチング動作を伴うパワーモジュール等は、通信機器での使用周波数に相当するスイッチング周波数ではなく、寄生インダクタンスや寄生容量に起因して発生する電磁波である。このため、電磁波対策を行う対応周波数も不明確であり、通信機器における電磁波対策のような電磁波吸収体をマイクロ波IC用パッケージの一部に配置したり、素子を覆うように直接配置したりする方法のみでは不十分であった。また、通信機器内部における素子に対する対策が開示されているが、内部配線に対しては何ら示唆されていない。
【0015】
本発明は、入出力条件や設計条件に制限されずに、スイッチング電源の高電圧化、高速スイッチング化に伴う寄生インダクタンスによるノイズの発生、電磁波の発生、発熱を抑制し、電磁波発生の少ない低ノイズ・高効率で安定的なスイッチング動作を可能とするパワーモジュール及びスイッチング電源を提供することを目的としている。なお、パワーモジュールは、複数のパワー半導体を組み合わせ、電源関係の回路を集積した部品であり、ここでは、主にスイッチング動作を伴うパワーモジュールを対象とし、その配線パターンを含めている。スイッチング電源は、スイッチング動作を伴うパワーモジュールを使用した電源である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、実装された電子部品がパッケージされたパワーモジュール及びスイッチング電源の電磁波の発生を抑制するために、素子間を接続する配線パターンにより、寄生インダクタンスを低減するとともに、効果的な熱の放出を行っている。さらに発生した電磁波は、配線パターンを電磁波吸収材で覆うことにより吸収する。
【0017】
(1)本発明のパワーモジュールは、スイッチング素子と、配線ラインの配線幅より幅の広い放熱配線幅有する放熱部を備えた配線パターンと、を備えていることを特徴としている。
【0018】
(2)本発明のパワーモジュールにおいては、配線ラインと放熱部は交互に接続されていることが好ましい。
【0019】
(3)本発明のパワーモジュールにおいては、配線ラインの長さは、前記配線ラインの幅の2倍以下であることが好ましい。
【0020】
(4)本発明のパワーモジュールにおいては、配線ラインを接続する接続部は、配線ラインの幅以下の接続幅であり、接続部の接続長さは接続線の接続幅より小さいことが好ましい。
【0021】
(5)本発明のパワーモジュールにおいては、配線パターンは、電流の流れる方向に幅が分割されていてもよい。
【0022】
(6)本発明のパワーモジュールにおいては、放熱部は、リード間のスペースに突き出すように設けることができる。
【0023】
(7)本発明のパワーモジュールにおいては、リード間の放熱部は、長さより幅が広いことが好ましい。
【0024】
(8)本発明のパワーモジュールにおいては、放熱部は、電磁波吸収材で覆われていることが好ましい。
【0025】
(9)本発明のパワーモジュールにおいては、電磁波吸収材は、絶縁性の樹脂を配線パターン側にした2層構造であってもよい。
【0026】
(10)本発明のパワーモジュールにおいては、電磁波吸収材は、導電性電磁波吸収材、誘電性電磁波吸収材又は磁性電磁波吸収材のいずれかであってもよい。
【0027】
(11)本発明のパワーモジュールにおいては、電磁波吸収材は、電磁波の伝播を変化させる電磁波偏向体が含まれていてもよい。
【0028】
(12)本発明のパワーモジュールにおいては、電磁波吸収材は、スイッチング素子のオン・オフで発生するdv/dt又はdi/dtに対応した周波数の電磁波を吸収する電磁波吸収材であることが好ましい。
【0029】
(13)本発明のパワーモジュールにおいては、スイッチング素子のパッケージがワイヤボンディングで配線ラインに接続され、ワイヤに起因する寄生インダクタンスと配線パターンに起因する寄生インダクタンスが存在する場合は、ワイヤに起因する寄生インダクタンスが最小となるように、スイッチング素子のICパッケージのワイヤボンディング用パッドの位置に対応して、ボンディングされる1又は2以上のワイヤが最も短くなる位置に配線パターンを設け、配線パターンは放熱部を備えていることが好ましい。
【0030】
(14)本発明のパワーモジュールにおいては、スイッチング素子は、ガリウムナイトライド、炭化シリコン、酸化ガリウム、又は、ダイヤモンドから成る半導体素子であることが好ましい。
【0031】
(15)本発明のパワーモジュールは、1つの回路内に複数個のパワーモジュールを備え、当該パワーモジュールは、上記(1)から(14)に記載のいずれかのパワーモジュールである。
【0032】
(16)本発明のスイッチング電源は、パワーモジュールを備えたスイッチング電源であり、当該パワーモジュールは、上記(1)から(14)に記載のいずれかのパワーモジュールである。
【発明の効果】
【0033】
(1)本発明のパワーモジュールによれば、スイッチング素子と、配線ラインの配線幅より幅の広い放熱配線幅有する放熱部を備えた配線パターンとを備えていることから、放熱部の幅を広くして、寄生インダクタンスを減少させるとともに放熱効果を向上させることができる。
【0034】
(2)本発明のパワーモジュールによれば、配線ラインと放熱部が交互に接続されていることから、寄生インダクタンスの減少と放熱効果を高めることができる。放熱部は、配線ラインより幅が広いため、寄生インダクタンスが小さく放熱部の面積が広くなり放熱が効果的に行える。
【0035】
(3)本発明のパワーモジュールにおいては、配線ラインの長さは、前記配線ラインの幅の2倍以下である。ここで、配線ラインは、長さが長くなるほど寄生インダクタンスが大きくなるが、長さに比例して寄生インダクタンスが大きくなるのではなく、指数関数的に増大する。このため、同じ長さなら、長さ方向に分割して直列接続した方が寄生インダクタンスを小さくすることができる。従って、寄生インダクタンスを小さくするためには、本発明のパワーモジュールの場合のように、配線ラインの長さを幅の2倍以下とすることが効果的である。
【0036】
(4)本発明のパワーモジュールにおいては、配線ラインを接続する接続部は、配線ラインの幅以下の接続幅であり、接続部の接続長さは接続線の幅より小さい。放熱部の配線パターンの寄生インダクタンスは、同じ長さの配線パターンなら、分割して直列に並べた方が小さくなる。このため、長さを限定して、寄生インダクタンスの低減を図ることができるが、本発明のパワーモジュールの場合のように、接続部は、長さ寸法より幅寸法を小さくすることにより、寄生インダクタンスを抑えることができる。
【0037】
(5)本発明のパワーモジュールにおいては、配線パターンは、電流の流れる方向に幅が分割されていてもよい。配線パターンの寄生インダクタンスは、同じ長さで同じ幅なら、電流の流れる長さ方向に分割して平行に並べた方が寄生インダクタンスは小さくなるからである。
