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特許7237960標的細胞の選択的形質導入のためのアダプターベースのレトロウイルスベクター系
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】標的細胞の選択的形質導入のためのアダプターベースのレトロウイルスベクター系
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/867 20060101AFI20230306BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20230306BHJP
   C07K 14/115 20060101ALI20230306BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230306BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230306BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230306BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20230306BHJP
   A61P 37/02 20060101ALN20230306BHJP
【FI】
C12N15/867 Z
C12N7/01
C07K14/115 ZNA
C07K16/28
C07K19/00
A61K35/76
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P37/02
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020524194
(86)(22)【出願日】2018-10-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-14
(86)【国際出願番号】 EP2018079486
(87)【国際公開番号】W WO2019086351
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-10-22
(31)【優先権主張番号】17199170.6
(32)【優先日】2017-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520493902
【氏名又は名称】ミルテニイ ビオテック ベー.ファー. ウント コー.カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】シェーサー,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】コルデス,ニコル
(72)【発明者】
【氏名】ミッテルシュテット,イェルク
(72)【発明者】
【氏名】カイザー,アンドリュー
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0050242(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0189690(US,A1)
【文献】特表2017-505606(JP,A)
【文献】J. Gene Med., 2009, Vol.11, No.8, pp.655-663
【文献】Human Gene Ther., 2010, Vol.21, No.10, pp.1406-1407 (Abstract Number: P 28.)
【文献】Human Gene Ther., 2009, Vol.20, No.11, pp.1540-1541 (Abstract Number: P 341.)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12N 1/00- 7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子と、
ii)タグ付きポリペプチドと
を含む組成物であって、
前記シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子は、
a)抗原結合活性を有する1種のエンベロープタンパク質であって、その天然受容体のうちの少なくとも1つと相互作用せず、かつその外部ドメインにおいて、前記タグ付きポリペプチドのタグに対して特異的な抗原結合性ドメインを含むポリペプチドに融合している組換えタンパク質であり、かつ、パラミクソウイルス科に由来するG、HN、またはHタンパク質である、前記エンベロープタンパク質と、
b)パラミクソウイルス科に由来する融合活性を有する1種のエンベロープタンパク質と、を含み、
前記タグ付きポリペプチドは、標的細胞の表面で発現する抗原に特異的に結合することにより、前記標的細胞に前記レトロウイルスベクター粒子を形質導入するか、または、前記標的細胞への前記ウイルス様粒子の取り込みを誘導する、組成物。
【請求項2】
抗原結合活性を有する前記エンベロープタンパク質が、ヒト指向性ではない、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記形質導入または前記取り込みの誘導が、前記タグ付きポリペプチドの存在下において、非標的細胞よりも、前記標的細胞において少なくとも10倍高い、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記パラミクソウイルス科ウイルスが、モルビリウイルス属またはヘニパウイルス属のウイルスである、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
パラミクソウイルス科のウイルスのGまたはHタンパク質に由来する前記タンパク質から、前記GまたはHタンパク質の細胞質領域の少なくとも一部が欠如している、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
パラミクソウイルス科に由来する融合活性を有する前記エンベロープタンパク質から、前記エンベロープタンパク質の細胞質領域の少なくとも一部が欠如している、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記モルビリウイルス属のウイルスが、麻疹ウイルスまたは麻疹ウイルスのEdmonston株である、請求項に記載の組成物。
【請求項8】
前記レトロウイルスベクター粒子が、レンチウイルス粒子またはガンマレトロウイルスベクター粒子ある、請求項1から7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記タグ付きポリペプチドのポリペプチドが、抗体またはその抗原結合性断片であり、前記抗体またはその抗原結合性断片が、前記標的細胞の表面で発現する前記抗原に結合し、前記タグ付きポリペプチドのタグが、ハプテンである、請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記タグ付きポリペプチドのポリペプチドが、抗原結合性部分(ABM)であり、
前記タグ付きポリペプチドのタグが、
i)抗原結合性部分(ABM)であって、前記標的細胞の表面で発現する前記抗原に特異的に結合するABMと、
ii)標識部分(LaM)であって、ビオチンであるLaMと、
iii)前記ABMと前記LaMとをコンジュゲートすることによりリンカー/標識エピトープ(LLE)を形成するリンカー部分(LiM)と
を含む、標的細胞結合性分子(TCBM)のリンカー/標識エピトープ(LLE)であり、
タグに対して特異的な前記ポリペプチドの前記抗原結合性ドメインが、リンカー/標識エピトープ(LLE)結合性ドメインであり、
前記LLE結合性ドメインが、前記ビオチンよりも高い優先度で前記LLEに結合する、
請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記LLE結合性ドメインが、前記ビオチンよりも少なくとも2倍高い親和性で前記LLEに結合する、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記LiMが、6-(6-アミノヘキサンアミド)ヘキサノイル部分または6-アミノヘキサノイル部分である、請求項10または11に記載の組成物。
【請求項13】
前記LLE結合性ドメインが、配列番号1(VH)および配列番号2(VL)の配列を含む、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の組成物を含、医薬組成物。
【請求項15】
ュードタイプレトロウイルスベクター粒子を標的細胞に形質導入するための、またはそのウイルス様粒子のタンパク質を送達するためのインビトロ方法であって、
a)グ付きポリペプチドと、標的細胞をプレインキュベーションするステップと、
b)前記レトロウイルスベクター粒子またはそのベクター様粒子を、ステップa)のプレインキュベートされた前記標的細胞に添加するステップと
を含
前記シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子は、
a)抗原結合活性を有する1種のエンベロープタンパク質であって、その天然受容体のうちの少なくとも1つと相互作用せず、かつその外部ドメインにおいて、前記タグ付きポリペプチドのタグに対して特異的な抗原結合性ドメインを含むポリペプチドに融合している組換えタンパク質であり、かつ、パラミクソウイルス科に由来するG、HN、またはHタンパク質である、前記エンベロープタンパク質と、
b)パラミクソウイルス科に由来する融合活性を有する1種のエンベロープタンパク質と、を含み、
前記タグ付きポリペプチドは、標的細胞の表面で発現する抗原に特異的に結合することにより、前記標的細胞に前記レトロウイルスベクター粒子を形質導入するか、または、前記標的細胞への前記ウイルス様粒子の取り込みを誘導するものである、インビトロ方法。
【請求項16】
薬学的に許容しうる担体をさらに含む、請求項14に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タグに対する特異性を有するシュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのベクター様粒子(VLP)の分野に関し、ここで前記タグは、標的細胞で発現する抗原に結合するポリペプチドに連結しており、これにより、複数の標的細胞部分への前記レトロウイルスベクター粒子またはそのベクター様粒子の標的化された形質導入が可能になる。
【背景技術】
【0002】
レトロウイルスベクターを使用した遺伝子送達は、欠陥遺伝子を修正し、細胞に新たな機能をもたらすために広く使用されているアプローチである。しかしながら、一般的に使用されるタイプのレトロウイルスベクターは、その性質のため、意図的に選択的ではないために、多くの治療的分野におけるレトロウイルスベクターの安全性プロファイルおよび適用性を制限する。
【0003】
通常、レトロウイルスベクターは、水疱性口内炎ウイルス(VSV-G)のエンベロープタンパク質でシュードタイピングされる。このシュードタイプは、治療に関連した細胞型を含む広範な標的細胞に形質導入するが、十分な形質導入効率レベルに達するには刺激剤を用いた予備活性化を必要とする場合がある。
【0004】
さらに、混合細胞集団では、規定の細胞型のみにおいて標的遺伝子を発現するために磁気細胞分離などの選択手段が必要とされる。これにより、副作用をもたらすオフターゲット集団の形質導入が回避される。
【0005】
また、意図的に選択的であることから、標的集団の事前選択を必要としないLV系を設計する試みが試された。しかしながら、これらの系は、選択性、生産性、または適用性の点で制限される。
【0006】
US20160333374は、VSV-Gの外部ドメインに融合されたscFV(VSVG-scFV)などの抗体断片に基づく系について記載している。その目標は、VSV-Gの好ましい生産性とscFVの特異性とを組み合わせることであった。このアプローチは標的抗原への結合を可能にしたが、VSVG-scFVは、レトロウイルスの標的細胞膜との融合を媒介することも、そして結果として形質導入を媒介することもできなかった。この障害を克服するためには、未改変のVSV-GをVSVG-scFVと共提示させる必要があった。結果的に、機能的だが非選択的なVSV-Gと、選択的だが非機能的なVSV-G-scFVとの共提示は、標的抗原発現細胞の優先的な形質導入をもたらしただけであった。しかし、(非選択的)天然VSV-Gの保持された機能に起因して、標的抗原を発現しない細胞も形質導入されたことが最も重要である。したがって、この系は、標的抗原発現細胞の形質導入を優先するが、真に選択的なものであるとはいえない。
【0007】
融合活性を有するタンパク質(Fタンパク質)と、scFVに融合されている抗原結合活性を有するタンパク質(Hタンパク質)とを含む麻疹ウイルスエンベロープタンパク質(MV-LV)でシュードタイピングされた再標的化レンチウイルスベクターでは、より高い選択性が見られた(WO2008/037458A2)。この系の広い有用性は、様々な抗原についてインビトロでもインビボでも試験されてきた(Anlikerら(2010年))。しかしながら、標的化されたレトロウイルスベクターのそれぞれの特異性のためには、別個のレトロウイルスの産生が必要とされる。したがって、この系は、レトロウイルスベクターの特異性に完全な柔軟性を与えることはない。また、標的化された細胞集団における形質導入効率を制御すること、例えば、組み込みベクターコピー数(VCN)によって目的の遺伝子の発現率を制御することは制限される。
【0008】
レンチウイルスベクターだけでなく、ガンマレトロウイルスベクターも、切断型(truncated)麻疹ウイルスエンベロープタンパク質を用いたシュードタイピングに成功した(Edes(2016年)、Frechaら(2008年))。興味深いことに、ガンマレトロウイルスベクターとの関連において、最も高いレトロウイルスベクター力価は、レンチウイルスベクターのシュードタイピングについて試験された変異体と比較してわずかに異なる切断変異体で測定された。これらの系は機能的であるが、いくつかの技術的欠点が観察されている。例えば、レトロウイルスベクター力価は、産生中(すなわち、HEK-293T細胞のトランスフェクション時)のキメラH-scFVタンパク質の表面発現レベルに大きく依存する。特に、scFVのフレームワーク領域の配列が、提示されるscFVの生物物理学的特性、そして結果として機能的レトロウイルスベクター力価に影響することが示されている(Friedelら(2015年))。
【0009】
Benderら(2016年)、KhetawatおよびBroder(2010年)、およびUS9486539B2はまた、別のパラミクソウイルス科ウイルスであるNipahウイルスに由来するエンベロープタンパク質も、レンチウイルスベクターをシュードタイピングし、場合によって選択的形質導入のために再標的化するために使用できることを示している。
【0010】
興味深いことに、Rasbachら(2013年)は、3つの異なる膜タンパク質がシュードタイピングに使用されるように、抗原結合機能を有する非ウイルス性膜貫通タンパク質をMV-LVに添加した。このアプローチを使用して、麻疹Hタンパク質の結合機能が非ウイルス性膜貫通タンパク質によって置換されたが、機能的なシュードタイピングされたレンチウイルスベクターを得るためには、麻疹Hタンパク質の融合ヘルパー機能が依然として必要であった。別の膜タンパク質の添加は、機能的レンチウイルスベクター力価を、2つのエンベロープタンパク質のみでシュードタイピングされたレンチウイルスベクターと比較して約1桁増加させた。
【0011】
しかしながら、これまでに説明されているあらゆるシュードタイプレトロウイルスベクター系には、1つの主な欠点が残っている。それは、標的化レトロウイルスベクターのそれぞれの特異性について、異なるエンベロープタンパク質構築物を使用する必要があるため、別個のレトロウイルスを産生する必要があるということである。シュードタイプレトロウイルスベクターの産生は、面倒かつ高価であるのみならず、機能的レトロウイルスベクター力価を判定するためにロット毎(lot-wise)のQC試験も必要とする。さらに、これらの系は、シュードタイプレトロウイルスベクターの特異性を即座に変化させる柔軟性の高い解決策をもたらすこともなければ、特定の用途の実際の必要性に適応するような形質導入効率の制御を可能にすることもない。安全性の観点から言えば、特にVCNの上限が考察される臨床環境において、ゲノムに組み込まれるベクターコピー数の制御が所望される。
【0012】
また、当技術分野では、最適な抗原に対して特異的な改変されたポリペプチドを添加して選択的にしたユニバーサルなレトロウイルスベクターを用いて、汎用的なアダプターベースの系が開発された(Metznerら(2013年)に概説されている)。例えば、Rouxら(1989年)は、二重特異性抗体複合体に基づくガンマレトロウイルスベクターとの関連におけるアダプターベースの系を記載している。ガンマレトロウイルス粒子に対して特異的な1種のビオチン化抗体が、アビジンを介して、標的細胞によって発現される最適な標的抗原に対して特異的な別のビオチン化抗体に連結された。しかしながら、同著者らは形質導入率の低さを認めており、試験された特異性または抗体複合体自体が観察されている効率が限定的である原因であり得るとの仮説を立てている。
【0013】
Snitkovskyら(2002年)は、scFVなどの抗原結合性リガンドに融合した細胞外受容体ドメインからなる組換えアダプター分子に結合するレトロウイルスベクターに基づく代替的な系を提供する。ここでも、形質導入された標的細胞が最大5%という非常に限定的な効率が観察された。
