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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】植物巻き付け用不織布テープ
(51)【国際特許分類】
   A01G 2/38 20180101AFI20230306BHJP
【FI】
A01G2/38
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019539463
(86)(22)【出願日】2018-08-24
(86)【国際出願番号】 JP2018031424
(87)【国際公開番号】W WO2019044718
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-02-25
(31)【優先権主張番号】P 2017168660
(32)【優先日】2017-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591017939
【氏名又は名称】クラレファスニング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】307046545
【氏名又は名称】クラレクラフレックス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591121513
【氏名又は名称】クラレトレーディング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河端 晃一
(72)【発明者】
【氏名】山田 充
(72)【発明者】
【氏名】谷口 純一
(72)【発明者】
【氏名】落合 徹
(72)【発明者】
【氏名】松下 和宏
(72)【発明者】
【氏名】山中 康弘
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-183363(JP,A)
【文献】特開2005-143332(JP,A)
【文献】特開2000-333543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 2/00 - 2/38
A01M 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の切断された部位同士の接合部、あるいは折損部もしくは裂損部を被覆するために、または植物の固定もしくは植物同士の結束のために、植物に巻き付けて使用される植物巻き付け用の不織布テープであって、
前記不織布テープは、前記不織布の表面に付与された親水化剤を含み、
前記不織布テープを構成する不織布は、コイル状捲縮を有する複合繊維であって、熱収縮率の異なる複数の樹脂が層構造を形成している複合繊維を含み、
前記複合繊維は、前記不織布の面方向に配向しており、前記コイル状捲縮の絡みにより不織布形状を保っている、植物巻き付け用不織布テープ。
【請求項2】
前記親水化剤が親水性ポリエステル系樹脂を含む、請求項に記載の不織布テープ。
【請求項3】
前記不織布を構成する繊維の粗密により格子模様が前記不織布の表面に形成されている、請求項1または2に記載の不織布テープ。
【請求項4】
前記複数の樹脂が、ポリエステル系樹脂であり、
前記複合繊維が、サイドバイサイド型または偏心芯鞘型の断面形状を有する、請求項1~のいずれか1項に記載の不織布テープ。
【請求項5】
前記複合繊維の前記コイル状捲縮が、高温水蒸気による加熱によって発現されている、請求項1~のいずれか1項に記載の不織布テープ。
【請求項6】
前記不織布の密度が0.06~0.15g/cmの範囲である、請求項1~のいずれか1項に記載の不織布テープ。
【請求項7】
前記コイル状捲縮の円の平均曲率半径が30~200μmであり、前記コイル状捲縮のコイルの平均ピッチが0.01~0.3mmである、請求項1~のいずれか1項に記載の不織布テープ。
【請求項8】
前記不織布の50%伸張時の応力が1~20N/50mm巾である、請求項1~のいずれか1項に記載の不織布テープ。
【請求項9】
植物の切断された部位同士の接合部、あるいは折損部もしくは裂損部を被覆するための、または植物を固定もしくは植物同士を結束するための方法であって、請求項1~のいずれか1項に記載の不織布テープを植物に巻き付ける、方法。
【請求項10】
殺菌剤、殺虫剤、誘引剤および水からなる群から選択される少なくとも1種を前記不織布テープに含浸させる、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記不織布テープを植物に巻き付ける前に、殺菌剤、殺虫剤、誘引剤および水からなる群から選択される少なくとも1種を植物に付与する、請求項または10に記載の方法。
【請求項12】
衣類を縛るための、衣類を束ねるための、または衣類を吊るすための、衣類に巻き付けて使用される衣類巻き付け用不織布テープであって、
前記不織布テープは防虫剤を含浸し、
前記不織布テープを構成する不織布は、コイル状捲縮を有する複合繊維であって、熱収縮率の異なる複数の樹脂が層構造を形成している複合繊維を含み、
前記複合繊維は、前記不織布の面方向に配向しており、前記コイル状捲縮の絡みにより不織布形状を保っている、不織布テープ。
【請求項13】
衣類を防虫するための方法であって、請求項12に記載の衣類巻き付け用不織布テープを衣類に巻き付ける、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物巻き付け用不織布テープ、および該不織布テープが用いられた植物に関する。
【背景技術】
【0002】
植物は、自身の生長や何らかの外力により、茎や蔓の折れ、裂け、切断等の破損が発生することがある。例えば、トマト、キュウリ、メロン等の果菜類は、ビニールハウス等の園芸施設での栽培や支柱等の園芸設備を使用した栽培の際に、茎や蔓を誘引する作業を行うことがある。この場合、茎や蔓が丈夫ではないため、簡単に折れ、裂け、切断等の破損が発生し得る。
【0003】
茎や蔓に破損が発生すると、植物の生長が止まったり、破損部から先が枯れたりして収穫率が低下してしまう。そのため、生産者の多くは破損した部分の補修を行っている。
【0004】
補修方法として、一般的には、破損した箇所を市販のビニールテープで巻き付けて固定する方法が多く採られている。しかし、単にビニールテープを巻くだけでは曲がったりズレを生じたりすることが多いため、破損部をしっかり固定するために添え木を活用しながらビニールテープを何重にも巻く必要がある。また、ビニールテープを巻き直すために植物に巻いたビニールテープを剥がすと、テープの粘着材によって該当部の表皮が剥がれることがある。表皮の剥がれによって、導管や師管といった必要な器官が損傷してしまい、水分や栄養分が傷口から先端に行かなくなって、傷口から先端に向け枯死することがある。さらに、ビニールテープは通気性がないため、被覆してしっかり固定しているにも関わらず、破損部が修復しない場合もある。
【0005】
さらに、茎や蔓の破損部が修復した場合においても、ビニールテープを被覆したままにしておくと、植物が生長して太くなるとビニールテープが食い込む。これを放置するとその部分が枯れてしまう。そのため、ある程度時間が経過したあとでビニールテープを緩める必要がある。このように、補修には手間や時間がかかるだけでなく、経験を積んだ熟練でないと補修作業は難しい。
【0006】
ビニールテープを活用した修復に代わる方法として、茎や蔓を挟んで押さえ込む保持部を有する補修クリップを使用する方法が提案されている〔特開2015-023838号公報(特許文献1)〕。
【0007】
また、切花や植物の切断面を乾燥から守るために、あるいは接木の継ぎ目が乾燥することを防止するために、切断箇所や継ぎ目箇所を水苔やティッシュペーパー、ガーゼ、脱脂綿等の保水部材で覆い、その周りを糸やゴム、針金等で留める方法が知られている〔特開2011-162230号公報(特許文献2)〕。
【0008】
特開平9-157599号公報(特許文献3)には、基材の表面にスチレン-イソプレンブロック共重合体系の粘着剤を塗布した粘着テープを、生け花等の植物の結束に使用する方法、およびこの方法を用いると植物の変色や腐敗がないことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2015-023838号公報
