IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニバーシティー オブ フロリダ リサーチ ファンデーション, インク.の特許一覧 ▶ ザ ユーエービー リサーチ ファンデーションの特許一覧

特許7237843修飾されたAAVキャプシドタンパク質およびその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】修飾されたAAVキャプシドタンパク質およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/35 20060101AFI20230306BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230306BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230306BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230306BHJP
   C07K 14/015 20060101ALI20230306BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20230306BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
C12N15/35
A61K35/76
A61K48/00
A61P27/02
C07K14/015 ZNA
C12N7/01
C12N15/864 100Z
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2019546041
(86)(22)【出願日】2018-02-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 US2018019050
(87)【国際公開番号】W WO2018156654
(87)【国際公開日】2018-08-30
【審査請求日】2021-02-22
(31)【優先権主張番号】62/461,770
(32)【優先日】2017-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/625,486
(32)【優先日】2018-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501453307
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ フロリダ リサーチ ファンデーション, インク.
(73)【特許権者】
【識別番号】515039306
【氏名又は名称】ザ ユーエービー リサーチ ファンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】ゾロツキン,セルゲイ
(72)【発明者】
【氏名】ボエ,サンフォード,エル.
(72)【発明者】
【氏名】ボエ,シャノン,イー.
(72)【発明者】
【氏名】マーシク、ダミアン
(72)【発明者】
【氏名】ムジクツカ,ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】メンデス-ゴメス,ヘクター,ルーベン
(72)【発明者】
【氏名】ガムリン,ポール,デー.
【審査官】山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-533709(JP,A)
【文献】特表2016-520311(JP,A)
【文献】米国特許第06156303(US,A)
【文献】国際公開第2015/134643(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/011404(WO,A2)
【文献】国際公開第2015/121501(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バリアント組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)キャプシドタンパク質であって、以下のアミノ酸置換の組み合わせ:
(a)野生型AAV2 VP1キャプシドタンパク質のアミノ酸263、264、492、493、494、499および500に対応する位置における、夫々、アスパラギン、アラニン、アスパラギン酸、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸およびフェニルアラニンでの置換、ならびに、野生型AAV2 VP1キャプシドタンパク質のアミノ酸546~556に対応する位置におけるSAAGADXAXDS(配列番号5)での置換、
(b)野生型AAV2 VP1キャプシドタンパク質のアミノ酸263、490、492、499、500および530に対応する位置における、夫々、アラニン、スレオニン、プロリン、アスパラギン酸、フェニルアラニン、およびアスパラギン酸での置換、
(c)野生型AAV2 VP1キャプシドタンパク質のアミノ酸263、264、444、451、454、455、459、527、530および531に対応する位置における、夫々、アスパラギン、アラニン、フェニルアラニン、アラニン、アスパラギン、バリン、スレオニン、アルギニン、アスパラギン酸、およびアスパラギン酸での置換、
(d)野生型AAV2 VP1キャプシドタンパク質のアミノ酸492、493、494、499および500に対応する位置における、夫々、アスパラギン酸、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、およびフェニルアラニンでの置換、ならびに、野生型AAV2 VP1キャプシドタンパク質のアミノ酸545~556に対応する位置におけるEDATENXIXXDR(配列番号4)での置換、
(e)野生型AAV2 VP1キャプシドタンパク質のアミノ酸263、491、492、494、500および503に対応する位置における、夫々、アラニン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、およびプロリンでの置換、ならびに、
(f)野生型AAV2 VP1キャプシドタンパク質のアミノ酸444、451~461、490、492、499、500および530に対応する位置における、夫々、フェニルアラニン、GAXNMXTXAXR(配列番号31)、スレオニン、プロリン、アスパラギン酸、フェニルアラニン、およびアスパラギン酸での置換、
のうちのいずれか1つを含み、各Xは、配列番号1に記載される野生型AAV2 VP1キャプシド配列のアミノ酸に対応する、前記rAAVキャプシドタンパク質。
【請求項2】
(a)に記載のアミノ酸置換の組み合わせを含み、血清型2のものであり、配列番号12で表されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のrAAVキャプシドタンパク質。
【請求項3】
野生型AAV2 VP1キャプシドタンパク質のアミノ酸272、444および730に対応する位置においてフェニルアラニンをさらに含む、請求項2に記載のrAAVキャプシドタンパク質。
【請求項4】
野生型AAV2 VP1キャプシドタンパク質のアミノ酸491に対応する位置においてバリンをさらに含む、請求項2または3に記載のrAAVキャプシドタンパク質。
【請求項5】
(b)に記載のアミノ酸置換の組み合わせを含み、血清型2のものであり、配列番号24で表されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のrAAVキャプシドタンパク質。
【請求項6】
(c)に記載のアミノ酸置換の組み合わせを含み、血清型2のものであり、配列番号25で表されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のrAAVキャプシドタンパク質。
【請求項7】
(d)に記載のアミノ酸置換の組み合わせを含み、血清型2のものであり、配列番号11で表されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のrAAVキャプシドタンパク質。
【請求項8】
(e)に記載のアミノ酸置換の組み合わせを含み、血清型2のものである、請求項1に記載のrAAVキャプシドタンパク質。
【請求項9】
(f)に記載のアミノ酸置換の組み合わせを含み、血清型2のものである、請求項1に記載のrAAVキャプシドタンパク質。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載のrAAVキャプシドタンパク質を含む、組み換えAAV(rAAV)粒子。
【請求項11】
逆位末端反復配列(ITR)および目的の遺伝子を含む核酸をさらに含む、請求項10に記載の組み換えAAV(rAAV)粒子。
【請求項12】
目的の遺伝子が、治療用タンパク質をコードし、治療用タンパク質が、抗体または抗体フラグメント、ペプチボディ、増殖因子、ホルモン、膜タンパク質、サイトカイン、ケモカイン、細胞表面受容体またはイオンチャネルに対して作用する活性化性または阻害性のペプチド、細胞内プロセスを標的とする細胞浸透性ペプチド、酵素、またはヌクレアーゼである、請求項11に記載のrAAV粒子。
【請求項13】
核酸が、i)一本鎖またはii)二本鎖である、請求項11または12に記載のrAAV粒子。
【請求項14】
rAAV粒子がrAAV2粒子である、請求項10~12のいずれか一項に記載のrAAV粒子。
【請求項15】
請求項10~14のいずれか一項に記載のrAAV粒子を複数含む、組成物。
【請求項16】
ある型の網膜細胞にインビトロまたはエキソビボで形質導入する方法であって、網膜細胞に、請求項15に記載の組成物を提供することを含む、前記方法。
【請求項17】
医薬としての使用のための、請求項10~14のいずれか一項に記載のrAAV粒子または請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
対象の1以上の網膜細胞への投与における使用のための、請求項10~14のいずれか一項に記載のrAAV粒子または請求項1に記載の組成物。
【請求項19】
硝子体内注射としての使用のための、請求項1に記載のrAAV粒子または組成物。
【請求項20】
網膜下注射としての使用のための、請求項1に記載のrAAV粒子または組成物。
【請求項21】
1以上の網膜細胞が、視細胞、線維柱帯網、網膜神経節細胞、双極細胞、ミュラー細胞、アマクリン細胞、星状膠細胞、水平細胞および網膜色素上皮細胞からなる群より選択される、請求項18~20のいずれか一項に記載のrAAV粒子または組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2017年2月21日に出願された米国仮出願番号62/461,770、および2018年2月2日に出願された米国仮出願番号No. 62/625,486の利益を主張し、これらの全開示は、本明細書において参考として援用される。
【0002】
政府の支援
本発明は、国立衛生研究所により付与されたRO1EY024280およびHL097088-05A1下における政府の支援によりなされた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
背景
アデノ随伴ウイルス(AAV)粒子は、遺伝子送達のために有用なビヒクルとして現れつつある。異なるAAV血清型は、特定の器官指向性を有し、このことは、遺伝子に基づく治療薬を標的器官に対してターゲティングするために有利であり得るが(例えば、Surace et al., Vision Res. 2008, 48(3):353-9;Zincarelli et al., Mol Ther. 2008,16(6):1073-80を参照)、一方で、AAVにおける特定の器官または組織を標的とすることについての効率の増大は、多大な利益となるであろう。かかる組織の一例は、網膜である。
【発明の概要】
【0004】
概要
AAV粒子の器官または組織への指向性は、完全にではないとしても高度に、粒子表面の構造またはキャプシドに依存する。AAV血清型2(AAV2)は、網膜に対する指向性を有し、網膜に遺伝子を送達するために用いられる(例えば、Vandenberghe et al., Gene Ther. 2012, 19(2):162-8を参照)。AAV2キャプシドは、3つのタンパク質、VP1、VP2およびVP3から構成される。本明細書において提供されるのは、バリアント(例えば修飾された)AAV(例えばAAV2)キャプシドタンパク質および網膜細胞(例えば視細胞(photoreceptor)、網膜神経節細胞および網膜神経細胞)に形質導入する効率が改善されている粒子についての組成物および方法である。本開示は、少なくとも部分的に、AAV2のキャプシドタンパク質中にアミノ酸の置換または変異を有するキャプシドバリアントを含むAAV2キャプシドライブラリーの、マウスモデルおよびマカクモデルにおけるin vivoスクリーニングを用いる、網膜細胞に形質導入する効率が野生型キャプシドタンパク質を含むrAAV2粒子と比較して高い修飾キャプシドタンパク質を含むAAV2(AAV2)バリアントタンパク質(例えば修飾AAV2キャプシドタンパク質)および組み換え粒子の同定に基づく。
【0005】
いくつかの態様において、本明細書において提供されるのは、バリアント(例えば修飾された)組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)血清型2(AAV2)キャプシドタンパク質であって、これは、可変領域(VR)V(VRV)における配列DGEおよび/またはDF、ならびに以下の配列および/または置換のセット:
(a)VRVIIにおけるEDATENXIXXDR(配列番号4において記載されるとおり)、
(b)VRIにおけるNA;およびVRVIIにおけるSAAGADXAXDS(配列番号5において記載されるとおり)、
(c)VRIにおけるNA;およびVRVIIにおけるEDATENXIXXDR(配列番号4において記載されるとおり)、
(d)VRVIIにおけるSAAGADXAXDS(配列番号5において記載されるとおり)置換、
(e)VRIにおけるNA;およびVRVIIにおけるSAAGADXAXDS(配列番号5において記載されるとおり)、
(f)ループIにおけるQからAへの置換;およびVRVIIにおけるEDATENXIXXDR(配列番号4において記載されるとおり)、
(g)ループIにおけるQからAへの置換;VRVにおけるKからTへの置換;およびVRVIIにおけるEDATENXIXXDR(配列番号4において記載されるとおり)、ならびに
(h)位置267におけるSからWへの置換;およびVRVIIにおけるEDATENXIXXDR(配列番号4において記載されるとおり)
のうちのいずれか1つ以上を含む。Xは、任意のアミノ酸(例えば、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファンまたはバリン)であってよい。
【0006】
いくつかの態様において、本明細書において提供されるのは、VRVにおいて配列DGEおよび/またはDFを含むバリアント(例えば修飾された)組み換えAAV2キャプシドタンパク質である。いくつかの態様において、本明細書において提供されるのは、VRVにおいて配列DGEおよび/またはDF、ならびにVRIにおけるNAを含む、バリアント組み換えAAV2キャプシドタンパク質である。
【0007】
いくつかの態様において、本明細書において提供されるのは、以下の配列および/または置換のセット:
(a’’’)VRIにおけるNA;位置444におけるF;およびVRIVにおけるDEAXSEXKXTXR(配列番号7において記載されるとおり)、
(b’’’)VRIIにおけるQ325K;Y444F;VRIVにおけるS452A、T454NおよびT455V;およびVRVIにおけるRXXDD(配列番号8において記載されるとおり)、
(c’’’)VRIにおけるQ263A;VRVにおけるK490T、S492P、E499DおよびY500F;ならびにVRVIにおけるE530D、
(d’’’)VRIにおけるNA;Y444F;VRIVにおけるP451A、T454N、T455VおよびR459T;およびVRVIにおけるRXXDD(配列番号8において記載されるとおり)、
(e’’’)VRVIにおけるE530D、
(f’’’)VRVにおけるQDXE(配列番号9において記載されるとおり)ならびに置換Y500FおよびT503P、ならびに
(g’’’)VRIにおけるEA;VRVにおけるT491VおよびY500F;ならびにVRVIIにおけるAAADDXEXDG(配列番号10において記載されるとおり)、
のうちのいずれか1つを含む、バリアント(例えば修飾された)組み換えAAV2キャプシドタンパク質である。Xは、任意のアミノ酸(例えば、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファンまたはバリン)であってよい。
【0008】
いくつかの態様において、Xにより表されるアミノ酸は、配列番号1に記載されるとおりの野生型AAV2配列におけるアミノ酸である。例えば、配列EDATENXIXXDRは、配列番号4において記載されるとおり、配列番号1において記載されるような野生型AAV2 VP1タンパク質のVRVIIにおけるアミノ酸545~556に対して相同である。したがって、いくつかの態様において、配列EDATENXIXXDRは、配列EDATENNIDIDRであってもよい。同様に、いくつかの態様において、配列RXXDD(配列番号8)は、配列RDDDDである。
