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  • 特許-プラントの建設方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】プラントの建設方法
(51)【国際特許分類】
   E04H 5/02 20060101AFI20230306BHJP
【FI】
E04H5/02 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021528696
(86)(22)【出願日】2019-06-25
(86)【国際出願番号】 JP2019025131
(87)【国際公開番号】W WO2020261376
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2022-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】519355493
【氏名又は名称】日揮グローバル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺久保 憲昭
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 洋晃
(72)【発明者】
【氏名】本位田 篤生
【審査官】沖原 有里奈
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/198572(WO,A1)
【文献】特開2018-154093(JP,A)
【文献】特開2015-143560(JP,A)
【文献】特開2018-144070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の処理を行うプラントの建設方法であって、
前記流体の処理に係る機器群を設置する工程と、
前記機器群の設置領域とは異なる領域に3Dプリンタを配置し前記3Dプリンタにより、前記機器群に含まれる機器との間で流体の授受を行うための配管を支持する架構構造物を形成する工程と、を含み、前記架構構造物を形成する工程は、前記機器群を設置する工程の後に実施することを特徴とするプラントの建設方法。
【請求項2】
前記架構構造物を形成する工程に加えて、形成途中の前記架構構造物に対し、前記配管となる配管材料を外部から搬送し、当該架構構造物に支持される配管を形成する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載のプラントの建設方法。
【請求項3】
前記架構構造物は、上下方向に積層された複数の階層構造の各階にて前記配管を支持するように構成され、
前記架構構造物を形成する工程にて、前記複数の階層構造に含まれる1つの階層を形成することと、前記配管を形成する工程にて、前記1つの階層に支持される配管を形成することと、を繰り返すことを特徴とする請求項2に記載のプラントの建設方法。
【請求項4】
前記3Dプリンタは、前記配管と前記架構構造物とを一体形成することを特徴とする請求項1に記載のプラントの建設方法。
【請求項5】
前記架構構造物は、上下方向に積層された複数の階層構造の各階にて前記配管を支持するように構成され、
前記架構構造物を形成する工程にて、前記複数の階層構造に含まれる1つの階層と、当該1つの階層に支持される配管との一体形成を繰り返すことを特徴とする請求項4に記載のプラントの建設方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラントを建設する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
流体の処理を行うプラントには、天然ガスの液化や天然ガス液の分離、回収などを行う天然ガスプラント、原油や各種中間製品の蒸留や脱硫などを行う石油精製プラント、石油化学製品や中間化学品、ポリマーなどの生産を行う化学プラントなどがある。
これらのプラントは、特許文献1に記載されているように例えば塔槽や熱交換器などの静機器、ポンプなどの動機器、これら静機器や動機器の間に設けられる配管などの多数の機器群を配置した構造となっている。そしてこれら機器群の間には、機器の間で流体の授受を行うための配管を支持するためのパイプラックが設けられている。
【0003】
このようなプラントは、クレーンなどを用いて建設資材を建設地に搬入し、各機器やこれを支持する架構、パイプラックの構成部材を順次、組み立てていくことにより建設される。このため、プラント内における各機器やパイプラックのプロットプランや建設スケジュールは、建設資材の搬入経路やクレーンの配置位置などによって大きな制約を受ける。このような制約下で、プラントの建設人員の低減や作業環境の安全性向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/028961号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような背景の下になされたものであり、プラントの建設に係る制約を緩和しつつ、安全にプラントを建設する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、流体の処理を行うプラントの建設方法であって、
