(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】耐熱容器
(51)【国際特許分類】
B65D 51/16 20060101AFI20230306BHJP
F23G 7/00 20060101ALI20230306BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20230306BHJP
C22B 7/00 20060101ALN20230306BHJP
【FI】
B65D51/16 300
F23G7/00 D
H01M10/54
C22B7/00 C
(21)【出願番号】P 2019100934
(22)【出願日】2019-05-30
【審査請求日】2021-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596133201
【氏名又は名称】松田産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106563
【氏名又は名称】中井 潤
(72)【発明者】
【氏名】中村 充志
(72)【発明者】
【氏名】本間 健一
(72)【発明者】
【氏名】石田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】浦田 泰裕
(72)【発明者】
【氏名】大河内 章宏
【審査官】宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-255861(JP,A)
【文献】特開2011-093575(JP,A)
【文献】実開昭55-153591(JP,U)
【文献】特開2006-289296(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 51/16
F23G 7/00
H01M 10/54
C22B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部開口を有し、焙焼対象物を格納する容器本体と、
該容器本体の上部開口を塞ぐように該容器本体に取り外し可能に固定されると共に、前記容器本体の内部と連通する排気口を有する平板状の蓋とを備え
、
前記排気口は、前記蓋の上面の縁部に穿設され、前記蓋は、前記容器本体の内部に面する底面の中央部に開口と、該開口と前記排気口との間に排気通路とを備えることを特徴とする耐熱容器。
【請求項2】
前記容器本体の側面に一対のフォーク差込口を備えることを特徴とする請求項
1に記載の耐熱容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃リチウムイオン電池等を焙焼処理する際に用いられる耐熱容器に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池(以下、適宜「LIB」と略称する。)は、アルミ箔にリチウム、コバルト、ニッケル等を塗布した正極材、銅箔に黒鉛等を塗布した負極材、電解液、セパレーター等から構成されている。LIBには、リチウム、コバルト、ニッケル、銅等の有価物が含まれているため、使用後廃棄されたLIBからこれらを回収することは、資源の乏しいわが国にとって重要である。しかし、LIBの電解液は分解して有害なフッ化水素を発生させる六フッ化リン酸リチウムを含むため、安全な処理方法が求められる。
【0003】
廃LIBからの有価物の回収方法として、焙焼、破砕又は粉砕、篩い分け、選別等による分離回収が行われている。例えば、特許文献1には、廃LIBを耐熱容器に投入し、回転円筒炉を用いて還元雰囲気の下、300℃~650℃で焙焼処理を行う方法が開示される。
【0004】
図2に示すように、上記特許文献1に記載の発明等で用いられる耐熱容器11は、ステンレス鋼(SUS304)等からなり、少なくとも650℃の耐熱温度を有する容器本体12と釣鐘状の蓋13とで構成される。
【0005】
容器本体12は、受け皿状の内筒12aと、内筒12aよりも大径で内筒12aを囲繞するように配置された外筒12bと、内筒12a及び外筒12bの底面に配置された複数の車輪12cと、外筒12bの周面12dに固定された取っ手12eと、工具等を係合させて耐熱容器11を移動させるためのハンガー12fとで構成される。
【0006】
一方、蓋13は、下方に開口する円筒状に形成された本体13aと、本体13aの周面に開口して斜め上方に突出する排気管13bと、本体13aの天井面13cに設けられた取っ手13dとで構成される。
【0007】