【0038】
(6)本発明のパワーモジュールによれば、放熱部が、リード間のスペースに突き出すように設けられていることから、リード間のスペースを放熱部として有効に利用することができる。
【0039】
(7)本発明のパワーモジュールにおいては、リード間の放熱部が、長さ寸法より幅寸法が大きい。ここで、放熱部の配線パターンの寄生インダクタンスは、幅が広いほど小さくなる。このため、本発明のパワーモジュールの場合のように、幅寸法を長さ寸法より大きくすることで寄生インダクタンスを小さくすることができる。
【0040】
(8)本発明のパワーモジュールにおいては、放熱部が、電磁波吸収材で覆われている。放熱部を広くすることによりスイッチング素子で発生する熱を放熱し易くなるが、一方では寄生インダクタンスに起因して発生するノイズが電磁波としてパワーモジュールの外部へ放射され易くなる。このため、本発明のパワーモジュールの場合のように、放熱部が電磁波吸収材で覆われていることにより、電磁波を吸収してパワーモジュール外部への放射を抑圧することができる。
【0041】
(9)本発明のパワーモジュールによれば、電磁波吸収材が、絶縁性の樹脂を配線パターン側にした2層構造であることから、電磁波吸収材が導電性であっても絶縁されるため、電磁波吸収材の幅広い選択が可能となる。
【0042】
(10)本発明のパワーモジュールによれば、電磁波吸収材が、導電性電磁波吸収材、誘電性電磁波吸収材又は磁性電磁波吸収材のいずれかであることから、幅広い電磁波吸収材が使用可能であり、電磁波の性質に対応して材料が選定可能である。導電性電磁波吸収材、誘電性電磁波吸収材と磁性電磁波吸収材を複数組み合わせてもよい。
【0043】
(11)本発明のパワーモジュールによれば、電磁波吸収材は、電磁波の伝播を変化させる電磁波偏向体が含まれていることから、電磁波偏向体により電磁波を散乱させて、電磁波の吸収効率を向上させることができる。
【0044】
(12)本発明のパワーモジュールによれば、電磁波吸収材が、スイッチング素子のオン・オフで発生するdv/dt又はdi/dtに対応した周波数の電磁波を吸収する電磁波吸収材であることから、発生ノイズに対応した電磁波吸収材により、効率よく電磁波を抑制できる。
【0045】
(13)本発明のパワーモジュールによれば、スイッチング素子のパッケージがワイヤボンディングで配線ラインに接続され、ワイヤに起因する寄生インダクタンスと配線パターンに起因する寄生インダクタンスが存在する場合は、ワイヤに起因する寄生インダクタンスが最小となるように、スイッチング素子のICパッケージのワイヤボンディング用パッドの位置に対応して、ボンディングされる1又は2以上のワイヤが最も短くなる位置に配線パターンを設け、配線パターンは放熱部を備えていることから、寄生インダクタンスが集中するワイヤを最も短くすることができ、寄生インダクタンスを抑制できる。
【0046】
(14)本発明のパワーモジュールによれば、スイッチング素子が、ガリウムナイトライド、炭化シリコン、酸化ガリウム、又は、ダイヤモンドから成る半導体素子であることから、高電圧、高速スイッチングによる高効率化と低ノイズを可能化するパワーモジュールを提供することができる。
【0047】
(15)本発明のパワーモジュールは、1つの回路内に上記(1)~(14)のいずれかに記載のパワーモジュールを複数個組み合わせたパワーモジュールであってもよく、低ノイズで安定なスイッチング動作を可能とするパワーモジュールを提供することができる。
【0048】
(16)本発明のスイッチング電源は、上記(1)~(14)のいずれかに記載のパワーモジュールを搭載したスイッチング電源とすることにより、低ノイズで安定なスイッチング動作を可能とするスイッチング電源を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】本発明の配線パターンを説明する図である。
図2】平板の自己インダクタンスの近似式20を説明する図である。
図3】平板の自己インダクタンス(長さ)を、近似式から計算した結果を示す図であり、幅を固定して長さをパラメータとしている。
図4】平板の自己インダクタンス(幅)を、近似式から計算した結果を示す図である。
図5】平板の自己インダクタンスを計算した結果から考えられる寄生インダクタンスを小さくするための配線パターンの例Aを説明する図である。
図6】平板の自己インダクタンスを計算した結果から考えられる寄生インダクタンスを小さくするための他の配線パターンの例Bを説明する図である。
図7】円筒の自己インダクタンスの近似式40を説明する図である。
図8】円筒の自己インダクタンスを、近似式から計算した結果を示す図であり、径を固定して長さをパラメータとしている。
図9】円筒の自己インダクタンスを近似式から計算した結果を示す図であり、長さを固定して半径をパラメータとしている。
図10】同期整流式降圧型DC/DCコンバータの基本回路である。
図11】同期整流式降圧型DC/DCコンバータ寄生インダクタンス、寄生容量を考慮した等価回路である。
図12】スイッチング素子を含む配線部を電磁波吸収材で覆ったパワーモジュールを説明する斜視図である。
図13】スイッチング素子を含む配線部を絶縁材と電磁波吸収材で覆ったパワーモジュールの模式的断面図Aを説明する図である。
図14】パワーモジュールの模式的断面図Bを説明する図である。
図15】電磁波偏向体入り電磁波吸収材を説明する図である。
図16】実施例で使用したカスコード素子の平面図である。
図17】カスコード素子の等価回路を説明する図である。
図18】本発明を実施するためのパワーモジュール等価回路138を示す図である。
図19】代表的なパワーモジュール用配線パターンの例を説明する図である。
図20】実施例に係るパワーモジュール例Aを説明する図である。
図21】別の実施例に係るパワーモジュール例Bを説明する図である。
図22】パワーモジュール例Bのケルビン接続の考え方を説明する図である。
図23】パワーモジュール例Cを説明する図である。
図24】パワーモジュールの降圧型DC/DCコンバータへの適用例である。
図25】パワーモジュールの昇圧型DC/DCコンバータへの適用例である。
図26】本発明のパワーモジュールの3相インバータへの適用例164である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明の実施形態について、図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0051】
