(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】修飾ナノポア、それを含む組成物およびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/31 20060101AFI20230306BHJP
C07K 14/255 20060101ALI20230306BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20230306BHJP
G01N 27/00 20060101ALI20230306BHJP
G01N 27/02 20060101ALI20230306BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
C12N15/31 ZNA
C07K14/255
C12Q1/6869 Z
G01N27/00 J
G01N27/02 D
G01N33/50 P
(21)【出願番号】P 2018530754
(86)(22)【出願日】2016-12-08
(86)【国際出願番号】 IB2016001841
(87)【国際公開番号】W WO2017098322
(87)【国際公開日】2017-06-15
【審査請求日】2019-12-09
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-08
(32)【優先日】2015-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518201647
【氏名又は名称】カトリック ユニヴェルシテット ルーヴェン カーユー ルーヴェン リサーチ アンド ディベロップメント
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】マグリア,ジオバンニ
(72)【発明者】
【氏名】フランチェスキニ,ロレンゾ
(72)【発明者】
【氏名】ブラウンス,タイン
(72)【発明者】
【氏名】ヘロン,アンドリュー ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ジャヤシンゲ,ラクマル ニシャンタ
(72)【発明者】
【氏名】ウォーレス,エリザベス ジェーン
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】飯室 里美
【審判官】宮岡 真衣
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/153625(WO,A1)
【文献】FRANCESCHINI, Lorenzo et al.,A NANOPORE MACHINE PROMOTES THE VECTORIAL TRANSPORT OF DNA ACROSS MEMBRANES,NATURE COMMUNICATIONS,MACMILLAN PUBLISHERS LIMITED,2013年 9月,Vol. 4, 2415,pp. 1-8,URL,https://www.nature.com/articles/ncomms3415
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
C12P1/00-41/00
C07K1/00-19/00
C12M1/00-3/10
C12N1/00-7/08
C12Q1/00-3/00
BIOSIS/MEDLINE/CAplus/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
cis開口部、中間部、およびtrans開口部を含む修飾細胞溶解素A(ClyA)ナノポアであって、前記cis開口部の内部表面は第1の正に荷電したアミノ酸の置換を含み、前記中間部の内部表面は第2の正に荷電したアミノ酸の置換を含み、前記trans開口部は負に帯電したくびれを含み、
前記第1の正に荷電したアミノ酸の置換が、配列番号1または配列番号2のE106、S110、D114、D121、D122、E129、E85、E78、D268、D267、D265、またはE258に位置し、および/または配列番号1または配列番号2の78~106の範囲内の位置にあり、
前記第2の正に荷電したアミノ酸の置換が、配列番号1または配列番号2のD74、D71、D64、E53、E161、D158、E46、E42、D41に対応する1つまたは複数の位置における、負に荷電したアミノ酸の正に荷電したアミノ酸での置換に対応する、修飾ClyAナノポア。
【請求項2】
前記第1および第2の正に荷電したアミノ酸の置換がそれぞれアルギニンを含む、請求項1に記載の修飾ClyAナノポア。
【請求項3】
前記第1の正に荷電したアミノ酸の置換が、配列番号2のアミノ酸配列のS110R変異に対応する、および/または、
前記第2の正に荷電したアミノ酸の置換が、配列番号2のアミノ酸配列のD64R変異に対応する、請求項1または請求項2に記載の修飾ClyAナノポア。
【請求項4】
12量体ポアである、請求項1~3のいずれか一項に記載の修飾ClyAナノポア。
【請求項5】
ClyAナノポアを通じてDNAを移行する方法であって、
a.150mM~300mMの低イオン強度溶液に、請求項1~4のいずれか一項に記載の修飾ClyAナノポアと人工膜とを供給するステップであり、ここで前記修飾ClyAナノポアは、前記修飾ClyAナノポアのcis開口部が前記低イオン強度溶液のcis側に存在し、前記修飾ClyAナノポアのtrans開口部が前記低イオン強度溶液のtrans側に存在するように、前記人工膜に存在する、ステップと、
b.前記低イオン強度溶液の前記cis側にDNAを供給するステップと、
c.前記修飾ClyAナノポアにわたり電位を印加して、前記DNAを、前記修飾ClyAナノポアを通じて前記cis側から前記trans側へ移行させるステップと
を含む、方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の修飾ClyAナノポア
のサブユニットポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド。
【請求項7】
複数の、請求項1~4のいずれか一項に記載の修飾ClyAナノポア
のサブユニットポリペプチドを含むホモ多量体修飾ClyAナノポア。
【請求項8】
少なくとも1つの、請求項1~4のいずれか一項に記載の修飾ClyAナノポア
のサブユニットポリペプチドを含むヘテロ多量体修飾ClyAナノポア。
【請求項9】
配列番号1または配列番号2に示すアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有するサブユニットポリペプチドを含む、請求項
1に記載の修飾ClyAナノポア。
【請求項10】
配列番号1または配列番号2に示すアミノ酸配列と比較して、前記第1および第2の正に荷電したアミノ酸の置換を含む最大10個の置換を有するサブユニットポリペプチドを含む、請求項
1に記載の修飾ClyAナノポア。
【請求項11】
請求項
1~4および7~
10のいずれか一項に記載の少なくとも1つの修飾ClyAナノポアを含む組成物。
【請求項12】
標的ポリヌクレオチドを特徴付ける方法であって、
(a)150mMから300mMの低イオン強度溶液に、請求項
1~4および7~
10のいずれか一項に記載の修飾ClyAナノポアと膜とを供給するステップであり、ここで前記修飾ClyAナノポアは前記膜に存在する、ステップと、
(b)ステップ(a)の前記低イオン強度溶液に前記標的ポリヌクレオチドを添加するステップと、
(c)前記ナノポアにわたり電位を印加する間に、前記修飾ClyAナノポアを流れるイオン流を測定するステップであり、ここでイオン流の測定は、前記標的ポリヌクレオチドの1つまたは複数の特徴の指標となる、ステップと
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2015年12月8日に出願された米国仮出願第62/264,709号の米国特許法第119(e)条に基づく利益を主張し、この仮出願の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本明細書では、細胞溶解素A(ClyA)の修飾または変異形態およびそれを含む組成物が提供される。例えば、標的分析物、例えば標的ポリヌクレオチドを特徴付けるためにClyAの修飾または変異形態および組成物を使用するための方法も提供される。
【背景技術】
【0003】
膜貫通ポア(例えば、ナノポア)は、低分子または折り畳まれたタンパク質を同定するために、および単分子レベルで化学的または酵素的反応をモニターするために使用されてきた。人工膜に再構成されたナノポアを横切るDNAの電気泳動的移行は、DNAシーケンシングおよびバイオマーカー認識などの実用的用途のために大きな期待が持たれている。しかしながら、負に荷電したアミノ酸に面する内部表面を有するナノポアを通じた二本鎖または一本鎖DNAの移行は非効率的である。特に、負の内部表面電荷および溶液のデバイ長に匹敵する半径を有するナノポアにおいて、内側ナノポア壁上の電気二重層(EDL)によって生じる表面電位が重なり、ナノポアへのDNAの進入に対して大きな静電障壁をもたらす。結果として、そのようなナノポアを横切るDNAの移行は、大きなナノポア(例えば、10nm)を使用してまたは高イオン強度溶液もしくは非対称塩濃度下で小さいナノポア(例えば、約3.5nm)を使用して観察されたにすぎない。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、ある特定のタンパク質ナノポア、例えば細胞溶解素A(ClyA)ナノポアが、負に荷電した狭いくびれ(または移行を阻害するかもしくはその効率を減少させる領域)を有する一方、そのような負に荷電した狭いくびれを有するタンパク質ナノポアを通じた負に荷電した分子またはポリマー(例えば、二本鎖または一本鎖DNA)の低イオン強度溶液での捕捉および移行を、正電荷、例えば、正に荷電したアミノ酸(例えば、アルギニン)をタンパク質ナノポア(例えば、ClyAナノポア)の内腔表面内に導入してナノポア内に負に荷電した分子またはポリマー(例えば、二本鎖または一本鎖DNA)を捕捉または配向させることによって、上手く達成することができるという、予期されなかった発見に少なくとも部分的に基づく。例えば、正電荷、例えば正に荷電したアミノ酸(例えば、アルギニン)を、負に荷電した狭いくびれを有するタンパク質ナノポア(例えば、ClyAナノポア)の内腔表面に、開口部(例えば、負に荷電した分子またはポリマーの進入のための開口部)の近傍および中間部内で導入してもよい。
【0005】
ある特定の例では、平面脂質二重層における有利な特性のために選択した改変ClyAバージョンであるClyA-ASを使用して、本明細書に記載される修飾ClyAナノポアを作製した。ClyA-ASの内部電荷を再配置して、生理学的イオン強度でのナノポアによるDNAの捕捉を誘導した。例えば、修飾ClyAナノポアは、cis開口部、中間部、およびtrans開口部を含み、ここでcis開口部の内部表面は第1の正に荷電したアミノ酸の置換を含み、中間部の内部表面は第2の正に荷電したアミノ酸の置換を含み、trans開口部は負に帯電したくびれを含む。一部の例では、第1の正に荷電したアミノ酸の置換(例えば、アルギニンによる置換)はcis開口部に配置され、修飾ClyAナノポアへのDNAの捕捉を可能にしてもよく、および/または第2の正に荷電したアミノ酸の置換(例えば、アルギニンによる置換)は中間部に配置され、修飾ClyAナノポアを通じたDNAの移行を可能にしてもよい。例えば、第1の正に荷電したアミノ酸の置換は、ClyA-ASのアミノ酸配列のS110R変異に対応してもよく、および/または第2の正に荷電したアミノ酸の置換は、ClyA-ASのアミノ酸配列のD64R変異に対応してもよい。
【0006】
したがって、本開示の一態様は、例えば、修飾ClyAナノポアへの負に荷電したポリマーの捕捉、および/または修飾ClyAナノポアを通じた負に荷電したポリマーの移行を可能にする、修飾ClyAナノポアを特色とする。修飾ClyAナノポアは、第1の開口部と、中間部と、第2の開口部と、第1の開口部から中間部を通じて第2の開口部に延びる内腔とを含み、ここで第1の開口部の内腔表面は第1の正電荷修飾(例えば、第1の正に荷電したアミノ酸の置換)を含み、中間部の内腔表面は第2の正電荷修飾(例えば、第2の正に荷電したアミノ酸の置換)を含む。第2の開口部の内腔表面は負に帯電したくびれを画定する。
【0007】
本明細書に記載のいずれかの修飾ClyAナノポアでは、第1の正電荷修飾(例えば、第1の正に荷電したアミノ酸の置換)から第2の正電荷修飾(例えば、第2の正に荷電したアミノ酸の置換)までの内腔内の距離は、約0.5nmから約10nmの範囲内で変動しうる。一部の実施形態では、第1の正電荷修飾(例えば、第1の正に荷電したアミノ酸の置換)から第1の開口部表面までの内腔内の距離は、約3nmから約7nmの範囲内で変動しうる。
【0008】
任意の形態のClyAを、本明細書に記載の修飾ClyAナノポアを製造するために使用することができる。例えば、野生型ClyA(ClyA-WT)およびClyA-ASのアミノ酸配列ならびにそれをコードするヌクレオチド配列は、当技術分野で公知である。したがって、一部の実施形態では、修飾ClyAナノポアは、野生型ClyAに対応する配列番号1に示すアミノ酸配列と、少なくとも約80%(例えば、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%またはそれ以上など)同一であるアミノ酸配列を有するサブユニットポリペプチドを含みうる。代替的に、修飾ClyAナノポアは、ClyA-ASに対応する配列番号2に示すアミノ酸配列と、少なくとも約80%(例えば、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%またはそれ以上など)同一であるアミノ酸配列を有するサブユニットポリペプチドを含みうる。一部の実施形態では、修飾ClyAナノポアは、配列番号1または配列番号2に示すアミノ酸配列と比較して、第1および第2の正に荷電したアミノ酸の置換を含む、最大15個の置換を含みうる。
【0009】
本明細書に記載のいずれかの修飾ClyAナノポアでは、第1の正電荷修飾(例えば、第1の正に荷電したアミノ酸の置換)は、第1の開口部に曝露された溶液内の負に荷電したポリマー(例えば、限定されないが、二本鎖DNAまたは一本鎖DNAなどのデオキシリボ核酸(DNA))の捕捉を可能にするように、第1の開口部に配置されてもよい。例えば、正電荷(例えば、正に荷電したアミノ酸)による置換は、次の位置:配列番号1または配列番号2のE106、D114、D121、D122、E129、E85、E78、D268、D267、D265、E258の1つまたは複数で行われてもよい。
【0010】
本明細書に記載のいずれかの修飾ClyAナノポアでは、第2の正電荷修飾(例えば、第2の正に荷電したアミノ酸の置換)は、ポアの内腔を通じた負に荷電したポリマー(例えば、限定されないが、二本鎖DNAまたは一本鎖DNAなどのデオキシリボ核酸(DNA))の移行を可能にするように、中間部に配置されてもよい。例えば、正電荷(例えば、正に荷電したアミノ酸)による置換は、次の位置:配列番号1または配列番号2のD74、D71、D64、E53、E161、D158、E46、E42、D41の1つまたは複数で行われてもよい。
【0011】
第1と第2の正電荷修飾(例えば、第1と第2の正に荷電した置換)の間の距離は、好ましくは、約0.5nmから約10nmである。距離は、約3nmから約7nmの間でありうる。
【0012】
修飾ClyAナノポアは、ホモ多量体(例えば、ナノポア内の全てのサブユニットが同じである)またはヘテロ多量体(例えば、少なくとも1つのサブユニットがナノポア内の他のサブユニットと異なる)でありうる。修飾ClyAナノポアは、標的ポリマー(例えば、ポリヌクレオチド)が通り抜けるのを可能にするために十分な内腔の大きさの形成を充足する任意の数のサブユニットポリペプチドを含みうる。一部の実施形態では、修飾ClyAナノポアは、12個以上のサブユニットポリペプチド、例えば、13個のサブユニットポリペプチドおよび14個のサブユニットポリペプチドを含んでもよく、ここでサブユニットポリペプチドの少なくとも1つまたは複数は、本明細書に記載される第1および第2の正に荷電したアミノ酸の置換を含む。
【0013】
第1および第2の正電荷修飾(例えば、第1および第2の正に荷電したアミノ酸の置換)は、ナノポアの全てのサブユニットで行われてもよい。
【0014】
したがって、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチド、ならびに修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドも本明細書で提供される。例えば、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドは、配列番号1または配列番号2に示すアミノ酸配列と、少なくとも約80%(例えば、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%またはそれ以上など)同一であるアミノ酸配列を含み、ここでアミノ酸配列は、配列番号1または配列番号2の106~78の範囲内の位置に第1の正電荷修飾(例えば、第1の正に荷電したアミノ酸の置換)を含み、配列番号1または配列番号2の41~74の範囲内の位置に第2の正電荷修飾(例えば、第2の正に荷電したアミノ酸の置換)を含む。一例では、第1の正電荷修飾(例えば、第1の正に荷電したアミノ酸の置換)は、配列番号1もしくは配列番号2の110位に配置されうる;および/または第2の正電荷修飾(例えば、第2の正に荷電したアミノ酸の置換)は、配列番号1もしくは配列番号2の64位に配置されうる。第1のおよび/または第2の正に荷電したアミノ酸の置換の例としては、限定されないが、アルギニン、ヒスチジンおよびリジンのうちの1つによる置換が挙げられる。
【0015】
また、標的ポリマー、例えば標的ポリヌクレオチドなどの標的の負に荷電したポリマーの特徴付けに使用するための組成物も本開示の範囲内に含まれる。組成物は、本明細書に記載のいずれかの修飾ClyAナノポアを含む。組成物は、修飾ClyAナノポアが配置される膜(例えば、人工膜)をさらに含んでもよい。組成物は、低イオン強度溶液、例えば、約100mMから約300mMまたは約150mMから約300mMのイオン強度を有する塩溶液をさらに含んでもよい。より一般的には、塩溶液は、約50mMから約1Mのイオン強度を有しうる。一部の実施形態では、組成物は、修飾ClyAナノポアに任意選択的に結合することができるポリヌクレオチド結合タンパク質をさらに含んでもよい。
【0016】
本明細書に記載される修飾ClyAナノポアおよび組成物は、様々なバイオセンサーまたは分析物検出用途、限定されないがポリヌクレオチドシーケンシングのために使用することができる。分析物は、タンパク質でありうる。一態様では、低イオン強度でDNAを移行する方法が本明細書に記載される。方法は、(a)低イオン強度溶液に、本明細書に記載のいずれか1つの修飾ClyAナノポアと膜(例えば、人工膜)とを供給するステップであり、ここで修飾ClyAナノポアは、修飾ClyAナノポアのcis開口部が低イオン強度溶液のcis側に存在し、修飾ClyAナノポアのtrans開口部が低イオン強度溶液のtrans側に存在するように、膜に存在する、ステップと、(b)低イオン強度溶液のcis側にDNAを供給するステップと、(c)DNAが、修飾ClyAナノポアを通じてcis側からtrans側へ移行するように、修飾ClyAナノポアにわたり電位を印加するステップとを含む。一例では、低イオン強度溶液は、約150mMから約300mMのイオン強度を有する塩溶液(例えば、塩化ナトリウム溶液)でありうる。そのような方法は、ポリヌクレオチド(例えば、DNAまたはRNA)を特徴付けるために使用することができる。
【0017】
したがって、標的ポリヌクレオチドを特徴付ける方法も本明細書に提供される。方法は、(a)低イオン強度溶液(例えば、約150mMから約300mMの)に、本明細書に記載のいずれか1つの修飾ClyAナノポアと膜とを供給するステップであり、ここで修飾ClyAナノポアは膜に存在する、ステップと、(b)ステップ(a)の低イオン強度溶液に標的ポリヌクレオチドを添加するステップと、(c)ナノポアにわたり電位を印加する間に、修飾ClyAナノポアを流れるイオン流を測定するステップであり、ここでイオン流の測定は、標的ポリヌクレオチドの1つまたは複数の特徴の指標となる、ステップとを含む。本明細書に記載の方法を使用して決定することができる標的ポリヌクレオチドの特徴の非限定的な例としては、(i)標的ポリヌクレオチドの長さ、(ii)標的ポリヌクレオチドの同一性、(iii)標的ポリヌクレオチドの配列、(iv)標的ポリヌクレオチドの二次構造、(v)標的ポリヌクレオチドが修飾されているか否か、およびそれによる標的ポリヌクレオチドの特徴付け、ならびにそれらの任意の組合せが挙げられる。
【0018】
本明細書に記載のいずれかの態様では、標的ポリヌクレオチドは、一本鎖DNAまたは二本鎖DNAでありうる。
【0019】
本明細書に記載のいずれかの態様では、方法は、ポリヌクレオチド結合タンパク質が標的ポリヌクレオチドに結合し、修飾ClyAナノポアを通じた標的ポリヌクレオチドの移動を制御するように、ポリヌクレオチド結合タンパク質を低イオン強度溶液に添加するステップをさらに含むことができる。
【0020】
本開示の1つまたは複数の実施形態の詳細は、下記の詳細な説明で示される。本開示の他の特色または利点は、以下の図面およびいくつかの実施形態の詳細な説明、さらに添付の特許請求の範囲から明らかである。
【0021】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本開示のある特定の態様をさらに実証するために含まれ、本開示のある特定の態様は、本明細書に示される特定の実施形態の詳細な説明と組み合わせてこれらの図面の1つまたは複数を参照することによって、より良く理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】DNA移行のためのClyAナノポアの改変を示す図である。パネルA)大腸菌(E. coli)ClyA構造(PDB:2WCD、90%配列同一性)からホモロジーモデリングによって構築した脂質二重層に埋め込まれたClyA-ASおよびClyA-RRナノポアの断面。内側ポア内腔は、表面描写で示され、「真空内(in vacuo)」静電に従って影を付している(濃い影は負の領域を示し、薄い影は正の領域を示す。Pymol)。試験したアミノ酸置換は、ClyA-ASに示している(左)。ClyA-RRポアは、110位および64位にプロテオマーごとに2個の追加のアルギニン残基を含有する(右)。パネルB)ClyA-ASおよびClyA-RRについての電流対電圧の関係。生理学的イオン強度で+70mVでのClyA-RRナノポアを通じたパネルC)ssDNA(1a、1μM)および(パネルD)dsDNA(1、170nM)移行。下の電流トレースは、DNA移行イベントの規模を示す。電流信号は、2kHzローパスBesselフィルターを適用して10kHzで取得した。緩衝液は、150mMのNaCl、15mMのTris HCl、pH7.5であり、温度は22℃であった。
【
図2】150mMのNaCl溶液におけるDNAロタキサン形成を示す図である。パネルA)dsDNAロタキサンは、ニュートラアビジン(1.2μM、モノマー)で複合体化したハイブリッドdsDNA/ssDNAスレッド1a/1c(1.0μM)をcisコンパートメントへ添加することによって+50mVで形成された。1a/1cは31塩基一本鎖オーバーハングを5’に含有し、これを使用して、1a/1cのssDNAオーバーハングに相補的なビオチン化ssDNA分子である1d(1.0μM)とハイブリダイズさせた。したがって、ナノポア/DNAロタキサンは、1a/1cがナノポアを移行する場合にのみ形成される。DNAがClyAの内腔を占めたとき、開口ポア電流は、正に印加された電位(IRES+50=84±7、平均±S.D.、N=3)で減少し、負に印加された電位(IRES-50=1.11±0.06、平均±S.D.、N=3)で増加した。パネルB)ssDNA/dsDNAハイブリッドロタキサンは、+50mVで、ニュートラアビジン(1.2μM、モノマー)で複合体化した5’ビオチン化ssDNAスレッド2a(1.0μM、黒線)を、ClyA-RRナノポアのcisコンパートメントへ添加することによって形成された。2aの3’端と相補的であり、ニュートラアビジン(1.2μM、モノマー)と複合体化した第2の5’ビオチン化ssDNA分子2b(1.0μM)をtransコンパートメントへ添加した。ロタキサン形成時に、-50mVへの印加電位の逆転により、電流増加が誘導され(IRES-50=1.16±0.03、平均±S.D.、N=3)、ハイブリッドssDNA/dsDNAが構築されていることが示された。右側の電流トレースは、ロタキサン構成における遊離ClyA-RRおよびClyA-RRについての電圧関係(IV曲線)を示す。
図2のパネルAおよびBにおける黒線および灰色線は、2つのロタキサンのDNA構成を示す。使用した緩衝液は、15mMのTris HCl、pH7.5であり、温度は22℃であった。DNA配列を表3に示す。
【
図3】DNA移行および通過のイオン強度依存性を示す図である。パネルA)dsDNA(丸)およびssDNA(三角)についての移行頻度のデバイ強度依存性。dsDNA移行イベントの頻度は直線回帰(R
2=0.98)に良くフィットしたが、ssDNAの頻度は直線回帰(R
2=0.78)よりも単一指数回帰(R
2=0.99)に良くフィットした。パネルB)dsDNA(三角)およびニュートラアビジン:dsDNA複合体(丸)封鎖の残留電流の、溶液デバイ長に対する依存性。線は直線回帰を表す。パネルC)ssDNAについてであること以外、パネルBと同じ。パネルD)DNA通過のイオン強度依存性。+70mVの印加電位下で、ClyA-RRのcis側へのssDNAの最初の添加(1a、1μM)は、ClyA-RR開口ポア電流への高速電流封鎖を誘導した。その後のニュートラアビジンの添加(1.2μM、cis)は、150および300mMのNaCl溶液における長く続く電流封鎖を誘導し、これはおそらくssDNAの通過による。これは1Mの(またはより高い)NaCl溶液では観察されず、封鎖は一過性のままであった。相補的(complimentary)ssDNA(1a、1μM、cis)のさらなる添加は、全てのイオン強度でdsDNAの通過による永続性封鎖を誘導した。それぞれの永続性DNA捕捉イベントの後、電位を手動で-70mVへ逆転することによって開口ポアが再生した。開口ポア電流レベルを上回るおよび下回るスパイクは、電位逆転後の容量過渡を表す。電気的記録は15mMのTris HCl、pH7.5中で、22℃で実施した。データは10kHzローパスBesselフィルターを適用し、20μs(50kHz)サンプリングレートを使用して記録し、表7に示す。150mMのNaClで、追加のデジタル2kHzローパスBesselフィルターを電流トレースに適用した。
