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  • 特許-インクジェット記録方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】インクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20230306BHJP
   C09D 11/326 20140101ALI20230306BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20230306BHJP
   B41J 2/17 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
B41M5/00 120
C09D11/326
B41J2/01 501
B41J2/17
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021075238
(22)【出願日】2021-04-27
(62)【分割の表示】P 2016194847の分割
【原出願日】2016-09-30
(65)【公開番号】P2021120223
(43)【公開日】2021-08-19
【審査請求日】2021-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2015199763
(32)【優先日】2015-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝洋
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 和希
(72)【発明者】
【氏名】成田 将之
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/021633(WO,A1)
【文献】特開2012-016824(JP,A)
【文献】特開2011-083907(JP,A)
【文献】特開2014-185235(JP,A)
【文献】特公昭48-032413(JP,B1)
【文献】特開2003-105233(JP,A)
【文献】特開2005-082427(JP,A)
【文献】特開2002-038063(JP,A)
【文献】特開2010-094864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00-5/52
C09D 11/00-13/00
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルチル型酸化チタンとポリマー分散剤を含有する水系インクを用いて、インクジェット記録装置により記録するインクジェット記録方法であって、
該ポリマー分散剤が、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、及びスルホン酸基含有ビニルモノマーから選ばれる少なくとも1種のアニオン性基含有モノマー由来の構成単位を85質量%以上含有してなり、かつ、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる少なくとも1種由来の構成単位、並びにマレイン酸及びスルホン酸基含有ビニルモノマーから選ばれる少なくとも1種由来の構成単位を含む共重合体、又は、該アニオン性基含有モノマー由来の構成単位とノニオン性モノマー由来の構成単位とからなる共重合体であり、
該ポリマー分散剤の酸価が、450mgKOH/g以上1000mgKOH/g以下であり、
該ポリマー分散剤の重量平均分子量が15,000以上40,000以下であり、
該ポリマー分散剤の含有量が該酸化チタン100質量部に対して1質量部以上4.0質量部以下であり、
該記録装置が該水系インク中の該酸化チタンを分散する分散手段を有し、
下記工程1及び2を有する、インクジェット記録方法。
工程1:該水系インクを分散手段により再分散する工程
工程2:工程1で再分散した水系インクを吐出して記録媒体に記録する工程
【請求項2】
ポリマー分散剤が、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる少なくとも1種由来の構成単位と、マレイン酸及びスルホン酸基含有ビニルモノマーから選ばれる少なくとも1種由来の構成単位との共重合体である、請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
水系インクが、さらに沸点90℃以上250℃未満の1種以上の有機溶媒を含有する、請求項1又は2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
水系インクの32℃における粘度が、4.0mPa・s以上12.0mPa以下である、請求項1~3のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
ルチル型酸化チタンの含有量が、水系インク中、3.0質量%以上20質量%以下である、請求項1~4のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
ルチル型酸化チタンの平均一次粒子径が、100nm以上600nm以下である、請求項1~5のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
ルチル型酸化チタンが、アルミナ処理又はアルミナ・シリカ処理で表面処理されてなる、請求項1~6のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
ルチル型酸化チタンとポリマー分散剤を含有する水系インクであって、
該ポリマー分散剤が、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、及びスルホン酸基含有ビニルモノマーから選ばれる少なくとも1種のアニオン性基含有モノマー由来の構成単位を85質量%以上含有してなり、かつ、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる少なくとも1種由来の構成単位、並びにマレイン酸及びスルホン酸基含有ビニルモノマーから選ばれる少なくとも1種由来の構成単位を含む共重合体、又は、該アニオン性基含有モノマー由来の構成単位とノニオン性モノマー由来の構成単位とからなる共重合体であり、
該ルチル型酸化チタンの平均一次粒子径が、100nm以上600nm以下であり、
該ポリマー分散剤の酸価が、450mgKOH/g以上1000mgKOH/g以下であり、
該ポリマー分散剤の重量平均分子量が15,000以上40,000以下であり、
該ポリマー分散剤の含有量が該酸化チタン100質量部に対して1質量部以上4.0質量部以下である、インクジェット記録用水系インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法及びインクジェット記録用水系インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録媒体に直接吐出し、付着させて、文字や画像が記録された印刷物を得る記録方式であり、従来の記録方式と異なり版を使用しない記録方式であることから、少量多品種に対応できるオンデマンド印刷として広範囲にわたる利用分野が期待されている。特に近年では、従来の白地の紙等の記録媒体に対する印刷から、白地ではない段ボール、板紙、樹脂フィルム等の記録媒体に対する印刷への要望が増加している。
白地ではない記録媒体に対する印刷の場合、白色を表現する目的や視認性を高める目的から白色インクが使用される。白色インクに用いる顔料としては、隠蔽性の高い無機顔料である酸化チタンが多く使用されている。
また、酸化チタンの分散性を向上させることを目的として、顔料分散剤が用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、少量で顔料の易分散ができ、水性塗料の塗膜性能の低下をきたすことのない顔料分散剤として、モノ又はポリアルキレングリコールで変性された(メタ)アクリル酸系単量体3~98重量部と、エチレン性不飽和含窒素単量体2~97重量部と、エチレン性不飽和カルボン酸0~20重量部を含む単量体とを共重合することにより得られる重合体分散剤と、酸化チタン等の顔料と、水性媒体とからなる水性顔料分散液が開示されている。
特許文献2には、芳香族又は複素環ビニルモノマーユニット5~30質量%と、酸基を有するモノマーユニット10~30質量%と、(メタ)アクリル酸エステルモノマーユニット40~80質量%と、特定分子量のポリアルキレングリコール鎖又は該グリコールのモノアルキルエーテル鎖を有するモノマーユニット5~30質量%とから構成され、酸価が30~300mgKOH/g、数平均分子量が5,000~30,000の顔料分散剤が開示されている。特許文献2では、顔料として酸化チタンが用いられ、該顔料分散剤を用いた顔料分散液は、水性塗料、水性グラビアインキ、水性インクジェットインキ、水性文具用インキ等の着色剤として、使用できることが記載されている。
一方、インク中の酸化チタンの沈降を抑制する機構を有するインクジェット記録装置が開発されている。例えば、特許文献3には、酸化チタンを顔料とする白色インクをインクタンク中に長時間放置した際に、酸化チタンの沈降を抑制することを目的として、メインタンク、サブタンク、インク供給手段、及びインク回収手段を有するインクジェット記録装置が開示され、インク供給手段とインク回収手段との間のインク経路に存在するインクを循環させることにより、インクの濃度を一定に保持できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭60-123564号公報
【文献】特開2009-24165号公報
【文献】特開2011-121344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、酸化チタンは比重が高いため、低粘度であるインクジェット記録用インクに用いた場合、印刷の休止等により、記録装置内のインク流路中で流れが一旦停止すると、インク流路内で酸化チタンの沈降又は凝集が生じるという問題がある。
特許文献1及び2に記載の顔料分散剤は、高粘度である塗料を主用途としており、インクジェット記録用水系インクに用いると、酸化チタンの沈降又は凝集後の十分な再分散性が得られないという問題があった。
また、特許文献3では、再分散性の乏しい白色インクを用いると、インクの循環を定期的に行ってもノズルを詰まらせるおそれがあり、その上、印刷を休止した場合にはインクを循環させて沈降を防止する必要があった。