【0009】
いくつかの態様において、バリアントrAAV2キャプシドタンパク質は、VRVにおいて配列DGEおよび/またはDF、ならびにVRVIIにおいて配列EDATENXIXXDR(配列番号4において記載される)を含む。いくつかの態様において、バリアントrAAV2キャプシドタンパク質は、VRVにおいて配列DGEおよび/またはDF、ならびにVRIにおけるNA;およびVRVIIにおいてSAAGADXAXDS(配列番号5において記載される)を含む。
【0010】
本開示はまた、部分的に、合理的なキャプシドの設計に基づいてより多くのアミノ酸置換を導入することによる、網膜細胞に形質導入する効率が野生型よりも高いrAAV2キャプシドバリアントの性能のさらなる改善に基づく。したがって、また、いくつかの態様において、本明細書において提供されるのは、合理的に設計されるアミノ酸置換をさらに含む、バリアントrAAV2キャプシドタンパク質である。本明細書において開示されるバリアントrAAV2キャプシドタンパク質のうちのいずれか1つは、置換Y444Fをさらに含んでもよい。いくつかの態様において、バリアントrAAV2キャプシドタンパク質は、VRVにおける配列DGEおよび/またはDF、上記のようなセット(a’’’)~(c’’’)および(e’’’)~(h’’’)における配列および/または置換のうちのいずれか1つ、ならびに置換Y444Fを含む。いくつかの態様において、本明細書において開示されるバリアントrAAV2キャプシドタンパク質のうちのいずれか1つは、置換Y730Fをさらに含んでもよい。いくつかの態様において、VRVにおいて配列DGEおよび/またはDFを含むバリアント(例えば修飾された)組み換えAAV2キャプシドタンパク質は、以下の置換:Y252F、Y272F、Y444F、Y700F、Y704F、Y730FおよびT491Vのうちの1つ以上をさらに含む。いくつかの態様において、VRVにおいて配列DGEおよび/またはDFおよびVRIにおけるNAを含むバリアント(例えば修飾された)組み換えAAV2キャプシドタンパク質は、以下の置換:Y252F、Y272F、Y444F、Y700F、Y704F、Y730FおよびT491Vのうちの1つ以上をさらに含む。いくつかの態様において、本明細書において開示されるバリアントrAAV2キャプシドタンパク質のうちのいずれか1つは、置換Y272F、Y444F、Y730FおよびT491Vをさらに含む。
【0011】
本明細書において開示されるバリアント(例えば修飾された)rAAV2キャプシドタンパク質のうちのいずれか1つは、置換Y252Fをさらに含んでもよい。本明細書において開示される修飾rAAV2キャプシドタンパク質のうちのいずれか1つは、置換Y272Fをさらに含んでもよい。本明細書において開示されるバリアントrAAV2キャプシドタンパク質のうちのいずれか1つは、置換Y500Fをさらに含んでもよい。本明細書において開示されるバリアントrAAV2キャプシドタンパク質のうちのいずれか1つは、置換Y700Fをさらに含んでもよい。本明細書において開示されるバリアントrAAV2キャプシドタンパク質のうちのいずれか1つは、置換Y704Fをさらに含んでもよい。いくつかの態様において、本明細書において開示されるバリアントrAAV2キャプシドタンパク質のうちのいずれか1つは、バリンがその位置において既に存在しない場合には、置換T491Vをさらに含んでもよい。いくつかの態様において、バリアントrAAV2キャプシドタンパク質は、上記のような配列および/または置換のセット(a’’’)、(b’’’)、(c’’’)および(e’’’)のうちのいずれか1つを含み、置換Y500Fをさらに含む。
【0012】
いくつかの態様において、本明細書において開示される修飾キャプシドのうちのいずれか1つは、VP1、VP2およびVP3の位置587または588において6~8個のアミノ酸の挿入を含んでもよい。
いくつかの態様において、修飾されたAAV2キャプシドタンパク質は、VP3タンパク質である。いくつかの態様において、修飾されたAAV2キャプシドタンパク質は、VP2タンパク質である。いくつかの態様において、修飾されたAAV2キャプシドタンパク質は、VP1タンパク質である。
いくつかの側面において、本明細書において提供されるのは、本明細書において開示される修飾されたAAV2キャプシドタンパク質のうちのいずれか1つを含む、rAAV粒子である。いくつかの態様において、バリアントrAAV2粒子は、逆位末端反復配列(ITR)を含む核酸を含む。いくつかの態様において、本明細書において開示されるバリアントrAAV2粒子のうちのいずれか1つは、目的の遺伝子を含む核酸を含む。
【0013】
いくつかの態様において、バリアントrAAV2粒子中に含まれる核酸は、一本鎖である。いくつかの態様において、バリアントrAAV2粒子中に含まれる核酸は、二本鎖である。
いくつかの側面において、本明細書において提供されるのは、本明細書において開示されるバリアントrAAV2粒子のうちのいずれか1つを複数含む組成物である。いくつかの態様において、rAAV粒子の組成物は、薬学的に受入可能なキャリアをさらに含む。
【0014】
いくつかの側面において、ここで提供されるのはまた、網膜細胞に遺伝子で形質導入するために、本明細書において開示される粒子のうちのいずれか1つを使用する方法である。いくつかの態様において、視細胞(photoreceptor cell)および/または網膜神経節細胞に目的の遺伝子で形質導入する方法は、視細胞に、本明細書において開示される組成物のうちのいずれか1つを提供することを含む。いくつかの態様において、視細胞および/または網膜神経節細胞に提供されるAAV2粒子は、目的の遺伝子を含む。いくつかの態様において、組成物は、視細胞および/または網膜神経節細胞を担持する対象への硝子体内注射を介して、視細胞および/または網膜神経節細胞に提供される。いくつかの態様において、組成物は、視細胞および/または網膜神経節細胞を担持する対象への網膜下注射を介して、視細胞および/または網膜神経節細胞に提供される。いくつかの態様において、組成物は、視細胞および/または網膜神経節細胞を担持する対象への内境界膜下注射を介して、視細胞および/または網膜神経節細胞に提供される(例えば、Hum Gene Ther. 2016 Aug;27(8):580-97を参照)。
【0015】
本明細書において提供されるのはまた、上衣細胞またはプルキンエ細胞に目的の遺伝子で形質導入する方法である。いくつかの態様において、方法は、上衣細胞またはプルキンエ細胞に、バリアント組み換えAAV2キャプシドタンパク質を含む複数の組み換えAAV2粒子を含む組成物を提供することを含み、ここで、キャプシドタンパク質は、VRVにおける配列DGEおよび/またはDF、ならびにVRIにおけるNA;ならびにVRVIIにおけるSAAGADXAXDS(配列番号5において記載されるとおり)を含む。いくつかの態様において、組成物は、上衣細胞またはプルキンエ細胞を担持する対象への脳室内注射を介して、上衣細胞またはプルキンエ細胞に提供される。
【0016】
いくつかの態様において、対象は、哺乳動物である。いくつかの態様において、哺乳動物は、ヒトである。いくつかの態様において、目的の遺伝子は、治療用タンパク質をコードする。治療用タンパク質は、抗体または抗体フラグメント、ペプチボディ、増殖因子、ホルモン、膜タンパク質、サイトカイン、ケモカイン、細胞表面受容体またはイオンチャネルに対して作用する活性化性または阻害性のペプチド、細胞内プロセスを標的とする細胞浸透性ペプチド、酵素、遺伝子編集のために用いられるヌクレアーゼまたは他のタンパク質であってよい。いくつかの態様において、目的の遺伝子は、リボザイムRNA、shRNAもしくはmiRNAなどの遺伝子発現を制御するためのRNA、または遺伝子編集のためのガイドRNAをコードする。
【0017】
いくつかの態様において、本明細書において提供されるのは、以下を含むバリアント(例えば修飾された)組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)血清型2(AAV2)キャプシドタンパク質である:(a’)可変領域I(VRI)におけるXX;可変領域V(VRV)におけるQDXE;Y500F;およびT503P、(b’)VRIにおけるXX;Y444F;可変領域IV(VRIV)におけるSD、ID、および/またはNXM;S492A;VRVにおけるDF;および可変領域VI(VRVI)におけるDG、(c’)VRIにおけるXXおよび/またはX;Y444F;T450D;T454S;VRIVにおけるMXTXR;T491V;Y500F;およびE531D、(d’)VRIにおけるNA;可変VRVにおけるDGEおよびDF;およびQ545E、(e’)VRIにおけるDAXXT;Y444F;VRIVにおけるAXMXKXH(配列番号30);VRVにおけるYN;Y500F;K507T;およびVRIVにおけるDXR、(f’)Y444F;VRIVにおけるGAXNMXTXAXR(配列番号31);VRVにおけるTXPおよびDF;およびE530D、(g’)VRIにおけるXX;T491V;Y500F;および可変領域VII(VRVII)におけるAAADDXEXDG(配列番号10)、(h’)VRIにおけるXX;E530D;およびVRVIIにおけるAGRADIXXXS(配列番号33)、あるいは(i')VRIにおけるXXおよび/またはX;VRVにおけるQDXE;Y500F;T503P;およびVRVIIにおけるSAAGADXAXDS(配列番号5)。ここで、Xは任意のアミノ酸(例えばアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファンまたはバリン)であってよい。いくつかの態様において、任意の1つ以上のX(例えば全てのX)は、野生型AAV2キャプシドタンパク質における対応する位置において存在する野生型アミノ酸である。
【0018】
いくつかの態様において、バリアント(例えば修飾された)組み換えAAV2キャプシドタンパク質は、以下を含む:(a’’)VRIにおけるQS、NA、EA、DA、AS、AA、DT、NS、GA、GS、RS、TA、TS、ES、GT、QA、またはTT;VRVにおけるQDXE;Y500F;およびT503P、(b’’)VRIにおけるQS、NT、ES、GS、NA、AS、AA、GAまたはDS;Y444F;VRIVにおけるSD、ID、および/またはNXM;S492A;VRVにおけるDF;およびVRVIにおけるDG、(c’’)VRIにおけるQSGAS(配列番号46)、NAGAS(配列番号47)、TTGAT(配列番号48)、EAGAS(配列番号49)、TTGAS(配列番号50)またはGAGAS(配列番号51)、(d’’)VRIにおけるQS、EA、QA、NA、ASまたはES;T491V;Y500F;およびVRVIIにおけるAAADDXEXDG(配列番号10)、(e’’)VRIにおけるQS、DS、NA、AS、DAまたはAT;E530D;およびVRVIIにおけるAGRADIXXXS(配列番号33)、あるいは(f’’)VRIにおけるQSGAS(配列番号46)、NAGAS(配列番号47)、ASGAS(配列番号52)、GAGAS(配列番号51)、TAGAS(配列番号53)、QTGAS(配列番号54)またはTTGAS(配列番号50);VRVにおけるQDXE;Y500F;T503P;およびVRVIIにおけるSAAGADXAXDS(配列番号5)。
【0019】
本開示はまた、部分的に、合理的なキャプシドの設計に基づいてより多くのアミノ酸置換を導入することによる、網膜細胞に形質導入する効率が野生型よりも高いrAAV2キャプシドバリアントの性能のさらなる改善に基づく。したがって、またいくつかの態様において本明細書において提供されるのは、合理的に設計されるアミノ酸置換をさらに含む、バリアントrAAV2キャプシドタンパク質である。本明細書において開示されるバリアントrAAV2キャプシドタンパク質のうちのいずれか1つは、置換Y444Fをさらに含んでもよい。いくつかの態様において、バリアントrAAV2キャプシドタンパク質は、上記のような(a’)~(i’)または(a’’)~(f’’)のセットにおける配列および/または置換のうちのいずれか1つ、および置換Y444Fを含む。いくつかの態様において、本明細書において開示されるバリアントrAAV2キャプシドタンパク質のうちのいずれか1つは、置換Y730Fをさらに含んでもよい。いくつかの態様において、バリアントrAAV2キャプシドタンパク質は、上記のような(a’)~(i’)または(a’’)~(f’’)のセットにおける配列および/または置換のうちのいずれか1つ、および置換Y730Fを含む。いくつかの態様において、本明細書において開示されるバリアントrAAV2キャプシドタンパク質のうちのいずれか1つは、置換Y272Fをさらに含んでもよい。いくつかの態様において、バリアントrAAV2キャプシドタンパク質は、上記のような(a’)~(i’)または(a’’)~(f’’)のセットにおける配列および/または置換のうちのいずれか1つ、および置換Y272Fを含む。いくつかの態様において、本明細書において開示されるバリアントrAAV2キャプシドタンパク質のうちのいずれか1つは、バリンがその位置において既に存在しない場合には、置換T491Vをさらに含んでもよい。いくつかの態様において、バリアントrAAV2キャプシドタンパク質は、上記のような(a’)~(i’)または(a’’)~(f’’)のセットにおける配列および/または置換のうちのいずれか1つ、および置換T491Vを含む。いくつかの態様において、本明細書において開示されるバリアントrAAV2キャプシドタンパク質のうちのいずれか1つは、置換Y500Fをさらに含んでもよい。いくつかの態様において、バリアントrAAV2キャプシドタンパク質は、上記のような(a’)~(i’)または(a’’)~(f’’)の配列および/または置換のセットのうちのいずれか1つを含み、および置換Y500Fをさらに含む。
【0020】
いくつかの態様において、バリアントrAAV2キャプシドタンパク質は、VP3タンパク質である。いくつかの態様において、バリアントrAAV2キャプシドタンパク質は、VP2タンパク質である。いくつかの態様において、バリアントrAAV2キャプシドタンパク質は、VP1タンパク質である。
いくつかの側面において、本明細書において提供されるのは、本明細書において開示されるバリアントrAAV2キャプシドタンパク質のうちのいずれかを含むrAAV粒子である。いくつかの態様において、バリアントrAAV2粒子は、逆位末端反復配列(ITR)を含む核酸を含む。いくつかの態様において、本明細書において開示されるバリアントrAAV2粒子のうちのいずれか1つは、目的の遺伝子を含む核酸を含む。
【0021】
いくつかの態様において、バリアントrAAV2粒子中に含まれる核酸は、一本鎖である。いくつかの態様において、バリアントrAAV2粒子中に含まれる核酸は、二本鎖である。いくつかの態様において、バリアントrAAV2粒子中に含まれる核酸は、自己相補性rAAVゲノム(例えばscAAV2ゲノム)である。
いくつかの側面において、本明細書において提供されるのは、本明細書において開示されるバリアントrAAV2粒子のうちのいずれか1つを複数含む組成物である。いくつかの態様において、rAAV粒子の組成物は、薬学的に受入可能なキャリアをさらに含む。
【0022】
いくつかの側面において、ここで提供されるのはまた、網膜細胞に、遺伝子(例えば目的の遺伝子)により形質導入するために、本明細書において開示される粒子のうちのいずれか1つを使用する方法である。いくつかの態様において、視細胞および/または網膜神経節細胞に目的の遺伝子で形質導入する方法は、視細胞に、本明細書において開示される組成物のうちのいずれか1つを提供することを含む。いくつかの態様において、視細胞および/または網膜神経節細胞に提供されるAAV2粒子は、目的の遺伝子を含む。いくつかの態様において、組成物は、視細胞および/または網膜神経節細胞を担持する対象への硝子体内注射を介して、視細胞および/または網膜神経節細胞に提供される。いくつかの態様において、組成物は、視細胞および/または網膜神経節細胞を担持する対象への網膜下注射を介して、視細胞および/または網膜神経節細胞に提供される。
【0023】
いくつかの態様において、対象は、哺乳動物である。いくつかの態様において、哺乳動物は、ヒトである。いくつかの態様において、目的の遺伝子は、治療用タンパク質をコードする。治療用タンパク質は、例えば、抗体または抗体フラグメント、ペプチボディ、増殖因子、ホルモン、膜タンパク質、サイトカイン、ケモカイン、細胞表面受容体またはイオンチャネルに対して作用する活性化性または阻害性のペプチド、細胞内プロセスを標的とする細胞浸透性ペプチド、酵素、遺伝子編集のために用いられるヌクレアーゼまたは他のタンパク質であってよい。
【0024】