【文献】特開2011-162230号公報(請求の範囲、段落[0017])
【文献】特開平9-157599号公報(請求の範囲、段落[0003])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の方法は、茎や蔓の太さによっては保持部との間に隙間が生じ、破損部の固定が十分ではないため補修効果が弱い。また特許文献1に記載の方法は、クリップが合成樹脂からなるため、茎や蔓との剛性差によりクリップで挟んでいる近傍に力が加わると、茎や蔓に別の破損が発生しやすいため、確実な補修方法とはなり得ていない。また特許文献1に記載の方法は、茎や蔓が生長して太くなるとクリップを外す必要があり、手間の軽減効果も十分ではない。
【0011】
特許文献2に記載の方法は、切断面等を覆って縛るのに時間を要する。さらに特許文献2に記載の方法は、糸やゴム、針金の縛り具合が強過ぎる場合には植物を痛めつけて植物が折れたり枯れたりすることとなる。逆に縛り具合が緩い場合には、保水部材が抜け落ちたり、保水部材が切断面から離れたりして、目的が達成できないこととなる。
【0012】
特許文献3に記載の粘着テープは本質的には吸水性を有していないため、一時的な結束テープとしてあるいは吸水を要しない箇所の結束テープとして使用できても、植物の水分を長期にわたり保ち、長期間新鮮に保つための材料としては適していない。また特許文献3に記載の粘着テープは、剥がした際に植物の茎に粘着剤の一部が残る等の問題点を有している。さらに特許文献3に記載の粘着テープを用いた結束方法は、テープを切断するために鋏やナイフ等の器具を要し、簡便な方法とはいえない。
【0013】
本発明の目的は、植物の茎や蔓、幹、枝、根、葉等の切断された部位同士の接合部、折損部、裂損部、または植物の固定や植物同士の結束のために、被覆や固定、結束したい箇所に容易に巻き付けることができる植物巻き付け用不織布テープであって、下記(1)~(4)のいずれか1以上、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくはすべてを満足することができる植物巻き付け用不織布テープを提供することにある。
(1)不織布テープを巻き付けることで被覆された箇所に水分や補修促進剤、防腐剤、抗菌剤、撥水剤などを付与することができ、付与した水分や剤の効果を長く発揮させることができる。
(2)不織布テープ長さ方向に適度の伸縮性を有しており、これによって、植物を締め付け過ぎたり、締め付けが不十分であったりすることがない。
(3)不織布テープ長さ方向に適度の伸縮性を有しており、これによって、植物の生長による形状の変化に不織布テープの形状が追従することができるために、植物を痛めることがなく、また、不織布テープが自然に脱落したり、植物の切断面等と不織布テープとの間に隙間が生じたりすることがない。
(4)植物に巻き付けて不織布テープ面同士を重ね合わせるだけで巻き付け状態を固定でき、さらに植物に巻き付けて不織布テープを長さ方向に軽く引っ張ることにより容易に不織布テープを切断できる。
本発明の別の目的は、衣類を縛るための、衣類を束ねるための、または衣類を吊るすための、衣類に巻き付けて使用される衣類巻き付け用不織布テープを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下の植物巻き付け用不織布テープ、および植物を提供する。
[1] 植物の切断された部位同士の接合部、あるいは折損部もしくは裂損部を被覆するために、または植物の固定もしくは植物同士の結束のために、植物に巻き付けて使用される植物巻き付け用の不織布テープであって、
前記不織布テープを構成する不織布は、コイル状捲縮を有する複合繊維であって、熱収縮率の異なる複数の樹脂が層構造を形成している複合繊維を含み、
前記複合繊維は、前記不織布の面方向に配向しており、前記コイル状捲縮の絡みにより不織布形状を保っている、植物巻き付け用不織布テープ。
[2] 前記不織布テープは、前記不織布の表面に付与された親水化剤を含む、[1]に記載の不織布テープ。
[3] 前記親水化剤が親水性ポリエステル系樹脂を含む、[2]に記載の不織布テープ。
[4] 前記不織布を構成する繊維の粗密により格子模様が前記不織布の表面に形成されている、[1]~[3]のいずれかに記載の不織布テープ。
[5] 前記複数の樹脂が、ポリエステル系樹脂であり、
前記複合繊維が、サイドバイサイド型または偏心芯鞘型の断面形状を有する、[1]~[4]のいずれかに記載の不織布テープ。
[6] 前記複合繊維の前記コイル状捲縮が、高温水蒸気による加熱によって発現されている、[1]~[5]のいずれかに記載の不織布テープ。
[7] 前記不織布の密度が0.06~0.15g/cmの範囲である、[1]~[6]のいずれかに記載の不織布テープ。
[8] 前記コイル状捲縮の円の平均曲率半径が30~200μmであり、前記コイル状捲縮のコイルの平均ピッチが0.01~0.3mmである、[1]~[7]のいずれかに記載の不織布テープ。
[9] 前記不織布の50%伸張時の応力が1~20N/50mm巾である、[1]~[8]のいずれかに記載の不織布テープ。
[10] [1]~[9]のいずれかに記載の不織布テープが巻き付けられている植物であって、
前記不織布テープによって、植物の切断された部位同士の接合部、あるいは折損部もしくは裂損部が被覆されているか、植物が固定されているか、または植物同士が結束されている、植物。
[11] 植物の切断された部位同士の接合部、あるいは折損部もしくは裂損部を被覆するための、または植物を固定もしくは植物同士を結束するための方法であって、[1]~[9]のいずれかに記載の不織布テープを植物に巻き付ける、方法。
[12] 殺虫剤、誘引剤、殺菌剤および水からなる群から選択される少なくとも1種の剤を前記不織布テープに含浸させる、[11]に記載の方法。
[13] 前記不織布テープを植物に巻き付ける前に、殺虫剤、誘引剤、殺菌剤および水からなる群から選択される少なくとも1種の剤を植物に付与する、[11]または[12]に記載の方法。
[14] 衣類を縛るための、衣類を束ねるための、または衣類を吊るすための、衣類に巻き付けて使用される衣類巻き付け用不織布テープであって、
前記不織布テープを構成する不織布は、コイル状捲縮を有する複合繊維であって、熱収縮率の異なる複数の樹脂が層構造を形成している複合繊維を含み、
前記複合繊維は、前記不織布の面方向に配向しており、前記コイル状捲縮の絡みにより不織布形状を保っている、不織布テープ。
[15] 衣類を防虫するための方法であって、[14]に記載の衣類巻き付け用不織布テープに防虫剤を含浸させ、次いで該衣類巻き付け用不織布テープを衣類に巻き付ける、方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、植物の切断された部位同士の接合部、折損部、裂損部、または植物の固定や植物同士の結束のために、被覆や固定、結束したい箇所に容易に巻き付けることができる植物巻き付け用不織布テープであって、上記(1)~(4)のいずれか1以上、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくはすべてを満足することができる植物巻き付け用不織布テープを提供することができる。
また、本発明によれば、衣類を縛るための、衣類を束ねるための、または衣類を吊るすための、衣類に巻き付けて使用される衣類巻き付け用不織布テープを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】植物巻き付け用不織布テープを接合部(継ぎ目部)に巻き付けた状態を模式的に示す概略図である。
図2】植物巻き付け用不織布テープを植物の茎および切り口に巻き付けた状態を模式的に示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<植物巻き付け用不織布テープ>
本発明の植物巻き付け用不織布テープは、植物の切断された部位同士の接合部、あるいは折損部もしくは裂損部を被覆するために、または植物の固定もしくは植物同士の結束のために、植物に巻き付けて使用される植物巻き付け用の不織布テープである。不織布テープは、不織布と、該不織布の表面に付与された親水化剤とを含むものであってもよい。
以下、実施の形態を示して、本発明の植物巻き付け用不織布テープについて説明する。
【0018】
まず、植物巻き付け用不織布テープを構成する不織布の実施形態について説明する。