【0014】
Morizonoら(2009年)は、アダプター分子として使用される抗体のFc部分に特異的に結合するプロテインAドメインを提示するレンチウイルスベクターを開発した。プロテインAに対するFcの親和性は低いため、ビオチンとアビジンの相互作用も評価された。ビオチンが、挿入された細菌性ビオチンアダプターペプチド(BAP)を介してウイルスエンベロープタンパク質に添加された。ここでは、アビジンコンジュゲートIgGがアダプターとして使用された。しかしながら、アビジンはまた、荷電細胞表面分子に結合する。したがって、結果として、アビジンコンジュゲート抗体は非標的細胞に非特異的に結合する場合もあるため、その適用性は限定される。
【0015】
Kaikkonenら(2009年)もまた、標的細胞にアダプター分子を特異的に形質導入するためにビオチンとアビジンの相互作用を使用した。このとき、アビジンを提示するレトロウイルスベクターが、ビオチン化されたリガンドまたは抗体に適用された。アビジンは、効率的な組み込みのためにVSV-Gの膜貫通アンカーに添加された(アビジン-VSVG)。この組換えエンベロープタンパク質は結合のみを促し、融合を促さなくなるため、バキュロウイルスに由来するgp64がレトロウイルスベクターの表面で共発現された。Kaikkonenら(2009年)は、腫瘍細胞において過剰発現する受容体(トランスフェリン受容体、EGFR、およびCD46)に対して特異的なアダプターを選択した。この系は、gp64がレトロウイルスベクターエンベロープにおいてアビジン-VSVGと共に共提示されるため、真に選択的とはいえなかった。アダプターの添加は、標的細胞集団の形質導入を促進したが、非特異的な形質導入も検出されている。非特異的な形質導入は、ビオチン相互作用を使用するあらゆる適応可能なレトロウイルスベクター系にとって特に重要である。ビオチン特異的レトロウイルスベクターは、細胞表面に存在する自然発生ビオチンに結合し得、これが、これらの細胞の非特異的な形質導入を誘導する。逆に、ビオチンに対して特異的なアダプター分子が、非標的細胞に存在する自然発生ビオチンに結合する場合もある。
【0016】
Hoop(2014年)は、麻疹ウイルスエンベロープタンパク質でシュードタイピングされたレンチウイルスベクター(MV-LV)を使用して、アダプターベースのレトロウイルスベクター系を開発した。このとき、天然受容体を認識する切断型Hタンパク質変異体が使用された(すなわち、scFVなし)。このアダプターは、レンチウイルスベクター結合性ドメインが麻疹ウイルス受容体(CD46)の細胞外部分であるように設計された。可溶性受容体断片が、可動性(G4S)3リンカーを介して標的細胞抗原結合性領域に融合された。驚くべきことに、このアダプターがシュードタイプLV粒子を非選択性にすることが見出された。すなわち、形質導入効率は、標的細胞集団においてだけではなく、アダプターの標的抗原を発現しない非標的集団においても上昇した。このアダプターの効果は、Polybrene(登録商標)、硫酸プロタミン、またはVectofusin-1(登録商標)などの一般的に公知の形質導入促進試薬に匹敵する。しかし、これらの試薬の作用機序は、ウイルス膜と標的細胞膜との電荷反発を克服し、両方の膜を近接させ、形質導入効率レベルおよび遺伝子導入率を上昇させることである。
【0017】
したがって、当技術分野において説明されている技術は、選択性、制御、または適用性のいずれかの点からの結果を示すが、これらの系のいずれも、これらすべてのパラメータの組み合わせに対応する解決策をもたらすものではない。
【発明の概要】
【0018】
結論として、当技術分野では、シュードタイプレトロウイルスベクターまたはそのウイルス様粒子の分野における代替的および/または向上した形質導入技術、例えば、上述のパラメータの組み合わせに対応し、かつシュードタイプレトロウイルスベクターまたはそのウイルス様粒子の標的細胞への制御された選択的な形質導入を可能にし、かつ臨床的に適用され得る方法が必要とされている。
【0019】
本発明者らは、驚くべきことに、抗原結合活性および融合活性を有する、パラミクソウイルス科ウイルスエンベロープタンパク質(ここで、抗原結合活性を有する前記タンパク質は、その天然受容体のうちの少なくとも1つと相互作用しないキメラタンパク質である)でシュードタイピングされたレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子が、高い標的細胞選択性を有する適応可能なレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子の系を生成するために使用され得ることを見出した。この知見が驚くべきものであるのは、同様にパラミクソウイルス科由来エンベロープタンパク質に基づいたシュードタイピングのための代替的なアプローチにより、そのようなシュードタイプレトロウイルスベクターがアダプターの存在下で非選択的に形質導入することが明らかに示されたためである(Hoop、2014年)。
【0020】
本発明の一実施形態では、アダプター分子に結合するために同様にビオチン相互作用を使用する、適応可能なレトロウイルスベクターまたはそのウイルス様粒子の系が提供され、このアダプター分子は、特異的リンカーを介してビオチンに連結されたポリペプチド、例えば標的細胞の抗原に結合する抗体を含む。本明細書において開示されるレトロウイルスのエンベロープタンパク質は、遊離ビオチンまたはポリペプチドなどの部分に別の様式で連結されたビオチンよりも高い優先度でアダプター分子のビオチンに結合する。したがって、先行技術の代替的な系とは対照的に、自然発生ビオチンとの競合がないかまたは少なく、それにより、例えば限定されたまたは非特異的な形質導入が回避される。
【0021】
本発明の知見は、大規模でより効率的に産生される「ユニバーサルな」レトロウイルスベクターを利用する。アダプターの量および特異性を調節することにより、使用者は、標的細胞においてのみ調整可能な様式で形質導入プロセスを完全に制御できる。
【0022】
例えば、抗原結合性ドメインを含むポリペプチドと共に、その天然受容体のCD46、ネクチン-4、および/またはSLAMと相互作用しない組換え切断型Hタンパク質バージョンが作出され(周知の突然変異を切断型Hタンパク質に導入することによる)、ここで前記ポリペプチドは、タグ付きポリペプチドのタグに対して特異的であり、前記タグ付きポリペプチドは、標的細胞の表面で発現する抗原に特異的に結合する。したがって、本明細書において開示されるレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子の適応可能な系は、本明細書において開示されるレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子および対応するタグ付きポリペプチドを含む。
【0023】
例えば、切断型Fタンパク質は、ウイルス膜と標的細胞の細胞膜との融合を媒介している。切断型Hタンパク質は融合機能を支えるが、突然変異の導入によって惑わされるため、その天然受容体のCD46、ネクチン-4、またはSLAMと相互作用しなくなる。キメラタンパク質のうち、抗原結合性ドメインを含むポリペプチドを含む部分は、タグ付きポリペプチドのタグに特異的に結合する。タグは、デキストラン、ハプテン、例えばFITCおよびビオチン、または本明細書において開示される標的細胞結合性分子(TCBM)のリンカー/標識エピトープ(LLE)であり得る。タグ付きポリペプチドは、例えば、標的細胞の表面で発現する抗原に特異的に結合するハプテニル化された(haptenylated)抗体またはその抗原結合性断片、例えば、最適な抗原に対して特異的なビオチン化抗体であり得る。
【0024】
本明細書において開示されるレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子は、かくして、タグ付きポリペプチドの抗原結合性ドメインが結合した対応するマーカー(抗原)を発現する細胞に移入し、ここで、レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子は、切断型受容体結合タンパク質、例えばレトロウイルスベクター粒子のHタンパク質のタグに対して特異的な抗原結合性ドメインを含むポリペプチドを介して、タグ付きポリペプチドのタグに結合する。しかしながら形質導入は、これらのマーカー(抗原)を発現しない細胞では正常に行われない。
【0025】
同様に、本明細書において開示されるレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子は、前記ポリペプチドの存在下でのみ対応するマーカーを発現する標的細胞に形質導入することができる。前記ポリペプチドの非存在下では、前記レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子の形質導入は、いずれの細胞型でも正常に行われない。
【0026】
したがって、本発明のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子を使用した細胞移入および形質導入は、適応可能な様式における特定の細胞への選択性の高い遺伝子導入のための効率的かつ効果的な手段であることを示した。本発明の一実施形態では、そのような標的細胞は、免疫細胞、造血細胞、幹細胞、がん性細胞、神経系細胞、筋細胞、血管内皮前駆細胞(EPC)、内皮細胞、および異常細胞からなる群から選択される。
【0027】
本発明のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子および対応するタグ付きポリペプチドに基づく医薬組成物は、1種または複数の生理学的に許容される担体または賦形剤を使用した任意の従来的な様式において製剤化され得る。したがって、本発明のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子は、例えば、注射、吸入、もしくはインシュレーション(insulation)(口または鼻のいずれかによる)、または経口、頬側、非経口、もしくは直腸投与による投与(タグ付きポリペプチドと一緒、またはその後)のために製剤化され得る。
【0028】
本発明のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子およびタグ付きポリペプチドは、別々に投与されてもよいし、あらかじめコンジュゲートされていてもよい。本発明のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子およびタグ付きポリペプチドの別々の投与は、同時に行ってもよいし、順次行ってもよい。本発明のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子およびタグ付きポリペプチドは、1回だけ投与されてもよいし、複数回投与されてもよい。
【0029】
本発明のレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子をまず投与し、次いで、タグ付きポリペプチドを投与してもよいし、その逆であってもよい。
【0030】
そのような医薬組成物は、とりわけ免疫細胞、がん性細胞、または幹細胞を含み得る標的細胞に、標的化細胞において発現する特定の医学的症状の予防または治療をもたらす所望のタンパク質の遺伝子産物を特異的に形質導入するために有用であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】アダプター媒介性形質導入の概略図である。[A]レトロウイルスベクターは、抗原結合(A)および融合(F)に関与するエンベロープタンパク質でシュードタイピングされている。Aは、シールドで示されるように、その天然受容体のうちの少なくとも1つと相互作用できないように改変されている。抗原結合を回復させるために、Aは、その外部ドメインにおいて、scFVなどの抗原結合性ドメインを含むポリペプチドに融合される。これは、タグ付きポリペプチド(アダプター)のタグに対して特異的であり、アダプター分子の抗原結合性ドメインは、標的細胞で発現する抗原に結合し、融合および形質導入を誘導する。[B]麻疹ウイルスエンベロープタンパク質を用いたアダプター媒介性形質導入。Hタンパク質(H)は、シールドで示されるように、その天然受容体CD46およびSLAMと相互作用できないように突然変異している。タグに対して特異的なscFVなどの抗原結合性ドメインが、突然変異したHに付加されている。アダプター分子は、標的細胞によって発現される抗原に対して特異的なビオチン化抗体からなる。タグはビオチンを含む。形質導入効率は、フローサイトメトリーを使用したGFP陽性細胞の定量化により、形質導入の72時間後に判定した。[C]アダプター分子の異なるドメインが示されている。
図2】構築物Hmut-α-Tagの概略図である。2つの異なる方向(VH-VLまたはVL-VH)における可変ドメインを有するタグに対して特異的なscFVを含む構築物Hmut-α-Tagをコードする遺伝要素。このタンパク質は、その天然受容体CD46およびSLAMとの相互作用ができなくなるように4つの位置(アスタリスクで示される)において突然変異しているHタンパク質コード配列(Hmut)が後続のCMVプロモーターの下で発現する。Hタンパク質およびscFVは、(G4S)3リンカーによって連結している。可変ドメインも(G4S)3リンカーによって連結している。Hisタグは、検出の目的のために含まれる。
図3】Hmut-α-Tagの発現レベルおよびタグ付きポリペプチドへの結合。HEK-293T細胞は、非トランスフェクトのままか、または、Hmut-α-Tag(VH-VL)もしくはHmut-α-Tag(VL-VH)をコードするプラスミドをトランスフェクトした。[A]トランスフェクション2日後のα-His抗体での染色時にフローサイトメトリーによって判定されたHmut-α-Tagの表面発現。[B]蛍光標識およびタグ付けされたα-CD25抗体を使用して、タグ付きポリペプチドへのHmut-α-Tagの結合をトランスフェクション2日後に測定した。
図4】Hmut-α-Tagでシュードタイピングしたレトロウイルスベクター力価の定量化。[A]α-Tag-LVの力価測定方法を、例えば異なるアダプター形式に起因して、またはアダプターの異なる特異性のために生じ得る変化を回避するために、タグ付きポリペプチドを用いずに開発した。あらゆる細胞表面タンパク質のランダムなビオチン化をもたらすビオチン-LC-LC-NHSを使用してHT1080細胞をビオチン化した。ビオチン化の成功をα-ビオチン抗体での染色によって確認した(左)。次いで、ビオチン化細胞に、GFPをコードするα-Tag-LVを規定の容量で形質導入した。トランスフェクションの3日後、GFP陽性細胞の比は、フローサイトメトリーによって測定された、成功した形質導入を示す(右)。ゲーティング戦略の一例を示してある。[B]HT1080細胞における濃縮α-CD46-LV、HT1080-CD20における濃縮α-CD20-LV、およびビオチン化HT1080細胞における濃縮α-Tag-LVの力価のスクリーニング。
図5】GFPをコードするレトロウイルスベクター(α-Tag-LV、α-CD20-LV、またはα-CD46-LV)、ポリペプチドα-CD20-Ab-Tag(CD20に対して特異的なビオチン化抗体)、および標的細胞(Raji(CD20およびCD46陽性)または対照としてのJurkat(CD20陰性、CD46陽性))の添加の順序が形質導入効率に与える影響。レトロウイルスベクターをMOI0.05において添加した。形質導入の72時間後、GFP陽性細胞の比を判定するフローサイトメトリーにより、形質導入効率を判定した。[A]レンチウイルスベクターを、タグ付きポリペプチドの非存在下(-)または存在下(+)において、30分間にわたって4℃でインキュベートした。その後、プレインキュベートされたLV/α-CD20-Ab-Tag混合物を細胞に添加したか、または細胞を非形質導入のままにした(w/o)。[B]Raji細胞およびJurkat細胞を、α-CD20-Ab-Tagの非存在下(-)または存在下(+)において、30分間にわたって4℃でプレインキュベートした。プレインキュベートされた細胞/α-CD20-Ab-Tag混合物を非形質導入のままにしたか、または形質導入した。[C]Raji細胞およびJurkat細胞を、レンチウイルスベクターと共に30分間にわたって37℃で、またはレトロウイルスベクターなし(w/o)でプレインキュベートした。その後、α-CD20-Ab-Tagを付加した(+)か、または追加しなかった(-)。
図6】選択性および形質導入効率の点における形質導入促進試薬の評価。Raji細胞(CD20およびCD46陽性)またはJurkat細胞(CD20陰性、CD46陽性)を、ポリペプチドα-CD20-Ab-Tagあり(+)またはなし(-)で、30分間にわたって4℃でプレインキュベートし、続いて、α-Tag-LV、α-CD20-LV、またはα-CD46-LVを添加した(MOI=0.05)。タグ付きポリペプチドはビオチン化抗体であり、使用したタグはビオチンを含む。形質導入効率は、フローサイトメトリーを使用したGFP陽性細胞の定量化により、形質導入の72時間後に判定した。[A]形質導入促進試薬を添加しなかった。[B]Polybrene(登録商標)を形質導入エンハンサーとして添加した。[C]Vectofusin-1(登録商標)を形質導入エンハンサーとして添加した。