AAV(例えばAAV2)のヘパリン結合ドメインにおいて挿入される特定のペプチド配列は、形質導入効率を増強することが知られている。例えば、Koerbelinら(EMBO Mol Med. 2016 Jun 1;8(6):609-25)、Michelfelderら(PLoS One. 2009;4(4):e5122. doi:10.1371/journal.pone.0005122)、およびKoerbelinら(Mol Ther. 2016 Jun;24(6):1050-1061. doi:10.1038/mt.2016.62)を参照。したがって、いくつかの態様において、本明細書において開示される任意の1つのバリアントキャプシドは、VP1、VP2およびVP3の位置587または588において6~8個のアミノ酸の挿入を含んでもよい。いくつかの態様において、ここで開示されるバリアントrAAV(例えばバリアントrAAV2)キャプシドタンパク質のうちのいずれか1つは、ペプチドをさらに含む。いくつかの態様において、ペプチドは、Koerbelinら(EMBO Mol Med. 2016 Jun 1;8(6):609-25)、Michelfelderら(PLoS One. 2009;4(4):e5122. doi:10.1371/journal.pone.0005122)、およびKoerbelinら(Mol Ther. 2016 Jun;24(6):1050-1061. doi:10.1038/mt.2016.62)において開示されるペプチドのうちのいずれか1つであってよい。いくつかの態様において、ここで開示されるバリアントrAAV(例えばバリアントrAAV2)キャプシドタンパク質のうちのいずれか1つは、以下のペプチドのうちのいずれか1つを1つ以上さらに含む:LALGETTRPA(配列番号66)、NRGTEWD(配列番号67)、ADGVQWT(配列番号68)、GEARISA(配列番号69)、SGNSGAA(配列番号70)、ESGLSQS(配列番号71)、EYRDSSG(配列番号72)、DLGSARA(配列番号73)、PRSADLA(配列番号74)、PRSTSDP(配列番号75)、およびESGHGYF(配列番号76)。本明細書において開示されるバリアントrAAV(例えばバリアントrAAV2)キャプシドタンパク質のうちのいずれか1つのいくつかの態様において、ペプチドは、アミノ酸位置587と588との間に挿入される。本明細書において開示されるバリアントrAAV(例えばバリアントrAAV2)キャプシドタンパク質のうちのいずれか1つのいくつかの態様において、LALGETTRPA(配列番号66)、NRGTEWD(配列番号67)、ADGVQWT(配列番号68)、GEARISA(配列番号69)、SGNSGAA(配列番号70)、ESGLSQS(配列番号71)、EYRDSSG(配列番号72)、DLGSARA(配列番号73)、PRSADLA(配列番号74)、PRSTSDP(配列番号75)、およびESGHGYF(配列番号76)のうちの1つ以上が、アミノ酸585と588との間に存在する。本明細書において開示されるバリアントrAAV(例えばバリアントrAAV2)キャプシドタンパク質のうちのいずれか1つのいくつかの態様において、LALGETTRPA(配列番号66)、NRGTEWD(配列番号67)、ADGVQWT(配列番号68)、GEARISA(配列番号69)、SGNSGAA(配列番号70)、ESGLSQS(配列番号71)、EYRDSSG(配列番号72)、DLGSARA(配列番号73)、PRSADLA(配列番号74)、PRSTSDP(配列番号75)、およびESGHGYF(配列番号76)のうちの1つ以上が、アミノ酸587と588との間に存在する。
【0025】
いくつかの態様において、本明細書において開示されるバリアント組み換えAAV2キャプシドタンパク質のうちのいずれか1つは、以下の置換:Y252F、Y272F、Y444F、Y700F、Y704F、Y730FおよびT491V、またはこれらの任意の組み合わせ(例えばこれらのうちの2、3、4、5、もしくは6つ、またはこれらの7つ全ての任意の組み合わせ)のうちのいずれか1つを1つ以上さらに含む。
【0026】
図面の簡単な説明
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本開示のある側面をさらに示すために含まれており、本開示のある側面は、本明細書において提示される具体的な態様の詳細な説明と組み合わせたこれらの図面のうちの1つ以上への参照により、よりよく理解され得る。図面において説明されるデータは、決して本開示の範囲を限定するものではないことが、理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1A~1Cは、AAVキャプシドライブラリーの一例の特徴を示す。図1Aは、可変ループを有する野生型AAV2タンパク質の構造を示す。図1Bは、野生型AAV2キャプシドの構造を示す。図1Cは、CAPLIB-7キャプシドライブラリーを表し、これは、インプット(input)プラスミドおよびキャプシドの多様性を示す。
図2図2は、網膜細胞に形質導入することについて、マウスにおいてどのようにしてCAPLIB-7 AAVキャプシドライブラリーをスクリーニングしたかを表す。3回のスクリーニングを行い、ここで、Nrl-GFPマウスに、コンビナトリアルなAAVライブラリーおよび出現率に基づいて同定したAAVバリアントを、硝子体内注射した。
【0028】
図3図3は、AAVキャプシドライブラリーの硝子体内注射の後のNrl-GFPマウスにおける3回のスクリーニングの後の結果を示す。出現率の順にバリアントを示し、一番上が最も出現率が高いものである。
図4図4は、網膜細胞、特に視細胞(PR)および網膜神経節細胞(RGC)に形質導入することについて、非ヒト霊長類(NHP)においてどのようにしてCAPLIB-7 AAV2キャプシドライブラリーをスクリーニングしたかを示す。霊長類網膜において、外側膝状核(LGN)中へのTRITC-デキストラン-ビオチンの直接注射および逆行性輸送によるAAV5-GRK1-GFPおよび網膜神経節細胞(RGC)の網膜下注射を介して、視細胞(PR)を含む選別可能な細胞集団を作出した。硝子体内(Ivt)注射による生体内(in-life)相の間にキャプシドライブラリーを送達した。
【0029】
図5図5は、霊長類スクリーニングから同定された最も出現率が高いAAV2バリアントを示す。
図6図6A~6C。図6Aは、Nrl-GFPマウスにおけるAAV2バリアントVa粒子を担持するSc-smCBA-mCherryの硝子体内注射の3週間後に撮影された眼底画像を示す。図6Bは、AAV2(QuadYF+T-V)またはAAV2-Vaを硝子体内注射したNrl-GFPマウスからの網膜細胞の代表的な蛍光励起細胞分取(FACS)散布図を示す。図6Cは、FACSにより示されるとおりのNrl-GFPマウスの形質導入率の定量を示す。数値は、ベクター1つあたりの6個の眼の平均である。黒いバーは、桿体視細胞を表し、灰色のバーは、非桿体神経網膜細胞を表す。
【0030】
図7図7A~7Bは、Sc-smCBA-mCherryを担持するAAV2-Va粒子を脳室(第三脳室)内注射されたマウスからの脳切片におけるmCherry発現を示す。図7Aは、上衣細胞を含む切片におけるmCherryの発現を示す。図7Bは、プルキンエ細胞を含む切片におけるmCherryの発現を示す。
図8図8A~8C。図8Aは、Nrl-GFPマウスにおけるAAV2バリアントVb粒子を担持するSc-smCBA-mCherryの硝子体内注射の3週間後に撮影された眼底画像を示す。図8Bは、AAV2(QuadYF+T-V)またはAAV2-Vbを硝子体内注射したNrl-GFPマウスからの網膜細胞の代表的な蛍光励起細胞分取(FACS)散布図を示す。図8Cは、FACSにより示されるとおりの、Nrl-GFPマウスにおける形質導入率の定量を示す。数値は、ベクター1つあたりの6個の眼の平均である。黒いバーは、桿体視細胞を表し、灰色のバーは、非桿体神経網膜細胞を表す。
【0031】
図9図9は、ARPE19網膜上皮細胞におけるAAV2-V2バリアントの形質導入効率を示す。細胞を、10,000の感染多重度(MOI)において感染させた。
図10図10A~10Cは、AAV2バリアントV2についての形質導入効率を示す。図10Aは、眼底検査を用いて観察されるとおりの、マウス網膜におけるmCherry蛍光を示す。図10Bは、AAV2-V2またはAAV2(QuadYF+T-V)を硝子体内注射したNrl-GFPマウスの代表的なFACS散布図を示す。マウスを、注射の4週間後に安楽死させた。図10Cは、AAV2(quadY-F+T-V)と比較した形質導入効率を示す。マウスを、1.2e12vg/mlのSc-smCBA-mCherryの注射の4週間後に安楽死させた。数値は、ベクター1つあたりの6個の眼の平均である。
【0032】
図11図11は、ARPE19細胞におけるAAV2-V3の形質導入効率を示す。細胞を、10,000の感染多重度(MOI)において感染させた。
図12図12A~12Cは、AAV2バリアントV3についての形質導入効率を示す。図12Aは、眼底検査を用いて観察されるとおりの、マウス網膜におけるmCherry蛍光を示す。図12Bは、AAV2-V3またはAAV2(QuadYF+T-V)を硝子体内注射したNrl-GFPマウスの代表的なFACS散布図を示す。マウスを、注射の4週間後に安楽死させた。図12Cは、AAV2(quadY-F+T-V)と比較した形質導入効率を示す。マウスを、1.2e12vg/mlのSc-smCBA-mCherryの注射の4週間後に安楽死させた。数値は、ベクター1つあたりの6個の眼の平均である。
【0033】
図13図13は、さらなるTからFへ、および/またはTからVへの置換を有するVaおよびVb AAV2キャプシドバリアントを提供された網膜の眼底画像を示す。YFは、Y444FおよびY730F変異を表す;YF+TVは、Y272F、Y444FおよびY730F、ならびにT291V変異を表す。
図14図14は、図13において定義されるとおりの、さらなるTからFへ、および/またはTからVへの置換を有するVaおよびVb AAV2キャプシドバリアントの、Nrl-GFPマウスにおける形質導入率を説明するFACSデータの定量を示す。
【0034】
図15図15は、マカク(網膜下AAV5-GRK1-GFP+LGN microruby)およびマウス(Nrl-GFP)についての処置手順を示す。
図16図16は、霊長類における2回のスクリーニングの後で回収された組織中の主要なバリアントの分布を示す。X軸は、網膜中の異なる細胞型および位置を表す。PR:視細胞;RGC:網膜神経節細胞:RPE:網膜色素上皮;A:中心窩(central)/黄斑(macula);BC:周辺部網膜。
【0035】
図17図17は、VRによる主要なバリアントおよび置換の位置を示す。
図18図18は、形質導入効率の定量を示す。バーは、ベクターAAV2(Y-F+T-V)およびAAV-7m8により示される桿体細胞の形質導入のレベルを表す。
図19図19は、2e9のベクターゲノムのIvt注射の4週間後の眼底検査およびV2および未加工のmCherry蛍光を示す。
【0036】
図20図20は、バーコード付けされたベクターを利用する、マカクおよびマウスの網膜におけるキャプシドバリアントの相対的な形質導入および導入遺伝子発現の効率の評価を示す。
図21図21は、バーコード付けされたベクターのIvt注射の2週間後におけるRGC標識された動物(1および2)を示す。
【0037】
図22図22は、バーコード付けされたベクターのIvtの20日後におけるPR標識された動物3を示す。バーコード付けされたベクターの増強された形質導入は、AAV5-GFPの黄斑下注射のための網膜切開部の近位で明らかである。mCherry発現は、ODおよびOSにおける視野の外側の周辺部に存在する。
図23図23は、バーコード付けされたベクターのIvtの20日後におけるPR標識された動物4を示す。バーコード付けされたベクターの増強された形質導入は、AAV5-GFPの黄斑下注射のための網膜切開部近位で明らかである。mCherry発現は、ODにおける視野の外側の周辺部に存在する。
【0038】
図24図24は、3回目のスクリーニングの結果を示す。上から下へ、配列番号45、および36~44に対応する配列である。
図25図25は、さらなる3回目のスクリーニングの結果を示す。上のパネルにおいて、上から下へ、配列番号45、25、12、24、56~59、14、11、60~64、ならびに下のパネルにおいて、上から下へ、配列番号45、36、65、39、37、40、41、38、43および44に対応する配列である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
詳細な説明
AAV由来のベクターは、他のベクターと比較して低い病原性、エピソームの局在、および安定な導入遺伝子発現に起因して、ヒト遺伝子治療の適用のための有望なツールである。AAV粒子は、眼への、特に網膜への治療用遺伝子の送達のために、多大な見込みを示す(Pierce et al. Cold Spring Harb Perspect Med. 2015, 5(9):a017285;Schon et al., Eur J Pharm Biopharm. 2015 95(Pt B):343-52;Barnard et al., Cold Spring Harb Perspect Med. 2014, 5(3):a017293;Trapani et al., Prog Retin Eye Res. 2014,43:108-28;Carvalho and Vandenberghe, Vision Res. 2015,111(Pt B):124-33;Dalkara and Sahel, C R Biol. 2014, 337(3):185-92;Petrs-Silva and Linden, Clin Ophthalmol. 2014;8:127-36)。網膜細胞に対する指向性を有するAAV粒子の形質導入効率を改善することは、したがって、非常に有益であろう。血清型2のAAVは、特定の眼細胞、例えば網膜細胞に対する指向性を有することが既に知られている。したがって、本明細書において提供されるのは、同じ細胞型におけるキャプシドバリアントのうちのいずれかを有していない対応するrAAVの形質導入効率と比較して(例えば、野生型AAV2キャプシドタンパク質を有する対応するrAAV2と比較して)、キャプシドタンパク質において置換を有する野生型AAV(例えばAAV2)粒子のバリアント、かかる粒子の組成物、ならびにこれらの組成物を用いて1つ以上の特定の細胞型(例えば視細胞、網膜神経節細胞、神経網膜細胞、プルキンエ細胞および上衣細胞)に形質導入する方法である。
【0040】
AAVの構造およびキャプシドタンパク質
AAVゲノムは、一本鎖デオキシリボ核酸(ssDNA)から構成され、これは、プラス鎖(positive-sensed)またはマイナス鎖(negative-sensed)のいずれかである。DNA鎖の各々の末端に存在するのは、逆位末端反復配列(ITR)である。ITRの間に存在するのは、2つのオープンリーディングフレーム(OFR):repおよびcapである。rep ORFは、AAVの生活環にとって必要とされるRepタンパク質をコードする4つの重複する遺伝子からなる。cap ORFは、キャプシドタンパク質:VP1、VP2およびVP3の重複するヌクレオチド配列を含み、これらは、互いに相互作用して、正二十面体対称のキャプシドを形成する。
【0041】
キャプシドタンパク質は、p40と名付けられた同じプロモーターにより制御され、同じmRNAから翻訳される。VP1、VP2およびVP3の分子量は、それぞれ、87、72および62キロダルトンである。AAVキャプシドは、60個のキャプシドタンパク質サブユニット、VP1、VP2およびVP3からなり、これらは、1:1:10の比において正二十面体対称に配置される。
【0042】
配列番号1は、野生型AAV2 VP1アミノ酸配列の一例に相当する。AAV2 VP2およびVP3キャプシドタンパク質は、それぞれ、VP1のアミノ酸138~735および204~735に相当する。配列番号2および3は、野生型AAV2 VP2およびAAV2 VP3アミノ酸配列の例に相当する。

野生型AAV2 VP1アミノ酸配列:
MAADGYLPDWLEDTLSEGIRQWWKLKPGPPPPKPAERHKDDSRGLVLPGYKYLGPFNGLDKGEPVNEADAAALEHDKAYDRQLDSGDNPYLKYNHADAEFQERLKEDTSFGGNLGRAVFQAKKRVLEPLGLVEEPVKTAPGKKRPVEHSPVEPDSSSGTGKAGQQPARKRLNFGQTGDADSVPDPQPLGQPPAAPSGLGTNTMATGSGAPMADNNEGADGVGNSSGNWHCDSTWMGDRVITTSTRTWALPTYNNHLYKQISSQSGASNDNHYFGYSTPWGYFDFNRFHCHFSPRDWQRLINNNWGFRPKRLNFKLFNIQVKEVTQNDGTTTIANNLTSTVQVFTDSEYQLPYVLGSAHQGCLPPFPADVFMVPQYGYLTLNNGSQAVGRSSFYCLEYFPSQMLRTGNNFTFSYTFEDVPFHSSYAHSQSLDRLMNPLIDQYLYYLSRTNTPSGTTTQSRLQFSQAGASDIRDQSRNWLPGPCYRQQRVSKTSADNNNSEYSWTGATKYHLNGRDSLVNPGPAMASHKDDEEKFFPQSGVLIFGKQGSEKTNVDIEKVMITDEEEIRTTNPVATEQYGSVSTNLQRGNRQAATADVNTQGVLPGMVWQDRDVYLQGPIWAKIPHTDGHFHPSPLMGGFGLKHPPPQILIKNTPVPANPSTTFSAAKFASFITQYSTGQVSVEIEWELQKENSKRWNPEIQYTSNYNKSVNVDFTVDTNGVYSEPRPIGTRYLTRNL(配列番号1)

野生型AAV2 VP2アミノ酸配列:
