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特許7237961アルミニウム合金部品の溶接後熱処理のための方法及び装置並びにその方法に従って処理された溶接されたアルミニウム部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】アルミニウム合金部品の溶接後熱処理のための方法及び装置並びにその方法に従って処理された溶接されたアルミニウム部品
(51)【国際特許分類】
   B23K 31/00 20060101AFI20230306BHJP
【FI】
B23K31/00 B
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020524274
(86)(22)【出願日】2018-10-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-21
(86)【国際出願番号】 EP2018079578
(87)【国際公開番号】W WO2019086381
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-06-25
(31)【優先権主張番号】20171746
(32)【優先日】2017-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NO
(73)【特許権者】
【識別番号】591237869
【氏名又は名称】ノルスク・ヒドロ・アーエスアー
【氏名又は名称原語表記】NORSK HYDRO ASA
【住所又は居所原語表記】0240 OSLO,NORWAY
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100212657
【弁理士】
【氏名又は名称】塚原 一久
(72)【発明者】
【氏名】フル、トロンド
(72)【発明者】
【氏名】ミーア、オレ・ルナール
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-132511(JP,A)
【文献】特開2005-131701(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0032413(US,A1)
【文献】特開2011-045901(JP,A)
【文献】米国特許第04188419(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00-20/26,31/00-33/00,37/00-37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接されたアルミニウム合金部品の溶接後熱処理のための方法であって、溶接部は、低下した耐荷力の熱影響域を有する延在部(e)を有し、前記方法は、
- 前記熱影響域を特定するステップ
- 前記熱影響域の少なくとも1つの第1の箇所に加熱源を適用するステップ
- 前記加熱源が、Tminを超える温度を発生させるステップ
- 前記加熱源が少なくとも時間tminにわたって前記箇所に保持されるステップ
- 前記加熱源が時間tminの経過後に前記第1の箇所から除去され、且つ前記第1の箇所から所定の距離にある、前記溶接部の前記延在部に沿った第2の箇所に適用されるステップ
を備えた局部溶接後熱処理によって特徴付けられ、
前記局部溶接後熱処理によって、前記熱影響域の領域が、前記溶接部にわたる改善された力分布のために拡大される、方法。
【請求項2】
時間tminの経過後、前記加熱源は、前記アルミニウム合金部品に接触して移動されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記加熱源は、前記熱影響域を横断する方向に移動されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記加熱源は、矩形ジグザグパターンで移動されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記加熱源は、前記拡大された熱影響域を形成するように、予め算出された線及び曲線に従って移動されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記溶接部は、前記局部溶接後熱処理によって処理されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記局部溶接後熱処理後、前記アルミニウム合金部品は、焼鈍炉内で熱処理されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~7に記載の方法による、低下した耐荷力を有する熱影響域を有する溶接されたアルミニウム合金部品の溶接後熱処理のための装置であって、溶接部は、延在部(e)を有し、