さらに、インクを再分散させる際にせん断(循環、振とう、撹拌)を掛けることによってインクが起泡し、それが記録ヘッドへ悪影響を及ぼし吐出性が悪化するという問題もあった。このためインク組成自体の再分散性、抑泡性、消泡性の改善が求められている。
本発明は、隠蔽性を有し、ルチル型酸化チタンが沈降しても簡易な攪拌により容易に再分散すると共に、優れた抑泡性又は消泡性により速やかにインク物性が回復する水系インクを用いることにより、良好な吐出性を得ることができるインクジェット記録方法、及びインクジェット記録用水系インクを提供することを課題とする。
なお、「記録」とは、文字や画像を記録する印刷、印字を含む概念であり、「記録物」とは、文字や画像が記録された印刷物、印字物を含む概念である。
また、本発明における「再分散」とは、水系インク中で分散している酸化チタンが、静置等により水系インク中で沈降又は凝集した状態となった後、この状態から、再度水系インク中で分散した状態に戻すことをいう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、ルチル型酸化チタン及び特定のポリマー分散剤を特定割合で含有させた水系インクを、分散手段により再分散する工程を有するインクジェット記録方法により、前記課題を解決しうることを見出した。
すなわち、本発明は、次の[1]及び[2]を提供する。
[1]ルチル型酸化チタンとポリマー分散剤を含有する水系インクを用いて、インクジェット記録装置により記録するインクジェット記録方法であって、
該ポリマー分散剤が、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、及びスルホン酸基含有ビニルモノマーから選ばれる少なくとも1種のアニオン性基含有モノマー由来の構成単位を72質量%以上含有してなり、
該ポリマー分散剤の重量平均分子量が3,000以上50,000以下であり、
該ポリマー分散剤の含有量が該酸化チタンに対して1質量%以上7質量%以下であり、
該記録装置が該水系インク中の該酸化チタンを分散する分散手段を有し、
下記工程1及び2を有する、インクジェット記録方法。
工程1:該水系インクを分散手段により再分散する工程
工程2:工程1で再分散した水系インクを吐出して記録媒体に記録する工程
[2]ルチル型酸化チタンとポリマー分散剤を含有する水系インクであって、
該ポリマー分散剤が、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、及びスルホン酸基含有ビニルモノマーから選ばれる少なくとも1種のアニオン性基含有モノマー由来の構成単位を72質量%以上含有してなり、
該ルチル型酸化チタンの平均一次粒子径が、100nm以上600nm以下であり、
該ポリマー分散剤の重量平均分子量が3,000以上50,000以下であり、
該ポリマー分散剤の含有量が該酸化チタンに対して1質量%以上7質量%以下である、インクジェット記録用水系インク。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、隠蔽性を有し、ルチル型酸化チタンが沈降しても簡易な攪拌により容易に再分散すると共に、優れた抑泡性又は消泡性により速やかにインク物性が回復する水系インクを用いることにより、良好な吐出性を得ることができるインクジェット記録方法、及びインクジェット記録用水系インクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明で用いるインクジェット記録装置の構成の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[インクジェット記録用水系インク]
本発明のインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録用水系インク(以下、単に「水系インク」又は「インク」ともいう)は、ルチル型酸化チタンとポリマー分散剤を含有し、該ポリマー分散剤が、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、及びスルホン酸基含有ビニルモノマーから選ばれる少なくとも1種のアニオン性基含有モノマー由来の構成単位を72質量%以上含有してなり、
該ルチル型酸化チタンの平均一次粒子径が、100nm以上600nm以下であり、
該ポリマー分散剤の重量平均分子量が3,000以上50,000以下であり、
該ポリマー分散剤の含有量が該酸化チタンに対して1質量%以上7質量%以下である。
なお、本明細書において、「水系」とは、インクに含有される媒体中で、水が最大割合を占めていることを意味する。
【0010】
本発明のインクジェット記録方法によれば、ルチル型酸化チタンの沈降又は凝集後の再分散性に優れると共に、抑泡性、消泡性に優れる水系インクを用いることにより、再分散時に発生する泡立ちを抑制、消泡することで良好な吐出性を得ることができるという効果を奏する。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
本発明で用いる水系インクは、顔料としてルチル型酸化チタンを用いるが、ポリマー分散剤が、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、及びスルホン酸基含有ビニルモノマーから選ばれる少なくとも1種のアニオン性基含有モノマー由来の構成単位を72質量%以上含有してなり、該ルチル型酸化チタンの平均一次粒子径が、100nm以上600nm以下であり、その重量平均分子量は3,000以上50,000以下である。
ポリマー分散剤のアニオン性基は、酸化チタン表面に吸着する吸着基として働くだけでなく、負の電荷に帯電し、酸化チタン粒子間で電荷的な斥力により凝集及び沈降を抑制することができると考えられる。さらに、ポリマー分散剤はアニオン性基含有モノマー由来の構成単位を72重量%以上有するため、電気的な斥力により凝集及び沈降を抑制する効果が非常に高いと考えられる。この結果、印刷中又は印刷の休止により、酸化チタンが沈降又は凝集したとしても、攪拌等の簡単な機械力を付与すれば容易に再分散されるものと考えられる。
ここでポリマー分散剤は、アニオン性基含有モノマー由来の構成単位を72質量%以上含有するため、殆どが吸着基として働き、酸化チタンに吸着しないポリマー量が少ない。また、重量平均分子量も比較的小さいので酸化チタンに吸着しないポリマーによる増粘作用も小さい。そのため、未吸着ポリマー分散剤によるインク溶媒の粘度上昇を抑制できること、吸着基成分以外の部位が少ないため空気の抱き込みを抑制できることにより、抑泡性、消泡性に優れることとなり、再分散時に発生する泡立ちを抑制、消泡する効果が優れると考えられる。水系インク液中の泡がなくなれば又は泡が少なくなれば、インク吐出時の泡によるノズル欠けがなくなり、吐出性が良好になると考えられる。
【0011】
<ルチル型酸化チタン>
本発明の水系インクは、ルチル型酸化チタンを含有する。酸化チタンの結晶構造には、ルチル型(正方晶)、アナターゼ型(正方晶)、ブルッカイト型(斜方晶)があるが、結晶の安定性、隠蔽性、及び入手性の観点から、本発明ではルチル型酸化チタン(以下、単に「酸化チタン」ともいう)を用いる。
酸化チタンは気相法又は液相法で製造することができるが、結晶性の高いものを得られ易いことから、気相法で製造された酸化チタンがより好ましい。
酸化チタンは、未処理のものを用いることもできるが、水系インク中における良好な分散性を得る観点から、表面処理されたものが好ましい。酸化チタンの表面処理としては、アルミナ(Al)、シリカ(SiO)等の無機物による表面処理や、チタンカップリング剤、シランカップリング剤、シリコーンオイル等の有機物による表面処理等が挙げられるが、無機物による表面処理が好ましい。
【0012】
酸化チタンは光触媒活性による有機物分解性を有するため、酸化チタンをポリマー分散剤で直接分散、被覆させるのではなく、光触媒活性を封じる観点、及び分散時の酸化チタンの濡れを改良する観点から、酸化チタン粒子の表面をアルミナ等の無機酸化物で表面処理をすることが好ましい。さらに酸化チタン粒子表面の酸・塩基状態を調整する観点、及び耐久性を改良する観点から、シリカを併用して表面処理することがより好ましい。以上の観点から、酸化チタンは、アルミナ処理、アルミナ・シリカ処理で表面処理されたものが好ましい。
酸化チタンの無機物による表面処理としては、アルミナ処理、アルミナ・シリカ処理以外に、亜鉛、マグネシウム、ジルコニウム等を含有する無機水和物を被覆して表面処理する方法も挙げられる。
表面処理した酸化チタンの粉末は、800~1000℃で焼成することにより、粒子間の焼結を進めることなく、二次粒子サイズの流動性、分散性を向上させることもできる。
酸化チタンの粉末形状は、粒状、針状など特に制限されないが、その平均一次粒子径は、白色度の観点から、100nm以上であり、好ましくは150nm以上、より好ましくは200nm以上であり、そして、再分散性の観点から、600nm以下であり、好ましくは500nm以下、より好ましくは400nm以下である。
なお、酸化チタンの平均一次粒子径は、実施例に記載の方法により測定される。
ルチル型二酸化チタンの市販品例としては、石原産業株式会社製の商品名:タイペークR、CR、PFシリーズ、堺化学工業株式会社製の商品名:Rシリーズ、テイカ株式会社製の商品名:JR、MTシリーズ、チタン工業株式会社製の商品名:KURONOS KRシリーズ、富士チタン工業株式会社製の商品名:TRシリーズ等が挙げられる。
【0013】
<ポリマー分散剤>
本発明の水系インクは、ポリマー分散剤(以下、単に「分散剤」ともいう)を含有する。
ポリマー分散剤は、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、及びスルホン酸基含有ビニルモノマーから選ばれる少なくとも1種のアニオン性基含有モノマー由来の構成単位を72質量%以上含有してなるポリマーであり、その重量平均分子量は3,000以上50,000以下である。
【0014】
(アニオン性基含有モノマー)
ポリマー分散剤の構成単位であるアニオン性基含有モノマーは、分散安定性及び吐出安定性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、及びスルホン酸基含有ビニルモノマーから選ばれる少なくとも1種である。これらの酸は塩を形成してもよく、塩としては、例えば、ナトリウム塩及びカリウム塩が挙げられる。