図7】CD4、CD8、CD19、CD20、およびCD46に対するタグ付きポリペプチドの特異性の拡大。標的抗原を発現する標的細胞または発現しない細胞を、それぞれ、ポリペプチドα-CD4-Ab-Tag、α-CD8-Ab-Tag、α-CD19-Ab-Tag、α-CD20-Ab-Tag、またはα-CD46-Ab-Tagの非存在下(-)または存在下(+)において、30分間にわたって4℃でインキュベートした。タグ付きポリペプチドはビオチン化抗体であり、使用したタグはビオチンを含む。GFPをコードするα-Tag-LVを、Vectofusin-1(登録商標)の存在下において、0.05のMOIで適用した。形質導入の3日後、使用したタグ付きポリペプチドと同じ抗原に対して特異的な抗体で細胞を染色し、フローサイトメトリーを使用したGFP陽性細胞の定量化により、形質導入効率を判定した。タグ付きポリペプチドの対応する抗原を発現する細胞の形質導入については、形質導入率とは、標的抗原を発現するすべての細胞を示す。タグ付きポリペプチドの対応する抗原を発現しない細胞の形質導入については、形質導入率とは、標的抗原を発現しない細胞を示す。[A]SupT1細胞(CD4、CD8、およびCD46について陽性;CD19およびCD20について陰性)を使用した。[B]Jurkat細胞(CD4およびCD46について陽性;CD8、CD19、およびCD20について陰性)を使用した。[C]HT1080細胞(CD46について陽性、CD4、CD8、CD19、CD20について陰性)。[D]Raji細胞(CD19、CD20、およびCD46について陽性;CD4およびCD8について陰性)。
図8】標的抗原を発現する細胞および標的抗原を発現しない細胞を含む混合細胞集団における選択性。タグ付きポリペプチドはビオチン化抗体であり、使用したタグはビオチンを含む。Raji細胞(CD19、CD20、およびCD46について陽性;CD4およびCD8について陰性)を、SupT1細胞(CD4、CD8、およびCD46について陽性;CD19およびCD20について陰性)と等量で混合した。[A]共培養細胞に、上部に示した抗原に対して特異的なタグ付きポリペプチドの存在下(アダプターありの形質導入)または非存在下(アダプターなしの形質導入)で、GFPをコードするα-Tag-LV(MOI=0.05、Vectofusin-1(登録商標)を含む)を形質導入した。対照として、共培養細胞を非形質導入のままにした。形質導入の3日後、タグ付きポリペプチドと同じ抗原に対して特異的な抗体で細胞を染色し、フローサイトメトリーを使用したGFP陽性細胞の定量化により、形質導入効率を判定した。[B]Aのフローサイトメトリーデータの定量化。GFP陰性細胞およびGFP陽性細胞の率が、タグ付きポリペプチドの標的抗原を発現しない細胞または発現する細胞について別々に示されている。
図9】非特異的な形質導入を誘導する傾向がある条件下での選択性。タグ付きポリペプチドはビオチン化抗体であり、使用したタグはビオチンを含む。形質導入の3日後、フローサイトメトリーを使用したGFP陽性細胞の定量化により、形質導入効率を判定した。[A]血清の存在下における形質導入。CD20陽性Raij細胞およびCD20陰性Jurkat細胞に、10%のFCSを追加した培地中でVectofusin-1(登録商標)を用いて、ポリペプチドα-CD20-Ab-Tagの存在下(+)または非存在下(-)において、GFPをコードするα-Tag-LV(MOI0.05)を形質導入した。[B]タグありまたはなしのポリペプチドの形質導入。CD20陽性Raij細胞に、Vectofusin-1(登録商標)を用いて、ポリペプチドα-CD20-Ab-Tagまたはα-CD20-Abと共に、GFPをコードするα-Tag-LV(MOI0.05)を形質導入した。[C]高い量のレトロウイルスベクターの形質導入。Raji細胞(CD20およびCD46陽性)およびJurkat細胞(CD20陰性、CD46陽性)を、非形質導入(w/o)のままにしたか、あるいは、Vectofusin-1(登録商標)を用いて、α-CD20-Ab-Tagの存在下(+)または非存在下(-)において、α-Tag-LV、α-CD20-LV、またはα-CD46-LVのいずれかを0.4のMOIで形質導入した。
図10】最適なアダプター分子濃度を判定するためのタグ付きポリペプチドの力価測定。タグ付きポリペプチドはビオチン化抗体であり、使用したタグはビオチンを含む。形質導入の3日後、フローサイトメトリーを使用したGFP陽性細胞の定量化により、形質導入効率を判定した。[A]Jurkat細胞(CD4陽性、低発現)に、示されている濃度におけるタグ付きポリペプチドα-CD4-Ab-Tagの存在下において、0.05のMOIでVectofusin-1(登録商標)を用いてGFPをコードするα-Tag-LVを形質導入した。[B]Raji(CD20陽性、高発現)細胞に、示されている濃度におけるα-CD20-Ab-Tagと共に、0.05のMOIでVectofusin-1(登録商標)を用いてGFPをコードするα-Tag-LVを形質導入した。
図11】代替的なアダプター形式の評価:抗体のタグ付き断片(Fab)。タグ付きポリペプチドはビオチン化Fab断片であり、使用したタグはビオチンを含む。形質導入の3日後、フローサイトメトリーを使用したGFP陽性細胞の定量化により、形質導入効率を判定した。[A]CD19陽性Raji細胞に、1μg/mlのタグ付きα-CD4-Fab-Tag、α-CD8-Fab-Tag、もしくはα-CD19-Fab-Tagの非存在下(w/o)または存在下において、0.05のMOIでVectofusin-1(登録商標)を用いてGFPをコードするα-Tag-LVを形質導入した。[B]CD4およびCD8陽性SupT1細胞に、1μg/mlのα-CD4-Fab-Tag、α-CD8-Fab-Tag、もしくはα-CD19-Fab-Tagの非存在下(w/o)または存在下において、0.05のMOIでVectofusin-1(登録商標)を用いてGFPをコードするα-Tag-LVを形質導入した。
図12】代替的なアダプター形式の評価:タグ付きポリペプチドのタグとしてのデキストラン。タグ付きポリペプチドはデキストランと連結したFab断片であり、タグはデキストランである。デキストランに対して特異的なscFVは、シュードタイピングのために使用されるHmutに融合された。CD19陽性Raji細胞に、タグ付きα-CD19-Fabまたはタグ付きα-CD4-Fabの非存在下(アダプターなし)または存在下において、Vectofusin-1(登録商標)を用いてGFPをコードするα-Tag-LVを形質導入した。形質導入の3日後、フローサイトメトリーを使用したGFP陽性細胞の定量化により、形質導入効率を判定した。
図13】シュードタイピングのためのNipahエンベロープタンパク質を使用したアダプター-LV:CD19陽性、CD20陽性、CD4陰性のRaji細胞を、あらゆるアダプターの非存在下(w/o)か、あるいは、それぞれタグ付きアダプターα-CD4-Ab-Tag、α-CD19-Ab-Tag、α-CD20-Ab-Tag、またはいずれのタグも有しないアダプターα-CD20-Abもしくはα-CD19-Abの存在下において、30分間にわたって4℃でインキュベートした。タグ付きポリペプチドはビオチン化抗体であり、使用したタグはビオチンであった。GFPをコードするα-Tag-LVを、0.25のMOIで適用した。形質導入の3日後、フローサイトメトリーを使用してGFP陽性細胞を定量化することにより、形質導入効率を判定した。
図14】アダプター-VLP媒介性タンパク質転移:CD4陽性、CD8陽性、CD20陰性のSupT1細胞を、あらゆるポリペプチドの非存在下(w/o)か、または、それぞれタグ付きもしくはタグなしのポリペプチドα-CD4、α-CD8、もしくはα-CD20の存在下において、30分間にわたって4℃でインキュベートした。タグ付きポリペプチドはビオチン化抗体であり、使用したタグはビオチンを含んだ。GFPまたは単量体赤色蛍光タンパク質を有する組み込みウイルスゲノムを含まないα-TagVLPを、0.05のMOIで適用した。VLP添加の4時間後、フローサイトメトリーを使用してGFPまたは単量体赤色蛍光タンパク質陽性細胞を定量化することにより、タンパク質転移効率を判定した。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、タグに結合することができるレトロウイルスベクターまたはそのウイルス様粒子と、標的細胞で発現する抗原に結合することができる対応するタグ付きポリペプチドとの両方の存在下において、標的細胞における様々な異なる抗原を標的化するための、レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子の適応可能な形質導入系(組成物または製剤)を提供する。
【0033】
第1の態様において、本発明は、
i)シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子と、
ii)タグ付きポリペプチドと
を含む組成物であって、
前記シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子は、
a)抗原結合活性を有する1種のエンベロープタンパク質であって、その天然受容体のうちの少なくとも1つと相互作用せず、かつその外部ドメインにおいて、前記タグ付きポリペプチドのタグに対して特異的な抗原結合性ドメインを含むポリペプチドに融合している組換えタンパク質であり、かつ、パラミクソウイルス科に由来するG、HN、またはHタンパク質である、エンベロープタンパク質と、
b)パラミクソウイルス科に由来する融合活性を有する1種のエンベロープタンパク質とを含み、
前記タグ付きポリペプチドは、標的細胞の表面で発現する抗原に特異的に結合することにより、前記標的細胞に前記レトロウイルスベクター粒子を形質導入するか、または、前記標的細胞への前記ウイルス様粒子の取り込みを誘導する、組成物を提供する。
【0034】
前記シュードタイプレトロウイルスベクターまたはそのウイルス様粒子は、リンカーを介して、その天然受容体のうちの少なくとも1つと相互作用しない前記組換えタンパク質の外部ドメインに融合してもよい。
【0035】
本発明の好ましい一実施形態では、前記組換えタンパク質のすべての天然受容体に対する相互作用が阻害され、その場合、本発明は、
i)シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子と、
ii)タグ付きポリペプチドと
の組み合わせであって、
前記シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子は、
a)抗原結合活性を有する1種のエンベロープタンパク質であって、その天然受容体と相互作用せず、かつその外部ドメインにおいて、タグ付きポリペプチドのタグに対して特異的な抗原結合性ドメインを含むポリペプチドに融合している組換えタンパク質であり、かつ、パラミクソウイルス科に由来するG、HN、またはHタンパク質である、エンベロープタンパク質と、
b)パラミクソウイルス科に由来する融合活性を有する1種のエンベロープタンパク質と
を含み、
前記タグ付きポリペプチドは、標的細胞の表面で発現する抗原に特異的に結合することにより、標的細胞に前記レトロウイルスベクター粒子を形質導入するか、または、標的細胞へのウイルス様粒子の取り込みを誘導する、組み合わせを提供する。
【0036】
本発明の別の実施形態では、細胞移入のために主に使用される受容体に対する相互作用が阻害される。本発明の別の実施形態では、少なくとも1つの受容体に対する相互作用が阻害される。
【0037】
さらに、scFVなどの抗体断片は、前記scFVの両鎖を融合させるためにリンカー配列を必要とする場合がある。リンカーポリペプチドを使用した、他のドメインに融合しているドメインまたは断片を含有する組換えタンパク質の生成は、当技術分野において十分に説明されている(例えば、Chenら(2013年))。プロトタイプリンカーは、本発明において例示的に使用されてもいる(G4S)3リンカーであるが、他のリンカー配列も同様に本発明との関連において機能的であり得るため、このプロトタイプリンカーへの限定は意図されない。
【0038】
前記タグ付きポリペプチドの前記タグは、例えばヒトにおいて、形質導入のために前記レトロウイルスベクターまたはそのウイルス様粒子が適用される対象または細胞培養物のいずれの種のいずれの細胞(標的細胞および非標的細胞)でも発現しない。結果として、前記レトロウイルスベクターまたはそのウイルス様粒子は、前記タグ付きポリペプチドの存在下でのみ、任意の標的細胞に形質導入され得る。さらに非標的細胞は、前記タグ付きポリペプチドの存在下で形質導入されない。
【0039】
抗原結合活性を有する前記エンベロープタンパク質が、前記タグ付きポリペプチドなしで標的細胞のいずれの抗原にも結合しない、前記シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子。
【0040】
前記形質導入または前記取り込みの誘導が、前記タグ付きポリペプチドの非存在下での前記標的細胞における前記形質導入または前記取り込みの誘導と比較して、前記タグ付きポリペプチドの存在下での前記標的細胞において少なくとも2倍高い、5倍高い、10倍高い、25倍高い、50倍高い、100倍高い、1000倍高い、2000倍高い、または5000倍高い場合がある、前記シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子。
【0041】
抗原結合活性を有する前記エンベロープタンパク質が、前記タグ付きポリペプチドなしでいずれの標的細胞にも非標的細胞にも結合しない、前記シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子。
【0042】
ヒト細胞が前記タグ付きポリペプチドなしで形質導入されない、前記シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子。
【0043】
ヒト細胞が前記タグ付きポリペプチドなしで形質導入されないため、前記シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子の生成、使用、および投与が、低リスク環境で行われ得る、前記シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子。
【0044】
いずれの種の細胞(標的細胞および非標的細胞)も、前記タグ付きポリペプチドなしで形質導入されない、前記シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子。
【0045】
前記タグ付きポリペプチドが結合する抗原が、一過性発現される、前記シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子。
【0046】
前記タグ付きポリペプチドが結合する抗原が、細胞周期段階または活性化および/もしくは分化の状態に応じて一過性発現され得る、前記シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子。
【0047】
前記タグ付きポリペプチドが結合する抗原の発現が、例えば誘導性発現によって制御可能であり得る、前記シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子。
【0048】
前記形質導入または前記取り込みの誘導が、非標的細胞よりも前記標的細胞において少なくとも2倍高い、5倍高い、10倍高い、25倍高い、50倍高い、100倍高い、1000倍高い、2000倍高い、または5000倍高い場合がある、前記シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子。
【0049】
前記パラミクソウイルス科ウイルスが、モルビリウイルス属またはヘニパウイルス属のウイルスであり得る、前記シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子。
【0050】
パラミクソウイルス科由来エンベロープタンパク質を用いたレトロウイルスベクターのシュードタイピングは、当技術分野において十分に説明されている。モルビリウイルス属に由来するエンベロープタンパク質を用いてレトロウイルスベクターを効率的にシュードタイピングするには、Fタンパク質の切断型細胞質部分は、少なくとも1個の正に荷電したアミノ酸残基、およびFタンパク質の細胞質部分のN末端から数えて9個を超えない連続したアミノ酸残基を含むべきであり、Hタンパク質の切断型細胞質部分は、Hタンパク質の細胞質部分のC末端から数えて少なくとも9個および19個を超えない連続したアミノ酸残基と、N末端のさらなるメチオニンを含むべきである(Frechaら(2008年)、EP2066795B9、Edes(2016年))。したがって、レンチウイルスベクターおよびガンマレトロウイルスベクターは、上述のように切断型FおよびHタンパク質変異体を使用して効率的にシュードタイピングされる。
【0051】
いくつかの報告は、Nipahウイルスのエンベロープタンパク質を用いてレトロウイルスベクターをシュードタイピングすることもできることを示している。これは、パラミクソウイルス科、パラミクソウイルス亜科、ヘニパウイルス属に由来するウイルスである。この属の別のメンバーはヘンドラウイルスである。モルビリウイルスのHタンパク質とは対照的に、抗原結合機能を有するNipahエンベロープタンパク質は、Gタンパク質である。血球凝集機能はないが、これもII型膜タンパク質である。Gタンパク質の細胞質ドメインはかなり長く、したがって効率的なシュードタイピングのために細胞質ドメイン内の大きな欠失を必要とする可能性があるが、いくつかの報告は、様々な切断、およびGタンパク質の細胞質ドメイン内に切断がなくとも機能的な力価のデータを示している(Khetawatら(2010年)、Benderら(2016年)Palomaresら(2013年))。Nipah Fタンパク質については、両方のウイルスエンベロープタンパク質に関して、機能的なレトロウイルスベクター力価をもたらすために細胞質ドメインの切断があまり重要でないことを示す同様の観察が行われている。しかしながら、Benderら(2016年)は、Gタンパク質の細胞質ドメインにおいて残存する11個のアミノ酸とメチオニン、およびFタンパク質の細胞質ドメインにおいて6つの残存するアミノ酸を有する構築物を使用した場合に、最も高いレトロウイルスベクター力価が検出されたことを示している。対照的に、Khetawatら(2010年)は、Gタンパク質の非切断型バージョンおよびFタンパク質の細胞質ドメインに4つの残存するアミノ酸を有するバージョンで最も高いレトロウイルスベクター力価を観察している。Palomaresら(2013年)の結果は、非切断型バージョンか、またはGタンパク質の細胞質ドメインにおいて35もしくは20個の残存するアミノ酸とメチオニンを有するバージョンの、Nipah Fタンパク質の6個の残存するアミノ酸と6個のさらなるアミノ酸との組み合わせにより、最も高いレトロウイルスベクター力価がもたらされたことを示している。