前記装置は、前記部品に対して相対的に移動可能であり、且つ更に前記溶接部に沿った前記部品の所定の位置に位置決めされることが可能である加熱源を含み、前記加熱源は、更に前記位置において前記部品に伝達される熱に影響を及ぼす温度及び前記加熱源を前記部品の前記所定の位置に保持する時間に関して制御可能であり、
前記局部溶接後熱処理によって、前記溶接部に沿った熱影響域の領域が、前記溶接部にわたる改善された力分布のために段階的に拡大される、装置。
【請求項9】
前記加熱源は、前記部品に沿って移動する溶接機器に取り付けられることを特徴とする、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記加熱源は、前記部品が移動されている間、動かないことを特徴とする、請求項8に記載の装置。
【請求項11】
前記加熱源は、プログラマブルPLCによって制御されることを特徴とする、請求項8に記載の装置。
【請求項12】
前記加熱源は、プログラマブルPLCによって制御されるマニピュレータ又はロボットに取り付けられることを特徴とする、請求項8に記載の装置。
【請求項13】
請求項1~7のいずれか一項に記載の局部溶接後熱処理に従って処理された熱影響域を有する溶接されたアルミニウム合金部品において、
前記局部溶接後熱処理によって、前記溶接部に沿った熱影響域の前記領域は、前記溶接部にわたる改善された力分布のために段階的に拡大され、それにより前記部品の耐荷重特性の向上を提供することを特徴とする、溶接されたアルミニウム合金部品。
【請求項14】
前記溶接部に沿った前記局部溶接後熱処理による熱影響域の追加の領域は、前記溶接部の主方向の向きと異なる向きを有することを特徴とする、請求項13に記載の熱影響域を有する溶接されたアルミニウム合金部品。
【請求項15】
前記溶接部に沿った前記局部溶接後熱処理による熱影響域の前記追加の領域は、前記局部溶接後熱処理が、剪断力に耐える材料の能力を向上させることにより、前記熱影響域の前記耐荷力を増加させるように配向されることを特徴とする、請求項13又は14に記載の熱影響域を有する溶接されたアルミニウム合金部品。
【請求項16】
前記溶接部に沿った前記局部溶接後熱処理による熱影響域の前記追加の領域は、ジグザグパターンを有することを特徴とする、請求項13~15のいずれか一項に記載の熱影響域を有する溶接されたアルミニウム合金部品。
【請求項17】
押出部分、圧延部分又は鋳造部分の少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項13~16のいずれか一項に記載の熱影響域を有する溶接されたアルミニウム合金部品。
【請求項18】
アルミニウム又はアルミニウム合金以外の金属材料の部品に溶接されることを特徴とする、請求項13~17のいずれか一項に記載の熱影響域を有する溶接されたアルミニウム合金部品。
【請求項19】
鋼部品又は鋼合金部品に溶接されることを特徴とする、請求項18に記載の熱影響域を有する溶接されたアルミニウム合金部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接されたアルミニウム合金部品の溶接後熱処理のための方法及び装置並びにその方法に従って処理された溶接されたアルミニウム合金部品に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、鋼と比較してアルミニウム合金の低い密度によって高い強度重量比が得られる。これは、自動車産業、海洋及び沖合構造物、橋梁並びに建築物においてなど、多くの構造用途においてアルミニウム合金を魅力的なものにする。しかしながら、溶接されたアルミニウム合金は、溶接プロセスによる「軟化域」の形成に起因して強度が大幅に低下する。この問題は、影響を受けない母材と比較して溶接域で耐荷力が著しく低いため、構造用アルミニウムの使用に深刻な制限があることを示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