スルホン酸基含有ビニルモノマーとしては、不飽和スルホン酸モノマーが好ましく、スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸がより好ましい。これらの酸は塩を形成してもよく、塩としては、ナトリウム塩及びカリウム塩等が挙げられる。
これらのアニオン性基含有モノマーの中では、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、及びスチレンスルホン酸から選ばれる1種以上が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸及びスチレンスルホン酸から選ばれる1種以上がより好ましい。
具体的には、アニオン性基含有モノマー由来の構成単位を有するポリマー分散剤としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、及びメタクリル酸とスチレンスルホン酸由来の構成単位を有する共重合体が好ましく挙げられる。
アニオン性基含有モノマー由来の構成単位の含有量は、抑泡性、吐出性の観点から、好ましくは75質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは85質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上である。
ポリマー分散剤のアニオン性基を中和することによって分散剤はイオン化して、水溶性とすることができ、酸化チタンを水系媒体中で分散することができる。中和剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及びアンモニア等が挙げられる。
【0015】
本発明に用いられるポリマー分散剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、アニオン性基含有モノマー由来の構成単位以外に、ノニオン性モノマーや疎水性モノマー由来の構成単位を好ましくは28質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、より更に好ましくは15質量%以下、より更に好ましくは10質量%以下を含有することができる。
この場合、水系でのポリマー分散剤の製造容易性、及び水系インクの凝集及び沈降を抑制する観点から、アニオン性基含有モノマー由来の構成単位とノニオン性モノマー由来の構成単位とからなるポリマーが好ましい。
【0016】
(ノニオン性モノマー)
ノニオン性モノマーとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられるが、再分散性の観点から、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートが好ましい。
なお、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートから選ばれる1種以上を意味する。以下における「(メタ)アクリレート」も同義である。
ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート由来の構成単位の好適例は、下記式(1)で表される。
【0017】
【化1】
【0018】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子又は炭素数1以上20以下のアルキル基を示し、OAは炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基を示し、nはアルキレンオキシドの平均付加モル数を示し、10以上100以下の数である。)
式(1)において、オキシアルキレン基であるOAの炭素数は、再分散性の観点から、2以上4以下であり、好ましくは2以上3以下、より好ましくは2である。
炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基及びオキシブチレン基が挙げられ、再分散性の観点から、好ましくはオキシエチレン基又はオキシプロピレン基であり、より好ましくはオキシエチレン基である。
式(1)において、Rは、再分散性の観点から、水素原子又はメチル基であり、好ましくはメチル基である。
式(1)において、Rは、再分散性の観点から、水素原子又は炭素数1以上20以下のアルキル基であり、好ましくは水素原子又は炭素数1以上8以下のアルキル基であり、より好ましくは水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基であり、更に好ましくはメチル基である。
式(1)において、平均付加モル数であるnは、再分散性の観点から、好ましくは10以上、より好ましくは15以上、更に好ましくは20以上であり、そして、好ましくは80以下、より好ましくは60以下、更に好ましくは40以下である。
但し、n個のオキシアルキレン基は、互いに同一でも異なっていてもよい。また、オキシアルキレン基が互いに異なる場合は、ブロック付加、ランダム付加、及び交互付加のいずれでもよい。
【0019】
式(1)で表される構成単位のモノマーとしては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロポキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びステアロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上が挙げられる。これらの中では、再分散性の観点から、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びプロポキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上が好ましく、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートがより好ましい。
ノニオン性モノマー由来の構成単位の含有量は、水系インクの凝集及び沈降を抑制する観点、及び抑泡性、吐出性の観点から、アニオン性基含有モノマー由来の構成単位とノニオン性モノマー由来の構成単位の合計含有量に対して、好ましくは35質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、より更に好ましくは15質量%以下である。
ノニオン性モノマーの市販品例としては、NKエステルM-230G、同450G、同900G(以上、新中村化学工業株式会社製)、ブレンマーPME-1000、同4000(以上、日油株式会社製)、ライトエステル041MA(共栄社化学株式会社製)等が挙げられる。
【0020】
(疎水性モノマー)
ポリマー分散剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、更に疎水性モノマー由来の構成単位を有していてもよい。
疎水性モノマーとしては、ポリマーの製造容易性の観点、及び抑泡性、吐出性の観点から、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマー等から選ばれる1種以上が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数1~22、好ましくは炭素数6~18のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在する場合としない場合の双方を意味し、これらの基が存在しない場合には、ノルマルを示す。
芳香族基含有モノマーとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6~22の芳香族基を有するビニルモノマーが好ましく、スチレン系モノマー、芳香族基含有(メタ)アクリレートがより好ましく、これらを併用することも好ましい。
スチレン系モノマーとしてはスチレン、2-メチルスチレン、及びジビニルベンゼンが好ましく、スチレンがより好ましい。
また、芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が好ましく、ベンジル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0021】
(ポリマー分散剤の製造)
ポリマー分散剤は、前記モノマーを含むモノマー混合物を公知の重合法により共重合させることによって製造することができるが、分子量を制御する観点から、溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒に特に制限はないが、水、炭素数1以上3以下の脂肪族アルコール;炭素数3以上8以下のケトン類;酢酸エチル等のエステル類等、及びこれらの1種以上と水との混合溶媒が好ましく、後述する酸化チタン分散体を製造する際に溶媒を除去することなくそのまま用いることができる観点から、水がより好ましい。
重合開始剤としては、通常の溶液重合に用いられるものを使用することができるが、過硫酸塩が好ましく、過硫酸アンモニウム塩がより好ましい。重合開始剤の使用量は、モノマーの総量100質量部に対して、得られる分散剤の分子量分布の観点から、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、更に好ましくは0.1質量部以上であり、そして、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、更に好ましくは2質量部以下である。
連鎖移動剤としては、メルカプタン類が好ましく、2-メルカプトエタノールがより好ましい。連鎖移動剤の使用量は、モノマーの総量100質量部に対して、得られる分散剤の分子量分布の観点から、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは0.8質量部以上であり、そして、好ましくは8質量部以下、より好ましくは6質量部以下、更に好ましくは4質量部以下である。
【0022】
好ましい重合条件は、重合開始剤の種類等によって異なるが、重合温度は好ましくは50℃以上90℃以下、重合時間は好ましくは1時間以上20時間以下である。
重合開始剤として過硫酸塩を用いる場合の重合温度は、反応性の観点から、好ましくは70℃以上、より好ましくは75℃以上であり、そして、得られる分散剤の分子量分布の観点から、好ましくは85℃以下、より好ましくは83℃以下である。