一実施形態において、不織布(不織布テープが親水化剤が付与された不織布である場合には、親水化剤が付与される対象である不織布)は嵩高で低密度であることが、不織布テープの伸縮性、切断容易性、自着性、親水性、保水性等の点から好ましい。そのためには、従来の一般的な不織布のように高密度で高破断強度となるようにニードルパンチや水流絡合等を両面から多数打ち、不織布構成繊維を不織布厚さ方向に配向させて組織を緻密化したものや、不織布に接着剤を含浸させて固めたものや、不織布を熱プレスして繊維同士を融着させたものなどは好ましくない。
【0019】
具体的には、植物巻き付け用不織布テープを構成する不織布は、その密度が0.06~0.15g/cmの範囲に抑えられた低密度の不織布であることが好ましい。不織布の密度は、より好ましくは0.07~0.11g/cmの範囲である。
不織布の密度は、[実施例]に記載の方法に従って測定される。
なお、不織布の表面に親水化剤を付与する場合であっても、その前後で不織布の密度にほとんど変化はない。
【0020】
一実施形態に係る不織布において、これを構成する繊維は、不織布(すなわち、不織布テープ)の面方向(面方向と平行)に配向しており、不織布の厚さ方向には実質的に配向していないことが好ましい。そのためには、不織布は、これを形成する繊維ウェブを厚さ方向に交絡させるのではなく、加熱処理して構成繊維にコイル状捲縮を発現させることによって、発現したコイル状捲縮により不織布面方向の絡みを発現させて、不織布の形状を保っていることが好ましい。
不織布面方向にコイル状捲縮を配向させることにより、不織布の上下方向圧縮に対して抵抗することができるため、保水性を長く維持することが可能となる。
【0021】
コイル状捲縮の絡みにより不織布形状を保っていることは、例えば、不織布を長さ方向(繊維長さ方向)に引っ張ることにより容易にコイル状捲縮の繊維の絡みが外れ、不織布形状が崩れて不織布がちぎれることによって確認することができる。
【0022】
一実施形態において不織布は、これを構成する繊維が短繊維であって、このような繊維が不織布(すなわち、不織布テープ)の面方向(面方向と平行)に配向しており、該繊維は微細なコイル状捲縮を全長にわたり有しており、このコイル状捲縮が絡み合うことにより不織布形状を保っている。
【0023】
従来の一般的な不織布は、上述のように、これを構成している繊維を接着剤で固定することにより、あるいは繊維を部分的に融着させることにより、あるいは不織布にニードルパンチや水流絡合を付与することによって不織布の厚さ方向に繊維を配向させ、これにより不織布の形態を保っている。しかし、このような従来の不織布では繊維同士がずれないように強固に固定されており、不織布の切断は鋏やナイフを用いて、繊維を切断することによって達成される。
【0024】
一方、本実施形態に係る植物巻き付け用不織布テープでは、不織布がコイル状捲縮の絡みにより不織布形状を保っていることから、繊維の切断による不織布の切断ではなく、繊維のコイル状捲縮の絡みが抜けることより不織布の切断が生じることとなる。したがって、本実施形態に係る植物巻き付け用不織布テープでは、長さ方向(すなわち、コイル状捲縮を有する繊維の配向方向)に引っ張ることによりコイル状捲縮の絡みが外れて繊維間にズレが生じ、ズレが拡大して容易にちぎれることとなる。よって、本実施形態に係る植物巻き付け用不織布テープによれば、従来の不織布のように、鋏やナイフを使用することなく、植物に本実施形態に係る不織布テープを巻き付け、巻き付け終了箇所の不織布テープを引っ張ることにより容易に不織布テープを引きちぎることができる。
【0025】
また本実施形態に係る植物巻き付け用不織布テープは、不織布を構成する繊維がコイル状捲縮を有していることから伸縮性を有している。したがって、植物の周りに本実施形態に係る不織布テープをわずかに引っ張りながら巻き付けることにより、収縮力が生じて植物を適度に締め付けて巻き付けることができ、不織布テープがずれたり、剥がれたり、切断面から不織布テープが剥がれ、切断面が覆われないということもない。また、本実施形態に係る植物巻き付け用不織布テープによれば、植物の生長による被覆部の形状変化に不織布テープが追従するため、植物に過度な張力がかかることがないため、被覆したまま放置しても植物が枯れたり折れたりすることもない。
【0026】
一実施形態に係る植物巻き付け用不織布テープにおいて不織布の表面は、コイル状捲縮を有する繊維で構成されていることが好ましい。不織布の表面がコイル状捲縮を有する繊維で構成されていると、不織布テープ同士を単に重ね合わせることにより両方のコイル同士が絡み合うため、自着性が得られる。したがって、本実施形態に係る植物巻き付け用不織布テープによれば、従来技術のように、剥がれるのを防止するために巻き付けたテープの上から糸や紐、針金で縛る必要が必ずしもない。
【0027】
コイル状捲縮を有する繊維から構成される不織布は、加熱処理によりコイル状捲縮を発現することとなる下記複合繊維からカード法によりウェブを作製し、次いで、加熱して立体捲縮を発現させる方法によって作製することができる。
加熱処理において繊維が飛散することを防止する目的で繊維ウェブのごく一部の繊維を軽度に絡合させてもよい。例えば、コイル状捲縮が発現しない程度の低温でかつ低圧力の水を噴射させて繊維ウェブを濡れた状態としつつ繊維を軽度に絡合させ、その後、加熱してコイル状捲縮を発現させてもよい。
【0028】
低温低圧力水の噴射では、ウェブ全体が濡れる程度の低圧力で、水温が10~40℃程度の水を用いることが好ましい。この処理は、水流絡合不織布で行われているような、高圧水流により繊維を不織布厚さ方向に強固に交絡させてウェブ強度を飛躍的に高める処理方法とは異なり、単に繊維が湿潤により飛散することを抑える程度の軽い処理であることが好ましい。
【0029】
この処理の際に、不織布を金網等の上に載せて水を噴射することにより、繊維をわずかに移動させて不織布の表面に格子状の模様を形成することができる。このような格子状の模様は、繊維の粗密の差により形成される。このような格子模様により、不織布を重ね合わせた際の自着性を一層向上させることができる。格子模様の大きさとしては、コイル状捲縮発現後での格子の大きさで、1~4mm四方程度であることが好ましい。
【0030】
上記加熱処理(加熱による捲縮発現処理)は、乾熱処理であってもよいが、不織布内部までコイル状捲縮を均一に発現できることから、高温水蒸気で処理する方法が好ましい。高温水蒸気で処理する方法としては、具体的には、作製された繊維ウェブ、又は低温低圧力水で処理された繊維ウェブを、コンベアベルトを用いて高温水蒸気処理に供する方法を挙げることができる。
繊維ウェブは、高温水蒸気処理によりコイル状捲縮が発現して大きく収縮する。したがって、供給する繊維ウェブをオーバーフィードさせて高温水蒸気処理することが好ましい。オーバーフィードの割合としては目的とする不織布の長さに対して120~400%が好ましく、より好ましくは150~350%、さらに好ましくは200~300%である。
【0031】
高温水蒸気による加熱処理を行うと、加熱水蒸気は繊維ウェブの内部まで浸透して、表面から裏面に至るまで均一にコイル状捲縮を発現させることができる。一方、乾熱処理の場合には、繊維ウェブの表面のみが集中的に加熱されて捲縮を発現し、繊維ウェブの内部や裏面側では十分にコイル状捲縮が発現しないことがある。
【0032】
高温水蒸気噴射は、供給される繊維ウェブの幅方向にピッチ1~2.5mm間隔で並べた直径0.2~0.5mmのオリフィスから高温水蒸気を噴射する方法であることが好ましい。高温水蒸気の圧力および温度はそれぞれ、圧力0.2~1.5MPaの範囲、温度80~120℃の範囲であることが好ましい。
【0033】
加熱処理によりコイル状捲縮を発現することとなる繊維としては、熱収縮率の異なる複数の樹脂が層構造を形成した複合繊維が挙げられる。中でも、該繊維は、サイドバイサイド型または偏心芯鞘型の断面形状を有する複合繊維であることが好ましい。また、熱収縮率の異なる複数の樹脂は、熱収縮率の異なるポリエステル系樹脂であることが好ましい。
複合繊維がポリエステル系樹脂からなることにより、不織布が水分を保持しても、複合繊維のコイル状捲縮の形状変化を抑制することができるとともに、自着性や嵩高性を維持することができる。
