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特許7237962自己免疫性微小血管系障害を治療する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】自己免疫性微小血管系障害を治療する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7048 20060101AFI20230306BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20230306BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
A61K31/7048
A61K31/352
A61P9/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020524721
(86)(22)【出願日】2018-07-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-09-24
(86)【国際出願番号】 US2018042573
(87)【国際公開番号】W WO2019018455
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-05-11
(31)【優先権主張番号】62/534,237
(32)【優先日】2017-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520020775
【氏名又は名称】プライマス ファーマシューティカルズ,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】ロバート エム.レビー
【審査官】植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06147054(US,A)
【文献】国際公開第2015/153648(WO,A1)
【文献】Post Dermatol Alergol,2007年,XXIV, 3,pp.144-149
【文献】Reumatol Clin.,2012年,8(5),pp.270-277
【文献】Alternative Medicine Review,2004年,Vol.9, No.3,pp.308-311
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療的有効量のジオスミンもしくはジオスメチンまたは医薬として許容され得るその塩を含む、全身性硬化症に罹患している対象のデジタル潰瘍を治療するための医薬組成物であって、前記対象に対して治療的有効期間にわたり投与される、医薬組成物。
【請求項2】
前記対象が微小血管炎に罹患している、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記対象が、終末動脈血管または毛細血管における微小血管炎に罹患している、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記対象が、非静脈性微小血管炎に罹患している、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記対象が、終末動脈血管または毛細血管における非静脈性微小血管炎に罹患している、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記対象が、びまん性全身性硬化症、限局性全身性硬化症、および限局性強皮症から
選択される硬化症の状態に罹患している、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成
物。
【請求項7】
前記対象がCREST症候群に罹患している、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記対象が、デジタル虚血および二次性レイノー現象から生じる1もしくは複数のデジタル潰瘍に罹患している、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記対象が、二次性レイノー現象に関連する血管攣縮による虚血を伴った微小血管疾患と実際の毛細血管の損失の組み合わせによる虚血に起因する1もしくは複数のデジタル潰瘍に罹患している、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
ジオスミンまたは医薬として許容され得るその塩を含み、治療的有効量が300~5000mgであり、毎日、対象に対して経口的に投与される、請求項1~9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