【0052】
さらに、パラミクソウイルス科内の別のウイルス:Tupaiaウイルスに由来するエンベロープタンパク質を用いたレンチウイルスベクターのシュードタイピングが成功した(Enkrichら(2013年))。これはモルビリウイルスおよびヘニパウイルスに関連しているが、遺伝的な差がありすぎるため、これらの属の1つに割り当てられていない。遺伝的な差が大きすぎるにもかかわらず、高い効率でのシュードタイピングを可能にするためには、モルビリウイルスエンベロープタンパク質に関して比較可能な細胞質ドメインの切断が必要である:Fタンパク質の細胞質ドメインの6個の残存アミノ酸、およびHタンパク質の細胞質ドメインにおける13個の残存アミノ酸とメチオニンは、最も高いレトロウイルスベクター力価をもたらした。
【0053】
パラミクソウイルス科のウイルスのG、H、HN、またはFタンパク質に由来する前記タンパク質から、前記G、H、HN、またはFタンパク質の細胞質領域の少なくとも一部が欠如している、すなわち前記G、H、HN、またはFタンパク質が切断型タンパク質であり得る、前記シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子。
【0054】
モルビリウイルス属またはヘニパウイルス属のウイルスのG、H、またはFタンパク質に由来する前記タンパク質から、前記G、H、またはFタンパク質の細胞質領域の少なくとも一部が欠如している、すなわち前記G、H、HN、またはFタンパク質が切断型タンパク質であり得る、前記シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子。
【0055】
モルビリウイルス属のウイルスのHまたはFタンパク質に由来する前記タンパク質から、前記HまたはFタンパク質の細胞質領域の少なくとも一部が欠如している、すなわち前記HまたはFタンパク質が切断型タンパク質であり得る、前記シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子。
【0056】
ヘニパウイルス属のウイルスのGまたはFタンパク質に由来する前記タンパク質から、前記GまたはFタンパク質の細胞質領域の少なくとも一部が欠如している、すなわち前記GまたはFタンパク質が切断型タンパク質であり得る、前記シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子。
【0057】
麻疹ウイルスのHまたはFタンパク質に由来する前記タンパク質から、前記HまたはFタンパク質の細胞質領域の少なくとも一部が欠如している、すなわち前記HまたはFタンパク質が切断型タンパク質であり得る、前記シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子。
【0058】
NipahウイルスのGまたはFタンパク質に由来する前記タンパク質から、前記GまたはFタンパク質の細胞質領域の少なくとも一部が欠如している、すなわち前記GまたはFタンパク質が切断型タンパク質であり得る、前記シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子。
【0059】
パラミクソウイルス科に由来する融合活性を有する前記エンベロープタンパク質から、前記エンベロープタンパク質の細胞質領域の少なくとも一部が欠如している、前記シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子。
【0060】
前記モルビリウイルスが、麻疹ウイルスまたは麻疹ウイルスのEdmonston株である、前記シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子。
【0061】
前記ヘニパウイルスがNipahウイルスである、前記レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子。
【0062】
前記切断型パラミクソウイルス科ウイルスエンベロープタンパク質が、ヘニパウイルスの融合活性を有する融合(F)タンパク質および抗原結合活性を有する結合(G)タンパク質である、前記レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子。
【0063】
前記レトロウイルスベクター粒子が、レンチウイルスもしくはガンマレトロウイルスベクター粒子、またはそれらのウイルス粒子である、前記シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子。
【0064】
シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子が、HIV-1、HIV-2、SIVmac、SIVpbj、SIVagm、FIV、およびEIAVからなる群から選択されるレンチウイルスに由来する、前記レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子。
【0065】
シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子が、ネコ白血病ウイルス、テナガザル白血病ウイルス(GALV)、およびマウス白血病ウイルス(MLV)からなる群から選択されるガンマレトロウイルスに由来する、前記レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子。
【0066】
前記FおよびHタンパク質の細胞質部分が、前記細胞質部分からのアミノ酸残基の欠失によって切断されており、Fタンパク質の切断型細胞質部分が、少なくとも1個の正に荷電したアミノ酸残基、およびFタンパク質の細胞質部分のN末端から数えて9個を超えない連続したアミノ酸残基を含み、Hタンパク質の切断型細胞質部分が、Hタンパク質の細胞質部分のC末端から数えて少なくとも9個および19個を超えない連続したアミノ酸残基と、N末端のさらなるメチオニンを含む、前記レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子。
【0067】
Hタンパク質の前記切断型細胞質部分は、効率的なシュードタイピングを可能にするように切断されており、融合補助機能を有する。
【0068】
前記粒子が、モルビリウイルスの融合(F)およびヘマグルチニン(H)タンパク質を含み、前記FおよびHタンパク質の細胞質部分が、前記細胞質部分からのアミノ酸残基の欠失によって切断されており、Fタンパク質の切断型細胞質部分が、少なくとも1個の正に荷電したアミノ酸残基、およびFタンパク質の細胞質部分のN末端から数えて9個を超えない連続したアミノ酸残基を含み、Hタンパク質の切断型細胞質部分が、効率的なシュードタイピングを可能にするように切断されており、融合補助機能を有し、Hタンパク質の切断型細胞質部分は、Hタンパク質の細胞質部分のC末端から数えて少なくとも9個および19個を超えない連続したアミノ酸残基と、N末端のさらなるメチオニンを含み、切断型Hタンパク質が、CD46、SLAMと相互作用せず、かつその外部ドメインにおいて、タグ付きポリペプチドのタグに対して特異的な抗原結合性ドメインを含むポリペプチドをさらに有するキメラタンパク質であり、かつ、前記タグ付きポリペプチドが、標的細胞の表面で発現する抗原に特異的に結合する、前記レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子。
【0069】
前記粒子が、麻疹ウイルスまたは麻疹ウイルスのEdmonston株の融合(F)およびヘマグルチニン(H)タンパク質を含み、かつ/または、Fタンパク質の切断型細胞質部分が、Fタンパク質の細胞質部分のN末端から数えて少なくとも3個の連続したアミノ酸残基を含み、Hタンパク質の切断型細胞質部分が、Hタンパク質の細胞質部分のC末端から数えて少なくとも13個の連続したアミノ酸残基と、N末端のさらなるメチオニンを含み、Hタンパク質の細胞質部分のC末端から数えて少なくとも13個の連続した前記アミノ酸残基のうち、N末端側のアミノ酸残基の1~4個が、アラニン残基によって置換されてもよく、かつ/または、シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子が、HIV-1、HIV-2、SIVmac、SIVpbj、SIVagm、FIV、およびEIAVからなる群から選択されるレンチウイルスに由来し、かつ/または、切断型Fタンパク質が、FcΔ24またはFcΔ30であり、かつ/または、切断型Hタンパク質が、HcΔ14、HcΔ15、HcΔ16、HcΔ17、HcΔ18、HcΔ19、HcΔ20、HcΔ21+A、およびHcΔ24+4Aからなる群から選択される、前記レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子。
【0070】
前記タグ付きポリペプチドのポリペプチドが、抗体もしくはその抗原結合性断片、サイトカインまたは増殖因子などの、標的細胞において発現する抗原に対する抗原結合性部分を有するタンパク質であり得る、レトロウイルスベクター粒子またはウイルス様粒子およびタグ付きポリペプチドの前記組成物。
【0071】
前記タグ付きポリペプチドの前記ポリペプチドは、抗体またはその抗原結合性断片であってよく、前記抗体またはその抗原結合性断片は、前記標的細胞の表面で発現する前記抗原に結合し、前記タグ付きポリペプチドのタグは、ハプテンであり得る。
【0072】
前記ハプテンは、ビオチン、フルオレセインイソシアネート(FITC)、フルオレセイン、NHS-フルオレセイン、2,4-ジニトロフェノール(DNP)、ジゴキシゲニン、およびデキストランからなる群から選択され得る。
【0073】
前記ハプテンは、ビオチンであり得る。
【0074】
前記タグ付きポリペプチドの前記ポリペプチドは、前記標的細胞の表面で発現する抗原に結合し得、前記抗原への前記ポリペプチドの結合は、前記標的細胞を活性化させ得る。
【0075】
前記タグは、触媒的に分解可能であり得る。
【0076】
タグ付きポリペプチドのタグに対して特異的な抗原結合性ドメインを含み、前記抗原結合性ドメインが、抗体に由来するscFVに由来し、前記scFVのフレームワーク領域内のアミノ酸配列が、前記ポリペプチドの表面発現および/または安定性を向上させるように突然変異している、前記ポリペプチド。
【0077】
前記タグ付きポリペプチドの前記ポリペプチドは、抗原結合性部分(ABM)であってよく、
ここで、前記タグ付きポリペプチドのタグは、
i)前記標的細胞の表面で発現する前記抗原に特異的に結合する抗原結合性部分(ABM)と、
ii)対象における自然発生分子またはその誘導体である標識部分(LaM)と、
iii)前記ABMと前記LaMとをコンジュゲートすることによりリンカー/標識エピトープ(LLE)を形成するリンカー部分(LiM)と
を含む、標的細胞結合性分子(TCBM)のリンカー/標識エピトープ(LLE)であり、
タグに対して特異的な前記ポリペプチドの前記抗原結合性ドメインは、リンカー/標識エピトープ(LLE)結合性ドメインであり、
前記LLE結合性ドメインは、前記自然発生分子よりも高い優先度で前記LLEに結合する。
【0078】
前記LLE結合性ドメインは、前記自然発生分子よりも少なくとも2倍、優先的には少なくとも5倍、より優先的には少なくとも10倍、最も優先的には少なくとも50倍高い親和性で前記LLEに結合し得る。
【0079】
前記LLE結合性ドメインとの間の結合に関するk(off)値は、多量体LLEに対してよりも単量体LLEおよび前記自然発生分子に対して高くてよい。
【0080】
前記自然発生分子は、前記対象の循環器系に存在し得る。
【0081】
前記LLEは、部位特異的に生成されることにより、前記LaMの一部および前記LiMの一部を含むエピトープを形成し得る。
【0082】
前記LaMは、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、クレアチニン、ビオチン、ビオサイチン、脂質、ホルモン、ビタミン、炭水化物、またはそれらの誘導体からなる群から選択され得る。
【0083】
前記LiMは、前記LLEを生成することができる分子であり得る。
【0084】
前記LiMは、ペプチド、タンパク質、核酸、炭水化物、ポリヒドロキシアルカノエート、アルキル鎖、アルカン酸、カルボン酸、ファルネシル、ポリエチレングリコール、脂質、またはそれらの誘導体からなる群から選択され得る。
【0085】
前記LaMは、ビオチンまたはその誘導体であり得、前記LiMは、6-(6-アミノヘキサンアミド)ヘキサノイル部分または6-アミノヘキサノイル部分であり得る。
【0086】
前記LLE結合性ドメインは、配列番号1および配列番号2の配列を含んでよく、優先的には、N末端からC末端への配列の順序は、VH-VLである。
【0087】
前記タグ付きポリペプチドの前記抗原は、TCR、CD3、CD4、CD8、CD25、CD62L、CD69、CD137、CD44、CD45RA、CD45RO、CD137、CD152、CD154、CCR5、CCR7、PD-1、CTLA-4、CD105、NKR-P1A、CD56、NCAM-1、CD57、CD14、CD16、CD19、CD20、CD30、CD34、CD133、CD38、BDCA-1、BDCA-2、BDCA-3、GM-CSF、CD11b、A2B5、ACSA-2、GLAST、AN2、CX3CR1、O4、CD15、CD11、CD144、SSEA-4、TRA-1CD33(Siglec-3)、CD123(IL3RA)、CD135(FLT-3)、CD44(HCAM)、CD44V6、CD47、CD184(CXCR4)、CLEC12A(CLL1)、LeY、FRβ、MICA/B、CD305(LAIR-1)、CD366(TIM-3)、CD96(TACTILE)、CD29(ITGB1)、CD47(IAP)、CD66(CEA)、CD112(ネクチン2)、CD117(c-Kit)、CD146(MCAM)、CD155(PVR)、CD171(L1CAM)、CD221(IGF1)、CD227(MUC1)、CD243(MRD1)、CD246(ALK)、CD271(LNGFR)、GD2、およびEGFRからなる群から選択され得る。
【0088】
前記ABMは、抗体またはその抗原結合性断片であり得る。
【0089】
前記標的細胞は、免疫細胞、造血細胞、幹細胞、筋細胞、がん性細胞、神経系細胞、血管内皮前駆細胞(EPC)、内皮細胞、および異常細胞からなる群から選択され得る。
【0090】
上記に開示された変異体、ならびにレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子およびタグ付きポリペプチドの組み合わせの実施形態のいずれも、互いと組み合わされてよい。
【0091】
第2の態様において、本発明は、
a)天然受容体のうちの少なくとも1つと相互作用せず、かつその外部ドメインにおいて、前記タグ付きポリペプチドのタグに対して特異的な抗原結合性ドメインを含むポリペプチドに融合している組換えタンパク質であり、かつ、パラミクソウイルス科に由来するG、HN、またはHタンパク質である、抗原結合活性を有する1種のエンベロープタンパク質と、
b)パラミクソウイルス科に由来する融合活性を有する1種のエンベロープタンパク質と
を含む、シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子を提供し、
前記タグ付きポリペプチドは、標的細胞の表面で発現する抗原に特異的に結合することにより、標的細胞に前記レトロウイルスベクター粒子を形質導入するか、または、標的細胞へのウイルス様粒子の取り込みを誘導する。
【0092】
第3の態様において、本発明は、本明細書において開示されるシュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子と、本明細書において開示されるタグ付きポリペプチドとを含み、場合により、薬学的に許容される担体をさらに含む、医薬組成物を提供する。
【0093】
第4の態様において、本発明は、医薬として使用するための、本明細書において開示されるシュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子およびタグ付きポリペプチドの組成物を提供する。
【0094】
第5の態様において、本発明は、医薬の調製のための、本明細書において開示されるシュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子およびタグ付きポリペプチドの組成物の使用を提供する。
【0095】
第6の態様において、本発明は、シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子を産生するための方法を提供し、本方法は、
