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特許7237515磁気共鳴イメージングシステム、方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージングシステム、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20230306BHJP
【FI】
A61B5/055 312
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018199899
(22)【出願日】2018-10-24
(65)【公開番号】P2019076728
(43)【公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】15/791,898
(32)【優先日】2017-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・ジェイ・ウィートン
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-215575(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0253120(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0254548(US,A1)
【文献】特開平06-189930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01N 24/00 -24/14
G01R 33/20 -33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスライスを励起するための多周波数帯域RFパルスの印加と前記多周波数帯域RFパルスに対応するスライス選択傾斜磁場の印加とを含むパルスシーケンスを実行するシーケンス制御部と、
前記パルスシーケンスの実行により発生されたエコー信号を受信してエコー信号データを生成する受信部と、
前記エコー信号データに基づいて前記複数のスライスに対応する複数の画像を生成する生成部と、を具備し、
前記パルスシーケンスは、前記多周波数帯域RFパルスの時間中心に対して前記スライス選択傾斜磁場の時間中心が異なるように設定され
前記多周波数帯域RFパルスの時間中心に対する前記スライス選択傾斜磁場の時間中心の差は、前記スライス選択傾斜磁場のうちの前記多周波数帯域RFパルスの時間中心よりも時間的に先行する部分のモーメントと後行する部分のモーメントとの差が、前記複数のスライスについての所定量の画像シフトを生じさせるためのモーメントに等しくなるように設定される、
磁気共鳴イメージングシステム。
【請求項2】
複数のスライスを励起するための多周波数帯域RFパルスの印加と前記多周波数帯域RFパルスに対応するスライス選択傾斜磁場の印加とを含むパルスシーケンスを実行するシーケンス制御部と、
前記パルスシーケンスの実行により発生されたエコー信号を受信してエコー信号データを生成する受信部と、
前記エコー信号データに基づいて前記複数のスライスに対応する複数の画像を生成する生成部と、を具備し、
前記パルスシーケンスは、前記多周波数帯域RFパルスの時間中心に対して前記スライス選択傾斜磁場の時間中心が異なるように設定され
前記多周波数帯域RFパルスの時間中心に対する前記スライス選択傾斜磁場の時間中心の差は、前記スライス選択傾斜磁場のうちの前記多周波数帯域RFパルスの時間中心よりも時間的に先行する部分のモーメントと後行する部分のモーメントとの差が、前記複数のスライスについて所定量の画像シフトを生じさせるためのブリップパルスのモーメントに等しくなるように設定される、
磁気共鳴イメージングシステム。
【請求項3】
前記生成部は、
前記エコー信号データに基づいて、前記複数のスライスが相互に前記所定量の画像シフトを伴い折り返された中間画像を再構成し、
前記中間画像に基づいて前記複数のスライスにそれぞれ対応する前記複数の画像を生成する、
請求項又は記載の磁気共鳴イメージングシステム。
【請求項4】
前記パルスシーケンスは、前記多周波数帯域RFパルスの複数回の印加と前記スライス選択傾斜磁場の複数回の印加とを含み、
前記複数回のうちの特定回の前記スライス選択傾斜磁場の時間中心は、前記特定回の前記多周波数帯域RFパルスの時間中心に対して異なり、
前記特定回より時間的に後の回の前記スライス選択傾斜磁場の時間中心は、前記後の回の前記多周波数帯域RFパルスの時間中心に略一致する、
請求項1又は2記載の磁気共鳴イメージングシステム。
【請求項5】
前記パルスシーケンスは、前記複数のスライスについて画像シフトを生じさせるために前記スライス選択傾斜磁場とは別個に印加されるブリップパルスを含まない、請求項1又は2記載の磁気共鳴イメージングシステム。
【請求項6】
前記スライス選択傾斜磁場のモーメントは、前記複数のスライスについて画像シフトを生じさせるためのブリップパルスの印加を含むパルスシーケンスにおけるスライス選択傾斜磁場のモーメントに等しい、請求項1又は2記載の磁気共鳴イメージングシステム。
【請求項7】
前記多周波数帯域RFパルスは、励起パルスである請求項1又は2記載の磁気共鳴イメージングシステム。
【請求項8】
前記多周波数帯域RFパルスは、再収束パルスである請求項1又は2記載の磁気共鳴イメージングシステム。
【請求項9】
前記多周波数帯域RFパルスは、一連のスピンエコーを形成するために複数回印加される、請求項1又は2記載の磁気共鳴イメージングシステム。
【請求項10】
前記パルスシーケンスは、前記スライス選択傾斜磁場の複数回の印加を含み、
前記複数回の前記スライス選択傾斜磁場の波形は、同一である、
請求項1又は2記載の磁気共鳴イメージングシステム。
【請求項11】
前記パルスシーケンスは、前記スライス選択傾斜磁場の複数回の印加を含み、