MAPGKKRPVEHSPVEPDSSSGTGKAGQQPARKRLNFGQTGDADSVPDPQPLGQPPAAPSGLGTNTMATGSGAPMADNNEGADGVGNSSGNWHCDSTWMGDRVITTSTRTWALPTYNNHLYKQISSQSGASNDNHYFGYSTPWGYFDFNRFHCHFSPRDWQRLINNNWGFRPKRLNFKLFNIQVKEVTQNDGTTTIANNLTSTVQVFTDSEYQLPYVLGSAHQGCLPPFPADVFMVPQYGYLTLNNGSQAVGRSSFYCLEYFPSQMLRTGNNFTFSYTFEDVPFHSSYAHSQSLDRLMNPLIDQYLYYLSRTNTPSGTTTQSRLQFSQAGASDIRDQSRNWLPGPCYRQQRVSKTSADNNNSEYSWTGATKYHLNGRDSLVNPGPAMASHKDDEEKFFPQSGVLIFGKQGSEKTNVDIEKVMITDEEEIRTTNPVATEQYGSVSTNLQRGNRQAATADVNTQGVLPGMVWQDRDVYLQGPIWAKIPHTDGHFHPSPLMGGFGLKHPPPQILIKNTPVPANPSTTFSAAKFASFITQYSTGQVSVEIEWELQKENSKRWNPEIQYTSNYNKSVNVDFTVDTNGVYSEPRPIGTRYLTRNL(配列番号2)

野生型AAV2 VP3 アミノ酸配列:
MATGSGAPMADNNEGADGVGNSSGNWHCDSTWMGDRVITTSTRTWALPTYNNHLYKQISSQSGASNDNHYFGYSTPWGYFDFNRFHCHFSPRDWQRLINNNWGFRPKRLNFKLFNIQVKEVTQNDGTTTIANNLTSTVQVFTDSEYQLPYVLGSAHQGCLPPFPADVFMVPQYGYLTLNNGSQAVGRSSFYCLEYFPSQMLRTGNNFTFSYTFEDVPFHSSYAHSQSLDRLMNPLIDQYLYYLSRTNTPSGTTTQSRLQFSQAGASDIRDQSRNWLPGPCYRQQRVSKTSADNNNSEYSWTGATKYHLNGRDSLVNPGPAMASHKDDEEKFFPQSGVLIFGKQGSEKTNVDIEKVMITDEEEIRTTNPVATEQYGSVSTNLQRGNRQAATADVNTQGVLPGMVWQDRDVYLQGPIWAKIPHTDGHFHPSPLMGGFGLKHPPPQILIKNTPVPANPSTTFSAAKFASFITQYSTGQVSVEIEWELQKENSKRWNPEIQYTSNYNKSVNVDFTVDTNGVYSEPRPIGTRYLTRNL(配列番号3)
【0043】
バリアント組み換えAAVタンパク質
AAV粒子の組織指向性および形質導入効率は、キャプシドの表面において暴露されるアミノ酸残基の性質により決定される(Wu et al., J Virol. 2006, 80(22):11393-7)。したがって、キャプシドタンパク質のアミノ酸を操作することにより、粒子の組織指向性を微調整する、およびまた形質導入効率を改善する機会が提供される。しかし、キャプシドタンパク質の特定の操作(例えばアミノ酸の置換)によっては、キャプシドタンパク質がミスフォールディングされたり、全くキャプシドを形成しなかったりする場合がある。タンパク質のミスフォールディングおよびキャプシドのミスフォールディングの問題を回避するために、キャプシドタンパク質の可変ループのみにおいて置換を行うことにより構成されたバリアントAAV2キャプシドライブラリーから、本明細書において開示される組み換えAAV2(rAAV2)バリアントタンパク質および粒子を同定した。本明細書において、「可変ループ」はまた「可変領域」としても言及される。AAV2は、VRI~VRIXと番号付けされた9つの可変領域を有する。図1Aは、可変ループを有する野生型AAV2タンパク質の構造を示す。Marsicら(Mol Ther. 2014, 22(11):1900-9)は、かかるAAV2キャプシドライブラリーを作製した方法、ならびにその特徴を記載する。
【0044】
マウスモデルならびにマカクモデルにおけるAAV2キャプシドライブラリーのスクリーニングは、網膜細胞(例えばPR、RGCおよび神経網膜細胞)に形質導入する効率が野生型AAV2キャプシドタンパク質の形質導入効率と比較して増強されたAAV2バリアントタンパク質の同定をもたらした。
【0045】
したがって、本明細書において提供されるのは、野生型AAV2 VP1配列(例えば配列番号1において記載されるようなもの)と比較して置換を含む、rAAV2キャプシドタンパク質である。いくつかの態様において、本明細書において開示されるバリアントAAV2キャプシドタンパク質のうちのいずれか1つにおけるアミノ酸置換は、野生型AAV2 VP1タンパク質により定義されるような可変領域において存在する。本明細書において記載されるようなアミノ酸の任意の配置は、配列番号1において記載されるような野生型AAV2 VP1配列の配列に関するものであることが、理解されるべきである。AAV2 VP1の多様な可変領域に対応するアミノ酸は、表1において示されるとおりである。
表1:AAV2キャプシドタンパク質可変領域および対応するアミノ酸
【表1】

【0046】
いくつかの態様において、バリアントrAAV(例えばバリアントrAAV2)キャプシドタンパク質は、任意の1つの可変領域(例えばVRI、VRII、VRIII、VRIV、VRV、VRVI、VRVII、VRVIIIまたはVRIX)において1つ以上のアミノ酸置換を有する。いくつかの態様において、バリアントrAAV(例えばバリアントrAAV2)キャプシドタンパク質は、1つより多くの可変領域(例えばVRIおよびVRII、VRIおよびVRVII、VRVおよびVRVII、VRVおよびVRIおよびVRVIIまたはVRIVおよびVRII)において1つ以上のアミノ酸置換を有する。本明細書において開示されるようなバリアントrAAV(例えばバリアントrAAV2)キャプシドタンパク質は、1つより多くの可変領域の任意の組み合わせにおいて1つ以上のアミノ酸置換を有していてもよく、本明細書において上または他の箇所において提供される例に限定されないことが、理解されるべきである。
【0047】
いくつかの態様において、バリアントrAAV(例えばバリアントrAAV2)キャプシドタンパク質は、表2における配列または置換において示されるアミノ酸置換のうちのいずれか1つ以上を含む。例えば、いくつかの態様において、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、可変領域VRVにおいて配列DGEを有する。いくつかの態様において、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、可変領域VRVにおいて配列DFを有する。いくつかの態様において、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、可変領域VRVにおいて配列DGEおよびDFを有する。いくつかの態様において、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、可変領域VRVにおいて配列DGEおよびDFを、ならびにVRIにおいて配列NAを有する。いくつかの態様において、DGEは、アミノ酸位置492~494において存在する。いくつかの態様において、DFは、アミノ酸位置499~500において存在する。表2において列記される位置は、多くの可能なアミノ酸位置のうちのほんの1つであり、非限定的であることが、理解されるべきである。例えば、DGE配列は、可変領域VRV(例えば490~492、495~497、496~500または500~503)中の何処に存在してもよい。本明細書において何処かに開示されるアミノ酸置換の全ては、本明細書において開示される他のアミノ酸置換のうちのいずれかの1つ以上と組み合わせることができる。例えば、アミノ酸位置496~500におけるDGE配列を、アミノ酸位置499および500におけるDF配列と組み合わせて、VRVにおいてDGEDF配列(配列番号32)をもたらしてもよい。
【0048】
いくつかの態様において、バリアントrAAV(例えばバリアントrAAV2)キャプシドタンパク質は、表2の第2列において列記されるアミノ酸を有する。いくつかの態様において、バリアントrAAV(例えばバリアントrAAV2)は、図34において見出される配列に対応するアミノ酸配列を有する。いくつかの態様において、かかるアミノ酸は、表2において表される位置から偏った位置において存在してもよい。いくつかの態様において、偏り(offset)の幅は、表2において表される位置に対していずれかの方向(上流および下流)において、5アミノ酸まで(例えば1、2、3、4または5アミノ酸)である。例えば、プロリンは、VRVにおける位置492において指定されているが、プロリンは、490から497までの任意の位置において存在してもよい(VRVにおける位置492におけるSからPへの置換を参照されたい)。いくつかの態様において、表2の第2列において列記されるアミノ酸は、AAV2以外の血清型のバリアントrAAVキャプシドタンパク質におけるもの、例えば、AAV1、3、3B、4、5、6、7、8、9、10、11、12または13の相同な可変領域におけるものである。
【0049】
いくつかの態様において、Xにより表されるアミノ酸は、配列番号1に記載されるとおりの野生型AAV2配列におけるアミノ酸である。例えば、配列番号4において記載される配列EDATENXIXXDRは、配列番号1において記載される野生型AAV2 VP1タンパク質のVRVIIにおけるアミノ酸545~556に相同である。したがって、いくつかの態様において、配列EDATENXIXXDR(配列番号4)は、配列EDATENNIDIDR(配列番号34)であってよい。同様に、いくつかの態様において、配列RXXDD(配列番号8)は、配列RDDDD(配列番号35)である。いくつかの態様において、Xにより表されるアミノ酸は、他のAAV血清型(例えば1、3、3B、4、5、6、7、8、9、10、11、12または13)における相同な位置におけるアミノ酸である。

表2:バリアントrAAV(例えばバリアントrAAV2)キャプシドタンパク質におけるアミノ酸の置換または配列
【表2】
【0050】
バリアントAAV2キャプシドタンパク質のいくつかの非限定的な例を、図3および5において示す。いくつかの態様において、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、配列番号11~23(図3を参照)または配列番号24~28(図5を参照)または36~44(図24を参照)または56~65(図25を参照)のうちのいずれか1つにおいて記載される配列を有する。例えば、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、配列番号11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、36、37、38、39、40、41、42、43、44、56、57、58、59、60、61、62、63、64または65により記載されるような配列を有していてもよい。いくつかの態様において、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、配列番号11により記載されるような配列を有する。いくつかの態様において、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、配列番号12により記載されるような配列を有する。いくつかの態様において、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、配列番号24の配列を有する。いくつかの態様において、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、配列番号25の配列を有する。
【0051】
いくつかの態様において、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、VRVにおいて、および配列番号4の配列において記載されるとおりVRVIIにおいて、配列DGEおよびDFを有する。いくつかの態様において、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、VRIにおいて配列NAを有し、VRVにおいて、および配列番号5の配列において記載されるとおりVRVIIにおいて、配列DGEおよびDFを有する。いくつかの態様において、バリアント組み換えAAV2キャプシドタンパク質は以下を含む:(a)VRIにおけるQS、NA、EA、DA、AS、AA、DT、NS、GA、GS、RS、TA、TS、ES、GT、QA、またはTT;VRVにおけるQDXE;Y500F;およびT503P、(b)VRIにおけるQS、NT、ES、GS、NA、AS、AA、GAまたはDS;Y444F;VRIVにおけるSD、IDおよび/またはNXM;S492A;VRVにおけるDF;ならびにVRVIにおけるDG、(c)VRIにおける、QSGAS(配列番号46)、NAGAS(配列番号47)、TTGAT(配列番号48)、EAGAS(配列番号49)、TTGAS(配列番号50)またはGAGAS(配列番号51)、(d)VRIにおけるQS、EA、QA、NA、ASまたはES;T491V;Y500F;およびVRVIIにおけるAAADDXEXDG(配列番号10)、(e)VRIにおけるQS、DS、NA、AS、DAまたはAT;E530D;およびVRVIIにおけるAGRADIXXXS(配列番号33)、あるいは(f)VRIにおける、QSGAS(配列番号46)、NAGAS(配列番号47)、ASGAS(配列番号52)、GAGAS(配列番号51)、TAGAS(配列番号53)、QTGAS(配列番号54)またはTTGAS(配列番号50);VRVにおけるQDXE;Y500F;T503P;およびVRVIIにおけるSAAGADXAXDS(配列番号5)。いくつかの態様において、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、VRIV領域について表2における1つ以上の置換を有する。いくつかの態様において、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、VRVII領域について表2における1つ以上の置換を有する。
【0052】
マウスおよびマカクモデルにおけるスクリーニングを用いてバリアントrAAV(例えばバリアントrAAV2)キャプシドタンパク質を同定した後、形質導入効率を改善するためにさらなる修飾を行った。例えば、Rho-GFPマウスにおける組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターにより視細胞の相対的な形質導入を定量するための方法を用いて、硝子体内注射の後で外側網膜の形質導入を行うことができる合理的に設計されたキャプシドバリアント、AAV2(quadY-F+T-V)を同定した(Kay et al., PLoS One. 2013, 8(4):e62097)。したがって、いくつかの態様において、本明細書において記載されるAAV2バリアントタンパク質のうちのいずれか1つは、以下のアミノ酸置換:Y272F、Y444F、Y500F、Y730FおよびT491Vのうちのいずれか1つ、またはこれらの組み合わせをさらに含んでもよい。例えば、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、配列番号1~28のうちのいずれか1つにおいて記載される配列を有し、既に有していない場合には、位置272、272、500および730のうちの1つ以上においてフェニルアラニンを有する。別の例において、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、置換Y272F、Y444F、Y500FおよびY730Fを含む。別の例において、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、置換Y272FおよびY444Fを含む。
【0053】
いくつかの態様において、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、配列番号1~28のうちのいずれか1つにおいて記載される配列を有し、既に有していない場合には、位置491においてバリンを有する。例えば、バリアントrAAV(例えばバリアントrAAV2)キャプシドタンパク質は、VRVにおいて、配列番号4の配列において記載されるとおりVRVIIにおいて配列DGEおよびDFを、およびY444F置換を含んでもよい。いくつかの態様において、本明細書において記載されるAAV2バリアントタンパク質のうちのいずれか1つは、以下のアミノ酸置換:Y252F、Y700FおよびY704Fのうちのいずれか1つ、またはこれらの組み合わせをさらに含んでもよい。
【0054】
いくつかの態様において、本明細書において開示されるバリアントrAAV(例えばバリアントrAAV2)キャプシドタンパク質のうちのいずれか1つは、バリアントVP1タンパク質(例えばバリアントAAV2 VP1タンパク質)である。いくつかの態様において、本明細書において開示されるバリアントrAAV(例えばバリアントAAV2)キャプシドタンパク質のうちのいずれか1つは、AAV VP2タンパク質(例えばバリアントAAV2 VP2タンパク質)である。いくつかの態様において、本明細書において開示されるバリアントrAAV(例えばバリアントAAV2)キャプシドタンパク質のうちのいずれか1つは、AAV VP3タンパク質(例えばバリアントAAV VP3タンパク質)である。バリアントのうちの任意のものが、VP1、VP2、またはVP3タンパク質におけるものであってよいことが、理解されるべきである。
【0055】