最近のパワーモジュールやスイッチング電源は、スイッチング素子の高電圧化と高周波数化が進み、従来に増して配線での寄生インダクタンスの低減が必要とされてきており、熱の発生もスイッチング素子からの放熱だけでなく、配線パターンからの放熱も要求されてきている。スイッチング素子には、ガリウムナイトライド、炭化シリコン、酸化ガリウム、又は、ダイヤモンドから成る半導体素子等があり、スイッチング素子の高電圧化と高周波数化は電磁波ノイズの発生も大きな問題となっている。本発明は、寄生インダクタンスの低減と放熱を配線パターンで行い、ノイズにより発生する電磁波は、配線パターンへの電磁波吸収材で抑制することで、これらの問題を解決することを主題としている。
【0052】
まず、寄生インダクタンスの低減と放熱に対応した配線パターンについて説明する。
【0053】
図1は、本発明の配線パターンを説明する図である。配線パターン10は、素子A16と素子B18を電気的に接続する導体であり、配線ライン12と放熱部14からなっている。従来の配線パターンは、配線ライン12のみであったが、本発明では、配線ライン12よりも幅の広い放熱部14を設けている。放熱部14は、幅を広くすることにより、面積を広くして熱を放出し易くしている。
【0054】
放熱部14の幅Wは、線ラインの幅Wよりも広く、放熱面積を広くして、同時に寄生インダクタンスを減少させている。配線ラインの長さLは、配線ラインの幅Wに対して一定範囲内に限定している。放熱部の長さLも、放熱部14の幅Wに対して一定範囲内に限定しており、放熱部の長さLは、放熱部14の幅Wより狭くてもよい。このため、配線ライン12と放熱部14は交互に直列接続された形状とすることが好ましい。素子A16と素子B18の距離が短い場合は、放熱部14が1つでもよい。
【0055】
寄生インダクタンスとなる配線ライン12及び放熱部14の自己インダクタンスは、近似式から計算でき、計算結果を基に、配線パターン10の形状が理論的に考察できる。配線ライン12及び放熱部14の自己インダクタンスは、平板の自己インダクタンスとして近似式から求めることができ、次に説明する。
【0056】
図2は、平板の自己インダクタンスの近似式20を説明する図である。平板は、高さH、幅W、長さLの形状とすると、自己インダクタンスLnは、図2に示した近似式で計算できる。近似式から、自己インダクタンスLnは、導電性を前提としているため、材質には影響されず、高さH、幅W、長さLの形状のみで決定されることが分かる。配線パターン10では、厚さ、即ち、高さは数十μmから100μm程度であり、幅に対して十分に小さいために無視でき、自己インダクタンスLnは、長さLと幅Wに対してその影響度を計算した。この近似式は、配線パターン12と放熱部14に適用可能であるが、以下、配線パターン10を例に説明する。
【0057】
図3は、平板の自己インダクタンスLnを近似式から計算した結果を示す図である。幅を固定して長さをパラメータとした平板の自己インダクタンス(長さ)22である。幅Wは1mmとして、長さLが1mmから10mmに対する平板の自己インダクタンス(長さ)22の変化を計算した結果である。破線は、長さが1mmのときの自己インダクタンスが、長さに比例したと仮定した場合の自己インダクタンスを示している。
【0058】
長さが1mmのときの自己インダクタンスLnは、0.14nHであり、長さが2倍の2mmのときは、0.51nHである。さらに長さが6mmときは、2.77nHである。長さが長くなると大幅に自己インダクタンスが大きくなっている。
【0059】
この計算結果からは、例えば、素子間距離を2mmとすると、幅1mmで2mmの距離を結ぶ配線ライン12の自己インダクタンスLnは、0.51nHである。これに対して、長さ1mmで、2個直列に並べた配線ライン12とすると、自己インダクタンスLnは0.28nHとなり、約55%の自己インダクタンスとなることを示している。
【0060】
同様に、素子間距離を6mmとすると、幅1mmで6mmの距離を結ぶ配線ライン12は、自己インダクタンスLnが2.77nHであるのに対して、長さ1mmの配線ライン12を6個直列に並べたとすると、自己インダクタンスLnは0.84nHとなる。長さ2mmの配線ライン12を3個直列に並べたとしても、自己インダクタンスLnは1.53nHであり、単純に配線ライン12で結んだ場合の約55%である。
【0061】
この結果から、配線ライン12の自己インダクタンスLnは、配線ライン12を、複数に分割して直列接続した方が小さくなることが分かる。配線ライン12の分割は、幅の2倍以下とすると自己インダクタンスが約半分となり好適であるが、少なくとも分割により自己インダクタンスを減少させることができる。
【0062】
図4は、平板の自己インダクタンスを近似式から計算した結果を示す図である。長さLを固定して幅Wをパラメータとして、平板の幅Wの影響を計算した平板の自己インダクタンス(幅)24であり、幅が0.1mmから4.5mmまでの範囲での自己インダクタンスLnの計算結果である。例えば、幅1mmのときの自己インダクタンスは、2.8nHであり、幅2mmのときは、2.18nHであり、幅が3mmの場合は、1.82nHである。幅については、例えば、幅1mmにおける自己インダクタンスLnを1/2にするためには、幅を約5倍にしなければならない。
【0063】
幅についても分割の考え方を導入することができる。例えば、幅2mmとすると、幅1mmの配線ライン12を2個並列に並べたと仮定すると、自己インダクタンスLnは、1.4mHとなる。幅2mmの配線ライン12は自己インダクタンスLnが2.18nHであるのに対して約64%である。従って、幅に対しても分割して並列に並べた方が自己インダクタンスLnを減少させることができる。
【0064】
以上、平板の自己インダクタンスの計算結果を考察したが、自己インダクタンスは回路にとっては、寄生インダクタンスとなるものであり、寄生インダクタンスを減少させるために、この考察を基に様々な形状の配線パターン10に展開可能である。
【0065】
図5は、平板の自己インダクタンスを計算した結果から考えられる寄生インダクタンスを小さくするための配線パターンの例A26を説明する図である。図5(A)は、図1に示した基本的な配線パターン10に対して、配線ライン12の幅を極端に短くして、放熱部14の接続のみに機能を絞って接続部28とした例である。配線ラインを接続する接続部は、配線ラインの幅以下の接続幅であり、接続部の接続長さは接続線の幅より小さい。図5(B)は、図5(A)の接続部28を、さらに簡易な形状のV字型に切り欠いた切り欠き部30を設け、放熱部とした例である。いずれも配線パターン10を、分割による直列接続することを基本としている。
【0066】