前記流体の処理に係る機器群を設置する工程と、
前記機器群の設置領域とは異なる領域に3Dプリンタを配置し前記3Dプリンタにより、前記機器群に含まれる機器との間で流体の授受を行うための配管を支持する架構構造物を形成する工程と、を含み、前記架構構造物を形成する工程は、前記機器群を設置する工程の後に実施することを特徴とする。
【0007】
前記プラントの建設方法は以下の特徴を備えてもよい。
(a)前記架構構造物を形成する工程に加えて、形成途中の前記架構構造物に対し、前記配管となる配管材料を外部から搬送し、当該架構構造物に支持される配管を形成する工程を含むこと。
(b)前記架構構造物は、上下方向に積層された複数の階層構造の各階にて前記配管を支持するように構成され、
前記架構構造物を形成する工程にて、前記複数の階層構造に含まれる1つの階層を形成することと、前記配管を形成する工程にて、前記1つの階層に支持される配管を形成することと、を繰り返すこと。
(c) 前記3Dプリンタは、前記配管と前記架構構造物とを一体形成すること。
(d) 前記架構構造物は、上下方向に積層された複数の階層構造の各階にて前記配管を支持するように構成され、
前記架構構造物を形成する工程にて、前記複数の階層構造に含まれる1つの階層と、当該1つの階層に支持される配管との一体形成を繰り返すこと
【発明の効果】
【0008】
本プラント の建設方法は、流体の処理に係る機器群を設置する工程と、前記機器群の設置領域とは異なる領域に、3Dプリンタにより、前記機器群に含まれる機器との間で流体の授受を行うための配管を支持する架構構造物を形成する工程と、を含む。このように架構構造物を3Dプリンタにより形成することで、架構構造物を形成する工程の制約を受けずに流体の処理に係る機器群を設置することができる。さらに架構構造物を組み上げるための敷地を確保する必要がなく建設地をコンパクト化できると共に現場に人員が入り架構構造物を組み立てる必要がないため安全性が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】プラントの全体構成を示す斜視図である。
図2】パイプラックの形成する工程を示す第1の作用図である。
図3】パイプラックの形成する工程を示す第2の作用図である。
図4】パイプラックの形成する工程を示す第3の作用図である。
図5】パイプラックの形成する工程を示す第4の作用図である。
図6】パイプラックの形成する工程を示す第5の作用図である。
図7】パイプラックの形成する工程の他の例を示す作用図である。
図8】前記プラントの建設する工程を示す第1の作用図である。
図9】前記プラントの建設する工程を示す第1の作用図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、3Dプリンタ(付加製造装置)により建設されたプラントの全体を示す斜視図である。図1に示すように、出願人は、最終的には、プラントを構成する機器や配管、架構の大部分を3Dプリンタにより形成することを視野に技術開発を行っている。その要素技術として、本願では、3Dプリンタを用いたパイプラックの形成について説明する。
なお現在は、飛行機の導体部分や翼(例えば日本国特許第6513554号)、建築資材(例えば日本国特許第6378699号)など、大型の部材を3Dプリンタによって製造する技術も特許化されている。また、本願発明者らは、需要者側の要請があれば大型の構造物を形成可能な3Dプリンタを提供可能であることを3Dプリンタメーカーの開発状況調査等により把握している。
【0011】
図1に示すプラントは、例えば流体である液化天然ガス(LNG)の製造を行うプラントであり、液化前処理や、前処理後の天然ガスの液化を行う多数の機器2を備えている。また各機器2の設置領域の側方には、当該LNGプラント内で取り扱われる各種の流体を各機器2間で授受するための配管を支持する架構構造物であるパイプラック3が設けられている。詳しくは後述するが、例えばパイプラック3は、上下方向に積層された複数の階層構造を備えた架構によって構成され、各階にて複数の配管が支持されている。
【0012】
本実施の形態に係るプラントの建設方法においては、3Dプリンタ1により上述のパイプラック3が形成される。図1に示すように3Dプリンタ1は、梁部10Bの両端を2本の支持柱10Aで支持する門型の支持部10を備えている。支持部10は、例えばLNGプラントを構成する多数の機器2群及びパイプラック3の設置領域を上方側から跨ぐように設けられている。また支持部10の下端には、当該支持部10を移動させるための不図示の支持部移動機構が設けられている。支持部移動機構は、前記梁部10Bが架け渡されている方向と直交する方向に伸びるように地上に設けられたガイドレール12に沿って移動自在に構成されている。
