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特許7237752インクジェット印刷装置およびインクジェット印刷方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】インクジェット印刷装置およびインクジェット印刷方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20230306BHJP
【FI】
B41J2/01 129
B41J2/01 125
B41J2/01 401
B41J2/01 451
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019121336
(22)【出願日】2019-06-28
(65)【公開番号】P2021008035
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】福井 民雄
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-54268(JP,A)
【文献】特開2017-64985(JP,A)
【文献】特開2003-285431(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0263145(US,A1)
【文献】特開2012-166538(JP,A)
【文献】国際公開第2017/164164(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0259786(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波硬化型のインクを記録媒体に吐出して画像を記録するインクジェット印刷装置であって、
記録媒体を既定の搬送経路に沿って搬送する搬送機構と、
前記記録媒体にインクを吐出する吐出ヘッドと、
前記吐出ヘッドよりも下流側に配置され、前記記録媒体を通過させるための搬入口および搬出口を有する処理室と、
前記処理室の内側にある前記記録媒体に電磁波を照射する照射部と、
前記処理室の内側に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、
前記吐出ヘッドおよび前記処理室を収容する装置筐体と、
前記処理室の前記搬入口よりも上流側に設けられる搬入側吸引口、前記処理室の前記搬出口よりも下流側に設けられる搬出側吸引口、並びに、前記搬入側吸引口および前記搬出側吸引口から吸引される雰囲気を前記装置筐体の外側へ導く排気管を含むエア排出部と、
前記処理室の前記搬入口に連結されるとともに、前記搬送経路に対向する部分を有する搬入側隔壁と、
を備え
前記搬入側吸引口が前記搬入側隔壁の前記搬送経路側において開口し、
前記処理室内の圧力損失が、前記搬入側隔壁によって囲まれる第1吸引空間内の圧力損失よりも大きい、インクジェット印刷装置。
【請求項2】
電磁波硬化型のインクを記録媒体に吐出して画像を記録するインクジェット印刷装置であって、
記録媒体を既定の搬送経路に沿って搬送する搬送機構と、
前記記録媒体にインクを吐出する吐出ヘッドと、
前記吐出ヘッドよりも下流側に配置され、前記記録媒体を通過させるための搬入口および搬出口を有する処理室と、
前記処理室の内側にある前記記録媒体に電磁波を照射する照射部と、
前記処理室の内側に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、
前記吐出ヘッドおよび前記処理室を収容する装置筐体と、
前記処理室の前記搬入口よりも上流側に設けられる搬入側吸引口、前記処理室の前記搬出口よりも下流側に設けられる搬出側吸引口、並びに、前記搬入側吸引口および前記搬出側吸引口から吸引される雰囲気を前記装置筐体の外側へ導く排気管を含むエア排出部と、
前記処理室の前記搬出口に連結されるとともに、前記搬送経路に対向する部分を有する搬出側隔壁と、
を備え、
前記搬出側吸引口が前記搬出側隔壁の前記搬送経路側において開口し、
前記処理室内の圧力損失が、前記搬出側隔壁によって囲まれる空間内の圧力損失よりも大きい、インクジェット印刷装置。
【請求項3】
電磁波硬化型のインクを記録媒体に吐出して画像を記録するインクジェット印刷装置であって、
記録媒体を既定の搬送経路に沿って搬送する搬送機構と、
前記記録媒体にインクを吐出する吐出ヘッドと、
前記吐出ヘッドよりも下流側に配置され、前記記録媒体を通過させるための搬入口および搬出口を有する処理室と、
前記処理室の内側にある前記記録媒体に電磁波を照射する照射部と、
前記処理室の内側に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、
前記吐出ヘッドおよび前記処理室を収容する装置筐体と、
前記処理室の前記搬入口よりも上流側に設けられる搬入側吸引口、前記処理室の前記搬出口よりも下流側に設けられる搬出側吸引口、並びに、前記搬入側吸引口および前記搬出側吸引口から吸引される雰囲気を前記装置筐体の外側へ導く排気管を含むエア排出部と、
前記記録媒体が巻き付けられる円筒状の外周面を有するローラと、
を備え、
前記不活性ガス供給部は、前記ローラに向けて不活性ガスを吐出し、
前記搬入側吸引口および前記搬出側吸引口のうち少なくとも一方は、前記ローラの外周面と対向する、インクジェット印刷装置。
【請求項4】
請求項のインクジェット印刷装置であって、
前記処理室の前記搬入口に連結されるとともに、前記搬送経路に対向する部分を有する搬入側隔壁、
をさらに備え、
前記搬入側吸引口が前記搬入側隔壁の前記搬送経路側において開口する、インクジェット印刷装置。
【請求項5】
請求項のインクジェット印刷装置であって、
前記処理室内の圧力損失が、前記搬入側隔壁によって囲まれる第1吸引空間内の圧力損失よりも大きい、インクジェット印刷装置。
【請求項6】
請求項から請求項のいずれか1項のインクジェット印刷装置であって、
前記処理室の前記搬出口に連結されるとともに、前記搬送経路に対向する部分を有する搬出側隔壁、
をさらに備え、
前記搬出側吸引口が前記搬出側隔壁の前記搬送経路側において開口する、インクジェット印刷装置。
【請求項7】
請求項のインクジェット印刷装置であって、
前記処理室内の圧力損失が、前記搬出側隔壁によって囲まれる空間内の圧力損失よりも大きい、インクジェット印刷装置。
【請求項8】
請求項3から請求項7のいずれか1項のインクジェット印刷装置であって、
前記ローラが、前記外周面を冷却する冷却機構を有する、インクジェット印刷装置。
【請求項9】
電磁波硬化型のインクを記録媒体に吐出して画像を記録するインクジェット印刷装置であって、