【
図4】ClyA-RRナノポアを通じた一方向性DNA移行を示す図である。パネルA)150mMのNaCl溶液では、ClyA-RRナノポアのcisおよびtrans側の両方への3μMのdsDNA1の添加は、正に印加された電位下でのみ一過性の電流封鎖(灰色の垂直線)を誘導した。パネルB)1.0MのNaCl溶液では、DNA封鎖は、両方の印加電位下で観察される。DNA誘導封鎖は、灰色の垂直線として示す。印加電位は、21秒間で+70から-70mVへ(パネルA)または+100から-100mVへ(パネルB)自動的に変化した。電気的記録は15mMのTris HCl、pH7.5中で、22℃で実施した。データは2kHz(パネルA)および10kHz(パネルB)ローパスBesselフィルターを適用し、100μs(10kHz、パネルA)および50kHz(パネルB)のサンプリングレートを使用して記録した。
【
図5】ClyAナノポアを通じたdsDNAおよびssDNA移行の機構を示す図である。パネルA)dsDNA移行。(1)dsDNAは、最初にナノポアのcis入り口で電荷と相互作用する。(2)dsDNAは、ナノポア内部に入り込み、そこで第2の改変電荷と相互作用する。両方の電荷が、負荷電trans型くびれを通じた移行を生じさせるために、DNAを整列させるために重要である。その後、(3)dsDNAは移行することができ、その後、(4)ポアを出ることができる。パネルB)(1)cis入り口での追加的電荷は、ナノポアの内部へのDNAの効率的な捕捉を媒介する。(2)ssDNAはおそらくコイル構造としてcis内腔に入る。(3)trans型くびれを移行するために、ssDNAは解け、その後、ナノポアの外で再コイル化する必要がある。(4)DNAはナノポアを出る。DNA分子およびナノポアは所定の縮尺で描かれている。Rgは、ssDNAの回転半径を示す。実験条件下で、dsDNAは剛性ロッドであり、ssDNAは約6nmの回転半径を有するコイル構造である。
【
図6】0.15MのNaCl溶液中のClyAナノポアのcis側からのDNA移行を示す図である。示された各変異体(パネルA~G)について、次のことが報告される:1μMのビオチン化ssDNA(1a、表3)のcisコンパートメントへの添加前および後の正のVG印加電位下でのIV関係(21秒および10mV電圧ステップにおける+100から-100mVへの電圧ランプ)および代表的電流トレース(表5)。またその後に1.2μMのニュートラアビジン(モノマー)および1μMの相補的ssDNA(1b、表1)をcis溶液に添加した後の様々な電流トレースも示している。電気的記録は0.15MのNaCl、15mMのTris-HCl、pH7.5中で、22℃で実施した。データは、2kHzローパスBesselフィルターを適用し、100μs(10kHz)サンプリングレートを使用して記録した。
【
図7】ssDNA移行のイオン強度依存性を示す図である。パネルA~Fは、様々な塩濃度またはイオン強度についてのデータを示す。(左側)様々なNaCl濃度で+70mV下で1μMのビオチン化ssDNA(1a、表3)のポアのcis側への添加前および後のClyA-RRナノポアの開口ポア電流を示す代表的電流トレース。右側のヒストグラムは、個々のssDNA移行イベントの滞留時間(t
OFF、左のヒストグラム)およびイベント間時間(inter-event time)(t
ON、右のヒストグラム)を表す。個々のtoffおよびイベント間時間tonイベントは、Clampfit Software(Molecular devices)の「単一チャネル検索」関数を使用し、0.05msのデータ獲得閾値を使用して、独立的に収集した。平均DNA移行滞留時間t
OFFは、累積ヒストグラムから単一指数フィットにより計算した。イベント間時間t
ONは、対数ビン(底10)を使用してヒストグラムから指数対数確率フィッティングにより計算した。電気的記録は15mMのTris-HCl、pH7.5中で、22℃で実施した。データは10kHzローパスBesselフィルターを適用し、20μs(50kHz)サンプリングレートを使用して記録した。追加の2kHzローパスBesselフィルターを使用して、データを0.15MのNaCl溶液で収集した。
【
図8】dsDNA移行のイオン強度依存性を示す図である。パネルA~Eは、様々な塩濃度またはイオン強度についてのデータを示す。電流トレースは、+70mV下および示されたNaCl濃度でポアのcis側への170nMのdsDNA(1、表3)の添加前(左)および後(右)のClyA-RRナノポアの開口ポア電流を示す。右側のヒストグラムは、個々のssDNA移行イベントの滞留時間(t
OFF、左のヒストグラム)およびイベント間時間(t
ON、右のヒストグラム)を表す。個々のtOFFおよびイベント間時間tONイベントは、Clampfit Software(Molecular devices)の「単一チャネル検索」関数を使用し、0.05msのデータ獲得閾値を使用して、独立的に収集した。平均DNA移行滞留時間τ
offを累積ヒストグラムから単一指数フィットにより計算した。イベント間時間τ
onを、対数ビン(底10)を使用してヒストグラムから指数対数確率フィッティングにより計算した。電気的記録は15mMのTris-HCl、pH7.5中で、22℃で実施した。データは10kHzローパスBesselフィルターを適用し、20μs(50kHz)サンプリングレートを使用して記録した。追加の2kHzローパスBesselフィルターを使用して、データを0.15MのNaCl溶液で収集した。
【
図9】1MのNaClでのtrans側からのDNAロタキサンの形成を示す図である。パネルA)dsDNAロタキサンを、-70mVの印加電位下で、ニュートラアビジン(1.2μM、モノマー)と複合体化したハイブリッドdsDNA/ssDNAスレッドT1d(1aおよび1c、1.0μM、表3、電流トレースの上の黒線として表示)を、transナノポアコンパートメントに添加することにより形成した。T1dのオーバーハングに相補的な3’ビオチン化ssDNA分子、1d(1.0μM、表3、電流トレースの上の灰色線に相当)をcisコンパートメントに添加した。ナノポア/DNAロタキサンは、T1dがナノポアを通じて移行されて1とハイブリダイズした場合にのみ形成されるので、この実験により、cisからtransへのClyAを通じたDNAの移行が証明される。-70mVで通過したDNAの封鎖ポア電流は64±2.0、平均±S.D.、N=3)であった。ロタキサン形成後、+70mVへの印加電位の逆転は、封鎖ポア電流(IRES+70=73±0.5、平均±S.D.、N=3)を示し、dsDNAがナノポアを占有していることを示している。パネルB)ロタキサン構成におけるClyA-RRおよびClyA-RRについてのIV関係。
【
図10】0.15MのNaCl溶液中でのtrans側からのDNAの移行を観察するためのポア改変を示す図である。パネルA~Iに示した各変異体について、次のことが報告される:1μMのビオチン化ssDNA(1a、表3)のtransコンパートメントへの添加前および後の正のVG印加電位下でのIV関係(21秒および10mV電圧ステップで+100から-100mVへの電圧ランプ)および代表的電流トレース。またその後に1.2μMのニュートラアビジン(モノマー)および1μMの相補的ssDNA(1b、表1)をtrans溶液に添加した後の様々な電流トレースも示している。DNAのtransチャンバーへの添加後にClyA-3R-E7Sは電流封鎖を示したが、ロタキサンを形成することはできず、封鎖がDNAの移行によるものではないことが示唆された。電気的記録は0.15MのNaCl、15mMのTris-HCl、pH7.5中で、22℃で実施した。データは、2kHzローパスBesselフィルターを適用し、100μs(10kHz)サンプリングレートを使用して記録した。
【
図11】DNA移行のためのClyAナノポアの改変を示す図である。パネルA)VMDおよびNAMDを使用して大腸菌(Escherichia coli)ClyA構造(PDB:2WCD、90%配列同一性)からホモロジーモデリングによって構築された脂質二重層に埋め込まれたClyA-AS(左)およびClyA-RR(右)ナノポアの断面。内側ポア内腔は、PyMOL(バージョン1.8、Schrodinger,LLC)によって計算される溶媒が接近可能な表面積を使用して示し、アダプティブポアソンボルツマンソルバ(adaptive Poisson-Boltzmann solver、APBS)によって計算される150mMのNaCl溶液中の静電電位に従って影を付している。影を付した領域は負および正の電位(-2から+2kBT/eまたは-51.4から+51.4mVの範囲)に対応する。パネルB)150mMのNaCl濃度でのClyA-ASおよびClyA-RRナノポアの中心の静電電位。
【
図12】150mMのNaCl溶液における+50mVでのDNAロタキサン形成を示す図である。パネルA)1a/1c(1.0μM、黒線)および1d(1.0μM、灰色線)を、それぞれcisおよびtransコンパートメントに添加することによってdsDNAロタキサンを形成した。ニュートラアビジン(NA、0.3μM、四量体)も両方の溶液に添加した。パネルB)ssDNA/dsDNAハイブリッドロタキサンは、5’-ビオチン化ssDNAスレッド2a(1.0μM、黒線)のcisコンパートメントへの添加および2aの3’端に相補的な5’-ビオチン化ssDNA分子(2b、1.0μM、灰色線)のtransコンパートメントへの添加によって形成された。NA(0.3μM、四量体)は両側に存在した。電流トレースの右側のグラフは、ロタキサン構成におけるClyA-RRおよびClyA-RRについての電圧関係(I-V曲線)を示す。実験は、150mMのNaClおよび15mMのTris-HCl(pH7.5)を含有する緩衝液中で、22℃で実施した。DNA配列を表3に示す。
【
図13】+70mV下でのDNA移行および通過のイオン強度依存性を示す図である。パネルA~B)1μMのDNAあたりのdsDNA(パネルA)およびssDNA(パネルB)移行の頻度の、デバイ長依存性。(パネルA)の点線は、拡散律速プロセスに対する移行頻度の理論的予測を示す。(パネルB)の線は、障壁律速プロセスを示す指数的回帰である。
【
図14】ClyA-RRナノポアを通じたdsDNAおよびssDNA移行の機構を示す図である。パネルA)dsDNA移行は、拡散律速である。(i)実験条件下、剛性ロッドであるdsDNAは、電場線によって整列され、規定の方向でナノポアに入る。(ii)dsDNAはナノポア内に入り込み、ここで第2の改変された電荷の層と相互作用する。その後、(iii)dsDNAはくびれを移行することができ、(iv)ポアを出ることができる。ナノポアのcis側入口における電荷は最初の捕捉を援助する。パネルB)ssDNA移行は反応律速である。(i)ssDNAは、ナノポアの半径の約2倍である回転半径(R
g≒6nm)を有するコイル構造を有する。(ii)ssDNAはまだポア内にいないが、入口を捜し求めている。(iii)ssDNAの一端は、cis内腔の入口を見つけ、解け始める。ナノポアに入るためにはエントロピーエネルギー障壁があるので、移行イベントを成功させるために数回の試みがなされうる。(iv)くびれを移行するために、ssDNAは完全に解ける必要がある。(v)DNAはナノポアを出て、その後、再コイル化する。cis側入口での追加的電荷は、ナノポア内部のDNAの効率的な捕捉をおそらく媒介する。DNA分子およびナノポアは所定の縮尺で描かれている。
【
図15】DNA通過のイオン強度依存性を示す図である。ssDNA(1a、1.0μM)を、ClyA-RRのcis側に最初に添加し、次いでニュートラアビジン(NA、0.3μM、cis)、最後に相補的ssDNA(1b、1μM、cis)を添加した。150および500mMのNaCl溶液では、ssDNA:NA複合体は、長く続く電流封鎖を誘導し、これはおそらくssDNAの通過による。1.0M(またはより高い)のNaCl溶液では、ssDNA:NA封鎖は一過性であり、ssDNAがポアを完全に通過できなかったことを示唆した。dsDNA:NA複合体は、全てのイオン強度で永続性封鎖を誘導した。開口ポア電流レベルを上回るおよび下回るスパイクは、DNAからナノポアを自由にするために使用した手動の電位逆転後の容量過渡を表す。電気的記録は15mMのTris-HCl、pH7.5中で、22℃で実施した。
【
図16】ClyA-RRナノポアを通じたssDNA移行のイオン強度依存性を示す図である。パネルA~Fは、様々な塩濃度またはイオン強度についてのデータを示す。電流トレースは、+70mV下で様々なNaCl濃度でポアのcis側への1.0μMのビオチン化ssDNA(1a、表3)の添加前または後のClyA-RRの開口ポア電流を示す。トレースの右側のヒストグラムは、dsDNA移行イベントの滞留時間(左のヒストグラム、従来のビニング単一指数フィット)およびイベント間時間(右のヒストグラム、対数の底10、指数対数確率フィット)を表す。散乱プロットは、電流対滞留時間を表す。電気的記録は15mMのTris-HCl、pH7.5中で、22℃で実施した。データは、10kHzローパスBesselフィルターを適用し、20μs(50kHz)サンプリングレートを使用して記録した。追加の2kHzローパスBesselフィルターを使用して、データを0.15MのNaCl溶液で収集した。
【
図17】ClyA-RRナノポアを通じたdsDNA移行のイオン強度依存性を示す図である。パネルA~Eは、様々な塩濃度またはイオン強度についてのデータを示す。電流トレースは、+70mV下で様々なNaCl濃度でのポアのcis側への140~170nMのビオチン化dsDNA(1、表3)の添加前または後のClyA-RRの開口ポア電流を示す。トレースの右側のヒストグラムは、dsDNA移行イベントの滞留時間(左のヒストグラム、従来のビニング単一指数フィット)およびイベント間時間(右のヒストグラム、対数の底10、指数対数確率フィット)を表す。散乱プロットは、電流対滞留時間を表す。電気的記録は15mMのTris-HCl、pH7.5中で、22℃で実施した。データは、10kHzローパスBesselフィルターを適用し、50kHzサンプリングレートを使用して記録した。追加の2kHzローパスBesselフィルターを使用して、データを0.15MのNaCl溶液で収集した。
【
図18】1kHzでフィルタリングしたDNA移行頻度のイオン強度依存性を示す図である。1kHzのデジタルGaussianフィルター(Clampfit、Molecular Devices)を使用してフィルタリングした電流トレースから決定される、(パネルA)dsDNAおよび(パネルB)ssDNAについてのイベント頻度の塩依存性。線は、直線的(パネルA)および指数的(パネルB)回帰フィットを示す。
【
図19】ナノポア近傍のssDNAに作用するエントロピーおよび電気泳動力を示す図である。ssDNAはコイル形状を有し、障壁横断を介してポアによって捕捉されると予測される(反応律速プロセス)。障壁は、電気泳動引力の上面に作用するポアの周辺におけるエントロピー起源の反発力に由来する。これらの2つの寄与についての自由エネルギーは細線で示され、一方で太線は2つの合計である(式(15))。図の上部は、反応座標γ
aおよびγ
bによって特徴付けられるssDNAの2つの特徴的構成をそれぞれ示す。構成(b)は低いエントロピーを有し、障壁の頂部に近い状態に相当する。
【
図20】ClyAの構造を示す図であり、cis部はAとして示され、中間部はBとして示され、trans部はCとして示される。負に荷電したアミノ酸DおよびEは、(極性、非荷電アミノ酸SおよびQと共に)図の左側に示される。極性非荷電アミノ酸または負に荷電したアミノ酸の1つまたは複数の置換がAで行われてもよく、負に荷電したアミノ酸の1つまたは複数の置換がBで行われてもよい。いくつかの負に荷電したアミノ酸を含有する領域Cは、中性または正に荷電したアミノ酸の置換がなく、そのままでありうる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
膜貫通ポア(例えば、タンパク質ナノポアまたは固体ナノポア)はバイオポリマーを検出または特徴付けるためのセンサーとして有用であるが、低イオン強度(例えば、約150mMから約300mM)である特定のナノポアを通じた、バイオポリマー、例えば、ポリヌクレオチドの移行は難題である場合があった。特に負の内部表面電荷を有する部分と、負に荷電したバイオポリマーの大きさと匹敵する半径(例えばdsDNAのBフォームについて約2.2nmおよびssDNAについて約1nm)を有するナノポアは、低イオン強度での負に荷電したバイオポリマーのナノポアへの進入に対して大きな静電障壁を生じうる。したがって、ナノポアにわたる負に荷電したバイオポリマー、例えばポリヌクレオチドのより効率的な捕捉および/または移行を可能にする膜貫通ナノポアを設計する必要がある。そのナノポアは、ポリヌクレオチドマッピングまたはシーケンシングなどの実用的用途のために有用でありうる。
【0024】
本開示は、正電荷を膜貫通ナノポア、例えば細胞溶解素A(ClyA)の内腔表面へ、ある特定の位置で導入して、負に荷電した狭いくびれ(例えば、約3.3nmの寸法を有する)を通じたDNA移行のエントロピーおよび静電障壁を克服することができるという、予期されなかった発見に少なくとも部分的に基づく。例えば、ClyAナノポアの広い方の入口(cis側)および中間部での正電荷(例えばアルギニンなどの正に荷電したアミノ酸)の導入が、負に荷電したtrans型くびれ自体に何らの修飾が存在しない場合でも、狭く負に荷電したtrans型くびれを通じた有効な電気泳動駆動スライディングのためにDNA(例えば、二本鎖または一本鎖)を「把持(grab)」し、配向させるために十分であることが発見された。さらに、そのような修飾が、例えば50mM程度の低イオン強度でのDNA移行を可能にすることが発見された。原理的に、修飾は、本明細書に記載のいずれかの態様の方法を、50mMより低いイオン強度でさえも実施することを可能にする。しかしながら、低いイオン強度は対応して低いイオン電流を生じさせる可能性があるため、いくつかの状況では、望ましくない場合がある。そのような修飾なしでは、ナノポアを通じた一本鎖または二本鎖DNAの移行は、2.0Mを超えるイオン強度でのみ観察された。
【0025】
したがって、一部の態様では、本開示は、(例えば、修飾ClyAナノポアを形成するための)修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドおよびそれを含むナノポアを提供する。本明細書に記載される修飾ClyAナノポアは、ポリヌクレオチドの特徴付けなどの様々な実用的用途のために使用することができる。したがって、二本鎖または一本鎖ポリヌクレオチドなどのポリヌクレオチドを特徴付けるための方法および組成物も本明細書に記載される。本明細書に記載の方法および組成物は、生理学的イオン強度(例えば50mM~300mM)または低イオン強度(例えば、2M未満、または1M未満)での二本鎖または一本鎖ポリヌクレオチドの効率的な移行を提供する。
【0026】
本明細書に記載の修飾ClyAナノポアおよび方法は、ポリヌクレオチドの一方向の移行を可能にする、つまりポリヌクレオチドがナノポアにtransからcis方向へ入るおよび通過することができない。これにより、例えば、ポリヌクレオチド(例えば、DNA)のcisからtrans方向へのフィルタリングが可能になる。
【0027】
またClyAナノポアのナノポア構造と同様のナノポア構造(例えば、cis開口部でより大きな直径(例えば、5~7nm)を有し、trans開口部で負に荷電したより狭いくびれ(例えば、直径3~4nm)を有する円筒形の内腔)を有する他のナノ構造も、低イオン強度溶液でDNA移行を可能にする同様の修飾ストラテジーをとりうると考えられる。
【0028】
修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチド
本開示の一態様は、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドを提供する。修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドは、その配列が参照ClyAアミノ酸配列とは異なっているポリペプチドである。修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドのアミノ酸配列は、(i)cis開口部形成アミノ酸配列、(ii)中間部形成アミノ酸配列、および(iii)trans開口部形成アミノ酸配列を含む。cis開口部形成アミノ酸配列は、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドが他のサブユニットポリペプチドと相互作用して、膜にナノポアを形成するときの、ナノポアのcis開口部の部位を形成するアミノ酸配列の一部である。中間部形成アミノ酸配列は、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドが他のサブユニットポリペプチドと相互作用して膜にナノポアを形成するときのナノポアの中間部の部位を形成するアミノ酸配列の部分である。trans開口部形成アミノ酸配列は、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドが他のサブユニットポリペプチドと相互作用して、膜にナノポアを形成するときのナノポアのtrans開口部の部位を形成するアミノ酸配列の部分である。ClyAナノポアのcis部分、中間部およびtrans部分に対応するClyAアミノ酸配列の部分を同定する方法は、当技術分野で公知であり、実施例にも記載されている。例えば、部分が膜に埋め込まれたナノポアは、例えば、Humphrey et al., "VMD: Visual Molecular Dynamics" J. Mol. Graphics (1996) 14: 33-38に記載のVMD、および例えばPhillips et al., "Scalable Molecular Dynamics with NAMD" J. Comput. Chem. (2005) 26: 1781-1802に記載のNAMDを使用して、公知のClyA構造からホモロジーモデリングによって構築することができる。例えば、
図1Aを参照。
【0029】
本明細書で使用されるとき、用語「参照ClyAアミノ酸配列」は、ClyAナノポアサブユニットの公知のアミノ酸配列を指す。ClyAナノポアサブユニットの様々な形態は、当技術分野で公知であり、例えば、限定されないが、ClyA野生型(ClyA-WT)、ClyA-SS、ClyA-CSおよびClyA-ASが挙げられる。例えば、ClyA-SS、ClyA-CSおよびClyA-ASにおけるClyA-WTに対する様々な変異ならびにそれらの作製方法を記載するSoskine et al. "Tuning the size and properties of ClyA nanopores assisted by directed evolution" J Am Chem Soc. (2013) 135: 13456-13463を参照。国際公開第2016/166232号パンフレットおよび国際公開第2014/153625号パンフレットに記載の任意のClyAアミノ酸配列を、参照ClyAアミノ酸配列として使用することもできる。一実施形態では、参照ClyAアミノ酸配列は、配列番号1に示すClyA-WTのアミノ酸配列である。一実施形態では、参照アミノ酸は、配列番号1に示すClyA-WTのアミノ酸配列(amino sequence)と比較して、以下の変異:C87A、L99Q、E103G、F166Y、I203V、C285S、K294Rを含有する、配列番号2に示すClyA-ASのアミノ酸配列である。一部の実施形態では、ClyA-ASのアミノ酸配列は、ClyA-WTのアミノ酸配列と比較して、さらにH307Yを含むことができる。
【0030】
一部の実施形態では、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドは、参照ClyAアミノ酸配列と、少なくとも約80%(例えば、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%またはそれ以上など)同一であるアミノ酸配列を含む。当技術分野の標準的方法を使用してホモロジーを決定してもよい。例えば、UWGCGパッケージは、例えばデフォルト設定で使用されるホモロジーを計算するために使用することができるBESTFITプログラムを提供する(Devereux et al (1984) Nucleic Acids Research 12, p387-395)。PILEUPおよびBLASTアルゴリズムは、例えば、Altschul S. F. (1993) J Mol Evol 36:290-300、Altschul, S.F et al (1990) J Mol Biol 215:403-10に記載されているように、ホモロジーを計算するまたは配列を並べる(例えば、(通常、デフォルト設定での)等価な残基または対応する配列を同定する)ために使用することができる。BLAST分析を実施するためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を通して公的に入手可能である。
【0031】
修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドのアミノ酸配列は、cis開口部形成アミノ酸配列内の位置に(i)第1の正電荷修飾(例えば、第1の正に荷電したアミノ酸の置換)、および中間部形成アミノ酸配列内の位置に(ii)第2の正電荷修飾(例えば、第2の正に荷電したアミノ酸の置換)を含む。第1および第2の正電荷修飾(例えば、第1および第2の正に荷電した置換)は、参照ClyAアミノ酸配列と比較して、ナノポアを通じた負に荷電したポリマー(例えば、二本鎖または一本鎖DNAなどのポリヌクレオチド)の捕捉および/または移行のより高い頻度を提供するように選択される。