熱収縮率の異なるポリエステル系樹脂の組み合わせとしては、一方の樹脂がポリエチレンテレフタレートホモポリマーであり、もう一方の樹脂がイソフタル酸、スルホイソフタル酸ソーダ、ジエチレングリコールおよび/またはブタンジオール等を共重合させたポリエチレンテレフタレートである組み合わせが好適例として挙げられる。このような複合繊維は、上述した加熱処理によりコイル状捲縮を発現することから、潜在捲縮性繊維と称する場合がある。
【0034】
複合繊維の平均繊度は、好ましくは1~5dtexであり、より好ましくは1.5~4dtexである。複合繊維の平均繊度が小さすぎると綺麗なコイル状捲縮を発現させることが難しいことがある。複合繊維の平均繊度が大きすぎると繊維が剛直となり、これまた綺麗なコイル状捲縮を発現させることが難しいことがある。
複合繊維の平均繊維長は、好ましくは20~70mmであり、より好ましくは30~60mmである。複合繊維の平均繊維長が短すぎると繊維同士の交絡が不十分となり、強度や伸縮性を得ることが難しいことがある。逆に複合繊維の平均繊維長が長すぎる場合には、均一の目付を有する繊維ウェブを形成することが難しく、かつ捲縮を発現させる際に繊維同士が邪魔し合って綺麗なコイル状捲縮の発現が妨げられることがある。
【0035】
繊維をウェブ化するためには、繊維は5~15個/25mm程度の機械捲縮数を有していることが望ましい。しかし、このようなレベルの機械捲縮では、嵩高で不織布形態保持性に優れた不織布は得られにくい。一実施形態に係る植物巻き付け用不織布テープにおいては、平均コイル捲縮数(加熱により発現したコイル状捲縮の平均数)が25~120個/25mm程度であることが好ましい。このような数のコイル状捲縮を有することにより、植物巻き付け用不織布テープに適した嵩高性と伸縮性と自着性が得られやすくなる。
機械捲縮数および平均コイル捲縮数は、[実施例]に記載の方法に従って測定される。
【0036】
発現するコイル状捲縮の円の平均曲率半径は、30~200μmであることが好ましく、50~150μmであることがより好ましい。平均曲率半径は、[実施例]に記載の方法に従って測定される。
コイル状捲縮のコイルの平均ピッチ(平均捲縮ピッチ)は、0.01~0.3mmであることが好ましく、0.03~0.2mmであることがより好ましい。平均ピッチは、[実施例]に記載の方法に従って測定される。
【0037】
不織布(親水化剤が付与される対象である不織布)は、50%伸張時の応力が1~10N/50mm巾であることが好ましい。50%伸張時の応力は、[実施例]に記載の方法に従って測定される。
不織布(親水化剤が付与される対象である不織布)は、厚みが好ましくは0.5~5.0mmであり、より好ましくは0.8~2.5mmである。
不織布の厚みは、[実施例]に記載の方法に従って測定される。
なお、不織布の表面に親水化剤を付与する場合であっても、その前後で不織布の50%伸張時の応力および厚みにほとんど変化はない。
【0038】
次に、親水化剤について説明する。
不織布テープを構成する上記不織布の表面に親水化剤が付与されてもよい。親水化剤を付与することにより、不織布テープの保水性や吸水性を高めることができる。
上記不織布の表面に付与される親水化剤としては、ポリエステル系樹脂;高級アルコール;高級脂肪酸;アルキルフェノール等のエチレンオキサイド付加物;アルキルフォスフェート塩;アルキル硫酸塩等を含むものが挙げられる。中でも、不織布を構成する繊維がポリエステル系樹脂である場合には、不織布の表面に長く保持できることから、親水化剤は、ポリエステル系樹脂を含むことが好ましく、親水性ポリエステル系樹脂を含むことがより好ましく、親水性ポリエステルポリエーテルブロック共重合体を含むことがさらに好ましい。
【0039】
親水性ポリエステルポリエーテルブロック共重合体としては、酸成分としてのテレフタル酸、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸と、ジオール成分としてのエチレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール等の脂肪族ジオールと、分子量600~4000のポリエチレングリコールとから形成されるポリエステルポリエーテルブロック共重合体が好適に用いられる。共重合体中におけるポリエーテル鎖の割合は、共重合体全体を100重量%とするとき、40~80重量%であることが好ましい。
【0040】
このような親水性ポリエステルポリエーテルブロック共重合体としては、高松油脂(株)製のSR-1000、SR-1800、SR-6200、SR-5000、日華化学(株)製のナイスポールPR、北広ケミカル(株)製のプチナース3000等が挙げられる。これら親水化剤の繊維(不織布)への付着量は、繊維(不織布)100重量%に対して0.1~2.0重量%であることが好ましい。
【0041】
親水化剤は、上記不織布の一方の表面に付与されていてもよく、両方の表面に付与されていてもよい。また、親水化剤は、上記不織布の内部にも存在していてもよい。
親水化剤は、上記不織布の表面に親水化剤を含む液を塗布する方法、上記不織布の少なくとも一部を親水化剤を含む液に含浸させる方法などによって不織布の表面に付与することができる。
【0042】
植物巻き付け用不織布テープは、不織布がコイル状捲縮を有する複合繊維で構成されており、嵩高い(密度が小さい)ため、高い吸水性および高い水分保持性(保水性)を有することができる。
また、植物巻き付け用不織布テープが示し得る高い吸水性および高い水分保持性(保水性)は、不織布の表面に親水化剤が付与される場合にはこの親水化剤にも起因する。吸水性および保水性を高める観点から、複合繊維を構成する樹脂と親水化剤に含まれる樹脂とは同種であることが好ましい。
【0043】
植物巻き付け用不織布テープの吸水性は、吸水速度(ウイッキング試験法)を測定することによって評価することができる。植物巻き付け用不織布テープの吸水速度は、5秒以下であることが好ましく、2.5秒以下であることがより好ましく、瞬時に吸水することがさらに好ましい。
植物巻き付け用不織布テープの吸水速度は、[実施例]に記載の方法に従って測定される。
【0044】
植物巻き付け用不織布テープの保水性は、保水率を測定することによって評価することができる。植物巻き付け用不織布テープの保水率は、370%以上であることが好ましく、500%以上であることがより好ましい。
植物巻き付け用不織布テープの保水率は、[実施例]に記載の方法に従って測定される。
【0045】
植物巻き付け用不織布テープの30%伸長後回復率は、伸縮性、切断容易性、自着性等の観点から、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
植物巻き付け用不織布テープの30%伸長後回復率は、[実施例]に記載の方法に従って測定される。
【0046】
植物巻き付け用不織布テープは、植物(例えば、花や木の茎、蔓、幹、枝、根、葉等)に巻き付けて使用されるものであることから、緑色系や茶色系の着色がなされていることが好ましく、例えば染料により緑色や茶色に染色されていることが好ましい。もちろん、装飾のために植物に巻き付ける場合には、緑色以外の色、例えば赤やピンク、紫色、橙色、黄色、青色等に着色されていてもよい。植物巻き付け用不織布テープに着色を施すために、不織布を構成する繊維自体に、着色剤が添加されている原着繊維を用いてもよい。
植物巻き付け用不織布テープは、例えば特定の害虫について誘引効果のある色に染色することができる。従来は特定の害虫を駆除するために植物全体に殺虫剤を散布していたため比較的多量の殺虫剤が必要であった。しかしながら、特定の害虫について誘引効果のある色に染色した植物巻き付け用不織布テープを用いる場合、植物巻き付け用不織布テープに集まってきた害虫にピンポイントに農薬を散布することにより、殺虫剤の使用量を低減させながら害虫を駆除することができるようになる。その結果、環境負荷の低減や食物の安全性向上が図り易くなる傾向にある。例えばアザミウマは、ピンク色に誘引され易い傾向にある。
【0047】
染色の際には、染色温度が高すぎると不織布のコイル状捲縮が消失することがあることから、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下で染色することが好ましい。
染料としては、不織布を構成する繊維を染色できる染料が適宜用いられる。ポリエステル系樹脂からなる繊維を染色できる染料としては、例えば、アセテート繊維用の分散染料が挙げられる。
【0048】