Eurocode 9など、アルミニウム合金に関する現在の設計基準では、この強度低下は、強度低下係数の導入によって説明される。これらの係数は、0.5程度と低い場合があり、母材強度の50%のみを利用できることを意味する。実際の係数は、合金の種類と加工条件とによって決まる。そのため、構造用アルミニウムの強度の完全な利用のために、溶接に関する革新的な解決策が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、溶接に関連する強度低下の問題に対する可能な解決策を提示する。本発明は、金属不活性ガス(MIG)、タングステン不活性ガス(TIG)、レーザ及びハイブリッド法(例えば、レーザ及びMIG)、冷間金属移行(CMT)並びに摩擦撹拌溶接(FSW)法のような溶融溶接法を含む、いくつかの種類の溶接法に適用することができる。本発明では、溶接されたアルミニウム合金構造体の耐荷力を局部溶接後熱処理(PWHT)によって最適化するための新しい新規な方法及び装置が提供される。
【0005】
本方法は、低下した耐荷力を有する熱影響域を有する溶接されたアルミニウム合金部品の溶接後熱処理を伴い、本方法では、熱影響域が特定され、且つ加熱源が前記熱影響域の少なくとも1つの第1の箇所に適用され、加熱源が、Tminを超える温度を発生させ、更に、加熱源が少なくとも時間tminにわたって前記箇所に保持される。
【0006】
装置は、アルミニウム合金部品に対して相対的に移動可能であり、且つその部品の所定の位置に位置決めされることが更に可能である加熱源を含み、加熱源は、前記位置において部品に伝達される熱に影響を及ぼす温度及び休止時間に関して更に制御可能である。
【0007】
局部加熱では、誘導加熱、レーザ加熱、電気抵抗加熱、摩擦撹拌溶接工具などを含む異なる方法を使用することができる。この概念は、4xxx、6xxx及び7xxx系の時効硬化合金と、特に5xxx系の加工硬化合金とを含む異なる合金系に使用することができる。6xxx合金では、これらの種類の合金での熱影響域(HAZ)の大きい強度低下に起因して、潜在的な強度向上及びそれに伴う軽量化が特に著しい。軽量化は、構造物の重量低減に関して利点があるだけでなく、材料費にも直接関係する。
【0008】
押出形材、圧延及び鋳造合金によって製造された薄板材料並びにこれらの組み合わせを含む、異なる種類のアルミニウム製品又は部品を使用することができる。
【0009】
この局部溶接後熱処理により、部品の耐荷力を大幅に増加させることができる。
【0010】
これらの及び更なる利点は、添付の特許請求の範囲において定義される本発明によって達成され得る。
【0011】
本発明について、例及び図によって更に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】6060型合金の溶接部にわたる硬さ測定の結果を図示する。
図2】局部PWHTなしの、長手方向溶接部の両側にある熱影響域を図示する。
図3】局部PWHT後の、長手方向溶接部の両側にある熱影響域を図示する。
図4図2に示す溶接部の耐荷力Fを図示する。
図5】局部PWHTを受けた、図3に示す溶接部の耐荷力Fを図示する。
図6】局部PWHT用の加熱源によって脆弱域の箇所をどのように操作できるかを図示する。
図7】局部PWHTにおいて加熱源を移動させることができるパターンを図示する。
図8】制御された方式で脆弱域の位置をどのように操作できるかを図示する。
図9】第2の局部熱処理の使用を図示する。
図10】本発明に係るPWHTによる効果を可視化するための理論的設定を開示する。
図11】直線形状及び波形状を有する、HAZでの急速PWHTの効果の検証設定を開示する。
図12】直線状HAZでの、115MPaのHAZ降伏応力に対する厚さ2mmの板の中央の有効応力を可視化する。
図13】膨出したHAZでの、115MPaのHAZ降伏応力に対する厚さ2mmの板の中央の有効応力を可視化する。
図14図11の試料に基づくシミュレーションの概要を示す表である。
図15】局部後熱処理後の脆弱域の箇所の更なる例を開示する。
図16】溶接部の横断方向の力を受けた溶接された部品の断面を開示する。
図17】部品の表面に直交する方向の圧力を受けた溶接された部品の断面を開示する。
図18】PWHTなしの、溶接部を横断する荷重印加中の歪の分布を異なるグレースケールとして示す。
図19図18の溶接部の箇所と、PWHTなしの、熱影響域における軟化域の箇所に対応する破断の位置の表示とを示す。
図20図18と同様であり、歪パターンをグレースケールで示すが、ここでは、局部PWHTが本発明に従って横断方向の加熱に関して適用されている。
図21図20の局部PWHTの痕跡を示す。
図22】それぞれ図18図19及び図20図21で説明する2つの状態についての記録された応力対伸びを開示する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、6060型合金の溶接部11にわたる硬さ測定の結果を図示しており、本発明によって解決すべき問題を説明している。溶接部からHAZ内の境界線12、13までの軟化域によって耐荷力が低下する。溶接部にわたる硬さ測定により、これらの軟化域が明らかになる。