図5(C)は、図5(A)の配線パターン10を、分離スリット32により平行に2分割した例である。図5(D)は、図5(B)の配線パターン10を、複数の分離スリット32により平行に2分割した例である。配線パターンは、電流の流れる方向と平行に幅が分割されている。分離スリット32は十分に細く、放熱への影響が最小限に抑えられる幅にする。いずれも配線パターン10を、分割による並列接続することを基本としている。
【0067】
図6は、平板の自己インダクタンスを計算した結果から考えられる寄生インダクタンスを小さくするための他の配線パターンの例Bを説明する図である。パワーモジュールは、スイッチング素子を始め、様々な電子部品が搭載され、リードも必要であるため、配線パターンを配する配線領域は自由なスペースがあるわけではない。このような制約の中では、図6(A)に示したように、放熱部14を配線ライン12の片側方向にのみ広げて設ける場合もある。また、図6(B)に示したように、接続部28を片側に偏らせる場合もある。
【0068】
配線パターン10は、パワーモジュール内での配線領域の制約の中で、図1図5及び図6から、寄生インダクタンスが最も小さくなり、放熱効果の高い配線パターン10とすることが重要である。
【0069】
パワーモジュールに搭載するスイッチング素子はIC化され、ワイヤボンディング用のパッドからワイヤ接続により、配線パターン10に接続する場合がある。この場合は、ワイヤに寄生インダクタンスが発生する。ワイヤは円筒型であり、円筒型の自己インダクタンスの近似式から計算可能である。
【0070】
図7は、円筒の自己インダクタンスを求める近似式40を説明する図である。円筒は、半径R、長さLの形状とすると、自己インダクタンスLnは、図7に示した近似式で計算できる。近似式から、自己インダクタンスLnは、導電性を前提としているので材質には影響されず、半径R、長さLの形状のみで決定されることが分かる。ワイヤボンディング用のワイヤ径は数十μmから100μm程度である。自己インダクタンスLnは、長さLと半径Rに対してその影響度を計算した。
【0071】
図8は、円筒の自己インダクタンスを近似式から計算した結果を示す図であり、径を固定して長さをパラメータとしている。半径Rを15μm(直径30μm)とした場合の円筒の自己インダクタンス(長さ)42と長さLの関係を示している。円筒の場合は、長さが2mm以上では、ほぼ直線的に自己インダクタンスが大きくなる。長さが2mmでは自己インダクタンスLnは1.93nHであり、4mmでは自己インダクタンスLnは4.42Hである
【0072】
図9は、円筒の自己インダクタンスを近似式から計算した結果を示す図であり、長さを固定して半径をパラメータとしている。長さLを3mmに固定して、円筒の自己インダクタンス44と半径Rとの関係を計算した円筒の自己インダクタンス(径)44である。半径Rが15μm(直径30μm)の場合、自己インダクタンスLnは3.14nHである。半径Rを30μ(直径60μm)としても、自己インダクタンスLnは、2.73nHである。
【0073】
この結果から、ワイヤは分割し難いため、ワイヤの長さを短くすることが寄生インダクタンスを減少させるためには効果的であることが分かる。また、径を太くするよりも、複数本のワイヤを並列接続することが効果的であることは明らかである。従って、ワイヤ接続を必要とする場合は、配線パターン10をワイヤボンディング用パッドに最も近接した位置に配置して、ワイヤの長さが短くなるようにする必要がある。
【0074】
以上、配線パターン10に起因する寄生インダクタンス低減手段について説明したが、次に具体的な降圧型DC/DCコンバータにより、寄生インダクタンスと関係、ノイズの発生原因について説明する。
【0075】
図10は、同期整流式降圧型DC/DCコンバータの基本回路50を示す図である。入力電圧52に並列に入力コンデンサ54が接続されている。降圧型DC/DCコンバータは、変圧比に応じて入力電流の平均値が小さくなるが、瞬時的には出力電流と同じ電流が流れ、これを入力コンデンサ54で平均化する。入力電圧52はチョッパ回路に接続され、第1スイッチング素子62と第2スイッチング素子64は、制御部からのパルス信号により、交互にオン/オフする制御が行われる。これにより、第1スイッチング素子62と第2スイッチング素子64の中間点の出力波形は、スイッチング周波数に対応してパルス波形となる。第1スイッチング素子62と第2スイッチング素子64の中間点の出力波形は、出力コンデンサ60と共に平滑回路を形成し、直列接続された出力インダクタ58を介して直流電圧となり、負荷抵抗66に供給される。
【0076】
降圧型DC/DCコンバータのノイズは、主に配線の寄生インダクタンスとスイッチング素子の寄生容量により発生しており、等価回路により説明する。
【0077】
図11は、寄生インダクタンス、寄生容量を考慮した等価回路68を示す図である。スイッチング素子はパワーMOSFETとし、第1スイッチング素子62をハイサイドパワーMOSFET80、第2スイッチング素子64をローサイドパワーMOSFET82とした。
【0078】
寄生要素は、入力コンデンサ54では寄生インダクタンス70-1とESR(Equivalent Serial Resistance:等価抵抗)である。ESRは配線にも存在し、図11ではまとめてESR72-1とした。パワーMOSFETでは、ミラー容量とゲート容量は考慮せず、ボディダイオードと寄生容量を寄生要素とした。ハイサイドパワーMOSFET80では、ボディダイオード76-1と寄生容量74-1を、ローサイドパワーMOSFET82では、ボディダイオード76-2と寄生容量74-2を寄生要素として等価回路に示している。
【0079】
出力インダクタ58には、インダクタの巻き線間の寄生容量と基板パターンの寄生容量が発生し、浮遊容量75として示している。出力コンデンサ60では、入力コンデンサ54と同じく、寄生インダクタンス70-5とESR72-2が寄生要素である。配線、レイアウト、ビア等にも寄生インダクタンスが発生するが、図11では配線の寄生インダクタンス70-2、70-3、70-4で示した。
【0080】
ハイサイドパワーMOSFET80とローサイドパワーMOSFET82のオン/オフは、制御部56のスイッチング波形78により制御されるが、高周波ノイズは、主にハイサイドパワーMOSFET80とローサイドパワーMOSFET82がオフする時に発生する。ハイサイドパワーMOSFET80がオンになると、入力電圧52からハイサイドパワーMOSFET80を通して電流が流れ込み、ローサイドパワーMOSFET82の還流電流をキャンセルするようにローサイドパワーMOSFET82に流れ込む。
【0081】
ローサイドパワーMOSFET82の電流がゼロになってもローサイドパワーMOSFET82のボディダイオード76-2が有しているリカバリ機能により、蓄積されたキャリアがなくなるまでボディダイオード76-2のカソードからアノードに向かって逆方向電流が流れる。このリカバリ電流は、入力コンデンサ54、ハイサイドパワーMOSFET80とローサイドパワーMOSFET82で構成される入力側のループ(図11の破線参照)に流れる短絡電流iであり、ループに存在する全ての寄生容量にエネルギーが蓄積される。
