(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】超音波溶接デバイス
(51)【国際特許分類】
B23K 20/10 20060101AFI20230306BHJP
【FI】
B23K20/10
(21)【出願番号】P 2020512803
(86)(22)【出願日】2018-08-14
(86)【国際出願番号】 EP2018072049
(87)【国際公開番号】W WO2019042765
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-07-14
(31)【優先権主張番号】102017215483.7
(32)【優先日】2017-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】517359820
【氏名又は名称】シュンク ゾノシステムズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ミュラー
(72)【発明者】
【氏名】ライナー バーゲンバッハ
(72)【発明者】
【氏名】バルデマール ベルナー
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】独国実用新案第202011005326(DE,U1)
【文献】特開2013-031869(JP,A)
【文献】米国特許第04410383(US,A)
【文献】特開2013-198924(JP,A)
【文献】特開平06-155051(JP,A)
【文献】特表2009-513353(JP,A)
【文献】特開2009-022977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00 - 20/26
B29C 63/00 - 63/48、65/00 - 65/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波溶接デバイス(10)であって、
超音波振動を伝達するソノトロード(14)と、アンビル・キャリヤ(17)上に配設されたアンビル(15、37)と、を備え、
前記アンビル(15、37)は交換可能な様式で前記アンビル・キャリヤ(17)上に配設され、前記アンビル(15、37)の取り付け面(21、36)が、予張力負荷デバイスによる垂直方向力により、前記アンビル・キャリヤ(17)の支持表面(22)に当接して着座する、超音波溶接デバイス(10)において、
前記アンビル(15、37)の前記取り付け面(21、36)は、前記アンビル・キャリヤ(17)の前記支持表面(22)の表面硬度よりも大きい表面硬度を有し、
前記取り付け面(21、36)は、少なくとも部分的表面(31、38)の領域において表面構造(32)を備え、且つ、
前記取り付け面(21、36)は、少なくとも前記部分的表面(31、38)の領域において、Rz/Ra≧2の表面粗さを有
し、
前記表面構造(32)は少なくとも区画的に前記ソノトロード(14)の長手振動方向(28)に関して角度αにて傾斜された線状の構造要素成分(33)を備え、
前記表面構造(32)は、前記ソノトロード(14)の前記長手振動方向(28)において、前記アンビル・キャリヤ(17)に関して前記アンビル(15、37)の相対運動に対する障壁を形成する、
ことを特徴とする、超音波溶接デバイス(10)。
【請求項2】
前記アンビル・キャリヤ(17)の前記支持表面(22)はHRC58より小さい表面硬度を有し、且つ、前記アンビル(15、37)の前記取り付け面(21、36)はHRC59より大きい表面硬度を有することを特徴とする、請求項
1に記載の超音波溶接デバイス(10)。
【請求項3】
前記表面構造はライングリッド構造(39)により形成されることを特徴とする、請求項1
又は2に記載の超音波溶接デバイス(10)。
【請求項4】
少なくとも区画的に、前記ライングリッド構造(39)は、Rzにより定義される最大高さの隆起格子線(40)を有することを特徴とする、請求項
3記載の超音波溶接デバイス(10)。
【請求項5】
前記ライングリッド構造(39)は、前記取り付け面の少なくとも部分的表面(38)をレーザ光線に晒すことにより作製されることを特徴とする、請求項
3又は4に記載の超音波溶接デバイス(10)。
【請求項6】
前記取り付け面(21、36)は、少なくとも前記部分的表面(31、38)の領域において、Rz/Ra≧5の表面粗さを有することを特徴とする、請求項1~
5の何れか一項に記載の超音波溶接デバイス(10)。
【請求項7】
Rz≧8μmであることを特徴とする、請求項1~
6の何れか一項に記載の超音波溶接デバイス(10)。
【請求項8】
Rz≧20μmであることを特徴とする、請求項
6記載の超音波溶接デバイス(10)。
【請求項9】
Rz≧25μmであることを特徴とする、請求項
7記載の超音波溶接デバイス(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波振動を伝達するソノトロードと、アンビル・キャリヤ上に配設されたアンビルであって、アンビルの取り付け面が、予張力負荷デバイスにより生成された垂直方向力により、アンビル・キャリヤの支持表面に当接して着座する様に、交換可能な様式でアンビル・キャリヤ上に配設されているというアンビルとを備える超音波溶接デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1からは、上述された型の超音波溶接デバイスが知られる。一対の溶接トングとして実現される通常の超音波溶接デバイスは、アンビル・キャリヤ上に交換可能な様式で配設されたアンビルであって、このアンビルの取り付け面を介してアンビル・キャリヤの支持表面に対して伝達されるソノトロードの長手方向振動が、アンビルとアンビル・キャリヤとの間の相対運動を引き起こすことを阻止するために、アンビル・キャリヤの支持表面とアンビルの取り付け面との間の垂直方向力として作用する事前張設力を生成するねじ締結体により、アンビルの取り付け面とアンビル・キャリヤの支持表面との間の接合面における所定位置に保持されるというアンビルを備える。もし斯かる相対運動が生じたなら、それは、上記接合面におけるアンビルとアンビル・キャリヤとの間の局所的溶接に帰着し得ることで、アンビルが交換される必要があるときに、アンビルがアンビル・キャリヤから分離され得なくなる。