【0014】
図2は、図1に示すように、長手方向溶接部11の両側に境界線12、13を有する熱影響域を図示している。これは、従来技術での脆弱域の箇所である。
【0015】
図3は、本発明に係る局部PWHT後の、長手方向溶接部11の両側にある熱影響域の箇所を図示している。選択した局部溶接後熱処理(PWHT)のため、熱影響域の境界線22、23は、ここでは、ジグザグパターンとして図示されている。
【0016】
図4は、図2に示す溶接部11の耐荷力Fを図示している。
【0017】
図5は、境界線22、23と共に局部PWHTを受けた、図3に示す溶接部11の耐荷力Fを図示している。
【0018】
この局部PWHTによって耐荷力の著しく高い交差溶接耐荷力が得られる(すなわちF>>F)ことを実証し得る。
【0019】
これは、脆弱域のより広い領域が力を分散させるように適合されることによる。いくつかの領域では、脆弱域は、荷重印加方向に平行である。
【0020】
脆弱域の箇所は、次のように操作することができる。加熱源(例えば、誘導コイル)を所定のパターンに沿って移動させる。このパターンは、単純なパターン、例えば図6の左側部分に図示するような直線であり得る。この例では、まず加熱源が位置1に移動して、電源がオンにされる。次いで、電源が切られ、加熱源が位置2に移動して、この位置2で電源が再びオンなどにされる。これにより、右図に図示するように、新たな脆弱域パターンが生成され、実際のパターン32(最も右側)が理想的な矩形ジグザグパターン22から僅かにずれる。溶接部は、参照符号11で表されている。
【0021】
加熱源が沿って移動するパターンは、複雑であり、且つ溶接部に対して直交するか又はある角度をなすパターンであり得る。パターンは、図7に図示するように湾曲形状でもあり得る(例えば、参照符号33を参照されたい)。また、これらのパターンは、溶接部11を1回又は数回横切ることもできる。加熱源は、この種のパターンに従う移動中にオンにされ得、且つ熱影響を与えるパターン間の移動中にオフにされ得ることを理解されたい。
【0022】
加熱源のパターンの形状(幅を含む)及び箇所と、変化し且つ位置の関数であり得る強度(すなわち出力)とは、溶接熱サイクルを算出するためのFEコードの組み合わせなどの異なるツールによって予め算出され得、次いで例えば
において説明されているように、物理ベースの材料モデルに入力される。
【0023】
上述したモデル化概念は、最適化ツールと組み合わせて使用することもできる。加熱源パターンの最適な箇所、形状及び出力を求めるために、浅層ニューラルネットワーク又は同様のソフトウェアツールを使用することができる。
【0024】
図8は、制御された方式で脆弱域の位置をどのように移動させることができるかを図示している。図8は、溶接方向に垂直な断面を開示している。開始点は、厚さ12.5mmのアルミニウム板に溶融溶接されたアルミニウムである。ピーク温度は、異なるグレースケールの領域として示されている。対応する温度は、左側のスケールバーによって明示されている(詳細については、
を参照されたい)。6xxx-T6アルミニウム合金では、HAZの最脆弱域は、通常、図に線(脆弱域の元の位置)で表すように、400℃の等温線の近傍に位置する。図に表されるおよその位置で表面に加熱源を適用することにより、HAZが再加熱される。この局所熱処理中に達した最高温度の等温線が白線で図示されている。これらの等温線は、同様のアルミニウム構造体に関する前回のシミュレーションに基づく大まかな推定値である。図に示すように、ここで、400℃の等温線の白線が溶接部中心線から更に離れた位置まで移動している。溶接部の最脆弱域がこの位置と厳密に一致する。
【0025】
上記で説明したように、脆弱域の位置を移動させて脆弱域を拡大することが可能であるだけではない。第1の局部熱処理後に第2の局所熱処理を使用することにより、第1の局部加熱サイクルで温度が約460~480℃を超えた領域において人工時効硬化を得ることができる(図9を参照されたい)。
【0026】
完全溶体化熱処理では、合金組成と、合金の加工方法とに応じて、おそらく520℃を超える温度が必要となる。初期温度条件が特に重要である。硬化粒子(すなわちT4条件でのクラスタ)は、T6又はT7と比較してT4では小さいため、T4条件では、Mg及びSiを固溶体にするためにT6又はT7と比較して低い温度が必要となる。
【0027】