パッケージング細胞株に、レトロウイルスgag/pol/rev遺伝子をコードする少なくとも1種のpsi陰性発現ベクター、psi陽性レトロウイルス発現ベクター、および本明細書において開示されるパラミクソウイルス科ウイルスエンベロープタンパク質をコードする1種または2種のpsi陰性発現ベクターをコトランスフェクトすることを含む。
【0096】
第7の態様において、本発明は、本明細書において開示される、シュードタイプレトロウイルスベクター粒子を標的細胞に形質導入するための、またはそのウイルス様粒子のタンパク質を送達するためのインビトロ方法であって、
a)本明細書において開示されるタグ付きポリペプチドと、標的細胞をプレインキュベーションするステップと、
b)前記レトロウイルスベクター粒子またはそのベクター様粒子を、ステップa)のプレインキュベートされた前記標的細胞に添加するステップと
を含む、インビトロ方法を提供する。
【0097】
驚くべきことに、本明細書において開示される方法のタグ付きポリペプチド、標的細胞、およびレトロウイルスベクターを添加する順序が、形質導入の有効性に強く影響することが見出された(図5参照)。
【0098】
ステップb)においてさらに形質導入エンハンサーが使用され得る、前記方法。
【0099】
前記エンハンサーが、標的細胞へのレトロウイルスベクターまたはウイルス様粒子の形質導入効率または取り込みを向上させる能力を有する、配列番号15において表される配列を有するLAH4ペプチド(「Vectofusin-1(登録商標)」)またはその機能的誘導体であり得る、前記方法。
【0100】
第8の態様において、本発明は、造血細胞、好ましくは免疫サブセット細胞または幹細胞を形質導入するためのインビボ方法であって、
a)処置を必要とする対象に、本明細書において開示されるタグ付きポリペプチドの製剤を投与することであって、前記タグ付きポリペプチドが標的細胞に結合し、前記標的細胞が、造血細胞、優先的には免疫サブセット細胞、例えばT細胞またはNK細胞、NKT細胞、B細胞、マクロファージ、樹状細胞、または前記免疫サブセット細胞を生じさせることができる幹細胞であり、
b)本明細書において開示されるシュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子の製剤を対象に投与することであって、前記シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子がタグ付きポリペプチドに結合することにより、標的細胞に前記レトロウイルスベクター粒子を形質導入するか、または、標的細胞へのウイルス様粒子の取り込みを誘導するものである
を含む、インビボ方法を提供する。
【0101】
前記シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子が、少なくとも1種の導入遺伝子を有することにより、前記導入遺伝子を標的細胞に形質導入し、かつ、標的細胞において前記導入遺伝子が発現した後の形質導入細胞による対象の免疫療法を可能にする、前記方法。
【0102】
前記導入遺伝子が、例えばキメラ抗原受容体をコードする遺伝子である、前記方法。
【0103】
第9の態様において、本発明は、欠損幹細胞を形質導入するためのインビボ方法であって、
a)処置を必要とする対象に、本明細書において開示されるタグ付きポリペプチドの製剤を投与することであって、前記タグ付きポリペプチドが標的細胞に結合し、前記標的細胞が欠損幹細胞であり、
b)本明細書において開示されるシュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子の製剤を対象に投与することであって、前記シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子がタグ付きポリペプチドに結合することにより、標的細胞に前記レトロウイルスベクター粒子を形質導入するか、または、標的細胞へのウイルス様粒子の取り込みを誘導するものである、
を含む、インビボ方法を提供する。
【0104】
前記シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはウイルス様粒子が、少なくとも1種の導入遺伝子を有することにより、前記導入遺伝子を標的細胞に形質導入する、前記方法。
【0105】
前記導入遺伝子が、ベータサラセミア、SCID-X1、Wiskott-Aldrich症候群などの単一遺伝子疾患の非突然変異対立遺伝子をコードすることにより、欠損幹細胞を非欠損幹細胞に修正する、前記方法。
【0106】
本明細書において開示されるレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子の変異体において、抗原結合活性を有するエンベロープタンパク質は、天然受容体のうちの少なくとも1つと相互作用せず、かつタグ付きポリペプチドのタグに対して特異的な抗原結合性ドメインを含むポリペプチドに融合していない組換えタンパク質であり、かつ、前記エンベロープタンパク質は、パラミクソウイルス科に由来するG、HN、またはHタンパク質である。この変異体において、タグ付きポリペプチドのタグに対して特異的な抗原結合性ドメインを含む前記ポリペプチドは、レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子のエンベロープ内に存在する別の膜タンパク質またはその断片に融合しており、エンベロープ内に固定された3つの別個のタンパク質をもたらす。したがって、この変異体において、シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子は、
a)天然受容体のうちの少なくとも1つと相互作用しない組換えタンパク質であり、かつ、パラミクソウイルス科に由来するG、HN、またはHタンパク質である、抗原結合活性を有する1種のエンベロープタンパク質と、
b)パラミクソウイルス科に由来する融合活性を有する1種のエンベロープタンパク質と、
c)タグ付きポリペプチドのタグに対して特異的な抗原結合性ドメインを含む1種の膜タンパク質またはその断片と
を含み、
前記タグ付きポリペプチドは、標的細胞の表面で発現する抗原に特異的に結合することにより、標的細胞に前記レトロウイルスベクター粒子を形質導入するか、または、標的細胞へのウイルス様粒子(VLP)の選択的取り込みを誘導する。
【0107】
本発明の第1の態様、本明細書において開示されるシュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子を含む組成物、および本明細書において開示されるタグ付きポリペプチドに関して、本明細書において規定されるすべての定義、特徴、および実施形態は、本明細書において開示される本発明の他の態様との関連においても準用する。
【0108】
実施形態
本明細書において開示される適応可能なレトロウイルスベクター粒子系または本明細書において開示されるウイルス様粒子系に関する上述の用途に加えて、本発明のさらなる実施形態を以下に記載するが、これらの実施形態に限定する意図はない。
【0109】
適応可能なレトロウイルスベクター系の好ましい一実施形態では、非標的細胞を含む混合細胞集団内に存在する標的細胞が選択的に形質導入されるか、またはVLP取り込みが選択的に誘導される。
【0110】
適応可能なレトロウイルスベクター系の別の実施形態では、タグ付きポリペプチドの特異性は、標的細胞における抗原の発現レベルによって調節される。
【0111】
例えば、十分なレベルのVSV-G受容体を発現せず、したがってVSV-Gシュードタイプレトロウイルスベクター形質導入に耐性がある細胞または細胞型は、適応可能なレトロウイルスベクター系と、VSV-G受容体の発現レベルと比較してより高いレベルで発現される受容体の抗原に対して特異的なタグ付きポリペプチドとを使用して、より効率的に形質導入され得る。
【0112】
適応可能なレトロウイルスベクター系の別の実施形態では、レトロウイルスベクター粒子またはウイルス様粒子複合体が標的抗原に結合すると、標的細胞の活性化が誘導される。
【0113】
適応可能なレトロウイルスベクター系の別の実施形態では、タグ付きポリペプチドを様々な特異性と組み合わせることにより、様々な抗原を発現する標的細胞集団が同時に、または続けて形質導入され得る。
【0114】
適応可能なレトロウイルスベクター系の別の実施形態では、選択的形質導入またはVLP取り込みを誘導するために、すべての抗原に対して特異的なタグ付きポリペプチドが必要とされる場合、複数の抗原によって特徴付けられる標的細胞が選択的に形質導入されるか、またはVLPを選択的に取り込んでいる。
【0115】
適応可能なレトロウイルスベクター系の別の実施形態では、代替的なポリペプチドまたはリガンドを添加することによってタグ付きポリペプチドからレトロウイルスベクターを放出することにより、形質導入効率またはVLP取り込みが低減され、ここで、前記代替的なポリペプチドまたはリガンドは、好ましくは、前記レトロウイルスベクターまたはそのウイルス様粒子の前記エンベロープタンパク質の外部ドメインに融合しているタグに対して特異的なポリペプチドと比較してより高い親和性で、タグ付きアダプターにおけるタグに結合する。
【0116】
例えば、ビオチンのリガンドであるアビジンを、タグ付きポリペプチドに結合したタグ特異的レトロウイルスベクターに添加すると、この結合が低減または阻害される場合があり、形質導入またはVLP取り込みが低減される。
【0117】
適応可能なレトロウイルスベクター系の別の実施形態では、前記タグ付きポリペプチドの前記タグを除去または分解することにより、形質導入効率またはVLP取り込みが低減される。
【0118】
適応可能なレトロウイルスベクター系の別の実施形態では、前記タグ付きポリペプチドを除去または分解することにより、形質導入効率またはVLP取り込みが低減される。
【0119】
適応可能なレトロウイルスベクター系の別の実施形態では、形質導入効率またはVLP取り込みは、代替的なタグを付加することによって低減され、ここで、前記レトロウイルスベクターまたはそのウイルス粒子は、好ましくはより高い親和性で代替的なタグに結合し、レトロウイルスベクターまたはそのウイルス様粒子は、タグ付きポリペプチドに結合しなくなる。
【0120】
適応可能なレトロウイルスベクター系の別の実施形態では、形質導入効率またはVLP取り込みは、タグ分子を過剰量で付加することによって低減され、ここで、前記レトロウイルスベクターまたはそのウイルス粒子は、付加されたタグに優先的に結合する。
【0121】
適応可能なレトロウイルスベクター系の別の実施形態では、形質導入効率またはVLP取り込みは、代替的なタグ付きポリペプチドを添加することによって低減され、ここで、前記代替的なアダプターは、同じ抗原に対して特異的であるが、前記標的細胞において発現する前記抗原に対してより高い親和性で結合する。
【0122】
適応可能なレトロウイルスベクター系の別の実施形態では、抗原結合活性を有する前記エンベロープタンパク質の外部ドメインに融合している前記ポリペプチドを除去または分解することにより、形質導入効率またはVLP取り込みが低減される。
【0123】
適応可能なレトロウイルスベクター系の別の実施形態では、形質導入効率またはVLP取り込みは、前記標的細胞において発現する前記抗原に対する前記タグ付きポリペプチドの親和性および/またはアビディティーを改変することによって制御される。
【0124】
適応可能なレトロウイルスベクター系の別の実施形態では、形質導入効率またはVLP取り込みは、前記タグ付きポリペプチドの量を変更することによって制御される。
【0125】
適応可能なレトロウイルスベクター系の別の実施形態では、選択的形質導入またはVLP取り込みは、インビボで起こる。
【0126】
適応可能なレトロウイルスベクター系の別の実施形態では、選択的形質導入またはVLP取り込みは、インビトロまたはインビボで起こり、前記タグ付きポリペプチドが結合する抗原をスクリーニングし特定するために使用される。
【0127】
適応可能なレトロウイルスベクター系の別の実施形態では、選択的形質導入またはVLP取り込みは、インビトロまたはインビボで起こり、前記タグ付きポリペプチドが結合する抗原および/または標的細胞をスクリーニングし特定するために使用される。
【0128】
適応可能なレトロウイルスベクター系の別の実施形態では、選択的形質導入またはVLP取り込みは、インビトロまたはインビボで起こり、標的細胞において発現する標的抗原に結合するポリペプチドをスクリーニングし特定するために使用される。
【0129】
適応可能なレトロウイルスベクター系の別の実施形態では、レトロウイルスベクターまたはそのVLPは、組換え細胞または動物を生成するために目的の遺伝子を送達する。
【0130】
適応可能なレトロウイルスベクター系の別の実施形態では、レトロウイルスベクターまたはそのVLPは、疾患を治療または予防するために治療用タンパク質をコードする目的の遺伝子を送達する。
【0131】
適応可能なレトロウイルスベクター系の別の実施形態では、レトロウイルスベクターまたはそのVLPは、ワクチン接種の目的、または例えばCrispr/Casを用いた遺伝子編集のために使用され得る、目的のタンパク質を送達する。
【0132】
適応可能なレトロウイルスベクター系の別の実施形態では、レトロウイルスベクターは、組み込み欠損型である。
【0133】
定義
別段の定義がない限り、本明細書において使用される技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。
【0134】
レトロウイルス科は、DNA中間体に逆転写され、次いで宿主細胞ゲノム内に組み込まれる、一本鎖、二倍体、プラスセンスのRNAゲノムを有するウイルス科である。レトロウイルス科由来のウイルスは、直径80~120nmのエンベロープ粒子である。
【0135】
(レトロ/レンチ/ガンマレトロ)ウイルスベクターは、対応するウイルス科に由来する複製欠損型ウイルス粒子である。これらは、GagおよびPolタンパク質、一本鎖RNAゲノムを含有し、通常、他のウイルスに由来する異種エンベロープタンパク質でシュードタイピングされる。前記ウイルスベクターのRNAゲノムは、ウイルス子孫を産生するウイルス遺伝子を含有しないが、DNAにおける効率的なパッキングおよび逆転写のために必要とされるpsiエレメントおよびLTRを含有する。DNA中間体は、好適なプロモーター、例えばCMVプロモーターの制御下にある目的の遺伝子を含有してよく、前記DNAが宿主細胞のゲノムに組み込まれると、目的の遺伝子が発現される。宿主細胞への移入、RNAゲノムの送達、目的の遺伝子の組み込みおよび発現のプロセスは、形質導入と呼ばれる。ガンマレトロウイルスまたはレンチウイルスベースのウイルスベクターの最小要件は、当技術分野において十分に説明されている。
【0136】
さらに、宿主細胞ゲノム内にレトロウイルスベクターゲノムを組み込むことができないインテグラーゼ欠損型レトロウイルスベクター(ID-RV)が開発されている。ID-RVは従来のレトロウイルスベクターに由来するが、レトロウイルスインテグラーゼを含有しないか、またはその突然変異型を含有する。宿主細胞内に移入すると、レトロウイルスベクターゲノムは細胞質内で逆転写され、核内に送達されるが、宿主細胞ゲノム内に安定に組み込まれない。ID-RVは、目的の遺伝子を一過性発現するために有用なツールである。レトロウイルスベクターおよび形質導入の定義は、組み込み欠損型レトロウイルスベクターおよびその適用にも及ぶ。
【0137】
レンチウイルスは、ヒトおよび他の哺乳動物種における長い潜伏期間によって特徴付けられる慢性かつ致命的な疾患を引き起こすレトロウイルス科の属である。最もよく知られているレンチウイルスは、非分裂細胞に効率的に感染することができるヒト免疫不全ウイルスHIVであり、そのため、レンチウイルス由来レトロウイルスベクターは、遺伝子送達の最も効率的な方法のうちの1つである。
【0138】
ガンマレトロウイルス科は、レトロウイルス科の属である。代表的な種は、マウス白血病ウイルスおよびネコ白血病ウイルスである。
【0139】
パラミクソウイルス科は、モノネガウイルス目におけるウイルスの科である。この科には現在49種あり、7つの属に分けられる。このウイルス科に関連する疾患としては、麻疹、ムンプス、および気道感染症が挙げられる。このウイルス科のメンバーは、約16kbの非分割型マイナス鎖のRNAゲノムを有するエンベロープウイルスである。このビリオン表面には、2つの明確に異なる機能を有する2種の膜タンパク質がスパイクとして現れる。H/HN/Gタンパク質は、細胞表面における受容体への結合を媒介する。
【0140】
したがって、本明細書において使用される「抗原結合活性を有するウイルスエンベロープタンパク質」という用語は、標的細胞の細胞膜上の相補的な受容体または抗原への結合に関与するウイルスエンベロープ上のタンパク質を指す。パラミクソウイルス科のH、HN、またはGタンパク質は、抗原結合活性を有するウイルスエンベロープタンパク質である。
【0141】
結合すると、H/HN/Gタンパク質はそれらの立体構造を変化させ、これにより、融合ヘルパー機能と呼ばれるプロセスが誘導され、その後、ウイルス膜と細胞膜との融合を媒介するFタンパク質内の立体構造の変化がもたらされる。これで、カプシドおよびウイルスゲノムは宿主細胞に移入し、感染または形質導入できるようになる。本明細書において使用される「融合活性を有するウイルスエンベロープタンパク質」という用語は、ウイルス膜と細胞膜との融合を開始するタンパク質を指す。パラミクソウイルス科のFタンパク質は、融合活性を有するウイルスエンベロープタンパク質を指す。
【0142】