重合雰囲気は、好ましくは窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気である。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマー分散剤を単離することができる。また、得られたポリマー分散剤は、再沈澱、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去することができる。
【0023】
得られたポリマー分散剤は、アニオン性基含有モノマー由来の構成単位を有するため、アニオン性基を中和することによってイオン化され、水溶性とすることができる。
中和に用いる中和剤としては、アンモニア;エチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物等が挙げられ、再分散性の観点から、好ましくはアルカリ金属の水酸化物であり、より好ましくは水酸化ナトリウムである。これらの中和剤は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
中和剤は、中和剤水溶液として用いることが好ましい。中和剤水溶液の濃度は、十分に中和を促進させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは65質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは55質量%以下である。
【0024】
ポリマー分散剤の酸価は、再分散性、抑泡性、消泡性の観点から、好ましくは350mgKOH/g以上、より好ましくは450mgKOH/g以上、更に好ましくは550mgKOH/g以上、より更に好ましくは650mgKOH/g以上、より更に好ましくは720mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは1000mgKOH/g以下、より好ましくは900mgKOH/g以下、更に好ましくは850mgKOH/g以下、より更に好ましくは800mgKOH/g以下である。
なお、酸価の測定方法は、JIS K 0070に準拠する。
ポリマー分散剤のポリスチレン換算の重量平均分子量は、分散安定性、再分散性、抑泡性、消泡性の観点から、3,000以上50,000以下であり、好ましくは5,000以上、より好ましくは10,000以上、更に好ましくは15,000以上、より更に好ましくは20,000以上であり、そして、好ましくは40,000以下、より好ましくは30,000以下である。
なお、重量平均分子量の測定は、実施例に記載の方法により行うことができる。
ポリマー分散剤は市販品を用いることもできる。市販品例としては、和光純薬工業株式会社製のポリアクリル酸、花王株式会社製の商品名:ポイズ520、ポイズ530等の特殊ポリカルボン酸、東亞合成株式会社製の商品名:アロン6012等のアロンシリ-ズの水溶性アクリル酸系分散剤等が挙げられる。
【0025】
<有機溶媒>
本発明の水系インクは、分散剤による過度の粘度増加を抑制する観点、及び再分散性の観点から、さらに沸点90℃以上250℃未満の1種以上の有機溶媒を含有することが好ましい。
有機溶媒の沸点は、上記と同様の観点から、好ましくは130℃以上、より好ましくは135℃以上、更に好ましくは138℃以上であり、そして、好ましくは245℃以下、好ましくは240℃以下、好ましくは235℃以下である。
かかる有機溶媒としては、多価アルコール、グリコールエーテル等が挙げられる。
【0026】
前記の多価アルコールとしては、エチレングリコール(沸点197℃)、プロピレングリコール(沸点188℃)、1,2-ブタンジオール(沸点193℃)、1,2-ペンタンジオール(沸点206)、1,2-ヘキサンジオール(沸点223℃)等の1,2-アルカンジオール、ジエチレングリコール(沸点245℃)、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール(沸点232℃)、1,3-プロパンジオール(沸点210℃)、1,3-ブタンジオール(沸点208℃)、1,4-ブタンジオール(沸点230℃)、3-メチル-1,3-ブタンジオール(沸点203℃)、1,5-ペンタンジオール(沸点242℃)、2-メチル-2,4-ペンタンジオール(沸点196℃)、1,2,6-ヘキサントリオール(沸点178℃)、1,2,4-ブタントリオール(沸点190℃)、1,2,3-ブタントリオール(沸点175℃)、ペトリオール(沸点216℃)等が挙げられる。
これらの中では、上記と同様の観点から、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-ヘキサンジオール等の炭素数2以上6以下のアルカンジオール、及び分子量500~1000のポリプロピレングリコールから選ばれる1種以上が好ましく、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等の炭素数3以上4以下の1,2-アルカンジオール、及び前記ポリプロピレングリコールから選ばれる1種以上がより好ましい。
【0027】
(グリコールエーテル)
グリコールエーテルの具体例としては、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、アルキレングリコールジアルキルエーテル等が挙げられるが、上記と同様の観点から、アルキレングリコールモノアルキルエーテルが好ましい。アルキレングリコールモノアルキルエーテルのアルキル基の炭素数は、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上であり、そして、好ましくは6以下、より好ましくは4以下である。アルキレングリコールモノアルキルエーテルのアルキル基は、直鎖及び分岐鎖が挙げられる。
アルキレングリコールモノアルキルエーテルの具体例としては、エチレングリコールエチルエーテル(沸点136℃)、エチレングリコールイソプロピルエーテル(沸点144℃)、エチレングリコールプロピルエーテル(沸点151℃)、エチレングリコールブチルエーテル(沸点171℃)、ジエチレングリコールメチルエーテル(沸点194℃)、ジエチレングリコールエチルエーテル(沸点202℃)、ジエチレングリコールイソプロピルエーテル(沸点207℃)、ジエチレングリコールイソブチルエーテル(沸点220℃)、ジエチレングリコールブチルエーテル(沸点230℃)、トリエチレングリコールメチルエーテル(沸点248℃)、ジプロピレングリコールブチルエーテル(沸点231℃)、ジプロピレングリコールメチルエーテル(沸点189℃)、トリプロピレングリコールメチルエーテル(沸点243℃)等が挙げられる。
これらの中では、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールプロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールイソブチルエーテル、及びジエチレングリコールブチルエーテルから選ばれる1種以上が好ましく、エチレングリコールイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルエーテル、及びジエチレングリコールイソブチルエーテルから選ばれる1種以上がより好ましい。
【0028】
(その他の有機溶媒)
本発明においては、前記の有機溶媒以外に、水系インクに通常配合されるその他のアルコール、該アルコールのアルキルエーテル、グリコールエーテル、N-メチル-2-ピロリドン等の含窒素複素環化合物、アミド、アミン、含硫黄化合物等を含有することができる。
例えば、1,6-ヘキサンジオール(沸点250℃)、トリエチレングリコール(沸点285℃)、トリプロピレングリコール(沸点273℃)、ポリプロピレングリコール(沸点250℃以上)、グリセリン(沸点290℃)等を沸点が250℃未満の化合物と組み合わせて用いることができる。
【0029】
<界面活性剤>
本発明の水系インクは、再分散性の観点から、さらに界面活性剤を含有してもよい。
界面活性剤としては、再分散性の観点から、シリコーン系界面活性剤を含むものが好ましい。
シリコーン系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インク粘度の上昇を抑制し、連続吐出性を向上させ、かつ色移りや記録媒体の変形がない良好な記録物を得る観点から、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤が好ましい。
【0030】
(ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤)
ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤は、インク粘度の上昇を抑制し、またインク同士の混色を抑制することができるため、高速印刷において色移りのない良好な記録物を得ることに寄与すると考えられる。
ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤は、シリコーンオイルの側鎖及び/又は末端の炭化水素基を、ポリエーテル基で置換された構造を有するものである。該ポリエーテル基としては、ポリエチレンオキシ基、ポリプロピレンオキシ基、エチレンオキシ基(EO)とプロピレンオキシ基(トリメチレンオキシ基又はプロパン-1,2-ジイルオキシ基;PO)がブロック状又はランダムに付加したポリアルキレンオキシ基が好適であり、シリコーン主鎖にポリエーテル基がグラフトした化合物、シリコーンとポリエーテル基がブロック状に結合した化合物等を用いることができる。
ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤のHLB値は、水系インクへの溶解性の観点から、好ましくは3.0以上、より好ましくは4.0以上、更に好ましくは4.5以上である。ここで、HLB値は、界面活性剤の水及び油への親和性を示す値であり、グリフィン法により次式から求めることができる。なお、次式において「界面活性剤中に含まれる親水基」としては、例えば、水酸基及びエチレンオキシ基が挙げられる。
HLB=20×[(界面活性剤中に含まれる親水基の分子量)/(界面活性剤の分子量)]
ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤の具体例としては、信越化学工業株式会社製のKFシリーズ、日信化学工業株式会社製のシルフェイスSAG005、ビックケミー・ジャパン株式会社製のBYK-348等が挙げられる。
【0031】
(それ以外の界面活性剤)