染色を実施する場合、不織布のコイル状捲縮を保持する観点から、不織布の表面に親水化剤を付与する場合には、不織布への親水化剤の付与と不織布の染色とを同時に行うことが好ましい。例えば、親水化剤を添加した染色液(染料を含む液)を用いて染色を行うことによって、不織布への親水化剤の付与と不織布の染色とを同時に行うことができる。
染色(および親水化剤の付与)は、上記不織布の表面に染色液を塗布する方法、不織布の少なくとも一部を染色液に含浸させる方法などによって行うことができる。
【0049】
得られた植物巻き付け用不織布テープに対して、形状を調整する処理等を施してもよい。例えば、得られた植物巻き付け用不織布テープをスリットして、幅方向の長さを調整してもよい。スリット後のテープ幅は、10~50mmであることが好ましく、より好ましくは15~40mmである。もちろん、スリットした後に染色や親水化剤付与を行ってもよい。
【0050】
植物巻き付け用不織布テープは、温度による影響を受け難く、摩耗に対して良好な耐久性を有している。そのため、植物巻き付け用不織布テープは、数か月から1年などの長期間にわたり、屋外および屋内において良好に使用することができる。また、植物巻き付け用不織布テープは、何度でも巻き直しが可能である。そのため、植物巻き付け用不織布テープに汚れが付着した場合でも、植物巻き付け用不織布テープの巻き付け状態を維持し易い傾向にある。
【0051】
植物巻き付け用不織布テープは優れた伸縮性を有し、追随性に優る傾向にある。そのため、植物巻き付け用不織布テープは、植物の生長により剥がれたりすることなく、巻き付け状態が良好に維持される傾向にある。また、ビニールテープ等の追随性の低いテープを巻き付けた場合、植物の茎が生長し茎が太くなったときに植物の茎が締め付けられ、植物の導管や師管を圧迫し、植物が枯れる問題がある。しかしながら、植物巻き付け用不織布テープは、植物の茎が太くなった場合であっても茎の太さに合わせて伸縮することができるため、そのような問題が起こりにくい傾向にある。
【0052】
また、植物の挿し木を行う場合、土壌や切り口を包む水苔を保水することにより、新芽の生長を促進させることがある。上述の通り、植物巻き付け用不織布テープは、高い吸水性および高い水分保持性吸水性を有している。したがって、植物巻き付け用不織布テープは、このような水苔や土壌の代替として用いることができる。
【0053】
<植物巻き付け用不織布テープが巻き付けられた植物>
植物巻き付け用不織布テープは、上述したように、植物の茎や蔓、幹、枝、根、葉等の切断箇所(植物の切断された部位同士の接合部(継ぎ目部))あるいは植物の茎や蔓、幹、枝、根、葉等の傷付箇所(折損部もしくは裂損部)を被覆するために、または植物の固定もしくは植物同士の結束のために用いられる。
植物巻き付け用不織布テープは、植物(切花であってもよい)の切断箇所や、接木の継ぎ目が乾燥することを防止するために、または花束等を保持するために使用することもできる。この場合、植物巻き付け用不織布テープが巻き付けられた植物は、切花、接木を備える植物、花束等であることができる。
植物巻き付け用不織布テープを植物に1回以上巻き付けて、周回後のテープを周回前のテープ表面に重ね合わせるだけで巻き付け状態を固定できる。さらに木や花の軸にらせん状に巻き付けることにより木や花の軸を全て覆うこともできる。
【0054】
固定できた状態で余り部分を引っ張ることにより、不織布を構成する繊維のコイル状捲縮の絡みが容易に外れ、繊維間にズレを生じてテープを引きちぎることができる。引きちぎられた後の切断部は、繊維の長さが不揃いとなるが、このような不揃い性が、どこが端部であるかの判別をし難くして、巻き付け状態に自然な美しさをもたらすとともに切断部からの剥がれを抑制できる。
【0055】
植物巻き付け用不織布テープにより上記箇所を被覆して修復や活着させることができる植物の例として、トマト、キュウリ、ナス、メロン、スイカ、パプリカ等の果菜類、ブロッコリー、アスパラガス、カリフラワー、セロリ、ネギ、リーキー等の葉菜類、ダイコン、カブ、ニンジン、ジャガイモ、サツマイモ等の根菜類、バラ、カーネーション、キク、トルコギキョウ、ガーベラ等の花卉類が挙げられる。
【0056】
図1は、植物巻き付け用不織布テープを接合部(継ぎ目部)に巻き付けた状態を模式的に示す概略図である。図1の原木2の幹に接木3を取り付け、接合部に植物巻き付け用不織布テープ1を巻き付けることにより接ぎ木が完成する。
【0057】
図2は、植物巻き付け用不織布テープを植物の茎および切り口に巻き付けた状態を模式的に示す概略図である。複数の植物(切花)4を束ねた茎5に植物巻き付け用不織布テープ1を巻き付け、さらに切断面も同テープで覆う。軽く張力を掛けつつ切断面を覆い、そして植物の茎に巻き付け、さらに適度の高さまで一部が重なるように巻き付け、所定の位置まで巻き付けたらテープを引っ張って切断させ、切断部分を周回前のテープに重ね合わせることにより巻き付け状態を固定できる。そして、巻き付けたテープに水分を付与することにより、水が供給されることとなる。
【0058】
植物巻き付け用不織布テープには、雑菌の繁殖を阻止するためにアニオン系の界面活性剤が付与されていてもよいし、植物の養分となる薬剤が含まれていてもよいし、これらの両方が含まれていてもよい。
【0059】
<植物の切断された部位同士の接合部、あるいは折損部もしくは裂損部を被覆するための、または植物を固定もしくは植物同士を結束するための方法>
本発明に係る別の一態様は、植物の切断された部位同士の接合部、あるいは折損部もしくは裂損部を被覆するための、または植物を固定もしくは植物同士を結束するための方法であり、上述の植物巻き付け用不織布テープを植物に巻き付ける。
【0060】
上述の植物巻き付け用不織布テープに殺菌剤、殺虫剤、誘引剤および水からなる群から選択される少なくとも1種の剤を含浸させることができる。含浸は、植物巻き付け用不織布テープを植物に巻き付ける前に行ってもよいし、巻き付けた後に行ってもよい。あるいは、植物巻き付け用不織布テープを植物に巻き付ける前に、殺菌剤、殺虫剤、誘引剤および水からなる群から選択される少なくとも1種の剤を植物に付与することができる。
【0061】
植物巻き付け用不織布テープに殺菌剤を含浸させ、植物の傷口に巻き付ける場合、または殺菌剤を植物の傷口に付与した後に植物巻き付け用不織布テープを植物に巻き付ける場合、単に殺菌剤を植物の傷口に付与する場合と比べ殺菌剤が留まり易くなり、治癒効果が高くなる傾向にある。これは、殺菌剤を植物の傷口に単に付与しただけでは、殺菌剤が蒸散・蒸発により、または風雨や潅水により流出して傷口に留まらない場合があるが、植物巻き付け用不織布テープを植物に巻くことで殺菌剤が傷口に残り易くなるためであると思われる。
【0062】
植物巻き付け用不織布テープに含浸させる、または植物の傷口に付与する殺菌剤は、残留した場合に植物に悪影響を及ぼさないように、水等と混合することにより濃度の調節を行うことができる。
【0063】
植物巻き付け用不織布テープに殺虫剤を含浸させ、植物に巻き付ける場合、または殺虫剤を植物に付与した後に植物巻き付け用不織布テープを植物に巻き付ける場合、飛行せずに歩いて移動する害虫(以下、歩行虫ともいう)を駆除することができる。歩行虫は通常、地面で繁殖して植物の茎を伝って移動し、植物の芽や葉、花の茎部等をかじることにより被害を与えるため、このような歩行虫が植物の茎を伝って移動することを抑制することもできる。また、上述の特定の害虫に誘引効果のある色に染色した植物巻き付け用不織布テープを用いることで、植物巻き付け用不織布テープに集まってくる害虫をより効率的に駆除することができる。
【0064】
植物巻き付け用不織布テープに誘引剤を含浸させ、植物に巻き付ける場合、または誘引剤を植物に付与した後に植物巻き付け用不織布テープを植物に巻き付ける場合、特定の色により誘引することができない害虫をも集めることが可能となる。
【0065】
植物巻き付け用不織布テープは、上述の通り、高い吸水性および高い水分保持性吸水性を有している。そのため、植物巻き付け用不織布テープに水を含浸させ、植物に巻き付けることにより、植物の切断された部位同士の接合部や、あるいは折損部もしくは裂損部への水の供給が比較的長い間持続されることとなるため、植物の傷口の治癒が早まり易い傾向にある。
【0066】