【0032】
一実施形態では、第1の正電荷修飾(例えば、第1の正に荷電したアミノ酸の置換)は、配列番号1または配列番号2に示すアミノ酸配列の110位でありうる。一部の実施形態では、正電荷(例えば、正に荷電したアミノ酸)による置換は、以下の位置:配列番号1または配列番号2のE106、D114、D121、D122、E129、E85、E78、D268、D267、D265、E258の1つまたは複数で行われてもよい。一部の実施形態では、ClyAアミノ酸配列(例えば、配列番号1または2に示す)は、そのN末端にさらなるアミノ酸「MI」を含むように修飾または改変されていてもよい。
【0033】
一実施形態では、第1の正電荷修飾(例えば、第1の正に荷電したアミノ酸の置換)は、配列番号1または配列番号2に示すアミノ酸配列の64位でありうる。一部の実施形態では、正電荷(例えば、正に荷電したアミノ酸)による置換は、以下の位置:配列番号1または配列番号2のD74、D71、D64、E53、E161、D158、E46、E42、D41の1つまたは複数で行われてもよい。
【0034】
用語「正に荷電したアミノ酸の置換」は、本明細書で使用されるとき、参照アミノ酸の、例えばpH7.0~8.0(例えば、pH8.0)および室温、例えば20~25℃で検出される正味の正電荷を増加させるまたは正味の負電荷を減少させる参照アミノ酸への修飾を指す。例えば、正に荷電したアミノ酸の置換には、限定されないが、(i)負に荷電したアミノ酸を、それほど負に荷電していないアミノ酸、中性アミノ酸もしくは正に荷電したアミノ酸で置き換えること、(ii)中性アミノ酸を正に荷電したアミノ酸で置き換えること、または(iii)正に荷電したアミノ酸をより正に荷電したアミノ酸で置き換えることを含むことができる。一部の実施形態では、正に荷電したアミノ酸の置換は、負に荷電したアミノ酸の欠失または正に荷電したアミノ酸の付加を含みうる。一部の実施形態では、正に荷電したアミノ酸の置換は、1つまたは複数の負に荷電したアミノ酸の、それらの負電荷を中和する1つまたは複数の化学修飾を含みうる。例えば、1つまたは複数の負に荷電したアミノ酸をカルボジイミドと反応させてもよい。
【0035】
正に荷電したアミノ酸は、溶液のpHより高い等電点(pI)を有し、したがって溶液中でアミノ酸が正味の正電荷を保有する、アミノ酸である。例えば、pH7.0~8.0(例えば、pH8.0)および室温、例えば20~25℃で検出される正に荷電したアミノ酸の例としては、限定されないが、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)およびリジン(K)が挙げられる。負に荷電したアミノ酸は、溶液のpHより低いpIを有し、したがって溶液中でアミノ酸が正味の負電荷を保有する、アミノ酸である。pH7.0~8.0(例えば、pH8.0)および室温、例えば20~25℃で検出される負に荷電したアミノ酸の例としては、限定されないが、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、セリン(S)、グルタミン(Q)が挙げられる。中性アミノ酸は、溶液のpHと同じ等電点(pI)を有し、したがって溶液中でアミノ酸が正味の電荷を保有しない、アミノ酸である。アミノ酸のpI値は、当技術分野で公知である。目的のアミノ酸のpI値を溶液のpHと比較することにより、当業者は、溶液中に存在するアミノ酸が正に荷電したアミノ酸であるか、中性アミノ酸であるか、または負に荷電したアミノ酸であるかを容易に決定することができる。本明細書で使用されるとき、用語「アミノ酸」は、天然アミノ酸または合成アミノ酸でありうる。
【0036】
一部の実施形態では、例えばpH7.0~8.0(例えば、pH8.0)および室温、例えば20~25℃で検出される第1および/または第2の正に荷電したアミノ酸の置換には、限定されないが、参照アミノ酸をアルギニン、ヒスチジンおよびリジンのうちの1つで置換することが含まれる。
【0037】
一部の実施形態では、第1の正に荷電したアミノ酸の置換はS110Rであり、ここで110位は、配列番号1または配列番号2のアミノ酸110に対応する。
【0038】
一部の実施形態では、第2の正に荷電したアミノ酸の置換はD64Rであり、ここで64位は、配列番号1または配列番号2のアミノ酸64に対応する。
【0039】
本明細書に記載の第1および第2の正に荷電したアミノ酸の置換に加えて、アミノ酸の置換、例えば、最大1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20または30個の置換を参照ClyAアミノ酸配列に行いうる。保存的置換は、アミノ酸を、類似の化学構造、類似の化学的特性、または類似の側鎖体積を有する他のアミノ酸で置き換える。導入されるアミノ酸は、置き換えられるアミノ酸と、類似の極性、親水性、疎水性、塩基性、酸性、中性または電荷を有しうる。代替的に、保存的置換は、既存の芳香族または脂肪族アミノ酸の代わりに、芳香族または脂肪族である別のアミノ酸を導入してもよい。保存的アミノ酸変化は当技術分野で周知であり、下記表Aに定義される20種の主要なアミノ酸の特性に従って選択しうる。これは、アミノ酸が同様の極性を有する場合、表Aに示すアミノ酸側鎖のハイドロパシースケールを参照することによって決定することもできる。
【0040】
【0041】
【0042】
配列番号1または2のアミノ酸配列の1つまたは複数のアミノ酸残基が、上記のポリペプチドからさらに欠失してもよい。最大1、2、3、4、5、10、20または30個の残基が欠失してもよく、またはそれ以上が欠失してもよい。
【0043】
1つまたは複数のアミノ酸が、代替的にまたは付加的に上記のポリペプチドに付加されてもよい。配列番号1もしくは2のアミノ酸配列またはそのポリペプチドバリアントもしくはそのフラグメントのアミノ末端またはカルボキシ末端に伸長が与えられてもよい。伸長は非常に短く、例えば1から10アミノ酸の長さであってもよい。代替的に、伸長はより長く、例えば最大50または100アミノ酸であってもよい。キャリアタンパク質は、アミノ酸配列、例えば、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドのアミノ酸配列に融合されていてもよい。他の融合タンパク質は、以下により詳細に説明されている。
【0044】
アミノ酸を(例えば、置換、付加または欠失により)修飾するための方法は、当技術分野で周知である。例えば、参照アミノ酸は、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに関連する位置で、参照アミノ酸についてのコドンを標的アミノ酸についてのコドンで置き換えることによって、標的アミノ酸で置換してもよい。次いでポリヌクレオチドは、以下で説明されるように発現されうる。アミノ酸が非天然アミノ酸である場合、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドを発現するために使用されるIVTT系に、合成アミノアシル-tRNAを含めることによって導入してもよい。代替的に、特定のアミノ酸の合成(つまり非天然)アナログの存在下で特定のアミノ酸に対して栄養要求性である大腸菌(E. coli)で、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドを発現することによって導入してもよい。また、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドが部分ペプチド合成を使用して製造される場合、ネイキッドライゲーション(naked ligation)によって製造してもよい。
【0045】
一部の実施形態では、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドのtrans開口部形成アミノ酸配列は、例えば、pH7.0~8.0(例えば、pH8.0)および室温(例えば、20~25℃)で検出される正味の負電荷を保有してもよく、これは参照ClyAアミノ酸配列の対応するtrans開口部形成部分の正味の負電荷と(例えば、10%以内、5%以内、4%以内、3%以内、2%以内、1%以内またはそれ未満で)匹敵する。例えば、一部の実施形態では、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドのtrans開口部形成アミノ酸配列は、例えば、配列番号1または配列番号2に示す参照ClyAアミノ酸配列の対応するtrans開口部形成部分と、少なくとも約95%以上(例えば、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%または最大100%など)同一でありうる。一実施形態では、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドのtrans開口部形成アミノ酸配列は、配列番号2に示すアミノ酸配列の対応するtrans開口部形成部分と100%同一である。
【0046】
本明細書に記載の修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドを使用して、本明細書に記載されるホモ多量体ナノポアまたはヘテロ多量体ナノポアを形成してもよい。したがって、一部の実施形態では、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドは、他のサブユニットポリペプチドを有するナノポアを形成する能力を保持する。修飾モノマーのナノポア形成能力を評価するための方法は、当技術分野で周知である。例えば、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドを、他の適切なサブユニットと共に両親媒性層に挿入して、オリゴマー化してポアを形成する能力を調べてもよい。サブユニットを、膜、例えば両親媒性層に挿入するための方法は、当技術分野で公知である。例えば、サブユニットが膜に拡散し、膜に結合することにより挿入され、機能的な状態に構築されるように、サブユニットは、トリブロックコポリマー膜を含有する溶液中に精製された形態で懸濁されてもよい。代替的に、サブユニットは、M.A. Holden, H. Bayley. J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 6502-6503および国際出願番号PCT/GB2006/001057(国際公開第2006/100484号パンフレットとして公開)に記載の「ピックアンドプレース(pick and place)」方法を使用して、膜に直接挿入されてもよい。
【0047】
修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドは、ナノポア形成に干渉しない限り、非特異的修飾を含有してもよい。多数の非特異的側鎖修飾が当技術分野で公知であり、アミノ酸の側鎖に対してなされてもよい。そのような修飾としては、例えば、アルデヒドとの反応とその後のNaBH4での還元によるアミノ酸の還元的アルキル化、メチルアセトイミデートを用いたアミド化、または無水酢酸を用いたアシル化が挙げられる。
【0048】
修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドは、当技術分野で公知の標準的方法を使用して製造されうる。修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドは、合成的にまたは組換え手段によって作製されうる。例えば、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドは、in vitro翻訳および転写(IVTT)によって合成してもよい。ポアおよび修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドを製造するための適切な方法は、国際出願番号PCT/GB09/001690(国際公開第2010/004273号パンフレットとして公開)、PCT/GB09/001679(国際公開第2010/004265号パンフレットとして公開)またはPCT/GB10/000133(国際公開第2010/086603号パンフレットとして公開)で説明されている。
【0049】
本明細書に記載される修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドは、D-アミノ酸を使用して製造されうる。例えば、本明細書に記載される修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドは、L-アミノ酸とD-アミノ酸との混合物を含みうる。このことは、そのようなタンパク質またはペプチドの製造について当技術分野において一般的である。
【0050】
一部の実施形態では、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドは、化学的に修飾されてもよい。修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドは、任意の方法でおよび任意の部位で化学的に修飾されうる。例えば、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドは、染料または蛍光体の結合によって化学的に修飾されてもよい。一部の実施形態では、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドは、1つもしくは複数のシステイン(システイン結合)への分子の結合、1つもしくは複数のリジンへの分子の結合、1つもしくは複数の非天然アミノ酸への分子の結合、エピトープの酵素修飾または末端の修飾によって化学的に修飾されてもよい。そのような修飾を実施するための適切な方法は、当技術分野で周知である。
【0051】
一部の実施形態では、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドは、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドを含むナノポアと標的ヌクレオチドまたは標的ポリヌクレオチド配列との間の相互作用を促進する分子アダプターで化学的に修飾されていてもよい。アダプターの存在は、ナノポアおよびヌクレオチドまたはポリヌクレオチド配列のホスト-ゲスト化学を改善し、それによって修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドから形成されたポアのシーケンシング能力を改善する。ホスト-ゲスト化学の原理は、当技術分野で周知である。アダプターは、ナノポアとヌクレオチドまたはポリヌクレオチド配列との相互作用を向上させるナノポアの物理的または化学的特性に影響を与える。アダプターは、ポアのバレルもしくはチャネルの電荷を変化させ、またはヌクレオチドもしくはポリヌクレオチド配列と特異的に相互作用もしくは結合し、それによってポアとの相互作用を促進することができる。
【0052】
一部の実施形態では、分子アダプターは、環状分子、シクロデキストリン、ハイブリダイゼーションが可能な種、DNA結合剤もしくはインターカレータ(interchelator)、ペプチドもしくはペプチドアナログ、合成ポリマー、芳香族平面分子、正に荷電した小分子また水素結合可能な小分子でありうる。
【0053】
一部の実施形態では、分子アダプターは、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドに共有結合的に結合していてもよい。アダプターは、当技術分野で公知の任意の方法を使用して、ナノポアに共有結合的に結合することができる。アダプターは、通常、化学結合を介して結合する。分子アダプターがシステイン結合を介して結合する場合、1つまたは複数のシステインが、置換によって修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドに導入されてもよい。
【0054】
他の実施形態では、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドは、ポリヌクレオチド結合タンパク質、例えば、ヘリカーゼ、エキソヌクレアーゼ、およびポリメラーゼに結合または連結されてもよい。一部の実施形態では、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドは、ヘリカーゼ、例えばDNAヘリカーゼに結合または連結されてもよい。ナノポアシーケンシングの使用に適したヘリカーゼ、エキソヌクレアーゼ、およびポリメラーゼの例は、当技術分野で公知である。一部の実施形態では、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドは、ヘリカーゼ、例えば、DNAヘリカーゼ、Hel308ヘリカーゼ(例えば、国際公開第2013/057495号パンフレットに記載)、RecDヘリカーゼ(例えば、国際公開第2013/098562号パンフレットに記載)、XPDヘリカーゼ(例えば、国際公開第201/098561号パンフレットに記載)またはDdaヘリカーゼ(例えば、国際公開第2015/055981号パンフレットに記載)に結合または連結されうる。これは標的ポリヌクレオチドを特徴付ける方法に使用しうるモジュール型シーケンシングシステムを形成する。ポリヌクレオチド結合タンパク質は、以下で説明される。移行の速度制御は、システムに添加されるポリヌクレオチド結合タンパク質の種類および/または燃料(ATP)の量によって決定されうる。例えば、二本鎖DNA分析物の移行の速度は、FtsKなどの二本鎖DNAトランスロカーゼによって制御することができる。システムに添加された燃料(ATP)に依存して、標的ポリヌクレオチドの移行速度は、約30B/秒~1000B/秒の間でありうる。
【0055】
一部の実施形態では、ポリヌクレオチド結合タンパク質は、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドに共有結合的に結合させることができる。ポリヌクレオチド結合タンパク質は、当技術分野で公知の任意の方法を使用して、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドに共有結合的に結合させることができる。修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドおよびポリヌクレオチド結合タンパク質は、化学的に融合または遺伝的に融合されてもよい。修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドおよびポリヌクレオチド結合タンパク質は、全構築物が単一のポリヌクレオチド配列から発現される場合、遺伝的に融合される。修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドのポリヌクレオチド結合タンパク質への遺伝的融合は、国際出願番号PCT/GB09/001679(国際公開第2010/004265号パンフレットとして公開)で説明されている。
【0056】
修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドは、分子アダプターおよびポリヌクレオチド結合タンパク質で化学的に修飾されてもよい。
【0057】
本明細書に記載のいずれかのタンパク質、例えば本明細書に記載の修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドおよびナノポアは、ヒスチジン残基(hisタグ)、アスパラギン酸残基(aspタグ)、ストレプトアビジンタグ、FLAGタグ、SUMOタグ、GSTタグもしくはMBPタグの付加によって、またはポリペプチドが天然にそのような配列を含有していない細胞からそれらのタンパク質の分泌を促進するためのシグナル配列を付加することによって修飾してそれらの同定または精製が支援されてもよい。遺伝子タグを導入するための代替手段は、タンパク質の天然または改変された位置にタグを化学的に反応させることである。この例は、タンパク質の外側の改変されたシステインにゲルシフト試薬を反応させることである。これは、ヘモシジンヘテロオリゴマー(Chem Biol. 1997 Jul;4(7):497-505)を分離するための方法として実証されている。
【0058】
本明細書に記載のいずれかのタンパク質、例えば、本明細書に記載の修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドおよびナノポアは、検出可能な標識で標識されてもよい。検出可能な標識は、タンパク質を検出することを可能にする任意の適切な標識でありうる。適切な標識としては、限定されないが、蛍光分子、放射性同位元素、例えば、125I、35S、酵素、抗体、抗原、ポリヌクレオチドおよびビオチンなどのリガンドが挙げられる。
【0059】
本明細書に記載の修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドを含む、本明細書に記載のいずれかのタンパク質は、当技術分野で公知の標準的方法を使用して製造することができる。タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列は、当技術分野における標準的方法を使用して、誘導および複製することができる。タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列は、当技術分野における標準的技術を使用して、細菌宿主細胞で発現することができる。タンパク質は、組換え発現ベクターからポリペプチドのin situ発現により細胞で産生することができる。発現ベクターは、任意選択的に、ポリペプチドの発現を制御する誘導型プロモーターを保有する。これらの方法は、Sambrook, J. and Russell, D. (2001). Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd Edition. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NYに記載されている。
【0060】
タンパク質は、タンパク質産生生物からまたは組換え発現後に任意のタンパク質液体クロマトグラフィーシステムによる精製後、大規模に製造しうる。典型的なタンパク質液体クロマトグラフィーシステムとしては、FPLC、AKTAシステム、Bio-Cadシステム、Bio-Rad BioLogicシステムおよびGilson HPLCシステムが挙げられる。
【0061】
修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
本明細書において、本明細書に記載される修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドのいずれか1つをコードするポリヌクレオチド配列も提供される。
【0062】
ポリヌクレオチド配列は、当技術分野における標準的方法を使用して、誘導および複製することができる。野生型ClyAをコードする染色体DNAは、ポア産生生物、例えばチフス菌(Salmonella typhi)から抽出してもよい。ポアサブユニットをコードする遺伝子は、特定のプライマーを含むPCRを使用して増幅してもよい。増幅された配列は、次いで、部位特異的変異誘発を受けうる。部位特異的突然変異誘発の適切な方法は、当技術分野で公知であり、例えば、連鎖反応の組合せが挙げられる。修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドのいずれか1つをコードするポリヌクレオチドは、周知の技術、例えば、Sambrook, J. and Russell, D. (2001). Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd Edition. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NYに記載の技術を使用して作製しうる。
【0063】
得られたポリヌクレオチド配列を、次いで、組換え複製ベクター、例えばクローニングベクターに組み込んでもよい。ベクターを使用して、適合する宿主細胞でポリヌクレオチドを複製してもよい。そのように、ポリヌクレオチド配列は、ポリヌクレオチドを複製可能なベクターに導入し、ベクターを適合する宿主細胞に導入し、ベクターの複製をもたらす条件下で宿主細胞を増殖させることによって作製することができる。ベクターは宿主細胞から回収されうる。ポリヌクレオチドをクローニングするための適切な宿主細胞は、当技術分野で公知である。
【0064】
本開示の別の態様には、本明細書に記載の修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドまたは構築物を製造する方法が含まれる。方法は、適切な宿主細胞で修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドのいずれかの実施形態をコードするポリヌクレオチドを発現するステップを含む。ポリヌクレオチドは、好ましくはベクターの一部であり、好ましくはプロモーターに作動可能に連結されている。
【0065】
修飾ClyAナノポア
本開示の一態様は、例えば、修飾ClyAナノポアへの負に荷電したポリマー(例えば、DNAまたはRNAなどのポリヌクレオチド)の捕捉および/または修飾ClyAナノポアを通じた負に荷電したポリマーの移行を可能にする修飾ClyAナノポアを特色とする。修飾ClyAナノポアは、第1の開口部と、中間部と、第2の開口部と、第1の開口部から中間部を通じて第2の開口部に延びる内腔とを含み、ここで第1の開口部の内腔表面は第1の正に荷電したアミノ酸の置換を含み、中間部の内腔表面は第2の正に荷電したアミノ酸の置換を含む。第2の開口部の内腔表面は負に帯電したくびれを画定する。第1の正に荷電したアミノ酸の置換および第2の荷電アミノ酸の置換は、上記の「修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチド」の項目に詳細に記載されている。
【0066】
説明の目的のためのみに、