【0003】
実際問題として、アンビルが小型化されると共に、アンビルとアンビル・キャリヤとの間のねじ締結体が対応して小寸であるとき、アンビルとアンビル・キャリヤとの間の不都合な相対運動の排除を確実とするためにアンビルとアンビル・キャリヤとの間に十分に大きな事前張設力を生成することは可能でないことが明らかとなっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】2007年8月に発行されたシュンク・ゾノジステム社(Sch‐unk Sonosystems GmbH)による製品パンフレット「STAPLA Ultraschall-Schweiss-systeme KOBRA」(英文:「STAPLA超音波溶接システムKOBRA」)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
故に、本発明の目的は、垂直方向力が比較的に小さいときでさえもアンビル・キャリヤ上の所定位置にアンビルを効果的に保持し得る超音波溶接デバイスを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために、本発明に係る超音波溶接デバイスは、請求項1の特徴を有する。
【0007】
本発明に依れば、上記アンビルの上記取り付け面は、上記アンビル・キャリヤの上記支持表面の表面硬度よりも大きい表面硬度を有し、上記取り付け面は、少なくとも部分的表面の領域において表面構造を有し、且つ、上記取り付け面は、少なくとも上記部分的表面の領域において、Rz/Ra≧2の表面粗さを有する。
【0008】
上記アンビル・キャリヤの上記支持表面と比較して更に硬質に実現された上記アンビルの取り付け面の異なる様に実現された表面硬度によれば、上記取り付け面の少なくとも部分的表面において実現された表面構造は、上記取り付け面が少なくとも上記部分的表面の領域において、Rz/Ra≧2の表面粗さを有するならば、作用する垂直方向力により上記支持表面に対して食い込み得る。
【0009】
表面粗さのこの比率によれば、上記ソノトロードの長手振動の方向における相対運動を上記表面構造が効果的に阻止するために、平均粗さRaの値、最大高さRzの値により大きく超えられるものとなる。
【0010】
基本的に、上記考察からは、表面構造が、少なくとも部分的表面の領域において上記ソノトロードの長手振動方向における相対運動に対する障壁を形成するなら、上記アンビル・キャリヤに関する上記アンビルの固定、すなわち軸方向の拘束が達成されることが明らかとなる。
【0011】
好適実施例に依れば、もし上記表面構造が、少なくとも区画的に上記ソノトロードの長手振動方向に関して迎え角αにて傾斜された線状の構造要素成分を備えるなら、たとえば、上記ソノトロードの長手振動方向に関して角度αにて傾斜されたライン区画としての構造要素成分を備える単一の線状の構造が既に十分であり得る。上記ライン構造は、直線状または波形状のいずれかであり得る。
【0012】
好適には、上記アンビル・キャリヤの上記支持表面はHRC58より小さい表面硬度を有すると共に、上記アンビルの上記取り付け面はHRC59よりも大きい表面硬度を有する。
【0013】
線状の構造要素成分が、垂直方向力が減少されたときでさえも効果的に相対運動に対抗し得る確実な効果であって、上記ソノトロードの長手振動の方向における相対運動を妨げることにより概略的に相対運動を阻止する役割を果たすという確実な効果を既に引き起こすとしても、上記表面構造が、Rzにより定義される高さの複数本の隆起格子線を好適に有するライングリッド構造により形成されるならば、特に有用であることが判明している。
【0014】
上記グリッドが、上記取り付け面の部分的表面をレーザ光線に晒すことにより作製されるならば、ライングリッド構造の再現可能な実施例が可能となり、フライス削りにより処理された上記アンビルの取り付け面は、各格子線を作製するために相互に平行に配設された複数の経路においてレーザ光線により走査され得る。
【0015】
結果として、たとえば、上記取り付け面のフライス削りに対応する表面粗さRz=25μm、および、上記取り付け面をレーザ光線に晒すことに対応するRa=5μmに対する値が可能である。
【0016】
上記取り付け面が、少なくとも上記部分的表面の領域においてRz/Ra≧5の表面粗さを有するならば、有用な実施例が既に達成され得る。
【0017】
実験においては、Rz≧8μmならば更なる向上が可能であり、且つ、Rz≧20μmならば更に大きな向上が可能であることが立証されている。
【0018】
上述された如く例示的な様式により上記取り付け面のフライス削りにより可能であるRz≧25μmの表面粗さに依れば、グリッド形状の表面構造を実現するために上記取り付け面をレーザ光線に晒すことは、Ra/Rzの所望の比率を達成するために特に好適に行われ得る。
【0019】
以下においては、本発明の好適実施例が図面を用いて更に記述される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、一対の溶接トングとして実現された超音波溶接デバイスであって、トング・ケーシング内に配設されて閉じ位置とされた溶接顎部を有するという超音波溶接デバイスの斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示されると共にアンビル・キャリヤ上に配設されたアンビルを有する一対の溶接トングの開かれた溶接顎部の概観図である。