また、植物の傷口や折れ口の治癒のためにビニールテープを巻いた場合、植物は傷口や折れ口を完全に修復させてから生長するため、そのような治癒が優先され、植物の生育は後回しになる傾向にある。しかしながら、植物巻き付け用不織布テープは、治癒と成長を両立させ易い傾向があり、本来、そのような治癒期間だけ生長が遅れるはずである場合でも収穫時期に遅れが生じないように生長する傾向にある。
【0067】
植物巻き付け用不織布テープは、植物の切断された部位同士の接合部や折損部、裂損部をクロス状(十字型)に巻いて傷口をより強固に補強したり、植物巻き付け用不織布テープを添え木のようにして接合部の上部を支えるように用いると、修復が早くなり、植物が太く成長し易い傾向にある。また、接合部を植物巻き付け用不織布テープで上から吊るすようにして固定した場合にも、接合部に茎や枝、果実等の荷重がかからず、植物の治癒が早まり、良好に成長する傾向にある。
【0068】
また、植物の切断された部位同士の接合部や折損部、裂損部に植物巻き付け用不織布テープを巻く場合、比較的強く巻く方が、比較的弱く巻く方より治癒が早くなる傾向にある。
【0069】
植物巻き付け用不織布テープは、トマト等のナス科の植物だけではなく、キュウリ等のウリ科の植物、園芸用植物、花にも適用することができる。
【0070】
<衣類巻き付け用不織布テープ>
本発明の別の一態様に係る発明は、衣類を縛るための、衣類を束ねるための、または衣類を吊るすための、衣類に巻き付けて使用される衣類巻き付け用不織布テープに関する。衣類巻き付け用不織布テープは、例えば衣類を保管や運搬するときに、折り畳んだ衣類を縛ったり、衣類同士をまとめたり、衣類を吊るしておくために用いることができる。「衣類に巻き付けて使用される」には、衣類巻き付け用不織布テープと衣類とが直接に又は間接に接触していればよく、衣類巻き付け用不織布テープが衣類の周囲を1周以上巻かれる必要はない。
【0071】
衣類巻き付け用不織布テープを構成する不織布は、コイル状捲縮を有する複合繊維であり、熱収縮率の異なる複数の樹脂が層構造を形成している複合繊維を含み、この複合繊維は、不織布の面方向に配向しており、前記コイル状捲縮の絡みにより不織布形状を保っている。
【0072】
不織布の具体例および好ましい態様としては、上述の植物巻き付け用不織布テープの説明において例示した不織布と同一である。不織布の密度、繊維の配向方向や平均繊度、機械捲縮数、繊維を構成する材料の種類、製造方法、発現するコイル状捲縮の円の平均曲率半径、平均捲縮ピッチ、50%伸張時の応力、厚み等の具体例や好ましい範囲についても、上述の植物巻き付け用不織布テープの説明において例示したものと同一である。
【0073】
衣類巻き付け用不織布テープは、不織布がコイル状捲縮を有する複合繊維で構成されており、嵩高い(密度が小さい)ため、高い吸水性および高い保水率を有することができる。衣類巻き付け用不織布テープの吸水性および保水率の評価方法および好ましい範囲は、上述の植物巻き付け用不織布テープの説明において例示したものと同じである。
【0074】
衣類巻き付け用不織布テープを構成する不織布の表面に親水化剤が付与されてもよい。親水化剤を付与することにより、衣類巻き付け用不織布テープの保水性や吸水性を高めることができる。後述する防虫剤が水性である場合、不織布に親水化剤が付与されていることにより、防虫剤の保持性や吸収性が向上する傾向にある。親水化剤の具体例および好ましい例示は、上述の植物巻き付け用不織布テープの説明において例示した親水化剤と同一である。
【0075】
衣類巻き付け用不織布テープは、不織布をスリットして、幅10~50mmとしたものであってよく、好ましくは15~40mmとしたものである。もちろん、スリットした後に染色や親水化剤付与を行ってもよい。また、衣類巻き付け用不織布テープは、1枚または2枚以上重ねた不織布を丸めて紐状にしたものであってもよいし、その紐状にしたものあるいは上述のスリットしたものを2本以上撚り合せてロープ状にしたものであってもよい。
【0076】
衣類巻き付け用不織布テープは、上述の植物巻き付け用不織布テープと同様に着色されていてもよい。染料および染色方法等の例示は、上述の植物巻き付け用不織布テープの説明において例示したものと同じである。
【0077】
衣類巻き付け用不織布テープは、下記(1)~(4)のいずれか1以上、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくはすべてを満足することができる。
(1)衣類巻き付け用不織布テープは、防虫剤などを付与することができ、付与した防虫剤の効果を長く発揮させることができる。
(2)衣類巻き付け用不織布テープは長さ方向に適度の伸縮性を有しており、これによって、衣類を締め付け過ぎたり、締め付けが不十分であったりすることがない。
(3)衣類巻き付け用不織布テープは長さ方向に適度の伸縮性を有しており、これによって、衣類の形状に追従することができるために、衣類を痛めることがなく、また、衣類巻き付け用不織布テープが自然に脱落したり、衣類と衣類巻き付け用不織布テープとの間に隙間が生じにくい傾向にある。
(4)衣類に巻き付けて衣類巻き付け用不織布テープ同士を重ね合わせるだけで巻き付け状態を固定でき、さらに衣類に巻き付けて衣類巻き付け用不織布テープを長さ方向に軽く引っ張ることにより容易に衣類巻き付け用不織布テープを切断できる。
【0078】
衣類としては、例えば洋服や和服等であってよく、その例として、ジャケット、ズボン、シャツ、下着、和服等が挙げられる。とりわけ保管時に防虫手段が要される羊毛製品や絹製品、例えばセーターや呉服等に好適に用いることができる。
【0079】
束ねる衣類は1着であっても2着以上であってもよい。衣類を衣類巻き付け用不織布テープにより縛る、もしくは束ねる場合、衣類巻き付け用不織布テープは1本で縛ったり束ねたりしてもよいし、2本以上で縛ったり束ねたりしてもよい。また、衣類を衣類巻き付け用不織布テープにより吊るす場合、例えば衣類に巻き付けた衣類巻き付け用不織布テープの両端を壁や天井等に固定することにより衣類を吊るすこともできるし、衣類をハンガーに掛け、そのハンガーを衣類巻き付け用不織布テープにより吊るすこともできる。
【0080】
衣類巻き付け用不織布テープは、1本または2本以上を衣類に巻き付けてもよいし、衣服の周囲を半周以下、半周以上、例えば1周または2周以上巻き付けてもよい。巻き付ける衣類の箇所は、袖や裾、胴体部分等であってよく、折り畳んだ衣類に巻き付けてもよい。
【0081】
<衣類を防虫するための方法>
本発明の他の一態様に係る発明は、衣類を防虫するための方法に関する。本発明の衣類を防虫するための方法は、上述の衣類巻き付け用不織布テープに防虫剤を含浸させ、次いで防虫剤を含浸させた不織布テープを衣類に巻き付ける方法である。衣類巻き付け用不織布テープを衣類に巻き付ける場合、衣類巻き付け用不織布テープは、衣類に直接に又は間接に接触させて巻き付ける場合が包含される。
【0082】
衣類巻き付け用不織布テープは、上述の衣類巻き付け用不織布テープを用いることができる。防虫剤は、公知の衣類用防虫剤、例えばエムペントリン製剤、パラジクロロベンゼン製剤、しょうのう製剤、ナフタリン製剤、ユーカリオイル、除虫菊エキス等であってよく、例えば衣類の虫食い等の被害を防ぐために衣類に害虫を近づけないようにするための忌避剤や、衣類に付いた害虫を殺虫するための殺虫剤等であってよい。防虫剤の形態としては、粉末状、粒状、液状であってよい。
【0083】
防虫剤を衣類巻き付け用不織布テープに含浸させる方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
【0084】
防虫剤が粉末状である場合、例えば不織布に粉末状防虫剤を振り掛けたりすることで散布し、その不織布を紐状やロープ状とする方法等が挙げられる。
【0085】
防虫剤が粒状である場合、例えば不織布で粒状防虫剤を包み込み、その不織布を紐状やロープ状とする方法等が挙げられる。
【0086】
防虫剤が液状である場合、例えば防虫剤を水等の溶媒に溶解させて溶液とし、溶液を不織布に噴霧したり、不織布を溶液に浸漬したりすること等により含浸させる方法や、衣類巻き付け用不織布テープとした後に、溶液を噴霧したり、不織布を溶液に浸漬したりすること等により含浸させる方法等が挙げられる。不織布に親水化剤を付与した場合、溶液は防虫剤の水溶液や水性分散体とすることが好ましい。本発明の衣類巻き付け用不織布テープは、上述の通り、優れた吸水性および保水性を有する不織布からなるため、防虫剤の水溶液や水性分散体を含浸させた場合、その効果が持続され易くなる傾向にある。
【0087】