しかしながら、第2の時効サイクルにある程度対応する「部分」溶体化熱処理は、約460~480℃までのより低い温度で行われる。
【0028】
図9の右側部分は、ある程度の時間にわたって温度が約180~250℃に維持される第2の局部加熱を図示している。降伏強度は、各位置における実際の温度サイクルに応じて大幅に高まる。加熱源が追従する位置(すなわちパターン)及び印加される出力は、通常、第2の加熱サイクルにおいて第1の加熱サイクルと比較して異なる。
【0029】
図5に関して説明したような本発明に係る熱処理から始めて、溶接部に沿った垂直方向対称線が示される、溶接された板の半部の上面図を示す図10を参照する。ここで、位置0は、溶接金属を示し、1は、T域を示し、位置2及び4は、溶接作業及びその次の熱処理後のHAZの外側境界を示す。位置3における「フィンガ」は、前述のT4域の荷重と同様の荷重に耐えるように熱処理されたHAZの領域を表す。位置5は、耐荷重特性が溶接作業の影響を受けていないT6域を表す。
【0030】
図に開示する長さL1、L2、L3及びLを基準にして、位置0~5での最終引張強度(UTS)について、以下:
0.UTS_溶接金属
1.UTS_T4
2.((L1+L2)UTS_HAZ+L3UTS_T4)/L
3.(L1UTS_T6+L2UTS_HAZ+L3UTS_T4)/L
4.(L1UTS_T6+(L2+L3)UTS_HAZ)/L
5.UTS_T6
を設定することができる。
【0031】
以下の数値例は、結果として生じる耐荷力の増加に対するPWHTの適用の効果を推定するために上記の関係をどのように使用できるかを示している。
【0032】
例:L=200mm、L1=45mm、L2=5mm、L3=150mm、UTS_T4=200MPa、UTS_HAZ=150MPa、UTS_T6=300MPa。
【0033】
上記の関係から、本発明者らは、位置1~5での最終引張強度(UTS)について、以下の値:
1.UTS=200MPa
2.UTS=187.5MPa
3.UTS=221.3MPa
4.UTS=183.8MPa
5.UTS=300MPa
を得る。
【0034】
したがって、本例では、耐荷力に対応する部品の最小UTSは、183.8MPaである。PWHTが行われていない溶接された部品についての対応する耐荷力は、150MPaである。したがって、PWHTを行うことによる耐荷力の予測増加量は、22.3%である。
【0035】
域1に別途の熱処理を行うことにより、この域における最終引張強度(UTS)を高めることが可能であり得る。図9の域1は、図3に示すHAZにおける、すなわち溶接部11とHAZ12の境界線との間の軟化域に対応する。この域において最適な溶接後熱処理を行うことにより、材料の強度は、T6と同様の強度まで向上させることができる。上記で説明した局部PWHT法の適用は、溶接金属、すなわち図10の域0における強度を高めるために利用することもできる。溶接金属に起こり得る強度向上は、それぞれ母材及びフィラーワイヤの組成により与えられる、この域における結果として得られる化学組成と、溶接金属中のフィラーワイヤと母材との相対比率を定めるいわゆる「希釈」とによって決まる。
【0036】
最小強度のHAZ域と比較して完全に粒子が溶解した域の大幅な強化をもたらす急速PWHT処理の効果をシミュレーションによって検討した。図11では、2mmの板厚に基づく4つの試料と、5mmの板厚に基づく4つの試料とが与えられている。これらのグループの各々には、最小強度HAZ域(115MPa及び125MPa)の異なる2つの降伏応力値と更に直線状HAZ及び波状HAZとを有する、試料が存在する。波状HAZは、局部誘導加熱によって生じる。
【0037】
図12では、直線状HAZでの、115MPaのHAZ降伏応力に対する厚さ2mmの板の中央の有効応力が可視化されている。
【0038】
図13は、膨出したHAZでの、115MPaのHAZ降伏応力に対する厚さ2mmの板の中央の有効応力を可視化している。
【0039】
図12及び図13に示すのと同様の可視化が8つの試料の全てに対して実行されている。
【0040】
図14は、図11の試料に基づくシミュレーションの概要を開示している。図は、直線状HAZ形状では、横断方向強度がHAZ強度によって制限されるが、波状HAZ形状では、はるかに高い横断方向荷重応力が付与されなければ深刻な局部降伏が起こらないため、全体の耐荷力が大いに高められることを明確に図示している。この結果は、良好なエネルギー吸収も表しているが、横断方向伸びが最大局部歪の同じ値に対して約50%大きいからである。
【0041】