ウイルス様粒子(VLP)は、ウイルス粒子に似ているが、ウイルス様粒子のタンパク質をコードするウイルス遺伝材料を含有しないため、感染することも形質導入することもない。特に、レトロウイルスベクターとの関連におけるVLPは、psi陽性核酸分子を含有しない。いくつかのウイルス様粒子は、それらのゲノムとは明確に異なる核酸を含有し得る。エンベロープまたはカプシドなどのウイルス構造タンパク質の発現は、ウイルス様粒子(VLP)のアセンブリをもたらし得る。レトロウイルスベクターと同様に、VLPも、レトロウイルスベクターと同じエンベロープ構築物を使用してシュードタイピングされ得る。VLPは、タンパク質だけでなく核酸を標的細胞の細胞質に送達するために使用されてもよい。特に、VLPは、ワクチンとして有用である。
【0143】
本明細書において使用される「VLP取り込み」という用語は、VLPが標的細胞膜に結合することにより、核酸分子、タンパク質、またはペプチドが標的細胞内に放出されることを指す。
【0144】
キメラタンパク質は、元々は別々のタンパク質をコードした2種以上の遺伝子の結合によって作出されたタンパク質である。この遺伝子の翻訳は、元々のタンパク質のそれぞれに由来する機能的特性を有する単一または複数のポリペプチドをもたらす。組換えタンパク質は、生物学的研究または治療学において使用される組換えDNA技術によって人工的に作出される。
【0145】
本明細書において使用される「外部ドメイン」という用語は、細胞外空間(細胞外の空間)に延びる膜タンパク質のドメインを指す。
【0146】
本明細書において使用される「活性化」という用語は、標的細胞の機能、増殖、および/または分化を増加させる細胞の生理的変化を誘導することを指す。
【0147】
本明細書において使用される「シュードタイピング」または「シュードタイプ」という用語は、エンベロープを有する他のウイルスに由来するエンベロープ糖タンパク質を有するベクター粒子を指す。したがって、本発明のレンチウイルスベクターまたはベクター粒子の宿主域は、糖タンパク質によって使用される細胞表面受容体のタイプに応じて拡大または変更され得る。
【0148】
レトロウイルスベクターを生成するためには、ベクター粒子をアセンブルするために必要とされるgag、pol、およびenvタンパク質が、パッケージング細胞株、例えばHEK-293Tの手段によってトランスで提供される。これは通常、gag、pol、およびenv遺伝子を含有する1つまたは複数のプラスミドを用いたパッケージング細胞株のトランスフェクションによって達成される。シュードタイプベクターの生成のためには、gagおよびpol遺伝子ならびにRNA分子または発現ベクターと同じレトロウイルスに元々は由来するenv遺伝子が、異なるエンベロープウイルスのエンベロープタンパク質と交換される。一例として、パラミクソウイルス科のFおよびHまたはHNまたはGタンパク質が使用される。
【0149】
したがって、HIV-1レトロウイルスに基づく例示的なシュードタイプベクター粒子は、(1)HIV-1 GagおよびPolタンパク質、(2)gag、env、pol、tat、vif、vpr、vpuおよびnef遺伝子を欠いているが、依然としてLTR、psiエレメント、およびCMVプロモーターを含み、その後に、形質導入しようとする遺伝子、例えばGFPタンパク質の遺伝子が続く、HIV-1ゲノムに基づくレトロウイルスベクター粒子を生成するために使用され得るHIV-1ゲノムに由来するRNA分子、ならびに(3)例えば切断形態における、麻疹ウイルスのFおよびHタンパク質を含む。
【0150】
本明細書において使用される「天然受容体」という用語は、抗原(受容体)結合活性を有する自然発生ウイルスエンベロープタンパク質が結合している細胞の細胞表面において発現する受容体または抗原を指す。天然の麻疹ウイルス受容体は、SLAM、ネクチン-4、およびCD46である。Nipahエンベロープタンパク質は、移入のための受容体としてエフリン-B2およびエフリン-B3を使用する。
【0151】
本明細書において使用される「天然受容体のうちの少なくとも1つと相互作用しない抗原結合活性を有する1種のエンベロープタンパク質」という用語は、本明細書の他所に記載される前記タンパク質を有するウイルスによって通常は標的化される細胞の少なくとも1つの受容体と、前記タンパク質の相互作用が低減または消失している(ablated)ことを意味する。低減した相互作用とは、前記切断型および/または突然変異タンパク質が、非突然変異タンパク質と比較して、少なくとも50%低い効率、少なくとも60%低い効率、少なくとも70%低い効率、少なくとも80%低い効率、少なくとも90%低い効率、少なくとも95%低い効率、少なくとも99%低い効率で、前記少なくとも1つの天然受容体と相互作用することを意味する。優先的には、前記タンパク質は、前記天然受容体のうちの少なくとも1つと相互作用しなくなる。相互作用は、これら2つの分子の互いへの結合であり得る。相互作用の効率の低下は、前記タンパク質のその天然受容体との親和性の低減であり得る。抗原結合活性を有する前記エンベロープタンパク質は、1つより多くの天然受容体を有してよく、その場合、前記タンパク質のこうした天然受容体のうちの1つの相互作用の低減または消失は、ベクター粒子またはそのウイルス様粒子の指向性の低減をもたらす。前記タンパク質のその天然受容体との相互作用が突然変異によって阻害されればされるほど、ベクター粒子またはそのウイルス様粒子の指向性の低減は効果的である。
【0152】
いくつかの場合では、すべてではないがいくつかの天然受容体の前記タンパク質への相互作用を阻害することで十分であり得る。これは、本明細書において開示されるレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子の意図される用途または使用において、例えば、形質導入が意図される標的細胞の環境において、天然受容体がいずれの細胞(標的細胞および非標的細胞)でも発現しないとき、残りの相互作用が関連しないためである。
【0153】
抗原結合活性を有するエンベロープタンパク質が、2つより多くの天然受容体、例えば3つの天然受容体を有する場合、優先的には、前記タンパク質は、その天然受容体の大多数、例えば3つのうちの2つと相互作用しない。
【0154】
より優先的には、抗原結合活性を有するエンベロープタンパク質は、その天然受容体のすべてと相互作用しない。
【0155】
本明細書において使用される「指向性」という用語は、ウイルス、レトロウイルスベクターまたはそのウイルス様粒子の宿主域または特異性を指す。本明細書において使用される場合、標的細胞で発現する抗原に対して特異的なタグ付きポリペプチドは、レトロウイルスベクターまたはそのウイルス様粒子の宿主域を定義する。
【0156】
本明細書において使用される「ヒト指向性ではない」という用語は、抗原結合活性を有するウイルスエンベロープタンパク質が、ヒト細胞で発現するいずれかの抗原への結合を低減させる、優先的には消失させるように突然変異しているため、ウイルス、レトロウイルスベクターまたはそのウイルス様粒子が、感染、形質導入、またはVLP取り込みの誘導を行えないことを指す。
【0157】
本明細書において使用される「標的細胞」という用語は、その細胞表面において、本明細書において開示される適応可能な系のタグ付きポリペプチドによって認識(結合)されるべき抗原(マーカー)を発現する細胞を指す。標的細胞は、初代真核細胞または細胞株であり得る。標的細胞は、マウス細胞などの哺乳動物細胞であってよく、優先的には、標的細胞はヒト細胞である。
【0158】
本明細書において使用される「非標的細胞」という用語は、その細胞表面において、本明細書において開示される適応可能な系のタグ付きポリペプチドによって認識(結合)されるべき抗原(マーカー)を発現しない細胞を指す。
【0159】
本明細書において使用される「選択的」および「標的化」という用語は、標的細胞における優先的な形質導入またはウイルス様粒子の取り込みを誘導するレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子を指す。したがって、シュードタイプレトロウイルスベクター粒子の形質導入またはシュードタイプされたそのウイルス様粒子の取り込みの誘導は、非標的細胞よりも前記標的細胞において10倍高い、優先的には100倍高い、最も優先的には1000倍高い。本発明において、これは、天然受容体との相互作用が低減または消失している抗原結合活性を有するエンベロープタンパク質を含むシュードタイプレトロウイルスベクターまたはそのウイルス様粒子、および前記エンベロープタンパク質の外部ドメインにおいてタグ付きポリペプチドのタグに対して特異的な抗原結合性ドメインを含む融合ポリペプチドの存在下で、細胞をタグ付きポリペプチドと共にインキュベートすることによって達成される。パラミクソウイルス科のH/HNおよびGタンパク質は、抗原結合活性を有するタンパク質である。
【0160】
したがって、本発明の選択的または標的化レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子の指向性は、Hタンパク質の起源であるウイルスの指向性によってではなく、標的細胞の細胞表面抗原に対するタグ付きポリペプチドの特異性に応じて定義される。本明細書において使用される場合、抗原結合活性を有するエンベロープタンパク質と融合したタグ付きポリペプチドのタグに対して特異的な抗原結合性ドメインを有するポリペプチドは、細胞表面で発現するあらゆる抗原との相互作用が低減または消失している。麻疹ウイルスエンベロープタンパク質でシュードタイピングされた選択的レトロウイルスベクターまたはそのウイルス様粒子については、本明細書において開示されるタグ付きポリペプチドのタグに対して特異的な抗原結合性ドメインを含むポリペプチドに融合した切断型Hタンパク質は、その天然受容体との生産的相互作用を概して低減または消失させる突然変異を有しなければならない。そのような突然変異は、当技術分野において周知である。麻疹Hタンパク質とCD46との相互作用を消失させる突然変異は、例えば、Y481位、F431位、V451位、Y452位、A527位、P486位、I487位、A428位、L464位、G546位、S548位、F549位における点突然変異であり、ここで、これらのアミノ酸は、別のアミノ酸と置換され、この突然変異は、Hタンパク質とCD46との相互作用を防止するか、または防止を助ける。代替的には、Hタンパク質における5つの連続残基473~477すべてをアラニンで置換すると、Hタンパク質とCD46との相互作用が防止され得る。上述の突然変異のいずれも、相互に組み合わせ得る。
【0161】
例えば、Y481A R533Aの突然変異の導入が、麻疹Hタンパク質と、それぞれCD46およびSLAMとの生産的相互作用を消失させる(Nakamuraら(2004年)、Nakamuraら(2005年)、Vongpunsawadら(2004年)、Masseら(2002年)、Masseら(2004年)、Pattersonら(1999年))。別の実施形態では、Hmutタンパク質は突然変異S548LおよびF549Sも含み、これは、CD46を介した残留感染性のより完全な消失をもたらす。また、残基V451およびY529の突然変異は、CD46およびSLAMとの生産的相互作用を消失させる。Hタンパク質とCD46との相互作用を消失/防止するための代替的な突然変異は、上述されている。天然受容体利用を低減または消失させるために切断型Hタンパク質に導入されるこれら突然変異はすべて、麻疹Hタンパク質の外部ドメイン内に位置する。Hタンパク質とSLAMとの相互作用を防止するためには、I194、D530、Y553、T531、P554、F552、D505、D507の残基のうちの1つが、任意の他のアミノ酸、特にアラニンで置換され得る。
【0162】
ネクチン-4については、この受容体への結合を消滅させる突然変異も当技術分野において提案されている。例えば、Taharaらは、野生型(wt)麻疹ウイルスHタンパク質のアミノ酸置換F483A、Y541S、およびY543Sが、ネクチン-4陽性細胞に対する融合活性の消失をもたらすことを示している(Taharaら(2008年))。これは、Edmonston株Hのアミノ酸置換F543AおよびP497Sが、Edmonston株FおよびHエンベロープタンパク質でシュードタイピングされた水疱性口内炎ウイルスによる感染を消滅させることを示したLiuらによって確認されている(Liuら(2014年))。H分子の表面には、ネクチン-4依存性融合に関与し得る異なるモルビリウイルスの間で良く保存されているさらなる残基、例えばPhe483、Asp521、Leu522、Tyr524、Tyr541、Tyr543、Ser544、Arg547、Ser550、およびTyr551が存在する(Taharaら(2008年))。これは、さらなる突然変異がネクチン-4との相互作用を防止するのに役立ち得ることを示唆している。切断型Fタンパク質および突然変異Hタンパク質でシュードタイピングされたレンチウイルスもしくはガンマレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子で、その外部ドメインにおいて、タグ付きポリペプチド(前記タグ付きポリペプチドは、標的細胞の細胞表面マーカーに対して特異的である)のタグに対して特異的な抗原結合性ドメインを含むポリペプチドをさらに提示するものは、もはや、CD46、SLAMおよび/またはネクチン-4を介して細胞に移入せず、むしろ、切断型Hタンパク質およびタグ付きポリペプチドに融合したタグに対して特異的な抗原結合性ドメインを含むポリペプチドの抗タグドメインを介して、それぞれの対応するマーカーをその表面で提示する細胞のみを標的化し、これらに移入する。
【0163】
Nipahエンベロープタンパク質でシュードタイピングされた選択的レトロウイルスベクターまたはそのウイルス様粒子では、Gタンパク質と天然受容体エフリン-B2およびエフリン-B3との相互作用の低減または消失が必要とされる。受容体結合能が消失した変異体をもたらす突然変異体をスクリーニングすることにより、Gタンパク質内の残基が特定された(Benderら(2016年))。E501、W504、Q530、E533は、単独突然変異または複合突然変異のいずれかであった。E501A、W504A、Q530A、E533Aの複合突然変異は、受容体エフリン-B2およびエフリン-B3の両方について、受容体結合能の完全な消失を示した。
【0164】
本発明において使用される、例えばHIV-1に「由来する」シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子は、ベクター粒子に含まれるRNAならびに/またはGagおよびPolタンパク質の遺伝情報が前記レトロウイルス(上記の場合ではHIV-1)から元々生じる粒子を指す。元々のレトロウイルスゲノムは、欠失、フレームシフト突然変異、および挿入などの突然変異を含み得る。
【0165】
本明細書において使用される「細胞質部分」、「細胞質側末端」、または「細胞質領域」という用語は、それぞれのタンパク質のうち、タンパク質の膜貫通ドメインに隣接し、かつ、タンパク質が生理的条件下で膜に挿入される場合、細胞質内に延びる部分を指す。パラミクソウイルス科において、抗原結合機能を有するすべてのエンベロープタンパク質は、これまで、II型膜タンパク質として特徴付けられている。これは、細胞質ドメインがエンベロープタンパク質のN末端に位置することを意味する。
【0166】
麻疹Fタンパク質の場合、膜貫通ドメインは、5アミノ酸配列(配列番号3)によって特定され、麻疹Hタンパク質の場合、このドメインは、4アミノ酸配列(配列番号4)によって特定される。麻疹Fタンパク質の細胞質部分は通常、33個のC末端アミノ酸からなり、麻疹Edmonston株でのこの配列は、配列番号5において確認することができる。麻疹Hタンパク質の細胞質部分は、典型的には、34個のN末端アミノ酸からなり、麻疹Edmonston株でのこの配列は、配列番号6において確認することができる。
【0167】
Nipah Gタンパク質の場合、膜貫通ドメインは通常、配列番号7に示すアミノ酸配列および配列番号8に示す細胞質部分によって特定される。
【0168】
Nipah Fタンパク質の場合、膜貫通ドメインは通常、配列番号9に示すアミノ酸配列によって定義され、細胞質部分は通常、配列番号10に示すアミノ酸配列からなる。
【0169】
本発明において使用される「切断型」という用語は、指定されるタンパク質のアミノ酸残基の欠失を指す。当業者には、タンパク質が核酸によってコードされることは明らかである。したがって、「切断型」とは、所与の「切断型」タンパク質をコードする核酸分子内の対応するコード核酸も指す。
【0170】
さらに、特定の切断型または改変型タンパク質をコードする核酸分子が同様に包含され、逆もまた同様であることを理解されたい。
【0171】
本発明において、「切断型Hタンパク質」、「切断型Gタンパク質」、または「切断型Fタンパク質」が具体的に参照され、これらはそれぞれ、細胞質部分が部分的または完全に切断されている、すなわちアミノ酸残基(またはタンパク質をコードする対応する核酸分子のコード核酸)が欠失している、パラミクソウイルス科、好ましくは麻疹Hタンパク質、Nipah Gタンパク質、およびNipahまたは麻疹Fタンパク質を示す。
【0172】
Fタンパク質の細胞質部分は、タンパク質のC末端に位置する。
【0173】
細胞質部分がC末端に位置するすべてのエンベロープタンパク質について、所望の配列を確認するとき、タンパク質のC末端から数え始める。一例として、麻疹Edmonston株に由来するFタンパク質の場合、FcΔ30は、アミノ酸配列が「RGR」の細胞質部分を有するFタンパク質を指すことになる。
【0174】
対照的に、H、HN、またはGタンパク質の細胞質部分は、N末端に位置する。
【0175】
したがって、所望の配列を確認するとき、H、HN、またはGタンパク質のN末端の第2のアミノ酸残基から数え始める(すなわち、第1のメチオニン残基を省略する)。
【0176】