記録媒体を既定の搬送経路に沿って搬送する搬送機構と、
前記記録媒体にインクを吐出する吐出ヘッドと、
前記吐出ヘッドよりも下流側に配置され、前記記録媒体を通過させるための搬入口および搬出口を有する処理室と、
前記処理室の内側にある前記記録媒体に電磁波を照射する照射部と、
前記処理室の内側に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、
前記吐出ヘッドおよび前記処理室を収容する装置筐体と、
前記処理室の前記搬入口よりも上流側に設けられる搬入側吸引口、前記処理室の前記搬出口よりも下流側に設けられる搬出側吸引口、並びに、前記搬入側吸引口および前記搬出側吸引口から吸引される雰囲気を前記装置筐体の外側へ導く排気管を含むエア排出部と、
を備え、
前記エア排出部による前記雰囲気の単位時間あたりの排出量が、前記不活性ガス供給部による前記不活性ガスの単位時間あたりの供給量よりも大きい、インクジェット印刷装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1項のインクジェット印刷装置であって、
前記処理室内の酸素濃度を測定する酸素濃度計、
をさらに備える、インクジェット印刷装置。
【請求項11】
請求項10のインクジェット印刷装置であって、
前記酸素濃度計からの出力に応じて、前記エア排出部による前記雰囲気の排出量を制御する制御部、
をさらに備え
前記制御部は、前記酸素濃度計の出力が基準値を超えた場合に前記排出量を低下させる制御、または、前記酸素濃度計の出力が基準値を下回った場合に前記排出量を上昇させる制御を行う、インクジェット印刷装置。
【請求項12】
請求項1のインクジェット印刷装置であって、
前記搬入口の前記搬送経路からの高さ寸法は、前記搬入側隔壁の前記搬送経路からの高さ寸法よりも小さい、インクジェット印刷装置。
【請求項13】
請求項2のインクジェット印刷装置であって、
前記搬出口の前記搬送経路からの高さ寸法は、前記搬出側隔壁の前記搬送経路からの高さ寸法よりも小さい、インクジェット印刷装置。
【請求項14】
電磁波硬化型のインクを記録媒体に吐出して画像を記録するインクジェット印刷方法であって、
(a) 記録媒体を既定の搬送経路に沿って搬送する搬送工程と、
(b) 吐出ヘッドから前記記録媒体にインクを吐出するインク吐出工程と、
(c) 前記吐出ヘッドよりも下流側に配置された処理室の搬入口を通じて、前記処理室の内側へ前記記録媒体を搬入する搬入工程と、
(d) 前記処理室の内側において、前記記録媒体に電磁波を照射する照射工程と、
(e) 前記処理室の内側に、不活性ガスを供給する不活性ガス供給工程と、
(f) 前記処理室の搬出口を通じて、前記処理室の外側へ前記記録媒体を搬出する搬出工程と、
(g) 前記処理室の前記搬入口よりも上流側に設けられる搬入側吸引口、および、前記処理室の前記搬出口よりも下流側に設けられる搬出側吸引口それぞれから雰囲気を吸引して、前記吐出ヘッドおよび前記処理室が収容される装置筐体の外側に排出するエア排出工程と、
を含み、
前記エア排出工程による前記雰囲気の単位時間あたりの排出量が、前記不活性ガス供給工程による前記不活性ガスの単位時間あたりの供給量よりも大きい、インクジェット印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インクジェット方式で記録媒体の記録面に印刷する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、帯状の記録媒体を搬送しつつ、複数のヘッドからインクを吐出することにより、記録媒体の表面に画像を記録するインクジェット印刷装置が知られている。この種のインクジェット印刷装置では、紫外線や電子線等の活性エネルギー線の照射を受けて硬化するインクが用いられる場合がある。この場合、記録媒体の記録面にインクが吐出された後、記録媒体に付着したインクに活性エネルギーが照射される。これにより、インクが硬化して、記録媒体に画像が印刷される。活性エネルギー線を照射してインクを硬化させる場合、インク近傍の酸素の影響により、インクの硬化が阻害されることが知られている。インクを効率よく硬化させるためには、記録媒体表面の空気層を不活性ガス等によって置換して、インク近傍の酸素濃度を低減することが望ましい。
【0003】
このような記録媒体表面の酸素濃度を低減する技術については、例えば、特許文献1に記載されている。当該文献に記載の活性エネルギー照射装置は、活性エネルギー線硬化型の材料が付与された媒体の表面近傍の気体境界層を剥離する気体吸引口を有する境界層剥離部と、気体境界層を剥離した後の媒体表面に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、媒体の表面に不活性ガスの層流を確保する層流確保部と、不活性ガスの層流を介して媒体の材料付与面に向けて活性エネルギー線を照射するエネルギー線照射部と、を備える。媒体上の気体境界剥離層を剥離した上で不活性ガスを供給することによって、媒体上において局所的に酸素濃度を低減でき、活性エネルギー線硬化型の材料を効率的に硬化できる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-166539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術の場合、インク硬化のために供給される不活性ガスが、活性エネルギー線を照射する照射エリアから、インクの吐出が行なわれる吐出エリアへと移動する可能性があった。吐出エリアにおける不活性ガス濃度が上昇すると、酸素濃度の相対的な低下によって、インクの特性(例えば、濡れ性)が変化する可能性がある。例えば、紫外線硬化型のインクの場合、酸素濃度が低下すると、濡れ性が低下するため、記録媒体に付着したインクが記録媒体上で十分に広がりにくくなるためにピンホールが発生するなど、印刷品質が低下するおそれがあった。
【0006】
本発明の目的は、インクジェット方式の印刷技術において、不活性ガスを供給する場合にも、印刷品質の低下を軽減する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、第1態様は、電磁波硬化型のインクを記録媒体に吐出して画像を記録するインクジェット印刷装置であって、記録媒体を既定の搬送経路に沿って搬送する搬送機構と、前記記録媒体にインクを吐出する吐出ヘッドと、前記吐出ヘッドよりも下流側に配置され、前記記録媒体を通過させるための搬入口および搬出口を有する処理室と、前記処理室の内側にある前記記録媒体に電磁波を照射する照射部と、前記処理室の内側に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、前記吐出ヘッドおよび前記処理室を収容する装置筐体と、前記処理室の前記搬入口よりも上流側に設けられる搬入側吸引口、前記処理室の前記搬出口よりも下流側に設けられる搬出側吸引口、並びに、前記搬入側吸引口および前記搬出側吸引口から吸引される雰囲気を前記装置筐体の外側へ導く排気管を含むエア排出部と、前記処理室の前記搬入口に連結されるとともに、前記搬送経路に対向する部分を有する搬入側隔壁と、を備え、前記搬入側吸引口が前記搬入側隔壁の前記搬送経路側において開口し、前記処理室内の圧力損失が、前記搬入側隔壁によって囲まれる第1吸引空間内の圧力損失よりも大きい