【0082】
このエネルギーは、リカバリが働かなくなった瞬間に開放され、この時にループ内の寄生インダクタンスと寄生容量で共振が起きてリンギングとなることにより、高周波ノイズが発生する。この時、ハイサイドパワーMOSFET80はオン状態で導通しているので、ハイサイドパワーMOSFET80の寄生容量74-1は関係なく、高周波リンギングの周波数は、ループの全ての寄生インダクタンスLと寄生容量Cの共振周波数fであり、f=1/2π(L・C1/2で表される。
【0083】
ハイサイドパワーMOSFET80とローサイドパワーMOSFET82のオフ時の数百MHzのノイズは、高di/dtの電流サージとして入力コンデンサ54、ハイサイドパワーMOSFET80とローサイドパワーMOSFET82の高周波リンギングループを循環する。これによって、入力コンデンサ54にはdi/dtに依存したスパイク電圧が発生し、ハイサイドパワーMOSFET80とローサイドパワーMOSFET82には、電圧vに対応したdv/dtのリンギング電圧が発生する。
【0084】
寄生インダクタンスLでは、L・di/dtのリンギング電圧が発生するため、寄生インダクタンスLが大きくなるほどリンギング電圧が大きくなる。
【0085】
ループを流れる高周波のリンギング電流iは、ループの面積に依存した磁束を発生させ、この磁束が外部へ向かって放射されるため、電磁波として機器の基板のストリップラインやループにおいて電磁誘導を引き起こす。従って、スイッチング電源等のモジュールでは、ノイズ発生源だけでなく、配線パターンでもリンギング電流iにより寄生インダクタンスで電磁波が発生する。
【0086】
ノイズ発生源となるハイサイドパワーMOSFET80とローサイドパワーMOSFET82は、スイッチングによる熱の発生も著しい。このため、スイッチング素子であるハイサイドパワーMOSFET80とローサイドパワーMOSFET82を放熱材で覆い、放熱させることが効果的である。さらに、熱的側面からは、配線パターンを介して放熱することも必要になり、本発明では放熱部を備えた配線パターンとしている。放熱部は面積を広くしているので、一方では電磁波を発生し易くしている側面があり、配線パターンに対して電磁波吸収材で覆うことが望ましい。また、電磁波吸収材は、スイッチング素子のオン・オフで発生するdv/dt又はdi/dtに対応した周波数の電磁波を吸収する電磁波吸収材であることが望ましい。
【0087】
図12は、スイッチング素子を含む配線部を電磁波吸収材で覆ったパワーモジュールを説明する斜視図である。モジュール基板94に設けたスイッチング素子と配線パターンを複数配置した配線部106に対して、まず、図12(A)で示したようにスイッチング素子を絶縁性の放熱材110で覆い、さらに、図12(B)で示したように、スイッチング素子と配線部106を電磁波吸収材112で覆っている。配線部106は、外部端子となるリード92に接続されている。
【0088】
図13は、図12のスイッチング素子を含む配線部106を絶縁材110と電磁波吸収材112で覆ったパワーモジュールの模式的断面図A100を説明する図である。モジュール基板94に設けられたスイッチング素子104は配線部106とワイヤ108で電気的に接続されている。配線部106には、放熱部を備えた配線パターンが配置されている。スイッチング素子104は電磁波と熱の発生源となるため、放熱材110と電磁波吸収材112で覆われている。配線部106は、複数の配線パターン配置されており、配線パターンから放射される電磁波を吸収するため、放熱部は電磁波吸収材112で覆われている。配線ラインを含めた配線パターン全体を電磁波吸収材112で覆ってもよい。
【0089】
図14は、パワーモジュールの模式的断面図B114を説明する図である。図14では、図13に対して、配線部106を絶縁材116で覆ってから電磁波吸収材112を重ねている。電磁波吸収材112は、絶縁性の樹脂との2層構造である。放熱材110が絶縁性であるため、放熱材110と絶縁材116を一体として配線部106まで覆ってもよい。放熱材110は、高耐熱高放熱材であることが好ましく、高温高湿試験や熱ストレスサイクル試験の耐性向上に寄与する。
【0090】
高耐熱高放熱材、例えば、無機フィラーを含むリン含有エポキシ樹脂組があり、無機フィラーの配合割合を最適化することで熱伝導性等の向上効果が十分なものとなり、所望の高熱伝導性、線膨張係数を得ることができる。さらに、無機フィラーを含み、分子中にイミド骨格とアリル基を官能基として有する熱硬化性樹脂がある。この他に、ナノハイブリッド技術を応用した熱硬化型のナノコンポジット樹脂がある。この樹脂は有機分子および無機ナノ成分の化学構造を最適化し、両成分間の化学的相互作用により高ガラス転移温度を備え、優れた耐熱性を有する。硬化時に両成分による独立した架橋反応を進行させることで、長期間過酷な熱履歴を受けても各種特性の劣化を抑制可能である
【0091】
絶縁性の放熱材110或は絶縁材116で配線部106を覆うことで、電磁波吸収材112は導電性の電磁波吸収材112も選択可能となり、様々な材料が使用できる。
【0092】
電磁波吸収材112は、電磁波エネルギーである自由空間や無損失媒質を伝播する電磁波によって運ばれるエネルギーを、熱エネルギーに変換することで、電磁波を吸収する。電磁波吸収材112は様々な種類があるが、大別して導電性電波吸収材、誘電性電波吸収材と磁性電波吸収材に分けられる。電磁波吸収材は、導電性電磁波吸収材、誘電性電磁波吸収材又は磁性電磁波吸収材のいずれかである。
【0093】
導電性電波吸収材は、発熱機構だけで電磁波を吸収する。導電性電波吸収材に電界を加えられることにより内部電流が流れ、この内部電流が熱エネルギーに変換される。導電性電波吸収材は、抵抗体、抵抗線や抵抗被膜によって形成され、炭素材料や、アルミニウム、銅、ニッケルやステンレス等の金属材料が好ましく、これらの材料を繊維状、ビーズ状や粉状等の形態にして使用する。
【0094】
誘電性電波吸収材は、物質の誘電損失を利用した電波吸収体である。誘電性電波吸収材としては、カーボン材をゴムやウレタンなどに混入して構成されたカーボンゴム、カーボン含有発泡ポリウレタン、カーボン含有発砲ポリスチロールなどがある。これらの誘電性電波吸収材料を多層構造とすることで、表面近くの電磁波減衰を少なくし、内部に伝播するに従って減衰を大きくすることができ、広帯域特性を得ることができる。
【0095】