ジオスメチンまたは医薬として許容され得るその塩を含み、治療的有効量が150~2500mgであり、毎日、対象に対して経口的に投与される、請求項1~9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
ジオスミンまたは医薬として許容され得るその塩を含み、治療的有効量が400~2000mgであり、毎日、対象に対して経口的に投与される、請求項1~9のいずれか一項に記載の医
薬組成物。
【請求項13】
ジオスメチンまたは医薬として許容され得るその塩を含み、治療的有効量が200~1000mgであり、毎日、対象に対して経口的に投与される、請求項1~9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
ジオスミンまたは医薬として許容され得るその塩を含み、治療的有効量が800~1200mgであり、毎日、対象に対して経口的に投与される、請求項1~9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
ジオスメチンまたは医薬として許容され得るその塩を含み、治療的有効量が400~600mgであり、毎日、対象に経口的に投与される、請求項1~9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本願発明は、ジオスミンもしくはジオスメチン、または医薬として許容され得るその塩を使用して、硬皮症におけるデジタル潰瘍を含めた自己免疫性微小血管系疾患およびその合併症を治療するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
全身性硬化症(a/k/a硬皮症)は、線維症および皮膚肥厚、ならびに多臓器障害を特徴とする典型的な自己免疫性微小血管系障害である。その疾患は、年間100万人あたり約20人の世界的な発病率を有し、100万人あたり約240~280人の有病率を有する(Mayes 2003a,b, Rosa 2011, Barnes 2012)。いくつかの形態およびサブセットが認識されている。びまん性全身性硬化症は、皮膚および他の臓器系のいくつかの組み合わせに影響を与える。限局型全身性硬化症は、皮膚、一般的に肘および膝の遠位側に影響を与え、びまん性全身性硬化症より少ない内臓障害に関連している。限局性強皮症は、厚くなった線維性皮膚の限局性パッチを生じさせるが、通常、内臓障害に関連しない皮膚の全身性硬化症の非常に限局化された形態である。CREST症候群(石灰沈着、レイノー現象、食道の障害、足指硬化症、毛細血管拡張症)は、びまん性全身性硬化症の一部であると一般的に考えられているが、また、限局型全身性硬化症と見られる可能性もある(Hachula 2011)。
【0003】
デジタル虚血は、患者の95%超に見られる全身性硬化症の特徴である(McMahan 2010)。デジタル潰瘍は、罹患率に顕著に寄与し、全身性硬化症の生命活動および費用に支障を与える(Hughes 2016)。RUSTARデータベースからのデータを使用した観察研究によって、最も一般的なサブタイプが限局性皮膚疾患であることがわかった。患者の59%が≧2の潰瘍を有し、67%が少なくとも1回入院し、そして、潰瘍のない患者の37%と比較して、57%が日々の活動の著しい障害を報告した(Brand 2015)。
【0004】
カルシウムチャネル遮断薬および血管拡張薬が、全身性硬化症の一次治療であると考えられる。肺高血圧症の治療に最初に使用される薬物であるボセンタンが、全身性硬化症に罹患している患者の新しいデジタル潰瘍の数およびデジタル潰瘍性疾患の進行の削減向けに、2007年にヨーロッパ連合で承認された。イロプロストは、血管が狭窄し、血液が組織に流れることができない、肺動脈高血圧症(PAH)、全身性硬化症、レイノー現象および他の疾患を治療するのに使用される別の薬物である。これらの介入のすべてに関して奏功率は低い。
【0005】
デジタル潰瘍の発症の原因となる要因としては、レイノー現象の反復発作による、引きつった薄い皮膚、繰り返される微小外傷、石灰沈着、根底にある微小血管炎および慢性デジタル虚血が挙げられる(Nitsche 2012, Hughes 2016)。特に高い血清IL‐6レベルの存在下、毛細血管顕微鏡検査により見られる無血管野を伴う毛細血管の損失は、将来の潰瘍発症を予測するものである(Alivernini 2009, Lambova 2011, Cutolo 2013)。デジタル潰瘍は、非常に苦痛であって、治癒するのが遅く‐最大32%が慢性になる(Steen 2009, Doveri 2011)‐および顕著な機能消失に関連する(Steen 1997, Khindas 2011, Berezne 2011)。デジタル終末毛細血管束または伸側面に位置する潰瘍は、微小血管疾患と、レイノー現象に関連した血管攣縮からの虚血に伴う実際の毛細血管の損失との組み合わせに起因する虚血によると考えられる。骨の隆起部上に位置する潰瘍は、繰り返される微小外傷と、根底にある微小血管疾患に併発した引きつった線維性皮膚による組織虚血に起因することがさらに多い。