図1(パネルA)に、本明細書に記載の一実施形態による修飾ClyAナノポアを示す。修飾ClyAナノポアは、第1の開口部102、中間部104、および第2の開口部106を含む。内腔108は、第1の開口部102から中間部104を通じて第2の開口部106に延び、約13nmから約15nmの全長を有する。第1の開口部102および中間部104は、約5nmから約7nmの直径を有する。第2の開口部106の内腔表面は負に帯電したくびれ112を画定し、ここで最も狭い断面は約3nmから約4nmの直径を有する。修飾ClyAナノポアの第2の開口部106(約3nmから約5nmの長さ)は、修飾ClyAナノポアの存在する溶液が2つの側に分かれ、第1の開口部102が溶液の1つの側に存在し、負に帯電したくびれ112が溶液の別の側に存在するように、膜(例えば、二重層)110に挿入される。標的ポリマー(例えば、標的ポリヌクレオチド)が第1の開口部102と同じ側に添加されるとき、第1の開口部102はcis開口部であり、第2の開口部106はtrans開口部である。
【0067】
本明細書で使用されるとき、用語「内腔表面」は、溶液に曝露される内腔の内部表面を指す。
【0068】
本明細書で相互に交換可能に使用されるとき、用語「負に帯電したくびれ」または「負に荷電したくびれ」は、正味の負の表面電荷を有するくびれを指す。例えば、負に帯電したくびれを画定する第2の開口部の内腔表面は、
図1(パネルA)に示すような正味の負の表面電荷を有する。
【0069】
本明細書に記載のいずれかの修飾ClyAナノポアでは、第1の正電荷修飾(例えば、第1の正に荷電したアミノ酸の置換)から第2の正電荷修飾(例えば、第2の正に荷電したアミノ酸の置換)までの内腔内の距離は、約0.5nmから約10nm、または約3nmから約7nmの範囲内で変動しうる。一部の実施形態では、第1の正電荷修飾(例えば、第1の正に荷電したアミノ酸の置換)から第2の正電荷修飾(例えば、第2の正に荷電したアミノ酸の置換)までの内腔内の距離は、約1nm、約2nm、約3nm、約4nm、約5nm、約6nm、約7nm、約8nm、または約9nmでありうる。
【0070】
任意の形態のClyAを、本明細書に記載の修飾ClyAナノポアを製造するために使用することができる。例えば、上記のように、ClyAの様々な形態、例えば、限定されないが、野生型ClyA(ClyA-WT)およびClyA-ASのアミノ酸配列ならびにそれをコードするヌクレオチド配列は、当技術分野で公知である。したがって、一部の実施形態では、修飾ClyAナノポアは、本明細書に記載される参照ClyAアミノ酸配列と、少なくとも約80%(例えば、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%またはそれ以上など)同一であるアミノ酸配列を有するサブユニットポリペプチドを含みうる。一部の実施形態では、修飾ClyAナノポアは、野生型ClyAに対応する配列番号1に示すアミノ酸配列と、少なくとも約80%(例えば、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%またはそれ以上など)同一であるアミノ酸配列を有するサブユニットポリペプチドを含みうる。代替的に、修飾ClyAナノポアは、ClyA-ASのアミノ酸配列に対応する配列番号2に示すアミノ酸配列と、少なくとも約80%(例えば、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%またはそれ以上など)同一であるアミノ酸配列を有するサブユニットポリペプチドを含みうる。一部の実施形態では、修飾ClyAナノポアは、配列番号1または配列番号2に示すアミノ酸配列と比較して、第1および第2の正電荷修飾(例えば、第1および第2の正に荷電したアミノ酸の置換)を含む、最大15個の置換(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15個の置換)を含みうる。
【0071】
本明細書に記載のいずれかの修飾ClyAナノポアでは、第1の正電荷修飾(例えば、第1の正に荷電したアミノ酸の置換)は、第1の開口部に曝露された溶液内の負に荷電したポリマー(例えば、限定されないが、二本鎖DNAまたは一本鎖DNAなどのデオキシリボ核酸(DNA))の捕捉を可能にするように、第1の開口部に配置されてもよい。例えば、第1の正電荷修飾(例えば、第1の正に荷電したアミノ酸の置換)は、配列番号1または配列番号2に示すアミノ酸配列のE106、S110、D114、D121、D122、E129、E85、E78、D268、D267、D265、E258位またはその組合せに配置されてもよい。
【0072】
本明細書に記載のいずれかの修飾ClyAナノポアでは、第2の正電荷修飾(例えば、第2の正に荷電したアミノ酸の置換)は、負に荷電したポリマー(例えば、限定されないが、二本鎖DNAまたは一本鎖DNAなどのデオキシリボ核酸(DNA)の、ポアの内腔を通じた移行を可能にするように、中間部に配置されてもよい。例えば、第2の正電荷修飾(例えば、第2の正に荷電したアミノ酸の置換)は、配列番号1または配列番号2に示すアミノ酸配列のD74、D71、D64、E53、E161、D158、E46、E42、D41位またはその組合せに配置されてもよい。
【0073】
修飾ClyAナノポアは、ホモ多量体(例えば、ナノポア内の全てのサブユニットが同じである)またはヘテロ多量体(例えば、少なくとも1つのサブユニットがナノポア内の他のサブユニットと異なる)でありうる。修飾ClyAナノポアは、標的ポリマー(例えば、ポリヌクレオチド)が通り抜けるのを可能にするために十分な内腔の大きさの形成を充足する任意の数のサブユニットポリペプチドを含みうる。一部の実施形態では、修飾ClyAナノポアは、12個以上のサブユニットポリペプチド、例えば、13個のサブユニットポリペプチドおよび14個のサブユニットポリペプチドを含む可能性があり、ここでサブユニットポリペプチドの少なくとも1つまたは複数は、本明細書に記載される第1および第2の正に荷電したアミノ酸の置換を含む。
【0074】
修飾ClyAナノポアは、例えば、ナノポアにおける滞留時間およびポアを流れる電流に基づいて、一本鎖ポリヌクレオチドから二本鎖ポリヌクレオチドを区別するために使用することができる。さらに、修飾ClyAナノポアは、ポリヌクレオチド配列を特徴付けるために、例えばシーケンシングのために、使用することができる。修飾ClyAナノポアは、修飾塩基を区別するために、例えば、メチル化ヌクレオチドと非メチル化ヌクレオチドとを区別するために使用することもできる。
【0075】
本明細書に記載の修飾ClyAナノポアは、本明細書に記載の第1および第2の正に荷電した置換なしのClyAナノポアと比較して、低イオン強度溶液でのナノポアを通じたポリヌクレオチドの捕捉および/または移行の頻度がより高い。
【0076】
本明細書で使用されるとき、用語「低イオン強度溶液」は、2M未満、例えば1M未満、900mM未満、800mM未満、700mM未満、600mM未満、500mM未満、400mM未満、300mM未満、200mM未満、150mM未満、またはより低いイオン強度を有する溶液を指す。一部の実施形態では、より低いイオン強度溶液は、少なくとも約50mM、少なくとも約100mM、少なくとも約150mM、少なくとも約200mM、少なくとも約300mM、少なくとも約400mM、少なくとも約500mM、少なくとも約600mM、少なくとも約700mM、少なくとも約800mM、少なくとも約900mM、少なくとも約1Mまたはより高いイオン強度を有する。上記の参照範囲の組合せも包含される。例えば、低イオン強度溶液は、約100mMから約600mM、または約150mMから約300mMのイオン強度を有しうる。任意の塩を使用して、適切なイオン強度を有する溶液を得ることができる。一部の実施形態では、アルカリ塩(例えば、限定されないが、塩化カリウムまたは塩化ナトリウム)を低イオン強度溶液で使用することができる。
【0077】
修飾ClyAナノポアは、一定の範囲の条件下で異なるヌクレオチドを識別することができる。特に、ポアは、シーケンシングなどの核酸の特徴付けに有利な条件下で、ヌクレオチド同士を識別することができる。修飾ClyAナノポアが異なるヌクレオチドを識別することができる程度は、印加電位、塩濃度、緩衝液、温度、ならびに尿素、ベタイン、およびDTTなどの添加剤の存在を変えることによって制御できる。これにより、特にシーケンシングのときのポアの機能の微調整が可能になる。これについては以下により詳細に説明する。また修飾ClyAナノポアは、ヌクレオチドごとではなく1つまたは複数のモノマーとの相互作用からポリヌクレオチドポリマーを同定するために使用することもできる。
【0078】
一部の実施形態では、本明細書で提供される修飾ClyAナノポアは、核酸-タンパク質相互作用を特徴付けるために使用することができる。一部の実施形態では、ナノポアは、異なるセンシングモードを使用して、例えば、核酸に従って結合部位の位置をスキャンおよびマッピングすることによって、ならびに/またはタンパク質と核酸との間の相互作用の強度を探査することによって、タンパク質-核酸を調べることができる。一部の実施形態では、核酸の天然電荷が、核酸-タンパク質複合体に電気泳動力を印加するために利用されてもよい。例えば、一部の実施形態では、DNA-タンパク質相互作用が、タンパク質ナノポアを通じた単一DNA分子の電圧駆動通過を使用して評価されうる。このような実施形態では、個々のDNAタンパク質複合体(例えば、DNA-エキソヌクレアーゼI複合体、DNA-ヘリカーゼ複合体、DNA-クランプ複合体)に印加された電気的な力は、2つの分子を引き離すことができ、一方で同時に、イオン電流変化を使用して、複合体の解離速度を評価することができる。一部の実施形態では、本明細書で提供される修飾ClyAナノポアは、核酸および他の核酸結合タンパク質、例えば、転写因子、酵素、DNAパッケージングタンパク質などが関与する核酸-タンパク質相互作用の検出および特徴付けのために使用することができる。
【0079】
修飾ClyAナノポアは、単離されてもよく、実質的に単離されてもよく、精製されてもよく、または実質的に精製されてもよい。修飾ClyAナノポアは、任意の他の成分、例えば、脂質または他のポアから完全に遊離されていれば、単離または精製されうる。ポアは、その使用目的を妨げないキャリアまたは希釈剤と混合される場合、実質的に単離される。例えば、ポアは、他の成分、例えば、トリブロックコポリマー、脂質または他のポアを10%未満、5%未満、2%未満または1%未満しか含まない形態で存在する場合、実質的に単離または実質的に精製されている。代替的に、修飾ClyAナノポアの1つまたは複数は膜に存在しうる。適切な膜は、以下に説明される。
【0080】
修飾ClyAナノポアは、個々のまたは単一のポアとして存在しうる。代替的に、修飾ClyAナノポアは、2つ以上のポアの同種または異種集団で存在しうる。一部の実施形態では、修飾ClyAナノポアは、マイクロウェルのアレイに配置されてもよく、ここで各マイクロウェルは、膜にある少なくとも1つのナノポアを含有している。
【0081】
ホモ多量体ClyAナノポア
同一の修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドを含むホモ多量体ナノポアも本明細書で提供される。ホモ多量体ナノポアは、本明細書に記載の修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドのいずれかの実施形態を含みうる。ホモ多量体ナノポアは、ポリヌクレオチドを特徴付けるために、例えばシーケンシングのために、および/または一本鎖ポリヌクレオチド対二本鎖ポリヌクレオチドの存在もしくは非存在を検出するために使用することができる。本明細書に記載のホモ多量体ナノポアは、上記に説明した利点のいずれかを有しうる。
【0082】
ホモ多量体ポアは、任意の数の修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドを含有しうる。ポアは、通常、少なくとも10個、少なくとも11個、少なくとも12個、少なくとも13個、または少なくとも14個の同一の修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチド、例えば、12、13または14個の同一の修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドを含む。
【0083】
ポアを作製するための方法は、以下により詳細に説明される。
【0084】
ヘテロ多量体ClyAナノポア
少なくとも1つの修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドを含むヘテロ多量体ナノポアも本明細書で提供される。ヘテロ多量体ナノポアは、ポリヌクレオチドを特徴付けるために、例えばシーケンシングのために、および/または一本鎖ポリヌクレオチド対二本鎖ポリヌクレオチドの存在もしくは非存在を検出するために、使用することができる。ヘテロ多量体ナノポアは、当技術分野で公知の方法(例えば、Protein Sci. 2002 Jul; 11(7):1813-24)を使用して作製することができる。
【0085】
ヘテロ多量体ポアは、ポアを形成するために十分なサブユニットポリペプチドを含有する。サブユニットポリペプチドは、任意の種類でありうる。ポアは、通常、少なくとも10個、少なくとも11個、少なくとも12個、少なくとも13個、または少なくとも14個のサブユニットポリペプチド、例えば、12、13または14個のサブユニットポリペプチドを含む。
【0086】
一部の実施形態では、サブユニットポリペプチドの全て(例えば、12、13、または14個のサブユニットポリペプチド)が、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドであり、それらの少なくとも1つが他と異なっている。一部の実施形態では、ポアは、12または13個の修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドを含み、それらの少なくとも1つが他と異なっている。それらは全てが互いに異なっていてもよい。
【0087】
一部の実施形態では、サブユニットポリペプチドの少なくとも1つが、本明細書に記載される修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドではない。この実施形態では、残りのモノマーは、本明細書に記載の修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドのいずれか1つでありうる。したがって、ポアは、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1個の修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドを含みうる。ナノポアを形成する修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドは同じでも異なってもよい。
【0088】
ポアを作製するための方法は、以下により詳細に説明される。
【0089】
ポリヌクレオチドの特徴付け
本開示の別の態様は、標的ポリヌクレオチドを特徴付ける方法を提供する。方法は、(a)約50mMから約1Mの低イオン強度溶液に、本明細書に記載のいずれかの実施形態による修飾ClyAナノポアと、膜とを供給するステップであり、ここで修飾ClyAナノポアは膜に存在する、ステップと、(b)ステップ(a)の低イオン強度溶液に標的ポリヌクレオチドを添加するステップと、(c)ナノポアにわたり電位を印加する間に、修飾ClyAナノポアを流れるイオン流を測定するステップであり、ここでイオン流の測定は、標的ポリヌクレオチドの1つまたは複数の特徴の指標となる、ステップとを含む。一部の実施形態では、標的ポリヌクレオチドは、低イオン強度溶液のcis側に添加される。
【0090】
一部の実施形態では、低イオン強度溶液は、約50mMから約300mM、または約150mMから約300mMのイオン強度を有しうる。
【0091】
標的ポリヌクレオチドは、鋳型ポリヌクレオチドまたは目的のポリヌクレオチドと称される場合もある。
【0092】
ポリヌクレオチド
ポリヌクレオチド、例えば核酸は、2つ以上のヌクレオチドを含む巨大分子である。ポリヌクレオチドまたは核酸は、任意のヌクレオチドの任意の組合せを含みうる。ヌクレオチドは、天然のものであっても人工的なものであってもよい。ポリヌクレオチドにおける1つまたは複数のヌクレオチドは、酸化またはメチル化されてもよい。ポリヌクレオチドにおける1つまたは複数のヌクレオチドは、損傷していてもよい。例えば、ポリヌクレオチドは、ピリミジン二量体を含みうる。そのような二量体は、通常、紫外線による損傷と関連しており、皮膚の黒色腫の主因である。ポリヌクレオチドにおける1つまたは複数のヌクレオチドは、例えば、標識またはタグで修飾されていてもよい。適切な標識は、以下に記載されている。ポリヌクレオチドは、1つまたは複数のスペーサーを含んでもよい。
【0093】
ヌクレオチドは、通常、核酸塩基、糖、および少なくとも1つのリン酸基を含有している。核酸塩基と糖とでヌクレオシドが形成される。
【0094】
核酸塩基は、通常、複素環である。核酸塩基には、限定されないが、プリンとピリミジンとが含まれ、より詳細には、アデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、ウラシル(U)およびシトシン(C)が含まれる。
【0095】
糖は、通常、五炭糖である。ヌクレオチド糖には、限定されないが、リボースおよびデオキシリボースが含まれる。糖は、好ましくは、デオキシリボースである。
【0096】
ポリヌクレオチドには、好ましくは、以下のヌクレオシド:デオキシアデノシン(dA)、デオキシウリジン(dU)および/またはチミジン(dT)、デオキシグアノシン(dG)およびデオキシシチジン(dC)が含まれる。
【0097】
ヌクレオチドは、通常、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドである。ヌクレオチドは、通常、一リン酸、二リン酸または三リン酸を含有する。ヌクレオチドが、3つを超えるリン酸、例えば、4または5つのリン酸を含む場合がある。リン酸は、ヌクレオチドの5’側または3’側に結合しうる。ヌクレオチドとしては、限定されないが、アデノシン一リン酸(AMP)、グアノシン一リン酸(GMP)、チミジン一リン酸(TMP)、ウリジン一リン酸(UMP)、5-メチルシチジン一リン酸、5-ヒドロキシメチルシチジン一リン酸、シチジン一リン酸(CMP)、環状アデノシン一リン酸(cAMP)、環状グアノシン一リン酸(cGMP)、デオキシアデノシン一リン酸(dAMP)、デオキシグアノシン一リン酸(dGMP)、デオキシチミジン一リン酸(dTMP)、デオキシウリジン一リン酸(dUMP)、デオキシシチジン一リン酸(dCMP)およびデオキシメチルシチジン一リン酸が挙げられる。ヌクレオチドは、好ましくは、AMP、TMP、GMP、CMP、UMP、dAMP、dTMP、dGMP、dCMPおよびdUMPから選択される。
【0098】
ヌクレオチドは、脱塩基性(つまり、核酸塩基を欠く)であってもよい。ヌクレオチドは、また、核酸塩基および糖を欠いてもよい。
【0099】
ポリヌクレオチドにおけるヌクレオチドは任意の様式で互いに結合していてもよい。ヌクレオチドは、通常、核酸と同様に糖およびリン酸基によって結合している。ヌクレオチドは、ピリミジン二量体と同様に、核酸塩基を介して接続されてもよい。
【0100】
ポリヌクレオチドは、一本鎖または二本鎖でありうる。ポリヌクレオチドの少なくとも一部は好ましくは二本鎖である。
【0101】
ポリヌクレオチドは、核酸、例えばデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)でありうる。ポリヌクレオチドは、DNAの一本鎖とハイブリダイズされたRNAの一本鎖を含んでもよい。ポリヌクレオチドは、当技術分野で公知の任意の合成核酸、例えば、ペプチド核酸(PNA)、グリセロール核酸(GNA)、トレオース核酸(TNA)、ロックド核酸(LNA)、またはヌクレオチド側鎖を有する他の合成ポリマーであってもよい。PNA骨格は、ペプチド結合によって連結されたN-(2-アミノエチル)-グリシン繰り返し単位で構成されている。GNA骨格は、ホスホジエステル結合によって連結されたグリコール繰り返し単位で構成されている。TNA骨格は、ホスホジエステル結合によって一緒に連結された繰り返しのトレオース糖で構成されている。LNAは、リボース部分の2’酸素と4’炭素を接続する追加のブリッジを有する、上記に説明したリボヌクレオチドから形成される。
【0102】
ポリヌクレオチドは、最も好ましくは、リボ核酸(RNA)またはデオキシリボ核酸(DNA)である。
【0103】
ポリヌクレオチドは任意の長さであってよい。例えば、ポリヌクレオチドは、少なくとも10、少なくとも50、少なくとも100、少なくとも150、少なくとも200、少なくとも250、少なくとも300、少なくとも400または少なくとも500のヌクレオチドまたはヌクレオチド対の長さでありうる。ポリヌクレオチドは、1000以上のヌクレオチドもしくはヌクレオチド対、5000以上のヌクレオチドもしくはヌクレオチド対の長さ、または100000以上のヌクレオチドもしくはヌクレオチド対の長さでありうる。
【0104】
任意の数のポリヌクレオチドを調べることができる。例えば、本明細書に記載の方法は、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、50、100個またはより多くのポリヌクレオチドの特徴付けに関しうる。2個以上のポリヌクレオチドが特徴付けられる場合、それらは異なるポリヌクレオチドであってもよく、または同じポリヌクレオチドの2つの特徴付けであってもよい。
【0105】
ポリヌクレオチドは、天然のものであっても人工的なものであってもよい。例えば、方法は、製造されたオリゴヌクレオチドの配列を確認するために使用されてもよい。方法は、通常、in vitroで実施される。
【0106】
ポリヌクレオチドは、タンパク質または分析物などの結合された種を含んでもよい。ポリヌクレオチドは、ハイブリダイズされたプローブを含んでもよい。
【0107】
試料
各分析物は、通常、任意の適切な試料中に存在する。方法は、分析物を含有することが既知のまたは分析物を含有する疑いのある2つ以上の試料に対して実施してもよい。代替的に、方法は、試料中の存在が既知のまたは予測される2つ以上の分析物の同一性を確認するために、2つ以上の試料に対して実施されてもよい。一部の実施形態では、方法は、一本鎖ポリヌクレオチドから二本鎖ポリヌクレオチドを区別するために、試料に対して実施してもよい。
【0108】
第1の試料および/または第2の試料は、生物学的試料であってもよい。本明細書に記載の方法は、任意の生物または微生物から取得されたまたは抽出された少なくとも1つの試料を使用してin vitroで実施してもよい。第1の試料および/または第2の試料は、非生物学的試料であってもよい。非生物学的試料は、流体試料であってもよい。非生物学的試料の例としては、外科的流体、飲料水、海水または河川水などの水、および臨床検査のための試薬が挙げられる。
【0109】
第1の試料および/または第2の試料は、通常、本明細書に記載の方法で使用される前に、例えば遠心分離によって、または不要な分子もしくは赤血球などの細胞を取り除く濾過膜に通して処理される。第1の試料および/または第2の試料は、取得してすぐに測定されてもよい。第1の試料および/または第2の試料は、また、通常、アッセイ前に保存、好ましくは-70℃未満で保存されてもよい。
【0110】
特徴付け
方法は、ポリヌクレオチドの2つ、3つ、4つ、または5つ以上の特徴を測定することを含んでもよい。1つまたは複数の特徴は、好ましくは(i)ポリヌクレオチドの長さ、(ii)ポリヌクレオチドの同一性、(iii)ポリヌクレオチドの配列、(iv)ポリヌクレオチドの二次構造、および(v)ポリヌクレオチドが修飾されているか否かから選択される。(i)から(v)の任意の組合せ、例えば、{i}、{ii}、{iii}、{iv}、{v}、{i,ii}、{i,iii}、{i,iv}、{i,v}、{ii,iii}、{ii,iv}、{ii,v}、{iii,iv}、{iii,v}、{iv,v}、{i,ii,iii}、{i,ii,iv}、{i,ii,v}、{i,iii,iv}、{i,iii,v}、{i,iv,v}、{ii,iii,iv}、{ii,iii,v}、{ii,iv,v}、{iii,iv,v}、{i,ii,iii,iv}、{i,ii,iii,v}、{i,ii,iv,v}、{i,iii,iv,v}、{ii,iii,iv,v}または{i,ii,iii,iv,v}が、本明細書に記載の方法に従って測定されうる。上記の組合せのいずれかを含め、(i)から(v)の様々な組合せが、第1のポリヌクレオチドに対して、第2のポリヌクレオチドと比較して測定されてもよい。
【0111】
(i)について、ポリヌクレオチドの長さは、例えば、ポリヌクレオチドとポアとの間の相互作用の数またはポリヌクレオチドとポアとの間の相互作用の持続時間を決定することによって測定されうる。
【0112】
(ii)について、ポリヌクレオチドの同一性は、いくつかの方法で測定されうる。ポリヌクレオチドの同一性は、ポリヌクレオチドの配列測定と組み合わせて、またはポリヌクレオチドの配列測定なしに、測定されうる。前者は直接的であり、ポリヌクレオチドを配列決定し、それにより同定する。後者は、いくつかの方法で行われうる。例えば、ポリヌクレオチドの特定のモチーフの存在を(ポリヌクレオチドの残りの配列の測定なしに)測定しうる。代替的に、方法における特定の電気的および/または光学的信号の測定は、特定の出所に由来するものとしてポリヌクレオチドを同定しうる。
【0113】
(iii)について、ポリヌクレオチドの配列は前記のように決定することができる。適切なシーケンシング方法、特に電気的測定を使用する方法は、Stoddart D et al., Proc Natl Acad Sci, 12;106(19):7702-7、Lieberman KR et al, J Am Chem Soc. 2010;132(50):17961-72および国際公開第2000/28312号パンフレットに記載されている。
【0114】
(iv)について、二次構造は、種々の方法で測定されうる。例えば、方法が電気的測定を含む場合、二次構造は、滞留時間の変化またはポアを流れる電流の変化を使用して測定しうる。これにより、一本鎖および二本鎖ポリヌクレオチドの領域を区別することができる。
【0115】