磁性電波吸収材は、磁性損失によってエネルギーを吸収する。導電性電波吸収材と誘電性電波吸収材は、電界により電流が流れることで電磁波を吸収しているが、電磁波吸収材は、磁界によって電磁波を吸収する。交流磁化の周波数に従い磁壁移動により磁化が進行し、周波数が高くなると磁界変化に磁壁移動が追従できず磁壁共鳴が生ずる。ギガヘルツ以上になると回転磁化により磁化が進行するがさらに高周波になると遅れを生じる。回転磁化は、磁界下において容易磁化方向軸のまわりで才差運動する現象である。
【0096】
磁性電波吸収材としては、焼結フェライト、軟磁性金属、鉄カルボニルなどがある。フェライトは、スピネル型フェライト、プレーナー型フェライト、軟磁性金属粒子複合体、マグネットプランバイト型フェライト等がある。
【0097】
電磁波吸収材112は、導電性電波吸収材、誘電性電波吸収材、磁性電波吸収材の複合材料であってもよい。これらの電磁波吸収材112は、短絡を防ぎ、密着性を向上させるために絶縁性樹脂に配合されているものもある。さらに、電磁波吸収材112に侵入する電磁波の伝播を変化させて、電磁波をより吸収させるために、電磁波偏向体を含ませてもよい。
【0098】
図15は、電磁波偏向体入り電磁波吸収材120を説明する図である。電磁波吸収材112は、電磁波の伝播を変化させる電磁波偏向体124が含まれている。矢印で示した電磁波122が電磁波吸収材112に侵入すると、電磁波偏向体124に当たり偏光する。このため、電磁波122の伝播経路が変化し、電磁波122が散乱する。散乱した電磁波122は、散乱波相互の干渉や、完全反射により電磁波吸収材112に閉じ込められ、電磁波吸収材112からの放出が低減する。これにより、電磁波吸収機能が発現する。電磁波偏向体124は、任意の材料に混入でき、電磁波吸収体112として利用できる。例えば、電磁波吸収特性のほとんどないアクリル樹脂であっても、電磁波偏向体124として気泡を存在させれば、電磁波吸収材112として利用可能である。勿論、従来の導電性電波吸収材、誘電性電波吸収材、磁性電波吸収材に、電磁波偏向体124の中に気泡を存在させてもよい。
【0099】
<実施例>
以下、本発明のパワーモジュール及びスイッチング電源装置について、図に示す実施例に基づいて説明する。パワーモジュールは、カスコード接続されたスイッチング素子を直列接続したスイッチング素子(チョッパ回路)のパワーモジュールである。なお、各図面は模式図であり、必ずしも実際の寸法を厳密に反映したものではない。
【0100】
図16は、実施例で使用したカスコード素子130の平面図である。カスコード素子130は、2つのチップを1組として構成したものであり、GaN-HEMT132とSi-MOSFET134が積層された構造である。Si-MOSFET134は裏面にドレイン電極を有する縦型の素子であり、GaN-HEMT132のソース電極とSi-MOSFET134のドレイン電極、及び、GaN-HEMT132のゲート電極とSi-MOSFET134のソース電極は、積層時に接続されている。カスコード素子130の表面には、GaN-HEMT132のドレイン電極D1、及び、Si-MOSFET134のゲート電極G2とソース電極S2が、図16に示した位置に配置されている。
【0101】
図17は、カスコード素子の等価回路136を説明する図である。カスコード接続は、ノーマリーオン型のスイッチング素子をノーマリーオフ型のスイッチング素子に接続して、ノーマリーオフ型のスイッチング素子として利用できるようにする回路構成である。ノーマリーオン型のスイッチング素子としては、GaN(窒化ガリウム)からなるGaN-HEMTがある。GaNはバンドギャップが3.4eVで、シリコンの1.1eVに比べて大きい。このため、高電圧での動作が可能である。
【0102】
GaN-HEMTは、窒化ガリウムを用いて半導体ヘテロ接合により誘起された高移動度の二次元電子ガスをチャネルとした電界効果トランジスタである。このGaN-HEMTは通常、ゲートに電圧を印加しない状態でオンになるノーマリーオン型(デプレッションモード)である。そのため、デプレッションモードのGaN-HEMTをスイッチングするためには、エンハンスメントモードとして働くように、エンハンスメントモードのFETを組み合わせたカスコード接続としている。高速動作が可能なエンハンスメントモードのFETは、Si-MOSFETの他、IGBT等がある。
【0103】
図18は、本発明を実施するためのパワーモジュール等価回路138である。カスコード素子130-1をハイサイドスイッチング素子、カスコード素子130-2をローサイドスイッチング素子として直列に接続し、ゲート抵抗140-1、140-2とノイズ除去コンデンサ142を搭載する。
【0104】
ゲート抵抗140-1、140-2は、ハイサイドスイッチング素子のSi-MOSFET134-1及びローサイドスイッチング素子のSi-MOSFET134-2のゲートチャージを制限し、スイッチング波形の立ち上がりと立ち下がりを緩やかにして、オン/オフ時両方のノイズを低減する。ノイズ除去コンデンサ142は、ハイサイドスイッチング素子及びローサイドスイッチング素子のノイズを除去するためのスナバコンデンサである。
【0105】
ハイサイドスイッチング素子としたカスコード素子130-1のGaN-HEMT132-1のドレイン電極DH1は、ワイヤボンディングで配線パターンに接続され、ノイズ除去コンデンサ142との接続を経て端子T4となるリードに接続される。GaN-HEMT132-1のゲート電極GH1とSi-MOSFET134-1のソース電極SH2は、ワイヤボンディングで同一の配線パターンに接続される。この配線パターンには、ローサイドスイッチング素子としたカスコード素子130-2のGaN-HEMT132-2のドレイン電極DL1もワイヤボンディングで接続され、T3端子となるリードに接続される。
【0106】
ローサイドスイッチング素子としたカスコード素子130-2のGaN-HEMT132-2のゲート電極GL1とSi-MOSFET134-2のソース電極SL2は、ワイヤボンディングでアースとなる接地パターンに接続され、ノイズ除去コンデンサ142との接続を経てT5端子となるリードに接続される。
【0107】
ハイサイドスイッチング素子としたカスコード素子130-1のSi-MOSFET134-1のゲート電極GH2は、ワイヤボンディングで配線パターンに接続され、ゲート抵抗140-1を介して端子T1となるリードに接続される。ローサイドスイッチング素子としたカスコード素子130-2のSi-MOSFET134-2のゲート電極GL2は、ワイヤボンディングで配線パターンに接続され、ゲート抵抗140-2を介して端子T2なるリードに接続される。
【0108】