【0006】
微小血管疾患は、全身性硬化症の多くの臨床像の発症に関連していると報告されている(Guiducci 2007)。全身性硬化症における毛細血管の変化は、特徴的であり、疾病進行につれて悪化する(Camargo 2015)。攻撃的な予防治療計画を設計する際に有用になるように、将来的な潰瘍発症の可能性の十分な予測値を有する、毛細血管顕微鏡による皮膚潰瘍リスク指標(CSURI)が開発された(Sebastiani 2009, Smith 2013)。
全身的リウマチ性疾患の他の特徴なしにレイノーの特徴を示し、ならびに異常な毛細血管顕微鏡所見および1もしくは複数の典型的な全身性硬化症自家抗体を有する人々は、それらの所見のないレイノー患者に比べて、全身性硬化症を発症する可能性が60倍高い(McMahon 2010)。
【0007】
ジオスミンは、柑橘類に低濃度で存在するフラボノイドである。商業的に使用されるとき、それは、同様に柑橘類から抽出されるが、ジオスミンよりはるかに大量に存在している、近似しているスペリジンの単純酸化によって製造される。ジオスメチンはジオスミンのアグリコンであり、その形態はジオスミンの経口摂取後に血中で見られる(Cova 1992)。
【0008】
ジオスミンは、ヨーロッパの大部分で使用および承認され、そして、30年余りにわたって、慢性静脈不全および静脈性潰瘍を含めたその合併症の治療のための薬物としてさまざまなブランド名、主にDaflon(商標)で販売されてきた。何百件にも達する文献において、大部分は、ジオスミンの主な歴史的な治療標的である静脈系に対して、ジオスミンの分子効果、瀉血(phlebotonic)効果および臨床効果を用いて対処した。
【0009】
微小血管に対するジオスミンの効果を規定および定量化するための試みがなされた。ストレプトゾトシン誘発糖尿病ハムスター頬袋モデルにおけるジオスミンの効果を試験するために、生体顕微鏡検査が使用された(Bouskela 1995)。ジオスミンを用いた前処理が、試験物であるブラジキニンおよびLTB4のそれぞれによって誘発された毛細血管漏出の数を有意に低減させた。30分間の虚血に続く再潅流後に、高分子透過性は、内皮に接着した白血球の数がそうであったように死滅した。
【0010】
ジオスミンはまた、さまざまな虚血/再潅流モデルにおいて、白血球と、典型的に遭遇する内皮細胞接着分子の過剰発現を阻害することも示された(Shields 2004, Coleridge Smith 2000b)。ハムスター頬袋モデルにおける虚血/再潅流に続く生体顕微鏡検査を使用した別の試験(Bouskela 1997)では、未処理の対照動物は、顕著な細動脈拡張、血流速度の低下および機能的な毛細血管密度の低下を示した。2、20、80および160mg/kg/dの用量のジオスミンを用いた前処理は、用量依存様式でこれらのすべての変化を正常な方向に回復した。関連する動物モデル(di Souza 2014)では、5%のオレイン酸エタノールアミンの注射によって、静脈硬化をウサギの耳静脈において誘発させた。硬化療法の7日前に開始し、そして、その手順後に4日間続けた、ジオスミン300mg/kg/dを用いた治療は、静脈および細動脈の直径の増大を予防し、接着白血球の数を低減し、毛細血管漏出部位の数を低減し、機能的な毛細血管密度を維持し、および静脈周囲の水腫を低減した(すべてのパラメーターについてp<0.001)。
【0011】
この背景を考慮すると、本発明の目的は、微小血管疾患、特に自己免疫性微小血管疾患、および特に、これだけに限定されるものではないが、全身性硬化症に罹患している対象の潰瘍およびデジタル潰瘍を含めた全身性硬化症、のための効果的な治療を開発することである。
【0012】
ジオスミンおよびジオスメチン、ならびに医薬として許容され得るその塩の新しい使用を提供することがもう一つの目的である。
【発明の概要】
【0013】
発明者らは、ジオスミンが全身性硬化症に関連する微小血管炎、および全身性硬化症に罹患している患者に起こるデジタル潰瘍を治療する能力を有することを予想外に発見した。これらの発見に基づいて、発明者らは、第一の主要な実施形態において、それを必要とする対象における自己免疫性微小血管系疾患を治療する方法であって、前記対象に治療的有効期間にわたり、治療的有効量のジオスミンもしくはジオスメチン、または医薬として許容され得るその塩を投与することを含む方法を開発した。
【0014】
第二の主要な実施形態において、発明者らは、自己免疫性微小血管系疾患に罹患している対象の潰瘍を治療する方法であって、前記対象に治療的有効期間にわたり、治療的有効量のジオスミンもしくはジオスメチン、または医薬として許容され得るその塩を投与することを含む方法を開発した。
【0015】