本発明においては、界面活性剤として、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤以外の界面活性剤を併用することができる。それらの中では、インクの適用性の観点から、ノニオン性界面活性剤が好ましい。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、(1)炭素数8~22の飽和又は不飽和の、直鎖又は分岐鎖の高級アルコール、多価アルコール、又は芳香族アルコールに、エチレンオキシド、プロピレンオキシド又はブチレンオキシド(以下総称して、「アルキレンオキシド」という)を付加したポリオキシアルキレンのアルキルエーテル、アルケニルエーテル、アルキニルエーテル又はアリールエーテル、(2)炭素数8~22の飽和又は不飽和の、直鎖又は分岐鎖の炭化水素基を有する高級アルコールと多価脂肪酸とのエステル、(3)炭素数8~20の直鎖又は分岐鎖の、アルキル基又はアルケニル基を有する、ポリオキシアルキレン脂肪族アミン、(4)炭素数8~22の高級脂肪酸と、多価アルコールのエステル化合物又はそれにアルキレンオキシドを付加した化合物等が挙げられる。
ノニオン性界面活性剤の市販品としては、例えば、日信化学工業株式会社及びAir Products & Chemicals社製のサーフィノールシリーズ、川研ファインケミカル株式会社製のアセチレノールシリーズ、花王株式会社製のエマルゲン120(ポリオキシエチレンラウリルエーテル)等が挙げられる。
【0032】
(その他の成分)
本発明の水系インクは、ルチル型酸化チタン及びポリマー分散剤以外に、必要に応じて、水系インクに通常用いられる有機溶媒、界面活性剤、湿潤剤、浸透剤、分散剤、粘度調整剤、消泡剤、防黴剤、防錆剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤を添加することができる。
【0033】
〔インクジェット記録用水系インクの製造方法〕
本発明の水系インクは、ルチル型酸化チタン及びポリマー分散剤を含有するが、予めルチル型酸化チタン及びポリマー分散剤を用いて酸化チタン分散体を調製し、これに、水、必要に応じて各種添加剤を混合し、攪拌することによって得ることができる。
【0034】
(酸化チタン分散体)
本発明に用いる酸化チタン分散体を調製する方法に特に制限はないが、再分散性の観点から、ルチル型酸化チタンと、ポリマー分散剤と、水と、必要に応じて添加剤とを混合して得られる混合物を分散機で分散して調製することが好ましい。
前記混合物を一度の分散で調製してもよいが、均一な分散体を得る観点から、予備分散した後、本分散して調製することもできる。
分散機としては特に制限はなく、例えば、ニーダー等の混練混合装置;アトライター、ボールミル、ガラスビーズやジルコニアビーズ等を使用したサンドミル等のメディア式分散機;コロイドミル等が使用できる。
分散時の温度は、酸化チタン分散体の低粘度化の観点から、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上、更に好ましくは18℃以上であり、そして、好ましくは35℃以下、より好ましくは30℃以下、更に好ましくは27℃以下である。
分散時間は、酸化チタンを十分に微細化する観点から、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上、更に好ましくは3時間以上であり、そして、好ましくは100時間以下、より好ましくは50時間以下、更に好ましくは25時間以下である。
【0035】
酸化チタン分散体中のルチル型酸化チタンの含有量は、酸化チタン分散体の分散安定性の観点から、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、より更に好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは80質量%以下であり、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下、より更に好ましくは55質量%以下である。
酸化チタン分散体中のポリマー分散剤の含有量は、酸化チタン分散体の分散安定性、泡立ち抑制、消泡の観点から、ルチル型酸化チタン100質量部に対して好ましくは0.5質量部以上であり、より好ましくは1.0質量部以上、更に好ましくは1.3質量部以上、より更に好ましくは1.8質量部以上であり、そして、好ましくは7質量部以下、より好ましくは6.5質量部以下、更に好ましくは6.0質量部以下、より更に好ましくは5.5質量部以下、より更に好ましくは4.0質量部以下、より更に好ましくは3.0質量部以下である。
酸化チタン分散体は、ポリマー分散剤で分散された酸化チタンの粒子を含むものである。酸化チタン分散体の粒子の平均粒子径は、酸化チタン分散体の分散安定性、泡立ち抑制、消泡の観点から、好ましくは150nm以上であり、より好ましくは240nm以上、更に好ましくは290nm以上であり、そして、好ましくは1000nm以下、より好ましくは500nm以下、更に好ましくは350nm以下、より更に好ましくは330nm以下である。なお、酸化チタン分散体の粒子の平均粒子径は、実施例記載の方法により測定される。
【0036】
(水系インク各成分の含有量)
本発明に用いられる水系インク中における各成分の含有量、インク物性は、再分散性、抑泡性、消泡性、隠蔽性等の観点から、以下のとおりである。
水系インク中のルチル型酸化チタンの含有量は、隠蔽性の観点から、好ましくは3.0質量%以上、より好ましくは5.0質量%以上、更に好ましくは8.0質量%以上であり、そして、吐出性の観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは17質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。
水系インク中のポリマー分散剤の含有量は、再分散性、抑泡性、消泡性の観点から、酸化チタンに対して1質量%以上であり、好ましくは1.3質量%以上、より好ましくは1.8質量%以上であり、そして、7質量%以下であり、好ましくは6.5質量%以下、より好ましくは6.0質量%以下、更に好ましくは5.5質量%以下、更に好ましくは4.0質量%以下、より更に好ましくは3.0質量%以下である。
【0037】
水系インク中の前記有機溶媒の含有量は、再分散性の観点から、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。
水系インク中の前記界面活性剤の含有量は、再分散性の観点から、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、更に好ましくは1.0質量%以下、より更に好ましくは0.5質量%以下である。
水系インク中の水の含有量は、再分散性の観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
【0038】
(水系インク物性)
水系インクの32℃における粘度は、再分散性の観点から、好ましくは4.0mPa・s以上、より好ましくは4.5mPa・s以上、更に好ましくは5.0mPa・s以上であり、そして、好ましくは12mPa・s以下、より好ましくは9.0mPa・s以下、更に好ましくは7.5mPa・s以下、より更に好ましくは6.5mPa・s以下である。
なお、32℃における水系インクの粘度は、実施例に記載の方法により測定される。
水系インクのpHは、再分散性の観点から、好ましくは5.5以上、より好ましくは6.0以上、更に好ましくは6.5以上であり、そして、部材耐性、皮膚刺激性の観点から、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.0以下、更に好ましくは9.5以下、より更に好ましくは9.0以下である。
【0039】
[インクジェット記録方法]
本発明のインクジェット記録方法は、ルチル型酸化チタンとポリマー分散剤を含有する前記水系インクを用いて、インクジェット記録装置により記録するインクジェット記録方法であって、該記録装置が該水系インク中の該酸化チタンを分散する分散手段を有し、下記工程1及び2を有する。
工程1:該水系インクを分散手段により再分散する工程
工程2:工程1で再分散した水系インクを吐出して記録媒体に記録する工程
【0040】
<工程1>
工程1は、水系インクを分散手段により再分散する工程である。
前記水系インクを用いることにより、印刷中又は印刷休止後において、前記水系インクに含まれる酸化チタンが沈降又は凝集した場合であっても、インクジェット記録装置の分散手段により、酸化チタンを容易に再分散させることができる。
本発明に用いるインクジェット記録装置は、少なくともインク吐出手段、前記水系インクを充填する容器(インク充填容器)、インク流路、及び前記水系インクに含まれる酸化チタンを分散する分散手段を有し、該インク充填容器は、さらにインク予備充填容器を有していてもよい。
分散手段は、機械力により酸化チタンを前記水系インクの水系媒体中に分散させる手段であればよい。分散手段としては、例えば、インク充填容器内のインクを攪拌する機構、振とう機構、振動付与機構及びインクを循環させる循環機構から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0041】
図1は、本発明で用いるインクジェット記録装置の構成の一例を示す概略図である。
図1において、インクジェット記録装置は、インク吐出手段1、インク充填容器2、インク流路3、及び分散手段として攪拌機構4を有する。
攪拌機構4は、インク充填容器2内のインクを攪拌することができるものであれば特に制限されない。例えば、攪拌機構4が動作することにより、インク充填容器2内のインクを攪拌して酸化チタンを分散する。攪拌機構4としては、攪拌モータにより回転さする攪拌翼の他、外部磁場により回転する攪拌子等が挙げられる。攪拌条件は、温度、攪拌を行う時間間隔、攪拌速度、攪拌時間等により調整される。
【0042】
その他の分散手段として、振とう機構、振動付与機構、インクを循環させる循環機構等が挙げられる。振とう機構としては、振とう機によりインク充填容器を振とうして酸化チタンを分散する機構等が挙げられる。振とう条件は、温度、振とう回数、振とう時間等により調整される。
振動付与機構としては、超音波振動装置によりインク充填容器へ超音波振動を付与し、酸化チタンを分散する機構等が挙げられる。超音波振動条件は、温度、周波数、付与時間等によって調整される。
循環機構としては、インク予備容器を有する場合にはインク充填容器とインク予備充填容器との間のインク流路で循環することにより酸化チタンを分散する機構等が挙げられる。循環手段としては、インクを循環することができるものであればよく、ポンプ、熱源等が挙げられる。これらの中でも、再分散性の観点から、ポンプが好ましい。