(v)について、任意の修飾の存在または非存在を測定してもよい。方法は、好ましくは、ポリヌクレオチドが、メチル化によって、酸化によって、損傷によって、1つもしくは複数のタンパク質を用いて、または1つもしくは複数の標識、タグもしくはスペーサーを用いて修飾されているか否かを決定するステップを含む。特定の修飾は、以下に記載の方法を使用して測定されうる、ポアとの特定の相互作用をもたらす。例えば、メチルシトシンは、各ヌクレオチドとの相互作用の間にポアを通じて流れる電流に基づいてシトシンから区別することができる。
【0116】
標的ポリヌクレオチドは、本明細書に記載の修飾ClyAナノポアのいずれか1つと接触される。ポアは、通常、膜に存在する。適切な膜は以下に説明される。方法は、ポアが膜に存在する膜/ポア系を調べるために適切な任意の装置を使用して実施することができる。方法は、膜貫通ポアの検知に適切な任意の装置を使用して実施されうる。例えば、装置は、水溶液を含むチャンバーと、チャンバーを2つの部分に分ける障壁とを含む。障壁は、通常、ポアを含有する膜が形成されるアパーチャを有する。代替的に、障壁は、ポアが存在する膜を形成する。
【0117】
方法は、国際出願番号PCT/GB08/000562(国際公開第2008/102120号パンフレット)に記載の装置を使用して実施してもよい。
【0118】
様々な異なる種類の測定を行うことができる。これには、限定されないが、電気的測定および光学的測定が含まれる。可能な電気的測定としては、電流測定、インピーダンス測定、トンネル測定(Ivanov AP et al., Nano Lett. 2011 Jan 12;11(1):279-85)およびFET測定(国際公開第2005/124888号パンフレット)が挙げられる。光学的測定を電気的測定と組み合わせてもよい(Soni GV et al., Rev Sci Instrum. 2010 Jan;81(1):014301)。測定は、膜貫通電流測定、例えばポアを流れるイオン電流の測定でありうる。代替的に、測定は、チャネルを流れるイオン流を示す蛍光測定、例えば、Heron et al, J. Am. Chem. Soc., 2009, 131 (5), 1652-1653によって開示される測定またはFETを使用する膜間電圧の測定でありうる。
【0119】
電気的測定は、Stoddart D et al., Proc Natl Acad Sci, 12;106(19):7702-7、Lieberman KR et al, J Am Chem Soc. 2010;132(50):17961-72および国際公開第2000/28312号パンフレットに記載される標準的な単一チャネル記録装置を使用して行ってもよい。代替的に、電気的測定は、例えば国際公開第2009/077734号パンフレットおよび国際公開第2011/067559号パンフレットに記載されるマルチチャネルシステムを使用して行ってもよい。
【0120】
方法は、膜にわたり印加された電位を用いて実施することができる。印加電位は、電圧電位でありうる。代替的に、印加電位は、化学電位でありうる。この例は、両親媒性層などの膜を横切る塩勾配を使用している。塩勾配は、Holden et al., J Am Chem Soc. 2007 Jul 11; 129(27):8650-5に開示されている。一部の例では、ポリヌクレオチドがポアに対して移動するときのポアを通過する電流を使用して、ポリヌクレオチドの配列を評価または決定する。これは、ストランドシーケンシングとして記載される場合がある。
【0121】
方法は、ポリヌクレオチドがポアに対して移動するときの、ポアを通過する電流を測定することを含みうる。したがって方法で使用される装置は、電位を印加することができ、膜およびポアを横切る電気信号を測定することができる電流回路も含んでもよい。方法は、パッチクランプまたは電圧クランプを使用して実施しうる。方法は、好ましくは、電圧クランプの使用を含む。
【0122】
方法は、ポリヌクレオチドがポアに対して移動するときの、ポアを通過する電流を測定することを含んでもよい。膜貫通タンパク質ポアを通ってイオン電流を測定するための適切な条件は、当技術分野で公知であり、実施例に開示されている。方法は、通常、膜およびポアにわたり印加された電圧を用いて実施される。使用電圧は、通常、+5Vから-5V、例えば、+4Vから-4V、+3Vから-3Vまたは+2Vから-2Vである。使用電圧は、通常、-600mVから+600mVまたは-400mVから+400mVである。使用電圧は、好ましくは、-400mV、-300mV、-200mV、-150mV、-100mV、-50mV、-20mVおよび0mVから選択される下限と、+10mV、+20mV、+50mV、+100mV、+150mV、+200mV、+300mVおよび+400mVから独立して選択される上限とを有する範囲にある。使用電圧は、より好ましくは100mVから240mVの範囲であり、最も好ましくは120mVから220mVの範囲である。印加電位の増加によって、ポアによる異なるヌクレオチドの識別を向上させることができる。
【0123】
方法は、通常、任意の電荷キャリア、例えばアルカリ金属塩などの金属塩、ハロゲン化物塩、例えばアルカリ金属塩化物塩などの塩化物塩の存在下で実施される。電荷キャリアは、イオン液体または有機塩、例えば、テトラメチルアンモニウムクロリド、トリメチルフェニルアンモニウムクロリド、フェニルトリメチルアンモニウムクロリド、または1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリドを含んでもよい。上記に説明した例示的な装置では、塩はチャンバー内の水溶液中に存在する。塩化カリウム(KCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化セシウム(CsCl)またはフェロシアン化カリウムとフェリシアン化カリウムとの混合物が通常、使用される。KCl、NaClおよびフェロシアン化カリウムとフェリシアン化カリウムとの混合物が好ましい。電荷キャリアは、膜を横切って非対称であってもよい。例えば、電荷キャリアの種類および/または濃度は、膜の各側で異なってもよい。
【0124】
塩濃度は、飽和状態であってもよい。塩濃度は、3M以下であってもよく、通常0.1から2.5M、0.3から1.9M、0.5から1.8M、0.7から1.7M、0.9から1.6Mまたは1Mから1.4Mである。塩濃度は、好ましくは、150mMから1Mである。方法は、好ましくは、少なくとも0.3M、例えば、少なくとも0.4M、少なくとも0.5M、少なくとも0.6M、少なくとも0.8M、少なくとも1.0M、少なくとも1.5M、少なくとも2.0M、少なくとも2.5Mまたは少なくとも3.0Mの塩濃度を使用して実施される。高塩濃度は高いシグナルノイズ比をもたらし、通常電流変動のバックグラウンドに対して同定されるヌクレオチドの存在を電流が示すことを可能にする。本明細書に記載の修飾ClyAナノポアはポリヌクレオチドを高塩溶液で特徴付けるために使用することができる一方、修飾ClyAナノポアは、上記のように、低イオン強度溶液においてでさえ、ナノポアを通じたポリヌクレオチド(例えば、二本鎖DNAまたは一本鎖DNA)の効率的な捕捉および/または移行を可能にすることができる。
【0125】
方法は、通常、緩衝液の存在下で実施される。上記に説明した例示的な装置では、緩衝液はチャンバー内の水溶液中に存在する。任意の緩衝液が、本明細書に記載の方法で使用されうる。通常、緩衝液は、リン酸緩衝液である。他の適切な緩衝液は、HEPESおよびTris-HCl緩衝液である。方法は、通常、4.0から12.0、4.5から10.0、5.0から9.0、5.5から8.8、6.0から8.7、7.0から8.8または7.5から8.5のpHで実施される。使用pHは、好ましくは、約7.5または8.0である。
【0126】
方法は、0℃から100℃、15℃から95℃、16℃から90℃、17℃から85℃、18℃から80℃、19℃から70℃、または20℃から60℃で実施されうる。方法は、通常、室温で実施される。方法は、任意選択的に、酵素機能を支える温度、例えば約37℃で実施される。
【0127】
ポリヌクレオチド結合タンパク質
一部の実施形態では、標的ポリヌクレオチドを特徴付けるための方法は、ポリヌクレオチド結合タンパク質が標的ポリヌクレオチドに結合し、修飾ClyAナノポアを通じた標的ポリヌクレオチドの移動を制御するように、ポリヌクレオチド結合タンパク質を低イオン強度溶液に添加するステップを含むことができる。
【0128】
ポリヌクレオチド結合タンパク質は、ポリヌクレオチドに結合することができ、ポアを通じたその移動を制御することができる任意のタンパク質でありうる。ポリヌクレオチド結合タンパク質の例としては、限定されないが、ヘリカーゼ、ポリメラーゼ、エキソヌクレオーゼ、DNAクランプなどが挙げられる。ポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチド結合タンパク質およびポアと任意の順序で接触させることができる。ポリヌクレオチドが、ポリヌクレオチド結合タンパク質、例えばヘリカーゼ、およびポアと接触するとき、ポリヌクレオチドは最初にタンパク質と複合体を形成することが好ましい。ポアにわたり電圧が印加されるとき、ポリヌクレオチド/タンパク質複合体は、次いでポアと複合体を形成し、ポアを通じたポリヌクレオチドの移動を制御する。
【0129】
ポリヌクレオチド結合タンパク質を使用する方法の任意のステップが、通常、遊離ヌクレオチドまたは遊離ヌクレオチドアナログおよびポリヌクレオチド結合タンパク質の作用を容易にする酵素補因子の存在下で実施される。
【0130】
ヘリカーゼおよび分子ブレーキ
一実施形態では、方法は、
(a)ポリヌクレオチドに、ポリヌクレオチドに結合する1つまたは複数のヘリカーゼと1つまたは複数の分子ブレーキとを供給するステップと、
(b)1つまたは複数のヘリカーゼと1つまたは複数の分子ブレーキとが一緒になり、両方ともポリヌクレオチドのポアを通じた移動を制御するように、膜に存在する修飾ClyAナノポアを含む低イオン強度溶液に、ポリヌクレオチドを添加し、ポアにわたり電位を印加するステップと、
(c)ナノポアにわたり電位を印加する間、ポリヌクレオチドがポアに対して移動するときの修飾ClyAナノポアを流れるイオン流を測定するステップであり、ここでイオン流の測定は、ポリヌクレオチドの1つまたは複数の特徴の指標であり、それによってポリヌクレオチドが特徴付けられる、ステップとを含む。この種の方法は、国際出願番号PCT/GB2014/052737に詳細に説明されている。
【0131】
膜
本明細書に記載の修飾ClyAナノポアは、膜に存在しうる。ポリヌクレオチドを特徴付ける方法では、ポリヌクレオチドは、通常、膜にある修飾ClyAナノポアと接触する。任意の膜が使用されうる。適切な膜は、当技術分野で周知である。膜は、好ましくは、両親媒性層である。両親媒性層は、親水性および親油性特性の両方を有する、リン脂質などの両親媒性分子から形成される層である。両親媒性分子は、合成されたものでも天然に存在するものであってもよい。単層を形成する非天然両親媒性物質および両親媒性物質は、当技術分野において公知であり、例えば、ブロックコポリマー(Gonzalez-Perez et al., Langmuir, 2009, 25, 10447-10450)が挙げられる。ブロックコポリマーは、一緒に重合化される2つ以上のモノマーサブユニットが単一のポリマー鎖を生成するポリマー材料である。ブロックコポリマーは、通常、各モノマーサブユニットが寄与する特性を有する。しかしながら、ブロックコポリマーは、個々のサブユニットから形成されるポリマーが有しない固有の特性を有しうる。ブロックコポリマーは、モノマーサブユニットの1つが疎水性または親油性である一方、他のサブユニットが水溶性媒体にいるとき親水性であるように、改変されていてもよい。この場合に、ブロックコポリマーは、両親媒性特性を有することができ、生体膜を模倣する構造を形成しうる。ブロックコポリマーは、ジブロック(2つのモノマーサブユニットからなる)でありうるが、また、両親媒性物質(amphipiles)のように挙動する、より複雑な構成を形成するために、2つを超えるモノマーサブユニットから構築されてもよい。コポリマーは、トリブロック、テトラブロックまたはペンタブロックコポリマーでありうる。膜は、好ましくは、トリブロックコポリマー膜である。
【0132】
古細菌二極性テトラエーテル脂質は、脂質が単層膜を形成するように構築されている天然脂質である。これらの脂質は、一般的に、過酷な生物学的環境で生き残る好極限性細菌、好熱菌、好塩菌、および好酸菌で見出される。それらの安定性は最終的二重層の融合性質から誘導されると考えられる。直接的には、親水性-疎水性-親水性の一般的なモチーフを有するトリブロックポリマーを作製することによって、これらの生物学的実体を模倣するブロックコポリマー材料を構築する。この材料は、脂質二重層と同様に挙動し、小胞から積層膜に至る一定範囲の相挙動を包含する単量体膜を形成しうる。これらのトリブロックコポリマーから形成された膜は、生体脂質膜を上回るいくつかの利点を有する。トリブロックコポリマーは合成されるため、的確な構築を慎重に制御して、膜を形成し、ポアおよび他のタンパク質を相互作用するための正確な鎖長および特性をもたらすことができる。
【0133】
またブロックコポリマーは、脂質副材料として分類されないサブユニットから構築されてもよく、例えば疎水性ポリマーは、シロキサンまたは他の非炭化水素系モノマーから作製されてもよい。またブロックコポリマーの親水性サブセクションは、低タンパク質結合特性を有することができ、これにより、未処理の生物学的試料に曝露されたとき、非常に耐性がある膜を作製することが可能である。また、この頭部基ユニットは、非古典的脂質頭部基から誘導されてもよい。
【0134】
またトリブロックコポリマー膜は、生物学的な脂質膜と比較して機械的および環境的安定性が向上しており、例えば操作温度またはpH範囲が非常に高い。ブロックコポリマーの合成的性質は、広範囲の用途のためのポリマーベース膜をカスタマイズするためのプラットフォームを提供する。
【0135】
膜は、最も好ましくは、国際出願番号PCT/GB2013/052766またはPCT/GB2013/052767に開示されている膜の1つである。
【0136】
両親媒性分子は、ポリヌクレオチドの結合を促進するために化学的に修飾または官能化されていてもよい。
【0137】
両親媒性層は、単層または二重層でありうる。両親媒性層は、通常、平面状である。両親媒性層は、湾曲していてもよい。両親媒性層は、支持されていてもよい。
【0138】
両親媒性膜は、通常、本来的に移動性であり、脂質拡散率が約10-8cm s-1の二次元流体として本質的に作用する。これは、ポアおよび結合ポリヌクレオチドが、通常、両親媒性膜内を移動することができることを意味する。
【0139】
膜は、脂質二重層でありうる。脂質二重層は、細胞膜のモデルであり、一定範囲の実験的研究のための優れたプラットフォームとして役立つ。例えば、脂質二重層は、単一チャネル記録による膜タンパク質のin vitro研究のために使用することができる。代替的に、脂質二重層は、一定範囲の物質の存在を検出するためのバイオセンサーとして使用されうる。脂質二重層は、任意の脂質二重層でありうる。適切な脂質二重層としては、限定されないが、平面脂質二重層、支持二重層、またはリポソームが挙げられる。脂質二重層は、好ましくは、平面脂質二重層である。適切な脂質二重層は、国際出願番号PCT/GB08/000563(国際公開第2008/102121号パンフレットとして公開)、国際出願番号PCT/GB08/004127(国際公開第2009/077734号パンフレットとして公開)および国際出願番号PCT/GB2006/001057(国際公開第2006/100484号パンフレットとして公開)に開示されている。
【0140】
一部の実施形態では、ポリヌクレオチドは、本明細書に記載の修飾ClyAナノポアのいずれか一つを含む膜に結合することができる。方法は、ポリヌクレオチドを、本明細書に記載の修飾ClyAナノポアのいずれか一つを含む膜に結合させるステップを含んでもよい。ポリヌクレオチドは、好ましくは、1つまたは複数のアンカーを使用して膜に結合されている。ポリヌクレオチドは、任意の公知の方法を使用して膜に結合されてもよい。
【0141】
二本鎖ポリヌクレオチドシーケンシング
一部の実施形態では、ポリヌクレオチドは、二本鎖でありうる。ポリヌクレオチドが二本鎖である場合、方法は、接触ステップの前に、ポリヌクレオチドの一端にヘアピンアダプターを連結するステップをさらに含んでもよい。次いでポリヌクレオチドの二本鎖は、ポリヌクレオチドが本明細書に記載される修飾ClyAナノポアと接触するまたは相互作用するときまたはその前に分離されてもよい。二本鎖は、ポアを通じたポリヌクレオチドの移動が、ポリヌクレオチド結合タンパク質、例えばヘリカーゼまたは分子ブレーキによって制御されるときに分離されてもよい。このことは、国際出願番号PCT/GB2012/051786(国際公開第2013/014451号パンフレットとして公開)に記載されている。このように二本鎖構築物の両方の鎖を結びつけ、調べることは、特徴付けの効率および精度を向上させる。
【0142】
ラウンドザコーナーシーケンシング(Round the corner sequencing)
好ましい実施形態では、標的二本鎖ポリヌクレオチドは一端にヘアピンループアダプターを有し、方法は、ポリヌクレオチドの両方の鎖がポアを通じて移動するように、ポリヌクレオチドと本明細書に記載のいずれか1つの修飾ClyAナノポアとを接触させるステップと、ポリヌクレオチドの両方の鎖がポアに対して移動するとき1つまたは複数の測定を行うステップであり、ここで測定は、ポリヌクレオチドの鎖の1つまたは複数の特徴の指標であり、それによって標的二本鎖ポリヌクレオチドを特徴付ける、ステップとを含む。上記に説明した実施形態のいずれかは、同様に、本実施形態に適用される。
【0143】
リーダー配列
接触ステップの前に、好ましくは、方法は、ポア内を優先的に通過するリーダー配列を、ポリヌクレオチドに結合させるステップを含む。リーダー配列は、本明細書に記載のいずれの方法も促進させる。リーダー配列は、本明細書に記載の修飾ClyAナノポアのいずれか1つを優先的に通過し、それによってナノポアを通じたポリヌクレオチドの移動を促進させるように設計される。またリーダー配列を使用して、ポリヌクレオチドを上記に説明した1つまたは複数のアンカーに連結させてもよい。
【0144】
修飾ポリヌクレオチド
特徴付けの前に、標的ポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドと、ポリメラーゼおよび遊離ヌクレオチドの集団とを、ポリメラーゼが標的ポリヌクレオチドを鋳型として使用して修飾ポリヌクレオチドを形成する条件下で接触させることによって修飾されてもよく、ここでポリメラーゼは、修飾ポリヌクレオチドを形成するとき、標的ポリヌクレオチドの1つまたは複数のヌクレオチド種を異なるヌクレオチド種と置き換える。次いで修飾ポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドに結合された1つまたは複数のヘリカーゼおよびポリヌクレオチドに結合された1つまたは複数の分子ブレーキを含んでもよい。この種の修飾は、国際出願番号PCT/GB2015/050483に記載されている。本明細書に説明のいずれかのポリメラーゼが使用されうる。
【0145】
鋳型ポリヌクレオチドは、ポリメラーゼが鋳型ポリヌクレオチドを鋳型として使用して修飾ポリヌクレオチドを形成する条件下で、ポリメラーゼと接触される。そのような条件は当技術分野で公知である。例えば、ポリヌクレオチドは、通常、New England Biolabs(登録商標)の緩衝液など市販のポリメラーゼ緩衝液でポリメラーゼと接触する。プライマーまたは3’ヘアピンは、通常、ポリメラーゼ伸長のための核形成点として使用される。
【0146】
膜貫通ポアを使用するポリヌクレオチドの特徴付け、例えばシーケンシングは、通常、k個(ここで、kは正の整数である)のヌクレオチドからなるポリマー単位(つまり、「kマー」)を分析することを含む。このことは、国際出願番号PCT/GB2012/052343(国際公開第2013/041878号パンフレットとして公開)で説明されている。異なるkマーについて電流測定値間に明確な区別があることが望ましいが、これらの測定値の一部が重複することが一般的である。特に、kマーにおけるポリマー単位の高い数、つまりkが高値の場合では、異なるkマーによって生じる測定値を解明することが困難になり、ポリヌクレオチドについての情報の導出、例えばポリヌクレオチドの基礎となる配列の推定に不利益をもたらす可能性がある。
【0147】
標的ポリヌクレオチドの1つまたは複数のヌクレオチド種を修飾ポリヌクレオチドの異なるヌクレオチド種と置き換えることによって、修飾ポリヌクレオチドは、標的ポリヌクレオチドとは異なるkマーを含有する。修飾ポリヌクレオチドの異なるkマーは、標的ポリヌクレオチドのkマーとは異なる電流測定値を生じることができ、したがって、修飾ポリヌクレオチドは標的ポリヌクレオチドとは異なる情報を提供する。修飾ポリヌクレオチドからの追加情報は、標的ポリヌクレオチドを特徴付けることをより容易にすることができる。一部の例では、修飾ポリヌクレオチド自体が、特徴付けが容易でありうる。例えば、修飾ポリヌクレオチドは、電流測定値間の分離増加もしくは明確な分離を有するkマーまたはノイズを減少させるkマーを含むように設計してもよい。
【0148】
好ましくは、ポリメラーゼは、修飾ポリヌクレオチドを形成するとき、標的ポリヌクレオチドの2つ以上のヌクレオチド種を異なるヌクレオチド種と置き換える。ポリメラーゼは、標的ポリヌクレオチドの2つ以上のヌクレオチド種のそれぞれを別個のヌクレオチド種と置き換えうる。ポリメラーゼは、標的ポリヌクレオチドの2つ以上のヌクレオチド種のそれぞれを同じヌクレオチド種と置き換えうる。
【0149】
標的ポリヌクレオチドがDNAである場合、修飾体における異なるヌクレオチド種は、通常、アデニン、グアニン、チミン、シトシンもしくはメチルシトシンとは異なる核酸塩基および/またはデオキシアデノシン、デオキシグアノシン、チミジン、デオキシシチジンもしくはデオキシメチルシチジンと異なるヌクレオシドを含む。標的ポリヌクレオチドがRNAである場合、修飾ポリヌクレオチドにおける異なるヌクレオチド種は、通常、アデニン、グアニン、ウラシル、シトシンもしくはメチルシトシンとは異なる核酸塩基および/またはアデノシン、グアノシン、ウリジン、シチジンもしくはメチルシチジンとは異なるヌクレオシドを含む。異なるヌクレオチド種は、上記に説明した普遍的ヌクレオチドのいずれであってもよい。
【0150】
ポリメラーゼは、1つまたは複数のヌクレオチド種を、1つまたは複数のヌクレオチド種に存在しない化学基または原子を含む異なるヌクレオチド種と置き換えることができる。化学基は、プロピニル基、チオ基、オキソ基、メチル基、ヒドロキシメチル基、ホルミル基、カルボキシ基、カルボニル基、ベンジル基、プロパルギル基またはプロパルギルアミン基でありうる。
【0151】
ポリメラーゼは、1つまたは複数のヌクレオチド種を、1つまたは複数のヌクレオチド種に存在する化学基または原子を欠く異なるヌクレオチド種と置き換えることができる。ポリメラーゼは、1つまたは複数のヌクレオチド種を、負への帯電が変化した異なるヌクレオチド種と置き換えることができる。負への帯電が変化した異なるヌクレオチド種は、好ましくはハロゲン原子を含む。
【0152】
方法は、好ましくは、修飾ポリヌクレオチドにおける1つまたは複数の異なるヌクレオチド種から核酸塩基を選択的に除去するステップをさらに含む。
【0153】
他の特徴付けの方法
別の実施形態では、ポリヌクレオチドは、ポリメラーゼがヌクレオチドをポリヌクレオチドに組み入れるときに放出される標識された種を検出することによって特徴付けられる。ポリメラーゼはポリヌクレオチドを鋳型として使用する。標識された種はそれぞれ各ヌクレオチドに対して特異的である。ポリヌクレオチドは、本明細書に記載の修飾ClyAナノポア、ポリメラーゼおよび標識されたヌクレオチドと、ポリメラーゼによってヌクレオチドがポリヌクレオチドに添加されたときにリン酸標識された種が順次放出されるように接触され、ここでリン酸種はそれぞれのヌクレオチドに対して特異的な標識を含有する。ポリメラーゼは、上記に説明したポリメラーゼのいずれであってもよい。リン酸標識された種は、ポアを使用して検出され、それによってポリヌクレオチドが特徴付けされる。この種の方法は、欧州出願番号13187149.3(欧州特許出願公開第2682460号明細書として公開)に開示されている。上記に説明した実施形態のいずれも、本方法に同様に適用される。
【0154】
キット
本開示の別の態様は、標的ポリヌクレオチドを特徴付けるためのキットも提供する。キットは、本明細書に記載のいずれか1つの修飾ClyAナノポアおよび膜の成分を含む。膜は、好ましくは成分から形成されている。ポアは、好ましくは膜に存在する。キットは、両親媒性層またはトリブロックコポリマー膜などの上記に開示した膜のいずれかの成分を含みうる。
【0155】
キットは、ポリヌクレオチド結合タンパク質をさらに含んでもよい。
【0156】
キットは、ポリヌクレオチドを膜に結合するための1つまたは複数のアンカーをさらに含んでもよい。
【0157】
キットは、さらに、上述の実施形態のいずれかを実施することを可能にする1つまたは複数の他の試薬または機器を含んでもよい。そのような試薬または機器としては、以下の1つまたは複数が挙げられる:適切な緩衝液(水溶液)、対象から試料を取得するための手段(例えば、針を含む容器または機器)、ポリヌクレオチドを増幅および/もしくは発現するための手段、または電圧もしくはパッチクランプ装置。試薬は、流体試料により試薬が再懸濁されるように、乾燥状態でキットに存在してもよい。またキットは、任意選択的に、キットを本明細書に記載のいずれか1つの方法で使用することを可能にする指示書、または方法を使用することができる生物についての詳細を含んでもよい。
【0158】
装置
本明細書に記載の別の態様は、標的ポリヌクレオチドを特徴付けるための装置も提供する。装置は、複数の本明細書に記載される修飾ClyAナノポアと、複数の膜とを含む。一部の実施形態では、複数の修飾ClyAナノポアは、複数の膜に存在する。一部の実施形態では、修飾ClyAナノポアの数と膜の数は等しい。一実施形態では、単一の修飾ClyAナノポアが、それぞれの膜に存在する。
【0159】