図19は、代表的なパワーモジュール用配線パターンの例を説明する図である。パワーモジュールの実施に際し、本発明を適用するための代表的なパワーモジュール用配線パターンの例144である。パターンP1は、リード間のスペースを利用した放熱部14である。放熱部14は、リード間のスペースに突き出すように設けている。リード間の放熱部は、長さより幅が広い。リード用電極パッド146に接続されたリード148はパワーモジュール周辺に外部接続電極として設けられており、リード用電極パッド146間にはスペースがある。このスペースに配線パターン10の放熱部を突き出すようにして配置する。
【0109】
パターンP2は、スペースが十分にある領域、即ち長さが長く幅が広い配線パターンが可能な領域で、接続部28を設けて寄生インダクタンス小さくし、直列接続するパターンである。接続部28は、図5(B)に示した様な切り欠き部30であってもよい。パターンP3は、スペースが十分にある領域、即ち幅広い配線パターンが可能な領域で、分離スリット32を設けて並列接続にして、寄生インダクタンスを減少させるパターンである。
【0110】
<パワーモジュール例A>
図20は、実施例に係るパワーモジュール例A150を説明する図である。寄生インダクタンスを減少させるために、図示したように、2か所のパターンP1とパターンP2を採用している。カスコード素子130-2は、カスコード素子130-1に対して90度回転した垂直方向に配置されている。配線パターンは、カスコード素子130-1とカスコード素子130-2からのワイヤボンディング接続が短い距離で可能なように配置されている。
【0111】
スイッチング素子のパッケージがワイヤボンディングで配線パターンに接続され、ワイヤに起因する寄生インダクタンスと配線パターンに起因する寄生インダクタンスが存在する場合は、ワイヤに起因する寄生インダクタンスが最小となるように、スイッチング素子のICパッケージのワイヤボンディング用端子の位置に対応して、ボンディングされる1又は2以上のワイヤが最も短くなる位置に配線パターンを設ける。
【0112】
ハイサイドスイッチング素子として使用したカスコード素子130-1の周囲に配線パターンを配置した形状である。また、ローサイドスイッチング素子として使用したカスコード素子130-2も周囲に配線パターンを配置した形状である。ゲート電極GH2及びゲート電極GL2は、配線パターンを経由してゲート抵抗140-1とゲート抵抗140-2の電極にワイヤボンディングで接続されている。
【0113】
リードには、配線パターンに近い位置にT1~T5端子が接続されている。何も接続されていない端子はNC(Non-Connect)として示されている。即ち、パワーモジュールのリードには、ゲート抵抗140-1へのゲート信号を入力するT1端子,ゲート抵抗140-2へのゲート信号を入力するT2端子、ハイサイドスイッチング素子のSi-MOSFET134-1及びローサイドスイッチング素子のSi-MOSFET134-2の接続点からのT3端子、ハイサイドスイッチング素子のGaN-HEMT132-2のドレイン電極からのT4端子、及び、アースとなるT5-1端子、T5-2端子とT5-3端子が接続される。T4端子とアースであるT5-3端子には、ノイズ除去コンデンサ142を接続している。
【0114】
熱及び電磁波対策としては、カスコード素子130-1及びカスコード素子130-2を絶縁性の放熱材で覆い、更に全ての配線パターンを含めて全面的に電磁波吸収材で覆う。電磁波吸収材は、高耐熱高放熱で、短絡を防ぎ、密着性を向上させるために絶縁性樹脂に配合されているものもあり、この場合は全面的に電磁波吸収材で覆ってもよい。
【0115】
<パワーモジュール例B>
図21は、別の実施例に係るパワーモジュール例B152を説明する図である。寄生インダクタンスを減少させるために、図示したように、パターンP1、パターンP2とパターンP3を採用している。カスコード素子130-1とカスコード素子130-2は、図16(A)で示したソート電極パッドS2とドレイン電極パッドD1を向い合わせの配置とした同じ向きの配置である。配線パターンは、カスコード素子130-1とカスコード素子130-2からのワイヤボンディング接続が短い距離で可能なように配置されている。
【0116】
パワーモジュール例Bは、下側にT3端子とアースとなるT5-2端子及びT5-3端子を配置している。T4端子とアースとなるT5-1端子を隣接して設け、ノイズ除去コンデンサ142を接続している。このような配線パターンの配置は、電流ルートを分離するケルビン接続の考え方を基にしている。
【0117】
図22は、パワーモジュール例B152のケルビン接続の考え方を説明する図である。図22(A)は図21における電流ルートI及び電流ルートIIを示している。図22(B)は図22(A)における電流ルートI及び電流ルートIIを等価回路で示している。ローサイドスイッチング素子として使用しているカスコード素子130-2のソース電極SL2から流れる電流を、T5-1端子側とT5-2端子側に分離することを意図した配線パターンである。T3端子とT4端子は、降圧型か昇圧型かにより、一方が入力側で他方が出力側となる。
【0118】
ソース電極SL2とアースとなる配線パターンは、入出力関係となるT3端子側の電流ループIとT4端子側の電流ループIIの共通インピーダンスとして働くため、一方の電圧が高いと他の電流ループに対する影響も大きくなる。このため、電流ループを分離することを意図した配線パターンとしている。勿論、完全に分離できるわけではないが、十分に効果がある。
【0119】
熱及び電磁波対策は、パワーモジュール例A150と同様に、カスコード素子130-1及びカスコード素子130-2を絶縁性の放熱材で覆い、更に全ての配線パターンを含めて全面的に電磁波吸収材で覆う。電磁波吸収材は、高耐熱高放熱で、短絡を防ぎ、密着性を向上させるために絶縁性樹脂に配合されているものもあり、この場合は全面的に電磁波吸収材で覆ってもよい。
【0120】
<パワーモジュール例C>
図23は、さらに別の実施例に係るパワーモジュール例C154を説明する図である。寄生インダクタンスを減少させるために、図示したように、2か所のパターンP1とパターンP2を採用している。カスコード素子130-1とカスコード素子130-2は、ソース電極パッドS2とドレイン電極パッドD1を向い合わせの配置とした同じ向きの配置である。配線パターンは、カスコード素子130-1とカスコード素子130-2からのワイヤボンディング接続が短い距離で可能なように配置されている。
【0121】
パワーモジュール例C154は、さらに配線パターンによる電磁波の影響を少なくするために、パワーモジュール例B152のケルビン接続の考え方に加えて、アースとなる配線パターンで、カスコード素子130-1とカスコード素子130-2を囲むように接地パターンを配置している。図23で示した様に、T3端子となるリードを挟んで、アースとなるT5-3端子とT5-4端子をリードに接続している。これにより、接地パターンを、カスコード素子130-1とカスコード素子130-2を囲むように配置することができ、電磁波を抑制する効果がある。