【0043】
<工程2>
工程2は、工程1で再分散した水系インクを吐出して記録媒体に記録する工程である。
図1において、工程1で再分散した水系インクは、インク吐出手段1により吐出され、記録媒体5に記録される。
水系インクを吐出する方法(インク吐出手段)としては、サーマル式又はピエゾ式の記録ヘッドを用いてインクを吐出する方法が好ましく、本発明においては、水系インクを充填した容器を、インクジェット記録装置に装着し、ピエゾ式の記録ヘッドを用いてインクを吐出して記録媒体に記録する方法がより好ましい。
工程1で再分散した水系インクを用いることにより、記録ヘッドのノズル中での凝集又は沈降が抑制され、良好な記録物を得ることができる。
【0044】
本発明のインクジェット記録方法は、白色度の観点から、下地等のベタ印刷に用いることが好ましい。
記録媒体に特に制限はないが、段ボール紙、板紙、樹脂フィルム等が挙げられ、好ましくは樹脂フィルムである。
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエステルフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ナイロンフィルム等が挙げられる。これらのフィルムは、二軸延伸フィルム、一軸延伸フィルム、無延伸フィルムであってもよい。樹脂フィルムは、より好ましくはポリエステルフィルム及び延伸ポリプロピレンフィルムから選ばれる1種以上、更に好ましくはコロナ放電処理等の表面処理を行ったポリエチレンテレフタレート等のポリエステルフィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルムである。
透明合成樹脂フィルムの市販品としては、ルミラーT60(東レ株式会社製、ポリエチレンテレフタレート)、太閤FE2001(フタムラ化学株式会社製、コロナ処理ポリエチレンテレフタレート)、PVC80B P(リンテック株式会社製、ポリ塩化ビニル)、カイナスKEE70CA(リンテック株式会社製、ポリエチレン)、ユポSG90 PAT1(リンテック株式会社製、ポリプロピレン)、ボニールRX(興人フィルム&ケミカルズ株式会社製、ナイロン)等が挙げられる。
【0045】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の水系インク及びインクジェット記録方法を開示する。
<1> ルチル型酸化チタンとポリマー分散剤を含有する水系インクを用いて、インクジェット記録装置により記録するインクジェット記録方法であって、
該ポリマー分散剤が、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、及びスルホン酸基含有ビニルモノマーから選ばれる少なくとも1種のアニオン性基含有モノマー由来の構成単位を72質量%以上含有してなり、
該ポリマー分散剤の重量平均分子量が3,000以上50,000以下であり、
該ポリマー分散剤の含有量が該酸化チタンに対して1質量%以上7質量%以下であり、
該記録装置が該水系インク中の該酸化チタンを分散する分散手段を有し、
下記工程1及び2を有する、インクジェット記録方法。
工程1:該水系インクを分散手段により再分散する工程
工程2:工程1で再分散した水系インクを吐出して記録媒体に記録する工程。
【0046】
<2> 酸化チタンが、好ましくは表面処理されたものであり、より好ましくはアルミナ処理、アルミナ・シリカ処理で表面処理されたものである、前記<1>に記載のインクジェット記録方法。
<3> 酸化チタンの平均一次粒子径が、好ましくは100nm以上、より好ましくは150nm以上、更に好ましくは200nm以上であり、そして、好ましくは600nm以下、より好ましくは500nm以下、更に好ましくは400nm以下である、前記<1>又は<2>に記載のインクジェット記録方法。
<4> アニオン性基含有モノマーが、好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、及びスチレンスルホン酸から選ばれる1種以上、より好ましくはアクリル酸、メタクリル酸及びスチレンスルホン酸から選ばれる1種以上である、前記<1>~<3>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
<5> アニオン性基含有モノマー由来の構成単位の含有量が、好ましくは75質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは85質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上である、前記<1>~<4>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
<6> アニオン性基含有モノマー由来の構成単位以外のノニオン性モノマーや疎水性モノマー由来の構成単位の含有量が、好ましくは28質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、より更に好ましくは15質量%以下、より更に好ましくは10質量%以下である、前記<1>~<5>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
<7> ポリマー分散剤の酸価が、好ましくは350mgKOH/g以上、より好ましくは450mgKOH/g以上、更に好ましくは550mgKOH/g以上、より更に好ましくは650mgKOH/g以上、より更に好ましくは720mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは1000mgKOH/g以下、より好ましくは900mgKOH/g以下、更に好ましくは850mgKOH/g以下、より更に好ましくは800mgKOH/g以下である、前記<1>~<6>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
<8> ポリマー分散剤の重量平均分子量が、好ましくは5,000以上、より好ましくは10,000以上、更に好ましくは15,000以上、より更に好ましくは20,000以上であり、そして、好ましくは40,000以下、より好ましくは30,000以下である、前記<1>~<7>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
<9> 水系インク中のルチル型酸化チタンの含有量が、好ましくは3.0質量%以上、より好ましくは5.0質量%以上、更に好ましくは8.0質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは17質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である、前記<1>~<8>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
<10> ポリマー分散剤の含有量が、酸化チタンに対して好ましくは1.3質量%以上、より好ましくは1.8質量%以上であり、そして、好ましくは6.5質量%以下、より好ましくは6.0質量%以下、更に好ましくは5.5質量%以下、更に好ましくは4.0質量%以下、より更に好ましくは3.0質量%以下である、前記<1>~<9>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
【0047】
<11> 有機溶媒の含有量が、水系インク中、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である、前記<1>~<10>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
<12> 水の含有量が、水系インク中、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下である、前記<1>~<11>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
<13> 水系インクの32℃における粘度が、好ましくは4.0mPa・s以上、より好ましくは4.5mPa・s以上、更に好ましくは5.0mPa・s以上であり、そして、好ましくは12mPa・s以下、より好ましくは9.0mPa・s以下、更に好ましくは7.5mPa・s以下、より更に好ましくは6.5mPa・s以下である、前記<1>~<12>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
<14> 水系インクのpHが、好ましくは5.5以上、より好ましくは6.0以上、更に好ましくは6.5以上であり、そして、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.0以下、更に好ましくは9.5以下、より更に好ましくは9.0以下である、前記<1>~<13>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
<15> 分散手段が、インク充填容器内のインクを攪拌する機構、振とう機構、振動付与機構及びインクを循環させる循環機構から選ばれる1種以上である、前記<1>~<14>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
<16> 水系インクを吐出する方法が、好ましくはサーマル式又はピエゾ式の記録ヘッドを用いてインクを吐出する方法、より好ましくはピエゾ式の記録ヘッドを用いてインクを吐出する方法である、前記<1>~<15>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
<17> 記録媒体が、好ましくは樹脂フィルムであり、より好ましくはポリエステルフィルム及び延伸ポリプロピレンフィルムから選ばれる1種以上、更に好ましくはコロナ放電処理等の表面処理を行ったポリエチレンテレフタレート等のポリエステルフィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルムである、前記<1>~<16>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
<18> ルチル型酸化チタンとポリマー分散剤を含有する水系インクであって、
該ポリマー分散剤が、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、及びスルホン酸基含有ビニルモノマーから選ばれる少なくとも1種のアニオン性基含有モノマー由来の構成単位を72質量%以上含有してなり、