前記複数回の前記スライス選択傾斜磁場の振幅は、同一である、
請求項1又は2記載の磁気共鳴イメージングシステム。
【請求項12】
複数のスライスを励起するための多周波数帯域RFパルスの印加と前記多周波数帯域RFパルスに対応するスライス選択傾斜磁場の印加とを含むパルスシーケンスを実行する工程と、
前記パルスシーケンスの実行により発生されたエコー信号を受信してエコー信号データを生成する工程と、
前記エコー信号データに基づいて前記複数のスライスに対応する複数の画像を生成する工程と、を具備し、
前記パルスシーケンスは、前記多周波数帯域RFパルスの時間中心に対して前記スライス選択傾斜磁場の時間中心が異なるように設定され
前記多周波数帯域RFパルスの時間中心に対する前記スライス選択傾斜磁場の時間中心の差は、前記スライス選択傾斜磁場のうちの前記多周波数帯域RFパルスの時間中心よりも時間的に先行する部分のモーメントと後行する部分のモーメントとの差が、前記複数のスライスについての所定量の画像シフトを生じさせるためのモーメントに等しくなるように設定される、
磁気共鳴イメージング方法。
【請求項13】
複数のスライスを励起するための多周波数帯域RFパルスの印加と前記多周波数帯域RFパルスに対応するスライス選択傾斜磁場の印加とを含むパルスシーケンスを実行する工程と、
前記パルスシーケンスの実行により発生されたエコー信号を受信してエコー信号データを生成する工程と、
前記エコー信号データに基づいて前記複数のスライスに対応する複数の画像を生成する工程と、を具備し、
前記パルスシーケンスは、前記多周波数帯域RFパルスの時間中心に対して前記スライス選択傾斜磁場の時間中心が異なるように設定され
前記多周波数帯域RFパルスの時間中心に対する前記スライス選択傾斜磁場の時間中心の差は、前記スライス選択傾斜磁場のうちの前記多周波数帯域RFパルスの時間中心よりも時間的に先行する部分のモーメントと後行する部分のモーメントとの差が、前記複数のスライスについて所定量の画像シフトを生じさせるためのブリップパルスのモーメントに等しくなるように設定される、
磁気共鳴イメージング方法。
【請求項14】
プロセッサに、
複数のスライスを励起するための多周波数帯域RFパルスの印加と前記多周波数帯域RFパルスに対応するスライス選択傾斜磁場の印加とを含むパルスシーケンスを実行する機能と、
前記パルスシーケンスの実行により発生されたエコー信号に対応するエコー信号データを生成する機能と、
前記エコー信号データに基づいて前記複数のスライスに対応する複数の画像を生成する機能と、を実現させ、
前記パルスシーケンスは、前記多周波数帯域RFパルスの時間中心に対して前記スライス選択傾斜磁場の時間中心が異なるように設定され
前記多周波数帯域RFパルスの時間中心に対する前記スライス選択傾斜磁場の時間中心の差は、前記スライス選択傾斜磁場のうちの前記多周波数帯域RFパルスの時間中心よりも時間的に先行する部分のモーメントと後行する部分のモーメントとの差が、前記複数のスライスについての所定量の画像シフトを生じさせるためのモーメントに等しくなるように設定される、
磁気共鳴イメージングプログラム。
【請求項15】
プロセッサに、
複数のスライスを励起するための多周波数帯域RFパルスの印加と前記多周波数帯域RFパルスに対応するスライス選択傾斜磁場の印加とを含むパルスシーケンスを実行する機能と、
前記パルスシーケンスの実行により発生されたエコー信号に対応するエコー信号データを生成する機能と、
前記エコー信号データに基づいて前記複数のスライスに対応する複数の画像を生成する機能と、を実現させ、
前記パルスシーケンスは、前記多周波数帯域RFパルスの時間中心に対して前記スライス選択傾斜磁場の時間中心が異なるように設定され
前記多周波数帯域RFパルスの時間中心に対する前記スライス選択傾斜磁場の時間中心の差は、前記スライス選択傾斜磁場のうちの前記多周波数帯域RFパルスの時間中心よりも時間的に先行する部分のモーメントと後行する部分のモーメントとの差が、前記複数のスライスについて所定量の画像シフトを生じさせるためのブリップパルスのモーメントに等しくなるように設定される、
磁気共鳴イメージングプログラム。
【請求項16】
励起対象の複数のスライスについての画像シフト量を設定し、
前記複数のスライスを励起するための多周波数帯域RFパルスの印加と前記多周波数帯域RFパルスに対応するスライス選択傾斜磁場の印加とを含み、前記多周波数帯域RFパルスの時間中心に対して前記スライス選択傾斜磁場の時間中心が前記画像シフト量だけ異なるように設定されたパルスシーケンスを構築する、
プロセッサを具備し、
前記多周波数帯域RFパルスの時間中心に対する前記スライス選択傾斜磁場の時間中心の差は、前記スライス選択傾斜磁場のうちの前記多周波数帯域RFパルスの時間中心よりも時間的に先行する部分のモーメントと後行する部分のモーメントとの差が、前記複数のスライスについての所定量の画像シフトを生じさせるためのモーメントに等しくなるように設定される、
磁気共鳴イメージングシステム。
【請求項17】
励起対象の複数のスライスについての画像シフト量を設定し、
前記複数のスライスを励起するための多周波数帯域RFパルスの印加と前記多周波数帯域RFパルスに対応するスライス選択傾斜磁場の印加とを含み、前記多周波数帯域RFパルスの時間中心に対して前記スライス選択傾斜磁場の時間中心が前記画像シフト量だけ異なるように設定されたパルスシーケンスを構築する、
プロセッサを具備し、
前記多周波数帯域RFパルスの時間中心に対する前記スライス選択傾斜磁場の時間中心の差は、前記スライス選択傾斜磁場のうちの前記多周波数帯域RFパルスの時間中心よりも時間的に先行する部分のモーメントと後行する部分のモーメントとの差が、前記複数のスライスについて所定量の画像シフトを生じさせるためのブリップパルスのモーメントに等しくなるように設定される、