衣類に巻き付ける方法や、巻き付ける箇所等の例示は、上述の衣類巻き付け用不織布テープの説明において例示したものと同一である。
【実施例
【0088】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。以下の実施例および比較例における各物性値は下記の方法により測定した。
【0089】
〔1〕機械捲縮数(個/25mm)
JIS L 1015「化学繊維ステープル試験方法」(8.12.1)に準じて測定した。
【0090】
〔2〕平均コイル捲縮数(個/25mm)
熱処理後の繊維シートから捲縮繊維(複合繊維)を、コイル捲縮を引き伸ばさないよう注意しながら抜き取り、機械捲縮数の測定と同様に、JIS L 1015「化学繊維ステープル試験方法」(8.12.1)に準じて測定した。
【0091】
〔3〕コイルの平均ピッチ(mm)
得られた不織布から捲縮繊維(複合繊維)を、コイル捲縮を引き伸ばさないよう注意しながら抜き取り、連続して隣り合うコイル間の距離を測定し、n数=100の平均値として測定した。
【0092】
〔4〕コイル状捲縮の円の平均曲率半径(μm)
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、不織布の任意の断面を100倍に拡大した写真を撮影した。撮影した断面写真に写っている繊維の中で、1周以上の螺旋(コイル)を形成している繊維について、その螺旋に沿って円を描いたときの円の半径(コイル軸方向から捲縮繊維を観察したときの円の半径)を求め、これを曲率半径(μm)とした。なお、繊維が楕円状に螺旋を描いている場合は、楕円の長径と短径との和の1/2を曲率半径とした。ただし、捲縮繊維が充分なコイル捲縮を発現していない場合や、繊維の螺旋形状が斜めから観察されることにより楕円として写っている場合を排除するために、楕円の長径と短径との比が0.8~1.2の範囲に入る楕円だけを測定対象とした。平均曲率半径(μm)は、n数=100の平均値として求めた。
【0093】
〔5〕厚み(mm)、目付(g/m)および密度(g/cm
JIS L 1913「一般不織布試験方法」に準じて不織布の厚みおよび目付を測定し、これらの値から密度を算出した。
【0094】
〔6〕50%伸長時応力(N/50mm巾)
JIS L 1913「一般不織布試験方法」に準じて、不織布の長さ方向(MD方向)について測定した。
【0095】
〔7〕植物巻き付け用不織布テープの30%伸長後回復率(%)
JIS L 1913「一般不織布試験方法」に準拠する引張試験を実施し、下記式:
30%伸長後回復率(%)=100-X
に基づいて30%伸長後回復率を求めた。式中、Xは、引張試験において、伸び率が30%に到達した後すぐに荷重を除去したときの、試験後の残留歪み(%)である。30%伸長後回復率は、不織布テープの長さ方向(MD方向)について測定した。
【0096】
〔8〕植物巻き付け用不織布テープの吸水速度(ウイッキング試験法)(秒)
植物巻き付け用不織布テープ試料を水平に静置して約1cmの高さからスポイドで一滴(0.05g)の水をたらし、落下直後から完全にサンプル内に水がしみこむまでの時間を測定した。
【0097】
〔9〕植物巻き付け用不織布テープの保水率(%)
植物巻き付け用不織布テープを縦5cm×横5cmサイズに切り出し、得られた試料を精秤した後、30秒間水中に沈めた。静かに水中より引き上げ、1分間バイアス方向に吊り下げた後、再び精秤した。試料が保水した水の重量(再精秤時の重量-水中浸漬前の重量)を試料の重量(水中浸漬前の重量)で徐して保水率(%)を算出した。
【0098】
<実施例1>
潜在捲縮性繊維として、固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレート樹脂(A成分)と、イソフタル酸20モル%およびジエチレングリコール5モル%を共重合した変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(B成分)とで構成されたサイドバイサイド型複合ステープル繊維((株)クラレ社製、「PN-780」、1.7dtex×51mm長、機械捲縮数12個/25mm、130℃×1分間熱処理後における平均コイル捲縮数62個/25mm)を準備した。
【0099】
このサイドバイサイド型複合ステープル繊維を100重量%用いて、パラレルカードにより目付35.3g/mのカードウェブとした。
【0100】
ついで、このカードウェブをベルトコンベアにより移送しながら少量の水をウェブに導入して、繊維の粗密による格子状の模様を表面に形成し、次いで、水蒸気噴射装置から0.5MPaの水蒸気をウェブに対し垂直に噴出して水蒸気処理を施すことにより、潜在捲縮繊維のコイル状捲縮を発現させた。
【0101】
なお、水蒸気噴射装置のノズル孔径は0.3mmであり、このノズルがコンベア幅方向に沿って2mmピッチで1列に並べられた装置を使用した。水蒸気処理を行う際のオーバーフィードは約210%に設定し、加工速度は10m/分とした。
【0102】
得られた不織布は、目付が90.5g/m、厚みが1.07mm、密度が0.08g/cmであった。この不織布は嵩高であった。
また、得られた不織布において、コイルの平均ピッチ、コイル状捲縮の円の平均曲率半径、50%伸長時応力は、それぞれ、0.03mm、55μm、10.3N/50mm巾であった。
【0103】
得られた不織布の表面を電子顕微鏡(100倍)で撮影した。さらに、厚さ方向の断面を電子顕微鏡(100倍)で撮影した。その結果、得られた不織布は、各繊維が、厚さ方向において均一に略コイル状に捲縮するとともに、不織布の面方向に対して略平行にコイルを発現しつつ配向していることが観察できた。
【0104】
この不織布を以下の条件で染色した。染色は、不織布を染色液に浸漬することによって行った。染色液には、下記の親水化剤および下記の染料を下記の量で含む染色液を用いた。染色条件(染色温度、染色時間(不織布の染色液への浸漬時間))は下記のとおりである。
【0105】
親水化剤:北広ケミカル(株)製のプチナース3000(親水性ポリエステルポリエーテルブロック共重合体)。染色液は、該親水化剤を、不織布の重量に対して7重量%となる濃度で含む。
染料:紀和化学製のDRシリーズ染料であるYELLOW-DR、RED-DRおよびBLIE-DR。染色液は、アセテート繊維用草色に近くなる分散染料として、YELLOW-DR、RED-DRおよびBLUE-DRをそれぞれ、不織布の重量に対して約10重量%、約0.6重量%、約3重量%となる濃度で含む。
染色温度×染色時間:85℃×30分
【0106】
得られた植物巻き付け用不織布テープの保水率を測定したところ、589%であった。また、吸水速度を測定したところ、瞬時に吸水した。
植物巻き付け用不織布テープの30%伸長後回復率は、97%であった。
なお、使用した親水化剤である、北広ケミカル(株)製のプチナース3000の推奨する温度条件は120℃以上であるが、染色温度が100℃を超えると不織布のコイル状捲縮が消失するため、85℃×30分で染色を行った。適正温度以下であるため、吸着量はバラつき、付与した親水化剤7%全てが吸着しない可能性はあるものの、吸水速度試験で瞬時に吸水したことから、親水性を有するのに十分な吸着量は得られていると認められ、吸着量は不織布の重量に対して1~7重量%の範囲内であるといえる。
【0107】
得られた植物巻き付け用不織布テープを幅25mm、長さ1m程度のテープ状にし、植物の枝に見立てた二本の棒の先端部を連結させた状態で5重に巻き付け、これらの棒を固定した。枝に見立てた棒にはφ7.2mm、長さ176mm、重さが6.6gの木製の棒を用いた。
次に、不織布テープで連結させた棒を、地面に対して斜め45度の角度になるように下側で固定した。連結部に水をかけたところ瞬時に水を吸水した。連結部の不織布テープのズレや緩み、連結部での棒の曲がり、保水状態を8時間後に観察した。結果、不織布テープのズレや緩みは無く、連結部での棒の曲がりも見られなかった。不織布テープは保水して濡れた状態であった。
【0108】
また、得られた植物巻き付け用不織布テープを用いて破損したトマトの茎に、らせん状にいずれの部分も五重巻きとなるように巻き付けた。テープは巻き付けただけで接合し、巻き付け状態が外れるようなことはなかった。巻き付け端部は、テープ長さ方向に引っ張ることにより容易に引きちぎることができた。引きちぎられた端部は、飛び出している繊維の長さが不揃いであることから端部に近づくにしたがって繊維本数が少なくなる形状を有していた。そして引きちぎれた端部を周回前のテープ表面に重ねたところ、接合されて、巻き付けが剥がれることなく、端部の位置すら分からないほどに一体化された。そして、不織布テープの伸縮性は水の付与によっても変わらず、巻き付け状態が水分により緩むことはなかった。