装置は、さらに、本明細書に記載されるいずれかの方法を実施するための指示書を含んでもよい。装置は、ポリヌクレオチド分析のための任意の従来の装置、例えばアレイまたはチップを含んでもよい。例えば、標的ポリヌクレオチドを特徴付けるための方法を参照して上記に説明した実施形態のいずれも、本明細書に記載の装置に同様に適用可能である。装置は、本明細書に記載のキットに存在するいずれかの特色をさらに含んでもよい。
【0160】
一部の実施形態では、装置は、例えば、標的ポリヌクレオチドを特徴付けるための、本明細書に記載のいずれかの方法を実施するように設定される。
【0161】
一実施形態では、装置は、(a)複数の修飾ClyAナノポアおよび膜を支持することができ、ナノポアおよび膜を使用するポリヌクレオチドの特徴付けの実施を操作可能であるセンサーデバイス、ならびに(b)特徴付けを実施するための材料の送達のための少なくとも1つのポートを含む。
【0162】
代替的に、装置は、(a)複数の修飾ClyAナノポアおよび膜を支持することができ、ナノポアおよび膜を使用するポリヌクレオチドの特徴付けの実施を操作可能であるセンサーデバイス、ならびに(b)特徴付けを実施するための材料を保持するための少なくとも1つのリザーバを含んでもよい。
【0163】
別の実施形態では、装置は、(a)膜および複数の修飾ClyAナノポアおよび膜を支持することができ、ポアおよび膜を使用するポリヌクレオチドの特徴付けの実施を操作可能であるセンサーデバイス、(b)特徴付けを実施するための材料を保持するための少なくとも1つのリザーバ、(c)少なくとも1つのリザーバからセンサーデバイスへ材料を制御可能に供給するように構成された流体システム、ならびに(d)各試料を受けとるための1つまたは複数の容器を含んでもよく、流体システムは、1つまたは複数の容器からセンサーデバイスへ試料を選択的に供給するように構成されている。
【0164】
装置は、国際出願番号PCT/GB08/004127(国際公開第2009/077734号パンフレットとして公開)、PCT/GB10/000789(国際公開第2010/122293号パンフレットとして公開)、国際出願番号PCT/GB10/002206(国際公開第2011/067559号パンフレットとして公開)または国際出願番号PCT/US99/25679(国際公開第00/28312号パンフレットとして公開)に記載の装置のいずれかであってもよい。
【0165】
さらなる労作を要せずに、当業者は、上記の記載に基づいて、十分に本開示を利用することができると考えられる。したがって、以下の特定の実施形態は、単なる例示にすぎず、いかなる方法においても本開示の残部を限定するものではないと解釈される。本明細書で引用された全ての刊行物は、本明細書で言及される目的や主題を参照して組み込まれられる。
【実施例】
【0166】
<実施例1>
生理学的イオン強度でのDNA移行を可能にするナノポアの正確なナノスケール改変
生物学における重要なプロセスの多くには、ナノメートルスケールのポアを通じたバイオポリマーの移行が関与しており、例えば、核ポアを横切る核酸輸送、膜チャネルを通じたタンパク質移行、および標的細胞へのウイルスDNAの注入などがある。さらに隔離膜に埋め込まれた生物学的および人工的ナノポアは、このプロセスを調査するための有用なツールを提供し、迅速なDNAまたはタンパク質シーケンシング、単一分子DNAシーケンシングおよび分析、ならびにバイオマーカーセンシングにおける適用を見出しうる。ナノポアを横切るDNA移行の機構が、特に調査されてきた。いくつかのポータルバクテリオファージタンパク質の結晶構造は、DNA詰め込みおよび注入の間に、dsDNAが、正電荷の環で飾られた強い負の表面を有する狭いナノポア(約3.5nm)を横切って移行することを明らかにした。ナノポアの負に帯電した内側表面は、負に荷電したDNAのスライディングを容易にすることが提唱されており、一方で正電荷の役割は、このプロセスを促進することと考えられている。この実施例では、生理学的イオン強度で、ポータルタンパク質と同じ折り畳み、大きさおよび全体的内部電荷を有するClyAナノポアを横切るDNAの電気泳動的移行が、正電荷の2つの環がナノポアの広い入り口および中間部で改変されている場合にのみ観察することができることが見出される。驚いたことに、ナノポアの強い負に帯電した3.3nmの内部くびれは、修飾を必要としなかった。この知見は、正電荷の改変が、狭いくびれを通じたDNA移行のためのエントロピーおよび静電障壁克服のために、DNAを整列させるために重要であることを示す。理論に制限されることは望まないが、負電荷密度を有する狭いナノポアを通じて移行するために、DNA分子は配向される必要がある。
【0167】
脂質膜に再構成された生物学的ナノポアを流れるイオン電流は、低分子または折り畳まれたタンパク質を同定し、単分子レベルでの化学的または酵素的反応をモニターするために使用されてきた。人工膜に再構成されたナノポアを横切るDNAの電気泳動的移行は、DNAシーケンシングおよびバイオマーカー認識などの実用的用途のために大きな期待が持たれる。それ自体膜タンパク質ではないφ29のポータルタンパク質は、黒い脂質二重層に挿入されることが見出され、そのようなナノポアは1.0/0.5mMのNaClでdsDNAを電気泳動的に移行した。しかしながら、膜挿入を可能にするナノポアの正確な疎水性修飾は分からなかった。実際、φ29ナノポアは、時に脂質膜から放出され、したがって実用的用途には制限が課される。dsDNAは、グラフェンまたは二硫化モリブデンの二重層などの原子層材料を除いて大抵が負の内部表面電荷を有する固体膜上に調製した人工ナノポアを通って移行することが示されている。溶液のデバイ長に匹敵する半径を有するそのようなナノポアにおいて、内側ナノポア壁上の電気二重層(EDL)によって生じる表面電位が重なり、DNAのナノポアへの進入に対して大きな静電障壁をもたらす。結果として、固体ナノポアを横切るDNAの移行は、生理学的イオン強度で大きなナノポア(10nm)を使用してまたは340nMの塩もしくは非対称塩濃度下で小さいナノポア(約3.5nm)を使用する。さらにDNAの大きさに匹敵する直径(dsDNAのB形態について約2.2nmおよびssDNAについて約1nm)を有する固体ナノポアを横切るDNAの移行は、生理学的イオン強度でまだ観察されていない。
【0168】
約3.3nmの内部くびれを有する12量体タンパク質であるClyAナノポア(
図1、パネルA)は、折り畳まれたタンパク質を調査するためのツールとして使用されてきた。ナノポアを横切るdsDNA移行が2.5MのNaCl溶液で観察されたが、ポアの強力な負の内側(
図1、パネルA)により、より低いイオン強度でのDNA移行は防止された。この実施例では、ClyAナノポアが改変され、生理学的イオン強度でのDNAの移行が可能となった。これは、分子とDNAとの間の静電相互作用が重要である多くの用途で有用であり、例えば、ナノポアを横切るDNAの移行を制御したりまたはDNA-タンパク質相互作用を研究したりするのに酵素が使用される、DNAシーケンシングまたはマッピングにおいて有用である。DNA移行は、正電荷の2つの環がナノポアのより広いcis側に添加された後に観察され、一方、ナノポアのtrans側入口をよりくびれさせる修飾は、DNA移行の効率を改善しなかった。さらに、修飾はナノポアのイオン選択性を変化させず、φ29ポータルタンパク質の電荷分布を反映していた。さらに、改変されたポアは、ナノポアの広い側からのみDNAの移行を可能にした。興味深いことに、DNA上をスライディングする多くのタンパク質が、改変されたClyAナノポアと類似の表面電荷を示し、正および負電荷の改変が、ナノスケールの両端を横切るDNA移行を改善するための全体的機構を提供しうることが示される。この実施例は、ナノポアの形状および内部表面電荷の正確な改変が、DNAと同様の直径を有するナノスケールポアを横切るDNAの移行およびスライディングのために重要であることを示す。
【0169】
結果
DNAを捕捉するためのClyAナノポアの改変
ClyA-AS(
図1、パネルA;
図11、パネルA)は、平面脂質二重層におけるその有利な特性のために選択された、チフス菌(Salmonella typhi)由来の細胞溶解素Aの改変バージョンであり、ssDNAまたはdsDNAの移行が、2.0Mを超えるNaClイオン強度でのみ観察される。おそらく、低イオン強度ではナノポア内部の強い負の静電電位(
図11、パネルB)がDNA進入および移行を防止し、一方で高イオン強度ではナノポア表面の電荷が効果的に遮蔽される。生理学的イオン強度でのナノポアによるDNAの捕捉を誘導するために、ClyA-ASナノポアの内部電荷を修飾した(表1および2ならびに
図1、パネルA;
図11、パネルA)。ClyAバリアントは、時折、開口ポアコンダクタンス(ゲーティング)の一時的な減少を示した。ゲーティングの測定値として、典型的ナノポアを30秒のタイムスパンで開口のままとする印加電圧として定義されるゲーティング電圧(VG)(表1)を使用した。修飾ナノポアを通じたDNAの移行は、1μMの90量体3’-ビオチン化ssDNA分子(
図1、パネルA;表3)、次いで等モル濃度のその相補鎖(
図1、パネルB;表3)、そして最後にニュートラアビジン(1.2μM、モノマー)を添加することによって、VGで試験した。
【0170】
アルギニン残基の形態での正電荷の単一環をClyA-ASのcis側入口(S110R、ClyA-R、
図1、パネルA;
図11、パネルA)に導入し、次いでナノポアの3つの部分:cis側入口、中間部およびtrans型くびれを修飾した(
図1、パネルA;
図11、パネルA)。ClyA-Rのcis開口部での陽性残基を用いた中性残基の置換は、150mMのNaClでDNA移行を示さなかった(表1、表2)。cis開口部での追加的正電荷は、平面脂質二重層へのチャネル挿入なし(ClyA-R-E106RおよびClyA-R-D114R)、または150mMのNaClでのDNA移行なし(ClyA-R-D122RおよびClyA-R-D129R)のいずれかを示した。ClyA-Rナノポアの中間部のアルギニン環は、64位の負に荷電したグルタミン酸残基がアルギニンで置き換えられたとき(D64R、ClyA-RR)、ssDNA(
図1、パネルC)およびdsDNA(
図1、パネルD)の移行を誘導したが、近い位置の中性側鎖がアルギニンで置換されたとき(Q56R)は誘導しなかった。アルギニンでの近い位置での中性側鎖の置換(Q56R)、膜貫通領域における負に荷電した残基の除去(ClyA-R-E11S)または正に荷電した残基の付加(ClyA-R-Q8K)のいずれも、150mMのNaCl溶液でDNA移行イベントを誘導しなかった(
図6)。驚いたことに、ClyA-Rの中間部およびtrans側入口の両方における中性残基の正に荷電した残基での置換(ClyA-R-Q56R-Q8K)もDNA移行イベントを誘導しなかった(
図6)。ClyA-R-D129Rを除いて、試験した全ての変異はゲーティング電圧を減少させた(表1)。ClyA-RRは、ssDNAまたはdsDNAのいずれかをナノポアのcis側に添加した後、DNA誘導電流イベントを示した唯一のClyA変異体であった(+70mV、
図1C~Dおよび6)。ClyA-RRのみがDNA移行を可能にしたという観察にもかかわらず、ClyA-RR、ClyA-RおよびClyA-ASは全て同じイオン選択性を示し(それぞれPNa+/PCl-=1.9±0.7、2.0±1.6、1.9±0.9、表4)、ナノポアのイオン選択性は、ナノポアの膜貫通領域の電荷分布によって支配され、ナノポアを通じた増強電気浸透流によって誘導されないことが示された。
【0171】
より一般的には、領域A(
図20に示される)における第1のアミノ酸の置換は、少なくともデルタ1のさらなる正電荷(つまり、正に荷電したアミノ酸による中性アミノ酸の置換)を有することができ、領域Bにおける置換は、少なくともデルタ2のさらなる正電荷(つまり、正に荷電したアミノ酸による負に荷電したアミノ酸の置換)を有することができる。
【0172】
2つの追加のアルギニン環によって生じる静電電位の変化へのさらなる洞察を得るために、ClyA-ASおよびClyA-RRの全原子ホモロジーモデルを、VMD(Humphrey et al. J. Mol. Graphics (1996) 14: 33-38)およびNAMD(Phillips et al., J. Comput. Chem. (2005) 26: 1781-1802)を使用し、大腸菌(E. coli)ClyA結晶構造から開始して構築した。例えば、Baker et al., PNAS (2001) 98: 10037-10041、Dolinsky et al., Nucleic Acids Res. (2004) 32: W665-W667およびDolinsky et al., Nucleic Acid Res. (2007) 35: W522-W525に記載されているアダプティブポアソンボルツマンソルバ(APBS)を使用して、150mMのNaClにおける両方のポアの電位分布を計算した(
図11、パネルB)。ClyA-ASでは、ポアの中心での電位は、cis側入口から中間部を通じてtrans側入口へ、負への帯電を増加するように動くことが分かった(それぞれ平均で-2.6、-4.8および-15.2mV)。ClyA-RRの場合には、電位の上昇を、ポアのcis側入口および中間部の両方で観察することができた(それぞれ平均で-0.3および-1.1mV)。trans型くびれの電位は、平均-17.3mVへさらに低下するように見えた。これらの値は外部バイアスが印加されない場合で計算されていることに留意されたい。
【0173】
表1:改変されたClyAナノポアバリアントの電気的特性。ナノポアの活性を、約0.1ngのオリゴマータンパク質をcisチャンバーに添加することによって試験した。負の活性は、チャネル挿入が観察されなかったことを示す。VGは、ゲーティング電圧であり、30秒のタイムスパン内でゲーティングイベントが観察されなかった最も高い印加電圧を表す。DNA移行は、dsDNAロタキサンを形成できたことを示す。各データ点は少なくとも3回の実験の平均であり、誤差は標準偏差である。実験は、0.15MのNaCl、15mMのTris HCl、pH7.5溶液中で実施した。
【0174】
【0175】
DNA移行のプルーフとしてのDNAロタキサン
ロタキサンは、2つのストッパーによりロックされたスレッドを取り囲む大環状環によって形成されたダンベル形状分子である。この実施例では、2つのナノポア/DNAロタキサンを150mMのNaCl溶液中で形成し、ナノポアを通じたssDNAおよびdsDNAの移行を立証した。第1のロタキサンは、100マーの5’-ビオチン化ssDNA分子を、cisコンパートメントに添加する最初のスレッド(2a、表3)として使用して形成した。第2のロタキサンは、31塩基の3’ビオチンオーバーハングで延長した3’-ビオチン化59塩基対dsDNA分子(1a/1c、表3)を使用して形成した。ナノポアの反対側に、2aまたは1a/1cのオーバーハングにハイブリダイズするように設計されたそれぞれ別のビオチン化ssDNA分子2b(50マー、5’-ビオチン化)または1d(31マー、3’-ビオチン化)を添加することによって、ロタキサンをロックした。cisおよびtrans溶液の両方が、ビオチンと複合体化してナノポアを横切るDNA鎖の全移行を防止するニュートラアビジン(NA、0.3μM)を含有していた。
【0176】
150mMのNaClおよび+50mVでは、ssDNAおよびdsDNA/ssDNAの両方がナノポアを通過したが(それぞれIRES+50 92±0.02、および0.84±0.07、N=3)、印加電位が-50mVに逆転したときポアから排出された(
図2、パネルA~B)。その後のDNA:ニュートラアビジンストッパーのtrans溶液への添加は、両方の電位で永続性封鎖を誘導し、DNAロタキサンの構築を示し、両方のスレッドがナノポアに移行されたことを示した。負の印加電位で、両方のロタキサンについて、封鎖イオン電流は、開口ポア電流より高かった(ssDNAおよびdsDNA/ssDNAスレッドについてそれぞれIRES-50=1.16±0.03および1.11±0.06、N=3の独立したナノポア実験、
図2、パネルA~B;
図12、パネルA~B)。この効果は、以前に低イオン強度での10nmの固体ナノポアを通じたDNAの移行について観察され、DNA封鎖ポア内部の対イオン蓄積によって説明された。対照的に、正の印加電位で、開口ポア電流は封鎖電流より高く(
図1、パネルC~Dおよび
図2、パネルA~B;
図12、パネルA~B)、この構成において、ニュートラアビジンがナノポアの内腔と相互作用している可能性があり、DNA上の対イオンの蓄積はナノポアのcis側とtrans側とで異なっていることが示された。
【0177】
DNA捕捉/通過および移行は、溶液のイオン強度に依存する
イベント間時間τ
onの逆数である捕捉率k
on(表7、+70mV、1μMのDNA)は、ssDNAおよびdsDNAの両方が、溶液のデバイ長(λ
D)と共に増加した(
図3、パネルB~C;
図13、パネルA~B)。しかしながら、dsDNA捕捉率はλ
Dと共に直線的に増加し(
図13、パネルA)、一方でssDNA捕捉率はλ
Dと共に指数的に増加した(
図13、パネルB)。したがって、これにより、dsDNAおよびssDNAについて異なる捕捉機構が示される。cis側に添加されたdsDNA移行の頻度は溶液のデバイ長と共に直線的に増加し(+70mV、
図3A、7および8)、DNAとナノポアとの間の静電相互作用がDNA進入および移行のために重要であることが示された。固体ナノポアを用いて以前に報告されているようにDNA封鎖ナノポアの残留電流は、溶液のイオン強度が減少するにつれて増加した(例えば、2.5MのNaClで0.78±0.09から150mMのNaClで0.92±0.02へ)。興味深いことに、DNA封鎖のIRESと溶液のデバイ長との間の直線関係が明らかになった(
図3、パネルB~C)。ニュートラアビジンと複合体化したdsDNAでは、残留電流が、遊離のDNA移行の間より約10%低く、ニュートラアビジンが、おそらくはナノポア内腔との相互作用によって、封鎖の全体的なイオン電流に寄与していることが示された。
【0178】
ssDNA移行の頻度は、溶液のデバイ長と共に、直線的(R
2=0.78)ではなく指数的(R
2=0.99)に増加し(
図3、パネルC)、ClyA内腔における改変された正電荷とDNAとの間の相互作用以外のさらなる因子が、ナノポア進入および/または移行のために重要な役割を果たしていることが示された。150mMのNaClでは、ニュートラアビジンと複合体化したssDNA分子がClyA-RRナノポアに対して永続性封鎖を示したが、一方で、1M以上のNaClでは、封鎖は一過性であった(
図3、パネルD;
図10)。これらのデータについて考えられる説明は、高イオン強度において、ssDNAがcis側からポアに入ってcis側から出るということである。イオン強度≧1Mで、ニュートラアビジンの存在および非存在下でssDNAについてのIRES値は同じであり(
図3、パネルC;
図10)、これらの条件下でssDNAが完全にナノポアを通過しておらず、ニュートラアビジンがClyAの内腔と相互作用することを妨げている可能性があることが示された。
【0179】
DNAのClyAナノポアへの一方向性進入
150mMのNaCl溶液および負の印加電位下(最大-100mV)では、1μMのssDNAまたはdsDNAのClyA-RRのcisおよびtransコンパートメントへの添加はDNA封鎖を誘導せず、DNAがナノポアのtrans入り口からナノポアに入ることができないことが示された(
図4、パネルA)。正の印加バイアス下では、電流封鎖が約+50mVよりも高い電位で現れ、ナノポアのcis側からのssDNAの移行について電圧閾値が存在することが示唆された。しかしながら、transコンパートメントからのDNAの進入(
図4、パネルB)および移行(
図9)が1MのNaCl溶液で観察され、150mMのNaClでのtransコンパートメントからの移行を防止するエネルギー障壁が、本質的に静電的であることを示した。
【0180】
生理学的イオン強度下でのtransコンパートメントからのDNAの進入を観察するために、ClyA-RRナノポアの膜貫通領域の変化を再モデル化した(表5および
図10)。ナノポアの膜貫通領域における負に荷電した残基の置換は、負に印加した電位下で1μMのdsDNA1をtransチャンバーに添加したとき電流封鎖を誘導しないことが分かり(
図10)、これらの条件下でClyA-RRナノポアのcisおよびtrans側からのDNAの移行に対しての比較的大きな非対称障壁が示された。
【0181】
考察
正確なナノポア改変は、生理学的イオン強度でのDNA移行を支援する
この実施例では、ClyAナノポアを、生理学的イオン強度でDNAの電気泳動的移行が可能となるように改変した。DNA移行は、2組の正電荷をClyAナノポアの入口および中間部に導入したときに観察された(
図11、パネルA)。驚いたことに、DNA移行について最も高いエントロピーおよび静電障壁を示すナノポアのtrans側入口(
図11、パネルA~B)では、修飾を必要としなかった。さらに、ClyAのtrans側入口の電荷への広範囲の再モデル化(表1~2)にもかかわらず、DNA移行は、ナノポアの広い方のcis側入口から開始したときにのみ観察することができた。さらに、ClyA-RRナノポアを通じたdsDNA移行の頻度は、溶液のデバイ長と共に増加し(
図13、パネルA)、dsDNAとClyA-RRのcis側入口との好ましい静電相互作用が、DNAとナノポアくびれとの好ましくない静電反発力を上回ることを示した。dsDNAの剛性が、試験したイオン強度の範囲にわたって顕著に変化していないことに留意されたい。さらに、イオン強度が低下するときの電気浸透流の増加は、電気浸透流がDNA進入および移行と対向するものであることから、DNA移行の頻度増加を説明することはできない。したがって、これらのデータは、ナノポアのcis内腔が、ナノポアのくびれを通じたDNAの移行を開始するために重要であることを示す。
【0182】
ナノポアを通って移行するDNA分子は、電気的駆動力を受け、さらにDNAの移行に対向するナノポア内部の電気浸透流(EOF)から生じる流体力学的粘性抵抗力を受ける。ClyAおよびほとんどの固体ナノポアは、通常、電気二重層(EDL)と呼ばれる、表面と直接接触する陽イオンの層によって、静電的に均衡した負の表面電荷を有する。印加された電場下では、EDLにおけるイオンの移動は対イオンの優先的移行を誘導し、次いでEOFを生じ、ナノポアをイオン選択的にする(例えば、ClyA-AS PNa/Pk=1.9、表2)。電解質による遮蔽により、EDL力は、拡散層にわたって指数的様式で減衰する。デバイ長および表面電位によるその強度によって、この力には一定の範囲が与えられる。狭いナノポアでは、特に低塩濃度の状況では、拡散層を含むEDLの厚さはナノポアの大きさに匹敵する可能性があり、重複したEDLを生じうる。このレジーム下では、そのようなナノポアに接近するDNA分子(直径2.2nm)は、負の表面電荷を有するナノポアに対してDNAのナノポアへの進入に対向する強い表面電位を受ける。
【0183】
ClyAナノポアを通じたdsDNAおよびssDNA移行の機構
ClyAは、円筒形のcis内腔(5.5nmの直径および10nmの長さ)とそれに続く、より小さな負に荷電したtrans型くびれ(3.3nmの直径および3.0nmの長さ、
図1)によって近似することができ、このくびれは、DNA移行のための主な電気泳動およびエントロピー障壁に対向すると予測される。驚いたことに、ClyAナノポアを通じたDNAの移行が、一組の正電荷をナノポア(ClyA-RR)のcis内腔に添加したときに観察されたが、ナノポアのくびれは何ら修飾を必要としなかった。ClyAのtrans入り口への広範囲の修飾(表2)にもかかわらず、DNA移行は、ナノポアの広い方のcis側から開始したときにのみ観察される場合があり、ナノポアのcis内腔がナノポアを通じたDNAの移行を開始するために重要であることが示唆された。ClyA-RRナノポアを通じた二本鎖DNAの移行の頻度は、溶液のデバイ長と共に直線的に増加し(
図3、パネルA)、dsDNAとClyA-RRにおける改変電荷との静電相互作用は、移行プロセスに対向するのではなく、むしろ好ましいことが示された。生理学的イオン強度でのtrans型くびれを通じたdsDNAの移行が、dsDNA鎖がナノポアのcis内腔によって予め整列されたときに達成されるというモデルが提唱される(
図5、パネルA)。この概念では、dsDNAは、最初にcis側入口で電荷と相互作用し、次いでポアの内腔に入り、内腔でナノポアの中間部のアルギニン残基とさらに相互作用する(
図1、パネルA)。これらの静電相互作用は、DNAのリン酸基を「把持」し、DNAがcis溶液へ戻って出ていくのを防止する。この構成において、dsDNAは、電気泳動力が最も強いtrans型くびれに入るように整列され、これによりナノポアを横切るDNAの円滑な移行が可能となる(
図5、パネルA)。
【0184】
ssDNA封鎖のデバイ長依存性が、dsDNAについて観察されるような直線関数ではなく、単一指数関数に良くフィットすることが観察され(
図3、パネルA)、dsDNAと比較して、ssDNAの移行には、さらなる因子が影響を与えていることが示唆された。この実験では、DNAが完全に引き延ばされたときの全長であるDNA輪郭長はdsDNAの持続長(約50nm)よりも小さく、dsDNA分子が剛性ロッドとして移行することが示される(
図5、パネルA)。対照的に、ssDNAは、ポリマーコイルにおけるその重心からの任意の点の平均2乗距離である回転半径が約6nmであるコイル構造(持続長約1.5nm)を有する。回転半径は、ナノポアのcis入り口の直径と同様であるので(
図5、パネルB)、ssDNAは、おそらく部分的にコイル構造(
図5、パネルB)としてナノポアのcis側に入る。ssDNAがcisリザーバからtrans側へ移動するとき、次いでナノポアのtrans型くびれを通じて航行するためには、コイルが徐々に解かれなければならず、その後、反対側で再コイル化されなければならない(
図5、パネルB)。高イオン強度で、印加電位に対してナノポアからの固定化ssDNAのcis側排出を促進する、移行時のDNAのコンフォメーション変化に関連する、解け、再コイル化するエントロピー力は(
図3、パネルD)、溶液のイオン強度の減少と共に低下し、溶液のイオン強度が減少するときDNA移行の効率を増強させる。DNA封鎖ナノポア内部のイオン濃度およびデバイ長は不明であることに留意されたい。それにもかかわらず、両方がナノポア電流と相関し、同様にバルク電解質の濃度に関連する(
図3、パネルBおよびC)。
【0185】
DNA移行の機構:dsDNA捕捉は拡散律速であり、ssDNA捕捉は反応律速である