磁気共鳴イメージングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気共鳴イメージングシステム、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング(MRI)は、ラーモア周波数を有するラジオ周波数(RF)パルスによって、静磁場に配置された被検体の核スピンを磁気的に励起させ、その励起に伴い生成された磁気共鳴信号から画像を生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-073559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、効率的なパルスシーケンスを実施することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る磁気共鳴イメージングシステムは、複数のスライスを励起するための多周波数帯域RFパルスの印加と前記多周波数帯域RFパルスに対応するスライス選択傾斜磁場の印加とを含むパルスシーケンスを実行するシーケンス制御部と、前記パルスシーケンスの実行により発生されたエコー信号を受信してエコー信号データを生成する受信部と、前記エコー信号データに基づいて前記複数のスライスに対応する複数の画像を生成する生成部と、を具備し、前記パルスシーケンスは、前記多周波数帯域RFパルスの時間中心に対して前記スライス選択傾斜磁場の時間中心が異なるように設定される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、本実施形態に係る磁気共鳴イメージングシステムの構成を示す図である。
図2図2は、本実施形態に係る時間シフトされたスライス選択傾斜磁場での高速スピンエコー(FSE)のパルスシーケンスを示す図である。
図3図3は、本実施形態に係る複数画像の生成のためのアルゴリズムのフローチャートである。
図4図4は、本実施形態の比較例に係るスライス選択傾斜磁場での高速スピンエコー(FSE)のパルスシーケンスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係る磁気共鳴イメージングシステム、方法及びプログラムを説明する。
【0008】
添付の図面に関連して以下に説明される記述は、開示される主題の様々な実施形態の記述として意図されており、必ずしも(複数の)実施形態のみを意図するものではない。特定の例において、記述は、開示される主題の理解を提供する目的に対する特定の詳細を含む。しかし、これらの特定の詳細無くても実施形態を実行することができることは、当業者にとって明らかな可能性がある。ある例では、公知の構造および構成要素が、開示される主題の概念を曖昧にさせることを避けるために、ブロック図で表すことができる。
【0009】
実施形態を通して、「一実施形態」または「ある実施形態」と言及すれば、それは開示される主題の少なくとも一つの実施形態にふくまれる実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、特質、操作又は関数を意味する。従って、本実施形態における「一実施形態において」または「ある実施形態において」というフレーズの任意の登場は、必ずしも同じ実施形態を指すとは限らない。更に、特定の特徴、構造、特質、操作又は関数が、一つまたは複数の実施形態で任意の適切な方法で組み合わせることができる。更に、開示される主題の実施形態は、説明される実施形態の変更例や変形例を網羅することができるし、また実際に網羅することを意図している。
【0010】
「左」「右」「上」「下」「前」「後」「側面」「高さ」「長さ」「幅」「上方」「下方」「内側」「外側」等の言葉が本開示で使用される可能性があるが、単に言及の地点を説明するだけであり、開示される主題の実施形態を任意の特定の方位または配置へと必ずしも限定しないことを、理解されたい。また更に「第一」「第二」「第三」等の言葉は、部分、構成要素の数、言及の地点、操作および/または関数等のうちの一つを特定したに過ぎず、開示される主題の実施形態を任意の特定の配置または方位へと必ずしも限定するものではない。
【0011】
次に図面を参照しながら、参照番号が複数の図に亘って同一又は対応する部分を指し示す。
【0012】
同時マルチスライス(SMS:Simultaneous Multislice)撮像法は、一つのRFパルスで複数のスライス位置を同時に励起することができ、各励起されたスライスは個別の画像(例えば、各スライス位置に対して一画像)として再構成することができる。SMS撮像法は、スキャン時間を短縮し、スライス数を増やすことができるものの、SMS撮像法に対する現在のアプローチは、様々な欠点や制限を孕んでいる。
【0013】
高倍速率のパラレルイメージングにおける制御されたエリアジング(CAIPIRINHA:Controlled Aliasing in Parallel Imaging Results in Higher Acceleration)法は、多重スライス画像の制御されたエリアジングを含む。より具体的には、スライスは、位相エンコード(PE)方向に制御された方法でシフトすることができるということである。当該シフトは、異なる位相を各スライスのスピンに印加すること(例えば、各スライス位置に対して異なる送信位相を伴う、多重スライス位置を同時に選択励起するRFパルスを使用して)により、且つ既存のパラレルイメージング法(例えば、SENSE、GRAPPA等)を使用して個別のスライスを再構成することにより、達成することができる。CAIPIRINHAの主な利点としては、改善された信号対ノイズ比(SNR)でSMSを達成する点である。スライス画像をシフトすることにより、スライス画像はより広い撮像視野(FOV)を占有し、結果的に重複を少なくできる。これらのシフトされた画像は、SNRを許容範囲に保ちながら、再構成することができる。しかし、CAIPIRINHAは、RF励起パルスごとにデータの一位相エンコードラインしか収集しないので、エコートレインの無い単純な磁気共鳴パルスシーケンスに限られる場合がある。このようなパルスシーケンスとしては、例えば、フィールドエコー(FE)、スピンエコー(SE)が挙げられる。当該パルスシーケンスは、画像シフトを生じさせるため、各位相エンコードについて異なるRFパルスで繰り返される。