本明細書において開示されるバリアントrAAV(例えばバリアントrAAV2)キャプシドタンパク質のうちのいずれか1つは、本明細書において記載される任意の1つの単一のアミノ酸置換を有していても、本明細書において記載されるアミノ酸置換の任意の組み合わせを有していてもよいことが、理解されるべきである。 例えば、バリアントrAAV(例えばバリアントrAAV2)キャプシドタンパク質は、配列RXXDD(配列番号8において記載される)を唯一の置換として有していてもよく、またはそれは、さらなるアミノ酸置換(例えばVRIにおけるNA;Y444F;VRIVにおけるP451A、T454N、T455Vおよび/またはR459T)を有していてもよい。
【0056】
本明細書において企図されるのはまた、血清型2以外の血清型のバリアントrAAVキャプシドタンパク質である。いくつかの態様において、本明細書において記載されるアミノ酸置換のうちのいずれか1つは、AAV2の可変領域に対して相同である、血清型2以外の血清型のキャプシドタンパク質の可変領域におけるものである。いくつかの態様において、血清型2以外の血清型のバリアントrAAVキャプシドタンパク質は、AAV2以外の任意の血清型(例えば1、3、3B、4、5、6、7、8、9、10、11、12または13)のものである。いくつかの態様において、血清型2以外の血清型のバリアントrAAVキャプシドタンパク質は、緊密に関係する血清型(例えばAAV1またはAAV6)のものである。PCT出願公開番号WO2015121501A1を参照。
【0057】
バリアントrAAVキャプシドタンパク質をコードする核酸
本明細書において提供されるのはまた、本明細書において開示されるバリアントrAAVキャプシドタンパク質のうちのいずれか1つをコードする核酸である。いくつかの態様において、バリアントrAAVキャプシドタンパク質をコードする核酸は、プラスミド中に含まれる。
【0058】
組み換えAAV粒子
本明細書において提供されるのは、バリアントrAAV(例えばバリアントrAAV2)粒子である。いくつかの態様において、粒子は、空の粒子(例えば目的の遺伝子を含む核酸ベクターを含まないもの)である。いくつかの態様において、AAV2粒子は、目的の遺伝子を含む核酸ベクターを含む。本明細書において用いられる場合、「目的の遺伝子」とは、目的のRNAまたはタンパク質をコードする遺伝子である。
【0059】
いくつかの態様において、本明細書において開示されるバリアントrAAV(例えばバリアントrAAV2)キャプシドタンパク質のうちのいずれか1つを含むrAAV2粒子は、血清型2のITRおよび/またはrep ORFを含む。いくつかの態様において、rAAV2粒子は、シュードタイプ化rAAV粒子であり、これは、以下を含む;(a)血清型2から誘導されたキャプシドタンパク質からなるキャプシド、および(b)別の血清型(例えばAAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9またはAAV10)からのITRを含む核酸ベクター。例えば、粒子は、血清型5のITRおよび血清型2のキャプシドを有していてもよい。かかるシュードタイプ化rAAV粒子は、AAV5/2と指定されるであろう。
【0060】
目的のタンパク質は、検出可能なマーカーまたは治療用タンパク質であってもよい。検出可能なマーカーとは、可視化することができる(例えば、裸眼を用いて、または顕微鏡下において)分子である。いくつかの態様において、検出可能なマーカーは、蛍光分子、生物発光分子、または色を提供する分子(例えばβ-ガラクトシダーゼ、β-ラクタマーゼ、β-グルクロニダーゼおよびスフェリオデノン(spheriodenone))である。いくつかの態様において、検出可能なマーカーは、蛍光タンパク質または機能性ペプチドまたはその機能性ポリペプチドである。
【0061】
いくつかの態様において、目的の遺伝子は、治療用タンパク質をコードし、「治療用遺伝子」として言及される。治療用遺伝子は、それが送達される細胞、組織または器官において治療効果を提供し得る。例えば、眼(または2つの眼)の硝子体内の空間に送達された治療用遺伝子は、当該遺伝子が送達された眼(または2つの眼)の網膜の視細胞に利益をもたらし得る。いくつかの態様において、治療用遺伝子は、それが送達されるもの以外の細胞、組織または器官に治療上の利益を提供する。例えば、脳へ送達された遺伝子は、視神経を介して眼の網膜に到達し得、1つ以上の型の網膜細胞(例えば網膜神経節細胞)に利益をもたらし得る。いくつかの態様において、治療用遺伝子は、抗体、ペプチボディ、増殖因子、凝固因子、ホルモン、膜タンパク質、サイトカイン、ケモカイン、細胞表面受容体またはイオンチャネルに対して作用する活性化性または阻害性のペプチド、細胞内プロセスを標的とする細胞浸透性ペプチド、血栓溶解剤、酵素、骨形成タンパク質、遺伝子編集のために用いられるヌクレアーゼまたは他のタンパク質、Fc融合タンパク質、抗凝血剤、ヌクレアーゼ、ガイドRNAまたは遺伝子編集のための他の核酸もしくはタンパク質をコードする。いくつかの態様において、目的の遺伝子は、治療用RNA、例えば、小分子干渉RNAをコードする。
【0062】
いくつかの態様において、rAAV2粒子中に含まれる核酸ベクターは、以下の1つ以上を含む:(a)目的の遺伝子を含む1つ以上の異種性核酸領域、および(b)1つ以上の核酸領域(例えば異種性核酸領域)に隣接する逆位末端反復(ITR)配列(例えば野生型ITR配列または操作されたITR配列)を含む1つ以上の領域。いくつかの態様において、rAAV粒子中の核酸ベクターは、異種性核酸領域の発現を促進する制御配列(例えばプロモーター)を含む、1つ以上の核酸領域を含む。いくつかの態様において、rAAV2粒子中の核酸ベクターは、対象のゲノム中への異種性核酸領域の(任意に、発現を促進する配列を含む1つ以上の核酸領域と共に)組み込みを促進する配列を含む、1つ以上の核酸領域を含む。
【0063】
発現制御配列の非限定的な例として、プロモーター、インシュレーター、サイレンサー、応答エレメント、イントロン、エンハンサー、開始部位、終結シグナルおよびポリ(A)テイルが挙げられる。かかる制御配列の任意の組み合わせが、本明細書において企図される(例えばプロモーターおよびエンハンサー)。
いくつかの態様において、1つ以上のプロモーターを、異種性核酸中のコードヌクレオチド配列に作動的に連結させてもよい。プロモーターは、プロモーター配列が、当該ヌクレオチド配列の転写を制御および/または調節する場合に、ヌクレオチド配列に「作動的に連結される」。プロモーターは、構成的プロモーター、組織特異的プロモーター、誘導性プロモーター、または合成プロモーターであってよい。
【0064】
例えば、異なる強度の構成的プロモーターを用いることができる。本明細書において記載される核酸ベクターは、転写を促進することにおいて一般に活性であるウイルスプロモーターまたは哺乳動物遺伝子からのプロモーターなどの1つ以上の構成的プロモーターを含んでもよい。構成的ウイルスプロモーターの非限定的な例として、単純ヘルペスウイルス(HSV)、チミジンキナーゼ(TK)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、サルウイルス40(SV40)、マウス乳癌ウイルス(MMTV)、Ad E1Aサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターが挙げられる。構成的哺乳動物プロモーターの非限定的な例として、β-アクチンプロモーター(例えばニワトリβ-アクチンプロモーター)およびヒト伸長因子-1α(EF-1α)プロモーターにより例示されるような多様なハウスキーピング遺伝子プロモーターが挙げられる。いくつかの態様において、キメラウイルス/哺乳動物プロモーターとして、キメラCMV/ニワトリベータアクチン(CBA、CBまたはCAG)プロモーターを挙げることができる。
【0065】
誘導性プロモーターおよび/または調節エレメントはまた、目的のタンパク質またはポリペプチドの適切な発現レベルを達成するために企図され得る。好適な誘導性プロモーターの非限定的な例として、チトクロムP450遺伝子、ヒートショックタンパク質遺伝子、メタロチオネイン遺伝子などの遺伝子、およびエストロゲン遺伝子プロモーターなどのホルモン誘導性遺伝子からのものが挙げられる。誘導性プロモーターの別の例は、テトラサイクリンに対して応答性であるtetVP16プロモーターである。
【0066】
組織特異的プロモーターおよび/または調節エレメントもまた、本明細書において企図される。いくつかの態様において、本明細書において開示されるバリアントrAAV(例えばバリアントrAAV2)粒子を、またバリアントrAAV(例えばバリアントrAAV2)粒子と同じ細胞、組織または器官を標的とするプロモーターと組み合わせることは、有益であり得る。例えば、網膜の視細胞を標的とするバリアントrAAV(例えばバリアントrAAV2)粒子は、また視細胞または網膜を標的とするプロモーターを含む核酸を、全体としてキャプシド形成し得る。いくつかの態様において、網膜を標的とする細胞型特異的プロモーターは、ヒトロドプシンキナーゼプロモーター(hGRK1)である。hGRK1プロモーターの非限定的な例は、Beltran et al., 2010, Gene Ther. 17:1162、Zolotukhin et al., 2005, Hum Gene Ther. 16:551およびJacobson et al., Mol Ther. 13:1074において見出すことができる。いくつかの態様において、網膜特異的プロモーターは、Pleiadesミニプロモーター(例えばPle155)である。いくつかの態様において、網膜特異的プロモーターは、グリア繊維酸性タンパク質プロモーターである。網膜細胞型特異的プロモーターとして用いることができるプロモーターの他の非限定的な例として、redオプシンプロモーター「PR2.1」(これは、MおよびL錐体細胞を標的とする)、キメラ「IRBPe-GNAT2’プロモーター(これは、全てのコーンを標的とする)、IRBPプロモーター(これは、桿体細胞を標的とする)、Grm6-SV40エンハンサー/プロモーター(これは、双極細胞を標的とする)、Thy1(これは、RGCを標的とする)、他のPleiadesプロモーター、桿体細胞オプシンプロモーター(これは、桿体細胞を標的とする)、錐体アレスチンプロモーター(これは、全ての錐体細胞を標的とする)、VMD2またはベストロフィンプロモーター(これは、RPE細胞桿体細胞を標的とする)。
【0067】
いくつかのプロモーターは、公共で利用可能であり、記載されている。例えば、Ple155プロモーターは、Addgeneプラスミドリポジトリを通して利用可能であり(Addgeneプラスミド#29011、addgene.org/29011/)、Scalabrinoら(Hum Mol Genet. 2015, 24(21):6229-39)において記載されている。Yeら(Hum Gene Ther.;27(1):72-82)は、PR1.7と称されるこのプロモーターのより短いバージョンを記載する。Thy1プロモーターコンストラクトもまた、Addgeneプラスミドリポジトリを通して利用可能である(Addgene プラスミド#20736、addgene.org/20736/)。GRM6プロモーターコンストラクトはまた、Addgeneプラスミドリポジトリを通して利用可能である(Addgene プラスミド#66391、addgene.org/66391/)。Guziewiczら(PLoS One. 2013 Oct 15;8(10):e75666)およびEsumiら(J Biol Chem. 2004, 279(18):19064-73)は、VMD2プロモーターの使用の例を提供する。Dykaら(Adv Exp Med Biol. 2014;801:695-701)は、IRBPおよびIRBPe-GNAT2プロモーターを含む、遺伝子治療における使用のための錐体特異的プロモーターを記載する。PR2.1プロモーターの使用は、Komaromyら(Gene Ther. 2008 Jul;15(14):1049-55)において、その特徴づけは、Karimら(Tree Physiol. 2015 Oct;35(10):1129-39)において示されている。Aartsenら(PLoS One, 5(8):e12387)は、ミュラーグリア細胞においてGFP発現を駆動するためのGFAPプロモーターの使用を記載する。ミュラーグリア特異的プロモーターの他の例は、RLBP1およびGLASTである(Vazquez-Chona, Invest Ophthalmol Vis Sci. 2009, 50(8):3996-4003;Regan et al., Journal of Neuroscience, 2007, 27(25):6607-6619)。
【0068】
合成プロモーターもまた、本明細書において企図される。合成プロモーターは、例えば、既知のプロモーター、調節エレメント、転写因子結合部位、エンハンサーエレメント、リプレッサーエレメントなどの領域を含んでもよい。
プロモーターは、プロモーターは、本明細書において開示されるプロモーターのうちのいずれか1つのフラグメント、または完全なプロモーターの部分的なプロモーター活性(例えば活性の10~90、30~60、50~80、80~99または90~99.9%)を保持するものであってもよいことが理解されるべきである。
【0069】
本明細書において記載される任意の核酸ベクターは、ウイルスのキャプシドによりキャプシド形成され得る。いくつかの態様において、cap遺伝子は、検出可能なマーカーおよびAAV血清型2のVPタンパク質を含む融合タンパク質を発現するように修飾される。いくつかの態様において、ペプチドは、位置587/588において、またはVP2のC末端において、キャプシドタンパク質中に挿入される。いくつかの態様において、核酸ベクターは、環状である。いくつかの態様において、核酸ベクターは、一本鎖である。いくつかの態様において、核酸ベクターは、二本鎖である。いくつかの態様において、二本鎖核酸ベクターは、例えば、当該核酸ベクターの別の領域に相補的な核酸ベクターの領域を含む自己相補的ベクターであってよく、これは、核酸ベクターの二本鎖性の形成を開始させる。
【0070】
rAAV粒子を作製する方法
rAAV粒子および核酸ベクターを生成する多様な方法が知られている(例えば、本明細書において参考として援用されるZolotukhin et al. Production and purification of serotypes 1, 2, and 5 recombinant adeno-associated viral vectors. Methods 28 (2002) 158-167;ならびに米国特許出願番号US20070015238およびUS20120322861;ならびにATCCおよびCell Biolabs, Inc.から入手可能なプラスミドおよびキットを参照)。いくつかの態様において、目的の遺伝子を含むベクター(例えばプラスミド)は、核酸ベクターがキャプシドの内部にパッケージングまたはキャプシド形成されて、その後精製されるように、例えば、rep遺伝子(例えばRep78、Rep68、Rep52およびRep40をコードする)ならびにcap遺伝子(VP1、VP2およびVP3をコードし、これらは、本明細書において記載されるような修飾されたVP領域を含む)を含む、1つ以上のヘルパープラスミドと組み合わせて、ヘルパーまたは産生株(producer)細胞と称される組み換え細胞中に遺伝子導入されてもよい。
【0071】
哺乳動物ヘルパー細胞の非限定的な例として、HEK293細胞、COS細胞、HeLa細胞、BHK細胞、またはCHO細胞(例えば、ATCC(登録商標)CRL-1573(商標)、ATCC(登録商標)CRL-1651(商標)、ATCC(登録商標)CRL-1650(商標)、ATCC(登録商標)CCL-2、ATCC(登録商標)CCL-10(商標)、またはATCC(登録商標)CCL-61(商標)を参照)が挙げられる。昆虫ヘルパー細胞の非限定的な例は、Sf9細胞(例えば、ATCC(登録商標)CRL-1711(商標)を参照)である。ヘルパー細胞は、Repタンパク質および/またはCapタンパク質をコードするrepおよび/またはcap遺伝子を含んでもよい。いくつかの態様において、パッケージングは、in vitroで(例えば細胞の外側で)行われる。
【0072】