例えば、両方とも厚さ2mmの板に関係するが、直線状及び波状のHAZ形状をそれぞれ有する試料111及び121の比較により、横断方向の模擬応力荷重が189MPa~234MPaに増加したことを示している。
【0042】
本シミュレーションは、溶接されたアルミニウム部品の強度をHAZの幾何学的形状の修正によって高め得ることを裏付けている。これらの例は、残りの母材の形状が、好ましくは、ジグザグ形状又は鈍い形状ではなく、むしろ軟化域への直線状の細いフィンガであるべきであることを裏付けている。板の厚さに対するHAZの幅が大きいほど、強度が大幅に向上することが示されている。その効果は、内部(T4)領域の強度を高めるためにPWHTが適用される場合、より強くなると考えられる。
【0043】
図15には、異なる荷重状態に適用できる、局部溶接後熱処理後の脆弱域22’、23’の箇所の例が示されている。溶接作業後の脆弱域の箇所は、符号12’、13’で表されている。実際の荷重力は、溶接部に対して横断方向若しくは平行である(溶接部11の各側面に相反する方向に作用する剪断力)か、又はこれらの組み合わせであり得る。力は、平面内又は平面外で作用することもできる。その力は、分散させることができるか又は集中荷重として作用することができる。
【0044】
この力は、部品又は製品の表面に直交する方向に付与された圧力に起因しても作用し得る。加えて、この種の荷重は、部品又は製品に高速で作用する爆風荷重であり得る。
【0045】
図16は、溶接部11に対して横断方向の力を受けた溶接された部品の断面を開示している。
【0046】
図17は、部品の表面に対して直交方向の圧力を受けた溶接された部品の断面を開示している。溶接部は、符号11’で開示されている。
【0047】
概念の実験的検証:
図18は、局部PWHTが適用されない場合の溶接部にわたる荷重印加中の歪分布を示している。溶接部を横断する荷重印加中の主応力は、横断方向加熱(局部PWHT)が適用されていない場合、デジタル画像相関法(DIC)によって得られた。
【0048】
この実験装置では、MIG溶接によって溶接を行った。しかし、他の溶接技術を用いても、例えば溶接が摩擦撹拌溶接によって行われる場合にも同様の応力パターンが生じるであろう。
【0049】
図では、歪の分布が異なるグレースケールで示されている。この図から、溶接部に平行な2本の線、すなわち溶接部の両側に位置する熱影響域(HAZ)に密接して沿う、白色領域に沿って歪が蓄積されていることが明白である。これは、局部加熱が適用されない場合の、すなわちPWHTなしの溶接方向を横断する荷重印加中の正常な状態である。
【0050】
図19は、図18の溶接部の箇所と、熱影響域における軟化域の箇所に対応する破断の位置の表示とを開示している。
【0051】
図20は、局部PWHTが適用された場合の溶接部にわたる荷重印加中の歪分布を開示している。図21は、溶接部の箇所と、付与された局部PWHTパターンの位置の表示とを開示している。破断の箇所も示されている。
【0052】
図20及び図21は、摩擦撹拌源による横断方向の加熱に関して局部PWHTが適用されたことを別にすれば、それぞれ図18及び19と同様である。しかしながら、この局部PWHTのためにレーザなどの任意の適切な加熱源を適用することもできたであろう。図20に示す、結果として生じた歪パターンは、歪がほぼ規則的なパターンをもたらすため、図18のパターンと大幅に異なる。図21は、局部PWHTの痕跡及びMIG溶接部の位置並びに破断の位置も示している。
【0053】
図22は、上記で説明した異なる2つの場合、すなわち局部加熱源の不適用(破線)及び本発明による溶接部を横断する局部加熱源の適用(実線)についての記録された応力対伸びを示している。
【0054】
図18及び図20に示す異なる歪パターンは、図22に示すように、横断方向の荷重印加中に異なる反応をもたらす。この図から、局部PWHTパターンを有する試料は、有しない試料よりも良好な全体性能を呈することが明白である。したがって、最大応力と破断伸びとの両方は、本発明に係る局部PWHTを伴う試料の方が、伴わない試料と比較して良好であった。
【0055】
実際には、熱影響パターンの設計及び配置は、実際の設計荷重に関して最適化されなければならず、異なるアルミニウム合金と、多材料による解決策の異なる組み合わせとによって異なり得ることを理解されたい。
【0056】
更に、加熱源は、本発明に係る結果をもたらす任意の構成で移動させることができる。例えば、加熱源は、伝播移動と組み合わせることができる基本循環パターンで移動させることができる。
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