【0109】
<実施例2>
目付が60.3g/mになるようにしたこと以外は実施例1と同様にして不織布を作製した。得られた不織布は、厚みが0.71mm、密度が0.09g/cmであった。この不織布は嵩高であった。
また、得られた不織布において、コイルの平均ピッチ、コイル状捲縮の円の平均曲率半径、50%伸長時応力は、それぞれ、0.03mm、52μm、7N/50mm巾であった。
【0110】
得られた不織布の表面を電子顕微鏡(100倍)で撮影した。さらに、厚さ方向の断面を電子顕微鏡(100倍)で撮影した。その結果、得られた不織布は、各繊維が、厚さ方向において均一に略コイル状に捲縮するとともに、不織布の面方向に対して略平行にコイルを発現しつつ配向していることが観察できた。
【0111】
上記不織布を用いたこと以外は実施例1と同様にして不織布の染色および不織布への親水化剤の付与を行った。
得られた植物巻き付け用不織布テープの保水率を測定したところ、820%であった。また、吸水速度を測定したところ、瞬時に吸水した。
植物巻き付け用不織布テープの30%伸長後回復率は、95%であった。
【0112】
得られた植物巻き付け用不織布テープを幅25mm、長さ1m程度のテープ状にし、植物の枝に見立てた二本の棒の先端部を連結させた状態で5重に巻き付け、これらの棒を固定した。枝に見立てた棒にはφ7.2mm、長さ176mm、重さが6.6gの木製の棒を用いた。
次に、不織布テープで連結させた棒を、地面に対して斜め45度の角度になるように下側で固定した。連結部に水をかけたところ瞬時に水を吸水した。連結部の不織布テープのズレや緩み、連結部での棒の曲がり、保水状態を8時間後に観察した。結果、不織布テープのズレや緩みは無く、連結部での棒の曲がりも見られなかった。不織布テープは保水して濡れた状態であった。
【0113】
得られた植物巻き付け用不織布テープを用いてブドウの木の接ぎ木を行った。すなわち、ブドウの木(台木)の切断面と新種のブドウの枝(穂木)の切断面とを合わせて、接合箇所に不織布テープが5重となるように巻き付け、30℃に保ち、朝昼夕3回接合箇所に水を付与した。
【0114】
巻き付けは極めて容易で、巻き付け端部は、テープ長さ方向に引っ張ることにより容易に引きちぎることができた。引きちぎられた端部を周回前のテープ表面に重ねることにより端部は接合されて、巻き付けが剥がれることはなかった。そしてこの状態で10日ほど後には台木と穂木の間が埋まり、両者の組織が繋がった。この間、巻き付け状態が緩むことがなく、また保水性が低下することもなかった。
【0115】
<比較例1>
精製セルロース繊維として、繊度1.7dtex、繊維長38mmのリヨセル繊維「テンセル(登録商標)」(Lenzing Fibers GmbH製)を用意した。このリヨセル繊維を100重量%用いて、セミランダムカードにより目付93.6g/mのカードウェブとした。
【0116】
上記で作製したカードウェブに水流交絡処理を施した。水流交絡処理は、孔径0.10mmのオリフィスが、0.6mm間隔で設けられたノズルを用いて、76メッシュの平織ポリエステルネットを支持体にし、ノズル2本を使用して、1列目のノズルから噴射した高圧水流の水圧を3.0MPa、2列目のノズルから噴射した高圧水流の圧を5.0MPa、5m/minの加工速度で行った。
その後、ウェブを支持体から剥離し、表裏逆転した後、再度水流交絡処理を施した。再度の水流交絡処理は、76メッシュの平織ポリエステルネットを支持体にし、1回目の水流交絡処理において水流を当てた面とは逆の面について、ノズル2本を使用して、一列目のノズルから噴射した高圧水流の水圧を3.0MPa、2列目のノズルから噴射した高圧水流の水圧を5.0MPa、5m/minの加工速度で行った。
【0117】
得られた不織布は、目付が93.6g/m、厚みが0.83mm、密度が0.11g/cmであった。
また、得られた不織布の50%伸長時応力を測定したところ、途中で破断してしまった。
【0118】
得られた不織布の表面および厚さ方向の断面を電子顕微鏡(100倍)で観察した結果、繊維が、厚さ方向において複雑に絡合しており、コイル状の構造は観察できなかった。
【0119】
本比較例においては、不織布の染色および不織布への親水化剤の付与は行わなかった。
得られた不織布の保水率を測定したところ、1100%であった。また、吸水速度を測定したところ、瞬時に吸水した。
得られた不織布の30%伸長後回復率を測定したところ、30%まで伸長する前に破断した。
【0120】
得られた不織布を幅25mm、長さ1m程度のテープ状にし、実施例1と同様に植物の枝に見立てた二本の棒の先端部を連結させた状態で5重に巻き付けようとしたところ、緩みが生じやすく巻き付けが困難であった。また、手で不織布を切断することができず、鋏で切断せざるを得なかった。二本の棒を連結させようとしたが不織布がすぐに剥がれて連結させることができなかった。
【0121】
<比較例2>
ポリエステル繊維として、繊度1.6dtex、繊維長51mmのポリエチレンテレフタレート繊維「T471」(東レ株式会社製)を用意した。このポリエチレンテレフタレート繊維を100重量%用いたこと以外は比較例1と同様の方法で不織布を得た。
【0122】
得られた不織布は、目付が60.7g/m、厚みが0.48mm、密度が0.13g/cmであった。
また、得られた不織布の50%伸長時応力を測定したところ、途中で破断してしまった。
【0123】
得られた不織布の表面および厚さ方向の断面を電子顕微鏡(100倍)で観察した結果、繊維が、厚さ方向において複雑に絡合しており、コイル状の構造は観察できなかった。
【0124】
本比較例においては、不織布の染色および不織布への親水化剤の付与は行わなかった。
得られた不織布の保水率を測定したところ、750%であった。また、吸水速度を測定したところ、21秒であった。
得られた不織布の30%伸長後回復率を測定したところ、30%まで伸長する前に破断した。
【0125】
得られた不織布を幅25mm、長さ1m程度のテープ状にし、実施例1と同様に植物の枝に見立てた二本の棒の先端部を連結させた状態で5重に巻き付けようとしたところ、緩みが生じやすく巻き付けが困難であった。また、手で不織布を切断することができず、鋏で切断せざるを得なかった。二本の棒を連結させようとしたが不織布がすぐに剥がれて連結させることができなかった。
【0126】
<比較例3>
株式会社 金岡より販売されている市販の「ステムテープ緑」(幅2cm×長さ7m)を購入した。
このステムテープは、目付が94.7g/m、厚みが0.53mm、密度が0.18g/cmであった。
また、ステムテープの50%伸長時応力を測定したところ、途中で破断してしまった。
【0127】
ステムテープの保水率を測定したところ、367%であった。また、吸水速度を測定したところ、41秒であった。
ステムテープの30%伸長後回復率を測定したところ、68%であった。
【0128】
実施例1と同様に、植物の枝に見立てた二本の棒の先端部を連結させた状態で5重に巻き付けたところ、巻き付けは容易であった。またステムテープは手で容易に切断することができた。
次に、ステムテープで連結させた棒を、地面に対して斜め45度の角度になるように下側で固定した。連結部に水をかけても水の吸水に時間を要した。連結部のステムテープのズレや緩み、連結部での棒の曲がり、ステムテープの保水状態を8時間後に観察した。結果、ステムテープで固定した棒はステムテープのズレや緩みが無く、連結部での棒の曲がりも見られなかったが、ステムテープは完全に乾いていた。
【0129】
実施例1、2および比較例1~3の結果を、下記表1に示す。
表1において、比較例1~3における保水率、吸水速度、30%伸長後回復率、棒の連結性、テープの手切れ性、連結部の濡れ性、および連結部の保水状態(8時間後)は、不織布または購入したステムテープについての結果である。比較例1および2において、連結部の濡れ性および連結部の保水状態(8時間後)は評価していない。
【0130】
【表1】
【符号の説明】
【0131】
1 植物巻き付け用不織布テープ、2 原木、3 接木、4 切花、5 切花を束ねた茎。
図1
図2