【0014】
従来的なCAIPIRINHA法は、多重位相エンコードラインに対し一つのRFパルスのみしか存在しないので、エコートレインを含むパルスシーケンス(例えば、高速スピンエコー(FSE)またはエコープラナー撮像(EPI))に適用することはできない。従って、位相エンコードライン各々に対してスライス位置依存位相(スライス位置を決定付ける位相)を印加する能力が失われている。ブリップパルス付きのCAIPIRINHA(blipped CAIPIRINHA)は、CAIPIRINHAの概念を含むが、エコートレインに亘りGSSブリップパルスを使用してスライス位置依存位相を適用する。GSSブリップパルスは、スライス選択(SS)軸に関するブリップパルスを意味する。具体的には、ブリップパルス付きのCAIPIRINHA法は、スライスにスライス位置依存位相を生じさせるためのGSSブリップパルスを使用する。ブリップパルスは、スライス方向の位相分散(ディフェージング)がエコートレインの間に生じることを避けるために、巻き戻し(リワインド)するために用いられる。結果として、GSSブリップパルスを印加する場合は、エコープラナー撮像(EPI)におけるエコートレインの間にGSS傾斜磁場が存在しないので、EPIに付加し易い。しかし、GSSブリップパルスを、例えば、スライス方向のクラッシャパルスやリワインドパルス等の既存のGSS傾斜磁場として高速スピンエコー(FSE)に付加することは容易ではない。例えば、FSEにおいて、GSS傾斜磁場は大抵が大きな振幅であり、インターエコー間隔を減らすために、クラッシャパルスの継続時間は最小化され振幅が増加される。更に、スライス方向のクラッシャパルス後にGSSブリップパルスを付加することは、インターエコー間隔を拡張する可能性があり、この拡張はFSEにおいて望ましくない要因である。
【0015】
上記の通り、時間シフトされたGSS傾斜磁場を伴うFSEは、スライス選択傾斜磁場の印加方向に関してブリップパルスの追加を必要としない。RFパルスの時間中心に関するGSS傾斜磁場の時間中心をシフトすることにより、傾斜磁場は同じ振幅を保ち、傾斜磁場としての波形は時間方向においてのみシフトされる。更に、RFパルスは、エコータイミングを維持するために同じ時間位置で留まることができる。
【0016】
図1は、本実施形態に係る磁気共鳴イメージング(MRI)システム100の構成を示す図である。MRIシステム100は、ガントリ10(概要的に横断面で示されている)と、これらと相互作用を取った様々な関連するシステム要素とを含む。少なくともガントリ10は、遮蔽室(シールド)に通常は配置されている。一つのMRIシステムは、実質には同軸円筒形配置された、静磁場B0磁石12と、Gx、Gy、Gz傾斜磁場コイルセット14と、大型の全身RFコイル(WBC)16とを含む。物理的なGx、Gy、Gz勾配軸は、機能的な軸GRO、GPE、GSS(読み出し:readout、位相エンコード:phase encode、スライス選択:slice-selection)を作り出すような方法で制御することができる。円筒の横軸に沿った複数のエレメントコイルのアレイは、寝台11によって支持された患者9の胸部を実質的に包括するように示された撮像ボリューム18に対応する。小さなRFコイル19は、撮像ボリューム18において患者9の頭部に更に近くに合わさるようにして示されている。RFコイル19は、頭部、腕、肩、肱、手首、膝、脚、胸部、背骨等の特定の身体の部分に対して製作される。システムコントローラ22は、シーケンス制御部30と相互作用し、シーケンス制御部30は、RF送信部34や送受信スイッチ36と同様(送受信の両方に同じRFコイルが使用された場合に)、Gx、Gy、Gz勾配コイルドライバ32を制御する。シーケンス制御部30は、例えば、時間シフトされたGSS傾斜磁場を伴う高速スピンエコー(FSE)パルスシーケンスを実行するための適切なプログラムコード構造38を含む。
【0017】
様々な関連するシステム要素が入力をMRIデータプロセッサ42に提供するために、RF受信部40を含み、係るMRIデータプロセッサ42は、その後にディスプレイ24に送られる処理済画像データを作り出すよう構成されている。MRIデータプロセッサ42は、MRI画像記憶部36に格納されている時間シフトされたGSS傾斜磁場を伴うパルスシーケンスの過去に取得されたデータ取得へとアクセスし、且つMRI画像再構成プログラムコード構造44と同様、プログラムコード構造50などMR画像データを補正/補償する、ようにも構成されている。
【0018】
図1に描かれているのは、システムプログラム格納部50の一般化された記述である。システムプログラム格納部50には、格納されたプログラムコード構造(例えば、グラフィカルユーザインターフェースを定義し、グラフィカルユーザインターフェースへの操作者入力を受け取る等のために)は、MRIシステム100の様々なデータ処理要素へとアクセスが可能な非一時的コンピュータ読み取り可能格納媒体に格納されている。プログラム格納部50は、一部分において、必要に応じ様々な関連するシステム要素の様々な要素へと、セグメントされ且つ直接接続されることができる。
【0019】
図1は、ここに説明される例示的な実施形態を実行するために、いくつか変形例があるMRIシステムの簡略化ダイアグラムを描いている。システム要素は、「ボックス」の異なるコレクションへと分割することができ、多数のデジタル信号プロセッサ、マイクロプロセッサ及び専用用途処理回路を含むことができる。これらのプロセッサおよび回路は、例えば、高速アナログ/デジタル変換、フーリエ変換及びアレイ処理を実行するよう構成されている。これらの処理回路のそれぞれは、「状態機械」とクロックトとすることができ、物理的なデータ処理回路は、一つの物理的な状態から各クロックサイクル(或いは所定数のクロックサイクル)の発生の別の物理的状態へと進む。