異なる塩濃度でのDNA移行実験は、dsDNAおよびssDNAについて2つの異なる捕捉機構を示した(それぞれ
図13、パネルA~B、および
図14、パネルA~B)。dsDNAの挙動は、拡散律速捕捉プロセスと一致する。これは、この実験で使用するdsDNAがその持続長(150bp)より短く、剛性の一様な荷電ロッドとして挙動することによる。捕捉半径内(0.5nmのλ
Dについてナノポア中心から約50nm)では、電場がDNAをポアに向かって引きつけ、一端がポア入口に当たるように電場線に沿って整列させる(
図14、パネルA、i)。ポア内に入ると、改変された電荷がDNAと相互作用し、cis溶液へと引き戻されるのを防止する(
図14、パネルA、ii~iv)。したがって、DNA捕捉の動力学は、電気泳動に由来する単純な誘引電位での拡散粒子の動力学と近似されうる。この場合、dsDNAの電気泳動移動度は、溶液のデバイ長と比例し、対応するドリフト拡散式は、下記でさらに詳細に記載されるように、正確に解明することができる。ClyAナノポアの幾何学的形状を、円筒の長さl=13nmおよび捕捉直径d=6nm(
図11、パネルA)で近似することで、捕捉頻度を、以下:
k
on~14λ
D(s nm μM)
-1
によって推定することができる。これは、λ
Dについての実験データ(高塩濃度、
図13、パネルA)と非常に良く一致する。何らフィッティングパラメータが使用されていないので、これは顕著なことである。ただし、ClyAの幾何学的形状は完全な円筒から著しく逸脱しているため、ポアのパラメータの選択は、ある程度任意であることから、この比較にはいくらか注意が必要である。低塩濃度(0.15MのNaCl、λ
D=0.8nm)では、捕捉率は、上記式によって予測されるよりも高い(
図13、パネルA)。同様に、モデルで考慮されていないClyA-RR入口での正電荷は、低塩濃度で捕捉を促進する一方、高塩濃度ではこれらの電荷がより有効に遮蔽される。
【0186】
ssDNAについて、k
onとλ
Dとの関係は指数的であり、障壁横断(反応律速プロセス)と一致する。溶液では、ssDNAは、DNAがナノポアに近づくとき、コイル状のコンフォメーションをとりながら電気泳動力によってナノポアの方へ引っ張られる(
図14、パネルB、i)。しかしながら、ポアの入口周辺では、鎖の一端がポアの入口に向き(
図14、パネルB、ii)、ssDNAが解かれる(
図14、パネルB、iii、iv)場合にのみ、移行イベントが上手く起こりうる。このエントロピー起源の追加的な反発力は、実際上、移行の前に横断しなければならないエネルギー障壁を生じさせる。そのような障壁によって制限される移行に関する理論が議論されてきており、一般的な理論では、捕捉率は、
【0187】
【数1】
で与えられる。ここでΔF
bは障壁の高さであり、ωは障壁横断のための特有の試行率(attempt rate)である。指数因子は、横断イベントの成功確率を与える。モデル入力から、ΔF
bの推定を達成しうる。移行の成功確率が、電気泳動移動度に比例し、同様にλ
Dに比例する項を含むことが示された。これによりλ
Dに対するk
onの指数的依存性が説明される(
図13、パネルB)。k
onはイベント間時間の逆数から取得されるが、測定された電流封鎖の全てが必ずしも移行イベントを説明するものでないことに留意されたい。これらの封鎖の一部はDNA鎖の進入とその後のcis側への引き戻しによるものでありうる(
図14、パネルB、iiiからi)。それにもかかわらず、ロタキサンの形成は、少なくとも一部の分子が上手く移行されることを示している。いずれの場合においても、k
onのλ
Dに対する指数的依存性をもたらす引数は有効である。
【0188】
生物学的意義
興味深いことに、ClyAナノポアを通じたDNAの移行を可能にする修飾は、生物学的機能がDNAに沿ってスライディングすることであるタンパク質においても観察される。バクテリオファージでは、DNAは、整列し、同様の寸法、化学量論、内部表面電荷、およびClyAと同様の内部構造サイズを有するポータルタンパク質にDNAを押し込むタンパク質に詰め込むことによって、前駆型キャプシドに転送される。負の内部表面電荷が、ポータルタンパク質を横切るDNAの平滑な移行のために重要であるようであり、その理由は、負の内部表面電荷が、DNAを包囲し、DNAに沿ってスライディングする、β-クランプタンパク質などの他のタンパク質で観察されるからである。またポータルタンパク質およびβ-クランプタンパク質は正に荷電した環を有し、この環は、移行するDNAの負荷電リン酸骨格との相互作用によって、ゲノムDNAパッケージングに直接的な役割を果たすことが提唱されている。ClyAナノポアを通じたDNAの電気泳動的移行が、正電荷残基の2つの環がナノポアのcis入り口および中間部に導入され、狭い負に帯電したくびれを通じた移行のためにDNAを整列させるときに観察することができた。そのような相互作用がない場合、つまりtrans側からの通過では、DNA移行は観察できなかった。したがって、本明細書に提示される結果は、接続タンパク質における正電荷のそのような環がキャプシドを出て感染細胞へ入るDNAの排出を開始するために重要でありうることを示す。
【0189】
この実施例では、改変されたClyA12量体ナノポアClyA-RRが、正電荷の2つの環が導入されると、生理学的イオン強度でdsDNAおよびssDNAを移行することが提示される。ClyA-RRは、単一分子レベルでタンパク質-DNA相互作用を研究するために使用することができ、酵素がナノポアを通じた核酸の移行を制御するDNAマッピングおよびシーケンシング用途で使用することができる。ナノポアの広い方の入口(cis側)での誘引的相互作用となる正電荷の環の導入が、狭く負に荷電したtrans型くびれを通じたDNA移行を誘導するために重要であることが分かった。驚くべきことに、くびれ自体は修飾を必要としなかった。これらの結果は、ナノポアの入口および中間での誘引的相互作用が、狭く負に荷電したtrans型くびれを通じた電気泳動駆動スライディングを有効にするためのDNAの「把持」および配向のために重要であることを示す。興味深いことに、ClyA-RRの電荷分布は、ウイルスのポータルタンパク質に反映されており、生物学的ナノポアの正確な改変が、ウイルスキャプシド内外でのDNAの効率的な詰め込みおよび排出のために重要であることが示される。さらに、dsDNAおよびssDNA移行の頻度の、それぞれ直線的および指数的イオン強度依存性は、dsDNA捕捉が拡散律速プロセスに従い、一方でssDNA捕捉が反応律速プロセスに従う、予想される機構を示す。さらにssDNAは、コイル構造としてナノポアに入り、ナノポアのくびれを通じて移行するために解かれる必要があることも示された。これらの知見は、固体ナノポアの改変に役立てるために使用することができる。例えば、好ましい表面電荷と、ナノポア上方に配置されるDNAの回転半径と類似の直径とを有するナノスケールチャンバーは、特に低イオン強度でのDNAの移行に有利であるはずである。さらに、DNA移行を可能にするClyAナノポアへの修飾は、ウイルスポータルタンパク質に反映されていることが分かり、生物学的ナノポアの正確な改変が、ウイルスキャプシド内外でのDNAの効率的な詰め込みおよび排出のために重要であることが示された。
【0190】
例示的材料および方法
DNAはIntegrated DNA Technologies(IDT)から購入した。ニュートラアビジンはThermo Fisherから取得し、1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリンはAvanti Polar Lipidsから取得した。β-ドデシルマルトシド(DDM)は、GLYCON Biochemicals GmbHから購入した。酵素はFermentasから購入し、全ての他の材料は、特に明記しない限り、Sigmaから購入した。
【0191】
タンパク質精製。ClyA-AS遺伝子への単一点突然変異は、Soskine et al., J. Am. Chem. Soc. (2013) 135: 13456-13463およびMiyazaki et al., Methods Enzymol. (2011) 498: 399-406に記載される「メガプライマー」方法を使用して実施した。ClyAは、pT7プラスミドを使用して、E.cloni(登録商標)EXPRESS BL21(DE3)細胞で発現させた。モノマーは、Ni-NTAアフィニティークロマトグラフィーを使用して精製し、Waduge et al., ACS Nano (2015) 9: 7352-7359に記載される0.5%β-ドデシルマルトシド(GLYCON Biochemicals GmbH)の存在下でオリゴマー化した。モノマー(C末端オリゴヒスチジンタグ含有)を大腸菌(E. coli)BL21細胞で発現させ、可溶性画分をNi-NTAアフィニティー緩衝液(150mMのNaCl、15mMのTris HCl、pH7.5、0.2%DDMおよび1mMのEDTA)を使用して精製し、4℃で保存した。
【0192】
DNA調製。dsDNA1は、1aおよび1bを等モル濃度で最初に混合することによって調製した(表3)。混合物を95℃に至らせ、温度を一定の間隔で段階的に下げた。DNAを、過剰のssDNAから、アガロースビーズに単量体アビジンを固定化したビオチン結合カラム(Thermo Scientific Pierce)を使用して、アフィニティークロマトグラフィーによって精製した。次いでdsDNAを、製造業者のプロトコルに従って、カラムから溶出した。溶出画分を濃縮し、PCR quick精製キット(QIAGEN)を使用してさらに精製した。典型的に0.2μg/mLのDNA濃度が取得された。1a/1cデュプレックスは、1について説明したようにアニーリングしたが、精製はしなかった。
【0193】
イオン透過性。非対称条件下のI-V曲線(表6)を、対称条件下のcisチャンバーにClyAを添加することによって(cisおよびtrans溶液の両方で150mMのNaCl、15mMのTris-HCl pH7.5)収集した。次いで電極の均衡を取り、5MのNaClストック溶液のアリコートをcisコンパートメントに添加することによってcisにおける電解質濃度を1Mへ増加させた。cis溶液(150mMのNaCl)と同じ緩衝液を使用して、cis側への添加と同じ体積を添加することによって、transチャンバーの体積を調節した。
【0194】
透過率(PNa+/PCl-、表4)は、I-V曲線から外挿した測定逆電位(Vr)値を使用して、ゴールドマン・ホジキン・カッツ(Goldman-Hodgkin-Katz)の式(下記)を使用して計算した。
【0195】
【数2】
Rは、普遍気体定数(8.314JK
-1mol
-1)であり、Tは、ケルビン温度であり、Fはファラデー定数(96485Cmol
-1)であり、P
Na+およびP
Cl-はイオンNa
+またはCl
-についての相対的膜透過性であり、a
Na+およびa
Cl-はそれぞれの活性である。cisチャンバーは接地した。2.5MのNaClを含有する2.5%アガロースブリッジを備えたAg/AgCl電極を使用して全ての実験を実施した。
【0196】
電気的記録。イオン電流は、ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(Avanti Polar Lipids、Alabaster、AL)から形成した平面二重層から記録することによって測定した。電流は、寒天ブリッジ(2.5MのNaCl緩衝液中の3%w/v低融点アガロース)に沈めたAg/AgCl電極を用いて、Ho et al., Sci. Adv. (2015) 1, e1500905およびMaglia et al., Methods Enzymol. (2010) 475: 591-623に記載されているように、パッチクランプ増幅器(Axopatch 200B、Axon Instruments、Foster City、CA)を使用して測定した。単一チャネルを、電流対印加電圧関係を測定することによって特徴付けした(I-V曲線、電位は-100から+100mVの10mVステップで、21秒で印加した、
図6、10および表5)。0.15MのNaClで、イオン電流は、2kHzのローパスBesselフィルターを適用し、10kHzサンプリングレートを使用して記録した。より高い塩濃度で、イオン電流を50kHzでサンプリングし、ローパスBesselフィルターを10kHzに設定した。0.3および0.5MでのNaCl電流トレースは、4kHzのBesselデジタルフィルターで取得後フィルタリングした(
図16、17)。異なるフィルタリング頻度を用いることは、検出されたイベントの総数に影響を与える。例えば、50kHzでサンプリングしたトレースへ2kHzのデジタルGaussianフィルターを適用し、一方で10kHzのBesselフィルターを適用することにより、イベント間時間が約50%増加する(221から311msへ、0.17μMのdsDNA、1MのNaCl、0.12msの平均滞留時間)。したがって、DNA捕捉頻度のデバイ長依存性に対する過剰なフィルタリングの効果を試験するために、
図13、パネルAに記載されたデータを、全ての電流トレースに対して1kHzのGaussianフィルターを適用した後にプロットした(
図18)。ssDNAおよびdsDNA封鎖がそれぞれ指数および直線回帰に良好にフィットすることが分かった(
図18)。
【0197】
データ分析。電流封鎖イベントは、Clampfit software(Molecular Devices)の「単一チャネル検索」関数を使用し、0.05msのデータ収集閾値を使用して、個々に収集した。得られた開口および封鎖ポア電流は、全点ヒストグラムへのGaussianフィッティングから計算した。残留電流は、封鎖ポア電流値を、開口ポア電流値で割ることによって計算した。DNA移行滞留時間(τ
off)値は、DNA封鎖滞留時間のイベントヒストグラムから単一指数フィットにより計算し、一方で(τ
on)値は、イベント間時間の対数ヒストグラムから指数対数確率フィットを使用して計算した(
図13、表7および
図16、17)。誤差は、少なくとも3回の独立したナノポア実験の平均値からの標準偏差を示し、その回数はNで示している。
【0198】
本明細書に記載の一実施形態による修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドの調製に関する追加情報
ClyA-AS遺伝子への単一点突然変異を、「メガプライマー」方法を使用して実施した。典型的に、2つのPCRサイクルを実施して、新たなDNA構築物を調製した。第1のPCR反応では、プラスミドDNAは、2つのプライマーで増幅した:フォワードプライマーは、塩基置換を保有する20~30塩基長のオリゴヌクレオチドであり、リバースプライマーはT7プロモーターまたはT7ターミネーターのいずれかであった。膜貫通領域での変異について、リバースプライマーは、タンパク質配列の中間のストレッチに相補的な25マーのオリゴであった(表3)。メガプライマー(200~300bp)を含有するPCR産物をアガロースゲル(2%アガロース/TAEおよびクリスタルバイオレット)に装填し、メガプライマーを切り出し、PCR quick精製キット(QIAGEN)を使用して精製した。5μLの精製されたメガプライマーを、2%アガロース/TAEゲルに装填して純度を確認し、5~10μLのメガプライマーを、第2のPCR反応のために使用した。次いで第2のPCR産物を、最初にDpnI(1~2時間、37℃、高速消化DpnI、Fermenthas)で消化してClyA-AS鋳型DNAを除去し、次いで約1μLを、エレクトロコンピテント細胞E.cloni(登録商標)EXPRESS BL21(DE3)(製造元)を用いての形質転換のために使用した。
【0199】
DNA調製に関する追加情報
dsDNA1を、1a、3’-ビオチン化ssDNA分子(表3)を20%過剰の相補的ssDNA1b(表3)とインキュベートすることにより形成した。温度を1分間95℃にし、次いで室温まで段階的に下げた。70℃の推定アニーリング温度付近では、温度を21℃へ2℃ステップで下げた。各ステップは1分間継続した。次いで、DNAを、過剰のssDNAから、アガロースビーズに単量体アビジンを固定化したビオチン結合カラム(Thermo Scientific Pierce)を使用して、アフィニティークロマトグラフィーによって精製した。次いでdsDNAを、製造業者のプロトコルに従って、ビオチンブロッキング/溶出緩衝液で溶出した。溶出画分を濃縮し、PCR quick精製キット(QIAGEN)を使用してさらに精製した。典型的に、0.2μg/mLのDNA濃度が取得された。dsDNAの大きさおよび純度を、TAE緩衝液中の2%アガロースゲルを使用して検査し、分光学的に定量した。精製dsDNAを、1mMのEDTAの存在下、-20℃で保存した。1a:1cを、3’-ビオチン化ssDNA分子(1a、表3)を等モル濃度の1cとインキュベートすることによって形成した。温度を1分間95℃にし、次いで、室温まで段階的に下げた。70℃の推定アニーリング温度付近では、温度を2℃ステップで下げ、各ステップは、1分間維持した。
【0200】
電気的記録およびデータ分析に関する追加情報
人工平面脂質二重層を上記のように調製した。特に明記しない場合、信号は、10kHzのBesselフィルターで処理した後、50kHzのサンプリングレートで収集した。脂質二重層は、1~2μlのペンタン中の1,2-ジフィタノイルsn-グリセロ-3-ホスホコリンの10%溶液でTeflonフィルム(Goodfellow、UK)の小さな開口部(約100μm)を前処理することによって形成した。電位は、寒天ブリッジ(2.5MのNaCl緩衝液中の3%w/v低融点アガロース)に沈めたAg/AgCl電極を使用して印加した。印加電位は、装置のtransコンパートメントに接続された作用電極の電位を指す。ClyAナノポア溶液(0.01~0.1ng/mL)を、接地電極に接続されたcisコンパートメントに添加した。単一ポアの挿入後、過剰のタンパク質を数サイクルの灌流によって除去した。電気的記録は0.15~2.5MのNaCl、15mMのTris HCl、pH8.0中で、22℃で実施した。0.15MのNaCl中で、2kHzのローパスBesselフィルターを適用し、10kHzサンプリングレートを使用してデータを記録した。より高い塩濃度で、データを50kHzでサンプリングし、一方、ローパスBesselフィルターを10kHzに設定した。0.3および0.5MでのNaCl電流トレースを、4kHzのBesselデジタルフィルターで取得後フィルタリングした。電流封鎖イベントは、Clampfit software(Molecular devices)の「単一チャネル検索」関数を使用し、0.05msのデータ収集閾値を使用して個々に収集した。IOおよびIB値は、それぞれ開口および封鎖ポア電流の全点ヒストグラムへのGaussianフィッティングから計算した。DNA移行滞留時間τoffを、封鎖ポア電流イベント(toff)のイベントヒストグラムから単一指数標準フィットにより計算した。イベント間時間τonは、封鎖ポア電流イベント間のイベント間時間(ton)の対数ヒストグラムから指数対数確率フィットを使用して計算した。誤差は、少なくとも3回の独立した繰り返しの平均値からの標準偏差を示し、その回数は「n」で示している。
【0201】
cisチャンバーから挿入したポアは、正の印加電位でより高いコンダクタンスを示し、挿入チャネルの配向の評価を補助した。単一チャネルを、電流対印加電圧関係を測定することによって特徴付けした(I-V曲線、電位は21秒で-100から+100mVの10mVステップで印加した)。ポア整流は、+100mVおよび-100mVでの開口ポア電流の比(I0+100mV/I0-100mV)から取得した。ナノポアのゲーティングの傾向は、所与の印加電位での開口ポア電流での連続測定によって評価した。次いでVMAXが、30秒のタイムスパン内でゲーティングイベントが観察されなかった印加電位によって与えられた。イオン電流の自発的可逆ゲーティングが、VMAXより高い印加電圧で観察された。ポアを通じたDNA進入および移行は、VMAXと同等の印加電位下で、cisチャンバーに、1μMの3’端ビオチン化ssDNA1aを添加し、次いで相補的ssDNA1bを添加し(表3)、その後ニュートラアビジン(1.2μM、モノマー)を添加することによって試験した。
【0202】
イオン透過性に関する追加情報
ClyAナノポアについての透過率は、150mMのNaCl trans、1MのNaCl cisの非対称塩条件での逆電位の測定によって計算した。タンパク質ナノポアをcisチャンバーに添加し、単一チャネルを対称条件(cisおよびtrans溶液の両方で150mMのNaCl、15mMのTris HCl、pH7.5)で最初に特徴付けした。電極の均衡を取った後、cisにおける電解質濃度を、5MのNaClストック溶液のアリコートをcisコンパートメントに添加することによって1Mへ増加させた。cis溶液(150mMのNaCl)と同じ緩衝液を使用して、cis側への添加と同じ体積を添加することによって、transチャンバーの体積を調節した。ゼロ電流を取得するために使用する電位である逆電位(Vr、表3)は、電流-電圧(IV)曲線(表6)によって取得した。イオン選択性(PNa+/PCl)は、ゴールドマン・ホジキン・カッツ(GHK)式を使用してVrから計算した。両方のGHK式により、ClyAナノポアについて観察されたVrの正の値は、ポアを通じた陽イオンの優先的移動を示し、ポアが陽性選択的チャネルであることを示す。cisチャンバーを接地し、2.5MのNaClを含有する2.5%アガロースブリッジを備えたAg/AgCl電極を使用して全ての実験を実施した。
【0203】
【数3】
ここでV
rは膜電位であり、Rは普遍気体定数(8.314J.K-1.mol-1)であり、Tはケルビン温度であり、Fはファラデー定数(96485C.mol-1)であり、P
xはNa
+およびCl
-についての相対的膜透過性であり、[a
X]
cisはcisコンパートメントにおけるNa+およびCl
-の活性であり、[a
X]
transは、transコンパートメントにおけるNa+およびCl
-の濃度であり、a
xはNa+およびCl
-の活性である(J.F. Zemaitis, Handbook of aqueous electrolyte thermodynamics: theory and application, 1986、Ludwig Molecular Microbiology 1999、Li-Qun Gu PNAS 2000、Petr G. Merzlyak Biophysics 2005)。
【0204】
詳細は、dsDNAおよびssDNAの捕捉率を記述する、それぞれ式(1)および(2)の導出に関して提示している。
【0205】
dsDNA捕捉
アプローチは、GrosbergおよびRabinによって開発されたアプローチに関する。ClyAナノポア膜は、直径dの円筒孔を有する厚さlの平面誘電体表面として記載する。ClyAポアについての特徴的距離は、l=13nmおよびd=6nmである。ΔVを使用して膜のcis側とtrans側間の電位差を表すと、cis側の電位は
【0206】
【数4】
によって与えられると示すことができ、これは1rに従って/cis側のポアから遠くなるにつれて減衰する(慣例により、cis側の電極での電位はゼロに設定した)。座標の原点(γ=0nm)は、ポアの中央(
図19)である。
【0207】
dsDNAは、拡散定数Dと電気泳動移動度μによって特徴付けられる電気泳動ドリフトとを有する拡散運動を行う荷電点粒子として近似される。結果として生じるdsDNA濃度c(γ,t)についての半径座標でのドリフト拡散式は、
【0208】
【数5】
によって与えられる。ここで電気泳動電流の前がマイナス記号であるのは、DNAが負に荷電しているためである。この慣例で、移動度係数の正のμ>0に維持され、したがって印加電場によるドリフト速度はν=-μEである。アインシュタインの関係式はこの系について保たれないため(つまり、D≠μkBT)、単純にDとμを関連付けることができないことに留意されたい。
【0209】
式(2)の定常解(∂c∂t/=0)は、
【0210】
【数6】
である。ここで、境界条件は、c(R)→c
0極限およびc(R)=0であり、Rはポアの大きさの桁数の微小距離である。距離γ
*は、
【0211】
【数7】
と定義される。これにより、電気泳動電位(1)は、
【0212】
【数8】
のように書き換えることができる。解(3)と前述の関係式から、ラジアル粒子電流密度が取得される:
【0213】
【数9】
さらに速度が、半径γの半球殻(cis側の利用可能な表面を占める)にわたって電流密度を積分することから得られる:
【0214】
【数10】
ここで近似γ
*≫Rであり、妥当性を後で検査した。最終結果は、外部電位の非存在下における拡散粒子についてのスモルコフスキー拡散律速反応速度と形式的に似ている。ここでγ
*は、dsDNAがポアによって不可逆的に捕捉される距離と解釈することができる。この捕捉半径は、印加電位が高くなるほど、または電気泳動移動度(4)が増加するほど、長くなる。
【0215】
(4)と(7)とを組み合わせると、
【0216】
【数11】
が得られる。γ
*はDに反比例するので、前の式からDが相殺されることに留意されたい。
【0217】
さらに発展させるために、μを推定した。長さLを有するdsDNA分子の総電荷は、Q=-2αeLaであり、ここでa=0.34nmは2塩基間の距離であり、α<1は、全てのリン酸基がイオン化されているわけではないという事実を反映する数値係数である。DNAを表面積Aの円筒として近似すると、抵抗力は(ηAλD/)νと推定され、ここでη=10-3kg m-1秒-2は水の粘度であり、λDはデバイ長である。定義ν=-μEを使用して、次式が得られる:
【0218】
【数12】
ここでb=2nmは二重らせん直径である。ζ電位の計算に基づいて、この式の別の導出が、GrosbergおよびRabinによって与えられる。ここで式(7)および(9)を組み合わせ、実験に関連する数値(ΔV=+70mV、c
0=1μM)を使用し、α=1、つまり完全イオン化と設定すると、
【0219】
【数13】
が得られる。これは、上述の式(1)である。
【0220】
最後に捕捉半径γ*を計算した。この目的のため拡散係数はストークスの法則を使用して見積もられる。
【0221】
【数14】
ここでR
Hは流体力学的半径である。dsDNAを半径1nmおよび長さ34nm(100bp)の円筒とみなすと、Hansen et al.(J. Chem. Phys. (2004) 121: 9111-9115)による式を使用してR