第2態様は、電磁波硬化型のインクを記録媒体に吐出して画像を記録するインクジェット印刷装置であって、記録媒体を既定の搬送経路に沿って搬送する搬送機構と、前記記録媒体にインクを吐出する吐出ヘッドと、前記吐出ヘッドよりも下流側に配置され、前記記録媒体を通過させるための搬入口および搬出口を有する処理室と、前記処理室の内側にある前記記録媒体に電磁波を照射する照射部と、前記処理室の内側に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、前記吐出ヘッドおよび前記処理室を収容する装置筐体と、前記処理室の前記搬入口よりも上流側に設けられる搬入側吸引口、前記処理室の前記搬出口よりも下流側に設けられる搬出側吸引口、並びに、前記搬入側吸引口および前記搬出側吸引口から吸引される雰囲気を前記装置筐体の外側へ導く排気管を含むエア排出部と、前記処理室の前記搬出口に連結されるとともに、前記搬送経路に対向する部分を有する搬出側隔壁と、を備え、前記搬出側吸引口が前記搬出側隔壁の前記搬送経路側において開口し、前記処理室内の圧力損失が、前記搬出側隔壁によって囲まれる空間内の圧力損失よりも大きい。
第3態様は、電磁波硬化型のインクを記録媒体に吐出して画像を記録するインクジェット印刷装置であって、記録媒体を既定の搬送経路に沿って搬送する搬送機構と、前記記録媒体にインクを吐出する吐出ヘッドと、前記吐出ヘッドよりも下流側に配置され、前記記録媒体を通過させるための搬入口および搬出口を有する処理室と、前記処理室の内側にある前記記録媒体に電磁波を照射する照射部と、前記処理室の内側に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、前記吐出ヘッドおよび前記処理室を収容する装置筐体と、前記処理室の前記搬入口よりも上流側に設けられる搬入側吸引口、前記処理室の前記搬出口よりも下流側に設けられる搬出側吸引口、並びに、前記搬入側吸引口および前記搬出側吸引口から吸引される雰囲気を前記装置筐体の外側へ導く排気管を含むエア排出部と、前記記録媒体が巻き付けられる円筒状の外周面を有するローラと、を備え、前記不活性ガス供給部は、前記ローラに向けて不活性ガスを吐出し、前記搬入側吸引口および前記搬出側吸引口のうち少なくとも一方は、前記ローラの外周面と対向する。
【0008】
態様は、第態様のインクジェット印刷装置であって、前記処理室の前記搬入口に連結されるとともに、前記搬送経路に対向する部分を有する搬入側隔壁、をさらに備え、前記搬入側吸引口が前記搬入側隔壁の前記搬送経路側において開口する。
【0009】
態様は、第態様のインクジェット印刷装置であって、前記処理室内の圧力損失が、前記搬入側隔壁によって囲まれる第1吸引空間内の圧力損失よりも大きい。
【0010】
態様は、第態様から第態様のいずれか1つのインクジェット印刷装置であって、前記処理室の前記搬出口に連結されるとともに、前記搬送経路に対向する部分を有する搬出側隔壁、をさらに備え、前記搬出側吸引口が前記搬出側隔壁の前記搬送経路側において開口する。
【0011】
態様は、第態様のインクジェット印刷装置であって、前記処理室内の圧力損失が、前記搬出側隔壁によって囲まれる空間内の圧力損失よりも大きい。
【0014】
第8態様は、第態様から第7態様のいずれか1つのインクジェット印刷装置であって、前記ローラが、前記外周面を冷却する冷却機構を有する。
【0015】
第9態様は、電磁波硬化型のインクを記録媒体に吐出して画像を記録するインクジェット印刷装置であって、記録媒体を既定の搬送経路に沿って搬送する搬送機構と、前記記録媒体にインクを吐出する吐出ヘッドと、前記吐出ヘッドよりも下流側に配置され、前記記録媒体を通過させるための搬入口および搬出口を有する処理室と、前記処理室の内側にある前記記録媒体に電磁波を照射する照射部と、前記処理室の内側に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、前記吐出ヘッドおよび前記処理室を収容する装置筐体と、前記処理室の前記搬入口よりも上流側に設けられる搬入側吸引口、前記処理室の前記搬出口よりも下流側に設けられる搬出側吸引口、並びに、前記搬入側吸引口および前記搬出側吸引口から吸引される雰囲気を前記装置筐体の外側へ導く排気管を含むエア排出部と、を備え、前記エア排出部による前記雰囲気の単位時間あたりの排出量が、前記不活性ガス供給部による前記不活性ガスの単位時間あたりの供給量よりも大きい。
【0016】
第10態様は、第1態様から第9態様のいずれか1つのインクジェット印刷装置であって、前記処理室内の酸素濃度を測定する酸素濃度計をさらに備える。
【0017】
第11態様は、第10態様のインクジェット印刷装置であって、前記酸素濃度計からの出力に応じて、前記エア排出部による前記雰囲気の排出量を制御する制御部をさらに備え、前記制御部は、前記酸素濃度計の出力が基準値を超えた場合に前記排出量を低下させる制御、または、前記酸素濃度計の出力が基準値を下回った場合に前記排出量を上昇させる制御を行う
第12態様は、第1態様のインクジェット印刷装置であって、前記搬入口の前記搬送経路からの高さ寸法は、前記搬入側隔壁の前記搬送経路からの高さ寸法よりも小さい。
第13態様は、第2態様のインクジェット印刷装置であって、前記搬出口の前記搬送経路からの高さ寸法は、前記搬出側隔壁の前記搬送経路からの高さ寸法よりも小さい
【0018】
14態様は、電磁波硬化型のインクを記録媒体に吐出して画像を記録するインクジェット印刷方法であって、(a)記録媒体を既定の搬送経路に沿って搬送する搬送工程と、(b)吐出ヘッドから前記記録媒体にインクを吐出するインク吐出工程と、(c)前記吐出ヘッドよりも下流側に配置された処理室の搬入口を通じて、前記処理室の内側へ前記記録媒体を搬入する搬入工程と、(d)前記処理室の内側において、前記記録媒体に電磁波を照射する照射工程と、(e)前記処理室の内側に、不活性ガスを供給する不活性ガス供給工程と、(f)前記処理室の搬出口を通じて、前記処理室の外側へ前記記録媒体を搬出する搬出工程と、(g)前記処理室の前記搬入口よりも上流側に設けられる搬入側吸引口、および、前記処理室の前記搬出口よりも下流側に設けられる搬出側吸引口それぞれから雰囲気を吸引して、前記吐出ヘッドおよび前記処理室が収容される装置筐体の外側に排出するエア排出工程とを含み、前記エア排出工程による前記雰囲気の単位時間あたりの排出量が、前記不活性ガス供給工程による前記不活性ガスの単位時間あたりの供給量よりも大きい