【0020】
操作経過に亘り、処理回路(例えば、CPU、レジスタ、バッファ、計算ユニット等)の物理的状態が、一つのクロックサイクルから別のクロックサイクルへと次第に変化することがあるだけでなく、関連するデータ格納媒体(例えば、磁気格納媒体におけるビット格納場所)の物理的状態も、その様なシステムの手術の間に、一つの状況から別の状況へと転換される。例えば、時間シフトされたGSS傾斜磁場撮像再構成処理の終わりに、物理的格納媒体におけるコンピュータ読み取り可能アクセス可能データ値格納場所のアレイは、ある以前の状態から(全て1の値の均一なゼロの値)新たな状態へと変えられる。実世界の物理的なイベント及び状況を表すために、アレイの様な物理的な場所での物理的な状態は、最小値及び最大値の間で変化する(例えば、撮像ボリューム空間についての患者の内部的な物理的構造)。格納されたデータ値のその様なアレイは、コンピュータ制御プログラムの特定の構造が、命令に連続してロードされ且つ様々な関連するシステム構成要素の一つ又は複数のCPUによって実行された場合に、MRIシステムにおいて動作状態の特定のシーケンスを引き起こし且つ遷移するのと同様に、物理的構造を表し且つ構成もする。
【0021】
図2は、本実施形態に係る、時間シフトされたGSS傾斜磁場を伴う高速スピンエコー(FSE)パルスシーケンスを描く。FSEパルスシーケンスは、一連のエコー信号を生成するために、単一の90°励起パルスの後に一連の180°再収束パルスを使用する。FSEは、これらのエコー信号各々に対し位相エンコード傾斜磁場を変調する。なお、マルチエコーシーケンスは、同じ位相エンコード傾斜磁場を伴うトレインにおいて全てのエコー信号を収集する。
【0022】
エコー信号間の位相エンコード傾斜磁場を変調する結果として、k空間の多重ライン(つまり、位相エンコードステップ)は、所定の繰り返し時間(TR)で収集される。多重位相エンコードラインを各TR間隔の間に収集することができるので、FSEにより撮像時間を著しく減らすことができる。
【0023】
典型的なパルスシーケンスにおいて、各RFパルスは、RFパルスの左側(時間的に先行する部分)とRFパルスの右側(時間的に後行する部分)とに等しい磁場勾配の積分(例えば、磁場勾配の時間積分)を含む。RFパルスのバランス或いは対称性は、RFパルスの磁気中心を基準にする。磁気中心、換言すれば、時間中心は、例えば、1個のパルス又は傾斜磁場の磁場勾配の時間積分を均等に二分する時間点、或いは1個のパルス又は傾斜磁場の磁場勾配のピーク値の時間点を指す。
【0024】
図2に示すFSEパルスシーケンスは、第一のRFパルス205、第二のRFパルス210及び第三のRFパルス215を含む。GSS傾斜磁場235、240及び245は、RFパルス205、210及び251を基準として矢印方向にシフトされる。左から右に指す矢印は、左から右へと傾斜磁場がシフトしていることを示す。例えば、RFパルス205の左側(時間的に先行する部分)についての磁場勾配(つまり、モーメント)がRFパルス205の右側(時間的に後行する部分)に比べて少ない。結果として、RFパルスの右側は、より大きい積分(つまり、モーメント)を含む。同様に、右から左へとRFパルスをシフトすることは、RFパルスの左側がより大きい積分(つまり、モーメント)を有し、且つRFパルスの右側がより少ない積分(つまり、モーメント)を有することに対応する。各RFパルス205、210、215は、時間シフトされたGSS波形235、240、245をそれぞれ含む。更に、図2は、GSS波形235がRFパルス250を基準としてシフトされ、GSS波形240がRFパルス255を基準としてシフトされ、更にGSS波形245がRFパルス260を基準としてシフトされている。
【0025】
第一のRFパルス205は、GSS傾斜磁場235を基準として矢印220に時間シフトされる。第一のRFパルス205は、A+b/2の時間シフトされたGSS傾斜磁場235を含む。ここでAは、シフトする前の曲線下面積であり、bは、各エコー信号から追加される/差し引かれることができる、追加のモーメントである。第一のRFパルス205に対応する矢印220は、第一のRFパルス250に関連する右側へのシフトであることを示し、エコー信号へと追加されている追加のモーメントに対応することができる。第二のRFパルス210は、A-b/2の時間シフトされたGSS傾斜磁場240を含む。矢印225は、第二のRFパルス255を基準とする左側へのシフトであることを示す。第二のRFパルスは、エコー信号から差し引かれている追加のモーメントに対応する。第三のパルス215は、A+b/2の時間シフトされたGSS傾斜磁場245を含む。矢印230は、第三のRFパルス260を基準とする右側へのシフトであることを示す。第三のRFパルス260は、エコー信号へと追加されている追加のモーメントに対応する。図2に描かれた右・左・右のパルスシーケンス(つまり、追加、削減、追加)は、単なる例示であり、様々なパルスシーケンスを適宜使用することが可能である。
【0026】
図2において描かれたパルスシーケンスは、各RFパルスの間の読出し表示された(例えば、図1のディスプレイ24上に)ことを含むことができる。読出しエコー信号は、RFパルスの磁気中心を基準とするスライス選択傾斜磁場の磁場勾配の積分のバランスの差によって生じた、ゼロでないスライス選択(SS)モーメントを有する。この様にして、各読出しエコー信号は、SSモーメント(例えば、SSモーメントはスライス位置依存位相を暗示する)を有することができる。各読出しエコー信号が異なるスライス依存位置位相を有する場合に、各スライスの画像は、中間の重複画像において適宜相互にシフトされ、個別の画像へと再構成される。更に、GSS波形の時間シフトは、エコー信号においてSSモーメントに比例する。より具体的には、追加モーメント(つまりb)は、GSS振幅によって増加された時間シフトに等しい。正の時間シフト(例えば、図2における右へ)及び負の時間シフト(例えば、図2における左へ)は、それぞれ正及び負のSSモーメント蓄積を生じさせるために構築される。更に、SSモーメントは、正/負シフトパターンに基づいて、追加される或いはリワインドされることができる。SSパターンは、一連の正のステップ及び負のステップから成り立つ。典型的に、パターンにおける要素数は、同時に選択されるスライス数に一致する。例えば、[+1,-1]パターンは、2つのスライスを互いにシフトするために繰り返される。他のパターンとして、[+2,―1,―1]パターンは3つのスライスを互いにシフトするために繰り返され、[+3,―1,―1,―1]パターンは4つのスライスを互いにシフトするために繰り返される。