H≒6nmと推定された。(11)と(4)とを組み合わせると:
【0222】
【数15】
であり、ここでλ
D=0.5nmであり、k
BT≒25meVである。捕捉半径は、デバイ長より2桁大きく、ポア半径より非常に大きく、したがって式(7)で使用される近似は正当化される。
【0223】
ssDNA捕捉
ssDNA捕捉の議論は、障壁律速プロセスについてRowghanian et al.(Phys. Rev. E (2013) 87: 042723)により発展されたアプローチによって鼓舞される。今回のケースは、拡散律速の場合よりはるかに複雑であり、理論はほとんど確立されていない。モデルは、ポア入口からの一端の距離である単一の「反応」座標γを使用するドリフト拡散式に基づく。ポアから十分に遠いため、ssDNAは、式(1)によって記載される誘引的電気泳動力のみを受ける。距離≦R
g(ここでR
gは回転平衡半径である)のポアの周辺では、エントロピー起源の追加的な反発力が存在する:ssDNAコイルは、端部がポア入口に近づくように強制されるとき、配置エントロピーを減少させる。鎖が十分に長い場合、エントロピー反発が静電引力を上回り、障壁を生じる(
図19)。
【0224】
エントロピー電位をU(γ)で示すと、以下のラジアル電流密度:
【0225】
【数16】
が示され、ここでμは電気泳動移動度であり、一方、μ
~は、概念的非電気力に関連する移動度であり、この場合、エントロピー反発である。μはアインシュタインの関係式を満たしていないが(D≠μk
BT)、概念的移動度μ
~はこの関係式を充足する(μ
~=D/k
BT)。式(13)における粒子電流は、
【0226】
【0227】
【0228】
したがって問題は電位Fbにおける粒子の拡散運動にある。アインシュタインの関係式に従わないため、この電位は、電気泳動移動度μおよびμ~からη-1の溶媒粘度ηとしての動力学的パラメータも含んでいる。電位は、距離Rgに最小限近接し、障壁高さを画定するポア入口に最大限近接する:ΔFb≡Fb
max-Fb
min。クラマース(Kramers)理論によると、捕捉率konは指数的に障壁高さに依存する:
【0229】
【0230】
障壁は、印加電圧Δを増加させることによって低下させることができ、したがってポアへの静電引力を高めることができる。式(15)は、ssDNAの電気泳動移動度μを増加させることによって、同様の効果を得ることができることを示唆する。μを修飾するための1つの明白な方法は、デバイ長を修飾するとき溶液のイオン強度の変化を通じたものである。式(9)に示すように、電気泳動移動度は、λDに比例する。塩濃度はssDNAの持続長に対しても効果を有し、したがって障壁U(γ)に対するエントロピーの寄与に対しても効果を有するが、この効果は弱いと予測されることに留意されたい。障壁高さに対する塩濃度の変化の主な効果は、λDの直線項を含むと予測される:
ΔFb=a-bλD (17)
ここでa、b>0であり、(15)と一緒になって、実験で観察されたλDに対するkonの指数的成長を説明する。
【0231】
表2.trans側からのDNA移行を改変するポア。各データ点は少なくとも3回の実験の平均であり、誤差は標準偏差である。実験は、0.15MのNaCl、15mMのTris HCl、pH7.5溶液中で実施した。ナノポアの活性を、0.01~0.1ngのオリゴマータンパク質をtransチャンバーに添加することによって試験した。負の活性は、チャネル挿入が観察されなかったことを示す。VGは、ゲーティングイベントが30秒以内に観察されなかった最大印加電圧を表す。DNA捕捉は、ニュートラアビジンと複合体化したビオチン化dsDNAの添加により、一過性の電流封鎖のみが観察されたことを示す。DNA移行は、dsDNAロタキサンを形成することができたことを示す。
【0232】
【0233】
表3:この実験で使用したDNA分子。1は、1aを20%過剰の1bとインキュベートすることによって形成し、方法に記載されるアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。1*は、1aを20%過剰の1bとインキュベートすることによって形成し、さらなる精製は行わなかった。2つのDNA鎖の相補的配列を斜体で示す。接尾辞bioはビオチン部分を示している。
【0234】
【0235】
表4:選択されたClyAナノポアのイオン選択性。ClyAバリアントナノポアについての透過率(PNa+/PCl-)および逆電位(Vr)は、平均±標準偏差として報告される。4つ以上の単一チャネルをバリアントごとに測定した。使用した緩衝液は15mMのTRIS.HCl pH7.5であり、cisチャンバーでは1MのNaCl、transチャンバーでは150mMであった。
【0236】
【0237】
表5:ClyA変異体についてのIV曲線。電気的記録は0.15MのNaCl、15mMのTris HCl、pH7.5中で、22℃で実施した。各データ点は少なくとも3回の実験の平均であり、誤差は標準偏差である。
【0238】
【0239】
【0240】
【0241】
【0242】
表6:非対称塩濃度下でのClyAバリアントのIV曲線。4つ以上の単一チャネルをバリアントごとに測定した。各データは、平均±標準偏差として報告する。使用した緩衝液は15mMのTRIS.HCl pH7.5であり、同時にcisチャンバーは1MのNaClを含有し、transチャンバーは150mMを含有した。電気的記録は0.15MのNaCl、15mMのTris HCl、pH7.5中で、22℃で実施した。データは、2kHzローパスBesselフィルターを適用し、100μs(10kHz)サンプリングレートを使用して記録した。
【0243】
【0244】
【0245】
表7:ClyA-RRナノポアを通じたssDNA(1a)およびdsDNA(1)の移行。3つ以上の単一チャネルを、条件ごとに測定した。データは、平均±標準偏差として報告する。電気的記録は15mMのTris-HCl、pH7.5中で、22℃で実施した。データは、10kHzローパスBesselフィルターを適用し、20μs(50kHz)サンプリングレートを使用して記録した。
【0246】
【0247】
配列表
【0248】
【0249】
他の実施形態
本明細書に開示された特色の全ては、任意の組合せで組み合わせることができる。本明細書で開示された各特色は、同じ、同等または類似の目的を果たす代替の特色によって置き換えられてもよい。したがって、特に断らない限り、開示される各特色は、同等または類似の特色の一般的な系列の一例としてのみ開示される。上記の説明から、当業者は、本開示の本質的な特徴を、本開示の精神および範囲から逸脱することなく容易に確認することができ、種々の用途および条件に適合させるために、本開示の種々の変更および修正を行うことができる。したがって、他の実施形態も、特許請求の範囲内である。
【0250】
均等論
いくつかの本発明の実施形態を本明細書に記載および例示してきたが、当業者は、機能を実施するならびに/あるいは結果および/または本明細書に記載の1つもしくは複数の効果を得るために種々の他の手段および/または構造を容易に想定し、そのような変形および/または修正の各々は、本明細書に記載した本発明の実施形態の範囲内であるとみなされる。より一般的に、当業者は、本明細書に記載の全てのパラメータ、寸法、材料、および構成が例示を意図していること、ならびに実際のパラメータ、寸法、材料、および/または構成が、本発明の教示が使用される特定の用途に依存することを、容易に理解する。当業者は、本明細書に記載された特定の本発明の実施形態に対する多くの均等物を認識し、または通例にすぎない実験を使用して確認することができる。したがって、前述の実施形態が単に一例として提示されており、添付の特許請求の範囲およびその均等物の範囲内で、本発明の実施形態が、具体的に説明した以外の方法で実施され請求されうることが理解される。本開示の発明の実施形態は、本明細書に記載の個々の特色、システム、物品、材料、キット、および/または方法に向けられている。さらに、そのような特色、システム、物品、材料、キット、および/または方法の2つ以上の任意の組合せが、そのような特色、システム、物品、材料、キット、および/または方法が互いに矛盾しない場合、本開示の発明の範囲内に含まれる。
【0251】
本明細書で定義され、使用される全ての定義は、辞書の定義、参照により組み込まれる文書における定義および/または定義された用語の通常の意味より優先すると理解されるものとする。
【0252】
本明細書で開示されている全ての参考文献、特許および特許出願は、それぞれが引用されている主題に対する参考として組み込まれ、一部の場合には、文献全体を包含しうる。
【0253】
本明細書および特許請求の範囲で使用されるとき、不定冠詞「a」および「an」は、反対のことが明確に示されない限り、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるものとする。
【0254】
句「および/または」は、本明細書および特許請求の範囲で使用されるとき、そのように結合される要素の「いずれかまたは両方」を意味し、つまり、ある場合には結合的に存在し、他の場合には分離的に存在する要素を意味すると理解されるものとする。「および/または」で列挙される複数の要素は、同じ様式で解釈されるものとし、つまり要素の「1つまたは複数」が同様に結合する。「および/または」の節によって具体的に特定される要素以外の他の要素が、それらの具体的に特定された要素に関連するまたは関連しないかどうかにかかわらず、任意選択的に存在しうる。したがって、非限定的な例として、「Aおよび/またはB」への言及は、「含む」などのオープンエンドの言語と組み合わせて使用されるとき、一実施形態では、Aのみ(任意選択的にB以外の要素も含む)、別の実施形態では、Bのみ(任意選択的にA以外の要素も含む)、さらに別の実施形態では、AおよびBの両方(任意選択的に他の要素を含む)などを指すことができる。
【0255】
本明細書および特許請求の範囲で使用されるとき、「または」は、上記で定義される「および/または」と同じ意味を有すると理解されるものとする。例えば、リスト中の項目を分離するとき、「または」または「および/または」は、包括的であると解釈され、つまり、要素のいくつかまたはリストの少なくとも1つを含むだけでなく、2つ以上も含み、任意選択的に、列挙されていない追加的項目も含むと解釈されるものとする。逆のことを明確に示す用語、例えば「の1つのみ」もしくは「まさに1つの」または特許請求の範囲で使用される「からなる」のみが、要素のいくつかまたはリストのまさに1つの要素を含むことを指す。一般に、本明細書で使用されるとき、用語「または」は、排他性の用語、例えば、「いずれか」「1つの」「1つのみの」または「まさに1つの」が先行するとき、排他的選択肢(つまり「一方または他方であるが両方でない」)を示すものとしてのみ解釈されるものとする。特許請求の範囲で使用されるとき、「から本質的になる」は、特許法の分野で使用される通常の意味を有する。
【0256】
本明細書および特許請求の範囲で使用されるとき、1つまたは複数の要素のリストを参照する句「少なくとも1つ」は、要素のリスト内の任意の1つまたは複数の要素から選択される少なくとも1つの要素を意味するが、要素のリスト内に具体的に列挙されたそれぞれおよび各要素の必ずしも少なくとも1つを含むものではなく、要素のリスト内の要素の任意の組合せを排除するものではないと理解されるものとする。またこの定義は、句「少なくとも1つ」が指す要素のリスト内で具体的に特定された要素以外の要素が、それらの具体的に特定された要素に関連するまたは関連しないかどうかにかかわらず、任意選択的に存在しうることを許可する。したがって、非限定的な例として、「AおよびBの少なくとも1つ」(または同等に「AまたはBの少なくとも1つ」または同等に「Aおよび/またはBの少なくとも1つ」は)は、一実施形態では、少なくとも1つの、任意選択的に1つを超える、Aを含むがBは存在しない(および任意選択的にB以外の要素を含む)ことを指すことができ、別の実施形態では、少なくとも1つの、任意選択的に1つを超える、Bを含むがAは存在しない(および任意選択的にA以外の要素を含む)ことを指すことができ、さらに別の実施形態では、少なくとも1つの、任意選択的に1つを超える、A、および少なくとも1つの、任意選択的に1つを超える、B(および任意選択的に他の要素を含む)などを指すことができる。
【0257】
逆のことを明記しない限り、1つを超えるステップまたは行為を含む、本明細書に特許請求される任意の方法において、方法のステップまたは行為の順序は、方法のステップまたは行為が列挙された順序に必ずしも限定されないことも理解されるものとする。
また、本発明は以下を提供する。
[1]
cis開口部、中間部、およびtrans開口部を含む修飾ClyAナノポアであって、前記cis開口部の内部表面は第1の正に荷電したアミノ酸の置換を含み、前記中間部の内部表面は第2の正に荷電したアミノ酸の置換を含み、前記trans開口部は負に帯電したくびれを含む、修飾ClyAナノポア。
[2]
前記第1の正に荷電したアミノ酸の置換が、前記修飾ClyAナノポアへのデオキシリボ核酸の捕捉を可能にするように前記cis開口部に配置されている、上記[1]に記載の修飾ClyAナノポア。
[3]
前記第2の正に荷電したアミノ酸の置換が、前記修飾ClyAナノポアを通じた前記デオキシリボ核酸の移行を可能にするように前記中間部に配置されている、上記[2]記載の修飾ClyAナノポア。
[4]
前記第1および第2の正に荷電したアミノ酸の置換がそれぞれアルギニンを含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載の修飾ClyAナノポア。
[5]
前記第1の正に荷電したアミノ酸の置換が、ClyA-ASのアミノ酸配列のS110R変異に対応する、上記[1]~[4]のいずれかに記載の修飾ClyAナノポア。
[6]
前記第2の正に荷電したアミノ酸の置換が、ClyA-ASのアミノ酸配列のD64R変異に対応する、上記[1]~[5]のいずれかに記載の修飾ClyAナノポア。
[7]
12量体ポアである、上記[1]~[6]のいずれかに記載の修飾ClyAナノポア。
[8]
上記[1]~[7]のいずれかに記載の修飾ClyAナノポアを含む組成物。
[9]
人工膜をさらに含み、前記修飾ClyAナノポアが前記人工膜に存在する、上記[8]に記載の組成物。
[10]
低イオン強度溶液をさらに含む、上記[8]または[9]に記載の組成物。
[11]
前記低イオン強度溶液が、約50mMから約1Mのイオン強度を有する塩溶液である、上記[10]に記載の組成物。
[12]
前記イオン強度が約150mMである、上記[11]に記載の組成物。
[13]
前記塩溶液が塩化ナトリウム(NaCl)を含む、上記[11]または[12]に記載の組成物。
[14]
ClyAナノポアを通じてDNAを移行する方法であって、
a.低イオン強度溶液に、上記[1]~[13]のいずれかに記載の修飾ClyAナノポアと人工膜とを供給するステップであり、ここで前記修飾ClyAナノポアは、前記修飾ClyAナノポアのcis開口部が前記低イオン強度溶液のcis側に存在し、前記修飾ClyAナノポアのtrans開口部が前記低イオン強度溶液のtrans側に存在するように、前記人工膜に存在する、ステップと、
b.前記低イオン強度溶液の前記cis側にDNAを供給するステップと、
c.前記修飾ClyAナノポアにわたり電位を印加して、前記DNAを、前記修飾ClyAナノポアを通じて前記cis側から前記trans側へ移行させるステップと
を含む、方法。
[15]
前記低イオン強度溶液が、約150mMから約300mMのイオン強度を有する塩溶液である、上記[14に記載の方法。
[16]
前記イオン強度が約150mMである、上記[15]に記載の方法。
[17]
前記塩溶液が塩化ナトリウム(NaCl)を含む、上記[15]または[16]に記載の方法。
[18]
前記DNAが一本鎖DNAである、上記[14]~[17]のいずれかに記載の方法。
[19]
前記DNAが二本鎖DNAである、上記[14]~[17]のいずれかに記載の方法。
[20]
DNAシーケンシングのために使用される、上記[14]~[19]のいずれかに記載の方法。
[21]
配列番号1(野生型ClyAのアミノ酸配列に対応)または配列番号2(ClyA-ASのアミノ酸配列に対応)に示すアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドであって、前記アミノ酸配列は配列番号1または配列番号2の106~78の範囲内の位置に第1の正に荷電したアミノ酸の置換を含み、配列番号1または配列番号2の41~74の範囲内の位置に第2の正に荷電したアミノ酸の置換を含む、修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチド。
[22]
配列番号1または配列番号2の1~32位のアミノ酸が正味の負電荷をもたらす、上記[21]に記載の修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチド。
[23]
前記第1の正に荷電したアミノ酸の置換が、配列番号1または配列番号2の110位に配置されている、上記[21]または[22]に記載の修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチド。
[24]
前記第2の正に荷電したアミノ酸の置換が、配列番号1または配列番号2の64位に配置されている、上記[21]~[23]のいずれかに記載の修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチド。
[25]
前記第1および第2の正に荷電したアミノ酸の置換がそれぞれ独立してアルギニン、ヒスチジンまたはリジンを含む、上記[21]~[24]のいずれかに記載の修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチド。
[26]
上記[21]~[25]のいずれかに記載の修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド。
[27]
複数の、上記[21]~[25]のいずれかに記載の修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドを含むホモ多量体修飾ClyAナノポア。
[28]
12~14個の前記修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドを含む、上記[27]に記載のホモ多量体修飾ClyAナノポア。
[29]
前記修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドの第1の正に荷電したアミノ酸の置換が、前記ホモ多量体修飾ClyAナノポアの第1の開口部に曝露された溶液内の負に荷電したポリマーの捕捉を可能にするように、前記第1の開口部に配置されている、上記[27]または[28]に記載のホモ多量体修飾ClyAナノポア。
[30]
前記修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドの第2の正に荷電したアミノ酸の置換が、前記ナノポアを通じた前記負に荷電したポリマーの移行を可能にするように、前記ホモ多量体修飾ClyAナノポアの中間部に配置されている、上記[29]に記載のホモ多量体修飾ClyAナノポア。
[31]
少なくとも1つの、上記[21]~[25]のいずれかに記載の修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドを含むヘテロ多量体修飾ClyAナノポア。
[32]
前記少なくとも1つの修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドを含む、12~14個のClyAナノポアサブユニットポリペプチドを含む、上記[31]に記載のヘテロ多量体修飾ClyAナノポア。
[33]
前記修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドの第1の正に荷電したアミノ酸の置換が、前記ヘテロ多量体修飾ClyAナノポアの第1の開口部に曝露された溶液内の負に荷電したポリマーの捕捉を可能にするように、前記第1の開口部に配置されている、上記[31]または[32]に記載のヘテロ多量体修飾ClyAナノポア。
[34]
前記修飾ClyAナノポアサブユニットポリペプチドの第2の正に荷電したアミノ酸の置換が、前記ナノポアを通じた前記負に荷電したポリマーの移行を可能にするように、前記ヘテロ多量体修飾ClyAナノポアの中間部に配置されている、上記[33]に記載のヘテロ多量体修飾ClyAナノポア。
[35]
第1の開口部と、中間部と、第2の開口部と、前記第1の開口部から前記中間部を通じて前記第2の開口部に延びる内腔とを含む修飾ClyAナノポアであって、前記第1の開口部の内腔表面は第1の正に荷電したアミノ酸の置換を含み、前記中間部の内腔表面は第2の正に荷電したアミノ酸の置換を含み、前記第2の開口部の内腔表面は負に帯電したくびれを画定する、修飾ClyAナノポア。
[36]
前記第1の正に荷電したアミノ酸の置換から前記第2の正に荷電したアミノ酸の置換までの前記内腔内の距離が0.5nmから10nmの範囲である、上記[35]に記載の修飾ClyAナノポア。
[37]
配列番号1または配列番号2に示すアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有するサブユニットポリペプチドを含む、上記[35]または[36]に記載の修飾ClyAナノポア。
[38]
配列番号1または配列番号2に示すアミノ酸配列と比較して、前記第1および第2の正に荷電したアミノ酸の置換を含む最大10個の置換を有するサブユニットポリペプチドを含む、上記[35]または[36]に記載の修飾ClyAナノポア。
[39]
前記第1の正に荷電したアミノ酸の置換が、配列番号1または配列番号2のアミノ酸110、106、114、121、122、129、85、78、268、267、265および258からなる群から選択されるアミノ酸の置換である、上記[35]~[38]のいずれかに記載の修飾ClyAナノポア。
[40]
前記第2の正に荷電したアミノ酸の置換が、配列番号1または配列番号2のアミノ酸74、71、64、53、161、158、46、42、41からなる群から選択されるアミノ酸の置換である、上記[35]~[39]のいずれかに記載の修飾ClyAナノポア。
[41]
第1の正に荷電したアミノ酸の置換が、前記第1の開口部に曝露された溶液内の負に荷電したポリマーの捕捉を可能にするように、前記第1の開口部に配置されている、上記[35]~[40]のいずれかに記載の修飾ClyAナノポア。
[42]
前記第2の正に荷電したアミノ酸の置換が、ポアの前記内腔を通じた前記負に荷電したポリマーの移行を可能にするように、前記中間部に配置されている、上記[41]に記載の修飾ClyAナノポア。
[43]
前記負に荷電したポリマーが核酸である、上記[41]または[42]に記載の修飾ClyAナノポア。
[44]
前記核酸がデオキシリボ核酸である、上記[43]に記載の修飾ClyAナノポア。
[45]
前記デオキシリボ核酸が二本鎖である、上記[44]に記載の修飾ClyAナノポア。
[46]
前記デオキシリボ核酸が一本鎖である、上記[44]に記載の修飾ClyAナノポア。
[47]
12量体ポアである、上記[35]~[46]のいずれかに記載の修飾ClyAナノポア。
[48]
13マーのポアである、上記[35]~[46]のいずれかに記載の修飾ClyAナノポア。
[49]
上記[27]~[48]のいずれかに記載の少なくとも1つの修飾ClyAナノポアを含む組成物。
[50]
膜をさらに含み、前記修飾ClyAナノポアが前記膜に存在する、上記[49]に記載の組成物。
[51]
ポリヌクレオチド結合タンパク質をさらに含む、上記[49]または[50]に記載の組成物。
[52]
前記ポリヌクレオチド結合タンパク質が、前記修飾ClyAナノポアに結合している、上記[51]に記載の組成物。
[53]
低イオン強度溶液をさらに含む、上記[49]~[52]のいずれかに記載の組成物。
[54]
前記低イオン強度溶液が、約150mMから約300mMのイオン強度を有する塩溶液である、上記[52]に記載の組成物。
[55]
前記塩溶液が塩化ナトリウム(NaCl)を含む、上記[52]または[53]に記載の組成物。
[56]
標的ポリヌクレオチドを特徴付ける方法であって、
(a)約150mMから約300mMの低イオン強度溶液に、上記[27]~[48]のいずれかに記載の修飾ClyAナノポアと膜とを供給するステップであり、ここで前記修飾ClyAナノポアは前記膜に存在する、ステップと、
(b)ステップ(a)の前記低イオン強度溶液に前記標的ポリヌクレオチドを添加するステップと、
(c)前記ナノポアにわたり電位を印加する間に、前記修飾ClyAナノポアを流れるイオン流を測定するステップであり、ここでイオン流の測定は、前記標的ポリヌクレオチドの1つまたは複数の特徴の指標となる、ステップと
を含む、方法。
[57]
前記1つまたは複数の特徴が、(i)前記標的ポリヌクレオチドの長さ、(ii)前記標的ポリヌクレオチドの同一性、(iii)前記標的ポリヌクレオチドの配列、(iv)前記標的ポリヌクレオチドの二次構造、ならびに(v)前記標的ポリヌクレオチドが修飾されているか否か、およびそれによる前記標的ポリヌクレオチドの特徴付けから選択される、上記[56]に記載の方法。
[58]
ポリヌクレオチド結合タンパク質が前記標的ポリヌクレオチドに結合し、前記修飾ClyAナノポアを通じた前記標的ポリヌクレオチドの移動を制御するように、前記ポリヌクレオチド結合タンパク質をステップ(b)の前記低イオン強度溶液に添加するステップをさらに含む、上記[56]または[57]に記載の方法。
[59]
前記標的ポリヌクレオチドが一本鎖DNAである、上記[56]~[58]のいずれかに記載の方法。
[60]
前記標的ポリヌクレオチドが二本鎖DNAである、上記[56]~[58]のいずれかに記載の方法。
[61]
前記イオン流の測定が、電流測定、インピーダンス測定、トンネル測定または電界効果トランジスタ(FET)測定を含む、上記[56]~[60]のいずれかに記載の方法。
[62]
前記低イオン強度溶液が塩化ナトリウムを含む、上記[56]~[61]のいずれかに記載の方法。
【符号の説明】
【0258】
102 第1の開口部
104 中間部
106 第2の開口部
108 内腔
110 膜
112 負に帯電したくびれ
【配列表】