第三の主要な実施形態において、発明者らは、全身性硬化症に罹患している対象の潰瘍を治療する方法であって、前記対象に治療的有効期間にわたり、治療的有効量のジオスミンもしくはジオスメチン、または医薬として許容され得るその塩を投与することを含む方法を開発した。
【0016】
第四の主要な実施形態において、発明者らは、全身性硬化症に罹患している対象のデジタル潰瘍を治療する方法であって、前記対象に治療的有効期間にわたり、治療的有効量のジオスミンもしくはジオスメチン、または医薬として許容され得るその塩を投与することを含む方法を開発した。
【0017】
本発明の更なる態様と利点は、一部は以下の説明に記載され、一部はその説明から明白になるか、または本発明の実施により習得され得る。その態様と利点は、詳細な説明および添付の特許請求の範囲で特に指摘された要素および組み合わせによって実現され、達成されるであろう。前述の一般的な説明および以下の詳細な説明は両者とも、例示的および説明的なものに過ぎず、特許請求される本発明を限定するものではないことを、理解すべきである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
詳細な説明
用語の定義と使用
本出願を通して、様々な刊行物が参照されている。これらの刊行物の開示は、本出願が関連する技術水準をより完全に説明するために、その全体が引用例として本出願に取り込まれる。開示された参考文献はまた、その参考文献が依存するその文中で論じられる、そこに含まれる材料について、個別にかつ具体的に引用例として本明細書に取り込まれる。
【0019】
単数形の「a」、「an」、および「the」または同様の用語が本明細書で使用される時、文脈上他に明確に指示されない限り、複数形を含むと理解される。従って、例えば「賦形剤」への言及は、2つ以上のそのような賦形剤の混合物などを含む。本明細書で使用される「または」という単語や同様の用語は、特定のリストの任意の1つの要素を意味し、またそのリストのメンバーの任意の組み合わせをも含む。
【0020】
本明細書で使用される「約(about)」または「約(ca.)」という用語は、医薬業界において許容され、かつ医薬品に固有の変動、例えば、製造の変動および時間による製品劣化に起因する製品の強度および生物学的利用能の差などの変動を補償するであろう。この用語は、医薬品の慣例において、製品が、特許請求される製品の列挙された強度と、薬学的に同等若しくは生物学的に同等か、または文脈上必要な場合には両方であるとみなされるように評価されるのを可能にするような、任意の変動を許容する。当然のことながら、本明細書で表現される全ての数値に、「約」という用語を前置きすることができることを理解されたい。
【0021】
本願明細書および以下の特許請求の範囲で使用される場合、単語「含む(comprise)」およびその変形である「含む(comprising)」および「含む(comprises)」は、「含むがこれに限定されない」ことを意味し、他の添加剤、成分、整数、またはステップを排除しないことを意図する。要素が多くの成分、ステップもしくは条件を含むと記載されているとき、その要素はまた、斯かる複数のものの任意の組み合わせを含む、あるいは複数のものまたは成分、ステップもしくは条件の組み合わせ「から成る」または「から実質的に成る」と記載される可能性もあることを理解されたい。
「ジオスミン」は、様々な植物源から単離されることができるか、またはフラボノイドヘスペリジンから得られる天然に存在するフラボノイド配糖体である。その分子は、以下の化学構造を有する:
【0022】
【化1】
【0023】
ジオスミンは、608.5の分子量を有する(7‐[[6‐O‐(6‐デオキシ‐α‐L‐マンノピラノシル)‐β‐D‐グルコピラノシル]オキシ]‐5‐ヒドロキシ‐2‐(3‐ヒドロキシ‐4‐メトキシフェニル)‐4H‐1‐ベンゾピラン‐4‐オン)と化学的に説明される。
【0024】
その分子は、微粉化精製フラボノイド画分(「MPFF」)と呼ばれるものとして一般的に供給され、そしてそれは、一般的に最大10%の濃度で様々な関連化合物を含む。本願発明の目的のために、ジオスミンは、これらの関連化合物を除いた、関係する剤形または方法における実際のジオスミン含有量を指す。
【0025】
ジオスメチンは、経口投与および他の経路での送達後にジオスミンがそれに変換される、ジオスミンのアグリコン/活性代謝物である。ジオスメチンは、以下の化学構造を有する:
【0026】
【化2】
【0027】
化合物は、300.266g/molの分子量を有し、5,7‐ジヒドロキシ‐2‐(3‐ヒドロキシ‐4‐メトキシフェニル)‐4H‐1‐ベンゾピラン‐4‐オンとして化学的に知られている。
範囲が、該範囲の上限とは別に、ある範囲の下限を指定することによって、または特定の数値を指定することによって与えられるとき、別々の範囲が、任意の下限変数、上限変数、および特定の数値を選択的に組み合わせることによって数学的に可能な状態で規定されることを理解されたい。同様に、範囲が、一方の終点から他方に及ぶと規定されるとき、その範囲は、2つの終点を除いた、2つの終点の間の距離を包含することも理解されたい。