いくつかの態様において、目的の遺伝子を含む核酸ベクター(例えばプラスミド)は、例えば、rAAV粒子が、第1の血清型のrep遺伝子および同じ血清型または異なる血清型のcap遺伝子を含む1つ以上のヘルパープラスミドと組み合わされてパッケージングされるように、ヘルパー細胞中に導入される。いくつかの態様において、1つ以上のヘルパープラスミドは、rep遺伝子およびcap遺伝子を含む第1のヘルパープラスミド、および以下のヘルパー遺伝子:E1a遺伝子、E1b遺伝子、E4遺伝子、E2a遺伝子、およびVA遺伝子のうちの1つ以上を含む第2のヘルパープラスミドを含む。明確性のために、ヘルパー遺伝子とは、ヘルパータンパク質E1a、E1b、E4、E2aおよびVAをコードする遺伝子である。ヘルパープラスミド、およびかかるプラスミドを作製する方法は、当該分野において公知であり、市販されている(例えば、PlasmidFactory(Bielefeld, Germany)製のpDF6、pRep、pDM、pDG、pDP1rs、pDP2rs、pDP3rs、pDP4rs、pDP5rs、pDP6rs、pDG(R484E/R585E)、およびpDP8.apeプラスミドを参照;他の製品およびサービスは、以下から入手可能である:Vector Biolabs, Philadelphia, PA;Cellbiolabs, San Diego, CA;Agilent Technologies, Santa Clara, Ca;およびAddgene, Cambridge, MA;pxx6;Grimm et al. (1998), Novel Tools for Production and Purification of Recombinant Adeno associated Virus Vectors, Human Gene Therapy, Vol. 9, 2745-2760;Kern, A. et al. (2003), Identification of a Heparin-Binding Motif on Adeno-Associated Virus Type 2 Capsids, Journal of Virology, Vol. 77, 11072-11081.;Grimm et al. (2003), Helper Virus-Free, Optically Controllable, and Two-Plasmid-Based Production of Adeno-associated Virus Vectors of Serotypes 1 to 6, Molecular Therapy,Vol. 7, 839-850;Kronenberg et al. (2005), A Conformational Change in the Adeno-Associated Virus Type 2 Capsid Leads to the Exposure of Hidden VP1 N Termini, Journal of Virology, Vol. 79, 5296-5303;およびMoullier, P. and Snyder, R.O. (2008), International efforts for recombinant adeno-associated viral vector reference standards, Molecular Therapy, Vol. 16, 1185-1188)。特定の血清型についての野生型AAVコード領域をコードするプラスミドもまた、公知であり、入手可能である。例えば、pSub201は、野生型AAV2ゲノムのコード領域を含むプラスミドである(Samulski et al. (1987), J Virology, 6:3096-3101)。
【0073】
ITR配列およびITR配列を含むプラスミドは、当該分野において公知であり、市販されている(例えば、以下から入手可能な製品およびサービスを参照:Vector Biolabs, Philadelphia, PA;Cellbiolabs, San Diego, CA;Agilent Technologies, Santa Clara, Ca;およびAddgene, Cambridge, MA;およびGene delivery to skeletal muscle results in sustained expression and systemic delivery of a therapeutic protein. Kessler PD, Podsakoff GM, Chen X, McQuiston SA, Colosi PC, Matelis LA, Kurtzman GJ, Byrne BJ. Proc Natl Acad Sci U S A. 1996 Nov 26;93(24):14082-7;およびCurtis A. Machida. Methods in Molecular Medicine(商標). Viral Vectors for Gene Therapy Methods and Protocols. 10.1385/1-59259-304-6:201(著作権により保護)Humana Press Inc. 2003. Chapter 10. Targeted Integration by Adeno-Associated Virus. Matthew D. Weitzman, Samuel M. Young Jr., Toni Cathomen and Richard Jude Samulski;米国特許第5,139,941号および同第5,962,313号、これらの全ては、本明細書において参考として援用される)。
AAV血清型1、2、3、3B、4、5、6、7、8、9、10、11、12および13の配列についてのGenebank参照番号は、特許公開WO 2012064960において列記され、これは、その全体において本明細書において参考として援用される。
【0074】
rAAV粒子の生成方法のうちの非限定的な方法を、次に記載する。所望されるAAV血清型についてのrepおよびcap ORFならびにアデノウイルスのVA、E2A(DBP)、およびE4遺伝子を、それらのネイティブなプロモーターの転写制御下において含む、1つ以上のヘルパープラスミドを生成または入手する。いくつかの態様において、1つ以上のヘルパープラスミドは、rep遺伝子、cap遺伝子、および任意にアデノウイルスのVA、E2A(DBP)、およびE4遺伝子のうちの1つ以上を、それらのネイティブなプロモーターの転写制御下において含む。いくつかの態様において、1つ以上のヘルパープラスミドは、所望されるAAV血清型についてのcap ORF(および任意にrep ORF)、ならびにアデノウイルスのVA、E2A(DBP)、およびE4遺伝子を、それらのネイティブなプロモーターの転写制御下において含む。cap ORFはまた、本明細書において記載されるような修飾されたキャプシドタンパク質を生成するための、1つ以上の修飾を含んでもよい。一例として、HEK293細胞(ATCC(登録商標)から入手可能)に、CaPO4媒介型トランスフェクション、ポリエチレンイミン(PEI)などの脂質またはポリマー性分子を介して、ヘルパープラスミドおよび核酸ベクターを含むプラスミドを導入する。HEK293細胞を、次いで、少なくとも60時間にわたりインキュベートして、rAAV粒子を産生させる。あるいは、HEK293細胞に、上記の方法を介して、1つ以上の目的の遺伝子を含むAAV-ITR、RepおよびCapタンパク質をコードする遺伝子を含むヘルパープラスミドを導入し、ヘルパーウイルスを共導入する。ヘルパーウイルスとは、AAVの複製を可能にするウイルスである。ヘルパーウイルスの例は、アデノウイルスおよびヘルパーウイルスである。
【0075】
あるいは、別の例において、Sf9ベースの産生株である安定な細胞株に、核酸ベクターを含む単一の組み換えバキュロウイルスを感染させる。さらなる代替として、別の例において、HEK293またはBHK 細胞株に、核酸ベクターを含むHSVと、任意に本明細書において記載されるようなrepおよびcap ORF、アデノウイルスVA、E2A(DBP)、およびE4遺伝子をそれぞれのネイティブなプロモーターの転写制御下においてを含む1つ以上のヘルパーHSVとを感染させる。HEK293、BHKまたはSf9細胞を、次いで、少なくとも60時間にわたりインキュベートして、rAAV粒子を産生させる。rAAV粒子を、次いで、当該分野において公知であるか本明細書において記載される任意の方法を用いて、例えば、イオジキサノール段階勾配、CsCl勾配、クロマトグラフィーまたはポリエチレングリコール(PEG)沈殿により、精製してもよい
【0076】
ヘルパーウイルスベースの系を用いるAAVの大規模生成のための方法は、公知である。例えば、Clementら(Hum Gene Ther. 2009, 20(8):796-806)を参照。中和性の抗AAV抗体に対してより耐性であり得るエキソソーム関連AAVを生成する方法もまた、公知である(Hudry et al., Gene Ther. 2016, 23(4):380-92;Macguire et al., Mol Ther. 2012, 20(5):960-71)。
シュードタイプ化rAAVベクターを生成および使用するための方法もまた、当該分野において公知である(例えば、Duan et al., J. Virol., 75:7662-7671, 2001;Halbert et al., J. Virol., 74:1524-1532, 2000;Zolotukhin et al., Methods, 28:158-167, 2002;およびAuricchio et al., Hum. Molec. Genet., 10:3075-3081, 2001を参照)。
【0077】
組成物
rAAV粒子の使用を容易にするための多様な処方が開発されてきた。例えば、rAAV粒子の注射可能な水溶液の投与のために、溶液を好適に緩衝化して、必要な場合には、液体の希釈剤をはじめに十分な塩またはグルコースで等張にしてもよい。いくつかの態様において、本明細書において提供されるような組成物は、本明細書において開示されるバリアントrAAV(例えばバリアントrAAV2)粒子のうちのいずれか1つを複数含む。いくつかの態様において、組成物は、本明細書において開示されるバリアントrAAV(例えばバリアントrAAV2)粒子の1つより多くを複数含む。いくつかの態様において、「投与すること」または「投与」は、対象に、その材料が薬理学的に有用である様式において材料を提供することを意味する。
【0078】
したがって、いくつかの態様において、バリアントrAAV粒子の組成物は、薬学的に受入可能なキャリアを含む。用語「キャリア」とは、それと共にrAAV粒子を投与する、希釈剤、アジュバント、賦形剤またはビヒクルを指す。かかる医薬用キャリアは、無菌の液体(例えば、水、油脂、食塩水、デキストロースおよびグリセロールの水溶液)、懸濁剤、保存剤(例えば安息香酸メチル、安息香酸エチル、およびプロピルヒドロキシ安息香酸)、およびpH調整剤(無機および有機の酸および塩基など)
であってよい。いくつかの態様において、キャリアは、緩衝化食塩水(例えばリン酸緩衝化食塩水、HEPES緩衝化食塩水)を含む。USPグレードのキャリアおよび賦形剤は、ヒト対象へのrAAV粒子の送達のために特に有用である。かかる組成物は、さらに任意にリポソーム、脂質、脂質複合体、マイクロスフェア、マイクロパーティクル、ナノスフェア、またはナノパーティクルを含んでもよく、あるいは、それを必要とする対象の細胞、組織、器官または身体への投与のために、別段に処方されてもよい。かかる組成物を作製するための方法は、周知であり、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、第22版(Pharmaceutical Press、2012年)において見出すことができる。
【0079】
いくつかの態様において、本明細書において開示されるrAAV粒子のうちのいずれか1つを含む組成物は、0.014%のTween 20(ポリソルベート20)を添加した平衡塩類溶液(BSS)を含む。いくつかの態様において、本明細書において開示されるrAAV粒子のうちのいずれか1つを含む組成物は、100mMのクエン酸ナトリウム、10mMのTris(pH8.0)に、0.001%のPluronic F-68を添加したものを含む。
【0080】
典型的には、組成物は、少なくとも約0.1%の治療剤(例えばrAAV粒子)またはそれより多くを含んでもよいが、活性剤のパーセンテージは、変化し得、便利に、処方物全体の重量または容積の約1または2%と約70%または80%またはそれより多くとの間であってよい。当然ながら、各々の治療上有用な組成物中の治療剤(例えばrAAV粒子)の量は、化合物の所与の単位用量において好適な投与量が得られるような方法において、調製することができる。溶解度、バイオアベイラビリティ、生物学的半減期、投与の経路、製品の保存期限、ならびに他の薬理学的な考慮点などの要因は、かかる医薬処方物を調製する当業者により企図され、多様な投与および処置のレジメンが望ましい場合がある。
【0081】
注射可能な用途のためのrAAV粒子組成物の医薬形態として、無菌の水性の溶液または分散が挙げられる。いくつかの態様において、形態は、容易な注射針通過性(syringability)が存在する程度まで、無菌かつ液体である。いくつかの態様において、形態は、製造および貯蔵の条件下において安定であり、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して保存されている。いくつかの態様において、形態は、無菌である。キャリアは、例えば、水、食塩水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、これらの好適な混合物、および/または植物性油脂を含む、溶媒または分散媒であってもよい。例えば、レシチンなどのコーティングの使用により、分散の場合には必要とされる粒子サイズの維持により、および界面活性剤の使用により、適切な流動性を維持することができる。
【0082】
対象への投与のための組成物の調製は、当該分野において公知である。例えば、投与量を、1mlの等張NaCl溶液中に溶解して、1000mlの皮下点滴液(hypodermoclysis fluid)に添加しても、または注入が提案される部位において注射してもよい(例えば、「Remington's Pharmaceutical Sciences」、第15版、1035~1038および1570~1580頁を参照)。処置されている対象の状態に依存して、投与量におけるいくらかのバリエーションが、必然的に生じるであろう。投与の責任者は、いずれにしても、個々の対象にとって適切な用量を決定するであろう。さらに、ヒト投与のために、調製物は、無菌性、発熱性、ならびに、例えばFDAの生物製剤部(Office of Biologics)の基準により要求されるような一般的な安全性および純度の標準に合致すべきである。
【0083】
細胞に形質移入する方法
rAAV粒子のうちのいずれか1つ、または本明細書において開示されるrAAV粒子のうちのいずれか1つを含む組成物は、細胞、組織または器官に形質導入するために用いることができる。いくつかの態様において、本明細書において開示されるバリアントrAAVのうちのいずれか1つ(例えばバリアントrAAV2)の粒子を用いて形質導入される細胞、組織または器官は、治療用遺伝子であり得るか、または研究のために所望されるものである、目的の遺伝子を導入される。いくつかの態様において、細胞、組織または器官は、当該細胞、組織または器官が培地中でインキュベートされるかまたはこれを灌流されるin vitroでのセッティングにおいて、形質導入される。細胞は、特定の条件下において培養される多くの細胞のうちの1つであっても、採取される器官の一部であっても、オルガノイドの一部であっても、または生物であってもよい。
【0084】
いくつかの態様において、細胞、組織または器官は、in vivoで、例えば、疾患を処置することを目的として、形質導入される。いくつかの態様において、かかるrAAV粒子は、治療用タンパク質またはRNAをコードする目的の遺伝子を含む。いくつかの態様において、本明細書において提供されるのは、眼(もしくは2つの眼)または脳の細胞または組織に形質導入する方法である。いくつかの態様において、眼(もしくは2つの眼)または脳における特定の組織が標的とされる。例えば、網膜または網膜の1つ以上の細胞型を標的としてもよい(例えば視細胞(PR)、網膜神経節細胞(RGC)、双極細胞、線維柱帯網、網膜色素上皮(RPE)細胞、アマクリン細胞、星状膠細胞、水平細胞、ミクログリア、またはミュラーグリア)。
【0085】
本明細書において提供される組成物のうちのいずれか1つを用いて処置することができる網膜の疾患のいくつかの非限定的な例として、以下が挙げられる:加齢黄斑変性、全脈絡膜萎縮、色覚障害、レーバー先天黒内障、網膜色素変性、シュタルガルト病、1色覚、青錐体色覚異常(Blue cone monochromacy)、錐体杆体ジストロフィー、先天性停止性夜盲症、レーバー遺伝性視神経症および緑内障。網膜の神経細胞ならびに脳および耳などの感覚器などの他の神経細胞を、本明細書において提供される組成物のうちのいずれか1つを用いて処置することができる、いくつかの非限定的な症候性疾患の例として、バルデ・ビードル症候群、糖原病、セロイド・リポフスチン沈着(Ceroid lipofuscinosis)、カナバン病、フリードライヒ運動失調症、ポンペ・アッシャー症候群(Pompe’s and Usher’s syndrome)が挙げられる。したがって、本明細書において開示されるようなバリアントrAAV粒子のうちのいずれか1つまたは本明細書において開示されるようなバリアントrAAV粒子のうちのいずれか1つを含む組成物は、内耳を標的とするために用いることができる。
【0086】
いくつかの態様において、本明細書において開示されるバリアントrAAV(例えばバリアントrAAV2)粒子のうちのいずれか1つ以上を含む組成物は、視細胞(PR)に提供される。いくつかの態様において、本明細書において開示されるバリアントrAAV(例えばバリアントrAAV2)粒子のうちのいずれか1つ以上を含む組成物が、網膜神経節細胞(RGC)に提供される。いくつかの態様において、バリアントrAAV(例えばバリアントrAAV2)粒子を含む組成物は、PRおよび/またはRGCを担持する対象への硝子体内注射を介して、PRおよび/またはRGCに提供される。いくつかの態様において、組成物は、網膜下注射を介して提供される。いくつかの態様において、組成物は、内境界膜下注射を介して提供される。本明細書において開示されるような組成物を対象の眼(または2つの眼)へ投与する経路の他の非限定的な例として、前房内、眼窩周囲および結膜下注射が挙げられる。いくつかの態様において、組成物は、対象の外側膝状核中に注射することができる。かかる方法は、RGCを標的とするために用いることができる。いくつかの態様において、組成物は、対象の眼または2つの眼へ局所的に(例えば点眼剤中で)投与することができる。
【0087】