該ルチル型酸化チタンの平均一次粒子径が、100nm以上600nm以下であり、
該ポリマー分散剤の重量平均分子量が3,000以上50,000以下であり、
該ポリマー分散剤の含有量が該酸化チタンに対して1質量%以上7質量%以下である、インクジェット記録用水系インク。
【実施例
【0048】
以下の製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「質量部」及び「質量%」である。
【0049】
(1)ポリマー分散剤の重量平均分子量の測定
標準物質としてポリスチレン、カラムとして東ソー株式会社製、G4000HXL+G2000HXLを用い、溶離液として50mM 酢酸(1級)を含有するテトラヒドロフラン(THF)を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより重量平均分子量を測定した。
【0050】
(2)ポリマー分散剤の酸価の測定
JIS K 0070に準拠して測定した。
【0051】
(3)水分散体の固形分濃度の測定
30mlのポリプロピレン製容器(40mmφ、高さ30mm)にデシケーター中で恒量化した硫酸ナトリウム10.0gを量り取り、そこへ水分散体サンプル約1.0gを添加して、混合した後、正確に秤量し、105℃で2時間維持して、揮発分を除去し、更にデシケーター内で15分間放置し、質量を測定した。揮発分除去後のサンプルの質量を固形分として、添加した水分散体サンプルの質量で除して固形分濃度(%)とした。
【0052】
(4)酸化チタンの平均一次粒子径の測定
酸化チタンの平均一次粒子径は、透過電子顕微鏡「JEM-2100」(日本電子株式会社製)を用いて、画像解析で500個の酸化チタン一次粒子を抽出してその粒子径を測定し、その平均を算出して数平均粒子径とした。なお、酸化チタンに長径と短径がある場合は、長径を用いて算出した。
(5)酸化チタン分散体の粒子の平均粒子径の測定
株式会社堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA950を用いて、酸化チタンの屈折率2.75とし、屈折率1.333の水を分散媒として、循環速度5にて超音波3で1分照射後測定した。このときの体積中位粒子径(D50)の値を分散体の粒子の平均粒子径とした。分散体の粒子の平均粒子径は、分散体の平均粒子径又はTiO平均粒子径ともいう。
(6)インクの粘度
E型粘度計「TV-25」(東機産業株式会社製、標準コーンロータ1°34’×R24使用、回転数50rpm)を用いて、32℃にて粘度を測定した。
【0053】
(ポリマー分散剤の製造)
製造例1(ポリマー分散剤P1の製造)
滴下ロートを備えたガラス製反応容器2Lに水233gを仕込み、窒素雰囲気下で80℃まで昇温した。
次に、窒素ガス雰囲気下、滴下溶液1としてメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(MPEGMAA:エチレンオキシド(EO)平均付加モル数n=23、新中村化学工業株式会社製、商品名「NKエステルM-230G」)47.0g、スチレンスルホン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)70.0g、メタクリル酸(和光純薬工業株式会社製)117.0gのモノマー溶液と、滴下溶液2として濃度15%の2-メルカプトエタノール水溶液(東洋紡績株式会社製)30.0gと、滴下溶液3として濃度6%の過硫酸アンモニウム水溶液(和光純薬工業株式会社製)32.0gの3液を各々同時に90分かけて徐々に反応容器内に滴下した。滴下終了後、80℃で1時間熟成させた。
その後、40℃まで冷却し、濃度48%NaOH水溶液(和光純薬工業株式会社製)45.5gを加えて中和度50%にし、固形分濃度が40%となるように水を加えて、ポリマー分散剤P1の溶液を得た。結果を表1に示す。
【0054】
製造例2及び比較製造例1~6(ポリマー分散剤P2及びP3~P8の製造)
製造例1において、表1に示す条件に変更した以外は製造例1と同様にして、ポリマー分散剤P2~P8を得た。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
製造例3(顔料を含有しないポリマーエマルションの水分散体の製造)
1000mLセパラブルフラスコ中にメチルメタクリレート(和光純薬工業株式会社製)145部、2-エチルヘキシルアクリレート(和光純薬工業株式会社製)50部、メタクリル酸(和光純薬工業株式会社製)5部、ラテムルE118B(花王株式会社製、乳化剤、有効分26%)18.5部、イオン交換水96部、過硫酸カリウム(和光純薬工業株式会社製)を仕込み、撹拌羽根で撹拌を行い(300rpm)モノマー乳化液を得た。
反応容器内に、ラテムルE118B 4.6部、イオン交換水186部、過硫酸カリウム0.08部を入れ窒素ガス置換を十分行った。窒素雰囲気下、撹拌羽根で攪拌(200rpm)しながら80℃まで昇温し、上記モノマー乳化液を滴下ロート中に仕込みのこのモノマー乳液を3時間かけて滴下、反応させた。
この反応液にイオン交換水を加え有効分を20%とすることで顔料を含有しないポリマーエマルションEM-1を得た。このポリマーエマルションEM-1の平均粒径は100nmであった。
【0057】
実施例1
(1)酸化チタン分散体の製造
250mLのポリエチレン瓶に、予めポリマー分散剤としてポリアクリル酸(PAA;和光純薬工業株式会社製:Mw5000)0.3gと5N-NaOH水溶液(和光純薬工業株式会社製)0.21gとイオン交換水1gを混ぜて溶解させていたものを投入し、次に酸化チタンKURONOS KR―380(ルチル型:チタン工業株式会社製、Al・Si処理、平均一次粒子径:355nm(カタログ値300~500nm))を15g、イオン交換水を14.3g加え、最後に2mmジルコニアビーズ369gを添加して、卓上型ポットミル架台(アズワン株式会社)にて250rpmで8時間の分散を行った。分散後メッシュを用いてジルコニアビーズを除去し、水で固形分濃度を調整して、表2に示したように平均粒子径325nmの酸化チタン分散体(固形分濃度30質量%)を得た。
(2)水系インクの製造
得られた酸化チタン分散体(固形分濃度30質量%)を用いて、水系インク中に酸化チタンが10質量%となるように、以下の組成にて混合し、得られた混合液を1.2μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径2.5cm、富士フイルム株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジで濾過し、粗大粒子を除去することにより水系インクを得た。
<組成>
酸化チタン分散体 34.2部
プロピレングリコール(和光純薬工業株式会社製)30.0部
ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(和光純薬工業株式会社製)5.0部
製造例3で得られたポリマーエマルションEM-1 5.0部
ポリエーテル変性シリコーン(信越化学工業株式会社製、KF-6011)0.1部
イオン交換水 25.7部
【0058】
(3)隠蔽性の評価
得られた水系インクの隠蔽性評価を以下の方法により行ったところ、印字濃度0.47となり、充分な隠蔽性を得ることができた。結果を表2示す。
【0059】
<水系インクの隠蔽性の評価>
水系インクをコロナ放電処理PET(フタムラ化学製、太閤ポリエステルフィルムFE2001)にバーコーターNO2を用いて塗布し60℃の乾燥機で10分間乾燥させ測定物を得た。隠蔽率測定紙(JIS検定品、大佑機材株式会社)の黒色部にインクを塗布したOHPフィルムを、印刷面を上にして載せ、その上から分光光度計SpectroEye(GretagMacbeth社)にて黒の印字濃度を測定し、以下のように白色度を評価した。水系インクは調製直後の水系インクを用いた。
黒の印字濃度が0.5以下であれば白色インクとして隠蔽性は十分であるが、0.5を超えると不十分である。
【0060】
比較例1
(1)酸化チタン分散体の製造
酸化チタンをKURONOS KA-20(アナターゼ型:チタン工業株式会社製、平均一次粒子径355nm)にし、卓上ポットミル架台での分散時間を6時間にした以外は実施例1と同様に行い、平均粒子径315nmの酸化チタン分散体(固形分濃度30質量%)を得た。
(2)水系インクの製造、隠蔽性の評価
実施例1と同様の方法でインクを得た製造し、隠蔽性評価を行ったところ、印字濃度0.58となり、隠蔽性が不十分であった。結果を表2示す。
【0061】
【表2】
【0062】
実施例2
(1)酸化チタン分散体の製造と泡立ち性評価
酸化チタンをCR-80(ルチル型:石原産業式会社製、Al・Si処理、平均一次粒子径250nm)にした以外は実施例1と同様に行い、平均粒子径303nmの酸化チタン分散体(固形分濃度30質量%)を得た。得られた酸化チタン(TiO)分散体の泡立ち性評価を以下の方法で行った。結果を表3に示す。
<酸化チタン分散体の泡立ち性の評価>
酸化チタン分散体を50mLスクリュー管に30g入れ、スクリュー管を横にしてマルチシェーカーMMS-210(東京理化機械株式会社)にて150rpm、300秒間の条件で振とうし、その直後から目視により消泡するまでの時間を測定した。
以下の評価基準により泡立ち性を評価した。この消泡までの時間が短い程、抑泡性又は消泡性が良好でありインクの吐出性が安定になることを意味する。
(評価基準)
◎:消泡までの時間が5秒未満
○:消泡までの時間が5秒以上10秒未満
△:消泡までの時間が10秒以上30秒未満
×:消泡までの時間が30秒以上
(2)水系インクの製造と再分散性、吐出性の評価
ポリマー分散剤としてポリアクリル酸(PAA;和光純薬工業株式会社製:Mw5000)を用いて、実施例1と同様の方法で粘度5.5mPa・sの水系インクを得た。得られた水系インクの再分散性と吐出性の評価を以下の方法で行った。結果を表3に示す。
【0063】
<水系インクの再分散性の評価>
水系インクを50mLスクリュー管に30g入れ、70℃にて7日間静置した後、スクリュー管を横にしてマルチシェーカーMMS-210(東京理化機械株式会社)にて150rpm、60秒間の条件で振とうした。その直後、スクリュー管内の水系インクの上液面から2gをピペットで採取した。ここで用いた振とう条件はインクジェットプリンタ装置の簡易再分散手段を想定したものである。