【0028】
本明細書で使用される時、「治療有効量」とは、所望の生物学的応答を引き出すのに十分な量を指す。治療有効量または用量は、患者の年齢、性別および体重、並びに患者の現在の医学的状態に依存する。当業者は、本開示に加えて、これらや他の因子に応じて適切な用量を決定することができるであろう。
【0029】
「医薬的に許容され得る」とは、一般に安全で非毒性であり、生物学的にもその他の点でも不適切ではなく、そしてヒトまたは獣医学的医薬用途に許容されるものを含む医薬組成物を調製するのに有用であることを意味する。「医薬的に許容され得る塩」は、上記で定義されたように医薬的に許容され、かつ所望の薬理活性を有する塩を意味する。
【0030】
本明細書中に薬物または医薬的に許容され得るその塩の用量が記載されるとき、その説明に、該用量が塩、水和物または溶媒和物の重量に基づいていると記述しない限り、用量が、あらゆるその水和物または溶媒和物を除いた、遊離塩基の重量に基づいていることを理解されたい。
【0031】
「デジタル潰瘍」は、本出願で使用される場合、回復しない皮膚の破断によって引き起こされる身体の外表面、もっとも一般的には、指または足指の開いた傷口を指す。
【0032】
「微小血管」は、好ましくは100マイクロメートル未満または70マイクロメートルの平均直径を有する微小血管系の血管を指す。同様に、「微小血管疾患」は、主におよび好ましくは、直径が約100マイクロメートル未満または70マイクロメートルの微小血管系に影響を及ぼす疾患を指す。
【0033】
「自己免疫性微小血管系疾患」は、全身的な免疫不全の存在下で起こる全身の微小血管の保全に影響を及ぼす疾患を指す。
【0034】
主要な実施形態
本発明は、主要な実施形態および下位実施形態に関して本明細書中に記載する。それぞれの下位実施形態が任意の主要な実施形態を修飾できるが、ただし、斯かる修飾が論理的に矛盾するかまたは本書で明示的に拒否される場合を除くことを理解されたい。主要な実施形態を任意の様式で組み合わせることができること、および下位実施形態を任意の様式で組み合わせて、任意の主要な実施形態をさらに修飾できるが、ただし、斯かる組み合わせが論理的に矛盾するかまたは本書で明示的に拒否される場合を除くことをさらに理解されたい。
【0035】
第一の主要な実施形態において、本発明は、それを必要とする対象における自己免疫性微小血管系疾患を治療する方法であって、前記対象に治療的有効期間にわたり、治療的有効量のジオスミンもしくはジオスメチン、または医薬として許容され得るその塩を投与することを含む方法を提供する。
【0036】
第二の主要な実施形態において、本発明は、自己免疫性微小血管系疾患に罹患している対象の潰瘍を治療する方法であって、前記対象に治療的有効期間にわたり、治療的有効量のジオスミンもしくはジオスメチン、または医薬として許容され得るその塩を投与することを含む方法を提供する。
【0037】
第三の主要な実施形態において、本発明は、全身性硬化症に罹患している対象の潰瘍を治療する方法であって、前記対象に治療的有効期間にわたり、治療的有効量のジオスミンもしくはジオスメチン、または医薬として許容され得るその塩を投与することを含む方法を提供する。
【0038】
第四の主要な実施形態において、本発明は、全身性硬化症に罹患している対象のデジタル潰瘍を治療する方法であって、前記対象に治療的有効期間にわたり、治療的有効量のジオスミンもしくはジオスメチン、または医薬として許容され得るその塩を投与することを含む方法を提供する。
【0039】
下位実施形態
本発明は、様々な下位実施形態に関してさらに規定されることができる。一下位実施形態において、本発明の方法は、自己免疫性微小血管系疾患に罹患している対象の潰瘍を治療するためにある。別の下位実施形態において、本発明の方法は、全身性硬化症に罹患している対象の潰瘍を治療するためにある。さらに別の下位実施形態において、本発明の方法は、全身性硬化症に罹患している対象のデジタル潰瘍を治療するためにある。
【0040】
一下位実施形態において、対象は微小血管炎に罹患している。別の下位実施形態において、対象は、終末動脈血管または毛細血管における微小血管炎に罹患している。さらに別の下位実施形態において、対象は、非静脈性微小血管炎に罹患している。さらに別の下位実施形態において、対象は、終末動脈血管または毛細血管における非静脈性微小血管炎に罹患している。
【0041】
特定の一下位実施形態において、本発明の方法は、自己免疫性微小血管系疾患を治療するために使用され、そして、その疾患は、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、全身性硬化症、皮膚筋炎、混合性結合組織病、白血球破砕性血管炎、抗リン脂質抗体症候群、ならびにクリオグロブリン血症およびクリオフィブリノゲン血症を含めたパラプロテイン血症から選択される。