【発明の効果】
【0019】
第1態様のインクジェット印刷装置によると、処理室の搬入口および搬出口から流出する不活性ガスを、搬入側吸引口および搬出側吸引口を介して、装置筐体の外側へ排出することができる。このため、処理室から流出する不活性ガスが、上流側の吐出ヘッド周辺へ移動することにより、記録媒体に付着したインクの特性が変化することを抑制できる。これにより、印刷品質の低下を軽減することができる。
【0020】
第1態様および態様のインクジェット印刷装置によると、搬入側吸引口から、処理室の搬入口に連結された搬入側隔壁の雰囲気を吸引することができる。このため、搬入口から流出する不活性ガスを装置筐体の外側へ有効に排出することができる。
【0021】
第1態様および態様のインクジェット印刷装置によると、処理室内の圧力損失を第1吸引空間内の圧力損失よりも大きくすることによって、処理室内の不活性ガスが流出しにくくなる。このため、処理室内の不活性ガス濃度を容易に高めることができる。また、搬入側隔壁の空間内へ雰囲気が流れ込みやすくなり、搬入側吸引口において雰囲気を良好に吸引することができる。このため、処理室から流出する不活性ガスを良好に吸引することができる。
【0022】
第2態様および態様のインクジェット印刷装置によると、搬出側吸引口から、処理室の搬出口に連結された搬出側隔壁の内側の雰囲気を吸引することができる。このため、搬出口から流出する不活性ガスを装置筐体外へ有効に排出することができる。
【0023】
第2態様および態様のインクジェット印刷装置によると、処理室内の圧力損失を大きくすることによって、処理室内の不活性ガスが流出しにくくなる。このため、処理室内の不活性ガス濃度を容易に高めることができる。また、搬出側隔壁の空間内へ雰囲気が流れ込みやすくなり、搬出側吸引口において雰囲気を良好に吸引することができる。このため、処理室内から漏れた不活性ガスを良好に吸引することができる。
【0024】
態様のインクジェット印刷装置によると、ローラで記録媒体にテンションをかけることができる。また、ローラに巻き付けられた記録媒体上に不活性ガスが吐出されるため、前記記録媒体上の雰囲気を不活性ガスへ効率良く置換することができる。
【0025】
態様のインクジェット印刷装置によると、処理室の搬出口または搬入口からローラ上へ流出する不活性ガスを良好に吸引することができる。
【0026】
第8態様のインクジェット印刷装置によると、ローラ上の記録媒体を有効に冷却することができる。
【0027】
第9態様のインクジェット印刷装置によると、処理室に供給される不活性ガスの供給量よりも多くの雰囲気を、エア排出部によって排出することができる。これにより、処理室から流出する不活性ガスが吐出ヘッド周辺へ移動することを、有効に抑制することができる。
【0028】
第10態様のインクジェット印刷装置によると、酸素濃度計を設けることによって、処理室内の酸素濃度を検出することができる。
【0029】
第11態様のインクジェット印刷装置によると、処理室の酸素濃度に応じて、エア排出部による雰囲気の排出量が制御される。このため、処理室内の酸素濃度をインクの硬化に適した適正値に保つことができる。
【0030】
14態様のインクジェット印刷方法によると、処理室の搬入口および搬出口から流出する不活性ガスを、搬入側吸引口および搬出側吸引口を介して、装置筐体の外側へ排出することができる。このため、処理室から流出する不活性ガスが、上流側の吐出ヘッド周辺へ移動することにより、記録媒体に付着したインクの特性が変化することを抑制できる。これにより、印刷品質の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】実施形態のインクジェット印刷装置の概略構成を示す図である。
図2】吐出ヘッドおよび支持台の縦断面図である。
図3】インクジェット印刷装置における照射部付近の構成を示す概略側面図である。
図4】インクジェット印刷装置における照射部付近の構成を示す概略正面図である。
図5】制御部と、インクジェット印刷装置内の各部との、電気的接続構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態に記載されている構成要素はあくまでも例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。図面においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数が誇張又は簡略化して図示されている場合がある。
【0033】
<1. 実施形態>
図1は、実施形態のインクジェット印刷装置1の概略構成を示す図である。インクジェット印刷装置1は、帯状である記録媒体9(例えば、印刷用紙)を搬送しつつ、複数の吐出ヘッド21からインクの液滴を吐出することによって、記録媒体9の記録面に画像を記録する装置である。インクジェット印刷装置1に用いられるインクは、電磁波である紫外線の照射を受けて硬化する紫外線硬化インクが採用され得る。なお、当該インクには、硬化を促進させるための硬化開始材などが、成分として含まれ得る。
【0034】
インクジェット印刷装置1は、搬送機構10、画像記録部20、支持ユニット30、処理室40、不活性ガス供給部50、エア排出部60、照射部70、および、制御部80を備える。制御部80以外の各部(画像記録部20および処理室40を含む。)は、箱状の装置筐体90に収容される。
【0035】
搬送機構10は、記録媒体9をその長手方向に沿う移動方向に搬送するための機構である。搬送機構10は、巻き出し部11、複数の搬送ローラ12、チルローラ13および巻き取り部14を有する。複数の搬送ローラ12は、後述する切替ローラ121およびニップローラ122を含む。記録媒体9は、巻き出し部11から繰り出され、複数の搬送ローラ12により構成される搬送経路に沿って搬送される。各搬送ローラ12は、水平軸を中心として回転することによって、記録媒体9を移動方向の下流側へ案内する。また、搬送後の記録媒体9は、巻き取り部14へ回収される。このように、記録媒体9は、既定位置に配された、搬送ローラ12、チルローラ13等に支持されることによって、既定の搬送経路TR1に沿って搬送される。
【0036】