上記容器本体12に廃LIB50を格納し、蓋13の本体13aの下端13eを容器本体12の内筒12aと外筒12bの間の溝部13fに嵌め込み、溝部13fに砂を充填してサンドシールを構成し、蓋13を容器本体12に対して一定の距離L分だけ浮き上がり可能な状態で取り付ける。サンドシール構造によって容器本体12に対して蓋13を浮き上がり可能としたことで、焙焼処理時に耐熱容器11の内部の圧力が高まったとしても、蓋13が浮き上がることで高まった圧力を逃がし、耐熱容器11の損傷等を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記従来の耐熱容器11は、蓋13の側部に排気管13bが存在するため、排気管13bの閉塞を考慮すると、廃LIBをこれよりも高く充填することができない。今後、車載用LIBの廃棄量が増えることが予想されているため、上記耐熱容器11の1基あたり約100Lの容量では、廃棄量の増大に対応できないおそれがある。
【0010】
また、上記耐熱容器11は、充填する廃LIBの爆発によって蓋13が外れないように蓋13を釣鐘式に形成して大きな重量を確保しているため、人力では外すことができず、取り扱いが容易ではないという問題もあった。
【0011】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、廃リチウムイオン電池等を焙焼処理するにあたり、安全性を確保しながら、容量が大きく、取り扱いが容易な耐熱容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の耐熱容器は、上部開口を有し、焙焼対象物を格納する容器本体と、該容器本体の上部開口を塞ぐように該容器本体に取り外し可能に固定されると共に、前記容器本体の内部と連通する排気口を有する平板状の蓋とを備え、前記排気口は、前記蓋の上面の縁部に穿設され、前記蓋は、前記容器本体の内部に面する底面の中央部に開口と、該開口と前記排気口との間に排気通路とを備えることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、平板状の蓋に排気口を設けることで、廃LIB等の焙焼対象物を充填する上で排気口の高さを考慮する必要がなくなるため、耐熱容器全体の体積を増加させることなく容器の容量を増加させることができる。また、平板状の蓋を容器の上部に取り外し可能に固定することで、焙焼処理中の安全性を確保しながら、処理後に人力で蓋を外すことができ、取り扱いが容易になる。さらに、前記排気口を前記蓋の上面の縁部に穿設し、前記蓋に、前記容器本体の内部に面する底面の中央部に開口と、該開口と前記排気口との間に排気通路とを設けることで、排気口から排出されるガスにより廃LIB等を焙焼処理する熱処理炉の渦燃焼を妨げることがなく、熱処理炉の安定運転を維持することができる。
【0015】
また、前記容器本体の側面に一対のフォーク差込口を備えることで、回転式フォークリフトを用いて耐熱容器を回転させ、焙焼処理後の廃LIB等を容易に取り出すことができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、廃リチウムイオン電池等を焙焼処理するにあたり、安全性を確保しながら、容量が大きく、取り扱いが容易な耐熱容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る耐熱容器の一実施の形態を示す概略図であって、(a)は一部破断正面図、(b)は上面図、(c)は一部側面図である。
【
図2】従来の耐熱容器の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の一実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。尚、以下の説明では、廃リチウムイオン電池を焙焼処理する場合を例示する。廃リチウムイオン電池とは、ハイブリッド自動車や電気自動車等の電動車両用の電源として用いられる車載用のもの、自家用電源等として用いられる定置用、電動自転車や電動工具、携帯電話等の電源として用いられる民生用のものが挙げられる。また、廃リチウム電池以外に、本発明に係る耐熱容器を用いて電子機器や自動車等に搭載されていた電子基板の廃棄物である廃電子基板、ニッケル水素電池等の二次電池等を焙焼処理することもできる。
【0019】
図1は、本発明に係る耐熱容器を示し、この耐熱容器1は、容器本体2と平板状の蓋3とで構成され、熱伝導率の高い一般構造圧延鋼(SS)、ステンレス鋼(SUS304)、銅合金等の金属合金が材料として好ましいが、ステンレス鋼(SUS304)等の少なくとも650℃の温度に耐えることができる材料からなることがより好ましい。
【0020】
容器本体2は、廃棄された複数個のリチウムイオン電池セルが配列された電池モジュールが箱型筐体内に複数収納されてなる電池パック又は前記電池モジュール(以下「廃LIB」という。)50を収容するために設けられ、上部開口と底面を有する円筒状に形成される。容器本体2の側面には、蓋3を固定するための一対の円柱状のピン2aと、容器本体2を移動させるため、円周面の4カ所に等間隔に設けられた吊りピース2cと、板状部材で側面に開口を有する角筒状に形成された一対のフォーク差込口2dと、工具等を係合させて耐熱容器1を移動させるため、板状部材で形成されたハンガー2eとが設けられる。また、容器本体2の底面には、複数の車輪2fが配置される。