【0122】
ハイサイドスイッチング素子となるカスコード素子130-1のドレイン電極DH1からは、接地パターンを空間で横切ってワイヤで配線パターンに接続することになるが、絶縁性材料又は絶縁性の電磁波吸収材で空間が埋まるので、影響は少ない。
【0123】
熱及び電磁波対策は、パワーモジュール例A150と同様に、カスコード素子130-1及びカスコード素子130-2を絶縁性の放熱材で覆い、更に全ての配線パターンを含めて全面的に電磁波吸収材で覆う。電磁波吸収材は、高耐熱高放熱で、短絡を防ぎ、密着性を向上させるために絶縁性樹脂に配合されているものもあり、この場合は全面的に電磁波吸収材で覆ってもよい。
【0124】
パワーモジュールへの適用は、カスコード接続の素子で説明したが、ノーマリーオフ型の高耐圧で高周波数化が可能なGaN-HEMTからなる素子を直列に接続したスイッチング回路でもよく、ガリウムナイトライドを始め、炭化シリコン、酸化ガリウム、又は、ダイヤモンドから成る半導体素子でもよい。
【0125】
<スイッチング電源への適用例>
図24は、本発明によるパワーモジュールの同期整流式の降圧型DC/DCコンバータへの適用例160である。ここで使用するパワーモジュール156は、図20で示したパワーモジュール例A150、図21で示したパワーモジュール例B152又は図23で示したパワーモジュール例C154の何れのパワーモジュールであってもよい。
【0126】
入力電圧DCinは入力コンデンサCinでノイズが除去され、パワーモジュール156でスイッチングにより矩形波となり、ハイサイトスイッチング素子とローサイドスイッチング素子の中間から、降圧されたパルス波形が出力される。このパルス波形は、出力インダクタLoutと出力コンデンサCoutにより平滑化され、直流の出力電圧DCoutとなる。
【0127】
図25は、本発明によるパワーモジュールの同期整流式の昇圧型DC/DCコンバータへの適用例162である。ここで使用するパワーモジュール156は、図20で示したパワーモジュール例A、図21で示したパワーモジュール例B又は図23で示したパワーモジュール例Cの何れのパワーモジュールであってもよい。
【0128】
同期整流式の昇圧型DC/DCコンバータ162は、降圧型DC/DCコンバータ160におけるパワーモジュールと入出力関係を逆にして使用している。入力電圧DCinは入力コンデンサCinでノイズが除去され、ローサイドスイッチング素子がオンしている間に入力インダクタLinに電流エネルギーを蓄え、ローサイドスイッチング素子がオフになっても、ハイサイドスイッチング素子がオンとなり、入力インダクタLinは直前の電流値をキープしようと働き、電圧を継ぎ足すように電力を供給して昇圧動作を行い、昇圧された電圧が、出力コンデンサCoutにより平滑化され、直流の出力電圧DCoutが得られる。
【0129】
<パワーモジュールの組み合わせによる適用例>
図26は、本発明によるパワーモジュールの3相インバータへの適用例164である。ここで使用するパワーモジュール156-1、156-2、156-3は、図20で示したパワーモジュール例A150、図21で示したパワーモジュール例B152又は図23で示したパワーモジュール例C154の何れのパワーモジュールであってもよい。
【0130】
3相インバータへの適用例164では、3個のパワーモジュール156-1、156-2、156-3を使用し、それぞれのパワーモジュール156-1、156-2、156-3のゲート入力制御することにより、U相、V相、W相の3相交流電圧を出力する。
【0131】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【符号の説明】
【0132】
10 配線パターン
12 配線ライン
14 放熱部
16 素子A
18 素子B
20 平板の自己インダクタンスの近似式
22 平板の自己インダクタンス(長さ)
24 平板の自己インダクタンス(幅)
26 配線パターンの例A
28 接続部
30 切り欠き部
32 分離スリット
36 配線パターンの例B
40 円筒の自己インダクタンスの近似式
42 円筒の自己インダクタンス(長さ)
44 円筒の自己インダクタンス(径)
50 同期式降圧型DC/DCコンバータの基本回路
52 入力電圧
54 入力コンデンサ
56 制御部
58 出力インダクタ
60 出力コンデンサ
62 第1スイッチング素子
64 第2スイッチング素子
66 負荷抵抗
68 寄生インダクタンス、寄生容量を考慮した等価回路
70-1、70-2、70-3、70-4、70-5 寄生インダクタンス
72-1、72-2 ESR
74-1、74-2 寄生容量
75 浮遊容量
76-1、76-2 ボディダイオード
78 スイッチング波形
80 ハイサイドパワーMOSFET
82 ローサイドパワーMOSFET
90 電磁波吸収材を使用したパワーモジュール
92 リード
94 モジュール基板
100 パワーモジュールの模式的断面図A
104 スイッチング素子
106 配線部
108 ワイヤ
110 放熱材
112 電磁波吸収材
114 パワーモジュールの模式的断面図B
116 絶縁材
120 電磁波偏向体入り電磁波吸収材
122 電磁波
124 電磁波偏向体
130、130-1、130-2 カスコード素子
132、132-1、132-2 GaN-HEMT
134、134-1、134-2 Si-MOSFET
136 カスコード接続の等価回路
138 パワーモジュール等価回路
140-1、140-2 ゲート抵抗
142 ノイズ除去コンデンサ
144 モジュール用配線パターンの例
146 リード用電極パッド
148 リード
150 パワーモジュール例A
152 パワーモジュール例B
154 パワーモジュール例C
156、156-1、156-2,156-3 パワーモジュール
160 降圧型DC/DCコンバータへの適用例
162 昇圧型DC/DCコンバータへの適用例
164 3相インバータへの適用例
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
図11
図12
図13
図14
図15
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図17
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図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26