以下の説明では、搬送経路TR1に沿う記録媒体9の移動方向を、単に「移動方向」と称する場合がある。また、この移動方向の下流側を、単に「下流側」と称し、移動方向の上流側を、単に「上流側」と称する場合がある。さらに、移動方向に直交するとともに、記録媒体9の表面に平行な方向を、「幅方向」と称する場合がある。
【0037】
図1に示すように、記録媒体9は、巻き出し部11から繰り出されると、先ずクリーナ15を通過する。クリーナ15は、上下に近接して配置される複数の吸着ロール151を備える。複数の吸着ロール151は、記録媒体9の記録面9aおよび裏面9bと接触しつつ回転する。記録媒体9の記録面9aおよび裏面9bに付着した異物は、吸着ロール151に吸着されて除去される。これにより、印刷前の記録媒体9に付着する異物数を低減できる。したがって、異物によりインクが弾かれたり、浸みだしたりする等の、印刷不良を低減できる。なお、クリーナ15は、例えば吸引機構等の吸着ロール151以外の他の方式を用いるものであってもよい。
【0038】
記録媒体9は、クリーナ15を通過すると、画像記録部20の下方において、複数の吐出ヘッド21の配列方向に沿って、略水平に移動する。このとき、記録媒体9の記録面9aは、上方(吐出ヘッド21側)に向けられている。また、搬送機構10は、画像記録部20より移動方向の下流側に、切替ローラ121、チルローラ13およびニップローラ122を有する。
【0039】
ニップローラ122は、記録媒体9の記録面9aおよび裏面9bに接触して記録媒体9を把持しつつ、一定速度で能動的に回転する。搬送機構10は、ニップローラ122の回転速度に対して巻き出し部11の回転速度を調節する。これにより、記録媒体9に張力が与えられる。その結果、搬送中における記録媒体9の弛みや皺が抑制される。
【0040】
画像記録部20は、搬送機構10により搬送される記録媒体9に対して、紫外線硬化型のインクを吐出する機構である。本実施形態の画像記録部20は、4つの吐出ヘッド21を有する。4つの吐出ヘッド21は、記録媒体9の移動方向に沿って、配列されている。印刷時には、4つの吐出ヘッド21から記録媒体9の記録面9aへ向けて、カラー画像の色成分となるC(Cyan)、M(Magenta)、Y(Yellow)、K(Black)の各色のインクの液滴が、それぞれ吐出される。これにより、記録媒体9の記録面9aにカラー画像が形成される。吐出ヘッド21から記録媒体9にインクを吐出する工程は、インク吐出工程の一例である。
【0041】
支持ユニット30は、記録媒体9の移動方向に沿って配列された複数の支持台31を有する。4つの吐出ヘッド21は、それぞれ、複数の支持台31のうちの1つに取り付けられる。これにより、4つの吐出ヘッド21が支持されるとともに、これらの各部の相互の位置関係が固定される。各支持台31は、その中央に、吐出ヘッド21の下端部が嵌る貫通孔311を有する。このため、支持台31に取り付けられた吐出ヘッド21の下面は、支持台31に遮られることなく、記録媒体9の記録面9aに対向する。
【0042】
図2は、吐出ヘッド21および支持台31の縦断面図である。各吐出ヘッド21の下面には、インクの液滴を吐出するための複数のノズル211が、設けられている。複数のノズル211は、記録媒体9の移動方向と直交する記録媒体9の幅方向に、記録媒体9の幅の略全体に亘って、規則的に配列されている。吐出ヘッド21は、その下端部が支持台31の貫通孔311に嵌められた状態で、支持台31に固定される。吐出ヘッド21の下面は、複数のノズル211が形成されたノズル面212となっている。
【0043】
図1に示すように、画像記録部20から見て下流側には、切替部としての切替ローラ121が配置されている。切替ローラ121は、記録媒体9の裏面9bに接触しつつ、幅方向に延びる水平軸を中心として回転する。これにより、記録媒体9が、記録面9aに対して反対の方向へ曲げられる。その結果、記録媒体9の移動方向が、第1方向(本実施形態では略水平方向)から、第2方向(本実施形態では鉛直下向き)に切り替えられる。
【0044】
切替ローラ121は、記録媒体9の裏面9bに接触する。このため、切替ローラ121の表面は、未硬化状態のインクに接触しない。したがって、切替ローラ121との接触によって、記録媒体9上の画像品質が低下することが抑制される。また、記録媒体9の記録面9a側には、記録媒体9の移動方向を切り替えるための部材が配置されない。
【0045】
図3は、インクジェット印刷装置1における照射部70付近の構成を示す概略側面図である。図4は、インクジェット印刷装置1における照射部70付近の構成を示す概略正面図である。
【0046】
図4に示すように、チルローラ13は、記録媒体9の裏面9bに接触しつつ、幅方向に延びる水平軸131を中心として回転する。水平軸131の一端部は、モータ13Mに接続されており、モータ13Mの駆動によって、水平軸131が回転することにより、チルローラ13が回転する。チルローラ13の幅方向両側それぞれには、側壁133が1つずつ対向配置される。水平軸131は、2つの側壁133によって、回転可能に支持される。チルローラ13は、処理室40および照射部70の略鉛直上側に配置される。チルローラ13の外周面13Sの径は、前後の搬送ローラ12の外周面の径よりも大きい。
【0047】
チルローラ13の内部には、冷却水130が貯留される。冷却水130は、図示しない循環器によって適宜循環される。これにより、チルローラ13の表面は冷却され温度が保持される。このように、冷却水130を貯留する構造および冷却水130を循環させる機構等は、チルローラ13の外周面13Sを冷却する冷却機構の一例である。
【0048】
処理室40は、吐出ヘッド21よりも下流側に配置される。換言すると、処理室40は、吐出ヘッド21からのインクが記録媒体9に付着する位置よりも下流側に配置される。処理室40は、記録媒体9を通過させるための搬入口41および搬出口42を有する。搬入口41は、処理室40の内側の処理空間40Rに記録媒体9を搬入するための開口であり、搬出口42は、処理空間40Rから記録媒体9を搬出するための開口である。
【0049】
処理室40は、第1壁部43、第2壁部44および第3壁部45を有する。第1壁部43は、処理空間40Rの上流側の側面を構成し、第2壁部44は、処理空間40Rの下流側の側面を構成する。また、第3壁部45は、第1壁部43および第2壁部44を連結する板状の部材であり、処理空間40Rの底面を構成する。第1壁部43、第2壁部44および第3壁部45の幅方向の両側それぞれは、側壁133に連結されている。すなわち、2つの側壁133の内向き面は、処理空間40Rの幅方向両側の側面を構成する。
【0050】