このようにして得られた採取サンプル1gにイオン交換水を加えて2500倍に希釈した。次いで、分光光度計U-3010(株式会社日立ハイテクサイエンス)を用いて、希釈したサンプルの波長500nmにおける吸光度(Abs値)を測定した。調製直後の各水系インクを蒸留水で2500倍に希釈したサンプルの吸光度から、下記式を用いて再分散率を求めた。
再分散率(%)=100×(70℃で7日間静置及び振とう後の上澄みの吸光度/調製直後の吸光度)
以下の評価基準により再分散性を評価した。この再分散率の値が大きい程、再分散性が良好であることを意味する。
(評価基準)
◎:再分散率が97%以上100%以下
○:再分散率が95%以上97%未満
△:再分散率が80%以上95%未満
×:再分散率が80%未満
【0064】
<水系インクの吐出性の評価>
コロナ放電処理PET(フタムラ化学製、太閤ポリエステルフィルムFE2001)に、水系インクを用いて、以下のインクジェット記録方式により画像を形成した。
(インクジェット記録方式)
温度25±1℃、相対湿度30±5%の環境で、記録ヘッド(京セラ株式会社製、「KJ4B-HD06MHG-STDV」、ピエゾ式)を装備した印刷評価装置(株式会社トライテック製)を用いて吐出性評価をした。記録媒体の搬送台にA4サイズのフィルムヒーター(河合電器製作所製)を固定して、記録媒体を加温できるようにした。ヘッド電圧26V、周波数20kHz、吐出液適量5pl、ヘッド温度32℃、解像度600dpi、吐出前フラッシング回数200発、負圧-4.0kPaを設定し、記録媒体の長手方向と搬送方向が同じになる向きに、記録媒体をフィルムヒーターに固定した。この装置に、予め、50mLスクリュー管に水系インク30gを入れたスクリュー管を横にしてマルチシェーカーMMS-210にて150rpm、60秒間の条件で振とうした後、印刷装置へこの水系インクを速やかに充填した。その直後印刷評価装置に印刷命令を転送し、全てのノズルから吐出したかどうか判別できる印刷チェックパターンを紙上に印字した。
この際のノズル欠け(正常に吐出していないノズル)数をカウントし、以下の評価基準により吐出性を評価した。閉塞数が少ないほど吐出性が良好である。
(評価基準)
5:ノズル欠けなし
4:ノズル欠け1~2
3:ノズル欠け3~5
2:ノズル欠け6~10
1:ノズル欠け11以上
【0065】
実施例3
(1)酸化チタン分散体の製造と泡立ち性評価
ポリマー分散剤をポイズ530(アクリル酸ポリマー:花王株式会社製:Mw38000:中和度100%)に変更し、5N-水酸化ナトリウム水溶液を添加しなかった以外は実施例2と同様に行い、酸化チタン分散体(固形分濃度30質量%)を得た。得られた酸化チタン分散体の泡立ち性評価結果を表3に示す。
(2)水系インクの製造と再分散性、吐出性の評価
実施例1と同様の方法で水系インクを得た。結果を表3に示す。
【0066】
実施例4
(1)酸化チタン分散体の製造と泡立ち性評価
ポリマー分散剤をポイズ520(アクリル酸/マレイン酸共重合ポリマー:花王株式会社製:Mw20000:中和度100%)にした以外は実施例3と同様に行い、酸化チタン分散体(固形分濃度30質量%)を得た。得られた酸化チタン分散体の泡立ち性評価結果を表3に示す。
(2)水系インクの製造と再分散性、吐出性の評価
実施例1と同様の方法で水系インクを得た。結果を表3に示す。
【0067】
実施例5
(1)酸化チタン分散体の製造と泡立ち性評価
ポリマー分散剤をアロン6012(アクリル酸/アクリルアミドt-ブチルスルホン酸共重合ポリマー:東亞合成株式会社製:Mw6000:中和度100%)にした以外は実施例3と同様に行い、酸化チタン分散体(固形分濃度30質量%)を得た。得られた酸化チタン分散体の泡立ち性評価結果を表3に示す。
(2)水系インクの製造と再分散性、吐出性の評価
実施例1と同様の方法で水系インクを得た。結果を表3に示す。
【0068】
実施例6
(1)酸化チタン分散体の製造と泡立ち性評価
250mLのポリエチレン瓶に、ポリマー分散剤P1を0.75gとイオン交換水を15g、酸化チタンCR-80を15g入れて卓上型ポットミル架台にて250rpm・8時間の分散を行った以降は実施例1と同様に行い、酸化チタン分散体(固形分濃度30質量%)を得た。得られた酸化チタン分散体の泡立ち性評価結果を表3に示す。
(2)水系インクの製造と再分散性、吐出性の評価
実施例1と同様の方法で水系インクを得た。結果を表3に示す。
【0069】
実施例7、及び比較例2~5
(1)酸化チタン分散体の製造と評価
ポリマー分散剤を表3に示すものに変更した以外は実施例6と同様に行い、酸化チタン分散体(固形分濃度30質量%)を得た。得られた酸化チタン分散体の泡立ち性評価結果を表3に示す。
(2)水系インクの製造と再分散性、吐出性の評価
実施例1と同様の方法で水系インクを得た。結果を表3に示す。
【0070】
比較例6
(1)酸化チタン分散体の製造と泡立ち性評価
ポリマー分散剤をJONCRYL70J(J-70J:スチレン/アクリル酸共重合体、BASF社製、Mw16500、酸価240KOHmg/g)に変更し、添加量を1.0gにした以外は実施例6と同様に行い、酸化チタン分散体(固形分濃度30質量%)を得た。
分散処理中に泡立ちが激しく、せん断が掛からなかったため、分散が進行せず、再分散性が不十分になったと考えられる。結果を表3に示す。
(2)水系インクの製造と再分散性、吐出性の評価
実施例1と同様の方法で水系インクを得たが安定性が悪く、直ぐに沈降してしまったため、インクジェット記録装置による吐出性の評価を行うことができなかった。再分散性の結果を表3に示す。
【0071】
比較例7
(1)酸化チタン分散体の製造と泡立ち性評価
ポリマー分散剤をJONCRYL61J(J-61J:スチレン/アクリル酸共重合体、BASF社製、Mw12000、酸価195KOHmg/g)に変更し、添加量を0.98gにした以外は実施例7と同様に行い、酸化チタン分散体(固形分濃度30質量%)を得た。
分散中に泡立ちが激しく、せん断が掛からなかったため、分散が進行せず、再分散性が不十分になったと考えられる。結果を表3に示す。
(2)水系インクの製造と再分散性、吐出性の評価
実施例1と同様の方法で水系インクを得たが安定性が悪く、直ぐに沈降してしまったため、インクジェット記録装置による吐出性の評価を行うことができなかった。再分散性の結果を表3に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
実施例8
(1)酸化チタン分散体の製造と泡立ち性評価
ポリマー分散剤の量を0.75gにした以外は実施例3と同様に行い、酸化チタン分散体(固形分濃度30質量%)を得た。得られた酸化チタン分散体の泡立ち性評価結果を表4に示す。
(2)水系インクの製造と再分散性、吐出性の評価
酸化チタン分散体35.0部、イオン交換水24.9部にした以外は実施例1と同様の方法で水系インクを得た。結果を表4に示す。
【0074】
比較例8
(1)酸化チタン分散体の製造と泡立ち性評価
ポリマー分散剤量を1.5gにした以外は実施例3と同様に行い、酸化チタン分散体(固形分濃度30質量%)を得た。得られた酸化チタン分散体の泡立ち性評価結果を表4に示す。
(2)水系インクの製造と再分散性、吐出性の評価
酸化チタン分散体36.7部、イオン交換水23.2部にした以外は実施例1と同様の方法で水系インクを得た。実施例3の結果と合わせて、結果を表4に示す。
【0075】
【表4】
【0076】
比較例9~10
(1)酸化チタン分散体の製造と評価
ポリマー分散剤を表5に示すものに変更した以外は実施例6と同様に行い、酸化チタン分散体(固形分濃度30質量%)を得た。得られた酸化チタン分散体の泡立ち性評価結果を表5に示す。
(2)水系インクの製造と再分散性、吐出性の評価
実施例1と同様の方法で水系インクを得た。実施例6の結果と合わせて、結果を表5に示す。
【0077】
【表5】
【0078】
実施例9
(1)酸化チタン分散体の製造と泡立ち性評価
酸化チタンをCR-834(ルチル型:Tronox社製、Al・Si・Zr処理、平均一次粒子径170nm)にした以外は実施例2と同様に行い、平均粒子径250nmの酸化チタン分散体(固形分濃度30質量%)を得た。得られた酸化チタン分散体の泡立ち性評価結果を表6に示す。
(2)水系インクの製造と再分散性、吐出性の評価
実施例1と同様の方法で水系インクを得た。結果を表6に示す。
比較例11
(1)酸化チタン分散体の製造と泡立ち性評価
酸化チタンをMT―700HD(ルチル型:テイカ株式会社製、Al・Zr処理、平均一次粒子径50nm)にした以外は実施例6と同様に行い、平均粒子径200nmの酸化チタン分散体(固形分濃度30質量%)を得た。得られた酸化チタン分散体の泡立ち性評価結果を表6に示す。
(2)水系インクの製造と再分散性、吐出性の評価
実施例1と同様の方法で水系インクを得た。実施例6の結果と併せて、結果を表6に示す。
【0079】
【表6】
【0080】
表3から、実施例2~7は、比較例2~7に比べて、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、及びスルホン酸基含有ビニルモノマーから選ばれる少なくとも1種のアニオン性基含有モノマー由来の構成単位を72質量%以上含有してなるポリマー分散剤を用いることで再分散性、吐出性に優れたインクジェット記録物を得ることができることが分かる。
表4から、実施例3及び8は、比較例8に比べて、水系インク中のポリマー分散剤の含有量が酸化チタンに対して1質量%以上7質量%以下であるため、再分散性、吐出性に優れることが分かる。
表5から、実施例6は、比較例9及び10に比べて、ポリマー分散剤の重量平均分子量が3,000以上50,000以下であるため、再分散性、吐出性に優れることが分かる。
また、表6から、用いた酸化チタンの平均一次粒子径が170nmの実施例9、及び平均一次粒子径が250nmの実施例6は、平均一次粒子径が50nmの比較例11に比べて、泡立ち性、再分散性、吐出性に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のインクジェット記録方法は、酸化チタンが沈降しても簡易な攪拌により容易に再分散させることができ、良好な吐出性を得ることができるため有用である。
また、本発明のインクジェット記録用水系インクは、隠蔽性を有し、ルチル型酸化チタンが沈降しても簡易な攪拌により容易に再分散すると共に、優れた抑泡性又は消泡性により速やかにインク物性を回復することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 インク吐出手段
2 インク充填容器
3 インク流路
4 攪拌機構
5 記録媒体
図1