【0021】
蓋3は、廃LIB50を焙焼処理する間は容器本体2に固定されて容器本体2の上部開口を塞ぎ、処理後に容器本体2から外して廃LIB50を容器本体2から取り出すために設けられる。円板状の本体3aの上面には、箱状の排気部3bが設けられ、排気部3bの上面の端部(上面視で本体3aの縁部)に排気口3cが穿設される。本体3aの中央部には開口3dが穿設され、開口3dは排気部3bの内部の排気通路3eを介して排気口3cと連通する。
【0022】
蓋3に穿設される排気口3cの大きさや数は、廃LIB50の電解液の量に応じて決定し、電解液が多い廃LIB50の場合には揮発した電解液が容器内部に留まり易いため、内部の圧力が高くなり過ぎないようにしたり、排気口3cを大きくしたり、排気口を2箇所にすることなどが好ましい。
【0023】
また、本体3aから垂下する円環状部3fには、
図1(c)に示すように、板状部材で逆L字状に形成された係合部3gが固定され、容器本体2のピン2aと係合させることで蓋3を容器本体2の上部に固定する。係合部3gとピン2aは、
図1(a)に示すように、左方にも設けられる。蓋3の上面には、上面視で本体3aを中心にして回転対称の位置に3つの吊りピース3mが設けられる。また、本体3aは、リブ3h、3j、3kで補強される。
【0024】
耐熱容器1の高さは、耐熱容器1がバーナーに直接炙られることがない高さが好ましく、その容積は200L~300Lであることが好ましい。容積が300Lを超えると、廃LIB50の電解液から発生する熱量が過剰になるため、冷却空気を投入しても温度を650℃以下に制御することが困難になる。
【0025】
上記構成を有する耐熱容器1の容器本体2の内部に、廃LIB50を格納し、蓋3の一対の係合部3gを容器本体2の一対のピン2aと係合させて蓋3を容器本体2の上部に固定し、内部温度を650℃程度まで昇温した熱処理炉で焙焼処理する。熱処理炉への耐熱容器1の導入はプッシャー等を用いて行う。熱処理炉は、特許文献1に記載の回転円筒炉を用いてもよく、その他に竪型炉、多段焙焼炉等を用いることもでき、650℃で焙焼することができれば、炉の種類を問わない。
【0026】
耐熱容器1は熱処理炉内で加熱され、耐熱容器1内は還元雰囲気となり、耐熱容器1に格納された廃LIB50の樹脂製の筐体等のプラスチック類は、乾留により炭化混合物としてリチウム、コバルト、ニッケル、マンガン等の有用金属が含まれた材料から分離される。また、電池内の電解液は揮発し、プラスチック等の可燃性物質が熱分解することによって発生したガスと共に、矢印で示すように、蓋3の開口3d、排気通路3eを介して排気口3cから熱処理炉内に排出される。この際、排気口3cを蓋3の排気部3bの上面の端部(本体3aの縁部)に穿設したことで、廃LIB50を焙焼処理する熱処理炉の渦燃焼を妨げない効果を奏する。
【0027】
熱処理炉での焙焼処理が終わると、容器搬送装置のプルアウト部の先端に設けられた爪等を、容器本体2のハンガー2eに係止させてプルアウト部を後退させ、耐熱容器1を熱処理炉3から引き出す。
【0028】
その後、焙焼処理済みの耐熱容器1をコンベア等で冷却室に移送し、蓋3の一対の係合部3gと容器本体2の一対のピン2aとの係合状態を解き、吊りピース3m等を利用して人力で蓋3を外した後、容器本体2のフォーク差込口2dに回転式フォークを差し込んで反転させることで、焙焼処理後の廃LIB50を容易に取り出すことができる。
【0029】
焙焼処理済みの耐熱容器1から排出された廃LIB50を破砕、分級して炭化混合物を取り除いた後、リチウム、コバルト、ニッケル、マンガン等の有用金属をさらに分離する。
【0030】
上記構成を有する耐熱容器1によれば、全体的に略々平板状の蓋3に排気口3cを設けることで、廃LIB50を充填する上で排気口3cの高さを考慮する必要がなく、耐熱容器1全体の体積を増加させることなく容器本体2の容量を2~3倍程度(200L~300L)まで増加させることができる。また、平板状の蓋3を容器本体2の上部に取り外し可能に固定することで、焙焼処理中の安全性を確保しながら、処理後に人力で蓋3を外すことができ、取り扱いが容易になる。さらに、容器本体2及び蓋3に吊りピース2c、3mを設けることで、焙焼物を含む耐熱容器1をチェーンブロック等で吊り上げて搬送することが可能となる。
【0031】
尚、上記実施の形態においては、容器本体2を上部開口を有する円筒状に形成したが、四角筒状等その他の形状とすることができる。また、これに合わせて蓋3の形状も適宜変更することができる。さらに、耐熱容器1の回転や移動のために、フォーク差込口2dやハンガー2eを設けたが、焙焼処理を行う設備によっては、これらを省略することもできる。
【符号の説明】
【0032】
1 耐熱容器
2 容器本体
2a ピン
2c 吊りピース
2d フォーク差込口
2e ハンガー
2f 車輪
3 蓋
3a 本体
3b 排気部
3c 排気口
3d 開口
3e 排気通路
3f 円環状部
3g 係合部
3h、3j、3k リブ
3m 吊りピース