第1壁部43は、チルローラ13の外周面13Sに対向するとともに、外周面13Sに沿って湾曲する第1対向面43Sを有する。第1対向面43Sと外周面13Sとは、第1流路46aを構成する。この第1流路46aの上流側端部が、搬入口41である。
【0051】
第2壁部44は、チルローラ13の外周面13Sに対向するとともに、外周面13Sに沿って湾曲する第2対向面44Sを有する。第2対向面44Sと外周面13Sは、第2流路46bを構成する。この第2流路46bの下流側端部が、搬出口42である。
【0052】
処理室40の第3壁部45とは反対側の天面側には、チルローラ13が配置される。すなわち、チルローラ13の外周面13S(詳細には、外周面13Sのうち、第1壁部43および第2壁部44で挟まれる部分)が、処理室40の天面を構成する。このため、処理室40は、搬入口41および搬出口42を除いては、ほぼ閉鎖された空間となる。
【0053】
なお、処理室40の幅方向両側の側面が、2つの側壁133によって構成されることは必須ではない。例えば第3壁部45からチルローラ13側へ起立するとともに、移動方向へ延びる側壁を、搬送経路TR1の幅方向の両外側それぞれに当該側壁を設けてもよい。
【0054】
処理空間40Rには、酸素濃度計47が設けられる。酸素濃度計47は、処理空間40Rの内部の酸素濃度を計測し、制御部80に出力する。なお、酸素濃度計47が、処理空間40R内で酸素濃度を計測することは必須ではない。例えば、処理空間40R内の雰囲気を所定の孔を通じて外部へ送り出す機構を設け、その外部へ送り出される雰囲気の経路上に酸素濃度計を設けてもよい。この場合、その雰囲気中の酸素濃度を測定することにより、処理室40内の酸素濃度を測定することができる。
【0055】
搬送機構10が、搬入口41を通じて、処理室40の内側へ記録媒体9を搬入する工程は、搬入工程の一例である。また、搬送機構10が、搬出口42を通じて、処理室40の外側へ記録媒体9を搬出する工程は、搬出工程の一例である。
【0056】
不活性ガス供給部50は、処理室40の内側に不活性ガスを供給する。より詳細には、処理室40の内側にある記録媒体9の記録面9aに向けて、不活性ガスである窒素ガスを供給する。図3に示すように、不活性ガス供給部50は、記録媒体9の記録面9aに向けて窒素ガスを供給する供給口51を有する。供給口51には、配管52および開閉弁53を介して窒素ガスの供給源54が接続されている。開閉弁53を開放すると、供給源54から供給口51に向けて窒素ガスが送られる。また、開閉弁53の開度を調整することで、供給口51から供給される窒素ガスの圧力を調整することができる。なお、供給口51から供給される窒素ガスの圧力を調整する圧力調整機構を、開閉弁53とは別に設けてもよい。また、供給口51には、より高圧の窒素ガスを供給できるように、いわゆるエアナイフ等の吐出機構を別途設けてもよい。不活性ガス供給部50が、処理室40の内側に不活性ガスを供給する工程は、不活性ガス供給工程の一例である。
【0057】
本例では、配管52の先端側部分は、第1壁部43の内部に設けられており、供給口51が第1対向面43Sにおいて開口する。このため、不活性ガス供給部50から供給される不活性ガスは、第1流路46aを通過して、処理室40内へ移動する。また、供給口51は、チルローラ13の外周面13Sに向けて、不活性ガスを噴射する。この場合、記録媒体9の記録面9aに不活性ガスを吹き付けることができるため、記録面9a上の雰囲気を不活性ガスへ効率良く置換することができる。
【0058】
エア排出部60は、搬入側吸引部61、搬出側吸引部63およびファン65(図5参照)を備える。搬入側吸引部61は、搬入側吸引口611、搬入側隔壁612および排気管613を有する。また、搬出側吸引部63は、搬出側吸引口631、搬出側隔壁632および排気管633を有する。
【0059】
搬入側吸引口611は、処理室40の搬入口41よりも上流側に設けられる。搬出側吸引口631は、処理室40の搬出口42よりも下流側に設けられる。搬入側吸引口611は排気管613に接続され、搬出側吸引口631は、排気管633に接続される。排気管613,633は、ファン65を介して装置筐体90の外部に連通する。ファン65は、排気管613,633の内部から装置筐体90の外部へ向けたエアの流れを発生させる。エア排出部60は、ファン65の作用によって、搬入側吸引口611および搬出側吸引口631から搬送経路TR1上にある記録媒体9周辺の雰囲気を吸引する。より詳細には、搬入側吸引部61は、チルローラ13の外周面13Sと搬入側隔壁612との間の雰囲気を吸引し、搬出側吸引部63は、外周面13Sと搬出側隔壁632との間の雰囲気を吸引する。搬入側吸引口611および搬出側吸引口631から吸引された雰囲気は、排気管613,633によって装置筐体90の外側へ導かれた後、排出される。エア排出部60が、搬入側吸引口611および搬出側吸引口631から、記録媒体9の周辺の雰囲気を吸引して、装置筐体90の外側に排出する工程は、エア排出工程の一例である。なお、ファン65がインクジェット印刷装置1の本体に設けられることは必須ではない。例えば、ファン65を省略して、排気管613,633の排気側端が装置外部の吸引源に接続可能に構成されてもよい。
【0060】
図3に示すように、排気管613は、搬入側隔壁612の背面(搬送経路TRとは反対側の面)に接続され、排気管633は、搬出側隔壁632の背面に接続される。本例では、図4に示すように、排気管613は、搬入側隔壁612に対して1カ所で接続されるが、例えば、排気管613の接続部が複数に分岐することで、搬入側隔壁612に対して幅方向に異なる複数の箇所で接続されてもよい。排気管633についても、同様である。
【0061】
搬入側隔壁612は、搬送経路TR1上の記録媒体9の記録面9aに対向する部分を有する部材であり、本例では、チルローラ13の外周面13Sに対向する部分を有する。図3に示すように、搬入側隔壁612は、断面視において、チルローラ13の外周面13Sに向かって開口するU字状であり、内側に第1吸引空間61Rを形成する。搬入側吸引口611は、搬入側隔壁612の搬送経路TR1側において開口する。本例では、搬入側吸引口611は、搬入側隔壁612におけるチルローラ13を向く面に設けられる。搬入側隔壁612の下流側端部は、処理室40の搬入口41、すなわち、第1壁部43の上流側端部に連結される。搬入側隔壁612の上流側端部は、チルローラ13から所定の距離だけ離れており、記録媒体9を搬入側吸引部61内へ進入させるための入口614を構成する。図4に示すように、搬入側隔壁612の幅方向寸法は、例えば、チルローラ13の幅方向寸法とほぼ同一である。
【0062】
チルローラ13の外周面13Sから搬入側吸引口611までの高さ寸法は、搬入口41の高さ寸法(外周面13Sから第1対向面43Sまでの高さ寸法)よりも大きい。外周面13Sから搬出側吸引口631までの高さ寸法は、搬出口42の高さ寸法(外周面13Sから第2対向面44Sまでの高さ寸法)よりも大きい。