【0027】
一実施形態において、RFパルスは、多周波数帯域(MB)RFパルスとすることがある。
【0028】
一実施形態において、RFパルスは、SAR(Specific Absorption Rate)の低減のための多周波数帯域パルスとすることができる。SAR低減のための多周波数帯域パルスとしては、例えば、PINS(Power Independent of the Number of Slices)、位相最適化のための多周波数帯域RFパルスが挙げられる。
【0029】
GSS傾斜磁場の時間シフトに関わらず、RFタイミングは固定されたままとすることができる。これによりCPMG(Carr Purcell Meiboom Gill)シーケンスを維持することができる。更に、読出傾斜磁場と位相エンコード傾斜磁場とは固定されたままとすることができ、GSS波形は、同じ振幅及び波形保つことができ、GSS波形は時間シフトすることができ、且つ各エコーでの追加のGSSモーメント(例えば、図2におけるb)は、位相エンコード(PE)方向におけるスライス位置に依存した画像シフトを生じる場合がある。
【0030】
一実施形態において、GSS波形上のフラットトップの継続時間は、最小許容可能な継続時間を超えて延長することができる。当該延長によりRF選択に影響を与えることなく画像シフトするためにGSSを許容する。フラットトップは、RFパルスが典型的に実行される箇所のスライス選択傾斜磁場の波形の中央において均一な振幅の領域である。
【0031】
実施形態において画像は、パラレルイメージング技法(例えば、SENSE、GRAPPA等)を使用して再構成することができる。
【0032】
図3は、本実施形態に係るMRIシステム100のシステムコントローラ22の制御による、複数の画像を生成するためのアルゴリズムに関するフローチャートである。
【0033】
ステップS305において、マルチバンドスピンエコーシーケンスが生成される。例えば、各RFパルスが少なくとも二つのスライス位置で選択励起するよう構成される。複数のRFパルス(例えば、二つ以上のRFパルス)は、スピンエコー(或いは一連のスピンエコー)を形成する。
【0034】
ステップS310において、MR磁化は、エコー信号を形成するために、エンコードされる。例えば、読出しの所定セット、位相エンコード及びスライス選択傾斜磁場は、エコー信号を形成するために、MR磁化をエンコードするよう構成される。
【0035】
ステップS315において、時間シフトのセットは、スライス選択傾斜磁場に適用される。言い換えれば、RFパルスに対するスライス選択傾斜磁場の時間位置は、シフトされる。更に、当該シフトは、各読出しの前に印加されるRFパルスによるスライス選択励起のために適用される。
【0036】
ステップS320において、時間シフトのパターンは、エコー信号について生成される。例えば、スライス選択傾斜磁場の時間シフトのパターンを生成する場合がある。結果的に、時間位置はシーケンスにおいても変化するものの、全ての勾配波形及び振幅は、撮像処理を通して同じまま維持することができる。
【0037】
各時間シフトは、エコートレインの各読出しエコー信号へとスライス位置依存位相を適用することができる。スライス位置依存位相は、線形位相が位相エンコード方向において増加するように、所定のパターンに適用することができる。周波数空間において線形的に変化する位相が画像空間における線形的なシフトを生じさせるというフーリエ変換の性質により、同時に選択されたスライスは相互にシフトされる。
【0038】
ステップS325において、エコー信号に対応する画像データが受信される。例えば、エコー信号は、RF受信部40等によりA/D変換されることによりエコー信号データとして変換される。エコー信号データは、k空間データ(画像データ)として収集される。
【0039】
ステップS330において、画像データは、互いに重複する全ての同時に選択されたスライスからの信号を伴う、中間画像を生成するために再構成処理に供される。
【0040】
中間画像は、複数の画像を生成するために、更に再構成することが可能である。各画像は、複数の選択されたスライスの位置のうちの一つからのデータを描出する。この様な再構成処理としては、SENSE或いはGRAPPA等のパラレル再構成法が用いられる。
【0041】
以下、上記の実施形態について総括する。本実施形態に係るMRIシステム100は、シーケンス制御部30とMRIデータプロセッサ42とを有する。シーケンス制御部30は、複数のスライスを励起するための多周波数帯域RFパルスの印加と多周波数帯域RFパルスに対応するスライス選択傾斜磁場の印加とを含むパルスシーケンスを実行する。多周波数帯域RFパルスの印加により当該複数のスライスが略同時に選択的に励起される。多周波数帯域RFパルスの印加に時間的に重畳して、当該多周波数帯域RFパルスに対応するスライス選択傾斜磁場が印加される。
【0042】
シーケンス制御部30により実行されるパルスシーケンスは、予め又は即時的にシーケンス制御部30又はMRIデータプロセッサ42により構築される。例えば、シーケンス制御部30又はMRIデータプロセッサ42は、図3のS305等において構築される。本実施形態に係るパルスシーケンスは、上記の通り、多周波数帯域RFパルスを用いた、90度パルス等の励起パルスとそれに続く180度パルス等の複数の再収束パルスとを含むFSEパルスシーケンスを基礎にする。更に本実施形態に係るパルスシーケンスとしては、高速撮像法の一種であるCAIPIRINHAを組み合わせたパルスシーケンスが好適である。