WO2008037458A2では、麻疹Fタンパク質の細胞質ドメインが、少なくとも1個の正に荷電したアミノ酸残基を含むように切断され得、Hタンパク質の細胞質部分が、Hタンパク質のC末端細胞質部分の少なくとも9個の連続したアミノ酸残基と、N末端のさらなるメチオニンを含むように切断され得ることが開示されている。しかしながら、Hタンパク質が効率的なシュードタイピングを可能にするように切断されても依然として融合補助機能を有する場合、Hタンパク質の細胞質部分のさらなる切断が実現可能であると予想される。
【0177】
効率的なシュードタイピングのための切断を可能にする改変は、天然受容体結合機能を消失させる改変と組み合わされ得る。
【0178】
当業者であれば、例えば付加および欠失としての突然変異を所与の核酸またはアミノ酸配列に容易に導入することが可能であろう。
【0179】
本発明のタンパク質は、機能的ホモログをさらに含む。タンパク質が特定の機能について別のタンパク質の機能的ホモログとみなされるのは、そのホモログが元々のタンパク質と同様の機能を有する場合である。ホモログは、例えば、タンパク質の断片、またはタンパク質の置換、付加、もしくは欠失突然変異体であり得る。
【0180】
2つのアミノ酸配列が実質的に相同であるかどうかの判定は、典型的には、FASTA検索に基づく。例えば、第1のタンパク質のアミノ酸配列が第2のタンパク質のものと相同であるとみなされるのは、第1のタンパク質のアミノ酸配列が、第2のタンパク質の配列と少なくとも約70%のアミノ酸配列同一性、好ましくは少なくとも約80%の同一性、より好ましくは少なくとも約85%、90%、95%または99%の同一性を共有する場合である。
【0181】
本出願において使用される「Psi陽性」および「psi陰性」という用語は、それぞれ、レトロウイルスpsiエレメントが存在する核酸分子か、または存在しない核酸分子を指す。psiエレメントは、レトロウイルスゲノムの5’末端近くに位置するシス作用性シグナルであり、ウイルスのアセンブリ中に重要であり、ウイルスコアへのウイルスRNAの組み込みをもたらす、パッケージングシグナルを指定する。したがって、psi陰性RNAは、レトロウイルスpsiエレメントを含まず、結果として、本発明のベクター粒子中にアセンブルされない。対照的に、前記psiエレメントを含むpsi陽性RNAは、ベクター粒子中に効果的にアセンブルされる。
【0182】
「力価」または「形質導入効率」という用語は、ベクター粒子を、その標的細胞に形質導入するその能力に関して特徴付け、比較する手段として使用される。したがって、「増加した力価」または「増加した形質導入効率」を有するベクター粒子は、所与のベクター粒子容量において、同じ容量の他のベクター粒子よりも多い数の細胞に形質導入することができる。
【0183】
本発明において使用される「(標的)細胞の表面で発現する抗原」または「細胞(表面)マーカー」という用語は、細胞の表面に、優先的には標的細胞に存在する分子を指す。そのような分子は、とりわけ、糖鎖または脂質、表面抗原分類(CD)、抗体または受容体を含み得るペプチドまたはタンパク質であり得る。すべての細胞集団が同じ細胞マーカーを発現するわけではないため、細胞マーカーはしたがって、特定の細胞マーカーを発現する所与の細胞集団を特定、選択、または単離するために使用され得る。一例として、CD4は、Tヘルパー細胞、制御性T細胞、および樹状細胞によって発現される細胞マーカーである。したがって、Tヘルパー細胞、制御性T細胞、および樹状細胞は、とりわけFACSセルソーターによって、CD4細胞マーカーを用いて特定、選択、または別様に単離され得る。
【0184】
本明細書において使用される「タグ付きポリペプチド」という用語は、少なくとも1種のさらなる成分、すなわちタグが直接的または間接的に結合しているポリペプチドを指す。本明細書において使用されるタグ付きポリペプチドは、標的細胞で発現する抗原に結合することができる。このポリペプチドは、がん細胞の腫瘍関連抗原など、標的細胞の表面で発現する抗原に結合する抗体またはその抗原結合性断片であり得る。タグ付きポリペプチドのポリペプチドは、代替的に、サイトカインまたは増殖因子、または標的細胞の抗原に結合することができる別の可溶性ポリペプチドであってもよい。
【0185】
本明細書において使用される「アダプター」または「アダプター分子」という用語は、標的細胞の抗原に結合することができるタグ付きポリペプチド、例えば抗体またはその抗原結合性断片を指し、少なくとも1種のさらなる成分、すなわちタグが直接的または間接的に結合している。アダプターまたはアダプター分子は、タグ付き抗体またはその抗原結合性断片、サイトカインまたは増殖因子、または標的細胞の抗原に結合することができる別の可溶性ポリペプチドであり得る。
【0186】
タグは、例えばハプテンまたはデキストランであってよく、ハプテンまたはデキストランには、タグに対して特異的な抗原結合性ドメインを含むポリペプチドの抗原結合性ドメインが結合していてよい。
【0187】
例えばFITC、ビオチン、PE、ストレプトアビジン、またはデキストランなどのハプテンは、タンパク質などの大きな担体に結合したときにのみ免疫応答を誘発する小分子である。担体は、免疫応答を単独では誘発しないものであってもよい。ハプテン-担体付加物に対する抗体を身体が生成したら、小分子ハプテンが抗体に結合することができる場合もあるが、通常は免疫応答を開始しない。通常はハプテン-担体付加物のみがこれを行うことができる。
【0188】
本明細書において使用される「タグに対して特異的な抗原結合性ドメインを含むポリペプチド」という用語は、タグ付きポリペプチドのタグに結合することができるポリペプチドを指す。タグ付きポリペプチドは、タグに対して特異的な抗原結合性ドメインを含むポリペプチドとは異なる。タグに対して特異的な抗原結合性ドメインを含むポリペプチドは、タグ付きポリペプチドの前記タグに結合する抗体またはその抗原結合性断片であり得る。
【0189】
また、「タグ付きポリペプチド」は、タグに対して特異的な抗原結合性ドメインを含む融合ポリペプチドの抗原結合性ドメインが結合する「標的細胞結合性分子」(TCBM)であってもよく、ここで、前記抗原結合性ドメインは、抗リンカー/標識エピトープ(LLE)結合性ドメイン、すなわちタグ結合性ドメインの特定の変異体である。本明細書において開示されるTCBMおよび(ベクター)粒子を使用するレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子の適応可能な系について、以下に簡潔に記載する。
【0190】
本明細書において開示されるレンチウイルスもしくはガンマレトロウイルスベクター粒子またはそれらのウイルス様粒子は、受容体結合活性を有する切断型タンパク質、例えばHタンパク質に融合したTCBMのLLEに対して特異的な抗原結合性ドメインを含むポリペプチドを含んでよく、ここで、LLEに対して特異的な前記抗原結合性ドメインは、対象における自然発生分子と、抗原結合性分子(ABM)、標識部分(LaM)およびリンカー部分(LiM)を含む標的細胞結合性分子(TCBM)とを区別することができ、ここで、前記LiMは、前記ABMおよび前記LaMをコンジュゲートする。ABMは、前記タグ付きポリペプチドのポリペプチド部分であり得る。標識部分(LaM)は、対象における自然発生分子またはその誘導体であり得る。リンカー部分(LiM)は、標識部分(LaM)に連結されていてよい。LiMおよびLaMは合わせて、前記タグ付きポリペプチドのタグ部分を表す。LLE結合性ドメインを有するレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子は、リンカー部分を有しない内在性標識部分よりも高い親和性で、LaMおよびある特定のLiMを含むTCBMに結合する。これにより、内在性LaMが存在し得る生理的条件下でTCBMの認識/結合が向上している。
【0191】
このアプローチの利点は、レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子の適応可能な系を可能にするLaMが、対象に内在する自然発生分子であるため、非免疫原性であるということである。LaMは自己抗原であり、LiMに連結したLaMは、新規のエピトープであるリンカー/標識エピトープ(LLE)を作る改変された自己抗原であり、LLEには、対象における自然発生分子よりも、LLEに対して特異的な抗原結合性ドメインを含むポリペプチドのLLE結合性ドメインの方が良く結合する。
【0192】
自然発生分子は、対象の循環器系に存在する分子であり得るが、TCBMよりも低い親和性で、本明細書において開示されるレトロウイルスベクター系が結合する。優先的には、対象における自然発生分子は、細胞外分子または部分的な細胞外構造を有する分子であってよく、より優先的には、対象における自然発生分子は、ヒト非核タンパク質であり得る。
【0193】
リンカー部分および標識部分は、抗原結合性部分(ABM)も含む標的細胞結合性分子(TCBM)の一部であり、ここで、リンカー部分は、LaMおよびABMをコンジュゲートする。概して、前記ABMは、標的細胞の表面で発現する抗原に対するものである。
【0194】
本明細書において開示される適応可能なレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子と併せてTCBMを投与することにより、標的細胞の表面で抗原(マーカー)を発現する細胞のみを標的化し、それにより、標的細胞を選択的に形質導入する。本明細書において開示されるレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子の適応可能な系は、レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子の別々の構築物を調製する必要なく、多種多様な標的細胞、例えば多種多様な腫瘍を標的化する「ユニバーサルな」レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子系として使用され得る。前記LLE結合性ドメインを含むポリペプチドのLLE結合性ドメインによって認識されるTCBMの標識/リンカーエピトープ(LLE)も不変のままであり得る。系が同一性の異なる標的細胞を標的化することを可能にするように変更される必要があるのは、TCBMのABMのみである。
【0195】
前記ポリペプチドの抗LLE結合性ドメインは、レトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子と、抗原を発現する標的細胞との間の架橋として、TCBMを用いる。TCBMは、分子の一方の末端に標識部分(LaM)、他方の末端に抗原結合性部分(ABM)を含み、これらはリンカー部分によって連結している。標識部分の同一性に関する唯一の要件は、それが対象における自然発生分子(自己抗原)でなければならないこと、ならびに、リンカー部分にコンジュゲートされたその変異体が、リンカー部分にコンジュゲートされていない自然発生の変異体に対するよりも、リンカー部分にコンジュゲートされたその変異体(改変された自己抗原)に対してより高い親和性で、前記ポリペプチドのLLE結合性ドメインによって認識および結合され得ることのみである。
【0196】
LLEを生成することが可能であり得るあらゆる分子が、リンカー部分として使用され得る。リンカー部分の同一性に関する唯一の要件は、リンカー部分が、標識部分に化学的にコンジュゲート(もしくは連結)されるか、または遺伝的に(組換えで)コードされてよく、かつ、リンカー部分および標識部分の状況、界面、および/または環境において新たなエピトープを生成することができなければならないということである。LiMは、優先的には、対象の免疫反応を誘起しないか、または誘起する傾向がない分子であり得る。例えば、LiMは自己抗原である。この場合、LaMとLiMとの界面は、新規のエピトープであるLLEを生成する。
【0197】
LiMは例えば、ペプチド、タンパク質、核酸、炭水化物、ポリヒドロキシアルカノエート、アルキル鎖、アルカン酸、カルボン酸(例えばε-アミノカプロン酸(6-アミノヘキサン酸)または6-(6-アミノヘキサンアミド)ヘキサン酸)ファルネシル、ポリエチレングリコール、脂質、およびそれらの誘導体からなる群から選択され得る。
【0198】
特に好ましいLiMは、例えば6-(6-アミノヘキサンアミド)ヘキサン酸もしくは6-(6-アミノヘキサンアミド)ヘキサン酸活性エステルに由来する6-(6-アミノヘキサンアミド)ヘキサノイル部分、または例えば6-アミノヘキサン酸もしくは6-アミノヘキサン酸活性エステルに由来する6-アミノヘキサノイル部分であり得る。適応可能なレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子系は、LLE結合性ドメインを含むポリペプチドを有する系であり得、ここで、前記LaMはビオチンであり、前記LiMは6-(6-アミノヘキサンアミド)ヘキサノイルリンカー部分または6-アミノヘキサノイルリンカー部分である。
【0199】
本明細書において使用される「抗体」という用語は、抗原を特異的に認識する(すなわち結合する)、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体(完全長抗体を含む)、多特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、抗体断片、すなわち抗体の抗原結合性断片、イムノアドヘシンおよび抗体-イムノアドヘシンキメラを含むがこれらに限定されない、様々な形態の抗体構造を包含するように最も広い意味で使用される。「抗原結合性断片」は、完全長抗体の一部、好ましくはその可変ドメイン、または少なくともその抗原結合部位(「抗体の抗原結合性断片」)を含む。抗原結合性断片の例としては、Fab(fragment antigen binding、抗原結合性断片)、scFv(single chain fragment variable、一本鎖可変断片)、単一ドメイン抗体、ダイアボディ、dsFv、Fab’、ダイアボディ、一本鎖抗体分子、および抗体断片から形成された多特異性抗体が挙げられる。
【0200】
本明細書において使用される場合、「抗原」という用語は、1つまたは複数の抗体に結合するか、またはその産生を誘起する物質を含むよう意図され、これは、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、オリゴペプチド、脂質、炭水化物、例えばデキストラン、ハプテンおよびそれらの組み合わせ、例えばグリコシル化タンパク質または糖脂質を含み得るが、これらに限定されない。本明細書において使用される「抗原」という用語は、標的細胞の表面で発現し得、適応免疫系によって認識され得る、抗体もしくはTCRを含むがこれらに制限されない分子種、または、内在性もしくはトランスジェニックTCR、CAR、scFv、もしくはそれらの多量体、Fab断片もしくはその多量体、抗体もしくはその多量体、一本鎖抗体もしくはその多量体を含むがこれらに制限されない改変された分子、または、高い親和性で構造への結合を実行することができる任意の他の分子を指す。
【0201】
本明細書において使用される「発現」という用語は、細胞においてそのプロモーターによって駆動される特定のヌクレオチド配列の転写および/または翻訳と定義される。
【0202】
「エピトープ」という用語は、免疫系によって、特に抗体、B細胞、またはT細胞によって認識され得る抗原の一部を意味する。例えば、エピトープは、抗原のうち、抗体またはその抗原結合性断片が結合する特定の部分である。
【0203】
本明細書において使用される「リンカー/標識エピトープ」(LLE)または「標識/リンカーエピトープ」という用語は、交換可能に使用することができ、本明細書において開示されるTCBMのコンジュゲートされたリンカー部分および標識部分の状況、界面、および/または環境によって形成されるエピトープを指す。
【0204】
標識部分とリンカー部分との連結によって生成されるエピトープは、対象において自然発生しない。生成されたエピトープは、前記LaMの一部および前記LiMの一部を含む。優先的には、LLEは、本明細書において開示される適応可能な系で処置されることが意図される対象において免疫反応を誘起しないか、または誘起する傾向がない。LLEに関する唯一の要件は、それがLLE結合性ドメインを含むポリペプチドのエピトープであることである。標識/リンカーエピトープを認識する抗体などのエピトープ認識分子に由来する本明細書において開示される前記ポリペプチドのLLE結合性ドメインは、リンカー部分を有しない内在性標識部分、すなわち対象における自然発生分子(自己抗原)に対するよりも高い優先度で、新たに作出されたエピトープ、すなわち標識/リンカーエピトープ(改変された自己抗原)に結合する。
【0205】
前記LLE結合性ドメインは、前記自然発生分子よりも少なくとも2倍、優先的には少なくとも5倍、より優先的には少なくとも10倍高い親和性で前記LLEに結合する。
【0206】
「循環器系」とは、体内の細胞に血液を循環させ、栄養分(例えばアミノ酸および電解質)、酸素、二酸化炭素、ホルモン、および血液細胞を輸送させて、栄養物を提供し、闘病を助け、体温およびpHを安定化させ、恒常性を維持することを可能にする、対象の臓器系である。循環器系は、血液を分配する心血管系と、リンパを循環させるリンパ系という、2つの別々の系を含む。
【0207】
本明細書において使用される「対象における自然発生分子またはその誘導体」という用語は、対象における分子または物質を指し、優先的には、前記分子は、細胞外に位置するか、または少なくとも1つの細胞外部分、例えば膜貫通タンパク質を有する。自然発生分子は、遊離形態で存在してもよいし、または別の分子に共有結合もしくは非共有結合した状態、例えばタンパク質に結合した状態で存在してもよい。例えば、ビオチンは、血液系を循環する遊離形態で存在するが、例えば血漿タンパク質に結合して存在することもある。
【0208】