【0063】
搬出側隔壁632は、搬送経路TR1上の記録媒体9の記録面9aに対向する部分を有する部材であり、本例では、チルローラ13の外周面13Sに対向する部分を有する。図3に示すように、搬出側隔壁632は、断面視において、チルローラ13の外周面13Sに向かって開口するU字状であり、内側に第2吸引空間63Rを形成する。搬出側吸引口631は、搬出側隔壁632の搬送経路TR1側において開口する。本例では、搬出側吸引口631は、搬出側隔壁632におけるチルローラ13を向く面に設けられる。搬出側隔壁632の上流側端部は、処理室40の搬出口42、すなわち、第2壁部44の下流側端部に連結される。搬出側隔壁632の下流側端部は、チルローラ13から離間して配置されており、搬出側吸引部63から記録媒体9を排出させるための出口634を構成する。図示を省略するが、搬出側隔壁632の幅方向寸法は、例えば、搬入側隔壁612と同様に、チルローラ13の幅方向寸法とほぼ同一である。
【0064】
搬入側吸引口611の幅方向寸法は、例えば、搬入口41の幅方向寸法(本例では、2つの側壁133間の幅寸法)とほぼ同一とし得る(図4参照)。この場合、処理室40の内側から、搬入口41を通じて流出する不活性ガスを含む雰囲気を、搬入口41の幅方向全体にわたって吸引することができる。これと同様に、搬出側吸引口631の幅方向寸法は、例えば、搬出口42の幅方向寸法(本例では、2つの側壁133間の幅寸法)とほぼ同一とし得る(図4参照)。この場合、処理室40の内側から、搬出口42を通じて流出する雰囲気(不活性ガスを含む。)を、搬出口42の幅方向全体にわたって吸引することができる。
【0065】
なお、搬入側吸引口611は、幅方向に延びる単一の開口であることは必須ではなく、例えば、幅方向の複数箇所で分散して配置された複数の開口としてもよい。同様に、搬出側吸引口631についても、幅方向に延びる単一の開口ではなく、幅方向の複数箇所に分散して配置された複数の開口としてもよい。
【0066】
搬入側隔壁612の形状および大きさは、搬送経路TR1に対向する部分を有する限り、特に限定されない。しかしながら、処理室40内の圧力損失は、搬入側吸引部61内(搬入側隔壁612によって囲まれる第1吸引空間61R内)の圧力損失よりも大きいことが好ましい。このため、例えば、搬入口41の高さ寸法(外周面13Sと第1対向面43Sの間隔)を、入口614の高さ寸法よりも小さくしてもよい。また、第1流路46aまたは第2流路46bの移動方向の寸法を大きくすることによって、処理室40の圧力損失を大きくしてもよい。このように、処理室40の圧力損失を搬入側吸引部61の圧力損失よりも大きくすることによって、処理室40内の不活性ガスが流出しにくくなる。このため、処理室40内の不活性ガス濃度を容易に高めることができる。また、搬入側隔壁612の空間内へ雰囲気が流れ込みやすくなるため、搬入側吸引口611において雰囲気を良好に吸引することができる。このため、処理室40から搬入口41を通じて流出する不活性ガスを、搬入側吸引部61において良好に吸引することができる
【0067】
搬出側隔壁632の形状および大きさは、搬送経路TR1に対向する部分を有する限り、特に限定されない。しかしながら、搬入側隔壁612と同様、処理室40内の圧力損失は、搬出側吸引部63内(搬出側隔壁632によって囲まれる第2吸引空間63R内)の圧力損失よりも大きいことが好ましい。このため、例えば、搬出口42の高さ寸法(外周面13Sと第2対向面44Sの間隔)を、出口634の高さ寸法よりも小さくしてもよい。処理室40内の圧力損失を、搬出側吸引部63内の圧力損失よりも大きくすることによって、第2吸引空間63Rへ雰囲気が流れ込みやすくなる。このため、搬出側吸引口631において雰囲気を良好に吸引することができる。したがって、処理室40から搬出口42を通じて流出する不活性ガスを、搬出側吸引部63において良好に吸引することができる。
【0068】
照射部70は、不活性ガス供給部50よりも下流側であって、チルローラ13の略鉛直下側に配置される。また、照射部70は、処理室40の直下に配置される。照射部70は、チルローラ13によって支持される記録媒体9に対して、照射光を照射する照射処理を施す。本実施形態の照射部70は、メタルハライドランプ71と、リフレクタ72とを有する。メタルハライドランプ71は、幅方向に延びる管状の光源である。
【0069】
メタルハライドランプ71から照射される照射光は、吐出ヘッド21から吐出されるインクの硬化に有効な波長帯域の紫外線を含む。また、メタルハライドランプ71から照射される照射光は、インクを完全に硬化させるために十分な光量を有する。記録媒体9上のインクが照射処理されると、インクが硬化されて、記録媒体9にインクが定着する。これにより、記録媒体9の記録面9aに画像が記録される。照射部70が、処理室40の内側において、記録媒体9の記録面9aに紫外線を照射する工程は、照射工程の一例である。
【0070】
照射部70とチルローラ13との間には、処理室40の第3壁部45が配置される。第3壁部45は、紫外線の透過を許容する素材で構成される。なお、第1壁部43および第2壁部44の素材は、特に限定されないが、第1対向面43Sおよび第2対向面44Sは、ゴムで構成されることが好ましい。この場合、記録媒体9の記録面9aに異物が付着していた場合に、第1対向面43Sまたは第2対向面44Sが当該異物に当たることによって損傷すること、あるいは、記録媒体9が損傷することを抑制できる。
【0071】
記録媒体9は、不活性ガス供給部50を通過する際、チルローラ13によって、冷却されつつ搬送される。照射部70による照射処理は、チルローラ13によって搬送されている記録媒体9に対して行われる。この場合、照射処理による記録媒体9の温度上昇が抑えられる。記録媒体9は、チルローラ13によって記録面9aに対して反対の方向へ曲げられることで進行方向が切り替えられる。チルローラ13による進行方向の切替角度は、180度以上であることが好ましい。この場合、記録媒体9は、チルローラ13と接触する時間が長くなり十分に冷却される。したがって、照射処理による記録媒体9の温度上昇がより抑えられる。記録媒体9は、チルローラ13によって張力が付与される。このため、記録媒体9に、熱膨張によって弛みや皺が生じることが抑えられる。照射部70を通過した記録媒体9は、チルローラ13およびニップローラ122を含む複数の搬送ローラ12を経由して、巻き取り部14へ回収される。
【0072】