いくつかの態様において、標的とされる脳の組織は、プルキンエ細胞または上衣細胞を含む。プルキンエ細胞は、深部小脳核に投射し、小脳皮質の唯一の出力細胞である。プルキンエ細胞に関連する状態として、毛細血管拡張性運動失調症およびニーマン・ピック病C型、ならびに小脳性本態性振戦が挙げられる。プルキンエ細胞はまた、アルツハイマー病および狂犬病ウイルスにおいても損傷を受け得る。プルキンエ細胞はまた、小脳の変性性疾患において役割を果たす(Ferrer et al., Clin Neuropathol. 1988, 7(1):22-8)。
【0088】
上衣細胞は、脳および脊髄の中心管の脳室系の上皮性の裏打ち層である上衣を構成する。上衣細胞は、CFSの生成および制御において重要な役割を果たし、前脳におけるリザーバ細胞として作用し、これは、脳卒中の後で、in vivoおよびin vitroで幹細胞として脊髄において活性化され得る。したがって、これらの細胞は、CSFと接触する他の細胞に有益な分子を供給するために用いることができる。例えば、上衣細胞は、それらを1つ以上の増殖因子をコードする遺伝子で形質導入することにより、他の細胞に増殖因子を提供するために、用いることができる。
【0089】
いくつかの態様において、上衣またはプルキンエ細胞に目的の遺伝子で形質導入する方法は、上衣細胞またはプルキンエ細胞に、本明細書において提供される組成物のうちのいずれか1つを提供することを含む。いくつかの態様において、かかる組成物は、脳室内注射を介して対象に投与される。いくつかの態様において、プルキンエおよび/または上衣細胞に目的の遺伝子で形質導入するために用いられるバリアントrAAV粒子は、VRVにおける配列DGEおよびDF、VRIにおけるNA;およびVRVIIにおける配列番号5を含む。いくつかの態様において、組成物は、くも膜下腔内注射、大槽内注射、頭蓋内(例えば視床、脳室内または腹側被蓋)注射を介して、対象に投与される。
【0090】
いくつかの態様において、細胞、組織または器官が形質導入される対象は、脊椎動物(例えば哺乳動物または爬虫類)である。いくつかの態様において、哺乳動物対象は、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ハムスター、マウス、ラット、ブタ、ウマ、ウシ、ロバまたはウサギである。非ヒト霊長類対象の非限定的な例として、マカク(例えばカニクイザルまたはアカゲザルマカク)、マーモセット、タマリン、クモザル、ヨザル、サバンナモンキー、リスザル、ヒヒ、ゴリラ、チンパンジーおよびオランウータン。いくつかの態様において、対象は、特定の疾患についてのモデルであるか、または目的の遺伝子によりコードされるタンパク質またはsiRNAの薬物動態および/または薬物動態を研究するために用いられる。
【0091】
疾患を「処置する」こととは、当該用語が本明細書において用いられる場合、対象により経験される疾患または障害の少なくとも1つの徴候または症状の頻度または重篤度を低下させることを意味する。本明細書において上または他の箇所において記載される組成物は、典型的には、望ましい結果を提供することができる量である有効量において対象に投与される。望ましい結果は、投与されている活性剤に依存するであろう。例えば、rAAV粒子の有効量は、発現コンストラクトを宿主細胞、組織または器官にトランスファーすることができる粒子の量であってよい。治療上受入可能な量は、疾患、例えばレーバー先天黒内障を処置することができる量であってよい。医学および獣医学の分野において周知であるとおり、任意の一個体の対象のための投与量は、対象のサイズ、対表面積、年齢、投与されるべき特定の組成物、組成物中の活性剤、投与の時間および経路、一般的な健康、ならびに同時に投与されている他の薬物を含む多くの要因に依存する。
【0092】

例1:AAVキャプシドライブラリー
AAVキャプシドライブラリーは、存在するパルボウイルスの「天然」のバリエーションのうちのなるべく多くを包含するように作製した(図1A~1Cを参照)。キャプシドライブラリーは、AAV2 cap骨格により、構造情報に基づいたアプローチ(structure informed approach)を用いて構築した。多様化は、AAVキャプシドタンパク質の可変ループに限定し、このことは、適切に組み立てられてパッケージングされるバリアントを作製する可能性を増大する。AAVキャプト霊長類(それぞれ、例2および3)においてシドライブラリーを、次いで、マウスおよび非ヒスクリーニングして、最も出現率が高いAAVバリアントを同定し、これらをその後、検証して特徴づけた。
【0093】
例2:マウススクリーニング
AAVキャプシドライブラリー(図1A~1C)を、図2において示すとおり、マウスにおいてスクリーニングした。スクリーニングのために用いたトランスジェニックマウスは、神経網膜ロイシンジッパー(nrl)遺伝子プロモーターの制御下において、桿体視細胞(PR)において特異的に、高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)を発現する。
キャプシドバリアントは、切断型CBAプロモーター駆動性mCherry(sc-smCBA-mCherry)の発現を担持する自己相補的AAVゲノムを含んだ。形質導入を、眼細胞株を用いてin vitroで定量した。
【0094】
AAVライブラリーを、Nrl-GFPマウスに硝子体内注射した。GFP陽性の視細胞を、FACSにより選別した。視細胞からの総DNAを単離し、AAVキャプシド遺伝子についてのPCRを行い、濃縮されたライブラリーを構築した。3回のスクリーニングの後で、最も出現率が高いバリアントのサブセットを同定した(図3)。図3において示されるとおり、1番目に最も出現率が高いAAV2キャプシドバリアントは、約32%の相対頻度を有し、2番目に最も出現率が高いAAV2キャプシドバリアントは、約21%の相対頻度を有する。これらの高濃縮されたバリアントを、さらなる分析のために選択した。
【0095】
例3:NHPスクリーニング
AAVキャプシドライブラリー(図1A~1C)をまた、マカク(Macacca fascicularis)において、硝子体内(Ivt)注射の後でPRおよびRGCを標的とするAAVバリアントを同定するために、スクリーニングした。
本明細書においてその全体において参考として援用される特許出願番号62/296,056において記載される方法を用いて、霊長類網膜において選別可能な細胞集団を作製した。この方法は、Choudhury, et al., Front Neurosci. 2016,10:551においてもまた記載される。簡略に述べると、マカクのPRおよびRGCを、それぞれ、AAV5-GRK1-GFPの網膜下注射および外側膝状核(LGN)からのMICRO-RUBY(商標)(TRITC-デキストラン-ビオチン)の逆行性輸送により蛍光標識した。図4において示されるとおり、キャプシドライブラリーを、注射の後で、生体内(in-life)相の間にIvt注射によりLGN中に送達した。網膜を、解剖学的に異なる領域に分離し、各々の領域からの細胞に、蛍光励起細胞分取(FACS)を行った(図4を参照)。
【0096】
図5は、マカクにおけるキャプシドライブラリーの2回のスクリーニングの後で単離された、最も出現率が高いAAV2キャプシドバリアントを示す。4つの最も出現率が高いAAVバリアント、V1(これはVbと同じである)~V4(これは同じVaと同じである)を、検証およびさらなる分析のために選択し、これらの全てが、in vitroで、野生型AAV2キャプシドと比較して実質的に改善された形質導入を示した。興味深いことに、バリアントV1(これはVbと同じである)~V4(これは同じVaと同じである)はまた、マウススクリーニングにおいても、2番目に出現率が高い(Vb)および最も出現率が高い(Va)バリアントとして同定された。
【0097】
例4:AAV2バリアントVaの形質導入プロフィールの評価
マウスおよびマカクモデルにおけるスクリーニングにより最も出現率が高いAAV2バリアントを同定した後、上記のとおり、最も出現率が高いバリアントを、ベクター化(vectorize)し、網膜細胞に形質導入する効率について試験した。
AAV2バリアントVaは、マウススクリーニングにおいては最も出現率が高く、マカクスクリーニングにおいては4番目に最も出現率が高いことを見出した。図6A~6Cは、Nrl-GFPマウスに、1μlの2e12vg/mlのSc-smCBA-mCherryをVaバリアントAAV2キャプシド中にパッケージングしたものを硝子体内注射した後の、Vaの形質導入プロフィールを示す。注射の3週間後、眼底検査(図6Aを参照)およびFACS(図6Bおよび6Cを参照)により、形質導入を評価した。網膜細胞において増強された形質導入効率を有することが知られるAAV2バリアントであるAAV2(quadY-F+T-V)を、対照として含めた。図6Aにおいて、AAV2(quadY-F+T-V)と比較して、mCherryについての遺伝子を担持するAAV2 Vaバリアント粒子が、より多数ではないとしても同じくらい多くの網膜細胞を、かつ、細胞1つあたり、より高い発現量でないとしても、細胞1つあたり、同じくらい高い発現量で、形質導入することができたことが観察され得る。
【0098】
VaバリアントAAV2粒子の注射の4週間後、マウスを安楽死させ、網膜細胞を解離させて、GFP発現およびmCherry発現について選別した。mCherry発現を検出するために、サイトメーターにおけるPE-Texas Redチャネルを用いた。図6Bにおいて、右上の4象限は、rAAVベクターにより形質導入された桿体視細胞の集団(GFP+かつmCherry+)に相当し、右下の4象限は、rAAVベクターにより形質導入された非桿体の神経網膜細胞(mCherry+のみ)に相当する。
【0099】
図6Cは、硝子体内注射または網膜下注射のいずれかによりマウスに投与された場合の、AAV2バリアントVaについての形質導入率を示す。マウスを、AAV2バリアント粒子の注射の4週間後に安楽死させた。2x10vgを注射した。ウイルス粒子を硝子体内で送達した場合と比較して、網膜下投与されたAAV2-Vaは、より多数の非桿体の神経網膜細胞に形質導入することができた。網膜下注射の後で桿体PRおよび非桿体の神経網膜細胞の両方において達成された形質導入のレベルは、2.5倍多くの野生型AAV2ウイルスにより達成されたものに匹敵した。
【0100】
網膜細胞の形質導入について試験することに加えて、AAV2バリアントVaキャプシドが上衣およびプルキンエ細胞に形質導入する能力を評価するために実験を行った。マウスに、Sc-smCBA-mCherryを担持する4x10vgのウイルス粒子を注射した。その4週間後、マウスを安楽死させ、脳の切片を作製した。図7Aにおいて示されるとおり、AAV2-Vaは、上衣細胞の形質導入を促進する。これはCSFを分泌する原因であり、神経保護的遺伝子治療のための魅力的な標的である。図7Bにおいて示されるとおり、AAV2-Va粒子はまた、プルキンエ細胞にも形質導入することができた。
【0101】
例5:AAV2バリアントVbの形質導入プロフィールの評価
AAV2バリアントVbは、マウススクリーニングにおいては2番目に最も出現率が高く、マカクスクリーニングにおいては最も出現率が高いことを見出した。図8A~8Cは、Nrl-GFPマウスに、1μlの2e12vg/mlのSc-smCBA-mCherryをVbバリアントAAV2キャプシド中にパッケージングしたものを硝子体内注射した後の、Vbの形質導入プロフィールを示す。注射の3週間後、プロフィール(図8Aを参照)およびFACS(図8Bおよび8Cを参照)により、形質導入を評価した。変異Y272F、Y444F、Y500F、Y730FおよびT491Vを有するAAV2(quadY-F+T-V)と比較して、mCherryについての遺伝子を担持するAAV2 Vbバリアント粒子は、より多数の網膜細胞に、細胞1つあたりより高い発現量で形質導入することができた(図8A)。
【0102】
VbバリアントAAV2粒子の注射の4週間後、マウスを安楽死させ、網膜細胞を解離させ、GFP発現およびmCherry発現について選別した。mCherry発現を検出するために、サイトメーターにおけるPE-Texas Redチャネルを用いた。図8Bにおいて、右上の4象限は、rAAVベクターにより形質導入された桿体視細胞の集団に相当し(GFP+かつmCherry+)、右下の4象限は、rAAVベクターにより形質導入された非桿体の神経網膜細胞に相当する(mCherry+のみ)。
図8Cは、硝子体内注射または網膜下注射のいずれかによりマウスに投与された場合の、AAV2バリアントVaについての形質導入率を示す。マウスを、AAV2バリアント粒子の注射の4週間後に安楽死させた。2x10vgを注射した。網膜下注射の後で桿体PRおよび非桿体の神経網膜細胞の両方において達成された形質導入のレベルは、2.5倍多くの野生型AAV2ウイルスにより達成されたものに匹敵した。
【0103】
例6:AAV2バリアントV2の形質導入プロフィールの評価
ARPE19細胞において形質導入効率を測定し、結果は、図9において観察することができる。AAV2(quadY-F+T-V)バリアントウイルスと比較して、AAV2-V2バリアントウイルスは、約7倍高いmCherryの発現レベルをもたらすことができた。
マウスにおいて、AAV2バリアントVaおよびVbと同様の様式において試験された場合、眼底検査により観察されるマウス網膜におけるAAV-V2の形質導入効率は、対照AAV2(quadY-F+T-V)と比較して、はるかに高かったことを見出した(図10A)。AAV2-V2で形質導入された網膜細胞についての特徴的なFACsプロットを、図10Bにおいて示す。AAV2(quadY-F+T-V)に相対的な形質導入効率を、図10Cにおいて示す。観察されるとおり、AAV2-V2バリアントは、AAV2(quadY-F+T-V)バリアントウイルスより優れている。
【0104】
例7:AAV2バリアントV3の形質導入プロフィールの評価
形質導入効率を、ARPE19細胞において測定し、結果は、図11において観察することができる。AAV2(quadY-F+T-V)バリアントウイルスと比較して、AAV2-V3バリアントウイルスは、約5倍高いmCherryの発現レベルをもたらすことができた。
マウスにおいて、AAV2バリアントVa、VbおよびV2と同様の様式において試験された場合、眼底検査により観察されるマウス網膜におけるAAV2-V3の形質導入効率は、対照AAV2(quadY-F+T-V)と比較して、はるかに高かった(図12A)。AAV2-V3により形質導入された網膜細胞についての特徴的なFACsプロットを、図12Bにおいて示す。AAV2(quadY-F+T-V)に相対的な形質導入効率を、図12Cにおいて示す。観察されるとおり、AAV2-V3 バリアントは、AAV2(quadY-F+T-V)バリアントウイルスより優れている。
【0105】
例8:合理的に設計されたバリアント
特定の変異がAAV粒子が網膜細胞に形質導入する効率を増強することは知られているので、マウスおよびマカクモデルにおけるスクリーニングにより同定されたバリアントに対して、それらの能力をさらに改善するために、より高い網膜形質導入能力を有するように、これらの変異を重ねた。図13は、眼底検査を用いた、さらなるYからFへおよびTからVへの置換を有するAAV2バリアントVaおよびVbの形質導入プロフィールを示す。Va-YFは、バリアントVaの配列に加えて位置444および730においてさらなるフェニルアラニンを有するバリアントを表す。同様に、Vb-YFは、バリアントVbの配列に加えて位置444および730においてさらなるフェニルアラニンを有するバリアントを表す。AAV2バリアントVb-YF-TVは、バリアントVbの配列に加えて、位置272、444および730においてさらなるF、ならびに位置491においてバリンを有するバリアントを表す。これらの置換が形質導入効率を大きく増強することは、眼底画像におけるmCherryの蛍光から明らかである(図13)。FACSデータの定量もまた、これらのさらなる変異が、AAV2キャプシドバリアントが網膜細胞に形質導入する効率を大きく改善することを示す(図14)。
【0106】
例9:硝子体内注射による網膜の効率的な形質導入を促進するさらなるAAVキャプシドバリアント
例1において記載される多様性が高いAAVキャプシドライブラリーであるCAPLIB-7から、非ヒト霊長類(NHP)において行った3回のin vivoでの選択により、アデノ随伴ウイルス(AAV)バリアントを単離した。選択は、初めに、選別可能な視細胞(AAV5-GRK1-GFPの網膜下注射を介して)および網膜神経節細胞(外側膝状核中への逆行性トレーサー色素の注射を介して)を有するNHPを作製することを含む。選別可能な細胞の作製の後で、NHPへのキャプシドライブラリーの硝子体内注射を行った。この後、NHPの視細胞(PR)と網膜神経節細胞(RGC)との個別の分離を行い、その後、各々の細胞型から個別にキャプシドバリアントを回収し、別々のPRとRGCとのサブライブラリーを再生した。その後のスクリーニングを、次いでRGCサブライブラリーを投与したNHPと平行して行い、RGCを単離した。PRサブライブラリーについても同様である。霊長類における2回目の選択の後で、多数の新規のキャプシドバリアントを同定した。これらのバリアントのサブセットを単離し、レポーターコンストラクトによりベクター化した場合、それらは、細胞培養において増大した形質導入効率を有することが示された。ベクターをマウスに硝子体内注射した場合、形質導入効率は、AAV2に対して大きく改善され、ほとんどの場合において、quadYF+T-Vよりも良好であった。この後に、霊長類における3回目のスクリーニングを行い、さらなるキャプシドバリアントを同定した。これらのさらなるキャプシドバリアントは、本明細書において開示され、これらのうちの多くは、最初の2回の選択においては観察されなかった。新たなキャプシドバリアントは、2つの広範なグループに分類される:1)2回目のスクリーニングから3回目のスクリーニングで、PRおよびRGCの両方においてそれらの相対量が増大しているキャプシドバリアント、および、2)網膜神経節細胞(RGC)または視細胞(PR)のいずれかに対して分布の偏りを示すキャプシドバリアント。グループ1のバリアントは、P3-8、Vb、P3-3およびP3-4を含む。グループ2のバリアントは、霊長類網膜神経節細胞において濃縮を、視細胞においては低い量を示すP3-RGC1、P3-RGC2およびP3-RGC3、ならびに逆に網膜神経節細胞よりも視細胞において実質的に濃縮されていたP3-PR1、P3-PR2およびP3-PR3を含む(図24および25)。