この要件に起因して、これらの分子は、対象の内在性分子(自己抗原)であるため、非免疫原性である。一例として、ビオチンは、対象の血液系(循環器系)における循環性分子であるため、対象における自然発生分子である。「その誘導体」という用語は、この文脈においては、対象における前記自然発生分子が、前記分子の性質を変化させることなく、いくつかの小さな改変を受けてもよいことを意味する。前記改変は、リンカー部分と前記分子とのコンジュゲーションと同一ではない。
【0209】
「腫瘍」という用語は、医学的には新生物として知られている。すべての腫瘍ががん性であるわけではない。良性腫瘍は隣接組織に浸潤せず、身体全体に伝播しない。
【0210】
「がん」という用語は、医学的には悪性新生物として知られている。がんは、未制御の細胞増殖を伴う広い疾患群であり、あらゆる種類の白血病を含む。がんにおいて、細胞(がん性細胞)は無制御に分裂および増殖し、悪性腫瘍を形成し、身体の近隣部分に浸潤する。がんは、リンパ系または血流を通って身体のより遠位な部分に伝播する場合もある。ヒトに罹患する200種の異なる既知のがんが存在する。
【実施例1】
【0211】
適応可能なレトロウイルスベクター系の原理
天然受容体との相互作用が低減または消失した抗原結合活性を有するエンベロープタンパク質に、それぞれビオチン(配列番号1および2)、クローンBio3-18E)、およびデキストラン(配列番号13および14)に対して特異的なscFvを装備させた。ビオチン特異的scFvについては、本明細書において開示されるLLEの原理(図1C)が適用され得る。すなわち、scFV Bio3-18Eの抗原結合性ドメインは、遊離ビオチンまたは他のリンカーと連結したビオチンよりも高い優先度で、6-(6-アミノヘキサンアミド)ヘキサノイル部分または6-アミノヘキサノイル部分(LiM)に連結したビオチン(LaM)に結合する。LiMは、ビオチンと、標的結合性分子(TCBM)の抗原結合性部分(ABM)とを連結させる。
【0212】
scFVの2本の鎖は、3(G4S)リンカー(配列番号11)を介して連結され、いずれの方向(VH-VLまたはVL-VH)で存在してもよい。この方向は、発現レベル、安定性、タグ付きポリペプチドのタグに対する親和性、およびシュードタイプレトロウイルスベクターまたはそのウイルス様粒子の力価それぞれに影響し得る。フローサイトメトリーによる表面発現の測定を可能にするために、抗原結合活性タンパク質を含むタンパク質のC末端にHisタグ(配列番号12)が付加されている(図2)。
【0213】
デキストラン特異的抗体(配列番号13および14)およびビオチン特異的抗体(配列番号1および2)のscFVをVH-VL方向でコードするDNAを遺伝子合成によって得た(ATUM、Newark、California)。SfiIおよびNotI消化されたHmutコードプラスミドpCG-Hmut(Anlikerら(2010年))への挿入を可能にするため、フランキング制限部位SfiIおよびNotIを挿入した。制限部位を付加するプライマーと共にscFVをVL-VH方向でコードするプラスミドを使用したPCRにより、VL-VH方向でビオチン特異的scFVをコードするDNAを得た。増幅されたscFVを、前述の消化されたHmutコードプラスミドにSfiIおよびNotIを介して挿入した。抗原結合活性を有する組換えタンパク質の細胞表面発現は、シュードタイプレトロウイルスベクターまたはそのウイルス様粒子の生産性という点から重要である。トランスフェクションの前日に8×10細胞/ウェルの密度で6ウェルに播種したHEK-293T細胞の一過性トランスフェクションによって、表面発現を判定した。各構築物のうち、1.5μgのDNAをトランスフェクトした。トランスフェクションの2日後、製造元(Miltenyi Biotec、カタログ番号130-092-691)の説明に従い、Hisタグ特異的抗体で細胞の一部を染色し、その後、フローサイトメトリーによってHis陽性細胞(図3A)の比を判定した。細胞の別の一部を、ビオチンにコンジュゲートしたCD25に対して特異的な抗体および蛍光タンパク質(Miltenyi Biotec、カタログ番号130-019-010)で染色した。HEK-293T細胞はCD25陰性であり、これは、Bio3-18E scFVを含有する抗原結合活性を有するタンパク質のみが検出されることを意味する。これにより、標識された細胞の定量化は、エンベロープタンパク質の抗原結合能と間接的に相関し得る(図3B)。
【実施例2】
【0214】
タグ特異的シュードタイプレトロウイルスベクターの生成
タグ付きポリペプチドのタグに対して特異的なシュードタイプレトロウイルスベクター粒子を、HEK-293T細胞の一過性トランスフェクションによって生成した。前日にT175フラスコ内のDMEM/10% FCS(Biowest、カタログ番号12362;Biochrom、カタログ番号S0415)に播種したHEK-293T細胞に、Hタンパク質をコードするプラスミド、Fタンパク質をコードするプラスミド、gag/pol/revをコードするパッケージングプラスミド、およびGFPをコードするpsi陽性移入ベクタープラスミドをトランスフェクトした。シュードタイプレトロウイルスベクター粒子をトランスフェクションの48時間後に採取した。細胞残屑を除去するため、上清を収集し、1000rpmで10分間遠心分離し、その後、0.45μmフィルターで濾過した。濃縮させるため、濾過した上清を、5350xgにて4℃で24時間にわたり、20%スクロース(Sigma Aldrich、カタログ番号84097-250g、PBS中20%w/v)のクッションによって遠心分離した。ペレット状のレトロウイルスベクターを250μlの予冷却したPBSに再懸濁し、アリコートをとり、後の使用のために-80℃で保管した。
【実施例3】
【0215】
タグ付きポリペプチドの生成
LC-LC-ビオチンを用いた抗体またはその断片などのタンパク質のランダムな標識を、当技術分野において周知のプロトコールに従って行った。抗体またはその断片を、製造元の説明に従い、平衡したAmicon Ultra-15フィルターユニットの上に流すことにより、1×PBS/2mM EDTA/0.5% BSAに再緩衝した(rebuffered)。再緩衝したタンパク質にビオチン-LC-LC-NHSを添加し、その後、室温(21℃)で1時間インキュベートした。残りのビオチン-LC-LC-NHSをゲル濾過によって除去した。収集した画分のタンパク質含有量を判定した。タグ付き抗体またはその断片を、前記抗体またはその断片の抗原を発現する細胞株においてインキュベートすることにより、ビオチン化を確認した。結合したタグ付き抗体を、蛍光色素コンジュゲート抗ビオチン抗体(Miltenyi Biotec、カタログ番号130-104-563)およびフローサイトメトリーによって検出した。
【実施例4】
【0216】
タグ特異的シュードタイプレトロウイルスベクターの力価測定。
タグ付きポリペプチドの非存在下でHT1080細胞に対するシュードタイプレトロウイルスベクター粒子の力価測定を行った。そこで、ビオチン-LC-LC-NHSを使用することにより、細胞表面上のタンパク質をLC-LC-ビオチンでランダムに標識した。1mlのPBSに再懸濁したHT1080にビオチン-LC-LC-NHSを追加し、その後、4℃で常に混合しながらインキュベートした。無細胞上清を除去した後、細胞を洗浄し、細胞が完全に接着性になるまで、1×10細胞/ウェルで24ウェル内の培養培地(DMEM、10% FCS)中に播種した。蛍光色素コンジュゲーション抗ビオチン抗体(Miltenyi Biotec、カタログ番号130-090-856)での染色およびフローサイトメトリーにより、ビオチン化の成功を確認した(図4A)。Polybrene(登録商標)(Sigma Aldrich、カタログ番号H9268-5G)を含有するDMEM中に、GFPコードベクター粒子を連続希釈した。形質導入の72時間後、GFP陽性細胞の比を判定するフローサイトメトリーにより、形質導入効率を判定した(図4A)。GFP陽性細胞の比、希釈係数、および適用されたレトロウイルスの容量を使用すると、レトロウイルスベクター力価(すなわち容量当たりの形質導入単位(TU/ml)が計算される(図4B)。
【実施例5】
【0217】
細胞株へのレトロウイルスベクターの形質導入
非ビオチン化HT1080細胞の形質導入を、記載したとおり(実施例4)に行う。
【0218】
3.3×10細胞/mlで48ウェルプレート内のRPMI、2mM安定グルタミン(Biowest、カタログ番号L0501-500;Lonza、カタログ番号882027-12)において、Raji細胞を形質導入した(図5~11)。レトロウイルスベクターを細胞に添加し、フローサイトメトリーを行って形質導入細胞の比および力価計算値を判定するまで、これらを少なくとも72時間にわたって培養した。96ウェルのU底プレートに播種したRPMI、2mM安定グルタミン中、1×10細胞/mlにおいてSupT1を形質導入した(図7、8、11)。レトロウイルスベクターを細胞に添加し、フローサイトメトリーを行って形質導入細胞の比および力価計算値を判定するまで、これらを少なくとも72時間にわたって培養した。48ウェルプレート内のRPMI、2mM安定グルタミン中、2×10細胞/mlの細胞密度でJurkat細胞を形質導入した(図5、7、9、10)。レトロウイルスベクターを細胞に添加し、フローサイトメトリーを行って形質導入細胞の比および力価計算値を判定するまで、これらを少なくとも72時間にわたって培養した。標的細胞によって発現される抗原の発現を検証するため、タグ付きポリペプチド、続いて蛍光標識α-ビオチン抗体(Miltenyi Biotec、カタログ番号130-090-856)で染色し、フローサイトメトリー分析を行った。
【実施例6】
【0219】
適応可能なレトロウイルスベクター系の選択的形質導入
タグ特異的レトロウイルスベクターおよび選択された抗原に対して特異的なタグ付きポリペプチドを標的細胞に選択的に形質導入するため、前述のように(実施例5)、無血清培地に標的細胞を播種した。タグ付き抗体またはタグ付きFab断片を100ng/ml~1000ng/mlの濃度で細胞に添加した(図7、11、12)。少なくとも30分間にわたって4℃でタグ付きポリペプチドと共に細胞をインキュベートした。その後、GFPコードレトロウイルスベクターを添加した。混合細胞集団における選択性が、48ウェルプレート内で1×10細胞/mlの総密度において等量のRaji細胞およびSupT1細胞で示された。Raji特異的な形質導入プロトコールを適用した(図8)。
【実施例7】
【0220】
適応可能なレトロウイルスベクター系の最適化
適応可能なレトロウイルスベクター系の性能および適用性は、細胞、タグ特異的レトロウイルスベクター、およびタグ付きポリペプチドをすべて組み合わせる最も良い順序を判定することによって容易に向上した。したがって、2つの成分をプレインキュベートし、その後、第3の成分を添加した。このアッセイは、ポリペプチドとしてのα-CD20-Ab-Tag、GFPをコードするタグ特異的レトロウイルスベクター、および標的細胞としてのRaji細胞(CD20+)または非標的細胞としてのJurkat細胞(CD20-)を用いて行った。第1に、1μg/mlのα-CD20-Ab-TagおよびMOI0.05のレトロウイルスベクター用量を使用し、α-CD20-Ab-Tagおよびレトロウイルスベクターを、Raji細胞では300μl、またはJurkat細胞では150μlのRPMIに合わせた。4℃で30分間のインキュベーションの後、RajiまたはJurkatのいずれかの標的細胞を、プレインキュベートしたレトロウイルスベクター/タグ付きポリペプチドミックスに再懸濁した。形質導入の少なくとも72時間後にフローサイトメトリーを行った(図5A)。
【0221】
第2に、標的細胞または非標的細胞をレトロウイルスベクターと共にプレインキュベートし、RPMI培地(Jurkatでは150μl、Rajiでは300μl)に細胞を播種した。ウイルスベクターを0.05のMOIで細胞に添加し、その後、37℃で30分間インキュベートした。その後、アダプター分子を1μg/mlの最終濃度で添加した。形質導入の少なくとも72時間後にフローサイトメトリーを行った(図5B)。アダプターの細胞に対する初期結合のために、標的細胞を、Jurkat細胞では150μlまたはRaji細胞では300μlでRPMIに播種し、アダプター分子を1μg/mlの最終濃度で添加した。30分間にわたって4℃でのインキュベーションの後、GFPコードウイルスベクターを添加した。形質導入の少なくとも72時間後にフローサイトメトリーを行った(図5C)。3つのプロトコール条件のすべてで、10%のFCSを追加したRPMIを、プレインキュベーションの4時間後に、1mlの最終容量まで添加した。
【0222】
形質導入効率を増加させるため、Vectofusin-1(登録商標)(Miltenyi Biotec、カタログ番号130-111-163)を使用した(図6C)。形質導入の直前に、Vectofusin-1(登録商標)を含むRPMIを調製した。形質導入前に5分間にわたり、レトロウイルスベクターを、対応する容量のVectofusin-1(登録商標)と、1:2の容量で混合した。次いで、このミックスを細胞に添加した(Jurkat細胞では50μlまたはRaji細胞では100μl)。対照として、Polybrene(登録商標)(Sigma Aldrich、カタログ番号H9268-5G)を適用した(図6B)。
【0223】
CD4およびCD20特異的タグ付きポリペプチドに対して、アダプター分子の最適な濃度を、Jurkat細胞(図10A)またはRaji細胞(図10B)において例示的に判定した。したがって、アダプター分子と細胞との初期結合を伴うプロトコールを使用した。
【0224】
非特異的な形質導入を誘導しやすい条件下での選択性を示すため、血清の存在下で、タグなしポリペプチドの存在下で、かつ高いレトロウイルスベクター用量を用いて、細胞を形質導入した(図9)。
【実施例8】
【0225】
スクリーニング方法
この実施例では、シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子を使用して、未知のタグ付きポリペプチドを規定の細胞または細胞のミックスのいずれかと共にインキュベートすることにより、未知のタグ付きポリペプチドの特異性を判定する。シュードタイプレトロウイルスベクター粒子またはそのウイルス様粒子は、未知のタグ付きポリペプチドが結合する細胞型を判定することを可能にするマーカーをコードする。このアプローチは、制限されるものではないが例えばマウスモデルを使用して、インビトロまたはインビボで実施され得る。
【実施例9】
【0226】
シュードタイピングのためのNipahエンベロープタンパク質を使用したアダプター-LV
麻疹ウイルスH、Fタンパク質をコードするプラスミドの代わりにNipahのGおよびFタンパク質をコードするプラスミドを使用することにより、前述(実施例2)のプロトコールを改変することによって、Nipahエンベロープタンパク質でシュードタイピングされたアダプター-LVを生成した。ポリペプチドとしてのα-CD20-Ab-Tagの存在下でRaji細胞に対するシュードタイプレトロウイルスベクター粒子の力価測定を行った。前述のように、Raji特異的な形質導入プロトコールを適用した。GFPコードレトロウイルスベクター粒子をRPMI中で連続希釈した。形質導入の72時間後、EGFP陽性細胞の比を判定するフローサイトメトリーにより、形質導入効率を判定した。測定されたGFP陽性細胞の比、希釈係数、および適用されたレトロウイルスの容量を使用して、レトロウイルスベクター力価(すなわち容量当たりの形質導入単位(TU/ml)を計算した。前述(実施例5)のように、無血清培地に播種したCD19陽性、CD20陽性のRaji細胞に、タグ特異的なNipahエンベロープタンパク質でシュードタイピングされたレトロウイルスベクターを選択的に形質導入した。タグ付きアダプターを、4℃で少なくとも30分間にわたり、100ng/mlの濃度で細胞に添加した。その後、GFPをコードするNipahエンベロープタンパク質でシュードタイピングされたレトロウイルスベクターを添加した。形質導入の3日後、フローサイトメトリー分析により、形質導入効率を判定した(図13)。
【実施例10】
【0227】
アダプター-VLPを使用した標的化タンパク質送達
レトロウイルスベクターの産生プロトコール(実施例2)を改変することにより、シュードタイプレトロウイルスVLPを産生した。タグ特異的麻疹Hをコードするプラスミド、麻疹Fタンパク質をコードするプラスミド、gag/pol/revをコードするプラスミド、およびマトリックスとカプシドタンパク質との間に挿入された最適な導入遺伝子を含有するgag/pol/rev/導入遺伝子コードプラスミドを、HEK細胞にトランスフェクトした。導入遺伝子としては、eGFPまたは単量体赤色蛍光タンパク質を使用した。蛍光タンパク質は、フランキングHIV-1プロテアーゼ切断部位を付加することにより、成熟粒子中に放出される(Uhligら(2015年))。前述(実施例4)のように、VLPの力価測定を行った。これとは反対に、VLPの添加の4時間後に分析を既に行った。蛍光タンパク質を選択的に移入するため、タグ特異的VLPを、SupT1細胞によって発現される抗原に対して特異的なタグ付きもしくはタグなしのアダプター分子の非存在下(w/o)または存在下において、無血清培地中のCD4陽性、CD8陽性のSupT1細胞に添加した(実施例5)。アダプター濃度は、100ng/ml(α-CD8-ABについては10ng/ml)に設定した。4℃で少なくとも30分間にわたり、細胞をアダプターと共にインキュベートした後、VLPを0.05のMOIで添加した。4時間後、タンパク質移入率をフローサイトメトリーによって測定した(図14Aおよび14B)。
【0228】
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