【0013】
さらに梁部10Bには、梁部10Bに沿って移動自在に構成された移動体42が設けられている。また移動体42には、下方に向けて伸びる軸部41が設けられ、軸部41の下端には、下方に向けてパイプラック3の構成材料を吐出し、3Dプリントを実行するプリンタ本体部4が設けられている。プリンタ本体部4は、支持部10がガイドレール12(例えば図1中のX軸方向に沿って移動)し、移動体42が梁部10Bに沿ってガイドレール12の伸びる方向と直交する方向に移動(例えば同図中のY軸方向に移動)すると共に、プリンタ本体部4が軸部に沿って昇降(Z軸方向に昇降)することでXYZ軸方向に移動自在に構成されている。
【0014】
またパイプラック3を形成する3Dプリンタ1には、梁部10Bに沿って移動するアーム移動体43が設けられていてもよい。アーム移動体43には、下方に向けて伸びる軸部44が設けられ、軸部44の下端には、パイプラック3に配置する配管を構成する配管材料(以下配管材料及びパイプラック3に配管材料を設置して構成される配管を「配管5」と示す)を外部から受け取り、配置箇所まで搬送するアーム45が設けられている。アーム45もプリンタ本体部4と同様にXYZ軸方向に移動自在に構成されている。
【0015】
プリンタ本体部4は、例えばノズルから吐出される金属粉や樹脂などの構成材料を下層側から積層して積み上げて形成する指向性エネルギー堆積法を用いる3Dプリンタを例示することができる。指向性エネルギー堆積法とは異なる手法を用いた3Dプリンタを用いてもよいことは勿論である。
【0016】
続いてパイプラック3の形成について説明する。図2図6は、上述の3Dプリンタ1を用いてパイプラック3を建設する工程を示している。プラントを製造するにあたっては、まず各機器2及びパイプラック3などの構造物の配置に合わせて基礎100が形成され、その基礎100の上に前記LNGプラント内で取り扱われる各種流体の処理に係る機器2群が設置される。そしてこれらの機器2群の設置領域とは異なる領域に、3Dプリンタ1により前記機器2群に含まれる機器との間で流体の授受を行うための配管5を支持するパイプラック3が形成される(図2や後述の図9参照)。
【0017】
パイプラック3は、上下方向に積層された複数の階層構造を備えた架構によって構成され、各階層31にて複数の配管5が支持されるように構成されている。本例のパイプラック3は、例えば、金属材料やセラミクス材料、樹脂材料などの構造材料によって構成される。プリンタ本体部4は、例えばこれらの材料を吐出し、配管5を支持することが可能な強度を有するパイプラック3を形成する。パイプラック3を構成する架構は、トラス構造やラーメン構造などの骨組み構造であってもよいし、ハニカム構造やラティス構造であってもよい。
【0018】
先ず3Dプリンタ1が、パイプラック3の設置領域に移動し、図2に示すように、基礎100の上方に支柱32の下方側の部分から順番にパイプラック3の構成部材を積層して形成していく。
そして図3に示すように1段目の階層31の設置高さまで支柱32を形成した後、支柱32に支持される階層31を形成する。その後、図4に示すように一旦パイプラック3の形成を中断し、プリンタ本体部4をパイプラック3の設置領域から退避させる。さらに形成途中のパイプラック3に対し、アーム45により外部から配管5を搬送して、当該階層31に支持される配管5を構成する。このように前記複数の階層構造に含まれる1つの階層31を形成することと、前記1つの階層31に支持される配管5を形成することと、を繰り返すことにより、図5に示すように各階層31にて配管5が支持された複数階構造のパイプラック3を形成することができる。さらに必要な場合には、例えば3Dプリンタ1をパイプラック3の設置領域から退避させて、パイプラック3の頂部に空冷式熱交換器(ACHE)33を設置し(図6)、パイプラック3が完成する。
【0019】
またパイプラック3を形成するにあたって、3Dプリンタ1により、当該架構に支持される配管5と、複数階構造の架構(パイプラック3本体)と、の双方を一体に形成してもよい。例えば図7に示すように基礎100の上方にパイプラック3を形成するにあたって、配管5を支持する階層31まで形成した後、プリンタ本体部4をパイプラック3の設置領域から退避させずに、当該階層31よりも上方の支柱32と同時に階層31に配置される配管5を一体で形成する。このように、前記複数の階層構造に含まれる1つの階層31と、当該1つの階層31に支持される配管5との一体形成を繰り返してパイプラック3を形成してもよい。
【0020】
このような配管5はパイプラック3と同じ材料で構成してもよい。あるいは、図7には、1つのノズルを用いてパイプラック3の架構の形成を行うプリンタ本体部4を記載しているが、異なる材料を供給する複数のノズルを使い分けてパイプラック3と配管5とを形成してもよい。