【0107】
例10:
霊長類網膜においてキャプシドライブラリーをスクリーニングするための方法は、以下のとおりであった。それは、細胞内に含まれる核酸の完全性を維持しつつ網膜細胞を選択的に「選別」する能力に依存し、AAV5-GRK1-GFPの網膜下送達および/または外側膝状核(LGN)からの蛍光色素の注射による網膜神経節細胞(RGC)の逆行性標識を介する、視細胞における緑色蛍光タンパク質の発現により達成した。
3回目のスクリーニングの結果を評価し、視細胞およびRGCが濃縮されたバリアントを同定した(図24および25)。バリアントは、視細胞とRGCとの間で「偏った」分布で現れた。
【0108】
本明細書において記載される特定のバリアントを、合理的な設計によりさらに増強した。Va、VbおよびV3を、網膜の形質導入を増強することが先に同定されている、さらなるチロシンからフェニルアラニンへ、およびトレオニンからバリンへの変異を組み込むように修飾した。Va(Y444+730F)を試験した。Va(Y272+444+730F)+T491Vもまた作製したが、低い効率でパッケージングされた(n=3)。Vb(Y444+730F)およびVb(Y272+444+730F)+T491Vもまた試験した。V3(Y272+500+730F)+T491Vもまた試験した。
【0109】
マウス網膜の形質導入を、Ivt注射の後で特徴づけた。キャプシドバリアントを、smCBAプロモーター駆動性mCherryを有する自己相補的AAVを含むようにベクター化した。それらを、スモールスケールの2セルスタックでパッケージングし、イオジキサノール勾配により精製した。それらに、中程度の用量の2e9vgにおいて、1ugにおいて、Nrl-GFPマウスに硝子体内注射した(各々のバリアントについて、N=6またはそれより多く)。注射の4週間後に、mCherry蛍光(生体内)についての眼底検査により、および解離させた神経網膜(RPEを取り除いたもの)のFACSにより、導入遺伝子発現を評価し、mCherryを発現する桿体視細胞(GFP-mCherry二重陽性の細胞)のパーセンテージを定量した。これは、形質導入効率を同定するための公開された方法と同一である(Boye et al. J Virol. 2016 Mar 28;90(8):4215-31)。
【0110】
同定されたキャプシドバリアントは、親キャプシドAAV2と比較して実質的に改善された、マウス網膜の形質導入を示す。合理的な設計によりガイドされた変異誘発は、キャプシドバリアントVaおよびVbにおける形質導入をさらに増強した。5つのキャプシドバリアントは、ベンチマークベクターよりも優れている。IHCは、広い細胞指向性を示すキャプシドバリアントを示す。

表3.霊長類網膜において、「バーコード付けされた」レポーターコンストラクトを用いて、形質導入について選択されたキャプシドバリアント。結果を、図16において示す。
【表3】
*同じマウスモデルおよび方法(Boye et al. 2016 J. Virology)においてAAV2を他のAAV2キャプシドバリアントと比較する先の実験に基づいた数値
【0111】
マカクおよびマウスの網膜における相対的なキャプシドバリアントの形質導入および導入遺伝子発現の効率を、バーコード付けされたベクターを利用して評価した。方法を、図15~19において示す。ユニークな5ヌクレオチドの「バーコード」を除いて同一であるCBAプロモーター駆動性mCherryを有するベクターコンストラクト(図20)を、選択されたキャプシドバリアントにおいて個々にパッケージングした。バーコードの位置は、組織/細胞からの回収の後で、各々のキャプシドバリアントに関連するDNA(ベクターゲノム)およびRNA(導入遺伝子発現)の同定を可能にする。バーコード付けされたベクターを、三重トランスフェクションにより作製し、連続的な二重のイオジキサノール濃度勾配と、その後のイオン交換クロマトグラフィー(FPLC、Q-カラム)により精製した。ベクターを、以下について評価した:タンパク質ゲルによる純度、Endosafe PTSによるエンドトキシン(Charles River)、5Eu/mL未満のスペック、電子顕微鏡による充填(full)・対・空の比、および>50%に充填されたキャプシドのスペック。EMにおいて観察されたキャプシドの凝集に起因して、および凍結溶解のサイクルの後でのゲノムの力価の喪失により、いくつかのベクターを作り直した。これらのベクターを、150mMのNaClを添加したBSS-tweenの高塩バッファー中に入れた。バーコード付けされたプールにおいて利用された全てのベクター調製物は規格を通った。
【0112】
「バーコード付けされた」ベクタープール:2つの「プールされた」混合物を作製した:1.0×の混合物、3e12vg/mlの総濃度、各々のバリアントを約2.3e11vg/mlで有する;および0.1×の混合物、3e11vg/mlの総濃度、各々のバリアントを約2.3e10vg/mlで有する。両方のバーコード付けされたベクタープールを、BSS tweenバッファー中で希釈した。1.0×のプールを、高塩中で溶離したベクター調製物の包含に起因する、398mOsm対300mOsmの生理学であると計算した。Ivt注射によりベクターの著しい希釈が起こったことに注目した。プールは、別々に作製した(すなわち、0.1×のプールは、1.0×のプールの1:10希釈ではない)。
【0113】
NHPについてのバーコード付けされた実験計画:2個体のM. fascicularis(カニクイザル)は、FACSによる単離のために標識されたRGCを有した。それらは、1回の100ulのバーコード付けされたプールの硝子体内注射を受けた。一方の眼に、1.0×のプールを投与し、他方の眼に0.1×のプールを投与した。バーコード付けされたベクターのIvt注射の3週間後、それらは、「緑色」色素のLGN注射を受け、1週間後(バーコード付けされたベクター注射の4週間後)に安楽死させた。2つのNHPが有したPRは、FACSによる単離のために標識されていた。複数の網膜下ブレブが、視細胞をAAV5-GRK1-GFP標識した。3日後、それらに、100ulのバーコード付けされたプールのIvt注射を投与した(上記のものと同じ)。バーコード付けされたベクターのIvt注射の6週間後、動物を安楽死させた。安楽死は、もともとはバーコードのIvtの4週間後に予定されていたが、約1週間半遅らせた。全てのNHPを、抗AAV2 NAbについて予めスクリーニングした。選択された動物は、ナイーブであると考えられた。

表4.NHPの情報
【表4】
【0114】
RGCを標識された動物を、以下のとおりイメージングした:注射の1週間前、カラー眼底検査(color fundus)のみ;バーコードのIvt注射の2日後、カラー眼底検査のみ;Ivtバーコードの2および3週間後、カラー眼底検査+mCherry蛍光;Ivtバーコードの4週間後およびトレーサー注射のLGN注射6~7日後、FITC+mCherry蛍光。PRを標識された動物を、イメージングした:AAV5-GFPの網膜下注射(PR標識)の4日前、網膜下AAV5-GFPの9日後、カラー眼底検査のみ;網膜下AAV5-GFPの23日後、およびIvtバーコードの20日後、カラー眼底検査+FITC+mCherry蛍光、網膜下AAV5-GFPおよびIvtバーコードの4および5週間後、カラー眼底検査+FITC+mCherry蛍光;網膜下AAV5-GFPおよびIvtバーコードの6週間後、FITC+mCherry蛍光。イメージングの結果を、図21、22および23において示す。
【0115】
他の態様
本明細書において開示される特徴の全ては、任意の組み合わせにおいて組み合わせることができる。本明細書において開示される各々の特徴は、同じ、等価、または類似の目的にかなう代替的な特徴により置き換えることができる。したがって、別段に明示的に記述されない限り、開示される各々の特徴は、一般的な一連の等価または類似の特徴の一例に過ぎない。
上の記載から、当業者は、本開示の本質的な特徴を容易に確認することができ、その精神および範囲から逸脱することなく、開示を多様な用途および条件に適用させるために、その多様な変更および改変を行うことができる。したがって、他の態様もまた、請求の範囲の範囲内である。
【0116】
均等物
本発明のいくつかの態様を、本明細書において記載および説明してきたが、当業者は、機能を行うため、ならびに/または、本明細書において記載される結果および/もしくは利点のうちの1つ以上を得るための、多様な他の手段および/または構造を、容易に想起するであろう。本明細書において記載される利点のうちの1つ以上、ならびにかかるバリエーションおよび/または改変の各々は、本明細書において記載される本発明の態様の範囲内であるものとみなされる。より一般的に、当業者は、本明細書において記載される全てのパラメーター、寸法、材料および立体構造が、例示的なものであることを意図されること、ならびに、実際のパラメーター、寸法、材料および/または立体構造は、それのために本発明の教示が用いられる特定の用途に依存するであろうことを、容易に理解するであろう。当業者は、慣用的な実験のみを用いて、本明細書において記載される本発明の具体的な態様に対する多くの均等物を認識するかまたは確認することができるであろう。したがって、前述の態様は、単に例として提示されること、ならびに、添付の請求の範囲およびそれらの均等物の範囲内において、本発明の態様は、具体的に記載され請求されるものとは別段に実施することができることが理解されるべきである。本開示の本発明の態様は、本明細書において記載される各々の個々の特徴、系、物品、材料、キットおよび/または方法に仕向けられている。加えて、かかる特徴、系、物品、材料、キットおよび/または方法のうちの2つ以上の任意の組み合わせは、かかる特徴、系、物品、材料、キットおよび/または方法が相互に不一致でない場合には、本開示の発明の範囲内に含まれる。
【0117】
本明細書において定義され用いられる全ての定義は、辞書の定義、参考として援用される文書における定義、および/または定義される用語の通常の意味に対して優先される。
本明細書において開示される全ての参考文献、特許および特許出願は、各々が引用される手段に関して参考として援用され、これは、いくつかの場合においては、当該文書全体を包含し得る。
【0118】
不定冠詞「a」および「an」は、本明細書において明細書においておよび請求の範囲において用いられる場合、明らかに逆であることが示されない限り、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきである。
句「および/または(and/or)」は、本明細書において明細書においておよび請求の範囲において用いられる場合、そのように結合された要素、すなわち、いくつかの場合においては接続的に存在し、他の場合においては離接的に存在する要素のうちの「いずれかまたは両方」を意味すると理解されるべきである。「および/または(and/or)」と共に列記される複数の要素は、同じ様式におけるもの、すなわち、そのように結合された要素のうちの「1つ以上」と解釈されるべきである。「および/または(and/or)」節により特に同定される要素以外の他の要素は、それらの特に同定された要素に関連するか関連しないかにかかわらず、任意に存在してよい。したがって、非限定的な例として、「Aおよび/またはB」への参照は、「含む」などのオープンエンド式の語法により接続して用いられる場合、一態様においてはAのみ(任意にB以外の要素を含む)を;別の態様においてはBのみ(任意にA以外の要素を含む)を;さらに別の態様においては、AおよびBの両方(任意に他の要素を含む)を指し得る、など。
【0119】
本明細書において明細書においておよび請求の範囲において用いられる場合、「または(or)」は、上で定義される「および/または(and/or)」と同じ意味を有すると理解されるべきである。例えば、リスト中の項目を分離する場合、「または(or)」または「および/または(and/or)」は、包括的であるもの、すなわち、多数の要素または要素のリストのうちの少なくとも1つの包含であるが、1つより多く、および任意にさらなる列記されていない項目をも含むとして解釈されるべきである。「~のうちの1つのみ」または「~のうちの正確に1つ」、または請求の範囲において用いられる場合には、「~からなる(consisting of)」などの、用語が明らかに逆であることが示される場合のみは、多数の要素または要素のリストのうちの正確に1つの要素の包含を指すであろう。一般に、用語「または(or)」は、本明細書において用いられる場合、「いずれか(either)」、「~のうちの1つ(one of)」、「~のうちの1つのみ(only one of)」、または「~のうちの正確に1つ(exactly one of)」などの排他性の用語により先行される場合、排他的選択肢(すなわち、「一方または他方であるが、両方ではない」)を示すものとしてのみ解釈されるべきである。「~から本質的になる(consisting essentially of)」は、請求の範囲において用いられる場合、特許法の分野において用いられる場合のその通常の意味を有するべきである。
【0120】
本明細書において明細書においておよび請求の範囲において用いられる場合、1つ以上の要素のリストを参照する句「少なくとも1つ」は、要素のリスト中の要素のうちのいずれか1つ以上から選択される、少なくとも1つ要素を意味するが、必ずしも要素のリスト内に特に列記される各々および全ての要素のうちの少なくとも1つを含むものではなく、要素のリスト中の要素の組み合わせを除外するものではないことが、理解されるべきである。この定義はまた、句「少なくとも1つ」が指す要素のリスト内で特に同定される要素以外の要素が、それらの特に同定される要素に関連するか関連しないかにかかわらず、任意に存在してもよいことを可能にする。したがって、非限定的な例として、「AおよびBのうちの少なくとも1つ」(または、等しく、「AまたはBのうちの少なくとも1つ」、または、等しく、「Aおよび/またはBのうちの少なくとも1つ」)は、一態様においては、Bが存在しない状態での(および任意にB以外の要素を含む)、少なくとも1つ(任意に1つより多くを含む)のAを;別の態様においては、Aが存在しない状態での(および任意にA以外の要素を含む)、少なくとも1つ(任意に1つより多くを含む)のBを;さらに別の態様においては、少なくとも1つ(任意に1つより多くを含む)のA、および少なくとも1つ(任意に1つより多くを含む)のB(および任意に他の要素を含む)をを指し得る、など。
【0121】
また、明らかに逆であることが示されない限り、1つより多くのステップまたは行為を含む、本明細書において請求される任意の方法において、当該方法のステップまたは行為の順序は、必ずしも、当該方法のステップまたは行為が記述される順序に限定されないことも、理解されるべきである。
【0122】
請求の範囲において、ならびに上の明細書において、全ての移行句、例えば「~を含む(comprising)」、「~を含む(including)」、「~を担持する(carrying)」、「~を有する(having)」、「~を含む((containing)」、「~を含む((involving)」、「~を保持する(holding)」、「~からなる(composed of)」などは、オープンエンドである、すなわち、それを含むがそれに限定されないことを意味すると理解されるべきである。移行句「~からなる(consisting of)」および「~から本質的になる(consisting essentially of)」のみが、クローズまたはセミクローズな移行句であるべきであり、これは、米国特許庁特許審査便覧(Manual of Patent Examining Procedures)、セクション2111.03において記載されるとおりである。この文書において、オープンエンドの移行句(例えば「~を含む(comprising)」)を用いて記載される態様もまた、代替的態様において、オープンエンドの移行句により記載される特徴「~からなる(consisting of)」および「~から本質的になる(consisting essentially of)」ものとして、企図される。例えば、開示が、「AおよびBを含む組成物」を記載する場合、当該開示はまた、代替的態様である「AおよびBからなる組成物」および「AおよびBから本質的になる組成物」をも企図する。
図1A-1B】
図1C
図1C-2】
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9
図10A
図10B
図10C
図11
図12A
図12B
図12C
図13
図13-2】
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
【配列表】
0007237843000001.app