【0043】
シーケンス制御部30又はMRIデータプロセッサ42は、パルスシーケンスを、多周波数帯域RFパルスの時間中心に対してスライス選択傾斜磁場の時間中心が異なるように設定する。より詳細には、多周波数帯域RFパルスの時間中心に対するスライス選択傾斜磁場の時間中心の差は、スライス選択傾斜磁場のうちの多周波数帯域RFパルスの時間中心よりも時間的に先行する部分のモーメントと後行する部分のモーメントとの差が、複数のスライスについての所定量の画像シフトを生じさせるためのモーメントに等しくなるように設定される。所定量の画像シフトを生じさせるためのモーメントは、例えば、当該所定量の画像シフトを生じさせるためのブリップパルスのモーメントに等しくなるように設定される。所定量は、任意の値にプリセットされていてもよいし、キーボード26等の入力インターフェースを介してユーザの任意の値に設定可能である。
【0044】
ここで、図2図4とを比較して、本実施形態に係るパルスシーケンスの利点について言及する。図2は、本実施形態に係るCAIPIRINHAのパルスシーケンスにおける多周波数帯域RFパルス205,210,215と時間シフトされたスライス選択傾斜磁場235,240,245との時間関係を示す。図4は、ブリップパルス付きのCAIPIRINHAのパルスシーケンスにおけるRFパルス61,62,63とブリップパルス付きのスライス選択傾斜磁場71,72,73との時間関係を示す図である。図2の左図と図4の左図とが対応し、図2の中央図と図4の中央図とが対応し、図2の右図と図4の右図とが対応する。図4の左図は、スライス選択傾斜磁場71の時間的に後方(図4の右側)に+bのモーメントを有するブリップパルス81が付加されている例である。図4の中央図は、スライス選択傾斜磁場72の時間的に前方(図4の左側)に-bのモーメントを有するブリップパルス82が付加され、時間的に後方にも-bのモーメントを有するブリップパルス83が付加されている例である。図4の右図は、スライス選択傾斜磁場73の時間的に前方に+bのモーメントを有するブリップパルス84が付加され、時間的に後方にも+bのモーメントを有するブリップパルス85が付加され、更にブリップパルス85の時間的に後方に-bのモーメントを有するブリップパルス86が付加されている例である。
【0045】
以下、本実施形態に係るCAIPIRINHAのパルスシーケンスとブリップパルス付きのCAIPIRINHAのパルスシーケンスとの比較について、図2の左図と図4の左図とを参照しながら説明する。なお、図2の中央図と図4の中央図、図2の右図と図4の右図についても同様である。
【0046】
図4の左図に示すように、RFパルス62の時間中心(磁気中心)がスライス選択傾斜磁場71の時間中心(磁気中心)に一致するようにパルスシーケンスが構築される。スライス選択傾斜磁場71のモーメントは、RFパルス62の時間中心を基準として対称である。従ってスライス選択傾斜磁場71のうちのRFパルス62の時間中心よりも時間的に先行する部分のモーメントと後行する部分のモーメントとは略等しい。先行する部分のモーメントと後行する部分のモーメントとは共にAであるとする。ブリップパルスが、スライス選択傾斜磁場71の印加後、スライス選択方向に印加される。当該ブリップパルスのモーメントは、RFパルス62及びスライス選択傾斜磁場71の印加後に発生されるエコー信号に付与する、画像シフト量に応じたモーメントに等しい。例えば、当該ブリップパルスのモーメントは、+bであるとする。スライス選択方向に印加される磁場パルスの総モーメントは、2A+bとなる。
【0047】
本実施形態に係るパルスシーケンスは、励起対象の複数のスライスについて画像シフトを生じさせるために、スライス選択傾斜磁場とは別個に印加されるブリップパルスを含まない。本実施形態に係るパルシーケンスにおいては、図2の左図に示すように、ブリップパルスのような付加的な磁場パルスを付加することなく、時間シフトされたスライス選択傾斜磁場235により、所定の画像シフト量に応じたモーメントをエコー信号に付与する。すなわち、スライス選択傾斜磁場235のうちのRFパルス205の時間中心よりも時間的に先行する部分のモーメント(A-b/2)と後行する部分のモーメント(A+b/2)との差(+b)が、複数のスライスについての所定量の画像シフトを生じさせるためのモーメント(+b)に等しくなるように、RFパルス205の時間中心に対してスライス選択傾斜磁場235の時間中心がオフセットされる。
【0048】
なお、図2は、スライス選択傾斜磁場235を基準とした、時間シフトの前後のRFパルス205,250の位置の変化を示している。RFパルス250の時間中心とスライス選択傾斜磁場235の時間中心とが一致している状態(時間シフト前)が点線で表記され、RFパルス250の時間中心を基準としてスライス選択傾斜磁場235の時間中心が時間的に後方にオフセットしている状態(時間シフト後)が実線で表記されている。実際には、時間シフト前のRFパルス250の時間中心と時間シフト後のRFパルス205の時間中心とは一致している。
【0049】
スライス選択傾斜磁場235のモーメントは、励起対象の複数のスライスについて画像シフトを生じさせるためのブリップパルスの印加を含むパルスシーケンスにおけるスライス選択傾斜磁場71のモーメントに等しい。すなわち、図2のスライス選択傾斜磁場235のモーメントは2Aであり、図4のブリップパルス付きのスライス選択傾斜磁場71のモーメントも2Aで等しい。モーメントだけでなく、スライス選択傾斜磁場235の形状とスライス選択傾斜磁場71の形状とが同一に設定されてもよいし、スライス選択傾斜磁場235の振幅とスライス選択傾斜磁場71の振幅とが同一に設定されてもよい。なお、形状とは、縦軸を磁場勾配、横軸を時間とするグラフにおけるスライス選択傾斜磁場235,71の形状である。