【0042】
その方法はまた、影響を受ける患者の臨床特徴評価に基づいて規定できる。よって、一下位実施形態において、対象は、びまん性全身性硬化症、限局性全身性硬化症、および限局性強皮症から選択される硬化症の状態に罹患している。別の下位実施形態において、対象はCREST症候群に罹患している。別の下位実施形態において、対象は、デジタル虚血およびレイノー病から生じる1もしくは複数のデジタル潰瘍に罹患している。さらに別の下位実施形態において、対象は、レイノー病に関連する血管攣縮による虚血を伴った微小血管疾患と実際の毛細血管の損失の組み合わせによる虚血に起因する1もしくは複数のデジタル潰瘍に罹患している。
【0043】
用いた用量は、疾患の性質および重症度、投与経路、および当該技術分野における通常の技量を有する労働者に知られている他の要素に依存する。特定の一実施形態において、治療的有効量は、毎日、好ましくは2つの別々の用量に分割して、経口的に対象に投与される、ジオスミンでは300~5000mg、またはジオスメチンでは150~2500mg、あるいは医薬として許容され得るその塩である。別の特定の実施形態において、治療的有効量は、毎日、好ましくは2つの別々の用量に分割して、経口的に対象に投与される、ジオスミンでは400~2000mg、またはジオスメチンでは200~1000mg、あるいは医薬として許容され得るその塩である。さらに別の特定の実施形態において、治療的有効量は、毎日、好ましくは2つの別々の用量に分割して、経口的に対象に投与される、ジオスミンでは800~1200mg、またはジオスメチンでは400~600mg、あるいは医薬として許容され得るその塩である。
【0044】
上記の主要な実施形態または下位実施形態のいずれかにおいて、ジオスミンまたはジオスメチンは、少なくとも4週間、8週間、12週間、3カ月または6カ月にわたり対象に投与される。すなわち、治療的有効性期間は、少なくとも4週間、8週間、12週間、3カ月または6カ月である。
【0045】
上記の主要な実施形態または下位実施形態のいずれかにおいて、対象は、18歳以上の年齢の成人である。
【0046】
上記の実施形態のいずれかにおいて、その方法は、好ましくは、以下の治療法:
寒冷暴露の予防
壊死組織または感染組織の除去
創傷感染の管理
創傷洗浄
栄養補給
支持包帯法
の1もしくは複数と併用して実施される。
【0047】
一般に、本発明の治療の使用に関連する臨床成果は、2つのカテゴリ:創傷治癒の改善および創傷ケアの改善、に大まかに分類できる。
【0048】
慢性非治癒潰瘍の完全な創縫合は、最大の目的の一つであり、かつ、臨床的に有意義な創傷治癒のエンドポイントである。完全な創縫合とは、好ましくは2週間をおいた2回の連続した試験訪問にて臨床現場で確認される、排膿または包帯を必要としない皮膚再上皮化と定義される。
【0049】
治療の有効性はまた、促進された創縫合に基づいて評価されることもできる。このように、別の下位実施形態において、その治療は、時間対事象解析(該事象は完全な創縫合である)を使用した、臨床的に有意義な治癒までの時間短縮を提供する。
好ましい下位実施形態において、本発明は、潰瘍またはデジタル潰瘍の治療のために使用され、そして、該治療は、潰瘍を完全に治癒させるか、またはプラセボに対して、潰瘍のサイズを低減することを示した。
【0050】
剤形/投与の経路
対象を予防および/または治療するための医薬組成物であって、治療有効量のジオスミンまたはジオスメチン、あるいは医薬的に許容され得るその塩、および1つ以上の医薬的に許容され得る賦形剤を含んで成る医薬組成物がさらに提供される。
【0051】
「医薬的に許容され得る」賦形剤は、生物学的なものではなく、あるいは他の所望されないもの、すなわち任意の所望されない生物学的効果を引き起こさずに、またはそれが含まれている医薬組成物の任意の他の成分と有害な方法において相互作用せずに材料が対象に投与され得るものである。担体は、当業者に周知であるような活性成分の任意の分解を最小限にし、かつ、対象における任意の有害な副作用を最小限にするために選定され得る。担体は、固体、液体、または両方であり得る。
【0052】
本開示化合物は、任意の適切な経路によって、好適には斯かる経路に適合した医薬組成物の形態において、かつ、意図される治療または予防に有効な用量において投与され得る。好ましい実施形態において、活性化合物および組成物は、経口的または局所的に投与され得る。
【0053】