【
図3】
図3は、
図2に示されたアンビルの取り付け面において実現された表面構造の概観を含む、アンビルの底面図である。
【
図4】
図4は、取り付け面の部分的表面においてライングリッド構造として実現された表面構造を有する取り付け面の代表的実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、一対の超音波溶接トングとして実現されると共に、共有のトング・ケーシング13内に配設された上側トング部11および下側トング部12を有する超音波溶接デバイス10の斜視概観を示している。必須の構成要素として、上側トング部11は、超音波振動デバイスの前端部に配設されて第1溶接顎部を形成するソノトロード14を備える超音波振動デバイスを備える。溶接ケーシング13上には、ソノトロード14と対照的に変位可能に保持されたアンビル15であって、この場合にはねじ締結体16(
図2)として実現された予張力負荷デバイスにより交換可能な様式でアンビル・キャリヤ17に対して接合されたというアンビル15が配設される。
【0022】
アンビル15は、このアンビル15上に形成された対向表面19が、この場合には長手方向振動を発するものとして実現されたソノトロード14の作用表面20に対して移動される如き様式で、(不図示の)起動デバイスによりトング・ケーシング13の後側部分に形成された枢動軸18の回りでソノトロード14に対して枢動され得る第2溶接顎部を形成する。
【0023】
図2の概観において明瞭となる如く、アンビル15は、このアンビル15の下側面を形成する取り付け面21(
図3参照)がアンビル・キャリヤ17の上側面を形成する支持表面22上に着座する如き様式で、ねじ締結体16を介してアンビル・キャリヤ17に対して接合される。この場合、アンビル・キャリヤ17は、その長手方向縁部に沿う案内突出部23、24を備え、アンビル15を交換するために、アンビル15が、この場合には2つのボルト締結体26、27を備えるねじ締結体16を緩めた後にソノトロード14の長手方向28において取り外され得る如く、案内突出部23、24は軸方向案内デバイス25を形成すると共に、この場合に長手方向28は、ソノトロード14の主要振動方向に一致している。
【0024】
図2において視認され得る如く、ねじ締結体16は締着力もしくは垂直方向力Nを生成する役割を果たし、これにより、取り付け面21は、長手方向28における所定位置にアンビル15を保持するために支持表面22に当接して押圧される。
【0025】
図3が示す様に、本実施例においてはボルト締結体26、27を実現するために2つのねじ穴29、30が配備されたアンビルの取り付け面21は部分的表面31において表面構造32を備え、この表面構造32は、この場合には概略的にのみ示されると共に、この場合には構造ラインとして実現された複数の構造要素成分33を備える。構造要素成分33は、少なくとも、部分的に、または、区画的に、取り付け面21における隆起された格子線34を形成し、各格子線34は、
図2に示されたアンビル15の組立て状態において支持表面22に対して配向されると共に、示された代表的実施例においては長手方向に関してα=90°の迎え角にて傾斜されている。
【0026】
この場合、アンビル15およびアンビル・キャリヤ17は異なる材料で作成されることから、アンビル15およびアンビル・キャリヤ17は、少なくとも取り付け面21および支持表面22の領域において、この場合にはアンビルに対してはHRC62、且つ、アンビル・キャリヤ17に対してはHRC57である異なる表面硬度を有している。
【0027】
隆起格子線34がアンビル15の取り付け面21上に形成され、且つ、アンビル15の取り付け面21はアンビル・キャリヤ17の支持表面22と比較して更に硬質であることから、十分に大きい垂直方向力Nが及ぼされたときに、アンビル15とアンビル・キャリヤ17との間の接合面35において形状的嵌合が実現される様に、取り付け面21の格子線34はアンビル・キャリヤ17の支持表面22に食い込まされ、上記形状的嵌合によれば、アンビル15は長手方向28においてアンビル・キャリヤ17上に係止される結果、ソノトロード14を介してアンビル15に対して伝達された長手方向振動は、アンビル15とアンビル・キャリヤ17との間の相対運動を引き起こし得ない。
【0028】
接合面35において及ぼされると共に、ソノトロード14の長手方向振動により引き起こされる軸方向力Fに抗するアンビル15とアンビル・キャリヤ17との間の形状的嵌合を確実とするために、取り付け面21は、Rz/Raが4に等しい、すなわち、最大高さRzが平均粗さRaの4倍である如き表面を備えている。
【0029】
図4は、アンビル37の取り付け面36の描画を示しており、アンビルは自身において実現された部分的表面38であって、取り付け面36をレーザ光線に晒すことにより部分的表面38の領域に作製されたライングリッド構造39を有するという部分的表面38を有している。示された代表的実施例において、フライス削りにより作製された取り付け面36は、この目的のために、レーザ光線に対して晒されることによりY軸の方向に延在する複数本の格子線40を有するライングリッド構造39を形成するために平行経路に沿いレーザを移動させることで材料が除去されて複数本の溝41を形成する如き様式で、部分的表面38の領域においてレーザ光線に対して晒される。
【0030】
X方向において実施された表面走査によれば、各溝41の領域において平均粗さRa=6.3μm、且つ、各格子線40の領域において最大高さRz=25μmであった。