配管5の構成材料は、配管5内を流れる流体の温度、圧力、化学性状などに応じた強度、耐食性を有する金属材料やセラミクス材料、樹脂材料などが選択される。また、配管5の内面がライニング材料によってライニングされていたり、配管5の外面が保温材料によって覆われていたりしてもよい。
また配管5をパイプラック3のすべての階層31を形成した後、アーム45により各階層31内に配管5を搬入、配置してもよい。アーム45によって配置される配管5についても、例えば別の場所で3Dプリンタ1を用いて製造を行ったものであってよい。
【0021】
以上に説明した、3Dプリンタ1を用いた製造工程により、パイプラック3及びパイプラック3と一体形成された配管5を形成することができる。
【0022】
また図8図9の平面図に示すように、3Dプリンタ1を用いてパイプラック3を形成することにより、初めにLNGプラントを構成する機器2群を配置した後、最後にパイプラック3の形成を行うことも可能となる。
図8に示すように、通常のLNGプラントにおいては、パイプラック3の設置領域の周囲に他の機器2群を配置するレイアウトを採用する場合が多い。
一方で、パイプラック3は、各機器2の設計に合わせて配管5のサイズや配置を決める必要があることから、他の機器2において構成やサイズ、配置位置の設計変更があった場合には、パイプラック3の設計も変更されることが多い。このため、パイプラック3の設計は各機器2の設計の後になる。
【0023】
従来のLNGプラントの形成においては、例えばクレーンなどを用い、H鋼などの構成部材を順次、組み合わせてパイプラック3を建造していた。そのため、図8に示すレイアウトのように、LNGプラントの中心近くに配置されるパイプラック3よりも先に、外側の領域に機器2群を設置してしまうと、資材の搬送やクレーンの配置が難しくなってしまう。一方で既述のように、パイプラック3の設計は、他の機器2の設計変更の影響を最も受けやすいところ、先にパイプラック3を建造すると、周囲の機器2の設計変更などが困難になり、LNGプラントの設計変更の自由度などが低下してしまうことがある。
【0024】
さらにプラントの中心部に配置されるパイプラック3の形成に先んじて周囲の機器2を設置しようとすると、既に配置された他の機器2越しにパイプラック3の構成2の部材を搬送することが可能な大型のクレーンを用いなければならない。この結果、パイプラック3の周囲に配置される機器2群の設置領域に、大型クレーンの進入領域を確保する必要が生じ、プラントの設置面積が大きくなってしまう問題も生じる。
【0025】
これらの問題に対し、3Dプリンタ1を利用する本法では、先にLNGプラントを構成する機器2群の配置を完了し(図8)、後から3Dプリンタ1を当該設置領域に移動させて、パイプラック3を形成することができる(図9)。
このように機器2群の配置に続いて、後からパイプラック3を形成する場合であっても、大型のクレーンを使用する場合に必要な進入領域の確保が必要ない。
【0026】
本発明によれば、3Dプリンタ1のプリンタ本体部4をパイプラック3が形成される領域の上方に移動させ、当該領域の上方から架構の材料を吐出してパイプラック3を形成することができる。そのためプラントの外側寄りの機器2群を建設した後においても、クレーンの進入領域の確保やパイプラック3を構成する架構を搬入する領域を確保しておく必要なしにパイプラック3を形成することができる。従ってパイプラック3の形成に制約されない建設スケジュールとすることができると共に、プラントの大型化を抑制することができる。またパイプラック3の形成から配管5の設置に至るまで現場にて人員が作業する必要がないため人員の事故を防ぐことができる。
【0027】
特にパイプラック3は、上下方向に伸びる支柱32により複数の階層31を支持し、各階層31に配管5を配置する構成となっている。このため、LNGプラント内でも下層側から順次、構成材料を積み上げる3Dプリンタ1による形成に適した構造物である。
【0028】
またプラント1は、天然ガスの液化や天然ガス液の分離、回収などを行う天然ガスプラント、原油や各種中間製品の蒸留や脱硫などを行う石油精製プラント、石油化学製品や中間化学品、ポリマーなどの生産を行う化学プラントなど、各種のプラントであってよい。
また機器2を設置するにあたっては、例えば他所で機器2を収納したモジュールを建造し、当該モジュールを設置現場に搬送し、モジュール同士を接続することによりプラントを建設するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 3Dプリンタ
2 機器
3 パイプラック
4 プリンタ本体部
5 配管
31 階層
45 アーム

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9