適切な担体およびそれらの製剤は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy (19th ed.) ed. A. R. Gennaro, Mack Publishing Company, Easton, Pa., 1995において発表されている。固体投与形態の経口投与は、例えば、それぞれ予め決められた量の少なくとも1つの本開示化合物または組成物を含むハードまたはソフトカプセル、丸薬、薬包(cachet)、トローチ剤、または錠剤等の別個の単位において提示され得る。いくつかの形態では、経口投与は、粉末状または顆粒状の形態であり得る。いくつかの形態では、経口投与形態は、例えばトローチ剤等の舌下である。斯かる固体投与形態における本発明の化合物は、通常は1つ以上の賦形剤と組み合わされる。斯かるカプセルまたは錠剤は、徐放製剤を含み得る。カプセル、錠剤、および丸薬の場合における投与形態は、さらに緩衝剤を含んで成り得るか、または腸溶コーティングにより調製され得る。
【0054】
いくつかの形態では、経口投与は、液体投与形態にあり得る。経口投与のための液体投与形態は、例えば当業界において一般に使用される不活性希釈剤(例えば水)を含む医薬的に許容され得る乳液、溶液、懸濁液、シロップ、およびエリキシルを含める。斯かる組成物は、湿潤剤、乳化剤、懸濁剤、香味剤(例えば甘味剤)、および/または香料等のアジュバントも含んで成り得る。いくつかの形態では、本開示組成物は、非経口投与形態を含んで成り得る。他の形態では、本開示組成物は、局所投与形態を含んで成り得る。医薬業界において公知の他の担体材料および投与様式も使用され得る。本開示医薬組成物は、有効製剤および投与手順等の調剤学の任意の周知技術によって調製され得る。有効製剤および投与手順に関する上記考察は、当業界において周知であり、かつ、標準的な教科書に記載されている。薬物の製剤は、例えばHoover, John E., Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., Easton, Pa., 1975; Liberman, et al., Eds., Pharmaceutical Dosage Forms, Marcel Decker, New York, N.Y., 1980;およびKibbe, et al., Eds., Handbook of Pharmaceutical Excipients (3.sup.rd Ed.), American Pharmaceutical Association, Washington, 1999において検討されている。
【0055】
本開示化合物は、多様な症状または疾患状態の治療または予防において、単独でも、または他の治療剤との組み合わせにおいても使用され得る。「組み合わせにおける」2つ以上の化合物の投与とは、一方の存在が他方の生物学的効果を変化させる時間において、2つの化合物を十分に密にして投与することを意味する。2つ以上の化合物は、同時に、共に、または連続して投与され得る。
【実施例
【0056】
以下の試験において、数値(例えば、量、温度など)に関する正確性を保証するための努力がなされているが、ある程度の誤差および偏りを考慮すべきである。以下の実施例は、本明細書で特許請求される方法がどのようになされ評価されるかについての完全な開示および説明を当業者に提供するために提示され、そして純粋に本発明の例示であることが意図されるのであって、本発明者が発明とみなす範囲を限定することを意図するものではない。
【0057】
実施例1. デジタル潰瘍の治療におけるジオスミン
レイノー病およびデジタル潰瘍に対するジオスミンの効果を評価するために、無作為化した二重盲検式プラセボ対照臨床試験を実施した。この試験では、対象を無作為化して、毎日2回、600mgのジオスミンまたは対応するプラセボのいずれかを与えた。その試験では、潰瘍の改善/治癒を記録した。進行中の潰瘍治療法がない潰瘍に罹患している対象は、少なくとも1カ月にわたり少なくとも1つの継続したまたは悪化しているデジタル潰瘍に罹患している必要があり、および潰瘍治療法を受けている対象は、少なくとも2カ月にわたり治療法が継続している少なくとも1つの継続したまたは悪化している潰瘍に罹患している必要があり、かつ、治療法は、試験の継続期間中、継続したままである必要があった。
【0058】
潰瘍患者のこの試験の結果を表1に報告する。
【0059】
表1:潰瘍の応答
全デジタル潰瘍の診断(4人の非硬皮症対象における9つの潰瘍を含む)
【表1】
【0060】
本出願を通して、様々な刊行物が参照されるが、これらの刊行物の開示は、本発明が関係する技術水準をより完全に説明するために、参照により本出願に組み込まれる。本発明の範囲または精神から逸脱することなく、本発明に様々な変更および変形が可能であることは、当業者には明らかであろう。本発明の他の実施態様は、本明細書の考察および本明細書に開示された本発明の実施から当業者に明らかになるであろう。本明細書および実施例は、例示的なものとしてのみ考慮すべきであり、本発明の真の範囲および精神は、添付の特許請求の範囲によって示されることが意図される。
【0061】
引用文献
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【化3】
【0063】
【化4】
【0064】
【化5】