【0050】
本実施形態に係るパルシーケンスにおいて、RFパルスとスライス選択傾斜磁場とは複数回に亘り印加される。RFパルスの時間中心に対してオフセットされるスライス選択傾斜磁場は、複数回のうちの特定の1回のみでよく、当該特定回よりも時間的に後の回においてはオフセットされなくてよい。すなわち、複数回のうちの特定回のスライス選択傾斜磁場の時間中心は、特定回のRFパルスの時間中心に対して異なるように設定され、特定回より時間的に後の回の前記スライス選択傾斜磁場の時間中心は、当該後の回のRFパルスの時間中心に略一致するように設定される。当該特定回においてオフセットされることにより、後行する回においてはオフセットすることなく、エコー信号に、当該オフセットに応じたモーメントが付与されるからである。オフセットされる特定回は、例えば、多周波数帯域RFパルスが励起パルスである回や再収束パルスである回に設定されてもよいし、他の任意の回でもよい。
【0051】
更にMRIシステム100は、RF受信部40を備える。例えば、図3のステップS325においてRF受信部40は、シーケンス制御部30によるパルスシーケンスの実行により発生されたエコー信号を、アレイRFコイル19を介して受信してエコー信号データ(k空間データ、画像データ)を生成する。図3のステップS330においてMRIデータプロセッサ42は、エコー信号データに基づいて、略同時に励起された複数のスライスに対応する複数のMR画像を生成する。より詳細には、MRIデータプロセッサ42は、エコー信号データに基づいて、複数のスライスが相互に所定量の画像シフトを伴い折り返された中間画像を再構成する。画像シフト量は、任意の一画素に、複数のスライスに由来する折り返し成分が重畳しないように設定されるとよい。そしてMRIデータプロセッサ42は、中間画像に基づいて、複数のスライスにそれぞれ対応する複数のMR画像を生成する。例えば、MRIデータプロセッサ42は、中間画像を、アレイRFコイル19に含まれる複数のコイルにそれぞれ対応する複数の感度マップに基づいて、複数のスライスにそれぞれ対応する複数のMR画像に展開する。これにより画質の良好な各スライスのMR画像を生成することができる。
【0052】
MRIシステム100には、様々な利点が挙げられる。例えば、MRIシステム100、そしてより具体的には図3に説明された処理は、スキャン時間を減らしながら、固定されたスキャン時間において選択されたスライス数を増やし、或いは固定されたスライス数を収集することができる。更に、時間シフトされたGSS傾斜磁場を伴うパルスシーケンスを使用することは、ブリップパルス付きのCAIPIRINHAにおいて使用されるブリップパルス等の、付加的な勾配波形を追加する必要性を除去することができる。更に、時間シフトされたGSS傾斜磁場を伴うパルスシーケンスを使用することは、勾配振幅、勾配力、負荷サイクル、そして時間に亘る音響ノイズの維持に役立つ。言い換えれば、勾配に何かしらの追加を加えるよりも、RFパルスの磁気中心に対してGSS傾斜磁場の時間中心をシフトすることにより、MRIシステム100は、より効果的になる場合があり、また実際のハードウェア制約を回避することができる(例えば、無限パワーを有さない、無限の負荷サイクルを有さない、等)。
【0053】
開示された内容の実施形態が述べられたが、当業者にとって前述の内容は、単なる実例に過ぎず、ほんの一例として表されたもので制約を受けるものでない。この様にして、特定の構成がここに説明されたものの、その他の構成も用いることができるということである。様々な変形例及びその他の実施形態(例えば、組み合わせ、再配列等)は、本開示によって可能にされ、また当業者の範囲内にあり、開示された内容及びそれらに相当するものの範囲におけるものと、意図されている。開示された実施形態の特徴は、更なる実施形態を生み出すために、発明の範囲において組み合わされ、再配置され、省略されることができる。更に、特定の特徴は、その他の特徴の対応する使用抜きで、役に立つために使用することもあるだろう。従って、出願人及び複数の出願人は、その様な選択肢、変形例、相当物、そして変化等は開示された内容の趣旨及び範囲内にあるものとして包括的に捉える意図がある。
【0054】
特定の実施形態が本開示で述べられてきた一方で、これらの実施形態は実例の方法のみで提示されており、開示の範囲を限定する意図はない。実に、本開示で述べられた新たな方法、装置やシステムは、他の様々な形態で具体化されてよく、更には、本開示の精神から乖離することなく、本開示に述べられた方法、装置やシステムの形式で省略、置き換え、変更がなされてもよいだろう。
【0055】
特定の実施形態が本開示で述べられてきた一方で、これらの実施形態は実例の方法のみで提示されており、開示の範囲を限定する意図はない。実に、本開示における示唆を使用して、当業者は、開示の精神から乖離することなく、本開示に述べられた実施形態の形において、様々な方法で省略をしたり、置き換えたり、変更をして開示を改良し適応してよい。
【0056】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、効率的なパルスシーケンスを実施することができる。
【0057】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0058】
10 ガントリ
11 寝台
14 Gz勾配コイルセット
16 全身RFコイル
18 撮像ボリューム
19 RFコイル
22 システムコントローラ
24 ディスプレイ
26 キーボード
30 シーケンス制御部
32 Gz勾配コイルドライバ
34 RF送信部
36 MRI画像記憶部
36 送受信スイッチ
38 プログラムコード構造
40 RF受信部
42 データプロセッサ
44 MRI画像再構成プログラムコード構造
50 プログラム格納部
図1
図2
図3
図4