図5は、制御部80と、インクジェット印刷装置1内の各部との、電気的接続構成を示す図である。制御部80は、CPU等の演算処理部81、RAM等のメモリ82、およびハードディスクドライブ等の記憶部83を有するコンピュータにより構成される。制御部80は、巻き出し部11、巻き取り部14、4つの吐出ヘッド21、酸素濃度計47、開閉弁53、ファン65、照射部70、およびニップローラ122と、それぞれ電気的に接続される。制御部80は、記憶部83に記憶されたコンピュータプログラムPをメモリ82に一時的に読み出し、当該コンピュータプログラムPに基づいて、演算処理部81が演算処理を行うことによって、上記の各部の動作を制御する。この制御により、インクジェット印刷装置1における印刷処理が進行する。
【0073】
制御部80は、インクジェット印刷装置1の外部に設置されたサーバ2と、電気的に接続される。サーバ2には、印刷対象となる画像データDが保存されている。印刷処理時には、搬送機構10により記録媒体9が搬送されるとともに、制御部80が、指定された画像データDをサーバ2から読み出し、当該画像データDに基づいて、各吐出ヘッド21から各色のインクを吐出する。その結果、画像データDに対応する画像が、記録媒体9の記録面9aに記録される。なお、画像データDは、サーバ2を介さずに、制御部80に提供されてもよい。
【0074】
インクジェット印刷装置1によると、処理室40の搬入口41および搬出口42から流出する不活性ガスを、搬入側吸引口611および搬出側吸引口631を介して、装置筐体90の外側へ排出することができる。このため、処理室40から流出する不活性ガスが、上流側の吐出ヘッド21周辺へ移動することにより、記録媒体9に付着したインクの濡れ性などの特性が変化することを抑制できる。これにより、印刷品質の低下を軽減することができる。
【0075】
図3に示すように、搬入側隔壁612が搬入口41に連結される場合、搬入口41から流出する不活性ガスを、搬入側隔壁612内に設けられた搬入側吸引口611を介して良好に吸引することができる。これと同様に、搬出側隔壁632が搬出口42に連結される場合、搬出口42から流出する不活性ガスを、搬出側隔壁632内に設けられた搬出側吸引口631を介して良好に吸引することができる。これらの作用により、処理室40から流出する不活性ガスを、装置筐体90の外側へ有効に排出することができる。
【0076】
搬入側吸引口611および搬出側吸引口631が、チルローラ13の外周面13Sに対向する場合、処理室40から搬入口41および搬出口42を通じて記録媒体9の記録面9a上に流出する不活性ガスを良好に吸引することができる。
【0077】
制御部80は、開閉弁53を制御することにより、処理室40内に供給される不活性ガスの単位時間あたりの供給量を制御する。制御部80は、ファン65を制御することによって、エア排出部60による雰囲気の単位時間あたりの排出量を制御する。例えば、制御部80は、開閉弁53およびファン65を制御することによって、エア排出部60による雰囲気の単位時間あたりの排出量を、不活性ガス供給部50による不活性ガスの単位時間あたりの供給量よりも大きくしてもよい。この場合、処理室40に供給される不活性ガスの供給量よりも多くの雰囲気をエア排出部60によって排出することができる。これにより、処理室40から搬入口41または搬出口42を通じて流出する不活性ガスが、画像記録部20の吐出ヘッド21周辺へ移動することを、有効に抑制することができる
【0078】
制御部80は、酸素濃度計47からの出力に応じて、エア排出部60による雰囲気の単位時間あたりの排出量を制御してもよい。例えば、エア排出部60による雰囲気の排出量が大きすぎると、処理室40から不活性ガスが必要以上に流出することによって、処理室40内の酸素濃度が相対的に上昇し、インクの硬化速度に影響する可能性がある。このため、例えば、制御部80は、酸素濃度計47の出力が所定の基準値を越えた場合には、排出量を低下するようにファン65を制御してもよい。これとは逆に、酸素濃度計47の出力が、所定の基準値を下回った場合に、排出量を上昇させるようにファン65を制御してもよい。これにより、処理室の酸素濃度に応じて、エア排出部による雰囲気の排出量を制御することができるため、処理室40内の酸素濃度を、インク硬化に適した値に保つことができる。また、制御部80は、酸素濃度計47の出力に応じて、ファン65とともに開閉弁53を制御してもよい。
【0079】
<2. 変形例>
以上、実施形態について説明してきたが、本発明は上記のようなものに限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0080】
例えば、上記のインクジェット印刷装置1は、記録媒体としての印刷用紙に画像を記録するものである。しかしながら、本発明のインクジェット印刷装置は、一般的な紙以外の帯状の記録媒体(例えば、樹脂製のフィルム等)に、画像を記録するものであってもよい。
【0081】
上記実施形態では、供給部から供給される不活性ガスとして安価な窒素ガスが用いられていた。しかしながら、不活性ガスは、ヘリウム、アルゴン等の他のガスや、それらの混合ガスであってもよい。また、上記実施形態では、照射部から照射される電磁波は紫外線としている。しかしながら、照射部は、紫外線光以外の電磁波を照射するものであってもよい。
【0082】
上記実施形態では、搬送機構10がロールtoロール方式であるが、本発明の搬送機構は、この方式に限定されない。例えば、搬送機構は、一対のローラにベルトを巻き付け、そのベルトに吸着手段を設けることによって、記録媒体を吸着させて搬送する吸着搬送方式でもよい。搬送機構が吸着搬送方式の場合、帯状の記録媒体ではなく、枚葉の記録媒体としてもよい。
【0083】
この発明は詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。上記各実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせたり、省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0084】
1 インクジェット印刷装置
10 搬送機構
13 チルローラ
130 冷却水
13S 外周面
20 画像記録部
21 吐出ヘッド
40 処理室
40R 処理空間
41 搬入口
42 搬出口
47 酸素濃度計
50 不活性ガス供給部
60 エア排出部
61 搬入側吸引部
611 搬入側吸引口
612 搬入側隔壁
613,631 排気管
61R 第1吸引空間
63 搬出側吸引部
631 搬出側吸引口
632 搬出側隔壁
63R 第2吸引空間
65 ファン
70 照射部
80 制御部
9 記録媒体
9a 記録面
90 装置筐体
TR1 搬送経路
図1
図2
図3
図4
図5